説明

撮像装置

【課題】撮像素子の大きさで決定される限界の被写界深度以上に、より被写界深度の浅い映像を撮影することのできる撮像装置を提供することを目的とする。
【解決手段】演算部10には、撮像素子部3、4、5からの映像信号と、制御部9からレンズ1と被写体のフォーカス距離Lと、距離センサ部7で計測した画素ごとの計測距離Dnが入力される。計測距離Dnに対して水平、垂直の二次元ローパスフィルタリング処理を施して、LPDnを得る。
その後、LPDnとフォーカス距離Lの差の絶対値を演算し、その結果により映像信号に施すローパスフィルタリング特性を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写界深度を調整することが可能な撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルムを用いたカメラに代わって、撮像素子としてCCDを備えたデジタルスチルカメラが広まりつつある。16mmフィルムや35mmフィルムを用いて撮影を行っていた映画などの映像制作市場においても、撮像素子としてCCDやCMOS等の電子デバイスを備えたデジタルビデオカメラで撮影し、その後の編集や合成などの処理及び、投影まで全てをデジタルで行うデジタルシネマが広がりつつある。
【0003】
ここで、デジタルスチルカメラ等の静止画撮影を目的とするカメラにおいても、また、ビデオカメラ等の動画撮影を目的とするカメラにおいても、芸術的な映像を撮影するため、被写界深度を調整して撮影することが頻繁に行われる。例えば、図11で示すような人物を撮影する場合(ポートレート撮影)には、人物に焦点を合わせて背景が適度にぼけている映像が、人物が浮き立ち芸術的な映像として好まれる。
【0004】
この焦点距離前後の焦点が合う範囲を被写界深度と言い、被写界深度が小さい(浅い)程、より背景がぼけ、人物が浮いたようなポートレート映像を撮影することが出来る。
【0005】
ここで、被写界深度について図12を用いて説明する。図12において、1はレンズであり、距離Lで焦点が合っている状態(実線)である。しかし、実際には距離Lの被写体だけに焦点が合うのではなく、距離Lの前後の映像にも焦点が合う(破線)。これは、レンズを通して結像した映像のぼけがある一定以上の大きさよりも小さければ、ぼけを検出することが出来ないためである。その大きさを許容錯乱円と言い、撮像素子の大きさで決定されるパラメータである。
【0006】
距離Lより後方で焦点の合う範囲を後方被写界深度D1、手前側で焦点の合う範囲を前方被写界深度D2と言い、被写界深度Dは両者の和D1+D2で表される。ここで、後方被写界深度D1と前方被写界深度D2は、レンズの焦点距離をf、Fナンバー(絞り値)をFno、許容錯乱円をδとすると、次式で表される。
【0007】
【数1】

