説明

改質アルミナ水和物粒子およびその製造方法、ならびに改質アルミナ水和物粒子を含むインクジェット受容層成用塗布液および受容層付基材

【課題】所定の平均粒子径を有する改質アルミナ水和物粒子を提供し、安定性に優れるインクジェット受容層形成用塗布液、および、透明性に優れ、ヘイズ値が低く、耐擦傷性、密着性に優れ、顔料インクおよび染料インクを用いる際の、滲み、乾燥性、耐水性に優れるインクジェット受容層、インクジェット受容層付基材を提供することを課題とする。
【解決手段】アルミナ水和物であって、平均一次粒子径(D1)が5〜30nmの範囲にあり、平均二次粒子径(D2)が5〜500nmの範囲にあり、平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)が1〜100の範囲にあり、少なくとも一種以上の周期表第2族金属の塩で修飾されてなることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の平均粒子径を有する改質アルミナ水和物粒子およびその製造方法、ならびに改質アルミナ水和物粒子を含むインクジェット受容層成用塗布液および受容層付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式には、顔料もしくは染料インクの微小液滴を紙やPETフィルムなどの被記録媒体(メディア)に噴霧して画像、文字などの記録を行う方法が採用され、産業用だけでなく家庭用としても急速に普及している。
しかしながら、記録の高速化、高精細化、耐水性、耐擦傷性、定着性等の記録特性の向上に対応するための十分なメディアは存在しておらず、インクの吸収性、色再現性、彩度、写像性等に優れたメディアについて開発が行われている。
【0003】
現在、メディアとしては、基材と、インクジェット受容層からなるメディアが用いられている。このようなメディアとしては、膨潤型メディアと空隙型メディアがあるが、インクの吸収速度の点から、空隙型メディアが主に用いられている。
【0004】
このような空隙型メディアに関して、特開平8-310115号公報(特許文献1)に
はアルミナ水和物と水溶性ポリマーを含むインクジェット受容層を有する被記録媒体において、該インクジェット受容層がアニオンにより凝集したアルミナ水和物一次粒子の凝集構造体と水溶性ポリマーとからなるインクジェット受容層が開示されている。
【0005】
また、特開2006−1226号公報(特許文献2)には、少なくとも無機微粒子とアセトアセチル基を有するポリマーを含有している水溶液であるインクジェット受容層用塗液を支持体に塗布し、乾燥終了前に該水溶液を電子線照射することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法が開示され、該無機微粒子として一次粒子径が3〜30nmであり、二次粒子径が500nm以下のシリカもしくはアルミナ水和物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-310115号公報
【特許文献2】特開2006−1226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一次粒子径が小さく、二次粒子径が小さいアルミナ水和物粒子を用いてインクジェット受容層を形成すると、細孔径が小さく細孔容積の小さいインクジェット受容層が得られ、耐擦傷や透明性に優れるものの、インクの吸収速度が遅く、吸収容量が小さいために滲みが生じたり、不鮮明になることがあった。
【0008】
また、一次粒子径が大きく、二次粒子径が大きいアルミナ水和物粒子を用いてインクジェット受容層を形成すると、インクの吸収速度は速くなるが、耐擦傷や透明性に劣り、吸収容量が大きすぎるために滲みが生じたり、不鮮明になることがあった。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、所定の平均粒子径を有する改質アルミナ水和物粒子およびその製造方法を提供することを課
題とする。
【0010】
また、安定性に優れるインクジェット受容層形成用塗布液、および、透明性に優れ、ヘイズ値が低く、耐擦傷性、密着性に優れ、顔料インクおよび染料インクを用いる際の、滲み、乾燥性、耐水性に優れるインクジェット受容層、インクジェット受容層付基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定の粒子径を有し、周期表第2族金属の塩で修飾されてなる改質アルミナ水和物粒子を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
本願の第1の発明は、アルミナ水和物粒子であって、平均一次粒子径(D1)が5〜30nmの範囲にあり、平均二次粒子径(D2)が5〜500nmの範囲にあり、平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)が1〜100の範囲にあり、少なくとも一種以上の周期表第2族金属の塩で修飾されてなることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子である。
【0013】
本願の第2の発明は、前記改質アルミナ水和物粒子の細孔容積が0.4〜3.0ml/gであることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子である。
本出願の第3の発明は、前記第1の発明又は前記前記改質アルミナ水和物粒子に含まれるアルミナと周期表第2族金属の塩との質量比が、100:0.005〜100:5.0の範囲にあることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子である。
【0014】
本願の第4の発明は、前記第1の発明、第2の発明又は第3の発明における前記周期表第2族金属の塩が、Mg、Ca、Sr又はBaから選ばれる金属の塩であることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子である。
【0015】
本願の第5の発明は、下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする前記第1の発明、第2の発明、第3の発明又は第4の発明のいずれかの改質アルミナ水和物粒子の製造方法である。
(a)アルミナヒドロゲルを洗浄し、塩基性条件下で加熱熟成する工程
(b)前工程に続いて、有機酸の存在下又はpH3.0〜4.5の酸性条件下、周期
表第2族金属の塩を添加し、改質アルミナヒドロゲルを得る工程
(c)前工程で得られた改質アルミナヒドロゲルを乾燥して、改質アルミナ水和物粒子を
調製する工程
【0016】
本願の第6の発明は、前記第5の発明の工程(b)における有機酸の使用量が、アルミナヒドロゲルに含まれるアルミナ100質量部に対して、3〜50質量部であることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子の製造方法である。
【0017】
