説明

改良されたNOGO−A結合分子およびその医薬的使用

本発明は、ヒトNogoAポリペプチドまたはヒトNiGと、解離定数<1000nMで結合し得る結合分子、このような結合分子をコードするポリヌクレオチド;該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;結合分子を産生し得るポリヌクレオチドを含む発現系;上記で定義した発現系を含む単離された宿主細胞;特に末梢神経性(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置における医薬としてのこのような結合分子の使用;該結合分子を含む医薬組成物;および末梢神経性(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモノクローナル抗体、それらの誘導体またはFabフラグメントなどのNogoA結合分子に関する。
【背景技術】
【0002】
成人の中枢神経系(CNS)の損傷後の神経の再生は、軸索を覆う阻害的ミエリン環境の存在および瘢痕組織の形成のために限定されている。ここ数年で、なぜCNSが損傷後にそれ自体を自然修復できないかの分子的理解に重要な洞察が得られた。ミエリン中の阻害分子は、特に損傷直後の軸索再生の主要な妨害物である。今までに、NogoA、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)およびミエリン−オリゴデンドロサイト糖タンパク質(OMgp)が、神経突起伸長の強力な阻害剤として同定された。加えて、ミエリンは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン類などの他の阻害成分も含有する。Nogo−Aは、レチキュロン(reticulon)タンパク質ファミリーのメンバーであり、アミノ−NogoおよびNogo−66と呼ばれる少なくとも2つの生物学的に活性かつ薬理学的に異なるドメインを有する。前者の受容体部位は今までに知られていないが、Nogo−66は、インビトロおよびインビボで神経受容体NgRを介して神経成長を阻害する。Nogo−66に加え、MAGおよびOMgpも、高い親和性でNgRに結合し、神経突起伸長を阻害する。
【0003】
神経修復の増強のために現在採られている新しい研究アプローチには、酵素コンドロイチナーゼABCを用いた瘢痕組織の消化、嗅神経鞘細胞および幹細胞を用いた架橋技術、および神経成長を増進するためのタンパク質成長因子が含まれる。神経突起伸長阻害剤の遮断作用は、膜結合グアノシントリホスファターゼ(GTPase)であるRhoなどの細胞内シグナル伝達メディエーターの調節によって達成することができるが、これは軸索成長の阻害において重要な結びつきであると思われる。環状アデノシン一リン酸(cAMP)は、インビトロでミエリン関連の阻害を克服することができ、インビボで再生を誘導することができる。NgR受容体のペプチド阻害剤(NEP1−40)は、脊髄損傷後のラットにおいて神経の再成長および機能的回復を誘導するために使用可能である。
【0004】
上記のアプローチの使用に加えて、中枢神経系および末梢神経系の神経突起成長阻害分子を中和するため、特にNogoAの神経突起成長阻害活性を中和するための、ある種のモノクローナル抗体の使用も多大な注目を集めてきた。このようにして、モノクローナル抗体IN−1またはそのIN−1 Fabフラグメントが、インビトロで神経突起伸長を誘導し、インビボで発芽および再生を増強することが示された(Schwab ME et al. (1996) Physiol. Rev. 76, 319-370)。IN−1に対する別の抗体もまたWO2004/052932(11C7−Ab)およびWO2005/028508(3A6−Ab)に記載されている。NogoAの異なるドメインを神経突起成長阻害活性について試験することにより、分子中のいくつかの阻害ドメインが描写されている(Chen et al. (2000) Nature 403, 434-439; GrandPre et al. (2000) Nature 403, 439-444; Prinjha et al. (2000) Nature 403, 383-384)。
【0005】
天然の免疫グロブリンまたは抗体は一般に、抗原結合部位を各上腕の末端に有するY型の多量体分子を含む。構造の残りの部分、特にYの幹状部分は、その免疫グロブリンに関連するエフェクター機能を媒介する。抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖からなる。重鎖と軽鎖の双方が可変ドメインおよび定常部分を含む。抗原結合部位は、重鎖の可変ドメインと軽鎖の可変ドメインが会合したものからなる。重鎖および軽鎖の可変ドメインは同じ一般構造を有する。より具体的には、抗体の抗原結合特性は、重鎖および軽鎖の可変ドメイン中の3個の特異的領域によって本質的に決定され、これらは超可変領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。これら3個の超可変領域は、配列が比較的保存されていて直接結合に関与しない4個のフレームワーク領域(FR)と交互になっている。CDRはループを形成し、主としてβシートコンフォメーションをとるフレームワーク領域によって近接して保持される。重鎖のCDRは、会合した軽鎖のCDRと一緒に、抗体分子の抗原結合部位を本質的に構成する。何がFRまたはCDR領域を構成するかに関する決定は、通常、同じ種で産生される数々の抗体のアミノ酸配列を比較することにより成される。CDRおよびFR領域を同定するための一般的な法則は当業者の一般知識であり、例えばウェブサイト(www.bioinf.org.uk/abs/)で見出すことができる。
【0006】
一般に、成人の中枢神経系(CNS)において損傷後の神経組織の再生を誘導する新規かつ改良された方法の明らかな必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インビトロおよびインビボ試験でNogoA活性の調節に優れた特性を有し、かつ、成人の中枢神経系(CNS)の損傷後に神経再生に対してプラスの影響を有する新規なモノクローナルヒト抗体を対象とする。よって、本発明は、NogoAタンパク質またはそのフラグメントに対する新規な結合分子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、一実施形態において、本発明は、ヒトNogoAポリペプチド(配列番号2)またはヒトNiG(配列番号3)と特異的に結合する少なくとも1個の抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が、
・順序通りに超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)のそれぞれと少なくとも90%同一である);ならびに
・順序通りに超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)のそれぞれと少なくとも90%同一である)
を含む単離された分子を提供する。
【0009】
さらなる実施形態において、前記の本発明の単離された分子の抗原結合部位は、
・順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10);ならびに
・順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)
を含む。
【0010】
さらに別の実施形態において、本発明は、
・(i)順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン重鎖またはそのフラグメント;ならびに
・(i)順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン軽鎖またはそのフラグメント
を含む結合分子を提供する。
【0011】
別の実施形態において、本発明の結合分子は解離定数<1000nMを有する。
【0012】
本発明の結合分子の別の実施形態において、ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントはγ4型であり、ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントはκ型である。
【0013】
さらなる実施形態において、本発明の結合分子はヒトまたはキメラまたはヒト化モノクローナル抗体である。
【0014】
さらに別の実施形態において、本発明の結合分子は、配列番号4(IgG1重鎖)、配列番号5(IgG1軽鎖)、配列番号24(IgG4重鎖)および配列番号25(IgG4軽鎖)からなる群から選択される1個またはそれ以上のポリペプチド配列を含む。
【0015】
さらに本発明はまた、本発明の結合分子をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0016】
ある特定の実施形態では、本発明の単離されたポリヌクレオチドは、
・配列番号14、配列番号15および配列番号16からなる群から選択される少なくとも1個のポリヌクレオチド配列;または
・配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される少なくとも1個のポリヌクレオチド配列
のいずれかを含む。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、
・順序通りに配列番号14、配列番号15および配列番号16を含むポリヌクレオチド配列;ならびに
・順序通りに配列番号17、配列番号18および配列番号19を含むポリヌクレオチド配列
を含む。
【0018】
さらに別の好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、
・配列番号6のポリヌクレオチド配列および/または配列番号7のポリヌクレオチド配列または
・配列番号26のポリヌクレオチド配列および/または配列番号28のポリヌクレオチド配列
を含む。
【0019】
さらに本発明はまた、上記で定義されたような本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0020】
さらに、本発明は、上記で定義されたような発現ベクターを含む発現系を提供し、該発現系またはその一部は、該発現系またはその一部が適合する宿主細胞中に存在する場合に上記で定義されたような本発明のポリペプチドを産生することができる。
【0021】
さらに本発明はまた、上記で定義されたようなベクターを含む単離された宿主細胞を提供する。
【0022】
さらに本発明はまた、本発明の結合分子と担体を含む単離された組成物を提供する。
【0023】
さらに本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドと担体を含む単離された組成物を提供する。
【0024】
さらに本発明はまた、本発明の発現ベクターまたは本発明の宿主細胞を含む単離された組成物を提供する。
【0025】
本発明はさらに、末梢神経系(PNS)および/または中枢(CNS)神経系の疾患の処置を必要とするヒトに本発明の結合分子を投与する方法を提供する。
【0026】
本発明はまた、本発明の結合分子、本発明のポリヌクレオチド、本発明の発現ベクターまたは発現系のそれぞれ、または本発明の宿主細胞を少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む医薬組成物を提供する。ある特定の実施形態において、該医薬組成物は徐放性組成物である。
【0027】
本発明はさらに、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置方法であって、そのような処置を必要とする対象に有効量の本発明の結合分子、本発明のポリヌクレオチド、本発明の発現ベクターまたは発現系のそれぞれ、または本発明の宿主細胞を投与することを含む方法を提供する。好ましい実施形態では、該疾病はアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レービー様病またはその他の痴呆症全般、頭蓋、脳または精髄損傷後の疾患、脳卒中および脱髄疾患からなる群から選択される神経変性疾患である。さらに好ましい実施形態では、脱髄疾患は多発性硬化症、単層性脱髄、脳脊髄炎、多巣性白質脳症、全脳炎、マルキアファーバ・ビニャミ病(Marchiafava-Bignami disease)、橋髄鞘崩壊症(pontine myelmolysis)、副腎白質萎縮症、ペリツェウス・メルツバッハー病(Pelizaeus-Merzbacher disease)、海綿状変性症、アレキサンダー病、カナバン病、異染性白質ジストロフィーおよびクラッベ病から選択される神経変性疾患である。
【0028】
あるいは、疾患は直接的または間接的に網膜または角膜細胞の変性を含み得る変性性眼障害である。好ましい実施形態では、変性性眼障害は、虚血性網膜症、前部虚血性視神経症、視神経炎、加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、色素性網膜炎、スターガルト病(Stargardt's disease)、ベスト卵黄様網膜変性、レーバー先天性黒内症およびその他の遺伝性網膜変性、病的近視、未熟児網膜症およびレーバー遺伝性視神経症、角膜移植または角膜屈折手術の後遺症、ならびにヘルペス性角膜炎からなる群から選択される。
【0029】
あるいは、疾患は精神医学的症状である。好ましくは、前記精神医学的症状は統合失調症および鬱病からなる群から選択される。
【0030】
上記で示したような処置方法では、投与は好ましくは頭蓋内または髄腔内に行われる。
【0031】
さらに本発明はまた、本発明の結合分子を作製する方法であって、組換えDNA技術の手段または化学合成の手段によって、本発明の発現ベクターまたは発現系において、本発明のポリペプチドを発現させることを含む方法を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、本発明の医薬組成物を損傷部位に局所的に投与する方法を提供する。
【0033】
最後に、本発明はまた、本発明の結合分子、本発明のポリヌクレオチド、本発明の発現ベクターまたは発現系、本発明の宿主細胞からなる群から選択される1個またはそれ以上の産物を、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置における同時、個別または逐次使用のための組合せ製剤として投与することを含む方法を提供する。
【0034】
本発明はさらに、組換えDNA技術の手段または化学合成の手段によって、本発明の結合分子、このような結合分子をコードするポリヌクレオチド、発現ベクターを生産するための方法を提供する。
【0035】
本発明はまた、本発明の結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または宿主細胞を少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む医薬組成物を提供する。本発明はまた、該結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または該宿主細胞、あるいはその薬理学上許容される誘導体を含有する、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置における同時、個別または逐次使用のための組合せ製剤としての製品を提供する。
【0036】
処置を必要とする対象に有効量の本発明の結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または宿主細胞を投与することを含む、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置方法も考えられる。
