説明

放射線検査装置、放射線検査方法および放射線検査プログラム

【課題】肉厚と比較して小さな欠陥を検出しようとした場合、検査対象としての金属材を透過する際の放射線の散乱の影響等によって変化する透過放射線量(ノイズ)と、欠陥に起因して変化する透過放射線量との比が小さくなってしまい、ノイズを欠陥として過剰検出してしまっていた。
【解決手段】放射線を検査対象に照射し、フォトンエネルギーの異なる放射線を照射して複数の放射線透過画像を取得し、これら複数の放射線透過画像に基づいて欠陥検出画像を生成し、欠陥検出画像に基づいて検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検査装置、放射線検査方法および放射線検査プログラムに関し、さらに詳しくは、放射線透過画像において、検査対象を透過する際の放射線の散乱の影響等によって生じる画像成分を巣(空洞)やクラック等の内部欠陥に起因する画像成分として誤検出することなく、微小な欠陥を検出することが可能な放射線検査装置、放射線検査方法および放射線検査プログラムに関する。
なお、本発明の検査対象とは、鋳造,鍛造,圧延,転造,焼結等により加工成形され、内部に巣やクラック等の欠陥を含む鉄やアルミニウム等からなる金属材を指す。
【背景技術】
【0002】
従来より、X線等の放射線を金属材からなる検査対象に照射して透過放射線を検出し、その透過放射線の強度に対応した放射線透過画像から検査対象の内部の空隙等の欠陥を検出することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1においては、検査対象としての鋳造製品の欠陥を検出するにあたり、X線を鋳造製品に照射し、鋳造製品を透過した透過X線を検出し、同検出された透過X線に基づいて上記鋳造製品が無欠陥である場合の透過X線を算出し、上記検出された透過X線と上記算出された無欠陥である場合の透過X線とを比較して上記検査対象の欠陥を検出することが提案されている。
内部欠陥の存在は、加工成形された金属材からなる検査対象の強度低下に直結するものである。そのため、金属材の製造技術においてもより小さな欠陥に納まるように工夫がなされており、内部欠陥の検査に関してもより小さな欠陥の検出に対する要求が高まっている。そして、上記金属材の内部欠陥検査は、存在し得る欠陥の大きさを保証するものであり、内部欠陥の大きさが小さいものであることを保証できることは、検査対象である金属材の強度を保証できることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−105794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、透過X線が一定の閾値よりも多い場合に欠陥とする方法は、図6(A)に示すように、鋳造製品を含む金属材の検査部位の肉厚と比較して大きな欠陥を検出する場合には有効である。しかしながら、図6(B)および(C)に示すように、肉厚と比較して小さな欠陥を検出しようとした場合、金属材を透過する際の放射線の散乱の影響等により変化する透過X線(ノイズ)と、欠陥に起因して変化する透過X線との比が小さくなってしまい、ノイズを欠陥として過剰検出してしまう状況が発生していた。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、放射線透過画像において、検査対象を透過する際の放射線の散乱の影響等によって生じる画像成分を欠陥に起因する画像成分として誤検出することなく、微小な欠陥を検出することが可能な放射線検査装置、放射線検査方法および放射線検査プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
1.放射線を検査対象に照射する放射線照射手段と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更手段と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得手段と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成手段と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定手段と、を備え、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査装置。
2.上記1.において、前記放射線照射手段が、前記放射線としてX線を照射し、
前記放射線エネルギー変更手段が、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更することを特徴とする。
3.上記1.または2.において、前記欠陥検出画像生成手段が、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成することを特徴とする。
