説明

放射線撮影装置及び画像処理方法

【課題】アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像を得る。
【解決手段】縞走査で得られる本撮影画像データ52に統計演算処理を施す統計演算処理部41と、本撮影画像データ52に基づいて幅αの値域に画素値が畳み込まれた第1位相微分画像K1を生成するとともに、統計演算処理が施された本撮影画像データ52に基づいて第2位相微分画像K2を生成する位相微分画像生成部40と、第1,第2位相微分画像K1,K2にアンラップ処理を施すアンラップ処理部42と、アンラップ処理が施された第1,第2位相微分画像K1,K2の差分Δを算出するともに、nα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、アンラップ処理後の第1位相微分画像K1の各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体による放射線の位相変化に基づく画像を検出する放射線撮影装置及びこれに用いられる画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の重さ(原子番号)と物質の密度及び厚さとに依存して吸収され減衰するといった特性を有する。この特性に着目し、医療診断や非破壊検査等の分野において、被検体の内部を透視するためのプローブとしてX線が利用されている。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源と、X線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体を透過したX線の撮影を行う。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、被検体を透過する際に吸収され減衰した後、X線画像検出器に入射する。この結果、被検体によるX線の強度変化に基づく画像がX線画像検出器により検出される。
【0004】
X線吸収能は、原子番号が小さい元素ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線の強度変化が小さく、画像に十分なコントラストが得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化に基づいた画像を得るX線位相イメージングの研究が近年盛んに行われている。X線位相イメージングは、被検体に入射したX線の位相変化が強度変化より大きいことに基づき、X線の位相変化を画像化する方法であり、X線吸収能が低い被検体に対しても高コントラストの画像を得ることができる。X線位相イメージングの一種として、2枚の回折格子とX線画像検出器とを用いてX線タルボ干渉計を構成することにより、X線の位相変化を検出するX線撮影装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このX線撮影装置は、X線源から見て被検体の背後に第1の回折格子を配置し、第1の回折格子からタルボ距離だけ離れた位置に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置したものである。タルボ距離は、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ効果によって第1の回折格子の自己像(縞画像)を形成する距離であり、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とに依存する。この自己像は、被検体でのX線の位相変化で屈折が生じることにより変調される。この変調量を検出することにより、X線の位相変化が画像化される。
【0007】
上記変調量の検出方法として縞走査法が知られている。縞走査法とは、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面に平行でかつ第1の回折格子の格子線方向に垂直な方向に、所定の走査ピッチで並進移動(走査)させながら、各走査位置において、X線源からX線を放射し、被検体、第1及び第2の回折格子を通過したX線をX線画像検出器により撮影する方法である。このX線画像検出器により得られる各画素の画素値の上記走査に対する変化を表す信号(強度変調信号)について位相ズレ量(被検体が存在しない場合の初期位置からの位相差)を算出することにより、上記変調量に関連する画像が得られる。この画像は、被検体の屈折率を反映した画像であり、X線の位相変化(位相シフト)の微分量に対応するため、位相微分画像と呼ばれる。
【0008】
特許文献1に示されているように、上記位相ズレ量は、複素数の偏角を抽出する関数(arg[…])や、逆正接関数(tan−1[…])を用いて算出される。このため、位相微分画像は、上記関数の値域(−πから+π、または、−π/2から+π/2)に畳み込まれた(ラップされた)値により表現される。このようにラップされた位相微分画像には、値域の上限から下限に変化する箇所、または下限から上限に変化する箇所で不連続点が生じることがあるため、この不連続点をなくして連続化するようにアンラップ処理を行うことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
アンラップ処理は、画像内の所定位置を起点とし、該起点から所定の経路に沿って順に行われる。この経路中に上記不連続点が検出されると、この不連続点以降のデータに、上記関数の値域に相当する値が一律に加算または減算される。これにより、不連続点がなくなり、データが連続化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/058070号公報
【特許文献2】特開2011−045655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、被検体に骨部等のX線吸収能が高い高吸収体が含まれる場合には、該高吸収体がX線を大きく減衰させるので、上記強度変調信号の強度や振幅が低下する。このため、高吸収体がある領域では位相ズレ量の算出精度が低下し、アンラップエラーが生じやすくなる。アンラップエラーには、本来不連続点でない箇所に不連続性が生じて不連続点と見なされることによりアンラップ処理が行われるケースと、本来不連続点である箇所の不連続性が低下して不連続点と見なされないことによりアンラップ処理が行われないケースとがある。
【0012】
例えば、アンラップ処理を行う経路上に骨部領域がある場合、骨部領域上で一旦アンラップエラーが生じると、アンラップエラーが生じた箇所以降の経路にエラー値(上記関数の値域に相当する値)が積算される。この結果、アンラップ処理後の位相微分画像にはアンラップ処理の経路方向に沿った筋状のノイズが生じる。このノイズが軟部組織である軟骨部の一部に重なる場合には、X線位相イメージングでの関心領域である肝心の軟部組織の画像化を阻害してしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、アンラップエラーを補正することにより、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる放射線画像撮影装置を提供することを目的とする。また、アンラップエラーを補正するための画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の放射線撮影装置は、放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第1位相微分画像を生成する第1位相微分画像生成部と、前記放射線検出器により得られた前記画像データに統計演算処理を施す統計演算処理部と、前記統計演算処理部によって前記統計演算処理が施された前記画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第2位相微分画像を生成する第2位相微分画像生成部と、前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像から前記アンラップ処理後の前記第2位相微分画像を減算して差分Δを画素毎に算出するともに、nα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを算出し、前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像の各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
前記第1位相微分画像生成部は、前記第1位相微分画像を生成するとともに、前記被検体を配置しない状態で行われるプレ撮影において得られる画像データに基づいて位相微分画像を生成し、前記アンラップ処理部は、前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像とともに、前記プレ撮影で生成された位相微分画像にアンラップ処理を施し、前記プレ撮影で生成された位相微分画像に前記アンラップ処理を施した画像をオフセット画像として記憶するオフセット画像記憶部と、前記補正処理部によって前記アンラップ処理のエラーが補正された前記第1位相微分画像から、前記オフセット画像を減算し、前記第1位相微分画像からノイズであるオフセット成分を除去するオフセット処理部と、を備えることが好ましい。
【0016】
前記統計演算処理が行う前記統計演算処理は、前記画像データのノイズを低減するノイズ低減処理であることが好ましい。
【0017】
前記ノイズ低減処理は、前記画像データを平滑化する平滑化処理であることが好ましい。
【0018】
前記平滑化処理は、前記画像データの各画素の画素値を、当該画素の画素値と周辺の画素の画素値との平均値に置き換える移動平均処理であることが好ましい。
【0019】
前記ノイズ低減処理は、前記画像データの画素を所定数含む複数の組みにして、各々の前記組みに属する画素の画素値の平均値を、当該組みの全画素の新たな画素値とする処理であることが好ましい。
【0020】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することが好ましい。
【0021】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することが好ましい。
【0022】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることが好ましい。
【0023】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることが好ましい。
【0024】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することが好ましい。