【0008】
【数2】

【0009】
よって、被写界深度は、(数3)のようになる。
【0010】
【数3】

【0011】
特許文献1によれば、35mmフィルムカメラと1/2インチCCDとでは、同じ画角の映像を撮影するために、レンズから3mの被写体に焦点を合わせたとすると、35mmフィルルムカメラの場合は、2.5m〜3.7mの範囲でフォーカスが合い、1/2インチCCDカメラの場合には、1.7m〜9.8mの範囲でフォーカスが合うと報告されている。これは、撮像素子の大きさに起因するものが大きい。
【0012】
また、被写界深度の浅い映像を撮影するために、一般には、レンズの後にNDフィルタを挿入して撮像素子に入射する光量を減少させ、絞りを開けて(Fナンバーを小さくする)撮影を行うことで、ぼけた映像を撮影するテクニックが用いられる。特許文献2では、被写界深度をビューファインダ上にグラフ表示し、撮影者が被写界深度を容易に確認することが可能なカメラを提供するものである。撮影者は、ビューファインダ上に表示された被写界深度を確認し、NDフィルタや絞りを調整して被写界深度を容易に調整することが可能となる。
【特許文献1】特開2002−196228号公報
【特許文献2】特開2003−319246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の従来の構成では、ビューファインダ上に被写界深度を表示することで、撮影者が意図する映像を撮影しやすくする効果はあるものの、撮像素子の大きさで決定される被写界深度の限界を超えた映像を作り出すことは不可能である。
【0014】
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、撮像素子の大きさで決定される限界の被写界深度以上に、より被写界深度の浅い映像を撮影することのできる撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に記載の発明は、レンズから入射した光情報を電荷に変換する撮像素子部と、前記撮像素子部の複数の領域ごとに被写体と前記撮像素子部の距離を計測する距離センサ部と、レンズのフォーカス制御を行うレンズ制御部と、演算部を備え、前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報と、前記レンズ制御部からのフォーカス距離情報から、前記撮像素子部からの映像信号にローパスフィルタリング処理を行うものであり、浅い被写界深度の映像を実現することができるという作用を有する。
【0016】
本発明の請求項2に記載の発明は、前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報とフォーカス距離情報の差の絶対値に対応して、前記ローパスフィルタリング処理の特性を変化させるとしたものであり、浅い被写界深度の映像を実現することができるという作用を有する。
【0017】
本発明の請求項3に記載の発明は、前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報にローパスフィルタリング処理を施すとしたものであり、被写体の境界付近での画像のチラツキを抑制するという作用を有する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明は、上記従来の問題点を解決するもので、撮像素子の大きさによって決定される限界の被写界深度以上に、被写界深度の浅い映像を撮影することができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図10を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1に本発明の一実施の形態の撮像装置の構成図を示す。
【0021】
図1において、1はレンズ、2はレンズ1からの入射光をR、G、Bの各波長成分に分光するプリズム群、3はRチャンネル用撮像素子部、4はGチャンネル用撮像素子部、5はBチャンネル用撮像素子部、6は撮像素子部3、4、5からの映像信号をデジタル信号に変換するADコンバータ、7は被写体との距離を計測する距離センサ部、8は距離センサ部7からの距離情報をデジタル信号に変換するADコンバータ、9はレンズ制御や距離センサ制御などを行う制御部、10は演算部である。
【0022】
レンズ1を通して集光された光は、プリズム群2でR、G、Bに分光され、分光された光は各チャンネル用の撮像素子部3、4、5にそれぞれ送られる。撮像素子部3、4、5では、プリズム群2からの光情報を電荷情報に光電変換し、アナログ映像信号を出力する。
【0023】
制御部9は、フォーカス、絞り、ズーム等のレンズ制御を行う。ここで、図2を用いて画角とズームの関係について説明する。画角とは決められたイメージサイズの中に写しこむことが可能な範囲を角度で表したものであり、水平イメージサイズをX、垂直イメージサイズをY、焦点距離をfとすると、水平画角WH、垂直画角WVは次式で表される。
【0024】
【数4】