4.放射線を検査対象に照射する放射線照射工程と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更工程と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得工程と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成工程と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定工程と、を含み、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査方法。
5.上記4.において、前記放射線照射工程が、前記放射線としてX線を照射し、
前記放射線エネルギー変更工程が、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更することを特徴とする。
6.上記4.または5.において、前記欠陥検出画像生成工程が、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成することを特徴とする。
7.放射線を検査対象に照射する放射線照射機能と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更機能と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得機能と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成機能と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定機能と、をコンピュータに実現させ、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査プログラム。
8.上記7.において、前記放射線照射機能が、前記放射線としてX線を照射し、
前記放射線エネルギー変更機能が、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更することを特徴とする。
9.上記7.または8.において、前記欠陥検出画像生成機能が、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の放射線検査装置によると、検査対象に対して異なるフォトンエネルギーの放射線を照射し、フォトンエネルギーの異なる複数の放射線透過画像を取得するようにしている。このようにして得られた各放射線透過画像は、放射線が検査対象の内部を透過する際の散乱等の影響により変化している画像成分、すなわちノイズ成分の位置や大きさがそれぞれ異なっている。一方、欠陥に起因して変化している部分の位置や大きさに変化はない。従って、これらの放射線透過画像に基づいて放射線透過画像上の欠陥に起因する画像成分とノイズ成分とを容易に判別することができるので、これら複数の放射線透過画像に基づいて生成される欠陥検出画像として、ノイズ成分が排除され、欠陥に起因する画像成分のみが抽出された画像を得ることができる。この結果、ノイズ成分を欠陥に起因する画像成分として誤検出することなく検査することができる。
【0007】
また、前記放射線照射手段が、前記放射線としてX線を照射し、前記放射線エネルギー変更手段が、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更する場合は、簡易な設定によりフォトンエネルギーを変更することができるので、異なるフォトンエネルギーによる複数の放射線透過画像を容易に取得することができる。
【0008】
また、前記欠陥検出画像生成手段が、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成する場合は、透過放射線量の変化している部分が、欠陥に起因したものであるのか、内部散乱に起因したものであるのかがより容易に判別される。これにより、欠陥に起因する画像成分のみが抽出された欠陥検出画像を容易に生成することができるので、これに基づいた効率のよい検査処理を実行することができる。
【0009】
以上は、本発明が装置として実現される場合について説明したが、かかる装置を実現する方法やプログラム、当該プログラムを記録した媒体としても発明は実現可能である。また、以上のような放射線検査装置は単独で実現される場合もあるし、ある方法に適用され、あるいは同方法が他の機器に組み込まれた状態で利用されることもあるなど、発明の思想としてはこれに限らず、各種の態様を含むものである。従って、ソフトウェアであったりハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。また、ソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態にかかる放射線検査装置の概略ブロック図である。
【図2】本実施形態にかかる放射線検査処理のフローチャートを示す図である。
【図3】本実施形態にかかる放射線検査処理において取得される画像等を説明するための説明図であり、(A)および(B)はそれぞれ異なるフォトンエネルギーで撮像された放射線透過画像、(C)および(D)は(A)および(B)の画像にそれぞれ補正のための画像処理を施した画像、(E)は(C)および(D)の各画像間で論理積演算処理を施した画像の例をそれぞれ示す。
【図4】検査対象を透過する放射線の内部散乱の影響を説明する説明図である。
【図5】フォトンエネルギーの異なる放射線を照射した際の異なる内部散乱の例を模式的に示す説明図である。
