説明

改良された高表面積繊維及びそれから製造されるテキスタイル

本発明は、高表面積繊維及びそれから製造されるテキスタイルに向けられる。一つの好適な態様において、繊維は複数の溝ないし流路を規定する複数の突起を持つ中間領域を有するが、これによって繊維の表面積が増大する。一つの好適な態様において、該繊維は約140,000cm/g以上の比表面積と約1.0〜約2.0のデニールを有する。本発明の繊維は、熱可塑性ポリマーと溶解性の鞘を用い、二成分押出法を用いて製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、高表面積繊維及びそれから製造されるテキスタイルに関する。さらに、本発明は、二成分繊維押出法から製造される高表面積繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
液体又は粒子を吸収及びろ過できる繊維は当該技術分野で知られている。繊維表面は、液体又は粒子を保持するそれらの能力を増強するために化学的又は物理的に処理されることが多い。例えば、繊維の表面積を増大するために、表面を粗くして溝ないし流路を作り出す。当該技術分野で公知のいくつかの吸収性繊維は、流体の流れに影響を及ぼす疎水性又は親水性の化学薬品で処理されている。
【0003】
吸収用に使用される一つのそのような繊維は、Eastman Chemical Companyによって開発及び市販されている4DG繊維である。図1を参照すると、4DG繊維の断面図が描かれている。これは表面キャピラリー繊維としても知られている。図1の先行技術の繊維は、脊椎部の一つの側から突出する、一組の少なくとも3本のアーム(第一の組の複数の溝を画定する)と、脊椎部の第二の側から突出する第二の組の少なくとも3本のアーム(第二の組の複数の溝を画定する)を開示している。先行技術繊維のアームと溝は、繊維の長さ方向に沿って流体を毛管現象によって輸送するのに十分深く狭い溝が創製されるように不規則な形状を有している。さらに、図1の先行技術繊維は大きいデニールを有しており、ナノ繊維が必要とされるようなある種の用途ではその使用が制限される。
【0004】
4DG繊維は、特異的な断面形状を有する繊維を提供することによって溝の深さを増大しようとしている。しかしながら、4DG繊維及び類似の形状を有するその他の繊維にはいつかの不利益がある。多くのそのような繊維は約50〜60ミクロン未満の直径の繊維に紡ぐことができないため、それらの潜在的用途が制限される。4DG繊維で達成可能な最小デニールは約3である。さらに、繊維のアーム間の溝が大きいために、紡糸工程中にアームが破損することが多い。このような繊維は限定的な数のアーム及び溝しか持たないため表面積対体積比が比較的低く、吸収できる流体の量が制限される。最後に、4DG繊維のサイズ及び形状のために、ファブリック形成時にアームが絡み合い易く、高密度及び圧縮された材料になりがちである。このため、そのろ過及び吸収特性が減退する。
【0005】
これまで表面の毛管特性を促進するために表面に深い溝ないし流路を有する特殊な繊維を創製しようとする多数の試みがあった。そのような繊維は多数のレッグ(leg)、典型的には8本のレッグを利用して表面に深い溝ないし流路を形成している。これらの繊維の表面は、流体の流れをより容易に確保及び促進し、ひいては流体の移動に役立つ適当な処理法で処理することができる。これらの繊維の多くは高度のバルク密度を有しているので絶縁用途に適切である。アームは粒子を捕捉及び捕獲できるので、ろ過用途又は表面活性化のための表面処理にも有用である。
【0006】
表面溝を有する繊維は、特殊な紡糸口金を用いて単一成分繊維として製造される。繊維は押出及び溶融され、溶融ポリマーが紡糸ビーム及び紡糸口金キャピラリーを通して送り出されて所望の形状に形成される。次に繊維は紡糸口金から排出されると急冷され、その後延伸されてより強く繊細な繊維になる。しかしながら、該繊維の深い溝又はアームのために、この繊維は業界で好まれ使用される通常の繊維サイズに製造することができない。現在使用されている大部分の繊維はフィラメントあたり1〜3デニールであるが、上記のような増大した表面積を有する繊維の大部分は現在、通常6デニール以上で入手可能である。6以上のデニールを有する繊維は極度に粗く、加工が困難で、それらの使用は限定される。
【0007】
従来の単一成分丸繊維は当該技術分野で一般に使用されている。単一成分丸繊維の断面デザインは典型的には円形である。単一成分丸繊維に関する一つの問題は、繊維の表面積を増大させるには断面積も増大させることになるので、大きいデニールの繊維が得られることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
