説明

撥水撥油防汚性反射防止膜とその製造方法およびそれを形成したレンズやガラス板、ガラス、およびそれらを用いた光学装置および太陽エネルギー利用装置、ディスプレイ

【課題】撥水撥油防汚性、水滴離水性、耐久性を備えた撥水撥油防汚性反射防止膜とその製造方法および撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されたレンズ、ガラス板、ガラスおよびそれらを用いた光学装置、太陽エネルギー利用装置、ディスプレイを提供する。
【解決手段】撥水撥油防汚性反射防止膜が形成されたガラス板10は、板状の基材5の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子1aと、基材5の表面のうち透明微粒子1aが融着していない部分を覆う撥水撥油防汚性物質の被膜8とを有し、透明微粒子1は、その表面の一部分が基材5の表面に融着しており、かつ他の露出した部分が撥水撥油防汚性物質の被膜8で被われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性の撥水撥油防汚性反射防止膜とその製造方法および撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されたレンズやガラス板、ガラス、およびそれらを用いた光学装置、太陽エネルギー利用装置、並びにディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にフッ化炭素基含有クロロシラン系の吸着剤と非水系の有機溶媒よりなる化学吸着液を用い、液相で化学吸着して単分子膜状の撥水撥油防汚性化学吸着膜を形成できることはすでによく知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような溶液中での化学吸着単分子膜の製造原理は、基材表面の水酸基などの活性水素とクロロシラン系の吸着剤のクロロシリル基との脱塩酸反応を用いて単分子膜を形成することにある。
【0004】
【特許文献1】特開平4−132637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の化学吸着膜は吸着剤と平坦な基材表面との化学結合のみを用いているため、水滴接触角は高々120度程度止まりであり、水滴や汚れが自然に除去されるためには撥水撥油防汚性や離水性が乏しいという課題があった。また、耐摩耗性や耐候性等の耐久性も乏しいという課題があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、撥水撥油防汚性、水滴離水性(滑水性ともいう)、耐摩耗性および耐候性等の耐久性を備えた撥水撥油防汚性反射防止膜とその製造方法および撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されたレンズやガラス板、ガラス、およびそれらを用いた光学装置、太陽エネルギー利用装置、並びにディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜は、板状の基材の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子と、前記基材の表面のうち前記透明微粒子が融着していない部分を覆う撥水撥油防汚性物質の被膜とを有する。
ここで、融着とは、基材および透明微粒子の一部が共融により接着された状態をいう。
【0008】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、その表面の一部分が前記基材の表面に融着しており、かつ他の露出した部分が前記撥水撥油防汚性物質の被膜で被われていることが好ましい。
前記透明微粒子は、その表面の一部分が前記ガラス基材の表面に融着しており、かつ他の露出した部分が前記撥水撥油防汚性物質の被膜で被われているのが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性物質の被膜が、前記透明微粒子および前記基材の表面に共有結合していることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられてもよい。
【0011】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性物質の被膜が−CF基を含むことが好ましい。
【0012】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子が透光性であり、かつその軟化温度が前記基材表面の軟化温度よりも高いシリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれかであるのが好ましい。
【0013】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満であるのが好ましい。
【0014】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、水に対する接触角が140度以上であるのが好ましい。
【0015】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、前記基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を介して前記ガラス基材の表面に融着しており、前記撥水撥油防汚性物質の被膜は、前記透明被膜を介して前記透明微粒子が融着していない部分を覆っていることが好ましい。
【0016】
前記目的に沿う第2の発明に係るレンズは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
前記目的に沿う第3の発明に係るガラス板は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
前記目的に沿う第4の発明に係るガラスは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
前記目的に沿う第5の発明に係る光学装置は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているレンズを装着している。
前記目的に沿う第6の発明に係る太陽エネルギー利用装置は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラス板を装着している。
前記目的に沿う第7の発明に係るディスプレイは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラスを装着している。
【0017】
前記目的に沿う第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法は、透明微粒子を分散した微粒子分散液を調製する工程Cと、
基材の表面に前記微粒子分散液を塗布し乾燥することにより、前記基材の表面に前記透明微粒子を付着させる工程Dと、
前記透明微粒子が表面に付着した前記基材を、前記透明微粒子の軟化温度よりも低い温度で加熱処理し、前記基材の表面に前記透明微粒子を融着させる工程Eと、
前記基材の表面に融着しなかった前記透明微粒子を洗浄除去する工程Fと、
前記透明微粒子が融着した微粒子融着基材の表面に撥水撥油防汚性物質の被膜を形成する工程Gとを含む。
【0018】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Dの前に、前記基材の表面に、前記微粒子分散液に溶解せず、前記基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を形成する工程Bをさらに有していてもよい。
【0019】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いてもよい。
【0020】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Eにおける加熱処理温度が、250℃以上でかつ前記基材および前記透明微粒子の軟化温度よりも低いことが好ましい。
【0021】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Cの前に、直鎖状の基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液中に透明微粒子aを分散し、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子aの表面の反応性基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた前記透明微粒子を製造する工程Aを有し、かつ前記工程Eにおける加熱処理は酸素を含む雰囲気中で行われることが好ましい。