【0037】
本発明はさらに、実施例において、これらの薬理学的組成物および製品が結合分子の徐放性のため、および/または損傷部位における結合分子の局所定着のために使用され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】6A3−IgG1抗体の軽鎖の可変領域をコードするヌクレオチド(配列番号7)およびアミノ酸(配列番号5)。下線部はリーダーペプチド(配列番号22)およびそれをコードするヌクレオチド配列(配列番号23)を示す。
【図2】6A3−IgG1抗体の重鎖の可変領域をコードするヌクレオチド(配列番号6)およびアミノ酸(配列番号4)配列。下線部はそのペプチド(配列番号20)およびそれをコードするヌクレオチド配列(配列番号21)を示す。
【図3】6A3−Ig4の軽鎖(配列番号28;上)および重鎖(配列番号26;下)可変部分のコード領域。
【図4】6A3−Ig4可変および定常部分の重鎖(配列番号24;下)および軽鎖(配列番号25;上)のアミノ酸配列。軽鎖(配列番号31)および重鎖(配列番号30)のリーダーペプチドを斜体で示す。
【図5】上:リーダー(配列番号22)ならびにCDR−L1(配列番号11)、CDR−L2(配列番号12)およびCDR−L3(配列番号13)配列を含む6A3−IgG1抗体軽鎖アミノ酸(配列番号5)。下:リーダー(配列番号20)ならびにCDR−H1(配列番号8)、CDR−H2(配列番号9)およびCDR−H2(配列番号10)配列を含む6A3−IgG1抗体重鎖アミノ酸(配列番号4)。
【図6】鋳型としてのMO3.13 RNAとNogo−A特異的プライマーを用いたRT−PCRで、200bp前後の明瞭に異なるDNAフラグメントが生じた。
【図7】6A3抗体を用いたM03:13−細胞脂質からの免疫沈降Nogo−Aの免疫ブロット検出。MO3.13細胞溶解液の免疫沈降(IP)および6A3抗Nogo−A抗体による免疫検出の後、6A3−IgG4(レーン4)および11C7−IgG1(レーン6)抗体の双方で、予想された大きさ(190kDa)に単一の強いバンドが検出された。
【図8】図8a:M03.13細胞の免疫蛍光染色。8b:HOG−細胞の免疫蛍光染色。透過処理されたMO3.13細胞およびHOG細胞の6A3−IgG4およびAlexa−Fluor 488標識抗ヒト二次抗体による免疫蛍光染色では細胞の極めて明るい染色が得られたが(図8aおよび8b、左側)、二次抗体のみを用いた場合にはシグナルは実質的に検出されなかった(右側)。
【図9】2か月までに6人の対象において測定された6A3抗体の血清濃度。
【図10】2か月までに6人の対象において測定された6A3抗体のCSF濃度。
【図11】サルSCIモデルにおける6A3抗体処置は、損傷部の大きさにかかわらず、機能回復の速度と程度を改善する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
成人中枢神経系(CNS)における損傷後に神経再生をもたらす新規かつ改良された方法に関する研究において、今般、驚くべきことに、ヒト免疫グロブリン遺伝子がそれらのマウス対応物に置き換わっている遺伝的に再構成されたマウスHuMab−マウス(商標)(Medarex Incによる)において作製された新規なモノクローナルヒト抗体6A3がインビトロおよびインビボ試験においてNogoA活性の調節において優れた特性を有することが見出された。6A3はヒトNiGに対して作製され、IgGイソ型であり、先行技術に記載されているNogoA抗体よりも良好な特性を有する。現在、この6A3抗体と同じ超可変領域を有する他のNogoA結合分子を構築し、6A3の有利な特性を有する新たな抗体を作り出すことが可能である。6A3−Abの誘導体である6A3−IgG4および6A3−Fabは、それぞれ0.14nMおよび1.1nMという高親和性でヒトNiGを認識する。さらに、本発明の抗体は高い安定性とインビトロおよびインビボで延長された半減期および保持を示す。最後に、本発明の結合分子および抗体は導入部位からの徐放性を示し、損傷部位における結合分子の局所的定着を可能とする。脊髄損傷動物および患者において持続的注入による6A3抗体の高い脳脊髄(CSF)濃度が検出されている。例えば脳脊髄液におけるこの驚くべき高い6A3−Ab保持および滞留は、脳脊髄液への抗体の持続的注入の代わりにボーラス注射を可能とする(例えば、週に1〜3回であるが、2、3または4週間に一度というさらに長い間隔も実施可能である)。反復髄腔内ボーラス注射を使用することもできる。好ましい実施形態では、投与は、例えばポータブルポンプに接続した外付けカテーテルを用い、髄腔内投与によって行われる。さらなる好ましい実施形態では、髄腔内ボーラス注射が使用される。実験の節でさらに、本発明の結合分子の有利な特性を示す。
【0040】
よって、本発明は、NogoAまたはNiGに対する結合分子(以下、「本発明の結合分子」または単に「結合分子」と呼ぶ)を提供する。好ましくは、本発明の結合分子はヒトNogoAタンパク質(配列番号2、配列番号1によりコードされる)またはヒトNiGタンパク質(NogoAの最も強力な神経突起伸長阻害フラグメントであり、ヒトNogoAのアミノ酸186番で始まり、アミノ酸1004番で終わる、=配列番号3)と、好ましくは解離定数(Kd)<1000nMで、または100nMまで(含む)のKdで、より好ましくはKd<100nM、または100nMまで(含む)のKdで、最も好ましくはKd<10nM、または10nMまで(含む)のKdで結合する。結合反応は、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降およびバイオセンサー親和法(実施例4参照)を含む標準的方法(定量的アッセイと定性的アッセイの双方を含む)によって示すことができる。加えて、ヒトNogoAおよびヒトNiGに対する本発明の結合分子の結合および機能アッセイでのこれらの結合分子の効力は、例えば下記のような神経突起伸長アッセイで示すことができる。
【0041】
よって、さらなる好ましい実施形態において、本発明の結合分子(100μg/ml、好ましくは10μg/ml、より好ましくは1.0μg/ml、いっそうより好ましくは0.1μg/mlの濃度)は、サル脳タンパク質抽出物の基質上でのラット小脳顆粒細胞の神経突起の数を、ヒトNogoAポリペプチドまたはヒトNiGポリペプチドと結合しない(すなわち、解離定数>1000nMの)対照抗体で処置されたラット小脳顆粒細胞の神経突起の数と比較して、少なくとも20%、好ましくは50%、最も好ましくは80%高める。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、ヒトNogoAポリペプチド(配列番号2)またはヒトNiGポリペプチド(配列番号3)と特異的に結合する少なくとも1個の抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が、
・超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(これらの超可変領域の各々は、CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)の超可変領域とそれぞれと少なくとも90%同一である)の少なくとも1個;ならびに
・超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(これらの超可変領域の各々は、CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)の超可変領域とそれぞれ少なくとも90%同一である)の少なくとも1個
を含む単離された分子に関する。
【0043】
ヒトNogAまたはNiGの特異的認識は、本発明の結合分子中にCDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3またはCDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3が存在する場合に保証される。しかしながら、当業者ならば、結合分子中にCDR−ドメインが1個だけ存在すれば、認識される分子との特異的結合を保証するのに十分であり得ることを知っている。「少なくとも1個の超可変領域」とは、1個または2個または3個の超可変領域を意味する。「少なくとも90%の同一性」とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。2個のアミノ酸配列間の同一性%は、例えば、Basic Local Alignment Search Tool, (BLAST) on the National Institutes of Health web site, Altschul et al. 1994, Nature Genetics, 6:119-129, Altschul et al. 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410, Altschul et al. 1997, Nucleic Acids Research, 25:1389-1402, Karlin and Altschul, 1990 PNAS, 87:2264-68, Karlin and Altschul, 1993 PNAS, 90:5873-68など、2個以上のアミノ酸配列の相対的同一性を分析するコンピューターアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0044】
本発明は、ヒトNogoAポリペプチド(配列番号2)またはヒトNiG(配列番号3)と、解離定数<1000nMで特異的に結合する少なくとも1個の抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が、
・少なくとも超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)のそれぞれと少なくとも90%同一である);ならびに
・少なくとも超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)のそれぞれと少なくとも90%同一である)
を含む単離された分子に関する。
【0045】
「順序通りに超可変領域を含む抗原結合部位」とは、超可変領域が互いに不連続である;好ましくは、該抗体領域に抗体フレームワーク領域が、または非抗体フレームワーク配列、好ましくはヒト抗体フレームワーク領域である配列が挿入されている抗原結合部位を包含する。
【0046】
本発明によれば、結合分子はまた、少なくとも1個の抗原結合部位も含んでよく、該抗原結合部位は、
・順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10);または
・順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13);または
・該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物を含む。「少なくとも90%の同一性」とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。
【0047】
本発明によれば、結合分子はまた、
・順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)を含む第一の抗原結合部位ならびに順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)を含む第二の抗原結合部位;または
・該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物を含み得る。少なくとも90%の同一性とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。
【0048】
本発明によれば、結合分子はまた、
・(i)順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン重鎖またはそのフラグメント;ならびに
・(i)順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン軽鎖またはそのフラグメント;または
・該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物を含み得る。少なくとも90%の同一性とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。
【0049】
本発明の結合分子では、ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントはガンマ(γ)型、好ましくはガンマ4(γ4)型であってよく、ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントはガンマ(λ)または好ましくはカッパ(κ)型であってよい。さらに、本発明の結合分子はヒト、部分的ヒトまたはキメラまたはヒト化モノクローナル抗体であり得る。
【0050】
本発明によれば、結合分子は、配列番号4(IgG1重鎖)、配列番号5(IgG1軽鎖)、配列番号24(IgG4重鎖)および配列番号25(IgG4軽鎖)のいずれかで示されるような1個またはそれ以上のポリペプチド配列を含み得る。
【0051】
さらなる好ましい実施形態において、本発明の結合分子は、少なくとも1個の抗原結合部位(該抗原結合部位は順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3、CDR−H2−6A3およびCDR−H3−6A3を含み、該CDR−H1−6A3は配列番号8のアミノ酸配列を有し、該CDR−H2−6A3は配列番号9のアミノ酸配列を有し、該CDR−H3−6A3は配列番号10のアミノ酸配列を有する)と、該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物とを含む。少なくとも90%の同一性とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。
【0052】
本発明のさらなる態様において、本発明の結合分子は少なくとも、
a)順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3、CDR−H2−6A3およびCDR−H3−6A3を含み、該CDR−H1−6A3が配列番号8のアミノ酸配列を有し、該CDR−H2−6A3が配列番号9のアミノ酸配列を有し、該CDR−H3−6A3が配列番号10のアミノ酸配列を有する第一のドメイン;ならびに
b)順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3、CDR−L2−6A3およびCDR−L3−6A3を含み、該CDR−L1−6A3が配列番号11のアミノ酸配列を有し、該CDR−L2−6A3が配列番号12のアミノ酸配列を有し、該CDR−L3−6A3が配列番号13のアミノ酸配列を有する第二のドメイン;または
c)該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物
を含む。少なくとも90%の同一性とは、90%を超える同一性、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える同一性を意味する。
【0053】
さらに、本発明はまた、
a)6A3の重鎖(配列番号4)の可変領域;または
b)6A3の軽鎖(配列番号5)の可変領域、もしくは該超可変領域の配列と少なくとも90%同一であるその直接的等価物
のいずれかを含む少なくとも1個の抗原結合部位を含む本発明の結合分子を提供する。
【0054】
