撮像装置及び撮像装置の光学ローパスフィルタの製造方法
【課題】光学部品の耐久性や耐光性が向上し、光学部品の取り扱いおよび小型化が容易な光学ローパスフィルタを備えた撮像装置および光学ローパスフィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】1/4波長板12が水晶からなるので耐久性、耐光性などを有する。また、1/4波長板12が薄片であるため光学ローパスフィルタ1を搭載する撮像装置100の小型化を図れる。赤外線吸収ガラス13に薄片の1/4波長板12を接合するため、1/4波長板12の取り扱いが容易になる。第1複屈折板11が鏡筒160の開口部160Aを閉塞するので、鏡筒160の内部に異物やごみなどが混入することを防止できる。第1複屈折板11が赤外線吸収ガラス13に接合されないので、第1複屈折板11を容易に振動させて表面に付いたごみを除去できる。
【解決手段】1/4波長板12が水晶からなるので耐久性、耐光性などを有する。また、1/4波長板12が薄片であるため光学ローパスフィルタ1を搭載する撮像装置100の小型化を図れる。赤外線吸収ガラス13に薄片の1/4波長板12を接合するため、1/4波長板12の取り扱いが容易になる。第1複屈折板11が鏡筒160の開口部160Aを閉塞するので、鏡筒160の内部に異物やごみなどが混入することを防止できる。第1複屈折板11が赤外線吸収ガラス13に接合されないので、第1複屈折板11を容易に振動させて表面に付いたごみを除去できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの複屈折板と他の複屈折板との間に、位相板が配置され、疑似信号を抑制する光学ローパスフィルタが設けられた撮像装置及び光学ローパスフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置は、CCDやCMOS等の撮像素子を含んで構成され、所定ピッチで配列される有限個の画素によって光学像を電気信号に変換し、映像を撮影する。このような撮像装置では、光学像の空間周波数が画素の配列ピッチにより決まるサンプリング周波数の1/2以下であれば、モアレなどの擬似信号を発生することがないが、光学像の空間周波数がサンプリング周波数の1/2を越えると、擬似信号を発生して画質を低下させる。
前述したモアレ等の擬似信号の発生を抑制するために、従来の撮像装置では、撮像素子の前面に、光学像の空間周波数の高域成分を抑制する光学ローパスフィルタが配置されている。
【0003】
従来の撮像装置に設けられた光学ローパスフィルタとしては、それぞれ複屈折性を有する2枚の複屈折フィルムの間に位相フィルムが設けられたものがある(特許文献1)。
この特許文献1で示される従来例では、位相フィルムは複屈折フィルムと赤外カットフィルタとを通った直線偏光を円偏光に変換するものである。赤外カットフィルタの両面には、複屈折フィルムと位相フィルムとが接合されている。複屈折フィルムおよび位相フィルムは、それぞれ有機材料から形成されたフィルムである。
【0004】
さらに、従来の光学ローパスフィルタとしては、それぞれ水晶からなる2枚の複屈折板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを設けたものがある(特許文献2)。
この特許文献2で示される従来例では、ポリカーボネートを主原料とするフィルムを延伸することで複屈折性をもたせたものである。
【特許文献1】特開2005−12483号公報
【特許文献2】特開2004−70340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載される従来例では、位相フィルムや高分子フィルムが有機フィルムであるので、耐久性や耐光性が十分ではない。つまり、有機材料からなる位相フィルムや高分子フィルムを含んで構成された光学ローパスフィルタは温度環境に弱く、紫外線による黄変で透過率の減少、湿度環境での吸湿による膨潤といった問題がある。
また、特許文献2に記載される従来例では、高分子フィルムの厚さが比較的に大きい。
ここで、特許文献1、2で示される光学ローパスフィルタにおいて、位相板として機能する位相フィルムや高分子フィルムの光学部品を単に薄くした水晶に置き換えることが考えられるが、光学部品が薄くなると、光学部品の取り扱いが困難であるといった問題がある。
【0006】
本発明の目的は、光学部品の耐久性や耐光性が向上し、光学部品の取り扱いおよび小型化が容易な光学ローパスフィルタを備えた撮像装置および光学ローパスフィルタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる撮像装置は、開口部が形成された収納ケースと、この収納ケースに収納された撮像素子と、前記収納ケースの開口部に取り付けられた第1複屈折板、この第1複屈折板と離隔して前記収納ケース内で撮像素子側に配置された第2複屈折板およびこれら第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されない状態で配置された位相板を有する光学ローパスフィルタとを備え、前記位相板は、水晶からなる薄片であるとともに、無機材料からなる透光性の基板に取り付けられていることを特徴とする。
この構成の本適用例では、第1複屈折板により入射光が分離して複数の出射光が形成され、これらの出射光の偏光状態を位相板によって直線偏光から所望の偏光に変換し、さらに、位相板から出射する複数の出射光を第2複屈折板によってそれぞれ分離して複数の出射光を形成する。
本適用例では、位相板が薄片であるため、光学ローパスフィルタが小さくなり、光学ローパスフィルタを搭載する撮像装置の省スペース化や小型化を図ることができる。
さらに、薄片の位相板が基板に取り付けられているため、例えば、光学ローパスフィルタを製造する際、薄片の位相板を単独で取り扱う場合と比較して、位相板の取り扱いが容易になる。
また、本適用例では、光学ローパスフィルタを構成する基板及び位相板がそれぞれ水晶などの無機材料から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができ、しかも接着強度が向上する。また、これらの光学部品が高分子フィルムである場合と比較して、十分な耐久性、耐光性、耐溶剤性を有する。
さらに、本適用例では、位相板は水晶から形成されているので、高分子フィルムなどの有機材料から形成されている場合と比較して、損傷しにくく、また、所定の厚みに容易に薄片化することができる。
また、本適用例では、第1複屈折板が収納ケースの開口部を閉塞するので、収納ケースの内部に異物やごみなどが混入して、第1複屈折板、基板、位相板、第2複屈折板および撮像素子などが損傷するという不都合を防止できる。
そして、本適用例では、位相板が第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されていないので、第1複屈折板を単独で振動させることができ、この振動により、第1複屈折板の表面に付いたごみが除去される。したがって、第1複屈折板の光の透過度が低減することを防止でき、撮像素子による撮像不良を抑制できる。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかる撮像装置は、前記基板が赤外線吸収ガラスであることを特徴とする。
この構成の適用例では、基板が赤外線吸収ガラスであるため、撮像装置に赤外線を吸収する部材を新たに取付ける必要がなく、すなわち、部品点数を増加させることなく、光に含まれる赤外線を取り除くことができる。
赤外線吸収ガラスとしては、例えば、HOYA株式会社製のCD5000(商品名)や旭テクノグラス製のNF50(商品名)を挙げることができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかる撮像装置は、前記基板が光学ガラスであることを特徴とする。
この構成の適用例では、基板が安価な光学ガラスであるため、撮像装置を製造する際のコストの増加を抑制することができる。しかも、光学ガラスは、光の透過性に影響を及ぼす粒子や泡がないので、光学ローパスフィルタの性能を低下させることがない。
【0010】
[適用例4]
本適用例にかかる撮像装置は、前記位相板が1/4波長板であって、前記1/4波長板の厚さは11〜16μmであり、前記1/4波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して±45°、法線方向において90°であることを特徴とする。
この構成の適用例では、水晶から形成されている位相板は1/4波長板であり、1/4波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して±45°とし、かつ、法線方向において90°として設計したので、1/4波長板の厚さが11〜16μmと薄くなっても、中心波長に対して位相差がなだらかに変化することになり色ムラが目立たない。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかる撮像装置は、前記位相板が1/2波長板であって、前記1/2波長板の厚さは20〜40μmであり、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°であることを特徴とする。
この構成の適用例では、水晶から形成されている位相板は1/2波長板であり、水晶から形成されている1/2波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが薄い20〜40μmであっても、広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0012】
[適用例6]
本適用例にかかる、撮像装置に用いられる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記位相板を成形するための水晶製板材を前記基板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記位相板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、水晶製板材を第1複屈折板に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材が割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0013】
[適用例7]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする。
この構成の本適用例では、塗布に際して接合面に塗布されたシランカップリング剤は、加熱時においてシラノールがOH基と脱水縮合してシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して接合面同士を結合する。そして、表面を活性化する工程においてシランカップリング剤中の反応官能基が励起され、親水性が高められた互いの接合面が貼り合わされた後に接合面同士が加熱処理されることで、接合面のシランカップリング剤よりなる薄膜中の反応性官能基が化学結合して、白濁することなく薄膜同士が強固に密着する。
この適用例では、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0014】
[適用例8]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、放電プラズマ接合で行う構成が好ましい。
この構成の本適用例では、予め鏡面研磨加工した接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合するものでもよい。プラズマ処理にあたり、CF4、
Ar、又はN2ガスを用いてもよい。
この適用例では、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には第1実施形態にかかる撮像装置100の概略構成が示されている。
図1において、撮像装置100は、撮像モジュール110と、この撮像モジュール110より光入射側に配置されるレンズ120と、撮像モジュール110の出射側に配置された本体部130とを含んで構成される。
本体部130には、撮像信号の補正等を行う信号処理部、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部及びこの撮像信号を再生する再生部、再生された映像を表示する表示部など各種の構成要素が含まれる。