【0022】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記微粒子分散液には有機溶媒が用いられ、前記直鎖状の基はフッ化炭素基であることが好ましい。
【0023】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記微粒子分散液には水およびアルコールのいずれか一方または両者の混合液が用いられ、前記直鎖状の基は炭化水素基であってもよい。
【0024】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Gにおける前記撥水撥油防汚性物質の被膜の形成は、フッ化炭素基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液を前記微粒子融着基材に接触させて、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記微粒子融着基材の表面の反応性基との反応により行なうことができる。
【0025】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Gにおける前記シリル基と前記反応性基との反応後、未反応の前記第2のシラン化合物を洗浄除去することが好ましい。
【0026】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がアルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0027】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がハロシラン化合物であってもよい。
【0028】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がイソシアネートシラン化合物であってもよい。
【0029】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル、およびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含んでいてもよい。
【0030】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含んでいてもよい。
【0031】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0032】
請求項1〜9記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、板状の基材の表面が撥水撥油防汚性の透明微粒子と撥水撥油防汚性物質の被膜で覆われているので、基材の表面に撥水撥油防汚性、水滴離水性、耐久性を賦与することができる。
【0033】
特に請求項2記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、透明微粒子が、その表面の一部分でガラス基材の表面に融着しているので、表面が複雑な凹凸構造を呈するとともに、他の露出した部分が撥水撥油防汚性物質の被膜で被われているので、高い撥水撥油防汚性を有する。
【0034】
請求項3記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、撥水撥油防汚性物質の被膜が透明微粒子およびガラス基材の表面に共有結合しているので、その耐久性を向上できる。
【0035】
請求項4記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、粒径の異なる透明微粒子が混合して用いられているので、撥水撥油防汚性ガラス板の表面形状がフラクタル性を有し、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0036】
請求項5記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、撥水撥油防汚性物質の被膜が−CF基を含んでいるので、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0037】
請求項6記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、透明微粒子が透光性であり、かつその軟化温度がガラス基材表面の軟化温度よりも高いシリカ、アルミナ、あるいはジルコニアであるので、微粒子の形状を損なうことなくガラス基材の表面に融着できる。
【0038】
請求項7記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、透明微粒子の粒径が可視光領域の波長より小さい400nm未満であるので、可視光の散乱が少なく、高い透光性を維持できる。
【0039】
請求項8記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、水に対する接触角が140度以上であるので、水滴の転落角が小さくなり、実質上水滴が付着しなくなる。
【0040】
請求項9記載の撥水撥油防汚性反射防止膜においては、ガラス基材の表面に、ガラス基材よりも低い温度で透明微粒子と融着する透明被膜が形成されているので、融着時の加熱処理温度を低くすることが可能となり、融着時における透明微粒子の熱変形を抑制できる。
【0041】
請求項10記載のレンズ、請求項11記載のガラス板、請求項12記載のガラスにおいては、その表面が撥水撥油防汚性反射防止膜で覆われているので、表面に撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。
【0042】
請求項13記載の光学装置においては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているレンズを装着しているので、レンズに撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、光学装置のメンテナンス作業が軽減されるとともに、光学装置の寿命も延長することができる。
【0043】
請求項14記載の太陽エネルギー利用装置においては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラス板を装着しているので、ガラス板に撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、太陽光の吸収効率が向上するとともにメンテナンス作業が軽減されし、太陽エネルギー利用装置の効率および稼働率が向上する。
【0044】
請求項15記載のディスプレイにおいては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラスを装着しているので、ガラスに撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、ディスプレイで鮮明な画像を見ることができるとともに、ディスプレイのメンテナンス作業(フェイスプレートの清掃作業)を軽減することができる。
【0045】
請求項16〜30記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、基材の表面に撥水撥油防汚性物質の被膜を形成することができるので、基材の表面に撥水撥油防汚性、水滴離水性、耐久性を賦与することができる。
【0046】
請求項17記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、工程Dの前に、基材の表面に、微粒子分散液に溶解せず、基材よりも低い温度で透明微粒子と融着する透明被膜を形成する工程Bを有するので、工程Eにおける加熱処理をより低温で行うことが可能となる。
【0047】
請求項18記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、透明被膜の形成にゾルゲル法を用いるので、透明被膜の形成を簡便に行うことができる。
【0048】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、工程Eにおける加熱処理温度が、250℃以上でかつガラス基材および透明微粒子の軟化温度よりも低いので、融着時における透明微粒子の変形を抑制できる。
