説明

改善された画像耐久性をもたらすインクジェット印刷方法及びシステム

【課題】 スマッジ耐性及び耐久性を有し、且つ良好な光学濃度を有するインクジェット画像を生じさせる為のシステム及び方法の提供。
【解決手段】 スマッジ耐性及び耐久性のあるインクジェット画像を提供する為のシステム及び方法は、良好な光学濃度を提供する。詳細には、耐久性のあるインクジェットイメージのためのシステムは2つのインクジェットペン、好ましくはサーマルインクジェットペンのセットからなる。第一インクジェットペンはインクジェットインクを含有し、当該インクジェットインクは、第一液体ビヒクル、0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液からなる。当該第二インクジェットペンは定着剤組成物を含有し、当該定着剤組成物は、有効量の第二液体ビヒクル、及び0.2wt%から15wt%の陽イオンポリマー、例えばポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドからなる。基体に適用した時、インクジェットインクに関して前記定着剤組成物を上刷り又は下刷りすることで耐久性及びスマッジ耐性のある画像が形成される。本発明の方法は、前記システムを利用することができ、所望の通りに定着剤組成物を上刷り又は下刷りする為に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット画像(イメージ)形成の分野に関する。より詳細には、本発明は、改善された画像耐久性を示すインクジェットインクペンで使用する為の顔料型インクジェットインクの方法とシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータプリンタの技術は、紙を含む各種の媒体に高解像度の画像を転写できるところまで発達した。ある特定の印刷方式は、ディジタル信号に応答して媒体表面上に液体インクの小滴を配置させることを伴う。典型的には、印刷装置と媒体表面との間の物理的な接触なしに、当該媒体表面上に液体インクが配置されるか又は噴射されるものである。この一般的な技術の中でも、印刷表面上へインクジェットインクを堆積させる具体的な方法はシステムによって様々であり、連続(方式)インク堆積とドロップオンデマンド(方式)インク堆積を含めることができる。
【0003】
連続(方式)の印刷システムに関して、使用されるインクは、典型的に、メチルエチルケトン及びエタノールのような溶媒をベースとしている。特に、連続(方式)の印刷システムは、インク液滴の流れがプリンタノズルによって射出され且つ導かれることにより機能する。インク滴は、加えて、ノズルに近接した静電荷電装置の支援によって導かれる。インクが所望の印刷表面上で使われない場合は、そのインクは後の使用の為にリサイクルされる。ドロップオンデマンド(方式)の印刷システムに関し、インクジェットインクは、典型的に、グリコールのような溶媒と水をベースとする。本来、これらのシステムでは、インク滴は、熱又は圧力波によってノズルから送り出され、射出されるインク滴の全てが印刷画像形成に使われる。
【0004】
インクジェット印刷が、種々の媒体表面、特に紙の上に画像を記録するポピュラーな方法となった理由が幾つかある。それらの幾つかの理由には、低いプリンタ雑音、高速記録能力、及び多色記録が含まれる。加えて、これらの利点は、使用者にとって比較的低価格で得られることである。一方、インクジェット印刷において多数の改良がなされてはいるが、この改良に伴って、この分野の使用者による諸要求、例えば、より高速度、より高分解能、フルカラー画像形成、高い画像耐久性等に関する要望も高まっている。
【0005】
一般に、インクジェットインクは、染料型又は顔料型の何れかである。両方とも、典型的には、染料及び/又は顔料を含有する液体ビヒクル(媒質)で作製される。一般に、染料型インクジェットインクは、通常、水ベースの液体着色剤を用いて媒体を特定の色に変える。逆に、顔料型インクは、典型的に、固形又は分散形の着色剤を用いて色を得るものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット印刷にとって望ましい多くの特性には、媒体基体上の画像の良好なエッジの鋭さ及び光学濃度、基体上でのインクの優れた乾燥時間、基体への付着性、噴射時にインク滴の偏りが無いこと、全ドットが存在すること、乾燥後のインクの水及びその他の溶媒に対する耐性、長期貯蔵安定性、良好なドットサイズとドットゲイン、カラー対カラーのブリード(にじみ)の軽減、許容し得るコアレッセンス、腐食又はノズル詰まりの無い長期信頼性、優れた耐光性、優れた耐湿性、低い湿り色相シフト、及びその他の既知の特性が含まれる。上述の特性の幾つかを備える多くのインクが知られている。しかし、1つの特性の改善は、しばしば別の特性の劣化に帰結することから、これらの特性の全てを備えているインクはほとんど知られていない。従って、諸特性が改善され、且つ1つの特性を改善するのに他の特性を著しく阻害することのないインク調合物の開発に研究が続けられている。しかし、ペンの性能と信頼性を犠牲にすることなくインクジェットプリントの像質と耐光性をさらに改善する為の多くの解決課題は、依然として残ったままである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