撮像モジュール110は、収納ケースとしての鏡筒160を備え、この鏡筒160には、光学ローパスフィルタ1と、開口部170Aが設けられたケーシング170と、ケーシング170に収納されCCD等のセンサからなり光学像を電気信号に変換する撮像素子140と、この撮像素子140を駆動する駆動部150とが設けられている。
【0016】
光学ローパスフィルタ1は、鏡筒160に形成された開口部160Aを閉塞する第1板状光学部品11と、第1板状光学部品11の撮像素子140側に第1板状光学部品11と所定の間隙を有する状態で離隔して配置された第2板状光学部品14と、これら第1板状光学部品11と第2板状光学部品14との間に配置され互いに接合された第3板状光学部品13および第4板状光学部品12とを備えている。
本実施形態では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第2板状光学部品14が第2複屈折板であり、第3板状光学部品13が赤外線吸収ガラスであり、第4板状光学部品12が1/4波長板である。
【0017】
赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12は、第1複屈折板11と第2複屈折板14との間で、第1複屈折板11と第2複屈折板14とにそれぞれ接合されない状態で配置されている。1/4波長板12は、赤外線吸収ガラス13の撮像素子140側に接合されており、例えば、接着剤、接着材、粘着剤、粘着材、シランカップリング材、プラズマ重合などにより接合されている。
【0018】
第1複屈折板11は、水晶からなるカバーガラスであり、鏡筒160の内部に異物やごみが混入して、例えば、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12、第2複屈折板14、および駆動部150に異物やごみが付着することを防止する。また、第1複屈折板11は振動可能であり、振動により表面に付着したごみを除去可能である。
第2複屈折板14も同様に、ケーシング170を閉塞する水晶からなるカバーガラスであり、ケーシング170の内部に異物やごみが混入して、例えば、撮像素子140が損傷することを防止する。
第1複屈折板11、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12および第2複屈折板14には、それぞれ反射防止コートや赤外線(IR)反射コートや赤外線および紫外線(UV)を反射する反射コートなどが加工されていてもよい。
また、赤外線吸収ガラス13としては、例えば、HOYA株式会社製のCD5000(商品名)や旭テクノグラス製のNF50(商品名)などを挙げることができる。
【0019】
図2及び図3は、光学ローパスフィルタ1の構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明するために用いられるものであり、図2は光学ローパスフィルタ1の分解斜視図であり、図3は光学ローパスフィルタ1を構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図である。
図2及び図3において、光入射側に配置される第1複屈折板11は、光入射面と直交し、かつ紙面と平行な面(x−z平面)において、z軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A1により示す方向)に光学軸(光学的主軸)を有している。この第1複屈折板11に光線L1が入射し(図3(A)参照)、第1複屈折板11に入射した光線L1は第1複屈折板11の有する複屈折性によって、2つの光線L11、L12に分離されて出射する(図3(B)参照)。これらの光線L11、L12は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変化して出射する。そして、光線L11、L12は、赤外線吸収ガラス13に入射して赤外線が吸収、すなわち、赤外線がカットされる。赤外線が吸収された光線L11、L12は、1/4波長板12側に出射する。
【0020】
1/4波長板12は、光入射面(x−y平面)において、x軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A2により示す方向)に光学軸を有している。これにより、1/4波長板12に入射した光線L11、L12は、それぞれ直線偏光から円偏光に偏光状態が変えられ、2つの光線L13、L14となって出射する。
光出射側に配置される第2複屈折板14は、光入射面と直交し、かつ紙面と直交する面(y−z平面)において、y軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A3により示す方向)に光学軸を有している。この第2複屈折板14に入射した光線L13は、第2複屈折板14の有する複屈折性によって、2つの光線L15、L16に分離されて出射する(図3(C)参照)。同様に、第2複屈折板14に入射した光線L14は、2つの光線L17、L18に分離されて出射する(図3(C)参照)。これらの光線L15、L16、L17、L18は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変化して出射する。
つまり、本実施形態の光学ローパスフィルタ1では1つの入射光線L1が4点の光線Ll5、L16、L17、Ll8に分離されるものであり、分離された光線Ll5、L16、L17、Ll8のうち2つが常光であり、残り2つが異常光である。
【0021】
次に、本実施形態の1/4波長板12を用いた光学ローパスフィルタ1の光学的な特性について、図4から図9に基づいて説明する。
本実施形態では、1/4波長板12の光学軸が主面において第1複屈折板11の光学軸に対して±45°であり、法線方向において90°である。
光学ローパスフィルタ1の位相差は波長410nmで97〜126°(105〜110nm)であり、波長440〜550nmで90°であり、波長680nmで55〜72°(136〜142nm)である。
表1には厚さがそれぞれ11.7μm、13.8μm、15.0μmである1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の常光線光強度比率が示されている。
【0022】
【表1】
【0023】
図4には、厚さがそれぞれ11.7μm、13.8μm、15.0μmである1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の波長と光強度比率との関係が示されている。
図4において、符号P1が厚さ11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q1が厚さ11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。符号P2が厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q2が厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。符号P3が厚さ15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q3が厚さ15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。
【0024】
表1及び図4のデータを得るに際して、例えば、有限会社マクシス・ワン製の測定装置を用いる。この測定装置は、光源と、微小エリアの光を取り出すピンホールと、特定波長の光のみ透過する干渉フィルタと、測定対象となる光学ローパスフィルタと、拡大用のレンズと、CCDカメラとが直線上に配置されるものであり、干渉フィルタで透過した所定波長の光を光学ローパスフィルタで4点に分離した後、その光強度比率をCCDカメラを用いて測定する構造である。この測定装置の干渉フィルタは、図5に示される通り、符号R1で示される479nmの波長、R2で示される546nmの波長、R3で示される586nmの波長及びR4で示される643nmの波長のみを透過させるものである。
【0025】
表1及び図4において、厚さが11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1、厚さが13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1、厚さが15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1では、それぞれ使用する波長の範囲400nm〜700nmにおいて、光強度比率が20%〜80%の範囲内にある。20%〜80%の光強度比率は色ムラが生じにくく光学ローパスフィルタ1を実質的に使用できる許容範囲である。
【0026】
ここで、光学ローパスフィルタ1では、主面の光学軸が45°であるが、本実施形態では、1/4波長板12を用いているため、光学軸の角度が多少変化しても問題はない。
図6には厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1において、主面の光学軸を45°とした場合の光強度比率のデータP2、Q2と、光学軸を46°とした場合の光強度比率のデータP21、Q21と、光学軸を50°とした場合の光強度比率のデータP22、Q22とが示されている。なお、図6では光学軸が45°の場合と46°の場合とでは極めて近似した値をとる。
図6に示される通り、光学軸を45°から5°の範囲で変えても、使用する波長の範囲400nm〜700nmにおいて、数%程度の相違にしか過ぎない。つまり、1/4波長板は角度依存性が低いので、光強度比率に大きな相違が生じない。
【0027】
1/4波長板は、前述の厚さでなくても角度依存性が低い。
図7には厚さが0.3mmの水晶波長板において、光学軸を45°〜60°の範囲とした場合の光強度比率が示されている。
図7において、符号P31は常光における光学軸45°の光強度比率のデータであり、符号Q31は異常光における光学軸45°の光強度比率のデータであり、符号P32は常光における光学軸46°の光強度比率のデータであり、符号Q32は異常光における光学軸46°の光強度比率のデータであり、符号P33は常光における光学軸50°の光強度比率のデータであり、符号Q33は異常光における光学軸50°の光強度比率のデータであり、符号P34は常光における光学軸60°の光強度比率のデータであり、符号Q34は異常光における光学軸60°の光強度比率のデータである。光学軸60°の場合の光強度比率のデータが図8で取り出して示されている。なお、図7において、光学軸が45°の場合と46°の場合とでは、データの差が極めて小さい。
図9には、光学軸70°の場合の光強度比率のデータP35,Q35が示されている。
【0028】
図7〜図9に示される通り、1/4波長板の光学軸の角度を45°からずらした場合には、周期波形の振幅が小さくなり、常光線は強度比率100%が基準となり、異常光線は0%が基準となる。常光線と異常光線の強度比を合わせて見ると、周期波形は、1周期おきに小さい振幅が現れる。振幅は、角度ずれが大きくなるに従って小さくなっていく。すなわち、波長全体でみると、常光線と異常光線のトータルの強度比が50:50でなくなっていく。
【0029】
次に、光学ローパスフィルタ1の赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12を製造する方法について図10に基づいて説明する。
[接合工程]
図10(A)に示される通り、赤外線吸収ガラス13を用意しておき、その後、図10(B)に示される通り、赤外線吸収ガラス13の上に水晶製板材12Aを接合する。なお、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとは平面上の同じ大きさのものを用意しておく。
ここで、この接合に際しては、接着剤を用いた場合や、シランカップリング剤を用いた場合や、放電プラズマを用いた場合等を例示できる。
【0030】
(1)接着剤を用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面を予め洗浄しておき、これらの接合面に接着剤を塗布して互いに接合する。
