説明

撥水性通気材

【課題】撥油性、耐水性および通気性の全てが良好である通気材を提供することを目的とする。
【解決手段】平均孔径の異なる2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含み、前記2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のみに撥油処理が施されている撥油性通気材とする。前記2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の平均孔径が、1.0μm以上であることが好ましく、一方、平均孔径が小さい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の平均孔径が、1.0μm未満であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)多孔質膜を用いた通気材に関し、特に、撥油処理を施した通気材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、家電製品、情報機器等の筐体に、通気性や通音性を持たせ、かつ水や塵埃の浸入を防止するために、防水通気材が使用されている。なかでも、PTFE多孔質膜を用いた防水通気材は、耐水性および防塵性が高いことから、広く用いられている。
【0003】
PTFE多孔質膜は、高い耐水性を有するものの、ケロシン、軽油などの有機炭化水素、低分子量アルコール、界面活性剤等の表面張力の小さな液体は浸透する。このことは、オイルが付着する可能性のある自動車用途、および洗剤等の界面活性剤が接触する可能性のある家庭用途においては、好ましくない場合がある。
【0004】
このような用途においては、PTFE多孔質膜に撥油処理を施す必要がある(例えば、特許文献1参照)。撥油処理は、PTFE多孔質膜に撥油剤を塗布するか、またはPTFE多孔質膜を撥油剤に浸漬して行うのが一般的である。撥油剤は、主にアクリル系の主鎖に、フッ素で飽和した炭化水素側鎖(ペルフルオロアルキル基、以下Rf基ともいう)を有する構造をしている。PTFE多孔質膜を構成する−CF2−基は、大抵の物質よりも低い表面張力を有する。しかし、撥油剤は、側鎖のRf基が結晶構造をとり、その先端のCF3−基が膜表面で整列するので、通気材の表面張力をより低くする。その結果として、低表面張力の液体の浸透を阻止できるようになる。
【0005】
【特許文献1】特開平08−206422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記撥油処理は、PTFE多孔質膜の撥油性を高めるための有効な手法であるが、撥油剤の塗布により、通気材の通気量が低下するという問題がある。撥油剤は、PTFE多孔質膜の表面上に被膜を形成するものであり、その過程で細孔の閉塞を伴う。これにより、通気量の低下が起こり、この際、PTFE多孔質膜の細孔が小さいほど、細孔の閉塞度合いも大きくなる(すなわち通気量の低下が大きくなる)。
【0007】
撥油による通気量の低下を抑えるためには、平均孔径が大きいPTFE多孔質膜を使用すればよい。しかし、平均孔径が大きいPTFE多孔質膜は、耐水圧が低いという問題がある。耐水圧が低いPTFE多孔質膜を通気材として筐体に使用すると、筐体内部に水が浸透しやすくなり、用途によって不適当な場合がある。通気量と耐水圧の確保は、通気材にとって重要な問題であり、優れた通気材は、この両者を高いレベルでバランスさせる必要がある。
【0008】
そこで本発明は、撥油性、耐水性および通気性の全てが良好である通気材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、この問題を解決するために、撥油性と耐水性は異なる特性であり、通気材上の同一の面で両特性を発現させることは必ずしも必要ではないという知見を得、撥油性、耐水性および通気性の確保には、通気材を、平均孔径の異なるPTFE多孔質膜の積層体とし、その片側のみに撥油処理を施すことが有効であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、平均孔径の異なる2枚のPTFE多孔質膜を含み、前記2枚のPTFE多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜のみに撥油処理が施されている撥油性通気材である。
【0011】
前記2枚のPTFE多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜の平均孔径が、1.0μm以上であることが好ましく、一方、平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜の平均孔径が、1.0μm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の通気材は、撥油性、耐水性および通気性の全てにおいて良好であり、自動車部品、家電製品、情報機器等の筐体に好適に用いることができる。特に、オイルが付着する可能性のある自動車用途、および洗剤等の界面活性剤が接触する可能性のある家庭用途においても、問題なく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、平均孔径の異なる2枚のPTFE多孔質膜を少なくとも含み、前記2枚のPTFE多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜に撥油処理が施されている撥油性通気材である。
【0014】
従来の通気材では、PTFE多孔質膜に撥油処理を施した場合には、通気量が低下するという問題があり、通気量を確保しようと平均孔径が大きいPTFE多孔質膜を用いると、耐水圧が低下するという問題があった。これに対し、本発明は、通気材を平均孔径の異なるPTFE多孔質膜の積層体とし、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜に撥油処理を施して、撥油性と通気性を確保し、さらに、それよりも平均孔径が小さいPTFE多孔質膜用いることによって耐水性および通気性を確保し、通気材全体として、撥油性、耐水性および通気性の全てを良好なものとしたものである。
【0015】
本発明の通気材には、通気性と耐水圧が高いことから、PTFE多孔質膜を用いる。PTFE多孔質膜としては、通気材に用いられている公知のPTFE多孔質膜およびそれと同等以上の通気材としての特性(通気性、耐水性)を有するPTFE多孔質膜を用いることができる。PTFE多孔質膜は、例えば、PTFEファインパウダーからなるペースト押出物を延伸し、焼成して製造することができる。
【0016】
