説明

改善された電気化学特性を有する負極活物質及びこれを含む電気化学素子

(a)炭素材と、(b)前記炭素材の表面の一部または全部に形成された金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む炭化物コート層と、を備える負極活物質及びその製造方法、並びに、前記負極活物質から得られた負極及び前記負極を備える電気化学素子が開示されている。
本発明に係る金属、准金属の炭化物コート層を含む炭素材は、不活性雰囲気中での高温熱処理を通じて炭素材とその表面コート層間の界面結合力を強めてリチウムとの反応性が極力抑えられたコート層を形成することにより、電池の初期の充放電中にSEI膜の形成に必要となる負極の非可逆容量が最少化でき、その結果、高容量化、高効率化及び負極特性の大幅な向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属/准金属の炭化物(carbide)コート層を含む炭素材に係り、詳しくは、不活性条件下での高温処理により電気化学特性が改善された負極活物質及びその製造方法、この負極活物質を用いて得られた負極、この負極を備える電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子装備の小型軽量化が進み、且つ、携帯用電子機器の使用が一般化するに伴い、高いエネルギー密度を有するリチウム2次電池に関する研究が盛んになされてきている。リチウム2次電池は、リチウムイオンが着脱可能な物質を負極及び正極として用い、これらの正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填することにより製造され、リチウムイオンが前記正極及び負極に着脱するときの酸化、還元反応によって電気的なエネルギーを生成する。
【0003】
リチウム2次電池は、リチウムイオンが正極と負極をまるで揺りいすのように往復しながらエネルギーを伝えるために揺りいす電池(rocking chair battery)とも呼ばれるが、最初の充電時に電池の負極において負極活物質、例えば、炭素粒子の表面と電解液が反応して固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface:SEI)被膜を形成することになる。SEI膜は、負極活物質の表面における電解液の分解を抑えることにより電池を安定化させる役割を果たすが、このSEI膜を形成するに当たって一定量のリチウムを消耗するために可逆性リチウムが減量され、これは電池の容量を減らす原因となる。特に、リチウム供給源が正極に存在している現在の2次電池システムにおいては、負極の非可逆容量が高い場合、負極の非可逆を通じて正極側のデッド・ボリューム(dead volume)が生じるため、実際に正極における可用容量よりも少ない容量を示し、これは、電池の容量を減らす原因となる。
【発明の開示】
【0004】
本発明者らは、上記した従来の技術の問題点を考慮し、通常のコート方法を用いて金属及び/または准金属化合物によりコートされた炭素材を高温/不活性雰囲気中で表面処理すれば、リチウムとの反応性が極力抑えられた安定的な炭化物コート層が炭素材の表面に形成され、その結果、負極の初期の非可逆容量が最少化できるということを知見した。
【0005】
そこで、本発明は、上記のように電気化学特性が改善された負極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
さらに、本発明の他の目的は、前記負極活物質を用いて得られた負極を備える電気化学素子を提供するところにある。
【0007】
本発明は、(a)炭素材と、(b)前記炭素材の表面の一部または全部に形成された金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む炭化物コート層と、を備える負極活物質と、この負極活物質から得られた負極及び前記負極を備える電気化学素子、好ましくは、リチウム2次電池を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、(a)炭素材の表面に金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む化合物をコートする段階と、(b)段階(a)においてコートされた炭素材を不活性雰囲気中で金属/准金属の炭化物の生成温度以上に熱処理する段階と、を含む金属/准金属の炭化物コート層を備える炭素材の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、少なくとも1層以上の金属及び/または准金属の炭化物コート層が形成された炭素材を電池用負極活物質として用いることを特徴とする。
【0010】
前記負極活物質は、通常の方法に従い炭素材を金属、准金属入り化合物によりコートした後、前記コート層の主成分となる金属または准金属の各特性によって炭化物が生成される温度以上、例えば、500ないし2,000℃の範囲の高温/不活性雰囲気中で熱処理を施すことにより得られる。このとき、形成された金属炭化物コート層は、電池の充放電時に電極活物質に着脱するリチウムと電気化学的な反応をほとんど引き起こさない安定した物性を示す。
【0011】
上記の如き特徴により、本発明に係る負極活物質を用いる場合、後述するように、電池の高容量化及び高効率化を図ることができる。