増大した表面積、すなわち当該技術分野で公知の典型的な繊維の表面積の少なくとも2〜3倍の表面積と、表面毛管特性を促進するために表面に深い溝ないし流路とを有しながら、業界で使用されるような通常の繊維サイズを維持した繊維が求められている。本発明は、増大した表面積と多数の表面溝ないし流路とを有しながら小さいデニールサイズを維持した繊維を開示する。
【0009】
本発明は、上記問題及びその他の問題を解決し、従来のこの種の繊維ではもたらされなかった利点及び側面を提供するために提供される。本発明の特徴及び利点の十分な解説は以下の詳細な説明に委ねる(添付の図面を参照しながら進める)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の側面は改良された高表面積繊維を提供することである。該繊維は、中間領域を有する断面を持つ内部繊維を有する。該中間領域は、中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有する。この複数の突起は複数の溝ないし流路を規定する。該繊維は溶解性の外鞘も有する。外鞘は内部繊維を包囲している。
【0011】
本発明の第二の側面は改良された高表面積繊維を提供することである。該繊維は内部繊維を有し、その内部繊維は熱可塑性ポリマーである。該内部繊維は縦軸を有する断面を持ち、該縦軸は縦軸から延びる複数の突起を有する。縦軸の周囲に沿って、複数の突起は複数の溝ないし流路を規定する。該溝ないし流路は、約200ナノメートル〜約1000ナノメートルの幅を有する。外鞘は溶解性ポリマーである。外鞘は内部繊維を包囲している。内部繊維は、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面長及び約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面幅を有する。内部繊維の断面は、約100,000cm/g〜約1,000,000cm/gの表面積を有する。
【0012】
本発明はさらに、改良された高表面積繊維の製造法にも向けられる。該方法において、ステップは、内部繊維と外鞘を少なくとも一つのプレートを通して同時押出することを含む。内部繊維は熱可塑性ポリマーで、外鞘は溶解性ポリマーである。内部繊維は中間領域を有する断面を持つ。中間領域は、中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有する。この複数の突起は複数の溝ないし流路を規定する。同時押出後、内部繊維及び外鞘は溶融紡糸されて二成分繊維を形成する。外鞘は溶媒で除去されて高表面積繊維が得られる。
【0013】
本発明の特許請求された製造法の一側面において、テキスタイル製品は外鞘を除去する前に形成される。
特許請求された発明の別の側面において、改良された高表面積繊維が提供される。該繊維は、中間領域、複数の突起、及び複数の溝ないし流路を有する断面を持つ。複数の突起は、中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる。複数の突起は複数の溝ないし流路を規定する。複数の溝ないし流路は均一間隔で配置されている。
【0014】
本発明の別の側面において、テキスタイル製品が提供される。該テキスタイル製品は繊維材を有する。該繊維材は二成分繊維を有し、該二成分繊維は内部繊維と溶解性の鞘を有する。
【0015】
本発明のさらに別の側面において、テキスタイル製品が提供される。該テキスタイル製品は繊維材を有する。該繊維材は繊維を有し、該繊維は中間領域を有する断面を持つ。中間領域は、中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有する。この複数の突起は均一間隔で配置された複数の溝ないし流路を規定する。
【0016】
このように、本発明は、二成分押出法から製造された、織布及び不織布用の高表面積繊維を提供する。
本発明のこれら及びその他の側面は、特許請求の範囲に記載された発明を裏付ける図面を検討しながら以下の好適な態様の説明を読むと、当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は先行技術繊維の断面斜視図を示す。
【図2】図2は本発明の一態様による外鞘を有する繊維の断面図を示す。
【図3】図3は本発明の一態様による単一繊維の断面図を示す。
【図4】図4は本発明の一態様による外鞘を持たない繊維の断面図を示す。
【図5】図5は本発明の一態様による円形の形状を有する繊維の断面図を示す。
【図6】図6は本発明の一態様による不織布の断面図を示す。
【図7】図7は先行技術の不織布の断面図を示す。
【図8】図8は、丸繊維、4DG繊維、及び本発明の繊維のフィラメントあたりのデニール対比表面積を比較するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
