説明

撥液性を有する通気膜の製造方法および通気部材

【課題】撥液処理されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を備える、撥液性を有する通気膜の製造方法であって、従来の方法に比べて、PTFE多孔質膜の目詰まりを抑制しながら均一に撥液処理できるとともに、撥液剤を希釈するために用いる溶媒の使用量を低減できる方法を提供する。
【解決手段】超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素中に分散させた撥液剤を、二酸化炭素が気体となる雰囲気下にあるPTFE多孔質膜に吹き付けて、上記多孔質膜を撥液処理する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液性を有する通気膜の製造方法に関する。また本発明は、筐体の開口部に配置され、筐体の内部と外部との通気性を確保しながら、筐体内部への異物の侵入を抑制する通気部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドランプ、ECU(Electronic Control Unit)などに代表される車両用電装機器、あるいは、携帯電話などの携帯デバイスの筐体に、筐体内部への水、油、塵芥などの異物の侵入を抑制しながら筐体の内外の通気を確保できる通気膜を配置することが広く行われている。通気膜の配置により、例えば、筐体内部への異物の侵入を抑制しながら、筐体の内外で生じる圧力差を軽減できたり、筐体の内部と外部との間で音声を伝達できたりする。このような通気膜の一種に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜があり、PTFE多孔質膜を通気膜として筐体の開口部に配置する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
通気膜の異物に対するバリア性を向上させるために、特許文献1に記載があるように、PTFE多孔質膜を撥液処理(撥水処理および/または撥油処理)してもよい。撥液処理により、通気膜の撥液性が向上するとともに、通気膜の表面に塵芥などの固形物も付着しにくくなる。PTFE多孔質膜を撥液処理する従来の方法としては、ロールコーター、キスコーター、バーコーターなどを用いて多孔質膜に撥液剤を塗布する方法、あるいは、多孔質膜を撥液剤に浸漬した後に乾燥させる方法、が一般的である。これらの方法は、例えば、特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2001−168543号公報
【特許文献2】特開2005−253711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通気膜の撥液性を向上させるためには、PTFE多孔質膜をできるだけ均一に撥液処理することが望まれる。また、通気膜の通気性を確保するためには、撥液剤により多孔質膜の細孔をできるだけ目詰まりさせないことが望ましい。
【0005】
しかし、コーターによりPTFE多孔質膜に撥液剤を塗布する方法では、当該膜自体がある程度の撥液性を有しているため、均一に撥液処理することが難しい。また、撥液剤に含まれる撥液成分、とりわけ、撥液性に優れるとされるフッ素系樹脂の粘度は一般に高く、撥液剤の塗布によって多孔質膜の目詰まりが生じやすい。撥液成分を溶媒で希釈する(撥液成分を希釈する、ともいえる)ことで目詰まりを抑制できるが、十分な撥液性を有するPTFE多孔質膜とするためには、その希釈の程度に限界がある。
【0006】
一方、撥液剤にPTFE多孔質膜を浸漬する方法では、上記塗布の方法に比べて、より均一な撥液処理が可能である。しかし、この方法では、多孔質膜の浸漬に適した状態に撥液剤を希釈するために大量の溶媒が必要であり、特に、撥液成分がフッ素系樹脂である場合、当該成分を希釈するためにフッ素系の有機溶媒が必須となることから、生産コストが増大する。また、浸漬後の膜を乾燥する際に、当該溶媒が空気中に大量に放出されるために、環境への負荷が大きい。
【0007】
そこで本発明は、撥液処理されたPTFE多孔質膜を備える、撥液性を有する通気膜の製造方法であって、従来の方法に比べて、PTFE多孔質膜の目詰まりを抑制しながら均一に撥液処理できるとともに、その製造にあたって、撥液剤を希釈するために用いる溶媒の使用量を低減できる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法は、撥液処理されたPTFE多孔質膜を備える、撥液性を有する通気膜の製造方法であって、超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素中に分散させた撥液剤を、二酸化炭素が気体となる雰囲気下にあるPTFE多孔質膜に吹き付けて、前記多孔質膜を撥液処理する方法である。
