説明

改善したバリア特性を有する非ゼラチンフィルム

例えば、有機酸(例えば、ヒドロキシカルボン酸)のような添加物を含む、非ゼラチンフィルム物質(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)により、バリア組成物を形成する。得られたフィルムは、安全にヒトに摂取され、摂取可能なデリバリーカプセル(例えば、一回分の医薬調製物を含む)の壁物質としての用途が見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリマー物質、より好ましくは、変性セルロース物質ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)のフィルム、及びそのフィルムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HPMCは、合成高分子物質であり、自然界に存在するポリマーであるセルロースを化学的に変性させたものである。HPMCのフィルム(又はシート又はメンブレン)は市販されており、デリバリーカプセル(すなわち、カプセルの中身を放出する目的伝達部位又は伝達条件に達するまで、その中身を保護して保持するようにデザインされたカプセル)のための物質としての用途を含み、様々な用途を有している。HPMCはヒトの摂取に適しており、そのため、HPMC壁を有するデリバリーカプセルには、ゼラチンベースのカプセルの代替を可能にするものとして、摂取可能なカプセル(例えば、医薬調製物及び栄養補助食品の正確な一定量のデリバリーのための)としての可能性が見出されている。例えば、WO97/35537、WO00/27367及びWO01/03676を参照せよ。HPMCは、物質、例えば、医薬又は魚油のような栄養補助食品を包むことができる。特定の医薬及び栄養補助食品は、例えば空気への著しい曝露により、攻撃されやすいことが知られている。そして、多くの精製されていない植物性油及び魚油が悪臭を放つのを妨げるために、これらを包むことが好ましい。しかしながら、例えば、HPMCフィルム内に、これらの物質を包んだとしても、それらは依然として酸化しやすい。例えば、カプセルの外の大気中に存在する酸素をカプセルの内部へと通すカプセルのフィルム壁により、カプセルの中身と接触して、何らかの方法でその中身を損なってしまう。
【0003】
HPMCは、ゲラチン、アルギン酸塩、ペクチン及び他の天然ポリマーのような、他の親水コロイドフィルム形成物質と比べて、酸素透過を妨げる程度が弱い。HPMCフィルムの酸素バリア特性を改良するために、フィルムを親水コロイド(例えば、アルギン酸塩)でコーティングすることができる。しかしながら、これらのフィルムのコーティングによって、それぞれの層が恐らく異なる物理特性/化学特性を有する複数の層からなるフィルムが生じ、それゆえ、加工の複雑さ及びそれから生じる問題が増し、フィルム生産のための時間及びコストの増加をもたらすといった、不都合が生じてしまう。
【0004】
グリコール類及びアセチン類は、特定のフィルム物質のためのフィルム添加剤として既に知られているが、アセチン類及び/又は他の添加物によって処理したフィルム及び処理を行わなかったフィルムは、酸素透過を妨げる程度が非常に弱い。
【特許文献1】WO97/35537
【特許文献2】WO00/27367
【特許文献3】WO01/03676
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この度、驚くべきことに、HPMCフィルム内に、様々なカルボン酸類、特にα-ヒドロキシ酸類及びβ-ヒドロキシ酸類を導入することによって、このフィルムによって調製されたカプセルに包まれた植物油及び魚油、及び他の充填物の酸化を減らすことができることを見出した。
【0006】
本発明は、単にHPMCフィルム物質に限定されないことに注目すべきである。HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)、MHEC(メチルヒドロキシエチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、EHEC(エチルヒドロキシエチルセルロース)、EC(エチルセルロース)及びMC(メチルセルロース)は、全て含むことができる物質である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の最も広い範囲は、非ゼラチンポリマーフィルムとして定義されるグループ内で、更なるポリマーフィルムを意図している。
【0008】
本発明の1つの態様としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、有機酸又はこのような酸の誘導体又は塩を含む添加物を含むヒドロキシプロピルメチルセルロースを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
適した有機酸は、モノ、ジ、トリ、又はテトラ又は他の多価カルボン酸類のような、カルボン酸類である。
【0010】
本発明のカルボン酸類は、以下のものを含む:
・1、2、3又は4つのカルボキシル基を有するC1-C6飽和又は不飽和、直鎖又は分枝鎖カルボン酸類、
・α-ヒドロキシ酸類(AHA’s)及びβ-ヒドロキシ酸類(BHA’s)を含む、1、2、3、4つのヒドロキシ/カルボキシル基の任意の組み合わせを有するC1-C6ヒドロキシ酸類、
・環状酸類及び環状ヒドロキシ酸類。
【0011】
本発明の酸類の具体的な例は、以下のものを含む:
〈カルボキシ酸類〉
アジピン酸
フマル酸
マレイン酸
プロピオン酸
サリチル酸
エタン酸
プロパン酸
ブタン酸
ペンタン酸
ヘキサン酸
〈ヒドロキシ酸類〉
α-ヒドロキシブチル酸
マンデル酸
酒石酸
乳酸
クエン酸
リンゴ酸
グリコール酸
ヒドロキシクエン酸
〈環状酸類及び環状ヒドロキシ酸類〉
γ-ブチロラクトン
γ-バレロラクトン
β-プロプリオラクトン(Beta propriolactone)
