操舵装置
【課題】ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができるようにする。
【解決手段】予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向θgazeβと、ハンドルの基準位置の方向δswとを一致させるように定められた、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができる。
【解決手段】予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向θgazeβと、ハンドルの基準位置の方向δswとを一致させるように定められた、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に係り、特に、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を実現する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「コーナー進入時において運転者は目標とする経路上で車速に依らず約1.2秒後に到達すべき地点を注視している」という実験データに基づき、現在の車両進行方向と注視点のなす角度がハンドル角と比例するようにステアリングギヤ比を設定する技術が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】清水康夫ほか、「ギヤ比が車速と操舵角の関数として変化するステアリングシステムとその効果について」、社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.21−99、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非特許文献1は、「比例するステアリングギヤ比」についての開示のみであり、具体的な比例ゲインなどの設定方法についての開示はなく、ギヤ比が小さすぎると操舵角に対して実舵角が大きくクイックになりすぎて、ドライバが違和感を覚えてしまう、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明に係る操舵装置は、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現するように構成されている。
【0007】
本発明に係る操舵装置によれば、予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させる。
【0008】
このように、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0009】
本発明に係る操舵装置は、車両のステアリングギヤ比によってハンドルの操舵角とヨー角速度との関係を実現するようにすることができる。
【0010】
上記の前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とすることができる。
【0011】
上記のハンドルの舵角とヨー角速度との関係を、ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めることができる。
【0012】
また、上記のハンドルの舵角とヨー角速度との関係を、ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させると共に、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約されるように定めることができる。これによって、ハンドルの舵角が大きな領域で、操縦性を損なわないようにすることができる。
【0013】
上記の上限値を、0.35〜0.38[1/s]とすることができる。
【0014】
本発明に係る操舵装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出されたハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、を含んで構成することができる。
【0015】
また、上記のヨー角速度ゲイン算出手段は、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出されたハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係から予め求められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出することができる。
【0016】
本発明に係る操舵装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、を含んで構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】車両の進行方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図4】(A)相対俯角を示すイメージ図、及び(B)車両前後方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図5】(A)ドライバの頭部が移動した様子を示すイメージ図、(B)ドライバの頭部とハンドル中心との距離を示すイメージ図、及び(C)ドライバの頭部が移動したときのハンドルの舵角と前方注視角と相対俯角との関係を示すイメージ図である。
【図6】ハンドルの舵角とロール角の相対角と、ヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図7】ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のギヤ比制御処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図10】ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両に搭載され、かつ、車両のステアリングギヤ比を制御する車両操舵装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る車両操舵装置10は、ステアリングホイール12に連動する回動軸14に、ステアリングギヤ比可変機構16が接続されている。このステアリングギヤ比可変機構16からは、出力軸18が突出しており、この出力軸18に連結されたピニオン20が、図示を省略した操舵輪に連結されたラック軸22に噛合している。
【0021】
従って、ステアリングホイール12の回転が、ステアリングギヤ比可変機構16を介して、ピニオン20に伝わり、ラック軸22がその軸方向(図1の矢印W方向)へ移動することによって、操舵輪が転舵するようになっている。
【0022】
ステアリングギヤ比可変機構16は、コンピュータ24に連結されている。ステアリングギヤ比可変機構16は、従来からある周知の構造とされており、コンピュータ24から出力されるギヤ比指令信号に基づいてステアリングギヤ比可変機構16のステアリングギヤ比を変更するようになっている。
【0023】
図2に示すように、コンピュータ24は、自車両の車速を検出する車速センサ26と、ステアリングホイール12の舵角(ハンドルの舵角)を検出する操舵角センサ28とに接続されている。
【0024】
コンピュータ24は、CPUと、RAMと、後述するギヤ比制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ24は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度ゲインの関係を示すマップを予め記憶したマップ記憶手段30と、車速センサ26からの車速及び操舵角センサ28からの舵角に基づいて、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出するヨーゲイン算出手段32と、算出されたヨー角速度ゲインの目標値を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出手段34と、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号を出力するギヤ比制御手段36とを備えている。
【0025】
次に、本実施の形態の原理について説明する。
【0026】
まず、ドライバモデルに関して、特願2009−9863号明細書の記載から、車両の進行方向と、前記車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角である前方注視角と、一定時間後のヨー角速度とが、車速に依存することなく比例関係にあることがわかっている。
【0027】
すなわち、車両の進行方向(速度ベクトルの方向)と前方注視時間T後の車両の目標到達点の方向との偏角θgaze(図3(A)、(B)参照)から、ドライバがハンドル操作することによって実現される車両運動予測値としてのヨー角速度の予測値rpreが、以下の(1)式によって演算される。