【0025】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0026】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0027】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることが好ましい。
【0028】
本発明の画像処理方法は、放射線源と放射線検出器との間に格子部を配置して被検体の撮影を行うことにより得られる画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第1位相微分画像を生成する第1位相微分画像生成ステップと、前記画像データに統計演算処理を施す統計演算処理ステップと、前記統計演算処理が施された前記画像データに基づいて幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第2位相微分画像を生成する第2位相微分画像生成ステップと、前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、前記アンラップ処理が施された前記第1位相微分画像と前記第2位相微分画像の差分Δを算出する差分算出ステップと、前記差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出することにより、前記第1位相微分画像の各画素に累積されたアンラップエラーの回数を算出するアンラップエラー累積回数算出ステップと、前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像の各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】X線撮影装置の構成を示すブロック図である。
【図2】X線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の格子の構成を説明する説明図である。
【図4】強度変調信号を示すグラフである。
【図5】画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】移動平均処理の態様を示す説明図である。
【図7】アンラップ処理の起点及び経路の設定方法を説明する図である。
【図8】アンラップ処理の態様を示す説明図である。
【図9】アンラップ処理でアンラップエラーが生じる態様を示す説明図である。
【図10】アンラップエラーの補正処理を示すフローチャートである。
【図11】プレ撮影時のX線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【図12】本撮影時のX線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【図13】第1位相微分画像の態様を示す図である。
【図14】第2位相微分画像の態様を示す図である。
【図15】アンラップエラーが補正される態様を示す説明図である。
【図16】アンラップエラーが補正された位相微分画像を示す図である。
【図17】移動平均処理の他の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、格子部12、X線画像検出器13、メモリ14、画像処理部15、画像記録部16、撮影制御部17、コンソール18、及びシステム制御部19を備える。X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、撮影制御部17の制御に基づき、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0032】
格子部12は、第1の格子21、第2の格子22、及び走査機構23を備える。第1及び第2の格子21,22は、X線照射方向であるz方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器13は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に、検出面13aがz方向に直交するように配置されている。
【0033】
第1の格子21は、z方向に直交する格子面内の一方向であるy方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、z方向及びy方向に直交するx方向に交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にy方向に延伸され、かつx方向に交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する材料により形成されている。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性を有する材料や空隙により形成されている。
【0034】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。被検体Hが配置されていない場合において、G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。
【0035】
X線画像検出器13は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ14は、X線画像検出器13から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部15は、メモリ14に記憶された画像データに基づいて位相微分画像を生成し、この位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部16は、位相微分画像と位相コントラスト画像とを記録する。
【0036】
走査機構23は、第2の格子22をx方向に並進移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の相対位置を順次に変更する。走査機構23は、圧電アクチュエータや静電アクチュエータにより構成され、後述する縞走査を実行するために、撮影制御部17の制御に基づいて駆動される。メモリ14には、縞走査の各走査位置でX線画像検出器13により得られる画像データが一括して記憶される。
【0037】
コンソール18は、操作部18a及びモニタ18bを備えている。操作部18aは、キーボードやマウス等により構成され、X線源11の管電圧、管電流、照射時間等の撮影条件の設定や、本撮影またはプレ撮影のモード選択、撮影実行指示等の操作入力を可能とする。本撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置した状態で行う撮影モードである。プレ撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置せずに行う撮影モードである。詳しくは後述するが、プレ撮影は、第1及び第2の格子21,22の製造誤差や配置誤差等により生じるバックグランド成分をオフセット画像として取得するために用いられる。
【0038】
モニタ18bは、撮影条件等の撮影情報や、画像記録部16に記録された位相微分画像及び位相コントラスト画像の表示を行う。システム制御部19は、操作部18aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0039】
図2において、X線画像検出器13は、入射X線により半導体膜(図示せず)に生じた電荷を収集する画素電極31と、画素電極31によって収集された電荷を読み出すためのTFT(Thin Film Transistor)32とを備えた画素部30が2次元状に多数配列されたものである。半導体膜は、例えば、アモルファスセレンにより形成されている。
【0040】
また、X線画像検出器13は、ゲート走査線33、走査回路34、信号線35、及び読み出し回路36を備える。ゲート走査線33は、画素部30の行ごとに設けられている。走査回路34は、TFT32をオン/オフするための走査信号を各ゲート走査線33に付与する。信号線35は、画素部30の列ごとに設けられている。読み出し回路36は、各信号線35を介して画素部30から電荷を読み出し、画像データに変換して出力する。各画素部30の詳細な層構成については、例えば、特開2002−26300号公報に記載されている層構成と同様である。
【0041】
読み出し回路36は、積分アンプ、A/D変換器、補正回路(いずれも図示せず)等を備える。積分アンプは、各画素部30から信号線35を介して出力された電荷を積分して画像信号を生成する。A/D変換器は、積分アンプにより生成された画像信号を、デジタル形式の画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、暗電流補正、ゲイン補正、リニアリティ補正等を行う。この補正後の画像データがメモリ14に記憶される。
【0042】
X線画像検出器13は、入射X線を半導体膜で直接電荷に変換する直接変換型に限られず、ヨウ化セシウム(CsI)やガドリウムオキシサルファイド(GOS)等のシンチレータで入射X線を可視光に変換し、可視光をフォトダイオードで電荷に変換する間接変換型であってもよい。さらに、X線画像検出器13を、シンチレータとCMOSセンサを組み合わせて構成してもよい。
【0043】
図3において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビームである。第1の格子21は、タルボ効果が生じず、X線透過部21bを通過したX線を幾何光学的に投影するように構成される。具体的には、x方向へのX線透過部21bの幅を、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とし、X線の大部分がX線透過部21bで回折しないようにすることで実現される。X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21bの幅を1〜10μm程度とすればよい。
【0044】
これにより、G1像は、第1の格子21からz方向下流への距離に依らず、常に第1の格子21の自己像となる。G1像は、X線焦点11aからz方向下流への距離に比例して拡大される。
【0045】
第2の格子22の格子ピッチpは、前述のように、第2の格子22の格子パターンが第2の格子22の位置におけるG1像に一致するように設定されている。具体的には、第2の格子22の格子ピッチpは、第1の格子21の格子ピッチp、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L、第1の格子21と第2の格子22との間の距離Lと、下式(1)をほぼ満たすように設定されている。
【0046】
【数1】