平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜に撥油処理が施されるが、撥油処理の方法には、特に制限がなく、PTFE多孔質膜に行われている撥油処理法と同様の方法を採用してよい。具体的には、撥油剤としては、フッ素系、シリコーン系等の撥油剤が多数市販されているが、PTFE多孔質膜を上回る撥油性能を発揮するためには、撥油剤を構成する化合物は、フッ素で飽和した炭化水素基(ペルフルオロアルキル基:Rf基)を側鎖に有する構造である必要がある。当該化合物については、主鎖構造が、ポリアクリレート構造、メタクリレート構造、シリコーン構造のものが市販されている。当該撥油剤は、適当な濃度に希釈して用いてもよい。PTFE多孔質膜に、撥油剤を塗布する方法としては、例えば、キスコーティング法、グラビア塗工法、スプレー塗工法等が挙げられる。また、撥油剤にPTFE多孔質膜を浸漬させてもよい。
【0017】
本発明において平均孔径とは、ASTM F316−86に基づいて測定されるものであり、例えば、Porous Material Inc.製の「Perm−Porometer」を用いて測定することができる。
【0018】
本発明において「平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜のみに撥油処理が施される」とは、あくまでPTFE多孔質膜の、通気、防水、撥油に関する部位に関してのことである。従って、原則的に、平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜については、撥油処理を施さないが、平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜について、通気材の使用態様に照らして、通気、防水および撥油に無関係の部位(例えば、筐体に嵌合できるよう、樹脂基材を取り付けた通気部材とした際に、樹脂基材に覆われて外気に露出しない部分:多孔質膜の側面など)に撥油処理が施されており、PTFE多孔質膜の通気、防水、撥油に関する部位には撥油処理が施されていないような場合も、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜のみに撥油処理が施されているとみなす。
【0019】
平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜の平均孔径としては、通気性確保の観点から、1μm以上が好ましい。ただし、平均孔径が大きすぎると、撥油性が不十分となるおそれがあるため、平均孔径は3μm以下が好ましい。
【0020】
平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜の厚みは、5〜200μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
【0021】
平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜の通気量は、0.3〜100秒/100mlが好ましく、0.5〜30秒/100mlがより好ましい。なお、ここでいう通気量は、JIS P8117(ガーレー法)により求められる値である。
【0022】
平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜の平均孔径としては、耐水性確保の観点から、1μm未満が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。ただし、平均孔径が小さすぎると、通気性が不十分となるおそれがあるので、平均孔径は0.05μm以上が好ましい。
【0023】
平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜の厚みは、5〜200μmが好ましく、10〜100μmが好ましい。
【0024】
平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜の通気量は、5〜1000秒/100mlが好ましく、10〜50秒/100mlがより好ましい。なお、ここでいう通気量は、JIS P8117(ガーレー法)により求められる値である。
【0025】
本発明の通気材は、PTFE多孔質膜を組み立て時および使用時のダメージから防護するために、支持体を有していても良い。支持体は、PTFE多孔質膜よりも高い強度を有するものであれば、その材質、形態等に制限はなく、材質の例としては、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル、ポリアミド(脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミド)、およびこれらの複合材が挙げられ、形態の例としては、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、その他の多孔質材料等が挙げられる。形態が不織布の場合は、これを構成する一部または全部の繊維が芯鞘構造の複合繊維であってもよく、この場合は、芯成分が鞘成分よりも融点が高くなるように、芯成分と鞘成分の材料を選択するとよい。
【0026】
本発明の通気材においては、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜の撥油処理された表面が、通気材の、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜側の表面として、外気に露出していることが好ましい。
【0027】
本発明の通気材の厚みは、10〜1000μmが好ましく、50〜500μmが好ましい。
【0028】
本発明の通気材の通気量は、5〜1000秒/100mlが好ましく、10〜50秒/100mlがより好ましい。なお、ここでいう通気量は、JIS P8117(ガーレー法)により求められる値である。
【0029】
本発明の通気材は、例えば、平均孔径の異なる2枚のPTFE多孔質膜を用い、平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜に上記撥油処理を施し、これを、平均孔径が小さいほうのPTFE多孔質膜と積層し、さらに必要に応じて支持体を積層することによって製造することができる。また、平均孔径の異なる2枚のPTFE多孔質膜、および必要に応じて支持体を積層し、通気材の平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜側の表面に、撥油処理を施すことによっても製造することができる。積層の方法としては、例えば、圧着、接着剤による接着等が挙げられる。接着剤を用いる場合には、通気性を確保するためにPTFE多孔質膜等の一部(特に周縁部)のみに接着剤を使用するなど、接着面積を適宜調整するとよい。
【0030】