インクジェットインクシステムにある種の成分を用いると、優れた画像の永続性とスマッジ(にじみ汚れ)耐性を生じさせ得ることが認められている。また、そのようなシステムに使用されるある種の成分は、インクジェットペンを使って十分な信頼性で使用する為に調合できることも認められている。詳細には、耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントするためのシステムは、2つのインクジェットペンを具備することができる。第一のインクジェットペンは、インクジェットインクを含有し、当該インクジェットインクは、第一液体ビヒクル、0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液を含有する。第二のインクジェットペンは、定着剤組成物を含有し、当該定着剤組成物は、有効量の第二液体ビヒクルと、0.2wt%から15wt%の陽イオン性ポリマー、例えばポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、又は、好ましくはポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及び/又はポリグアニドを含有する。基体に適用した時、インクジェットインクに関して定着剤組成物を上刷り又は下刷りすると、耐久性があり且つ擦り汚れに強い画像が形成される。
【0008】
また、上記システム又は類似のシステムを用いてスマッジ耐性のある画像を形成する方法も当分野で有益であろうことが認められている。詳細には、耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントする方法は、(a)有効量の第一液体ビヒクル、0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液とを含有するインクジェットインクを準備すること、(b)有効量の第二液体ビヒクル、0.2wt%から15wt%の陽イオン性ポリマー、例えばポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、又は、好ましくはポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及び/又はポリグアニド類を含有する定着剤組成物を準備すること、及び(c)そのインクジェットインクを基体上へ噴射すること、並びに(d)基体上に耐久性及びスマッジ耐性のあるインクジェットインク画像を生じさせるために、インクジェットインクが定着剤組成物に接触するようにして、定着剤組成物を基体上へ噴射することのステップからなることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、優れた永続性とスマッジ(にじみ汚れ)耐性を有するインクジェット画像を形成することのでき、更に十分な信頼性を有するインクジェットインク、システム及び方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を開示及び記述する前に、本発明は、ここに開示された特定の処理ステップ並びに材料に限定されないことを理解すべきである。何故なら、前述の処理ステップ並びに材料は、多少、変えても良いからである。また、ここに用いられる用語は、特定の実施態様を記述するだけの目的で用いられていることを理解すべきである。本発明の範囲が添付の特許請求の範囲及びその均等のものによってのみ限定されることから、当該用語は限定することを意図したものではない。
【0011】
この明細書及び添付の特許請求の範囲において使われる時、単数で示されているもの及び指示語(「その」や「該」等)は、その内容が別途明確に指示されない限り、その語が意味する複数のもの(同等のもの)を包含していることに留意するべきである。
【0012】
ここで用いられる限り、「有効量」とは、所望の効果を達成するのに十分な物質又は薬剤の最小量を意味する。例えば、「液体ビヒクル」の有効量は、本発明の実施態様による諸特性を維持する一方で、本発明のインク組成物又は定着剤組成物に使用するのに要求される最小量のことである。
【0013】
ここで使用されるとき、「液体ビヒクル」は、サーマルインクジェットインク用途のインクジェットインクを形成するために、顔料及びラテックスコロイドがその中に分散される流動体を指すか、又はサーマルインクジェットインク用途の定着剤組成物を形成するために陽イオン性ポリマーがその中に分散される流動体を指す。多くの液体ビヒクル及びビヒクル組成物は、当分野で周知である。典型的なインクビヒクルは、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、表面活性剤及び水のような、様々な異なる剤(化合物)の混合物を含むことができる。
【0014】
