説明

改良されたスピードを与える貯蔵燐光体

【課題】刺激光に対して改良されたスピード及び改良された応答を示す光刺激性又は貯蔵燐光体を提供する。
【解決手段】針状貯蔵又は光刺激性燐光体を含む貯蔵燐光体シート、プレート又はパネルにおいて、前記針状燐光体はホスト又はマトリックス化合物及び前記ホスト又はマトリックス化合物に対して0.01mol%未満の量のドーパント又はアクチベータ化合物又は要素を含み、前記針状燐光体はさらに、10−3μm〜10μmの範囲のサイズを有する粒子を含有物又は沈殿物として含み、前記粒子は前記パネルに強誘電性を与える強誘電性粒子として存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刺激性又は貯蔵燐光体及びかかる燐光体を含有するパネルに関する。特に、本発明はシャープネスを損なわずに改良されたスピードを示す燐光体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ放射線写真を含む様々な目的のために光ルミネセント貯蔵燐光体スクリーンを使用することが良く知られている。かかる燐光体スクリーンは燐光体層を支持体上に適用することによって作られうる。支持体は金属、ガラス、ポリマー(例えばポリエステル、ポリカーボネート、炭素強化樹脂材料)、セラミック複合体及びa−C(非晶質炭素)のような他の材料を含む極めて多くの好適な材料から形成されうるが、それらに限定されない。燐光体スクリーンはイオン化放射線エネルギーにさらされるときに電子及び正孔を捕捉することができる被覆又は蒸着材料を含む。支持体と燐光体層の間には、下塗り又は中間支持体を存在させてもよい。かかる支持体は支持体上への燐光体層の接着性を改良する層として、又は例えば汚れ又は湿分に対する保護を改良する、感度のために刺激された光の反射を改良する、もしくはシャープネスのために刺激光の吸収を改良する層として機能してもよい。
【0003】
かかる燐光体スクリーンは放射線量子にさらされると、捕捉された電子によって像又は空間的に変化するエネルギーパターンを貯蔵することができる。スクリーンは放射線量子にさらされるとき、スクリーンの電子状態の可逆的変化を受ける。その状態はスクリーンを赤外又は赤の光子に穏やかにさらすことによって逆転される。赤外又は赤の光子は可視スペクトルの波長範囲内の多くの光子の放出を伴う。従って、燐光体スクリーンは放射線パターンを吸収し、情報を捕捉された電子として貯蔵する能力を与え、電子的に貯蔵された放射線パターンを光検出器に対して見ることができるパターンに変換することによって光学的に後で読まれる。
【0004】
ほとんどの燐光体スクリーンは例えばBaFBr:Euのようなバリウムフルオロハライド型貯蔵燐光体又は好ましいCsBr:Eu燐光体の如き最近選択されるセシウムハライド型燐光体をベース材料として使用する燐光体組成を含み、それは例えばWO 01/03156に教示されているように結合剤のない針状層として蒸着技術によって被覆される能力を与える。そこに記載されているような支持体上への燐光体の蒸着は物理蒸着、化学蒸着又は噴霧技術からなる群から選択される方法によって行なわれる。
【0005】
0.01〜5mol%の範囲の相対的に高い量のEuドーパントを有するCsBr:Eu2+粉末における光誘導光刺激されたルミネセンスはJournal of Applied Physics,Vol.93(9),2003,p5109−5112に記載されている。そこに教示されているようにペロブスカイト状相とCsBrホストマトリックスの間の有意なミスマッチを予測できる。それは著者の意見では、相境界の近くの、即ちEu含有相のEu2+の直接近隣における電荷キャリアの良好な局在化のためCs−Eu−Br系における第二相の形成後の光刺激された強さが増大する一つの理由であり、そこでは非ナノサイズのCsEuBr及びCsEuBr相は10分の幾つかのマイクロメートルから数マイクロメータまでの寸法を有する。
【0006】
希土類イオンをドープすると、結晶格子内の新しいエネルギーレベルの生成が出現する。陽子及び中性子の核からなるイオンは一定数の電子をそれぞれ収容しうる一定のエネルギーレベルを占有することのみができる外部電子によって包囲されている。電子はレベルが部分的に満たされるにすぎないならレベル間の遷移を受けることができる。低いエネルギーレベルから高いエネルギーレベルへの電子の遷移は電子によるエネルギーの吸収を要求するが、高いエネルギーレベルから低いエネルギーレベルへの電子の遷移は電子によるエネルギーの放出を生じる。電子が低エネルギーレベルに自然に又はすぐに落ちることなしに高いエネルギーレベルに貯蔵される特定の場合には、例えば露光、熱又は他の適切なエネルギー源によって刺激された放射線の刺激された放出を誘発するためにエネルギー源による刺激が要求される。希土類イオンに関して、4fレベルは部分的にしか満たされないが、より高いエネルギーレベルで電子によって包囲される。このように、電子は遷移をうけることができ、例えば4f電子はより高い5dレベルに移動することができる。4fと5dレベルの間のエネルギー差は4f電子が可視光の吸収によって5dレベルに励起されうるような可視光エネルギーに相当する。続いて、5d電子は光の放出を伴って4fレベルに落ちることができる。