使用する接着剤は、接着が容易で比較的高温度に耐えうる一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。望ましい紫外線硬化型接着剤の一例としては、サンライズMSI株式会社製のPHOTOボンド(登録商標)が挙げられる。紫外線硬化型接着剤は塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を用いて積算光量600mj/Cm2(照度2mW/Cm2)程度、照射して硬化される。硬化された接着剤の厚さは30nm〜300nmが好ましい。
【0031】
(2)シランカップリング剤を用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面にシランカップリング剤を塗布する。塗布方法として、スピン、ディップ、フロー、バーコード、スリッタ等の塗布方法が例示できる。
ここで使用されるシランカップリング剤は、下記の一般式(1)及び一般式(2)に示されるシラン化合物を用いることが好ましい。
【0032】
Si(OR1)4 …(1)
R1は炭素数1から4のアルキル基を示す。
一般式(1)で表されるシラン化合物の例としては。テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが例示できる。
【0033】
R2nSi(OR1)4−n …(2)
R1はアルキル基を示し、R2は炭素数1から8のアルキル又は(X−R3)を表す。ここで、R3は炭素数が0〜10の直鎖状、分岐状、環状アルキレン基又はアルキルフェニル基を表し、間にN、O、S、Pが入ってもよい。Xは、エポキシ基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基、アミノ基、メルカプト基等の官能基を表す。nは0〜3の整数であり、nが2又は3の場合には、(X−R3)は同種でも異種でもよい。
一般式(2)で表されるシラン化合物の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン等を例示することができる。
これらのシラン化合物は、そのまま用いることができるが、溶媒を用いて希釈してもよい。この溶媒としては、親水性有機溶媒剤が好ましい。親水性有機溶媒剤としては、メタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等のグリコールエーテル類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類を例示できる。
【0034】
その後、赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面に塗布されたシランカップリング剤を加熱する。この加熱により、シランカップリング剤が脱水縮合されてシラノールが赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aの接合面とに化学結合する。つまり、接合面に化学結合したシランカップリング剤よりなる薄膜が形成される。
加熱方法としては、例えば、シランカップリング剤が塗布された赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを、60℃〜300℃程度の内部温度に設定された乾燥炉に投入して行う。加熱温度が300℃を超える場合には、シランカップリング剤中の有機物が分解されて化学結合反応が低下する。60℃未満の場合にはシラノールの十分な脱水縮合反応が得られない。加熱時間は、加熱温度により異なるが、1時間〜6時間である。
【0035】
赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを乾燥炉から取り出した後に、これらの間に形成された薄膜に活性化エネルギーを付与する。
活性化エネルギーの付与方法としては、プラズマ処理、オゾン処理又は活性化エネルギー線照射等が例示できる。これにより、シランカップリング剤の薄膜表面に、反応性官能基の励起及びOH基などの活性種の導入が行われ、親水性が高まる。
そして、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせる。そのため、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを位置だしして接合面同士を押し付ける。接合面の加圧力は200MPA程度の範囲であるが、部材の損傷防止の観点から0.5MPA〜1MPA程度が好ましい。
さらに、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面が加熱される。この加熱処理は前述の薄膜形成の加熱と略同じである。
【0036】
(3)放電プラズマを用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面を鏡面研磨加工する。
この加工された接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合する。
プラズマ処理にあたり、CF4、Ar、又はN2ガスを用いる。これらのガスを接合面に向けて照射し、所定の押圧力によって赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面同士を加圧する。
【0037】
[薄肉化工程]
赤外線吸収ガラス13の上に水晶製板材12Aを接合したら、図10(C)に示される通り、水晶製板材12Aを薄肉化して厚さ11〜16μmの水晶製板材12Aを成形する。
この薄肉化のために種々の手段、例えば、研磨加工を採用することができる。
この研磨加工に際しては、図10(C)に示される通り、一面に赤外線吸収ガラス13が接合された水晶製板材12Aの他面に研磨部材30を当接させ、この研磨部材30を回転させながら水晶製板材12Aを移動させる。なお、研磨加工に代えて後述するエッチングを採用してもよい。
【0038】
[後工程]
次に、第2複屈折板14の大きさを予め水晶製板材12Aの大きさにカットする。この際、両者を接合するものでもよく、あるいは、第2複屈折板14を大きめに形成し、水晶製板材12Aに接合した後、水晶製板材12Aと同じ大きさにカットするものでもよい。
また、水晶製板材12Aと第2複屈折板14との接合は、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合と同じ手法、つまり、接着剤を用いた接合や、シランカップリング剤を用いた接合や、放電プラズマを用いた接合を採用することができる。
【0039】
したがって、第1実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)1/4波長板12が薄片であるため、光学ローパスフィルタ1が小さくなり、光学ローパスフィルタ1を搭載する撮像装置100の省スペース化や小型化を図ることができる。
(2)さらに、薄片の1/4波長板12が赤外線吸収ガラス13に取り付けられているため、光学ローパスフィルタ1を製造する際1/4波長板12の取り扱いが容易になる。
(3)また、赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12がそれぞれ水晶などの無機材料から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができ、しかも接着強度が向上する。また、耐久性、耐光性、耐溶剤性を有する。
【0040】
(4)さらに、1/4波長板12は水晶から形成されているので損傷しにくく、また、所定の厚みに容易に薄片化することができる。
(5)そして、第1複屈折板11が鏡筒160の開口部160Aを閉塞するので、鏡筒160の内部に異物やごみなどが混入して、第1複屈折板11、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12、第2複屈折板14、撮像素子140、駆動部150、および本体部130が損傷するという不都合を防止できる。
(6)さらに、第1複屈折板11が赤外線吸収ガラス13に接合されていないので、第1複屈折板11を容易に振動させることができ、この振動により、第1複屈折板11の表面に付いたごみが除去される。したがって、第1複屈折板11の光の透過度が低減することを防止でき、撮像素子140による撮像不良を抑制できる。
【0041】
(7)また、基板が赤外線吸収ガラス13であるため、撮像装置100に赤外線を吸収する部材を新たに取付ける必要がなく、すなわち、部品点数を増加させることなく、光に含まれる赤外線を取り除くことができる。
(8)さらに、1/4波長板12を、光学軸がその主面においては第1複屈折板11の光学軸に対して±45°とし、かつ、法線方向において90°として設計したので、1/4波長板の厚さが11〜16μmと薄くなっても、中心波長に対して位相差がなだらかに変化することになり色ムラが目立たない。
【0042】
(9)光学ローパスフィルタ1を製造するにあたり、水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合し、その後、水晶製板材12Aの厚みを薄くして1/4波長板12を形成した。そのため、水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材12Aが割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0043】
(10)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に接着剤を塗布し、この接着剤を硬化させる方法を採用すれば、水晶製板材12Aと赤外線吸収ガラス13との接合を容易に行うことができる。
【0044】
(11)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱する方法を採用すれば、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0045】
(12)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に放電プラズマで接合する方法を採用すれば、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0046】
次に、第2実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1が取り付けられた撮像装置100の概略構成について説明する。
第2実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1は、1/4波長板が1/2波長板である以外は第1実施形態と同様の構成であるので、1/2波長板を用いた光学ローパスフィルタ1のみを説明する。
【0047】
本実施形態の1/2波長板12を用いた光学ローパスフィルタ1の光学的な特性について、図11に基づいて説明する。
本実施形態では、1/2波長板12の光学軸が主面において第1複屈折板11の光学軸に対してθであり、法線方向において90°である。1/2波長板12の光学軸θは、22.5°<θ≦25°の範囲である。1/2波長板12の厚さは従来の1/2波長板より薄くされており、例えば、20μm〜40μmである。
図11には、光学軸θが25°、24°、22.5°、20°である1/2波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の波長と光強度比率との関係が示されている。なお、図11に示される実施例では、1/2波長板12の厚さは全て29μmである。
【0048】
図11において、符号P1は光学軸θを25°とした1/2波長板12の場合の常光線データであり、符号Q1が光学軸θを25°とした場合の異常光線のデータであり、符号P2は光学軸θを24°とした場合の常光線のデータであり、符号Q2が光学軸θを24°とした場合の異常光線のデータであり、符号P3は光学軸θを22.5°とした場合の常光線のデータであり、符号Q3が光学軸θを22.5°とした場合の異常光線のデータであり、符号P4は光学軸θを20°とした場合の常光線のデータであり、符号Q4が光学軸θを20°とした場合の異常光線のデータである。
【0049】
図11のデータを得るに際しては、図4のデータを得る場合と同様に、同様の測定装置を用いる。この測定装置の干渉フィルタは、図5に示される通り、符号R1で示される479nmの波長、R2で示される546nmの波長、R3で示される586nmの波長及びR4で示される643nmの波長のみを透過させるものである。
【0050】
