説明

操舵トルク検出信号送信装置および操舵トルク検出信号受信装置

【課題】 トルクセンサユニットとアシストECUとを接続するワイヤハーネスの配線本数の増加を抑えつつ、信号線が1線断線した場合でも2種類のトルクセンサ情報を取得でき、かつ、電源供給線が1線断線した場合でも電源バックアップできるようにする。
【解決手段】 トルク信号変調部160は、第1トルク信号T1に正弦波信号を重畳させた信号(T1×sin(ωt))と、第1トルク信号T1に余弦波信号を重畳させた信号(T1×cos(ωt))と、第2トルク信号T2に正弦波信号を重畳させた信号(T2×sin(ωt))と、第2トルク信号T2に余弦波信号を重畳させた信号(T2×cos(ωt))とを生成する。出力冗長部170は、(T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt))を表す信号と、(T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt))を表す信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による操舵ハンドルの操舵操作をアシストするための車両用電動パワーステアリング装置に用いられるトルク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転者の操舵操作に対して操舵アシストトルクを付与する電動パワーステアリング装置が知られている。電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトに働いた操舵トルクをトルクセンサにより検出し、操舵トルクが大きくなるにしたがって増加する目標アシストトルクを算出し、算出した目標アシストトルクが得られるように、電動モータの通電量をフィードバック制御する。
【0003】
電動パワーステアリング装置においては、信頼性を向上させるために、トルクセンサを2組設け、両トルクセンサの検出信号をアシストECU(電子制御ユニット)に送信するように構成したものも特許文献1等において知られている。2組のトルクセンサは、トルクセンサユニットとしてユニット化される。トルクセンサユニットは、アシストECUとワイヤハーネスで接続され、アシストECUから電源供給を受けるとともに、2本の信号線を介して各トルクセンサの検出信号をアシストECUに出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−197367
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、従来の装置においては、2本の信号線のうちの片方が断線すると、センサ情報が1種類に減ってしまう。つまり、1本の信号線に対して1種類のセンサ情報のみを送信するように構成されているため、信号線が1本断線した場合には、片方のトルクセンサのセンサ情報が伝達されなくなる。このため、センサ出力の信頼性が確保できなくなり、操舵アシスト制御の停止に至り、快適性が損なわれる。
【0006】
また、アシストECU側においては、トルクセンサユニットから送信される信号をA/D変換するが、トルクセンサとアシストECU間のグランド電位差を極力抑えるために、両者のグランド間をグランド線で直接接続する。また、信頼性向上のために電源を2重化する場合は、トルクセンサユニットとアシストECUとの間に電源供給線だけでなくグランド線も1本追加接続する必要があり、ワイヤハーネスの配線本数が増加してしまう。
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、トルクセンサユニットとアシストECUとを接続するワイヤハーネスの配線本数の増加を抑えつつ、信号線が1線断線した場合でも2種類のトルクセンサ情報を取得でき、かつ、電源供給線が1線断線した場合でも電源バックアップできるようにすることを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の操舵トルク検出信号送信装置の特徴は、
ステアリングシャフトに働く操舵トルクを検出する2つの操舵トルクセンサを備え、前記2つの操舵トルクセンサのトルク検出信号を、電動パワーステアリング装置の電動モータを駆動制御するアシスト制御装置に送信する操舵トルク検出信号送信装置において、