【0012】
1)従来の炭素材はリチウム2次電池の負極活物質として用いるとき、電解質との副反応による低い充電容量、初期の充放電サイクルにおける非可逆容量の発生及びこれによるサイクル寿命の短縮などの不具合が見られていた。しかしながら、本発明においては、炭素材の界面に無機物と炭素との間の安定的な化合物、すなわち、リチウムとの反応性が極力抑えられた安定的な金属(准金属)−カーボンコート層を形成することにより、負極の初期の非可逆容量を最少化させることができる。すなわち、負極の表面のSEI膜の形成に必要となる可逆性リチウムの量を最少化させることにより、電池の高容量化及び高効率化を実現することができる。実際に、本発明に係る金属炭化物コート層が形成された炭素材を負極活物質として電池の充放電効率を確認したところ、本発明に係る負極活物質は約3ないし10%以上と充放電効率が高まっていることが分かった(図5参照)。
【0013】
2)さらに、金属、准金属の炭化物により表面処理された炭素材は、既存の炭素よりも高い極性(polarity)を有するため、極性溶媒よりなるカーボネート系の電解液を用いる場合よりも一層優れた濡れ性効果を得ることができ、これにより、リチウムの移動が素早く行われて電池のレート特性をも高められる。
【0014】
本発明に従い炭素材の表面の一部または全部に形成されるコート層成分としては、当業界に周知の金属(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属など)及び/または准金属(例えば、13族、14族など)を含む炭化物であることが好ましく、特に、下記式1で表わされる炭化物であることが好ましい。
{−C−C−C}{C{M (I)
前記式において、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、13族及び14族よりなる群から選ばれた1種以上の金属または准金属元素であり、Xは酸素または窒素であり、n,m,x,a,bはそれぞれ独立的に1以上の自然数であり、そしてl,yはそれぞれ独立的に0以上の整数である。
【0015】
このとき、前記炭化物コート層に含まれる金属としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好ましく、准金属としては、ホウ素(B)またはシリコン(Si)などが好ましい。
【0016】
炭素材の上に形成された金属/准金属の炭化物コート層の膜厚には特に制限がなく、電池の容量及び効率が高められる範囲内で適宜に調節可能である。さらに、前記コート層は多層膜状に形成可能であり、このとき、少なくとも1層以上が上述したような金属/准金属の炭化物であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る金属、准金属の炭化物のコート対象としては、当業界に周知の炭素材が使用でき、その非制限的な例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ファイバ状黒鉛、非晶質カーボンまたは非晶質カーボンが被覆された黒鉛などが挙げられる。さらに、キッシュ黒鉛(Kish graphite:KG)、SFGシリーズ(SFG−6,SFG−15など)、高配向性の熱分解黒鉛(highly oriented pyrolytic graphite)、MPCF(Mesophase pitch based carbon fiber)、MCMBシリーズ(MCMB 2800,MCMB 2700,MCMB 2500など)などのように炭素原子のみよりなり、2,000℃以上の温度に熱処理されて完全に結晶化した構造(ordered structure)の炭素材なども使用可能である。
【0018】
前記金属/准金属の炭化物コート層を含む炭素材は、不活性雰囲気中で金属、准金属の炭化物の形成温度以上に熱処理することにより形成されるが、このとき、金属、准金属の炭化物の形成温度は各元素の物性によるため、特に制限はない。前記高温熱処理時の温度は、できる限り500℃以上、好ましくは、500ないし2,000℃の範囲であり、特に、800ないし2,000℃の範囲であることがさらに好ましい。熱処理温度が500℃未満である場合、前述した負極の効率増大の効果があまり得られず、2,000℃を超える場合、金属、准金属の炭化物が溶解されて炭素材と相が分離されてしまうという不具合がある。
【0019】
さらに、前記不活性雰囲気の条件としては、当業界に周知の低い反応性を有するガスが使用でき、特に、窒素、アルゴン、ヘリウム及びキセノンよりなる群から選ばれた1種以上の不活性ガスを用いるか、あるいは、還元反応を促すために前記不活性ガスに水素ガスなどを混合して用いる。このとき、不活性ガスの純度は、50ないし99.999%であることが好適である。
【0020】
本発明に係る金属/准金属の炭化物コート層を含む炭素材の製造方法には特に制限はなく、例えば、炭素材の表面を金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む化合物によりコートした後、コートされた炭素材を不活性雰囲気中で金属、准金属の炭化物の形成温度以上、例えば、500ないし2,000℃の範囲に熱処理する方法もある。
【0021】