図11において、1/2波長板12の光学軸θが25°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P1で示される常光線のデータは40%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは60%程度である。これらの光強度比率差は略20%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは57%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは44%程度である。これらの光強度比率差は略13%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは52%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは48%程度である。これらの光強度比率差は略4%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%である。
【0051】
1/2波長板12の光学軸θが24°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P2で示される常光線のデータは45%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは55%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P2で示される常光のデータは58%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは40%程度である。これらの光強度比率差は略18%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P2で示される常光線のデータは55%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは45%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%である。
【0052】
1/2波長板12の光学軸θが22.5°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P3で示される常光線のデータは50%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは50%程度である。これらの光強度比率差は略0%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P3で示される常光のデータは63%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは37%程度である。これらの光強度比率差は略26%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P3で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが22.5°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%である。
【0053】
1/2波長板12の光学軸θが20°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P4で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P4で示される常光のデータは70%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは30%程度である。これらの光強度比率差は略40%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P4で示される常光線のデータは67%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは33%程度である。これらの光強度比率差は略34%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%である。
【0054】
図11のグラフにおいて、光強度比率は常光線と異常光線とでは反転する関係にあり、常光線と異常光線とでの光強度比率の差が大きいと色ムラが多くなり、光強度比率差が小さいと色ムラが少なくなる関係にある。つまり、常光線と異常光線の一方の光強度比率が大きいと他方の光強度比率が小さくなり、光学ローパスフィルタ1で分離された4点の出射光のうち2点が明るく、残り2点が暗くなるので色ムラが生じる。
符号P3,Q3で示される光学軸θが22.5°は従来の光学軸の角度であり、本実施例では、1/2波長板12の厚さを従来の1/2波長板より薄くした構成であるため、色ムラが従来の波長板より大きくなる(最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%)。
【0055】
符号P4,Q4で示される光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%であり、22.5°の場合より大きい。
これに対して、符号P1,Q1で示される光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%であり、従来の光学軸22.5°の場合の28%より小さく、色ムラが少ない。
さらに、符号P2,Q2で示される光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%であり、光学軸25°の場合の20%より小さく、色ムラがより少ない。従って、光学軸θが24°の場合が色ムラの最も小さくなる。
【0056】
したがって、第2実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(13)水晶から形成されている位相板は1/2波長板であり、水晶から形成されている1/2波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが薄い20〜40μmであっても、広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0057】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態では、図1に示すように11が第1複屈折板、13が赤外線吸収ガラス、12が1/4波長板であるとしたが、本発明では、表2の変形例1〜4に示される通り、第1実施形態と異なる基板であってもよい。
【0058】
【表2】
【0059】
変形例1では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が位相板であり、第4板状光学部品12が赤外線吸収ガラスである。
変形例2では、第1板状光学部品11が赤外線吸収ガラスと接合された第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が光学ガラスであり、第4板状光学部品12が位相板である。
変形例3では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が光学ガラスであり、第4板状光学部品12が位相板である。赤外線吸収ガラスと第1複屈折板とは、例えば、接着剤、接着材、粘着剤、粘着材、シランカップリング材、プラズマ重合などにより接合されていてもよい。
変形例4では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が位相板であり、第4板状光学部品12が光学ガラスである。ここで、位相板は、1/4波長板でも1/2波長板でもよい。
【0060】
変形例2〜4では、位相板を接合する基板として光学ガラスを用いている。光学ガラスは、安価な基板として利用できるので、撮像装置を製造する際のコストの増加を抑制することができる。しかも、光学ガラスは、光の透過性に影響を及ぼす粒子や泡がないので、光学ローパスフィルタの性能を低下させることがない。
【0061】
また、第1および第2実施形態において、第2複屈折板はケーシング170の開口部170Aを閉塞するとしたが、第2複屈折板は振動可能に設けられ、この振動により表面に付着したゴミなどを除去できる構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、1/4波長板や1/2波長板などの位相板を有する光学ローパスフィルタを備える撮像装置、その他の装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる光学ローパスフィルタが取り付けられた撮像装置の概略構成図。
【図2】光学ローパスフィルタの構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明する分解斜視図。
【図3】(A)〜(C)は光学ローパスフィルタを構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図。
【図4】光学ローパスフィルタの波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図5】光強度比率を測定する装置で使用される干渉フィルタで所定波長を透過することを説明するためのグラフ。
【図6】光学ローパスフィルタの光学軸の角度を変更した場合における波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図7】厚さが0.3mmの水晶波長板において、光学軸を45°〜60°の範囲とした場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図8】図8のグラフにおいて光学軸60°の場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図9】光学軸70°の場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図10】(A)〜(C)は本発明の第1実施形態にかかる光学ローパスフィルタの製造方法を示す模式図。
【図11】光学ローパスフィルタの波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【0064】
1…光学ローパスフィルタ、11…第1板状光学部品、12…第4板状光学部品、13…第3板状光学部品、14…第2板状光学部品、100…撮像装置、110…撮像モジュール、160…収納ケースとしての鏡筒
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの複屈折板と他の複屈折板との間に、位相板が配置され、疑似信号を抑制する光学ローパスフィルタが設けられた撮像装置及び光学ローパスフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置は、CCDやCMOS等の撮像素子を含んで構成され、所定ピッチで配列される有限個の画素によって光学像を電気信号に変換し、映像を撮影する。このような撮像装置では、光学像の空間周波数が画素の配列ピッチにより決まるサンプリング周波数の1/2以下であれば、モアレなどの擬似信号を発生することがないが、光学像の空間周波数がサンプリング周波数の1/2を越えると、擬似信号を発生して画質を低下させる。
前述したモアレ等の擬似信号の発生を抑制するために、従来の撮像装置では、撮像素子の前面に、光学像の空間周波数の高域成分を抑制する光学ローパスフィルタが配置されている。
【0003】
従来の撮像装置に設けられた光学ローパスフィルタとしては、それぞれ複屈折性を有する2枚の複屈折フィルムの間に位相フィルムが設けられたものがある(特許文献1)。
この特許文献1で示される従来例では、位相フィルムは複屈折フィルムと赤外カットフィルタとを通った直線偏光を円偏光に変換するものである。赤外カットフィルタの両面には、複屈折フィルムと位相フィルムとが接合されている。複屈折フィルムおよび位相フィルムは、それぞれ有機材料から形成されたフィルムである。
【0004】
さらに、従来の光学ローパスフィルタとしては、それぞれ水晶からなる2枚の複屈折板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを設けたものがある(特許文献2)。