予め設定した一定周期の基準パルス信号を発生する基準パルス信号発生手段と、前記アシスト制御装置から2本の電源供給線を介して電源を受ける電源回路と、前記基準パルス信号を復調用基準信号として前記電源供給線を介して前記アシスト制御装置に送信する復調用基準信号送信手段と、前記基準パルス信号を使って、互いにπ/2だけ位相のずれた正弦波信号と余弦波信号とを変調用信号として生成する変調用信号生成手段と、2つの操舵トルクセンサのうちの一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記正弦波信号を重畳した第1トルク変調信号と、前記一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記余弦波信号を重畳した第2トルク変調信号と、2つの操舵トルクセンサのうちの他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記正弦波信号を重畳した第3トルク変調信号と、前記他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記余弦波信号を重畳した第4トルク変調信号とを生成するトルク信号変調手段と、前記第1トルク変調信号と前記第4トルク変調信号とを加算した第1出力信号と、前記第2トルク変調信号と前記第3トルク変調信号とを加算した第2出力信号とを生成する出力信号生成手段とを備え、前記第1出力信号を第1信号線を介して前記アシスト制御装置に送信し、前記第2出力信号を第2信号線を介して前記アシスト制御装置に送信することにある。
【0009】
本発明においては、基準パルス信号発生手段が一定周期の基準パルス信号を発生し、変調用信号生成手段が基準パルス信号を使って正弦波信号と余弦波信号とを変調用信号として生成する。同時に、復調用基準信号送信手段が基準パルス信号を復調用基準信号として電源供給線を介してアシスト制御装置に送信する。電源回路は、操舵トルク検出信号送信装置内の回路に電源供給するために、2本の電源供給線を介してアシスト制御部から電源を受ける。従って、電源供給線の1線断線が発生した場合であっても、装置内の回路に電源供給を維持することができ信頼性が高い。また、復調用基準信号送信手段は、復調用基準信号として基準パルス信号を送信する場合、この2本の電源供給線を使って送信することができるため、電源供給線の1線断線が発生しても復調用基準信号を送信することができる。
【0010】
トルク信号変調手段は、2つの操舵トルクセンサのうちの一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に正弦波信号を重畳した第1トルク変調信号と、同じく一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に余弦波信号を重畳した第2トルク変調信号と、他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に正弦波信号を重畳した第3トルク変調信号と、同じく他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に余弦波信号を重畳した第4トルク変調信号とを生成する。例えば、一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号をT1、他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号をT2とした場合、第1トルク変調信号はT1×sin(ωt)として表され、第2トルク変調信号はT1×cos(ωt)として表され、第3トルク変調信号はT2×sin(ωt)として表され、第4トルク変調信号はT2×cos(ωt)として表される。
【0011】
出力信号生成手段は、第1トルク変調信号と第4トルク変調信号とを加算した第1出力信号と、第2トルク変調信号と第3トルク変調信号とを加算した第2出力信号とを生成する。例えば、第1出力信号は、T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt)として表され、第2出力信号は、T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt)として表される。
【0012】
そして、第1出力信号を第1信号線を介してアシスト制御装置に送信し、第2出力信号を第2信号線を介してアシスト制御装置に送信する。このため、それぞれの信号線には、2つの操舵トルクセンサの検出結果である操舵トルク情報が含まれている。従って、信号線の1線が断線しても、2つの操舵トルク情報を送信することができる。このため、4本の配線(2本の電源供給線と2本の信号線)で、2つの操舵トルク情報の冗長化と電源の冗長化とが可能となる。
【0013】
本発明の他の特徴は、前記アシスト制御装置に設けられ、前記2本の電源供給線と前記2本の信号線を介して請求項1記載の操舵トルク検出信号送信装置と接続する操舵トルク検出信号受信装置であって、
前記電源供給線を介して前記復調用基準信号を受信し、前記受信した復調用基準信号を使って互いにπ/2だけ位相のずれた正弦波信号と余弦波信号とを復調用信号として生成する復調用信号生成手段と、前記第1信号線および第2信号線を介して前記第1出力信号および第2出力信号を受信し、前記第1出力信号に前記正弦波信号を重畳した第1信号と、前記第1出力信号に前記余弦波信号を重畳した第2信号と、前記第2出力信号に前記正弦波信号を重畳した第3信号と、前記第2出力信号に前記余弦波信号を重畳した第4信号とを生成するトルク抽出用信号生成手段と、前記第1信号および前記第3信号に対しては、前記復調用信号の位相角がπ/2または3π/2となるときの信号出力を取得し、前記第2信号および前記第4信号に対しては、前記復調用信号の位相角が0またはπとなるときの信号出力を取得するトルク検出信号抽出手段とを備えたことにある。