【0047】
G1像は、被検体HでX線に位相変化が生じて屈折することにより変調される。この変調量には、被検体HでのX線の屈折角φ(x)が反映される。同図には、被検体HでのX線の位相変化を表す位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示し、符号X2は、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。
【0048】
位相シフト分布Φ(x)は、X線の波長をλ、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。
【0049】
【数2】

【0050】
上記屈折角φ(x)は、位相シフト分布Φ(x)と、下式(3)の関係にある。
【0051】
【数3】

【0052】
第2の格子22の位置において、X線は、屈折角φ(x)に応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φ(x)が微小であることに基づいて、近似的に下式(4)で表される。
【0053】
【数4】

【0054】
このように、変位量Δxは、位相シフト分布Φ(x)の微分値に比例する。したがって、変位量Δxを後述する縞走査により検出することにより、位相シフト分布Φ(x)の微分値が得られ、位相微分画像が生成される。
【0055】
縞走査は、格子ピッチpをM個に分割した値(p/M)を走査ピッチとし、走査機構23により、この走査ピッチで第2の格子22を並進移動させ、第2の格子22を並進移動させるたびに、X線源11からX線を放射してG2像をX線画像検出器13により撮影することにより行われる。Mは3以上の整数であり、例えば、M=5であることが好ましい。
【0056】
上式(1)を僅かに満たさない場合や、第1の格子21と第2の格子22との間にz方向周りの回転や、xy平面に対する傾斜が僅かに生じている場合には、G2像にはモアレ縞が生じる。このモアレ縞は、第2の格子22の並進移動に伴って移動し、x方向への移動距離が格子ピッチpに達すると元のモアレ縞に一致する。このモアレ縞の移動を確認することで、第2の格子22の並進移動量を検証することができる。
【0057】
上記縞走査により、X線画像検出器13の各画素部30について、M個の画素値が得られる。図4に示すように、M個の画素値Iは、第2の格子22の走査位置kに対して周期的に変化する。走査位置kは、第2の格子22を一周期分並進移動させた場合の走査ピッチ(p/M)ごとの各位置である。走査位置kに対する画素値Iの変化を表す信号を強度変調信号と呼ぶ。
【0058】
同図中の破線は、被検体Hを配置しない状態で得られる強度変調信号を示している。これに対して、実線は、被検体Hを配置した状態で、被検体Hにより位相ズレ量ψ(x)が生じた強度変調信号を示している。この位相ズレ量ψ(x)は、上記変位量Δxと下式(5)の関係にある。
【0059】
【数5】

【0060】
したがって、各画素部30について、縞走査で得られるM個の画素値Iに基づき、強度変調信号の位相ズレ量ψ(x)を求めることにより、位相微分画像が得られる。
【0061】
次に、位相ズレ量ψ(x)の算出方法について説明する。強度変調信号は、一般に下式(6)で表される。
【0062】
【数6】

【0063】
ここで、Aは入射X線の平均強度を表し、Aは強度変調信号の振幅を表す。nは正の整数、iは虚数単位である。なお、図4に示すように、強度変調信号が正弦波を描く場合には、n=1である。
【0064】
本実施形態では、走査ピッチ(p/M)が一定であるため、下式(7)が成立する。
【0065】
【数7】

【0066】
上式(7)を上式(6)に適用すると、位相ズレ量ψ(x)は、下式(8)で表される。
【0067】
【数8】

【0068】
ここで、arg[…]は、複素数の偏角を抽出する関数である。また、位相ズレ量ψ(x)は、逆正接関数を用いて下式(9)のように表すことも可能である。
【0069】
【数9】

