説明

撥水撥油剤分散液およびその製造方法

【課題】炭素数が6以下のフルオロアルキル基を含む(メタ)アクリル系モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体が分散した撥水撥油剤分散液であって、安定性に優れ、優れた撥水撥油性を基材に付与する分散液を提供する。
【解決手段】式:CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、Yは−O−または−NH−であり、Zは、直接結合または二価の有機基であり、Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)で示される、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから選択される1種もしくは複数種のモノマーから誘導された繰り返し単位を含む重合体;3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール;および水を少なくとも含む、撥水撥油剤分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高引火点を有し、安定性に優れた撥水撥油剤分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキル基を有するアクリレート、メタクリレート、アクリルアミドおよびメタクリルアミド(以下、これらを総称して「含フッ素(メタ)アクリル系モノマー」とも呼ぶ)から成る群から選択される少なくとも1種のモノマーのホモポリマー、および/または当該モノマーと他のモノマーとの共重合体を水に分散させた、乳化液状の撥水撥油剤分散液が種々提案されている(特許文献1〜3)。より詳細には、この分散液は、モノマー成分を、水中にて、乳化剤、開始剤および補助溶媒等の存在下で乳化重合させることにより得られる分散液である。
【0003】
この分散液の製造に際し、補助溶媒が、重合後の重合体の分散性および撥水撥油剤分散液の安定性(特に貯蔵安定性)に影響を及ぼすことが知られている。また、補助溶媒が例えばアセトンのように低い引火点を有する場合、得られる撥水撥油剤分散液それ自体が引火性を有するものとなる。引火性を有する撥水撥油剤分散液は、それが適用される製品の最終用途によっては使用することができないことがある。また、引火点の低い溶媒の使用は、撥水撥油剤分散液の製造において、取り扱いに慎重を期する必要があるため、製造工程の管理を煩雑にするという点からも好ましくない。
【0004】
含フッ素(メタ)アクリル系モノマーに関しては、フルオロアルキル基を構成する炭素数によっては、環境に望ましくない影響を及ぼし得る可能性が指摘されている。具体的には、最近の研究結果(EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf))などから、PFOA(Perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており2003年4月14日EPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。
【0005】
このPFOAについて、
i)Federal Register(FR Vol.68,No.73/April 16,2003[FRL-2303-8])(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)、
ii)EPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003、
iii)EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)、および
iv)EPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)
は、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートが重合されて成る「テロマー」が分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している。また、これらは、「テロマー」が、泡消火剤;ケア製品と洗浄製品;カーペット、テキスタイル、紙、皮革に設けられている撥水撥油被覆および防汚加工被覆を含めた多くの製品に使用されていることも公表している。
【0006】
PFOAの生成は、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーの炭素数を8未満とすることによって、かなり避けることができる。そのため、出願人は、フルオロアルキル基の炭素数を6以下とした含フッ素(メタ)アクリル系モノマーを重合して、または当該モノマーと他のモノマーとを共重合させて得られる重合体を撥水撥油剤として使用することを検討している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−263070号公報
【特許文献2】特開平9−25478号公報
【特許文献3】特開昭61−276680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーを重合した重合体を有効成分として使用する撥水撥油剤分散液の製造に際しては、補助溶媒の選定が分散液の品質に影響を及ぼす。また、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーのフルオロアルキル基の炭素数が環境に与え得る影響を考慮する必要性が高まっている。本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有する含フッ素(メタ)アクリル系モノマーを用いる場合に、より品質に優れ、かつ製造の容易な撥水撥油剤分散液を得ることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、
下記の式(I):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (I)
(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Yは−O−または−NH−であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)
で示される、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから選択される1種もしくは複数種のモノマーから誘導された繰り返し単位を含む重合体、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、および

を少なくとも含む、撥水撥油剤分散液を提供する。前記重合体は、1種類の含フッ素(メタ)アクリル系モノマーのホモ重合体、複数種類の含フッ素(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体、またはこれらの混合物である。
【0010】
この撥水撥油剤分散液(以下、単に「分散液」とも呼ぶことがある)は、炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有する含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体を含む点、および補助溶媒として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含む点に特徴を有する。この特徴により、本発明の分散液は、重合体が微細な粒子として分散されて、良好な撥水撥油性を基材に付与し、かつ、それ自体優れた安定性(特に貯蔵安定性)を示す。
【0011】
本発明の撥水撥油剤分散液において、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーが、他のモノマーと共重合体を生成している場合、当該他のモノマーは、官能性オルガノポリシロキサンであることが好ましく、メルカプト官能性オルガノポリシロキサン、ビニル官能性オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン、メタ(アクリレート)官能性オルガノポリシロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの官能性オルガノポリシロキサンであることがより好ましい。