【0007】
希土類イオンが結晶格子内に導入されるとき、イオンの電子エネルギーレベルと燐光体結晶の電子エネルギーレベルとの相互作用によってエネルギーレベル構成が変化する。希土類イオンエネルギーレベルの電子はさらに互いに相互作用してもよい。かかる相互作用の良く知られた例は結晶がイオン化放射線にさらされるときに価電子帯からの電子が伝導帯に励起されるにつれて起こる。電子の除去はそれによって正味の正電荷又は「正孔」を後に残し、「電子及び正孔」は「電子−正孔対」と称される。電子−正孔対は結晶格子内で移動でき、潜在的なバリヤーによって、対は一般に、それが格子を通って動くときに結合されたままであり、かかる結合された対は「励起子」として知られる。
【0008】
励起子が長く生存する燐光体では、それらは互いに再結合及び中性化する前にある時間、格子を通って移行してもよい。かかる励起子は外来イオンの如き変形で優先的に再結合する。再結合された対から生成されたエネルギーは外来イオンがランタノイドイオンである場合には、「格子外来イオン」又はアクチベータに移動し、それは基底レベル4f電子から前記イオンの5dレベルへの励起を生じる。いったん5dレベルになると、それは4fレベルに落ち、光子の放出を生じるだろう。貯蔵燐光体では創られた励起子の電子及び正孔は分離されてそれぞれ電子捕捉及び正孔捕捉に別々に貯蔵されうる。捕捉電子及び正孔の集団を燐光体スクリーンに創ることによって、潜像が創られる。かかる捕捉プロセスは例えば捕捉中心の基底状態より1〜2eVエネルギーが高い励起状態に捕捉電子を移動するためのエネルギーのような外部エネルギーで捕捉部位に捕捉された電子を刺激することによって逆転される。従って、光学的刺激は600〜1200nm波長の光子に対する露出に等しい。従って、かかる遷移のための光学的刺激波長範囲は赤〜近赤外(NIR)領域のエネルギーである1〜2eVでピーク効率を示す。
【0009】
いったん励起状態になると、電子は捕捉正孔にトンネル又は移行し、正孔と再結合し、近くのアクチベータイオンに過剰エネルギーを移すことができる。アクチベータイオンは励起され、脱励起で光子を放出するだろう。かくして創られたルミネセンスは「光刺激されたルミネセンス」又は「PSL」と称される。PSLの強さは捕捉電子の数に正比例し、捕捉電子の数は燐光体スクリーンによって吸収される放射線エネルギーの量に比例する。
【0010】
もし励起子が分裂しないなら、又は捕捉中心の不在下では、励起子はアクチベータイオンに再結合しやすく、それによって可視光光子を生成する。このプロセスは即発ルミネセンスとして知られる。捕捉中心はコドーパントの使用によって誘導されることができる。コドーパントは格子外来イオンであり、それは蒸発工程時又はアニール時の様々な方法によって格子中に導入されることができる。これらのコドーパントは赤又は赤外光での刺激後に光を放出しない。
【0011】
電子捕捉の効率は励起子生成、励起子分裂、及び電子及び正孔捕捉を含む様々な捕捉創造プロセス工程の効率に依存する。励起子生成の効率、それゆえ創られた励起子の数は貯蔵燐光体の特定のX線吸収に依存する。特定のX線吸収は化学組成に依存し、従ってある貯蔵燐光体タイプに対して改良されることができない。結果として、貯蔵燐光体の電子捕捉効率を増加することは励起子分裂をより効率的にすることによって及び/又は電子及び正孔捕捉をより効率的にすることによって達成されることができる。
【0012】
燐光体スクリーンエネルギー吸収後、潜像はデジタル像に変換されなければならない。それゆえ燐光体スクリーンは燐光体層の少量だけが任意の所定時間光刺激されるようにレーザビームで走査される。残りの領域は乱されないままである。
【0013】
走査鏡はスクリーン上の正確なレーザビーム位置にデジタル的に制御され、従って小さな燐光体領域からのPSL強さはレーザセンサ(例えば光を電流に変換し、電圧に変換してデジタル化される光増倍管)で測定されることができる。デジタル電圧値は小さな部分の各々を読むプロセスが燐光体スクリーン全体を横切って繰り返されるとき燐光体スクリーン上のx−y位置座標の関数としてコンピュータメモリに貯蔵される。