【0070】
複素数の偏角は、値域が−πから+πの範囲であるため、上式(8)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−πから+πの範囲に畳み込まれた(ラップされた)値を取る。これに対して、逆正接関数は、通常、値域が−π/2から+π/2の範囲であるため、上式(9)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−π/2から+π/2の範囲に畳み込まれた値を取る。なお、上式(9)において、逆正接関数内の分母及び分子の正負を判別することにより、値域を−πから+πとすることができるため、−πから+πの範囲で位相ズレ量ψ(x)を算出することも可能である。
【0071】
本実施形態では、各画素部30について算出された位相ズレ量ψ(x)を画素値とするデータを位相微分画像という。なお、位相ズレ量ψ(x)に定数を乗じたり加算したりしたデータで表される画像を位相微分画像としてもよい。以下、位相微分画像の画素値は、幅αを有する所定の値域(例えば0からαの範囲)にラップされているとする。
【0072】
図5に示すように、画像処理部15は、位相微分画像生成部40、統計演算処理部41、アンラップ処理部42、オフセット画像記憶部43、補正処理部44、オフセット処理部45、位相コントラスト画像生成部46等を備える。位相微分画像生成部40は、特許請求の範囲の第1位相微分画像生成部と第2位相微分画像生成部とに対応する。
【0073】
位相微分画像生成部40は、プレ撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(プレ撮影画像データ)51を用い、上式(8)または上式(9)に基づいて演算を行うことにより、位相微分画像を生成する。
【0074】
同様に、位相微分画像生成部40は、本撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(本撮影画像データ)52に基づいて位相微分画像を生成する。但し、本撮影時には、位相微分画像生成部40は第1位相微分画像と第2位相微分画像の二種類の位相微分画像を生成する。第1位相微分画像は、本撮影画像データ52から直接生成する位相微分画像であり、第2位相微分画像は、統計演算処理部41によって統計演算処理が施された本撮影画像データ52を用いて生成する位相微分画像である。
【0075】
なお、位相微分画像生成部40は、上述のように第1位相微分画像と第2位相微分画像を生成するが、位相微分画像生成部40のかわりに、本撮影画像データ52の入力を受けて第1位相微分画像を生成する第1位相微分画像生成部と、統計演算処理を施された本撮影画像データ52を受けて第2位相微分画像を生成する第2位相微分画像生成部の二種類の位相微分画像生成部に分けておいても良い。この場合、プレ撮影時の位相微分画像は第1位相微分画像生成部で生成すれば良い。
【0076】
統計演算処理部41は、本撮影時に入力される本撮影画像データ52に統計演算処理を施して、位相微分画像生成部40に入力する。統計演算処理は、M枚の本撮影画像データ52の各々に施される。統計演算処理部41が本撮影画像データ52に施す統計演算処理は、本撮影画像データ52のノイズを低減するノイズ除去処理であり、例えば平滑化処理である。より具体的には、統計演算処理部41は、上述の平滑化処理(統計演算処理)として、いわゆる移動平均処理を本撮影画像データ52に施す。
【0077】
図6に示すように、移動平均処理は、例えば、画素Q5を注目画素として、この画素値を、注目画素Q5と、この周囲に隣接する隣接画素Q1〜Q4,Q6〜Q9との9個の画素値の平均値に置き換える。他の画素についても同様であり、各画素を注目画素とし、注目画素と、その周囲の隣接画素との9個の画素値の平均値を注目画素の画素値とする。ここでは、簡単のために、注目画素を中心とした3×3画素について画素値の平均値を求める例を説明したが、平均値を算出する画素数は任意である。但し、移動平均処理において平均値を算出する画素数が大きいと、移動平均処理を施された本撮影画像データ52から生成される第2位相微分画像の解像度が必要以上に低下してしまう。一方、平均値を算出する画素数が少ないと、後に行うアンラップ処理においてアンラップエラーが生じるという弊害がある。このため、統計演算処理部41において移動平均処理によって本撮影画像52の平滑化を行う場合には、例えば注目画素を中心とした9×9画素について画素値の平均値を求めることが好ましい。これは、後述するように、第2位相微分画像にアンラップ処理を施したときに、アンラップエラーが生じず、かつ、本撮影画像データ52の平滑化による第2位相微分画像の解像度の低下を最小限に抑えることができる画素数である。X線検出器13の画素数が十分に大きい場合には、注目画素を中央付近に含む16×16画素やそれ以上の範囲等、さらに広範囲の画素の平均値を求めても良い。また、平均値を算出する領域は正方形でなくても良く、9×10画素等の長方形でも良い。
【0078】
なお、統計演算処理部41が本撮影画像データ52に移動平均処理を施す例を挙げたが、統計演算処理部41が本撮影画像データ52に施す統計演算処理は、移動平均処理に限らず、本撮影画像データ52を平滑化し、ノイズを低減することができる処理であれば任意である。例えば、統計演算処理部41は、本撮影画像データ52にメディアンフィルタ処理や最頻値フィルタ処理等を施すようにしても良い。メディアンフィルタ処理は、注目画素(図6では画素Q5)の画素値を、これを含む所定範囲の画素(図6では画素Q1〜Q9)の画素値の中央値に置き換える処理である。最頻値フィルタ処理は、対象の画素の画素値を、これを含む所定範囲の画素の画素値の最頻値に置き換える処理である。
【0079】
アンラップ処理部42(図5参照)は、位相微分画像生成部40から入力される位相微分画像にアンラップ処理を施す。プレ撮影時には、プレ撮影画像データ51に基づいて生成された位相微分画像が位相微分画像生成部40からアンラップ処理部42に入力される。アンラップ処理部42は、プレ撮影画像データ51から生成された位相微分画像にアンラップ処理を施すと、これをオフセット画像K0として、オフセット画像記憶部43に記憶させる。なお、オフセット画像記憶部43は、新たにプレ撮影を行って新たなオフセット画像K0が入力された場合には、既に記憶されているオフセット画像を消去した後、新たに入力されたオフセット画像K0を記憶する。
【0080】
また、本撮影時には、第1位相微分画像と第2位相微分画像の二種類の位相微分画像が位相微分画像生成部40からアンラップ処理部42に入力される。アンラップ処理部42は、第1位相微分画像及び第2位相微分画像に各々アンラップ処理を施す。そして、アンラップ処理を施した第1位相微分画像K1、アンラップ処理を施した第2位相微分画像K2をいずれも補正処理部44に入力する。
【0081】
図7に示すように、アンラップ処理部42は、位相微分画像61の各行または各列の端部に位置する画素に起点SPを設定し、起点SPから経路WRに沿ってアンラップ処理を行った後、起点SPと、これに隣接する起点SPとのアンラップ処理を行い、起点SPから経路WRに沿ってアンラップ処理を行うという処理を、起点SP及び経路WRを変更しながら順に繰り返す。ここで示す位相微分画像61は、プレ撮影時に生成される位相微分画像、本撮影時に生成される第1位相微分画像、第2位相微分画像のいずれかである。
【0082】
アンラップ処理は、前述のように位相微分画像の画素値が所定の値域にラップされていることにより大きく変化(いわゆる位相飛び)する点を不連続点DPとして検出し、検出した不連続点DP以降の経路WR上の画素値に該値域の幅αを加算または減算することで不連続点DPをなくし、画素値の変化をほぼ連続化する処理である。不連続点DPの検出は、画素値の変化量が所定量(例えば、α/2)以上である箇所を求めることにより行われる。図8に示すように、位相微分画像にアンラップ処理を施すと、経路WR上に、位相飛びによる不連続点DPだけが検出された場合には、画素値の変化は正常に連続化される。
【0083】
一方、図9に示すように、経路WR上に、位相飛びによる不連続点DPだけでなく、ノイズ等による不連続点Errが存在すると、アンラップ処理部42は、位相飛びによる不連続点DPとノイズ等による不連続点Errとを識別することができず、不連続点Errに対しても値域の幅αを加算または減算することがある。この場合、アンラップ処理後位相微分画像には、不連続点Errで幅αのギャップが生じてしまう。このギャップがアンラップエラーである。
【0084】
なお、ノイズ等による不連続点Errが1点のデータだけで構成される場合には、結果的には正しくアンラップ処理される。これは、不連続点Errと直前のデータ点との差が不連続点を検出するための所定量を超え、かつ、不連続点Errと次のデータ点との差も所定量を超えるため、αを減算(加算)するアンラップ処理とαを加算(減算)するアンラップ処理が行われ、不連続点Errにおけるアンラップ処理は相殺されるからである。このため、図9に示す不連続点Errは複数のデータ点からなる。例えば、不連続点Errが、データ点Err1,Err2の2点からなり、データ点Err1と直前のデータ点との差が所定量を超え、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差が所定量を超えないとする。この場合、データ点Err1と直前のデータ点との差を検出してアンラップ処理が行われるが、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差はアンラップ処理が必要な箇所としては検出されないので、結果的にデータ点Err1と直前のデータ点との差を検出して行われるアンラップ処理がアンラップエラーとして残る。
【0085】
プレ撮影は、前述のように被検体Hがない状態で行われる撮影であるから、プレ撮影画像データ51及びプレ撮影画像データ51から生成される位相微分画像には、位相飛びによる不連続点DP以外の不連続点Errは基本的に発生しない。このため、プレ撮影時に生成される位相微分画像にアンラップ処理を施してもアンラップエラーは生じない。
【0086】
また、本撮影時に得られる第2位相微分画像K2は、骨部等でノイズが現れやすい箇所を含む被検体Hを含んでいるが、統計演算処理部42によって移動平均処理が施され、平滑化された本撮影画像データ51に基づいて生成されるので、第2位相微分画像K2にアンラップ処理を施してもアンラップエラーは生じない。一方、本撮影時に得られる第1位相微分画像K1は、平滑化されていない本撮影画像データ51から生成されるので、第1位相微分画像K1にアンラップ処理を施すとアンラップエラーが生じることがある。
【0087】
補正処理部44(図5参照)は、第1位相微分画像K1に発生したアンラップエラーを、第2位相微分画像K2に基づいて補正し、アンラップエラーを補正した第1位相微分画像K1aを後述するオフセット処理部45に入力する。補正処理部44は、第1位相微分画像K1のアンラップエラーの補正を以下に説明するように行う。
【0088】
図10に示すように、補正処理部44は、まず、各位相微分画像の画素の座標を(x,y)、第1位相微分画像K1の各画素の画素値をψ(x,y)、第2位相微分画像K2の各画素の画素値をψ(x,y)とし、下式(10)に示すように、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の画素値の差分Δ(x,y)を算出する(ステップS01)。式(10)に示す通り、補正処理部44が算出する差分Δ(x,y)は、第2位相微分画像K2を基準とした差分である。
【0089】
【数10】

