説明

擬ロタキサンの製造方法

【課題】
健康食品用途で使用される抗酸化原料であるイソプレノイド構造を有する化合物に対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサンを製造する方法を提供する。
【解決手段】
イソプレノイド構造を有する化合物を、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、イソプレノイド構造を有する化合物をシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレノイド構造を有する化合物をシクロデキストリン (以下、CyDと示す)に包接させた擬ロタキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康食品分野で抗酸化活性を有する原料として知られているスクワレン、トコトリエノール、コエンザイムQ10 (以下、CoQ10とする。なお、ただ単にCoQ10あるいはコエンザイムQ10と記したものは酸化型を示す。) 等は、光や紫外線で劣化する或いは原料の取り扱いなどのハンドリングが劣るなどの問題点を有している。
特許文献1(特開2005−2005 号公報)ではCoQ10及びビタミン類の少なくとも一方が、CyDに包接されたものである安定化されたCoQ10含有組成物である旨が開示されている。
【0003】
特許文献2(特開2006−249050 号公報)は、ファルネソール、メナキノン、トコフェロール、コエンザイムQ10をγシクロデキストリンに包接させることにより、安定化された複合体とすることができ、飲食品、化粧品、医薬品へ適用される旨記載されている。また、特許文献2には、背景技術の従来例として特許文献1について、実施例においてβ-CyDのみしか記載しておらず、高い保存安定性は得られなかったとも記載されている。
また、特許文献1、特許文献2ともに、製法としては混練法が用いられている。
【0004】
特許文献3(特表2003−520827 号公報)にはCoQ10とγ-CyD 複合体の製造方法が記載されている。包接方法としては、ホモジナイズによる衝突、熱による溶融を利用した方法や濃縮γ-CyD 溶液にCoQ10を添加しホモジナイズする方法が示されている。しかしながら、かなり高速で攪拌されるため、熱に弱い原料などには熱の発生による劣化などが懸念される。
【0005】
特許文献4(2003−238402号公報)には、α-トコフェロールと濃縮された水性のβ又はγ-CyD を用いて強力に攪拌又は混練することにより複合体を形成する方法が記載されているが、反応時間が1時間以上かかる。
本発明の製造方法ではトコフェロールと類似化合物のトコトリエノールにて約5分の短時間の反応時間にて複合体が形成されることを確認できている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−2005号公報
【特許文献2】特開2006−249050号公報
【特許文献3】特表2003−520827号公報
【特許文献4】特開2003−238402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるスクワレンやトコトリエノール類、還元型CoQ10 等のイソプレノイド構造を有する化合物に対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるスクワレンやトコトリエノール類、還元型CoQ10 等のイソプレノイド構造を有する化合物とCyDを、溶解度法を用いて、分子レベルにて接触させることにより、原料自体の安定性等の物性改善や原料の取り扱いなどに関するハンドリング性の改善された擬ロタキサン粉末を製造する方法である。更に、溶媒除去、遠心分離、乾燥などの工程を加えることにより性状の優れた擬ロタキサン粉末を製造することができる。
【0009】
(1)イソプレノイド構造を有する化合物を、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、イソプレノイド構造を有する化合物をシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法。
(2)飽和溶解度よりも過剰量のシクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するイソプレノイド構造を有する化合物とシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を擬ロタキサン形成モル比より高い量とすることを特徴とする(1)記載の擬ロタキサンを製造する方法。
(3)攪拌処理として、振とう攪拌処理工程の前または初期に超音波処理を施すことを特徴とする(1)又は(2)記載の擬ロタキサンを製造する方法。
(4)振とう攪拌処理後、沈殿物を遠心分離し、上清を除去し、減圧乾燥して擬ロタキサン乾燥粉末を得ることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の擬ロタキサンを製造する方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の擬ロタキサンは、経口摂取用素材であることを特徴とする擬ロタキサンを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