【0028】
【数1】
【0029】
ただし、krは前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインであり、τは、むだ時間である。ここで、むだ時間τとは、車両運動の変化のタイミングと走行コースの曲率の変化のタイミングとを合わせるための時間であり、予め定められた時間である。
【0030】
上記(1)式は、ドライバが前方注視角に基づいてハンドルを操作していることを示す結果である。
【0031】
また、理論解析の結果、前方注視時間Tgazeと前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkrの間には、以下の(2)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0032】
【数2】
【0033】
本実施の形態では、前方注視時間Tgazeを2.5秒〜3.5秒の一定時間として設定する。
【0034】
また、前方注視時間Tgazeとむだ時間τの間には、以下の(3)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0035】
【数3】
【0036】
このようにドライバは前方注視角に基づいてハンドルを操作していることから、ドライバの意図であり、前方注視時間後にこの位置を通過するという意味で、車両運動の出力でもある前方注視点の方向と、ドライバの操作量であるハンドルの基準位置の方向とを、図4(B)に示すように一致させることにより、車両とドライバの一体感や操作性、アジリティなどを向上させることに、本実施の形態では着目した。
【0037】
ところで、上記図3(A)、(B)で定義した前方注視角は、自動車の進行方向を基準としていたが、ハンドルの舵角との関係を一致させるためには、ドライバが着席している車体前後方向を基準とする必要がある。そこで、本実施の形態では、以下の(4)式に示すように前方注視角に車体スリップ角を加えた角度(車両前後方向と、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角)と、ハンドルの舵角(ハンドル中立状態での基準位置と現在のハンドルの基準位置との相対角度)を一致させることを考える。
【0038】
【数4】
【0039】
また、図4(A)に示すように、ハンドル中心と前方注視点との相対俯角をθzとすると、操舵角δswが注視点の方向と一致するための条件として、以下の(5)式が得られる。
【0040】
【数5】
【0041】
なお、上記(5)式では、ロール運動のためにハンドル角が見かけ上、ロール角だけ切り戻されることを考慮している。また、Krollは、ロール率である。
【0042】
ところで、前方注視時間Tgazeと、前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkrとの間には、上記(2)式の関係が成立することから、前方注視角θgazeは、以下の(6)式で記述される。
【0043】
【数6】
【0044】
さらに、車体スリップ角βは、車両運動の線形モデルから、以下の(7)式で記述される。
【0045】
【数7】
【0046】
上記(6)式、(7)式により、上記(5)式は、以下の(8)式に書き直すことができる。
【0047】
【数8】
【0048】
ただし、Crは後輪コーナリングパワーであり、lは、ホイールベースであり、lrは、重心−後軸間距離である。また、mは車両質量であり、vは車速である。
【0049】
ところで、上記(8)式の関係は、ドライバの視点位置は変化しないという仮定の下での関係式であるが、実車走行時には、横加速度の影響を受けて、ドライバ姿勢すなわち視点の位置が変化することを考慮する必要がある。図5(A)に示すように車両の横加速度に比例してドライバの頭部が横加速度に対抗する方向にhy移動すると、ドライバから見たハンドルの中心は、以下の(9)式で求められるθdだけ旋回外向きに移動する。
【0050】
【数9】
【0051】
ただし、hxはドライバ頭部とハンドル中心の距離である(図5(B)参照)。
【0052】
したがって、図5(C)から、ドライバ頭部移動時の操舵角δswの方向(ハンドルの基準位置の方向)が、前方注視点の方向と一致するための条件は、以下の(10)式で表される。
【0053】
【数10】
【0054】
本実施の形態では、横加速度が9.8 [m/s2] 発生したときにhy= hymax 移動するとして、以下の(11)式のように、θdを定式化する。
【0055】
【数11】
【0056】
さらに、横加速度とヨー角速度との関係(スリップ角が増加しないための条件)は、以下の(12)式で表される。
【0057】
【数12】
【0058】
上記(11)式、(12)式を考慮すると、以下の(13)式で表される関係式が導出される。
【0059】
【数13】
【0060】
また、相対俯角θzは、ドライバの視点からハンドル中心までのハンドル中心俯角θzswと前方注視時間Tgazeとアイポイント高heyeとに基づく、以下の(14)式で表される関係が成立する。
【0061】
【数14】
【0062】
上記(14)式より、上記(13)式は、以下の(15)式で記述できる。
【0063】
【数15】
【0064】
ここで、以下の式を仮定する。
【0065】
【数16】
【0066】
この式により、上記(15)式は、以下の(16)式で記述できる。
【0067】
【数17】
【0068】
上記(16)式は、図6の破線が示すように、ヨー角速度rが、ハンドルの舵角δswとロール角φ(=Kroll・r・v)との相対角(δsw−φ)のタンジェントに比例することを表している。また、上記(16)式が、本発明におけるハンドルの舵角とヨー角速度との関係の一例を表わしている。
【0069】
ところで、上記(16)式に基づいて操舵系の制御を行った場合、ハンドルの舵角とロール角の相対角が90degに近づくとヨー角速度は無限に大きくなり、90deg以内の操舵角領域ですべての運転操作が行われることになる。このような特性では、ハンドルを持ち替える必要がない、という利点がある一方で、ハンドル操舵という操作に対する車両運動の変化を過敏に感じる場合があり操縦性を損なってしまう、という欠点も持ち合わせることになる。
【0070】
そこで、車両運動の変化を過敏に感じ、操縦性を損なう特性を調べるために、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を様々に変化させた車両を用い、定常円旋回からの修正操舵などのタスクを与える官能評価実験を行なった。この官能評価実験の結果、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配の上限、すなわちこれ以上の勾配を設定した場合に操縦性が損なわれる、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配は、個人差があるものの0.35〜0.38[1/s]の間にあることがわかった。この実験は、走行する速度を変更して実施したが、速度ごとの上限値の変化は見られなかった。なお、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配は、ヨー角速度の変化量Δrとハンドルの舵角の変化量Δδswとの比(Δr/Δδsw)である。
【0071】
以上により、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に満たない操舵角領域では、上記(16)式に基づいて求められるヨー角速度を目標値とするとともに、上記(16)式から演算されたハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を越えるときには、図6の実線が示すように、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値に制約するようにヨー角速度の目標値を修正することが好ましい。
【0072】
このように、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の特性を設定することによって、車両運動の変化を過敏に感じる手前の大きな操舵角までの領域において、ドライバの視点から見た、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とを一致させることができ、さらに大きな操舵角の領域では、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となる。
【0073】