【0014】
本発明においては、操舵トルク検出信号送信装置から電源供給線を介して復調用基準信号を受信し、第1信号線を介して第1出力信号を受信し、第2信号線を介して第2出力信号を受信する。復調用信号生成手段は、受信した復調用基準信号を使って互いにπ/2だけ位相のずれた正弦波信号と余弦波信号とを復調用信号として生成する。この生成された正弦波信号と余弦波信号は、操舵トルク検出信号送信装置側で生成された基準パルス信号を使って生成されたものであるため、操舵トルク検出信号送信装置で生成された正弦波信号と余弦波信号とそれぞれ同位相となる。
【0015】
トルク抽出用信号生成手段は、第1出力信号に正弦波信号を重畳した第1信号と、第1出力信号に余弦波信号を重畳した第2信号と、第2出力信号に正弦波信号を重畳した第3信号と、第2出力信号に余弦波信号を重畳した第4信号とを生成する。従って、第1信号は、T1×sin2(ωt)+T2×sin(ωt)×cos(ωt)として表すことができる。同様に、第2信号は、T1×sin(ωt)×cos(ωt)+T2×cos2(ωt)として表すことができ、第3信号は、T1×sin(ωt)×cos(ωt)+T2×sin2(ωt)として表すことができ、第4信号は、T1×cos2(ωt)+T2×sin(ωt)×cos(ωt)として表すことができる。
【0016】
また、第1信号〜第4信号は、次式のように変形することができる。
第1信号:T1×sin2(ωt)+T2×sin(2ωt)/2
第2信号:T1×sin (2ωt)/2+T2×cos2(ωt)
第3信号:T1×sin (2ωt)/2+T2×sin2(ωt)
第4信号:T1×cos2(ωt)+T2×sin (2ωt)/2
【0017】
そして、トルク検出信号抽出手段は、第1信号および第3信号に対しては、復調用信号(正弦波信号および余弦波信号)の位相角(ωt)がπ/2または3π/2となるときの信号出力を取得し、第2信号および第4信号に対しては、復調用信号の位相角が0またはπとなるときの信号出力を取得する。例えば、上記式において、位相角(ωt)がπ/2または3π/2となるときは、sin2(ωt)=1,sin(2ωt)=0となるため、第1信号はT1、第3信号はT2となる。同様に、上記式において、位相角(ωt)が0またはπとなるときは、cos2(ωt)=1,sin(2ωt)=0となるため、第2信号はT2、第4信号はT1となる。尚、信号出力の取得にあたっては、アナログ信号をA/D変換器にてデジタル値に変換して取得するようにするとよい。
【0018】
この結果、各信号線からそれぞれ2種類の操舵トルク情報を抽出することができる。これにより、信号線の1線が断線しても、2種類の操舵トルク情報を取得することができ、高い信頼性を維持したまま操舵アシスト制御を続行することができる。
【0019】
また、第1信号〜第4信号は、デジタル値に変換して操舵トルク情報として使われるが、例えば、位相角(ωt)が0の時、第1信号および第3信号は0になるはずであるため、この時刻(ωt=0)におけるデジタル変換値と基準0Vとの差分を検出してオフセット値として設定しておくことができる。従って、操舵トルク検出信号受信装置と操舵トルク検出信号送信装置とをグランド線で接続する必要が無い。従って、ワイヤハーネスの配線本数の増加を招かない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態としての操舵トルク検出信号送信装置と操舵トルク検出信号受信装置とを備えた電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【図2】実施形態としてのトルクセンサユニットの構成図である。
【図3】実施形態としてのアシスト演算部における操舵トルク検出部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、実施形態として操舵トルク検出信号送信装置と操舵トルク検出信号受信装置とを備えた電動パワーステアリングの概略構成図である。
【0022】
車両の電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵により転舵輪である左右前輪FW1,FWを転舵する転舵機構10と、転舵機構10に設けられ操舵アシストトルクを発生するパワーアシスト部20と、パワーアシスト部20の電動モータ21を駆動制御するアシスト制御装置30(以下、アシストECU30と呼ぶ)と、車速センサ40と、トルクセンサユニット100とを備えている。
【0023】
転舵機構10は、操舵ハンドル11に上端を一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備え、ステアリングシャフト12の下端にはピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、図示しないタイロッドおよびナックルアームを介して左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に転舵される。
