説明

改良された生物薬剤学的性質をもつD−メチオニン製剤

本発明は、D-メチオニンの水溶解度を超えているD-メチオニンの薬学的懸濁液を提供し、それにより、より高い用量の経口投与を可能にする。本発明はまた、これらの懸濁液を調製するための方法を提供する。本発明はさらに、口腔粘膜炎、化学療法、抗生物質および騒音による聴力損失、様々なCNS障害および傷害によるニューロン損傷、ならびにアントラサイクリン毒性を予防する、処置するまたは寛解させるための方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、患者への経口投与に許容され、かつ有利なより高い用量の投与を可能にする、D-メチオニンの濃度がD-メチオニンの水溶解度を超えている懸濁液を含むD-メチオニンの経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
メチオニンは、天然の微量栄養素であり、従って、ヒト身体にとって異質ではなく、一般的に、約26mg/gの濃度で食事に見出される(National Research Council, 1980)。D/L-メチオニンは、歴史的に、比較的高い用量で治療用物質として用いられている。世界保健機関(World Health Organization)は、アセトアミノフェンおよびパラセンタモル過量摂取を処置し、肝臓においてグルタチオン生体内変換系を再生させるのを助けるための必須薬物として、D/L-メチオニンを挙げている(WHO, 1988)。経口解毒剤として、D/L-メチオニンは、しばしば、2.5gで、続いて4時間間隔で2.5gをさらに3回、12時間に渡って10gの総用量として、投与される。Dorfman et al. (1997)は、12人のHIV感染ヒト成人において空胞性脊髄症を処置するために6ヶ月間、1日2回、3gの L-メチオニンの経口投与を報告し、成人について20g/日の用量が、長期投与にとって安全であると報告した。Dorfman et al. AIDS 11:1066-1067 (1997)。
【0003】
L-メチオニンは、尿の臭いおよび皮膚炎を低減するために経口投与される市販の調製物として用いられている。成人について、推奨される用量は、200〜400mg、経口で、3〜4回/日である。L-メチオニンを用いるたいていのヒト研究は、副作用はないと報告した(Kaji et al., Res. Commun. Chem. Pathol. Pharmacol. 56:101-109 (1987); Kies et al., J. Nutr. 105:809-814 (1975); Stegink et al., J. Nutr. 116:1185-1192 (1986))。しかしながら、メチオニン毒性は、ラセミの、またはL-メチオニンの非常に高い用量から、特に、低タンパク質食事の存在下および/または発育中の動物において生じうる(Benevenga, J., Agric. Food Chem. 22:2-9 (1974))。L-メチオニンと違って、D-メチオニンは、高レベルでさえも非毒性である(Walser et al., J. Clin. Invest. 52:2865-2877 (1973))、2-ケト-メチルチオブチレートへ代謝される(Blom et al., Clin. Sci. (Lond.) 76:43-49(1989))。
【0004】
D-メチオニンは、必須アミノ酸、L-メチオニンの右旋性異性体である。メチオニンは、フリーラジカルスカベンジャー、および重要な抗酸化物質、還元型グルタチオン(GSH)の細胞内生成を増強しうる合成基質として働く(Lu, 1998)。D-メチオニンはまた、ミトコンドリアのGSH、酸化的ストレス誘導性アポトーシスを防ぐことができる効果を増加しうる(Fernandez-Checa et al., 1998; Ghibelli et al., 1998)。
【0005】
D-メチオニンは、高い経口用量においてのみ、十分な生物学的利用能をもつ。D-異性体は、より長い半減期および増強した生物学的利用能をもつように思われるが、L-およびD-メチオニンの両方が、化学療法剤、シスプラチンに関連した、酸化的ストレス誘導性聴器毒性、および腎毒性を効果的に防ぐと報告されている(Campbell et al., Hearing Res. 102:90-98 (1996), Reser et al., Neurotoxicol 20:731-748 (1999))。D-メチオニンは、ラットモデルにおいてシスプラチンに誘導された有毛細胞損失を防ぎ、また、シスプラチンの血管条への損傷を著しく低下させることが示されている(Campbell et al., Hearing Res. 138:13-28 (1999))。