本願の第7の発明は、前記第5の発明又は第6の発明の工程(b)における周期表第2族金属の塩の使用量が、アルミナヒドロゲルに含まれるアルミナ100質量部に対して、0.005〜5質量部であることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子の製造方法である。
【0018】
本願の第8の発明は、マトリックス形成成分、架橋剤、前記第1の発明、第2の発明、第3の発明又は第4の発明のいずれかの改質アルミナ水和物粒子及び極性溶媒を含んでなることを特徴とするインクジェット受容層形成用塗布液である。
【0019】
本願の第9の発明は、前記第8の発明のマトリックス形成成分が、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル系架橋共重合体微粒子、ウレタン系架橋共重合体微粒子、アクリル−ウレタン系架橋共重合体微粒子から選ばれる1種以上であることを特徴とするインクジェット受容層形成用塗布液である。
【0020】
本願の第10の発明は、基材と、基材上に形成された被膜とからなり、該被膜が前記第8の発明又は第9の発明のインクジェット受容層形成用塗布液を用いて形成されることを特徴とするインクジェット受容層膜付基材である。
本願の第11の発明は、前記第10の発明の基材上に形成された被膜の細孔容積が0.04〜0.9ml/gであることを特徴とするインクジェット受容層膜付基材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の所定の粒子径を有し、周期表第2族金属の塩で修飾されてなる改質アルミナ水和物粒子を用いることで、粘度の経時安定性に優れたインクジェット受容層形成用塗布液を得ることができる。このインクジェット受容層形成用塗布液を基材に適用して得られたインクジェット受容層付基材は、透明性に優れ、ヘイズ値が低く、耐擦傷性及び密着性に優れるものである。また、このインクジェット受容層付基材は、顔料インク又は染料インクで印刷された時のインクの滲みが生じ難く、インクの乾燥性に優れ、印刷された部分の耐水性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る改質アルミナ水和物粒子およびその製造方法、ならびに改質アルミナ水和物粒子を含むインクジェット受容層成用塗布液および受容層付基材について詳細に説明する。
【0023】
〔改質アルミナ水和物粒子〕
本発明の改質アルミナ水和物粒子は、平均一次粒子径(D1)が5〜30nmの範囲にあり、平均二次粒子径(D2)が5〜500nmの範囲にあり、平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)が1〜100の範囲にあり、該アルミナ水和物粒子表面が、少なくとも一種以上の周期表第2族金属で修飾されていることを特徴とする。ここで周期表第2族金属の例としては、Mg、Ca、Sr又はBaを挙げることができる。
【0024】
このような処理がされてなる改質アルミナ水和物粒子をインクジェット受容層に用いると、顔料および染料インクを用いた場合に、滲みが少なく、乾燥性に優れるインクジェット受容層を形成することができる。なお、本願において、アルミナ水和物粒子の修飾とは、前記アルミナ水和物の表面に周期表第2族金属の塩が担持又は付着した状態を意味する。
【0025】
アルミナ水和物粒子表面の周期表第2族金属塩での修飾については、前記改質アルミナ水和物粒子に含まれるアルミナと周期表第2族金属の塩との質量比が、アルミナ100質量部に対して、周期表第2族金属の塩が0.005〜5.0質量部の範囲にあることが望ましい。かかる範囲にあれば、このような処理をされてなる改質アルミナ水和物粒子をインクジェット受容層に用いると、インクの滲みが少なく、乾燥性に特に優れるインクジェット受容層を形成することができる。前記周期表第2族金属の塩の使用量が前記下限未満の場合は塗布液としての分散性が悪く、形成されるインクジェット受容層膜の透明性が低下する恐れがあり、前記上限を超える場合は、改質アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径が小さくなり、インクジェット受容層膜の細孔容積が小さくなる傾向があり、インク吸収性が不十分となることがある。なお、前記周期表第2族金属の塩の使用量として、好まし
くは0.05質量部〜2.0質量部の範囲が推奨される。
【0026】
前記周期表第2族金属の塩としては、特に制限されるものではないが、硫酸塩又は硝酸塩などが好適に使用される。周期表第2族金属はカチオン性が高く、アルミナ水和物粒子表面を修飾すると、アルミナ水和物粒子がカチオン性を帯びるようになる。このため、改質アルミナ水和物粒子が正電荷を帯びることになるので、チクソ性を上げること無しに、改質アルミナ水和物粒子の水系分散液に負電荷のアニオン性物質を添加することで、改質アルミナ水和物粒子を凝集させて凝集構造体(二次粒子)とすることができる。
【0027】
こうして得られる凝集構造体(二次粒子)は、三次元的に一次粒子がゆるく集合した疎な構造の集合体であるため、これを基材に塗工することにより、ランダムに相互連通した細孔を有するインクジェット受容層を形成することができる。
【0028】
本発明にかかる改質アルミナ水和物粒子をインクジェット受容層の成分として使用すると、インク吸収性やビーディングが少ない等、優れた性能を有する被記録媒体が得られる。そして本発明のインクジェット受容層は、微細な一次粒子による疎な凝集構造体を含んでいるために、公知の二次粒子によって構成されるインクジェット受容層と異なり、優れたインク吸収性と共に高い透明性や平滑性を有する被記録媒体が得られる。さらに粒子間には静電的な強いインターラクションが働くことによって、皮膜形成性が高く、安定的にクラックの少ない厚いインクジェット受容層を形成することができる。
【0029】
改質アルミナ水和物粒子の平均一次粒子径、平均二次粒子径および(D2)/(D1)の値が上記範囲にあると、この改質アルミナ水和物粒子を用いて形成されるインクジェット受容層の細孔容積と細孔径がインク吸収に最適な値となるため、インクの吸収性、乾燥性に優れたインクジェット受容層を形成できる。また、平均二次粒子径(D2)が5〜500nmの範囲にある場合は、透明性、表面平滑性に優れたインクジェット受容層を形成できる。
【0030】
前記改質アルミナ水和物粒子の平均一次粒子径(D1)は、5〜30nmの範囲にある。平均一次粒子径(D1)が前記下限未満の場合はインクジェット受容層塗布液が経時により、ゲル化が生じ、インクジェット受容層の細孔径と細孔容積が小さくなり、インク吸収性が悪くなることがある。また、前記上限を超える場合は、インクジェット受容層の透明性と表面平滑性が悪くなることがある。平均一次粒子径(D1)の範囲として、より好適には5〜25nmの範囲が推奨される。
【0031】
平均二次粒子径(D2)は、5〜500nmの範囲にある。平均二次粒子径(D2)が前記下限未満の場合は、インクジェット受容層塗布液が経時によりゲル化が起こり、インクジェット受容層の細孔径と細孔容積が小さくなり、インク吸収性が悪くなることがある。前記上限を超える場合は、インクジェット受容層塗布液に沈殿が生じ、インクジェット受容層の透明性が悪くなることがあり、被膜強度も低下し、ヘイズ値は増大し、更には、基材との密着性が不充分となる場合がある。なお、平均二次粒子径(D2)の範囲として、より好適には20〜200nmの範囲が推奨される。