「ラテックス含有コロイド懸濁液」は、(水のような)液体と20nmから500nm(好ましくは、100nmから300nm)のサイズで、約10,000Mwから2,000,000Mw(好ましくは、約40,000Mwから100,000Mw)の重量平均分子量を有するポリマー粒子とを含有する液体懸濁物質を指す。典型的に、高分子粒子は、前記液体中に0.5wt%から15wt%で存在する。そのようなポリマー粒子は複数のモノマーからなることができ、ランダムに重合され、且つ好ましくは架橋結合された複数のモノマーからなることができる。架橋結合されると、その分子量は、上に挙げた値より更に高くなり得る。さらにラテックス成分は、好ましくは約−25℃から100℃のガラス転移温度を有することができる。
【0015】
「ラテックスプライマー」は、約200nmの最大サイズを有するポリマー粒子が微細に分散したものから溶解したものまでの組成物を指す。要求されるものではないが、ラテックスプライマーは、本発明のインクジェットインク組成の安定化並びに噴射適性を促進するべく、本発明のシステムと方法に用いることができる。
【0016】
「陽イオン性成分」は、定着剤内部の分散剤に言及する場合、正に荷電していて且つ接触するとインクジェットインク内のラテックス含有コロイド懸濁液のラテックス成分を固定(又は定着)するように作用するポリマー、多価イオン等を指す。
【0017】
「自己分散型顔料」は、電荷又は高分子群で化学的に表面が変性された顔料を指す。この化学的な変性は、顔料が液体ビヒクル中に分散された状態になること及び/又は実質的にその状態に保持されることを助長する。
【0018】
「ポリマー分散型顔料」は、液体ビヒクル中に分散剤(例えば、ポリマー、オリゴマー、又は界面活性剤であってよい)を利用する顔料、及び/又は顔料が液体ビヒクル中に分散された状態になること及び/又は実質的にその状態に保持されことを助長するべく物理的なコーティングを利用する顔料を指す。
【0019】
このことを念頭に置いて、本発明は、インクジェット画像形成の分野について記載する。より詳細には、本発明は、スマッジ耐性及び永続性のある画像を得ることができる、印刷のシステムと方法に関する。一実施態様において、耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントするためのシステムは、2つのインクジェットペンを具備することができる。第一のインクジェットペンは、インクジェットインクを含有することができ、当該インクジェットインクは、第一液体ビヒクル、0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び0.2wt%から15wt%のラテックス含有コロイド懸濁液からなる。第二のインクジェットペンは、定着剤組成物を含有し、当該定着剤組成物は、有効量の第二液体ビヒクル、0.2wt%から15wt%の陽イオン性ポリマー、例えば、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、又は、好ましくはポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及び/又はポリグアニドからなる。従って、基体上のインクジェットインクに関して定着剤組成物を上刷り又は下刷りすると、耐久性及びスマッジ耐性のある画像が形成される。
【0020】
別の実施態様において、耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントする方法は、(a)有効量の第一液体ビヒクル、0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、0.2wt%から15wt%のラテックス含有コロイド懸濁液からなるインクジェットインクを準備すること、(b)有効量の第二液体ビヒクル、0.2wt%から15wt%の陽イオン性ポリマー、例えばポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、又は、好ましくはポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及び/又はポリグアニドからなる定着剤組成物を準備すること、(c)そのインクジェットインクを基体上へ噴射すること、そして(d)基体上に耐久性及びスマッジ耐性のあるインクジェットインク画像を生じさせるために、インクジェットインクが定着剤組成物に接触するようにして、定着剤組成物を基体上へ噴射することのステップからなることができる。
【0021】
前記方法又はシステムのいずれかに関連して、ラテックス含有コロイド懸濁液は、約20nmから500nm、好ましくは約100nmから300nm、の粒子サイズ範囲を有するポリマー粒子を含有する。ラテックス含有コロイド懸濁液のポリマー粒子を形成し得る組成物は多数あり、それらにはポリマー粒子が全体として約10,000Mwから2,000,000Mw、好ましくは、約40,000Mwから100,000Mwである、ランダムに重合されたモノマーが含まれる。加えて、−25℃から100℃のガラス転移温度を有するラテックスが好ましい。