【0006】
ヒトにおいて、D-メチオニンは、L-メチオニンより高い血漿レベルに達し、保護性物質としてのそれの効果を増強する。ヒトにおいて、D-メチオニンの60〜70%は、変換を増加させうるL-メチオニン欠乏状態を除いて、L-異性体への変換なしに排泄される(Benevenga, 1974; Walser et al., 1973; Stekol and Szaran, 1962; Friedman, J. Agric. Food Chem. 47:3457-3479 (1999))。
【0007】
水溶液中のD-メチオニンの溶解度は制限されるため(50mg/ml)、グラム量におけるその化合物の薬理学的用量(用量あたり合計3〜8g)のヒトへの投与は困難であった。このゆえに、効力のための十分な曝露および血中レベルに達しうるグラム量の頻繁かつ1日複数回投与の必要性を除去するために、生物学的利用能の向上を提供するD-メチオニンの経口剤形の必要性がある。特に、生物学的利用能について妥協することなく投与されうる経口製剤は、化学療法で誘発された口腔粘膜炎の処置に大いに有利であると思われる。本発明は、D-メチオニンの水溶解度を大きく超えている経口懸濁液製剤を供給し、それにより患者へのより高い用量の送達を可能にすることにより、この必要性を満たす。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
一つの態様において、本発明は、以下を含む薬学的懸濁液を提供する:D-メチオニン、懸濁剤および溶媒。本発明の懸濁液におけるD-メチオニンの濃度は、適切には約20mg/ml〜約2000mg/ml、およびより適切には、約200mg/mlである。
【0009】
本発明の実施に用いる適切な懸濁剤は、限定されるわけではないが、ポロキサマー、ポロキサミン、ポリソルベート、エトキシル化(ethoxylated)モノグリセリド、エトキシル化ジグリセリド、エトキシル化脂質、エトキシル化脂肪アルコール、およびエトキシル化脂肪酸を含む。特定の態様において、本発明の懸濁液は、メチルパラベンおよびプロピルパラベンを含むパラベンのような保存剤を含みうる。
【0010】
本発明の薬学的懸濁液は、保存剤、濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料を含むもう一つの薬学的賦形剤をさらに含みうる。
【0011】
一つの態様において、本発明は、以下を含む経口投与のための薬学的懸濁液を提供する:約200mg/mlの濃度でのD-メチオニン、約1mg/mlの濃度でのメチルパラベン、約0.1mg/mlの濃度でのプロピルパラベン、約1.2mg/mlの濃度でのキサンタンガム、約1mg/mlの濃度でのポリソルベート80、約50mg/mlの濃度でのソルビトール、および水、ならびに甘味剤および/または着香料をさらに含みうる。
【0012】
本発明はまた、以下を含む薬学的懸濁液を作製するための方法を提供する:約20mg/ml〜約2000mg/mlのD-メチオニン濃度をもつ懸濁液を与えるように、D-メチオニンを懸濁剤および溶媒と混合する段階。さらなる態様において、本発明の方法は、保存剤、濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料からなる群より選択される1つまたは複数の賦形剤を添加する段階をさらに含みうる。
【0013】
本発明はまた、必要としている患者において、口腔粘膜炎、化学療法(白金化合物)、アミノグリコシドおよび騒音により引き起こされる聴力損失、ならびにアントラサイクリン毒性を予防する、処置するまたは寛解させるための方法であって、本発明に従って、懸濁液におけるD-メチオニンの治療的有効量を患者に投与する段階を含む方法を提供する。本発明の懸濁液はまた、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、変性運動失調症(degenerative ataxias)、多系統萎縮症)、脳血管疾患(例えば、全体的または局所的虚血、脳出血、脳卒中)、発作およびてんかん、ウイルス性疾患(例えば、髄膜炎、脳炎)、多発性硬化症、脳腫瘍、ならびに機械力傷害を含むCNS障害または傷害によるニューロン損傷を処置する、予防する、または寛解させるために用いられうる。D-メチオニンは、適切には、これらの懸濁液中約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度であり、より適切には、約200mg/mlである。特定の態様において、本発明の懸濁液は、経口で、1日1回投与される。口腔粘膜炎を処置する場合、懸濁液は、適切には、放射線処置および/または化学療法処置の間および/または後に与えられる。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の適切な態様は、今、説明される。特定の形態および配置が考察されているが、これが例証的目的としてのみなされることは、理解されるべきである。当業者は、他の形態および配置が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく用いられうることを認識しているものと思われる。