本実施の形態では、ヨー角速度とハンドルの舵角の比であるヨー角速度ゲインkと、ハンドルの舵角δswとの関係を示すマップを求めるために、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値に満たない操舵角領域では、上記(16)式に基づいて算出されるヨー角速度を、ヨー角速度ゲインに変換し、また、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を超える舵角領域では、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値とするように修正したヨー角速度を、ヨー角速度ゲインに変換した。これによって、図7に示すような、各車速毎に、ヨー角速度ゲインkとハンドルの舵角δswとの関係を示すマップが得られる。なお、上記図7の破線は、上記(16)式に基づいて導出されたヨー角速度ゲインを示し、実線は、上記(16)式から導出されるハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を超えた場合にその上限値に制約した特性を示している。
【0074】
以上説明した原理に基づいて、本実施の形態に係る車両操舵装置10のマップ記憶手段30には、上記図7の実線に示すような、各車速毎に、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を定めたマップが記憶されている。
【0075】
ヨーゲイン算出手段32は、車速センサ26によって検出された車速、及び操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角とに対応するヨー角速度ゲインの目標値を、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って算出する。
【0076】
次に、上記のマップに基づいて算出される目標とするヨー角速度ゲインを実現するための制御方法について説明する。
【0077】
目標とするヨー角速度ゲインは、ハンドルと前輪の実舵角を転舵する機構との間に設けたステアリングギヤ比可変機構16の特性を、車速に応じてアクティブに変更することにより実現される。前輪の実舵角δfとヨー角速度rとの間には、車両運動の動特性を無視すると、以下の(17)式で表される関係が成立している。
【0078】
【数18】
【0079】
ただし、Cfは、前輪コーナリングパワーである。ハンドルの舵角δswと前輪実舵角δfとの間のステアリングギヤ比をgswとすると、以下の(18)式の関係が得られる。
【0080】
【数19】
【0081】
上記(17)式、(18)式により、上記図6に示すマップから算出されるヨー角速度ゲインkを実現するためのステアリングギヤ比gswは、以下の(19)式で表される。
【0082】
【数20】
【0083】
ギヤ比算出手段34は、上記(19)式に従って、ヨーゲイン算出手段32によって算出された目標とするヨー角速度ゲインkと、車速センサ26によって検出された車速vとに基づいて、ステアリングギヤ比を算出する。
【0084】
ギヤ比制御手段36は、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御する。
【0085】
次に、本実施の形態に係る車両操舵装置10の作用について説明する。車両操舵装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ24において、図8に示すギヤ比制御処理ルーチンが実行される。
【0086】
まず、ステップ100において、車速センサ26より検出された車速及び操舵角センサ28より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、ステップ102において、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って、上記ステップ100で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度ゲインの目標値を算出する。
【0087】
次のステップ104では、上記ステップ100で取得した車速と上記ステップ102で算出されたヨー角速度ゲインの目標値とから、上記(19)式に従って、ヨー角速度ゲインの目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、ステップ106において、上記ステップ104で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、上記ステップ100へ戻る。
【0088】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度ゲインの目標値が各々実現される。
【0089】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0090】
ハンドルの基準位置の方向を前方注視点の方向に一致させることによって、車両との一体感が向上する点に着目し、ドライバから見える前方注視点の方向とハンドルの基準位置の方向が一致するようなヨー角速度ゲイン(操舵角からヨー角速度までのゲイン)を設定した。このようなヨー角速度ゲインは、前方注視角がハンドルの舵角のタンジェントに比例するようなステアリングギヤ比によって実現されるが、従来技術では、前方注視角がハンドルの舵角に比例するように設定されており、従来技術では実現できない特性となっている。
【0091】
また、一定時間後の目標到達点と進行方向のなす角度である前方注視角とヨー角速度とは比例することから、本実施の形態の車両操舵装置は、ハンドルの舵角のタンジェントに比例するヨー角速度を出力することになる。これは、ハンドルを切り増すにしたがってヨー角速度ゲインが増加することを意味しており、ハンドルの舵角に依存しないヨー角速度ゲインを有する従来技術では、比較的大きな操舵領域において、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向を一致させることができない。これに対し、本実施の形態では、大きな操舵領域においても、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とが一致する結果、大きな操舵領域における一体感も向上させることができる。
【0092】
また、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約することにより、大きな操舵角の領域において、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となるため、本実施の形態に係る車両操舵装置は、操縦性を損なうことなく、車両とドライバとの一体感を向上させることが可能となる。
【0093】
次に、第2の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0094】
第2の実施の形態では、ヨー角速度の目標値を算出して、ヨー角速度の目標値を実現するようにステアリングギヤ比を制御している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0095】
図9に示すように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータ224は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度の関係を示すマップを予め記憶したマップ記憶手段230と、車速センサ26からの車速及び操舵角センサ28からの舵角に基づいて、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って、ヨー角速度の目標値を算出するヨーレート算出手段232と、算出されたヨー角速度を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出手段234と、ギヤ比制御手段36とを備えている。
【0096】
上記第1の実施の形態で説明した上記(16)式に対して、数値演算を行って解いた結果、図10の破線が示すような、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係が、各車速毎に得られ、第1の実施の形態と同様に、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値に制約するようにヨー角速度の目標値を修正することにより、図10の実線に示すようなハンドルの舵角とヨー角速度との関係が、各車速毎に得られる。
【0097】
本実施の形態に係る車両操舵装置のマップ記憶手段230には、各車速毎に、上記図10の実線に示すようなハンドルの舵角とヨー角速度との関係を定めたマップが記憶されている。
【0098】
ヨーレート算出手段232は、車速センサ26によって検出された車速、及び操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角とに対応するヨー角速度を、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って算出する。
【0099】
ギヤ比算出手段234は、ヨーレート算出手段232によって算出された目標とするヨー角速度rと、車速センサ26によって検出された車速vとに基づいて、上記(17)式に従って、目標とするヨー角速度rを実現する前輪実舵角δfを算出し、算出された前輪実舵角δfと、操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角δswとに基づいて、上記(18)式に従って、ステアリングギヤ比を算出する。
