説明

放射線検出器

【課題】内部温度が安定するまでの時間を短縮できるX線検出器を提供する。
【解決手段】主電源からX線検出器本体への給電を遮断した状態ではX線検出器本体へと予備通電する充電池を備える。充電池からの予備通電による加熱でX線検出器の内部温度を安定駆動する温度で保持する。電源投入後から通電が可能となる場合と比べて、X線検出器の内部温度が安定するまでの時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出する放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代の診断用X線画像検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形のX線検出器が注目を集めている。このX線検出器にX線を照射することにより、X線撮影像またはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。このX線画像検出器は、固体検出器であることから、画質性能や安定性の面でも極めて期待が大きく、多く研究開発が進められている。
【0003】
実用化の最初の用途として、比較的大きな線量で、静止画像を収集する胸部あるいは一般撮影用に開発され、近年商品化されている。より高性能で、透視線量下で毎秒30フレーム以上のリアルタイム動画を実現させる必要のある循環器、消化器分野への応用に対しても近い将来に商品化が予想される。この動画用途に対しては、S/Nの改善や微小信号のリアルタイム処理技術等が重要な開発項目となっている。
【0004】
この種のX線検出器には、大きく分けて直接方式と間接方式との二方式がある。直接方式は、X線をa−Se等の光導電膜により直接電荷信号に変換し、電荷蓄積用のキャパシタに導く方式である。一方の間接方式は、シンチレータ層である蛍光変換膜によりX線を受けて一旦可視光に変換し、可視光をa−SiフォトダイオードやCCDにより信号電荷に変換し、電荷蓄積用キャパシタに導く方式である。
【0005】
現在実用化されているX線検出器の多くが間接方式を採用している。従来の間接型のX線検出器においては、人体等を透過したX線画像をX線検出器に入射し、そのX線画像情報を電気信号に変換する。この際、蛍光変換膜によってX線を可視光に変換し、その可視光を光電変換基板の格子状に形成された複数の画素毎に検出し、二次元的な画像情報を電気信号として出力する。
【0006】
平面型光検出器である光電変換基板は、液晶表示装置の製造工程に類似している薄膜トランジスタ(TFT)パネル製造工程により、信号配線と薄膜トランジスタを形成した回路基板を作成し、その回路基板上に入力面からの蛍光を検出するフォトダイオードを画素毎に格子状に形成し、そのフォトダイオードを下部に配置されている薄膜トランジスタに電気的に接続している。画素は回路基板上に格子状に配置され、各画素のスイッチング素子は行を表す制御線(ゲート線)と列を表す信号線とに接続されている。制御線と信号線とは格子状に配置され、格子状に配置している各画素に接続されている。
【0007】
この光電変換基板上にはX線を可視光に変換する蛍光体が積層されている。
【0008】
そして、X線検出器に外部から入射したX線は蛍光変換膜の内部にて可視光に変換され、この可視光が光電変換基板に入射する際にこの光電変換基板のフォトダイオードにて電荷に変換され、フォトダイオードもしくは並列接続されている容量素子内部に蓄積される。
【0009】
電荷に変換された画像情報は、フォトダイオードに接続されている薄膜トランジスタを通して光電変換基板外部へと伝達される。すなわち、制御線の電位が変化することで、電位の変化した制御線に接続された薄膜トランジスタは導通状態となり、導通状態となった薄膜トランジスタに接続されているフォトダイオードもしくは容量素子内部に蓄積された電荷が薄膜トランジスタを通して外部に排出される。外部に排出された電荷は薄膜トランジスタに接続されている信号線を通して光電変換基板外部へと排出される。
【0010】
薄膜トランジスタを駆動する制御線の電位は通常1本のみの制御線の電位を変化させることにより、ある特定の行に相当する画素内部の薄膜トランジスタを導通状態にする。電位を変化させる制御線を順次変更することで、ある特定の行に相当する画素からの信号が外部に排出され、電荷の排出された信号線の位置と、その時点で電位の変動した制御線の位置とを参照することで、X線の入射位置と強度を算出することが可能となる。
【0011】
光電変換基板外部に排出された電荷信号は、各信号線に接続された積分増幅器へと入力される。積分増幅器に入力された電荷情報は増幅され、電位信号に変換されて出力される。積分増幅器から出力された電位信号はアナログ、デジタル変換機にてデジタル値に変換され、最終的には画像信号として編集されてX線検出器の外部へと出力される(例えば、特許文献1および2参照。)。
【特許文献1】特開2006−250729号公報(第7−10頁、図2および図3)