【0022】
一例を示すと、複数のランダム重合モノマーは、メタクリル酸メチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリロイルオキシコハク酸エチル、及びエチレングリコールジメタクリレートの様々な組合せ含むことができる。一実施態様は、通常のポリマー粒子中にランダムに重合されたこれらの組成の全てを含有する。例えば、これらの4つの成分は、10wt%から90wt%のメタクリル酸メチル、10wt%から90wt%のアクリル酸ヘキシル、0wt%から25wt%のメタクリロイルオキシコハク酸エチル、及び0wt%から5wt%のエチレングリコールジメタクリレートで存在してよい。
【0023】
第一及び第二の両液体ビヒクルに関して、サーマルインクジェットインク技術で使用するのに有効な多数の成分のどれかが存在していてよい。例えば、インク又は定着剤の液体ビヒクルは、有効量の水、0.05wt%から5wt%の界面活性剤、5wt%から50wt%の溶媒、0.05wt%から2wt%の殺生物剤からなってよい。本書における液体ビヒクルに関して記述したように、他の成分も存在していてもよい。多数の溶媒、多数の界面活性剤等のような、単一種類の多数の液体ビヒクルも存在してよい。ラテックス含有コロイド懸濁液を含んでいるインクジェットインクに関して、0.1wt%から5wt%のラテックスプライマーが液体ビヒクル中に存在してもよい。
【0024】
任意に、定着剤組成物は、イオン又はインクジェットインク組成物の定着に更に役立つ他の成分を含んでいてもよい。例えば、定着剤に存在していてよい陽イオン性ポリマー組成物に加えて、多価塩も存在していてよい。例としては、多価金属硝酸塩、EDTA塩、ホスホニウムハロゲン化物塩、有機酸(例えばグリコール酸、コハク酸、クエン酸、酢酸等)、及びそれらの組合せが含まれる。
【0025】
自己分散型顔料及び/又はポリマー分散型顔料のような、各種の顔料を用いることもできる。ポリマー分散型顔料が用いられる場合、液体ビヒクルはさらに分散剤を含有することができ、或いは分散剤でその顔料を物理的に被覆することもできる。
【0026】
当該システムを使用する方法は、ラテックス含有インクジェットインクの最上面に定着剤組成物を上刷りすることによって実施することができる。あるいは、当該システムを使用する方法は、ラテックス含有インクジェットインクの下側に定着剤組成物を下刷りすることによって実施することもできる。所望の結果を得るのに、これらの実施態様の組合せを利用することもできる。
【0027】
顔料型インクにラテックスを添加するだけで、望まれる程までではないが、ある程度、スマッジ及びスミア(こすり汚れ)耐性を改善できる。加えて、ラテックスの存在によってもたらされる改善された浸透性のため、光学濃度(OD)の低減によって明らかにされるように、プリント画像の色強度が低くなることがある。他方、定着剤は、インクジェットインクの好ましくない浸透を停止させることができるが、単独で、在来型のサーマルインクジェットインクシステムに使用した時に実質的な耐久性がもたらされることは知られていない。顔料/ラテックス含有インクジェットインクの使用と、インクジェットインクの顔料及び/又はラテックス成分と相互作用するよう形成されている定着剤組成物の使用とを組合せることにより、十分な色強度を維持しながら、スマッジ及びスミア耐性を大幅に高めることができる。十分な色強度を維持することと同時に、この高められたスマッジ及びスミア耐性は、本発明のシステムと方法を使って画像を生成するときの部分的な乾燥に重要である。
【0028】
サーマルインクジェットシステムは、それらの噴射特性において、ピエゾ式インクジェットシステムとは全く異なっている。そのためピエゾ式インクジェットシステムで使用するのに効果的なポリマーは、必ずしもサーマルインクジェットインクシステムで使用するのに効果的ではない。しかし、その逆は必ずしも真でない。換言すれば、サーマルインクジェットインクシステムで十分機能するポリマーはピエゾ式のシステムにおいて、その逆よりも一層機能するものと思われる。従って、サーマルインクジェットシステムはピエゾ式インクジェットシステムよりも許容性が低いことから、サーマルインクジェットシステムに使用されるポリマーの選択は、しばしば、より細心の注意が必要とされる。そのため、本発明のインクジェットインク及び定着剤の両方の組成物に使用されるポリマー及びその他の組成物は、たとえそれらがピエゾ式インクジェットインクシステムで機能的であろうと、特にサーマルインクジェットインクシステムで使用する為に適用される。
【実施例】
【0029】
以下の実施例は、現時点で最もよく理解している本発明の実施態様を説明するものである。しかし以下の記載は、本発明の原理の適用について単に例示又は説明するものにすぎないことを理解すべきである。当業者は、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な修正並びに代替的な組成物、方法及びシステムを案出することができる。添付の特許請求の範囲は、そのような修正並びに配置構成を網羅するべく意図されたものである。従って本発明の特徴について上述してきたが、以下の実施例では、現時点で本発明の最も実用的且つ好ましい実施態様と思われるものについてさらに詳述する。
