説明

放射線測定装置

【課題】 放射線の適正なデータを測定する。
【解決手段】 天然の40Kの光電ピークエネルギーを基準chとして基準ch記憶回路部10に記憶する。検出部2で検出した放射線エネルギーをADC7でchデータに変換し、マルチch記憶回路部8でエネルギースペクトルを生成し、ピークサーチ回路部11でそのエネルギースペクトルの40Kに対応するピークchを検出する。そして、ch比較回路部12でそのピークchと基準chを用いて演算係数を算出し、検出された放射線のchデータを、その演算係数を用いてchデータ適正化回路部13で適正化し、それを工学値演算回路部14での演算に用いる。これにより、装置のエネルギー校正を行うことなく、検出した放射線についての信頼性の高いデータを取得することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定装置に関し、特に放射線を検出してその線量率や線量当量率、放射能量等を測定する放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等、放射線を取り扱う施設にあっては、環境中のγ線等の放射線を監視するため、施設内やその周辺に環境γ線測定装置等の放射線測定装置が設置されている。
一般に、放射線測定装置は、検出器内で消費される入射放射線のエネルギーに応じて発光するシンチレータ等で放射線を検出し、その発光を光電子倍増管(Photo Multiplier Tube,PMT)で電気的パルス信号に変換する。通常、電気的パルス信号の波高は、入射放射線の検出器内でのエネルギー消費量に比例する。このような性質を利用して、電気的パルス信号をその波高に対応したチャネル(ch)ごとにカウントして入射放射線をエネルギー別に計数しエネルギースペクトルを求めるマルチch波高分析器や、入射放射線の個々の電気的パルス信号に対してその波高に応じた重み付けを行って線量率や線量当量率等の工学値を求める測定機器等が既に実用されており、放射線測定装置に利用されている。
【0003】
ところで、放射線測定装置では、検出器やPMT、さらにPMTの出力を増幅するためのアンプ等の特性が経時的に変化する場合がある。そのような場合には、たとえ同じエネルギーの放射線を検出したとしても、その電気的パルス信号の波高が変動してしまうことになる。その結果、入射放射線のエネルギーについて正しい検出データが得られず、それを基に算出する線量率等の工学値を正確に求めることができなくなってしまう。そこで、従来、放射線のエネルギーが既知の校正用線源(137Cs等)を用いて定期的にエネルギー校正を行い、放射線測定装置の検出データの適正化を図るようにしている。
【0004】
このような線源を用いた従来のエネルギー校正は、例えば、まず線源を検出器近傍に配置し、その線源からの放射線を検出してマルチch波高分析器によってエネルギースペクトルを求める。そして、求めたエネルギースペクトルから線源の光電ピークを検出し、その光電ピークのエネルギーに相当するchが、線源の光電ピークが本来検出されるべきchになるよう、PMT印加電圧やアンプ利得等の測定系の調整を実施する。
【0005】
また、近年では、放射線測定装置のエネルギー校正を、線源の代わりに40K等の天然放射性核種を校正基準に用いて行う方法等も提案されている。例えば、環境放射線のエネルギースペクトルから40Kの光電ピークを検出し、その光電ピークのchが40K本来の正しいchとなるよう、PMT印加電圧等の測定系の調整を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。さらに、そのようなエネルギー校正の際に人工放射性核種等の影響によって誤った校正がなされてしまうのを防止するため、環境の放射線状態が正常か否かを判定し、その判定結果に応じて測定系を調整し、エネルギー校正を行う方法も提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−30452号公報
【特許文献2】特許第3153484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、線源を用いて放射線測定装置のエネルギー校正を行う場合は、線源使用時に測定が中断されてしまい、その間データが取得できないという問題点があった。また、線源を用いる場合には、線源の管理、すなわち放射線測定装置のエネルギー校正中は勿論、線源の移動中や保管中の管理も必要になる。
【0007】
一方、線源に代えて天然放射性核種をエネルギー校正基準に用いると、通常の測定と並行してエネルギー校正処理が行えるようになる。しかし、放射線測定装置のエネルギー校正が必要になったときには、PMT印加電圧を制御する等、その測定系に対する制御を行うため、必ずしもリアルタイムなエネルギー校正が行えるとは限らず、検出データが正しいか否かの判断が難しい場合があり得る。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、エネルギー校正を行わなくても適正な測定データを得ることのできる放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記問題を解決するために、放射線の検出を行う放射線測定装置において、特定放射性核種の放射線エネルギーを基準値として記憶する基準値記憶手段と、検出された放射線のエネルギースペクトルを生成するスペクトル生成手段と、前記エネルギースペクトルの前記特定放射性核種に対応するピークのエネルギーを検出するピーク検出手段と、前記ピークのエネルギーと前記基準値とを用いて演算係数を生成する演算係数生成手段と、検出された放射線のエネルギーを前記演算係数を用いて適正化するエネルギー適正化手段と、を有することを特徴とする放射線測定装置が提供される。