【特許文献2】特開2008−245676号公報(第5−8頁、図2−4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
X線検出器は、主に人体を透過したX線を画像化することを目的とする。人体への大量のX線照射を行うと健康への悪影響があるため、人体へのX線照射は必要最低限に抑えられる。そのため、X線検出器に入射するX線の強度は非常に弱く、X線検出器内部の薄膜トランジスタから出力される電荷量はきわめて小さい。通常のX線による人体の撮影では、1つの画素から出力される電荷量は1pC以下である。特に、動画観察を目的としたX線画像の取得時には、各画素から出力される電荷量は1fC程度の非常に微細な信号量となり、X線画像とは無関係のノイズ信号によって容易に画像情報が劣化してしまう。
【0013】
そのため、X線画像の取得時には多数のノイズが出力信号に含まれることは避けられない。特に大きいのが、各画素に接続されているフォトダイオードの暗電流と、積分アンプ内部にて発生するオフセットずれ、そしてパネル駆動信号の電位ずれ等である。これらのノイズはフォトダイオードの温度、積分アンプの温度、そして駆動回路の温度により大きく変化する。特にフォトダイオードの暗電流は室温付近においても数fCあり、温度が10度上昇すると暗電流の大きさは4倍以上に大きくなることが知られている。この挙動は半導体素子特有のものであり、半導体素子にて構成される積分アンプ、そして駆動回路も同様の特性のずれを発生させることは避けられない。
【0014】
X線検出器内部には多数の回路素子が内蔵されており、それらは電源を投入し駆動状態になると電力を消費して熱を発生させる。したがって、X線検出器の電源を投入すると内部の電子回路によって熱が発生し、その熱はX線検出器内部の温度を上昇させる。X線検出器内部の温度は電源投入時から上昇を開始し、X線検出器内部の温度が安定する定常状態となるまでには長時間を必要とする。その温度上昇時においてはフォトダイオードの暗電流や積分回路のオフセット値、そして駆動回路の電圧やそれに含まれるノイズの大きさは変動していく。それらの変動は極めて微小であるX線画像信号に大きなノイズとなって混入し、画像信号を大きく劣化させてしまう。画像信号を劣化させるノイズの大きさは温度によって大きく変化することから、温度の不安定な電源投入直後においてはノイズの補正が極めて困難であり、温度が不安定である電源投入直後においてはX線画像の品質が劣化してしまうことは避けられない。そのため、医療現場においてX線検出器は電源投入直後から一定時間は使用できず、緊急を要する診断に用いることが困難である。
【0015】
電源投入直後や一部の駆動を停止している待機状態から駆動状態へと移行したときの温度変化によるX線画像の劣化を防ぐために、X線検出器の電源を常時入れておき、X線検出器内部の温度を安定化させることで常に品質の安定したX線画像の取得を可能とすることは可能である。しかし、不使用時にも駆動時と同じ電力を消費することでX線検出器内部の温度を一定にしているため、使用電力が増大し電気コストの増大、環境負荷の増大となってしまう。
【0016】
現在の技術では電源投入から温度安定化までの時間は30分以上かかり、その間はX線画像に含まれるノイズが多くなることは避けられない。X線フィルムを用いる従来の技術では発熱現象はなく画質も安定しているため、直ぐにX線画像を撮影することが可能である。そのため、多数の利点があるX線検出器への完全な移行には問題があるのが現状である。
【0017】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、内部温度が安定するまでの時間を短縮できる放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の放射線検出器は、放射線を検出する放射線検出器本体と、この放射線検出器本体を駆動する駆動回路と、この放射線検出器本体で検出した検出信号を出力する出力回路と、少なくとも主電源から放射線検出器本体への給電が遮断された状態では放射線検出器本体へと予備通電する電池とを具備したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、放射線検出器の内部温度が安定するまでの時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1ないし図4に第1の実施の形態を示し、図1は放射線検出器の内部温度と予備通電と冷却機構との動作タイミングとの関係を示す説明図、図2は放射線検出器の構成図、図3は放射線検出器の分解状態の斜視図、図4は放射線検出器を模式的に示す正面図である。
【0022】
図3において、10は放射線検出器としてのX線検出器で、このX線検出器10は、間接変換方式のX線画像検出器であって、放射線検出器本体としてのX線検出器本体11を備え、このX線検出器本体11が、マトリクス状に配列された複数の画素12を有する画像検出部である光電変換基板13、およびこの光電変換基板13の表面に積層形成された入力面である蛍光体としての蛍光変換膜14によって構成されている。