このとき、炭素材の表面を金属、准金属を含む化合物によりコートする方法は、当業界に周知の方法により行えばよく、その非制限的な例としては、通常のコート法である溶媒蒸発法(solvent evaporation)、共沈法、沈殿法、ゾルゲル法、吸着後のフィルタリング法、スパッタ、化学気相蒸着(chemical vapor deposition:CVD)法などが挙げられる。
【0022】
例えば、前記製造方法のうち炭素材の表面を金属、准金属を含む化合物によりコートする段階の一実施の形態は、(i)コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む金属及び/または准金属化合物を溶媒に分散または溶解させて分散液または溶液を得る段階と、(ii)前記段階(i)において得られた分散液または溶液を炭素材に加えて攪拌した後、これを乾燥する段階と、を含むことができる。
【0023】
上記金属、准金属化合物としては、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)または前述した如き元素を1種以上含む水溶性または非水溶性化合物を用いることができ、特に、前述した如き元素を含むアルコキシド、ナイトレート、アセテートなどが好ましい。
【0024】
得られた金属化合物を水またはアルコールなどの溶媒に溶解させた後、この溶液を炭素材に加えて攪拌した後に乾燥する。
【0025】
ここで、金属及び/または准金属が溶解された溶液または分散液を炭素材に加えるとき、炭素材(C)に対する金属(M)の重量比(M/C)(准金属(S)の場合、S/C)は0.5ないし20重量%の範囲にて加えることが好適であり、特に、0.5ないし10重量%であることが好ましい。付加量が20重量%を超える場合、炭素に比べて相対的に伝導度が低い金属、准金属の酸化物または炭化物の割合が上がるため、負極抵抗の増大及びこれによる電池性能の低下が起こる。さらに、コートされた炭素材は当業界に周知の方法により乾燥する。
【0026】
このようにして乾燥された炭素材は、表面上に金属/准金属酸化物コート層が形成されているが、以降、不活性雰囲気中での高温熱処理を経て前記金属/准金属酸化物コート層が炭素材との界面結合力が高まった金属/准金属の炭化物コート層に表面層から変わる。このとき、炭化物の形成温度はそれぞれの金属、准金属の特性によって異なり、その詳細については、下記の合金の状態図(alloy phase diagram)に示してある。
【0027】
前記金属/准金属酸化物から金属/准金属の炭化物への遷移過程は、各金属が有している固有の化学反応によるものであって、それぞれの元素の状態図を参照すれば分かる。例えば、Coは400℃までは還元雰囲気中でも酸化物の分解が起こらずにCo酸化物を保持するが、400℃以上に昇温すれば、周りの炭素との反応によりCoが還元されてCo−カーバイドの状態を保持する金属炭化物複合体が形成される。さらに、Siは炭素が存在する還元雰囲気中で約1,400℃までは金属酸化物の状態を保持するが、1,400℃以上では炭素と結合して金属(准金属)−カーバイドの状態を保持することになる。このように高温処理により得られる金属(准金属)−炭化物はLiと電気化学的に不活性を帯びる。このため、初期の充電中にSEI膜の形成に必要となる非可逆性リチウムの量を最少化させることにより、上述したような電池の高容量化及び高効率化を実現することができる。
【0028】
上記した方法のほかにも、スパッタ、CVD法により直接的にカーボン表面の上に金属、准金属の炭化物を結合させて本発明に係る炭化物コート層を形成することもできる。
【0029】
さらに、本発明は、(a)正極と、(b)前記金属/准金属の炭化物コート層を含む負極活物質を有する負極と、(c)分離膜と、(d)非水電解液と、を備える電気化学素子を提供する。
【0030】
前記電気化学素子は、電気化学反応を引き起こすあらゆる種類の素子を含み、その具体例としては、あらゆる種類の1次、2次電池などがある。特に、リチウム2次電池であることが好適であり、前記リチウム2次電池は、リチウム金属2次電池、リチウムイオン2次電池、リチウムポリマー2次電池またはリチウムイオンポリマー2次電池などを含む。
【0031】
本発明に係る電気化学素子を製造する方法としては、当業界に周知の方法が使用でき、例えば、前記両電極の間に分離膜を挟んで組立てた後、非水電解液を注入することにより製造される。
【0032】
このとき、本発明に係る正極と負極は、当業界に周知の方法によりそれぞれ電極活物質、すなわち、正極活物質と負極活物質を含む電極スラリーを製造し、このようにして製造された電極スラリーを各電流集電体に塗布した後に溶媒や分散楳を乾燥などにより除去し、集電体に活物質を結合すると共に、活物質間を結着することにより製造することができる。このとき、選択的に、少量の導電剤及び/またはバインダーを加えても良い。
【0033】
前記電極活物質のうち負極活物質としては、本発明に係る金属/准金属の炭化物コート層を含む炭素材を用い、正極活物質としては、従来の電気化学素子の正極に用いられる通常の正極活物質、例えば、LiCoO,LiNiO,LiClO,LiCFSO,LiPF,LiBF,LiAsF,LiN(CFSOまたはLiMnなどのリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらの組み合わせにより得られる複合酸化物などのリチウム吸着物質(lithium intercalation material)などを用いることが好ましいが、これらに限定されることはない。