【0012】
HPMCフィルムは、α-及びβ-ヒドロキシ酸類での処理によって、並びに、フルーツ酸に由来する他のカルボキシ酸類での処理によっても、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びアセチン類で処理したHPMCから調製したカプセルと比較して、包まれた物質の酸化を顕著に減ずることができるカプセルを得るために使用することができるクリアなフィルムを産生することができる。この酸化を減少する顕著な改良は、恐らくフィルムを通っての酸素透過を妨げる、フィルム内へ導入した酸添加物に起因すると考えられる。
【0013】
これらのフィルムは、本発明による酸類を含む水溶性溶液でフィルムをコーティングすることによって、更なる応用に適するように改良又は修飾することができる。
【0014】
それゆえ、本発明の第一の態様としては、フィルムへと形成されるフィルム形成樹脂内で1つ以上の酸類を混合することによって、フィルム内へと酸類を導入する。
【0015】
本発明の第二の態様としては、酸類の水溶性溶液を、予備形成したフィルムの表面に塗布する。
【0016】
本発明の第三の態様としては、1つ以上の酸類の水溶性溶液を、お互いを貼り付けるフィルムの表面に塗布する。
【0017】
本発明の第四の態様としては、1つ以上の酸類の水溶性溶液を、本発明によるフィルムから調製される1つ以上のカプセルの表面に塗布する。
【実施例】
【0018】
〈フィルム製造〉
HPMCを、本発明による酸又は酸類(例えばクエン酸)とともに水に溶かし、固形物全体が10−20%w/wである溶液を調製する(この方法の間に、染料、甘味料及び製造酸のような任意の成分を加えることができる)。得られた粘性のある溶液を、その後、脱気し、厚さを設定して、工程の長さの間80−100℃に加温した可動(エンドレス)スチールベルト上で押し出しを行う。この加温工程の間、フィルムから水は蒸発し、20−150ミクロンの厚さの乾燥したフィルムが得られる。このフィルムを、その後、ベルトから取り除き、更に用途(例えば、最終的なロール幅に細長く切ること、単層フィルムをラミネートして二層フィルムを得ること、又は外被でコーティングして特異的な望ましい特性を付与すること)のために加工する。その代わりとして、より少ない量のために、粘性のある溶液をガラスの平らなシートに注ぎ込み、ガラスの表面に、粘性のある溶液の平らな層を形成するように定着させることができる。これを、その後、乾燥させることができる望む温度のオーブンへと入れ、望むフィルムシートを得ることができる。
【0019】
前記の代わりとして、前記のようにフィルムを形成するが、フィルムを形成する際にフィルム内へ1つ以上の酸類を加えることなしに形成することができる。いったんフィルムが形成されると、1つ以上の酸類の水溶性溶液をフィルム上に塗布する。
【0020】
〈カプセルの調製〉
本発明によるHPMC及び酸からなるフィルム溶液(固形物全体10%)を、ガラスプレート上で、設定した厚みに塗工する。その後、キャスティングフィルムを、温めたオーブン(50-80℃)内に置き、堅いフィルムに成形し、その後ガラスプレートから取り、室温で平衡化する。結果として得られたフィルムを、その後、真空形成ベッド上に置き、キャビティ又はハーフカプセルへと熱形成する。それぞれのキャビティを魚油又は植物油で満たし(いっぱいに)、同じHPMCのシートでふたをする。その後、加熱した道具を、フィルムをシールし、キャビティの周りの使用しなかった余分な不使用のフィルムが存在しないカプセルを切断するために使用する。形成されたカプセルをベッドから取り除き、パックして保管する。
【0021】
〈安定性テスト〉
魚油及び植物油の安定性を、本発明によって調製されたカプセル内で評価した。カプセル内の油の安定性を、時間の経過による過酸化物価(P.V.)を分析することによって評価した。
【0022】
標準的な医薬テストを使用してサンプルを調製し、30℃、60%相対湿度で、HDPEボトル内で保存した。定期的にサンプルを取り出し、European Phamacopea: Peroxide Values Ph. Eur. Mehotd 2.5.5に記載された方法によって分析した。
【0023】
結果をグラフとしてプロットし、時間系におけるP.V.の比較の変化を示す。
【0024】
コントロールカプセルは、アセチン類(モノ及びジアセチン)を導入したHPMCフィルムで調製した。
【0025】
結果は、以下のように解釈することができる:油類に生じた過酸化物の割合が高くなれば、最終製品の安定性は悪くなる。それゆえ、最も良好なフィルムは、より低い過酸化物価を示す。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1では、月見草油(EPO)を含むカプセルを用いた。5ヶ月間にわたって、過酸化物価が、一般的に、より低くよりゆっくりと生じることを明らかにすることによって、カプセルフィルムにおいて、クエン酸又はクエン酸/グリセリンの組み合わせを導入したHPMCの優れた性能が示された。既知のフィルム添加剤であるジアセチンで処理したフィルム(コントロール)の性能に比べて、フィルム中の1:1の乳酸/クエン酸の組み合わせでは、依然として大変良好な性能を示し、乳酸単独で処理したフィルムは、著しい改善を示した。
【図2】図2では、魚油(Lipromega TG60)を含むカプセルを用いた。図1のグラフで示した一般的な傾向が、図2でも示された。クエン酸の明確な安定効果が示され、低いP.V.を維持するという著しい改良が示されれた。
【図3】図3では、魚油(Lipromega TG60)を含むカプセルを用いた。このテストにおいては、カプセルを直接大気に曝した(カプセルの周りにパッケージングを行わずに)。クエン酸、リンゴ酸及び乳酸を含むHPMCフィルム(特に、クエン酸及びリンゴ酸)により、モノアセチンを含むHPMCフィルムに比べて、過酸化物価について優れた性能を示した。