【0032】
本発明では、平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)は、1〜100の範囲にある。(D2)/(D1)の値が小さ過ぎると、インクジェット受容層塗布液が経時により、ゲル化が生じ、インクジェット受容層の細孔径と細孔容積が小さくなり、インク吸収性が不十分となる恐れがある。(D2)/(D1)の値が大きすぎると、インクジェット受容層の透明性および表面平滑性が低下し、被膜強度も低下し、ヘイズ値は増大し、更には、基材との密着性が不充分となる場合がある。(D2)/(D1)の範囲として、より好適には1〜40の範囲が推奨される。
【0033】
このような改質アルミナ水和物粒子を含むことで、得られるインクジェット受容層は、顔料インク、染料インク共に、滲み、乾燥性、耐水性に優れる。
【0034】
本出願における一次粒子とは、凝集体などの粒子の集合体を構成する単粒子を意味し、二次粒子は、一次粒子が複数個集合した粒子を意味する。本発明において、改質アルミナ水和物粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真(TEM、型番H-800、日立製作所
製)を撮影し、粒子の凝集状態を観察するとともに一次粒子100個について粒子径を測定し、その平均値が採用される。また、改質アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径とは、前記改質アルミナ水和物粒子の一次粒子が凝集した粒子のことをいい、粒子径分布測定装置(Particle Sizing Systems社製:NICOMP MODEL3
80)を用いて動的光散乱法により測定した値が採用される。
【0035】
本発明の改質アルミナ水和物粒子は、その細孔容積が0.4〜3.0ml/g、好まし
くは、0.5〜1.5ml/gであることが望ましい。
本発明において、改質アルミナ水和物粒子の細孔容積が上記範囲にあると、このような改質アルミナ水和物粒子を含むインクジェット受容層は、インク吸収速度がより速くなり、プリント時にインクが溢れたり滲んだりする現象を防止することができる。
本発明において、改質アルミナ水和物粒子の細孔容積は、窒素吸着法により測定した値が採用される。
【0036】
改質アルミナ水和物粒子を構成するアルミナ水和物は、公知であり、例えば、塩化アルミニウム水溶液のpHを7に調整し、常温で1時間程度攪拌することによりアルミナ水和物ゲル(アルミナヒドロゲル)を調製し、固液分離してから、60℃程度の純水で洗浄し、pHを3.5に調整して、120℃で2時間以上乾燥させることによるアルミナ水和物の粒子を得ることができる。なお、アルミナ水和物は、通常、次の一般式(1)で表されるものである。
【0037】
[式1]
Al23-n(OH)2n・mH2O・・・(1)
(上記式(1)中、nは0、1、2又は3の整数の何れかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の値を表す。但し、mとnは同時には0にはならない。mH2Oは、多くの場
合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相をも表すため、mは整数又は整数でない値を取ることもできる。又この種の材料をか焼すると、mは0の値に達することがありうる。つまり、アルミナ水和物は、水酸化アルミニウムと称されるものも含む。)で表されるものである。
【0038】
本発明の改質アルミナ水和物粒子を、インクジェット受容層として用いる場合には、インクを良く吸収し定着することなどから擬ベーマイト(Al23・mH2O、m>0)が
好適に使用される。
【0039】
(改質アルミナ水和物粒子の製造方法)
改質アルミナ水和物粒子の製造方法としては、下記工程(a)〜(c)を含む製造方法が好ましい。
(a)アルミナヒドロゲルを洗浄し、塩基性条件下で加熱熟成する工程
(b)前工程に続いて、有機酸の存在下、またはpH3.0〜4.5の酸性条件下、周期
表第2族金属の塩を添加し、改質アルミナヒドロゲルを得る工程
(c)前工程で得られた改質アルミナヒドロゲルを乾燥して、改質アルミナ水和物粒子を
調製する工程
【0040】
<工程(a)>
工程(a)では、アルミナヒドロゲルを、塩基性条件下で加熱熟成する。本発明において、アルミナヒドロゲルは、アルミニウム塩の中和反応によって生成した水酸化アルミニウムを含む媒体系(水酸化アルミニウムの水溶液、水酸化アルミニウムの水系分散液又は水酸化アルミニウムのスラリー)を意味する。本発明で使用するアルミナヒドロゲルとしては、公知の製造方法で得られたものを使用することができる。アルミナヒドロゲルの製造方法として、例えば、カルボン酸化合物の存在下に、水溶性アルミニウム塩水溶液と塩基性水溶液を反応させてなる製造方法を挙げることができる。
【0041】
前記カルボン酸化合物の例としては、グルコン酸、コハク酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、アジピン酸等又はこれらのナトリウム塩等が好適に使用できる。
前記水溶性アルミニウム塩水溶液としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウムなどを挙げることができる。
【0042】
前記塩基性水溶液としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどのアルミン酸アルカリ金属、苛性ソーダ、苛性カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、および/またはアンモニアなどの水溶液を挙げることができる。
前記アルミナヒドロゲルとしては、通常、Al23濃度が1〜10質量%のアルミナヒドロゲルが好適に使用される。
【0043】
本発明で使用するアルミナヒドロゲルは、洗浄により、不純物が除去されていることが好ましい。洗浄は、アルミナヒドロゲルの合成時に副生した塩を除去することを目的として行われる。洗浄方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、アルミナヒドロゲルにアンモニア水を添加し、濾過洗浄すればよい。副生した塩が残存したアルミナヒドロゲルを本発明製造方法に適用した場合、沈殿の生成などの問題が生じる。本発明製造方法に使用するアルミナヒドロゲルとしては、ベーマイトアルミナ水和物、ジブサイトアルミナ水和物および/またはバイヤライトアルミナ水和物などを挙げることができる。
【0044】
前記塩基性条件下とは、アルミナヒドロゲルをpH7.5〜11.5の範囲にすることをいい、pHをこの範囲とすることで、均一な粒径に制御し易くなり、更に結晶性が向上するので、所定の平均一次、二次粒子径を有する改質アルミナ水和物粒子を得ることができる。pHの調整には、通常、アンモニア水などのアルカリ性水溶液が使用される。前記pHは、より好適にはpH8.0〜11.5の範囲が推奨される。