【0030】
〔例1〕ラテックス含有コロイド懸濁液を含有する顔料含有インクジェットインクと、ラテックス含有コロイド懸濁液を含有しない顔料含有インクジェットインクの作製
ラテックス含有コロイド懸濁液と顔料を含有している数種類の異なったインクジェットインクだけでなく、コントロールとしてラテックス含有コロイド懸濁液(単に「ラテックス」とも示す)を含有していないインクジェットインクを、以下のように表1から3に従って作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
表1から3において、ラテックス含有コロイド懸濁液は、水中に懸濁されたランダム重合粒子を含み、当該粒子は、サイズが約100nmから300nmで、且つ重量平均分子量は約40,000Mwから100,000Mwである。ラテックス含有コロイド懸濁液は、41%から44.5%のメタクリル酸メチル、44.5%から48%のアクリル酸ヘキシル、10%のメタクリロイルオキシコハク酸エチル、及び1%のエチレングリコールジメタクリレートを含む。
【0035】
上記で使用した特定のラテックスは下記に従って作製した。メタクリル酸メチル(102.5g)、アクリル酸ヘキシル(120g)、モノ−メタクリロイルオキシコハク酸エチル(25g)、エチレングリコールジメタクリレート(2.5g)及びイソオクチルチオグリコレート(1.0g)を一緒に混合してモノマーの混合物を形成した。次いで、水(85g)と30%Rhodafac(商標)(20.8g)をそのモノマー混合物に加えそして丁寧に剪断するように撹拌(shear)してエマルションを作製した。同時に、水(725g)を反応器中で90℃まで加熱した。過硫酸カリウム(0.87g)を水(100g)に溶解して開始剤溶液を作製し、そしてこの開始剤溶液を、3ml/分の速度で熱水に滴下した。この滴下は水を撹拌しながら行った。3分後、開始剤溶液の添加を続けながら、更にエマルションを水に滴下してエマルション添加を始めた。エマルション添加は30分かかった。その反応混合物を90℃で2時間保持し、そして冷却させた。反応器の温度が約50℃になったとき、23gの17.5%水酸化カリウム溶液を加えて反応混合物のpHを8.5にした。その反応混合物を200メッシュフィルターでろ過して平均粒径230nmの安定なポリマー粒子を得た。上記ラテックス組成物は以上のようにして作製したが、本発明によれば、フリーラジカルによって重合し得る他のアクリル系及びメタクリル系又は不飽和モノマーを用いても同様の諸性質を得ることができることから、これはほんの例示に過ぎない。
【0036】
ラテックスプライマーは、約200nmの最大サイズを有する微細に分散した(及び場合によっては溶解した)粒子を指す。必須ではないが、ラテックス含有コロイド懸濁液と通常の液体ビヒクル中の顔料との両方を含有する調合物を安定化させる為に、ラテックスプライマーを用いることができる。ラテックスプライマーは、また、前述の組成物を含有しているサーマルインクジェットインクペンの信頼度を高めることもできる。表1から3に、それぞれマゼンタB、マゼンタD、及びシアンB(コントロールインク)として示すインクジェットインクは、ラテックス含有コロイド懸濁液を含有していない。マゼンタA(ラテックス含有)はマゼンタB(ラテックスが存在しない)と比較され、マゼンタC(ラテックス含有)はマゼンタD(ラテックスが存在しない)と比較され、そしてシアンA(ラテックス含有)はシアンB(ラテックスが存在しない)と比較される。
【0037】
〔例2〕PEI/Ca2+定着剤組成物の作製
次の表4に従ってポリエチレンイミン/カルシウムイオン含有定着剤組成物を作製した。
【0038】
【表4】

【0039】
〔例3〕ポリビグアニド定着剤組成物の作製
次の表5に従ってポリビグアニド含有定着剤組成物を作製した。
【0040】
【表5】

【0041】
〔例4〕濡れ汚れ性能
下表6から13は、定着剤組成物と共にラテックス含有インクジェットインクを使用することの利点を明らかにする結果を示すものである。例は、定着剤の有無、ラテックスの有無、上刷り及び/又は下刷りでの使用、シアン及びマゼンタ顔料の使用、及び自己分散型及びポリマー分散型顔料の使用に基づき提供されている。実施された各試験において、全ての液滴の量は約8ピコリットルであった。下刷り及び上刷りの両実施態様について、定着剤組成物の様々な数の液滴をテストした。理想的には、プリントされた画像は、本実施例のスマッジテストを実施する前と後の両方で、色に富んだ画像を示す高い光学濃度(OD)を有する。
【0042】