【0024】
ラックバー14には、パワーアシスト部20が組み付けられている。パワーアシスト部20は、操舵アシスト用の電動モータ21(例えば、ブラシレスモータ)とボールねじ機構22とからなる。電動モータ21の回転軸は、ボールねじ機構22を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FW1,FW2の転舵をアシストする。ボールねじ機構22は、減速器および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ21の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
【0025】
アシストECU30は、CPU,ROM,RAM,A/D変換器などからなるマイクロコンピュータを主要部として備えたアシスト演算部31と、モータ駆動回路32とを備えている。モータ駆動回路32は、アシスト演算部31からのPWM制御信号を入力して、内部のスイッチング素子のデューティ比を制御することにより電動モータ21への通電量を調整する。モータ駆動回路32には、電動モータ21に流れる電流を検出する電流センサ33が設けられる。
【0026】
アシスト演算部31は、電流センサ33、車速センサ40、トルクセンサユニット100を接続している。車速センサ40は、車速を表す車速検出信号を出力する。トルクセンサユニット100は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクを検出するもので、これについては後述する。
【0027】
次に、アシスト演算部31の実施する操舵アシスト制御について簡単に説明する。アシスト演算部31は、車速センサ40およびトルクセンサユニット100からの検出信号に基づいて車速と操舵トルクとを取得し、取得した車速と操舵トルクに基づいて、目標アシストトルクを算出する。目標アシストトルクは、図示しないアシストマップ等を参照して、操舵トルクが大きくなるにしたがって増加し、かつ、車速が増加するにしたがって減少するように設定される。そして、この目標アシストトルクを発生させるために必要な目標電流を計算し、電流センサにより検出された実電流と目標電流との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)式等を使って目標指令電圧を計算し、目標指令電圧に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路32に出力する。こうして、電動モータ21には、電流フィードバック制御により運転者の操舵方向と同じ方向に回転する向きの目標電流が流れ、運転者の操舵操作を適切にアシストする。
【0028】
こうした操舵アシスト制御を適切に実施するためには、信頼性の高い操舵トルクの検出を行う必要がある。そこで、本実施形態においては、以下の構成にて操舵トルクを検出する。
【0029】
まず、トルクセンサユニット100から説明する。図2は、トルクセンサユニット100の概略構成図である。トルクセンサユニット100(以下、センサユニット100と呼ぶ)は、本発明の操舵トルク検出信号送信装置に相当するもので、2本の電源供給線Lp1,Lp2を介してアシストECU30から電源供給を受けるとともに、2本の信号線Ls1,Ls2を介して2種類のトルク信号(後述する第1出力信号と第2出力信号)をアシストECU30のアシスト演算部31に出力する。
【0030】
センサユニット100は、基準パルス発生部110と、復調用信号送信部120と、位相差生成部130と、変調用信号生成部140と、トルクセンサ部150と、トルク信号変調部160と、出力冗長部170と、電源部180とを備える。
【0031】
基準パルス発生部110は、基準パルス発生器111を備えている。基準パルス発生器111は、周波数f0の矩形波信号を生成する回路である。この矩形波信号は、センサユニット100内においてトルク信号の変調用に用いられだけでなく、アシストECU30において復調用基準信号を生成するために用いられる。以下、基準パルス発生部110から出力される矩形波信号を基準パルス信号と呼ぶ。
【0032】
基準パルス信号は、復調用信号送信部120に供給される。復調用信号送信部120は、第1復調用信号送信回路121と、第2復調用信号送信回路122と、反転器123とを備えている。第1復調用信号送信回路121は、電源供給線Lp1に接続され、基準パルス発生部110から出力された基準パルス信号によりオンオフ作動して電源供給線Lp1に復調用基準信号Ref1を出力する。反転器123は、基準パルス信号を反転し、その反転基準パルス信号を第2復調用信号送信回路122に供給する。第2復調用信号送信回路122は、電源供給線Lp2に接続され、反転器123から出力された反転基準パルス信号によりオンオフ作動して電源供給線Lp2に復調用基準信号Ref2を出力する。従って、復調用信号送信部120は、電源供給線Lp1,Lp2の何れか片方が断線した場合であっても、一方の復調用基準信号Ref1(Ref2)をアシストECU30に送信できるようにバックアップ機能を有している。