【0045】
前記加熱熟成とは、アルミナヒドロゲルを常温〜98℃の範囲で、攪拌下あるいは攪拌なしで、3〜60時間保持することをいう。このような加熱熟成により、アルミナヒドロゲルの結晶性が向上し、最終生成物である改質アルミナ水和物粒子が所定の平均一次粒子径範囲となり易くなる。
【0046】
前記加熱の温度範囲は、好適には、50〜98℃の範囲が推奨される。なお、加熱熟成中もpHを7.5〜11.5の範囲を維持することが好ましい。pHを一定に維持するには、例えば、アンモニア水などのアルカリ性水溶液の所定量を供給し続ける方法がとられる。なお、アルミナヒドロゲル中に、pH調整のために添加されたアンモニア水などのアルカリ成分が、多量に残存した場合、(b)工程で添加する有機酸の量を増やす必要が生じる。そのため、加熱熟成後、有機酸の使用量を減らすことを目的として、水分蒸発により、例えば、アンモニアなど揮発性のアルカリ成分を除去しても構わない。また、この目的で、水分蒸発の際に揮発性のアルカリ成分を排気しても構わない。この場合、所望により、アルミナヒドロゲルスラリーから、アルカリ成分が除去された程度を確認する目的で、アルミナヒドロゲルスラリーの伝導度を測定することが好ましい。
【0047】
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)で、加熱熟成されたアルミナヒドロゲルに、有機酸存在下又はpH3.0〜4.5の酸性条件下、周期表第2族金属の塩を添加し、改質アルミナヒドロゲルを調製する。
【0048】
有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸グルコン酸、りんご酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、マロン酸、コハク酸、オレイン酸等を挙げることができる。有機酸は、アルミナヒドロゲルのpHを下げる効果があり、これによりアルミナヒドロゲルが解膠されることにより、二次粒子径が小さくなり、アルミナ水和物粒子表面に周期表第2金属塩を均一に修飾(吸着)させる効果がある。また、pHを下げる作用により、周期表第2族金属の塩が水酸化物になることを防ぐ効果がある。
【0049】
また、有機酸の使用量は、アルミナヒドロゲルに含まれるAl23100質量部に対して
、3〜50質量部が望ましい。有機酸の質量比がこの範囲であれば、周期表第2族金属の塩とアルミナヒドロゲルとの反応が効率的に進行する。また、前記有機酸の使用量は、好適には3.5〜10質量部の範囲が推奨される。
【0050】
有機酸を使用せず、無機酸を添加して、アルミナヒドロゲルのpHを3.0〜4.5に調
整しても構わない。ここで、無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸等を挙げることができる。
なお、有機酸又は無機酸の添加に先立って、アルミナヒドロゲルを適宜、水で希釈して使用して構わない。
【0051】
周期表第2族金属の塩の使用量については、改質アルミナ水和物粒子に含まれるアルミナ100質量部に対して、0.005〜5.0質量部の範囲で使用することが好ましい。また、前記周期表第2族金属の塩の使用量は、より好適には0.05〜2.0質量部の範囲が推奨される。
【0052】
周期表第2族金属塩は、上記と同様である。
【0053】
周期表第2族金属は、2価のイオンであるためアルミナヒドロゲル粒子表面に修飾(吸着)されても、電荷が残る。そのため、アルミナ水和物粒子を連結させることができ、インクジェット受容層における細孔径を適度に大きくさせ、インクの滲みと乾燥性を向上させる機能を有するものと推察される。
【0054】
有機酸存在下での周期表第2族金属の塩とアルミナヒドロゲルとの反応は、通常は50〜100℃の範囲で、1〜100時間かけて行う。この温度範囲であれば、効率的に周期表第2族金属の塩がアルミナヒドロゲルと反応することができる。
かかる方法によれば、得られた改質アルミナ水和物粒子をインクジェット受容層に用いる場合に、インクの滲み、乾燥性、耐水性、耐擦傷性に優れ、さらに、基材との密着性にも優れるインクジェット受容層を形成することができる。また、長期保存安定性に優れるインクジェット受容層形成用塗布液を得ることもできる。
【0055】
<工程(c)>
工程(c)では、前工程で得られた改質アルミナヒドロゲルを乾燥して、改質アルミナ水和物粒子を調製する。
【0056】
乾燥方法は、従来公知の方法を用いることができるが、前工程で得られた改質アルミナヒドロゲル分散液をノズルからチャンバー内に噴霧し、チャンバー内で熱風と接触させ瞬
間的に乾燥させることにより、粒子状(球形)の改質アルミナ水和物粒子を製造する噴霧乾燥法(スプレードライ法)が、好ましい製造方法として挙げられる。このような噴霧乾燥法により上記所望の粒子径を有するアルミナ水和物粒子を得ることができる。また、噴霧乾燥法は、乾燥時間が短いため、比較的熱に弱い物質を用いる場合にも適しており、連続的に大量生産できるため安いコストで改質アルミナ水和物粒子を製造することができるという利点も有する。
【0057】
上記の噴霧乾燥法によって改質アルミナ水和物粒子を製造する場合、一般的なスプレイドライヤー(ディスク回転式やノズル式等がある。)を用いた従来公知の方法で行うことができる。
【0058】
噴霧乾燥法のための各種条件は、得られる粒子の粒子径等を考慮しながら、適宜調整することができる。例えば、熱風気流中に1〜3リットル/分の速度で噴霧することによって行われる。この際、前記熱風の温度は、入り口温度が70〜400℃、好ましくは100〜300℃の範囲にあることが望ましく、出口温度が40〜60℃の範囲にあることが好ましい。前記分散液は、前記固形分濃度が1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%となるように予め調整した後、これをスプレイドライヤーに供して噴霧乾燥することが望ましい。
【0059】
このような改質アルミナ水和物粒子は、混和性を高めるため、予め後述するマトリックス形成成分で処理されていてもよい。処理とは特に制限されるものではなく、粒子粉末ないし粒子分散液にマトリックス形成成分を添加・混合すればよい。
【0060】
〔インクジェット受容層形成用塗布液〕
本発明のインクジェット受容層形成用塗布液は、マトリックス形成成分、架橋剤、前記改質アルミナ水和物粒子および極性溶媒とを含んでなる。
本発明のインクジェット受容層形成用塗布液には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、色味調整剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など各種の添加剤を添加することもできる。
【0061】
<マトリックス形成成分>
本発明で用いられるマトリックス形成成分としては、有機樹脂が好適に用いられる。
