説明

改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体

【課題】高面圧下での耐摩耗性を向上させ、従来よりも高面圧のしゅう動環境下でも使用することができる改質ふっ素樹脂組成物及を提供する。
【解決手段】有機ポリマと、未改質のふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質させた改質ふっ素樹脂と、芳香族ポリアミドと、カーボンブラックとを少なくとも混合してなる改質ふっ素樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ふっ素樹脂からなる高面圧下での耐摩耗性、耐クリープ性に優れたしゅう動部品、シール品、パッキン、ガスケット、半導体製造用容器・治具(ジグ)・配管などに用いられる改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムやプラスチックの有機ポリマが広範囲の用途に使用されており、中でもふっ素樹脂は低摩擦性、耐熱性、電気特性、耐薬品性やクリーン性(非汚染性)に優れ、産業、民生用の各種用途に広く利用されている。
【0003】
しかし、しゅう動環境下や高温での圧縮環境下では摩耗やクリープ変形が大きいため、ふっ素樹脂にガラス繊維やカーボン繊維などの充てん剤を加えることにより、摩耗やクリープ変形を改善する対策がとられてきた。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2007−186676号公報
【特許文献2】特開2007−332208号公報
【特許文献3】特開2007−186597号公報
【特許文献4】特開2005−213513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような手法でも高面圧下で使用される場合、耐摩耗性が十分ではなく耐久性に問題があった。この対策として特許文献1〜4に開示されているような手法が検討されているが、用途によっては、従来よりも面圧の高いしゅう動環境下(例えば、4MPaよりも大きい面圧が印加されるようなしゅう動環境下)で使用される場合がある。このため、従来の改質ふっ素樹脂組成物、或いはこれを用いて成形したふっ素樹脂成形体が有する耐摩耗性では十分とは言えない状況にある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高面圧下での耐摩耗性を向上させ、従来よりも高面圧のしゅう動環境下でも使用することができる改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために創案された本発明は、有機ポリマと、未改質のふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質させた改質ふっ素樹脂と、芳香族ポリアミドと、カーボンブラックとを少なくとも混合してなる改質ふっ素樹脂組成物である。
【0009】
前記芳香族ポリアミドが繊維状芳香族ポリアミドであるとよい。
【0010】
前記カーボンブラックは、一次粒子の平均粒径が50nm以下であるとよい。
【0011】
前記カーボンブラックは、一次粒子の結晶子の大きさが5nm以下、前記結晶子の厚さが0.5nm以下であるとよい。
【0012】
前記改質ふっ素樹脂、前記芳香族ポリアミド、前記カーボンブラックの総重量が全重量に対し10〜50重量部であり、かつ前記改質ふっ素樹脂の重量が全重量に対し5〜30重量部であり、前記芳香族ポリアミドの重量が全重量に対し2〜15重量部であり、前記カーボンブラックの重量が全重量に対し1〜10重量部であるとよい。
【0013】
また本発明は、前記改質ふっ素樹脂組成物を用いて成形された改質ふっ素樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高面圧下での耐摩耗性を向上させ、従来よりも高面圧のしゅう動環境下でも使用することができるため、有機ポリマの応用範囲を広げる上で大きく貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0016】
本発明者らは、改質ふっ素樹脂組成物の高面圧下での耐摩耗性向上について種々検討した結果、有機ポリマ、改質ふっ素樹脂に加え、さらに芳香族ポリアミドおよびカーボンブラックを添加することにより、改質ふっ素樹脂組成物の耐摩耗性が著しく向上することがわかり、本発明を完成するに至った。