【0090】
その後、算出した差分Δ(x,y)について、下式(11)を満たす整数nを画素毎に算出する(ステップS02)。
【0091】
【数11】

【0092】
アンラップエラーが生じていない場合、第1位相微分画像K1(x,y)と第2位相微分画像K2(x,y)は、殆ど差がなく、式(11)を満たす整数nは0である。一方、アンラップエラーが発生していると、nは0以外の整数になる。例えば、式(11)を満たす整数nが0以外の画素は、経路WRに沿ってアンラップ処理を行ったときに、当該画素までに、最終的にn回分のアンラップエラーによるギャップを累積している。最終的にn回分のアンラップエラーによるギャップが累積するケースとしては、同一方向(正または負方向)にn回のアンラップエラーが生じた場合と、正及び負方向にアンラップエラーが合計n回以上生じて、一部相殺され、最終的にn回分のアンラップエラーに相当するギャップが累積された場合とがある。
【0093】
なお、式(11)では、差分Δの下限に等号を含み(≦)、上限に等号を含まない(<)が、整数nが一意に決定することができれば等号の位置は任意である。すなわち、上限に等号を含み、下限に等号を含まないようにしても良い(nα−α/2<Δ(x,y)≦nα+α/2 ・・・(11’))。
【0094】
補正処理部44は、前述の式(11)を満たす整数nを用い、下式(12)に示すように、元の第1位相微分画像K1の各画素ψ(x,y)の画素値を、新たな画素値ψ’(x,y)にそれぞれ置き換える(ステップS03)。
【0095】
【数12】