スクワレンやトコトリエノール類、還元型CoQ10等のイソプレノイド構造を有する化合物をシクロデキストリン(CyD)に溶解度法を用いて包接することにより、安定性、保存性、ハンドリング性が向上した、擬ロタキサンを形成する粉末を製造することができる。
イソプレノイド化合物とシクロデキストリンとを包接した擬ロタキサン粉末を短時間に効率的に製造できる方法を提供できた。
本願発明により、熱、光、紫外線、空気による酸化などの要因によるイソプレノイド構造を有する化合物の劣化を減少させる擬ロタキサン粉末を製造することができた。
スクワレンなどの液体原料の場合は、粉末化させることにより原料取り扱いなど、ハンドリング性を向上させることができる剤型に製造することができる。とりわけスクワレンは熱や光に対し不安定である為、保存方法として冷蔵庫や冷暗所が推奨されているが、本発明品の調製により、簡易的な保存方法がとれるようになる。また、本発明品は保存容器に関しても褐色瓶ではなく透明容器の適用も可能となる。また室温条件にて、操作条件も特別気にすることなく実施できる。
本願発明では、他の材料と配合した場合に、製品化の際にイソプレノイド化合物を含む複数原料を配合することが多い健康食品などに対し、イソプレノイド化合物の含量低下などによる品質低下を抑制し、経時安定性に優れた効果が期待できる。得られた複合体の適用剤形として、医薬品や健康食品に用いる粉末剤、顆粒剤、錠剤が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう「擬ロタキサン」とは、「擬ロタキサン」あるいは「擬ロタキサン」類似の複合体に由来する沈殿物となる超分子複合体のことをいう。
本発明の「擬ロタキサン」とは、環状分子の開口部(回転子:rotator) が直鎖状分子 (軸:axis) によって、串刺し状に包接されたような構造体のことであり、安定性が高められた加工原料又は加工粉末となりうる。超分子複合体とも呼ぶことができる。なお、ロタキサン は、貫通した直鎖状分子である軸の両末端に嵩高い部位が形成されていて、立体障害で環状分子のリングが軸から抜けなくなった状態の構造物である。擬ロタキサンは、軸であるゲスト化合物をホストの環状化合物から分離して、利用しやすいと考えて本発明を検討した。また、ロタキサンを形成するためには、食品, 健康食品分野では使用できない反応試薬を利用しなければならないため、本発明には適さない。
【0012】
<CyD>
本発明に使用した CyD とは、数分子のグルコースがα (1→4)グルコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種(図1参照)である。グルコースの個数により異なるα (6個)、β (7個)、γ (8個) 型を用いることができる。とりわけβおよびγ型が本発明には適している。
【0013】
CyD は分子内に疎水性の空洞を有し、空洞径に応じて種々のゲスト分子を取り込んで包接複合体を形成することが知られている。CyD の超分子的な包接特性は、難水溶性薬物の可溶化や安定性の改善、放出制御、バイオアベイラビリティーの改善、苦味・悪臭および局所刺激性の軽減、油状あるいは低融点物質の粉体化、揮発性の防止など、食品、化粧品、医薬品などの多方面で利用されている。
【0014】
<イソプレノイド化合物>
本発明では、還元型CoQ10、スクワレン、トコトリエノール等のイソプレノイド構造を有する化合物(以下「イソプレノイド化合物」ということもある)をゲスト化合物とした。
本発明に使用したCoQ10は還元型であり、白色〜淡黄色を呈する結晶性粉末である。還元型CoQ10は、空気中に放置すると酸化型に変化するので、保全に注意が必要である。本発明に用いたスクワレンは粘性のある無色透明の液体である。また、本発明に用いたトコトリエノールは総トコトリエノール65%以上、総トコフェロール類としては92%以上含有する黄色〜赤褐色を呈する粘性の液体である。
【0015】
【化1】

還元型CoQ10
【化2】

スクワレン
【化3】

トコトリエノール
【0016】
<製法>
本発明に使用したイソプレノイド化合物原料を CyD に包接させる方法として、溶解度法を用いる。溶解度法とは、CyD の溶液を調製し、一定量のゲスト化合物、すなわち、イソプレノイド化合物原料を添加し、攪拌混合することにより、沈殿物を得て、液成分除去後乾燥させることにより包接体を単離する方法である。CyD溶液が飽和溶液の場合、飽和溶液法或いは飽和水溶液法と呼ぶこともできる。また溶解度法を用いる際に、イソプレノイド化合物原料を飽和溶液に添加した直後に超音波を短時間施すことにより、分散性を向上させ、反応しやすくすることができる。
溶解度法では、比較的多くの水を用いることや水溶液から沈殿物を単離しなければならない工程を踏む必要があるなどのデメリットもあるが、単離した沈殿物は多量の水を使用していることで、水を反応媒体として、薬物とCyDが相互作用しやすく、短時間で複合体形成性のよい粉末が得られるというメリットがある。また熱の発生もなく、熱に弱い化合物に対しても有効である。また、本製造法は混練法と比べ、薬物が空気 (酸素) に殆ど接しないため、薬物に対し、調製時の酸化を防ぐことが可能である。本発明に使用したような化合物の場合は、イソプレノイド鎖の分解抑制に寄与することができるものと考えられる。
本発明では、包接に関与するシクロデキストリン数を複数個有することにより、より安定性を高めることができる。