この特許文献2で示される従来例では、ポリカーボネートを主原料とするフィルムを延伸することで複屈折性をもたせたものである。
【特許文献1】特開2005−12483号公報
【特許文献2】特開2004−70340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載される従来例では、位相フィルムや高分子フィルムが有機フィルムであるので、耐久性や耐光性が十分ではない。つまり、有機材料からなる位相フィルムや高分子フィルムを含んで構成された光学ローパスフィルタは温度環境に弱く、紫外線による黄変で透過率の減少、湿度環境での吸湿による膨潤といった問題がある。
また、特許文献2に記載される従来例では、高分子フィルムの厚さが比較的に大きい。
ここで、特許文献1、2で示される光学ローパスフィルタにおいて、位相板として機能する位相フィルムや高分子フィルムの光学部品を単に薄くした水晶に置き換えることが考えられるが、光学部品が薄くなると、光学部品の取り扱いが困難であるといった問題がある。
【0006】
本発明の目的は、光学部品の耐久性や耐光性が向上し、光学部品の取り扱いおよび小型化が容易な光学ローパスフィルタを備えた撮像装置および光学ローパスフィルタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる撮像装置は、開口部が形成された収納ケースと、この収納ケースに収納された撮像素子と、前記収納ケースの開口部に取り付けられた第1複屈折板、この第1複屈折板と離隔して前記収納ケース内で撮像素子側に配置された第2複屈折板およびこれら第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されない状態で配置された位相板を有する光学ローパスフィルタとを備え、前記位相板は、水晶からなる薄片であるとともに、無機材料からなる透光性の基板に取り付けられていることを特徴とする。
この構成の本適用例では、第1複屈折板により入射光が分離して複数の出射光が形成され、これらの出射光の偏光状態を位相板によって直線偏光から所望の偏光に変換し、さらに、位相板から出射する複数の出射光を第2複屈折板によってそれぞれ分離して複数の出射光を形成する。
本適用例では、位相板が薄片であるため、光学ローパスフィルタが小さくなり、光学ローパスフィルタを搭載する撮像装置の省スペース化や小型化を図ることができる。
さらに、薄片の位相板が基板に取り付けられているため、例えば、光学ローパスフィルタを製造する際、薄片の位相板を単独で取り扱う場合と比較して、位相板の取り扱いが容易になる。
また、本適用例では、光学ローパスフィルタを構成する基板及び位相板がそれぞれ水晶などの無機材料から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができ、しかも接着強度が向上する。また、これらの光学部品が高分子フィルムである場合と比較して、十分な耐久性、耐光性、耐溶剤性を有する。
さらに、本適用例では、位相板は水晶から形成されているので、高分子フィルムなどの有機材料から形成されている場合と比較して、損傷しにくく、また、所定の厚みに容易に薄片化することができる。
また、本適用例では、第1複屈折板が収納ケースの開口部を閉塞するので、収納ケースの内部に異物やごみなどが混入して、第1複屈折板、基板、位相板、第2複屈折板および撮像素子などが損傷するという不都合を防止できる。
そして、本適用例では、位相板が第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されていないので、第1複屈折板を単独で振動させることができ、この振動により、第1複屈折板の表面に付いたごみが除去される。したがって、第1複屈折板の光の透過度が低減することを防止でき、撮像素子による撮像不良を抑制できる。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかる撮像装置は、前記基板が赤外線吸収ガラスであることを特徴とする。
この構成の適用例では、基板が赤外線吸収ガラスであるため、撮像装置に赤外線を吸収する部材を新たに取付ける必要がなく、すなわち、部品点数を増加させることなく、光に含まれる赤外線を取り除くことができる。
赤外線吸収ガラスとしては、例えば、HOYA株式会社製のCD5000(商品名)や旭テクノグラス製のNF50(商品名)を挙げることができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかる撮像装置は、前記基板が光学ガラスであることを特徴とする。
この構成の適用例では、基板が安価な光学ガラスであるため、撮像装置を製造する際のコストの増加を抑制することができる。しかも、光学ガラスは、光の透過性に影響を及ぼす粒子や泡がないので、光学ローパスフィルタの性能を低下させることがない。
【0010】
[適用例4]
本適用例にかかる撮像装置は、前記位相板が1/4波長板であって、前記1/4波長板の厚さは11〜16μmであり、前記1/4波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して±45°、法線方向において90°であることを特徴とする。
この構成の適用例では、水晶から形成されている位相板は1/4波長板であり、1/4波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して±45°とし、かつ、法線方向において90°として設計したので、1/4波長板の厚さが11〜16μmと薄くなっても、中心波長に対して位相差がなだらかに変化することになり色ムラが目立たない。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかる撮像装置は、前記位相板が1/2波長板であって、前記1/2波長板の厚さは20〜40μmであり、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°であることを特徴とする。
この構成の適用例では、水晶から形成されている位相板は1/2波長板であり、水晶から形成されている1/2波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが薄い20〜40μmであっても、広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0012】
[適用例6]
本適用例にかかる、撮像装置に用いられる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記位相板を成形するための水晶製板材を前記基板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記位相板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、水晶製板材を第1複屈折板に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材が割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0013】
[適用例7]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする。
この構成の本適用例では、塗布に際して接合面に塗布されたシランカップリング剤は、加熱時においてシラノールがOH基と脱水縮合してシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して接合面同士を結合する。そして、表面を活性化する工程においてシランカップリング剤中の反応官能基が励起され、親水性が高められた互いの接合面が貼り合わされた後に接合面同士が加熱処理されることで、接合面のシランカップリング剤よりなる薄膜中の反応性官能基が化学結合して、白濁することなく薄膜同士が強固に密着する。
この適用例では、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0014】
[適用例8]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、放電プラズマ接合で行う構成が好ましい。
この構成の本適用例では、予め鏡面研磨加工した接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合するものでもよい。プラズマ処理にあたり、CF4、
Ar、又はN2ガスを用いてもよい。
この適用例では、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には第1実施形態にかかる撮像装置100の概略構成が示されている。
図1において、撮像装置100は、撮像モジュール110と、この撮像モジュール110より光入射側に配置されるレンズ120と、撮像モジュール110の出射側に配置された本体部130とを含んで構成される。
本体部130には、撮像信号の補正等を行う信号処理部、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部及びこの撮像信号を再生する再生部、再生された映像を表示する表示部など各種の構成要素が含まれる。
撮像モジュール110は、収納ケースとしての鏡筒160を備え、この鏡筒160には、光学ローパスフィルタ1と、開口部170Aが設けられたケーシング170と、ケーシング170に収納されCCD等のセンサからなり光学像を電気信号に変換する撮像素子140と、この撮像素子140を駆動する駆動部150とが設けられている。
【0016】
光学ローパスフィルタ1は、鏡筒160に形成された開口部160Aを閉塞する第1板状光学部品11と、第1板状光学部品11の撮像素子140側に第1板状光学部品11と所定の間隙を有する状態で離隔して配置された第2板状光学部品14と、これら第1板状光学部品11と第2板状光学部品14との間に配置され互いに接合された第3板状光学部品13および第4板状光学部品12とを備えている。
本実施形態では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第2板状光学部品14が第2複屈折板であり、第3板状光学部品13が赤外線吸収ガラスであり、第4板状光学部品12が1/4波長板である。
【0017】
赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12は、第1複屈折板11と第2複屈折板14との間で、第1複屈折板11と第2複屈折板14とにそれぞれ接合されない状態で配置されている。1/4波長板12は、赤外線吸収ガラス13の撮像素子140側に接合されており、例えば、接着剤、接着材、粘着剤、粘着材、シランカップリング材、プラズマ重合などにより接合されている。
【0018】
第1複屈折板11は、水晶からなるカバーガラスであり、鏡筒160の内部に異物やごみが混入して、例えば、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12、第2複屈折板14、および駆動部150に異物やごみが付着することを防止する。また、第1複屈折板11は振動可能であり、振動により表面に付着したごみを除去可能である。
第2複屈折板14も同様に、ケーシング170を閉塞する水晶からなるカバーガラスであり、ケーシング170の内部に異物やごみが混入して、例えば、撮像素子140が損傷することを防止する。
第1複屈折板11、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12および第2複屈折板14には、それぞれ反射防止コートや赤外線(IR)反射コートや赤外線および紫外線(UV)を反射する反射コートなどが加工されていてもよい。
また、赤外線吸収ガラス13としては、例えば、HOYA株式会社製のCD5000(商品名)や旭テクノグラス製のNF50(商品名)などを挙げることができる。
【0019】
図2及び図3は、光学ローパスフィルタ1の構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明するために用いられるものであり、図2は光学ローパスフィルタ1の分解斜視図であり、図3は光学ローパスフィルタ1を構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図である。
