説明

改善された生物学的特性を有するHIV融合阻害剤ペプチド

配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、又は配列番号:15のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを提供する。HIV融合阻害剤ペプチドと、1以上の医薬として許容し得る担体及び高分子担体とを含む医薬組成物、並びに、これらの組成物により提供される使用及び治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年2月2日に出願された米国仮出願第60/764,674号の利益を主張する。その全体の内容は、引用により取り込まれている。
(本発明の分野)
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)gp41のアミノ酸配列から誘導された合成ペプチドに関する。さらに具体的には、本発明は、HIV gp41の天然アミノ酸配列と比べて、特定のアミノ酸差異を有するHIV融合阻害剤ペプチドに関し、HIV融合阻害剤ペプチドに有利な生物学的特性が与えられる。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
現在、細胞膜とウイルス膜とが融合するプロセスを介して、細胞がHIVに感染し得ることがよく知られている。一般に受け入れられているこのプロセスのモデルは、ウイルスエンベロープ糖タンパク質複合体(gp120/gp41)が、標的細胞膜上の細胞表面レセプターと相互作用することである。gp120が細胞レセプター(例えば、CCR-5又はCXCR-4などのケモカインコレセプターとともにCD4)に結合した後に、gp120/gp41複合体の立体構造変化が生じ、gp41が標的細胞膜内に挿入され、膜融合を媒介する。
【0003】
gp41のアミノ酸配列、及びHIVの異なる株間でのその変異は周知である。図1は、一般に受け入れられているgp41の機能ドメインの模式図である(アミノ酸配列番号は、HIV株によってわずかに異なり得ることに留意されたい)。融合誘導ドメイン(fusogenic domain)は、標的細胞膜内への挿入、及び標的細胞膜の破壊に関与すると考えられている。膜貫通ドメインは、膜貫通アンカー配列を含み、そのタンパク質のC末端に位置する。融合誘導ドメインと膜貫通アンカーとの間に、ヘプタッドリピート(heptad repeat)(HR)領域として知られている2つの異なる領域があり、各領域は、ヘプタッドを複数有する。HR1領域を含むアミノ酸配列、及びHR2領域を含むアミノ酸配列はそれぞれ、HIV-1エンベロープタンパク質において高度に保存されている領域である。HR2領域は、一般に、配列番号1のアミノ酸残基、又はその多型(例えば、図2を参照)を含むものとして記載されている。さらに図1に示すように、HR領域は、複数の7アミノ酸残基伸張又は「ヘプタッド」(「a」〜「g」で示される各ヘプタッド中に7アミノ酸)を有し、第一(「a」)及び第四(「d」)の位置には疎水性残基、及び第五(「e」)及び第七(「g」)の位置には高い頻度で荷電残基が支配的である。また、HIV gp41のアミノ酸配列には、イソロイシン又はロイシンのいずれかで始まりいずれかで終わる、8アミノ酸配列を含むロイシンジッパー様モチーフが存在する。図1に示されるように、HR2領域は、ただ1つのロイシンジッパー様モチーフを有し、一方、HR1領域は、5つのロイシンジッパー様モチーフを有する。ヘプタッド及びロイシンジッパー様モチーフは、gp41に見出される多重らせん構造の形成に寄与すると考えられるアミノ酸配列特徴である。
【0004】
HIV gp41のHR1領域(「HR1ペプチド」)又はHR2領域(「HR2ペプチド」)のいずれかの天然配列から誘導されたペプチドがHIVの宿主細胞への感染を阻害することが、インビトロアッセイ及びインビボ臨床研究の双方において発見された。例えば、DP178(T20、エンフビルチド(enfuvirtide)、及びFuzeon(登録商標);配列番号:2としても知られている)、T651 (配列番号:3)、T649 (配列番号:4)などのHR2ペプチドは、それぞれ、0.5 ng/ml (HIV-1LAIに対するEC50)、5 ng/ml (IC50;HIV-1 IIIB)、及び2 ng/ml (IC50;HIV-1 IIIB)の効力を有し、標的細胞の感染を遮断した。HIV gp41誘導ペプチドの生物活性を改善する取り組みが、該ペプチドのらせん構造を安定化させるなどの試みにより行われている。例えば、PCT公開公報WO 2005/067960には、らせん構造安定化合成ペプチドが本発明者らにより開示されており、本明細書中には配列番号:5〜7として例示している。HIV融合(HIVによる標的細胞の感染プロセス時に、HIV gp41がウイルス膜と細胞膜との間の融合を媒介するプロセス)を阻害することができる合成ペプチドは、頻繁にHIV融合阻害剤ペプチドと呼ばれているペプチド類である。
【0005】
合成ペプチドに付随する別の欠点は、水性ベースの医薬として許容し得る担体への溶解度と安定性に関係し、例えば、HIV融合阻害剤ペプチドの注射溶液製剤の製造方法に関係する。例えば、配列番号:2のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを100 mg/ml超過濃度で含む注射用水溶液は、溶解度の問題(その製剤は溶液というよりもゲルに類似するか、又は所定時間以上で溶液中からペプチドが沈殿する。)、及び安定性の問題(所定時間以上でペプチドが分解する。)に直面することなく、かつ安定性及び/又は溶解度を促進させるために該製剤にさらなる成分を添加することなしに得ることは困難である。改善された溶解度及び安定性を有し、同時に改善された薬理学的特性をも有する、HIV融合阻害剤ペプチドを開発することが所望されるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、(a)有効な量を加えた場合に、HIV gp41により媒介されるウイルス融合プロセスを妨げ、さらに好ましくは、融合を生じるのに必要なgp41の立体構造変化を妨げ、結果、HIV gp41の標的細胞への融合を阻害することができ;(b)水溶液において改善された溶解度及び安定性を示し;かつ(c)改善された薬理学的特性を示す、HIV融合阻害剤ペプチドが要求される。本発明は、これらの要求を扱うものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、HIV融合阻害剤ペプチドである単離ペプチドに関する。
一態様において、本発明は、配列番号:5のアミノ酸配列を有するベースアミノ酸配列(「ベース配列」)から誘導されたHIV融合阻害剤ペプチドに関するが、各HIV融合阻害剤ペプチドは、そのアミノ酸配列中に2つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し、かつロイシンジッパー様モチーフの形成に必要なアミノ酸配列位置以外のアミノ酸配列位置に、少なくとも1つのさらなるロイシンを有する(すなわち、ロイシンジッパー様モチーフのアミノ酸位置1又は8以外の配列中に位置するアミノ酸、例えば、配列番号:5のアミノ酸位置21のイソロイシンがロイシンで置換される。)点で、前記ベースアミノ酸配列とは異なる。
【0008】
また、本発明は、配列番号:5のアミノ酸配列を有するベースアミノ酸配列(「ベース配列」)から誘導されたHIV融合阻害剤ペプチドに関するが、各HIV融合阻害剤ペプチドは、そのアミノ酸配列中に3つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有する点で、前記ベース配列とは異なる。
【0009】
また、本発明は、一連のHIV融合阻害剤ペプチドに関し、各HIV融合阻害剤ペプチドは、(a)HIV gp41のHR2領域から誘導されたアミノ酸配列を含み;(b)2つ以上及び5つ以下のロイシンジッパー様モチーフを有するアミノ酸配列を有し;(c)ロイシンジッパー様モチーフのアミノ酸位置1又は8以外のアミノ酸配列位置に(例えば、配列番号5〜7のうちのいずれか1つ以上のベース配列と比べて)少なくとも1つのさらなるロイシンを有し;かつ(d)好ましくは1以上の生物学的特性の改善を示す。特定の実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、15〜60アミノ酸残基の長さである。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、N末端基又はC末端基、或いはその両方をさらに含む;これらの末端基は、制限されないが、N末端にアミノ基又はアセチル基;及びC末端にカルボキシル基又はアミド基を含むことができる。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、自己会合し、多量体、例えば三量体を形成することができ、又は例えば三量体などの多量体形態に合成されてもよい。
【0010】
特定の実施態様において、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、これらのペプチドが少なくとも2つのロイシンジッパー様モチーフを表し、かつロイシンジッパー様モチーフの形成に必要でない少なくとも1つのさらなるイソロイシン又はロイシン(例えば、配列番号:9又は配列番号:16の位置21)を表す限り、15〜60アミノ酸の長さである。
【0011】
例えば、配列番号:16よりもアミノ酸長が長い又は短いペプチドは、そのペプチドが少なくとも2つのロイシンジッパー様モチーフを表し、かつロイシンジッパー様モチーフの形成に必要でない少なくとも1つのさらなるイソロイシンを表す限り、本発明の範囲内であると考えられる。本発明のペプチドが配列番号:5又は配列番号:16の長さよりも長い場合、追加のアミノ酸残基は、例えば、標準的な配列技術により、配列番号:5に相当するgp41の部分に(アミノ及び/又はカルボキシに)通常隣接したHIV gp41アミノ酸配列から誘導され得る。
【0012】
また、本発明は、一連のHIV融合阻害剤ペプチドに関し、各HIV融合阻害剤ペプチドは、(a)HIV gp41のHR2領域から誘導されたアミノ酸配列を含み;(b)3つ以上及び5つ以下のロイシンジッパー様モチーフを有するアミノ酸配列を有し;かつ(c)ロイシンジッパー様モチーフのアミノ酸位置1又は8以外のアミノ酸配列位置に(例えば、配列番号:5〜7のうちのいずれか1つ以上のベース配列と比べて)少なくとも1つのさらなるロイシンを有し;かつ(d)好ましくは1以上の生物学的特性の改善を示す。特定の実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、15〜60アミノ酸残基の長さである。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、N末端基又はC末端基、或いはその両方をさらに含む;これらの末端基は、制限されないが、N末端にアミノ基又はアセチル基;及びC末端にカルボキシル基又はアミド基を含むことができる。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、自己会合し、二量体、又は多量体、例えば三量体を形成することができ、又は例えば三量体などの多量体形態に合成されてもよい。
【0013】
さらに、本発明は、HIV gp41のHR2領域から誘導されるペプチド、より好ましくは配列番号:5のベースアミノ酸配列から誘導されるペプチドにおいて、1以上の生物学的特性を向上させる方法にまで及び、該方法は、配列番号:5に類似したアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造することを含み、但し、該HIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は:(a)2つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し、かつロイシンジッパー様モチーフの形成に必要とされるロイシン以外のロイシンを少なくとも1つ有するか;又は(b)3つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し;かつ該HIV融合阻害剤ペプチドは、好ましくは1以上の生物学的活性を示す。特定の実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、15〜60アミノ酸残基の長さである。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、N末端基又はC末端基、或いはその両方をさらに含む;これらの末端基は、制限されないが、N末端にアミノ基又はアセチル基;及びC末端にカルボキシル基又はアミド基を含むことができる。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、自己会合し、二量体、又は多量体、例えば三量体を形成することができ、又は例えば三量体などの多量体形態に合成されてもよい。
【0014】
好ましくは、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドにより(ベースアミノ酸配列と比較して)改善されることが示される1つ以上の生物学的特性は、生物学的半減期(例えば、HIV融合阻害剤ペプチドが、インビボにおいて、血流中で分解、及び/又は血流から除去される前に、長寿命であること)、水溶液中の溶解度、水溶液中の安定性、HIV gp41のHR2領域(例えば、配列番号:2)の天然配列から誘導される合成ペプチドに対して耐性を発現するHIV株へのさらなる効力(より強力な抗ウイルス活性)、及びこれらの組合せからなる群から選択され得る。
また、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド、及び医薬として許容し得る担体、高分子、又はそれらの組合せを含む少なくとも1つの追加成分を含む、医薬組成物又は薬剤を提供する。
【0015】
また、本発明は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを使用する方法を提供する。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドは、1種以上のさらなる抗ウイルス薬を含む治療計画の一部として使用される。前記治療計画は、HIV感染の治療に使用される。別の実施態様において、HIVの標的細胞への感染を阻害するために、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを使用する方法であって、該ウイルス及び該細胞に、該ウイルスによる該細胞の感染を阻害するのに有効な量の本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを添加することを含む、前記方法を提供する。この方法は、HIV感染個体の治療に使用されてもよい。好ましい実施態様において、HIVの標的細胞への感染を阻害することは、HIV-1の標的細胞へのgp41媒介融合を阻害すること、及び/又はHIV感染細胞と標的細胞との合胞体形成を阻害することを含む。また、本発明は、HIV感染(好ましくはHIV-1感染)を治療する方法であって、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを含む医薬組成物を、HIV感染個体に投与することを含む、前記方法を提供する。好ましくは、医薬組成物は、HIVの標的細胞への感染を阻害するのに有効な量、及び/又はHIVの標的細胞へのgp41媒介融合を阻害するのに有効な量である。また、HIV融合を阻害する方法であって、該ウイルスを、細胞の存在下、HIV融合を阻害するのに有効な量の本発明のHIV融合阻害剤ペプチドと接触させることを含む、前記方法を提供する。これらの方法は、HIV感染個体の治療に使用することができる。
【0016】
また、本発明は、本明細書中に記載されるように、HIV感染の治療に使用(例えば、HIVの感染を阻害する方法、HIV融合を阻害する方法、及び/又はHIV感染を治療する方法に使用)するための薬剤の製造における、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの使用を提供する。該薬剤は、好ましくは、医薬として許容し得る担体とともに本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを含む医薬組成物の形態である。
【0017】
本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、該ペプチドをコードする核酸の組換え発現などの周知の方法を介して慣例的に製造され得る。例えば、HIV融合阻害剤ペプチドを組換えで発現するように操作された細胞を、該ペプチドが発現するように適切な時間及び適切な条件下で培養することができ、そこから該ペプチドを得ることができる。
【0018】
また、本発明は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドをコードする単離核酸分子、並びに前記核酸分子を含む発現ベクターなどのベクターを提供する。また、本発明は、前記ベクターを含む細胞、例えば、大腸菌(E. coli)又は哺乳動物細胞を提供する。該細胞は、HIV融合阻害剤ペプチドを産生するように核酸を発現することができる。
【0019】
また、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、例えば、合成方法を介して製造することができる。また、例えば、特定のペプチドフラグメント類を提供し、各ペプチドフラグメントは、ペプチドフラグメント一集団内の他の1つ以上のペプチドフラグメントと共有結合的にカップリングして、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、又は配列番号:15のいずれかのアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドをもたらすことができる中間体となり得る。好ましい実施態様において、本発明のペプチドフラグメント一集団内のペプチドフラグメントは、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、又は配列番号:15のアミノ酸配列を有する所望のHIV融合阻害剤ペプチドを生じるための方法で、液相プロセスにおいて結合される。また、HIV融合阻害剤ペプチドを製造する方法であって、その構成要素のペプチドフラグメントを合成し、続いて該ペプチドフラグメントを結合させて、該HIV融合阻害剤ペプチドを形成することを含み、ここで該HIV融合阻害剤ペプチドが配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、又は配列番号:15のいずれかのアミノ酸配列を有する、前記方法を提供する。一実施態様において、合成方法は、HIV融合阻害剤ペプチドの二量体又は多量体、例えば三量体を形成するために使用される。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドの二量体又は多量体を形成するために、組換え方法及び/又は連結を使用する。一実施態様において、HIV融合阻害剤ペプチドの形成される多量体は、直線状の多量体であり;別の実施態様において、形成される多量体は、非直線状、例えば凝集体である。
本発明の上記及び他の目的、特徴、並びに利点は、下記の本発明の詳細な説明において、添付の図面と併せて読んだ場合に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(本発明の詳細な説明)
(定義)
用語「個体」は、本明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、哺乳動物、好ましくはヒトを意味する。
用語「標的細胞」は、本明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、HIVに感染され得る細胞を意味する。好ましくは、該細胞は、ヒト細胞(単数)、又はヒト細胞(複数);さらに好ましくは、HIVによる膜融合などのプロセスを介して感染され得るヒト細胞である。
【0021】
用語「医薬として許容し得る担体」は、本明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、それが加えられた活性成分(例えば、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド)の生物活性を有意に変更しない担体媒体を意味する。医薬として許容し得る担体は、制限されないが、水、緩衝液、生理食塩水、0.3%グリシン、水性アルコール、等張水溶液の1つ以上を含み;グリセロール、油、塩(例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びアンモニウムなど)、ホスホン酸、炭酸エステル、脂肪酸、糖類(例えばマンニトール)、多糖類、重合体、賦形剤、及び(保存寿命を増加するための、又は組成物の製造及び配布に必要かつ適切な)防腐剤及び/又は安定剤などの物質を1つ以上さらに含むことができる。好ましくは、医薬として許容し得る担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、又は非経口投与に適する。
【0022】
用語「イソロイシン又はロイシン構成アミノ酸」は、特に他で示されない限り、本明細書及び請求項の目的のために並びに本発明のHIV融合阻害剤ペプチドに関して意味されるものであり、それぞれイソロイシン又はロイシン、或いは、これらの個別の天然アミノ酸(例えばL-アミノ酸)、非天然アミノ酸(例えばD-アミノ酸)、異性体(例えばノルロイシン、アロ-イソロイシンなど)、又は誘導体(例えばtert-ロイシン)を指す。アミノ酸イソロイシン又はロイシンの好ましい形態は、該アミノ酸の好ましい形態以外のアミノ酸の形態を除外して使用され得る。また、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、そのアミノ酸において1つ以上の多型を含むことができる。該多型は、HIV gp41のHR2領域の配列から誘導される配列中(例えば図2参照)、イソロイシン又はロイシン構成アミノ酸を含む本明細書中に教示したアミノ酸配列の1つ以上の位置以外で見出される。
【0023】
用語「HIV」は、ヒト免疫不全ウイルス、より好ましくはHIV-1を指す。
用語「単離」は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又はペプチドフラグメントに関して使用される場合、該ペプチド自身の全体構造の一部分ではない成分を実質的に含まないこと、例えば、生物学的プロセス、生化学的プロセス、又は化学的プロセスを用いた化学的合成、製造、又は修飾時に、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まないことなどを意味する。
【0024】
用語「1〜3個のアミノ酸置換」は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドに関して使用される場合、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドが、配列番号:9〜15のいずれか1つのアミノ酸配列も有することができるが、但し、配列番号:9〜15のいずれか1つと比較して、1個以上及び3個以下のアミノ酸相違を有し;同時に(a)2つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し、かつロイシンジッパー様モチーフの形成に必要とされるロイシン以外(すなわち、ロイシンジッパー様モチーフの位置1又は8以外)にさらなるロイシンを少なくとも1つ有し;又は(b)3〜5つのロイシンジッパー様モチーフを有し;かつHIVに対する抗ウイルス活性(HIV媒介融合の阻害活性)を有することを意味する。その点において、置換を有するHIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸相違(配列番号:9〜15と比較した場合)は、本発明の融合阻害剤ペプチドについて示されたロイシン及び/又はイソロイシン残基以外のアミノ酸配列位置に存在する(例えば、本明細書中の例示(I)及び(II)を参照されたい。)。1個以上及び3個以下のアミノ酸相違は、保存アミノ酸置換(制限されないが、グリシン-アラニン-バリン、トリプトファン-チロシン、アスパラギン酸-グルタミン酸、アルギニン-リジン、アスパラギン-グルタミン、及びセリン-スレオニンなどの例のようにアミノ酸を置き換えた、当該技術分野で公知である実質的に同じ電荷、サイズ、親水性、及び/又は芳香族性を有するアミノ酸の置換を含む)、及び/又は多型(例えば、図2に示される、又はHIV-1の実験体、様々なクレード、及び/又は臨床分離体に見出せる)を含む。例えば、配列番号:11、12、又は13に関して、HIV融合阻害剤ペプチドは、配列番号:11、12、又は13のいずれか1つのアミノ酸残基10、17、24、31、及び38以外の位置に1〜3個のアミノ酸相違を有する。例えば、配列番号:9及び14に関して、HIV融合阻害剤ペプチドは、配列番号:9又は14のアミノ酸残基10、17、24、及び38以外の位置に1〜3個のアミノ酸相違を有する。例えば、配列番号:10又は15に関して、HIV融合阻害剤ペプチドは、配列番号:10又は15のアミノ酸残基10、17、21、31、及び38以外の位置に1〜3個のアミノ酸相違を有する。この実施態様における実例を挙げると、制限されないが、配列番号:16のアミノ酸配列があり、1〜3個のアミノ酸置換のアミノ酸相違部位となり得る位置は、Xaa(任意のアミノ酸、天然又は非天然型を表す;すなわち、2つ以上の可能なアミノ酸が、このアミノ酸位置に使用され得る。)で示される。また、1つ以上の保存アミノ酸置換は、リジンをアルギニン又はヒスチジンに置換、アルギニンをリジン又はヒスチジンに置換、グルタミン酸をアスパラギン酸に置換、又はアスパラギン酸をグルタミン酸に置換などのように行うことができる。アミノ酸位置10、17、21、24、31、及び38は、図示目的のために下線を引いた。配列番号:9〜15に関しても、配列番号:16の「Zaa」が使用され、ロイシン、イソロイシンのいずれかとなることができるアミノ酸を示し;Baaは好ましくはロイシン、イソロイシンであるアミノ酸を示し、Xaaになることができるが、但し、少なくとも1つのBaaは、ロイシン又はイソロイシンのいずれかである。
【化1】