また、本発明では溶解度法を用いることにより、特許文献1あるいは2で採用する混練法に比べて、擬ロタキサン形成性の高い粉末を得ることができた。
なお、混練法とはシクロデキストリンと一定量のゲスト化合物に水を少量加えて、ミキサーなどの攪拌機を用いてペースト状にし、乾燥などにより水分を除去することにより複合体を得る方法である。この混練法は、少量の水を反応媒体に用いている為、水に不安定な薬物などに対しては、加水分解反応などによるデメリット面を極力防ぎ、少量の水を反応媒体としてミキサー攪拌によるせん断力などの作用により包接複合体を形成させる製法である。しかしながら、攪拌により熱が発生し、この熱により分解しやすい化合物や使用する水の量が少量であるために、かなり難水溶性の固体化合物などを用いた場合には包接複合体の形成速度が遅い、複合体の収率が悪い、或いは複合体が形成し難いというデメリットも少なくない。また、ミキサーから回収するときにペースト状のためハンドリング性も悪い。
【0017】
溶解度法を用いて本発明品を調製する場合、イソプレノイド化合物原料と CyD の使用割合は、CyDのモル比が擬ロタキサン形成モル比より高く設定する(CyDの量を増やす)。これは、イソプレノイド化合物原料と反応しやすくする作用、及び、反応中であっても溶液中に溶解している CyD 量を確保し続け、擬ロタキサン形成反応を効率よく維持することができる。
本発明の溶解度法では、攪拌 (振とう) 時間を5分という短時間でも擬ロタキサンの形成が認められ、一般的に行われていた振とう時間5日間程度よりもきわめて短時間に擬ロタキサンが形成できることが確認できた。
【0018】
反応して得られた沈殿物の事後処理として、減圧乾燥処理によって、乾燥粉末とすることが好ましい。凍結乾燥法は、擬ロタキサンの構造が壊れる可能性がある。
【0019】
<擬ロタキサン確認手段>
得られた複合体が擬ロタキサンであるか否かは、粉末X線回折やNMRスペクトルを用いて確認することができる。擬ロタキサンと断定するには、厳密的には単結晶X線構造解析或いは原子間力顕微鏡により証明する必要がある。また、擬ロタキサンはその性質上、沈殿物として得られる可能性が高いため、肉眼観察によりある程度予測することはできる。
粉末X線回折により、擬ロタキサン類似の超分子複合体を示す回折ピークと既知の別の擬ロタキサンとを比較して、擬ロタキサン構造形成の有無を確認している。NMRスペクトルは、形成された複合体が、ゲスト化合物1分子に対する CyD の包接個数を算出するために用いている。すなわち、擬ロタキサンの組成および化学量論を確認するためである。しかしながら、スクワレンや還元型CoQ10のような単一化合物であるイソプレノイド化合物原料ではNMRスペクトルによる CyD の包接個数の算出方法は有効であるが、トコトリエノール類とトコフェロール類の混合物のような原料を用いた場合には、高速液体クロマトグラフィー (HPLC) による定量結果より算出する方法が有効である。
【0020】
<擬ロタキサン粉末の用途>
本発明品は、その使用用途により、カプセル剤、錠剤、散剤、液剤、軟膏、クリーム剤等の剤形に製剤配合処方成分の一つとして用いることができる。特に、安全性の点で経口摂取用、経皮吸収用、皮膚外用剤として適している。
本発明品は、混練法よりも比較的高純度の擬ロタキサン粉末を得ることが可能である為、混練体に比べ、粉末の経時的安定性に優れ、粉末の未包接或いは擬ロタキサン化されていない箇所について薬物の部分的な劣化等が生じ難いものと考えられる。その結果、長期における保存安定性が確保されたり (品質保持期限の長期設定)、他原料との配合による薬物劣化の抑制 (製剤処方の簡便化) などに繋がる。
また、擬ロタキサン形成性が高い粉末であることは、擬ロタキサンからの薬物のコントロールドリリースなどの製剤処方設計を行う上では重要なファクターとなりうる。
【0021】
特に錠剤の配合処方の一つとして使用する場合、錠剤の製造方法として直接粉末圧縮法(直打法) の利用に適している。直打法は、湿式顆粒圧縮法 (通常のいわゆる湿式法) に比べ、その製造工程上、工業的にも安価な製法である。
【実施例】
【0022】
1. 試料および溶媒
(1)イソプレノイド化合物
還元型CoQ10(カネカ(株) 製)、スクワレン((Squalene )岸本特殊肝油工業所 (株) 製)、トコトリエノール((Tocotrienol)エーザイフード・ケミカル (株) 製トコリット 92)を用いた。
(2)CyD(シクロデキストリン)
β-CyD、γ-CyD(日本食品化工 (株)製)を用いた。
(3)溶媒
溶媒としての H2O はイオン交換精製水を 2 回蒸留して用いた。 その他の試薬および溶媒は市販特級品を使用した。
【0023】
2. イソプレノイド化合物/CyDs 複合体の調製
2-1. 還元型CoQ10/γ-CyD 混練体の調製(混練法)
実験操作は遮光下で行った。 還元型CoQ10 と γ-CyD (モル比 1:3〜1:5) に水を添加しながら瑪瑙乳鉢で混練し、数時間〜一晩減圧乾燥することで、混練体を得た。なお混練時間は各々、5分間及び1時間とし、添加したH2O量は1:3の場合4.2ml、1:4の場合5.6ml、1:5の場合7mlの設定条件にて実施した。試料の配合量を以下に示す。
[還元型CoQ10:γ-CD=1:3] 還元型CoQ10粉末863.34mg、γ-CD粉末3.891g