【0096】
新たな画素値ψ’(x,y)は、元の画素値ψ(x,y)に、この画素までの経路に累積したアンラップエラーによるギャップの個数分、幅αを減算する(nが負の場合には実質的には加算される)ことにより、ギャップが解消された画素値である。したがって、第1位相微分画像K1の全体で各画素の画素値をψ(x,y)からψ’(x,y)に置き換えることにより画素値の変化がほぼ連続化する。
【0097】
なお、式(12)に示す通り、式(11)を満たす整数nが0の画素では、元の画素値ψ(x,y)と新たな画素値ψ’(x,y)は等しく、画素値の置き換えは行われない。整数nが0の画素は、この画素までにアンラップエラーが生じていない画素、あるいは値域αを加算/減算した回数が等しく、アンラップエラーによるギャップが相殺された画素であるから、画素値の置き換えは必要ない。
【0098】
オフセット処理部45(図5参照)は、上述のように補正処理部44によってアンラップエラーが補正された第1位相微分画像K1aに対してオフセット補正を施す。オフセット補正は、アンラップエラーが補正された第1位相微分画像K1aからオフセット画像K0を減算することにより、第1位相微分画像K1aにバックグラウンドとして重畳されたノイズを減算する補正処理である。ここでオフセットとして除去されるノイズ成分は、バックグラウンドとして重畳されるノイズ成分は、例えば、第1の格子21や第2の格子22の歪や僅かな位置ずれ(回転や傾斜を含む)によるものである。
【0099】
位相コントラスト画像生成部46(図5参照)は、第1位相微分画像K1aからオフセットが除去された第1位相微分画像K1bをx方向に沿って積分処理することにより、位相シフト分布を表す位相コントラスト画像を生成する。オフセット補正後の第1位相微分画像K1bと位相コントラスト画像は、画像記録部16に記録される。
【0100】
以下、X線撮影装置10の作用を説明する。X線撮影装置10を用いて被検体Hの撮影を行う場合、図11に示すように、被検体Hの撮影の前に、プレ撮影を行う。操作部18aを用いて撮影モードとしてプレ撮影モードが選択されると(ステップS10)、撮影指示の入力待機状態となる(ステップS11)。操作部18aを用いて撮影指示が入力されると、走査機構23により第2の格子22が所定の走査ピッチずつ並進移動されながら、各走査位置kにおいて、X線源11によるX線照射及びX線画像検出器13によるG2像の検出が行われる(ステップS12)。この縞走査の結果、M枚のプレ撮影画像データ51が生成され、メモリ14に格納される。
【0101】
プレ撮影画像データ51は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によってプレ撮影画像データ51から位相微分画像が生成される(ステップS13)。この位相微分画像は、アンラップ処理が施された後(ステップS14)、オフセット画像としてオフセット画像記憶部41に記憶される。プレ撮影動作は、以上で終了する。なお、このプレ撮影は、X線撮影装置10の立ち上げ時等に被検体Hを配置しない状態で少なくとも一度行われればよく、本撮影の前に毎回行われる必要はない。
【0102】
次に、図12に示すように、被検体Hを配置し、本撮影を行う。本撮影を行う場合、操作部18aを用いて撮影モードとして本撮影モードが選択される(ステップS20)。本撮影モードが選択されると、撮影指示の待受状態となる(ステップS21)。操作部18aを用いて撮影指示がなされると、縞走査が行われ(ステップS22)、メモリ14にM枚の本撮影画像データ52が格納される。
【0103】
その後、本撮影画像データ52は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によって本撮影画像データ52から第1位相微分画像K1が生成され(ステップS23)、アンラップ処理部42によってアンラップ処理が施される(ステップS24)。
【0104】
一方、上述のように第1位相微分画像K1が生成されると同時に、本撮影画像データ52は、統計演算処理部41に入力される。統計演算処理部41に入力されたM枚の本撮影画像データ52には、統計演算処理部41によって各々前述の移動平均処理が施される(ステップS25)。そして、移動平均処理が施された本撮影画像データ52は、位相微分画像生成部40に入力され、移動平均処理が施された本撮影画像データ52から第2位相微分画像K2が生成されるとともに(ステップS26)、アンラップ処理が施される(ステップS27)。
【0105】
なお、ここでは、後に行う補正処理に第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2が用いられるので、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の生成及びアンラップ処理が同時に行われる例を説明したが、第1位相微分画像K1及び第2位相微分画像K2の生成及びアンラップ処理は厳密に同時に行われる必要はない。第1位相微分画像K1の生成及びアンラップ処理を行ってから、統計演算処理部42による本撮影画像データ52への移動平均処理及び第2位相微分画像K2の生成及びアンラップ処理を行っても良く、逆に、統計演算処理部42による本撮影画像データ52への移動平均処理及び第2位相微分画像K2の生成及びアンラップ処理を行ってから、第1位相微分画像K1の生成及びアンラップ処理を行っても良い。また、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2をそれぞれ生成した後に、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2にアンラップ処理を行うようにしても良い。
【0106】
上述のように、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2が生成され、アンラップ処理が施されると、補正処理部44は、第2位相微分画像K2に基づいて第1位相微分画像K1のアンラップエラーを補正する補正処理を施す(ステップS28)。
【0107】
アンラップエラーが補正された第1位相微分画像K1aは、さらにオフセット処理部44によってオフセット補正が施されることによりオフセットが除去さる(ステップS29)。また、位相コントラスト画像生成部46がオフセットが除去された第1位相微分画像K1bに積分処理をすることにより、位相シフト分布を表す位相コントラスト画像が生成され(ステップS30)、第1位相微分画像K1bと位相コントラスト画像が画像記録部16に記録される。その後、第1位相微分画像K1bや位相コントラスト画像は、モニタ18bに画像表示される(ステップS31)。
【0108】
以上のように、X線撮影装置10は、本撮影において位相微分画像を生成するときに、本撮影画像データ51に基づいて、本撮影画像データ52から直接生成される第1位相微分画像K1と、移動平均処理を施した本撮影画像データ52から生成される第2位相微分画像K2の二種類の位相微分画像を生成し、これらの第1,第2位相微分画像K1,K2を用いて第1位相微分画像K1にアンラップ処理を施したときに生じるアンラップエラーを補正する。これにより、X線撮影装置10は、アンラップエラーがない第1位相微分画像K1b及び位相コントラスト画像を生成し、表示することができる。
【0109】
また、X線撮影装置10は、第1位相微分画像K1のアンラップエラーを補正するが、このアンラップエラーの補正処理は、第2位相微分画像K2の画素値ψ(x,y)を基準とすることにより、アンラップエラーが発生した箇所及びアンラップエラーによるギャップの実質的な累積回数を検出し、アンラップエラーで生じるギャップのみを補正するものである。アンラップエラーが生じた画素値ψ(x,y)を近似値に補正し、単にアンラップエラーを目立たなくする補正処理(例えば、補間やフィッティング等で行う補正処理)と比較すると、このX線撮影装置10が行うアンラップエラーの補正処理は、被検体Hの像の情報や解像度等を全く損なうことがなく、アンラップエラーを正確に補正することができるという利点がある。
【0110】
さらに、比較例としては、例えば、アンラップ処理前の位相微分画像から、アンラップ処理が正常に行える領域とアンラップエラーが起こり得る領域とを予め抽出し、正常にアンラップ処理が行える領域にだけアンラップ処理を行うように、アンラップ処理の起点や経路を選択することにより、アンラップエラーを発生しないようにすることが考えられる。しかし、上述の実施形態のように、第2位相微分画像K2を基準に第1位相微分画像K1のアンラップエラーを補正すれば、比較例のようなアンラップ処理が正常に行える領域の抽出や起点,経路の設定等の複雑な処理が不要であり、簡便な処理でアンラップエラーの補正をすることができる。
【0111】
以下、補正処理部44によってアンラップエラーが補正される態様を、より具体的に説明する。
【0112】
例えば、図13に示すように、被写体Hに、X線吸収能が高いためにコントラストが低くノイズが生じやすい骨部66と、X線撮影装置10による撮影の主要な関心領域である軟部組織67(軟骨や関節液等)があるとする。骨部66はコントラストが低く、アンラップエラーが生じやすいので、本撮影画像データ52から直接生成された位相微分画像K1においては、骨部66を通る経路WRに沿ってアンラップエラーによる筋状のノイズ67が発生することがある。破線で示す領域68のように、ノイズ67が軟部組織67に重畳される箇所では、関心領域である軟部組織67の観察を阻害する。
【0113】
一方、図14に示すように、第2位相微分画像K2は、移動平均処理が施され、平滑化された本撮影画像データ52から生成及びアンラップ処理が行われているので、第1位相微分画像K1と同様にアンラップ処理を施してもアンラップエラーは生じない。また、第2位相微分画像K2は、第1位相微分画像K1と比較して軟部組織67の輪郭等が若干不鮮明になるが、ほぼ第1位相微分画像K1と同様の被検体Hの像が写し出されている。このため、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の対応する画素は、被検体Hのほぼ同じ箇所のデータとなっている。
【0114】
図15に示すように、第1位相微分画像K1でアンラップエラーが生じたある経路WR上の画素値ψ(x,y)を第2位相微分画像K2の対応する画素値ψ(x,y)と比較すると、第1位相微分画像K1,第2位相微分画像K2ともに、位相飛びによる不連続点DP1及びDP2はアンラップ処理によって接続され、連続化される。
