説明

操向角センサを備えた電動式操向装置

【課題】操向軸の回転方向を感知する方向センサ及びモータ軸の回転角を感知するモータ位置センサを用いて絶対操向角を感知することが可能な電動式操向装置を提供して,操向装置の製作費用を縮小すること。
【解決手段】本発明は,自動車の操向ホイールに連結される操向軸102と,操向軸と連動して回転する減速軸601と,発信部603及び受信部605を含む方向センサ607と,減速軸601に設けられ,発信部603と受信部605との間に配設される回転部材609と,モータ軸611を介して操向軸102に操向補助動力を供給するモータ130と,モータ130のモータ軸611の回転角を感知するモータ位置センサ613と,方向センサ607及びモータ位置センサ613から各々発信される電気的信号を受信し,操向角を算出する電子制御装置123と,を含むことを特徴とする電動式操向装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,操向角センサを備えた電動式操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,自動車の操向装置としては,流圧ポンプの流圧を用いた流圧式操向装置(HPS:Hydraulic Power Steering Apparatus)が使われているが,1990年代以後,電気モータを用いた電動式操向装置(EPS:Electric Power Steering Apparatus)が次第に一般化されている。
【0003】
流圧式操向装置の場合,操向補助動力を供給する動力源である流圧ポンプがエンジンにより駆動され,操向ホイールの回転の有無に関わらず,常にエネルギーを消耗する。これに対して,電動式操向装置の場合には,操向ホイールの回転により操向トルクが発生され,発生された操向トルクに比例する操向補助動力をモータが供給する。したがって,電動式操向装置を使用する場合には,流圧式操向装置を使用する場合に比べてエネルギー効率を向上させることができる。
【0004】
図1は,一般的な電動式操向装置を示す構成図である。
【0005】
図1に示すように,一般に,電動式操向装置は,操向ホイール101から両側輪108まで繋がる操向システム100,及び操向システム100に操向補助動力を供給する補助動力機構120を含んで構成される。
【0006】
操向システム100は,一端が操向ホイール101に連結され,他の一端が一対のユニバーサルジョイント103を介してピニオン軸104に連結され,操向ホイール101と共に回転する操向軸102を含めて構成される。また,ピニオン軸104は,ラック−ピニオン機構部105を通じてラックバー109に連結され,ラックバー109の両端はタイロッド106及びナックルアーム107を通じて両側輪108に連結される。
【0007】
ラック−ピニオン機構部105は,ピニオン軸104の下段に形成されるピニオンギア111と,ラックバー109の外周面の一側に形成されるラックギア112とが互いに係合するように形成され,ラック−ピニオン機構部105を通じてピニオン軸104の回転運動がラックバー109の直線運動に変化する。したがって,運転者が操向ホイール101を操作するとピニオン軸104が回転し,ピニオン軸104の回転によってラックバー109が軸方向に直線運動をし,ラックバー109の直線運動がタイロッド106及びナックルアーム107を通じて両側輪108を操向することになる。
【0008】
補助動力機構120は,運転者が操向ホイール101に加える操向トルクを感知して,感知された操向トルクに比例する電気信号を出力するトルクセンサ121,トルクセンサ121から伝えられる電気信号に基づいて制御信号を発生する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)123及び電子制御装置123から伝えられる制御信号に基づいて操向補助動力を発生させるモータ130を含んで構成される。
【0009】
したがって,電動式操向装置は,操向ホイール101の回転により発生した操向トルクが,ラック−ピニオン機構部105を経てラックバー109に伝達され,発生された操向トルクによってモータ130から発生した操向補助動力が操向軸102,ピニオン軸104またはラックバー109に伝達されるように形成される。すなわち,操向システム100から発生した操向トルクとモータ130から発生した操向補助動力とが合わせられて,ラックバー109を軸方向に運動させるようにするものである。
【0010】
このような電動式操向装置において,操向角センサは,走行中の自動車の直進位置を基準とする操向ホイール101の回転角や回転角速度に関する情報を電子制御装置123に提供し,電子制御装置123は,これらの情報に基づいてロール(Roll)制御や旋回制御をする。
【0011】
図2は,従来技術に係る操向角測定方式を説明するブロック図である。
【0012】
図2に示すように,一般的に従来技術に係る操向角測定方式は,光センサとスリット円板を用いた操向角センサ200で操向情報を測定し,測定された情報を電子制御装置123に伝達して電子制御装置123で操向角及び操向角速度を計算する方式である。