【0100】
次に、第2の実施の形態に係るギヤ比制御処理ルーチンについて説明する。
【0101】
まず、車速センサ26より検出された車速及び操舵角センサ28より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って、上記で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度の目標値を算出する。
【0102】
次に、上記で取得した車速と上記で算出されたヨー角速度の目標値とから、上記(17)式、(18)式に従って、ヨー角速度の目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、上記で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、最初の処理へ戻る。
【0103】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度の目標値が各々実現される。
【0104】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すマップに従って、ヨー角速度の目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0105】
次に、第3の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0106】
第3の実施の形態では、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を機構的に実現している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0107】
図11に示すように、第3の発明の実施の形態に係る車両操舵装置310は、ステアリングホイール12に連動する回動軸14に連結されたピニオン320が、図示を省略した操舵輪に連結されたラック軸22に噛合している。
【0108】
従って、ステアリングホイール12の回転が、回動軸14を介して、ピニオン320に伝わり、ラック軸22がその軸方向(図1の矢印W方向)へ移動することによって、操舵輪が転舵するようになっている。
【0109】
ピニオン320のピニオンギヤは、以下のように設計されている。
【0110】
まず、上記第1の実施の形態で説明した上記図7の実線が示す車速毎のハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係から、特定速度(例えば、50〜60km)におけるハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を求める。
【0111】
求められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係と、上記(19)式とに基づいて、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を求める。
【0112】
求められたハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を実現するように、ピニオン320のピニオンギヤを設計する。
【0113】
本実施の形態に係る車両操舵装置310を搭載した車両は、ピニオン320のピニオンギヤにより、ハンドルの舵角に応じて、ヨー角速度ゲインの目標値を実現するようなステアリングギヤ比となる。
【0114】
これによって、特定速度で走行しているときには、車両運動の変化を過敏に感じる手前の大きな操舵角までの領域において、ドライバの視点から見た、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とを一致させることができ、さらに大きな操舵角の領域では、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となる。
【0115】
なお、上記の実施の形態では、第1の実施の形態で用いたマップが示すハンドルの舵角とヨー角速度ゲインの関係に従って、ステアリングギヤ比を設計した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、第2の実施の形態で説明したマップが示すハンドルの舵角とヨー角速度の関係に従って、ステアリングギヤ比を設計するようにしてもよい。この場合には、まず、上記第2の実施の形態で説明した、車速毎の上記図10の実線が示すハンドルの舵角とヨー角速度との関係から、特定速度(例えば、50〜60km)におけるハンドルの舵角とヨー角速度との関係を求める。求められたハンドルの舵角とヨー角速度との関係と、上記(17)式、(18)式とに基づいて、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を求める。求められたハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を実現するように、ピニオン320のピニオンギヤを設計する。
【0116】
また、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、前輪の操舵を制御する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、後輪の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。また、前輪及び後輪の双方の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、前輪の実舵角と後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する前後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。
【符号の説明】
【0117】
10、310 車両操舵装置
12 ステアリングホイール
16 ステアリングギヤ比可変機構
20、320 ピニオン
24、224 コンピュータ
26 車速センサ
28 操舵角センサ
30、230 マップ記憶手段
32 ヨーゲイン算出手段
34、234 ギヤ比算出手段
36 ギヤ比制御手段
232 ヨーレート算出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に係り、特に、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を実現する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「コーナー進入時において運転者は目標とする経路上で車速に依らず約1.2秒後に到達すべき地点を注視している」という実験データに基づき、現在の車両進行方向と注視点のなす角度がハンドル角と比例するようにステアリングギヤ比を設定する技術が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】清水康夫ほか、「ギヤ比が車速と操舵角の関数として変化するステアリングシステムとその効果について」、社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.21−99、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非特許文献1は、「比例するステアリングギヤ比」についての開示のみであり、具体的な比例ゲインなどの設定方法についての開示はなく、ギヤ比が小さすぎると操舵角に対して実舵角が大きくクイックになりすぎて、ドライバが違和感を覚えてしまう、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明に係る操舵装置は、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現するように構成されている。
【0007】
本発明に係る操舵装置によれば、予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させる。
【0008】
このように、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0009】
本発明に係る操舵装置は、車両のステアリングギヤ比によってハンドルの操舵角とヨー角速度との関係を実現するようにすることができる。
【0010】
上記の前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とすることができる。
【0011】
上記のハンドルの舵角とヨー角速度との関係を、ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めることができる。