【0049】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、工程Cの前に、直鎖状の基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液中に透明微粒子aを分散し、第1のシラン化合物のシリル基と透明微粒子aの表面の反応性基との反応により第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた透明微粒子を製造する工程Aを有し、工程Cにおいて、微粒子分散液の調製には第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた透明微粒子が用いられるので、微粒子分散液中での透明微粒子の凝集を抑制し、均一に分散させることができる。
また、工程Eにおける加熱処理が酸素を含む雰囲気中で行われるので、低い加熱温度で第1のシラン化合物の単分子膜を完全に分解除去できる。
【0050】
請求項21記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、微粒子分散液に有機溶媒が用いられ、第1のシラン化合物の直鎖状の基はフッ化炭素基であるので、透明微粒子の表面エネルギーが小さくなり、透明微粒子の凝集を確実に抑制できる。
【0051】
請求項22記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、微粒子分散液に水およびアルコールのいずれか一方または両者の混合液が用いられ、第1のシラン化合物の直鎖状の基は炭化水素基であるので、微粒子分散液の調製に要するコストを低下できるとともに、微粒子分酸液の安全性がより高くなる。
【0052】
請求項23記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、工程Gにおける撥水撥油防汚性物質の被膜の形成が、フッ化炭素基を含む第2のシラン化合物を微粒子融着ガラス基材に接触させて、第2のシラン化合物のシリル基と微粒子融着基材の表面の反応性基との反応により行われるので、撥水撥油防汚性物質の被膜の耐久性を高めることができる。
【0053】
請求項24記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、工程Gにおけるシリル基と反応性基との反応後、未反応の第2のシラン化合物を洗浄除去するので、微粒子融着基材の表面に共有結合した撥水撥油防汚性物質の被膜のみが形成されることにより、撥水撥油防汚性ガラス板の撥水撥油防汚性および耐久性を向上できる。
【0054】
請求項25記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方が、反応性基との反応の際に有害な塩化水素を発生しないアルコキシシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより安全に行うことができるとともに、製造設備の腐食や酸性廃液の発生を抑制できる。
【0055】
請求項26記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方が、反応性基との反応性の高いハロシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより高効率に行うことができるとともに、触媒の添加が不要になる。
【0056】
請求項27記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方が、反応性基との反応の際に有害な塩化水素を発生せず、かつ反応性の高いイソシアネートシラン化合物であるので、製造設備の腐食や酸性廃液の発生を抑制できるとともに、触媒の添加が不要になる。
【0057】
請求項28記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、第1および第2の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものが、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル、およびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むので、アルコキシシラン化合物と反応性基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性ガラス板の製造をより高効率に行うことができる。
【0058】
請求項29記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、第1および第2の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものが、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からからなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性ガラス板の製造をより高効率に行うことができる。
請求項30記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を混合して用いるので、撥水撥油防汚性物質の被膜の形成時間をさらに短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されたガラス板について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る太陽熱温水器(太陽エネルギー利用装置の一例)に用いるガラス板(以下「ガラス板」という)10は、板状のガラス基材5と、ガラス基材5の表面に金属酸化物の透明被膜の一例であるシリカ系透明皮膜6を介して融着したシリカ微粒子1a(撥水撥油防汚性の透明微粒子の一例)と、シリカ微粒子が融着していない部分を覆う撥水撥油防汚性被膜の一例であるフッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜8とを有する。
【0060】
ガラス板10の製造方法は、図2(a)および(b)に示すように、直鎖状の基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液中に透明微粒子(元となる透明微粒子a)の一例であるシリカ微粒子1を分散し、第1のシラン化合物のシリル基とシリカ微粒子1の表面の水酸基2(反応性基の一例)との反応により第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を製造する工程Aと、図3に示すように、ガラス基材5の表面に、シリカ系透明被膜6を形成する工程Bと、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を分散した微粒子分散液を調製する工程Cと、図4(a)に示すようにガラス基材5の表面(詳しくは、シリカ系透明被膜6の表面)に微粒子分散液を塗布し乾燥することにより、ガラス基材5表面のシリカ系透明被膜6の上にシリカ微粒子4を付着させる工程Dと、シリカ微粒子4が表面に付着したガラス基材5を加熱処理し、シリカ微粒子4をシリカ系透明被膜6を介してガラス基材5の表面に融着させ、融着したシリカ微粒子1aで覆われた凹凸ガラス基材(微粒子融着ガラス基材の一例)7を製造する工程Eと、ガラス基材5の表面に融着しなかったシリカ微粒子4を洗浄除去する工程Fと、凹凸ガラス基材7の表面にフッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜8を形成する工程Gとを含んでいる。
以下、工程A〜Gについてより詳細に説明する。
【0061】
工程Aでは、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を製造する。
製造されるガラス板10の透明度を損なわないためには、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4の製造に用いるシリカ微粒子1の直径は、可視光波長(380〜700nm)より小さいことが好ましい。具体的には、微粒子の直径は10〜400nmであることが好ましく、10〜300nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。用いられるシリカ微粒子1の粒径は単一であってもよいが、2以上の異なる粒径を有するシリカ微粒子を混合して用いると、表面がフラクタル構造を有する撥水撥油防汚性ガラス板11(図5参照)が得られ、撥水撥油防汚性が向上するため好ましい。