【0012】
本発明はまた、前記本発明の分散液を製造する方法として、
下記の式(I):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (I)
(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Yは−O−または−NH−であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)
で示される、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから選択される1種もしくは複数種のモノマー、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、
乳化剤、および
重合開始剤
を水に投入して混合液を得ること、ならびに
モノマーを水中で乳化重合させること
を含む、撥水撥油剤分散液の製造方法を提供する。この製造方法によれば、前記良好な特性を有する分散液を得ることができる。
【0013】
本発明の製造方法においては、含フッ素(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを水に投入してよい。その場合、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーと当該他のモノマーとの共重合体が乳化重合により生成される。当該他のモノマーは、官能性オルガノポリシロキサンであることが好ましく、メルカプト官能性オルガノポリシロキサン、ビニル官能性オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン、メタ(アクリレート)官能性オルガノポリシロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの官能性オルガノポリシロキサンであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分散液は、撥水撥油剤である重合体が、特定の含フッ素(メタ)アクリル系モノマーが重合されて成る重合体、好ましくは当該含フッ素(メタ)アクリル系モノマーと特定の官能性オルガノポリシロキサンが重合されてなる共重合体であること、および補助溶媒として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが用いられていることを特徴とする。この特徴により、本発明の分散液は、重合体が微細な粒子として良好に分散したものとなり、優れた撥水撥油性および安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の分散液を構成する成分を以下において説明する。まず、本発明の分散液に含まれる重合体を生成するモノマーについて説明する。
【0016】
[含フッ素(メタ)アクリル系モノマー]
含フッ素(メタ)アクリル系モノマーは、下記の式(I)で示される化合物である。
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (I)
(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Yは−O−または−NH−であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)
【0017】
上記式(I)において、Xは、例えば、水素原子(H)、メチル基、Cl、Br、I、F、CNまたはCF3であってよい。Xがメチル基である場合、上記式(I)で示される化合物は、メタクリルエステルまたはメタクリルアミドとなる。Xが、Hおよびメチル基以外の原子または基である場合、上記式(I)で示される化合物は、α−置換されたアクリルエステルまたはアクリルアミドとなる。上記式(I)において、Zは、例えば、1〜20の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキレン基であり、そのようなアルキレン基は、例えば、式-(CH2)x-(式中、xは1〜10である)で示される。Zは、あるいは、式-SO2N(R1)R2-または式-CON(R1)R2-(式中、R1は1〜10の炭素原子を有するアルキル基であり、R2は、1〜10の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキレン基である)、式-CH2CH(OR3)CH2-(式中、R3は、水素原子または1〜10の炭素原子を有するアシル基(例えば、ホルミル基またはアセチル基)、式-Ar-CH2-(式中、Arは置換または非置換のアリーレン基である)、式-(CH2)m-SO2-(CH2)n-または式-(CH2)m-S-(CH2)n-(式中、mは1〜10であり、nは0〜10である)で示される基であってよい。
【0018】
あるいは、上記式(I)で示される化合物は、
Xが、水素原子、1〜21の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキル基、F、Cl、Br、I、式CFX1X2(式中、X1およびX2は水素原子、F、Cl、Br、またはIである)で示される基、シアノ基、1〜21の炭素原子を有する直鎖または分岐のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、または置換または非置換のフェニル基であり、
Zが、直接結合、1〜10の炭素原子を有する脂肪族基、6〜18の炭素原子を有する芳香族または脂環式基、式-CH2CH2N(R1)SO2-(式中、R1は、1〜4の炭素原子を有するアルキル基である)で示される基、式-CH2CH(OZ1)CH2-(式中Z1は水素原子またはアセチル基)で示される基、式-(CH2)m-SO2-(CH2)n-または式-(CH2)m-S-(CH2)n-(式中、mは1〜10であり、nは0〜10である)で示される基である、
化合物であってよい。Zが脂肪族基である場合、Zは、アルキレン基、特に、炭素数が1〜4であるもの、例えば、炭素数が1または2であるものであることが好ましい。Zが-(CH2)m-SO2-(CH2)n-または式-(CH2)m-S-(CH2)n-で示される基であって、nが0である場合、-SO2-または-S-が直接Rf基に結合されることとなる。
【0019】
XおよびZがいずれの原子または基であっても、上記式(I)において、Rfはパーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rfは、直鎖または分岐のアルキル基のいずれであってよい。好ましくは、Rfは、パーフルオロブチル基またはパーフルオロヘキシル基であり、最も好ましくは、パーフルオロヘキシル基である。
【0020】
含フッ素(メタ)アクリル系モノマーの具体例を、下記に挙げるが、これらの例に限定されるわけではない。
【0021】
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-C6H4-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2N(-CH3)SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2N(-C2H5)SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-CH2CH(-OH)CH2-Rf
【0022】
CH2=C(-H)-C(=O)-O-CH2CH(-OCOCH3)CH2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
【0023】
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
【0024】
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
【0025】
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2CF3 )-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-Rf