【図6】欠陥の大きさと肉厚との関係による透過放射線量の違いを説明するための説明図であり、(A)は肉厚に比して欠陥が比較的大きい場合、(B)は(A)と比較して欠陥の大きさが小さい場合、(C)は(A)と比較して肉厚が大きい場合、をそれぞれ示す。
【図7】アルミニウムの場合のフォトンエネルギー(keV)と質量吸収係数(cm/g)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここでは、下記の順序に従い、本発明の実施の形態について検査対象を鋳造製品として説明する。
(1)本実施形態にかかる放射線検査装置の構成:
(2)放射線検査処理(放射線検査方法):
【0012】
(1)本実施形態にかかる放射線検査装置の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる放射線検査装置1の概略ブロック図である。同図に示すように、放射線検査装置1は、放射線撮像機構部10と放射線撮像制御部20とを備えている。放射線撮像機構部10は、放射線発生器11と、位置決め機構12と、放射線検出器13とを備えている。放射線撮像制御部20は、放射線制御部21と、位置決め機構制御部22と、放射線透過画像取得部23と、CPU24と、入力部25と、出力部26と、メモリ27とを備えている。この構成において、CPU24は、メモリ27に記録された図示しないプログラムを実行し、各部を制御し、また、所定の演算処理を実施することができる。
【0013】
メモリ27はデータを蓄積可能な記憶媒体であり、放射線透過画像撮像時における条件(加速電圧、照射時間、撮像倍率、撮像位置等)を示すデータである撮像条件データ27aと、検査対象となる鋳造製品において欠陥を検出すべき部位を示すデータである検査部位データ27bとが予め記録されている。また、メモリ27は検査処理過程で取得されたり、生成されたりする各種データを記憶可能で、放射線画像データ27c、補正画像データ27d、欠陥検出画像データ27e等のデータを記憶可能である。なお、メモリ27は、データを蓄積可能であれば、半導体メモリやHDD等の二次記憶装置など、リード/ライトが可能な如何様な形態の記録媒体であってもよい。
【0014】
放射線制御部21は、上記撮像条件データ27aを参照して放射線発生器11を制御し、撮像回毎に予め設定されている所定の放射線を発生させる。本実施形態では、放射線発生器11より出力される放射線としてX線を採用しており、撮像回毎に設定されている異なるフォトンエネルギーのX線を発生させる。X線のフォトンエネルギーは、放射線発生器11に印加する加速電圧(管電圧)を変更することにより変更される。この加速電圧は、撮像回毎に異なる電圧として予め設定されており、上記撮像条件データ27aに含まれている。ここで、X線のフォトンエネルギーの大きさは、加速電圧の大きさに応じて大きくなり、図7に示すアルミニウムの場合のフォトンエネルギーに対する質量吸収係数の変化特性のようにフォトンエネルギーが高いほど物体を透過する際の透過率が高く(吸収率が低く)なる。また、後述するように、フォトンエネルギーが変化すると、放射線が物体内部を透過する際の内部散乱等の状態も変化するものと考えられる。なお、X線のフォトンエネルギーの大きさは電磁波であるX線の波長であり、波長が短いほど透過能力が高くなる。
【0015】
ここで、本実施形態では、上記加速電圧(管電圧)の変更範囲を70kV〜150kVとしており、加速電圧を調整することにより70keV〜150keVの範囲のフォトンエネルギーが照射される。この範囲のフォトンエネルギーのX線を照射して取得された放射線透過画像は、欠陥に起因する画像成分と、それ以外の画像成分とを識別するに十分なコントラストを有する画像となる。なお、上記加速電圧範囲よりも低い加速電圧の場合は、放射線が検査対象とする鋳造製品12aを十分に透過することができないために像をなさず、また、上記加速電圧範囲よりも高い加速電圧の場合も、放射線が鋳造製品12aを過剰に透過してしまい像をなさない。
【0016】
位置決め機構制御部22は、位置決め機構12と接続されており、上記検査部位データ27bに基づいて同位置決め機構12を制御する。本実施形態では、位置決め機構12は、多軸ロボットであって、鋳造製品12aをクランプし、鋳造製品12aを所望の位置に配置し、所望の姿勢とする作業と、その姿勢を変更する作業とを実施できるように構成されている。また、位置決め機構制御部22は、上記メモリ27に蓄積されている検査部位データ27bを参照して、鋳造製品12aにおける指定された部位が放射線の照射領域に含まれるように鋳造製品12aを搬送することができる。
【0017】
放射線透過画像取得部23は放射線検出器13に接続されており、放射線検出器13から出力される透過放射線の強度を示す検出値の2次元分布から、その強度を輝度(濃淡)の差で表した放射線透過画像を取得する。取得した放射線透過画像は、放射線画像データ27cとしてメモリ27に記憶される。なお、放射線検出器13としては、鋳造製品を透過した透過放射線の強度を検出することができれば良く、種々の構成を採用することができる。本実施形態における放射線検出器13は、2次元的に分布したセンサを備え、撮影したデータをシリアル出力するフラットパネルセンサを採用しており、内部散乱に応じた透過放射線の強度(放射線量)が検出値として検出される。