【0012】
また、上記のハンドルの舵角とヨー角速度との関係を、ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させると共に、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約されるように定めることができる。これによって、ハンドルの舵角が大きな領域で、操縦性を損なわないようにすることができる。
【0013】
上記の上限値を、0.35〜0.38[1/s]とすることができる。
【0014】
本発明に係る操舵装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出されたハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、を含んで構成することができる。
【0015】
また、上記のヨー角速度ゲイン算出手段は、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出されたハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係から予め求められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出することができる。
【0016】
本発明に係る操舵装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、車速検出手段によって検出された車速、舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及びハンドルの舵角と車速及びヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、を含んで構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】車両の進行方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図4】(A)相対俯角を示すイメージ図、及び(B)車両前後方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図5】(A)ドライバの頭部が移動した様子を示すイメージ図、(B)ドライバの頭部とハンドル中心との距離を示すイメージ図、及び(C)ドライバの頭部が移動したときのハンドルの舵角と前方注視角と相対俯角との関係を示すイメージ図である。
【図6】ハンドルの舵角とロール角の相対角と、ヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図7】ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のギヤ比制御処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図10】ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両に搭載され、かつ、車両のステアリングギヤ比を制御する車両操舵装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る車両操舵装置10は、ステアリングホイール12に連動する回動軸14に、ステアリングギヤ比可変機構16が接続されている。このステアリングギヤ比可変機構16からは、出力軸18が突出しており、この出力軸18に連結されたピニオン20が、図示を省略した操舵輪に連結されたラック軸22に噛合している。
【0021】
従って、ステアリングホイール12の回転が、ステアリングギヤ比可変機構16を介して、ピニオン20に伝わり、ラック軸22がその軸方向(図1の矢印W方向)へ移動することによって、操舵輪が転舵するようになっている。
【0022】
ステアリングギヤ比可変機構16は、コンピュータ24に連結されている。ステアリングギヤ比可変機構16は、従来からある周知の構造とされており、コンピュータ24から出力されるギヤ比指令信号に基づいてステアリングギヤ比可変機構16のステアリングギヤ比を変更するようになっている。
【0023】
図2に示すように、コンピュータ24は、自車両の車速を検出する車速センサ26と、ステアリングホイール12の舵角(ハンドルの舵角)を検出する操舵角センサ28とに接続されている。
【0024】
コンピュータ24は、CPUと、RAMと、後述するギヤ比制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ24は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度ゲインの関係を示すマップを予め記憶したマップ記憶手段30と、車速センサ26からの車速及び操舵角センサ28からの舵角に基づいて、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出するヨーゲイン算出手段32と、算出されたヨー角速度ゲインの目標値を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出手段34と、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号を出力するギヤ比制御手段36とを備えている。
【0025】
次に、本実施の形態の原理について説明する。
【0026】
まず、ドライバモデルに関して、特願2009−9863号明細書の記載から、車両の進行方向と、前記車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角である前方注視角と、一定時間後のヨー角速度とが、車速に依存することなく比例関係にあることがわかっている。
【0027】
すなわち、車両の進行方向(速度ベクトルの方向)と前方注視時間T後の車両の目標到達点の方向との偏角θgaze(図3(A)、(B)参照)から、ドライバがハンドル操作することによって実現される車両運動予測値としてのヨー角速度の予測値rpreが、以下の(1)式によって演算される。
【0028】
【数1】
【0029】
ただし、krは前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインであり、τは、むだ時間である。ここで、むだ時間τとは、車両運動の変化のタイミングと走行コースの曲率の変化のタイミングとを合わせるための時間であり、予め定められた時間である。
【0030】
上記(1)式は、ドライバが前方注視角に基づいてハンドルを操作していることを示す結果である。
【0031】
また、理論解析の結果、前方注視時間Tgazeと前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkrの間には、以下の(2)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0032】
【数2】
【0033】
本実施の形態では、前方注視時間Tgazeを2.5秒〜3.5秒の一定時間として設定する。
【0034】
また、前方注視時間Tgazeとむだ時間τの間には、以下の(3)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0035】
【数3】
【0036】
このようにドライバは前方注視角に基づいてハンドルを操作していることから、ドライバの意図であり、前方注視時間後にこの位置を通過するという意味で、車両運動の出力でもある前方注視点の方向と、ドライバの操作量であるハンドルの基準位置の方向とを、図4(B)に示すように一致させることにより、車両とドライバの一体感や操作性、アジリティなどを向上させることに、本実施の形態では着目した。
【0037】
ところで、上記図3(A)、(B)で定義した前方注視角は、自動車の進行方向を基準としていたが、ハンドルの舵角との関係を一致させるためには、ドライバが着席している車体前後方向を基準とする必要がある。そこで、本実施の形態では、以下の(4)式に示すように前方注視角に車体スリップ角を加えた角度(車両前後方向と、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角)と、ハンドルの舵角(ハンドル中立状態での基準位置と現在のハンドルの基準位置との相対角度)を一致させることを考える。
【0038】
【数4】
【0039】
また、図4(A)に示すように、ハンドル中心と前方注視点との相対俯角をθzとすると、操舵角δswが注視点の方向と一致するための条件として、以下の(5)式が得られる。
【0040】
【数5】
【0041】
なお、上記(5)式では、ロール運動のためにハンドル角が見かけ上、ロール角だけ切り戻されることを考慮している。また、Krollは、ロール率である。
【0042】
ところで、前方注視時間Tgazeと、前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkrとの間には、上記(2)式の関係が成立することから、前方注視角θgazeは、以下の(6)式で記述される。