CH2=C(-CF2CF3 )-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2CF3 )-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-F)-C(=O)-NH-(CH2)3-Rf
【0026】
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-Cl)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CF2H)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-(CH2)2-Rf
【0027】
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-CN)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CN )-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CN )-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-S-Rf
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CF2CF3)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
【0028】
上記式(I)で示される化合物は、1種のみ用いてよく、あるいは複数種用いてよい。上記式(I)で示される化合物は、1種のみ用いてよく、その場合、分散液にはホモ重合体が含まれる。あるいは、上記式(I)で示される化合物を、複数種用いてよく、その場合、分散液には共重合体が含まれる。あるいは、1種または複数種の上記式(I)で示される化合物と、当該化合物と共重合可能な他の化合物(モノマー)とを合わせて用いてよく、その場合、分散液には共重合体が含まれる。
【0029】
[官能性オルガノポリシロキサン]
上記式(I)で示される含フッ素(メタ)アクリル系モノマーと共重合させるのに適した化合物は、官能性オルガノポリシロキサンであり、好ましくは、メルカプト官能性オルガノポリシロキサン、ビニル官能性オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン、およびメタ(アクリレート)官能性オルガノポリシロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの官能性オルガノポリシロキサンである。官能性オルガノポリシロキサンは、撥水性を低下させることなく、基材(特に繊維製品)にすべり性を付与し、あるいは処理された基材の触感をより柔らかいものにすることができる。
【0030】
様々なオルガノポリシロキサンがこの分野では広く知られており、それらは一般式RSiO(4−n)/2によって示されることが多く、この場合、オルガノポリシロキサンは、任意の数の「M」(モノ官能性)シロキシ単位(RSiO0.5)、「D」(二官能性)シロキシ単位(RSiO)、「T」(三官能性)シロキシ単位(RSiO1.5)、または、「Q」シロキシ単位(SiO)を含んでよい(式において、Rは独立して、一価の有機基である)。これらのシロキシ単位は、環状構造、線状構造または分枝状構造を形成させるために、様々な様式で組み合わせることができる。得られるポリマー構造体の化学的性質および物理的性質は変化し得る。例えば、オルガノポリシロキサンは、揮発性または低粘度の液体、高粘度の液体/ガム、エラストマーまたはゴム、および、樹脂であり得る。Rは独立して、一価の有機基であり、あるいは、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基であり、あるいは、Rは、炭素数1〜30のアルキル基であり、あるいは、Rはメチルである。
【0031】
「官能性オルガノポリシロキサン」とは、R基の少なくとも1つが有機官能基である、オルガノポリシロキサンを指す。「有機官能基」は、任意の数の炭素原子を含有する有機基を意味し、しかし、この基は、炭素および水素とは異なる少なくとも1つの原子を含有する。そのような有機官能基の代表的な例には、少数の例を挙げると、アミン系、アミド系、スルホンアミド系、第四級基、エーテル系、エポキシ系、フェノール系、エステル系、カルボキシル系、ケトン系、ハロゲン置換アルキル系およびハロゲン置換アリール系の基が含まれる。あるいは、有機官能基はアミノ官能性の有機基である。
【0032】
有機官能基は、任意のM単位、D単位またはT単位に存在させることができる。典型的には、有機官能基はDシロキシ単位におけるR置換基として存在する。
【0033】
本発明において好ましく用いられる官能性オルガノポリシロキサンは、式 RnSiO(4-n)/2 中のR基の少なくとも1つがメルカプト官能性有機基、ビニル官能性有機基、(メタ)アクリルアミド官能性有機基、または(メタ)アクリレート官能性有機基である、オルガノポリシロキサンである。
【0034】
「メルカプト官能性オルガノポリシロキサン」とは、とは、分子中にメルカプト官能性有機基を有するオルガノポリシロキサンを指す。「メルカプト官能性有機基」は、硫黄原子を含む任意の有機基であり、例えば、式-(CH2)n-SH(nは0〜10であり、特に1〜5である)で示される基である。メルカプト官能性オルガノポリシロキサンは、少なくとも1つ(例えば、1〜500、特に1〜50、より特には2〜40)のメルカプト官能性有機基、および2以上のシロキサン結合を有するシリコーン部分を有するシロキサン化合物である。
【0035】
メルカプト官能性有機基の具体例として、-CH2CH2CH2SH、-CH2CHCH3SH、-CH2CH2CH2CH2SH、-CH2CH2CH2CH2CH2SH、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2SH、および-CH2CH2SCH3が挙げられる。典型的には、メルカプト官能基は-CH2CH2CH2SHである。
【0036】
「ビニル官能性オルガノポリシロキサン」は、分子中にビニル官能性有機基を有するオルガノポリシロキサンを指す。ここで、「ビニル官能性有機基」とは、-CH=CH2基を含む基であり、例えば、式-(CH2)n-CH=CH2(式中、nは0〜10であり、特に1〜5である)で示される基である。ビニル官能性オルガノポリシロキサンは、少なくとも1つ(例えば1〜500、特に1〜50、より特には2〜40)のビニル官能性基、および2以上のシロキサン結合を有するシリコーン部分を有するシロキサン化合物である。
【0037】
ビニル官能性有機基の具体例として、-CH=CH2、-CH2CH2CH2-CH=CH2、-CH2CHCH3-CH=CH2、-CH2CH2CH2CH2-CH=CH2、-CH2CH2CH2CH2CH2-CH=CH2、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-CH=CH2が挙げられる。典型的には、ビニル官能性有機基は、-CH=CH2である。
【0038】
「(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン」とは、分子中に(メタ)アクリルアミド官能性有機基を有するオルガノポリシロキサンを指す。ここで、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。「(メタ)アクリルアミド官能性有機基」とは、式-NH-C(=O)-CQ=CH2で示される基を有する基であり、例えば、式-(CH2)n-NH-C(=O)-CQ=CH2(式中、Qは水素原子またはメチル基であり、nは0〜10であり、特に1〜5である)で示される基である。(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサンは、少なくとも1つ(例えば1〜500、特に1〜50、より特には2〜40)の(メタ)アクリルアミド官能性有機基、および2以上のシロキサン結合を有するシリコーン部分を有するシロキサン化合物である。
【0039】
(メタ)アクリルアミド官能性有機基の具体例として、-CH2CH2CH2-NH-C(=O)-CH=CH2