【0023】
光電変換基板13は、主にガラスで構成される保持基板である平面基板15上に回路層16が形成された回路基板17を有し、この回路基板17上に光電変換素子としての光検出器であるフォトダイオード18が画素毎に形成されている。
【0024】
そして、蛍光変換膜14中に放射線としてのX線19が入射すると、蛍光変換膜14にてX線19の二次元分布に対応する可視光が発生し、発生した可視光が回路基板17の表面へと到達して、フォトダイオード18に入射して電荷に変換される。
【0025】
また、図4に示すように、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)21とコンデンサ22とフォトダイオード18とがそれぞれを組として格子状に配置され、それぞれの組がX線画像の画素12に対応する。平面基板15上には、各薄膜トランジスタ21のゲート電極を接続する複数の制御線(ゲート線)23が行方向に配列され、各薄膜トランジスタ21のドレインを接続する複数の信号線24が列方向に配列されている。このような回路構成にすることにより、画素12毎の各フォトダイオード18にて発生した電荷は、それぞれに接続されている薄膜トランジスタ21のゲート電極がオン状態になるまでそれぞれに接続されたコンデンサ22に保持され、その状態のときに制御線23を1つだけオン状態にすると、そのオンになった制御線23に接続された同じ列の薄膜トランジスタ21がオン状態になり、その薄膜トランジスタ21を通じてそれに接続されているコンデンサ22の電荷が信号線24に流れる。これによって、特定の行に対応するX線画像情報が外部に出力されることになる。さらに、オンにする制御線23を順々に変えることにより、全体のX線画像情報を外部に映像信号として出力することが可能となる。
【0026】
また、図2に示すように、X線検出器本体11の各制御線23および各信号線24には駆動回路31および出力回路32がそれぞれ接続されている。
【0027】
駆動回路31は、X線検出器本体11の各制御線23に接続される複数のゲートドライバ33、およびこれらゲートドライバ33に接続される行選択回路34を備えている。ゲートドライバ33は、行選択回路34からの信号を受信すると、制御線23の電圧を順番に変更していく機能を有している。行選択回路34は、X線画像の走査方向に従って対応するゲートドライバ33へ信号を送る機能を有している。
【0028】
出力回路32は、X線検出器本体11の各信号線24に接続された複数の積分アンプ35を備えている。これら積分アンプ35は、X線検出器10から出力される極めて微小な電荷信号を増幅して出力する機能を有する。積分アンプ35には、これら各積分アンプ35から出力される信号をデジタル信号へと順次変換するA/D変換機36が接続されている。これらA/D変換機36には、デジタル値となった電荷信号をX線検出器本体11に配置された画素12の行と列にしたがって順次整理して画像信号として外部へ出力する画像合成回路37が接続されている。
【0029】
また、X線検出器10は、電池である充電池41を備えている。この充電池41は、X線検出器本体11に対して主電源が遮断されている(動力供給がない)状態で、X線検出器本体11へと給電可能なものであり、例えば出力回路32のA/D変換機36と画像合成回路37との間の位置に接続されている。なお、この充電池41は、想像線41aに示すように出力回路32の外部など、任意の位置に配置してもよい。
【0030】
また、X線検出器10は、図示しないが、X線検出器10を制御する制御回路や、X線検出器10に電源を供給する主電源を構成する電源回路等を備えている。X線検出器本体11、駆動回路31および出力回路32並びに制御回路を含む回路等が図示しない筐体内に収容されている。
【0031】
そして、制御回路は、例えば、放射線検出が可能な駆動状態と、一部の駆動を停止することにより消費電力を抑制する待機状態とがあり、X線検出器本体11に対して主電源から給電されているときには、主電源から電力をとり、X線検出器本体11に対して主電源が遮断されているときには、充電池41から電力をとって動作している。また、この制御回路には、時刻を測定する計時手段であるタイマが接続されている。このタイマは、制御回路に内蔵されているものでもよいし、別途設けてもよい。
【0032】
電源回路は、例えば、X線検出器本体11が主電源から給電されている駆動状態では充電池41を充電するように構成されている。
【0033】
さらに、X線検出器10は、電源回路からの給電により動作する放熱機構である図示しない冷却機構を備えている。この冷却機構は、例えば水冷もしくは空冷などによるものであり、X線検出器10の内部の熱を筐体の外部へと排出可能となっている。
【0034】
次に、上記第1の実施の形態の動作を説明する。
【0035】