【0033】
位相差生成部130は、第1分周器131と第2分周器132とを備えている。第1分周器131は、基準パルス信号の立ち上がりエッジで反転する矩形波を出力する。従って、周波数f0/2のパルス信号を出力する。この第1分周器131から出力される矩形波信号を第1パルス信号と呼ぶ。第2分周器132は、基準パルス信号の立ち下がりエッジで反転する矩形波を出力する。この第2分周器132から出力される矩形波信号を第2パルス信号と呼ぶ。第2パルス信号は、第1パルス信号とは周波数が等しく(f0/2)、位相が90°ずれている。
【0034】
変調用信号生成部140は、正弦波生成回路141と余弦波生成回路142とを備えている。正弦波生成回路141は、位相差生成部130の第1分周器131から出力される第1パルス信号を入力してバンドパスフィルタ処理を行うことにより、第1パルス信号から直流成分を除去しsin波信号の抽出を行う。余弦波生成回路142は、位相差生成部130の第2分周器132から出力される第2パルス信号を入力してバンドパスフィルタ処理を行うことにより、第2パルス信号から直流成分を除去しcos波信号の抽出を行う。従って、正弦波生成回路141からはsin波信号が出力され、余弦波生成回路142からはcos波信号が出力される。
【0035】
トルクセンサ部150は、第1トルクセンサ151、第2トルクセンサ152を備えている。第1トルクセンサ151、第2トルクセンサ152は、どちらもステアリングシャフト12に働く操舵トルクを表すトルク検出信号を出力する。第1トルクセンサ151から出力されるトルク検出信号を第1トルク信号T1と呼び、第2トルクセンサ152から出力されるトルク検出信号を第2トルク信号T2と呼ぶ。
【0036】
トルク信号変調部160は、変調用信号生成部140にて抽出されたsin波信号とcos波信号をトルク信号T1,T2に重畳させることによりトルク信号T1,T2を変調するブロックである。トルク信号変調部160は、第1sin乗算回路161、第1cos乗算回路162、第2sin乗算回路163、第2cos乗算回路164を備えている。
【0037】
第1sin乗算回路161は、第1トルク信号T1に、変調用信号生成部140から出力されたsin波信号(sin(ωt))を重畳させた信号を生成する回路であり、その生成した(T1×sin(ωt))を表す信号を出力する。第1cos乗算回路162は、第1トルク信号T1に、変調用信号生成部140から出力されたcos波信号(cos(ωt))を重畳させた信号を生成する回路であり、その生成した(T1×cos(ωt))を表す信号を出力する。尚、ωTは位相角である。
【0038】
第2sin乗算回路163は、第2トルク信号T2に、変調用信号生成部140から出力されたsin波信号(sin(ωt))を重畳させた信号を生成する回路であり、その生成した(T2×sin(ωt))を表す信号を出力する。第2cos乗算回路164は、第2トルク信号T2に、変調用信号生成部140から出力されたcos波信号(cos(ωt))を重畳させた信号を生成する回路であり、その生成した(T2×cos(ωt))を表す信号を出力する。
【0039】
出力冗長部170は、第1加算回路171と第2加算回路172とを備えている。第1加算回路171は、第1sin乗算回路161の出力(T1×sin(ωt))と、第2cos乗算回路164の出力(T2×cos(ωt))とを加算した信号を生成する回路であり、その生成した(T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt))を表す信号を出力する。この第1加算回路171から出力される信号を第1出力信号S1と呼ぶ。第2加算回路172は、第1cos乗算回路162の出力(T1×cos(ωt))と、第2sin乗算回路163の出力(T2×sin(ωt))とを加算した信号を生成する回路であり、その生成した(T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt))を表す信号を出力する。この第2加算回路172から出力される信号を第2出力信号S2と呼ぶ。
【0040】
出力冗長部170で生成された第1出力信号S1,第2出力信号S2は、それぞれ信号線Ls1,Ls2を介してアシストECU30に送信される。
【0041】
電源部180は、復調用信号送信部120における復調用基準信号の送信ラインを兼用した2本の電源供給線Lp1,Lp2から電力を取り込みセンサユニット100内の回路用の電源を生成する。電源部180は、電源供給線Lp1,Lp2からそれぞれダイオード181,182を介して電力を取り込む電源引込ライン183,184を並列に備え、この電源引込ライン183,184の合流点の負荷側に抵抗185、平滑用のコンデンサ186,187、レギュレータ188を接続して構成される。レギュレータ188は、入力した電源をセンサユニット100内の各回路で使用される電圧レベル(例えば、5V)に変換し、各回路に安定電源電圧を供給する。この電源部180においては、2本の電源供給線Lp1,Lp2から電源供給を受けるため、コンデンサ186,187の容量Cを調整することにより、片側の電源供給線Lp1(Lp2)が断線した場合でも、センサユニット100内の各回路に電源供給可能となっている。