【0014】
多量の放射線エネルギーを貯蔵することができ、かつ貯蔵燐光体プレートの読み出しで高効率のPSLを生じる、改良された貯蔵燐光体に対して業界で要求があることは明らかである。
【発明の開示】
【0015】
本発明の第一目的は刺激光に対して改良されたスピード及び改良された応答を示す光刺激性又は貯蔵燐光体を提供することである。
【0016】
さらなる目的は以下の記載から明らかになるだろう。
【0017】
上述の有利な効果は請求項1に述べた特別な特徴を有する貯蔵又は刺激性燐光体を提供することによって実現される。本発明の好ましい実施態様の特別な特徴は従属請求項に述べられる。
【0018】
ホスト又はマトリックス化合物及び前記ホスト又はマトリックス化合物に対して0.01mol%未満の量のドーパント又はアクチベータ化合物又は要素を含む針状貯蔵又は刺激性燐光体における粒子の含有物又は沈殿物は含有物又は沈殿物が前記マトリックス化合物において10−3μm〜10μmの範囲のサイズを有する強誘電性粒子として、より好ましくは10nm〜1000nmの範囲のサイズを有する粒子として存在するようなものであり、それはより効率的な励起子分裂を生じるものと思われる。好ましくは沈殿物は強誘電性である。なぜならば強誘電性沈殿物の電界は励起子の電子及び正孔の分離のための極めて好ましい条件を創るからである。
【0019】
本発明のさらなる利点及び実施態様は以下の記載及び図面から明らかになるだろう。
【0020】
図面の簡単な記述
図1は、追加の温度処理のない(A欄)、空気中で180℃で4時間アニールされた(B欄)及び空気中で400℃で4時間アニールされた(C欄)、沈殿物のTEM像を示す。1,2及び3:超薄切片法によって作られた試料;4(存在する場合):研磨及びイオン微粉砕によって作られた試料。
【0021】
図2は、温度処理されていない像形成プレートに見られる沈殿物の蓄積を示す。左側の写真には、正孔−おそらく沈殿物の破壊物−が超薄切片カットで示され、右側の写真には、沈殿物−SEMコントラストにおける白色−が研磨された試料上に示される。
【0022】
図3は、約2μmの沈殿物間の平均距離を有する、(空気中で450℃でアニールされた)X線貯蔵燐光体に対する適用のために好適でない強い温度処理後の、走査電子顕微鏡(SEM)コントラストにおいて白色の沈殿物の均一な分布を示す。
【0023】
図4は「暗視野」モード(4A)及び「明視野」モード(4B)で見ることができる含有物を示す。
【0024】
図5AはCsBr:Eu2+像形成プレートのヒステリシスループを示す。図5Bは図4Aと同じ測定を示すが、ポリエステル箔(PET)上で行なわれている。
【0025】
図6はオシロスコープスクリーン上で表わされる強誘電性ヒステリシスループを測定するための電気回路を示す。
【0026】
図7は不活性雰囲気における炉の加熱時のキャパシタンスを監視するために炉に配置される銅プレート及びコンデンサとしてのCsBr:Euの像形成プレートの寸法を示す(数字は次に与えられる許容度(mm)で表示され、上限の許容度は全くなく、下限の許容度は最大0.2mmである)。
【0027】
図8は(圧力によって試料と銅プレートの良好な接触を起こすために)両側にプラスチックホルダ(1)を配置した、二つの銅プレート(3)の間の像形成プレート(5)、銅ねじ接続(2及び4)の配置を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明によれば、針状貯蔵又は光刺激性燐光体を含む貯蔵燐光体シート、プレート又はパネルであって、前記針状燐光体がホスト又はマトリックス化合物及び前記ホスト又はマトリックス化合物に対して0.01mol%未満の量のドーパント又はアクチベータ化合物又は要素を含み、前記針状燐光体が含有物又は沈殿物として10−3μm〜10μmの範囲のサイズを有する粒子をさらに含むものにおいて、前記粒子が強誘電性粒子として存在し、従って前記プレート又はパネルに強誘電性を与えることを特徴とする貯蔵燐光体シート、プレート又はパネルが提供される。本発明の一実施態様では前記貯蔵燐光体プレート又はパネルにおいて含有物又は沈殿物として存在する前記粒子は10nm〜1μmの範囲、より好ましくは10nm〜50nmの範囲、さらにより好ましくは10nm〜30nmの範囲のサイズを有する。
【0029】
本発明によれば、前記貯蔵又は刺激性燐光体パネルにおいて、少なくとも前記ドーパント又はアクチベータ化合物又は要素は沈殿物、粒子又は他の含有物として前記マトリックス化合物に存在する。
【0030】