有機樹脂として、従来公知の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等のいずれも採用することができる。たとえば、従来から用いられているポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーンゴムなどの熱可塑性樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、ブチラール樹脂、反応性シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。さらにはこれら樹脂の2種以上の共重合体や変性体であってもよい。
【0062】
マトリックス形成成分は、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂、親水性樹脂であってもよい。さらに、紫外線硬化樹脂や電子線硬化性樹脂を使用してもよい。なお、熱硬化性樹脂の場合、硬化触媒が含まれていてもよい。
【0063】
マトリックス形成成分として使用される有機樹脂として、具体的にはシリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等の官能基を有する多官能(メタ)アクリル酸エステル樹脂を使用することも可能である。具体的にはヘキサエリスリトールトリペンタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールジメタクリレート、ブトキシジエチ
レングリコールメタクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリビニルアルコールまたはその変性体(カチオン変性、アニオン変性、シラノール変性)、澱粉またはその変性体(酸化、エーテル化)、ゼラチンまたはその変性体、カゼインまたはその変性体、カルボキシメチルセルロース、アラビヤゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、などのセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸またはその共重合体、アクリル酸エステル共重合体およびこれらの混合物あるいはこれら樹脂の2種以上の共重合体や変性体であってもよい。また、ビニル基、ウレタン基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、CF2基等の
官能基を有する多官能(メタ)アクリル酸エステル樹脂およびエマルジョン系微粒子も好適に採用可能である。
【0064】
具体的にはペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメテクリレート、イソデシルメテクリレート、n-ラウリルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、トリフロロエチルメテクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル系架橋共重合体微粒子、ウレタン系架橋共重合体微粒子、アクリル−ウレタン系架橋共重合体微粒子等およびこれらの混合物が挙げられる。
【0065】
本発明では、ポリアクリル酸系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂から選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。これらの樹脂を用いると、改質アルミナ水和物粒子との親和性が強いので、透明性、ヘイズ、染料の定着性等に優れるとともに耐擦傷性に優れたインクジェット受容層を得ることができる。
【0066】
さらに、本発明では、マトリックス形成成分として、平均粒子径が5nm〜20μm、さらには10nm〜10μmの範囲にある樹脂微粒子を用いることも可能である。樹脂微粒子には樹脂エマルジョンを含む。
【0067】
樹脂微粒子を使用する場合には、アクリル系架橋共重合体微粒子、ウレタン系架橋共重合体微粒子、アクリル−ウレタン系架橋共重合体微粒子およびこれらの混合物が好ましい。このような樹脂微粒子を用いると、樹脂が微粒子であるために、粒子間隙による細孔を有し、インクの吸収性、受容性に優れるインクジェット受容層を得ることができる。
【0068】
また前記平均粒子径を有する樹脂微粒子を使用することで、得られるインクジェット受容層の細孔容積、細孔径を調整することができ、インクの吸収性、乾燥速度等を調整あるいは向上することができる。
【0069】
<架橋剤>
本発明で用いられる架橋剤としては、特に制限はなく従来公知の架橋剤を用いることができる。 具体的には、アミン基を有する化合物、アルデヒド基を有する化合物、ヒドラジド基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、メチロールを有する化合物、金属アルコキシド、および/または金属キレート化合物等が挙げられる。これらは単独または組合せて使用してもよい。 インクジェット受容層形成用塗布液に架橋剤が含まれていると、得られるインクジェット受容層の強度が向上する。
【0070】
<極性溶媒>
本発明に用いる極性溶媒としては前記マトリックス形成成分、必要に応じて用いる重合開始剤を溶解あるいは分散できるとともに前記した改質アルミナ水和物粒子を均一に分散することができれば特に制限はなく、従来公知の溶媒を用いることができる。
【0071】
具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール(IPA)、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプロピルグリコールなどのアルコール類;酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、トルエン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用することもできる。また、必要に応じて消泡剤やレベリング剤を添加してもよい。
【0072】
<塗布液組成>
インクジェット受容層形成用塗布液の全固形分濃度は1〜60質量%、さらには2〜50質量%の範囲にあることが好ましい。また、インクジェット受容層形成用塗布液の粘度は、100〜1000mPa・s、さらには300〜800mPa・sの範囲にあることが望ましい。この範囲にあれば、一回の塗布で均一に所望の厚さのインクジェット受容層が形成でき、経済的である。全固形分濃度が低すぎると、一回の塗布では所定の膜厚が得られないことがあり、このため塗布、乾燥を繰り返す必要があり、経済的でないことがある。また全固形分濃度が高すぎると、得られる受容層の厚さが不均一になる傾向がある。
【0073】
インクジェット受容層形成用塗布液中の改質アルミナ水和物粒子の濃度は、得られるインクジェット受容層中の改質アルミナ水和物粒子の含有量が全固形分に対し5〜95質量%、さらには10〜90質量%の範囲となる濃度であることが好ましい。
【0074】