-CH2CH2CH2-NH-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CHCH3-NH-C(=O)-CH=CH2、-CH2CHCH3-NH-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CH2CH2CH2-NH-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CH2CH2CH2-NH-C(=O)-C(CH3)=CH2が挙げられる。典型的には、(メタ)アクリルアミド官能性有機基は、-CH2CH2CH2-NH-C(=O)-C(CH3)=CH2である。
【0040】
「(メタ)アクリレート官能性オルガノポリシロキサン」とは、分子中に(メタ)アクリレート官能性有機基を有するオルガノポリシロキサンを指す。「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリレート官能性有機基」は、式Q-O-C(=O)CX=CH2(式中、Qは、二価の有機基、例えば、C1-20の炭化水素基(例えば、C1-10のアルキレン基)であり、Xはメチル基またはH(水素原子)である)で示される基である。(メタ)アクリレート官能性オルガノポリシロキサンは、少なくとも1つ(例えば、1〜500、特に1〜50、より特には2〜40)の(メタ)アクリレート官能性有機基、および2以上のシロキサン結合を有するシリコーン部分を有するシロキサン化合物である。
【0041】
(メタ)アクリレート官能性有機基の具体例として、-CH2CH2CH2-O-C(=O)-CH=CH2、-CH2CH2CH2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CHCH3-O-C(=O)-CH=CH2、-CH2CHCH3-O-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CH2CH2CH2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2、-CH2CH2CH2CH2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2が挙げられる。典型的には、(メタ)アクリレート官能性有機基は、-CH2CH2CH2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2である。
【0042】
あるいは、官能性オルガノポリシロキサンは、アミノ官能性オルガノポリシロキサンであってよい。「アミノ官能性有機基」は、式-R1NHR2、-R1NR2、または-R1NHR1NHR2(式中、各R1は独立して、少なくとも2つの炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、R2は水素またはアルキル基である)で示される基を有する基である。各R1は典型的には2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基である。R1は、例えば、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CHCH3-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH(CH2CH3)CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2-、および-CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2-である。アルキル基R2は、オルガノポリシロキサンについて説明した、前記Rと同様である。R2がアルキル基であるとき、R2は、典型的にはメチル基である。
【0043】
適当なアミノ官能性有機基の幾つかの例は以下の通りである;
-CH2CH2NH2
-CH2CH2CH2NH2、-CH2CHCH3NH、-CH2CH2CH2CH2NH2
-CH2CH2CH2CH2CH2NH2、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2NH2
-CH2CH2NHCH3、-CH2CH2CH2NHCH3、-CH2(CH3)CHCH2NHCH3
-CH2CH2CH2CH2NHCH3、-CH2CH2NHCH2CH2NH2
-CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2、-CH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NH2
-CH2CH2NHCH2CH2NHCH3、-CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NHCH3
-CH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH3、および
-CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2CH3
典型的には、アミノ官能性有機基は-CH2CH2CH2NH2である。
【0044】
本発明においては、アミノ官能性有機基が結合したシロキシ単位と、前記メルカプト官能性有機基、ビニル官能性有機基、(メタ)アクリルアミド官能性有機基、またはメタ(アクリレート)官能性有機基が結合したシロキシ単位とからなる、官能性オルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。そのような官能性オルガノポリシロキサンは、下記の式:
(R2SiO)a(RRNSiO)b(RRFOSiO)c
(式中、aは0〜4000、あるいは1〜1000、あるいは2〜400であり、
bは0〜1000、あるいは1〜100、あるいは2〜50であり、
cは1〜1000、あるいは2〜100、あるいは3〜50であり、
Rは独立して、1価の有機基、例えば、1〜30個の炭素原子を含む炭化水素基、例えば1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル基であり、
RNは前記アミノ官能性有機基であり、
RFOは、前記メルカプト官能性有機基、前記ビニル官能性有機基、前記(メタ)アクリルアミド官能性有機基、または前記(メタ)アクリレート官能性有機基である)
で示される三元共重合体であってよい。
【0045】
この式で示される官能性オルガノポリシロキサン三元共重合体は、水素原子で末端停止してもよく(三元共重合体の末端シロキシ基単位上のシラノール基を生ずる)、または1〜30個の炭素原子を有するアルキル基で停止してもよい(三元共重合体の末端シロキシ単位上のアルコキシ基を生ずる)。アルキル基が用いられるときは、アルキル基は1〜30個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基であってよく、例えば4〜20個の、特に8〜20個の炭素原子を有してよく、例えばステアリル基であってよい。あるいは、オルガノポリシロキサンはトリメチルシリル基で停止されてよい。
【0046】
官能性オルガノポリシロキサン三元共重合体のより具体的な例として、
【0047】
【化1】

【0048】
(式中; aは0〜4000、あるいは2〜400、
bは1〜1000、あるいは1〜100、あるいは2〜50、
cは1〜1000、あるいは2〜100、あるいは3〜50;
およびR'はH、1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、またはMe3Siである)
で示される、アミノ−メルカプト官能性オルガノポリシロキサン三元共重合体を挙げることができる。
【0049】
前記アミノ−メルカプト官能性オルガノポリシロキサン三元共重合体は、アミノおよび/またはメルカプト官能基を有するオルガノポリシロキサン三元共重合体の製造に関して、当該分野で知られている任意の方法で製造し得る。典型的には、オルガノポリシロキサン三元共重合体はアミノ官能性アルコキシシラン、メルカプト官能性シラン単量体およびアルコキシまたはシラノール末端を有するオルガノポリシロキサンの、以下の一般反応スキームによって表されるような縮合重合反応を経由して製造される。
【0050】
【化2】

【0051】