【0025】
一実施態様において、配列番号:16の要求に相当するHIV融合阻害剤ペプチドは、アミノ酸位置3、10、17、24、31、及び/又は38の各々にイソロイシン又はロイシンを有し、該ペプチドは、2、3、4、又は5つのロイシンジッパー様モチーフを示す。別の実施態様において、ペプチドは、そのペプチド位置21に、非ロイシンジッパーモチーフのロイシン又はイソロイシン、好ましくはロイシンも有する。また、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、そのHIV融合阻害剤ペプチドが配列番号:16のアミノ酸要求を満たす限り、HIV-1の実験体、クレード、又は臨床分離体に存在する(配列アラインメントにより)配列番号:5に相当するHIV gp41のHR2領域から誘導されたペプチドを含むことができる。一実施態様において、前記HIV融合阻害剤ペプチドは、配列番号:9〜15のいずれかと比較して1〜3個のアミノ酸置換を示す。特定の実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、15〜60アミノ酸残基の長さである。一実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、N末端基又はC末端基、或いはその両方をさらに含む;これらの末端基は、制限されないが、N末端にアミノ基又はアセチル基;及びC末端にカルボキシル基又はアミド基を含むことができる。一実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、自己会合し、二量体、又は多量体、例えば三量体を形成することができ、或いは、例えば二量体又は例えば三量体などの多量体形態に合成、発現、又は連結されてもよい。
【0026】
また、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、そのHIV融合阻害剤ペプチドが配列番号:16のアミノ酸要求を満たす限り、US 2006/0247416(その全内容は、本明細書中に引用によりその全体において取り込まれている。)に開示されたペプチドのいずれかの変異アミノ酸配列を示すペプチドを含むことができる。一実施態様において、前記HIV融合阻害剤ペプチドは、配列番号:9〜15のいずれか1つと比較して1〜3個のアミノ酸置換を示す。特定の実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、15〜60アミノ酸残基の長さである。一実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、N末端基又はC末端基、或いはその両方をさらに含む;これらの末端基は、制限されないが、N末端にアミノ基又はアセチル基;及びC末端にカルボキシル基又はアミド基を含むことができる。一実施態様において、該HIV融合阻害剤ペプチドは、自己会合し、二量体、又は多量体、例えば三量体を形成することができ、或いは、例えば二量体又は例えば三量体などの多量体形態に合成、発現、又は連結されてもよい。
【0027】
用語「反応性官能基」は、本明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、別の化学基又は化学部位と結合を形成することができる化学基又は化学部位を意味する。化学基に関して、反応性官能基は当業者に公知であり、制限されないが、マレイミド、チオール、カルボン酸、水素、ホスホリル、アシル、ヒドロキシル、アセチル、疎水性、アミン、アミド、ダンシル、スルホ、スクシンイミド、チオール反応性、アミン反応性、カルボキシル反応性などを含む基がある。好ましい反応性官能基は、本発明の適用において、好ましい反応性官能基以外の反応性官能基を除外して使用され得る。
【0028】
用語「連結基」は、明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、2つの異なる分子を操作可能に連結するための分子架橋として作用する化合物又は部位を意味する(例えば、連結基の第一の反応性官能基は、高分子担体の反応性官能基に共有結合的にカップリングし、連結基の第二の反応性官能基は、HIV融合阻害剤ペプチドの反応性官能基に共有結合的にカップリングする。)。連結基は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの1以上の複製を含む組換え融合タンパク質を製造する目的で、アミノ酸であってもよい。あるいは、該2つの異なる分子は、段階的手法(例えば、化学結合を介して)で連結基に結合されてもよい。一般に、分子架橋としての目的を実現することができる限り、連結基に特定のサイズ制限又は体積制限はない。連結基は、当業者に公知であり、制限されないが、化学鎖、化合物(例えば試薬)、アミノ酸などを含む。連結基は、制限されないが、当該技術分野において周知のホモ二官能性連結基、ヘテロ二官能性連結基、生物学的安定性連結基、加水分解性連結基、及び生分解性連結基がある。当業者に周知であるヘテロ二官能性連結基は、第一の分子に特異的に連結する第一の反応性官能基を有する一端、及び第二の分子に特異的に連結する第二の反応性官能基を有する反対端を含む。様々な一官能性、二官能性、及び多官能性試薬(例えば、Pierce Chemical社., Rockford, IIIのカタログに記載されているものなど)が本発明に関する連結基として使用することができることは、当業者に明らかであろう。連結される分子、連結を行う条件、及び投与時の意図される薬物動態学的特性などの要因に応じて、連結基は、生物活性及び機能の保存、安定性、特定の化学物質及び/又は温度パラメータに対する耐性、インビボでの切断感受性、及び有意な立体選択性又はサイズなどの特性を最適化する長さ及び組成に変更することができる。
【0029】
用語「高分子担体」は、明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、本発明の1つ以上のペプチドに(例えば、化学的に、又は遺伝子発現を用いる組換え手段を介して)連結、結合、又は融合する分子を意味する。それによって、該分子は、該分子の非存在下での該1つ以上のペプチドと比較して、該1つ以上のペプチドの安定性、該1つ以上のペプチドの生物活性の増加、又は該1つ以上のペプチドの血漿半減期の増加(例えば、該1つ以上のペプチドの体内での持続性を増加する。)の1つ以上の特性を与えることができる。前記高分子担体は、当該技術分野において周知であり、制限されないが、血清タンパク質、重合体、炭水化物、及び脂質-脂肪酸複合体がある。高分子担体として典型的に使用される血清タンパク質には、制限されないが、トランスフェリン、アルブミン(好ましくはヒト)、免疫グロブリン(好ましくはヒトIgG又はその1つ以上の鎖)、又はホルモンがある。高分子担体として典型的に使用される重合体には、制限されないが、ポリリジン、又はポリ(D-L-アラニン)-ポリ(L-リジン)、又はポリオールがある。好ましいポリオールは、水溶性ポリ(アルキレンオキシド)ポリマーであり、直鎖又は分枝鎖を有することができる。好ましい重合体は、分枝鎖ポリオール(例えば、複数(例えば3つ以上)の鎖を有するPEG。そのそれぞれは、HIV融合阻害剤ペプチドに直接結合するか、又は連結基を介して結合することができる。)であり;さらに好ましくは、生分解性であり、かつ/又はインビボ条件下で時間とともに切断される、分枝鎖ポリオールである。適切なポリオールは、制限されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、及びPEG-PPG共重合体である。好ましいポリオールは、約1,000ダルトン〜約20,000ダルトンの範囲から選択される平均分子サイズを有するPEGである。一般に20,000ダルトンよりも大きい分子量を有する使用可能な他の高分子担体種は、当該技術分野で周知のものである。
【0030】
用語「化学的保護基」又は「CPG」は、明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、アミン基を含む反応性官能基を、別の反応性官能基との化学反応から遮断するために使用される化学部位を意味する。化学的保護基は、ペプチド合成の当業者に周知であり、制限されないが、tBu (t-ブチル)、trt (トリフェニルメチル(トリチル))、OtBu(tert-ブトキシ)、Boc又はt-Boc(tert-ブチルオキシカルボニル)、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)、Aoc(t-アミルオキシ-カルボニル)、TEOC (β-トリメチルエチルオキシカルボニル)、CLIMOC(2-クロロ-1-インダニルメトキシルカルボニル)、BIMOC(ベンズ-[f]-インデン-3-メトキシルカルボニル)、PBF (2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル)、2-Cl-Z(クロロベンジル-オキシカルボニル)、Alloc(アリルオキシカルボニル)、Cbz(ベンジルオキシカルボニル)、Adoc(アダマンチルオキシ-カルボニル)、Mcb(1-メチルシクロブチルオキシカルボニル)、Bpoc(2-(p-ビフェニリル)プロピル-2-オキシカルボニル)、Azoc(2-(p-フェニルアゾフェニル)プロピル-2-オキシカルボニル)、Ddz(2,2-ジメチル-3,5-ジメチルオキシベンジル-オキシカルボニル)、MTf(4-メトキシ-2,3,6-トリメトイルベンゼンスルホニル)、PMC(2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル)、Tos(トシル)、Hmb(2-ヒドロキシル-4-メトキシベンジル)、Poc(2-フェニルプロピル-2-オキシカルボニル)、Dde (1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン)エチル)、ivDde(1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソ-シクロヘキサ-1-イリデン)-3-メチルブチル)、ベンジル、ダンシル、パラ-ニトロベンジルエステルなどがある。好ましい化学的保護基は、本発明の適用において、好ましい化学的保護基以外の化学的保護基を除外して使用され得る。
【0031】
用語「脱保護」は、明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、当該技術分野で公知であり、1つ以上の化学的保護基を、1つ以上の化学的保護基を含む分子から除去するプロセスを意味する。該分子は、アミノ酸、ペプチドフラグメント、又は本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを含む。一般に、脱保護プロセスは、1つ以上の化学的保護基により保護された分子を、その化学的保護基を除去する化学物質と反応させることを含む。例えば、化学的保護基により保護されたN末端アルファアミノ基を、塩基と反応させ、塩基性に不安定な化学的保護基(例えば、Fmocなど)を除去することができる。化学的保護基(例えば、Boc、TEOC、Aoc、Adoc、Bopc、Ddz、Cbzなど)を、酸により除去する。他の化学的保護基、特にカルボン酸から誘導されたものは、酸又は塩基により除去することができる。
【0032】
用語「第一」、「第二」、「第三」などは:(a)順序を示すために;又は(b)分子又は分子の反応性官能基を区別するために;又は(c)(a)及び(b)の組合せで、本明細書中に使用され得る。しかし、用語「第一」、「第二」、「第三」などは、別に本発明を限定するものとして解釈されるものではない。
【0033】
用語「ペプチドフラグメント」及び「中間体」は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドに関して並びに明細書及び請求項の目的のために、本明細書中で同義的に使用され、約5個以上のアミノ酸残基長さ及び30個未満のアミノ酸残基長さのアミノ酸配列を含むペプチドを意味し、そのHIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列の少なくとも一部(連続するアミノ酸)を含む。配列番号:9及び10の製造に有用なペプチドフラグメントの実例について、本明細書中の実施例4〜7及び表4、5、7、及び8を参照されたい。さらに、好ましい実施態様において、ペプチドフラグメント(1つ1つ、又はHIV融合阻害剤ペプチドを形成する集団としての組合せの場合)は、アミノ酸残基間でペプチド結合を形成するように合成される。非ペプチド結合が当業者に公知の反応を用いて形成可能であることは、当業者に明らかである(例えば、イミノ、エステル、ヒドラジド、アゾ、セミカルバジドなど)。
【0034】