改質アルミナ水和物粒子の含有量が前記範囲にあると、充分な細孔容積が得られ、インクジェット受容層のインク吸収性、染料の定着性が高く、基材との密着性、強度、透明性、ヘイズ、耐擦傷性等にも優れたインクジェット受容層を形成できる。改質アルミナ水和物粒子の含有量が少ないと、マトリックス形成成分が多くなるために充分な細孔容積が得られず、インクジェット受容層のインク吸収性、染料の定着性が不充分となる場合があり、改質アルミナ水和物粒子の含有量が多すぎると、基材との密着性、強度、透明性、ヘイズ、耐擦傷性等が不十分となる場合がある。
【0075】
インクジェット受容層形成用塗布液中のマトリックス形成成分の濃度は、得られるインクジェット受容層中のマトリックス成分の含有量が全固形分に対して5〜95質量%、さらには10〜90質量%の範囲となる濃度であることが好ましい。
【0076】
[インクジェット受容層膜付基材]
本発明に係るインクジェット受容層膜付基材は、基材と、該基材上に形成された被膜(インクジェット受容層)とからなり、該被膜が前記インクジェット受容層形成用塗布液を用いて形成されることを特徴としている。
【0077】
<基材>
本発明に用いる基材としては、従来公知のものを特に制限なく使用することが可能であり、適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙、レジンコート紙、ガラス、ポリカーボネ
ート、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロポリオレフィン、ノルボルネン等のプラスチックシート、プラスチックフィルム等、プラスチックパネル等があげられる。中でも紙、樹脂系基材を好適に用いることができる。また、このような基材上に、他の被膜が形成された被膜付基材を用いこともできる。他の被膜としては従来公知のプライマー膜、ハードコート膜、マット層膜が挙げられる。
【0078】
本発明に係るインクジェット受容層膜付基材は、前記したインクジェット受容層形成用塗布液を基材シート上に塗布し、乾燥し、硬化させることによって製造することができる。具体的には、インクジェット受容層形成用塗布液をバーコート法、ブレードコート方式、エアーナイフ方式、ロールコート方式、ブラッシュコート方式、グラビアコート方式、キスコート方式、エクストルージョン方式、スライドホッパー(スライドビード)方式、カーテンコート方式、スプレー方式等の周知の方法で基材シート上に塗布し、乾燥し、紫外線照射、加熱処理等常法によって硬化させることによって被膜(インクジェット受容層)を形成することができる。
【0079】
本発明に係るインクジェット受容層の厚さは、5μm〜100μm、さらには、10μm〜50μmの範囲にあることが好ましい。この範囲の厚さであれば、インク吸収性が高く、また、クラックの発生を招いたり、カーリング(湾曲あるいは反り)が生じることもない。
【0080】
インクジェット受容層が薄過ぎるとインク吸収性が不充分となることがあり、また、厚すぎるものは、一回の塗工で得ることが困難で、複数回の塗工を行うことは経済性の点で問題となるほか、インクジェット受容層にクラックの発生を招いたり、カーリングを生じる場合がある。
【0081】
本発明に係る被膜(インクジェット受容層)の細孔容積は、0.04〜0.9ml/g、さらには、0.05〜0.05ml/gの範囲にあることが好ましい。被膜の細孔容積がこのような範囲にあると、毛細管現象によりインク吸収速度を速め(乾燥性が良く)、プリント時にインクが溢れたり滲んだりする現象を防止することができる。このようなインクジェット受容層を有するインクジェット受容層膜付基材は、ホーム用インクジェットプリンターの高速化に対応することができる。またインクジェット受容層膜付基材は、顔料インク、染料インクのいずれに対しても高い吸収性を有しているため、滲んだりすることなく、印刷後の乾燥性も高く、印刷物は耐水性に優れている。
【0082】
本発明に係るインクジェット受容層膜付基材にインクを付与して記録を行う方法としては、特に制限されないが、通常インクジェット記録方法が好ましく、この記録方法はインクをノズルより効果的に離脱させて、被記録媒体にインクを付与し得る方法であればいかなる方法でもよい。
本発明のインクジェット受容層膜付基材は、インクジェット受容層(被膜)上にさらに光沢膜が形成されていてもよい。
【0083】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
[分析方法及び測定方法]
1.改質アルミナ水和物粒子の平均一次粒子径(D1)
改質アルミナ水和物粒子の平均一次粒子径(D1)は、粉末試料をイオン交換水に分散させてなる分散液(固形分濃度0.5質量%)を調製し、透過型電子顕微鏡写真(TEM、
型番H−800、日立製作所製)にて撮影(倍率15万倍)し、粒子の凝集状態を観察し、一次粒子100個について粒子径を測定して、その平均値を平均一次粒子径(D1)とした。
【0085】
2.改質アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径(D2)及び(D2)/(D1)
改質アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径(D2)とは、改質アルミナ水和物粒子の一次粒子が凝集した粒子を指す。改質アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径(D2)の測定は、粉末試料をイオン交換水に分散させてなる分散液(固形分濃度0.5質量%)を調製し、粒子径分布測定装置(Particle Sizing Systems社製:NICOMP MODEL380)を用いて、動的光散乱法により測定した値を平均二次粒子径(
D2)とした。
【0086】
また、同一の改質アルミナ水和物粒子試料に関する前記(D1)の値及び(D2)の値から平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)の値を算定した。
【0087】
3.改質アルミナ水和物粒子の細孔容積
粉末試料10gをルツボに取り、300℃で1時間乾燥後、デシケーターに入れて室温まで冷却した。次いで、よく洗浄したセルに1g試料を取り、窒素吸着装置(自社製)を用いて窒素を吸着させ、以下の式から細孔容積を算出した。
細孔容積(ml/g)=(0.001567×(V−Vc)/w)
但し、0.001567: 窒素ガスと液体窒素の密度の比、
V: 圧力735mmHgでの標準状態の吸着量(ml)、
Vc: 圧力735mmHgでのセルブランク(ml)、
W: 試料質量(g) である。
【0088】
4.アルミナに対する周期表第2族金属の塩の質量比
(1)改質アルミナ水和物粒子10gをイオン交換水にて希釈し、固形分濃度10質量%の改質アルミナ水和物粒子分散液を調製した。この改質アルミナ水和物粒子分散液を測定試料とし、原子吸光分光光度計(株式会社日立製作所製「Z-5300」)により、改
質アルミナ水和物粒子に含まれる周期表第2族金属の含有量を測定し、同金属塩の含有量(g)を算定した。
【0089】