図2及び図3において、光入射側に配置される第1複屈折板11は、光入射面と直交し、かつ紙面と平行な面(x−z平面)において、z軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A1により示す方向)に光学軸(光学的主軸)を有している。この第1複屈折板11に光線L1が入射し(図3(A)参照)、第1複屈折板11に入射した光線L1は第1複屈折板11の有する複屈折性によって、2つの光線L11、L12に分離されて出射する(図3(B)参照)。これらの光線L11、L12は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変化して出射する。そして、光線L11、L12は、赤外線吸収ガラス13に入射して赤外線が吸収、すなわち、赤外線がカットされる。赤外線が吸収された光線L11、L12は、1/4波長板12側に出射する。
【0020】
1/4波長板12は、光入射面(x−y平面)において、x軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A2により示す方向)に光学軸を有している。これにより、1/4波長板12に入射した光線L11、L12は、それぞれ直線偏光から円偏光に偏光状態が変えられ、2つの光線L13、L14となって出射する。
光出射側に配置される第2複屈折板14は、光入射面と直交し、かつ紙面と直交する面(y−z平面)において、y軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A3により示す方向)に光学軸を有している。この第2複屈折板14に入射した光線L13は、第2複屈折板14の有する複屈折性によって、2つの光線L15、L16に分離されて出射する(図3(C)参照)。同様に、第2複屈折板14に入射した光線L14は、2つの光線L17、L18に分離されて出射する(図3(C)参照)。これらの光線L15、L16、L17、L18は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変化して出射する。
つまり、本実施形態の光学ローパスフィルタ1では1つの入射光線L1が4点の光線Ll5、L16、L17、Ll8に分離されるものであり、分離された光線Ll5、L16、L17、Ll8のうち2つが常光であり、残り2つが異常光である。
【0021】
次に、本実施形態の1/4波長板12を用いた光学ローパスフィルタ1の光学的な特性について、図4から図9に基づいて説明する。
本実施形態では、1/4波長板12の光学軸が主面において第1複屈折板11の光学軸に対して±45°であり、法線方向において90°である。
光学ローパスフィルタ1の位相差は波長410nmで97〜126°(105〜110nm)であり、波長440〜550nmで90°であり、波長680nmで55〜72°(136〜142nm)である。
表1には厚さがそれぞれ11.7μm、13.8μm、15.0μmである1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の常光線光強度比率が示されている。
【0022】
【表1】
【0023】
図4には、厚さがそれぞれ11.7μm、13.8μm、15.0μmである1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の波長と光強度比率との関係が示されている。
図4において、符号P1が厚さ11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q1が厚さ11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。符号P2が厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q2が厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。符号P3が厚さ15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での常光線のデータであり、符号Q3が厚さ15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1での異常光線のデータである。
【0024】
表1及び図4のデータを得るに際して、例えば、有限会社マクシス・ワン製の測定装置を用いる。この測定装置は、光源と、微小エリアの光を取り出すピンホールと、特定波長の光のみ透過する干渉フィルタと、測定対象となる光学ローパスフィルタと、拡大用のレンズと、CCDカメラとが直線上に配置されるものであり、干渉フィルタで透過した所定波長の光を光学ローパスフィルタで4点に分離した後、その光強度比率をCCDカメラを用いて測定する構造である。この測定装置の干渉フィルタは、図5に示される通り、符号R1で示される479nmの波長、R2で示される546nmの波長、R3で示される586nmの波長及びR4で示される643nmの波長のみを透過させるものである。
【0025】
表1及び図4において、厚さが11.7μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1、厚さが13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1、厚さが15.0μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1では、それぞれ使用する波長の範囲400nm〜700nmにおいて、光強度比率が20%〜80%の範囲内にある。20%〜80%の光強度比率は色ムラが生じにくく光学ローパスフィルタ1を実質的に使用できる許容範囲である。
【0026】
ここで、光学ローパスフィルタ1では、主面の光学軸が45°であるが、本実施形態では、1/4波長板12を用いているため、光学軸の角度が多少変化しても問題はない。
図6には厚さ13.8μmの1/4波長板12を有する光学ローパスフィルタ1において、主面の光学軸を45°とした場合の光強度比率のデータP2、Q2と、光学軸を46°とした場合の光強度比率のデータP21、Q21と、光学軸を50°とした場合の光強度比率のデータP22、Q22とが示されている。なお、図6では光学軸が45°の場合と46°の場合とでは極めて近似した値をとる。
図6に示される通り、光学軸を45°から5°の範囲で変えても、使用する波長の範囲400nm〜700nmにおいて、数%程度の相違にしか過ぎない。つまり、1/4波長板は角度依存性が低いので、光強度比率に大きな相違が生じない。
【0027】
1/4波長板は、前述の厚さでなくても角度依存性が低い。
図7には厚さが0.3mmの水晶波長板において、光学軸を45°〜60°の範囲とした場合の光強度比率が示されている。
図7において、符号P31は常光における光学軸45°の光強度比率のデータであり、符号Q31は異常光における光学軸45°の光強度比率のデータであり、符号P32は常光における光学軸46°の光強度比率のデータであり、符号Q32は異常光における光学軸46°の光強度比率のデータであり、符号P33は常光における光学軸50°の光強度比率のデータであり、符号Q33は異常光における光学軸50°の光強度比率のデータであり、符号P34は常光における光学軸60°の光強度比率のデータであり、符号Q34は異常光における光学軸60°の光強度比率のデータである。光学軸60°の場合の光強度比率のデータが図8で取り出して示されている。なお、図7において、光学軸が45°の場合と46°の場合とでは、データの差が極めて小さい。
図9には、光学軸70°の場合の光強度比率のデータP35,Q35が示されている。
【0028】
図7〜図9に示される通り、1/4波長板の光学軸の角度を45°からずらした場合には、周期波形の振幅が小さくなり、常光線は強度比率100%が基準となり、異常光線は0%が基準となる。常光線と異常光線の強度比を合わせて見ると、周期波形は、1周期おきに小さい振幅が現れる。振幅は、角度ずれが大きくなるに従って小さくなっていく。すなわち、波長全体でみると、常光線と異常光線のトータルの強度比が50:50でなくなっていく。
【0029】
次に、光学ローパスフィルタ1の赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12を製造する方法について図10に基づいて説明する。
[接合工程]
図10(A)に示される通り、赤外線吸収ガラス13を用意しておき、その後、図10(B)に示される通り、赤外線吸収ガラス13の上に水晶製板材12Aを接合する。なお、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとは平面上の同じ大きさのものを用意しておく。
ここで、この接合に際しては、接着剤を用いた場合や、シランカップリング剤を用いた場合や、放電プラズマを用いた場合等を例示できる。
【0030】
(1)接着剤を用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面を予め洗浄しておき、これらの接合面に接着剤を塗布して互いに接合する。
使用する接着剤は、接着が容易で比較的高温度に耐えうる一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。望ましい紫外線硬化型接着剤の一例としては、サンライズMSI株式会社製のPHOTOボンド(登録商標)が挙げられる。紫外線硬化型接着剤は塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を用いて積算光量600mj/Cm2(照度2mW/Cm2)程度、照射して硬化される。硬化された接着剤の厚さは30nm〜300nmが好ましい。
【0031】
(2)シランカップリング剤を用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面にシランカップリング剤を塗布する。塗布方法として、スピン、ディップ、フロー、バーコード、スリッタ等の塗布方法が例示できる。
ここで使用されるシランカップリング剤は、下記の一般式(1)及び一般式(2)に示されるシラン化合物を用いることが好ましい。
【0032】
Si(OR1)4 …(1)
R1は炭素数1から4のアルキル基を示す。
一般式(1)で表されるシラン化合物の例としては。テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが例示できる。
【0033】
R2nSi(OR1)4−n …(2)
R1はアルキル基を示し、R2は炭素数1から8のアルキル又は(X−R3)を表す。ここで、R3は炭素数が0〜10の直鎖状、分岐状、環状アルキレン基又はアルキルフェニル基を表し、間にN、O、S、Pが入ってもよい。Xは、エポキシ基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基、アミノ基、メルカプト基等の官能基を表す。nは0〜3の整数であり、nが2又は3の場合には、(X−R3)は同種でも異種でもよい。
一般式(2)で表されるシラン化合物の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン等を例示することができる。
これらのシラン化合物は、そのまま用いることができるが、溶媒を用いて希釈してもよい。この溶媒としては、親水性有機溶媒剤が好ましい。親水性有機溶媒剤としては、メタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等のグリコールエーテル類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類を例示できる。
【0034】
その後、赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aとの接合面に塗布されたシランカップリング剤を加熱する。この加熱により、シランカップリング剤が脱水縮合されてシラノールが赤外線吸収ガラス13の接合面と水晶製板材12Aの接合面とに化学結合する。つまり、接合面に化学結合したシランカップリング剤よりなる薄膜が形成される。
加熱方法としては、例えば、シランカップリング剤が塗布された赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを、60℃〜300℃程度の内部温度に設定された乾燥炉に投入して行う。加熱温度が300℃を超える場合には、シランカップリング剤中の有機物が分解されて化学結合反応が低下する。60℃未満の場合にはシラノールの十分な脱水縮合反応が得られない。加熱時間は、加熱温度により異なるが、1時間〜6時間である。