【0034】
導電剤としては、組立て電池内において化学変化を引き起こさない導電性材料であれば、いかなるものも採用可能である。例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックと、天然黒鉛、人造黒鉛、導電性炭素繊維などを用いることができる。特に、カーボンブラック、黒鉛粉末、炭素繊維が好ましい。
【0035】
バインダーとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のうちどちらか一方を用いてもよく、これらを併用しても良い。これらのうち、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。さらに、分散楳としては、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトンなどが使用可能である。
【0036】
電流集電体用金属材料としては、伝導性に優れた金属であって、前記材料のペーストに容易に接着できる金属であれば、使用に制限がない。正極電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組み合わせにより製造される箔などが挙げられ、負極電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケル、銅合金、またはこれらの組み合わせにより製造される箔などが挙げられる。
【0037】
本発明に使用可能な電解液としては、Aなどの構造を有する塩であって、Aは、Li,Na,Kなどのアルカリ金属正イオンまたはこれらの組み合わせよりなるイオンを含み、Bは、PF,BF,Cl,Br,I,ClO,ASF,CHCO,CFSO,N(CFSO,C(CFSOなどの負イオンまたはこれらの組み合わせよりなるイオンを含む塩がプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトンまたはこれらの混合物よりなる有機溶媒に溶解または解離されたものが挙げられるが、これに限定されることはない。
【0038】
分離膜としては、両電極内の短絡を防ぐと共に、電解液を含浸する役割を果たす多孔性分離膜が使用でき、その非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系の多孔性分離膜などが挙げられる。
【0039】
上記の方法により製作された電気化学素子、好ましくは、リチウム2次電池の外観には制限がないが、缶などの筒状、角形またはパウチ状であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明への理解を助けるために本発明の好適な実施例を挙げるが、後述する実施例は単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が後述する実施例に限定されることはない。
【0041】
[実施例1〜4]金属/准金属の炭化物コート層を含む炭素材及びこれを用いたリチウム2次電池の製造
実施例1
1−1.コバルト炭化物コート層を有する炭素材(1)
コバルトアセテート(Co(CHCOO)・4HO)を蒸留水に溶かしてコバルトアセテート水溶液を製造した後、この溶液を炭素材となる人造黒鉛A(人造黒鉛系)に、炭素材に対するコバルトの重量比(Co/C)が4重量%となるようにして加えた。次いで、攪拌により溶媒を蒸発させて溶媒を完全に除去した後、得られた炭素材粉末を真空オーブン内で12時間乾燥した。乾燥された粉末をアルゴン雰囲気の電気反応炉において2時間800℃の温度条件下で表面処理を施すことにより、コバルト炭化物によりコートされた炭素材を得た。
【0042】
1−2.リチウム2次電池の製造
前記実施例1−1に従い製造されたコバルト炭化物コート層を有する炭素材、導電剤となる炭素及びバインダーとなるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を95:1:4の重量比にて混合してスラリーを製造し、このスラリーを銅集電体にコートした後、120℃の真空オーブン内で12時間以上乾燥した。反対電極としてはリチウム金属を用い、電解質としては、1MのLiPF/エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)(体積比1:1)を用いてコイン状電池(coin−type cell)を製造した。上述した電池の組立て作業は、いずれも水と酸素の濃度が1ppm以下に保持されるグローブボックス内で行われた。
【0043】
実施例2
炭素材として人造黒鉛Aに代えて人造黒鉛B(人造黒鉛系)を用いたことを除いては、前記実施例1の方法と同様にしてコバルト炭化物コート層を有する炭素材(2)及びこれを負極活物質として用いるリチウム2次電池を製造した。
【0044】
実施例3
炭素材として人造黒鉛Aに代えて天然黒鉛を用いたことを除いては、前記実施例1の方法と同様にしてコバルト炭化物コート層を有する炭素材(3)及びこれを負極活物質として用いるリチウム2次電池を製造した。
【0045】
実施例4