抗原結合部位が第一のドメインと第二のドメインの双方を含む場合、これらは同じポリペプチド分子上に存在していてもよく、または好ましくは各ドメインが異なる鎖上にあってもよく、第一のドメインが免疫グロブリン重鎖またはそのフラグメントの一部であり、第二のドメインが免疫グロブリン軽鎖またはそのフラグメントの一部である。
【0055】
本発明の結合分子の例としては、B細胞またはハイブリドーマにより産生されるような抗体、およびヒトまたはキメラまたはヒト化抗体またはそのいずれかのフラグメント(例えばF(ab’)2);およびFabフラグメント、ならびに米国特許公報US20070065440A1に記載されているような一本鎖または単一ドメイン抗体が挙げられる。
【0056】
本明細書において「単一ドメイン抗体」は、そのエピトープ、抗原またはリガンドと結合する別の可変結合ドメインと独立に、あるエピトープまたは抗原またはリガンドと特異的に結合することができる可変ドメインである。単一ドメインは、その単一ドメイン抗体による抗原結合に他のドメインが必要とされない場合、すなわち、その単一ドメイン抗体がさらなるVHまたはVLドメインと独立に抗原に結合する場合には、他のVHまたはVLドメインとのホモ多量体またはヘテロ多量体として存在し得る。好ましい実施形態では、単一ドメイン抗体は単離されたVH単一ドメインまたは単離されたVL単一ドメインを含む。それらが由来する完全抗体の結合特異性の少なくともいくらかを有する単一ドメイン抗体を得るための技術は当技術分野で公知である。例えば、Ward, et al., “Binding Activities of a Repertoire of Single Immunoglobulin Variable Domains Secreted from Escherichia coli,” Nature 341:644-646は、その標的エピトープに対して、単離形態でそれと結合するのに十分な親和性を有する抗体重鎖可変領域(VH単一ドメイン抗体)を得るためのスクリーニング方法を開示している。
【0057】
一本鎖抗体は、通常10〜30個のアミノ酸、好ましくは15〜25個のアミノ酸からなるペプチドリンカーにより共有結合した抗体重鎖および軽鎖の可変ドメインからなる。好ましい方法は、例えばscFv分子との関連で記載されているようなポリペプチドリンカーの使用を含む(Bird et al., (1988) Science 242:423-426)。従って、このような構造は重鎖および軽鎖の定常部分を含まず、この小ペプチドスペーサーは、完全な定常部分よりも抗原性が低いはずであると考えられる。「キメラ抗体」は、重鎖または軽鎖またはその双方の定常領域が第一の種に起源を持つが、重鎖および軽鎖の双方の可変領域が第二の種に起源を持つ抗体を意味する。好ましくは「キメラ抗体」は、重鎖または軽鎖またはその双方の定常領域がヒト起源であるが、重鎖および軽鎖の双方の可変ドメインが非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ブタ、マウス、ニワトリ、鳥類)起源である抗体である。「ヒト化抗体」とは、超可変領域(CDR)が非ヒト(例えば、マウス)起源であるが、全部または実質的に全部の他の免疫グロブリン部分、例えば、定常領域および可変ドメインの保存性が高い部分、すなわちフレームワーク領域がヒト起源である抗体を意味する。しかしながら、ヒト化抗体は、超可変領域に隣接するフレームワーク領域の部分にマウス配列の数個のアミノ酸を保持し得る。
【0058】
超可変領域は、いずれの種類のフレームワーク領域を伴ってもよく、好ましくはマウスまたはヒト起源のものである。好適なフレームワーク領域は、“Sequences of proteins of immunological interest”, Kabat E.A. et al, US department of health and human services, Public health service, National Institute of Healthに記載されている。好ましくは、本結合分子のヒト重鎖の定常部分は、サブタイプを含むIgG4型、より好ましくはIgG4型であってよく、好ましくは、ヒト軽鎖の定常部分はラムダ(λ)またはカッパ(κ)型、より好ましくはカッパ(κ)型であり得る。
【0059】
全てのヒトに天然に見られるタンパク質に対して作製されるモノクローナル抗体は、非ヒト系、例えばマウスで生じさせることができる。この直接的結果として、ハイブリドーマにより産生されるような異種抗体は、ヒトに投与した際、主として異種免疫グロブリンの定常部分により媒介される望ましくない免疫応答を惹起する。それらは長期間投与することができないので、このことはこのような抗体の使用を明らかに制限する。従って、ヒトに投与した際に、実質的な同種間応答を惹起しないと思われる一本鎖、単一ドメイン、キメラまたはヒト化抗体を使用するのが特に好ましい。
【0060】
上記に鑑み、本発明の結合分子は、少なくとも、
a)(i)順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3、CDR−H2−6A3およびCDR−H3−6A3を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む1個の免疫グロブリン重鎖またはそのフラグメント(該CDR−H1−6A3はアミノ酸配列(配列番号8)を有し、該CDR−H2−6A3はアミノ酸配列(配列番号9)を有し、該CDR−H3−6A3はアミノ酸配列(配列番号10)を有する)と、
b)(i)順序通りに超可変領域CDR−HL1−6A3、CDR−L2−6A3およびCDR−L3−6A3を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む1個の免疫グロブリン軽鎖またはそのフラグメント(該CDR−L1−6A3はアミノ酸配列(配列番号11)を有し、該CDR−L2−6A3はアミノ酸配列(配列番号12)を有し、該CDR−L3−6A3はアミノ酸配列(配列番号13)を有する);または
該超可変領域の配列と少なくとも90%同一である領域を含むその直接的等価物を含むキメラ抗体からも選択され得る。
【0061】
あるいは、本発明の結合分子は、
a)順序通りに超可変性CDR−H1−6A3、CDR−H2−6A3およびCDR−H3−6A3(該CDR−H1−6A3はアミノ酸配列(配列番号8)を有し、該CDR−H2−6A3はアミノ酸配列(配列番号9)を有し、該CDR−H3−6A3はアミノ酸配列(配列番号10)を有する)を含む第一のドメイン;
b)順序通り超可変性CDR−L1−6A3、CDR−L2−6A3およびCDR−L3−6A3(該CDR−L1−6A3はアミノ酸配列(配列番号11)を有し、該CDR−L2−6A3はアミノ酸配列(配列番号12)を有し、該CDR−L3−6A3はアミノ酸配列(配列番号13)を有する)を含む第二のドメイン;ならびに
c)第一のドメインのN末端および第二のドメインのC末端、または第一のドメインのC末端と第二のドメインのN末端に結合されているペプチドリンカー;または
該超可変領域の配列と少なくとも90%同一である領域を含むその直接的等価物
を含む抗原結合部位を含む一本鎖結合分子から選択され得る。
【0062】
周知のように、1個または数個のアミノ酸の欠失、付加または置換などのアミノ酸配列の小さな変化は、実質的に同一の特性を有する元のタンパク質の対立遺伝子形をもたらし得る。従って、「その直接的等価物」とは、本発明の任意の超可変領域、任意の抗原結合部位、任意の抗体鎖もしくはそのフラグメント、または任意の単一ドメイン結合分子(分子6A3)であって、
(i)結合分子の超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3の各々が、CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)の等価の超可変領域と、少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一であり、ただし、CDR−H1はCDR−H1−6A3と等価であり、CDR−H2はCDR−H2−6A3と等価であり、CDR−H3はCDR−H3−6A3と等価であるもの;ならびに
(ii)ヒトNogoAまたはヒトNiGと、好ましくは解離定数(Kd)<1000nM、より好ましくはKd<100nM、最も好ましくはKd<10nMで結合することができるもの、または、
結合部位1個につき少なくとも1個、好ましくは2個のドメインを有する本発明の任意の結合分子(分子6A3)、
(iii)超可変領域CDR−H1、CDR−H2、CDR−H3、CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3の各々が、CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)、CDR−H3−6A3(配列番号10)、CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)の等価の超可変領域と少なくとも90%同一、より好ましくは少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99%少なくとも95、96、97、98、99%同一であり、ただし、CDR−H1はCDR−H1−6A3と等価であり、CDR−H2はCDR−H2−6A3と等価であり、CDR−H3はCDR−H3−6A3と等価であり、CDR−L1はCDR−L1−6A3と等価であり、CDR−L2はCDR−L2−6A3と等価であり、CDR−L3はCDR−L3−6A3と等価であるもの;ならびに
(iv)ヒトNogoAまたはヒトNiGと、好ましくは解離定数(Kd)<1000nM、より好ましくはKd<100nM、最も好ましくはKd<10nMで結合することができるもの
を意味する。
【0063】
従って、本発明のさらなる実施態様は、例えば、ヒトNogoAまたはヒトNiGと解離定数<1000nMで結合することができ、少なくとも1個の抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が、
・順序通りに超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)のそれぞれと少なくとも90%、好ましくは少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一である);および/または
・順序通りに超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一である)
のいずれかを含む結合分子である。
【0064】
さらに、本明細書に記載の結合分子はヒトNogoAまたはヒトNiGと解離定数<1000nMで結合することができ、
・順序通りに超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3を含み、これらの超可変領域の各々が超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)のそれぞれと少なくとも90%、好ましくは91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一である、第一の抗原結合部位;ならびに
・順序通りに超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3を含み、これらの超可変領域の各々が超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)のそれぞれと少なくとも90%、好ましくは91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一である、第二の抗原結合部位
を含む。
【0065】
この解離定数は、例えば、バイオセンサー親和法(BIAcore)(上記参照)を含む様々なアッセイで便宜に試験することができる。さらに、結合分子の結合および機能的効果を、例えば下記のようなバイオアッセイで示すことができる。
【0066】
ヒト重鎖の定常部分は、γ1;γ2;γ3;γ4;α1;α2;δまたはε型、好ましくはγ型、より好ましくはγ4型であってよく、ヒト軽鎖の定常部分は、λまたはκ型(λ1;λ2;λ3およびλ4サブタイプを含む)であり得るが、好ましくはκ型である。これら全ての定常部分のアミノ酸配列は、Kabat et al(前掲)に示されている。
【0067】
本発明の結合分子のコンジュゲート、例えば、酵素または毒素または放射性同位元素コンジュゲートも本発明の範囲内に含まれる。別の態様において、NogoAまたはNiG結合分子を含有する組成物は、インビトロまたはインビボプロセスによって得ることができるようなグリコシル化などの(非ポリペプチド)重合安定化部分との連結または会合によってインビボで安定化される。この種の安定化の例は、例えば、WO99/64460(Chapman et al.)およびEP1,160,255(King et al.)(各々出典明示により本明細書の一部とされる)に記載されている。特に、これらの参照文献は、免疫グロブリンポリペプチドのインビボ半減期を延長するために、ポリアルキレン、ポリアルケニレン、ポリオキシアルキレンまたは多糖などの合成または天然ポリマー分子の使用を記載している。安定化部分の典型例はポリアルキレンであるポリエチレングリコール、すなわちPEGである。PEGと免疫グロブリンポリペプチドを連結する方法はこれらの参照文献に記載されており、ここでは「ペグ化」と呼ぶ。その中に記載されているように、NogoAまたはNiG結合分子は、theNogoAもしくはNiG結合分子の表面上のリシンまたはその他のアミノ酸にPEGを結合させることにより無作為に、あるいは例えば人工的な導入された表面システイン残基へのPEGの結合により部位特異的にPEG化することができる。無作為結合では、分子上の1個または複数の抗原結合部位内またはその付近での結合によって、その標的抗原に対するその分子の親和性または特異性を変化させることがしばしばあるので、NogoA結合分子かNiG結合分子かによって、非無作為ポリマー結合法を使用することが好ましい場合がある。
【0068】
PEGまたは他のポリマーの付加は、抗体NogoAまたはNiG結合分子の抗原結合親和性または特異性の干渉しないことが好ましい。「抗原結合親和性または特異性に干渉しない」とは、そのPEG結合型NogoAまたはNiG結合分子が、同じ抗体単一可変ドメインを有する非PEG結合型NogoAまたはNiG結合分子の、それぞれIC50またはND50よりも10%を超えて高くないIC50またはND50を有することを意味する。あるいは、「抗原結合親和性または特異性に干渉しない」とは、PEG結合型のNogoAまたはNiG結合分子が非PEG化型のポリペプチドの抗原結合活性の少なくとも90%を保持することを意味する。
【0069】
インビボ半減期を延長するのに有用なPEGまたはその他のポリマーは一般に、約5,000〜50,000ダルトン、例えば約5,000kD〜10,000kD、5,000kD〜15,000kD、5,000kD〜20,000kD、5,000〜25,000kD、5,000〜30,000kD、5,000kD〜35,000kD、5,000kD〜40,000kD、または約5,000kD〜45,000の大きさである。ポリマーサイズの選択は意図される複合体の使用によって異なる。例えば、充実組織、例えば腫瘍への浸透が望まれる場合には、5,000kD程度または約5,000kDの、より小さなポリマーを使用することが有利である。それよりも化合物を循環中に保持することが望まれる場合には、例えば25,000kD〜40,000kDまたはそれを超える、より大きなポリマーを使用することができる。
【0070】
