説明

撥水性高密度織物および繊維製品

【課題】耐久性のある撥水性高密度織物および該織物を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0〜20.0重量%含有するポリエステルを含む撥水性ポリエステル繊維を含み、かつカバーファクターCFが2200以上の織物、および該織物を用いてなる繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性ポリエステル繊維を含み、レインコート地、傘地、スポーツ用衣料などに好適に用いられる撥水性高密度織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レインコート地、傘時、スポーツ用衣料などに用いられる撥水性高密度織物としては、フッ素系樹脂やシリコン系樹脂を織物に付与した、撥水性織物が提案され、実用化されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、これら後加工で撥水性を付与したものは、撥水性の耐久性が十分で無く、使用回数や洗濯回数の増加により初期の撥水性から大きく低下するといった問題を有していた。
【0004】
なお、本出願人は、特願2007−149357号において、特定の変性シリコーン化合物を含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を提案した。
【特許文献1】特公昭63−36381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、耐久性のある撥水性高密度織物および該織物を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の変性シリコーン化合物を含有するポリエステルからなるポリエステル繊維を用いて織物を得ると、耐久性のある撥水性織物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「撥水性ポリエステル繊維を含み、かつ下記式で定義するカバーファクターCFが2200以上の織物であって、前記撥水性ポリエステル繊維が、下記一般式(1)で示される変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0〜20.0重量%含有するポリエステルを含むことを特徴とする撥水性高密度織物。」が提供される。
【0008】
【化1】

[上記式(1)中、R1、2、は同一もしくは異なっても良く、一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。R、R、Rは同一もしくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。Rは炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基及び水酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であり、nは1〜100である。]
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0009】
その際、前記撥水性ポリエステル繊維の単繊維繊度が1.2dtex以下であることが好ましい。また、前記撥水性ポリエステル繊維が、混繊糸の一成分糸として織物に含まれることが好ましい。また、かかる混繊糸が芯鞘型混繊糸であり、前記撥水性ポリエステル繊維が該芯鞘型混繊糸の鞘部に配されていることが好ましい。
【0010】
本発明の撥水性高密度織物において、織物が平織組織を有することが好ましい。また、織物表面に加圧加工が施されていることが好ましい。また、織物表面において、前記撥水性ポリエステル繊維からなる、長さが1〜1000μmの微細ループで表面が覆われていることが好ましい。また、織物表面において、水滴の転がり角度が30度以下であることが好ましい。また、織物表面において、洗濯前の水滴の転がり角度をA度、洗濯30回後の水滴の転がり角度をB度とした場合、撥水性の低下率B/Aが2以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の撥水性高密度織物を用いてなる、スポーツ衣料、ファッション衣料、レインコート地、および傘地からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性のある撥水性高密度織物および該織物を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、撥水性ポリエステル繊維は、前記式(1)の構造を有する変性シリコーン化合物を、ポリエステル組成物重量を基準として、2.0〜20.0重量%含有させたポリエステル組成物からなる。含有量が下限未満では、得られるポリエステル繊維において十分な撥水性が得られがたく、他方上限を越えると、得られるポリエステル繊維の強度が乏しくなり、糸切れが発生しやすくなる。好ましい変性シリコーン化合物の含有量は、5.0〜15.0重量%、さらに7.0〜12.0重量%の範囲である。なお、本発明における変性エシリコーンが含有されているとは、変性シリコーン化合物がポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれて共重合されている状態と、ポリエステルとは化学結合せずにブレンド状態で存在する状態の両方を意味する。
【0014】