【0009】
本発明の通気部材は、筐体の開口部に配置された状態で、前記開口部を通過する気体が透過する通気膜と、前記通気膜を支持する支持体とを備え、前記通気膜が、前記本発明の製造方法により得た撥液性を有する通気膜である。
【発明の効果】
【0010】
超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素は、撥液成分(特にフッ素系樹脂からなる撥液成分)に対する親和性が高く、当該成分の溶解能に優れるため、当該成分を含む撥液剤を均一かつ高濃度に含むことができる。また、その流動性は非常に高く、撥液剤を高濃度に含んだ場合においても高い流動性を発現できる。このため、撥液剤が高い粘度を有する場合(典型的には、撥液剤が撥液成分としてフッ素系樹脂を含む場合)においても、撥液剤の粘度の低減を目的とした、撥液成分を希釈するために必要な溶媒の量を低減でき、場合によっては当該溶媒を使用することなくPTFE多孔質膜の撥液処理が可能となる。また、上記状態の二酸化炭素は、吹き付けにより速やかに気体に戻り、二酸化炭素中に分散していた撥液剤は、基本的にその分散状態のまま、即ち、微細な粒子状態で、多孔質膜に付着する。このため、撥液処理時におけるPTFE多孔質膜の目詰まりが生じにくい。即ち、超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素中に分散させた撥液剤をPTFE多孔質膜に吹き付ける本発明の方法では、従来の方法に比べて、PTFE多孔質膜の目詰まりを抑制しながら均一に撥液処理できるとともに、撥液剤を希釈するために用いる溶媒の使用量を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の部材に同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0012】
図1A〜図1Cに、本発明の製造方法の一例を示す。
【0013】
最初に、図1Aに示すように、撥液剤2を耐圧容器11の内部に収容し、上蓋11aを閉じて容器11を密閉する。容器11の内部には、撥液剤2および容器11に導入された二酸化炭素を攪拌するための攪拌翼12が配置されている。攪拌翼12は、シャフト13に接続されており、シャフト13は、上蓋11aを貫通して、容器11の外部に配置された駆動装置14に接続されている。上蓋11aにおけるシャフト13が貫通する部分は、容器11内部の気密を保持できる構造を有する。
【0014】
容器11の底部には、二酸化炭素を二酸化炭素供給源(例えば二酸化炭素ボンベ、図1A〜図1Cでは「CO2源」と表記)から容器11に導入する配管L1が接続されており、配管L1における容器11とCO2源との間には、容器11への二酸化炭素の導入を制御するバルブV1が配置されている。
【0015】
容器11の側面には、容器11の内容物を排出する配管L2が接続されており、その末端にはノズル15が接続されている。配管L2における容器11とノズル15との間には、上記内容物の排出を制御するバルブV2が配置されている。また、容器11の側面には、上記配管L2とは別に、バルブV3を介して、末端が開放された配管L3が接続されている。
【0016】
次に、バルブV2を閉、バルブV1、V3を開として、二酸化炭素供給源から二酸化炭素を容器11に導入するとともに、配管L3から容器11内の空気を排出する。バルブV3は、容器11内の空気がおよそ二酸化炭素に置換された時点で閉じればよい。なお、この空気を排出する工程は、省略可能である。
【0017】
次に、容器11内の圧力および温度を調整して、導入した二酸化炭素を超臨界または亜臨界状態とする。
【0018】
容器11内の圧力は、例えば、二酸化炭素供給源から容器11に供給する二酸化炭素の圧力の制御、あるいは、容器11に別途設けられた圧力弁の制御などにより調整できる。圧力弁としてバルブV3を用いてもよい。容器11への二酸化炭素の導入は、容器11内の二酸化炭素が超臨界または亜臨界状態となった時点で、バルブV1を閉じて止めればよいが、必要に応じて、適宜、容器11への二酸化炭素の導入を再開してもよい。
【0019】
容器11内の温度は、例えば、容器11の温度自体を、ヒーターなどを用いた加熱機構および/または水やブラインなどの冷媒を用いた冷却機構により変化させることで調整できる。容器11内の温度の調整をより容易とするためには、容器11は、ある程度以上の熱伝導性を有するとともに耐圧力性にも優れるステンレスなどの金属からなることが好ましい。
【0020】