[還元型CoQ10:γ-CD=1:4] 還元型CoQ10粉末863.34mg、γ-CD粉末5.188g
[還元型CoQ10:γ-CD=1:5] 還元型CoQ10粉末863.34mg、γ-CD粉末6.485g
【0024】
2-2. 還元型CoQ10/γ-CyD溶解度法調製品の調製方法
還元型CoQ10 粉末 221 mgに 232 mg/mLγ-CyD 水溶液 10 mLを添加し、攪拌した。 超音波を数十秒〜数分あて、一定時間振とう機を用いて振とう (100 rpm) した。 反応液を7000 rpm、10 分間遠心後、上清を除去し、未反応の γ-CyD を取り除いた。 さらに、未反応の 還元型CoQ 10 を除去するため、ジエチルエーテルで洗浄し、数時間〜一晩減圧乾燥することで、本発明品を得た。なお振とうは各々、5分間及び1時間の設定条件にて実施した。
【0025】
2-3. スクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品の調製方法
実験操作は、窒素置換、遮光下で行った。 スクワレン85.8 mg に232 mg/mLγ-CyD 水溶液 5.8 mL を添加、またはスクワレン42.9 mg に18.5 mg/mLβ-CyD 水溶液 32 mL を添加し、激しく攪拌した。 超音波を 数十秒あて、振とう機を用いて、一定時間振とう (100 rpm) した。 反応液を7000 rpm、10 分間遠心後、上清を除去し、未反応のβ-CyD または γ-CyD を取り除いた。 得られた沈殿物を数時間〜一晩減圧乾燥することで、本発明品を得た。なお振とうは各々、5分間及び1日間の設定条件にて実施した。
【0026】
2-4.トコトリエノール/β-CyD混練体の調製(混練法)
実験操作は遮光下で行った。 トコトリエノール とβ-CyD (モル比約 1:2〜1:3) を H2O を添加しながら瑪瑙乳鉢で混練し、一晩減圧乾燥することで、混練体を得た。なお混練時間は各々、5分間とし、添加したH2O量はトコトリエノール/β-CyD(モル比約1:2)の場合3.3ml、トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:3)の場合5mlの設定条件にて実施した。試料の配合量を以下に示す。
[トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:2)] トコトリエノール854.00mg、β-CyD粉末4.540g
[トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:3)] トコトリエノール854.00mg、β-CyD粉末6.810g
【0027】
2-5. トコトリエノール/γ-CyDおよびトコトリエノール/β-CyD溶解度法調製品の調製方法
実験操作は、窒素置換、遮光下で行った。 トコトリエノール98 mgに232 mg/mL γ-CyD 水溶液 5.1 mL を添加、またはトコトリエノール24.5 mg に18.5 mg/mLβ-CyD 水溶液 12.8 mL を添加し、激しく攪拌した。 超音波を 数十秒あて、一定時間振とう (100 rpm) した。 反応液を7000 rpm、10 分間遠心後、上清を除去し、未反応のβ-CyD またはγ-CyD を取り除いた。 数時間〜一晩減圧乾燥することで、本発明品を得た。なお振とうは各々、5分間の設定条件にて実施した。
【0028】
3.沈殿物形成の肉眼的観察
一般に CyDの擬ロタキサンは隣接する CyD 間で水素結合するため、水分子との水素結合ができなくなり難水溶性となる。本実験では、還元型CoQ10、スクワレン、トコトリエノール各々を、予め調製した各種CyD飽和水溶液に添加し、溶解度法の調製条件にしたがって調製した溶液について肉眼観察を行い、写真撮影を行った。なお、比較溶液としてH2Oのみに添加した状態の観察及び写真撮影も行った。
図2はイソプレノイド化合物/CyD 超分子複合体の調製終了時における溶液を肉眼観察した結果を示す。
【0029】
(1)図2より、各々の化合物原料のみを水中に添加した系においては、水との親和性が得られず分離した状態が観察された。しかしながら、CyDを添加した溶解度法調製品においては、白色〜白黄色沈殿物が得られ、shaking することにより、短時間ではあるものの溶液中で均一に分散する様子が観察された。したがって、還元型CoQ10においてはγ-CyD系、スクワレン及びトコトリエノールにおいてはβ-及びγ-CyD系において擬ロタキサン類似の超分子複合体が形成されている可能性が示唆された。
【0030】
(2)Squalene および Tocotrienol単独において、水では油状に分離した。一方、β- および γ-CyD 水溶液を添加した系では白色沈殿物が確認された。スクワレン およびトコトリエノールは通常液体であるので、これによって、粉末状態で保存や処理ができることとなる。
【0031】
(3)これらのことから還元型CoQ10 は γ-CyD と、スクワレン および トコトリエノール は β- または γ-CyD と超分子複合体を形成する可能性が示唆された。 各イソプレノイド化合物がどの CyD と 擬ロタキサン類似の超分子複合体を形成するかに関しては、目視観察以外に確認検討が必要であるが、イソプレノイド側鎖の二重結合の位置やメチル基の間隔がそれぞれのイソプレノイド化合物で異なることから、分子の柔軟性や太さなどが擬ロタキサン類似の超分子複合体形成の可否に関係していると予想されるので、擬ロタキサン類似物質の形成を予期することができる。