【0035】
赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを乾燥炉から取り出した後に、これらの間に形成された薄膜に活性化エネルギーを付与する。
活性化エネルギーの付与方法としては、プラズマ処理、オゾン処理又は活性化エネルギー線照射等が例示できる。これにより、シランカップリング剤の薄膜表面に、反応性官能基の励起及びOH基などの活性種の導入が行われ、親水性が高まる。
そして、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせる。そのため、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとを位置だしして接合面同士を押し付ける。接合面の加圧力は200MPA程度の範囲であるが、部材の損傷防止の観点から0.5MPA〜1MPA程度が好ましい。
さらに、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面が加熱される。この加熱処理は前述の薄膜形成の加熱と略同じである。
【0036】
(3)放電プラズマを用いた接合工程
赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面を鏡面研磨加工する。
この加工された接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合する。
プラズマ処理にあたり、CF4、Ar、又はN2ガスを用いる。これらのガスを接合面に向けて照射し、所定の押圧力によって赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合面同士を加圧する。
【0037】
[薄肉化工程]
赤外線吸収ガラス13の上に水晶製板材12Aを接合したら、図10(C)に示される通り、水晶製板材12Aを薄肉化して厚さ11〜16μmの水晶製板材12Aを成形する。
この薄肉化のために種々の手段、例えば、研磨加工を採用することができる。
この研磨加工に際しては、図10(C)に示される通り、一面に赤外線吸収ガラス13が接合された水晶製板材12Aの他面に研磨部材30を当接させ、この研磨部材30を回転させながら水晶製板材12Aを移動させる。なお、研磨加工に代えて後述するエッチングを採用してもよい。
【0038】
[後工程]
次に、第2複屈折板14の大きさを予め水晶製板材12Aの大きさにカットする。この際、両者を接合するものでもよく、あるいは、第2複屈折板14を大きめに形成し、水晶製板材12Aに接合した後、水晶製板材12Aと同じ大きさにカットするものでもよい。
また、水晶製板材12Aと第2複屈折板14との接合は、赤外線吸収ガラス13と水晶製板材12Aとの接合と同じ手法、つまり、接着剤を用いた接合や、シランカップリング剤を用いた接合や、放電プラズマを用いた接合を採用することができる。
【0039】
したがって、第1実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)1/4波長板12が薄片であるため、光学ローパスフィルタ1が小さくなり、光学ローパスフィルタ1を搭載する撮像装置100の省スペース化や小型化を図ることができる。
(2)さらに、薄片の1/4波長板12が赤外線吸収ガラス13に取り付けられているため、光学ローパスフィルタ1を製造する際1/4波長板12の取り扱いが容易になる。
(3)また、赤外線吸収ガラス13および1/4波長板12がそれぞれ水晶などの無機材料から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができ、しかも接着強度が向上する。また、耐久性、耐光性、耐溶剤性を有する。
【0040】
(4)さらに、1/4波長板12は水晶から形成されているので損傷しにくく、また、所定の厚みに容易に薄片化することができる。
(5)そして、第1複屈折板11が鏡筒160の開口部160Aを閉塞するので、鏡筒160の内部に異物やごみなどが混入して、第1複屈折板11、赤外線吸収ガラス13、1/4波長板12、第2複屈折板14、撮像素子140、駆動部150、および本体部130が損傷するという不都合を防止できる。
(6)さらに、第1複屈折板11が赤外線吸収ガラス13に接合されていないので、第1複屈折板11を容易に振動させることができ、この振動により、第1複屈折板11の表面に付いたごみが除去される。したがって、第1複屈折板11の光の透過度が低減することを防止でき、撮像素子140による撮像不良を抑制できる。
【0041】
(7)また、基板が赤外線吸収ガラス13であるため、撮像装置100に赤外線を吸収する部材を新たに取付ける必要がなく、すなわち、部品点数を増加させることなく、光に含まれる赤外線を取り除くことができる。
(8)さらに、1/4波長板12を、光学軸がその主面においては第1複屈折板11の光学軸に対して±45°とし、かつ、法線方向において90°として設計したので、1/4波長板の厚さが11〜16μmと薄くなっても、中心波長に対して位相差がなだらかに変化することになり色ムラが目立たない。
【0042】
(9)光学ローパスフィルタ1を製造するにあたり、水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合し、その後、水晶製板材12Aの厚みを薄くして1/4波長板12を形成した。そのため、水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材12Aが割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0043】
(10)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に接着剤を塗布し、この接着剤を硬化させる方法を採用すれば、水晶製板材12Aと赤外線吸収ガラス13との接合を容易に行うことができる。
【0044】
(11)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱する方法を採用すれば、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0045】
(12)水晶製板材12Aを赤外線吸収ガラス13に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に放電プラズマで接合する方法を採用すれば、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0046】
次に、第2実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1が取り付けられた撮像装置100の概略構成について説明する。
第2実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1は、1/4波長板が1/2波長板である以外は第1実施形態と同様の構成であるので、1/2波長板を用いた光学ローパスフィルタ1のみを説明する。
【0047】
本実施形態の1/2波長板12を用いた光学ローパスフィルタ1の光学的な特性について、図11に基づいて説明する。
本実施形態では、1/2波長板12の光学軸が主面において第1複屈折板11の光学軸に対してθであり、法線方向において90°である。1/2波長板12の光学軸θは、22.5°<θ≦25°の範囲である。1/2波長板12の厚さは従来の1/2波長板より薄くされており、例えば、20μm〜40μmである。
図11には、光学軸θが25°、24°、22.5°、20°である1/2波長板12を有する光学ローパスフィルタ1の波長と光強度比率との関係が示されている。なお、図11に示される実施例では、1/2波長板12の厚さは全て29μmである。
【0048】
図11において、符号P1は光学軸θを25°とした1/2波長板12の場合の常光線データであり、符号Q1が光学軸θを25°とした場合の異常光線のデータであり、符号P2は光学軸θを24°とした場合の常光線のデータであり、符号Q2が光学軸θを24°とした場合の異常光線のデータであり、符号P3は光学軸θを22.5°とした場合の常光線のデータであり、符号Q3が光学軸θを22.5°とした場合の異常光線のデータであり、符号P4は光学軸θを20°とした場合の常光線のデータであり、符号Q4が光学軸θを20°とした場合の異常光線のデータである。
【0049】
図11のデータを得るに際しては、図4のデータを得る場合と同様に、同様の測定装置を用いる。この測定装置の干渉フィルタは、図5に示される通り、符号R1で示される479nmの波長、R2で示される546nmの波長、R3で示される586nmの波長及びR4で示される643nmの波長のみを透過させるものである。
【0050】
図11において、1/2波長板12の光学軸θが25°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P1で示される常光線のデータは40%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは60%程度である。これらの光強度比率差は略20%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは57%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは44%程度である。これらの光強度比率差は略13%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは52%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは48%程度である。これらの光強度比率差は略4%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%である。
【0051】
1/2波長板12の光学軸θが24°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P2で示される常光線のデータは45%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは55%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P2で示される常光のデータは58%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは40%程度である。これらの光強度比率差は略18%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P2で示される常光線のデータは55%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは45%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%である。
【0052】
1/2波長板12の光学軸θが22.5°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P3で示される常光線のデータは50%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは50%程度である。これらの光強度比率差は略0%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P3で示される常光のデータは63%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは37%程度である。これらの光強度比率差は略26%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P3で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが22.5°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%である。
【0053】