【0042】
上述したようにセンサユニット100においては、アシストECU30のアシスト演算部31に対して、第1トルク信号T1の変調信号と第2トルク信号T2の変調信号とを加算した第1出力信号S1(T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt)),第2出力信号S2(T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt))を出力する。従って、信号線Ls1,Ls2には、それぞれ2つのトルクセンサ151,152で検出した2種類のトルク情報が載っていることになる。
【0043】
次に、第1出力信号S1、第2出力信号S2を受信する側となるアシストECU30のアシスト演算部31について説明する。ここでは、操舵トルク情報を受信して操舵トルクを検出する構成についてのみ説明する。図3は、アシスト演算部31に設けられる操舵トルク検出部200の構成を表す図である。操舵トルク検出部200は、本発明の操舵トルク検出信号受信装置に相当する。操舵トルク検出部200には、復調用基準信号Ref1,Ref1と、第1出力信号S1,第2出力信号S2とが入力される。
【0044】
操舵トルク検出部200は、復調用基準信号生成回路210と、位相差生成部220と、復調用信号生成部230と、トルク抽出用信号生成部240と、マイコン250とを備えている。
【0045】
復調用基準信号生成回路210は、復調用基準信号Ref1,Ref2入力し、1つの復調用基準信号Refを生成する。この場合、復調用基準信号Ref1と復調用基準信号Ref2とは信号波形が反転しているため、復調用基準信号Ref1の波形を反転させた信号Ref1’を生成し、この信号Ref1’と復調用基準信号Ref2とを合わせた信号を復調用基準信号Refとして出力する。従って、復調用基準信号生成回路210は、電源供給線Lp1,Lp2の何れか片側が断線した場合であっても、復調用基準信号Refを出力できるようにバックアップ機能を有している。
【0046】
復調用基準信号Refは、位相差生成部220に供給される。位相差生成部220は、センサユニット100の位相差生成部130と同様の構成であり、第1分周器221と第2分周器222とを備えている。第1分周器221は、復調用基準信号Refの立ち上がりエッジで反転する矩形波を出力する。従って、周波数f0/2のパルス信号を出力する。第2分周器222は、復調用基準信号Refの立ち下がりエッジで反転する矩形波を出力する。従って、第2分周器222から出力されるパルス信号は、第1分周器221から出力されるパルス信号と周波数が等しく(f0/2)、位相が互いに90°ずれている。
【0047】
位相差生成部220の出力するパルス信号は、復調用信号生成部230に供給される。復調用信号生成部230は、センサユニット100の変調用信号生成部140と同様の構成であり、第1分周器221の出力するパルス信号にバンドパスフィルタ処理を施して正弦波信号(sin波信号)を生成する正弦波生成回路231と、第2分周器222の出力するパルス信号にバンドパスフィルタ処理を施して余弦波信号(cos波信号)を生成する余弦波生成回路232とを備えている。
【0048】
sin波信号およびcos波信号は、トルク抽出用信号生成部240に供給される。トルク抽出用信号生成部240は、センサユニット100から出力された第1出力信号S1,第2出力信号S2のそれぞれに、sin波信号,cos波信号を重畳させた信号を生成するもので、第1sin乗算回路241、第1cos乗算回路242、第2sin乗算回路243、第2cos乗算回路244を備えている。
【0049】
第1sin乗算回路241は、第1出力信号S1(T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt))にsin波信号(sin(ωt))を重畳させた第1信号X1を生成する。従って、第1sin乗算回路241の出力する第1信号X1は、次式のように表される。
X1=S1×sin(ωt)=T1×sin2(ωt)+T2×sin(ωt)×cos(ωt)
=T1×sin2(ωt)+T2×sin(2ωt)/2 式(1)
【0050】
第1cos乗算回路242は、第1出力信号S1(T1×sin(ωt)+T2×cos(ωt))にcos波信号(cos(ωt))を重畳させた第2信号X2を生成する。従って、第1cos乗算回路242の出力する第2信号X2は、次式のように表される。
X2=S1×cos(ωt)=T1×sin(ωt)×cos(ωt)+T2×cos2(ωt)
=T1×sin (2ωt)/2+T2×cos2(ωt) 式(2)
【0051】