縮合オルガノポリシロキサンは当該分野でよく知られており、および典型的には、例えばアルカリ金属水酸化物または錫化合物のような強塩基の添加によって触媒される。あるいは、官能化環状シロキサンの共重合を使用することもできる。
【0052】
官能性オルガノポリシロキサンは、官能性オルガノポリシロキサン以外のすべての重合性モノマー100重量部に対して、1〜50重量部の量で使用してよく、特に2〜30重量部の量で使用される。
【0053】
[その他のモノマー]
重合体は、前述の含フッ素(メタ)アクリル系モノマーに加えて(あるいは、前述の含フッ素(メタ)アクリル系モノマーおよび前述の官能性オルガノポリシロキサンに加えて)、他のモノマーから誘導される繰り返し単位を含んでよい。そのようなモノマーは、フッ素を含まないモノマー(以下、「非フッ素モノマー」とも呼ぶ)であってよい。
【0054】
非フッ素モノマーはアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレートエステルであってよい。アルキル基の炭素数は1〜30であってよく、例えば6〜30、例えば10〜30である。例えば、非フッ素モノマーは一般式:
CH2=CA1COOA2
(式中、A1は水素原子、メチル基、またはフッ素原子以外のハロゲン原子 (例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素元素)、およびA2はCnH2n+1(n=1〜30)で表わされるアルキル基である)
で示されるモノマーである。
【0055】
より具体的には、非フッ素モノマーは、ステアリル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、またはドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートであってよい。あるいは、非フッ素モノマーは、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、またはメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートであってよい。あるいは、非フッ素モノマーは、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニリデン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、ビニルアルキルエーテル、イソプレン、またはビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル)であってよい。
【0056】
非フッ素モノマーは、含フッ素アクリル系モノマー100重量部に対し、0.1〜100重量部の量で使用してよく、例えば、0.1〜50重量部の量で使用してよい。
【0057】
あるいは、他のモノマーは、架橋性モノマーであってよい。架橋性モノマーは、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有する非フッ素モノマーであってよい。したがって、架橋性モノマーは、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、または少なくとも1つの炭素−炭素二重結合と少なくとも1つの反応性基とを有する化合物であってよい。反応性基の例として、水酸基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基およびカルボニル基が挙げられる。
【0058】
架橋性モノマーの具体例として、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレンおよびグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
架橋性モノマーは、含フッ素アクリル系モノマー100重量部に対し、50重量部までの量で使用してよく、例えば、20重量部までの量で使用してよく、特に0.1〜15重量部の量で使用される。
【0060】
これらの非フッ素モノマーおよび/または架橋性モノマーを使用することにより、種々の特性、例えば、本発明の撥水撥油剤分散液で処理した基材(各種繊維製品)の汚れ脱離性、撥水撥油性および汚れ脱離性の耐洗濯性および耐クリーニング性、硬さ、風合い、および触感、ならびに分散液の溶媒への溶解性を向上させることができる。
【0061】
以上において、本発明の分散液の有効成分となる重合体を構成するモノマーについて説明した。本発明の分散液に含まれる重合体は、2,000〜5,000,000の重量平均分子量を有していてよく、特に、3,000〜5,000,000の重量平均分子量、とりわけ、10,000〜1,000,000の重量平均分子量を有していてよい。
【0062】
[3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール]
本発明の分散液は、分散液の製造中にモノマーの重合を促進し、かつ重合体の分散性を向上させるとともに、分散液の安定性を高める目的で用いられる補助溶媒として、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含む。補助溶媒はまた、2種以上のモノマーを使用する場合のモノマーの相溶性を高めるための相溶剤としても作用する。補助溶媒に要求される性質として、
1)水に溶解すること、
2)重合体を生成するモノマー成分の当該溶媒への溶解性が高いこと、
3)引火点が高いこと、および
4)人体および環境に与える影響の少ないこと
が挙げられる。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、これらの要求をすべて満たす。
【0063】
モノマーの有機溶媒への溶解性が大きいほど、得られる重合体はより微細な粒子となって分散液中に存在し、分散液の濁度が小さくなる傾向になり、分散液の安定性(特に貯蔵安定性)が向上する。また、モノマーの有機溶媒への溶解性が大きいほど、組成分布(二種以上のモノマーを共重合させるときの各モノマーに由来する繰り返し単位の割合のばらつき)の小さい重合体が得られると推定され、それにより撥水撥油剤としての性能も向上すると推定される。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、前述の官能性オルガノポリシロキサンを特に良好に溶解させることができるという点で有利であり、後述のブロックイソシアネート化合物を良好に溶解させることができるという点でも有利である。
【0064】
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、引火点が68℃である。引火点がこの程度の有機溶媒を含む分散液は、通常、引火点を示さない。有機溶媒が分散液に占める割合は、通常、小さいため、この程度の引火点を有する有機溶媒は、最終的に得られる分散液に引火性を付与しない。アセトン(引火点が−20℃)のような引火点の低い有機溶媒は、小さい割合で含まれていても、分散液を、引火点を有するものとする。
【0065】
さらに、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、EPAのDesign for Environment(DfE)に合格しているほど、人体および環境に与える影響の少ないものである。このことは、グリコール系溶媒を使用する場合と比較して、人体等への影響に関する憂慮を少なくして又は無くして、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを使用することを可能にする。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、前述の重合性モノマー(即ち、前述の含フッ素アクリル系モノマー、場合により用いられる官能性オルガノポリシロキサンおよびその他のモノマー)100重量部に対して、1〜50重量部、特に10〜40重量部の割合で用いることが好ましい。
【0066】
[その他の成分]
本発明の分散液は、モノマー成分から誘導されてなる重合体および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール以外の成分を含んでよい。そのような成分は、具体的には、ブロックイソシアネート化合物、乳化剤(界面活性剤)、モノマーを重合させるために用いた重合開始剤等である。以下にこれらの成分について説明する。