1/2波長板12の光学軸θが20°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P4で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P4で示される常光のデータは70%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは30%程度である。これらの光強度比率差は略40%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P4で示される常光線のデータは67%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは33%程度である。これらの光強度比率差は略34%である。つまり、1/2波長板12の光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%である。
【0054】
図11のグラフにおいて、光強度比率は常光線と異常光線とでは反転する関係にあり、常光線と異常光線とでの光強度比率の差が大きいと色ムラが多くなり、光強度比率差が小さいと色ムラが少なくなる関係にある。つまり、常光線と異常光線の一方の光強度比率が大きいと他方の光強度比率が小さくなり、光学ローパスフィルタ1で分離された4点の出射光のうち2点が明るく、残り2点が暗くなるので色ムラが生じる。
符号P3,Q3で示される光学軸θが22.5°は従来の光学軸の角度であり、本実施例では、1/2波長板12の厚さを従来の1/2波長板より薄くした構成であるため、色ムラが従来の波長板より大きくなる(最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%)。
【0055】
符号P4,Q4で示される光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%であり、22.5°の場合より大きい。
これに対して、符号P1,Q1で示される光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%であり、従来の光学軸22.5°の場合の28%より小さく、色ムラが少ない。
さらに、符号P2,Q2で示される光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%であり、光学軸25°の場合の20%より小さく、色ムラがより少ない。従って、光学軸θが24°の場合が色ムラの最も小さくなる。
【0056】
したがって、第2実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(13)水晶から形成されている位相板は1/2波長板であり、水晶から形成されている1/2波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが薄い20〜40μmであっても、広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0057】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態では、図1に示すように11が第1複屈折板、13が赤外線吸収ガラス、12が1/4波長板であるとしたが、本発明では、表2の変形例1〜4に示される通り、第1実施形態と異なる基板であってもよい。
【0058】
【表2】
【0059】
変形例1では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が位相板であり、第4板状光学部品12が赤外線吸収ガラスである。
変形例2では、第1板状光学部品11が赤外線吸収ガラスと接合された第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が光学ガラスであり、第4板状光学部品12が位相板である。
変形例3では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が光学ガラスであり、第4板状光学部品12が位相板である。赤外線吸収ガラスと第1複屈折板とは、例えば、接着剤、接着材、粘着剤、粘着材、シランカップリング材、プラズマ重合などにより接合されていてもよい。
変形例4では、第1板状光学部品11が第1複屈折板であり、第3板状光学部品13が位相板であり、第4板状光学部品12が光学ガラスである。ここで、位相板は、1/4波長板でも1/2波長板でもよい。
【0060】
変形例2〜4では、位相板を接合する基板として光学ガラスを用いている。光学ガラスは、安価な基板として利用できるので、撮像装置を製造する際のコストの増加を抑制することができる。しかも、光学ガラスは、光の透過性に影響を及ぼす粒子や泡がないので、光学ローパスフィルタの性能を低下させることがない。
【0061】
また、第1および第2実施形態において、第2複屈折板はケーシング170の開口部170Aを閉塞するとしたが、第2複屈折板は振動可能に設けられ、この振動により表面に付着したゴミなどを除去できる構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、1/4波長板や1/2波長板などの位相板を有する光学ローパスフィルタを備える撮像装置、その他の装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる光学ローパスフィルタが取り付けられた撮像装置の概略構成図。
【図2】光学ローパスフィルタの構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明する分解斜視図。
【図3】(A)〜(C)は光学ローパスフィルタを構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図。
【図4】光学ローパスフィルタの波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図5】光強度比率を測定する装置で使用される干渉フィルタで所定波長を透過することを説明するためのグラフ。
【図6】光学ローパスフィルタの光学軸の角度を変更した場合における波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図7】厚さが0.3mmの水晶波長板において、光学軸を45°〜60°の範囲とした場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図8】図8のグラフにおいて光学軸60°の場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図9】光学軸70°の場合の波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図10】(A)〜(C)は本発明の第1実施形態にかかる光学ローパスフィルタの製造方法を示す模式図。
【図11】光学ローパスフィルタの波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【0064】
1…光学ローパスフィルタ、11…第1板状光学部品、12…第4板状光学部品、13…第3板状光学部品、14…第2板状光学部品、100…撮像装置、110…撮像モジュール、160…収納ケースとしての鏡筒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成された収納ケースと、
この収納ケースに収納された撮像素子と、
前記収納ケースの開口部に取り付けられた第1複屈折板、この第1複屈折板と離隔して前記収納ケース内で撮像素子側に配置された第2複屈折板およびこれら第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されない状態で配置された位相板を有する光学ローパスフィルタとを備え、
前記位相板は、水晶からなる薄片であるとともに、無機材料からなる透光性の基板に取り付けられている
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載された撮像装置において、
前記基板が赤外線吸収ガラスである
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載された撮像装置において、
前記基板が光学ガラスである
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された撮像装置において、
前記位相板が1/4波長板であって、前記1/4波長板の厚さは11〜16μmであり、前記1/4波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して±45°、法線方向において90°である
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された撮像装置において、
前記位相板が1/2波長板であって、前記1/2波長板の厚さは20〜40μmであり、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°である
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載された撮像装置に用いられる光学ローパスフィルタを製造する方法であって、
前記位相板を成形するための水晶製板材を前記基板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記位相板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、放電プラズマ接合で行うことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項1】
開口部が形成された収納ケースと、
この収納ケースに収納された撮像素子と、
前記収納ケースの開口部に取り付けられた第1複屈折板、この第1複屈折板と離隔して前記収納ケース内で撮像素子側に配置された第2複屈折板およびこれら第1複屈折板と第2複屈折板とに接合されない状態で配置された位相板を有する光学ローパスフィルタとを備え、
前記位相板は、水晶からなる薄片であるとともに、無機材料からなる透光性の基板に取り付けられている
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載された撮像装置において、
前記基板が赤外線吸収ガラスである
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載された撮像装置において、
前記基板が光学ガラスである
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された撮像装置において、
前記位相板が1/4波長板であって、前記1/4波長板の厚さは11〜16μmであり、前記1/4波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して±45°、法線方向において90°である
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された撮像装置において、
前記位相板が1/2波長板であって、前記1/2波長板の厚さは20〜40μmであり、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°である
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載された撮像装置に用いられる光学ローパスフィルタを製造する方法であって、
前記位相板を成形するための水晶製板材を前記基板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記位相板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、放電プラズマ接合で行うことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−192776(P2009−192776A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32776(P2008−32776)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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