その一実施態様では、本発明によるパネルでは、前記沈殿物はCsEuBrx+αyである。本発明による最も好ましい実施態様では、前記沈殿物はCsEuBrx+αy(但し、2≦α<3)である。その中の二価と三価のユウロピウムの比は10−1:1〜10:1、より好ましくは10:1〜10:1の範囲である。
【0031】
強誘電効果は電気双極子として機能する構築された安定ドメインの自発分極に関するものとして解釈される。従って、本発明によるX線貯蔵燐光体パネルに含まれる強誘電性双極子は燐光体の周囲の基本的な燐光体結晶セル上の電界の誘導によって感度を増強する能力を与え、それによって少なくとも強誘電性粒子、沈殿物又は別の含有物の近くで自発的な励起子再構成を抑制する。粒子は強誘電性を起こすために結晶性であるべきであることを今や見出した。従って、非晶質材料は強誘電性領域を決して構築できないことが明らかに確立された。
【0032】
好適な支持体上への蒸着によって得られた、CsBr:Eu針状結晶像形成プレートにおける沈殿物の如き粒子形態の含有物の存在に対する実験的証拠は二つの異なる方法での分析のために作られた貯蔵燐光体プレートの試料のTEM分析によって見出された。前記蒸着は特別な技術として熱蒸着、電子線蒸着、磁気スパッタリング、高周波スパッタリング及びパルス化レーザ蒸着又はスプレー乾燥及び熱噴射の如き噴霧化技術(これらに限定されない)を含む方法によって有利に行なわれる。第一実験ではTEM箔は超薄切片法(50nm〜80nmの範囲の箔厚さが得られる乾燥切断)によって切断され、第二調製では研磨技術が適用され、アルゴン−イオン微粉砕技術(微粉砕は液体窒素温度で行なわれた)が適用された。
その結果は下記のような燐光体プレートに対して図1に示される:
アニール工程なし(追加の熱処理なし−左欄の写真参照);
アニール工程あり(空気中で180℃で4時間);
強められたアニール工程あり(空気中で400℃で4時間)。
【0033】
本発明による刺激性燐光体パネルでは前記含有物又は沈殿物は前記針状貯蔵燐光体に存在し、前記貯蔵燐光体では存在するアクチベータ化合物の全量は1p.p.m.〜200p.p.m.の範囲である。
【0034】
特に本発明による刺激性燐光体パネルでは前記含有物又は沈殿物は前記貯蔵燐光体に存在し、前記含有物又は沈殿物は約50nm、より好ましくは約30nm、さらにより好ましくは約10nmの範囲のサイズを有する。
【0035】
本発明による刺激性燐光体パネルでは前記燐光体における含有物又は沈殿物の間の平均空間は50nm〜15μmの範囲である。
【0036】
本発明による刺激性燐光体では前記沈殿物又は含有物は有利には強誘電性粒子化合物である。
【0037】
本発明による刺激性燐光体パネルのさらなる例では沈殿物の如き粒子の形の前記含有物は10nm〜1000nmの範囲の平均等価体積直径として表示される平均粒子サイズを有する。より好ましくは前記平均粒子サイズは同じ範囲であるが750nm以下であり、さらにより好ましくは前記平均粒子サイズは100nmまでの範囲である。百分率として表示される前記平均粒子サイズの標準偏差は10〜40%、より好ましくは10〜30%、最も好ましくは10〜20%の範囲である。
【0038】
本発明による一実施態様では前記刺激性燐光体プレート又はパネルにおける前記含有物又は沈殿物は下記一般式(1)による化合物又は化合物の混合物である。

式中、Mはアルカリ金属としてLi,Na,K,Rb及びCsの一つを表わし、Mはアルカリ土類金属としてMg,Ca,Sr及びBaの一つ、ランタノイドとしてEu又はSm、遷移金属としてHg又はPbを表わし、XはハロゲンとしてF,Cl,Br又はIの一つを表わす。
【0039】
それらの化合物又は組成物の混合物もまた含まれる。
【0040】
本発明によれば、より特別な形態では燐光体パネルにおけるそれらの含有物はCsBaBr,CsSrBr,CsCaBr,CsPbCl,CsSrCl,CsSmCl,CsHgCl,及びCsEuBrx+αy(但し、2≦α<3)からなる群から選択される。さらに、貯蔵燐光体パネルにおける光刺激されたルミネセンスの増強した強度はもしそれがコドーパントでコドープされるなら見出されることが確立された。さらに、LiM並びにNaMCl化合物は使用のために極めて好適であり、そこではMは前述のように規定される。
【0041】
好ましい実施態様では特に強い強誘電性として作用する本発明によるパネルにおいて前記針状刺激性燐光体における沈殿物又は含有物はBaTiO又は下記一般式(2)による代替材料である。

式中、M及びMは上で規定したものと同じ意味を有し、0≦x<1,0≦y<1及びδ=(3−x/2−y)。
【0042】
本発明による燐光体パネルを提供するためには強誘電性化合物はもちろん刺激性燐光体に添加又は沈殿されてもよいことは明らかである。
【0043】