【0043】
【数6】
【0044】
さらに、車体スリップ角βは、車両運動の線形モデルから、以下の(7)式で記述される。
【0045】
【数7】
【0046】
上記(6)式、(7)式により、上記(5)式は、以下の(8)式に書き直すことができる。
【0047】
【数8】
【0048】
ただし、Crは後輪コーナリングパワーであり、lは、ホイールベースであり、lrは、重心−後軸間距離である。また、mは車両質量であり、vは車速である。
【0049】
ところで、上記(8)式の関係は、ドライバの視点位置は変化しないという仮定の下での関係式であるが、実車走行時には、横加速度の影響を受けて、ドライバ姿勢すなわち視点の位置が変化することを考慮する必要がある。図5(A)に示すように車両の横加速度に比例してドライバの頭部が横加速度に対抗する方向にhy移動すると、ドライバから見たハンドルの中心は、以下の(9)式で求められるθdだけ旋回外向きに移動する。
【0050】
【数9】
【0051】
ただし、hxはドライバ頭部とハンドル中心の距離である(図5(B)参照)。
【0052】
したがって、図5(C)から、ドライバ頭部移動時の操舵角δswの方向(ハンドルの基準位置の方向)が、前方注視点の方向と一致するための条件は、以下の(10)式で表される。
【0053】
【数10】
【0054】
本実施の形態では、横加速度が9.8 [m/s2] 発生したときにhy= hymax 移動するとして、以下の(11)式のように、θdを定式化する。
【0055】
【数11】
【0056】
さらに、横加速度とヨー角速度との関係(スリップ角が増加しないための条件)は、以下の(12)式で表される。
【0057】
【数12】
【0058】
上記(11)式、(12)式を考慮すると、以下の(13)式で表される関係式が導出される。
【0059】
【数13】
【0060】
また、相対俯角θzは、ドライバの視点からハンドル中心までのハンドル中心俯角θzswと前方注視時間Tgazeとアイポイント高heyeとに基づく、以下の(14)式で表される関係が成立する。
【0061】
【数14】
【0062】
上記(14)式より、上記(13)式は、以下の(15)式で記述できる。
【0063】
【数15】
【0064】
ここで、以下の式を仮定する。
【0065】
【数16】
【0066】
この式により、上記(15)式は、以下の(16)式で記述できる。
【0067】
【数17】
【0068】
上記(16)式は、図6の破線が示すように、ヨー角速度rが、ハンドルの舵角δswとロール角φ(=Kroll・r・v)との相対角(δsw−φ)のタンジェントに比例することを表している。また、上記(16)式が、本発明におけるハンドルの舵角とヨー角速度との関係の一例を表わしている。
【0069】
ところで、上記(16)式に基づいて操舵系の制御を行った場合、ハンドルの舵角とロール角の相対角が90degに近づくとヨー角速度は無限に大きくなり、90deg以内の操舵角領域ですべての運転操作が行われることになる。このような特性では、ハンドルを持ち替える必要がない、という利点がある一方で、ハンドル操舵という操作に対する車両運動の変化を過敏に感じる場合があり操縦性を損なってしまう、という欠点も持ち合わせることになる。
【0070】
そこで、車両運動の変化を過敏に感じ、操縦性を損なう特性を調べるために、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を様々に変化させた車両を用い、定常円旋回からの修正操舵などのタスクを与える官能評価実験を行なった。この官能評価実験の結果、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配の上限、すなわちこれ以上の勾配を設定した場合に操縦性が損なわれる、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配は、個人差があるものの0.35〜0.38[1/s]の間にあることがわかった。この実験は、走行する速度を変更して実施したが、速度ごとの上限値の変化は見られなかった。なお、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配は、ヨー角速度の変化量Δrとハンドルの舵角の変化量Δδswとの比(Δr/Δδsw)である。
【0071】
以上により、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に満たない操舵角領域では、上記(16)式に基づいて求められるヨー角速度を目標値とするとともに、上記(16)式から演算されたハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を越えるときには、図6の実線が示すように、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値に制約するようにヨー角速度の目標値を修正することが好ましい。
【0072】
このように、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の特性を設定することによって、車両運動の変化を過敏に感じる手前の大きな操舵角までの領域において、ドライバの視点から見た、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とを一致させることができ、さらに大きな操舵角の領域では、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となる。
【0073】
本実施の形態では、ヨー角速度とハンドルの舵角の比であるヨー角速度ゲインkと、ハンドルの舵角δswとの関係を示すマップを求めるために、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値に満たない操舵角領域では、上記(16)式に基づいて算出されるヨー角速度を、ヨー角速度ゲインに変換し、また、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を超える舵角領域では、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値とするように修正したヨー角速度を、ヨー角速度ゲインに変換した。これによって、図7に示すような、各車速毎に、ヨー角速度ゲインkとハンドルの舵角δswとの関係を示すマップが得られる。なお、上記図7の破線は、上記(16)式に基づいて導出されたヨー角速度ゲインを示し、実線は、上記(16)式から導出されるハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が上限値を超えた場合にその上限値に制約した特性を示している。
【0074】
以上説明した原理に基づいて、本実施の形態に係る車両操舵装置10のマップ記憶手段30には、上記図7の実線に示すような、各車速毎に、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を定めたマップが記憶されている。
【0075】
ヨーゲイン算出手段32は、車速センサ26によって検出された車速、及び操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角とに対応するヨー角速度ゲインの目標値を、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って算出する。
【0076】
次に、上記のマップに基づいて算出される目標とするヨー角速度ゲインを実現するための制御方法について説明する。
【0077】
目標とするヨー角速度ゲインは、ハンドルと前輪の実舵角を転舵する機構との間に設けたステアリングギヤ比可変機構16の特性を、車速に応じてアクティブに変更することにより実現される。前輪の実舵角δfとヨー角速度rとの間には、車両運動の動特性を無視すると、以下の(17)式で表される関係が成立している。
【0078】
【数18】
【0079】
ただし、Cfは、前輪コーナリングパワーである。ハンドルの舵角δswと前輪実舵角δfとの間のステアリングギヤ比をgswとすると、以下の(18)式の関係が得られる。
【0080】
【数19】
【0081】
上記(17)式、(18)式により、上記図6に示すマップから算出されるヨー角速度ゲインkを実現するためのステアリングギヤ比gswは、以下の(19)式で表される。
【0082】
【数20】
【0083】
ギヤ比算出手段34は、上記(19)式に従って、ヨーゲイン算出手段32によって算出された目標とするヨー角速度ゲインkと、車速センサ26によって検出された車速vとに基づいて、ステアリングギヤ比を算出する。
【0084】
ギヤ比制御手段36は、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御する。
【0085】