用語「薬物動態学的特性」は、明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用される場合、長期に渡って全身的に利用可能な医薬組成物中の活性成分(例えば、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド)の総量を意味する。薬物動態学的特性は、インビボ投与後に、HIV融合阻害剤ペプチドの全身濃度を長期に渡って測定することにより決定することができる。例えば、薬物動態学的特性は、曲線下面積(AUC)、生物学的半減期、及び/又はクリアランスによって表すことができる。AUCは、質量-時間/体積の単位の、長期に渡る全身の活性成分濃度の総合的な測定値である。活性成分投与後に、投与時間から活性成分が体内でなくなる時間までのAUCは、個体の活性成分(及び/又は活性成分の代謝産物)への曝露の測定値である。本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド以外のHIV融合阻害剤ペプチドと比較して、(a)生物学的(最終排出)半減期(「t 1/2」)の長期化(「増加」)、及び(b)生物学的(全身)クリアランス(Cl)の減少のうちの1つ以上を有する場合、「改善」又は「増加」された薬物動態学的特性を有する(例えば、本明細書中の実施例2の表1及び2)。好ましい実施態様において、改善された薬物動態学的特性は、比較されるペプチドのそれと比べて、減少されたクリアランス、例えば、通常約2倍減少〜約10倍減少されたクリアランスを意味することができる。別の好ましい実施態様において、改善された薬物動態学的特性は、比較されるペプチドのそれと比べて、生物学的半減期の約10%増加〜約60%増加における増加を意味することができる。また、改善された薬物動態学は、クリアランスの減少及び生物学的半減期の増加の双方を含んでいてもよい。血漿濃度下面積対時間曲線(AUC)、全身クリアランス(Cl)、及び最終排出半減期(t 1/2)の計算に使用される式は、本明細書中の実施例1で説明する。
【0035】
用語「溶液中」は、1以上の個体を溶解する水性流体に関して当該技術分野で標準的であるように明細書及び請求項の目的のために本明細書中で使用され、さらに詳細に本明細書中で記載されるように、かつ注射用薬剤配合の当該技術分野で標準的であるように、実際に使用する濃度及び温度条件下で溶解したHIV融合阻害剤ペプチドを含む水溶液を意味する。溶液の形成と、対照的な懸濁液の形成とを識別するための当該技術分野で公知である様々な方法がある。例えば、視覚的透明度(溶液の透明度対懸濁液の濁度)、光透過率の調査などである。「溶解度」は、HIV融合阻害剤ペプチドを含む水性流体の溶液中からの沈殿又はゲル化が観測される証拠を示さない、水性流体の溶液に存在するHIV融合阻害剤ペプチドの量(例えば重量パーセント)により測定される。「安定性」は、時間とともに分解する溶液中のHIV融合阻害剤ペプチドの量により測定される。
【0036】
用語「治療」又は「療法」は、HIV感染に関して及び明細書及び請求項の目的に対して可換的に使用されるものであり、HIV融合阻害剤ペプチド(又は活性薬剤物質としてHIV融合阻害剤ペプチドを有する医薬組成物)を用いて、HIV感染に関連した1つ以上のプロセスに影響を与えることができること、或いは前記治療又は療法(例えば治療的適用)の治療的効果を測定するための指標として使われる1つ以上のパラメータ又は評価項目に影響を与えることができることを意味する。例えば、HIV融合阻害剤ペプチドを用いて、1つ以上の下記プロセスを阻害することができる:HIVの標的細胞への感染;HIVと標的細胞との融合(「HIV融合」);ウイルス侵入(感染プロセス時に標的細胞内に侵入するHIV又はその遺伝物質のプロセス);及び合胞体形成(例えば、HIV感染細胞と標的細胞との融合)である。ウイルス抑制(体液又は組織中のHIVのウイルス量を測定する当該技術分野で公知である方法により決定される。)は、HIV感染の治療又は療法において薬剤の有効性を評価するために共通して使用される主要な評価項目であり、血流に循環するCD4細胞数の増加は、共通して使用される第二の評価項目である;それぞれは、HIVの標的細胞への感染を阻害する測定可能な作用である。従って、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを用いて、ウイルス抑制及び/又は循環CD4細胞の相対数の増加を含む治療的適用をもたらすことができる。
【0037】
本発明は、アミノ酸配列において、配列番号:5のアミノ酸配列と類似するHIV融合阻害剤ペプチドに関し、但し、該HIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は、該ベースアミノ酸と比較して、(a)そのアミノ酸配列中に2つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し;かつ(b)ロイシンジッパー様モチーフの形成に必要なロイシン以外(すなわち、ロイシンジッパー様モチーフの位置1又は8以外)に少なくとも1つのさらなるロイシンを有し;該HIV融合阻害剤ペプチドが1つ以上の生物学的特性の改善を示す。より詳細には、本発明は、配列番号:9、10、14、及び15に例示されるペプチドのアミノ酸配列、又は配列番号:9、10、14、及び15のいずれか1つと比較して、1〜3個のアミノ酸相違を含むHIV融合阻害剤ペプチド;HIV融合阻害剤ペプチドとして及び医薬組成物における、これらの使用;並びにペプチドフラグメント及びこれらのHIV融合阻害剤ペプチドを得るための合成方法に関する。本発明の別の実施態様において、本発明はまた、アミノ酸配列において、配列番号:5のベースアミノ酸配列に類似するHIV融合阻害剤ペプチドに関し、但し、該HIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は、該ベースアミノ酸と比較して、そのアミノ酸配列中に3つ以上のロイシンジッパー様モチーフを有し;該HIV融合阻害剤ペプチドが1つ以上の生物学的特性の改善を示す。より詳細には、本発明は、配列番号:11〜13に例示されるペプチドのアミノ酸配列、又は配列番号:11〜13のいずれか1つと比較して、1〜3個のアミノ酸相違を含むHIV融合阻害剤ペプチド;HIV融合阻害剤ペプチドとして及び医薬組成物における、これらの使用;並びにペプチドフラグメント及びこれらのHIV融合阻害剤ペプチドを得るための合成方法に関する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
下記実施例において、様々な生物物理学的パラメータ、及び生物学的パラメータを評価した。これらのパラメータを測定する一般的方法は下記の通りである。
本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを含めたペプチド、及びベース配列は、標準的固相合成技術を用い、かつ標準的FMOCペプチド化学、又は本明細書中の実施例4に詳細に記載されている固相合成と液相合成との組合せを用いて、ペプチド合成機で合成した。この実施例において、HIV融合阻害剤ペプチドは、反応性官能基をさらに含んでいてもよい;すなわち、多くはN末端をアセチル基により、及び/又はC末端をアミド基によりブロックした。樹脂からの切断後に、該ペプチドを沈殿させ、該沈殿物を凍結乾燥した。次に該ペプチドを、逆相高速液体クロマトグラフィーを用いて精製し;かつエレクトロスプレー質量分析を用いて、ペプチド同一性を確認した。
【0039】
生物物理学的パラメータの評価には、ヘリシティ及び熱的安定性の測定値を含ませた。ヘリシティは、下記のように円二色性(「CD」)により評価した。簡潔に言うと、熱電温度調節器を備えた分光計を用いてCDスペクトルを得た。該スペクトルは、25℃で、200 nm〜260 nmの0.5ナノメートル(nm)刻み、1.5 nmバンド幅、及び4秒/刻みの典型的な平均時間で得たものである。セル/緩衝液のブランクを引き算した後に、スペクトルを、ランダムな剰余(random residuals)を与えるように、保存的ウィンドウサイズ(conservative window size)と一致する最小二乗法の三次多項式(third-order least-squares polynomial)を用いて平滑化した。生の楕円率値を、標準的方法を用いて平均残基楕円率に変換し、波長(200〜260 nm)対[θ]×10-3(度cm2/dmol)をプロットした。次に、標準的方法を用いて、パーセントヘリシティ値(Percent helicity values)を計算した(通常、10μM、25℃でのパーセントヘリシティとして表される。)。熱的安定性の評価は、温度を2℃刻みで上昇させ、1分の平衡化時間を用いて、222 nmのCDシグナルの変化をモニターすることにより行った。各サンプル(例えば、HIV融合阻害剤ペプチド)の安定性は、Tm値で表されるように、熱遷移の第一の誘導体の最大値に相当する温度である。
【0040】
生物学的特性の評価には、HIV-1株に対する抗ウイルス活性の測定値を含ませた。本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの抗ウイルス活性の測定において(例えば、ある測定は、HIVの標的細胞への感染を阻害する能力である。)、インビトロアッセイを使用した。インビトロアッセイは、HIV gp41のHR領域から誘導されるペプチドを用いて作成されるデータにより、インビボにおいて観測される抗ウイルス活性の予測となることが明らかにされている。より詳細には、インビトロ感染性アッセイ(「Magi-CCR5感染性アッセイ」;例えば、米国特許第6,258,782号を参照)を用いて観測される抗ウイルス活性は、同じHIV gp41誘導ペプチドについてインビボで観測される抗ウイルス活性と合理的に相関することが示されている(例えば, Kilbyらの論文, 1998, Nature Med. 4:1302-1307を参照)。これらのアッセイは、誘導体cMAGIを発現する指標細胞株MAGI又はCCR5を用いて、感染性ウイルス力価の減少について点数を付けるものである。両細胞株は、HIV-1 tatの能力を利用して、HIV-LTRにより駆動されるβ-ガラクトシダーゼレポーター遺伝子の発現を転写促進するものである。β-galレポーターは、核に局在するように修飾されており、強度の核染色としてのX-gal基質を用いて、感染の数日以内に検出され得る。従って、染色された核の数は、染色前にたった一回の感染がある場合、接種物中の感染性ウイルス粒子数に等しいものとして解釈することができる。感染細胞はCCD画像を用いて数え、かつ第一及び実験適合分離体の双方は、ウイルス投入と画像により可視化した感染細胞数との間で直線関係を示す。MAGI及びcMAGIアッセイにおいて、抗ウイルス活性を評価するために、感染力価(Vn/Vo = 0.5)の50%減少を有意とし、かつ第一のカットオフ値を提供する(「IC50」は、感染性ウイルス力価の50%減少をもたらす活性成分の濃度として定義される。)。抗ウイルス活性について試験されるペプチドを、様々な濃度に希釈し、48ウェルマイクロタイタープレートにおいて約1500〜2000感染細胞/ウェルとなるように調節したHIV接種物に対して、2回繰返し又は3回繰返しで試験した。該ペプチド(個別の希釈物)を、cMAGI又はMAGI細胞に加え、続いてウイルス接種物を加えた;24時間後に、感染及び細胞-細胞融合の阻害剤(例えば, T20(配列番号:2;エンフビルチド))を加え、第二回目のHIV感染及び細胞-細胞ウイルス伝播を抑制させた。該細胞を2日以上培養し、続いてHIV感染細胞を検出するために固定し、かつX-gal基質を用いて染色した。各対照及びペプチド希釈物について、CCD画像を用いて感染細胞数を測定し、続いてIC50を計算した(μg/mlで表す)。
【0041】
ベース配列からなるペプチドの抗ウイルス活性に耐性を示すウイルスを、標準的実験方法を用いて産生することができる。基本的には、IC50及びIC90の計算後に、細胞をウイルスと該ペプチド(例えば、IC90に近い濃度)とともに培養液中に混合した(その後に該細胞が分裂される時を含む。)。合胞体が現れるまで、該培養液を維持し、かつモニターした。一回目の培養から集菌したウイルスを用いて、二回目の培養の細胞を感染させ、一回目の培養に使用したペプチドよりも高濃度のペプチド(2〜4倍)を使用した。該ペプチドの抗ウイルス活性に耐性を示すウイルスを存在させるために、二回目の培養を維持し、かつモニターした。該ペプチドの抗ウイルス活性(前記分離体の前測定したIC50レベル)に耐性を示すウイルス分離体が最終的に産生されるように、次の回の培養を必要としてもよい。
【0042】
薬物動態学的特性を測定するために、HIV融合阻害剤ペプチド、又はHIV融合阻害剤ペプチドを誘導したベース配列を、カニクイザル(Macaca fasicularis)の静脈内に投与した(薬物動態学的特性を測定するために、当該技術分野で公知の他の動物モデルを使用してもよい。)。投与後様々な時間で、血液サンプルを採取し、遠心分離により血漿を分離した。血漿サンプルは、エレクトロスプレー陽イオンモードのLC-MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)により分析するまで冷凍保存した。HIV融合阻害剤又はベース配列は、10 mM酢酸アンモニウムpH 6.8の緩衝液中にアセトニトリルの勾配を用いて、C18又はC8 HPLCカラムから溶出した。分析時に、2又は3倍容量の0.5%ギ酸含有アセトニトリルを用いて、血漿サンプルを除タンパクした。カニクイザル血漿サンプルの2回繰返し較正基準を、該サンプルと同時に準備し、HIV融合阻害剤ペプチド又はベース配列を含む該サンプルの前後で分析した。単一指数又は二次指数数学モデルを用いて、血漿濃度-時間データから薬物動態学的特性を計算した。非線形最小二乗最適化によりモデルを導き出した。濃度の1/C2重み付けを使用した。下記式を用いて、血漿濃度下面積対時間曲線(AUC)、全身クリアランス(Cl)、及び最終排出半減期(t 1/2)を計算した。
AUC = A/-a + B/-b
(式中、A及びBは切片であり、かつa及びbはそれぞれ分布及び排出相を表す指数式の速度定数である。単一指数モデルを使用した場合、「A」及び「a」の性質は除外される。)
Cl = 投与量/AUC (L/K/時間で表される。)
t 1/2 = -0.6903/b (時間で表される。)
【0043】
(実施例2)
本発明を例示する目的のために、該ベース配列は、下記アミノ酸配列(配列番号:5)を有する。
【化2】