【0017】
本実施の形態に係る改質ふっ素樹脂組成物は、少なくとも有機ポリマと、未改質のふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質させた改質ふっ素樹脂と、芳香族ポリアミドと、カーボンブラックとを混合してなる。
【0018】
(有機ポリマ)
有機ポリマとしては、ニトリルゴムやふっ素ゴム、あるいはエポキシ樹脂、ナイロン、芳香族系ポリマなどのプラスチックが挙げられるが、中でもふっ素樹脂が最も好ましく、具体的には、テトラフルオロエチレン共重合体(PTFE)、テトラフルオロエチレン−フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキシソール共重合体(THF/PDD)から選ばれた1種以上の未改質のふっ素樹脂が挙げられる。
【0019】
前記PTFEの中には、第2成分となる異種フルオロモノマとして、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロアルキル)エチレンあるいはクロロトリフルオロエチレンなどの共重合性モノマーが重合単位で1モル%以下、好ましくは0.2モル%以下含有するものも含まれる。また、前記ふっ素樹脂の場合、その分子構造中に少量の第3成分となる異種フルオロモノマを含むこともできる。
【0020】
また、改質ふっ素樹脂に用いる未改質のふっ素樹脂としては、前述した未改質のふっ素樹脂を用いるのが好ましい。
【0021】
(改質ふっ素樹脂)
本発明において改質ふっ素樹脂は、融点が325℃以下、結晶化熱量が40J/g以下であることが望ましく、これらが限定値を超えると耐摩耗性や対クリープ性が著しく低下する。なお、ふっ素樹脂がPFAのときは融点が305℃以下、結晶化熱量が26J/g以下とすることが好ましく、FEPのときは融点が275℃以下、結晶化熱量が11J/g以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明において熱特性の評価には示差走査熱量計(DSC)を用い、50〜360℃の間で10℃/minの昇・降温スピードにより昇温、降温を2サイクル繰り返し、2回目の昇温時のDSC曲線の吸熱ピーク温度を融点とし、2回目の降温時の発熱ピークとベースラインに囲まれたピーク面積からJIS K7122に準じ、結晶化熱量を求める。
【0023】
改質ふっ素樹脂は、未改質のふっ素樹脂を酸素分圧約1333Pa(10torr)以下の不活性化ガス雰囲気下で、かつ未改質のふっ素樹脂の融点以上に加熱した状態において電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射することにより製造するのがよい。
【0024】
電離性放射線としては、ガンマ線、電子線、X線、中性子線あるいは高エネルギーイオンなどを使用する。
【0025】
電離性放射線の照射を行う際は、ふっ素樹脂をその結晶融点以上に加熱しておく。例えばふっ素樹脂としてPTFEを使用する場合には、この融点である327℃よりも高い温度で照射し、またPFA、FEPを使用する場合には、前者が310℃、後者が275℃に特定される融点よりも高い温度に加熱して照射する。ふっ素樹脂をその融点以上に加熱することは、ふっ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活性化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率良く促進させることが可能となる。ただし過度の加熱は逆に分子主鎖の切断と分解を招くようになるので、加熱温度はふっ素樹脂の融点よりも10〜30℃高い温度範囲内に抑えるのが好ましい。
【0026】
(芳香族ポリアミド及びカーボンブラック)
本発明で用いる芳香族ポリアミドは、耐熱性および補強性から繊維状芳香族ポリアミドが望ましい。ここで繊維状芳香族ポリアミドとは、芳香族ポリアミドの繊維径に対し繊維長さが10倍以上のものである。繊維長さが10倍以上であれば、改質ふっ素樹脂組成物の耐摩耗性向上への著しい効果が得られる。
【0027】
本発明で用いるカーボンブラックとしては、一次粒子の平均粒径が50nm以下であることが望ましい。ここで平均粒径とは、電子顕微鏡により測定した一次粒子の粒径の粒度分布から算術平均にて算出して得られる平均値である。また、一次粒子の結晶子の大きさが5nm以下、かつ結晶子の厚さが0.5nm以下であることが好ましい。これらの範囲内であれば、改質ふっ素樹脂組成物の特に耐摩耗性向上への大幅な効果が得られる。ここで結晶子とは、単位結晶とみなせる最大の集まりのことをいう。また、結晶子の大きさ、結晶子の厚さは、例えば、X線回折によって求めることができる。