下記の説明において、いくつかの図面全体を通じて同種の参照文字は同種又は対応する部品を示す。同じく下記の説明において、当然のことながら、“前方”、“後方”、“前”、“後”、“右”、“左”、“上方へ”、“下方へ”などの用語は便宜的用語であって、制限的用語とみなされるべきではない。以下、図面全般を参照するが、図は本発明の好適な態様を説明するためのものであって、本発明をそれに限定することを意図したものではない。
【0019】
図面を参照すると、図2〜4は、一般的に参照番号10で示されている本発明の繊維の断面を開示している。図2に示されているように、繊維10は、一般的に内部繊維12と外鞘14を含む。繊維10は一般的に、高加工性を可能にする楕円形の断面に押出できる二つの異なるポリマー組成物から構築される。あるいは、断面は円形又は所望のその他の形状でもよい。本発明の繊維10を製造する押出プロセス及び方法は以下にさらに詳細に説明する。
【0020】
さらに図2〜4に示されているように、内部繊維12の断面は一般的に翼状部のある形状又はアメーバ様形状を有する。内部繊維12は中間領域16を有する。これは内部繊維12の中心に延びる縦軸17である。縦軸17は、縦軸17から延びる複数の突起18を有する(図2〜4に描かれている)。好適な態様において、複数の突起は縦軸17の周囲に沿って延びている。代替の断面形状、例えば、これに限定されないが、円形などの形状も、ハブとして形成される中間領域16を有することになろう(突起はハブから延びている)。一態様において、複数の突起は均一間隔で配置されている。複数の突起18は、単一繊維の表面積及び表面キャピラリーを増大する。好適な態様において、複数の突起18は図4に示すように複数の溝ないし流路20を規定する。一態様において、複数の溝ないし流路20は均一間隔で配置されている。溝ないし流路20は繊維10の長さ方向に沿って、繊維10内の液体の吸収を促進する表面キャピラリー部分を作り出している。さらに、溝ないし流路20は、残屑及びゴミのような粒子を捕獲して繊維10内に保持することも可能にする。従って、本発明の繊維は、図3に示すように、繊維の長さ方向に沿って延びる複数の縦キャピラリー溝ないし流路21を有する。本発明はまた、複数の突起18のために内部繊維12の断面表面積も劇的に増大している。内部繊維12によって作り出された増大した表面積は、繊維10の製造時に使用されるセグメントの数に依存する。これについては以下に詳細に説明する。
【0021】
好ましくは、溝ないし流路20は約200ナノメートルの幅を有するナノサイズである。あるいは、溝ないし流路20は200ナノメートル〜1000ナノメートルのこともあり得る。溝ないし流路20の幅は異なる用途に適合するように調整できる。本発明のナノサイズ溝ないし流路は、繊維10をマイクロろ過又はマイクロ吸収が必要な用途に使用することを可能にする。例えば、ある種のろ過機構は約300ナノメートルの溝ないし流路サイズを必要とする。各繊維の溝ないし流路サイズは調整できるので、本発明は異なる溝ないし流路サイズを持つ繊維を有するテキスタイルファブリックを創製するのに使用できる。例えば、フィルターのようなテキスタイルファブリックは200ナノメートルの溝ないし流路及び500ナノメートルの溝ないし流路を有する繊維束を含みうる。一態様において、溝ないし流路が約200ナノメートルの幅を有する場合、中間部16から延びる突起18は約32個ある。
【0022】
本発明の好適な態様において、内部繊維12は当該技術分野で公知の熱可塑性ポリマーである。様々な熱可塑性ポリマーが使用できる。例えばポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、熱可塑性ウレタン(TPU)、コポリエステル、又は液晶ポリマーなどであるが、これらに限定されない。
【0023】
好適な態様において、繊維の断面は高度に柔軟で、固体(充実)内部を有する。あるいは、一態様において、内部、又は内部繊維の中間領域部分は空隙である。中心の空隙は流体の流れのための追加の溝ないし流路を形成する。図5は、内部繊維12の中間領域16を欠いた本発明の繊維の断面を示す。
【0024】
あるいは、別の態様において、内部繊維12の中間領域16は、押出プロセス中に円形の形状に形成することもできる。この空隙のおかげで内部繊維12はより剛性を持ち、中心部の空隙のためにより曲げ抵抗性を有するようにもなる。さらに、中心の空隙は流体の流れのための追加の溝ないし流路を形成する。空隙を有する円形断面の繊維はその全体が撓みにくい。
【0025】
図2は、外鞘14を有する繊維10の断面図を示す。好適な態様において、外鞘14は溶解性の熱可塑性樹脂、例えばポリラクチド(PLA)、コポリエステル(PETG)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はエチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH)などであるが、これらに限定されない。当該技術分野で公知の様々な溶解性熱可塑性樹脂が、本発明に関連して外鞘14として使用できると考えられる。好適な態様において、外鞘14は図2に示すように内部繊維12を包囲している。