本発明の医薬組成物は、本発明のNogoAまたはNiG結合分子の「治療上有効な量」または「予防上の有効な量」を含み得る。「治療上有効な量」とは、所望の治療結果を達成するための、投与において、また、必要な期間において効果的な量を表す。本発明のNogoAまたはNiG結合分子の治療上有効な量は、その個体の病態、齢、性別および体重、ならびにその個体において所望の応答を惹起する本発明のNogoAまたはNiG結合分子の能力などの因子によって異なり得る。治療上有効な量はまた、本発明のNogoAまたはNiG結合分子の治療上有益な作用が毒性または有害作用を上回るものである。「予防上有効な量」とは、所望の予防結果を達成するための、投与において、また、必要な期間において効果的な量を表す。
【0071】
本明細書において「特異的に結合する」とは、例えば、BIAcore(登録商標)表面プラズモン共鳴システムおよびBIAcore(登録商標)動態評価ソフトウエアを用いた表面プラズモン共鳴分析により測定した場合に1μM以下の解離定数(Kd)での、本発明のNogoAまたはNiG結合分子による抗原の結合を表す。
【0072】
「ポリペプチド」は、特に断りのない限り、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸を含み、N末端で始まりC末端で終わるアミノ酸配列を有する任意のペプチドまたはタンパク質を含む。好ましくは、本発明のポリペプチドはモノクローナル抗体であり、より好ましいのはキメラ(Vグラフトとも呼ばれる)またはヒト化(CDRグラフトとも呼ばれる)モノクローナル抗体である。ヒト化(CDRグラフト)モノクローナル抗体は、アクセプター抗体のフレームワーク(FR)配列に導入されたさらなる突然変異を含んでも含まなくてもよい。
【0073】
本発明で用いるさらなるポリペプチド誘導体には、本発明のポリペプチドと共通する定性的生物活性を有する、すなわち、ヒトNogoAまたはヒトNiGに結合する能力を有する、分子が含まれる。機能的誘導体には、本発明によるポリペプチドのフラグメントおよびペプチド類似体が含まれる。フラグメントは、本発明によるポリペプチドの配列内の領域、例えば特定配列のものを含む。「誘導体」とは、アミノ酸配列変異体、および本発明のポリペプチドの、例えば特定配列の、共有結合的修飾物を定義するのに使用される。本発明のポリペプチドの、例えば特定配列の、例えば軽鎖および重鎖の超可変領域の、機能的誘導体は、本発明のポリペプチドの、例えば特定配列のアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約75%、より一層好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約91、92、93、94、95、96、97、98、99%の全体的配列同一性を有し、ヒトNogoAまたはヒトNiGと結合する能力を実質的に保持している。
【0074】
本明細書において「可変ドメイン」とは、哺乳類生殖細胞系免疫グロブリンV領域に由来する配列を有するポリペプチドを表す。配列は、ヒト個体から単離されるか、マウスなどの齧歯類などの非ヒト動物から単離されるか(ここで、この非ヒト動物は免疫原に応答してヒト免疫グロブリンを産生することができ、より好ましくは、該非ヒト動物はその種に内因的な抗体を産生することができない)、クローニングされたヒト抗体遺伝子配列のライブラリー(またはヒト抗体V領域遺伝子配列)から単離される場合、またはクローニングされたヒト生殖細胞系V領域配列を用いて1個またはそれ以上の多様化配列(無作為または標的突然変異誘発による)を作製した後に所望の標的抗原に対する結合に関して選択された場合に、「哺乳類生殖細胞系V領域に由来する」。最小限、ヒト免疫グロブリン可変ドメインは天然ヒト免疫グロブリン可変ドメイン配列に対して少なくとも85%のアミノ酸類似性(例えば、87%、90%、93%、95%、97%、99%またはそれを超える類似性)を有する。
【0075】
あるいは、または加えて、「可変ドメイン」は、4つの免疫グロブリン可変ドメインフレームワーク領域(FW1〜FW4)(好ましくはヒトであり、フレームワーク領域としてはKabat et al.(1991,)によって示されている)を含む免疫グロブリン可変ドメインである。「可変ドメインフレームワーク領域」は、a)フレームワーク領域(好ましくはヒト)のアミノ酸配列、およびb)ヒトフレームワーク領域のアミノ酸配列の少なくとも8個の連続するアミノ酸を含むフレームワーク領域を包含する。抗体可変ドメインは生殖細胞系抗体遺伝子セグメント(好ましくはヒト)によりコードされている対応するフレームワーク領域のアミノ酸配列と同じFW1〜FW4のアミノ酸配列を含んでもよいし、あるいはまた、FW1〜FW4配列が、生殖細胞系抗体遺伝子セグメント(好ましくはヒト)によりコードされている対応するフレームワーク領域のアミノ酸配列に対して10個までのアミノ酸配列の違い(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個までのアミノ酸配列の違い)を集合的に含む。本明細書において「万能フレームワーク」とは、Kabat et al.(1991)によって定義されているように配列中(in sequence)に保存されている抗体の領域に相当するか、またはChothia and Lesk, (1987) J. Mol. Biol. 196:910-917によって定義されているようにヒト生殖細胞系免疫グロブリンレパートリーまたは構造に相当する単一の抗体フレームワーク配列を表す。本発明は、超可変領域だけにおける変動であるが、事実上いずれの結合特異性の誘導も可能とすることが分かっている単一のフレームワークまたはそのようなフレームワークのセットの使用を提供する。一実施形態において、超可変領域またはCDRはNogoAおよび/またはNiGと特異的に結合する。
【0076】
「共有結合的修飾」とは、本発明のポリペプチドの、例えば、明示されている配列、またはそのフラグメントの、有機タンパク質性または非有機タンパク質性誘導体化剤による修飾、異種ポリペプチド配列との融合、および翻訳後修飾を含む。共有結合的に修飾されたポリペプチド、例えば明示されている配列のものは、架橋によりヒトNogoAまたはヒトNiGと結合する能力をなお有する。共有結合的修飾は慣例的に、標的とするアミノ酸残基を、選択された側または末端残基と反応することができる有機誘導体化剤と反応させることによるか、または選択された組換え宿主細胞で機能する翻訳後修飾の機構を利用することによって導入される。ある特定の翻訳後修飾は、発現されるポリペプチドに対する組換え宿主細胞の作用の結果である。グルタミニルおよびアスパラギニル残基はしばしば翻訳後に対応するグルタミルおよびアスパルチル残基へと脱アミド化される。あるいは、これらの残基は弱酸性条件下で脱アミノ化される。その他の翻訳後修飾としては、プロリンおよびリシンの水酸化、セリル、チロシンまたはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リシン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化が含まれる(例えば、T. E. Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W. H. Freeman & Co., San Francisco, pp. 79-86 (1983)参照)。共有結合的修飾には、本発明のポリペプチド、例えば明示されている配列のもの、およびそれらのアミノ酸配列変異体を含む融合タンパク質、例えば、イムノアドヘシン類および異種シグナル配列とのN末端融合が含まれる。
【0077】
天然ポリペプチドおよびその機能的誘導体に関して「同一性」とは、本明細書では、配列のアライニングを行い、必要であればギャップを導入して最大同一性%を達成した後に、対応する天然ポリペプチド残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義されるが、その配列同一性の一部として保存的置換は考慮しない。N末端またはC末端伸長も挿入も同一性を引き下げるとは考えられない。アライメントの方法およびコンピュータープログラムは周知である(Altschul et al. 前掲参照)。
【0078】
「アミノ酸」とは、例えばD−アミノ酸を含む全ての天然L−α−アミノ酸を表す。これらのアミノ酸は周知の一文字表記か三文字表記のいずれかによって示される。
【0079】
「アミノ酸配列変異体」とは、本発明のポリペプチド、例えば、明示されている配列のものと比較して、それらのアミノ酸配列にいくつかの違いを有する分子を表す。本発明のポリペプチド、例えば、明示されている配列のもののアミノ酸配列変異体は、ヒトNogoAまたはヒトNiGと結合する能力をなお有する。置換変異体は、少なくとも1個のアミノ酸残基が除去され、その場所で、本発明のポリペプチド、例えば、明示されている配列のものと同じ位置に異なるアミノ酸が挿入されたものである。これらの置換は、分子中においてアミノ酸1個だけが置換された単一のものであってもよいし、または同じ分子中の2以上のアミノ酸が置換されている多重のものであってもよい。挿入変異体は、本発明のポリペプチド、例えば、明示されている配列のものの特定の位置で、あるアミノ酸に隣接して1個またはそれ以上のアミノ酸が挿入されたものである。あるアミノ酸に隣接するとは、そのアミノ酸のα−カルボキシまたはα−アミノ官能基のいずれかに連結されていることを意味する。欠失変異体は、本発明のポリペプチド、例えば、明示されている配列のものの1個またはそれ以上のアミノ酸が除去されたものである。普通は、欠失変異体は、分子の特定領域中の1個または2個のアミノ酸が欠失されている。
【0080】
本発明の結合分子は、組換えDNA技術によって生産することができる。一般に、本発明の実施の必要とされる核酸分子およびベクター構築物は、本発明の結合分子はSambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, USAなどの標準的な実験手引き書に示されているように構築および操作することができる。この観点から、結合分子をコードする1個またはそれ以上のDNA分子を構築し、適当な制御配列下に置き、発現に好適な宿主生物に移入しなければならない。
【0081】
従って、極めて一般的な方法では、
(i)本発明の超可変領域、抗原結合部位、抗体鎖もしくはそのフラグメント、または単一ドメイン結合分子をコードするDNA分子;および
(ii)組換え手段による本発明の結合分子の生産のための、本発明のDNA分子の使用
が本明細書において提供される。
【0082】
当分野の現状は、本明細書で提供される情報、すなわち、超可変領域のアミノ酸配列およびそれらをコードするDNA配列が与えられれば、当業者は本発明のDNA分子を合成できるといったものである。可変ドメイン遺伝子を構築する方法は、例えばEP239400に記載されており、以下のように簡単にまとめられる:どんな特異性のモノクローナル抗体の可変ドメインをコードする遺伝子でもクローン化される。フレームワークおよび超可変領域をコードするDNAセグメントを決定し、超可変領域をコードするDNAセグメントを除去して、フレームワーク領域をコードするDNAセグメントを、好適な制限部位とその接合部で融合するようにする。制限部位は、標準的手順によるDNA分子の突然変異誘発により適切な位置で産生され得る。与えられた上記のCDR−H1−6A3、CDR−H2−6A3、CDR−H3−6A3、CDR−L1−6A3、CDR−L2−6A3およびCDR−L3−6A3配列に従い、二本鎖合成CDRカセットをDNA合成により作製する。これらのカセットに粘着末端を与え、免疫グロブリン可変ドメインをコードするDNA分子を獲得するための標準的プロトコールにより、それらが接合部でフレームワークに連結できるようにする。
【0083】
さらに、本発明のモノクローナル抗体をコードするDNA構築物を得るために、生産ハイブリドーマ細胞株由来のmRNAを取り扱う必要はない。従って、PCT出願WO90/07861は、遺伝子のヌクレオチド配列に関する記載情報さえあれば、組換えDNA技術によるモノクローナル抗体の作製に十分な指示を与える。
【0084】
本方法は、所望のDNA配列を得るための、いくつかのオリゴヌクレオチドの合成、PCR法によるそれらの増幅およびそれらのスプライシングを含む。
【0085】
細菌プラスミド、バクテリオファージ、人工染色体およびエピソームベクターを含む多くのベクターが公的に入手可能である。1個またはそれ以上の好適なプロモーターおよび/または重鎖および軽鎖定常部分をコードする遺伝子を含む発現ベクターも公的に入手可能である。発現ベクターは通常、宿主生物により認識され、目的のコード配列と作動可能なように連結される。このようなプロモーターは誘導型であっても構成型であってもよい。「作動可能なように連結される」とは、記載されている成分が、それらをそれらの意図される様式で機能させ得る関係にある並列関係を表す。コード配列に「作動可能なように連結された」制御配列は、その制御配列に適合する条件下でコード配列の発現が達成されるように連結される。よって、本発明のDNA分子が作製されれば、それを適切な発現ベクターに適宜導入することができる。
【0086】
一本鎖抗体をコードするDNA分子も、例えばWO88/1649に記載されているような標準的方法によって作製することができる。
【0087】
本発明の特定の実施形態では、本発明の結合分子のいくつかの生産のための組換え手段は下記のような第一および第二のDNA構築物を含む:
第一のポリヌクレオチドは、
・配列番号14、配列番号15および配列番号16で示されるポリヌクレオチド配列の少なくとも1個;または
・配列番号17、配列番号18および配列番号19で示されるポリヌクレオチド配列の少なくとも1個の
のいずれかを含み得る。
【0088】
本発明の別のポリヌクレオチドは、
・配列番号14、配列番号15および配列番号16で示されるポリヌクレオチド配列;ならびに
・配列番号17、配列番号18および配列番号19で示されるポリヌクレオチド配列
を含む。
【0089】
別の実施形態では、該ポリヌクレオチドは、
・配列番号6で示されるポリヌクレオチド配列および/または配列番号7で示されるポリヌクレオチド配列、または
・配列番号26で示されるポリヌクレオチド配列および/または配列番号28で示されるポリヌクレオチド配列
を含む。
【0090】
さらに別の実施形態では、該DNA構築物は重鎖またはそのフラグメントをコードし、
a)フレームワークと超可変領域(該超可変領域は順序通りにDNA−CDR−H1−6A3(配列番号14)、DNA−CDR−H2−6A3(配列番号15)およびDNA−CDR−H3−6A3(配列番号16)を含む)を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分(この第一の部分は可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まり、可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる)、ならびに
b)重鎖定常部分またはそのフラグメントをコードする第二の部分(重鎖定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まり、定常部分またはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる)とその後の非センスコドン
を含む。
【0091】
好ましくは、第二の部分は、ヒト重鎖の定常部分、より好ましくは、ヒトγ4鎖の定常部分をコードする。この第二の部分は、ゲノム起源のDNAフラグメント(イントロンを含む)であってもcDNAフラグメント(イントロンを含まない)であってもよい。
【0092】
別の実施形態では、該DNA構築物は軽鎖またはそのフラグメントをコードし、