【0062】
本実施の形態では、透明微粒子としてシリカ微粒子を用いているが、水酸基、アミノ基等の、アルコキシシリル基およびハロシリル基と反応する活性水素基(反応性基の一例)を表面に有し、透光性でガラス基材よりも軟化点の高い任意の微粒子を用いることができる。シリカ以外に用いることのできる透明微粒子としては、アルミナ、ジルコニア等の微粒子が挙げられる。
【0063】
第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4の製造に用いる第1の化学吸着液は、第1のシラン化合物と、シリル基とシリカ微粒子1の表面の水酸基2との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0064】
第1のシラン化合物としては、下記の化1および化2のいずれか一方で表されるアルコキシシラン化合物が用いられる。
【0065】
【化1】

【0066】
【化2】

【0067】
前記化1および化2において、mは5〜20の整数を、nは0〜9の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
また、Yは、(CH(kは1〜3の整数を表す)および単結合のいずれかを表し、Zは、O(エーテル酸素)、COO、Si(CH、および単結合のいずれかを表す。
【0068】
第1のシラン化合物として用いることのできるアルコキシシラン化合物の具体例としては、下記の(1)〜(12)に示すフッ化炭素基を含むアルコキシシラン誘導体、および下記の(21)〜(32)に示す炭化水素基を含むアルコキシシラン誘導体が挙げられる。
【0069】
(1)CFCHO(CH15Si(OCH
(2)CF(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(3)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(4)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(5)CFCOO(CH15Si(OCH
(6)CF(CF(CHSi(OCH
(7)CFCHO(CH15Si(OC
(8)CF(CHSi(CH(CH15Si(OC
(9)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(10)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(11)CFCOO(CH15Si(OC
(12)CF(CF(CHSi(OC
【0070】
(21)CHCHO(CH15Si(OCH
(22)CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(23)CH(CH(CHSi(CH(CHSi(OCH
(24)CH(CHSi(CH(CHSi(OCH
(25)CHCOO(CH15Si(OCH
(26)CH(CHSi(OCH
(27)CHCHO(CH15Si(OC
(28)CH(CHSi(CH(CH15Si(OC
(29)CH(CHSi(CH(CHSi(OC
(30)CH(CHSi(CH(CHSi(OC
(31)CHCOO(CH15Si(OC
(32)CH(CHSi(OC
【0071】
縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル、およびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0072】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0073】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0074】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレート類の具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0075】
アルコキシシラン化合物を含む第1の化学吸着液中にシリカ微粒子1を分散させ、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基とシリカ微粒子1の表面の水酸基2とが縮合反応を起こし、下記の化3または化4のいずれか一方で示されるような構造を有する第1のシラン化合物の単分子膜3を生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合はシリカ微粒子1の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本はシリカ微粒子1の表面のケイ素原子と結合している。
【0076】
【化3】

【0077】
【化4】

【0078】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、シリカ微粒子1の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、シリカ微粒子1をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0079】
上述の金属塩の代わりに、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として用いた場合、反応時間を1/2〜2/3程度まで短縮できる。
【0080】
あるいは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間をさらに短縮できる。
【0081】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズオキサイドの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用い、その他の条件は同一にして第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4の製造を行うと、品質を損なうことなく反応時間を1時間程度にまで短縮できる。
【0082】
さらに、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズビスアセチルアセトネートとの混合物(混合比は1:1)を用い、その他の条件は同一にして第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4の製造を行うと、反応時間を20分程度に短縮できる。
【0083】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0084】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0085】
第1の化学吸着液の調製には、有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコキシシラン化合物の加水分解を防止するために、乾燥剤または蒸留により使用する溶媒から水分を除去しておくことが好ましい。また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましい。
【0086】
具体的に使用可能な溶媒としては、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれらの混合物を用いることもできる。
【0087】
また、用いることができるフッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒、フロリナート(米国3M社製)、アフルード(旭硝子株式会社製)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機塩素系溶媒を添加してもよい。
【0088】
第1の化学吸着液におけるアルコキシシラン化合物の好ましい濃度は、0.5〜3質量%である。
【0089】
反応後、溶媒で洗浄し、表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、第1のシラン化合物の単分子膜3で覆われたシリカ微粒子4が得られる。このようにして製造される第1のシラン化合物の単分子膜3で覆われたシリカ微粒子4の断面構造の模式図を図2(b)に示す。なお、図2(b)においては、第1のシラン化合物の単分子膜3の一例として、下記の化5で表される構造を有するものを示している。
【0090】
【化5】