【0026】
本発明の一側面は、繊維のデニールを1〜3に維持しながら繊維の表面積を増大することである。好適な態様において、繊維のデニールは約1.0〜約2.0である。しかしながら、代替において、繊維のデニールは約1.0〜約20.0の範囲であってもよい。
【0027】
デニールは糸の繊度を測定するのに使用される単位で、9,000メートルの糸のグラムで表した質量に等しい。本発明の好適な態様において、1デニール繊維の比表面積は約28,000及び約200,000cm/gである。繊維のcm/gの単位で表された比表面積は、以下の等式によって求められる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、
α=形状係数=P/4πA
ここで、
L=長さ、K 9×10cm
ρ=密度、K 1.38g/cm
デニール=線密度
P=周囲長
A=断面積
本発明の好適な態様の比表面積は、当該技術分野で公知の典型的な4DG繊維より約57〜60倍大きい。図8に示されているように、本発明の繊維の比表面積は、同じデニールを有する従来の丸繊維又は典型的な4DG繊維より著しく大きい。例えば、3デニールの丸繊維は1653cm/gの比表面積を有する。3デニールの4DG繊維は4900cm/gの比表面積を有する。これに対し、3デニールの本発明の繊維は約80,000cm/gを超える比表面積を有する。本発明の一態様において、内部繊維の断面は約140,000cm/g以上の比表面積を有する。本発明は、多数の突起及び多数の溝ないし流路という独特の形状のために大きい比表面積を達成している。本発明の好適な態様は約1.0〜約2.0の繊維デニールを有するが、4DG繊維は3未満のデニールのものを製造できないので上記の比較を選択した。
【0030】
好適な態様において、内部繊維12は約20マイクロメートルの断面長及び約10マイクロメートルの断面幅を有するが、これによって約1.5デニールの繊維がもたらされる。デニールは繊維の線密度のことで、9,000メートルの繊維のグラムで表された重量である。別の態様において、内部繊維12は約10マイクロメートルの断面長及び約10マイクロメートルの幅を有する。本発明の内部繊維12は約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面長及び約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面幅を有する。あるいは、本発明の別の態様において、繊維は3以上のデニールを有しうるが、そうすると著しく大きい表面積を有する大きい繊維が提供されることになろう。
【0031】
本発明の繊維の製造法は当該技術分野で公知の押出技術を使用する。典型的には、二成分繊維は、同時押出、又は同じフィラメントもしくは繊維に含有される二つのポリマーを用いて両ポリマーを同じ紡糸口金から押し出すことによって形成される。押出プロセスでは、濃厚で粘稠なポリマーを紡糸口金を通して押し出し、半固体繊維を形成する。本発明の好適な態様では、押出システムは、二つのポリマーを適切に方向付け及びチャネリングし、より均一な形状にすることによって記載のような繊維を形成する。プレート上の孔の数は繊維に存在するセグメントの数に対応する。次にこれらのフィラメントは固化される。本発明の好適な態様は溶融紡糸を用いて繊維を形成するが、当該技術分野で公知のその他の方法を用いてもよい。例えば、二つのポリマーを注意深く選択し、押出プロセスを制御することにより、セグメント化パイ押出システム(segmented pie extrusion system)を用いて、縦軸から延びる突起を有する繊維を形成することもできる。
【0032】
好適な態様の製造法は、熱可塑性ポリマー(内部繊維)と溶解性熱可塑性ポリマー(外鞘)を含む二成分繊維を押し出すことによって開始される。二成分繊維は、任意の数の所望の孔と断面形状を有する紡糸口金を通して押し出される。好適な態様において、紡糸口金の断面は高加工性のために楕円形であるが、代替的に円形断面又はその他の所望形状も使用できる。
【0033】
あるいは、繊維の最終断面形状、すなわち上記の翼状部のある形状は、押出プロセスから形成されるセグメントの数によって決定される。セグメントはパイ片に似ており、“セグメント化パイ(segmented-pie)”二成分繊維と呼ばれる。先行技術の典型的な繊維は16のセグメントから形成されるが、本発明の高表面積断面を達成するためには、繊維は少なくとも4つのセグメントを持たねばならない。
【0034】
本発明の一態様において、押し出された二成分繊維は少なくとも4つのセグメントを有する。あるいは、本発明の別の態様において、内部繊維の翼状部のある形状断面は、64のセグメントを有する二成分繊維から形成されているため、極めて高い表面積が得られる。図2〜4に示されているキャタピラー様形状は、64にセグメント化されたパイ押出によって生じた思いがけない結果であった。24を超えるセグメントを有する二成分繊維を形成するのは困難で、先行技術の繊維は、それらが持ちうるセグメントの数が限定されている。