a)フレームワークと超可変領域(該超可変領域は順序通りにDNA−CDR−L1−6A3(配列番号17)、DNA−CDR−L2−6A3(配列番号18)およびDNA−CDR−L3−6A3(配列番号19)を含む)を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分(この第一の部分は可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まり、可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる)、ならびに
b)軽鎖定常部分またはそのフラグメントをコードする第二の部分(軽鎖定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まり、定常部分またはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる)とその後の非センスコドン
を含む。
【0093】
好ましくは、第二の部分はヒト軽鎖の定常部分、より好ましくはヒトκ鎖の定常部分をコードする。
【0094】
本発明のDNA構築物は、有利には、すでに記載されている部分の上流に位置し、リーダーペプチドをコードする別の部分をさらに含んでもよく、この付加的部分は、リーダーペプチドの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まり、最後のアミノ酸で終わる。このリーダーペプチドは、それらが発現される宿主生物による鎖の分泌に必要とされ、その後、宿主生物により除去される。好ましくは、DNA構築物のこの部分は、配列番号20(IgG1の重鎖、19番のアミノ酸で始まり、1番のアミノ酸で終わる)で示される重鎖リーダー配列のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するか、配列番号22(IgG1の軽鎖、20番のアミノ酸で始まり、1番のアミノ酸で終わる)で示されるアミノ酸配列を有するか、配列番号30(IgG4の重鎖、19番のアミノ酸で始まり、1番のアミノ酸で終わる)で示される重鎖リーダー配列のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するか、あるいは配列番号31(IgG4の軽鎖、20番のアミノ酸で始まり1番のアミノ酸で終わる)で示されるアミノ酸配列を有するリーダーペプチドをコードする。
【0095】
DNA構築物の各々は、好適な制御配列の制御下、特に、好適なプロモーターの制御下に置かれる。発現のためにDNA構築物が導入される宿主生物に適合する限り、いずれの種類のプロモーターでも使用し得る。しかしながら、哺乳類細胞で発現が行われる場合、免疫グロブリン遺伝子のプロモーターを使用するのが特に好ましい。
【0096】
所望の抗体は細胞培養またはトランスジェニック動物において作製することができる。好適なトランスジェニック動物は、好適な制御配列下に置かれた第一および第二のDNA構築物を卵にマイクロインジェクションし、そのようにして調製された卵を適切な偽妊娠雌に導入し、所望の抗体を発現する後代を選択することを含む、標準的方法に従って得ることができる。
【0097】
抗体鎖を細胞培養物で生産しなければならない場合、DNA構築物は、最初に、単一の発現ベクター、または2種類の別個であるが適合する発現ベクターのいずれかに挿入されなければならず、後者の可能性が好ましい。
【0098】
従って、本発明はまた、上記のDNA構築物の少なくとも1個を含む原核または真核細胞株で複製できる発現ベクターを提供する。
【0099】
よって、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。本発明はまた発現系に関し、該発現系またはその一部は、その発現系またはその一部が適合する宿主細胞に存在する場合に本発明のポリペプチドを産生することができる。本発明の発現系を含む単離された宿主細胞もまた開示される。
【0100】
よって、組換えDNA技術の手段または化学合成の手段による結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターの生産方法もまた本願において考えられる。
【0101】
DNA構築物を含有する各発現ベクターを、次いで、好適な宿主生物に導入する。DNA構築物が2種類の発現ベクターに別に挿入される場合、それらは別個に、すなわち、細胞ごとに1種のベクターに導入しても同時導入してもよく、この後者の可能性が好ましい。好適な宿主生物は細菌、酵母または哺乳類細胞株であり得、この後者が好ましい。より好ましくは、哺乳類細胞株は、例えばミエローマ、ハイブリドーマまたは正常不死化B細胞などのリンパ球起源のものであるが、内因性抗体重鎖または軽鎖も発現しない。
【0102】
宿主生物が一細胞につき1以上のDNA構築物を含有するベクターの多数のコピーを含んでいるのも好ましい。宿主生物が哺乳類細胞株である場合、この望ましい目標には標準的方法に従いコピー数を増幅することにより到達し得る。増幅方法は、通常、薬剤耐性の増強に関して選択することからなり、該耐性は発現ベクターによってコードされている。
【0103】
本発明の別の態様では、本発明の多鎖結合分子の生産方法が提供され、それは(i)本発明の少なくとも1個のDNA構築物で形質転換された生物を培養すること、および(ii)その培養物から本発明の活性な結合分子を回収することを含む。
【0104】
あるいは、重鎖および軽鎖を例えば別に回収し、インビトロでの再折りたたみ後に、活性な結合分子に再構成することもできる。再構成方法は当分野で周知であり、方法の例は、特にEP120674またはEP125023に提供されている。
【0105】
よって、ある方法は、
(i)本発明の結合分子をコードする第一のDNA構築物で形質転換された第一の生物を培養すること、およびその培養物から第一の結合分子を回収すること、ならびに、
(ii)本発明の結合分子をコードする第二のDNA構築物で形質転換された第二の生物を培養すること、およびその培養物から第二の結合分子を回収すること、ならびに、
(iii)(i)で得られた第一の結合分子と(ii)で得られた第二の結合分子から本発明の活性な結合分子をインビトロで再構成すること
も含み得る。
【0106】
必要であれば、3個、4個、5個、6個、7個または8個までのさらなる生物または細胞を作出し、さらなる結合分子を提供するために用いてもよい。
【0107】
同様に、本発明の一本鎖または単一ドメイン結合分子を作製する方法も提供され、その方法は、
(i)本発明の一本鎖または単一ドメイン結合分子をコードするDNA構築物で形質転換された生物を培養すること、および、
(ii)該分子を培養物から培養から回収すること
を含む。
【0108】
本発明のNogoAおよびNiG結合分子は、下記のように、例えば顆粒細胞神経突起伸長モデルで示されるような、極めて良好な神経再生活性を示し得る。
【0109】
1.顆粒細胞神経突起伸長アッセイ(インビトロ)
脳組織(皮質および脳幹)を採取し、従前に記載されている通りに、アッセイタンパク質抽出物ごとに新しく調製する(Spillmann et al. 1998, Identification and characterization of a bovine neurite growth inhibitor (bNI-220), J Biol Chem. 1998 Jul 24;273(30):19283-93)。簡単に言えば、凍結組織片(例えば0.25g)を、プロテアーゼ遮断剤(10μg/mlアプロチニン−5μg/mlロイペプチン−1μg/mlペプスタチン−1mM PMSF)を含む3〜4倍容量の60mM Chaps−20mM Tris pH8.0−1mM EDTA中、4℃でホモジナイズする。ホモジネートを回転装置に4℃で30分間入れ、4℃にて100’000gで45分間、TLA100.3ローター(Beckman TL-100超遠心機)で遠心分離する。上清から、吸光分光光度計を用いてタンパク質濃度を測定する。
【0110】
従前に記載されたように、生後5〜7日のラット小脳組織のトリプシン消化物から小脳顆粒細胞を精製する(Niederost et al 1999, Bovine CNS myelin contains neurite growth-inhibitory activity associated with chondroitin sulfate proteoglycans, J Neurosci. 1999 Oct 15;19(20):8979-89)。次に、本発明の結合分子を試験基質上で30分間プレインキュベートし、細胞を添加する前に取り出す。小脳顆粒細胞を添加し、24時間インキュベートする。試験を停止するために、2mlの4%緩衝ホルムアルデヒドを培養ディッシュにゆっくり添加する。上記のように調製したサル脳膜タンパク質抽出物を、培養ディッシュ1cmにつきタンパク質15μgで、Greinerの4ウェルディッシュ(Greiner, Nuertingen, Germany)に一晩吸着させた。神経細胞を播種する前に、ディッシュを温かいハンクス液で3回洗浄する。生後(5〜7)日のラット小脳顆粒細胞を上記のように調製し、50,000細胞/cmで播種する。細胞を無血清培地で24時間培養し、固定し、神経突起マーカーMAB1b(ChemiconモノクローナルAb、1:200)で免疫染色する。細胞体の染色に、DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニル−インドール二塩酸塩、Molecular Probes製)をMAB1b染色後に使用する。抗体試験のために、抗Nogo−A mAbまたは対照IgG Abをディッシュ上で30分間プレインキュベートした後に除去する。
【0111】
40倍対物レンズを使用して、観察野の中心を通って配置した線と神経突起との全ての交差を計数することにより、ウェルの縁に対して一定の距離にある4つの視野を各ウェルにつき無作為にサンプリングする。従前に報告されているように(Simonen et al, 2003, Neuron 38,201-211)、その線に触れている細胞体も全て計数し、細胞体当たりの神経突起の指数比を各ウェルについて算出する。総数を暗号化された実験で盲検法により行い、細胞体当たりの神経突起の指数として表す。結果を神経突起/細胞体の平均指数として表す。
【0112】
本発明の結合分子とともにプレインキュベートすることにより、上記で調製された脊髄抽出物の非許容的環境において、小脳顆粒細胞の神経突起伸長の増強を観察することができる。
【0113】
本発明の分子の中和活性は、下記に簡単に示すインビボ脊髄損傷モデルにおいて、再生的発芽および神経突起伸長および機能的回復を測定することによっても評価することができる。
【0114】
2.ラットおよびサルの脊髄損傷モデル(インビボ)
成体Lewisラットを、脊髄の背側半分を両側的に第8胸椎のレベルで横に石灰することにより、顕微手術的に傷つける。椎弓切除術、麻酔および手術は、Schnell and Schwab 1993 (Eur. J. Neurosci. 5: 1156-1171)に記載されている。
【0115】
神経解剖学的追跡:順行性トレーサーのビオチンデキストランアミン(BDA)をポンプまたは移植片の反対側の皮質に注射することにより、運動および感覚皮質脊髄路を追跡する。BROESAMLE et al., (2000 J. Neurosci. 20: 8061-8068)に記載のように、BDAは10〜14日以内に脊髄に輸送され、ジアミノベンジジン(DAB)を基質として使用して可視化される。
【0116】
両方の主要な脊髄離断(CST)を含む、主に背側半分で脊髄節T8の約40%を破壊する脊髄損傷の2週間後:対照動物のCSTの追跡は、中程度の索の反応性発芽を示す。この現象は、文献で周知の、損傷に応答した自発的発芽に相当する。本発明の結合分子で、または本発明の結合分子を送達するポンプにより処置された損傷ラットは、損傷部での発芽の増強および損傷を受けた軸索の再生、損傷を受けた神経突起の神経突起伸長を示し得る。さらに、それらの動物は、感覚運動機能の回復の改善を示し得る。このような機能試験は従前に記載されている(Merkler et al, 2001, J. Neuroscience 21,3665-73)。
【0117】
3.成体サルCNSにおける抗体の組織分布
本発明の結合分子をIgGとして精製し、PBS中で3mg/mlに濃縮する。マウス血清由来IgG(Chemicon Int., Temecula/CA, USA)またはコムギオーキシンに対するmAB(AMS Biotechnology, Oxon/UK)を対照処理として使用する。この研究では、2匹の雄成体マカクザル(カニクイザル)を髄腔内注入に使用する。
【0118】
手術手順
ケタミン(Ketalar(登録商標);Parke-Davis、5mg/kg、i.m.)の筋肉内注射により麻酔を誘導する。アトロピンをi.m.注射(0.05mg/kg)し、気管支分泌を低減させる。プロポフォール1%(Fresenius(登録商標))とグルコース4%溶液の混合物(プロポフォール1容量とグルコース溶液2容量)で継続的に潅流するために、静脈内カテーテルを大腿静脈に留置し、より深い麻酔を誘導する。次いで、その動物を定位固定の枠組みに置く。無菌条件下、C2からTh1まで垂直正中皮膚切開を行う。筋膜を切断し、C2からTh1の脊髄突起を露出させる。脊椎傍筋を牽引し、C6、C7およびTh1の薄膜を剥離する。次いで、C6完全椎弓切除術および上部C7片側椎弓切除術を行う。硬膜を露出させ、第6頸髄薄膜により覆われた脊髄部分の吻側域に相当する、第7および第8頸髄節の上で長軸方向に切開する。hNogo−A抗体を送達する浸透圧ポンプ(Alzet(登録商標)、2ML1;流速:50μg/時)に接続したポリエチレンチューブ(長さ10cm)を硬膜下に挿入し、数ミリメートル吻側に押し、硬膜に縫合で取り付ける。浸透圧ポンプを、椎弓切除の数センチメートル下の左側に、背筋の塊で作られた空洞に置いて固定する。チューブをその軌道に沿って縫合で筋肉組織に固定する。それらの筋肉と皮膚を縫合し、通常プロポフォールの静脈潅流の中断の15〜30分後に、動物は麻酔から回復する。動物を手術後に抗生物質(アンピシリン10%、30mg/kg、s.c.)で処置する。さらに、カルプロフェン(Carprofen)を1週間毎日投与する。
【0119】
これらのサルを浸透圧ポンプ移植の8日後に犠牲にする。鎮静は、上記の通りに最初にケタミンで誘導し、続いて深麻酔を致死量のペントバルビタール(90mg/kg)の腹腔内(i.p.)注射により達成した。これらの動物を、0.4リットルの0.9%塩水で、続いて4リットルの固定液(0.1Mリン酸バッファー中の4%パラホルムアルデヒド溶液、pH=7.6)で、経心的に潅流する。潅流を漸増濃度の3種類のスクロース溶液(固定液中10%、リン酸バッファー中20および30%)で継続する。
【0120】
組織学的手順、免疫蛍光および組織化学
サルの脳および脊髄を注意深く切り出し、30%スクロース中で凍結保護し、クライオスタットにて40μmの切片に切る。注入したmABの検出のために、抗ヒト二次抗体を使用する(Jackson Laboratories)。二重標識のために、以下の抗体を使用することができる:内因性Nogo−A用にウサギAS472(親和性精製したもの)(Chen, 2000)、星状細胞用にGFAPに対するウサギ抗体、およびリソソーム局在用にカテプシンD(DAKO)に対するウサギ抗体。抗血清は全て、対応する二次抗体に結合したTRITCまたはFITCにより、またはABC−DABシステム(Vector)を用いて可視化する。切片をZeiss Axiophotにて落射蛍光により、または共焦顕微鏡(ZEISS LSM 410)により分析する。
【0121】
注入部位およびその6cm尾側で脊髄を分析する。注入部位に高レベルの本発明の結合分子が存在する。より尾側の脊髄では、中心管および索表面が強く標識され、一方、灰白質および白質はより均質的な標識を示すが、それはバックグラウンドより特異的かつ明確である。前脳にも同様の状況が存在し、表面および脳室の強い標識ならびに実質へのNogo−A抗体の良好な浸透がある。
【0122】