初期状態において、図4に示すコンデンサ22には検出された電荷が蓄えられており、並列接続されているフォトダイオード18には逆バイアス状態の電圧が加えられている。このときの電圧は信号線24に加えられている電圧と同じである。フォトダイオード18はダイオードの一種なので、逆バイアスの電圧が加えられても電流はほとんど流れることは無い。そのため、コンデンサ22に蓄えられた電荷は減少することなく保持されることになる。
【0036】
このような状況において、X線19が蛍光変換膜14に入射すると、蛍光変換膜14の内部において高エネルギのX線19が低エネルギの多数の可視光に変換される。蛍光変換膜14の内部にて発生した蛍光の一部は光電変換基板13の表面に配置されているフォトダイオード18へと到達する。
【0037】
図4に示すフォトダイオード18に入射した蛍光はフォトダイオード18の内部にて電子とホールとからなる電荷に変換され、コンデンサ22にて印加されている電界方向に沿ってフォトダイオード18の持つ両端子へと到達することで、フォトダイオード18の内部を流れる電流として観測される。
【0038】
蛍光の入射により発生したフォトダイオード18の内部を流れる電流は並列接続されているコンデンサ22へと流れ込み、コンデンサ22の内部に蓄えられている電荷を打ち消す作用を及ぼす。その結果、コンデンサ22に蓄えられていた電荷は減少し、コンデンサ22の端子間に発生していた電位差も初期状態と比べて減少する。
【0039】
図2に示すゲートドライバ33では多数の制御線23の電位を順番に変化させる。ある特定の時間においてはゲートドライバ33において電位の変化している制御線23は1本のみであり、電位の変化した信号線24に並列接続されている薄膜トランジスタ21のソース、ドレイン間端子は絶縁状態から導通状態へと変化する。
【0040】
各信号線24には特定の電圧がかけられており、電位の変化した制御線23に接続されている薄膜トランジスタ21のソース、ドレイン端子を通じて接続されているコンデンサ22に印加されることになる。
【0041】
初期状態において、図4に示すコンデンサ22は信号線24と同じ電位状態になっているため、コンデンサ22の電荷量が初期状態と変化していない場合、コンデンサ22には信号線24からの電荷の移動は発生しない。しかし、外部からのX線19より蛍光変換膜14の内部にて発生した蛍光が入射したフォトダイオード18と並列接続しているコンデンサ22では、内部に蓄えられている電荷が減少しており、初期状態の電位とは変化している。そのため、導通状態となった薄膜トランジスタ21を通じて信号線24より電荷の移動が発生し、コンデンサ22の内部に蓄えられた電荷量は初期状態に戻る。また、移動した電荷量は信号線24を流れる信号となり外部へと伝わっていく。
【0042】
図4における各信号線24は図2に示す各積分アンプ35へと接続されている。信号線24はそれぞれに対応した積分アンプ35に1対1に接続されている。そのため、信号線24を流れる電流は対応する積分アンプ35へと入力される。積分アンプ35では一定時間内に流れる電流を積分し、その積分値に対応した電圧を外部へと出力する機能を有する。この動作を行うことで、ある一定時間内に信号線24を流れる電荷量を電圧値に変換することが可能となる。この結果、X線19にて蛍光変換膜14の内部にて発生した蛍光の強弱分布に対応したフォトダイオード18の内部にて発生する電荷信号は、積分アンプ35によって電位情報へと変換される。
【0043】
積分アンプ35より発生した電位はA/D変換機36にてデジタル信号へと順次変換される。デジタル値となった信号は、画像合成回路37の内部にて光電変換基板13に配置された画素12の行と列にしたがって順次整理され、画像信号として外部へと出力される。
【0044】
このような動作を連続して行うことにより、外部から入射したX線画像情報は電気信号による画像情報へと変換され、外部へと出力される。外部へと出力された電気信号による画像情報は通常のディスプレイ装置によって容易に画像化が可能であり、それによりX線画像を可視光による画像として観察することが可能となる。
【0045】
また、一般的に、X線検出器10では大量の電力を必要とする。これは多数接続された積分アンプ35や、大量のデジタル信号を取り扱うデジタル回路が必要とする電力が原因である。特に積分アンプ35には高速、低ノイズ特性が要求されることから、必要な電力量の大きいA級アンプ構造であることが必要となってくる。それらの回路が必要とする電力の大部分が熱に変換されてX線検出器10の内部に蓄積されることとなる。
【0046】
X線検出器10の内部に蓄積された熱は冷却機構を通して外部に出力されるが、この冷却機構による放熱機能の制限によりX線検出器10の内部の温度、すなわち検出器温度である検出器内部温度が上昇することは避けられない。そのため、X線検出器10は、未通電状態から通電状態に、もしくは一部の駆動を停止している待機状態から駆動状態になると、検出器内部温度が徐々に上昇し、ある一定温度に上昇して冷却機構の放熱量と等しくなることで温度上昇はなくなり、検出器内部温度は安定する。