炭素材として人造黒鉛Aに代えて人造黒鉛Bを用い、コバルトアセテートに代えてマグネシウムアセテート(Si(CHCOO))を用いることにより、Si/Cの重量比を0.5重量%に、反応温度を1400℃に調整したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にしてシリコン炭化物コート層を有する炭素材及びこれを負極活物質として用いるリチウム2次電池を製造した。
【0046】
[比較例1〜4]
比較例1〜3.リチウム2次電池の製造
実施例1ないし3に用いられた炭素材(人造黒鉛A(比較例1)、人造黒鉛B(比較例2)、天然黒鉛(比較例3))に何の処理も施さずにそれぞれ負極活物質として用いたことを除いては、前記実施例1の方法と同様にしてリチウム2次電池を製造した。
【0047】
比較例4.コバルト酸化物によりコートされた炭素材及びこれを用いたリチウム2次電池の製造
炭素材として人造黒鉛Aに代えて人造黒鉛Bを用い、不活性雰囲気中で高温処理を施すに代えて、大気中で400℃の温度条件下で熱処理を施したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にしてコバルト酸化物によりコートされた炭素材及びこれを負極活物質として用いるリチウム2次電池を製造した。
【0048】
実験例1.金属/准金属の炭化物によりコートされた炭素材の分析
本発明に係る金属及び/または准金属の炭化物によりコートされた炭素材を分析するために、下記のような実験を行った。
【0049】
実施例1に従い製造されたコバルト炭化物によりコートされた炭素材を用い、対照群としては無処理の人造黒鉛Aを用いた。
【0050】
1−1.走査電子顕微鏡(SEM)実験
電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)の倍率を500倍にして測定した結果、対照群となる無処理の炭素材の表面は滑らかであることが分かった(図1参照)。これに対し、実施例1に従い製造された炭素材の表面には微粒子が均一に分布されていることが分かった(図2参照)。
【0051】
1−2.EDXによる分析実験
EDX分析装備を用いて実施例1及び対照群の炭素材の表面元素を分析した結果、無処理の炭素材からは炭素の以外に特別な元素が検出されないということが確認できた(図3参照)。これに対し、本発明の実施例1に従い製造された炭素材からは、多量のコバルトが検出されるということが分かった(図4参照)。
【0052】
これより、本発明の炭素材は、その表面上に多量の該当金属、准金属の炭化物が均一にコートされていることが確認できた。
【0053】
実験例2.リチウム2次電池の性能評価
本発明に係る、金属及び/または准金属の炭化物によりコートされた炭素材を負極活物質として製造されたリチウム2次電池の性能評価を下記のようにして行った。
【0054】
相異なる炭素材の上に金属/准金属の炭化物コート層が形成された炭素材を用いた実施例1ないし3のリチウム2次電池を用い、対照群としては、無処理の人造黒鉛A、人造黒鉛B、天然黒鉛を用いた比較例1ないし3の電池、及び従来公知の方法により得られた低温/酸素雰囲気中で金属酸化物コート層が形成された比較例4の電池を用いた。
【0055】
各電池に対して2.0〜0.005V(vs.Li/Li)の充放電領域において充放電実験を行い、これらの初期の充放電効率の実験結果を下記表1に示す。ここで、電流密度は0.1Cであった。さらに、表中、電池の初期の充放電効率(%)とは、最初の放電容量に対する最初の充電容量を百分率により示したものである。
【0056】
初期の充放電効率を確認したところ、コバルト炭化物コート層が形成された炭素材を用いた実施例1ないし3のリチウム2次電池は、同炭素材に何の処理も施さずに負極活物質として用いた比較例1ないし3の電池に比べて約3ないし9%と充放電効率が高かった(図5及び表1参照)。特に、人造黒鉛Bの上にコバルト炭化物コート層が形成された実施例2の電池は、同炭素材を用いた比較例2の電池に比べて、8.4%と優れた充放電効率の増大を示している(表1参照)。
【0057】
ここで注目すべき点は、従来公知の方法と同様にしてコートした後、大気中で400℃の温度条件下で熱処理を施すことにより得られたコバルト酸化物コート層が形成された炭素材を用いた比較例4の電池は、同炭素材に何の処理も施さずにそのまま用いた比較例2の電池に比べて、むしろ充放電効率が3.6%ほど低下したということである(図5及び表1参照)。これは、従来公知の方法に用いられる表面処理法(低温/酸素雰囲気)及びこれより形成された金属/准金属酸化物コート層が負極の特性強化に適していないということを意味する。
【0058】
これより、本発明に係る金属/准金属の炭化物コート層を有する炭素材は、リチウム2次電池の負極活物質として用いるとき、負極の初期の非可逆容量を減量させて電池の充放電効率を有意的に高めるということが確認でき、しかも不活性/高温処理による本発明の表面改質法が負極特性を大幅に強化させるということが分かる。
【表1】

【0059】
産業上の利用可能性
以上述べたように、本発明においては、不活性/高温の表面処理により炭素材の表面上にリチウムと電気化学的な不活性を帯びる金属及び/または准金属の炭化物コート層を形成することにより、これを負極活物質として用いるリチウム2次電池は、初期の充放電効率の増大及び負極特性の強化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、無処理の炭素材の走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真である。