【0035】
セグメントの形状及びサイズを制御する一つの方法は、押出プロセス中に二成分繊維の温度、粘度、又は圧力を変えることによる。溶融紡糸は、繊維を紡糸口金から異なる断面形状、例えば円形、三葉形、五角形、八角形、及びその他の形状に押し出すことができる。本発明の一態様の二成分セグメントは、64までのいずれかの数のパイセグメントを有するセグメント化パイに似ている。好適な態様において、セグメントは内部繊維と溶解性外鞘との間で交互になっている。外鞘が洗浄除去されると、残りのセグメントが吸収及びろ過の基礎を形成する複数の突起を規定するので、セグメントが交互になることは重要である。突起の数は生じる全表面積に正比例する。このようにして精密かつ所定の表面を有する繊維を形成することができる。
【0036】
好適な態様において、二成分繊維の押出及び溶融紡糸後、二成分繊維はテキスタイル製品に形成することができる。あるいは、テキスタイル製品は、二成分繊維からできた繊維材を含む。二成分繊維は一緒に結合させてフィルターのような不織布にすることができる。あるいは、二成分繊維は衣服のような織物にすることもできる。本発明の一つの利点は、外鞘をテキスタイル材の製造後まで除去する必要のないことである。このことは、繊維の取扱い性を向上させ、製造に伴うコストも削減する。図6は本発明の不織布を示すが、翼状部のある繊維が如何に一緒に集合しているかを示している。図6に示されているように、繊維はぎっしり詰め込まれているが、繊維の形状及び溝ないし流路のサイズのために、互いに隣接して配置されても絡み合うことなく束を形成できている。その上、テキスタイルファブリックは外鞘がまだ残っているときに製造できるため、この鞘がさらに繊維の相互絡み合いを防止している。図7は、繊維が絡み合っている先行技術のファブリックを示す。本発明の繊維は先行技術で公知の他の繊維のように絡み合わないので、本発明の溝ないし流路の有効性は損なわれておらず、吸収又はろ過に利用できる状態である。外側成分は最終製品の形成後に除去できる。従って、本発明の繊維及びそれらの突起は絡み合うことはない。
【0037】
テキスタイル製品が形成されたら、ファブリックは溶媒、例えば、これらに限定されないが、NaOH、酸、又はExcevalのような水分散性ポリマーの場合、水を使用して洗浄し、可溶性外鞘を除去する。あるいは、所望であれば、二成分繊維はテキスタイル製品の形成前に洗浄することもできる。
【0038】
本発明の不織布を形成するには、繊維をいくつかの異なる技術、例えば熱的、化学的、又は機械的接着を用いて接着すればよい。一態様において、不織布は水流絡合を用いて形成される。これは、流体力学的な力を用いて繊維を絡ませ接着するのに使用されるメカニズムである。あるいは、不織布は、スパンボンド又は梳毛(carded)ウェブの繊維を機械的に配向し絡み合わせるニードルパンチによって製造することもできる。ニードルパンチは、多数の棘付きフェルト針をウェブに繰り返し出し入れすることによって達成される。ニードルパンチ及び水流絡合は密集構造を形成するので、外鞘が除去されると、翼状部は所定の位置で解放されて高透過性の構造を形成する。ファブリックの最終用途によってどの接着技術を使用すべきかが決まる。例えば、不織布を大粒子のろ過に使用する場合、その不織布はランダムに絡み合った繊維であるが織物ではないスパンボンド繊維を用いて製造すればよい。不織布が小粒子のろ過用に必要な場合、その不織布はメルトブローン繊維から製造すればよい。これは高速気流又は別の適当な力を利用して繊維を一緒に結合している。あるいは、フィラメントを押し出し、該フィラメントを巻縮し、切断してステープル繊維(短繊維)にして、それからウェブを形成し、次いで上記の一つ又は複数の方法によって接着して不織布を形成することもできる。同じステープル又はフラメント繊維を用いて、織物構造、編物構造又は編組構造を形成することもできる。
【0039】
本発明の別の態様において、二成分繊維を紡糸し、繊維の長さを短いセグメントに切断してベール(俵、bale)にすることによってステープル不織布を製造することもできる。次に、該ベールを湿式堆積法又は梳毛(カーディング)によって広げて均一なウェブにし、その後、当該技術分野で公知の熱−機械的手段によって接着する。
【0040】
本発明の繊維は、衣服などに使用する従来の織物の製造にも使用できる。本発明の繊維は強いので、従来の編物及び編組技術にも繊維の完全性を損なうことなく使用できる。