【0047】
X線検出器10の内部に使用している素子や回路は温度によってその特性を大きく変化させるものが多い。特にフォトダイオード18、積分アンプ35の特性変化はX線検出器10の画像品位に大きく影響を及ぼすことが知られている。
【0048】
フォトダイオード18は入射する蛍光が無い状態において発生する暗電流が極めて低いことが求められている。これは、非常に微小な信号であるX線19による蛍光情報に対して、十分に低い暗電流を持つフォトダイオード18を用いないと、フォトダイオード18による暗電流の中に蛍光による電流が埋もれてしまい、信号のS/Nが低くなってしまうからである。
【0049】
実際のフォトダイオード18は、アモルファスシリコン膜による半導体膜により構成され、半導体の基本的性質として温度上昇に伴い暗電流が増大するという特性をもつ。室温である20℃におけるフォトダイオード18の暗電流値の一例としては30fA/mm2であるが、これが30℃の環境においては128fA/mm2、さらに40℃の環境では430fA/mm2へと増加する。これは半導体としての基本的な性質であり、これを回避することは困難である。フォトダイオード18の暗電流値はX線検出器10の内部の回路により補正されているが、この補正は暗電流値が変化してしまうと補正が困難となり、最終的に出力されるX線画像のコントラストが悪化してしまう。また、温度上昇時に全てのフォトダイオード18の暗電流が同一の値の変化を起こすことはなく、一般的にはそれぞれ異なった暗電流値の増加となるため、温度上昇に伴い出力されるX線画像にしみ、むらなどの擬似画像が混入し、画像品位を大きく損なう原因となる。
【0050】
同様に半導体素子にて構成されている積分アンプ35は、温度によってオフセット値が変化する。このオフセット値はフォトダイオード18の暗電流値と同様の作用を持ち、温度上昇によりX線画像の品質を損なうことは避けられない。
【0051】
これらの作用のため、X線検出器10は、未通電状態から通電状態に、もしくは待機状態から駆動状態とした場合、X線検出器10の内部の回路等から放出される熱の影響により検出器内部温度は上昇を開始する。温度上昇が発生している状態では出力されるX線画像の品質が大幅に劣化するため、この温度上昇の変化が大きい時間帯は高精度の診療目的とした医療用途にX線検出器10を用いることはできない。
【0052】
図6は、一般的なX線検出器の場合において、電源を投入してからの経過時間に対する内部温度の関係を示す。一般的なX線検出器では、環境温度が20℃のときに可動を続けると、X線検出器の内部温度が40℃にて定常状態となって安定化するように設計されている。このX線検出器では、電源を投入してから30分以上経過してもX線検出器の内部の温度上昇は安定化しない。そのため、このX線検出器を用いてX線による医療行為を行うには、使用する30分以上前にはX線検出器の電源を投入しておく必要があり、使用者にとって非常に不便を強いるとともに、緊急を要する診断を行うときには大きな支障となってしまう。
【0053】
このような問題点を改善するため、本実施の形態のX線検出器10では、主電源とは別個に給電可能な充電池41を筐体内部などに搭載し、少なくとも主電源からX線検出器本体11への給電が遮断された状態、例えば電源投入前から充電池41により予備通電することで、X線検出器10の内部温度を安定駆動が可能な温度に保持する機能を有する。
【0054】
具体的には、X線検出器10の主電源が遮断された状態から、充電池41がX線検出器10への電力供給を始める。このとき、充電池41から電力供給するのは、積分アンプ35やデジタル回路などの発熱部品のみとし、通電による加熱効果が得られない冷却機構への動力供給は極力行わないようにすることで、発熱部品への消費電力量を抑制できる。保持に必要な消費電力は例えば10〜80W程度で、主電源を立ち上げた時に、既に発熱部品への予備通電による加熱でX線検出器10の内部温度は安定駆動する温度で保持され、筐体での放熱および冷却機構の動作による放熱でX線検出器10の内部温度は早期に熱平衡となり、電源投入後から通電が可能となる場合と比べて短時間での稼動が可能となる。
【0055】
すなわち、予備通電にタイマ制御を用いず、図1に示すように、主電源からの給電が遮断された状態では充電池41より予備通電を常時行うことで、X線検出器10が常時安定駆動状態を保持できるため、駆動状態としたX線検出器10の内部温度が安定するまでの時間を短縮でき、使用しない時間帯での無駄な電力消費を抑制しつつ、緊急を要する診断に対して支障なく対応が可能となる。
【0056】
また、図5に示す第2の実施の形態は、予備通電にタイマ制御を用いることで、主電源が遮断されてX線検出器10が駆動する前、例えば駆動が必要な時間の1〜2時間前などの、タイマにより設定(測定)した駆動時刻になると、そのときからだけ制御回路などを介して充電地41より予備通電を行うように制御するため、消費電力がより抑制され、診察時刻が一定の環境や検診車のような消費電力を極力抑制したい環境において有効な制御方法である。