【0010】
このような放射線測定装置によれば、基準値記憶手段が、特定放射性核種の放射線エネルギーを基準値として記憶し、スペクトル生成手段が、検出された放射線のエネルギースペクトルを生成し、ピーク検出手段が、そのエネルギースペクトルから特定放射性核種に対応するピークのエネルギーを検出し、演算係数生成手段が、そのピークのエネルギーと基準値を用いて演算係数を生成する。そして、エネルギー適正化手段が、検出された放射線のエネルギーを、その演算係数を用いて適正化する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線測定装置は、検出した放射線のエネルギースペクトルの特定放射性核種に対応するピークのエネルギーと、その特定放射性核種の放射線エネルギーの基準値とを用いて演算係数を生成し、検出された放射線のエネルギーを、その演算係数を用いて適正化する。これにより、線源を用いたり測定系を調整したりするようなエネルギー校正を行うことなく、適正な測定データを得ることができ、検出した放射線についての信頼性の高い情報を効率的に取得することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
図1は放射線測定装置の機能ブロック図である。
【0013】
この図1に示す放射線測定装置1は、例えば、原子力発電所等に設置されて、環境放射線を検出し、環境中のγ線の工学値、例えばその線量率を連続的に測定することのできる、いわゆる環境γ線連続測定装置である。
【0014】
放射線測定装置1は、シンチレータ2aおよびPMT2bを備えた検出部2を有している。シンチレータ2aには、例えばNaI(Tl)のような固体シンチレータを用いることができる。シンチレータ2aは、その内部で消費される入射放射線のエネルギーに応じて発光し、PMT2bは、その発光を電気的パルス信号に変換する。PMT2bには、高圧電源3によって電圧が印加されるようになっており、その印加電圧は、PMT2bに接続された温度計4の測定値に基づき、高圧制御回路5によって制御されるようになっている。これにより、周囲温度による測定系の利得変化が補償されるようになっている。
【0015】
PMT2bから出力される電気的パルス信号は、アンプ6で増幅された後、アナログ/ディジタル変換器(Analog/Digital Converter,ADC)7に入力される。ADC7は、入力された増幅後の電気的パルス信号を、その波高、すなわち入射放射線のエネルギーに応じたchにディジタル化するようになっている。
【0016】
マルチch記憶回路部8は、一定時間、ADC7でディジタル化されたディジタルデータをそのch(エネルギー)ごとに積算して記憶し、その度数分布、すなわちchと計数率との関係を示す入射放射線のエネルギースペクトルを生成する。
【0017】
マルチch記憶回路部8で生成されたエネルギースペクトルは、データ表示/出力回路部9によって、ディスプレイ等の表示装置に出力されてオペレータによるスペクトル観察に用いられたり、適当な他の機器へ出力されて使用されたりするようになっている。
【0018】
なお、このマルチch記憶回路部8におけるchデータの記憶開始から終了までの積算時間は、タイマ等を使って固定の時間にしたり、chデータ数(chデータ入力回数)に応じて変動する時間にしたりすることができる。これらの時間条件は、放射線測定装置1に対するオペレータ等の入力操作等によって設定することができるようになっている。
【0019】
基準ch記憶回路部10は、環境に広く分布する天然放射性核種である40Kの光電ピークのエネルギーに相当するch(「基準ch」という。)の値を基準値として記憶する。基準chとは、エネルギースペクトルの指標点の正しいchをいい、さらに指標点とは、エネルギースペクトルのパターンの特徴点となる所をいう。ここでは40Kの光電ピークを指標点とする。40Kの場合、放射されるγ線のエネルギー(1461keV)に相当するchの設計値が、この基準ch記憶回路部10に記憶されることになる。
【0020】
ピークサーチ回路部11は、マルチch記憶回路部8で一定時間に生成されたエネルギースペクトルから40Kの光電ピークを検出し、そのch(「ピークch」という。)を求める。
【0021】
ch比較回路部12は、ピークサーチ回路部11で一定時間のエネルギースペクトルから求められたピークchを、基準ch記憶回路部10に記憶された基準chと比較し、その差分に相当するエネルギー差を補正するための演算係数を生成する。具体的には、この演算係数は、ピークchと基準chとの比率K(=ピークch/基準ch)で表される。