【0091】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0092】
反応後、生成した第1のシラン化合物の単分子膜3で覆われたシリカ微粒子4を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、第1のシラン化合物の単分子膜3で覆われたシリカ微粒子4の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、第1のシラン化合物の単分子膜3で覆われたシリカ微粒子4の表面に共有結合により固定されていないが、工程A以降の製造工程に特に支障をきたすことはない
【0093】
本実施の形態においては、第1のシラン化合物としてアルコキシシラン化合物を用いた場合について説明したが、フッ化炭素基を有するハロシラン化合物またはイソシアネートシラン化合物を用いてもよい。これらのシラン化合物を用いる場合には、縮合触媒および助触媒が不要であること、アルコール系溶媒が使用できないこと、アルコキシシラン化合物より加水分解を受けやすいので、乾燥溶媒を用い、乾燥空気中(相対湿度30%以下)で反応を行うことを除き、アルコキシシラン化合物と同様に第1の化学吸着液の調製および第1のシラン化合物の単分子膜で覆われたシリカ微粒子の製造を行うことができる。
第1のシラン化合物として用いることのできるハロシラン化合物およびイソシアネートシラン化合物としては、下記の(41)〜(52)に示す化合物が挙げられる。
【0094】
(41)CFCHO(CH15SiCl
(42)CF(CHSi(CH(CH15SiCl
(43)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(44)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(45)CFCOO(CH15SiCl
(46)CF(CF(CHSi(NCO)
(47)CFCHO(CH15Si(NCO)
(48)CF(CHSi(CH(CH15Si(NCO)
(49)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(NCO)
(50)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(NCO)
(51)CFCOO(CH15Si(NCO)
(52)CF(CF(CHSi(NCO)
(以上工程A)。
【0095】
工程Bでは、ガラス基材5の表面に、微粒子分散液(工程Cで使用)に溶解せず、ガラス基材5よりも低い温度で透明微粒子4と融着するシリカ系透明被膜6を形成する(図3参照)。
用いるガラス基材5の材質、形状、および大きさについて特に制限はなく、乗り物および建築物において使用される任意の窓ガラス材を用いることができる。また、表面に活性水素基が存在していれば、表面被膜が形成されていてもよい。なお、活性水素基は、水酸基でもよいが、アミノ基等の活性水素を有する他の官能基であってもよい。
【0096】
ガラス基材5の表面に形成されるシリカ系透明被膜6としては、ゾルゲル法により形成されたシリカの乾燥ゲル膜が好ましい。
未焼結の乾燥ゲル膜の表面および内部には、透明被膜を有しないガラス基材5の表面よりも多くの遊離の水酸基が存在するため、ガラス基材5よりも低い温度でシリカ微粒子4と融着できる。
【0097】
シリカの乾燥ゲル膜の形成は、テトラメトキシシラン(Si(OCH)等のテトラアルコキシシラン、縮合触媒および溶媒を混合して得られるゾル溶液(金属アルコキシドの溶液の一例)をガラス基材5の表面に塗布し、溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
その結果、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成する水酸基とアルコキシル基との間で縮合反応が起こり、ガラス基材5の表面に、シリカの透明な乾燥ゲル膜(シリカ系透明被膜6の一例)が形成される。
用いることのできる縮合触媒、助触媒、溶媒の種類、テトラアルコキシシランの濃度、触媒の添加量については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0098】
ゾル溶液の塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等の任意の方法により行うことができる。
また、乾燥ゲル膜の膜厚は、ガラス板10の製造に用いるシリカ微粒子1の粒径にもよるが、10〜50nmが好ましい。
このようにして製造されるシリカの乾燥ゲル膜を有するガラス基材5の断面構造の模式図を図3に示す。
透明被膜としてシリカの乾燥ゲル膜を有するガラス基材5を用いてガラス板10の製造を行うと、工程Eにおける加熱処理を300度以下の低温で行うことが可能となり、あらかじめ風冷強化されたガラスの強化度を劣化させることなくシリカ微粒子1aを融着した凹凸ガラス基材7を製造できる。
【0099】
なお、本実施の形態においては、透明被膜としてシリカの乾燥ゲル膜を形成しているが、透明性を有しガラス基材5よりも低い温度でシリカ微粒子1を融着することのできる任意の透明被膜を形成し用いることができる。用いることのできる透明被膜としては、例えば、アルミナ、酸化チタン等の乾燥ゲル膜等が挙げられる。
また、ゾル溶液にリン酸またはホウ酸をそれぞれ数パーセント添加しておくと、リンシリケートガラス(PSG)やボロンシリケートガラス(BSG)の乾燥ゲル膜が形成され、工程Eにおける加熱処理温度を250℃程度まで低減できる(以上工程B)。
【0100】
工程Cでは、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を分散した微粒子分散液を調製する。
第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を溶媒に加え、撹拌ばね、マグネチックスターラー等の任意の撹拌手段により激しく撹拌するか、超音波照射を行うことにより、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を溶媒中に均一に分散させる。
微粒子分散液の調製に用いることのできる溶媒としては、シリカ微粒子4を均一に分散させることができ、ガラス基材5上に塗布した後、蒸発させることで容易に除去できる任意の溶媒を用いることができる。
【0101】
第1のシラン化合物として、前記化1で表されるフッ化炭素基を有するシラン化合物(例えば前記(1)〜(12)等)を用いる場合には、水およびアルコール系の溶媒を除く任意の非水系の有機溶媒が好ましく、前記化2で表される炭化水素基を有するシラン化合物(例えば前記(21)〜(32))を用いる場合には、水およびアルコール系の溶媒を含む任意の有機溶媒を用いることができるが、毒性の低さや廃棄物処理の容易さの観点からは水およびアルコール系の溶媒が好ましい。
【0102】
第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4の微粒子分散液中における質量比は、0.5〜5質量%であることが好ましい。質量比が0.5質量%を下回ると多量の微粒子分散液が必要となり、5質量%を上回るとシリカ微粒子4を均一に分散させることが困難になるため、ともに好ましくない。
【0103】
シリカ微粒子4の表面を覆う第1のシラン化合物の単分子膜3は、シリカ微粒子4の表面エネルギーを小さくする作用があり、微粒子液内での凝集を押さえ、分散性を向上できる効果を有する。
なお、本実施の形態においては工程Aにより製造した第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4を用いたが、工程Aを省略して直接シリカ微粒子1を前記の溶媒中に分散させることにより微粒子分散液を調製した場合でも、工程Eにおいて製造される凹凸ガラス基材7表面の欠陥密度はやや大きくなるものの、ガラス板10の製造に大きな支障をきたすことはない(以上工程C)。
【0104】
工程Dでは、ガラス基材5の表面(シリカ系透明被膜6の表面)に微粒子分散液を塗布し乾燥することにより、ガラス基材5の表面にシリカ系透明被膜6を介してシリカ微粒子4を付着させる。
微粒子分散液の塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等の任意の方法により行うことができる。また、溶媒の蒸発は、用いた溶媒の沸点、蒸気圧等に応じて、風乾、減圧乾燥、加熱乾燥等の公知の方法を単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