本発明で使用される変性シリコーン化合物は、前述の式(1)で示されるものであり、上記式(1)中、R1、2、は同一もしくは異なっても良く、一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。また、R4、、Rは同一若しくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。Rは炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基または水酸基を表し、nは1〜100である。
【0015】
公知の変性シリコーン化合物には、上記の片末端二反応性官能基変性型構造のほかに、長鎖状に延びているシロキサン構造の両末端にそれぞれ1個のカルボキシル基又はヒドキシル基等のポリエステル原料と反応しうる官能基を有する両末端変性型、同シロキサン構造の片末端に1個の上記の官能基を有する片末端一反応性官能基変性型、側鎖に複数個の官能基を有する側鎖変性型があるが、両末端変性型はポリエステル主鎖に直線上に組み込まれるため、成形した際にポリエステル成形品表面に変性シリコーンの官能基が現れにくいことから、望むべき撥水性を得ることができない。また、片末端一反応性官能基変性型及び側鎖変性型は、重縮合反応に関与する官能基と、変性シリコーン化合物の末端又は側鎖と反応するため、重縮合反応を阻害することがある上、ポリエステルと相溶性が悪く、均一にブレンドすることが困難であるため、製糸時の断糸発生や、毛羽の原因となり好ましくない。さらにブリードアウトしやすいという問題を有しているため好ましくない。また、上記一般式(1)においてR〜Rが上記のような官能基でない場合には、望むべき撥水性を得ることができなかったり、変性シリコーン化合物がポリエステルと充分に混和しないことがある。また混合できても、当該ポリエステル組成物を紡糸した繊維を染色他加熱加工、洗濯処理をしている間に変性シリコーン化合物がポリエステル組成物からブリードアウトしたりする事があるので好ましくない。これらの官能基の中でもR〜Rは置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基であること、R、R、Rは置換されていない炭素数1〜4個のアルキレン基であること、Rは炭素数4個以下のアルキル基であることが好ましい。
【0016】
該変性シリコーン化合物の数平均分子量は10000以下が好ましく、更に好ましくは300以上8000以下、特に好ましくは500以上6000以下である。数平均分子量が上限より大きい場合は、ポリエステルとの相溶性が悪化し、ポリエステル中に均一にブレンドすることが困難であり、ポリエステル繊維とした場合に断糸、毛羽、ブリードアウトなどの問題を有しており好ましくない。
【0017】
また、ポリエステル組成物中に含有されている変性シリコーン化合物は、変性シリコーン化合物の重量を基準として、20〜50重量%が、ポリエステルに共重合されていることが好ましい。共重合されている変性シリコーン化合物の量が下限より少ないとポリエステル組成物中でブレンドされている変性シリコーン化合物の分散性が悪化しやすく、他方上限より多い場合は得られるポリエステルの強度などの機械的物性が、同じ含有量対比では低くなりやすい。好ましい共重合されている変性シリコーン化合物の割合は、20〜50重量%の範囲である。
【0018】
共重合されている変性シリコーン化合物とブレンド状態にある変性シリコーン化合物の量および構造は後述のように、H−NMR測定により区別・特定する事ができる。また上述の片末端二反応性官能基変性型、すなわち変性シリコーン化合物のシロキサン構造の片末端に2つの反応性官能基がある構造であることは、特開2002−48777号公報に記載されているように分子中に3個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂反応物をゲル浸透クロマトグラフィーにて分析することなど確認することができる。
【0019】
本発明において、撥水性ポリエステル繊維を構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステルを好ましく挙げることができ、これらのなかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートが好ましい。なお、これらのポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。例えば、共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムイソフタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはペンタエリスリトールなどを挙げることができる。また、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物、p−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸などを共重合してもよい。
【0020】
本発明におけるポリエステルの製造方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応させる方法、またはテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造できる。なお、上述の変性シリコーン化合物の添加時期は、前述のような共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合している変性成シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0021】