【0044】
一実施態様において、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、誘導化されるベース配列と比較して、3つ以上のロイシンジッパー様モチーフを含む。前記HIV融合阻害剤ペプチドの例を挙げると、配列番号:11、配列番号:12、及び配列番号:13;或いは配列番号:11、配列番号:12、又は配列番号:13のいずれか1つ(例えば、少なくとも92%同一性)と比較して、1〜3個のアミノ酸相違を有するアミノ酸配列があるが、これらに制限されない;各HIV融合阻害剤ペプチドは、3〜5個のロイシンジッパー様モチーフのアミノ酸配列を有する。下記例示(I)は、ベース配列のアミノ酸位置の下に(「|」を用いて並べられたとおりに)一文字アミノ酸コード(ロイシンに対して「L」、イソロイシンに対して「I」)を用いた(該ベース配列と比較して)アミノ酸相違を有し、かつ下線が引かれたロイシンジッパー様モチーフ(同じロイシンジッパー様モチーフの位置1又は8、或いは、1つのロイシンジッパー様モチーフの位置8及び近接するロイシンジッパー様モチーフの位置1)に関与するイソロイシン及びロイシンを有する、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列を示す。また、1つのロイシンジッパーの位置1又は8は、配列中の反対側の末端位置の別のロイシンジッパー様モチーフとして、すなわち、位置8の1つのモチーフ及び位置1の別の次のモチーフとして作用することができる。
【化3】