次に、図1Bに示すように、攪拌翼12を駆動装置14により回転させて、二酸化炭素の超臨界または亜臨界流体(以下、単に「二酸化炭素の流体」ともいう)3を、容器11内を流動させる。二酸化炭素が超臨界または亜臨界流体となると、容器11の底部に滞留していた撥液剤2が当該流体中に溶解、分散する。
【0021】
撥液剤2が二酸化炭素の流体中に十分に分散したと判断すれば、図1Cに示すように、バルブV1、V3を閉、バルブV2を開とし、ノズル15から、二酸化炭素の流体3中に分散させた撥液剤2を大気圧下にあるPTFE多孔質膜1に吹き付けて、多孔質膜1を撥液処理すればよい。二酸化炭素の流体3は流動性が非常に高いため、粘度が高い撥液剤2を含む場合においても、ノズル15からの吹きつけを行うことができる。
【0022】
ノズル15から吹き出た二酸化炭素の流体は、大気圧に減圧されて速やかに気体に戻り、二酸化炭素が揮散する。このとき、流体中に分散していた撥液剤2は、その分散した状態、即ち、微細な粒子状の状態のまま、多孔質膜1の表面に付着する。このため、多孔質膜1の目詰まりを抑制しながら、多孔質膜1を撥液処理できる。
【0023】
多孔質膜1は、二酸化炭素が気体となる雰囲気下、即ち、微細な粒子状の撥液剤2を付着させることができる雰囲気下、に配置されていればよく、典型的には、図1Cに示すように大気圧下に配置される。
【0024】
二酸化炭素の流体中に分散させた撥液剤2を多孔質膜1に吹き付ける方法は特に限定されないが、図1Cに示す例のように、ノズル15を用いて吹き付ける方法が簡便である。吹き付けに用いるノズル15の具体的な形状は特に限定されず、撥液剤2を多孔質膜1に吹き付ける強さ、吹き付け面積などに応じて、適宜設定すればよい。ノズル15として、単なる金属製のキャピラリなどを用いてもよい。
【0025】
なお、図1Cに示す例では、多孔質膜1における撥液剤2が吹き付けられる面とは反対側の面に支持板16を配置した状態で、撥液剤2を多孔質膜1に吹き付けているが、このように支持板16を配置することにより、撥液剤2の吹き付けに伴う多孔質膜1の撓みを抑制でき、均一な撥液処理をより確実に実現できる他、吹き付けに伴って生じる圧力から多孔質膜1を保護することができる。
【0026】
本発明の製造方法では、通気性支持材を積層したPTFE多孔質膜に対して撥液処理を実施してもよい。PTFE多孔質膜を通気膜として用いる場合、多孔質膜の通気性を損なうことなく当該膜を補強する通気性支持材が積層されることがある。しかし、通気性支持材を積層したPTFE多孔質膜に対して、撥液剤の塗布による撥液処理、および、含浸による撥液処理を行った場合、通気性支持材に撥液剤が滞留することでPTFE多孔質膜の目詰まりが発生しやすい。これに対して本発明の製造方法では、撥液剤を微細な粒子状の状態で処理対象物に付着させることができるため、PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体に対しても、PTFE多孔質膜の目詰まりを抑制した撥液処理が可能である。
【0027】
撥液処理するPTFE多孔質膜の構成は特に限定されず、典型的には、微細なフィブリル構造を有し、フィブリル間の空隙を細孔とする延伸PTFE多孔体である。このような多孔体は、延伸法および抽出法など、一般的な多孔体形成法により得ることができる。
【0028】
PTFE多孔質膜の空孔率は、通気膜としたときの通気性の観点から、例えば、10〜99体積%の範囲であり、50〜99体積%の範囲が好ましく、80〜99体積%の範囲がさらに好ましい。空孔率は、多孔質膜の比重の測定により求めることができる。
【0029】
PTFE多孔質膜の平均孔径は、通気膜としたときのバリア性および通気性の観点から、例えば、0.01〜10μmの範囲である。PTFE多孔質膜の厚さは、例えば、0.05〜2mm程度の範囲である。
【0030】
PTFE多孔質膜に積層する通気性支持材の材料や構造などは特に限定されないが、PTFE多孔質膜よりも通気性に優れることが好ましい。通気性支持材には、例えば、織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム、多孔体などを用いればよい。通気性支持材の材料には樹脂や金属を用いればよく、任意の選択が可能である。通気性支持材に用いる樹脂の種類は特に限定されないが、耐熱性を有する通気膜とするためには、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などを用いてもよい。なお、PTFE多孔質膜と通気性支持材とを積層する際には、例えば、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着などの各種の接合手法を用いればよい。
【0031】