当該技術分野では多数の繊維が知られているが、本発明は、織布及び不織布両方の用途に使用できるデニール数の小さい高表面積繊維を開示している。本発明の繊維は、当該技術分野で公知の従来の繊維よりも高い断熱能を有し、改良されたろ材を形成する。さらに、本発明の繊維は、より強く、より柔軟で、より通気性が高い。前述のように、翼状部のある形状の繊維は圧縮に対する回復力があるので、溝ないし流路が塞がれず、吸収能だけでなくより大きい毛管/吸上げ能も有する。さらに、これらの繊維はナノサイズの粒子を捕獲する能力も有する。本発明の繊維は丈夫で剪断抵抗性を有しているので、該繊維は高圧に耐えられ、液体ろ過のほか、高圧を必要とする注文の多いエアロゾルろ過用途にも使用できる。従って、本発明は、織物の又は織物でないファブリック又は繊維から製造された高効率低圧力降下フィルターを提供する。
【0041】
本発明の用途はたくさんある。一例として、本発明は、吸湿着(wicking garment)、断熱着、くつろぎ着(comfort garment)、スポーツウェア、キャンピングウェアなどのような従来の織物用途に使用できる。別の例として、本発明は、室内清浄用の液体又は空気をろ過するためのろ材製造用の不織布に使用できる。さらに別の例として、本発明は、従来の丸繊維と共に使用して多層繊維を得ることもできる(紡糸口金を用いて組み合わせるか又は製造工程後に組み合わせればよい)。本発明の繊維を従来の丸繊維と組み合わせるか挟み込むことによって、多数の物理的性質を有し、費用効果的でもある単一製品を得ることが可能になる。
【0042】
本発明は改良された拭き取り(ワイプ)材料にも使用できる。典型的な用途では、拭き取り材は赤ちゃん用おしり拭きのように事前に液体を含んでいる。しかしながら、本発明は、ゴミや塵の粒子を後に何らの粒子も残さずに捕らえる拭き取り製品を創製する能力を可能にする。なぜならば、繊維の溝ないし流路内の液体がそこに残っていて、まだ溶解作用があり、清掃プロセスを補助するからである。さらに、本発明は、衛生及び音響材料、断熱、ジオテキスタイル材料、建設材料、並びにシートクッション及びマットレスのような圧縮性能材料にも使用できる。
【0043】
上記の説明を読めば当業者には何らかの変更及び改良が思い浮かぶであろう。上記の例は本発明の側面を明確にする目的を果たすために提供されたものであって、それらが本発明の範囲を制限する役割を果たすためのものでないことは当業者には明らかであろう。すべての変更及び改良は、ここでは簡潔さ及び読みやすさのために割愛されているが、以下の特許請求の範囲の中に適正に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10 高表面積繊維
12 内部繊維
14 外鞘
16 中間領域
17 縦軸
18 突起
20 溝ないし流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高表面積繊維であって、該繊維は、
内部繊維(前記内部繊維は中間領域を含む断面を有し、前記中間領域は中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有し、前記複数の突起は複数の溝ないし流路を規定している)と;
外鞘(前記外鞘は溶解性である)とを含み;
前記外鞘は前記内部繊維を包囲している高表面積繊維。
【請求項2】
内部繊維が熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
複数の溝ないし流路が均一間隔で配置されている、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
複数の突起が翼状部のある形状の構造を定義している、請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
複数の溝ないし流路が、約200ナノメートル〜約1000ナノメートルの溝ないし流路幅を有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
内部繊維の断面が、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面長を有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項7】
内部繊維の断面が、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面幅を有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項8】
デニールが約1.0〜20.0である、請求項1に記載の繊維。
【請求項9】
内部繊維の断面が、約140,000cm/g以上の比表面積を有する、請求項8に記載の繊維。
【請求項10】
中間領域が中心に空隙を有する円形の構造を形成する、請求項1に記載の繊維。
【請求項11】
溶解性外鞘が、ポリラクチド(PLA)、コポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)又はエチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH)を含む、請求項1に記載の繊維。