【0013】
また,従来技術に係る操向角センサ200は,図3及び図4に各々示すように,大部分が光センサ301とスリット円板303とから構成される。光センサ301を含むコラムスイッチは,操向コラムに固定されている。スリット円板303は,操向軸102に設けられ,操向ホイールを回転させると連動して共に回転するようになっている。
【0014】
光センサ301の発光素子401と受光素子403との間に設けられたスリット円板303は,操向ホイールを操作することによって操向軸102と共に回転する。この際,発光素子401の光が受光素子403に伝達されるかどうかによって電気的信号が決まる。
【0015】
図5は,従来技術に係る操向角センサの出力信号を示す波形図である。
【0016】
図5に示すように,発光素子からの光が受光素子に伝達されない場合と発光素子からの光が受光素子に伝達される場合との間には電圧差が発生し,それに係る電気的信号が電子制御装置に伝達されることにより,電子制御装置が操向角を測定できるようになるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところが,従来技術に係る操向角センサでは,操向軸の回転による操向角が0度の場合と±360度の場合,または±720度の場合を同一に認識する問題がある。また,左折する場合と右折する場合が区別できないという短所もある。
【0018】
このような問題を解決するためには,高解像度を有する絶対操向角センサを用いて絶対操向角を測定しなければならないが,絶対操向角センサは高価な装置であって,操向装置の製作費用を増加させる問題がある。
【0019】
そこで本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,操向軸の回転方向を感知する方向センサ及びモータ軸の回転角を感知するモータ位置センサを用いて,絶対操向角を感知することができるようにすることによって,製作費用を低減することが可能な,新規かつ改良された電動式操向装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,自動車の操向ホイールに連結される操向軸と,前記操向軸と連動して回転する減速軸と,発信部及び受信部を含む方向センサと,前記減速軸に設けられ,前記発信部と前記受信部との間に配設される回転部材と,モータ軸を介して操向軸に操向補助動力を供給するモータと,前記モータの前記モータ軸の回転角を感知するモータ位置センサと,前記方向センサ及び前記モータ位置センサから各々入力された電気的信号に基づいて操向角を算出する電子制御装置とを含むことを特徴とする,電動式操向装置が提供される。
【0021】
また,回転部材は,半円板形状からなるものであってもよい。
【0022】
また,減速軸は,360度以内で回転するものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、操向軸の回転方向を感知する方向センサ及びモータ軸の回転位置を感知するモータ位置センサを用いて,絶対操向角を感知することが可能な電動式操向装置を低コストで提供することにより,操向装置の製作費用を低減する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
図6は,本発明の好ましい実施形態に係る電動式操向装置を示す構成図である。
【0026】
図6に示すように,本発明の好ましい実施形態に係る電動式操向装置は,操向ホイール(図示していない)に連結される操向軸102,操向軸102と連動して回転する減速軸601,発信部603及び受信部605を含む方向センサ607,減速軸601に軸設される回転部材609,操向補助動力を供給するモータ130,モータ軸611の回転角を感知するモータ位置センサ613,及び方向センサ607とモータ位置センサ613とから各々発信される電気的信号を受信する電子制御装置123を含めて構成される。
【0027】
操向軸102は,運転者が操向ホイール(図示していない)を回転させることによって回転する。操向軸102の外周面にはウォーム615が形成されている。
【0028】
減速軸601の外周面には,ウォーム615と係合するウォームホイール617が形成されている。
【0029】
通常,運転者の操向ホイール(図示していない)の操作によって操向軸102が3〜4回回転するが,本発明の実施形態の場合,操向軸102の3〜4回転につき,減速軸601の回転数が1回転以下になるようにウォーム615とウォームホイール617の減速比を調整し,減速軸601が360度以内で回転するようにして,操向角を360度以内の範囲で算出できるようにすることが好ましい。
【0030】
図7は,方向センサ607を示す断面図である。
【0031】
図6及び図7に各々示すように,方向センサ607は,発信部603,受信部605及び回路基板606を含んで構成される。
【0032】