撥液剤には、市販の各種の撥水処理剤および撥油処理剤を用いることができ、例えば、撥液成分として、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂(ここで、「長鎖」とは、例えば、炭素数18〜22程度の範囲をいい、長鎖アルキル系樹脂の具体例としては、例えば、長鎖アルキルアクリレート共重合体、長鎖アルキルカルバメート共重合体、長鎖アルキルビニルエステル共重合体、長鎖アルキルアクリルアミド共重合体などが挙げられる)から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む撥液剤が撥液性(撥水性および/または撥油性)に優れている。特に、フッ素系樹脂を含む撥液剤の撥液性が高く、また、二酸化炭素流体への溶解度が高いため、好ましい。
【0032】
シリコーン系樹脂を含む市販の撥液剤としては、例えば、信越化学工業社製KP−801Mなどがあり、フッ素系樹脂を含む市販の撥液剤としては、例えば、ダイキン工業社製ユニダイン、信越化学工業社製X−70−029B、セイミケミカル社製エスエフコートなどがある。
【0033】
図1A〜図1Cに示す例では、予め撥液剤2を収容した容器11に二酸化炭素を導入しているが、撥液剤2を容器11に導入するタイミングは特に限定されず、例えば、容器11に二酸化炭素を導入するのに併せて撥液剤2を導入してもよい。ただし、図1A〜図1Cに示すように、予め撥液剤2を収容した容器11に二酸化炭素を導入する方法が、簡便で好ましい。
【0034】
上記市販の撥液剤を用いる場合、当該撥液剤を希釈することなく容器11の内部に収容してもよいし、必要に応じて、例えば、ハンドリング性を向上させるために、撥液剤を溶媒により希釈した後に容器11の内部に収容してもよい。溶媒としては、撥液剤が撥液成分としてフッ素系樹脂を含む場合、例えば、フッ素系の有機溶媒を用いてもよく、このとき、二酸化炭素の流体3中に分散した撥液剤2は、上記有機溶媒をさらに含むことになる。
【0035】
容器11に二酸化炭素を導入する際には、予め超臨界または亜臨界状態とした二酸化炭素の流体を導入してもよいし、気体の二酸化炭素を導入した後、容器11内の温度および圧力を制御して、容器11内において二酸化炭素の超臨界または亜臨界状態を実現してもよい。
【0036】
なお、超臨界流体とは、臨界温度および臨界圧力(二酸化炭素では、それぞれ31.1℃および7.2MPa)を超えた温度および圧力下での流動体であり、非凝縮性高密度流体である。この状態は気相および液相のどちらに属するともいえない状態であり、密度は液体と同程度であるにもかかわらず、気体と同程度の運動性を有する。超臨界流体は、わずかな圧力の変化で大きな密度変化を起こす他、粘度が低く、高い拡散性、溶解性を有するため、PTFE多孔質膜の撥液処理に好適である。
【0037】
また、亜臨界状態とは、温度および/または圧力が臨界を超えていないが、超臨界状態と似た特性を示す状態であり、二酸化炭素では、およそ温度にして25〜30℃、圧力にして5.4〜30MPa程度の範囲をいう。
【0038】
超臨界および亜臨界状態の二酸化炭素流体は、それ自身で高い運動性を有するため、例えば、図1A〜図1Cに示す攪拌翼12のような、二酸化炭素の流体を積極的に流動させる機構は省略可能であるが、撥液剤2を当該流体中に効率的に分散させるためには、当該機構による二酸化炭素流体の積極的な流動を利用することが好ましい。
【0039】
二酸化炭素の流体3中に分散した撥液剤2の吹き付けは、10〜100℃の温度雰囲気下で行うことが好ましく、40〜100℃の温度雰囲気下で行うことがより好ましい。当該雰囲気が10℃未満である場合、撥液剤が凝集することがある。一方、当該雰囲気が100℃を超えると、多孔質膜1を均一に撥液処理することが困難になることがある。
【0040】
本発明の製造方法では、帯状のPTFE多孔質膜1に対し、当該多孔質膜1を移動させながら二酸化炭素の流体3中に分散した撥液剤2を吹き付けることで、多孔質膜1を連続的に撥液処理してもよい。例えば、図2に示す例では、多孔質膜1の巻回体4から連続的に搬送される多孔質膜1に対して、容器11において形成した二酸化炭素の流体3中に分散した撥液剤2を、ノズル15から連続的に吹き付けている。このような方法では、多孔質膜1の撥液処理を効率的に行うことができる。
【0041】
図1A〜図1Cに示す装置は、本発明の製造方法を実施できる装置の一例であり、その他の装置によっても本発明の方法の実施は可能である。
【0042】
撥液処理後のPTFE多孔質膜は、そのまま通気膜とすることができる。PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体に対して撥液処理する場合も同様に、撥液処理後の積層体をそのまま通気膜とすることができる。PTFE多孔質膜を単独で撥液処理する場合、撥液処理後に、当該多孔質膜と通気性支持材とを積層し、通気膜としてもよい。即ち、本発明の製造方法では、上述した工程により撥液処理されたPTFE多孔質膜と、通気性支持材とを積層する工程をさらに含んでいてもよい。より強度に優れる通気膜とすることができる。