なお、第一段階の反応がエステル交換反応の場合、反応温度は180〜230℃であり、反応圧力は常圧〜0.3MPaの範囲が好ましく、また第二段階の反応(重縮合反応)時の反応温度は200〜260℃、反応圧力は60〜0.1kPaの範囲であることが好ましい。このようなエステル交換反応および重縮合反応は一段で行っても、複数段階に分けて行っても良い。
【0022】
これらの反応段階で用いるエステル交換触媒としては、ナトリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、チタン、亜鉛またはマンガン等の金属化合物を使用するのが好ましい。重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物またはスズ化合物を使用するのが好ましい。触媒の使用量は、エステル交換反応、重縮合反応を進行させるために必要な量であるならば、特に限定されるものではなく、また複数の触媒を併用することも可能である。また第一段階の反応が直接エステル化反応の場合、触媒を用いなくでも直接エステル化反応を進行することもできるが、必要に応じて上記の触媒を用いても良い。
【0023】
また、第一段階の反応の途中、第二段階の反応の途中若しくは反応終了後のいずれかにおいて安定剤を添加することも好ましい。その安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート等の酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、若しくはポリリン酸等のリン化合物、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0024】
重縮合段階においては溶融粘度のモニターすること等の手法により目的とするポリエステルの重合度(分子量、固有粘度)であることを確認できるまで、上記の条件にて重縮合反応を行う。そして目的とする分子量に到達したことを確認した後、重縮合反応を終了し、反応槽から吐出し冷却後チップ状にカットすることによりポリエステルを得ることができる。そのチップを乾燥後、後述のポリエステル繊維等の製造に用いる事ができる。また一旦チップ状に成形することなく、重縮合反応終了後のポリエステルからそのままポリエステル繊維を製造しても良い。
【0025】
本発明において、撥水性ポリエステル繊維は、繊維とした状態での固有粘度(溶媒:1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒)が0.61以上であることが好ましい。より好ましい固有粘度の下限は0.63dl/g以上である。他方、固有粘度の上限は特に制限はされないが、紡糸安定性などの点から0.80dl/g以下であることが好ましく、さらに固相重合などの追加の固有粘度を高くする工程を省略または時間を短縮できることから0.70dl/g以下であることが好ましい。そして、前記撥水性ポリエステル繊維の特徴の一つは、固有粘度を下限以上にすることで、前述の変性シリコーン化合物を含有させたことによる強度などの機械的物性の低下を抑制でき、実用に十分な、すなわち製造工程や使用時の糸切れなどを防ぐのに十分な強度などを得られる繊維に具備させたことにある。このような繊維とした状態での固有粘度を満足させるには、一つには繊維状に押出す際の溶融押出機での温度をなるべく低くし、かつそこでの滞留時間を短くして、ポリマーの固有粘度の低下を小さくすることが挙げられるが、そのような条件を採用したとしても0.2〜0.3dl/gの固有粘度の低下は避けられないことから、さらに使用するポリマーの固有粘度を繊維とした状態での固有粘度よりも0.3dl/g以上高いものとすることが好ましい。
【0026】
前記撥水性ポリエステル繊維は、それ自体公知の方法で製造することができる。例えば、紡糸方法も特に限定はなく、例えば前述のようにして得られたポリエステル組成物を溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、仮撚加工を同時に又は続いて行う方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられる。また、そのようにして得られる繊維を所望の長さに切断して短繊維としても良いし、さらにスパンボンドやメルトブロー紡糸といった方法も好ましく採用できる。繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形断面のほか、楕円形断面、三角断面、星型断面であってもよい。また、本発明における撥水性ポリエステル繊維は、前述の変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物だけを用いて紡糸した繊維に限られず、該変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物が得られる繊維の表面に配置するように、例えば該変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物が鞘に、該変性シリコーン化合物を含有しないか鞘のポリエステル組成物よりも含有量が少ないポリエステル組成物を芯に配置した芯鞘構造の複合繊維であってもよいし、芯が多数ある海島型の複合繊維であってもよい。このような複合繊維化は、繊維の機械的物性をさらに保持しやすく、織物の引裂き強力を高くする点で好ましい。その際、かかる複合繊維において、芯/鞘重量比率が30/70〜90/10の範囲内であることが好ましい。