発信部603と受信部605は,互いに対向するように形成されており,発信部603において,電気的信号,磁気的信号,または光信号を始めとする信号を発生させて受信部605に伝達する。このような発信部603と受信部605との間で,回転部材609が回転しながら発信部603から発生する信号を遮断または通過させることにより,方向センサ607を作動させる。
【0033】
方向センサ607としては,発光素子401及び受光素子403を含めて構成される光センサが使われることができる。発光素子401としては,LED(Light Emitting Diode)が使われ,受光素子403としては,フォトトランジスタ(Photo transistor)が使用できるが,これに限るものではない。
【0034】
回路基板606は,発信部603及び受信部605に各々連結されて発信部603に電源を供給する。さらに,受信部605が発信部603から発生する信号を受信しているかまたは受信していないかによって,特定の電気的信号を発生させ,発生させた信号を電子制御装置123に伝達する。このような回路基板606としては,一般的に,印刷回路基板(PCB:Printed Circuit Board)が使われるが,これに限るものではない。
【0035】
回転部材609は,減速軸601に連動して回転するように減速軸601に軸設されるものであって,方向センサ607の発信部603と受信部605との間に挟まれるように配設される。回転部材609は,胴部610及び結合部612を含めて構成される。
【0036】
胴部610は,方向センサ607の発信部603と受信部605との間で回転するものであって,発信部603から伝えられる信号を遮断または通過させる役割をし,板形状で形成されることができる。また,方向センサ607として光センサが用いられる場合には,胴部610は光が通過できない材質で作られなければならない。
【0037】
胴部610は,減速軸601が回転すれば共に回転するため,省スペース化のために,その断面形状は円からなることが好ましい。また,減速軸601が時計方向または反時計方向に180度未満に回転する場合には,胴部610の断面形状は,半円または扇形状からなることが好ましい。
【0038】
結合部612は,胴部610の一側に突出形成されて,回転部材609を減速軸601に結合させる部分である。回転部材609が減速軸601に連動して回転しなければならないので,結合部612は減速軸601に完全に固定されることが好ましい。
【0039】
一方,別途に結合部612を形成せずに,回転部材609を減速軸601と一体形成されるようにしてもよい。
【0040】
モータ位置センサ(Motor Position Sensor)613は,モータ130の一側に備えられてモータ軸611の回転角を感知する装置である。モータ位置センサ613は,モータ軸611の回転角を感知して周期的にパルス(Pulse)を発生させ,発生されたパルスは電子制御装置123に伝達される。
【0041】
電子制御装置123は,自動車に装着されている各種センサ,すなわち,車速センサ,トルクセンサ,モータ位置センサなどで感知され,電気的信号に変換された自動車の速度,操向トルクまたはモータ軸の位置情報などを受信して,モータを制御する装置である。
【0042】
特に,本発明において,電子制御装置123は,操向軸102の回転方向を感知する方向センサ607から発生する電気的信号を受信し,モータ位置センサ613からモータ軸611の回転角の変化量に関する情報を受信して,操向角を計算する役割をする。
【0043】
図8a,8b及び8cは,各々操向軸の一方向の回転による方向センサ607の作動形態を示す断面図である。
【0044】
操向軸102の3〜4回転が減速軸601の1回転未満に減速される場合を前提として,図8a,8b及び8cを参照して本発明の好ましい実施形態に係る電動式操向装置の作動を説明すると次の通りである。
【0045】
最初に,自動車の操向ホイールが回転されていない状態にあるとき,回転部材609は,中立位置(A−A′)にあるものとする。自動車の操向ホイールが所定の角度回転された状態にあるとき,それによって,回転部材609は,中立位置(A−A′)から反時計方向に所定の角度回転され,発光素子401と受光素子403との間にあって,発光素子401が発する光を遮断する。
【0046】
ところが,減速軸601が反時計方向にさらに回転することによって,回転部材609も反時計方向にさらに回転するが,回転部材609が最終位置(B−B′)に到達しても発光素子401からの光は,回転部材609により継続的に遮断されて受光素子403に伝達されない状態にあることになる。したがって,この場合,方向センサ607から電子制御装置123に伝達される電気的信号は一定である。
【0047】
例えば,運転者が操向ホイールを操作して左折することにより,上記のような状態になる場合,電子制御装置123は,方向センサ607から送信される電気的信号により,自動車の操向軸102が現在左側に回転されている状態であることを感知するのである。
【0048】