【0043】
撥液処理後のPTFE多孔質膜と通気性支持材とを積層するためには、例えば、接着剤ラミネート、熱ラミネート、超音波溶着、熱溶着などの手法を用いればよい。
【0044】
本発明の製造方法では、上述した方法により撥液処理されたPTFE多孔質膜と、上記通気性支持材以外の層とを積層してもよい。
【0045】
このようにして得られた通気膜は、例えば、そのまま筐体の開口部に、当該開口部を覆うように配置して用いてもよい。また例えば、通気膜を支持する支持体とともに通気部材を形成して、当該通気部材を筐体の開口部に配置して用いてもよい。図3に、このような本発明の通気部材の一例を示す。
【0046】
図3に示す通気部材51は、端面に本発明の製造方法により得た通気膜52が配置された筒状の支持体53と、通気膜52を覆うように支持体53に嵌装された有底の保護カバー54とを備える。通気部材51は、筐体55の開口部56を覆うように筐体55に固定されている。筐体55の開口部56を通過する気体は、通気膜52を透過して筐体55の内外を流通する。また、通気膜52によって、筐体55の内部への水、油、塵芥などの異物の侵入が抑制される。保護カバー54は、砂、小石などの大きな異物の衝突による通気膜52の破損を抑制する。
【0047】
通気部材51は、通気性および撥液性に優れる。
【0048】
支持体53は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの樹脂類や金属などを用いて形成できる。
【0049】
支持体53と通気膜52とは、例えば、熱溶着、超音波溶着などの手法により、互いに固着すればよい。
【0050】
本発明の通気部材の構成は、本発明の通気膜と、当該通気膜を支持する支持体とを備える限り特に限定されない。例えば、保護カバー54は、必要に応じて備えていればよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0052】
(実施例)
実施例では、基本的に図1A〜図1Cに示す装置および方法に従い、撥液処理されたPTFE多孔質膜を備える通気膜を作製した。
【0053】
最初に、PTFE多孔質膜(テミッシュNTF1131、空孔率80%、平均孔径3μm、厚さ80μm、サイズ100mm×100mm)と、通気性支持材としてポリエステル不織布(東レ社製、アクスターG−2070−1、厚さ150μm、サイズ100mm×100mm)とを熱ラミネートして積層体とした。
【0054】
次に、形成した積層体を、サイズ100mm×100mmの金属板に、通気性支持材が金属板側となるようにクリップで固定し、大気圧下に置いた。金属板に固定した積層体は、図1A〜図1Cに示すノズル15の先端から15mm離した位置に、PTFE多孔質膜がノズル15に面するように配置した。
【0055】
次に、内容積が約500mlの高圧容器11中に、撥液剤として、フッ素化アクリレート樹脂を撥液成分として含む信越化学工業社製X−70−029B(フッ素化アクリレート樹脂15重量%、フッ素系の有機溶媒である信越化学工業社製FRシンナー85重量%)を60g投入し、容器11を密閉した。
【0056】
次に、容器11に接続された配管L3上のバルブV3を開け、配管L3に接続されたオイル循環式の真空ポンプを駆動して、容器11の内部の空気を排出した後、バルブV3を閉じ、配管L1上のバルブV1を開けて、容器11の底部より圧力28MPa、温度40℃の超臨界状態にある二酸化炭素を導入した。二酸化炭素は、容器11の内部の圧力および温度が当該圧力および温度になるまで導入し続けた。容器11の内部の圧力および温度が、それぞれ28MPaおよび40℃になった時点で、バルブV1を閉め、攪拌翼12を駆動装置14により回転(回転速度300rpm)させて、超臨界状態にある二酸化炭素の流体に撥液剤を分散させた。なお、容器11内の温度は、熱電対により測定した。
【0057】
容器11に設けられた窓から容器内部を観察することにより、超臨界状態にある二酸化炭素の流体に撥液剤が完全に分散したことを確認した後(撥液剤の完全な分散により、容器11内の流体は透明となる)、バルブV2を開けて、当該流体に分散した撥液剤を、多孔質膜1と通気性支持材との積層体に噴霧した。噴霧と同時に二酸化炭素が気化し、撥液剤が微粒子状となってPTFE多孔質膜に次々と付着した。このようにして、撥液処理されたPTFE多孔質膜を備える通気性支持材との積層体を得た。
【0058】