本発明による燐光体パネルでは、もしBaTiO又はBa1−xTi1−yδのような代替材料又は他の強誘電性化合物がBaFBr又はCsBr型刺激性燐光体のEuドープされたマトリックス化合物に添加されるなら、拡散防止層による被覆はTiイオンのような望ましくないイオンが貯蔵燐光体中に拡散することを回避又は防止するために好ましい。さらに、刺激性燐光体では粒子又は沈殿物の形の前記含有物間の平均距離は例えばCsEuBrx+αy(2≦α<3)のような化合物のタイプ及び存在する粒子又は沈殿物の形の含有物の量に依存するだけでなく、沈殿物又は粒子含有物の粒子サイズにも依存する。
【0044】
以下の表1ではかかる平均距離の例は10μmの平均直径及び500μmの平均針状結晶長さを有する針状結晶において(全ユウロピウムドーパント量の50%を表す)CsEuBr沈殿物を有する刺激性針状CsBr:Eu燐光体に対して与えられ、そこでは50p.p.m.〜2000p.p.m.の範囲のアクチベータ量に対して(10nm〜500nmの範囲の)異なる粒子サイズの沈殿物又は含有物の間の(μmで表示される)平均距離が表わされ、CsBrの質量密度が4.44g/cmであること及び沈殿物の密度が5.00g/cmであることが考慮された。
【0045】

【0046】
含有物又は沈殿物の間の平均空間はドーパント量が増加しているときに明らかに減少し、一方より大きい粒子サイズはその少ない量の含有物又は沈殿物の存在のため、増大した平均空間を与える。
【0047】
本発明によれば、前記刺激性燐光体パネルはアルカリ金属ハロゲン化物又は前記ハロゲン化物の組み合わせ、アルカリ土類金属ハロゲン化物又は前記ハロゲン化物の組み合わせ、土類金属ハロゲン化物又は前記ハロゲン化物の組み合わせ、及び前記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び土類金属ハロゲン化物の少なくとも二つの組み合わせ又はそのハロゲン化物の組み合わせからなる群から選択されるマトリックス化合物から構成される針状燐光体を有する。
【0048】
本発明による好ましい実施態様では刺激性燐光体パネルは針状燐光体においてドーパント又はアクチベータ化合物又は要素として少なくとも一つのランタノイドイオン又は少なくとも一つのランタノイド化合物を有する。
【0049】
本発明による刺激性燐光体パネルは最も好ましい例では下記一般式(3)によって表わされる針状燐光体を有する。

式中、MはLi,Na,K,Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属元素であり、MIIはBe,Mg,Ca,Sr,Ba,Ni,Cu,Zn及びCdからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ土類金属元素又は二価金属元素であり、MIIIはSc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,Ga及びInからなる群から選択される少なくとも一つの希土類元素又は三価金属元素であり、X,X′及びX′′の各々は独立してF,Cl,Br及びIからなる群から選択される少なくとも一つのハロゲンであり、AはY,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Mg,Cu及びBiからなる群から選択される少なくとも一つの希土類元素又は金属元素であり、a,b及びzは0≦a<0.5,0≦b<0.5及び0<z≦1.0のそれぞれの条件を満足する数である。
【0050】
前記燐光体パネルはさらに、Ta,W,Ti又はMoを含む少なくとも一つの化合物を含んでもよい。
【0051】
本発明による刺激性燐光体パネルはその最も好ましい実施態様では針状燐光体としてユウロピウム活性化臭化セシウム燐光体を有する。
【実施例】
【0052】
本発明をその好ましい実施態様と関連して以下に記載するが、本発明をそれらの実施態様に限定することを意図しないことが理解されるだろう。
【0053】
強誘電性を検出するための実験構成は以下に記載される。
【0054】
強誘電性ヒステリシスループを測定する最も簡単な方法はかつてロシェル塩の強誘電性の証明のために使用されたソーヤタワー回路を使用する(C.B.Sawyer and C.H.Tower,Phys.Rev.,Vol.35,pages 269−273,1930)。非強誘電性マトリックス内の強誘電性沈殿物又は含有物の場合において、特に前記沈殿物又は含有物の低い体積画分において、より難しく、結果としてより洗練された測定方法を要求する(図6)。
【0055】