【0015】
口腔粘膜炎
口腔粘膜炎(OM)は、口腔粘膜の細胞がアポトーシスを起こして潰瘍が生じ、しばしば二次的な細菌感染または真菌感染を伴う、放射線療法による痛く、衰弱させ、用量を制限する副作用である。これらの潰瘍により、患者は、敗血症を発症するリスクが有意に増加した状態に置かれる。患者は、口腔癌の放射線療法または化学療法処置の間、しばしば味覚の部分的(味覚障害)、またはより典型的には完全(味覚消失)喪失を発症する。さらに、唾液腺に対する細胞傷害性は、結果として口腔乾燥症(不快な口渇、ならびに発声および嚥下の困難)を生じ、細菌性腐敗へ導きうる。口腔粘膜炎に起因する痛み、味覚の喪失、および口腔乾燥症(食欲減退または飲食不能)は、口腔に外部照射を受けた患者における一般的、かつほとんど普遍的な病訴である。この過程を通して、患者は、体重減少、虚弱、無気力、落胆、さらなる食欲不振、および感染を受けやすいことを経験する。他の細胞傷害性の関連副作用(骨髄抑制および嘔吐のような)に対処する能力の向上で、OMは、化学治療および放射線治療の主な用量を制限する副作用の一つになっている。(Sonis et al., J. Natl. Cancer Inst. Monogr. 29:1-2 (2001))。
【0016】
ある程度のOMは、癌処置を受ける患者の約40%において生じる(Sonis, Oral Oncol. 33:47-54 (1997))。それらの個体の約2分の1が、それらの癌処置の改変および/または非経口の無痛法を必要とするほどの重症度の病変を発症する。OMの発生率は、骨髄移植についてのコンディショニング治療、乳癌および結腸癌についての持続注入治療 ならびに頭頸部の腫瘍についての放射線治療を受ける患者の中で一貫してより高い。ハイリスクプロトコールにおける患者の中で、重篤なOMは、60%を超える頻度で起きる(Woo et al., Cancer 72:1612-1617 (1993))。生活の質ならびに罹患率および死亡率へのそれの影響に加えて、OMはまた、入院あたり$20,000〜30,000の範囲であるかなりの経済費用がかかる。
【0017】
本発明は、OMに関連した様々な状態を処置するために用いられうるD-メチオニンの経口懸濁液を提供する。同様に、この懸濁液は、限定されるわけではないが、放射線毒性、白金含有抗腫瘍化合物および他の耳毒性薬物の毒性、騒音の毒性、末梢神経障害、ならびにアントラサイクリン(すなわち、アドリアマイシン)のような心臓毒性薬物の毒性の処置を含む、様々な疾患および状態を処置するために用いられうる。
【0018】
一つの態様において、本発明は、以下を含む薬学的懸濁液を提供する:D-メチオニン、懸濁剤、および溶媒。
【0019】
本明細書に用いられる場合、懸濁液という用語は、固体、半固体または液体の小粒子が均一に分散しているが、溶解していない溶媒を意味する。粒子の分散は、混合物を振盪するまたは撹拌することにより維持される。本発明において、D-メチオニン粒子は、その化合物の溶解度を大きく超えるD-メチオニン濃度をもつ製剤を作製するために、全体を通して記された様々な懸濁剤を用いて懸濁される。
【0020】
本明細書に用いられる場合、用語「溶媒」は、アルコール(例えば、エタノールおよびプロピレングリコール)、ポリエチレングリコールおよびそれらの誘導体、グリセロール、ならびに他の身体に許容される溶媒のような、1つまたは複数の補助溶媒をさらに含みうる水溶液を指すことが意図される。
【0021】
本明細書に用いられる場合、用語「D-メチオニン」は、偏光計で測定される場合、化合物が平面偏光を時計回りに回転する(例えば、右旋性分子)メチオニンの光学活性組成物を指すことを意図される。適切には、D-メチオニンは、1%〜100%の鏡像体過剰率をもつ。特定の態様において、D-メチオニンは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の鏡像体過剰率をもつ。D-メチオニンは、薬学的に許容される塩、例えば、塩化物、ヨウ化物、ジシクロヘキシルアミン塩、ジシクロヘキシルアンモニウム塩、シクロヘキシルアンモニウム塩、シクロヘキシルアミン塩、スルホン酸塩、および酢酸塩を含む、本発明において用いるのに適した任意の形をとりうる。
【0022】