一方,モータ位置センサ613は,モータ軸611の回転によって周期的に電気的信号を電子制御装置123に送る。モータ位置センサ613から送信される電気的信号を通じて,電子制御装置123ではモータ軸611の回転角を検知することができ,モータ軸611の回転角と減速比とから操向軸102の回転角が算出されることになる。例えば,モータ位置センサ613から感知されるモータ軸611の回転角度が0.28度であり,減速比が4:1であれば,これらの数値から算出される操向軸102の絶対操向角は0.28×4=1.12度である。
【0049】
すなわち,方向センサ607から伝えられる電気的信号は,操向軸102の回転方向を伝達するものであり,モータ位置センサ613から伝えられる電気的信号は,操向軸102の回転角を伝達するものである。したがって,これらを総合すれば,操向軸102の回転方向及び回転方向への操向軸102の絶対回転角を算出できることになる。
【0050】
このような原理は,操向軸102が反対方向に回転する場合にも同一に適用される。また,一方向に回転された状態にあった操向軸102が,反対方向に回転して中立位置を通過する場合には,回転部材609も中立位置を通過するため,方向センサ607の発信部603からの光を遮断していた状態から通過させる状態へと変化し,または通過させる状態から遮断する状態へと変化するので,瞬間的に電気的信号に変動が発生する。このような電気的信号の変動によって,電子制御装置123は,操向軸102の回転方向が反対方向に変化されたことを感知することになるものである。
【0051】
以上説明したように,本発明の実施形態にかかる電動式操向装置によると,操向軸の回転方向を感知する方向センサ及びモータ軸の回転角を感知するモータ位置センサを用いることにより,絶対操向角を感知することができ,左折する場合と右折する場合とを区別することが可能になる。さらに,減速軸が360度以内で回転するように減速比を調整することにより,360度以内の範囲で操向角を算出できるため,操向軸の回転角が0度の場合と±360度の場合,または±720度の場合を同一に認識する問題を回避することができる。これにより,本発明の実施形態にかかる電動式操向装置によると,高解像度を有する高価な絶対操向角センサを用いる必要がなく,操向装置の製作費用を低減することができる。
【0052】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】一般的な電動式操向装置を示す構成図である。
【図2】従来技術に係る操向角測定方式を説明するブロック図である。
【図3】従来技術に係る操向角センサの構造を示す概略図である。
【図4】従来技術に係る操向角センサの原理を説明する概略図である。
【図5】従来技術に係る操向角センサの出力信号を示す波形図である。
【図6】本発明の好ましい実施形態に係る電動式操向装置を示す構成図である。
【図7】方向センサを示す断面図である。
【図8a】操向軸の一方向回転による方向センサの作動形態を示す断面図である。
【図8b】操向軸の一方向回転による方向センサの作動形態を示す断面図である。
【図8c】操向軸の一方向回転による方向センサの作動形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
102 操向軸
123 電子制御装置
130 モータ
401 発光素子
403 受光素子
601 減速軸
603 発信部
605 受信部
606 回路基板
607 方向センサ
609 回転部材
610 胴部
611 モータ軸
612 結合部
613 モータ位置センサ
615 ウォーム
617 ウォームホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の操向ホイールに連結される操向軸と;
前記操向軸と連動して回転する減速軸と;
発信部及び受信部を含む方向センサと;
前記減速軸に設けられ,前記発信部と前記受信部との間に配設される回転部材と;
モータ軸を介して操向軸に操向補助動力を供給するモータと;
前記モータの前記モータ軸の回転角を感知するモータ位置センサと;
前記方向センサ及び前記モータ位置センサから各々入力された電気的信号に基づいて操向角を算出する電子制御装置と;
を含むことを特徴とする,電動式操向装置。
【請求項2】
前記回転部材は,半円板形状からなることを特徴とする,請求項1に記載の電動式操向装置。
【請求項3】
前記減速軸は,360度以内で回転することを特徴とする,請求項1または2のいずれかに記載の電動式操向装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【公開番号】特開2007−196979(P2007−196979A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105612(P2006−105612)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(505468174)マンド株式会社 (43)
【Fターム(参考)】