補償法(H.Diamant,K.Drenck、及びR.Pepinsky.Rev.Sci.Instr.,Vol.28(1),p30−33,1957)はそれゆえ(調査された試料の99容量%にわたるCsBr:Eu2+像形成プレートの場合において)電界に線形の挙動を示す信号の部分を差し引く機会を提供するホイートストンブリッジを含む。
【0056】
ブリッジはソーヤタワー回路の測定ユニットに平行に第二補償コンデンサユニットを置くことによって作られた。この補償コンデンサユニットはキャパシタンス及び抵抗の等しい値を持つべきである(CsBrは理想的には分離していない)。両ユニットの信号を差し引くことによって、試料信号の非線形部分だけが残る。
【0057】
全ての構成要素は注意深く選択されるべきである:電子回路は20Hz〜20kHzの範囲内で変化する周波数を有する正弦波電圧を発生するHewlett Packardからのデジタル関数発生器からなることが好ましい。
【0058】
電圧の振幅は15ボルトに限られているので、電圧は約150Vの値まで音声周波変圧器によって増幅された。
【0059】
ホイートストンブリッジは実地試験において四つのコンデンサを含んでいた:それらの一つは同じサイズの二つの銅プレート間に置かれたCsBr:Eu像形成プレートを含む試料であり、別のものはトリマブル抵抗器と組み合わせた補償コンデンサであった。
【0060】
ブリッジの二つの側の間の差を見るために、両側の電圧が減算され、減算はハードウェアを使用することによって行なわれた。低インピーダンス減算回路によるブリッジの高インピーダンス信号の影響を避けるために、試料の信号及び補償ユニットの信号は低出力インピーダンスを得るために増幅された。この増幅器の入力インピーダンスは高く(>10+9Ω)、出力インピーダンスは低く、電流増幅は高く、電圧増幅は1であった。次いで両信号は演算増幅器によって減算された。この工程において増幅定数は2であった。
【0061】
補償を調整するために、二つの高インピーダンス増幅器の出力はオシロスコープ上に表示された(例えば図5)。補償するコンデンサ及び抵抗器はブリッジの二つの側の電圧が最も好適な範囲に等化されるような方法でトリミングされた。電界及び磁界による外乱を避けるために、電子部品はアースされたシールドを含む箱中に置かれた。
【0062】
CsBr:Eu像形成プレートにおける沈殿物の存在に対する実験的証拠は図1に示され、前の詳細な記述において説明された。それらの写真に基づいてTEM測定によって見られるような沈殿物の寸法のデータがまとめられた。以下の表2から温度処理によるアニールは沈殿物又は含有物を生長させることを明らかにする。これは熱力学的表面エネルギー減少現象の結果として起こるオストワルド熟成として解釈されてもよい。少数の沈殿物だけが異なるTEM試料に見出されたので、表2に与えられるような沈殿物寸法の統計的概括は幾らかの注意をして見るべきであるが、「絶対的」であるもとのして解釈されるべきでないことが明らかである。
【0063】
沈殿物の分布はSEM(走査電子顕微鏡)研究によって調査された。試料は化学機械的に研磨され、表面は炭素被覆されるか又は超薄切片法によって切断され、次いで炭素被覆された。沈殿物の外観は常に「蓄積領域」を見出したので正確に均一ではないことを見出した(図2を参照されたい。その左側の写真では正孔、おそらく超薄切片カットの沈殿物の破片が示され、右側の写真では沈殿物、SEMコントラストの白色のものが研磨された試料上に示される)。
【0064】

【0065】
X線貯蔵燐光体又はそれを被覆された貯蔵燐光体プレートに対する適用のためには好適でない極めてタフな温度処理だけが約2μmの沈殿物間の平均距離を有する均一な沈殿物分布を与える(図3)。
【0066】
沈殿物の結晶性に対する実験的証拠は図4に示された。結晶性は「暗視野」技術によって調べられた:回折モードでの含有物の適切な反射の選択は含有物を「明視野」像において暗く見えるようにし(図4B)、一方「暗視野」像(図4A)ではそれらの含有物は白いスポット又は部位として見ることができる。
【0067】
含まれる沈殿物とユウロピウムドーパントの間の相関関係が見出された。ユウロピウムドーパントの「ない」呼称上純粋のCsBr燐光体像形成プレートのSEM写真(そのユウロピウム含有量はなお100p.p.b.であった。即ち、通常のCsBr:Eu燐光体プレートにおけるユウロピウム含有量より少なくとも1000倍低い!)はほとんど全く沈殿物を示さない。
【0068】
CsBr:Eu燐光体プレート又はパネルの強誘電性は交流電界におけるその挙動を研究することによって示された。並列の電位差計によって試料の位相シフトを、そしてトリマブルコンデンサによって振幅を丹念に修正することによって、ヒステリシスループの発生は室温であっても(図5Aのように)観察された(図5Bに示された裸のPETポリエステル支持体上の比較「ループ」との差を参照)。