本発明の懸濁液において調製されうるD-メチオニンの濃度は、標準的技術および測定を用いて当業者により容易に決定されうる。一般的に、本発明の懸濁液におけるD-メチオニンの濃度は、約20mg/mlから約2000mg/mlまでである。適切には、濃度は、約100mg/ml〜約1000mg/ml、約100mg/ml〜約500mg/ml、または約200mg/mlである。
【0023】
D-メチオニンは、水において約5%(重量/重量)またはおよそ50mg/mLの溶解度をもつ。本発明に従って、本懸濁液製剤は、懸濁液の単位容量あたりのD-メチオニンにおいて少なくとも4倍の増加(約200mg/mlの濃度)を提供し、それゆえに、比類なく、懸濁液の形で与えられうるD-メチオニンの非常に高い用量を可能にする。
【0024】
本明細書に用いられる場合、「懸濁剤」は、溶媒系においてD-メチオニンの懸濁を生じるために用いられうる任意の作用物質である。本発明の実施において用いられうる適切な懸濁剤は、限定されるわけではないが、ポロキサマーおよびポロキサミン(ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンのブロックコポリマー)のような立体的安定化物質、ポリソルベート(ポリソルベート80またはTween 80(商標)のような)、エトキシル化モノグリセリドおよびジグリセリド、エトキシル化脂質、エトキシル化脂肪アルコール、脂肪酸、およびビタミンE-TPGS(d-αトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)を含むソルビタン脂肪酸のエトキシル化エステルを含む。適切な態様において、懸濁剤は、ポリソルベート80のようなポリソルベートである。本発明の実施において用いられる懸濁剤の適切な濃度は、当業者により容易に決定されうる。本発明の懸濁液を調製するにおいて有用なポリソルベート80の濃度は、約0.1mg/ml〜約10mg/ml、約0.5mg/ml〜約5mg/ml、または約1mg/mlである。
【0025】
さらなる態様において、本発明の懸濁液は保存剤をさらに含みうる。当業者に公知の任意の適切な保存剤が、本発明の懸濁液に用いられうる。例えば、抗菌剤、抗真菌剤、または抗細菌剤が用いられうる。用いられうる適切な保存剤は、限定されるわけではないが、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ベンジルアルコール、エチルアルコール、メチル-、エチル-、プロピル-、またはブチルパラベンのようなパラベン、クロロブタノール、安息香酸ナトリウム、安息香酸、塩化ミリスチル-γ-ピコリニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、クロロクレゾール、クレゾール、デヒドロ酢酸、メチルパラベンナトリウム、フェノール、フェニルエチルアルコール、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、プロピルパラベンナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チモール、およびそれらの組み合わせを含みうる。適切には、本発明の実施において用いる保存剤は、メチルパラベンおよびプロピルパラベンのようなパラベンである。そのような保存剤の有用な濃度は、当業者により日常的に決定されうる。例えば、メチルパラベンは、約0.1mg/ml〜約10mg/ml、約0.5mg/ml〜約5mg/ml、または約1mg/mlの濃度で本発明の懸濁液に用いられうり、プロピルパラベンは、約0.01mg/ml〜約1mg/ml、または約0.05mg/ml〜約0.5mg/ml、または約0.1mg/mlの濃度で本発明の懸濁液に用いられうる。そのような保存剤は、単独、またはお互いと、または他の保存剤と組み合わせてのいずれかで、用いられうる。
【0026】
本発明の懸濁液はまた、濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料のような1つまたは複数の薬学的賦形剤を含みうる。
【0027】
濃化剤の例は、限定されるわけではないが、カルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、およびカラギーナンを含む。湿潤剤の例は、限定されるわけではないが、多価アルコール、グリセロール、プロピレングリコール、プロピレングリコールグリセロール、ポリエチレングリコール、イソマルト、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトールのようなポリオールなどを含む。甘味剤の例は、限定されるわけではないが、スクロース、フラクトース、マルトース、グルコース、および人工甘味料を含む。着香料の例は、チョコレート、タルマンチン(thalmantin)、アスパルテーム、ルートビアー、チューインガム、スイカ、オレンジ、マンゴー、またはpH7〜9で安定な他の香味料を含む。