本発明の通気材の構成例を、図1および図2に示す。図1では、上層部材に、撥油処理された平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜1を用い、下層部材に、撥油処理していない平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜2を用いた積層体として、通気材が構成されている。ここで、上層とは、使用時に筐体の外側を向くように配置される層であり、水やオイルが付着する可能性のある側の層である。この層で、オイル等の筐体への侵入を阻止し、また、水および塵埃の侵入をいくらか阻止する。下層とは、使用時に筐体の内側を向くように配置される層である。この層で、筐体に水圧や空気圧が掛かった場合の筐体への水の侵入を阻止し、また、より微細な塵埃の侵入を阻止する。図2では、図1の積層体の下層側に、さらに補強目的の支持層として支持体3が積層されて、通気材が構成されている。
【0031】
本発明の通気材は、撥油性、耐水性および通気性の全てにおいて良好であり、常法に従い、自動車部品、家電製品、情報機器等の筐体に好適に用いることができる。このとき、撥油処理された平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜が、筐体の外側を向くように使用するとよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
【0033】
(PTFE多孔質膜)
PTFE多孔質膜としては、日東電工株式会社より市販されている、表1に示した多孔質膜を使用した。本実施例中でいう通気量は、JIS P8117(ガーレー法)によるものである。これは、一定圧力下で100mlの空気が流れるのに要する時間を示したものであり、値が小さいほど通気量が大きいことを示す。また、平均孔径は、ASTM F316−86に準拠して、Porous Material Inc.製Perm−Porometerを用いて測定した値である。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例1)
まずブランクとして、上層部材にNTF1131を、下層部材にNTF1122を用いた積層品を、撥油処理せずに作製した。具体的には、上層部材と下層部材とをゴムロールを用いて圧着した(線圧1kg/cm2)。圧着後の通気量を測定したところ、25秒/100mlであった。次に、同じ構成で、上層部材のみに撥油処理を施して、積層品を作製した。具体的には、撥油処理は、住友スリーエム株式会社製のフッ素系撥油剤FC−722を用い、これを同社製の希釈剤FP−5060で濃度2.0%に調整した処理液に、上層部材を浸漬した。上層部材を引き上げ、120℃の乾燥機で1分間乾燥した。撥油処理した上層部材と下層部材とを、ブランクと同じ条件で圧着した。圧着後の通気量を測定したところ、28秒/100mlであった。
【0036】
(実施例2)
上層部材にNTF1133を、下層部材にNTF1122を用い、実施例1と同様の方法で、撥油処理していないブランクの通気材、および上層部材のみ撥油処理した実施例2の通気材を作製した。ブランクの通気材の通気量は、22秒/100mlであり、実施例2の通気材の通気量は、25秒/100mlであった。
【0037】
(実施例3)
上層部材にNTF1033を、下層部材にNTF1122を用い、実施例1と同様の方法で、撥油処理していないブランクの通気材、および上層部材のみ撥油処理した実施例3の通気材を作製した。ブランクの通気材の通気量は、23秒/100mlであり、実施例3の通気材の通気量は、25秒/100mlであった。
【0038】
(比較例1)
通気材として1枚のNTF1122のみを用いた。実施例1と同様の撥油処理を行い、撥油処理前後で通気量を測定した。撥油処理していない通気材の通気量は、21秒/100mlであり、撥油処理した通気材の通気量は、60秒/100mlであった。
【0039】
(比較例2)
上層部材にNTF1125を、下層部材にNTF1131を用い、実施例1と同様の方法で、撥油処理していないブランクの通気材、および上層部材のみ撥油処理した比較例2の通気材を作製した。ブランクの通気材の通気量は、15秒/100mlであり、比較例2の通気材の通気量は、60秒/100mlであった。
【0040】
(比較例3)
上層部材にNTF1026を、下層部材にNTF1131を用い、実施例1と同様の方法で、撥油処理していないブランクの通気材、および上層部材のみ撥油処理した比較例3の通気材を作製した。ブランクの通気材の通気量は、13秒/100mlであり、比較例3の通気材の通気量は、30秒/100mlであった。
【0041】
以上の結果を表2にまとめる。表2より明らかなように、撥油処理を施す上層部材に平均孔径がより大きいPTFE多孔質膜を用いた場合には、撥油後の通気量の低下を小さく抑えることが可能となる。また、各実施例の通気材は、上層部材に撥油処理が施されているために、撥油性が良好である。さらに、下層部材に、平均孔径が小さいPTFE多孔質膜を用いているので、耐水性も良好である。
【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の通気材は、自動車部品、家電製品、情報機器等の筐体に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の、2枚のPTFE多孔質膜を用いた通気材の一例の断面図である。
【図2】本発明の、2枚のPTFE多孔質膜および支持体を用いた通気材の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 上層側撥油処理済PTFE多孔質膜(平均孔径が大きい方のPTFE多孔質膜)
2 下層側非撥油処理PTFE多孔質膜(平均孔径が小さい方のPTFE多孔質膜)
3 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径の異なる2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含み、前記2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のうち、平均孔径が大きい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のみに撥油処理が施されている撥油性通気材。
【請求項2】
前記平均孔径が大きい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の平均孔径が、1.0μm以上である請求項1に記載の通気材。
【請求項3】
前記2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜のうち、平均孔径が小さい方のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の平均孔径が、1.0μm未満である請求項1または2に記載の通気材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−136908(P2008−136908A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323803(P2006−323803)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】