【0022】
演算係数は、次の一定時間経過後にピークサーチ回路部11でピークchが求められそれがch比較回路部12で基準chと比較されることによって新たな演算係数が算出されるまで、ch比較回路部12に記憶される。新たな演算係数が算出されたときには、もとの演算係数がその新たな演算係数で更新され、更新後の演算係数が次回の演算係数確定までch比較回路部12に記憶されるようになる。
【0023】
さらに、このch比較回路部12は、上記の演算係数の確定前に、ピークサーチ回路部11で求められたピークchが演算係数の算出に使用できる値であるか否かを判定する機能を有している。
【0024】
例えば、ch比較回路部12は、ピークサーチ回路部11で求められたピークchの計数率と、そのエネルギースペクトルにおいてそのピークchよりある程度大きなch、例えばそのピークchより1.1倍大きなchの計数率とを比較する。そして、これらの計数率の間に一定の差が認められないときには、エネルギースペクトルのピーク領域がブロードでそのピークchは適正なピークとして認められず、演算係数の算出には適さないとしてそのピークchを算出に用いないようにする。
【0025】
また、ch比較回路部12は、ピークサーチ回路部11で求められたピークchと基準chとの比が、例えば1.1以上といったように、ある程度大きくなる場合には、演算係数の算出には適さないとしてそのピークchを算出に用いないようにする。さらに、ピークchと基準chが大幅にずれるような場合には、放射線測定装置1自体に異常が発生している可能性もあることから、放射線測定装置1は、アラームを発報してオペレータに点検を促すことができるように構成されている。
【0026】
chデータ適正化回路部13には、電気的パルス信号がADC7でディジタル化されたchデータがその都度入力されるようになっている。chデータ適正化回路部13は、取得したそのchデータを、その際ch比較回路部12に記憶されている演算係数を用いて補正し、そのchが本来検出されるべき適正なchになるよう変換を行う。このとき、chデータ適正化回路部13は、ADC7から受け取ったchデータを演算係数すなわち比率Kで除すことによって適正化を行う。
【0027】
工学値演算回路部14は、演算係数を用いて変換(適正化)されたchデータを、エネルギー補正関数GE(f)を用い、シンチレータ2aで消費されたエネルギーごとに決められた工学値変換係数を乗じて工学値、ここでは線量率に変換する。生成された工学値は、データ表示/出力回路部9で表示装置あるいは他の機器へ出力される。なお、工学値変換係数は、オペレータ等による設定、変更が可能になっている。
【0028】
上記のADC7、マルチch記憶回路部8、データ表示/出力回路部9、基準ch記憶回路部10、ピークサーチ回路部11、ch比較回路部12、chデータ適正化回路部13および工学値演算回路部14の各処理機能は、必要に応じてオペレータ等による条件設定に基づき、制御回路部15によって制御されるようになっている。
【0029】
このような構成の放射線測定装置1を用いて環境中のγ線の線量率が求められる。次に、放射線測定装置1の処理について説明する。
上記構成の放射線測定装置1において、ADC7およびマルチch記憶回路部8は常時動作状態にある。また、基準ch記憶回路部10には、あらかじめオペレータ等によって所定の基準chが設定されている。
【0030】
まず、検出部2のシンチレータ2aに環境放射線が入射すると、シンチレータ2aは、その内部のエネルギー消費量に応じて発光し、PMT2bは、その発光を電気的パルス信号に変換する。変換された電気的パルス信号は、アンプ6に入力されて増幅され、増幅された電気的パルス信号は、ADC7に入力される。
【0031】
ADC7は、アンプ6から電気的パルス信号が入力されるたびに、それをその波高に応じてディジタル化してchデータを生成し、それをマルチch記憶回路部8およびchデータ適正化回路部13に出力する。マルチch記憶回路部8に出力されたchデータは、演算係数の算出を行う処理に用いられ、一方、chデータ適正化回路部13に出力されたchデータは、その適正化を行う処理に用いられる。以下、これらの演算係数算出処理およびchデータ適正化処理についてそれぞれ説明する。
【0032】
まず、演算係数算出処理について説明する。図2は演算係数算出処理フローの説明図である。
演算係数算出処理では、まず、図2に示すように、マルチch記憶回路部8が制御回路部15の記憶開始指令によってchデータの記憶を開始し(ステップS1)、その積算処理を実行し(ステップS2)、各chの計数率を求める。
【0033】
そして、制御回路部15は、あらかじめ設定された積算時間が終了したか否かを判定し(ステップS3)、所定の積算時間が終了したときには、マルチch記憶回路部8に記憶終了指令を出す。マルチch記憶回路部8は、記憶終了指令を受けてchデータの記憶を終了する。所定の積算時間が終了していないときには、マルチch記憶回路部8は、制御回路部15からの記憶終了指令があるまで、ステップS2のchデータの積算処理を繰り返し実行する。