このようにして得られる、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4が付着した、シリカ系透明被膜6を有するガラス基材5の断面構造の模式図を図4(a)に示す(以上工程D)。
【0105】
工程Eでは、第1のシラン化合物の単分子膜3で表面が覆われたシリカ微粒子4が乗ったシリカ系透明被膜6を有するガラス基材5を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、シリカ微粒子4の表面を覆う第1のシラン化合物の単分子膜3を分解させ、ガラス基材5表面のシリカ系透明被膜6とシリカ微粒子4とを融着させることにより、シリカ微粒子4を融着した(すなわち、融着したシリカ微粒子1aを表面に有する)凹凸ガラス基材7(図4(b)参照)を製造する。
加熱処理は、酸素を含む雰囲気中で、ガラス基材5とシリカ微粒子4との融着が起こる温度よりも高く、かつガラス基材5およびシリカ微粒子4の融解温度よりも低い温度で行われる。加熱処理温度が高いほどシリカ微粒子4をより強固にガラス基材5の表面に融着できるが、温度が高くなりすぎるとシリカ微粒子がガラス基材5(または透明被膜6)の内部に埋没してしまうため好ましくない。
ガラス基材5がシリカ系透明被膜6を有する場合、ガラス基材5とシリカ微粒子4との融着のためには、250〜300℃程度の低温で加熱処理を行うことができる。しかし、シリカ微粒子4の表面を覆う第1のシラン化合物の単分子膜3を完全に分解させるためには、350〜400℃で加熱処理を行う必要がある。
第1のシラン化合物がフッ化炭素基を有する場合、その単分子膜を完全に分解するためには400℃程度で加熱処理を行う必要があるが、炭化水素基を有する場合には、350℃程度でその単分子膜を完全に分解できる。したがって、工程Aにおいて炭化水素基を含む第1のシラン化合物を用いた場合、ガラス基材5として強化ガラスを用いても、その風冷強化処理の効果を損なうことがないため好ましい。
このようにして得られた凹凸ガラス基材7の断面構造の模式図を図4(b)に示す。
【0106】
なお、本実施の形態においては、シリカ系透明被膜6が形成されたガラス基材5を用いたが、工程Bを省略してシリカ系透明被膜6を有しないガラス基材5をそのまま用いてもよい。ガラス基材5として青板ガラスを用いた場合には、好ましい加熱処理温度は650度程度である。また、処理時間は、650℃の空気中で加熱処理を行った場合には30分である(以上工程E)。
【0107】
工程Fでは、ガラス基材5の表面に融着しなかったシリカ微粒子4を洗浄除去する。洗浄には任意の溶媒を用いることができるが、無害であり廃棄物の処理が容易である水が最も好ましい(以上工程F)。
【0108】
工程Gでは、融着したシリカ微粒子1aを有する凹凸ガラス基材7の表面にフッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜8を形成し、ガラス板10を製造する。
【0109】
フッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜8の形成に用いる第2の化学吸着液は、フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物(第2のシラン化合物の一例)と、凹凸ガラス基材7の表面の水酸基(反応性基の一例)とアルコキシシリル基との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0110】
フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、前記一般式(化1)で表されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0111】
第2の化学吸着液に用いることのできる縮合触媒、助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0112】
フッ化炭素基を有する化学吸着単分子膜8は、融着したシリカ微粒子1aの露出した部分およびガラス基材5の表面(シリカ系透明被膜6の表面)のシリカ微粒子1aが融着していない部分に共有結合している。
【0113】
本実施の形態においては、第2のシラン化合物として、アルコキシシラン化合物を用いた場合について説明したが、フッ化炭素基を有するハロシラン化合物またはイソシアネートシラン化合物を用いてもよい。ハロシラン化合物を用いる場合には、縮合触媒および助触媒が不要であること、アルコール系溶媒が使用できないこと、アルコキシシラン化合物より加水分解を受けやすいので、乾燥溶媒を用い、乾燥空気中(相対湿度30%以下)で反応を行うことを除き、アルコキシシラン化合物と同様に第2の化学吸着液の調製および凹凸ガラス基材7との反応を行うことができる。
このようにして得られるガラス板10の断面構造の模式図を図1に示す。なお、図1においては、フッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜8の一例として、前記化5で表される構造を有するものを示している(以上工程G)。
【0114】
フッ化炭素基を有する化学吸着単分子膜8の膜厚は、たかだか1nm程度であるため、融着したシリカ微粒子1aで表面が覆われたガラス基材の表面に形成された50nm程度の凸凹はほとんど損なわれることがない。また、この凸凹の効果(いわゆる「蓮の葉効果」)により、ガラス板10の見かけ上の表面エネルギーを小さくでき、水滴接触角は、140度以上(本実施の形態では150度程度)となり、超撥水が実現できる。
【0115】
また、ガラス板10の基材ガラス5の表面には、シリカ系透明被膜6を介してガラスよりも硬度が高いシリカ微粒子1aが融着しているので、耐摩耗性も大幅に向上している。
また、ガラス板10において、ガラス基材5の表面に融着したシリカ微粒子1aおよびフッ化炭素基を有する化学吸着単分子膜8を含む被膜の厚さは、全体で100nm程度であるため、ガラス基材5の透明性が損なわれることもない。
【0116】
反応後、生成したガラス板10を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、ガラス板10の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、単分子膜と異なりその全体がガラス板10の表面に共有結合により固定されていることはないが、フッ化炭素基を有しているため撥水撥油防汚性を有している。そのため、多少耐久性に劣る点を除けば、このままの状態でもガラス板10として使用できる。
【0117】
また、工程Gにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、前記(1)〜(12)に示す化合物が挙げられる。
【0118】
また、工程Gにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むハロシラン化合物およびイソシアネートシラン化合物としては、前記(41)〜(52)に示す化合物が挙げられる。
【実施例】
【0119】
以下、本願発明の詳細を実施例を用いて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0120】
なお、本発明に関するガラス基板には、光学装置用レンズや太陽エネルギー利用装置用のガラス板や、ディスプレイ用フェイスプレートがあるが、代表例として、以下に太陽熱温水器用のガラス板を取り上げて説明する。
【0121】
(実施例1)
(1)フッ化炭素基を有する単分子膜で覆われたシリカ微粒子の製造
平均粒径100nmのシリカ微粒子を用意し、よく洗浄して乾燥した。
(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン(化6、信越化学工業株式会社製)0.99重量部、およびジブチルスズビスアセチルアセトナート(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、第1の化学吸着液を調製した。
【0122】
【化6】

【0123】
このようにして得られた第1の化学吸着液に乾燥したシリカ微粒子を混入撹拌して空気中(相対湿度45%)で1時間程度反応させた。
その後、クロロホルムで洗浄し、過剰なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0124】
(2)ガラス基材の表面へのシリカ系透明被膜の形成
太陽熱温水器用ガラス板を用意し、よく洗浄して乾燥した。