【0057】
なお、タイマを用いる方法以外には、X線検出器10の複数の箇所、例えば、筐体などに取り付けた温度測定子によりX線検出器10の内部温度などの検出器温度を常時測定し、その測定した温度をフィードバックしてその温度に対応させて充電池41からの予備通電の消費電力を制御回路によりインバータ制御することで消費電力の抑制と早期駆動が可能となる。
【0058】
そして、これらを組み合わせて用いることにより、X線検出器10の内部温度が安定するまでにかかる時間をより減少することが可能となる。
【0059】
なお、X線検出器10は、平面基板15上に薄膜トランジスタ21、光を電気信号に変換するフォトダイオード18、および外部から入射したX線を光に変換する蛍光変換膜14が積層されている間接方式のX線検出器本体11を用いる場合に限らず、平面基板上にスイッチング素子、電荷信号を収集する画素電極、および外部から入射したX線を電気信号に変換する光電変換膜が積層されている直接方式のX線検出器本体を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す放射線検出器の内部温度と予備通電と冷却機構との動作タイミングとの関係を示す説明図である。
【図2】同上放射線検出器の構成図である。
【図3】同上放射線検出器の分解状態の斜視図である。
【図4】同上放射線検出器を模式的に示す正面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す放射線検出器の内部温度と予備通電と冷却機構との動作タイミングとの関係を示す説明図である。
【図6】一般的な放射線検出器の場合において、電源を投入してからの経過時間に対する内部温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
10 放射線検出器としてのX線検出器
11 放射線検出器本体としてのX線検出器本体
14 蛍光体としての蛍光変換膜
15 平面基板
18 光検出器であるフォトダイオード
21 スイッチング素子としての薄膜トランジスタ
31 駆動回路
32 出力回路
41 電池である充電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する放射線検出器本体と、
この放射線検出器本体を駆動する駆動回路と、
この放射線検出器本体で検出した検出信号を出力する出力回路と、
少なくとも主電源から放射線検出器本体への給電が遮断された状態では放射線検出器本体へと予備通電する電池と
を具備したことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
放射線検出器本体は、平面基板上に、スイッチング素子と、光を電気信号に変換する光検出器と、外部から入射した放射線を光に変換する蛍光体とが積層されて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
放射線検出器本体は、平面基板上に、スイッチング素子と、電荷信号を収集する画素電極と、外部から入射したX線を電気信号に変換する光電変換膜とが積層されて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
電池は、主電源により放射線検出器本体が駆動されている状態では充電され、主電源からの放射線検出器本体への給電が遮断された状態では、充電された容量で放射線検出器本体へと予備通電可能な充電池である
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の放射線検出器。
【請求項5】
時刻を測定するタイマを具備し、
電池は、主電源からの放射線検出器本体への給電が遮断された状態で、タイマにより設定した駆動時刻になると放射線検出器本体への予備通電を開始する
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載の放射線検出器。
【請求項6】
検出器温度を測定する温度測定子と、
この温度測定子により測定した温度に対応させて電池からの放射線検出器本体への予備通電をインバータ制御する制御回路と
を具備したことを特徴とする請求項1ないし5いずれか一記載の放射線検出器。
【請求項7】
放射線検出器本体は、給電により動作する冷却機構を備え、
電池は、少なくとも予備通電中は冷却機構に対して給電しない
ことを特徴とする請求項1ないし6いずれか一記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145350(P2010−145350A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325758(P2008−325758)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】