【0018】
出力部26は、CPU24での上記放射線透過画像等を表示するディスプレイであり、入力部25は利用者の入力を受け付ける操作入力手段である。すなわち、利用者は入力部25を介して種々の入力を実行可能であるし、CPU24の処理によって得られる種々の演算結果や画像、鋳造製品12aの良否判定結果等を出力部26に表示することができる。
【0019】
CPU24は、メモリ27に蓄積された各種制御プログラムに従って所定の演算処理を実行可能であり、欠陥検出処理を行うために、図1に示す補正画像生成部24aと欠陥検出画像生成部24bと良否判定部24cとによる演算を実行する。
【0020】
補正画像生成部24aは、撮像されメモリ27に蓄積された複数の放射線画像データ27cを取得し、これらに対して所定の画像処理を実行して各補正画像を生成する。生成された補正画像は、補正画像データ27dとしてメモリ27に記憶される。本実施形態では、後述の放射線検査処理に示すように、最終的に2値化された画像データを得る。上記所定の画像処理は、画像上に含まれる欠陥が検出され易いように施される画像処理であればよく、画像連続加算によるノイズ低減処理、画像間除算によるシェーディング補正処理、モデル画像と放射線透過画像との差分を算出して検査対象製品の形状に起因する検出強度を均一化する処理、2値化処理等の各種画像処理やこれら各画像処理等の組み合わせ等を採用可能である。
【0021】
欠陥検出画像生成部24bは、フォトンエネルギーの異なる複数の放射線透過画像を比較し、これらに基づいて欠陥検出画像を生成する。生成された欠陥検出画像は、欠陥検出画像データ27eとしてメモリ27に記憶される。本実施形態では、各欠陥検出画像は上記各補正画像に基づいて生成される。すなわち、欠陥検出画像生成部24bは、各放射線透過画像に基づいて生成された各補正画像間において演算を実行して欠陥検出画像を生成する。
良否判定部24cは、欠陥検出画像に基づいて欠陥に相当する画像成分を検出すると共に、当該検出された欠陥に相当する画像成分に基づいて、鋳造製品12aが良品であるか、不良品であるかを判定する。
【0022】
(2)放射線検査処理(放射線検査方法):
本実施形態においては、上述の構成において図2に示すフローチャートに従って放射線検査処理を行う。
最初に、変数nを"1"に初期化する(ステップS100)。この変数nは、最大値をNとする整数であり、検査部位一箇所当たりの撮像回数である。
【0023】
次に、位置決め機構12において鋳造製品12aをクランプさせる。そして、CPU24が検査部位データ27bを取得し、位置決め機構制御部22によって鋳造製品12aにおいて予め決められた複数の検査部位のうちの一箇所が放射線照射領域に位置するようにセットする(ステップS105)。
【0024】
ステップS105において鋳造製品12aの検査部位が放射線の照射範囲にセットされると、CPU24は、撮像条件データ27aを取得し、放射線制御部21によって放射線発生器11の条件を設定する。このとき、n番目の撮像回における加速電圧Eも設定される。(ステップS110)。上記加速電圧Eは、撮像回毎に予め設定されており、撮像回毎に異なっている。そして、この撮像条件において、放射線発生器11によって放射線が照射されると、放射線透過画像取得部23は、放射線検出器13により検出された鋳造製品12aの透過放射線に基づいて、その放射線透過画像を取得する(ステップS115)。取得した放射線透過画像Pは放射線画像データ27cとしてメモリ27に記録される。このようにして取得された放射線透過画像の例を図3(A)および(B)に示す。図3(A)および(B)は、加速電圧をそれぞれ90kVおよび110kVとして撮像した画像である。
【0025】
n番目の放射線透過画像Pを取得すると、ステップS120においては、変数nが最大値Nに達しているか否か、すなわち、この検査部位において所定回数の放射線透過画像の撮像を行ったか否かが判別され、最大値Nに達していると判別されなければ、変数nをインクリメントし(ステップS125)、ステップS110以降の処理を繰り返す。変数nが最大値Nに達していると判別されれば、ステップS130へ移行する。
【0026】
上述のようにして取得された放射線透過画像には、欠陥に相当する画像成分以外に、欠陥に相当する画像成分に類似したノイズに相当する画像成分も含まれている。そして、検査対象である鋳造製品12aの検査部位の肉厚に比して小さい欠陥を検出しようとする場合、この小さな欠陥に相当する画像成分と、ノイズに相当する画像成分との判別が困難となる場合がある。しかしながら、照射する放射線のフォトンエネルギーを変化させて取得した複数の放射線透過画像間において、欠陥に相当する画像成分は、実際の欠陥の位置に応じた位置であって、実際の欠陥の大きさに応じた輝度や大きさで各画像に出現するが、ノイズに相当する画像成分は、各画像間でその位置や大きさが異なっている。従って、フォトンエネルギーの異なる複数の放射線透過画像を取得してこれらを比較することにより、各画像上の欠陥に相当する画像成分に類似した欠陥候補となる画像成分について、この画像成分が欠陥に起因するものであるのか、ノイズ成分であるのかを判別することができる。