【図4】図4では、EPOを包む、様々な可塑剤とともにアルギン酸ナトリウムでコートしたHPMCを用いた。HPMCフィルム上にコートしたアルギン酸ナトリウムにより、図1のグラフに比べて、更に長い期間維持することができる過酸化物価の更なる安定化が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ゼラチンポリマー、及び、有機酸又は有機酸の塩を含むバリア組成物を含む非ゼラチンポリマーフィルム。
【請求項2】
前記フィルムが、1以上のHPMC、MHEC、HEC、EHEC、EC及び/又はMCを含む、請求項1に記載の非ゼラチンフィルム。
【請求項3】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、有機酸又は有機酸の塩を含むバリア組成物を含む非ゼラチンポリマーフィルム。
【請求項4】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、有機酸又は有機酸の塩を含むバリア組成物を含むヒドロキシプロピルメチルセルロースフィルム。
【請求項5】
前記有機酸がカルボン酸である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記有機酸が、1以上のマレイン酸、フマル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸を含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
前記有機酸がクエン酸を含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
前記有機酸がリンゴ酸を含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
前記有機酸が、フィルムの全重量に対して5から40重量%の範囲で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
約23重量%の有機酸及び77重量%のHPMCを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記フィルムが、発泡、延伸又はガス発泡フィルムである、請求項1から10のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記フィルムが、20から250ミクロンの間の厚さを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項13】
前記フィルムが、請求項1から8のいずれか一項に記載の1以上の酸を含む溶液で更に処理される、請求項1から12のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のフィルムから形成される二層フィルムであって、請求項1から8のいずれか一項に記載の1以上の酸を含む溶液で互いに接着され、及び/又は、前記酸で更に処理した二層フィルム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の組成のフィルムを含む内包壁を有するデリバリーカプセル。
【請求項16】
フィルムをカプセルへと成形する前に及び/又はその間に、請求項1から8のいずれか一項に記載の酸でHPMCフィルムを処理することを含む、カプセルへと成形するのに適したHPMCフィルムの製造方法。
【請求項17】
壁が、カプセルの中身を保護し封じ込めるための連続的なバリアを供給する、デリバリーカプセルであって、前記バリアが、
a)非ゼラチンポリマーフィルム
b)有機酸
を含むデリバリーカプセル。
【請求項18】
前記非ゼラチンフィルムがHPMCを含む、請求項16に記載のデリバリーカプセル。
【請求項19】
前記有機酸がカルボン酸である、請求項16に記載のデリバリーカプセル。
【請求項20】
a)1以上の有機酸の溶液を調製する工程
b)前記溶液を、前記フィルムの片方又は両方の表面へと適用する工程:
を含む、非ゼラチンポリマーフィルムを処理する方法。
【請求項21】
a)1以上の有機酸の溶液を調製する工程
b)前記溶液を、前記フィルムの片方又は両方の表面へと適用する工程:
を含む、HPMCフィルムを処理する方法。
【請求項22】
a)1以上のカルボン酸の溶液を調製する工程
b)前記溶液を、前記フィルムの片方又は両方の表面へと適用する工程:
を含む、HPMCフィルムを処理する方法。
【請求項23】
壁が、壁の外側から、1以上のカルボン酸を含むバリア溶液を吸着又は吸収した、デリバリーカプセル。
【請求項24】
壁が、壁の厚みを通して、1以上のカルボン酸の濃度のグラデーションを有する、デリバリーカプセル。
【請求項25】
壁が、壁の厚みを通して、1以上のカルボン酸の濃度のグラデーションを有し、前記壁の外側の部分が最大の濃度を有し、前記壁の内側の部分が最大の濃度を有するデリバリーカプセル。
【請求項26】
壁が、壁の厚みを通して、1以上のカルボン酸の濃度のグラデーションを有し、前記壁の内側の部分が最大の濃度を有し、前記壁の外側の部分が最小の濃度を有するデリバリーカプセル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−513148(P2006−513148A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537312(P2004−537312)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004083
【国際公開番号】WO2004/026284
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(504079900)バイオプログレス・テクノロジー・インターナショナル・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】