【0027】
前記撥水性ポリエステル繊維は、前述のとおり、変性シリコーン化合物を含有することにより織物とした際に優れた撥水性を有する。ここで、十分な撥水性を発現させる観点からは、ポリエステル繊維の表面の水との接触角は110°以上、さらに好ましくは115°以上であることが好ましい。このような高い接触角をポリエステル繊維自体に具備させることで、織物にしたときに優れた撥水性を発現させることができる。
【0028】
また、前記撥水性ポリエステル繊維は、撥水性の点で単糸繊維繊度が1.2dtex以下(より好ましくは0.0001〜1.2dtex)であることが好ましい。このように撥水性ポリエステル繊維の単糸繊度が小さいと、あたかも蓮の葉のように、織物表面に微細繊維からなるループが形成されやすく、優れた撥水性が得られる。また、撥水性ポリエステル繊維を長繊維として用いる場合は、取扱い性の点から繊維束としての総繊度(単子繊度×単糸数)が200dtex以下(好ましくは10〜150dtex、さらには30〜140dtex)であることが好ましい。
【0029】
前記撥水性ポリエステル繊維は、変性シリコーン化合物を含有することにより優れた撥水性を有する。特に織物とした際に、十分な撥水性を発現させる観点からは、ポリエステル繊維の表面の水との接触角は110°以上、さらに好ましくは115°以上であることが好ましい。このような高い接触角を撥水性ポリエステル繊維自体に具備させることで、織物にしたときに優れた撥水性を発現させることができる。
【0030】
本発明の織物は、前記の撥水性ポリエステル繊維を含む、下記式で定義するカバーファクター(トータルカバーファクターと称することもある。)CFが2200以上(より好ましくは2200〜3400)の織物である。該カバーファクターCFが2200より小さいと十分な撥水性が得られず好ましくない。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0031】
本発明の織物において、前記の撥水性ポリエステル繊維のみで織物が構成されていてもよいが、前記の撥水性ポリエステル繊維と他の繊維(例えば、変性シリコーン化合物を含有しないこと以外は前記撥水性ポリエステル繊維と同様のポリエステル繊維)とで織物が構成されていてもよい。
【0032】
ここで、例えば、前記撥水性ポリエステル繊維が、混繊糸の一成分糸として織物に含まれていることが好ましい。特に、前記混繊糸が芯鞘型混繊糸であり、前記撥水性ポリエステル繊維が該芯鞘型混繊糸の鞘部に配されていると、織物表面において、微細繊維からなるループが形成され優れた撥水性が得られやすく好ましい。なお、このように芯鞘構造を形成するには、特公昭63−36381号公報に記載されているように、撥水性ポリエステル繊維と他の繊維との熱収縮率(沸水収縮率)を互いに異ならせるとよい。両繊維の熱収縮率を互いに異ならせると、染色加工工程における熱履歴により、熱収縮率の大きい繊維が芯部に位置し、他方、熱収縮率が小さい繊維が鞘部に位置する芯鞘構造が容易に形成される。なお、芯部に位置する繊維が前記のような撥水性ポリエステル繊維であってもよい。
【0033】
本発明の織物は例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、前記撥水性ポリエステル繊維を用いて、最終的に得られる織物の前記カバーファクターCFが2200以上となるよう織物を製織する。
【0034】
その際、前記のように、前記のような撥水性ポリエステル繊維と、該撥水性ポリエステル繊維よりも熱収縮率が大きい他の繊維(例えば、撥水性または非撥水性ポリエステル繊維)とを用いて、公知のインターレースノズルなどを使用して空気混繊糸を得た後、織物を製織してもよい。
【0035】
ここで、織物の組織としては特に限定されず、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。なかでも、撥水性の点で平組織またはその変化組織が好ましい。
【0036】
次いで、必要に応じてかかる織物に染色加工を施すと、前記撥水性ポリエステル繊維が該撥水性ポリエステル繊維よりも熱収縮率が大きい他の繊維との混繊糸として織物に含まれている場合、染色加工の熱履歴により前記撥水性ポリエステル繊維が混繊糸の鞘部に位置する。そして、その結果、前記撥水性ポリエステル繊維が織物表面において、長さが1〜1000μmの微細ループを形成し、優れた撥水性を呈する。また、染色加工だけでなく常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。特にカレンダー加工(加熱加圧加工)が施されていることがより優れた撥水性が得られ好ましい。
【0037】
かくして得られた織物は高密度織物であり、しかも前記の撥水性ポルエステル繊維が織物中に含まれているので、耐久性のある優れた撥水性を呈する。その際、織物表面において、水滴の転がり角度が30度以下であることが好ましい。また、織物表面において、洗濯前の水滴の転がり角度をA度、洗濯30回後の水滴の転がり角度をB度とした場合、撥水性の低下率B/Aが2以下であることが好ましい。
【0038】