これらの実験は、CNS細胞表面抗原に対する抗体の脊髄髄腔内注入が、内側(脳室、中心管)および外側の液体空間におけるCSF循環を介して、本発明の結合分子および抗体の良好な分配を導くことを示す。IgG抗体は脳および脊髄組織に良好に浸透する。陰性対照IgG抗体は迅速に洗い流されるが、Nogo−Aに対する抗体は脳および脊髄組織に保持される。
【0123】
4.サルの脊髄損傷における神経修復および機能的改善に関する試験
ケタミン(Ketalar(登録商標);Parke-Davis、5mg/kg、i.m.)の筋肉内注射により麻酔を誘導する。アトロピンをi.m.注射(0.05mg/kg)し、気管支分泌を低減させる。プロポフォール1%(Fresenius(登録商標))とグルコース4%溶液の混合物(プロポフォール1容量とグルコース溶液2容量)で継続的に潅流するために、静脈内カテーテルを大腿静脈に留置し、より深い麻酔を誘導する。次いで、その動物を定位固定の枠組みに置く。無菌条件下、C2からTh1まで垂直正中皮膚切開を行う。筋膜を切り、C2からTh1の脊髄突起を露出させる。脊椎傍筋を退縮させ、C6、C7およびTh1の薄膜を剥離する。次いで、完全なC6椎弓切除術および上部C7片側椎弓切除術を行う。分子を損傷近傍に送達するために、ポンプに取り付けたポリエチレンチューブの空いている先端を、損傷の数ミリメートル吻側の硬膜下に固定する。
【0124】
手先運動の器用さ(behavioural manual dexterity)の検査は公表されている手順に従って行うことができる。手先運動の器用さは、霊長類用の椅子に座らせたサルを、ランダムに分布した50個の孔(25個の孔は水平に、25個は垂直に向いている)を含む、パースペクス(Perspex)改変型「ブリンクマンボード(Brinkman board)」(10cm×20cm)の前に置くことにより訓練する{Liu, 1999 15428 /id;Rouiller, 1998 13239 /id}. 2.7。記載されている通りに、再生と繊維の出芽を評価することができる。右半球に注射される順行性トレーサーは、ビオチン化デキストランアミン(BDA, Molecular Probe(登録商標)、塩水中10%)である。左半球には、蛍光順行性トレーサーであるフルオレセインデキストラン(Molecular Probe(登録商標)、塩水中10%)を注射する。トレーサーを可視化するための組織学的処理は、従前に詳述されている通りに行うことができる {Rouiller, 1994 8322 /id}。
【0125】
従って、本発明はまた、
(i)哺乳類神経系、特にヒト神経系の神経修復における、本発明のNogoおよびNiG結合分子の使用、
(ii)有効量の本発明のNogoおよびNiG結合分子を、そのような処置を必要とする患者に投与することを含む、哺乳類神経系、特にヒト神経系の神経を修復する方法、または、
(iii)本発明の結合分子および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、哺乳類神経系、特にヒト神経系の神経修復のための医薬組成物
も提供する。
【0126】
よって、本発明は、薬剤として用いるための本発明の結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターまたは発現系、および宿主細胞を提供する。特に、該結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または宿主細胞は末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置に、または末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置用薬剤の製造のために用い得る。
【0127】
本発明はまた、本発明の結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または宿主細胞を少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む医薬組成物も提供する。本発明はまた、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置における同時、個別または逐次使用のための組合せ製剤としての、該結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または該宿主細胞、あるいはその薬理学上許容される誘導体を含有する製品も提供する。
【0128】
また、処置を必要とする対象に有効量の本発明の結合分子、ポリヌクレオチド、発現ベクターもしくは発現系または宿主細胞を投与することを含む、末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置方法も考えられる。
【0129】
本発明はさらに、実施例において、これらの薬理学的組成物および製品が結合分子の徐放性のため、および/または損傷部位における結合分子の局所定着のために使用され得ることを示す。
【0130】
本明細書において、「徐放性」という用語または等価の用語である「制御放出」または「長期放出」とは、個体に投与した後に一定の時間にわたってNogoAまたはNiGに対する抗体などの本発明のNogoAまたはNiG結合分子を含むポリペプチド薬のような有効薬を放出する薬物製剤を表す。薬物製剤に応じて、例えば、分、時間、日、週またはさらに長いものなどの一定範囲の時間にわたって生じ得るポリペプチド薬の長期放出は、実質的に全ての投与単位が即時吸収または血流による即時分布に利用可能な標準製剤とは対照的である。好ましい長期放出製剤は、単一の投与単位から、例えば、8時間以上、12時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、60時間以上、72時間以上、84時間以上、96時間以上、またはさらには例えば1週間または2週間以上、例えば、1か月以上持続される循環薬剤レベルをもたらす。長期放出製剤は当技術分野で十分記載されており、好ましい抗体放出特性に従って選択することができる。
好適なポリマーとしては、生分解性および非生分解性材料、例えばポリ乳酸グリコール酸(PLGA)が挙げられる。
【0131】
本明細書において「エピトープ」とは、通常、免疫グロブリンVH/VL対が結合する構造単位を表す。エピトープは抗体に対する免疫結合部位を定義し、従って、抗体の特異性の標的を表す。単一ドメイン抗体の場合では、エピトープは単一の可変ドメインが単独で結合する構造単位を表す。
【0132】
本明細書において「中和」とは、本明細書に記載されているようなNogoAまたはNiG結合分子に関して用いる場合、結合分子がNogoAまたはNiGの測定可能な活性または機能を妨げることを意味する。NogoAまたはNiG結合分子は、例えばNogoまたはNiGなどの標的抗原の測定可能な活性または機能を少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%またはそれを超える、100%阻害まで(含む)低減する場合に「中和」抗体である。この、標的抗原の測定可能な活性または機能の低減は、当業者ならば、このような活性または機能の1以上の指標を測定する標準的な方法を用いて評価することができる。一例として、標的がNogoまたはNiGである場合、中和活性は下記の神経突起伸長アッセイを用いて評価することができる。
【0133】
特に、本発明の結合分子は、神経繊維損傷後の軸索再生および出芽の改善に有用である。従って、本発明の分子は、特にヒト対象のために広範な用途を有する。例えば、本発明の結合分子は、末梢神経系(PNS)および中枢神経系(CNS)の様々な疾患、すなわち、より具体的には、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レービー様病またはその他の痴呆症全般などの神経変性疾患、頭蓋、大脳または脊髄外傷後の疾患、脳卒中または脱髄性疾患の処置に有用である。このような脱髄性疾患としては、限定されるものではないが、多発性硬化症、単相性脱髄、脳脊髄炎、多巣性白質脳症、全脳炎、マルキアファーバ・ビニャミ病、橋髄鞘崩壊症、副腎白質萎縮症、ペリツェウス・メルツバッハー病、海綿状変性症、アレキサンダー病、カナバン病、異染性白質ジストロフィーおよびクラッベ病が挙げられる。一例では、本発明の結合分子の投与は、NogoAタンパク質に関連する脱髄性疾患の処置に使用可能である。
【0134】
別の例では、本発明の結合分子を発現する細胞を脊髄損傷部位に移植し、損傷部位全体の軸索成長を促進し得る。このような移植細胞は、損傷または外傷後の脊髄機能回復のための手段を提供する。このような細胞には、嗅覚鞘性細胞および胎児神経または組織移植片の種々の系統の幹細胞が含まれ得る。
【0135】
加えて、本発明の結合分子は、一般的な虚血性網膜症、前部虚血性視神経症、あらゆる形態の視神経炎、加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、網膜色素変性症、シュタルガルト病(Stargardt's disease)、ベスト卵黄状網膜変性(Best's vitelliform retinal degeneration)、レーバー先天黒内障およびその他の遺伝性網膜変性、病的近視、未熟児網膜症およびレーバー遺伝性視神経症、角膜移植または角膜屈折手術の後遺症、ならびにヘルペス性角膜炎を含む、直接的または間接的に網膜または角膜細胞の変性に関与する変性性眼障害の処置に有用である。
【0136】
さらに、本発明の結合分子は、精神医学的症状、特に統合失調症および鬱病の処置に有用である。
【0137】
これらの適応症のために、適切な用量は、もちろん、例えば、用いる本発明の特定の分子、投与様式および処置される症状の性質および重篤度に応じて変動する。一般に、用量は、好ましくは、1μg/kg/日〜1mg/kg/日の範囲にある。
【0138】
本発明の結合分子は、便宜には、ポンプにより投与されるか、または損傷部位に治療剤として注射され、例えば、それらは頭蓋内的にCNSに、または髄腔内的に脊椎に、損傷部位に対して直接投与することができる。体液で満たされた脊髄周囲の空間はくも膜下または髄腔内空間と呼ばれる。脳脊髄液(CSF)がこの領域を流れ、脳および脊髄を浸し、保護している。髄腔内薬剤ポンプは、経口薬剤が体内で採る経路を迂回してCSFに直接薬剤を送達するので、経口投与よりもはるかに効果的に働き得る。従って、好ましい実施形態では、投与は、例えばポータブルポンプに接続した外付けカテーテルを用いて、髄腔内投与により行う。さらなる好ましい実施形態では、髄腔内ボーラス注射を用いる。薬剤の髄腔内投与に好適な手段および方法は当技術分野で公知である。ポンプの非限定例としては、Alzet(登録商標)ポンプおよびMedtronic SynchroMed(登録商標)またはIsomed(登録商標)注入システムがある。これらの結合分子は持続的に注入することもできるし、あるいは、より好ましくは、例えば、脳脊髄液における直接的ボーラス注射により、1、2、3、4、5、6、7、10、14、21または30日の特定の間隔で固定用量として投与することもできる。
【0139】
本発明の結合分子は、単独で、または、他の薬剤と組み合わせて、または連続的に組み合わせて提供することができる。例えば、本発明の結合分子は、限定されるものではないが、脳卒中または脊髄損傷後にさらなる神経損傷および軸索再生の阻害を遮断するための手段としてのコルチコステロイドなどの抗炎症薬と、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの神経栄養因子と、またはExelon(商標)(Rivastigmine)もしくはレボドパ(L−DOPA(3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン))などの神経変性疾患用の他の薬剤と組み合わせて投与することができる。脳卒中の処置用の他の好適な組合せ相手としては、アルテプラーゼ(Alteplase)およびデスモテプラーゼ(Desmoteplase)(DSPA、例えばWO90/09438に開示)がある。一実施態様では、本発明は、特に脳卒中の処置用の、本発明の結合分子およびデスモテプラーゼを含む組合せ、ならびに該組合せを含む医薬組成物を提供する。本明細書において、2つの薬剤が同時に投与されるか、またはそれらの薬剤が同時に作用するような方法で独立して投与される場合に、2つの薬剤が組み合わせて投与されると言われる。
【0140】
コード番号、一般名または商品名で識別される有効成分の構造は、標準的大要「The Merck Index」の現行版から、または例えばPatents International(例えば IMS World Publications)などのデータベース、もしくはIMS Healthにより提供される他のデータベースから得ることができる。これらの対応する内容は出典明示により本明細書の一部とされる。当業者ならば、有効成分を特定することが十分に可能であり、これらの参照文献に基づいて製造し、インビトロおよびインビボの双方で標準的試験モデルにおいて医薬適応および特性を試験することが同様に可能である。
【0141】
本発明の医薬組成物は、常法で製造することができる。例えば、本発明の分子を含む本発明の組成物は好ましくは凍結乾燥形態で提供される。即時投与のためには、それを好適な水性担体、例えば注射用無菌水または無菌緩衝生理塩水に溶解する。
【0142】
好適な組成物の製造を補助するために、本発明の結合分子、および場合により本発明の結合分子の効果を増強する第二の薬剤を、同じ容器内に別個に、混合または同時投与に関する説明書とともに包装してもよい。任意の第二の薬剤の候補は上記で示されている。
【0143】
本発明の結合分子とNGFなどの成長因子の組合せの相乗効果は、脊髄損傷モデルによりインビボで立証することができる。
【0144】
本発明はまた、本発明の結合分子徐放性薬剤を製造するための本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0145】
本発明はまた、損傷部位における本発明の結合分子の局所定着のための薬剤の製造のための、本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0146】
本発明はさらに、本発明の結合分子の徐放性のための、また、損傷部位における本発明の結合分子の局所定着のための、本発明の医薬に関する。
【0147】
本発明はまた、本発明の結合分子の徐放性のための、また、本発明の結合分子の局所定着のための方法に関する。
【0148】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、より詳細に理解されよう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。
【0149】
以下の実施例において、温度は全て摂氏度(℃)である。
【0150】
実施例で注目するモノクローナル抗体は、配列番号5で示される軽鎖の可変領域と配列番号4で示される重鎖可変領域を含むか(6A3−IgG1)、または配列番号25で示される軽鎖の可変領域と配列番号24で示される重鎖の可変領域を含む(6A3−IgG4)、本発明による結合分子である。
【0151】
上の段落において、「含む」とは「からなる」を包含するのが明らかである。
【0152】
以下の略号を使用する:
ELISA 酵素結合免疫測定法
FACS 蛍光活性化細胞選別
FITC フルオレセインイソチオシアネート
FBS ウシ胎児血清
FCS ウシ胎児血清
HCMV ヒトサイトメガロウイルスプロモーター
IgG 免疫グロブリンイソ型G
mAb モノクローナル抗体
VH 重鎖可変領域
VL 軽鎖可変領域
LC 軽鎖
HC 重鎖
CDR 相補性決定領域
BSA ウシ血清アルブミン
aa アミノ酸
bp 塩基対
CNS 中枢神経系
HRP セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ
RT 室温
PBS リン酸緩衝生理食塩水
TBS Tris緩衝生理食塩水
CEA 癌胎児性抗原
IF 免疫蛍光
IgG 免疫グロブリンG
PBS−T 0.05% Tween 20含有リン酸緩衝生理食塩水
PFA パラホルムアルデヒド
【0153】
本発明を次の限定されない例によって説明する。
【実施例】
【0154】
実施例1:Medarex 6A3抗hu−NogoAモノクローナル抗体の配列
NogoAのヒトNiG−フラグメントに対して高い親和性を有するヒトIgG1モノクローナル抗体を選択した。Medarex Inc., Annandale, NJによって組換えにより再構成された、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するマウス「Medarexマウス」を用い、標準的なハイブリドーマ技術によって誘導されたマウスハイブリドーマ細胞クローンからオリジナルモノクローナルを選択した。ヒトNiGで免疫されたMedarexマウスの作出およびそのハイブリドーマの生産は当技術分野で周知であり、WO2005/028508に記載されているものと同様の条件に従った。ほとんどのハイブリドーマの抗体産生レベルは極めて低かったので、組換えDNA技術を用いて、細胞株において、完全抗体またはFab−フラグメントの高レベル産生に特化した発現ベクターを構築した。精製AbおよびAbのFabフラグメントの作製は周知であり、例えば、WO2005/028508に詳細に記載されている。精製6A3−mAbおよび6A3−Fabの作製の場合も同様のステップに従った。
【0155】
6A3−IgG1抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするcDNAをハイブリドーマmRNAからPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅し、クローニングし、配列決定により同定した(図1および2;配列番号7および6)。
【0156】
実施例2:FabおよびIgG4の作製
6A3 mAbはIgG1イソ型である。ヒトIgG1イソ型抗体は細胞Fc受容体に対して高い親和性を有し、抗体依存性細胞毒性(AADC)および補体依存性細胞傷害性(CDC)を誘導し得る(Jerries et al., 2002, Hezareh et al., 2001)。さらに、IgG mAbは、Fc受容体により媒介される逆輸送により、脳から血液脳関門を通って血液へ急速に流出することが報告されている(Zhang et al., 2001)。6A3 IgG1 mAbの潜在的なFc受容体媒介相互作用を除去するため、また、SP2/0細胞および大腸菌における高能力発現のための一価Fabフラグメントの組換え生産のためにも、そのイソ型を組換えによりIgG4に切り換えた。
【0157】
このヒト抗Nogo−A抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインの配列決定により、高能力生産細胞株における6A3−Fabフラグメントおよび6A3−IgG4イソ型抗体の組換え生産が可能であった。
【0158】
Fabフラグメントの大腸菌発現のために、両cDNA(配列番号7および配列番号6)をpASK116にクローニングした。これらのcDNAのクローニングに用いたプラスミドは、マウスIgG1/κの定常ドメイン遺伝子を提供する(Skerra, 1994)。この抗体フラグメントの2個のポリペプチド鎖は、テトラサイクリンプロモーターの転写制御下にあるオペロンにコードされている。第一のシストロンはFabフラグメントの重鎖部分をコードする。このVHドメインを、そのN末端においてOmpAシグナルペプチドと、そしてそのC末端においてマウスIgGクラスのCH1ドメインと融合されていた。第二のシストロンは、PhoAリーダーペプチドおよびマウスCH1ドメインに融合されたVLドメインを有する軽鎖をコードする。発現誘導時には、このFabフラグメントの二鎖が大腸菌の周辺質に同時の分泌されるようになり、そこでタンパク質の折りたたみ、ジスルフィド結合の形成および鎖の組み立てが生じた。大腸菌でこのFabを発現させるため、これらのプラスミドを大規模生産用のBMPに導入した。
【0159】
SP2/0細胞におけるIgG4抗体としての発現のための6A3抗体の軽鎖および重鎖可変領域のクローニングに関しては、対応するcDNAをプラスミドLCvec−AAL160およびhcMCPfinにクローニングした。IgG4完全抗体の発現に関しては、これらのプラスミドを、LC構築物ではNotIで、そしてHC構築物ではPvuIで線状化し、SP2/0細胞にトランスフェクトした。
【0160】
hisタグを有する6A3 IgG4および6A3 Fab一価フラグメントが首尾よく産生および精製された。これらの組換え抗体は、BIAcore試験(下記参照)においてヒトNogoAフラグメントhNiGに対して高い親和性を示す。個々のkD値は0.14nMおよび1.1nMであり、ヒトNogoAフラグメントhNiGに対するその高い親和性を保持するAbの適正かつ首尾よいクローニングおよび組換え発現が確認される。
【0161】
6A3−Ig4の重鎖および軽鎖のコード領域およびアミノ酸配列を図3および4(配列番号24、25、28および28)に示す。
【0162】
実施例3:6A3−Abの相補性決定領域の決定
6A3抗体の可変重鎖および軽鎖の相補性決定領域は、URL: www.bioinf.org.uk/abs/にてKabatデータベースを用いて決定した。このKabat定義は配列の変動に基づき、抗体可変領域のCDRを決定するために最もよく使用されている方法である(Wu TT, Kabat EA, 1970)。
【0163】
CDRの前の典型的な残基がLEWIGであるはずのところLEWVAが見られたCDR−H2を除き、6つのCDR定義の全てが、実験的に決定されたアミノ酸配列とよく相関していた(図5)。しかしながら、CDR−H2に関してはいくつかのバリエーションがあり得る。
【0164】
実施例4:NiGに対するマウス6A3−IgG1、6A3−IgG4および6A3 Fabのバイオセンサー親和性測定
マウス6A3−IgG1 mAb、6A3−IgG4 mAbおよび6A3 Fabの親和性を、BIAcore 2000光学バイオセンサー(Biacore, Uppsala, Sweden)を製造者の説明書に従って用い、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。組換えヒトNiGを、アミンカップリング化学を用い、CM5センサーチップのフローセルに共有結合的に固定化した。簡単に言えば、カルボキシメチリル化デキストランマトリックスを、0.025M NHSおよび0.1M EDCを含有する溶液35μlを注入することにより活性化した。センサーチップへの固定化に関しては、組換えヒトNiGを0.01Mクエン酸バッファー(pH4)に希釈し、親和性測定を可能とするカップリングレベルに達するように流速5μl/分で注入した。残っているNHS−エステル基の不活性化合物は、1Mの塩酸エタノールアミン(pH 8.5)35μlを注入することにより行った。このセンサーチップの表面を、5μlの0.1M HClを注入することにより再生した。親和性の測定に関しては、抗体を0.50nM〜100nMの範囲の種々の濃度で、流速200μl/分にて注入した。各注入後に、センサーチップの表面を10μlの0.1M HClを注入することで再生し、表面の結合活性の損失は無かった。速度定数kaおよびkdと親和性定数KAおよびKDを、製造者により供給されているBIAevaluations 3.0ソフトウエアを用いて評価した。
【0165】
BIAcoreにおける親和性の測定:組換えヒトNogoAに対するマウス6A3−IgG1 mAb、6A3−IgG4 mAbおよび6A3由来一価Fabフラグメントの速度定数および親和性結合定数を、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(Biacore)を用いてリアルタイムで測定した。この分析のため、組換えヒトNiGをセンサーチップ表面に結合させ、種々の濃度の抗体を注入する。結合相互作用の速度パラメーターは、非線形曲線の当てはめにより、センサーグラムから導いた。抗体のヒトNiGに対する平衡時の親和性定数は、6A3−IgG4、6A3−IgG1、6A3 Fabに関してkD 0.13nM〜2.5nMの範囲であった。
【0166】
実施例5:抗NogoA抗体NVP−6A3−Ab−NX−1およびNVP−IIC7−NX−1と内因性ヒトNogoAとの結合
この実施例では、抗体の内因性ヒトNogo−Aとの結合を示す。この目的で、Nogo−Aの乏突起特異的遺伝子発現を示すことが従前に同定されている2種のヒト細胞株を試験し、その後、抗体の特異的結合に関して試験した。ヒト乏突起神経膠細胞株MO3.13およびHOGを用いて、本発明者らの2個の抗Nogo−A抗体NVP−6A3−Ab−NX−1(6A3−Ab)とNVP−IIC7Ab−NX−1(IIC7−Ab)を内因性Nogo−Aに対するそれらの結合に関して特性決定した。さらにこれらの細胞を用い、臨床試験のための種々の抗体バッチの特性決定のためのバイオアッセイを開発した。2つの独立した試験設定において、6A3−Abと、これらの細胞中の内因性ヒトNogo−Aとの結合を分析および検出した。
【0167】
第一段階では、ヒトNogo−Aに特異的なプライマーを用いたRT−PCRにより、MO3:13細胞をNogo−A mRNAの存在に関して分析した。第二段階で、両抗体の内因性Nogo−Aに対する結合を、MO3.13細胞溶解液の免疫沈降および免疫検出によって示した。最後に、MO3.13およびHOG細胞の、6A3−Abによる特異的免疫蛍光染色によって、免疫沈降からの結果を確認した。
【0168】
このようにして、6A3−ABおよび11C7−Abの双方が、内因性ヒトNogo−Aと特異的に結合し得ることが分かった。
【0169】
方法
細胞株:MO3.13細胞はトロント大学のN. Cashman博士から入手した。それらはヒト横紋筋肉腫(RD)の6−チオグアニン耐性変異株と、外科術検体から培養した成人ヒト乏突起神経膠細胞との融合物に由来するものであった。HOG細胞はシカゴ大学のG. Dawson博士から入手した。この細胞株は外科術で摘出した乏突起神経膠腫から確立したものであった。細胞は全て、Glutamax、10%ウシ胎児血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを添加した高グルコース含有ダルベッコの改変イーグル培地(Gibco)で培養した。
【0170】
RT−PCR:Tripure試薬(Roche Diagnostics)を用い、5×10 MO3.13細胞から全RNAを調製した。DNアーゼ処理の後、Omniscript RT(Qiagen)およびオリゴdT−プライマーを用い、総量20μlにて1μgのRNAを逆転写した。PCRに用いたプライマーはNogo−Aに特異的であり、全長ヒトNogo−Aの1197番bpで始まる194bpフラグメントを増幅する(5’−TGAGGGAAGTAGGATGTGC−3’(配列番号32)、5’−CAGGTGATGTACGCTCTGGA−3’(配列番号33))。反応は2μl cDNA(または0.1μg RNA−RT)、5μl 10×バッファー、3μl dNTP(各5mM)、2.5μl 5’プライマー(10μM)、2.5μl 3’プライマー(10μM)、0.5μl HotStar Taq−ポリメラーゼ(Qiagen)および34.5μl HOを用いて設定した。次のPCRを用いた:95℃ 15分、(94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 15秒)を35回、72℃10分→4℃。PCRが完了した後、10μlアリコートを2%臭化エチジウムアガロースゲルで分析した。
【0171】
免疫沈降および免疫検出:各IPにつき、集密まで増殖させたMO3.13細胞の10cmφ培養ディッシュ1枚をPBSで洗浄し、細胞を、完全プロテアーゼ阻害カクテル(Roche Diagnostics)を含有する500μlのM−PER哺乳類タンパク質抽出試薬(Pierce)中で溶解させた。この溶解液の可溶性画分を室温で15分間、Gタンパク質−セファロース(Sigma)で予備洗浄した。この予備洗浄した上清に、新鮮なGタンパク質−セファロースおよび対応する抗体(終濃度50nM)を加え、回転シェーカー上、4℃で4時間インキュベートした。抗体は6A3 IgG4、11C7 IgG1または無関連のタンパク質(癌胎児性抗原)に対する抗CEA IgG4(陰性対照として用いる)のいずれかであった。非結合画分の分析のため、各上清のアリコートを保持し、セファロースはTNSバッファー(10mM TrisHCl pH7.8、1%(w/v)N−ラウリルサルコシン、100mM NaCl)で4回、PBSで1回洗浄し、セファロース結合画分を20μlのSDS−PAGEローディングバッファー(Invitrogen)で溶出した。これらのサンプルを5分間95℃に加熱し、各10μlのアリコートをMES−バッファー中、NuPage4〜12%勾配ゲル(Invitrogen)に流した。これらのタンパク質を30Vで4時間セルロース膜にブロットし、Ponceau染色で転写が完了したかどうかを分析した。転写後、この膜をPBS−T中、ウエスタンブロッキング試薬(Roche Diagnostics)にて4℃で一晩ブロッキングした。免疫検出に関しては、この膜を1nM濃度の6A3−IgG4抗体とともに室温で2時間インキュベートした後、抗ヒトペルオキシダーゼ結合二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。シグナルはECL-Advance(Amersham)を用いて検出し、1分間フィルムに露光した。
【0172】
免疫蛍光:MO3.13およびHOG細胞を8ウェルのポリ−D−リシンコーティング組織チャンバースライド(Becton Dickinson)に播種し、集密度80%まで増殖させた。PBSで洗浄した後、細胞を室温で30分間、4%PFA中で固定した。非特異的結合を10%FCS、0.1%Triton X−100で20分間ブロッキングした。これらの細胞を1%FCS、0.1%Triton X−100中で1時間、6A3−IgG4 5nMとともに、または陰性対照としてバッファーのみでインキュベートした。抗体インキュベーションの後、細胞をPBSで3回洗浄し、PBSで1:200希釈した、Alexa Fluor 488標識抗ヒトIgG抗体(Molecular Probes)とともに1時間インキュベートした。
【0173】
結果
RT−PCR:鋳型としてMO3.13 RNAを用いたRT−PCRでは、200bp前後の明瞭に異なるDNAフラグメントが生じた(図6)。陰性対照(逆転写を行わないRNAおよびHO)では産物は検出されなかった。PCRフラグメントは予測されたサイズの194bpに見られ、陰性対照サンプル(DNアーゼで処理したRNAおよびHO)では産物は増幅されなかった。
【0174】
免疫沈降:MO3.13細胞溶解液の免疫沈降(IP)および6A3抗Nogo−A抗体による免疫検出(図7)の後、6A3−IgG4(レーン4)および11C7−IgG1(レーン6)抗体の双方で予測されたサイズ(190kDa)に単一の強いバンドが検出された。無関連のタンパク質(癌胎児性抗原)に対する抗CEA対照抗体を用いたIP後(レーン1)および非結合画分(レーン5および7)においてはシグナルは検出されなかった。IP前の粗MO3.13細胞溶解液ではかすかなバンドが見られる(レーン2)。不溶性細胞溶解液画分ではより低分子量にかすかな非特異的シグナルが見られる(レーン3)。
【0175】
免疫蛍光:透過処理されたMO3.13細胞およびHOG細胞の、6A3−IgG4およびAlexa-Fluor 488標識抗ヒト二次抗体による免疫蛍光染色では、細胞の極めて明るい染色が生じた(図8aおよび8b、右側)が、二次抗体だけでは実質的にシグナルは検出されなかった(右側)。