【0032】
4. イソプレノイド化合物/CyDs 複合体の構造
4-1. 粉末 X 線回折装置
粉末 X 線回折測定により、粉末試料を用いた場合に、横軸に回折角, 縦軸に回折強度をとった粉末X線回折図を作成することができる。粉末X線回折は、試料の同定, 結晶性の評価, 結晶化度etc.の測定に用いられる。今回は主に試料の同定に用いている。
粉末 X 線回折は理学電気(株) 製 RINT 2500 VL 型自動X 線回折装置を使用し、試料をガラスセルに固定して測定した。 測定条件は以下の通りである。 Cu-Ka 線 (1.542 A); 管電圧:40 kV; 管電流:40 mA; 走査速度:1°/min; 回折角:5°〜35°; スリット:1°-1°-0.15 mm
一般にCyD 複合体結晶の構造はかご型、層状、筒型構造の 3 つに分類される。このうちCyD 擬ロタキサン の結晶構造は筒型構造を形成することが知られている。そこで超分子複合体中の CyD と イソプレノイド化合物との固体状態における相互作用を確認するために、粉末 X 線回折測定を行った。
【0033】
4-2. 1H- NMR スペクトル
溶解度法調製品の組成および化学量論を確認するため、1H-NMRスペクトルを測定した。
還元型CoQ10/γ-CyD 溶解度法調製品、スクワレン/β-CyD溶解度法調製品およびスクワレン/γ-CyD溶解度法調製品をそれぞれ d6-DMSO に溶解し、日本電子 (株) 製 JMN-A 500 核磁気共鳴装置(外部磁場 : 500 MHz) を用いて測定した。
【0034】
4-3. 連続変化法
一定量のイソプレノイド化合物(トコトリエノール、スクワレン)に各濃度の γ-CyD 水溶液 (0, 58, 116, 174, 232 mg/mL) または β-CyD 水溶液(0, 4.625, 9.25, 13.875, 18.5 mg/mL) を添加し、上記のイソプレノイド化合物/CyD超分子複合体の調製時と同様の操作を行った。振とう時間は全て1日とした。 得られた沈殿物の重量より収率を算出した。
【0035】
5.イソプレノイド化合物/CyDs 複合体の構造の分析結果
5−1.粉末 X 線回折の結果
還元型CoQ10/γ-CyD 複合体、スクワレン/β- およびγ-CyD 複合体、トコトリエノール/β- およびγ-CyD複合体の固体試料の粉末 X 線回折パターンから、β- およびγ-CyD はこれら化合物のイソプレノイド側鎖を包接し、CyD 超分子複合体は筒型構造を形成することが示唆された。試料として、溶解度法によって得られた試料及び混練法によって得られた試料は、上記2で調製して得られた試料を用いた。
【0036】
(1)還元型CoQ10/γ-CyD 溶解度法調製品
本発明品粉末中の還元型CoQ10とγ-CyDとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末X線回折測定を行った。なお比較原料として、還元型CoQ10単独, γ-CyD単独, 還元型CoQ10/γ-CyD混練体及び 擬ロタキサンの形成が確認されているPPG/γ-CyD 複合体の回折パターンを以下に示す。図3は振とう1時間調製、図4は振とう5分間調製品を用いた比較図である。
【0037】
図3の粉末X線回折パターン結果 (振とう時間:1時間)より、還元型CoQ10単独では19.0°及び23.0°付近に特徴的なピークを有し、γ-CyD単独は12.4°、18.8°及び20.5°付近に特徴的なピークを有していることが分かる。また、PPG/γ-CyDでは、7.4°及び14.1°、14.9°、15.8°、16.6°、27.0°付近に特徴的なピークを有している。混練体(モル比1:5)では、還元型CoQ10及びγ-CyDに由来する12°及び19°付近にピークを有しており、PPG/γ-CyD複合体の様な14°付近のピークは観察されないことから、還元型CoQ10とγ-CyDが単純に物理混合された状態であり、複合体形成性は低いものと考えられる。次に、混練体(モル比1:4、1:3)では還元型Q10に見られる23°付近のピークが観察されたが、19°付近のピークは消失し、さらにPPG/γ-CyD複合体に見られる7°及び26°付近のピークも同時に観察されたことから、還元型CoQ10とγ-CyD の物理混合物も存在するが、1:5の場合よりも複合体が形成されていることが示唆された。
溶解度法調製品においては、PPG/γ-CyDと同様に7°及び14°付近に特徴的なピークが観察され、還元型CoQ10に見られる19°付近のピークが観察されないことから、複合体の形成性が高い、すなわち高純度の擬ロタキサンが得られているものと考えられる。なお、溶解度調製品の還元型CoQ10/gγ-CyD複合体のモル比は、1H-NMRスペクトル測定より、1:3.6という結果が得られた為、混練体より優位に複合体が形成されていることが言える。
なお、イソプレノイド鎖と類似した構造を有するポリプロピレングリコール (PPG ) は CyDs と超分子包接複合体 polypseudorotaxane を形成するが知られているので、これと比較することによって、擬ロタキサン構造を確認する参考とすることができる。
【0038】