【0045】
別の実施態様において、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、誘導化されるベース配列と比較して、2つ以上のロイシンジッパー様モチーフ、並びに、ロイシンジッパー様モチーフに関与しないさらなるロイシンを含む。そのようなHIV融合阻害剤ペプチドの例を挙げると、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:14、及び配列番号:15;或いは配列番号:9、配列番号:10、配列番号:14、又は配列番号:15のいずれか1つ(例えば、少なくとも92%同一性)と比較して、1〜3個のアミノ酸相違を有するアミノ酸配列を含むが、これらに制限されない;各HIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は、2つ以上のロイシンジッパー様モチーフ、及びロイシンジッパー様モチーフの形成に関与しない(すなわち、ロイシンジッパー様モチーフの位置1又は8以外に)さらなるロイシンを含む点で、配列番号:5のベース配列とは異なる。1つの好ましい実施態様において、非ロイシンジッパー様モチーフのロイシン置換は、配列番号:5のベース配列中のアミノ酸位置21のイソロイシンを置き換える。下記例示(II)は、ベース配列のアミノ酸位置の下に(「|」を用いて並べられたとおりに)一文字アミノ酸コード(ロイシンに対して「L」、イソロイシンに対して「I」)を用いた(該ベース配列と比較して)アミノ酸相違を有し、かつ下線が引かれたロイシンジッパー様モチーフ(同じロイシンジッパー様モチーフの位置1又は8、或いは、1つのロイシンジッパー様モチーフの位置8及び近接するロイシンジッパー様モチーフの位置1)に関与するイソロイシン及びロイシンを有する、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドのアミノ酸配列を示す。イタリック体は、ロイシンジッパー様モチーフの形成に関与しないロイシンである。
【化4】

【0046】
例示(III)は、「ベース配列」配列番号:5、及び配列番号:9〜15の全配列を示す。配列番号:5ベース配列と比較して、配列番号:9〜15の各々のアミノ酸置換に下線を引き、太字で示す。
【化5】