【0115】
ノイズ等による不連続点Errでは、第1位相微分画像K1の場合、アンラップ処理によって値域の幅αが加算されるアンラップエラーが生じる。このため、アンラップ処理の起点SPからノイズ等による不連続点Errまでの範囲E1では、画素値ψ(x,y)がアンラップ処理によって滑らかに接続されるが、不連続点Errにおいて幅αのギャップが生じ、不連続点Err以降の領域E2においてもこのアンラップエラーによるギャップが上乗せされたかたちで反映される。一方、第2位相微分画像K2は、本撮影画像データ52を平滑化してから生成されているため、元の本撮影画像データ52にあったノイズ等による不連続点Errはなく、アンラップ処理後の当該経路WR上にはギャップは生じない。
【0116】
このため、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の差分Δ(x,y)を算出すると、第1位相微分画像K1におけるアンラップ処理の起点SPからノイズ等による不連続点Errまでの領域E1では、差分Δ(x,y)はほぼ0(Δ(x,y)≒0)である。一方、不連続点Err以降の領域E2では、差分Δ(x,y)が概ね幅αになる(Δ(x,y)≒α)。したがって、前述の式(11)を満たす整数nを算出すると、領域E1ではn=0であり、領域E2ではn=1となる。
【0117】
補正処理部44は、こうして算出した式(11)を満たす整数nに応じて、前述の式(12)に示す通り、アンラップエラーで生じたギャップの総量nαを減算した画素値ψ’(x,y)を第1位相微分画像K1の新たな画素値とする。こうすると、同図15に示すように、新たな画素値ψ’(x,y)は、第2位相微分画像ψ(x,y)とほぼ一致し、滑らかに接続され、アンラップエラーが解消される。
【0118】
こうしてアンラップエラーが補正された第1位相微分画像K1aは、図16に示すように、筋状のノイズもなく、かつ、関心領域である軟部組織67の輪郭等も鮮明な画像となる。
【0119】
なお、アンラップ処理は値域の幅αを加算/減算する処理であるため、アンラップエラーもまた幅αを単位とした画素値のギャップである。このため、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の差分Δ(x,y)も基本的に幅αを単位とした値である。したがって、差分Δ(x,y)≒nαを満たすnを算出すれば、この画素で累積されたアンラップエラーによるギャップの総量を検出することができる。但し、第2位相微分画像K2は移動平均処理により平滑化した本撮影画像データ52から生成されたものであるため、アンラップエラーが生じない代わりに、厳密には第1位相微分画像K1とは異なる画素値になる。このため、前述の式(11)では、こうした第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の生成過程による差異を考慮して、単純に差分Δ(x,y)=nαを満たす整数nを算出するのではなく、アンラップエラーで生じるギャップ量nαを中心とした±α/2の範囲幅(全幅がα)となる範囲を用いている。
【0120】
このことから分かる通り、移動平均処理時に平均する画素数等の調節により、第1位相微分画像K1と第2位相微分画像K2の生成過程の相違による差異を小さく抑え得る場合には式(11)の範囲幅を例えば±α/4にする等、±α/2よりも小さくすることも考えられる。但し、式(11)で指定する範囲幅を±α/2よりも大きくすることはできない。式(11)で指定する範囲幅を±α/2よりも大きくすると、アンラップエラーで生じるギャップ量nαを中心とした各範囲に重複が生じ、整数nを一意に算出することができなくなるためである。
【0121】
また、式(11)の範囲幅を±α/2よりも小さくする場合には、アンラップエラーで生じるギャップ量nαを中心とした各範囲が連続しないために、整数nが算出できないことがある。例えば、式(11)の範囲幅を±α/4にする場合、差分Δ(x,y)が−α/4≦Δ(x,y)<+α/4であれば整数nは0、α+α/4≦Δ(x,y)<α+α/4であれば整数nは1となるが、α/4≦Δ(x,y)<α+α/4の場合には整数nを算出できない。こうしたことから、式(11)で示した通り、ギャップ量nαを中心とした各範囲の幅は±α/2とし、各ギャップ量nαについて指定する範囲が連続するようにすることが好ましい。
【0122】
なお、上述の実施形態では、統計演算処理部41で行う統計演算処理の一例として、各画素の画素値を周辺の画素値との平均値に置き換える移動平均処理を例に挙げたが、統計演算処理部41で行う移動平均処理は、以下に説明する態様の、いわゆるビニング処理に対応する移動平均処理でも良い。
【0123】
図17に示すように、例えば、本撮影画像データ52の画素を3×3の領域に区切る。例えば、3×3の領域81aでは、全ての画素Q1〜Q9の画素値を、同領域81a内の画素値の平均値((Q1+Q2+・・・+Q8+Q9)/9)に置き換える。同様に、領域81bでは、全ての画素Q11〜Q19の画素値を、同領域81b内の画素値の平均値((Q11+Q12+・・・+Q18+Q19)/9)に置き換える。このように、領域81a,81b等の各領域内の画素値を、全て同領域内の画素の平均値に置き換える移動平均処理は、これらの領域81a,81bを各々一つの大画素にすることに相当する。
【0124】
このように大画素化する移動平均処理をすると、各大画素(領域81a,81b等)は、元の本撮影画像データ52の各画素の一つ一つと比較して光量が増大し、S/N比が向上する。このため、強度変調信号のコントラストが向上し、位相ズレ量ψ(x)が正確に算出でき、第2位相微分画像K2にアンラップエラーを引き起こすようなノイズは生じなくなる。
【0125】
なお、ここでは、3×3画素で大画素を形成する例を説明したが、大画素のサイズは任意である。前述の通り、第2位相微分画像K2にアンラップエラーが生じず、かつ、第2位相微分画像K2の解像度の低下を最小限に抑えるためには、9×9画素程度を一つの大画素とすることが好ましい。また、ここでは、大画素の画素値を、元の画素の平均値とする例を説明したが、単に、各画素の合計値を大画素の画素値としても良い。
【0126】
なお、上述の実施形態では、位相微分画像と位相コントラスト画像を生成する例を説明したが、プレ撮影画像データ51や本撮影画像データ52から吸収画像、吸収画像の微分画像、または小角散乱画像を生成しても良い。吸収画像は、強度変調信号の平均強度を画像化することにより生成される。吸収画像の微分画像は、吸収画像を所定方向(例えば、x方向)に微分処理することにより生成される。小角散乱画像は、強度変調信号の振幅を画像化することにより生成される。
【0127】
さらに、X線画像検出器13、第1の格子21、第2の格子22に欠陥が生じたり、ゴミなどが付着したりした場合には、所定の画素部30の画素値が常に高く、または低くなることがある。このような画素欠陥が生じた領域は、強度変調信号の平均強度、振幅等が異常値を示すため、アンラップエラーが生じやすい領域となる。このようにアンラップエラーが画素欠陥に起因する場合にも本発明は有効であり、アンラップエラーを補正することができる。
【0128】
上述の画素欠陥に起因するアンラップエラーは、プレ撮影時にも発生する。このため、上述の実施形態では、本撮影時にだけアンラップエラーの補正処理を行う例を説明したが、画素欠陥がある場合に備えて、プレ撮影時にもアンラップエラーの補正処理を行うようにすることが好ましい。プレ撮影時にアンラップエラーを補正する態様は、上述の実施形態で説明した本撮影の場合と同様であり、プレ撮影画像データ51から第1の位相微分画像を生成するとともに、統計演算処理部41によって移動平均処理を施したプレ撮影画像データ51から第2の位相微分画像を生成し、これらを用いて補正処理部44でアンラップエラーの補正処理を行えば良い。
【0129】
なお、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0130】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を格子線に直交する方向(x方向)に移動させているが、本出願人により特願2011−097090号として出願されているように、第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向(xy平面内でx方向及びy方向に直交しない方向)に移動させてもよい。この移動方向は、xy平面内で、かつy方向以外であれば、いずれの方向であってもよい。この場合には、第2の格子22の移動のx方向成分に基づいて、走査位置kを設定すればよい。第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向に移動させることにより、縞走査の一周期分の走査に要するストローク(移動距離)が長くなるため、移動精度が向上するといった利点がある。
【0131】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を移動させているが、第2の格子22に代えて、第1の格子21を格子線に直交する方向または傾斜する方向に移動させてもよい。
【0132】
また、上記第実施形態では、X線源11から射出されるコーンビーム状のX線を射出するX線源11を用いているが、平行ビーム状のX線を射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p=pをほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0133】
また、上記実施形態では、X線源11から射出されたX線を第1の格子21に入射させており、X線源11は単一焦点であるが、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)を設けることにより、X焦点を分散化してもよい。これより、高出力のX線源を用いることが可能となり、X線量が向上するため、位相微分画像の画質が向上する。この場合、マルチスリットのピッチpは、下式(13)を満たす必要がある。この場合、距離Lは、マルチスリットから第1の格子21までの距離を表す。
【0134】
【数13】