【0025】
【数5】

【0026】
ズームレンズでは、ズーミングにより焦点距離を変化させることで画角を変えることが出来る。図3に焦点距離fと画角のイメージ図を示す。つまり、焦点距離fが大きい場合には画角が小さくなり、逆に焦点距離fが小さい場合には画角が大きくなる。
【0027】
制御部9は、レンズ1を制御すると同時にレンズ1に送っている焦点距離fを距離センサ部7に送る。図4を用いて、距離センサ部7の動作を説明する。距離センサ部7の中心点は、レンズ1の中心点Cと同じ点となるようにカメラに取り付けられており、(数4)、(数5)で決定される水平画角WH、垂直画角WVの領域をセンシングする(センシングエリア制御)。つまり、図3で示した映像エリアと全く同じ領域をセンシングすることになる。つまり、焦点距離が小さければより広範囲をセンシングし、焦点距離が大きくなるに連れて、センシングする範囲は狭くなるように制御する。これにより、如何なる倍率であっても、映像領域と同じ範囲の距離を計測することが可能となる。また、距離センサ部7は、CCDの画素ごとに距離を計測する。例えば30万画素のCCDの場合には、30万個の距離データを計測することになる。また、図5に示すような方式で距離を測定しても良い。図5は、撮像素子に距離センサ機能を持たせたものであり、各画素が受光部と距離センサ部から構成され、画素ごとの距離計測が可能となる。
【0028】
図6に示すように、被写体としてレンズから3mの距離に人物が、6mの距離に樹木が、∞に太陽が存在しているとすると、距離センサ部7の出力は、図7に示すように、人物を構成している画素(斜線で示す画素)は3m、樹木の部分は6m、太陽の部分は∞という距離が計測される。
【0029】
また、上記制御部9は、レンズ1から読み取ったフォーカス距離を演算部10に送る。フォーカス距離とは、焦点が合うレンズから被写体の距離のことであり、例えば、図6の場合に人物に焦点が合うようにフォーカスを制御した場合のフォーカス距離は3mとなる。
【0030】
次に演算部10の処理について図8を用いて説明する。演算部10には、映像信号R、G、B、制御部9からフォーカス距離が、距離センサ部7で計測した画素ごとの計測距離が入力される。ここで、フォーカス距離をL、画素nの計測距離をDnとする。
【0031】
まず、計測距離Dnに対して水平、垂直の二次元ローパスフィルタリング処理を施して、LPDnを得る。これは、被写体の境界付近での高域成分を除去することで、後で選択する、映像信号に施すローパスフィルタリングの特性をある程度段階的に変化させ、境界付近での画像のチラツキを抑制するものである。
【0032】
その後、LPDnとフォーカス距離Lの差の絶対値を演算し、その結果により映像信号に施すローパスフィルタリング特性を変化させる。図9に上記絶対値と選択するローパスフィルタの特性の関係図を示す。LPDnとフォーカス距離Lが遠い場合、つまり上記絶対値が大きい場合には、図10のaに示すような、帯域が狭いローパスフィルタ特性を選択し、映像をぼかす効果を大きくする。逆に、LPDnとフォーカス距離Lが近い場合、つまり、上記絶対値が小さい場合には、図10のbに示すように、選択するローパスフィルタの帯域を広くし、ぼかす効果を小さくする。つまり、フォーカス距離に遠い映像ほど、帯域の狭いローパスフィルタ処理が施されるため、フォーカス距離から離れた映像領域は低域成分、つまりぼけた映像となる。
【0033】
処理をまとめると次のようになる。
ステップ1(S1)
映像信号R、G、B、各画素の計測距離Dn、フォーカス距離Lの入力
ステップ2(S2)
各画素の計測距離Dnに対して、水平及び垂直の二次元ローパスフィルタリング処理を施しLPDnを得る。
【0034】
LPDn = LPF(Dn)
LPFは二次元ローパスフィルタリング処理を行う任意の関数である。
ステップ3(S3)
|L−LPDn|を演算し、ローパスフィルタ特性を選択する。
ステップ4(S4)
映像信号R、G、Bに対してローパスフィルタリング処理を施す。
【0035】
以上、距離センサ部7で画素ごとの距離を計測し、計測した距離情報とフォーカス距離との差の絶対値に応じて、映像に適応するローパスフィルタの特性を変化させることで、擬似的に被写界深度の浅い映像を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる撮像装置は、浅い被写界深度を必要とするカメラ画像処理等の用途として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態における撮像装置の構成図
【図2】カメラの画角についての説明図
【図3】焦点距離と画角の関係のイメージ図
【図4】本発明の一実施の形態における距離センサの動作範囲を示す図
【図5】本発明の一実施の形態における距離センサの一構成例を示す図
【図6】被写体の一例を示す図
【図7】本発明の一実施の形態における距離センサの出力を示す図
【図8】本発明の一実施の形態における演算処理のフローチャート
【図9】本発明の一実施の形態におけるローパスフィルタ特性選択法を示す図
【図10】本発明の一実施の形態におけるローパスフィルタ特性を示す図
【図11】被写体の一例を示す図
【図12】被写界深度の説明図
【符号の説明】
【0038】
1 レンズ
2 プリズム群
3 Rチャンネル用撮像素子部
4 Gチャンネル用撮像素子部
5 Bチャンネル用撮像素子部
6 ADコンバータ
7 距離センサ部
8 ADコンバータ
9 制御部
10 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズから入射した光情報を電荷に変換する撮像素子部と、前記撮像素子部の複数の領域ごとに被写体と前記撮像素子部の距離を計測する距離センサ部と、レンズのフォーカス制御を行うレンズ制御部と、演算部を備え、前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報と、前記レンズ制御部からのフォーカス距離情報から、前記撮像素子部からの映像信号にローパスフィルタリング処理を行うことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報とフォーカス距離情報の差の絶対値に対応して、前記ローパスフィルタリング処理の特性を変化させることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記演算部において、前記距離センサ部からの距離情報にローパスフィルタリング処理を施すことを特徴とする請求項1記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−158575(P2007−158575A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349024(P2005−349024)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】