【0027】
なお、上述の各画像間でノイズに相当する画像成分の位置や大きさが異なっていることは、以下のようなことが一因であると考えられる。
一般的に、物体に放射線を照射すると、その一部は物体を透過し、一部は物体内部で吸収され、残りはあらゆる方向に散乱される。放射線検査は、物体に吸収されず、物体を透過した放射線量を検出することによりなされるものであるが、内部散乱によりその進行方向が変化した放射線も検出される。すなわち、図4に示すように、鋳造製品12aを透過する放射線がその内部で散乱して進行方向に変化が生じると、検出される放射線量にも散乱に起因する部分的な変化が生じる。この変化が放射線透過画像上のノイズ成分となるものと考えられる。しかし、図5に示すように、フォトンエネルギーが変化すると、物体内部における原子と放射線との衝突状態も変化するものと考えられ、衝突状態が変化すると、放射線の内部散乱の状態にも変化が生じるものと考えられる。このため、フォトンエネルギーを変化させて撮像した各放射線透過画像におけるノイズに相当する画像成分の位置や大きさも不規則に変化するものと考えられる。
【0028】
次に、本実施形態では、フォトンエネルギーの異なる複数の放射線透過画像を比較するに際し、複数の放射線透過画像それぞれについて、各画像内の欠陥候補となる画像成分をより特定し易くするための画像処理を施した補正画像を生成する。すなわち、補正画像生成部24aは、各放射線透過画像P〜Pについてそれぞれ画像処理を施し、各補正画像C〜Cを生成する(ステップS130)。なお、上述のように、補正画像を生成する方法は既知の、または新規の画像処理方法を適宜採用可能であるが、以下にその一例を説明する。
【0029】
最初に、放射線透過画像に対してシェーディング補正を行う。シェーディング補正は、画像のムラや撮像系固有のムラ等、画像上に出現する不均一な画像雑音の影響を除去する補正である。具体的には、検査対象を挿入せずに撮影した背景画像を用い、この背景画像に出現する上記画像雑音に基づいて、放射線透過画像上の画像雑音を除去する。
【0030】
次に、上述のシェーディング補正された画像に対して厚み補正を行う。この厚み補正は、鋳造製品12aの厚みの変化に起因する透過放射線の検出強度を除去する補正である。具体的には、欠陥を含まない検査対象について予め撮像した放射線透過画像(モデル画像)に基づいて、モデル画像とシェーディング補正された画像との差分を算出する。これにより、欠陥またはノイズ成分に起因する画像成分のみを抽出することができる。
【0031】
なお、上記モデル画像は、検査対象を撮像した放射線透過画像に基づいて生成するようにしてもよい。すなわち、上記特許文献1で開示されているように、実際に撮像された放射線透過画像に対してローパスフィルタを適用して欠陥やノイズに相当する画像成分を除去したり、透過放射線の空間的変化からその包絡線を形成したり、透過放射線の空間的変化に対して膨張/収縮処理を行ったりすることによりモデル画像を生成してもよい。
【0032】
厚み補正がなされた画像に対して、今度は、極端に小さな欠陥やノイズ成分等を表す所定の輝度値以下の画像成分を除去するための2値化処理を実行する。すなわち、厚み補正がなされた画像において、予め設定された所定の閾値よりも大きな輝度を示す画像成分を"1"とし、それら以外の画像成分を"0"とした2値化画像を生成する。このようにして生成された各補正画像C〜Cは、補正画像データ27dとしてメモリ27に記録される。図3(C)および(D)は、上述のようにして生成された補正画像の例を示しており、それぞれ図3(A)および(B)の放射線透過画像に画像処理を施して補正された画像である。
なお、上述の各画像処理に限られず、例えば、同一撮像位置において複数の放射線透過画像を取得し、これらを画素毎に平均化した画像を生成したり、また、複数の画像を連続加算したり等の画像の時間的ゆらぎに起因するノイズを低減する処理を実施するようにしてもよい。
【0033】
ステップS135では、欠陥検出画像生成部24bが2値画像である各補正画像C〜C間で論理積演算することにより、欠陥検出画像を生成する。
図3(C)および(D)に示すように、各補正画像には、欠陥に相当する画像成分のほかに、放射線の内部散乱等に起因して生じるノイズに相当する画像成分も含まれている。しかしながら、このノイズに相当する画像成分の位置や大きさは、それぞれフォトンエネルギーの異なる放射線照射による放射線透過画像毎に異なっている。一方、欠陥に相当する画像成分の位置や大きさは変化しないので、各補正画像間で論理積演算することにより、欠陥に相当する画像成分のみを抽出した画像を生成することができる。このようにして生成された画像は、欠陥検出画像データ27eとしてメモリ27に記録される。図3(E)は、図3(C)および(D)を論理積演算することにより生成された欠陥検出画像の例である。
【0034】
次に、良否判定部24cは、欠陥検出画像データ27eを参照し、当該欠陥に相当する画像成分を抽出し、この画像成分に基づいて欠陥の位置、大きさ、形状等を特定する(ステップS140)。そして、検出、特定された欠陥に基づいて、予め決められた良品と判定されるための条件を満たしているか否かを判別し(ステップS145)、満たしていないと判定されれば、ステップS150にて不良と判定され、この鋳造製品12aについての放射線検査処理を終了する。