【0069】
(実質的に二価ユウロピウムイオンを有する)CsBr:Euの室温強誘電性に対する実験的証拠はさらに、炉内の二つの銅プレート間のコンデンサとして像形成プレート又はパネルを置いているときに得られた(試料及び一つの銅プレートは図7に示された;圧力によって試料と銅プレートの良好な接触を起こすために両側にプラスチックホルダ(1)を配置した、二つの銅プレート(3)の間の像形成プレート、銅ねじ接続(2及び4)の配置は図8に示された)。
【0070】
不活性雰囲気における炉の加熱時のキャパシタンスの監視は210℃における第一温度サイクルでの完全なキュリー挙動を示した。210℃の前記キュリー点より上で実行された第二及び第三サイクルは強誘電性の低下を示した:プレートをキュリー点以上に加熱すると、強誘電性の低下が強くなる。
【0071】
二価ユウロピウム放射の減衰を測定することによる分光学的な点の実験的調査から、CCDカメラを使用する同じ組のフィルターで監視された紫外線励起及び刺激されたルミネセンスのスペクトルはスペクトルがシフトされることを示すことが明らかになる:光ルミネセントスペクトル及び光刺激されたスペクトルは異なり、Cs−Eu−Br化合物を含む二価ユウロピウム系の研究から主に沈殿物は光ルミネセント挙動の原因であるが、光刺激されたルミネセンスは主にCsBrマトリックスに存在する二価ユウロピウムドーパントのためであることが明らかである。それらの分離された二価ユウロピウムイオンの濃度は沈殿物の直近で最も多く表わされるので、マトリックスにおける強誘電性は重要になる。強誘電領域の双極子は電界をCsBrマトリックス中に誘発するからである(図7aのヒステリシスループ参照)。X線照射時に構築された励起子はかかる電界において容易に分裂され、強誘電相の存在下における再結合に対する低下した傾向は光刺激性燐光体の改良された感度に導くことが想定される。
【0072】
時間の関数として強誘電性挙動を研究するためにCsBr:Eu層を有するパネルを加熱している間、水蒸気が第一工程では70℃〜80℃の範囲の温度で、第二工程では約200℃付近の温度で結合剤のない針状層から逃避することが実験的に確立された。この実験観察は低量のEuドーパント(即ち、CsBrマトリックスに対して0.01mol%未満の範囲)をドープされたCsBr:Euの針状層において強誘電性挙動の証拠を与える、ペロブスカイト格子構造における−O−H−誘導体の存在を示す。
【0073】
さらに、BaFBr:Eu貯蔵燐光体におけるCsSrBr及びCsSrIの存在が光刺激されたルミネセンスの増強した感度を与えることが見出された:CsBr:Euに関するキャパシタンスの温度依存測定は正方晶から立方晶までの結晶学的遷移領域においてキュリー状挙動を再び示した。同じ結果はBaFBr:EuにおけるCsBaBr及びCsCaBrの存在において導かれた。
【0074】
本発明の好ましい実施態様を詳細に記載したが、特許請求の範囲に規定されるような発明の範囲から逸脱せずに多数の変更がその中でなしうることは当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】追加の温度処理のない(A欄)、空気中で180℃で4時間アニールされた(B欄)及び空気中で400℃で4時間アニールされた(C欄)、沈殿物のTEM像を示す。
【図2】温度処理されていない像形成プレートに見られる沈殿物の蓄積を示す。
【図3】約2μmの沈殿物間の平均距離を有する、(空気中で450℃でアニールされた)X線貯蔵燐光体に対する適用のために好適でない強い温度処理後の、走査電子顕微鏡(SEM)コントラストにおいて白色の沈殿物の均一な分布を示す。
【図4】「暗視野」モード(4A)及び「明視野」モード(4B)で見ることができる含有物を示す。
【図5】図5AはCsBr:Eu2+像形成プレートのヒステリシスループを示す。図5Bは図4Aと同じ測定を示すが、ポリエステル箔(PET)上で行なわれている。
【図6】オシロスコープスクリーン上で表わされる強誘電性ヒステリシスループを測定するための電気回路を示す。
【図7】不活性雰囲気における炉の加熱時のキャパシタンスを監視するために炉に配置される銅プレート及びコンデンサとしてのCsBr:Euの像形成プレートの寸法を示す(数字は次に与えられる許容度(mm)で表示され、上限の許容度は全くなく、下限の許容度は最大0.2mmである)。