【0067】
(ブロックイソシアネート化合物)
ブロックイソシアネート化合物は、本発明の分散液により処理された基体の撥水撥油性をさらに向上させるとともに、撥水撥油性の耐洗濯性を向上させる役割をする。「ブロックイソシアネート」とは、イソシアネートがブロック剤によりブロックされたイソシアネートを指す。ブロックイソシアネート化合物は、イソシアネートブロック剤と反応させることによって得られる。
【0068】
ブロックイソシアネート化合物は、ブロック剤でブロックされたイソシアネート基の部分を有し、重合性の不飽和基を有しない化合物である。イソシアネートは、例えば、トルイレンジイソシアネオート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ならびに前記化合物の付加物およびアロファネート変性生成物、ビウレット変性生成物、イソシアヌレート変性物、もしくはカルボジイミド変性生成物、ならびにウレタンプレポリマーである。
【0069】
ブロック剤の例として、(i)オキシム化合物、(ii)フェノール化合物、(iii)アルコール化合物、(iv)メルカプタン化合物、(v)アミド化合物、(vi)イミド化合物、(vii)イミダゾール化合物、(viii)尿素類、(ix)アミン化合物、(x)イミン化合物、(xi)ピラゾール化合物、および(xii)反応性メチレン化合物が挙げられる。ブロック剤の他の例は、ピリジノール、チオフェノール、ジケトン、およびエステルである。ブロックイソシアネート化合物は、親水性基を有する化合物で変性させてよい。好ましいブロック剤は、ピラゾール化合物またはマロン酸エステル化合物である。
【0070】
ブロックイソシアネート化合物は、後述するように、それの存在下で重合性モノマー(即ち、前述の含フッ素アクリル系モノマー、場合により用いられる官能性オルガノポリシロキサンおよびその他のモノマー)を重合させる場合には、重合性モノマー100重量部に対して、1〜100重量部の量で用いることが好ましい。その場合、ブロックイソシアネート化合物は、最終的に得られる分散液において、重合性モノマーに結合していてよく、あるいは結合していなくてよい。
【0071】
ブロックイソシアネート化合物を、後述するように、重合性モノマーを重合させてから、添加する場合には、ブロックイソシアネート化合物は、重合性モノマー100重量部に対し、0.5〜50重量部の量で用いることが好ましく、例えば、1〜20重量部の量で用いる。
【0072】
(乳化剤)
乳化剤(界面活性剤)は特に限定されない。乳化剤は、疎水性部分と親水性部分とを有し、疎水性基は、例えば、炭化水素、シリコーン、または含フッ素化合物であり、親水性基は、ノニオン性、カチオン性、アニオン性または両性である。ノニオン性乳化剤、またはノニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤の組み合わせが、安定性および肌への安全性の点から、好ましく用いられる。アニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤をともに用いる場合、アニオン性乳化剤は、乳化剤全体の5〜80重量%であることが好ましく、10〜60重量%であることがより好ましい。好ましいアニオン性乳化剤は、アルキル(好ましくは炭素数1〜30のアルキル)エーテル硫酸塩である。好ましいノニオン性乳化剤は、脂肪酸ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンで硬化されたひまし油、および/またはポリオキシエチレン脂肪酸ソルビトールエステルである。好ましいカチオン性乳化剤は、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、およびジステアリルジメチルアンモニウムクロライドである。界面活性剤は、重合性モノマー100重量部に対し、0.5〜20重量部の量で使用してよい。
【0073】
(重合開始剤)
重合開始剤も特に限定されない。水溶性の重合開始剤は、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、1-ヒドロキシシクロヘキシルヒドロペルオキシド、3-カルボキシ-プロピオニルペルオキシド、アセチルペルオキシド、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩、アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムである。油溶性の開始剤は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシド、ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートである。重合開始剤は重合性モノマー100重量部に対し、0.01〜10重量部の量で使用してよい。
【0074】
[分散液の製造方法]
本発明の分散液は、モノマーを、水中にて、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、乳化剤および重合開始剤の存在下で、30〜120℃(特に、50〜80℃)に加熱して、窒素雰囲気下で、例えば1〜10時間、重合させることにより得られる。ブロックイソシアネート化合物を分散液の成分として添加する場合には、モノマーの重合前に添加してよく、あるいはモノマーを重合させた後に添加してよい。即ち、モノマーを、上記成分に加えてブロックイソシアネート化合物が存在する水中にて重合させてよく、あるいは、モノマーの重合が完了した後に、分散液に添加(即ち、混合)してよい。
【0075】
最終的に得られる分散液において重合体が微細で安定な粒子として存在するように、モノマーを投入した混合物は、強い剪断エネルギーを付与する乳化装置(例えば、高圧ホモジナイザーおよび超音波ホモジナイザー)を用いて、モノマーおよび場合により添加されるブロックイソシアネート化合物の混合物を微粒子として、水中に分散させ、それから重合を開始させる(即ち、重合開始剤を投入する)ことが好ましい。必要に応じて、重合後の分散液から、未反応のモノマー成分を除去する。
【0076】
2種以上のモノマーを使用する場合において、モノマーが完全に相溶しないときには、相溶化剤として、例えば、補助溶媒(本発明の分散液においては3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール)に加えて、低分子量のモノマーを添加することが好ましい。低分子量の単量体を添加することにより、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。低分子量のモノマーは、例えば、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートなどである。低分子量のモノマーは、重合性モノマーの総量100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。
【0077】
得られる分散液は、モノマーの重合により得られた重合体が微粒子として分散している乳化液である。重合体の平均粒子径は、好ましくは0.0001〜1μmであり、例えば、0.01〜0.5μmである。平均粒子径がこの範囲内にあると、乳化剤の量を少なくしても、安定であって、良好な撥水撥油性を基材に付与し得る分散液を得ることができる。平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径測定装置、ファイバープローブを用いた濃厚系粒径アナライザーまたは電子顕微鏡を用いて測定される。
【0078】
得られる分散液は、処理される基材に応じて、水で適宜希釈されて、基材に撥水撥油性を付与するための表面処理剤として用いられる。本明細書において、「処理」とは、処理剤を、浸漬、噴霧、塗布などにより被処理物(即ち、基材)に適用することを意味する。処理により、処理剤の有効成分が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【0079】