【0028】
改質ふっ素樹脂、芳香族ポリアミド、カーボンブラックの総重量は、有機ポリマ、改質ふっ素樹脂、芳香族ポリアミド、カーボンブラックを含む混合物の全重量に対し10〜50重量部であり、その中で前記改質ふっ素樹脂の重量が前記混合物の全重量に対し5〜30重量部、望ましくは15〜30重量部、前記芳香族ポリアミドの重量が前記混合物の全重量に対し2〜15重量部、より望ましくは5〜10重量部、前記カーボンブラックの重量が前記混合物の全重量に対し1〜10重量部、より望ましくは1〜5重量部の範囲となるように、それぞれ混合させることが望ましい。これらの範囲を下回る場合、改質ふっ素樹脂組成物の耐摩耗性向上への効果が小さく、またこれらの範囲を超えた場合には、改質ふっ素樹脂組成物の引張特性、曲げ強度などの機械的特性や加工性などの低下を招く。
【0029】
また、本実施の形態に係る改質ふっ素樹脂組成物には、前記構成に加え、さらに固体潤滑剤が含まれていてもよく、潤滑性をさらに上げることも可能である。固体潤滑剤としては、グラファイトと2硫化モリブデンから選ばれた1種以上のものを用いる。
【0030】
以上の構成である改質ふっ素樹脂組成物を焼成、圧縮成形するなどして、本実施の形態に係る改質ふっ素樹脂成形体が得られる。
【0031】
本実施の形態の作用を説明する。
【0032】
本実施の形態に係る改質ふっ素樹脂組成物は、有機ポリマと、未改質のふっ素樹脂に電離性放射線を照射することにより改質した改質ふっ素樹脂と、芳香族ポリアミドと、カーボンブラックとを混合してなる。
【0033】
このため、改質ふっ素樹脂組成物及びこれを用いて成形された改質ふっ素樹脂成形体の耐摩耗性が著しく向上する。この理由について詳細は不明であるが、改質ふっ素樹脂と芳香族ポリアミドの組み合わせにより、しゅう動面相手材に転移膜を形成しやすくなること、および芳香族ポリアミドとカーボンブラックとの組み合わせにより、組成全体の弾性率が上がり、高温下や高面圧下での変形が抑制されること、さらには加重集中点として作用する結果、バルクへの負荷が軽減されるためと推定する。これらの相乗的な作用で、改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体の大幅な耐摩耗性の向上が発現するものと推定している。
【0034】
したがって、本実施形態に係る改質ふっ素樹脂組成物及び改質ふっ素樹脂成形体は、高温下や高面圧下での耐摩耗性を向上させ、従来よりも高面圧のしゅう動環境下でも使用することができるため、耐摩耗性に優れ、クリープ変形が小さく、しかもふっ素樹脂本来の良好な特性を保持しうる。これにより、本発明は有機ポリマの応用範囲を広げる上で大きく貢献するものである。
【0035】
本実施の形態に係る改質ふっ素樹脂成形体の用途としては、しゅう動部品、半導体関連製造部品などがあり、幅広い用途が期待できる。
【実施例】
【0036】
有機ポリマとしてはPTFE(旭硝子社の商品名P−63P)を使用した。また、このPTFEを用い、酸素分圧約1333Pa(10torr)、窒素(101325Pa(760torr))雰囲気下、340℃の温度のもとで電子線(加速電圧1.5MeV)を120kGy照射し、改質を行って改質ふっ素樹脂を作製した。その後、増幸産業(株)のスーパーマスコライダーMKZA10−15Jにより平均粒径20μm、最大粒径90μmに微粉砕し、粉末状の改質ふっ素樹脂とした。この粉末状の改質ふっ素樹脂を窒素雰囲気の下、325℃で1.5時間熱処理を行い、さらにホソカワミクロン(株)のコントラプレックス250CWを用いて解砕し、熱処理した粉末状の改質ふっ素樹脂を作製した。この熱処理した粉末状の改質ふっ素樹脂の融点は、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計Pyris1 TGAによる窒素中、昇温速度10℃/分での測定により、318℃であった。降温速度10℃/分での測定では270〜310℃の結晶化曲線の面積から、熱処理した粉末状の改質ふっ素樹脂の結晶化熱量は33.5J/gであった。
【0037】