図4の粉末X線回折パターン結果(振とう時間:5分間)より、還元型CoQ10単独では19.0°及び23.0°付近に特徴的なピークを有し、γ-CyD単独は12.4°、18.8°及び20.5°付近に特徴的なピークを有していることがわかる。またPPG/γ-CyDでは、7.4°及び14.1°、14.9°、15.8°、16.6°、27.0°付近に特徴的なピークを有している。混練体(モル比1:5)では、還元型CoQ10と同様に23°付近、またγ-CyDと同様に15°〜18°付近にピークを有しているため、複合体形成性は低いと考えられる。混練体(モル比1:4、1:3)においても、γ-CyDと同様に19°付近にピークを有することから、このモル比においても複合体形成性は低いと考えられる。このことは混練法で調製した粉末は殆ど還元型CoQ10とγ-CyDが相互作用せず、単純に物理混合された状態であることを表している。一方、溶解度法調製品においては、7°及び14°付近にPPG/γ-CyD複合体の特徴的なピークが観察され、還元型CoQ10に見られる19°付近のピークが観察されないことはもとより、全体的に回折パターンがPPG/γ-CyD複合体と類似していることから、高い複合体形成性を有する、すなわち高純度の擬ロタキサンが得られているものと考えられる。
本結果より、溶解度法調製品は5分間という短時間においても、擬ロタキサン様の複合体を形成することが認められた。
【0039】
(2)スクワレン/β-, γ-CyD 溶解度法調製品
本発明品粉末中のスクワレンとβ-およびγ-CyDとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末X線回折測定を行った。なお比較原料として、β-CyD単独, γ-CyD単独および擬ロタキサンの形成が確認されているPPG/β-CyD 複合体およびPPG/γ-CyD 複合体の回折パターンを以下に示す。図5はスクワレン/γ-CyD、図6はスクワレン/β-CyD各々の溶解度法調製品(振とう時間:5分間、1日間)の比較図である。
【0040】
図5、図6の粉末X線回折パターン結果より、スクワレン/γ-CyD溶解度法調製品において、PPG/γ-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、5分間という短時間においても擬ロタキサン様の複合体を形成しているものと考えられる。また同様に、スクワレン/β-CyD溶解度法調製品においても、PPG/β-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、両溶解度法調製品は超分子複合体を形成しているものと考えられる。また、振とう時間5分間と1日間での差はβ-系及びγ-系各々において差異は認められなかった。
【0041】
(3)トコトリエノール/β-, γ-CyD 溶解度法調製品
本発明品粉末中のトコトリエノールとβ-およびγ-CyDとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末X線回折測定を行った。なお比較原料として、β-CyD単独, γ-CyD単独, トコトリエノール/β-CyD混練体および擬ロタキサンの形成が確認されているPPG/β-CyD 複合体およびPPG/γ-CyD 複合体の回折パターンを以下に示す (図7、8)。なお、本発明品及び混練体は各々5分間、振とう或いは混練して調製した粉末である。図7はトコトリエノール/γ--CyD、図8は トコトリエノール/β-CyD系の比較図である。
【0042】
図7の粉末X線回折パターン結果より、トコトリエノール/γ-CyD溶解度法調製品において、PPG/γ-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、溶解度法調製品は超分子複合体を形成しているものと考えられる。
【0043】
図8の粉末X線回折パターン結果より、β-CyD単独では10.7°、12.5°及び19.5°付近に特徴的なピークを有し、PPG/β-CyDでは、6.6〜7.0°及び11.7°付近に特徴的なピークを有していることがわかる。混練体 (モル比1:2, 1:3) においては、β-CyD 由来の10.7°、12.5°及び19.5°付近の特徴的なピークが認められた。このことより、混練体においてはトコトリエノールと未反応のβ-CyDが多く存在することを示している。
一方、溶解度法調製品においては、β-CyD 由来の12.5°及び19.5°付近の特徴的なピークが認められず、PPG/β-CyD由来の6.6〜7.0°及び11.7付近の特徴的なピークが顕著に認められ、全体的な回折パターンも類似していることから、溶解度法調製品は擬ロタキサン様の複合体の形成性が高い、すなわち純度の高い目的とする複合体が得られていると考えられる。なお、溶解度法調製品のトコトリエノール/β-CyD複合体のモル比は、HPLC測定により、ほぼ1:2であるという結果が得られた為、混練体より優位に複合体が形成されていることが言える。
【0044】
5.2 HPLC (高速液体クロマトグラフィー)による定量
「トコリット92」はトコトリエノールとトコフェロールの混合溶液であり、内トコトリエノールを65%以上含有し、トコフェロールを加えた溶液としては全体の92%以上含有する混合溶液である。このような多成分混合溶液の場合、1H-NMRスペクトル測定よりもHPLCによる定量測定の方が適切であると考え、その有効成分含量を算出することによりトコトリエノール/γ-CyD複合体およびトコトリエノール/β-CyD複合体のおおよその組成を導き出すことにした。トコトリエノールとトコフェロールは構造式が類似しており、その分子量も比較的近いことから、正確な数値は算出できないが、おおよその数値は算出できるものと考えられる。