【図8】(圧力によって試料と銅プレートの良好な接触を起こすために)両側にプラスチックホルダ(1)を配置した、二つの銅プレート(3)の間の像形成プレート(5)、銅ねじ接続(2及び4)の配置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状貯蔵又は光刺激性燐光体を含む貯蔵燐光体シート、プレート又はパネルであって、前記針状燐光体がホスト又はマトリックス化合物及び前記ホスト又はマトリックス化合物に対して0.01mol%未満の量のドーパント又はアクチベータ化合物又は要素を含み、前記針状燐光体が含有物又は沈殿物として10−3μm〜10μmの範囲のサイズを有する粒子をさらに含むものにおいて、前記粒子が強誘電性粒子として存在することを特徴とする貯蔵燐光体シート、プレート又はパネル。
【請求項2】
前記粒子が10nm〜1μmの範囲のサイズを有することを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項3】
前記貯蔵燐光体においてアクチベータ化合物の全量が1p.p.m.〜200p.p.m.の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパネル。
【請求項4】
前記含有物又は沈殿物は下記一般式(1)による化合物又は化合物の混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパネル:

式中、Mはアルカリ金属としてLi,Na,K,Rb及びCsの一つを表わし、Mはアルカリ土類金属としてMg,Ca,Sr及びBaの一つ、ランタノイドとしてEu又はSm、遷移金属としてHg又はPbを表わし、XはハロゲンとしてF,Cl,Br又はIの一つを表わす。
【請求項5】
前記含有物又は沈殿物はCsBaBr,CsSrBr,CsCaBr,CsPbCl,CsSrCl,CsSmCl,CsHgCl、及びCsEuBrx+αy(但し、2≦α<3)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパネル。
【請求項6】
前記含有物又は沈殿物は下記一般式(2)による化合物又は化合物の混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパネル:

式中、Mはアルカリ金属としてLi,Na,K,Rb及びCsの一つを表わし、Mはアルカリ土類金属としてMg,Ca,Sr及びBaの一つ、ランタノイドとしてEu又はSm、遷移金属としてHg又はPbを表わし、XはハロゲンとしてF,Cl,Br又はIの一つを表わし、0≦x≦1,0≦y<1及びδ=(3−x/2−y)。
【請求項7】
前記貯蔵燐光体は下記一般式(3)によって表わされることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のパネル:

式中、MはLi,Na,K,Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属元素であり、MIIはBe,Mg,Ca,Sr,Ba,Ni,Cu,Zn及びCdからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ土類金属元素又は二価金属元素であり、MIIIはSc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,Ga及びInからなる群から選択される少なくとも一つの希土類元素又は三価金属元素であり、X,X′及びX′′の各々は独立してF,Cl,Br及びIからなる群から選択される少なくとも一つのハロゲンであり、AはY,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Mg,Cu及びBiからなる群から選択される少なくとも一つの希土類元素又は金属元素であり、a,b及びzは0≦a<0.5,0≦b<0.5及び0<z≦1.0のそれぞれの条件を満足する数である。
【請求項8】
前記刺激性燐光体はユウロピウム活性化臭化セシウム燐光体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のパネル。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−176780(P2006−176780A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−368919(P2005−368919)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(591023136)アグファ・ゲヴェルト・ナームロゼ・ベンノートチャップ (20)
【氏名又は名称原語表記】AGFA−GEVAERT NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】