【図2】図2は、実施例1に従い得られたコバルト炭化物コート層を有する炭素材のSEM写真である。
【図3】図3は、無処理の炭素材のエネルギー分散型X線分光装置(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDX)分析図である。
【図4】図4は、実施例1に従い得られたコバルト炭化物コート層を有する炭素材のEDX分析図である。
【図5】図5は、無処理の炭素材(人造黒鉛A、人造黒鉛B、天然黒鉛)及びこれら炭素材の表面にコバルト炭化物をコートした炭素材をそれぞれ負極活物質として用いた比較例1ないし4及び実施例1ないし4のリチウム2次電池の初期の充放電容量を比較して示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素材と、
(b)前記炭素材の表面の一部または全部に形成された金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む炭化物コート層とを備えてなる、負極活物質。
【請求項2】
前記負極活物質は、不活性雰囲気中で高温処理により得られる、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記炭化物コート層は、下記の一般式(I):
{−C−C−C}{C{M} (I)
(上記式において、
Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、13族及び14族よりなる群から選ばれた1種以上の金属または准金属元素であり、
Xは酸素または窒素であり、n,m,x,a,bはそれぞれ独立的に1以上の自然数であり、
l,yはそれぞれ独立的に0以上の整数である。)
で表わされる、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記金属元素が、バルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)であり、准金属元素はホウ素(B)またはシリコン(Si)である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記炭素材(a)が、天然黒鉛、人造黒鉛、ファイバ状黒鉛、非晶質カーボン及び非晶質カーボンが被覆された黒鉛よりなる群から選ばれた1種以上である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記高温処理時の温度が、金属、准金属の炭化物の形成温度以上である、請求項2に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記高温処理時の温度が500ないし2,000℃の範囲である、請求項6に記載の負極活物質。
【請求項8】
前記不活性雰囲気が、窒素、アルゴン、キセノン及びヘリウムよりなる群から選ばれた1種以上の不活性ガスを用いて造成する、請求項2に記載の負極活物質。
【請求項9】
(a)正極と、
(b)請求項1〜8のいずれか一項に記載の負極活物質を含む負極と、
(c)分離膜と、
(d)非水電解液とを備えてなる、電気化学素子。
【請求項10】
前記電気化学素子が、リチウム2次電池である、請求項9に記載の電気化学素子。
【請求項11】
金属/准金属の炭化物コート層を備えてなる炭素材の製造方法であって、
(a)炭素材の表面に金属及び准金属よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む化合物をコートする段階と、
(b)段階(a)においてコートされた炭素材を不活性雰囲気中で金属/准金属の炭化物の生成温度以上に熱処理する段階とを含んでなる、製造方法。
【請求項12】
前記段階(a)が、
(i)コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む金属及び/または准金属化合物を溶媒に分散または溶解させて分散液または溶液を得る段階と、
(ii)前記段階(i)において得られた分散液または溶液を炭素材に加えて攪拌した後、これを乾燥する段階とを含んでなる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記段階(i)において得られた分散液または溶液を炭素材に加えるとき、炭素材(C)に対する金属(M)または准金属(S)の重量比(M/CまたはS/C)を0.5%ないし20重量%とする、請求項12に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−534129(P2007−534129A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509391(P2007−509391)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001033
【国際公開番号】WO2005/114767
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(502202007)エルジー・ケム・リミテッド (224)
【Fターム(参考)】