【0045】
<トコトリエノール / β-CyD及びγ-CyD溶解度法調製品 HPLC分析条件>
トコトリエノールは、食品添加物公定書 第8版 のトコトリエノールの定量法に従い測定した。
試験品の総トコトリエノール約0.025gに対応する量を精密に量り、水5mL、ヘキサン10mLを加え5分間激しく攪拌し、3,000rpm5分間遠心分離し、ヘキサン層を回収した。N-ヘキサンにて、正確に100mLとし検液とした。別に定量用d-α-トコフェロール、定量用d-β-トコフェロール、定量用d-γ-トコフェロール、定量用d-δ-トコフェロールをそれぞれ約0.05gずつ精密に量り、それぞれ褐色メスフラスコに入れ、ヘキサンを加えて正確に100mLとし、標準原液とした。試料中のトコトリエノール同族体の組成比と対応するトコフェロール同族体の組成がほぼ同じになるように標準原液を正確に量って混合し、標準液とした。検液及び標準液をそれぞれ10μLずつ量り、次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行った。
【0046】
カラム Shiseido Silica SG120 (5μm 4.6mmID×250mm)
カラム温度 40℃
検出器 紫外吸光光度計(UV295nm)
移動相 ヘキサン:ジオキサン:2プロパノール 985:10:5
流速 1mL/min
【0047】
HPLCによる定量試験を実施した結果、得られた本発明品において、トコトリエノール一分子に対し、約2分子のCyDを有しているという結果が得られた。
【0048】
5-3 1H- NMR スペクトルの結果
本発明品の組成および化学量論を確認するため、1H-NMR スペクトルを測定した。
1H-NMR スペクトルから、還元型CoQ10/γ-CyD 溶解度法調製品のγ-CyD 数は 還元型CoQ10 1 分子あたり約 3.6 個という結果が得られた。また、スクワレン/β-CyD 溶解度法調製品の β-CyD 数は スクワレン 1 分子あたり約 3 個、スクワレン/γ-CyD 超分子複合体のγ-CyD 数は スクワレン 1 分子あたり約 2.7 個という結果が得られた。
【0049】
(1)還元型CoQ10/γ-CyD 溶解度法調製品
還元型CoQ10/γ-CyD溶解度法調製品の1H-NMRスペクトルを図9に示す。
図9は還元型CoQ10/γ-CyD溶解度法調製品をDMSO に溶解後の1H-NMRスペクトルである。5.8 ppm 付近に γ-CyD の2, 3-位のプロトン、1.9〜2.1 ppm 付近に還元型CoQ10の直鎖状側鎖-CH2プロトンピークが観察された。本スペクトルピークに関し、γ-CyDおよび還元型CoQ10の積分値より組成比を求めたところ、還元型CoQ10 一分子の直鎖状側鎖に結合したγ-CyD数は約3.6個であるという結果が得られた。
【0050】
(2)スクワレン/CyD 溶解度法調製品
スクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品の1H-NMRスペクトルを(図10、11)に示す。図10はスクワレン/γ-CyD、図11はスクワレン/β-CyDを示す。
上図はスクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品 (振とう時間:一日間)、各々を DMSO に溶解後の1H-NMRスペクトルである。本スペクトルにおいて、5.7 ppm 付近にγ-CyDの2, 3-位のプロトン、5.6 ppm 付近にβ-CyDの2, 3-位のプロトン、5.1 ppm付近にスクワレンのビニル基のプロトン、1.99〜2.03 ppm 付近にスクワレンの-CH2プロトンピーク、1.6 ppm付近に-CH3プロトンピークが観察された。本スペクトルピークに関し、β-,γ-CyDおよびスクワレンの積分値より組成比を求めたところ、スクワレン 一分子に対し、結合したβ-CyD 数は2.96個、γ-CyD 数は 2.68個であるという結果が得られた。
【0051】
(3)1 分子に結合した CyD 数
以上の結果、 CyD および 還元型CoQ10 または Squaleneの積分値から求めた、還元型CoQ10 1 分子のイソプレノイド鎖に結合した CyD 数または Squalene 1 分子に結合した CyD 数を示す。還元型CoQ10 1 分子のイソプレノイド鎖に結合した γ-CyD 数は 3.6 個という結果が得られた。 また、スクワレン 1分子に結合した β-CyD 数は2.96 個、γ-CyD 数は 2.68 個という結果が得られた。
【0052】
(4)超分子複合体の構造「擬ロタキサン」
これらのことから 図8〜図11に示すような構造を有することが予想される。この構造は、環状分子の開口部 (回転子:rotator) が直鎖状分子 (軸:axis) によって、串刺し状に包接されたような構造体を形成しており、まさに「擬ロタキサン」に該当する。
【0053】
5-3. 連続変化法による擬ロタキサンの生成結果