【0135】
また、上記実施形態では、第1の格子21が入射X線を幾何光学的に投影するように構成しているが、WO2004/058070号公報等で知られているように、第1の格子21をタルボ効果が生じる構成としてもよい。第1の格子21でタルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、上記マルチスリットを用いればよい。
【0136】
第1の格子21でタルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)が、第1の格子21からz方向下流にタルボ距離Zだけ離れた位置に生じるため、第1の格子21から第2の格子22までの距離Lをタルボ距離Zとする必要がある。
【0137】
タルボ距離Zは、第1の格子21の構成とX線のビーム形状とに依存する。第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(14)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0138】
【数14】

【0139】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(15)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0140】
【数15】

【0141】
また、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(16)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0142】
【数16】

【0143】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(17)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0144】
【数17】

【0145】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(18)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0146】
【数18】

【0147】
そして、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(19)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0148】
【数19】

【0149】
また、上記実施形態では、格子部12に第1及び第2の格子21,22の2つの格子を設けているが、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることも可能である。
【0150】
例えば、特開平2009−133823号公報に記されたX線画像検出器を用いることにより、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることが可能である。このX線画像検出器は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器であり、各画素の電荷収集電極が複数の線状電極群を備える。1つの線状電極群は、一定の周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続したものであり、他の線状電極群と互いに位相が異なるように配置されている。この線状電極群が第2の格子22として機能し、線状電極群が複数存在することにより、一度の撮影で位相の異なる複数のG2像の検出が行われる。したがって、この構成では、走査機構23を省略することが可能である。
【0151】
また、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法がある。この方法として、本出願人により特願2010−256241号として出願されている画素分割法がある。この画素分割法では、第1の格子21と第2の格子22とを、z方向の回りに僅かに回転させて、y方向に周期を有するモアレ縞をG2像に発生させる。X線画像検出器13により得られる単一の画像データを、該モアレ縞に対して互いに位相が異なる画素行(x方向に並ぶ画素)の群に分割し、分割された複数の画像データを、縞走査により互いに異なる複数のG2像に基づくものと見なして、上記縞走査法と同様な手順で位相微分画像を生成する。この画素分割法において、前述の強度変調信号は、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0152】
さらに、画素分割法と同様に、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法として、WO2010/050483号公報に記載されたフーリエ変換法が知られている。このフーリエ変換法は、上記単一の画像データに対してフーリエ変換を行うことによりフーリエスペクトルを取得し、このフーリエスペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトル(位相情報を担うスペクトル)を分離した後、逆フーリエ変換を行なうことにより位相微分画像を生成する方法である。なお、このフーリエ変換法において、前述の強度変調信号は、画素分割法の場合と同様に、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0153】
本発明は、医療診断用の放射線撮影装置の他に、工業用の放射線撮影装置等に適用することが可能である。また、放射線は、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0154】
10 X線撮影装置
12 格子部
13 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
30 画素部
31 画素電極
33 ゲート走査線
35 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、
前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、
前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第1位相微分画像を生成する第1位相微分画像生成部と、
前記放射線検出器により得られた前記画像データに統計演算処理を施す統計演算処理部と、
前記統計演算処理部によって前記統計演算処理が施された前記画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第2位相微分画像を生成する第2位相微分画像生成部と、
前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、
前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像から前記アンラップ処理後の前記第2位相微分画像を減算して差分Δを画素毎に算出するともに、nα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを算出し、前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像の各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記第1位相微分画像生成部は、前記第1位相微分画像を生成するとともに、前記被検体を配置しない状態で行われるプレ撮影において得られる画像データに基づいて位相微分画像を生成し、
前記アンラップ処理部は、前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像とともに、前記プレ撮影で生成された位相微分画像にアンラップ処理を施し、
前記プレ撮影で生成された位相微分画像に前記アンラップ処理を施した画像をオフセット画像として記憶するオフセット画像記憶部と、
前記補正処理部によって前記アンラップ処理のエラーが補正された前記第1位相微分画像から、前記オフセット画像を減算するオフセット処理部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記統計演算処理が行う前記統計演算処理は、前記画像データのノイズを低減するノイズ低減処理であることを特徴とする請求項1または2記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記ノイズ低減処理は、前記画像データを平滑化する平滑化処理であることを特徴とする請求項3記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記平滑化処理は、前記画像データの各画素の画素値を、当該画素の画素値と周辺の画素の画素値との平均値に置き換える移動平均処理であることを特徴とする請求項4記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記ノイズ低減処理は、前記画像データの画素を所定数含む複数の組みにして、各々の前記組みに属する画素の画素値の平均値を、当該組みの全画素の新たな画素値とする処理であることを特徴とする請求項3記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、
前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、
前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、
前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することを特徴とする請求項7記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることを特徴とする請求項8記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることを特徴とする請求項8記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することを特徴とする請求項7記載の放射線撮影装置。
【請求項12】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項13】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項14】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項15】
放射線源と放射線検出器との間に格子部を配置して被検体の撮影を行うことにより得られる画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第1位相微分画像を生成する第1位相微分画像生成ステップと、
前記画像データに統計演算処理を施す統計演算処理ステップと、
前記統計演算処理が施された前記画像データに基づいて幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた第2位相微分画像を生成する第2位相微分画像生成ステップと、
前記第1位相微分画像及び前記第2位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、
前記アンラップ処理が施された前記第1位相微分画像と前記第2位相微分画像の差分Δを算出する差分算出ステップと、
前記差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出することにより、前記第1位相微分画像の各画素に累積されたアンラップエラーの回数を算出するアンラップエラー累積回数算出ステップと、
前記アンラップ処理後の前記第1位相微分画像の各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理ステップと、
を備えることを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−63166(P2013−63166A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203463(P2011−203463)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】