得られた積層体の表面に、常温においてn−オクタン(C816)を滴下したところ、積層体のいずれの部分においても、膜の内部にn−オクタンが浸透することはなかった。また、多孔質膜1の目詰まりは確認できなかった。
【0059】
(従来例)
最初に、実施例と同様にして、PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体を形成した。
【0060】
次に、形成した積層体を、撥液剤(信越化学工業社製、X−70−029B)とフッ素系の有機溶媒(住友スリーエム社製、フロリナートFC−726)とを混合して調製した処理液(撥液剤濃度1.0重量%)に浸漬した後、90℃で15分間乾燥して、撥液処理されたPTFE多孔質膜を備える通気性支持材との積層体を得た。
【0061】
得られた積層体の表面に、常温においてn−ドデカンを滴下したところ、積層体のいずれの部分においても、膜の内部にn−ドデカンが浸透することはなかったが、乾燥時に、大量のフッ素系有機溶媒(実施例の18倍)が揮散した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、従来の方法に比べて、PTFE多孔質膜の目詰まりを抑制しながら当該多孔質膜を均一に撥液処理できるとともに、撥液剤を希釈するために用いる溶媒の使用量を低減できる。
【0063】
本発明の製造方法により得られた撥液性を有する通気膜は、環境に対する負荷のある溶媒の使用量を低減させて製造でき、環境に配慮された製品となる。また、本発明の製造方法により得られた撥液性を有する通気膜は、自動車などの車両用電装部品や携帯電話などの携帯電子機器の筐体へ好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】本発明の製造方法の一例における一工程を示す模式図である。
【図1B】本発明の製造方法の一例において、図1Aの工程に続く工程を示す模式図である。
【図1C】本発明の製造方法の一例において、図1Bの工程に続く工程を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法の別の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の通気部材の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 PTFE多孔質膜
2 撥液剤
3 (超臨界または亜臨界状態にある)二酸化炭素の流体
4 巻回体
11 (耐圧)容器
11a 上蓋
12 攪拌翼
13 シャフト
14 駆動装置
15 ノズル
16 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液処理されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を備える、撥液性を有する通気膜の製造方法であって、
超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素中に分散させた撥液剤を、二酸化炭素が気体となる雰囲気下にあるPTFE多孔質膜に吹き付けて、前記多孔質膜を撥液処理する、撥液性を有する通気膜の製造方法。
【請求項2】
通気性支持材を積層した前記多孔質膜に前記撥液剤を吹き付けて、前記多孔質膜を撥液処理する、請求項1に記載の撥液性を有する通気膜の製造方法。
【請求項3】
前記撥液剤が、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む請求項1に記載の撥液性を有する通気膜の製造方法。
【請求項4】
前記撥液剤が、フッ素系樹脂を含む請求項1に記載の撥液性を有する通気膜の製造方法。
【請求項5】
10〜100℃の温度雰囲気下にて、前記多孔質膜に前記撥液剤を吹き付ける、請求項1に記載の撥液性を有する通気膜の製造方法。
【請求項6】
帯状の前記多孔質膜に、当該多孔質膜を移動させながら前記撥液剤を吹き付けることで、前記多孔質膜を連続的に撥液処理する、請求項1に記載の通気膜の製造方法。
【請求項7】
筐体の開口部に配置された状態で、前記開口部を通過する気体が透過する通気膜と、前記通気膜を支持する支持体とを備え、
前記通気膜が、請求項1〜6のいずれかの方法により得た撥液性を有する通気膜である通気部材。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−39869(P2009−39869A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204034(P2007−204034)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】