この熱処理した粉末状の改質ふっ素樹脂を用い、表1に示す組成に基づき配合し、実施例1〜6、比較例1〜4の各試料を作製し、これらの特性評価を行った。材料の混合にはヘンシェルミキサを用い、10℃の雰囲気下で3分間行った。このコンパウンドをホットホーミングにより成形した。粉体をφ45、高さ80mmの金型に充填し、360℃で2時間加熱後、常温に冷却して金型ごと取り出す。その直後に圧力50MPaで圧縮成形し、ビットを作製した。これを厚さ1mmおよび2mmに切削し、評価用シートを得た。厚さ1mmの評価用シートは引張試験用、厚さ2mmの評価用シートはしゅう動特性評価用とした。なお、測定数は各試料3点とし、これらの算術平均を平均値とした。
【0038】
(1)しゅう動特性
試験にはスラスト摩耗試験装置を使用し、JIS 7218に準じ、表面粗さRa0.2μmに加工したSUS304製の円筒リング(外径25.6mm、内径20.6mm)に対し試験片(外径25.6mm、内径20.6mm、厚さ2mm)を接触させ、試験を行った。この試験はオイル雰囲気中で行い、オイルには圧縮機用で使用される日立スクリュー圧縮機用オイル(New Screw オイル2000)を用いた。しゅう動特性評価は圧力5MPa、速度1m/sec、温度24℃の条件で行った。24時間後の重量減少を測定し、比摩耗量(×10-8mm3/Nm)を算出すると共に、定常状態のトルク曲線から摩擦係数を求めた。
【0039】
(2)引張試験
前記摩耗試験片と同様の厚さ1mmシートを用い、これを23℃に1昼夜放置後、JIS K7113に準拠し、引張速度200mm/分の条件で引張試験を行った。使用したダンベルは2(1/2)号形である。
【0040】
実施例1〜6、比較例1〜4の各試験片について、しゅう動特性を示す比摩耗量と摩擦係数の測定結果と、引張特性を示す引張強さと伸びの測定結果とを、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、実施例1〜6は、PTFE、改質PTFE、芳香族ポリアミド、カーボンブラックを含む組成からなるので、いずれも比摩耗量が小さく耐摩耗性に優れ、かつ摩擦係数も低いレベルを保持している。さらに引張強さおよび伸びも高い値を示している。
【0043】
これに対し、芳香族ポリアミドおよびカーボンブラックを併用していない比較例1は、比摩耗量が大きく耐摩耗性に劣る。また、カーボンブラックを併用していない比較例2、芳香族ポリアミドを併用していない比較例3、改質PTFEを混和していない比較例4は、いずれも比摩耗量が大きく、比較例1と同様、耐摩耗性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマと、未改質のふっ素樹脂に電離性放射線を照射して改質させた改質ふっ素樹脂と、芳香族ポリアミドと、カーボンブラックとを少なくとも混合してなることを特徴とする改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリアミドが繊維状芳香族ポリアミドである請求項1記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックは、一次粒子の平均粒径が50nm以下である請求項1または2記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックは、一次粒子の結晶子の大きさが5nm以下、前記結晶子の厚さが0.5nm以下である請求項1〜3いずれかに記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記改質ふっ素樹脂、前記芳香族ポリアミド、前記カーボンブラックの総重量が全重量に対し10〜50重量部であり、かつ前記改質ふっ素樹脂の重量が全重量に対し5〜30重量部であり、前記芳香族ポリアミドの重量が全重量に対し2〜15重量部であり、前記カーボンブラックの重量が全重量に対し1〜10重量部である請求項1〜4いずれかに記載の改質ふっ素樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の改質ふっ素樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする改質ふっ素樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−37382(P2010−37382A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199544(P2008−199544)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】