なお、前記の水滴の転がり角度は以下の方法により測定する。すなわち、織物からタテ2cm、ヨコ5cmの試験片およびタテ5cm、ヨコ2cmの試験片をそれぞれ5枚採取し、クラーク型試験機に前記試験片をセットする。次に、試験片の上に注射器にて0.05mlの水滴を載せ、ハンドルをゆっくり回し、試験片上の水滴が転がり始める時の角度を読み取る。タテ、ヨコそれぞれ5回測定し、タテとヨコの平均値を算出する。
【0039】
次に、本発明の繊維製品は、前記の撥水性高密度織物を用いてなる、スポーツ衣料、ファッション衣料、レインコート地、および傘地からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品には前記の織物が含まれているので、耐久性のある優れた撥水性を呈する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(1)固有粘度:
1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中に試料を溶解して定法に従って35℃にて測定した。
【0042】
(2)強度・伸度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度および伸度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度および伸度とした。
【0043】
(3)接触角:
後述の(6)撥水性の試験において、アルカリ減量する前の試験片から単糸を採取し、協和界面科学(株)社製 自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水500ピコリットルを使用して単糸表面の接触角を測定した。接触角が大きいほど、撥水性に優れると判断した。
【0044】
(4)含有シリコーン化合物量:
H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についてもH−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0045】
(5)紡糸性:
紡糸工程における紡糸性について、以下の4段階評価で表した。
◎:毛羽発生・糸切れが無く、非常に良好。
○:やや毛羽の発生があるものの糸切れが無く良好。
△:やや毛羽の発生があり、糸切れが発生(1〜2回/hr)
×:毛羽が発生・糸切れが多発(3回/hr以上)
これらの評価の中で○以上が実用的に使用可能な評価結果である。
【0046】
(6)撥水性:
各参考例で得られたポリエステル繊維を経糸及び緯糸に使用して、平織物を製織し、この布帛を常法により精錬、乾燥したのち、180℃でヒートセットした。また、その一部を常法により減量率が30重量%となるようにアルカリ減量した。このようにして得られたアルカリ減量後の布帛を、JIS−L−1092(スプレー法)(1992)により測定した。その測定後の布帛の状態から該JIS規格に記載の以下の基準で0〜100点の点数で評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴の付着が無いもの。
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
70点:表面の半分以上に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すも
の。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表面及び裏面が全体に湿潤を示すもの。
【0047】
(7)織物の厚さ
JIS L 1096により織物の厚さを測定した。
【0048】
(8)織物の目付け
JIS L 1096により織物の目付けを測定した。
【0049】
(9)カバーファクター
下記式でカバーファクターCFを算出した。
トータルカバーファクターCF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
経糸カバーファクター=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクター=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0050】
(10)沸水収縮率
供試フィラメント糸条を、周長1.125mの検尺機のまわりに10回巻きつけて、かせを調製し、このかせを、スケール板の吊るし釘に懸垂し、懸垂しているかせの下端に、かせの総質量の1/30の荷重をかけて、かせの収縮処理前の長さL1を測定した。
このかせから荷重を除き、かせを木綿袋に入れ、このかせを収容している木綿袋を沸騰水から取り出し、この木綿袋からかせを取り出し、かせに含まれる水をろ紙により吸収除去した後、これを室温において24時間風乾した。この風乾されたかせを、前記スケール板の吊し釘に懸垂し、かせの下部分に、前記と同様に、かせの総質量の1/3の荷重をかけて、収縮処理後のかせの長さL2を測定した。
供試フィラメント糸条の沸水収縮率(BWS)を、下記式により算出した。
BWS(%)=((L1−L2)/L1)×100
【0051】
(11)水滴の転がり角度
織物からタテ2cm、ヨコ5cmの試験片およびタテ5cm、ヨコ2cmの試験片をそれぞれ5枚採取し、クラーク型試験機に前記試験片をセットした。次に、試験片の上に注射器にて0.05mlの水滴を載せ、ハンドルをゆっくり回し、試験片上の水滴が転がり始める時の角度を読み取った。タテ、ヨコそれぞれ5回測定し、タテとヨコの平均値を算出した。
【0052】