第2sin乗算回路243は、第2出力信号S2(T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt))にsin波信号(sin(ωt))を重畳させた第3信号X3を生成する。従って、第2sin乗算回路243の出力する第3信号X3は、次式のように表される。
X3=S2×sin(ωt)=T1×sin(ωt)×cos(ωt)+T2×sin2(ωt)
=T1×sin (2ωt)/2+T2×sin2(ωt) 式(3)
【0052】
第2cos乗算回路244は、第2出力信号S2(T1×cos(ωt)+T2×sin(ωt))にcos波信号(cos(ωt))を重畳させた第4信号X4を生成する。従って、第2cos乗算回路244の出力する第4信号X4は、次式のように表される。
X4=S2×cos(ωt)=T1×cos2(ωt)+T2×sin(ωt)×cos(ωt)
=T1×cos2(ωt)+T2×sin (2ωt)/2 式(4)
【0053】
トルク抽出用信号生成部240にて生成した第1信号X1,第2信号X2,第3信号X3,第4信号X4は、マイコン250に供給される。マイコン250は、A/D変換器251,252,253,254を内蔵しており、第1信号X1,第2信号X2,第3信号X3,第4信号X4をそれぞれA/D変換器251,252,253,254にてデジタル値に変換する。
【0054】
ここで、第1信号X1について着目してみると、ωt=π/2、あるいは、ωt=3π/2のときには、sin2(ωt)=1、sin (2ωt)=0 となるため、式(1)から
X1=T1×1+T2×0/2=T1
となる。これにより、第1信号X1から第1トルク信号T1のみを抽出することができる。
同様にして、式(3)から
X3=T1×0/2+T2×1=T2
となる。これにより、第3信号X3から第2トルク信号T2のみを抽出することができる。
【0055】
また、ωt=0あるいはωt=πのときには、cos2(ωt)=1、sin (2ωt)=0 となるため、式(2)から
X2=T1×0/2+T2×1=T2
となる。これにより、第2信号X2から第2トルク信号T2のみを抽出することができる。
同様にして、式(4)から
X4=T1×1+T2×0/2=T1
となる。これにより、第4信号X4から第1トルク信号T1のみを抽出することができる。
【0056】
マイコン250は、復調用基準信号生成回路210の出力する復調用基準信号Refを入力し、この復調用基準信号Refに基づいて、上記タイミング(ωt=0,π/2,π,3π/2)にてA/D変換器251〜254にA/D変換トリガを発行することにより、第1トルクセンサ151および第2トルクセンサ152にて検出した操舵トルクを表す情報を取得することができる。この場合、第1信号X1と第3信号X3に関しては、ωt=π/2およびωt=3π/2となるタイミングでトルク情報を取得するが、ωt=π/2あるいはωt=3π/2の何れか一方となるタイミングでトルク情報を取得しても良い。同様に、第2信号X2と第4信号X4に関しては、ωt=0およびωt=πとなるタイミングでトルク情報を取得するが、ωt=0あるいはωt=πの何れか一方となるタイミングでトルク情報を取得しても良い。
【0057】
また、ωt=0のときには信号X1,X3の値はゼロになり、ωt=π/2のときには信号X2,X4の値はゼロになるはずであるので、これらの時刻における各A/D変換器251〜254のA/D変換値と基準電圧0Vとの差分を検出してオフセット値として設定しておく。これにより、センサユニット100側のグランドとアシストECU30のグランドとを接続する必要が無い。従って、センサユニット100とアシストECU30とを接続する配線本数を4本にて、電源の冗長化、センサ信号の冗長化を図ることができる。
【0058】
尚、A/D変換トリガをマイコン250に直接入力することが困難な場合には、外部にサンプルホールド回路(図示略)を設けて、信号X1,X3についてはωt=π/2あるいはωt=3π/2における信号振幅を、信号X2,X4についてはωt=0あるいはωt=πにおける信号振幅を一時的に保持させるようにすればよい。この場合、マイコン250は、次回のサンプル時刻までにA/D変換を終了すればよいので、マイコン250やソフトウエアの設計自由度を上げることができる。
【0059】
以上説明した本実施形態によれば、センサユニット100とアシストECU30とを4本の配線(信号線Ls1,Ls2と電源供給線Lp1,Lp2)で接続し、信号線Ls1,Ls2を使ってそれぞれ2つのトルクセンサ情報を含んだ信号S1,S2をアシストECU30に送信し、電源供給線Lp1,Lp2を使って復調用基準信号Ref1,Ref2をアシストECU30に送信する。従って、信号線Ls1,Ls2の片方が断線しても、センサユニット100から2種類のトルクセンサ情報をアシストECU30(操舵トルク検出部200)に伝達することができ、電源供給線Lp1,Lp2の片方が断線しても、アシストECU30(操舵トルク検出部200)側で復調用基準信号を生成することができる。この結果、ワイヤハーネスの配線本数の増加を招くことなく、電源バックアップと、2種類のトルクセンサ情報のバックアップとが可能となる。