テトラメトキシシラン(Si(OCH)0.99重量部、およびジブチルスズジアセチルアセトナート(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、ゾル溶液を調製した。このようにして得られたゾル溶液を自動車用窓ガラス板の表面に塗布し、溶媒を蒸発させると、テトラメトキシシランが加水分解し脱アルコール反応して膜厚50nm程度の多量の水酸基を含むシリカ系透明被膜(シリカ乾燥ゲル膜)が形成された。
【0125】
(3)ガラス基材の表面への微粒子溶液の塗布
(1)で製造した、フッ化炭素基を含む単分子膜で表面が覆われたシリカ微粒子1重量部をキシレン99重量部中に加え、激しく撹拌して微粒子分散液を調製した。
(2)で形成した、シリカ乾燥ゲル膜の透明被膜を有する太陽熱温水器用ガラス板の表面に微粒子分散液を塗布後、溶剤を蒸発させ、フッ化炭素基を含む単分子膜で表面が覆われたシリカ微粒子が表面に付着したガラス基材が得られた。
【0126】
(4)シリカ微粒子を融着した凹凸ガラス基材の製造
フッ化炭素基を含む単分子膜で表面が覆われたシリカ微粒子が表面に付着したガラス基材を、空気中600℃で30分焼成すると、シリカ微粒子の表面を覆っていたフッ化炭素基を含む単分子膜が分解除去されるとともにシリカ微粒子のガラス基材表面の融着が起こった。その後、水で洗浄すると、ガラス基材の表面に融着しなかったシリカ微粒子が除去され、単層のシリカ微粒子を融着した凹凸ガラス基材が得られた。このとき、シリカ微粒子表面の化学吸着単分子膜は完全に分解除去されたが、シリカ微粒子そのものは、融点が700℃より遙かに高いため、粒子間で互いに融着することはなかった。
【0127】
(5)フッ化炭素基を含む単分子化学吸着膜の形成
(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン(化7、信越化学工業株式会社製)1重量部を、脱水したノナン100重量部に溶解し、第2の化学吸着液を調製した。
(4)で製造した、表面にシリカ微粒子が融着固定された太陽熱温水器用ガラス板の表面に、相対湿度30%以下の乾燥空気中で第2の化学吸着液を塗布し反応させた。反応後、フロン系溶媒で洗浄し、未反応のトリクロロシラン化合物を除去した。
【0128】
【化7】

【0129】
このようにして得られた撥水撥油防汚性太陽熱温水器用ガラス板の見かけ上の水滴接触角を測定したところ、約145度であった。
この様にして得られた撥水撥油防汚性太陽熱温水器用ガラス板を太陽熱温水器に装着し実用化試験を行うと、空気中の粉塵や雨水による汚れもほとんど付着せず、普通のガラスを装着した場合に比べて初期値で平均3%程度集熱効率を向上できた。また、普通のガラスの場合、1年も使用すると表面が汚れ、光利用効率が30%程度も低下したが、この太陽熱温水器では、1年後でも汚れによる効率低下はほとんどみられなかった。
【0130】
(実施例2)
実施例1と同様の方法を用い、太陽電池製造時に光入射面に用いる透明ガラス基板表面に、あらかじめ大きさの異なる微粒子(200nmの微粒子と50nmの微粒子を1:10程度に混合して用いた。)を融着した表面がフラクタル構造の凸凹ガラス基板を作成しておき、太陽電池セルを形成した後にフッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜(撥水撥油防汚性単分子膜)を形成すると、太陽電池の表面近傍断面がフラクタル構造の反射防止膜(水滴接触角で153度)で覆われた太陽電池を製造できた。
さらにまた、このセルで実用化試験を行った結果では、半年後でも空気中の粉塵や雨水による汚れもほとんど付着せず、普通のガラスを装着した場合に比べて平均3%程度光利用効率を向上できた。また、普通のガラスの場合、1年も使用すると表面が汚れ、光利用効率が30%程度も低下したが、この太陽電池では、1年後でも汚れによる効率低下はほとんどみられなかった。
なお、このときの水滴接触角は153度程度であったが、実用上、水滴接触角が140以上であればほぼ同様の効果が得られた。
【0131】
以上の実験結果は、本発明の反射防止膜を用いた太陽電池や太陽熱温水器がきわめて高効率であり、耐用年数が高いことを示している。
【0132】
なお、以上の実施例1および2では、本発明の撥水撥油防汚性反射防止膜を太陽熱温水器や太陽電池へ応用した場合について例示したが、本発明の応用は、これら用途に限定されるものではなく、太陽エネルギーを利用する機器、例えば温室等にも適用できることはいうまでもない。
【0133】
(実施例3)
実施例1と同様の方法を用い、太陽電池製造時に光入射面に用いる透明ガラス基板表面に、あらかじめ大きさの異なる微粒子(200nmの微粒子と50nmの微粒子を1:10程度に混合して用いた。)を融着した表面がフラクタル構造の凸凹ガラス基板を作成しておき、太陽電池セルを形成した後にフッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜(撥水撥油防汚性単分子膜)を形成すると、太陽電池の表面近傍断面が図4に示したような表面がフラクタル構造の反射防止膜(水滴接触角で153度)で覆われた太陽電池を製造できた。
さらにまた、このセルで実用化試験を行った結果では、半年後でも空気中の粉塵や雨水による汚れもほとんど付着せず、普通のガラスを装着した場合に比べて平均3%程度光利用効率を向上できた。また、普通のガラスの場合、1年も使用すると表面が汚れ、光利用効率が30%程度も低下したが、この太陽電池では、1年後でも汚れによる効率低下はほとんどみられなかった。
なお、このときの水滴接触角は153度程度であったが、実用上、水滴接触角が140以上であればほぼ同様の効果が得られた。
以上の実験結果は、本発明の反射防止膜を用いた太陽電池や太陽熱温水器がきわめて高効率であり、耐用年数が高いことを示している。
【0134】
なお、以上の実施例1および2では、本発明の撥水撥油防汚性反射防止膜を太陽熱温水器や太陽電池へ応用した場合について例示したが、本発明の応用は、これら用途に限定されるものではなく、太陽エネルギーを利用する機器、例えば温室等にも適用できることはいうまでもない。
【0135】
(実施例4)
さらに、実施例1と同様の方法を用いて撥水撥油防汚性反射防止膜を形成したレンズを製作し、光学機器に装着しテスト使用してみたが、指紋の付着がほとんど無く、しかも光透過率は反射防止マルチコート膜と同等であり、光学特性は遜色がなく、防汚性に優れたレンズを製作できた。
【0136】
(実施例5)
さらにまた、実施例1と同様の方法を用いて表面に撥水撥油防汚性反射防止膜を形成したCRTを製作し、テスト使用してみたが、指紋の付着がほとんど無く、さらに室内の蛍光灯等がフェイスプレート表面へ写り込むのを効率よく低減でき、視認性を大幅に向上できた。
なお、同じ原理で、この技術が、PDPやLCDの表示面にて適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が形成されたガラス板(以下「ガラス板」)の断面構造を模式的に表した説明図である。
【図2】同ガラス板の製造方法において、シリカ微粒子表面にフッ化炭素系単分子膜を形成する工程を説明するために分子レベルまで拡大した概念図であり、(a)は反応前のシリカ微粒子の断面構造、(b)はフッ化炭素基を含む単分子膜が形成されたシリカ微粒子の断面構造をそれぞれ表す。
【図3】同ガラス板の製造方法において、シリカ系透明被膜が形成されたガラス基材の断面構造を表す模式図である。
【図4】(a)は工程Dにおいてシリカ系透明被膜が形成されたガラス基材表面にフッ化炭素系単分子膜で被覆されたシリカ微粒子が付着している状態の説明図、(b)は工程Eにおいてシリカ微粒子が融着した状態を模式的に示す説明図である。
【図5】表面がフラクタル構造を有するガラス板の断面状態を模式的に表した説明図である。
【符号の説明】
【0138】
1:シリカ微粒子、1a:融着したシリカ微粒子、2:水酸基、3:第1のシラン化合物の単分子膜、4:シリカ微粒子、5:ガラス基材、6:シリカ系透明被膜、7:凹凸ガラス基材、8:フッ化炭素基を含む化学吸着単分子膜、10:ガラス板、11:表面がフラクタル構造を有する撥水撥油防汚性ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基材の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子と、前記基材の表面のうち前記透明微粒子が融着していない部分を覆う撥水撥油防汚性物質の被膜とを有することを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項2】