[参考例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、変性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R乃至Rがメチル基、Rがトリメチレン基、R及びRがメチレン基、Rがエチル基、n=9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM−DA11、平均分子量:1000)2重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応を実施してポリエステル組成物を得た。このポリエステル組成物の固有粘度を測定した所、0.654dl/gであった。また、該ポリエステル組成物中の含有変性シリコーン化合物量は2重量%であった。 該ポリエステル組成物を乾燥させた後、一軸押出機にて285℃で溶融し、孔径0.3mmφのランド長0.6mmの丸孔押出ノズルホールを24個を有する紡糸口金から紡糸押出し温度290℃でトータル吐出量24g/分の条件で吐出させ、1000m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。この得られた未延伸糸を80℃で3.3倍に延伸し、180℃で熱処理を施し、77.6dtex/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0053】
[参考例2および3、参考例8および9]
変性シリコーン化合物の含有量を表1に記載の量となるように変性シリコーン化合物(FM−DA11)の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0054】
[参考例10]
参考例1において、変性シリコーン化合物を分子鎖の末端に1官能のカルボン酸基を有する変性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−3710)に変更し、その含有量が10重量%になるように添加量を変更した以外は、参考例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0055】
[参考例11]
参考例1において、変性シリコーン化合物を分子鎖の分子の両末端に2官能のカルボン酸有する変性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−162C)に変更し、その含有量が10重量%になるように添加量を変更した以外は、参考例1と同様な操作を繰り返した。
【0056】
[参考例4および参考5]
参考例2において、ポリマーの固有粘度を0.672dl/gおよび0.615dl/gとした以外は、実施例2と同様な操作を繰り返した。
【0057】
[参考例6]
参考例2において、変性シリコーンの平均分子量を5000の変性シリコーン化合物チッソ株式会社製、商品名:FM−DA21(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R乃至Rがメチル基、Rがトリメチレン基、R及びRがメチレン基、Rがエチル基、n=約63である化合物:チッソ(株)社製、平均分子量5,000))とした以外は、参考例2と同様な操作を繰り返した。
【0058】
[参考例7]
参考例2において、変性シリコーン化合物の添加量を5重量部とした以外は、参考例2と同様な操作を繰り返した。
【0059】
[参考例12]
参考例2において、ポリマーの固有粘度を0.602dl/gとした以外は、参考例2と同様な操作を繰り返した。
【0060】
[参考例13]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応を実施してポリエステル組成物を得た。このポリエステル組成物の固有粘度を測定した所、0.641dl/gであった。該ポリエステル組成物を乾燥させた後、一軸押出機にて285℃で溶融し、孔径0.3mmφのランド長0.6mmの丸孔押出ノズルホールを24個を有する紡糸口金から紡糸押出し温度290℃でトータル吐出量24g/分の条件で吐出させ、1000m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。この得られた未延伸糸を80℃で3.3倍に延伸し、180℃で熱処理を施し、81.1dtex/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0061】
[参考例14]
参考例13において、ポリマーの固有粘度を0.605dl/gとした以外は、参考例13と同様の操作を繰り返した。
【0062】
【表1】

【0063】
〔実施例1〕
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R乃至Rがメチル基、Rがトリメチレン基、R及びRがメチレン基、Rがエチル基、n=9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM−DA11、平均分子量:1000)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031重量部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温し、精製するメタノールを系外に除去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024重量部および重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04重量部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応させ、シリコーン含有ポリエステルを得た。得られたポリエステルの固有粘度は0.65であった(35℃、オルソクロロフェノール中)。