【0047】
表1に関して、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを、同じベース配列を有するが(配列番号:9〜15と比較して)アミノ酸配列が異なり、かつ抗HIV活性を有する合成ペプチドと比較した。その比較は、本明細書中の実施例1に記載した方法を用いて測定された、生物物理学的パラメータ、及び生物活性パラメータを含む。生物活性の測定において、抗ウイルス活性により評価されるように、HIV媒介融合を阻害することが知られている幾つかのペプチドの抗ウイルス活性に耐性を示すウイルス分離体を利用する。
【0048】
【表1】

【0049】
配列番号:6は、位置24での一置換の点で配列番号:5とは異なる。配列番号:7は、位置31での一置換の点で配列番号:5とは異なる。これらの置換は、半減期の改善をもたらす(下記表2参照)。配列番号:6は、配列番号:9を有する本発明のHIV融合阻害剤ペプチドと類似する。但し、配列番号:9のアミノ酸配列は1つのさらなるアミノ酸相違、アミノ酸位置21のロイシンを有する(一方、配列番号:6は、アミノ酸位置21にイソロイシンを有する。)。表1に関して、配列番号:9の、イソロイシン置換ロイシンは、配列番号:6のペプチドと比較して、ヘリシティの減少(97%から61%)を与え、同時に良好な耐性プロファイル(耐性ウイルス分離体「Res」に対する活性)を含む抗ウイルス活性を維持している。同様に、配列番号:7は、配列番号:10を有する本発明のHIV融合阻害剤ペプチドに類似するアミノ酸配列である。但し、配列番号:10のアミノ酸配列は、1個のアミノ酸相違、アミノ酸位置21にロイシンを有する(一方、配列番号:7は、アミノ酸位置21にイソロイシンを有する。)。表1に関して、配列番号:10の、イソロイシン置換ロイシンは、配列番号:7のペプチドと比較して、ヘリシティの減少(84%から77%)を示し、同時に良好な耐性プロファイル(耐性ウイルス分離体「Res」に対する活性)を含む抗ウイルス活性を維持している。従って、表1は、配列番号:6〜7に対して配列番号:9及び10の改善された特性を示している。
【0050】
ベースアミノ酸配列と比較して、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの薬物動態学的特性が、この実施態様において示されている。実施例1にさらに詳細に記載した上記の薬物動態学的特性評価方法を用いた、配列番号:5〜10のペプチドの薬物動態学的特性を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示されるように、配列番号:6、7、9、及び10の各々は、生物学的半減期(t 1/2)の増加を示す。配列番号:8は、アミノ酸位置21にロイシンを含むが、アミノ酸位置24又は31には含まず、配列番号:6、7、9、及び10のペプチドにより示される半減期の劇的な増加を示さない。
【0053】
医薬組成物の製造において、HIV融合阻害剤を医薬として許容し得る担体に配合するために、水溶液への安定性は、特に医薬組成物が非経口投与される場合に、重要なパラメータとなり得る。本発明のHIV融合阻害剤ペプチドが、生理的pHでの水溶液の安定性に改善を示すことに留意されたい。例えば、配列番号:2のアミノ酸配列を有する合成ペプチド、配列番号:5、及び配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの各々を、リン酸緩衝食塩水(PBS)に濃度10 mg/mlで該ペプチドを加えることにより、及び1週間(168時間)に渡って異なる時間点で、37℃、約pH 7.3〜約pH 7.5の範囲の溶液中に残存するペプチドの量を測定することにより(例えばHPLCにより)、溶解度について個々に試験した。配列番号:2を含む溶液は、数時間後に不安定になる(溶液中に検出される最小量のペプチド)。対照的に、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの90%以上が、1週間の時間点で溶液中に検出可能に残存し、一方、配列番号:5のアミノ酸配列を有するペプチドの80%未満が、1週間の時間点で、溶液中に検出可能に残存する。
【0054】
(実施例3)
本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの生物学的特性を、配列番号:2(エンフビルチド)などの他の認可されている効果的な抗ウイルス薬と比較した。特に、関心対象の新規な配列番号:9の化合物と、配列番号:2の立証されている抗ウイルス薬との間で、下記に詳細に記載されるインビトロ耐性比較研究を行った:
MT2細胞を、ウイルス分離体(IIIB、030、060、及び098)で感染させ、かつ耐性について選択するために配列番号:2(エンフビルチド)又は配列番号:9の増加する濃度で培養した。最初のペプチド濃度は、対応する野生型分離体に対する各ペプチドのIC50の約2倍にした。1〜3日毎に新たなペプチドを加えることにより、ペプチド濃度を維持した。標準的技術を用いて、培養物を細胞変成作用(CPE)についてモニターし、最大CPEが達成された時、ウイルスの小アリコートを次の回の感染に使用した。ペプチド濃度を野生型ウイルスの増殖速度と比較する場合、培養時間の長さに応じてペプチド濃度を2〜4倍に増加させた。また、選択の過程において、ペプチド非含有ウイルスストックを収集した。ペプチド非含有ウイルスストックを、ジデオキシ配列決定化学によりgp41遺伝子型変異について特徴付けし、cMAGI感染性アッセイを用いて、表現型感受性を測定した。
【0055】
配列番号:2及び配列番号:9を用いた、インビトロ選択の間の比較結果を表3に示す。これらのデータは、配列番号:9選択が、培養において、配列番号:2選択よりも平均3倍長く、IC50においてより小さい倍変化(fold change)を生じた(配列番号:9の24倍と比較して、配列番号:2について42倍)。配列番号:9選択は、より多くの突然変異(幾何平均3.6)を要求し、配列番号:2(幾何平均1.7)よりも小さい倍変化を達成した。培養においてより長い日数、より小さい倍変化、及びより多い突然変異体数が、より小さい倍変化をもたらすことを要求し、全ては、配列番号:9が、配列番号:2と比較して、インビトロにおいて耐性の発生に対するより高い障壁を示すことを表している。すなわち、これらの結果は、配列番号:9に対するHIV耐性が、配列番号:2に対する耐性よりも、生じるのにより長い時間がかかることを示している。他のペプチド、例えば配列番号:2及びT1249で導かれるHIV耐性発生の以前の研究に基づき、本明細書中のインビトロにおける結果が、インビボにおける結果と合理的に相関するであろうと予測される(例えば、Melbyらの論文, 2006, AIDS Research and Human Retroviruses 22(5):375-385;Greenberg及びCammack, 2004, J. Antimicrobial Chemotherapy 54:333-340;Sistaらの論文, 2004, AIDS 18:1787-1794を参照されたい。)。
【0056】
【表3】

【0057】
(実施例4)
一般に、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、2つの方法それぞれにより合成することができる。第一の方法は、標準的固相合成技術を用い、かつ標準的Fmocペプチド化学、又は他の標準的ペプチド化学(CPGを用いる)を用いる、線形合成によるものである。本発明のHIV融合阻害剤ペプチドのより好ましい合成方法は、フラグメント縮合アプローチによるものである。簡潔に言うと、2つ以上のフラグメント(製造されるHIV融合阻害剤ペプチドの全アミノ酸配列の各部分を含む各フラグメント)を合成する。フラグメントの合成において、所望であれば、化学的保護物質により化学的に保護された遊離アミン(例えば側鎖アミン)を有するアミノ酸を組み込んでもよい。次に、該HIV融合阻害剤ペプチドが製造される(適切なアミノ酸配列を有する)ように、フラグメントを結合させる(様式及び順番において共に共有結合的にカップリングさせる)。
【0058】
ペプチド合成に関して、個々のペプチドフラグメント自身、及び本発明の一集団のペプチドフラグメントの組合せから製造される本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを、それぞれ、ペプチド配列を合成するための当業者に公知の技術を用いて製造してもよい。例えば、好ましいアプローチにおいて、ペプチドフラグメントを固相中で合成し、続いて、結合プロセスにおいて液相中で結合させ、結果として生じるHIV融合阻害剤ペプチドを製造してもよい。別のアプローチにおいて、液相合成を使用してペプチドフラグメントを製造し、続いて、結合プロセスにおいて固相中で結合させ、HIV融合阻害剤ペプチドを製造してもよい。また別のアプローチにおいて、各ペプチドフラグメントを固相合成を用いて合成し、続いて、結合プロセスにおいて固相中で結合させ、HIV融合阻害剤ペプチドの全アミノ酸配列を製造してもよい。好ましい実施態様において、各ペプチドフラグメントは、当業者に公知の固相合成を用いて製造される。好ましい実施態様において、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドは、本発明のペプチドフラグメント一集団を用いて、固相及び液相技術を組み合わせた結合プロセスを使用して製造される。例えば、ペプチドフラグメント一集団は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの合成を完成するように合成され続いて結合される、2〜4つのペプチドフラグメントを含む。本明細書中の教示に基づき、配列番号:9〜16のいずれか1つのアミノ酸配列を有する幾つかのHIV融合阻害剤ペプチドに対して、フラグメント結合アプローチを使用することができること、及びそれを使用していることは、当業者に明らかである。
【0059】
フラグメント縮合アプローチによる本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの製造を例示するために、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法におけるペプチドフラグメントの結合において、ペプチドフラグメント一集団中のペプチドフラグメントを共有結合的にカップリングした。本発明のペプチドフラグメントは、制限されないが、下記表4に示したアミノ酸配列を有するものを含むことができる。好ましいペプチドフラグメントは、好ましいペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントを除外して、本発明において使用され得る。また、各ペプチドフラグメントの配列番号:9の対応するアミノ酸を示す;従って、各ペプチドフラグメントは、配列番号:9のアミノ酸配列の多くの連続するアミノ酸で構成される。
【0060】
【表4】

【0061】
また、本発明は、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法における中間体として作用する、特定集団のペプチドフラグメントを包含する。本発明のペプチドフラグメントの集団は、表5に示されるように、集団1〜16を含む(集団の番号は、記述を簡潔にするためだけのものである)。ペプチドフラグメントの好ましい集団は、ペプチドフラグメントの好ましい集団以外のペプチドフラグメントの集団を除外して、本発明において使用され得る。
【0062】
【表5】

【0063】
従って、本発明の一実施態様は、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成に使用することができる方法、ペプチドフラグメント、及びペプチドフラグメントの集団に関する。また、前記方法、ペプチドフラグメント、及びペプチドフラグメントの集団が、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチド(該HIV融合阻害剤ペプチドは1つ以上の化学基を含む)の合成に使用され得ることは、本明細書中の記述から明らかである:
【化6】

(式中、アミノ末端、カルボキシル末端、又は側鎖遊離反応性官能基(例えば、内部リジンのイプシロンアミン)の1つ以上は、化学基(B, U, Z;ここでB、U、及びZは同一化学基又は異なる化学基とすることができる)により修飾される。該化学基は、制限されないが、1つ以上の反応性官能基、化学的保護基(CPG)、及び連結基を含むことができる。)。ペプチドフラグメントのN末端若しくはペプチドフラグメントのC末端、内部アミノ酸の遊離アミン、又はこれらの組合せでの化学基導入に有用な技術は、当該技術分野で周知である。配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの製造に関連して、保護されたペプチドフラグメント(1つ以上の化学基を有するペプチドフラグメント)の実例を挙げると、制限されないが、表6に示したペプチドフラグメントがある。
【0064】
【表6】