請求項1記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、その表面の一部分が前記基材の表面に融着しており、かつ他の露出した部分が前記撥水撥油防汚性物質の被膜で被われていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項3】
請求項2記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性物質の被膜が、前記透明微粒子および前記基材の表面に共有結合していることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性物質の被膜が−CF基を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子が透光性であり、かつその軟化温度が前記基材表面の軟化温度よりも高いシリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれかであることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、水に対する接触角が140度以上であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、前記基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を介して前記ガラス基材の表面に融着しており、前記撥水撥油防汚性物質の被膜は、前記透明被膜を介して前記透明微粒子が融着していない部分を覆っていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするレンズ。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするガラス板。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするガラス。
【請求項13】
請求項10記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているレンズを装着したことを特徴とする光学装置。
【請求項14】
請求項11記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラス板を装着したことを特徴とする太陽エネルギー利用装置。
【請求項15】
請求項12記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラスを装着したことを特徴とするディスプレイ。
【請求項16】
透明微粒子を分散した微粒子分散液を調製する工程Cと、
基材の表面に前記微粒子分散液を塗布し乾燥することにより、前記基材の表面に前記透明微粒子を付着させる工程Dと、
前記透明微粒子が表面に付着した前記基材を、前記透明微粒子の軟化温度よりも低い温度で加熱処理し、前記基材の表面に前記透明微粒子を融着させる工程Eと、
前記基材の表面に融着しなかった前記透明微粒子を洗浄除去する工程Fと、
前記透明微粒子が融着した微粒子融着基材の表面に撥水撥油防汚性物質の被膜を形成する工程Gとを含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項17】
請求項16記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Dの前に、前記基材の表面に、前記微粒子分散液に溶解せず、前記基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する透明被膜を形成する工程Bをさらに有することを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項18】
請求項17記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項19】
請求項17および18のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Eにおける加熱処理温度が、250℃以上でかつ前記基材および前記透明微粒子の軟化温度よりも低いことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Cの前に、直鎖状の基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液中に透明微粒子aを分散し、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子aの表面の反応性基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた前記透明微粒子を製造する工程Aを有し、かつ前記工程Eにおける加熱処理は酸素を含む雰囲気中で行われることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項21】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記微粒子分散液には有機溶媒が用いられ、前記直鎖状の基はフッ化炭素基であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項22】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記微粒子分散液には水およびアルコールのいずれか一方または両者の混合液が用いられ、前記直鎖状の基は炭化水素基であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項23】
請求項16〜22のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Gにおける前記撥水撥油防汚性物質の被膜の形成は、フッ化炭素基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液を前記微粒子融着基材に接触させて、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記微粒子融着基材の表面の反応性基との反応により行われることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項24】
請求項23記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Gにおける前記シリル基と前記反応性基との反応後、未反応の前記第2のシラン化合物を洗浄除去することを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項25】
請求項23および24のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がアルコキシシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項26】
請求項23および24のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がハロシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項27】
請求項23および24のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1および第2のシラン化合物のいずれか一方または双方がイソシアネートシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項28】
請求項25記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル、およびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項29】
請求項25記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項30】
請求項28記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−247699(P2008−247699A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93641(P2007−93641)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】