【0064】
このポリエステルを、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、72孔の円形の吐出孔を有する口金から吐出し、紡糸速度1000m/分にて引き取り、未延伸糸Aを得た。この未延伸糸Aを予熱温度90℃、延伸倍率2.6倍、熱セット温度180℃にて延伸熱セットを実施し、2本引き揃えて合糸して単糸繊度0.7dtex、144本からなる総繊度96dtexのマルチフィラメントを細繊度ポリエステル延伸糸Aとして得た。この細繊度ポリエステル延伸糸A(撥水性ポリエステル繊維)は、沸水収縮率6.2%、単繊維の水との接触角は130度であった。
【0065】
一方、上記エステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエチレンテレフタレートを、同様の水分率となる様に乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、24孔の円形の吐出孔を有する口金から吐出し、紡糸速度1100m/分にて引き取り、未延伸糸Bを得た。
【0066】
この未延伸糸Bを予熱温度90℃、延伸倍率3.25倍で延伸し、熱セットせず、太繊度ポリエステル延伸糸B(単繊維繊度2.3dtex、沸水収縮率12.6%)として、上記で得られた細繊度ポリエステル延伸糸Aと太繊度ポリエステル延伸糸Bとを引きそろえて、公知のインターレースノズルにて圧空圧0.15MPaで交絡処理し、150dtex、168本からなる強度2.8cN/dtexの混繊糸を得た。
【0067】
上記混繊糸を経緯に使用して経カバーファクターが1302本/2.54cm、緯糸カバーファクターが764本/2.54cmで、トータルカバーファクターCFが2066の高密度平織物を織成した。
【0068】
該織物を通常の方法に従って精練、リラックス、乾燥、プレセット、染色、乾燥を行った。次いで、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工した後、180℃の温度で30秒間のファイナルセットした。得られた織物は経糸のカバーファクターが1482、緯糸のカバーファクターが967で、経緯のトータルカバーファクターCFが2449の高密度平織物であった。
【0069】
かかる織物において、前記混繊糸は細繊度ポリエステル延伸糸Aが鞘部に位置し、太繊度ポリエステル延伸糸Bが芯部に位置する芯鞘型混繊糸となっており、また、織物表面に,長さが1〜1000μmの微細で均一な繊維ループを数多く有しており、撥水性に優れた織物であった。評価結果を表2に示す。
次いで、該織物を用いてスポーツ衣料(ウインドブレーカー)を得たところ、耐久性のある優れた撥水性を有するものであった。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1において、鞘糸として同じ細繊度ポリエステル延伸糸Aを用い、エステル反応性シリコーン化合物を用いずに重合した固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートを溶融温度285℃にて同様の方法で溶融紡糸し、未延伸糸Bとしたこと以外は実施例1と同様の方法によって、150dtex、168本からなる強度3.0cN/dtexの混繊糸を得た。
【0071】
上記混繊糸を用いて、実施例1と同様に製織および染色加工を行った。得られた織物は経糸のカバーファクターが1480、緯糸のカバーファクターが972で経緯のトータルカバーファクターが2452の高密度平織物であった。
【0072】
かかる織物において、前記混繊糸は細繊度ポリエステル延伸糸Aが鞘部に位置し、太繊度ポリエステル延伸糸Bが芯部に位置する芯鞘型混繊糸となっており、また、織物表面に,長さが1〜1000μmの微細で均一な繊維ループを数多く有しており、撥水性に優れた織物であった。評価結果を表2に示す。
【0073】
〔比較例1〕
実施例2において、鞘糸としてエステル反応性シリコーン化合物を用いずに重合した固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートを製糸して得られた細繊度ポリエステル延伸糸Aを用いたこと以外は、実施例2と同様の方法によって、150dtex、168本からなる強度4.1cN/dtexの混繊糸を得た。
【0074】
上記混繊糸を用いて、実施例1と同じ条件で織成した織物を、実施例1と同様に精練、リラックス、乾燥、プレセット、染色、乾燥を行った。次いで、下記処方の通常のフッ素樹脂による撥水加工を行った。
撥水加工処理液組成
アサヒガードAG710 (旭ガラス)6%
ユニカレジン380K (ユニオン化学)0.3%
スミテツクスアリセレタACX (住友化学)0.1%
水 93.6%
【0075】
撥水剤処理液をパツデイング方法により織物に付与した後、100℃の温度で乾燥し、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工した後、180℃の温度で30秒間のファイナルセットした。得られた織物は経糸のカバーファクターが1390、緯糸のカバーファクターが99で経緯のトータルカバーファクターCFが2384の高密度平織物であった。
【0076】