【0028】
一つの態様において、本発明は、下の表1に概略が示されているような、D-メチオニンの薬学的懸濁液を提供する。
【0029】
(表1)

【0030】
本発明はまた、以下の段階を含む薬学的懸濁液を調製するための方法を提供する:約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度でD-メチオニンを与えるようにD-メチオニンを懸濁剤および溶媒と混合する段階。本発明の方法は、保存剤、濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料からなる群より選択される1つまたは複数の賦形剤を添加する段階をさらに任意で含みうる。適切には、本発明の方法において有用なD-メチオニンの濃度は、約200mg/mlである。懸濁剤および様々な賦形剤の濃度は、当業者により決定されうり、適切には、本明細書に記載されているような濃度においてである。
【0031】
もう一つの態様において、本発明は、必要としている患者において、口腔粘膜炎、化学療法(例えば、白金化合物)、アミノグリコシドおよび騒音により引き起こされる聴力損失を、予防する、処置する、または寛解させるための方法であって、本発明に従って、経口懸濁液におけるD-メチオニンの治療的有効量を患者に投与する段階を含む方法を提供する。本発明はまた、本発明に従って経口懸濁液におけるD-メチオニンの治療的有効量を投与することにより、アントラサイクリン毒性を予防する、処置する、または寛解させるための方法を提供する。
【0032】
本発明の懸濁液はまた、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、変性運動失調症、多系統萎縮症)、脳血管疾患(例えば、全体的または局所的虚血、脳出血、脳卒中)、発作およびてんかん、ウイルス性疾患(例えば、髄膜炎、脳炎)、多発性硬化症、脳腫瘍、ならびに機械力傷害を含むCNS障害または傷害によるニューロン損傷を処置する、予防する、または寛解させるために用いられうる。そのような疾患および傷害により引き起こされるニューロン損傷のD-メチオニン処置は、2004年6月4日に出願された米国仮特許出願第60/576,807号に考察されている。
【0033】
本明細書に用いられる場合、用語「治療的有効量」は、結果として、口腔粘膜炎の処置、口腔粘膜炎の1つもしくは複数の症状の寛解、または口腔粘膜炎により引き起こされる損傷の低減を生じるのに十分な治療剤の量を指す。例えば、治療的有効量は、好ましくは、口腔粘膜炎の程度を少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%、低減させる治療剤の量を指す。傷害の程度は、目視観察、血液または他の体液試験、および当技術分野において公知の他の手順を含む、口腔粘膜炎を可視化するまたは測定するための当技術分野において公知の任意の方法により決定されうる。
【0034】
本明細書に用いられる場合、用語「予防する、予防すること、および予防」とは、口腔粘膜炎の発生における減少を指すことが意図される。予防は、完全、例えば、口腔粘膜炎が完全にないことでありうる。予防はまた、損傷の量が本発明無しで生じたであろうものより少ないような、部分的でありうる。例えば、本発明の方法を用いる損傷の程度は、本発明の懸濁液無しで生じたであろう損傷の量より、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%少ないものでありうる。
【0035】
本発明の懸濁液を用いる、量およびタイミングを含む適切な患者投薬は、当業者により容易に決定されうる。例えば、口腔粘膜炎を処置する場合、本発明の懸濁液は、放射線処置もしくは化学療法処置の前、間、または後に投与されうる。処置の期間もまた、当業者により決定されうり、患者により必要とされる場合、処置の間または後に、何日間、何週間、何ヶ月、または何年間、継続されうる。
【0036】
本発明の懸濁液は、治療効果を達成するのに十分な頻度で、例えば、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回などで投与されうる。適切には、本発明の懸濁液は、単一の一日量のみが必要とされるようなD-メチオニンの十分な量を提供するが、他の投与計画は本発明により含まれる。当業者は、懸濁液の投与の正確な投薬およびスケジュールが、患者の年齢、健康、体重および過去の病歴、同時の処置の種類、処置の頻度、投与経路、ならびに所望の効果の性質を含むが、これに限定されない、多くの因子により変わりうることを容易に理解するものと思われる。