詳細には、数本のプリントしたバーは、プリント後の2つの予め定められた時間、即ち、10分及び24時間で、意図的にスマッジ跡を生じさせることを試みることにより「ウェットスマッジ後」として、スマッジ性能を定量化した。濡れ汚れ試験は、プリントしたバーパターンの画像を45度に保持し、その画像の上に2ccの水を滴下し、そして湿らせた領域を指で汚す(スマッジングする)ことにより行った。ミリ光学濃度(mOD)を約5mm離れて隣り合うバー間のスマッジ跡で測定した。スマッジ耐性が大きいほど、所望の低いmODの示度になった。従って、mODの読みが低いほど、より永続性且つスマッジ耐性のある画像である。下表6から13は、スマッジ跡及びウェットスマッジテスト前後の印刷されたバーパターンの両方についての試験結果を示す。表6から11に関して使用された定着剤組成物は、表4に従って作製されたもの、即ちPEI/Ca2+定着剤組成物であった。表12及び13に関して使用された定着剤組成物は、表5に従って作製されたもの、即ちポリジグアニン定着剤組成物であった。全ての実施例に使用された用紙はLUSTRO LASER(商標)であったが、普通紙及びその他のコート紙も同様に効果的に使用できる。
【0043】
【表6】

【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【0046】
【表9】

【0047】
【表10】

【0048】
【表11】

【0049】
【表12】

【0050】
【表13】

【0051】
1)顔料(ポリマー分散型か自己分散型のいずれか)とラテックスコロイド懸濁液を含有するインクジェットイン、及び2)陽イオンポリマー含有の定着剤組成物を含むシステムに基づいて提供された表6と7、表8と9、表10と11、及び表12と13を比較すれば明らかなように、スマッジ耐性の大きな高まりは、大抵はプリント後、10分及び24時間の両方で実現することができる。例えば、ラテックスが存在しないポリマー分散型顔料(表7)では、定着剤の助けがあっても、最高性能は、10分のウエットスマッジテストでの70mODであった。ラテックスを使った場合(表6)、幾つかのテストでは、その移りは、「不可視」と考えることのできる約10から20mOD(〜10から20mOD)まで低下した。さらに、定着剤無しでラテックスだけを使用しても、10分後、約240mODという、受認できない結果が得られた。自己分散型顔料に関しては、移りは、ラテックスが使用されない場合(表9)、極めて不都合なものとなり、定着剤を添加しても事実上顕著な改善は見られなかった。しかし、ラテックス及び定着剤の存在で、画像は、実施された試験のほとんどで、ウエットスマッジに対して完全に耐性になった(表8)。スマッジ耐性を実質的に向上させることができ、その画像の光学濃度は許容レベルに維持されることから、それにより画像耐久性がもたらされる。
【0052】
一定の好ましい実施態様を参照して本発明を説明してきたが、様々な修正、変更、省略、及び置換は本発明の精神から逸脱することなく成し得るということは、当業者には明らかであろう。それ故、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0053】
以下に、本願の好ましい態様を示す。
1.耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントするためのシステムであって、
a)第一インクジェットペンはインクジェットインクを含有し、当該インクジェットインクは、
i)第一液体ビヒクル、
ii)0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び
iii)0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液からなり、且つ、
b)第二インクジェットペンは定着剤組成物を含有し、当該定着剤組成物は、
i)第二液体ビヒクル、及び
ii)0.2wt%から15wt%の陽イオンポリマーからなり、
基体上のインクジェットインクに関して前記定着剤組成物を上刷り又は下刷りすることで耐久性及びスマッジ耐性のある画像が形成されるシステム。
2.前記の第一インクジェットペンと第二インクジェットペンは、サーマルインクジェットペンである上項1に記載のシステム。
3.前記陽イオン性ポリマーは、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニド及びそれらの組合せから成る群から選択される上項1に記載のシステム。
4.ラテックス含有コロイド懸濁液は、複数のランダム重合されたモノマーを含有し、ポリマー粒子は全体として、重量平均分子量が約10,000Mwから2,000,000Mwであり、且つサイズが約20nmから500nmの範囲にある上項1に記載のシステム。
5.複数のランダム重合されたモノマーは、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ヘキシルを含む上項4に記載のシステム。
6.インクジェットインクは、さらにラテックスプライマーを含有する上項1に記載のシステム。
7.定着剤組成物は、さらに多価金属硝酸塩、EDTA塩、ホスホニウムハロゲン化物塩、有機酸、及びそれらの組合せから成る群から選択される多価塩を含有する上項1に記載のシステム。
8.耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントする方法であって、