Ac-アセチル基、NH2-アミド基(しかし、本明細書中の「定義」の項でより詳細に記載されるような別の化学基とすることができる);CPGは化学的保護基(例えば、本明細書中の「定義」の項でより詳細に記載されるようなFmoc又は他のN末端化学的保護基)である;Uは上記で定義されたものである。
【0065】
(実施例5)
表5(集団1又は集団2)及び図3に関して、3つの特定のペプチドフラグメント(例えば、配列番号:17〜19+Leu;又は配列番号:17、18、及び20)を用い、かつHIV融合阻害剤ペプチドを製造するように3つのペプチドフラグメントを結合させることを含むフラグメント縮合アプローチを用いて、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法を例示する。これらのペプチドフラグメントの各々は、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの高収率高純度合成方法において使用される(2つのフラグメントアプローチに対して)好ましいペプチドフラグメントである物理的特性及び溶解度特性を示した。これらは出発物質として1つの充填樹脂のみ(合成方法の単純化)をさらに要求する。配列番号:17のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:9の最初の12アミノ酸を含むペプチドフラグメント(図3,「AA(1-12)」を参照)を、N末端のアセチル化(化学基として「Ac」)(一方、C末端でヒドロキシル基(-OH)を有する。)(図3, 「Ac-AA(1-12)-OH」を参照)を用いて標準的固相合成(超酸感受性樹脂;例えば、4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェノキシ-酪酸樹脂、又は2-クロロトリチルクロライド樹脂-「CTC」を使用, 図3)により合成した。配列番号:18のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:9のアミノ酸13〜26を含むペプチドフラグメント(図3, 「AA(13-26)」を参照)を、N末端でFmoc(化学的保護基として)及びC末端で-OH(図3, 「Fmoc-AA(13-26)-OH」を参照)を用いて標準的固相合成により合成した。配列番号:19のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:9のアミノ酸27〜37を含むペプチドフラグメント(図3, 「AA(27-37)」を参照)を、N末端でFmoc(化学的保護基として)及びC末端で-OH(図3, 「Fmoc-AA(27-37)-OH」を参照)を用いて標準的固相合成により合成した。当業者に周知の切断試薬、溶媒、及び技術により、その固相合成のために使用される樹脂から、各ペプチドフラグメントを切断した。次に、蒸留により前記溶媒の大部分を除去し、かつ水にアルコールを含む共溶媒又はアルコール未含有水の添加によりペプチドフラグメントを沈殿させて、各ペプチドフラグメントを分離した。得られた固体を濾過、洗浄、水又はアルコール/水への再スラリー化、再濾過、及び真空オーブン中での乾燥により単離した。
【0066】
図3に示すように、液相合成によりペプチドフラグメントを製造した。配列番号:19のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメント(図3, 「Fmoc-AA(27-37)-OH」を参照)を、液相中でアミド化されているLeu(配列番号:9のアミノ酸38)と化学的にカップリングさせ、C末端のアミド化(化学基として)とともに配列番号:20(配列番号:9のアミノ酸27〜38を含む)のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメントを生じた(図3, 「Fmoc-AA(27-38)-NH2」を参照)。好ましい合成方法において、制限されないが、ペプチドフラグメントH-AA(27-38)-NH2などの本発明のアミド化ペプチドフラグメントは、アミド樹脂を用いて直接的に合成されてもよい。この液相反応の要約において、単離ペプチドフラグメントFmoc-AA(27-37)-OHのカルボキシ末端は、HBTU(O-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)又はTBTU(O-ベンゾトリアゾール-イル-N,N,N',N'-テトラメチルテトラフルオロ-ボラート)とHOBT、6-Cl HOBt、又はHOATとをそれぞれ用いて、DIEA(ジイソプロピルエチルアミン)及びロイシンアミド(例えば、カップリング試薬とラセミ化抑制剤との組合せ)の存在下で、HOBT(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール 水和物)、6-Cl HOBt、又はHOAT (1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)の活性エステルに変換される。該反応は、DMF(ジメチルホルムアミド)、又はNMP(N-メチルピロリジノン)などの極性非プロトン性溶媒中、0〜30℃で行われる。カップリング反応終了時に、ピペリジン、炭酸カリウム、DBU、又は当業者に公知の他の塩基を該反応液に追加の共溶媒とともに又は共溶媒を含まずに加え、末端Fmoc保護基の除去をもたらす。その反応終了時に、アルコール又は水混和性溶媒、及び/又は水を加え、C末端のアミド化とともに配列番号:20のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメント(H-AA(27-38)-NH2)を沈殿させる。
【0067】
図3に模式的に示すように、液相プロセスにおいて、ペプチドフラグメントFmoc-AA(27-37)-OHをロイシンアミド(図3, 「H-Leu-NH2」を参照)と結合させてペプチドフラグメントH-AA(27-38)-NH2を製造するために、ペプチドフラグメントFmoc-AA(27-37)-OH(571 g, 205 mmol, 1 eq)、H-Leu-NH2(32.0 g, 246 mmol, 1.2 eq)、及び6-Cl HOBT(41.7 g, 246 mmol, 1.2 eq)をDMF(4568 ml, 8 vol)に加え、DIEA(53.6 ml, 307.5 mmol, 1.5 eq)で処理し、かつ溶解するまで室温で撹拌した(約20分)。溶液を冷却し、かつTBTU(79.0 g, 246 mmol, 1.2 eq)を加えた。反応液を0℃、次に25℃で撹拌した。HPLCによる分析が反応終了を示した時に、ピペリジン(81 ml, 820 mmol, 4 eq)を加え、ペプチドフラグメントFmoc-AA(27-38)-NH2のFmoc保護基を除去した(炭酸カリウム、DBUなどの他の塩基を使用してもよい)。HPLCにより終了が示されるまで、反応液を30℃で撹拌した。次に、反応混合物を5℃未満に冷却し、10℃未満のスラリー生成温度を保ちながら、予め冷却した水(8 vol, 4568 mL)をゆっくりと加えた。懸濁液を30分間撹拌し、続いて濾過し、かつ25%エタノール/水を用いて二回洗浄(各2284 mL, 4 vol)した。残渣ピペルジン(piperdine)、及びピペルジンジベンジルフルベン(piperdine dibenzylfulvene)を、エタノール/水(希釈酸含有又は未含有)、及び/又はMTBE/ヘプタン、又は他の類似溶媒混合物の再スラリー化により除去した。図3に示すように、結果、単離ペプチドフラグメントH-AA(27-38)-NH2を調製した。
【0068】
図3に示すように、続いて、ペプチドフラグメントH-AA(27-38)-NH2(配列番号:20)をペプチドフラグメントFmoc-AA(13-26)-OH(配列番号:18)と結合させる液相反応を行い、脱保護し、ペプチドフラグメントH-AA(13-38)-NH2(N末端及びC末端の各々に化学基を有する配列番号:35)を得た。
【0069】
ペプチドフラグメントFmoc-AA(13-26)-OH(460 g 167 mmol, 1 eq)、ペプチドフラグメントH-AA(27-38)-NH2(460 g, 172 mmol, 1.03 eq)、及び6-Cl HOBT(34 g, 200 mmol, 1.2 eq)をDMF(6900 ml, 15 vol)に加え、DIEA(47 mL, 267 mmol, 1.6 eq)で処理し、撹拌し、全ての固体を溶解した。得られた溶液を5℃未満に冷却した。その反応液にTBTU(64 g, 200 mmol, 1.2 eq)を加え、かつ反応液を0℃、次に25℃で撹拌した。HPLCによる分析が反応終了を示した後すぐに、ピペリジン(58 ml, 668 mmol, 4 eq)を加えてFmocを除去し、HPLCにより終了が示されるまで反応液を撹拌した。溶液を5℃未満に冷却し、温度が10℃よりも高くならないような速度で水(6900 mL, 15 vol)をゆっくりと加えた。得られた懸濁液を30分間撹拌した後、濾過により固体を収集し、水で洗浄(2回、各2300 mL, 5 vol)し、乾燥した。残渣ピペルジン、及びピペルジンジベンジルフルベンを、エタノール/水(希釈酸含有又は未含有)、及び/又はMTBE/ヘプタン、又は他の類似溶媒混合物の再スラリー化により除去した。固体を濾過により収集し、洗浄、乾燥し、H-AA(13-38)-NH2(配列番号:35)を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)純度分析により決定されたように実質的に純粋な白色固体として得た。
【0070】
図3に示すように、続いて、ペプチドフラグメントH-AA(13-38)-NH2(配列番号:35)を、液相反応中でペプチドフラグメントAc-(1-12)-OH(配列番号:17)と結合させ、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを得た(例えば図3, Ac-(1-38)-NH2を参照)。ペプチドフラグメントAc-AA(1-12)-OH(130 g, 58.5 mmol, 1 eq)を微細な粉末に製粉し、ペプチドフラグメントH-AA(13-38)-NH2(303g, 58.5 mmol, 1 eq)と混合した。この混合物を、2:1のDCM/DMF(20 vol, 2600 mL)とDIEA(25.5 mL, 146 mmol, 2.5 eq)との温溶液にゆっくりと加えた。HOAT(15.9 g, 117 mmol, 2.0 eq)を加え、その混合物を撹拌し、全ての固体を溶解した。得られた溶液を5℃未満に冷却し、TBTU(28.2 g, 87.8 mmol, 1.5 eq)を加えた。溶液を0℃で30分間、次に25℃でHPLCが反応終了を示すまで撹拌した。溶液を30〜35℃に温め、さらなるDCM(13 vol, 1740 mL)、続いてH2O(1820 mL, 14 vol)を加えた。混合物を5分間撹拌し、次に層を分離させた。水層を除去し、新たなH2O(1820 mL, 14 vol)と入れ替えた。この分離を全5回繰り返した。有機層を、その元の体積の約1/3に蒸留し、イソプロピルアルコール(IPA;1820 mL, 14 vol)を加えた。蒸留を続け、残りのDCMを除去した。得られたスラリーを5℃未満に冷却し、H2O(1820 mL, 14 vol)をゆっくりと加えた。形成された固体を濾過により収集し、H2Oで2回洗浄(各520 ml, 4 vol)し、乾燥し、HPLC純度分析により測定されたように、単離HIV融合阻害剤ペプチド Ac-AA(1-38)-NH2(配列番号:9)を調製した。
【0071】
図3に示すように、HIV融合阻害剤ペプチドAc-AA(1-38)-NH2の側鎖の化学的保護基は、酸分解、又は側鎖の化学的保護基を除去することによるペプチドの脱保護のための当業者に公知の任意の他の方法により除去することができる。この実施例において、HIV融合阻害剤ペプチドAc-AA(1-38)-NH2(60 g, 8.1 mmol)を、TFA(トリフルオロ酢酸):DTT(ジチオスレイトール):水(90:10:5;570 ml)で処理し、室温で6時間撹拌した。その溶液を10℃未満に冷却し、予め冷却したMTBE(25 vol, 1500 ml)を、10℃未満の温度を維持するような速度でゆっくりと加えた。得られた固体を濾過により収集し、MTBEで洗浄し、乾燥した。続いて、得られた粉末をアセトニトリル(ACN;10 vol, 600 mL)中でスラリー化し、DIEA及び酢酸でpHを4〜5に調節し、該ペプチドを脱カルボン酸化した。HPCLにより、それが終了した後すぐに、固体を濾過により収集し、ACNで洗浄し、乾燥し、脱保護化脱カルボン酸化ペプチドを調製した。続いて、それをHPLC、又は他の適切なクロマトグラフィー技術により精製し、配列番号:9のアミノ酸配列を有する単離HIV融合阻害剤ペプチドを調製した。
【0072】
(実施例6)
表5(集団3及び集団4)及び図4に関して、2つの特定のペプチドフラグメント(例えば、配列番号:29及び30+Leu;又は配列番号:29及び31)を用い、かつ配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するように2つのペプチドフラグメントを化学的カップリング(「結合」)により結合することを含むフラグメント結合アプローチを用いて、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法を例示する。これらのペプチドフラグメントの各々は、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの(2つのペプチドフラグメントを用いる)高収率高純度合成方法に好ましい、物理的特性及び溶解度特性を示した。2つのフラグメントの結合アプローチに使用されるペプチドフラグメントの選択において、共に結合される2つのフラグメント間の連結点(例えば、配列番号:29のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメントのC末端アミノ酸と、配列番号:31のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメントのN末端アミノ酸)でロイシン及び/又はグルタミン酸残基を有することにより、得られる収率及び純度が高く、結合に有利になることが発見された。
【0073】
配列番号:29のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:9の最初の20アミノ酸を含むペプチドフラグメント(「AA(1-20)」)を、N末端のアセチル化(化学基として「Ac」)(一方、C末端でヒドロキシル基(-OH)を有する。)(表6参照;本明細書中では「Ac-AA(1-20)-OH」とも呼ばれる。)を用いる標準的固相合成により合成した。配列番号:30のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号:9のアミノ酸21〜37を含むペプチドフラグメント(「AA(21-37)」)を、N末端でFmoc(化学的保護基として)及びC末端で-OH(図3, 「Fmoc-AA(27-37)-OH」を参照)を用いる標準的固相合成により合成した。
【0074】
表5(集団3及び集団4)及び図4に示すように、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-37)-OHを液相中でLeu(アミド化されている配列番号:9のアミノ酸38)と化学的にカップリングし、C末端のアミド化(化学基として)とともに配列番号:31のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸21〜38を含む)を有するペプチドフラグメントを生じる場合、ペプチドフラグメントを液相合成により製造した(「Fmoc-AA(21-38)-NH2」)。液相プロセスにおいて、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-37)-OHをロイシン(「H-Leu-NH2」)と結合させてペプチドフラグメントFmoc-AA(21-38)-NH2を製造するために、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-37)-OH(30 g, 7.43 mmol, 1.0 eq)、H-Leu-NH2*HCl(1.36 g, 8.16 mmol, 1.2 eq)、及びHOAT(1.52 g, 11.2 mmol, 1.5 eq)をDMF(450 ml, 15 vol)に溶解し、DIEA(6.5 ml, 37.3 mmol, 5 eq)で処理し、かつ溶解するまで室温で撹拌(約30分)した。溶液を0±5℃に冷却し、TBTU(2.86 g, 8.91 mmol, 1.2 eq)を加え、0±5℃で5分間撹拌し、続いて25±5℃で2時間又はHPLCにより反応終了が示されるまで、反応させた。
【0075】
次に、フラグメントH-AA(21-38)-NH2の単離前に、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-38)-NH2のFmoc化学的保護基を除去した。ピペリジン(7.3 mL, 73.8 mmol, 10 eq)を加え、その溶液を25±5℃で1時間、又はHPLCによる分析により、実質的に全てのFmocがペプチドフラグメントから除去されたことが示されるまで、撹拌した。反応器を冷却し、水(1000 ml, 30 vol)を加え、自由流動スラリーを30分10℃未満で撹拌し、続いて濾過により分離した。収集した固体を1:1 EtOH/水で洗浄し、35±5℃の真空オーブン中で乾燥した。次に、ペプチドフラグメントを1:1 EtOH/水(450 mL, 15 vol)中で3時間、再スラリー化した。固体を収集し、乾燥した。次に、ペプチドフラグメントを3:1 ヘキサン:MTBE(450 mL,15 vol)中で一晩、スラリー化し、続いて濾過により分離し、再び乾燥させた。必要であれば、MTBE再スラリー化を、さらなるピペリジンを除去するために繰り返してもよい。結果、単離ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(図4参照)を調製した。
【0076】
次に、ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(配列番号:31)をペプチドフラグメントAc-AA(1-20)-OH(配列番号:29)と結合させる液相反応を行い、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを得た(図4, Ac-(1-38)-NH2を参照)。ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(3.40 g, 0.86 mmol, 1 eq)、ペプチドフラグメントAc-AA(1-20)-OH(3.00 g, 0.86 mmol, 1.0 eq)、及びHOAT(0.177 g, 1.3 mmol, 1.5 eq)、及びDIEA(0.599 ml, 3.44 mmol, 4 eq)をDMAc(ジメチルアセトアミド;100 ml, 33 vol)に溶解し、0±5℃に冷却した。その反応液にTBTU(0.331 g. 1.03 mmol, 1.2 eq)を加えた。その反応液を0±5℃で5分間、及び25±5℃で3時間、又はHPLCにより反応終了が示されるまで、撹拌した。反応器を冷却し、水(200 ml, 66 vol)をゆっくりと加えた。スラリーを形成させ、10℃未満で少なくとも30分間撹拌した。固体を濾過により分離し、さらなる水で洗浄した。収集した固体を35±5℃の真空オーブンで乾燥した。結果、HPLC純度分析により測定されたように、完全保護化単離HIV融合阻害剤ペプチドAc-AA(1-38)-NH2(配列番号:9)を調製した。次に、そのHIV融合阻害剤ペプチドを、本明細書中の実施例5に記載される方法、又は脱保護及び脱カルボキシル化のための当業者に公知の任意の他の方法を用いることにより、脱保護(側鎖の化学的保護基の除去により)、及び脱カルボン酸化(トリプトファン残基位置で)し、続いて精製(例えばHPLCにより)した。結果、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチド(この例示において、N末端でアセチル化、C末端でアミド化されている)を調製(脱保護及び脱カルボン酸化)した。
【0077】
類似の技術及び条件を用いて、2つのフラグメントの結合又は3つのフラグメントの結合を含むさらなるフラグメント結合アプローチを使用し、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造している(例えば、表4及び5を参照)。本発明の方法により配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するために使用される好ましいペプチドフラグメントは、好ましいペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントを除外して使用され得ることが、本明細書中の記述から理解される。同様に、本発明の方法により配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するために使用されるペプチドフラグメントの好ましい集団は、ペプチドフラグメントの好ましい集団以外のペプチドフラグメントの集団を除外して使用され得る。
【0078】
(実施例7)
本発明の別の実施態様は、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成に使用することができる方法、ペプチドフラグメント、及びペプチドフラグメントの集団に関する。また、前記方法、ペプチドフラグメント、及びペプチドフラグメントの集団が、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチド(該HIV融合阻害剤ペプチドは1つ以上の化学基を含む)の合成に使用され得ることは、本明細書中の記述から明らかである:
【化7】