【0176】
考察
PCRにNogo−A特異的プライマーを用いたMO3.13細胞のRT−PCR分析では、予測されたサイズ(194bp)のDNAフラグメントが得られたが、非逆転写RNAサンプルまたは水対照ではPCR産物は検出されなかった。この結果から、本発明者らは、これらの細胞が内因性Nogo−Aを発現するものと結論付ける。
【0177】
MO3.13細胞溶解液からの免疫沈降および抗Nogo−A抗体6A3による免疫検出は、予測されたサイズ(190kDa)に単一の強いNogo−Aバンドを示した。これに対し、抗CEA(IgG4)対照抗体は、相当するサイズのバンドを生じなかった。6A3と11C7の免疫沈降から得られるバンド間の強度の違いは、異なる抗体イソ型の、Gタンパク質セファロースに対する親和性の違いによるものである可能性が最も高い(6A3の親和性>11C7の親和性)。MO3.13およびHOG細胞の双方の細胞内免疫蛍光染色からの結果は、6A3−IgG4が内因性Nogo−Aと結合することを示した。
【0178】
これらの結果から、これらの2種の細胞株が内因的にNogo−Aを発現すること、および6A3 IgG4抗体(6A3−Ab)と11C7 IgG1抗体(11C7−Ab)の双方が内因性ヒトNogo−Aと特異的に結合することを結論付けた。これらの所見は、例えば抗体の特性決定のためのNogo−A結合アッセイを確立するために、MO3.13細胞株を用い得る。
【0179】
実施例6:脳損傷を受けたマカクザルの機能回復に対する6A3処置の効果
さらなる研究において、従前に記載されたようにマカクザルに損傷を起こし、損傷時から6A3または対照IgGの4週間髄腔内注入で処置した。損傷を受けた左手の手先の器用さを、本明細書で上述したような条件下で改変型ブリンクマンボード検査を用いて測定した。6A3処置は、対照IgG処置に比べて機能回復の速度および程度を改善した。試験の終了時に損傷のサイズを測定したところ、対照IgGで処置したサルの機能回復は損傷サイズとほぼ逆の相関が見られ、50%損傷の90%から90%損傷の53%まで変動があった。逆に、抗Nogo−A mAbで処置した動物における回復量は損傷サイズによって有意に影響されず、6A3処置マウスでは、損傷サイズが85%と高かった場合でさえ、ほとんどそれらの損傷前の性能に達した。
【0180】
実施例7:ヒト対象における6A3抗体のCSF保持および半減期
ヒト対象における6A3抗体のCSF保持および半減期をCSF注入後14日間測定し(一日用量15mg/日)、血清およびCSFで個々の濃度を測定した(図9および10)。
【0181】
CSF濃度は、注入中に測定されたレベルに比べ、一定のままか、またはわずかに低下するだけで、2つの場合では、34日目および56日目まで、すわなち、注入終了のおよそ20日後および42日後まで続き、6A3のCSFにおける驚くべき長期滞留および/または半減期を示す。この薬物動態的挙動は種々の投与経路およびより長い間隔での投与計画を可能とするであろう。2日以上または数週間の間隔でのCSFへのボーラス注射も実施可能である。6A3抗体はまた、生分解性または非生分解性ポリマーおよびインプラント中の処方物など、制御放出製剤にも好適である。
【0182】
実施例8:マカクザルSCIモデルにおける有効性
3匹のサルに、正確な細かい指の動きの創出を不能にすることが知られている損傷である、C7/C8境界における脊髄の片側断裂を施し、対照動物においてはマウスIgG抗体または処置動物においては6A3抗体のいずれかを1mg/日の用量で4週間障害部位に髄腔内送達する浸透圧Alzet(登録商標)ポンプを埋め込んだ(図11およびFreund et al., Nat Med 12:7 90-2, 2006)。手先の器用さは改変型ブリンクマンボード検査にて、垂直スロットと水平スロットからのフードペレットの取り出しによって評価する。他の挙動課題としては、引き出しからのペレットの取り出し、腕の弾道運動(ballistic arm movements)、食物を掴む足の運動能および痛みや不快に対する挙動観察が挙げられる。これらの課題は損傷60日前から損傷120日後に一定間隔で行う。
【0183】
サルに片側脊髄断裂を施し、マウスIgG対照抗体(n=2、すなわち、50%損傷を有するCont.1と90%損傷を有するCont.2)または6A3(n=2、すなわち、85%損傷を有するATI1と80%損傷を有するATI2)のいずれかを1mg/日の用量で4週間、髄腔内処置した(サルの体重:Cont1は5.1kg、Cont2は4.1kg、ATI1は5.0kg、ATI2は4.5kg)。結果は、試験期間中の特定の試験日におけるペレットの総数として示される。値は、損傷前と性能レベルが安定して維持された際の損傷後の個々の挙動スコアを用いて算出した。
【0184】
サルにおける6A3抗体処置は、対照のIgG処置したサルと比較して、損傷を受けた左手を用いて垂直スロットと水平スロットからのフードペレットの取り出しに段階的な改善を与えた。対照のサルは、垂直スロットからの取り出しよりも手先の器用さが要求される動きである水平スロットからのペレットの取り出しに全面的な持続性の欠陥を示した。
【0185】
ブリックマンボード検査において回復が最大レベルに達した後、サルを、損傷を受けた左手で引き出しの取っ手を掴み、それを引き出し、引き出しの中の孔からフードペレットを取り出す能力に関して試験した。90%の損傷を有する対照のIgG処置したサル(Cont.2)は取っ手を掴んで引き出しを開けることが全面的にできなかった。その腕の動きは正常なもの、また手の形成異常のものよりも遅かった。これはダブル矢印線から導き出すことができ、損傷前の活動と損傷後の活動の間の明らかな違いを示し、対照IgG抗体による処置は部分的な回復のみを示す。85%(ATI−1)または80%(ATI−2)の損傷を有する6A3抗体処置動物は、損傷のサイズに関わらず、迅速かつ有効に課題の実行能を回復した。6A3抗体で処置した場合、損傷前の活動と損傷後の活動に実質的な違いは無く、6A3抗体処置による完全な回復を示す。よって、6A3抗体処置は、マカクザルにおいて、IgG対照抗体処置に比べ、脳損傷誘導後の回復に明らかに有益な効果をもたらす。
【0186】
実施例9:臨床試験
好適な臨床試験は次のように記載される:
この試験は、スクリーニング相(ベースラインを含む)、非盲検処置相および少なくとも22週間の追跡調査相の三相を有する。この試験は独立データ安全性モニタリング委員会(Data Safety Monitoring Board (DSMB))の管理下で実施される。
【0187】
全部で22名の患者を一部重複する4つの一連のコホートに登録し、6A3抗体の持続的注入を受けさせる。さらなる安全性評価のため、全ての患者に注入後少なくとも22週間の追跡調査期間を設ける。
【0188】
患者の割当てならびにコホートによる処置用量および処置期間は次の通りである。
・コホート1:3人の対麻痺患者が5mg[2.5ml中]を24時間受容
・コホート2:3人の対麻痺患者が30mg[2.5ml中]を24時間受容
・コホート3:6人の対麻痺患者が30mg/日まで[2.5ml/日]を14日間受容
・コホート4:10人の対麻痺および四肢麻痺患者が30mg/日まで[2.5ml/日中]を28日間受容
【0189】
患者を注入の開始後少なくとも6か月の期間密接にモニタリングする。患者の状態はバイタルサインの測定、ECGの記録(中央施設による解釈)および血液、尿およびCSFマトリックスに基づく実験室的評価により密接にモニタリングする。ASIAスケール(Applicable Standard Neurological Classification of Spinal Cord Injury by the American Spinal Injury Association) (Ditunno, et al, 1994; American Spinal Cord Injury Association. Paraplegia 32(2): 7080.)を用いた神経学的検査は、有効性を評価できるだけでなく、脊髄損傷の潜在的憎悪を評価できる適格臨床医学者により行われる。各患者につき全部で4回の脳および脊髄MRIを行う。薬物動態(PK)分析のため、各患者から3時点(投与前、処置相および追跡調査相)でCSFサンプルを採取する。また、処置相および追跡調査相にPK分析のために血液サンプルも入手する。全ての患者からのデータをプロトコールに従い、独立DSMBにより再審査する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトNogoAポリペプチド(配列番号2)またはヒトNiG(配列番号3)と特異的に結合する少なくとも1個の抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が、
・順序通りに超可変領域CDR−H1、CDR−H2およびCDR−H3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)のそれぞれと少なくとも90%同一である);ならびに
・順序通りに超可変領域CDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3(これらの超可変領域の各々は、超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)のそれぞれと少なくとも90%同一である)
を含む、単離された分子。
【請求項2】
前記抗原結合部位が、
・順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10);ならびに
・順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)
を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項3】
・(i)順序通りに超可変領域CDR−H1−6A3(配列番号8)、CDR−H2−6A3(配列番号9)およびCDR−H3−6A3(配列番号10)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン重鎖またはそのフラグメント;ならびに
・(i)順序通りに超可変領域CDR−L1−6A3(配列番号11)、CDR−L2−6A3(配列番号12)およびCDR−L3−6A3(配列番号13)を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントを含む少なくとも1個の免疫グロブリン軽鎖またはそのフラグメント
を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項4】
解離定数<1000nMを有する、請求項1に記載の結合分子。
【請求項5】
前記ヒト重鎖の定常部分またはそのフラグメントがγ4型であり、前記ヒト軽鎖の定常部分またはそのフラグメントがκ型である、請求項1に記載の結合分子。
【請求項6】
前記結合分子がヒトまたはキメラまたはヒト化モノクローナル抗体である、請求項1に記載の結合分子。
【請求項7】
配列番号4(IgG1重鎖)、配列番号5(IgG1軽鎖)、配列番号24(IgG4重鎖)および配列番号25(IgG4軽鎖)からなる群から選択される1個またはそれ以上のポリペプチド配列を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項8】
請求項1に記載の結合分子をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
・配列番号14、配列番号15および配列番号16からなる群から選択される少なくとも1個のポリヌクレオチド配列;または
・配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される少なくとも1個のポリヌクレオチド配列
のいずれかを含む、請求項8に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
・順序通りに配列番号14、配列番号15および配列番号16を含むポリヌクレオチド配列;ならびに
・順序通りに配列番号17、配列番号18および配列番号19を含むポリヌクレオチド配列
を含む、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
・配列番号6のポリヌクレオチド配列および/または配列番号7のポリヌクレオチド配列;または
・配列番号26のポリヌクレオチド配列および/または配列番号28のポリヌクレオチド配列
を含む、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項13】
請求項12の発現ベクターを含む発現系であって、該発現系またはその一部が、その発現系またはその一部が適合する宿主細胞中に存在する場合に請求項1のポリペプチドを産生することができる、発現系。
【請求項14】
請求項12のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項15】
請求項12に記載の発現ベクターまたは請求項14に記載の宿主細胞を含む、単離された組成物。
【請求項16】
末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置を必要とするヒトに請求項1に記載の結合分子を投与する方法。
【請求項17】
請求項1に記載の結合分子、請求項8に記載のポリヌクレオチド、請求項13に記載の発現ベクターもしくは発現系の各々、または請求項14に記載の宿主細胞を、少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む、医薬組成物。
【請求項18】
末梢神経系(PNS)および/または中枢神経系(CNS)の疾患の処置方法であって、そのような処置を必要とする対象に有効量の請求項1に記載の結合分子、請求項8に記載のポリヌクレオチド、請求項12もしくは13に記載の発現ベクターもしくは発現系の各々、または請求項14に記載の宿主細胞を投与することを含む、方法。
【請求項19】
疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、レービー様病またはその他の認知症全般、頭蓋、脳または精髄損傷後の疾患、脳卒中および脱髄疾患からなる群から選択される神経変性疾患である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
投与が損傷部位に局所的に、頭蓋内に、または髄腔内に行われる、請求項18〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の結合分子を作製する方法であって、組換えDNA技術の手段または化学合成の手段によって、請求項12または13に記載の発現ベクターまたは発現系のそれぞれにおいて請求項8に記載のポリヌクレオチドを発現させることを含む、方法。
【請求項22】
徐放性組成物である、請求項17に記載の医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2011−502476(P2011−502476A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531504(P2010−531504)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064501
【国際公開番号】WO2009/056509
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【出願人】(501393966)ウニヴェルジテート・チューリッヒ (13)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
【Fターム(参考)】