a)下記成分からなるインクジェットインクを準備すること、
i)第一液体ビヒクル、
ii)0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び
iii)0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液、
b)下記成分からなる定着剤組成物を準備すること、
i)第二液体ビヒクル、及び
ii)0.2wt%から15wt%の陽イオンポリマー
c)前記インクジェットインクを基体上へ噴射すること、及び
d)前記インクジェットインクが定着剤組成物に接触するようにして、当該定着剤組成物をその基体上へ噴射し、それによって耐久性及びスマッジ耐性のある画像をもたらすことからなる方法。
9.インクジェットインクを噴射するステップと定着剤組成物を噴射するステップは、両方とも、熱式噴射ステップである上項8に記載の方法。
10.前記定着剤組成物をインクジェットインクの上に上刷りする上項8に記載の方法。
11.前記定着剤組成物をインクジェットインクの下に下刷りする上項8に記載の方法。
12.前記陽イオン性ポリマーは、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニド及びそれらの組合せから成る群から選択される上項8に記載の方法。
13.ラテックス含有コロイド懸濁液は、複数のランダム重合されたモノマーを含有し、ポリマー粒子は全体として、重量平均分子量が約10,000Mwから2,000,000Mwであり、且つサイズが約20nmから500nmの範囲にある上項8に記載の方法。
14.複数のランダム重合されたモノマーは、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ヘキシルを含む上項13に記載の方法。
15.インクジェットインクは、さらにラテックスプライマーを含有する上項8に記載の方法。
16.定着剤組成物は、さらに多価金属硝酸塩、EDTA塩、ホスホニウムハロゲン化物塩、有機酸、及びそれらの組合せから成る群から選択される多価塩を含有する上項8に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐久性のあるインクジェットインク画像をプリントするためのシステムであって、
a)第一インクジェットペンはインクジェットインクを含有し、当該インクジェットインクは、
i)第一液体ビヒクル、
ii)0.5wt%から6wt%の顔料着色剤、及び
iii)0.2wt%から15wt%の陰イオン性又は中性のラテックス含有コロイド懸濁液からなり、且つ、
b)第二インクジェットペンは定着剤組成物を含有し、当該定着剤組成物は、
i)第二液体ビヒクル、及び
ii)0.2wt%から15wt%の陽イオンポリマーからなり、
基体上のインクジェットインクに関して前記定着剤組成物を上刷り又は下刷りすることで耐久性及びスマッジ耐性のある画像が形成されるシステム。
【請求項2】
前記の第一インクジェットペンと第二インクジェットペンは、サーマルインクジェットペンである請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記陽イオン性ポリマーは、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニド及びそれらの組合せから成る群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
ラテックス含有コロイド懸濁液は、複数のランダム重合されたモノマーを含有し、ポリマー粒子は全体として、重量平均分子量が約10,000Mwから2,000,000Mwであり、且つサイズが約20nmから500nmの範囲にある請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
複数のランダム重合されたモノマーは、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ヘキシルを含む請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
インクジェットインクは、さらにラテックスプライマーを含有する請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
定着剤組成物は、さらに多価金属硝酸塩、EDTA塩、ホスホニウムハロゲン化物塩、有機酸、及びそれらの組合せから成る群から選択される多価塩を含有する請求項1に記載のシステム。

【公開番号】特開2008−105422(P2008−105422A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276288(P2007−276288)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【分割の表示】特願2003−339451(P2003−339451)の分割
【原出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】