【0035】
ステップS145にて良品条件を満たしていると判定された場合、CPU24は、上記検査部位データ27bを参照し、予め決められた総ての検査部位について欠陥の有無を検査し、良否判定を行ったか否かを判別する(ステップS155)。ステップS155にて総ての検査部位について検査および良否判定を行っていないと判別された場合は、同一の鋳造製品12aの他の検査部位について、ステップS100以降の処理を繰り返す。ステップS155にて総ての検査部位について検査を行ったと判別された場合は、この鋳造製品12aを良品と判定し(ステップS160)、放射線検査処理を終了する。
【0036】
以上のように、本実施形態では、鋳造製品12aに対して異なるフォトンエネルギーの放射線を照射し、フォトンエネルギーの異なる複数の放射線透過画像を取得するようにしている。このようにして得られた各放射線透過画像は、放射線が鋳造製品12aの内部を透過する際の散乱等の影響により変化している画像成分、すなわちノイズ成分の位置や大きさがそれぞれ異なっている。一方、欠陥に起因して変化している部分の位置や大きさに変化はない。従って、これらの放射線透過画像に基づいて放射線透過画像上の欠陥に起因する画像成分とノイズ成分とを容易に判別することができるので、これら複数の放射線透過画像に基づいて生成される欠陥検出画像として、ノイズ成分が排除され、欠陥に起因する画像成分のみが抽出された画像を得ることができる。この結果、ノイズ成分を欠陥に起因する画像成分として誤検出することなく検査することができる。
なお、本実施形態では、厚みの変化に起因する透過放射線の検出強度(放射線量)に対する影響を除去するために厚み補正を行う方法を提案したが、厚みが均一で厚みによる影響が少ない鋳造製品に対しては、厚み補正の処理を省略することが可能である。
【0037】
また、本実施形態では、欠陥検出画像生成部24bにより、2値化された画像である各補正画像C〜C間の論理積を演算することにより欠陥検出画像を生成するようにしたので、透過放射線量の変化している部分について、欠陥に起因したものであるのか、内部散乱に起因したものであるのかがより容易に判別される。これにより、欠陥に起因する画像成分のみが抽出された欠陥検出画像を容易に生成することができるので、これに基づいた効率のよい検査処理を実行することができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、放射線としてX線を採用し、X線を発生させるための加速電圧を変更することによりフォトンエネルギーを変更するようにしたので、フォトンエネルギーを容易に変更することができる。
【0039】
また、本実施形態では、加速電圧が70kV〜150kVの範囲で変更されるようにしたので、欠陥に起因する画像成分とそれら以外の画像成分とを明瞭に判別可能な放射線透過画像を取得することができる。その結果、これらに基づいて生成された欠陥検出画像により、確実かつ効率的に欠陥に起因する画像成分を抽出することができ、確実かつ効率的な検査を実行することができる。
【0040】
さらに、本実施形態では、補正画像生成部24aにより放射線透過画像に種々の画像処理を施すことによって、欠陥に起因する画像成分およびノイズ成分と、それら以外の画像成分とがより明瞭に判別可能な補正画像を生成するようにしている。この結果、これらに基づいて生成された欠陥検出画像により、より確実かつ効率的に欠陥に起因する画像成分を抽出することができ、より確実かつ効率的な検査を実行することができる。
なお、上述の実施形態においては、内部欠陥の発生頻度が高い鋳造製品を検査対象の例として説明したが、内部欠陥に起因する画像成分は散乱による画像成分に比べ変化しないとする本願発明の原理は、鍛造製品や焼結製品等の他の検査対象に対しても適用が可能である。
また、上述の実施形態では、70kV〜150kVの範囲の加速電圧を用いる提案を行なったが、加速電圧は検査対象となる金属材の材質に応じて設定すればよい。例えば、鍛造製品のように鋳造製品より緻密な構造で分子間接合が強い材質の場合には、より高い加速電圧を検査対象に印加するようにしてもよい。
【0041】
また、本発明においては、上述の実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。すなわち、上述の実施形態では、放射線検出器13としてフラットパネルセンサを用いる例を説明したが、これに限定されず、例えば、イメージインテンシファイアを採用してもよいし、1次元的に配置したセンサによってスキャンを行うようにしてもよい。
【0042】
また、上述の実施形態においては、複数の放射線透過画像を取得するとしたが、例えば、検査部位一箇所当たりの撮像回数N=2として検査時間を短縮したり、また、Nを3以上に設定してノイズ成分の除去精度を高めたり等、タクトタイムや検査精度などを考慮してNの値を設定すればよい。
【0043】
さらに、上述の実施形態においては、位置決め機構12を多軸ロボットとしたが、これに限られず、X‐Yステージ等を位置決め機構として採用してもよい。
【0044】
また、上述の実施形態においては、放射線としてX線を採用し、X線を発生させるための加速電圧を変更することによりフォトンエネルギーを変更するようにしたが、これに限定されず、例えば、放射線としてγ線を採用してもよい。