Squalene/CyD 超分子複合体および Tocotrienol/CyD 超分子複合体、還元型CoQ10/CyD 超分子複合体の収率は一次関数的に増大することが確認できた。これらの結果から、還元型CoQ10、 Squalene およびTocotrienol いずれにおいても超分子複合体は濃度依存的に収率が上昇することが示唆された。Squalene/CyD 超分子複合体および Tocotrienol/CyD 超分子複合体について例示する。
【0054】
(1)Squalene/CyD 超分子複合体の収率
図12 はSqualene/CyD 超分子複合体の収率に及ぼす CyDs 水溶液濃度の影響を示す。 β- およびγ-CyD いずれの系においても、CyDs 濃度の上昇に伴い超分子複合体の収率は一次関数的に増大し、154 mg/mLβ-CyD 水溶液においては約 56 %、232 mg/mLγ-CyD 水溶液では約 70 % まで達した。
【0055】
(3)Tocotrienol/CyD超分子複合体の収率
Tocotrienolを用いてCyD超分子複合体の収率に対する濃度の影響を検討した。(図13) Squalene と同様にβ- およびγ-CyD いずれの系においても、CyDs 濃度の上昇に伴い超分子複合体の収率は一次関数的に増大し、154 mg/mLβ-CyD 水溶液は約 43 %、232 mg/mLγ-CyD は約 80 % まで達した。
【0056】
6.結果
前記の分析試験によって、溶解度法を用いた製造方法によって有利に擬ロタキサン粉末が製造できることが判明した。
溶解度法を用いることにより、還元型CoQ10、Squalene、Tocotrienolは、ゲスト化合物としてシクロデキストリンに包接された粉末状の擬ロタキサンが製造できた。
還元型CoQ10 粉末に γ-CyD 水溶液を添加し、5分間振とうするとpolypseudorotaxane 類似の 還元型CoQ10/γ-CyD 超分子複合体の沈殿物が形成が認めれ、1時間振とうでも高い複合体形成を有する、即ち高純度の擬ロタキサン類似の超分子複合体が確認された。
Squalene に β- および γ-CyD 水溶液を添加し、5分間振とう、1 日間振とうにおいて、擬ロタキサン 類似の Squalene/β- および γ-CyD 超分子複合体の沈殿物が形成された。
Tocotrienol に β- および γ-CyD 水溶液を添加し、5分間間振とうすると、擬ロタキサン類似のTocotrienol/β- および γ-CyD 超分子複合体の沈殿物が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】シクロデキストリン環状構造を表す図
【図2】イソプレノイド化合物/CyD超分子複合体調整溶液の肉眼用写真
【図3】X線回析パターン(還元型CoQ10/γ−CyD、1時間)
【図4】X線回析パターン(還元型CoQ10/γ−CyD、5分間)
【図5】X線回析パターン(スクワレン/γ−CyD)
【図6】X線回析パターン(スクワレン/β−CyD)
【図7】X線回析パターン(トコトリエノール/γ−CyD)
【図8】X線回析パターン(トコトリエノール/β−CyD)
【図9】1H- NMR スペクトル(還元型CoQ10/γ−CyD)
【図10】1H- NMR スペクトル(スクワレン/γ−CyD)
【図11】1H- NMR スペクトル(スクワレン/β−CyD)
【図12】スクワレン/CyD超分子複合体の収率を示すグラフ
【図13】トコトリエノール/CyD超分子複合体の収率を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレノイド構造を有する化合物を、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、イソプレノイド構造を有する化合物をシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法。
【請求項2】
飽和溶解度よりも過剰量のシクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するイソプレノイド構造を有する化合物とシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を擬ロタキサン形成モル比より高い量とすることを特徴とする請求項1記載の擬ロタキサンを製造する方法。
【請求項3】
攪拌処理として、振とう攪拌処理工程の前または初期に超音波処理を施すことを特徴とする請求項1又は2記載の擬ロタキサンを製造する方法。
【請求項4】
振とう攪拌処理後、沈殿物を遠心分離し、上清を除去し、減圧乾燥して擬ロタキサン乾燥粉末を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の擬ロタキサンを製造する方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の擬ロタキサンは、経口摂取用素材であることを特徴とする擬ロタキサンを製造する方法。



【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−269826(P2009−269826A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119163(P2008−119163)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】