希釈は、重合体の濃度が、例えば、0.01〜10重量%、例えば、0.05〜10重量%となるように実施される。希釈された分散液は、浸漬、スプレーまたは塗布等の方法により、基材に付与される。その後、基材を乾燥させる。必要に応じて、基材を、乾燥させる前に、マングル等で絞り、ウェットピックアップ量を調節してよい。分散液が付与された基材(特に繊維製品)は、乾燥を兼ねて、好ましくは加熱または必要に応じて架橋剤を併用してキュアリングされ(例えば、100〜200℃)、それにより撥水撥油性をより向上させることができる。本発明の分散液を表面処理剤として使用する場合、防虫剤、柔軟剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、塗料定着剤、防シワ剤などを添加して併用することも可能である。
【0080】
処理される基材は、繊維製品、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属、酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面およびプラスター等である。本発明の分散液は特に繊維製品の処理に適している。繊維製品は、綿、麻、羊毛、絹等の動植物性天然繊維、ポリアミド(例えばナイロン)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンのような合成繊維、レーヨンおよびアセテートのような半合成(再生)繊維、ガラス繊維、炭素繊維およびアスベスト繊維のような無機繊維、またはこれらの繊維を複数種含むものであってよい。繊維製品は、繊維、糸および布のいずれの形態をとっていてよく、カーペットのように用途が既に特定された形態であってよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。実施例を通じて、単に「部」および「%」と示している場合、それらは、特に断らない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0082】
[分散液の製品安定性の評価]
分散液中の固体濃度を30重量%に調整した重合体の乳化液を50℃にて2週間放置した後、分散液の状態を目視で観察し、下記の基準に従って評価する。
○:外観に変化無し
×:分離または沈降が認められる
【0083】
[撥水性の評価方法]
JIS−L−1092のスプレー法による撥水性試験を行い、撥水性を撥水性ナンバーで表した(表1参照)。より具体的な評価手順は次のとおりである。
体積が少なくとも250mlであるガラス漏斗、および、250mlの水を20秒間〜30秒間にわたって噴霧することができるスプレーノズルを使用する。試験片フレームは、直径が15cmの金属フレームである。サイズが約20cm×20cmである3枚の試験片シートを準備し、シートを試験片ホルダーフレームに固定し、シートにしわがないようにする。噴霧の中心をシートの中心に置く。室温の水(250mL)をガラス漏斗に入れ、試験片シートに(25秒〜30秒の時間にわたって)噴霧する。保持フレームを台から取り外し、保持フレームの一方の端をつかんで、前方表面を下側にし、反対側の端を堅い物質で軽くたたく。保持フレームを180°さらに回転させ、同じ手順を繰り返して、過剰な水滴を落とす。湿った試験片を、撥水性が不良から優れた順で、0、50、70、80、90および100の評点をつけるために、湿潤比較標準物と比較する。結果を3回の測定の平均から得る。
【0084】
【表1】

【0085】
[撥油性の評価方法]
AATCC試験法118-1992)による撥油性試験を行い、撥水性を9段階で評価した(表2参照)。より具体的な評価手順は次のとおりである。
処理済み試験布を温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(表3に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液を試験布上に 0.05ml静かに滴下し、30秒間放置後、液滴が試験布上に残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥油性は、パスした試験液の最高点数とし、撥油性不良なものから良好なレベルまでFail、1、2、3、4、5、6、7および8の9段階で評価する。
【0086】
【表2】

【0087】
[撥水性および撥油性の耐洗濯性]
JIS−L0217−103に記載の方法に従って、試験布の洗濯を10回繰り返して行い、室温にて自然乾燥させる。洗濯および乾燥後の試験布(HL10)について、撥水性および撥油性を前記手順に従って評価した。
【0088】
[分散液の調製]
撥水撥油剤として有効な重合体が分散した分散液として、実施例1〜3および比較例1〜4において、分散液1〜7を調製した。その手順を説明する。以下の説明において使用される略号または商品名の意味は、下記の表3に示すとおりである。
【0089】
【表3】

【0090】
[分散液中の固形分の平均粒径の測定]
分散液中に含まれる固形分の平均一次粒子径を、ファイバープローブを用いた濃厚系粒径アナライザーを用いて求めた。測定装置として、大塚電子(株)製、粒径アナライザーFPAR-1000を用いた。
【0091】
[シロキサンAの合成]
冷却器、上部攪拌機および熱電対を取り付けた三つ口丸底フラスコに、2種類のシラノール末端のポリジメチルシロキサン(323g、Mn約900、および、380g、Mn約300)、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(230g)、アミノプロピルメチルジエトキシシラン(27g)、トリメチルエトキシシラン(42g)、水酸化バリウム(0.62g)およびオルトリン酸ナトリウム(0.25g)を仕込んだ。反応混合物を75℃に加熱し、この温度で3時間保ち、その後、揮発物の除去を75℃および200mbarの減圧下で4時間行って、アミノ−メルカプト官能性オルガノポリシロキサンを得た。得られたアミノ−メルカプト官能性オルガノポリシロキサンを、シロキサンAとして、分散液の調製に利用した。
【0092】
[溶解性の測定]
分散液の調製に使用するモノマーの3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、トリプロピレングリコール(TPG)、ジプロピレングリコール(DPG)およびアセトンへの溶解性を評価した。評価は、各モノマーと各有機溶媒を重量比で1:1の割合で混合して十分に撹拌し、1時間静置した後の混合物の状態を目視により観察し、下記の基準で評価した。
溶解:混合物が透明であり、モノマーが完全に溶解している
一部溶解:混合物が透明性に欠け、濁りが認められる
不溶:混合物が白濁している、または二層分離が生じている
評価結果を、引火点とともに、下記の表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
(実施例1)
ポリエチレン容器に、
2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FMA) 60g、
イソボルニルメタクリレート(IBMA) 4g、
ステアリルアクリレート(StA) 10g、
グリセロールメタクリレート(GLM) 1g、
グリシジルメタクリレート(GMA) 1g、
アミノメルカプトシロキサン(シロキサンA) 9g、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール 30g、
カチオン2ABT 0.27g、
ノニオンEAD−8 3g、
BO−20 3.8g、
BO−50 1g、
60℃の脱イオン水170g
を仕込み、60℃で10分加熱した後、ホモミキサーを用いて5000−10000rpmで1分間予備混合し、さらに超音波照射を8分間行って、乳化分散させた。この液を500ccのオートクレーブに移し、槽内を3回、窒素で置換した後、塩化ビニルモノマー20gを仕込み、さらにアゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩(V−50)の水希釈溶液(V−50 1.3g+脱イオン水 7.7g)を窒素で圧入した。
【0095】
攪拌しながら徐々に温度を上げ、60℃で4時間、重合した。重合後、残存している塩化ビニルを系内から除外し、室温まで冷却した。この分散液を脱イオン水で希釈して固形分濃度が30%になるように調整して、分散液1を得た。重合体の元素分析、及び重合原液のGC分析から塩化ビニルは約75%、その他のモノマーはほぼ100%反応していることがわかった。
【0096】
(実施例2)