【請求項12】
中間領域がハブである、請求項1に記載の繊維。
【請求項13】
中間領域が縦軸である、請求項1に記載の繊維。
【請求項14】
高表面積繊維であって、該繊維は、
内部繊維(前記内部繊維は熱可塑性ポリマーであり、前記内部繊維は縦軸を含む断面を有し、前記縦軸は縦軸から縦軸の周囲に沿って延びる複数の突起を有し、前記複数の突起は複数の溝ないし流路を規定し、前記複数の溝ないし流路は約200ナノメートル〜約1000ナノメートルの幅を有する)と;
外鞘(前記外鞘は溶解性ポリマーであり、前記外鞘は前記内部繊維を包囲している)とを含み;
前記内部繊維は、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面長と約1マイクロメートル〜約100マイクロメートルの断面幅を有し;そして
前記内部繊維の断面は約100,000cm/g〜約1,000,000cm/gの表面積を有する高表面積繊維。
【請求項15】
高表面積繊維の製造法であって、該方法は、
内部繊維と外鞘を少なくとも一つのプレートを通して同時押出するステップ(前記内部繊維は熱可塑性ポリマーであり、前記外鞘は溶解性ポリマーであり、前記内部繊維は中間領域を含む断面を有し、前記中間領域は中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有し、前記複数の突起は複数の溝ないし流路を規定している)と;
前記内部繊維と前記外鞘を溶融紡糸して二成分繊維を形成するステップと;そして
前記外鞘を前記二成分繊維から溶媒を用いて除去して高表面積繊維を得るステップとを含む方法。
【請求項16】
二成分繊維が少なくとも4つのセグメントを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
溶融紡糸ステップが内部繊維と外鞘を交互にする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
外鞘を除去する前にテキスタイル製品を形成するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
高表面積繊維を結合して不織布を形成するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
高表面積繊維を結合して不織布を形成するステップが、熱的、化学的、又は機械的手段、又はそれらの組合せを用いて結合することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
高表面積繊維を結合して織布を形成することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
高表面積繊維であって、該繊維の断面は、
中間領域と;
複数の突起と;
複数の溝ないし流路とを含み;
前記複数の突起は前記中間領域から中間領域の周囲に沿って延び;
前記複数の突起は複数の溝ないし流路を規定し、そして前記複数の溝ないし流路は均一間隔で配置されている高表面積繊維。
【請求項23】
繊維材を含むテキスタイル製品であって、
前記繊維材は二成分繊維を含み、前記二成分繊維は内部繊維と溶解性の鞘を含むテキスタイル製品。
【請求項24】
繊維材が不織布のろ材である、請求項23に記載のテキスタイル製品。
【請求項25】
繊維材が織布である、請求項23に記載のテキスタイル製品。
【請求項26】
繊維材を含むテキスタイル製品であって、
前記繊維材は繊維を含み、前記繊維は中間領域を含む断面を有し、前記中間領域は中間領域から中間領域の周囲に沿って延びる複数の突起を有し、前記複数の突起は均一間隔で配置された複数の溝ないし流路を規定しているテキスタイル製品。
【請求項27】
繊維材が不織布のろ材である、請求項26に記載のテキスタイル製品。
【請求項28】
繊維材が織布である、請求項26に記載のテキスタイル製品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−509517(P2010−509517A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536254(P2009−536254)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/023164
【国際公開番号】WO2008/057431
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(509127675)アラッソ・インダストリーズ・インコーポレーテッド (2)
【出願人】(509128465)ノース・カロライナ・ステート・ユニバーシティ (2)
【出願人】(309035969)
【出願人】(309035970)
【Fターム(参考)】