なお、原子吸光分光光度計の測定原理は、フレームにより試料を原子蒸気化し、その原子蒸気層に適当な波長の光を照射し、その際に原子によって吸収された光の強さを測定し、これにより試料中の元素濃度を定量するものである。本願実施例及び比較例では、測定モードを原子吸、測定波長範囲を190〜900nmとして測定した。
【0090】
(2)改質アルミナ水和物粒子中のAlの含有量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツル(株)製、SPS1200A)により測定し、Al23の含有率(質量%)を得た。そして、改質アルミナ水和物粒子10gに含まれるAl23の質量(g)を算定した。
【0091】
(3)前記(1)で得られた改質アルミナ水和物粒子10g中に含まれる周期表第2族金属の塩の質量と、前記(2)で得られた算定したAl23の質量から、Al23100質量部に対する周期表第2族金属の塩の質量部を算定した。
【0092】
5.性能試験
[インクジェット受容層形成用塗布液の調製]
後記の実施例1〜5または比較例1〜3で得られた改質アルミナ水和物粒子を固形分濃
度15質量%となるように水に分散し、この分散液100質量部と、濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液26質量部を混合して塗布液を調製した。
【0093】
[インクジェット受容層膜付基材の調製]
次いで、この塗布液をバーコーターにより(東レ(株)製、ルミラー100-T60)、厚み100μmのPETフィルム(東レ(株)製:ルミラー T-100、厚さ100μm、屈折率1.65、基材透過率88.0%、Haze 1.0%、反射率5.1%上に塗布し、乾燥後、100℃で加熱処理してインクジェット受容層膜付基材を得た。インクジェット受容
層の厚さは30μmであった。得られたインクジェット受容層膜付基材について、下記のように印刷を施した。
【0094】
[顔料インク吸収性評価の印刷]
得られたインクジェット受容層膜付基材に、顔料インクジェットプリンター(EPSON社製:PX-5800)により2cm四方のべた塗りのパターンWを印刷した。色はマゼン
タ、ブラック、シアンおよびイエローを使用し、出力の変更により濃度を変えて印刷し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
[染料インク吸収性評価の印刷]
得られたインクジェット受容層膜付基材に、染料インクジェットプリンター(EPSON社製:PM-G860)により2cm四方のべた塗りのパターンWを印刷した。色はマゼンタ、ブラック、シアンおよびイエローを使用し、出力の変更により濃度を変えて印刷し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
[滲み]
各印刷ドットの形状を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
完全に円形であり滲みのないもの :◎
円形であるが僅かに滲みの認められるもの:○
円形であるが明らかに滲みのあるもの :△
【0097】
[乾燥速度]
光学顕微鏡観察により、色の異なる2ドットが重なったものについて色の混合状態を観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
色の混合の認められないもの :◎
色の混合の僅かに認められるもの :○
色の混合の明らかに認められるもの:△
【0098】
[耐水性]
印刷片を水に浸漬して顔料および染料の溶出を観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
滲みの認められないもの :◎
滲みの僅かに認められるもの :○
滲みの明らかに認められるもの :△
顔料または染料の溶出の認められるもの:×
【0099】
[全光線透過率とヘイズ]
全光線透過率およびヘイズはヘイズメーター(日本電色(株)製:NDH2000)により測定した。
【0100】
[密着性]
インクジェット受容層膜付基材の被膜(インクジェット受容層)面にナイフで縦横1mmの間隔で11本の平行な傷を付け100個の升目を作り、これにセロハンテ−プを接着し、続いて、セロハンテ−プを剥離したときに被膜が剥離せず残存している升目の数を、以下の4段階に分類することにより密着性を評価した。結果を表1に示す。
残存升目の数100個 :◎
残存升目の数90〜99個 :○
残存升目の数85〜89個 :△
残存升目の数84個以下 :×
【0101】
[耐擦傷性]
インクジェット受容層膜付基材に100g/cm2の荷重をかけた規格#0000のス
チールウールで10往復擦り、膜表面の傷発生の程度を目視により観察した。
傷発生の程度が全くないものを◎、10本未満のものを○、10〜20本のものを△、傷無数のものを×とした。
【0102】
[実施例1]
アルミン酸ソーダ水溶液(Al23としての濃度3質量%)12.7kgを撹拌しながら、これに濃度26質量%のグルコン酸ソーダ水溶液7.3kgを添加し、次いで硫酸アル
ミニウム水溶液(Al23としての濃度1.5質量%)25kgを12分間で添加してアルミナヒドロゲルを調製した。このときの温度は30℃で、pHは10.2であった。その
後、撹拌を停止し、30℃で90分間熟成を行った。
次いで、フィルターにて、生成したアルミナヒドロゲルを濾過し、濃度1.5%のアン
モニア水によって洗浄した。このときのアルミナ中のアルカリおよび硫酸根の残存量は、Na2Oとして0.022質量%、SO4として0.062質量%(いずれも乾燥したアルミ
ナ粉末基準)であった。洗浄したアルミナヒドロゲルに水を加えてAl23として5.0質量%に調整し、これに濃度15%のアンモニア水を加えてpHを11.2に調整し、ゆっ
くり撹拌しながら95℃で5時間熟成を行った。なお、熟成中は濃度15%のアンモニア
水を加えながらpHを11.2に維持した。次いで、温度を90〜95℃に維持しながら、蒸
発する水蒸気およびアンモニアガスを排気しながらアルミナヒドロゲルスラリーの伝導度が100μS/cmになるまで約20時間アンモニア除去操作を行った。
アンモニア除去操作後、温度を95℃に下げた後、Al23100質量部に対して、5.5質量部に相当する量の酢酸、Al23100質量部に対して0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムを添加し、3時間撹拌した後35℃に冷却し、純水を加えてAl23
しての濃度5.0質量%のアルミナヒドロゾルを調製した。次に、噴霧乾燥器により、噴
霧乾燥域に供給する熱風の温度が250℃、乾燥域からの排出ガスの温度が100±10℃の範囲に調整しながら、前記アルミナヒドロゾルを供給して噴霧乾燥し、改質アルミナ水和物粒子からなる粉末を得た。表面に修飾されたCaを原子吸光により定量を行った。
【0103】
[実施例2]
アルミン酸ソーダ水溶液(Al23としての濃度3質量%)12.7kgを撹拌しながら、これに濃度26質量%のグルコン酸ソーダ水溶液7.3kgを添加し、次いで硫酸アル
ミニウム水溶液(Al23としての濃度1.5質量%)25kgを12分間で添加してアルミナヒドロゲルを調製した。このときの温度は30℃で、pHは10.2であった。その