(式中、アミノ末端又はカルボキシル末端のうちの一方又は両方は、化学基(B, U, Z;ここでB、U、及びZは同一化学基又は異なる化学基とすることができる)により修飾される。該化学基は、制限されないが、1つ以上の反応性官能基、化学的保護基(CPG)、及び連結基を含むことができる。)。配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの製造に関して、ペプチドフラグメント、ペプチドフラグメントの集団、及び保護化ペプチドフラグメント(1つ以上の化学基を有するペプチドフラグメント)の実例を挙げると、制限されないが、それぞれ表7、8、及び9に示すものがある。
【0079】
【表7】

【0080】
また、本発明は、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法における中間体として作用する、特定集団のペプチドフラグメントを包含する。本発明のペプチドフラグメントの集団は、表8に示されるように、集団1〜14を含む(集団の番号は、記述を簡潔にするためだけのものである)。ペプチドフラグメントの好ましい集団は、ペプチドフラグメントの好ましい集団以外のペプチドフラグメントの集団を除外して、本発明において使用され得る。
【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
表8(集団3及び集団4)に関して、2つの特定のペプチドフラグメント(例えば、配列番号:29及び48+Leu;又は配列番号:29及び49)を用い、かつ配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するように2つのペプチドフラグメントを化学的カップリング(「結合」)により結合することを含むフラグメント結合アプローチを用いて、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドの合成方法を例示する。液相プロセスにおいて、配列番号:48のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメント(「Fmoc-AA(21-37)-OH」)をロイシン(「H-Leu-NH2」)と結合させて、配列番号:49のアミノ酸配列を有するペプチドフラグメント(「Fmoc-AA(21-38)-NH2」)を製造するために、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-37)-OH(30.01 g, 7.98 mmol, 1.0 eq)、H-Leu-NH2*HCl(1.48 g, 8.78 mmol, 1.1 eq)、及びHOAT(1.63 g, 11.97 mmol, 1.5 eq)をDMF(450 ml, 15 vol)に溶解し、DIEA(7.0 ml, 39.91, mmol, 5 eq)で処理し、かつ溶解するまで室温で撹拌(約30分)した。溶液を0±5℃に冷却し、TBTU(3.09 g, 9.58 mmol, 1.2 eq)を加え、0±5℃で5分間撹拌し、続いて25±5℃で2時間又はHPLCにより反応終了が示されるまで、反応させた。
【0084】
次に、フラグメントH-AA(21-38)-NH2の単離前に、ペプチドフラグメントFmoc-AA(21-38)-NH2のFmoc化学的保護基を除去した。ピペリジン(8.0 mL, 79.8 mmol, 10 eq)を加え、その溶液を25±5℃で1.5時間、又はHPLCによる分析により実質的に全てのFmocがペプチドフラグメントから除去されたことが示されるまで、撹拌した。反応器を冷却し、水(1000 ml, 30 vol)を加え、自由流動スラリーを30分10℃未満で撹拌し、続いて濾過により分離した。収集した固体を1:3 EtOH/水で洗浄し、35±5℃の真空オーブン中で乾燥した。次に、ペプチドフラグメントを1:3 EtOH/水(400 mL, 13 vol)中で3時間、再スラリー化する。固体を収集し、乾燥し、続いてペプチドフラグメントを3:1 ヘキサン:MTBE(400 mL,13 vol)中で一晩、スラリー化し、濾過により分離し、再び乾燥させた。必要であれば、MTBE再スラリー化を、さらなるピペリジンを除去するために繰り返してもよい。結果、単離ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(表9, 配列番号:49を参照)を調製した。
【0085】
次に、ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(配列番号:49)をペプチドフラグメントAc-AA(1-20)-OH(配列番号:29, 表9)と結合させる液相反応を行い、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを得た(例えば、Ac-(1-38)-NH2を参照)。ペプチドフラグメントH-AA(21-38)-NH2(3.14 g, 0.86 mmol, 1 eq)、ペプチドフラグメントAc-AA(1-20)-OH(3.00 g, 0.86 mmol, 1.0 eq)、及びHOAT(0.18 g, 1.3 mmol, 1.5 eq)、及びDIEA(0.599 ml, 3.44 mmol, 4 eq)をDMAc(100 ml, 33 vol)に溶解し、0±5℃に冷却した。その反応液にTBTU(0.331 g. 1.03 mmol, 1.2 eq)を加えた。その反応液を0±5℃で5分間、及び25±5℃で3時間、又はHPLCにより反応終了が示されるまで、撹拌した。反応器を冷却し、水(250 ml, 83 vol)をゆっくりと加えた。スラリーを形成させ、10℃未満で少なくとも30分間撹拌した。固体を濾過により分離し、さらなる水で洗浄した。収集した固体を35±5℃の真空オーブンで乾燥した。結果、HPLC純度分析により測定されたように、完全保護化単離HIV融合阻害剤ペプチドAc-AA(1-38)-NH2(配列番号:10)を調製した。次に、そのHIV融合阻害剤ペプチドAc-AA(1-38)-NH2を、本明細書中の実施例4に記載される方法、又は脱保護及び脱カルボキシル化のための当業者に公知の任意の他の方法を用いることにより、脱保護(側鎖の化学的保護基の除去により)、及び脱カルボン酸化(トリプトファン残基位置で)した。精製後に、HPLCにより測定されたように、結果、配列番号:10のアミノ酸配列を有する単離HIV融合阻害剤ペプチド(N末端でアセチル化、C末端でアミド化されている)を調製(脱保護及び脱カルボン酸化)した。
【0086】
類似の技術及び条件を用いて、2つのフラグメントの結合又は3つのフラグメントの結合を含むさらなるフラグメント結合アプローチを使用し、配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造することができる(例えば、表8及び9を参照)。本発明の方法により配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するために使用される好ましいペプチドフラグメントは、好ましいペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントを除外して使用され得ることが、本明細書中の記述から理解される。同様に、本発明の方法により配列番号:10のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチドを製造するために使用されるペプチドフラグメントの好ましい集団は、ペプチドフラグメントの好ましい集団以外のペプチドフラグメントの集団を除外して使用され得る。
【0087】
(実施例8)
本発明は、HIV感染及び/又はAIDSのための治療、療法、又は治療計画の一部として、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドを、単独で又は本発明の医薬組成物中の活性薬剤物質として投与する方法を提供する。HIVによる細胞の感染を阻害するのに有効な量、好ましくはウイルスと標的細胞との間のHIV媒介融合を阻害するのに有効な量の本発明のHIV融合阻害剤ペプチドをウイルス及び細胞に加えることを含む、HIVの標的細胞への感染を阻害する方法において、HIV融合阻害剤ペプチドの抗ウイルス活性を利用することができる。この方法は、HIV感染個体の治療(治療的)、又はHIVに新たに曝露される個体又は曝露の危険性(例えば、薬物使用又は高い危険性のある性行動を介して)が高い個体の治療(予防的)に使用することができる。従って、例えば、HIV-1感染個体の場合、有効な量のHIV融合阻害剤ペプチドは、治療される個体のHIVウイルス量が減少するのに(単独で及び/又は投与計画と組み合わせて)十分な投与量であろう。当業者に公知のものとして、制限されないが、末梢血単核球の定量的培養、及び血漿HIV RNA測定を含む、HIVウイルス量を測定するための幾つかの標準的方法がある。本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、ウイルス量のモニタリングなど、医師によって測定され得るように、単一投与量で、断続的に、周期的に、又は連続的に投与することができる。HIV融合阻害剤ペプチドを含む製剤、並びに、その製剤が医薬として許容し得る担体及び/又は高分子担体をさらに含むかどうか等の要因に応じて、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、数日〜数週間又は場合によってはさらに長いの周期範囲で投与することができる。さらに、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、HIV治療用の他の抗ウイルス薬又は予防薬と組み合わせて、又はそれらを用いる治療計画において使用される場合(例えば、同時に使用される場合、又は1つの薬剤を用いてサイクリングオン及び別のものを用いてサイクリングオフにおいて使用される場合)、抗ウイルス療法に使用することができる。
【0088】
抗ウイルス薬の組み合わせを含む共通して使用される治療は、HAART(高活性抗レトロウイルス療法)として知られている。HAARTは通常、HIVに対して抗ウイルス活性を有する3つ以上の薬剤を組み合わせ、かつ通常、2クラス以上の薬剤を含む(「クラス」は、作用機序、或いは薬剤により標的とされるウイルスタンパク質又はプロセスに関する。)。従って、本発明の治療方法、HIV融合阻害剤ペプチド、及び医薬組成物を単独で投与してもよく(例えば単剤療法)、或いは、本明細書中により詳細に記載されるように、HIV感染治療及び/又はAIDS治療用のさらなる治療薬の組み合わせを含めて、治療投与計画において投与しても、又は同時投与してもよい。
【0089】
例えば、1つの好ましい実施態様において、1つ以上の治療薬を、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド(単独又は医薬組成物中)を用いる治療に組み合わせてもよい。通常、組合せは、例えば、治療に使用される抗ウイルス薬に対して耐性を示すウイルスの能力を低下させる(単剤療法と比較して)など、治療効果を増加させるために2つ以上の抗ウイルス薬を含む。そのような組合せは、現在認可又は将来認可される(HIV感染の治療に有用な)、有効な量の抗ウイルス薬から調製してもよく、それらは、制限されないが、下記から選択される1以上のさらなる治療薬を含む:制限されないが、アバカビル、AZT(ジドブジン)、ddC(ザルシタビン)、ネビラピン、ddl(ジダノシン)、FTC(エムトリシタビン)、(+)及び(-)FTC、リバーセット、3TC(ラミブジン)、GS 840、GW-1592、GW-8248、GW-5634、HBY097、デラビリジン、エファビレンツ、d4T(スタブジン)、FLT、TMC125、アデホビル、テノホビル、及びアロブジンなどの逆転写酵素阻害剤;制限されないが、アムプレニビル、CGP-73547、CGP-61755、DMP-450、インディナビル、ネルフィナビル、PNU-140690、リトナビル、サクイナビル、テリナビル、チプラノビル(tipranovir)、アタザナビル、ロピナビルなどのプロテアーゼ阻害剤;制限されないが、融合阻害剤(エンフビルチド、T1249、他の融合阻害剤ペプチド、及び小分子)、ケモカインレセプターアンタゴニスト(例えば、ONO-4128、GW-873140、AMD-887、CMPD-167、マラビロク(UK-427857)などのCCR5アンタゴニスト)などのウイルス侵入阻害剤;AMD-070)、ウイルス結合相互作用に影響を与える(例えば、BMS806、BMS-488043;及び/又はPRO542、PRO140;抗CD4抗体などのgp120及びCD4レセプター相互作用;或いは塩酸プロカイン(SP-01及びSP-01A)などのリピド及び/又はコレステロール相互作用に影響を与える)薬剤などのCXCR4アンタゴニスト;制限されないが、L-870及び810などのインテグラーゼ阻害剤;RNAseH阻害剤;rev又はREVの阻害剤;vifの阻害剤(例えば, vif-誘導化プロリン-リッチペプチド、HIV-1プロテアーゼN末端-誘導化ペプチド);制限されないが、ベツリン、及びジヒドロベツリン誘導体(例えば、PA-457)などのウイルスプロセシング阻害剤;並びに制限されないが、AS-101、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、IL-2、バルプロ酸、及びチモペンチンなどの免疫調節物質である。HIV感染治療及び/又はAIDS治療の当業者に理解されるように、組合せ薬物療法は、同じ作用機序(標的としてウイルスタンパク質又はプロセス)を有する治療薬を2つ以上含んでもよく、又は異なる作用機序を有する治療薬を2つ以上含んでもよい。
【0090】
本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物と組み合わせて使用することができる、これらの例示したさらなる治療薬の有効な投与量は、当該技術分野で公知である。前記組合せは、投与経路及び所望の薬理効果に応じて、当業者に明らかであるように、1つ以上の経路で逐次的又は同時投与することができる多くの抗ウイルス薬又は治療薬を含んでいてもよい。投与される本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物の有効投与量は、当該技術分野で周知の手順を介して;例えば、効力、生物学的半減期、生体利用効率、及び毒性を測定することにより、決定してもよい。好ましい実施態様において、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドの有効な量及びその投与量範囲は、当業者に周知の慣例的インビトロ及びインビボ研究からのデータを用いて、当業者により決定される。例えば、本明細書中に記載したような抗ウイルス活性のインビトロ感染性アッセイにより、当業者は、単独活性成分として又は他の活性成分との組合せにおいて、所定範囲のウイルス感染(例えば、50%阻害,IC50;又は90%阻害,IC90)又はウイルス複製を阻害するのに必要な化合物の平均阻害濃度(IC)を測定することができる。続いて、ウイルス感染又はウイルス複製を阻害するための所定値と等しいか又はそれを超える活性成分の最小血漿濃度(C[min])を得るように、適切な投与量を、1つ以上の標準的モデルの薬物動態学的データを用いて、当業者により選択することができる。投与量範囲は通常、制限されないが皮下、非経口、皮内、又は経口を含めた投与経路など、投与される時の選択される投与経路、及び投与製剤に依存するが、本発明の化合物の典型的な投与量範囲は、約1 mg/kg体重〜約100 mg/kg体重;より好ましくは1 mg/kg体重以上〜10 mg/kg未満とすることができる。
【0091】
本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、活性薬剤が標的細胞(HIVにより感染され得る細胞)に達することができる任意手段により個体に投与してもよい。従って、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、又は皮下注射若しくは注入、皮内、又は移植)、経鼻、肺、膣、直腸、舌下、又は局所投与経路などの適切な技術により投与してもよく、各投与経路に適切な剤形に製剤化することができる。特定の投与経路は、例えば、そのような投与から認知されている副作用又は予測される副作用など、個体の病歴、及び投与されるHIV融合阻害剤ペプチドの製剤(例えば、医薬担体及び/又は高分子担体の性質)に依存するであろう。最も好ましくは、投与は注射(例えば、静脈内、または皮下手段を用いる)、また、持続注入(例えば、徐放装置、又は浸透圧ポンプなどのミニポンプ)によるものである。好ましい実施態様において、本発明のHIV融合阻害剤ペプチドは、医薬として許容し得る担体をさらに含むことができ;かつ所望される製剤、送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医師に公知の他の要因に依存され得る。
【0092】
従って、本発明に準拠して、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド、又はHIV融合阻害剤ペプチドを含む医薬組成物を、細胞のHIV感染を阻害するのに有効な量で投与することを含む、HIVの細胞への感染を阻害する方法を提供する。該方法は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物を、HIV感染治療及び/又はAIDS治療に使用される他の治療薬と組み合わせて個体に投与することをさらに含むことができ、有効な量の本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物を含む治療薬の組合せを(同時に、又は逐次的に、或いは治療計画の一部で)個体に投与することによる。また、治療の必要な個体に、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物を、標的細胞のウイルス侵入を阻害するのに有効な量で投与することを含む、HIV侵入を阻害する方法を提供する。該方法は、本発明のHIV融合阻害剤ペプチド又は医薬組成物を、HIV感染治療に有用な1つ以上のさらなるウイルス侵入阻害剤と有効な量で組み合わせて投与することをさらに含むことができる。
【0093】
本発明の特定の実施態様の上記説明は、例示の目的のために詳細に記載されている。説明及び例示を考慮して、当業者は、現在の知識を応用して、基本概念から逸脱することなく様々な適用に対して本発明を容易に変更及び/又は適合させることができる;従って、そのような変更及び/又は適合は、添付の請求項の目的及び範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、gp41の他の機能性領域とともにヘプタッドリピート1領域(HR1)、及びヘプタッドリピート2領域(HR2)を示す、HIV-1 gp41の模式図である。例示の目的のために及びgp160株HIVIIIBに関して、HR1及びHR2に相当する例証的な天然アミノ酸配列、及びアミノ酸位置番号を示す。
【図2】図2は、例示の目的のために、かつ制限されない、様々な実験株及び臨床分離体から決定したHIV-1 gp41のHR2領域に含まれる天然アミノ酸配列の比較を示す。一文字アミノ酸コードにより示されるように、アミノ酸配列の変異(例えば多型)の幾つかを例示する。
【図3】図3は、3つのペプチドフラグメントの結合を含むフラグメント縮合アプローチを用いた、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチド 配列番号:9の合成を示す模式図である。
【図4】図4は、2つのペプチドフラグメントの結合を含むフラグメント縮合アプローチを用いた、配列番号:9のアミノ酸配列を有するHIV融合阻害剤ペプチド 配列番号:9の合成を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、及び配列番号:15のうちのいずれか1つからなるアミノ酸配列を含む、単離ペプチド。
【請求項2】
1以上の反応性官能基、医薬として許容し得る担体、高分子担体、及びそれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、60以下のアミノ酸長である、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項4】
請求項1記載のペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む、単離核酸。
【請求項5】
請求項4記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項6】
発現ベクターである、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
請求項5又は6記載のベクターを含む、単離細胞。
【請求項8】
請求項2記載のペプチドを含む、組成物。
【請求項9】
滅菌された、請求項2記載の組成物。
【請求項10】
HIV-1治療用抗ウイルス薬の組合せを含む治療計画であって、該組合せが、請求項1記載のペプチド、並びにHIV侵入阻害剤、HIVインテグラーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、vif阻害剤、ウイルス特異的転写阻害剤、ウイルスプロセシング阻害剤、HIV成熟阻害剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される1種以上の抗ウイルス薬を含む、前記治療計画。
【請求項11】
HIVの細胞への感染を阻害する方法であって、該ウイルスを、細胞の存在下、HIVによる該細胞の感染を阻害するのに有効な量の請求項1記載のペプチドと接触させることを含む、前記方法。
【請求項12】
HIV融合を阻害する方法であって、該ウイルスを、細胞の存在下、HIV融合を阻害するのに有効な量の請求項1記載のペプチドと接触させることを含む、前記方法。
【請求項13】
HIV感染個体を治療する方法であって、HIVウイルス量の減少、循環CD4+細胞集団の増加、及びそれらの組合せからなる群から選択される治療結果を治療される個体において達成するのに有効な量の請求項1記載のペプチドを、該個体に投与することを含む、前記方法。
【請求項14】
配列番号:9のペプチドを合成する方法であって、三つのペプチドフラグメントセットを固相合成及び液相合成により製造し、該セットは(a)配列番号:17、配列番号:18、配列番号:19、及びロイシン残基;又は(b)配列番号:17、配列番号:18、及び配列番号:20を含み、次に、該セットのメンバーを、フラグメント縮合アプローチを用いて結合し、配列番号:9のペプチドを製造する、前記方法。
【請求項15】
下記を含む、ペプチドセット:
【化1】

【請求項16】
少なくとも1つのペプチドの1つ以上の側鎖が保護基により保護されている、請求項15記載のペプチドセット。
【請求項17】
前記保護基が、9-フルオロエニルメトキシ-カルボニル(Fmoc)、t-ブチル(t-Bu)、トリチル(trt)、t-ブチルオキシカルボニル(Boc)、カルボベンゾキシル、ダンシル、及びパラ-ニトロベンジルエステル基からなる群から選択される、請求項16記載のペプチドセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−525051(P2009−525051A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553389(P2008−553389)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/002990
【国際公開番号】WO2007/097903
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(506231858)トリメリス,インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】