【0037】
本明細書に記載された方法および適用に対する他の適切な改変ならびに適応が、本発明またはその任意の態様の範囲から逸脱することなくなされうることは、当業者にとって容易に明らかであると思われる。本発明を詳細に今、説明してきたが、同じものは、以下の実施例を参照することにより、より明らかに理解されるものと思われ、その実施例は、例証の目的としてのみ本明細書に含まれ、本発明の限定であることを意図されない。
【0038】
実施例
実施例1
D-メチオニンの薬物動態
以下でさらに記載されているように、D-メチオニンの薬物動態学的プロフィールは、雄Sprague-Dawleyラットにおいて調べられた。D-メチオニンは、ラットへの溶液製剤において150mg/kg用量で、静脈内および経口で、または本発明に従っての懸濁液製剤において、150mg/kgかもしくは300mg/kgのいずれかの用量で、経口で与えられた。血液試料は、あらかじめ決められた時間において収集され、HPLC-UVアッセイによりD-メチオニンおよびL-メチオニンの両方について分析された。
【0039】
動物、投薬および血液採取
約200〜300gの体重がある26匹の雄Sprague-Dawleyラットが研究に用いられた。6匹の動物は頚静脈にカニューレ挿入され、動物の残りは、何のさらなる調製もなく用いられた。
【0040】
投薬は2つの場合において行われた。一つの場合において、D-メチオニンは、150mg/kgかまたは300mg/kgのいずれかの用量での胃管栄養法(経口の(PO))により3匹のラットの2群に投与された。薬物は、本発明に従って懸濁液製剤に調製された。血液試料(約0.5mL/試料)が、投薬前、投薬から15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後および6時間後、抗凝血剤としてリチウムヘパリンを含むマイクロテナー(microtainer)チューブへ各動物から収集された。交換血液は、各採血後、各動物へ注入された。もう一つの場合において、D-メチオニンは、10匹のラットの2群へ、ボーラス静脈(IV)注射により1群、および150mg/kgでの胃管栄養法により1群、投与された。薬物は、溶液製剤に調製された。D-メチオニンは、リン酸緩衝食塩水に50mg/mlの濃度で溶解された。血液試料は、投薬前、投薬から2分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後および6時間後、眼窩洞を経由して各動物から収集された。各動物は、2回、血液を採取された。血液は、すぐに遠心分離され、チューブにおいて生じた血漿は、液体窒素中で急速凍結され、分析まで約-70℃で保存された。
【0041】
分析方法
ラット血漿試料におけるD-メチオニンは、マーフィー(Marfey's)試薬での誘導体化後、HPLC-UVアッセイにより分析された。L-メチオニンもまた、同じHPLC条件下で検出されうる。
【0042】
薬物動態学的分析
記述的な薬物動態学的パラメーターは、平均血漿濃度-時間データに基づいて、標準モデル独立方法(Gibaldi, M. and Perrier, D. Pharmacokinetics, 第2版, Marcel Dekker, Inc., New York, 1982)により測定された。血漿濃度は、計算の前に小数点以下1桁まで四捨五入された。定量化可能限界未満(BQL)の濃度をもつ血漿試料は、平均血漿濃度の計算としてゼロの値を割り当てられた。
【0043】
動物研究
研究は、何の面倒な事態もなく、試料採取スケジュールに従ってラットにおいて完了した。すべての動物は正常として観察され、研究中、死亡数は生じなかった。
【0044】
D-メチオニンの薬物動態
150mg/kgでのD-メチオニンの静脈内投与後、D-メチオニンの血漿濃度は、多指数関数的様式で急速に低下し、終末半減期は0.9時間であった(図1)。全身クリアランスは、0.557L/h/kgであり、定常状態における分布の容量は、0.50L/kgであった(下記表2)。
【0045】
D-メチオニンは、溶液製剤からの150mg/kgの経口投与後、迅速に吸収された。77.10μg/mLのC最大が、30分目の最初の収集時点において観察された。濃度プロフィールプロット下における濃度曲線下面積(AUC)は、61.3%の絶対生物学的利用能を表す165.06μg・h/mLであった。終末半減期は、1.1時間であった。類似した薬物動態学的パラメーターは、D-メチオニンが懸濁液製剤において同じ用量で与えられた場合に得られた。懸濁液製剤において300mg/kgまで用量を増加させることは、174.9μg/mLのC最大および359.2μg・h/mLのAUCを生じさせた。D-メチオニンの吸収は、用量と無関係であるように思われた。
【0046】