後、撹拌を停止し、30℃で90分間熟成を行った。
次いで、フィルターにて、生成したアルミナヒドロゲルを濾過し、濃度1.5%のアン
モニア水によって洗浄した。このときのアルミナ中のアルカリおよび硫酸根の残存量は、Na2Oとして0.022質量%、SO4として0.062質量%(いずれも乾燥したアルミ
ナ粉末基準)であった。洗浄したアルミナヒドロゲルに水を加えてAl23として5.0質量%に調整し、これに濃度15%のアンモニア水を加えてpHを11.2に調整し、ゆっ
くり撹拌しながら95℃で50時間熟成を行った。なお、熟成中は濃度15%のアンモニ
ア水を加えながらpHを11.2に維持した。次いで、温度を90〜95℃に維持しながら、
蒸発する水蒸気およびアンモニアガスを排気しながらアルミナヒドロゲルスラリーの伝導度が100μS/cmになるまで約20時間アンモニア除去操作を行った。
アンモニア除去操作後、温度を95℃に下げた後、Al23100質量部に対して、5.5質量部に相当する量の酢酸、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムを添加し、3時間撹拌した後35℃に冷却し、純水を加えてAl23
としての濃度5.0質量%のアルミナヒドロゾルを調製した。次に、噴霧乾燥器により、
噴霧乾燥域に供給する熱風の温度が250℃、乾燥域からの排出ガスの温度が100±10℃の範囲に調整しながら、前記アルミナヒドロゾルを供給して噴霧乾燥し、改質アルミナ水和物粒子からなる粉末を得た。表面に修飾されたCaを原子吸光により定量を行った。
【0104】
[実施例3]
実施例1において、Al23100質量部に対して、5.5質量部に相当する量の酢酸を使用する代わりに、ヒドロゲルスラリーのpHが4.0になるように、硝酸(10質量%水溶液)を加えて調整し、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムを添加し、3時間撹拌した後35℃に冷却し、純水を加えてAl23
しての濃度5.0質量%のアルミナヒドロゾルを調製した。それ以外は、実施例1と同じ
方法で調整した。
【0105】
[実施例4]
実施例1において、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化
カルシウムを添加する代わりに、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当す
る量の塩化バリウムを添加した以外は実施例1と同様にして改質アルミナ水和物
粒子からなる粉末を得た。
【0106】
[実施例5]
実施例1において、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムを添加する代わりにAl23100質量部に対して1.0質量部に相当する量の塩化カルシウムを添加した以外は実施例1と同様にして改質アルミナ水和物粒子からなる粉末を得た。
【0107】
[比較例1]
実施例1において、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムの添加を行わない以外は、実施例1と同様にしてアルミナ水和物粒子からなる粉末を得た。
【0108】
[比較例2]
実施例2において、Al23100質量部に対して、0.5質量部に相当する量の塩化カルシウムの添加を行わない以外は実施例2と同様にしてアルミナ水和物粒子からなる粉末を得た。
【0109】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ水和物粒子であって、平均一次粒子径(D1)が5〜30nmの範囲にあり、平均二次粒子径(D2)が5〜500nmの範囲にあり、平均一次粒子径(D1)と平均二次粒子径(D2)との比(D2)/(D1)が1〜100の範囲にあり、少なくとも一種以上の周期表第2族金属の塩で修飾されてなることを特徴とする改質アルミナ水和物粒子。
【請求項2】
前記改質アルミナ水和物粒子の細孔容積が0.4〜3.0ml/gであることを特徴とする請求項1記載の改質アルミナ水和物粒子。
【請求項3】
前記改質アルミナ水和物粒子に含まれるアルミナと周期表第2族金属の塩との質量比が、100:0.005〜100:5.0の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の改質アルミナ水和物粒子。
【請求項4】
前記周期表第2族金属の塩が、Mg、Ca、Sr又はBaから選ばれる金属の塩、であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の改質アルミナ水和物粒子。
【請求項5】
下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の改質アルミナ水和物粒子の製造方法。
(a)アルミナヒドロゲルを洗浄し、塩基性条件下で加熱熟成する工程
(b)前工程に続いて、有機酸の存在下又はpH3.0〜4.5の酸性条件下、周期
表第2族金属の塩を添加し、改質アルミナヒドロゲルを得る工程
(c)前工程で得られた改質アルミナヒドロゲルを乾燥して、改質アルミナ水和物粒子を
調製する工程
【請求項6】
前記工程(b)における有機酸の使用量が、アルミナヒドロゲルに含まれるアルミナ100質量部に対して、3〜50質量部であることを特徴とする請求項5記載の改質アルミナ水和物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)における周期表第2族金属の塩の使用量が、アルミナヒドロゲルに含まれるアルミナ100質量部に対して、0.005〜5質量部であることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の改質アルミナ水和物粒子の製造方法。
【請求項8】
マトリックス形成成分、請求項1〜4のいずれかに記載の改質アルミナ水和物粒子及び極性溶媒を含んでなることを特徴とするインクジェット受容層形成用塗布液。
【請求項9】
前記マトリックス形成成分が、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル系架橋共重合体微粒子、ウレタン系架橋共重合体微粒子、アクリル−ウレタン系架橋共重合体微粒子から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット受容層形成用塗布液。
【請求項10】
基材と、基材上に形成された被膜とからなり、該被膜が請求項8又は請求項9に記載のインクジェット受容層形成用塗布液を用いて形成されることを特徴とするインクジェット受容層膜付基材。
【請求項11】
前記基材上に形成された被膜の細孔容積が0.04〜0.9ml/gであることを特徴とする請求項10に記載のインクジェット受容層膜付基材。

【公開番号】特開2011−93735(P2011−93735A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248160(P2009−248160)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】