この織物の評価結果は表2に示す通りで、表面に微細で均一な繊維ループを数多く有しており、初期(洗濯前)の撥水性に優れた織物であったが、洗濯後は前記撥水剤の脱落により撥水性が低下し、耐久性のないものであった。
【0077】
〔比較例2〕
実施例1で用いた混繊糸を経緯に使用して経糸カバーフアクターが873本/2.54cm、緯糸カバーフアクターが873本/2.54cmで、経緯のトータルカバーフアクターCFが1746の中密度平織物を織成した。
【0078】
該織物を実施例1と同様に染色加工、カレンダー加工、ファイナルセットを行った。得られた織物は経糸のカバーファクターが1037、緯糸のカバーファクターが1046で経緯のトータルカバーファクターCFが2083の中密度平織物であった。
この織物の評価結果は表2に示す通りで、表面には微細で均一な繊維ループが無く、洗濯前、洗濯後ともに撥水性が低い織物であった。
【0079】
〔比較例3〕
実施例1において、細繊度ポリエステル延伸糸Aを製糸する際、同じ紡糸口金を用いて吐出量を調整し、延伸時には合糸せずに同様の方法で単糸繊度1.2dtex、72本からなる総繊度84dtexのマルチフィラメントを得た。
上記撥水繊維を経緯に使用して経糸のカバーファクターが893、緯糸のカバーファクターが847本/2.54で、経緯のトータルカバーフアクターCFが1740の平織物を織成した。
【0080】
該織物を通常の方法に従って精練、リラックス、乾燥、プレセット、染色、乾燥を行った。次いで、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧588cN(60kgf/cm)にて加熱加圧加工した後、180℃の温度で30秒間のファイナルセットした。得られた織物は経糸のカバーファクターが1005、緯糸のカバーファクターが991で経緯のトータルカバーファクターCFが1996の中密度平織物であった。
この織物の評価結果は表2に示す通りで、表面には微細で均一な繊維ループが無く、洗濯前、洗濯後ともに撥水性が低い織物であった。
【0081】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、耐久性のある撥水性高密度織物および該織物を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性ポリエステル繊維を含み、かつ下記式で定義するカバーファクターCFが2200以上の織物であって、前記撥水性ポリエステル繊維が、下記一般式(1)で示される変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0〜20.0重量%含有するポリエステルを含むことを特徴とする撥水性高密度織物。
【化1】

[上記式(1)中、R1、2、は同一もしくは異なっても良く、一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。R、R、Rは同一もしくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。Rは炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基及び水酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であり、nは1〜100である。]
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項2】
前記撥水性ポリエステル繊維の単繊維繊度が1.2dtex以下である、請求項1に記載の撥水性高密度織物。
【請求項3】
前記撥水性ポリエステル繊維が、混繊糸の一成分糸として織物に含まれる、請求項1または請求項2に記載の撥水性高密度織物。
【請求項4】
前記混繊糸が芯鞘型混繊糸であり、前記撥水性ポリエステル繊維が該芯鞘型混繊糸の鞘部に配されている、請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性高密度織物。
【請求項5】
織物が平織組織を有する、請求項1〜4に記載の撥水性高密度織物。
【請求項6】
織物表面に加圧加工が施されている、請求項1〜5の何れかに記載の撥水性高密度織物。
【請求項7】
織物表面において、前記撥水性ポリエステル繊維からなる、長さが1〜1000μmの微細ループで表面が覆われている、請求項1〜6の何れかに記載の撥水性高密度織物。
【請求項8】
織物表面において、水滴の転がり角度が30度以下である、請求項1〜7の何れかに記載の撥水性高密度織物。
【請求項9】
織物表面において、洗濯前の水滴の転がり角度をA度、洗濯30回後の水滴の転がり角度をB度とした場合、撥水性の低下率B/Aが2以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の撥水性高密度織物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の撥水性高密度織物を用いてなる、スポーツ衣料、ファッション衣料、レインコート地、および傘地からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2009−293162(P2009−293162A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149283(P2008−149283)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】