次に、本実施の形態に係る車両操舵装置10の作用について説明する。車両操舵装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ24において、図8に示すギヤ比制御処理ルーチンが実行される。
【0086】
まず、ステップ100において、車速センサ26より検出された車速及び操舵角センサ28より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、ステップ102において、マップ記憶手段30に記憶されたマップに従って、上記ステップ100で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度ゲインの目標値を算出する。
【0087】
次のステップ104では、上記ステップ100で取得した車速と上記ステップ102で算出されたヨー角速度ゲインの目標値とから、上記(19)式に従って、ヨー角速度ゲインの目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、ステップ106において、上記ステップ104で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、上記ステップ100へ戻る。
【0088】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度ゲインの目標値が各々実現される。
【0089】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0090】
ハンドルの基準位置の方向を前方注視点の方向に一致させることによって、車両との一体感が向上する点に着目し、ドライバから見える前方注視点の方向とハンドルの基準位置の方向が一致するようなヨー角速度ゲイン(操舵角からヨー角速度までのゲイン)を設定した。このようなヨー角速度ゲインは、前方注視角がハンドルの舵角のタンジェントに比例するようなステアリングギヤ比によって実現されるが、従来技術では、前方注視角がハンドルの舵角に比例するように設定されており、従来技術では実現できない特性となっている。
【0091】
また、一定時間後の目標到達点と進行方向のなす角度である前方注視角とヨー角速度とは比例することから、本実施の形態の車両操舵装置は、ハンドルの舵角のタンジェントに比例するヨー角速度を出力することになる。これは、ハンドルを切り増すにしたがってヨー角速度ゲインが増加することを意味しており、ハンドルの舵角に依存しないヨー角速度ゲインを有する従来技術では、比較的大きな操舵領域において、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向を一致させることができない。これに対し、本実施の形態では、大きな操舵領域においても、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とが一致する結果、大きな操舵領域における一体感も向上させることができる。
【0092】
また、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約することにより、大きな操舵角の領域において、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となるため、本実施の形態に係る車両操舵装置は、操縦性を損なうことなく、車両とドライバとの一体感を向上させることが可能となる。
【0093】
次に、第2の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0094】
第2の実施の形態では、ヨー角速度の目標値を算出して、ヨー角速度の目標値を実現するようにステアリングギヤ比を制御している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0095】
図9に示すように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータ224は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度の関係を示すマップを予め記憶したマップ記憶手段230と、車速センサ26からの車速及び操舵角センサ28からの舵角に基づいて、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って、ヨー角速度の目標値を算出するヨーレート算出手段232と、算出されたヨー角速度を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出手段234と、ギヤ比制御手段36とを備えている。
【0096】
上記第1の実施の形態で説明した上記(16)式に対して、数値演算を行って解いた結果、図10の破線が示すような、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係が、各車速毎に得られ、第1の実施の形態と同様に、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を上限値に制約するようにヨー角速度の目標値を修正することにより、図10の実線に示すようなハンドルの舵角とヨー角速度との関係が、各車速毎に得られる。
【0097】
本実施の形態に係る車両操舵装置のマップ記憶手段230には、各車速毎に、上記図10の実線に示すようなハンドルの舵角とヨー角速度との関係を定めたマップが記憶されている。
【0098】
ヨーレート算出手段232は、車速センサ26によって検出された車速、及び操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角とに対応するヨー角速度を、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って算出する。
【0099】
ギヤ比算出手段234は、ヨーレート算出手段232によって算出された目標とするヨー角速度rと、車速センサ26によって検出された車速vとに基づいて、上記(17)式に従って、目標とするヨー角速度rを実現する前輪実舵角δfを算出し、算出された前輪実舵角δfと、操舵角センサ28によって検出されたハンドルの舵角δswとに基づいて、上記(18)式に従って、ステアリングギヤ比を算出する。
【0100】
次に、第2の実施の形態に係るギヤ比制御処理ルーチンについて説明する。
【0101】
まず、車速センサ26より検出された車速及び操舵角センサ28より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、マップ記憶手段230に記憶されたマップに従って、上記で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度の目標値を算出する。
【0102】
次に、上記で取得した車速と上記で算出されたヨー角速度の目標値とから、上記(17)式、(18)式に従って、ヨー角速度の目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、上記で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、最初の処理へ戻る。
【0103】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度の目標値が各々実現される。
【0104】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すマップに従って、ヨー角速度の目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0105】
次に、第3の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0106】
第3の実施の形態では、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を機構的に実現している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0107】
図11に示すように、第3の発明の実施の形態に係る車両操舵装置310は、ステアリングホイール12に連動する回動軸14に連結されたピニオン320が、図示を省略した操舵輪に連結されたラック軸22に噛合している。
【0108】
従って、ステアリングホイール12の回転が、回動軸14を介して、ピニオン320に伝わり、ラック軸22がその軸方向(図1の矢印W方向)へ移動することによって、操舵輪が転舵するようになっている。
【0109】
ピニオン320のピニオンギヤは、以下のように設計されている。
【0110】
まず、上記第1の実施の形態で説明した上記図7の実線が示す車速毎のハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係から、特定速度(例えば、50〜60km)におけるハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を求める。
【0111】
求められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係と、上記(19)式とに基づいて、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を求める。
【0112】
求められたハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を実現するように、ピニオン320のピニオンギヤを設計する。
【0113】
本実施の形態に係る車両操舵装置310を搭載した車両は、ピニオン320のピニオンギヤにより、ハンドルの舵角に応じて、ヨー角速度ゲインの目標値を実現するようなステアリングギヤ比となる。
【0114】
これによって、特定速度で走行しているときには、車両運動の変化を過敏に感じる手前の大きな操舵角までの領域において、ドライバの視点から見た、ハンドルの基準位置の方向と前方注視点の方向とを一致させることができ、さらに大きな操舵角の領域では、車両運動の変化を過敏に感じることなく、少ない修正操舵角で車両を操縦することが可能となる。
【0115】
なお、上記の実施の形態では、第1の実施の形態で用いたマップが示すハンドルの舵角とヨー角速度ゲインの関係に従って、ステアリングギヤ比を設計した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、第2の実施の形態で説明したマップが示すハンドルの舵角とヨー角速度の関係に従って、ステアリングギヤ比を設計するようにしてもよい。この場合には、まず、上記第2の実施の形態で説明した、車速毎の上記図10の実線が示すハンドルの舵角とヨー角速度との関係から、特定速度(例えば、50〜60km)におけるハンドルの舵角とヨー角速度との関係を求める。求められたハンドルの舵角とヨー角速度との関係と、上記(17)式、(18)式とに基づいて、ハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を求める。求められたハンドルの舵角に応じたステアリングギヤ比を実現するように、ピニオン320のピニオンギヤを設計する。
【0116】
また、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、前輪の操舵を制御する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、後輪の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。また、前輪及び後輪の双方の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、前輪の実舵角と後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する前後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。
【符号の説明】
【0117】
10、310 車両操舵装置
12 ステアリングホイール
16 ステアリングギヤ比可変機構
20、320 ピニオン
24、224 コンピュータ
26 車速センサ
28 操舵角センサ
30、230 マップ記憶手段
32 ヨーゲイン算出手段
34、234 ギヤ比算出手段
36 ギヤ比制御手段
232 ヨーレート算出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現する操舵装置。
【請求項2】
車両のステアリングギヤ比によって前記ハンドルの操舵角とヨー角速度との関係を実現する請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とした請求項1又は2記載の操舵装置。
【請求項4】
前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係を、前記ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めた請求項1〜請求項3の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項5】
前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係を、前記ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させると共に、前記ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約されるように定めた請求項4記載の操舵装置。
【請求項6】
前記上限値を、0.35〜0.38[1/s]とした請求項5記載の操舵装置。
【請求項7】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、
前記ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、
を含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項8】
前記ヨー角速度ゲイン算出手段は、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係から予め求められた前記ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出する請求項7記載の操舵装置。
【請求項9】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、
前記ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、
を含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項1】
ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現する操舵装置。
【請求項2】
車両のステアリングギヤ比によって前記ハンドルの操舵角とヨー角速度との関係を実現する請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とした請求項1又は2記載の操舵装置。
【請求項4】
前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係を、前記ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めた請求項1〜請求項3の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項5】
前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係を、前記ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させると共に、前記ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配が、人間特性に基づいて予め求められた上限値に制約されるように定めた請求項4記載の操舵装置。
【請求項6】
前記上限値を、0.35〜0.38[1/s]とした請求項5記載の操舵装置。
【請求項7】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、
前記ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、
を含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項8】
前記ヨー角速度ゲイン算出手段は、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係から予め求められた前記ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出する請求項7記載の操舵装置。
【請求項9】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記ハンドルの舵角と車速及び前記ヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、
前記ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御する制御手段と、
を含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−143821(P2011−143821A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6200(P2010−6200)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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