【0060】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10…転舵機構、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、20…パワーアシスト部、21…電動モータ、30…アシスト制御装置、31…アシスト演算部、32…モータ駆動回路、100…トルクセンサユニット、110…基準パルス発生部、120…復調用信号送信部、121…第1復調用信号送信回路、121…第2復調用信号送信回路、123…反転器、130…位相差生成部、131…第1分周器、132…第2分周器、140…変調用信号生成部、141…正弦波生成回路、142…余弦波生成回路、150…トルクセンサ部、151…第1トルクセンサ、152…第2トルクセンサ、160…トルク信号変調部、161…第1sin乗算回路、162…第1cos乗算回路、163…第2sin乗算回路、164…第2cos乗算回路、170…出力冗長部、171…第1加算回路、172…第2加算回路、180…電源部、200…操舵トルク検出部、210…復調用基準信号生成回路、220…位相差生成部、221…第1分周器、222…第2分周器、230…復調用信号生成部、231…正弦波生成回路、232…余弦波生成回路、240…トルク抽出用信号生成部、241…第1sin乗算回路、242…第1cos乗算回路、243…第2sin乗算回路、244…第2cos乗算回路、250…マイコン、251,252,253,254…A/D変換器、Lp1,Lp2…電源供給線、Ls1,Ls2…信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに働く操舵トルクを検出する2つの操舵トルクセンサを備え、前記2つの操舵トルクセンサのトルク検出信号を、電動パワーステアリング装置の電動モータを駆動制御するアシスト制御装置に送信する操舵トルク検出信号送信装置において、
予め設定した一定周期の基準パルス信号を発生する基準パルス信号発生手段と、
前記アシスト制御装置から2本の電源供給線を介して電源を受ける電源回路と、
前記基準パルス信号を復調用基準信号として前記電源供給線を介して前記アシスト制御装置に送信する復調用基準信号送信手段と、
前記基準パルス信号を使って、互いにπ/2だけ位相のずれた正弦波信号と余弦波信号とを変調用信号として生成する変調用信号生成手段と、
2つの操舵トルクセンサのうちの一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記正弦波信号を重畳した第1トルク変調信号と、前記一方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記余弦波信号を重畳した第2トルク変調信号と、2つの操舵トルクセンサのうちの他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記正弦波信号を重畳した第3トルク変調信号と、前記他方の操舵トルクセンサの出力するトルク検出信号に前記余弦波信号を重畳した第4トルク変調信号とを生成するトルク信号変調手段と、
前記第1トルク変調信号と前記第4トルク変調信号とを加算した第1出力信号と、前記第2トルク変調信号と前記第3トルク変調信号とを加算した第2出力信号とを生成する出力信号生成手段と
を備え、前記第1出力信号を第1信号線を介して前記アシスト制御装置に送信し、前記第2出力信号を第2信号線を介して前記アシスト制御装置に送信することを特徴とする操舵トルク検出信号送信装置。
【請求項2】
前記アシスト制御装置に設けられ、前記2本の電源供給線と前記2本の信号線を介して請求項1記載の操舵トルク検出信号送信装置と接続する操舵トルク検出信号受信装置であって、
前記電源供給線を介して前記復調用基準信号を受信し、前記受信した復調用基準信号を使って互いにπ/2だけ位相のずれた正弦波信号と余弦波信号とを復調用信号として生成する復調用信号生成手段と、
前記第1信号線および第2信号線を介して前記第1出力信号および第2出力信号を受信し、前記第1出力信号に前記正弦波信号を重畳した第1信号と、前記第1出力信号に前記余弦波信号を重畳した第2信号と、前記第2出力信号に前記正弦波信号を重畳した第3信号と、前記第2出力信号に前記余弦波信号を重畳した第4信号とを生成するトルク抽出用信号生成手段と、
前記第1信号および前記第3信号に対しては、前記復調用信号の位相角がπ/2または3π/2となるときの信号出力を取得し、前記第2信号および前記第4信号に対しては、前記復調用信号の位相角が0またはπとなるときの信号出力を取得するトルク検出信号抽出手段と
を備えたことを特徴とする操舵トルク検出信号受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−208600(P2010−208600A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59999(P2009−59999)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】