最後に、上述の実施形態においては、鋳造製品を検査対象として説明したが、これに限定されず、文頭において説明したとおり鍛造、圧延、転造、焼結等により加工成形された金属材に対しても本願発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1;放射線検査装置、10;放射線撮像機構部、11;放射線発生器、12;位置決め機構、12a;鋳造製品、13;放射線検出器、20;放射線撮像制御部、21;放射線制御部、22;位置決め機構制御部、23;放射線透過画像取得部、24a;補正画像生成部、24b;欠陥検出画像生成部、24c;良否判定部、25;入力部、26;出力部、27;メモリ、27a;撮像条件データ、27b;検査部位データ、27c;放射線画像データ、27d;補正画像データ、27e;欠陥検出画像データ、C;補正画像、E;加速電圧、P;放射線透過画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検査対象に照射する放射線照射手段と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更手段と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得手段と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成手段と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定手段と、を備え、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
前記放射線照射手段は、前記放射線としてX線を照射し、
前記放射線エネルギー変更手段は、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更する請求項1記載の放射線検査装置。
【請求項3】
前記欠陥検出画像生成手段は、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成する請求項1または2記載の放射線検査装置。
【請求項4】
放射線を検査対象に照射する放射線照射工程と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更工程と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得工程と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成工程と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定工程と、を含み、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査方法。
【請求項5】
前記放射線照射工程は、前記放射線としてX線を照射し、
前記放射線エネルギー変更工程は、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記フォトンエネルギーを変更する請求項4記載の放射線検査方法。
【請求項6】
前記欠陥検出画像生成工程は、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成する請求項4または5記載の放射線検査方法。
【請求項7】
放射線を検査対象に照射する放射線照射機能と、
前記放射線のフォトンエネルギーを変更する放射線エネルギー変更機能と、
前記検査対象を透過した放射線に対応した放射線透過画像を取得する放射線透過画像取得機能と、
前記フォトンエネルギーが変更された異なる撮像条件で取得された複数の前記放射線透過画像に基づいて欠陥を検出するための画像を生成する欠陥検出画像生成機能と、
前記欠陥検出画像に基づいて前記検査対象に欠陥が含まれるか否かを判定すると共に該検査対象の良否を判定する良否判定機能と、をコンピュータに実現させ、
前記欠陥検出画像は、該複数の放射線透過画像相互を演算処理することにより前記検査対象を透過する前記放射線の内部散乱の影響によるノイズ成分が除去された画像であることを特徴とする放射線検査プログラム。
【請求項8】
前記放射線照射機能は、前記放射線としてX線を照射し、
前記フォトンエネルギー変更機能は、前記X線を発生させるための加速電圧を変更することにより前記放射線エネルギーを変更する請求項7記載の放射線検査プログラム。
【請求項9】
前記欠陥検出画像生成機能は、前記複数の放射線透過画像を2値化処理したのちに各画像間で論理積演算を実行することにより前記欠陥検出画像を生成する請求項7または8記載の放射線検査プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−281649(P2010−281649A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134525(P2009−134525)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】