L-メチオニン
溶液製剤からのL-メチオニンの血漿濃度は、D-メチオニンの検量線を用いて計算された。平均血漿濃度-時間プロフィールは図2に描かれている。161.7μg/mLおよび47.2μg/mLのC最大ならびに326.0μg・h/mLおよび450.2μg・h/mLのAUCには、それぞれ、150mg/kg IVおよびPO用量から達せられた。半減期は、投与のそれぞれの経路について1.9時間および9.9時間であった(下記表3)。
【0047】
結論
D-メチオニンの薬物動態は、150mg/kgでの静脈内投与ならびに150mg/kgおよび300mg/kg用量での経口投与後、ラットで調べられた。静脈内投与後の全身クリアランス値(0.557L/h/kg)は、D-メチオニンが高い初回通過代謝に曝されないことを示唆している。経口投与後の61.3%の絶対的生物学的利用能は、D-メチオニンがラットにおいて十分、吸収されることを確認した。経口吸収は、用量に比例するように思われる。定常状態における分布の容量は、0.50L/kgであり、終末半減期は、約1時間である。L-メチオニンは、静脈内および経口経路の両方において、投与後、ラットで検出される。D-メチオニンの生物学的利用能は、懸濁液および溶液製剤の両方について類似していた。従って、開発された懸濁液製剤は、ヒトにおける様々な適応症の予防および処置のための薬理学的用量のグラム量を送達するのを助ける。
【0048】
(表2)D-メチオニン投与後の雄Sprague-DawleyラットにおけるD-メチオニンの平均血漿濃度(ng/mL)および薬物動態学的パラメーター

NS=試料なし
NA=該当なし
【0049】
(表3)D-メチオニン投与後の雄Sprague-DawleyラットにおけるL-メチオニンの平均血漿濃度(ng/mL)および薬物動態学的パラメーター

NS=試料なし
【0050】
本明細書に挙げられたすべての刊行物、特許および特許出願は、当業者の技術のレベルを示し、あたかも各個々の刊行物、特許または特許出願が、参照により組み入れられるように具体的にかつ個々に示されているかのようにと同じ程度で、参照により本明細書に組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】D-メチオニン投与後の雄Sprague-Dawleyラットにおける平均D-メチオニン血漿濃度を示す。
【図2】D-メチオニン投与後の雄Sprague-Dawleyラットにおける平均L-メチオニン血漿濃度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む薬学的懸濁液:
(a)D-メチオニン;
(b)懸濁剤;および
(c)溶媒。
【請求項2】
D-メチオニンが約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度で存在している、請求項1記載の薬学的懸濁液。
【請求項3】
D-メチオニンが約200mg/mlの濃度で存在している、請求項2記載の薬学的懸濁液。
【請求項4】
懸濁剤が、ポロキサマー、ポロキサミン、ポリソルベート、エトキシル化(ethoxylated)モノグリセリド、エトキシル化ジグリセリド、エトキシル化脂質、エトキシル化脂肪アルコール、およびエトキシル化脂肪酸からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的懸濁液。
【請求項5】
懸濁剤がポリソルベート80である、請求項4記載の薬学的懸濁液。
【請求項6】
保存剤をさらに含む、請求項1記載の薬学的懸濁液。
【請求項7】
保存剤がパラベンである、請求項6記載の薬学的懸濁液。
【請求項8】
パラベンがメチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンである、請求項7記載の薬学的懸濁液。
【請求項9】
濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料からなる群より選択されるもう一つの薬学的賦形剤をさらに含む、請求項1記載の薬学的懸濁液。
【請求項10】
以下を含む、経口投与のための薬学的懸濁液:
(a)約200mg/mlの濃度におけるD-メチオニン;
(b)約1mg/mlの濃度におけるメチルパラベン;
(c)約0.1mg/mlの濃度におけるプロピルパラベン;
(d)約1.2mg/mlの濃度におけるキサンタンガム;
(e)約1mg/mlの濃度におけるポリソルベート80;および
(f)約50mg/mlの濃度におけるソルビトール;ならびに
(g)水。
【請求項11】
甘味剤および/または着香料をさらに含む、請求項10記載の薬学的懸濁液。
【請求項12】
以下の段階を含む、薬学的懸濁液を作製するための方法:
(a)約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度におけるD-メチオニンを与えるように、D-メチオニンを懸濁剤および溶媒と混合する段階。
【請求項13】
保存剤、濃化剤、湿潤剤、甘味剤および着香料からなる群より選択される1つまたは複数の賦形剤を添加する段階をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
必要としている患者において、口腔粘膜炎および/または聴力損失を予防する、処置する、または寛解させるための方法であって、請求項1記載の薬学的懸濁液の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項15】
D-メチオニンが懸濁液において約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
D-メチオニンが懸濁液において約200mg/mlの濃度である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
懸濁液が経口で投与される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
懸濁液が1日1回、投与される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
懸濁液が1日に1回より多く投与される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
懸濁液が、放射線処置または化学療法処置の間および/または後に投与される、請求項14記載の方法。
【請求項21】
必要としている患者において、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、変性運動失調症(degenerative ataxias)、多系統萎縮症、全体的もしくは局所的虚血、脳出血、脳卒中、発作、てんかん、髄膜炎、脳炎、多発性硬化症、脳腫瘍、または機械力傷害によるニューロン損傷を予防する、処置する、または寛解させるための方法であって、請求項1記載の薬学的懸濁液の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項22】
D-メチオニンが懸濁液において約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
D-メチオニンが懸濁液において約200mg/mlの濃度である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
懸濁液が経口で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項25】
懸濁液が1日1回、投与される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
懸濁液が1日に1回より多く投与される、請求項21記載の方法。
【請求項27】
必要としている患者において、アントラサイクリン毒性を予防する、処置する、または寛解させるための方法であって、請求項1記載の薬学的懸濁液の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項28】
D-メチオニンが懸濁液において約20mg/ml〜約2000mg/mlの濃度である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
D-メチオニンが懸濁液において約200mg/mlの濃度である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
懸濁液が経口で投与される、請求項27記載の方法。
【請求項31】
懸濁液が1日1回、投与される、請求項27記載の方法。
【請求項32】
懸濁液が1日に1回より多く投与される、請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−513455(P2008−513455A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532390(P2007−532390)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/032399
【国際公開番号】WO2006/031720
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507082552)モレキュラー セラピューティクス インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】