実施例1と同じ組成で重合し、残存している塩化ビニルを系内から除外し、室温まで冷却した。得られた分散液に9%のArkophob DAN liq(Clariant Produkute AG)をブロックイソシアネート化合物として加え、更に水で希釈して固形分濃度が30%の分散液2を得た。
【0097】
(実施例3)
ポリエチレン容器に
2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FMA) 64g、
イソボルニルメタクリレート(IBMA) 4g、
ステアリルアクリレート(StA) 13g、
グリセロールメタクリレート(GLM) 1g、
グリシジルメタクリレート(GMA) 1g、
3−メトキシー3−メチルー1−ブタノール 30g、
カチオン2ABT 0.27g、
ノニオンEAD−8 3g、
BO−20 3.8g、
BO−50 1g、
60℃の脱イオン水170gを仕込み、60℃で10分加熱した後、ホモミキサーを用いて5000−10000rpmで1分間予備混合し、さらに超音波照射を8分間行って、乳化分散させた。この溶液を500ccのオートクレーブに移し、槽内を3回、窒素で置換した後、塩化ビニルモノマー22.7gを仕込み、さらにアゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩(V−50)の水希釈溶液(V−50 1.3g+脱イオン水 7.7g)を窒素で圧入した。攪拌しながら徐々に温度を上げ、60℃で4時間、重合した。重合後、残存している塩化ビニルを系内から除外し、室温まで冷却した。この分散液を脱イオン水で希釈して固形分濃度が30%になるように調整して、分散液3を得た。重合体の元素分析、及び重合原液のGC分析から塩化ビニルは約75%、その他のモノマーはほぼ100%反応していることがわかった。
【0098】
(比較例1)
溶媒を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからジプロピレングリコールモノメチルエーテルへ変更したこと以外は実施例1と同じ組成で同様に重合し、最終的に水で希釈して固形分濃度が30%の分散液4を得た。
【0099】
(比較例2)
溶媒を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからトリプロピレングリコールへ変更したこと以外は実施例1と同じ組成で同様に重合し、最終的に水で希釈して固形分濃度が30%の分散液5を得た。
【0100】
(比較例3)
溶媒を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからジプロピレングリコールへ変更したこと以外は実施例1と同じ組成で同様に重合し、最終的に水で希釈して固形分濃度が30%の分散液6を得た。
【0101】
(比較例4)
溶媒を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからアセトンへ変更したこと以外は実施例1と同じ組成で同様に重合し、最終的に水で希釈して固形分濃度が30%の分散液7を得た。
【0102】
実施例1〜3および比較例1〜4で得た分散液の組成を表5にまとめて示す。
【0103】
【表5】

【0104】
(試験例1)
実施例1で調製した固形分濃度30%の分散液1をさらに水で希釈して、固形分濃度1%の処理液を調製した。この処理液にナイロンタフタ布を浸漬した後、マングルで絞った。ウェットピックアップは約35%であった。この処理布を170℃で1分間、ピンテンターに通し、乾燥、キュアリングした。このようにして処理した試験布の評価結果を表6に示す。
【0105】
(試験例2および3)
実施例2および3で調製した分散液2および3を使用したこと以外は試験例1と同様の方法で、ナイロンタフタ布を各処理液で処理し、試験例1と同様に熱処理し、撥水性/撥油性を評価した。評価結果を表5に示す。
【0106】
(比較試験例1〜4)
比較例1〜4で調製した分散液4〜7を使用したこと以外は試験例1と同様の方法で、ナイロンタフタ布を各処理液で処理し、試験例1と同様に熱処理し、撥水性/撥油性を評価した。評価結果を表6に示す。
【0107】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の撥水撥油剤分散液は、安定性に優れ、かつ優れた撥水撥油性を基材に付与することが可能であり、繊維製品、紙および皮革等の種々の基材に撥水撥油性を付与するための表面処理剤として使用するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (I)
(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Yは−O−または−NH−であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)
で示される、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから選択される1種もしくは複数種のモノマーから誘導された繰り返し単位を含む重合体、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、および

を少なくとも含む、撥水撥油剤分散液。
【請求項2】
前記重合体が、官能性オルガノポリシロキサンから誘導される繰り返し単位をさらに含む、請求項1に記載の撥水撥油剤分散液。
【請求項3】
前記官能性オルガノポリシロキサンが、メルカプト官能性オルガノポリシロキサン、ビニル官能性オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン、メタ(アクリレート)官能性オルガノポリシロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの官能性オルガノポリシロキサンである、請求項2に記載の撥水撥油剤分散液。
【請求項4】
ブロックイソシアネート化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水撥油剤分散液。
【請求項5】
下記の式(I):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (I)
(式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Yは−O−または−NH−であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、1〜6の炭素原子を有するフルオロアルキル基である。)
で示される、含フッ素(メタ)アクリル系モノマーから選択される1種もしくは複数種のモノマー、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、
乳化剤、および
重合開始剤
を水に投入して混合液を得ること、ならびに
モノマーを水中で乳化重合させること
を含む、撥水撥油剤分散液の製造方法。
【請求項6】
官能性オルガノポリシロキサンをモノマーとして投入することをさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記官能性オルガノポリシロキサンが、メルカプト官能性オルガノポリシロキサン、ビニル官能性オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリルアミド官能性オルガノポリシロキサン、メタ(アクリレート)官能性オルガノポリシロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの官能性オルガノポリシロキサンである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ブロックイソシアネート化合物を、モノマーを乳化重合させる前、またはモノマーを乳化重合させた後に、混合液に投入することを含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−201981(P2011−201981A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69161(P2010−69161)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】