【0034】
これにより、所定時間内での放射線の検出データについて、そのchと計数率の関係を示したエネルギースペクトルが取得される。放射線測定装置1は、このエネルギースペクトルに対し、まずスムージング処理を行う(ステップS4)。そして、スムージング処理後のエネルギースペクトルを用い、ピークサーチ回路部11によって、必要に応じてサーチ範囲を指定して、40Kのピークchを求める(ステップS5)。
【0035】
ここで、放射線測定装置1におけるスムージング処理について述べる。図3はエネルギースペクトルの一例である。図3において、横軸はエネルギーをchで表し、縦軸は積算による計数率(s-1)を表している。
【0036】
検出データから得られるエネルギースペクトルは、電気的パルス信号の各chの度数分布を表しており、十分な測定時間を確保すれば、滑らかな曲線を得ることが可能である。前述のように、放射線測定装置1では、所定の積算時間の間、マルチch記憶回路部8に電気的パルス信号のchデータが記憶されるようになっているが、十分な積算時間を考慮しても、測定環境に依っては、図3に示すように、滑らかな曲線が得られない場合がある。そのような場合には、適正なピークchを求めることができなくなる可能性が高くなってしまう。
【0037】
そのため、ピークchの決定前にエネルギースペクトルを滑らかな曲線に近似する目的で、所定の積算時間内に得られたエネルギースペクトルに対して従来公知のスムージング処理を行う(ステップS4)。例えば、得られたエネルギースペクトルをガウス分布に基づきあらかじめ想定した想定スペクトル曲線に近似するため、グラフの各点のデータに最小二乗法を適用し、エネルギースペクトルに最も適合した想定スペクトル曲線を特定する。
【0038】
そして、このようなスムージング処理後に得られる滑らかな想定スペクトル曲線について、一定サーチ範囲の各chの計数率から1次微係数ゼロクロス法を用いてピークchを求める(ステップS5)。
【0039】
次いで、放射線測定装置1は、ch比較回路部12によって、エネルギースペクトルから求めたピークchの計数率とそれより例えば1.1倍大きなchの計数率とを比較し、そのピークchが演算係数の算出に使用できるものであるか否かの妥当性を判定する(ステップS6)。
【0040】
すなわち、それらの計数率に一定の差が認められないときには、そのピークchを演算係数の算出には使用しないようにする。さらに、使用の妥当性を判定するに当たっては、そのピークchと基準chとの比を求め、この比が例えば1.1倍以上と大きくなるような場合には、放射線測定装置1の異常発生の可能性を考慮し、同じくそのピークchを演算係数の算出には使用しないようにする。
【0041】
ステップS6において、求めたピークchが演算係数の算出に使用可能であると判定した場合には、放射線測定装置1は、ch比較回路部12によって、そのピークchと、基準ch記憶回路部10に記憶されている基準chとの比率Kを求め、演算係数を算出する(ステップS7)。その算出の際に別の演算係数が存在している場合には、それを新たに算出した演算係数で更新する。
【0042】
また、ステップS6において、求めたピークchが一定の条件を満たさず演算係数の算出には使用できないと判定した場合には、放射線測定装置1は、そのピークchを用いて新たに演算係数を算出することは行わず、既存の演算係数を更新せずにステップS1に戻り、それ以降の処理を実行する。また、その際には、放射線測定装置1は、必要に応じ、アラームを発報してオペレータ等に点検を促すようにしてもよい。
【0043】
続いて、chデータ適正化処理について説明する。図4はchデータ適正化処理フローの説明図である。
放射線測定装置1は、ADC7からのchデータに対してchデータ適正化処理を行う際、まず、chデータ適正化回路部13によって、その際ch比較回路部12に記憶されている最新の演算係数、すなわち比率Kを抽出する(ステップS10)。そして、その演算係数を用い、ADC7からchデータ適正化回路部13に出力されたchデータの適正化を行う(ステップS11)。すなわち、ADC7から出力されてくるchデータを、その都度、比率Kで除していく。
【0044】
そして、放射線測定装置1は、工学値演算回路部14によって、適正化後のchデータをエネルギー補正関数GE(f)および工学値変換係数を用いて線量率に変換し(ステップS12)、データ表示/出力回路部9によって、求められた線量率を表示装置等に出力する(ステップS13)。
【0045】
以上述べたように、この放射線測定装置1は、まず、検出された放射線のエネルギースペクトルを求め、そのエネルギースペクトルにおける特定の放射性核種のピークchとその基準chとの間の関係を基に、その放射線のA/D変換後のchデータを工学値演算前に適正化する。
【0046】
さらに、放射線測定装置1は、chデータを適正化するための演算係数を、放射線の検出データを用い、所定積算時間のエネルギースペクトルを用いて算出するので、測定後それほど時間が経過していない検出データによりchデータの適正化が行える。
【0047】
さらにまた、この放射線測定装置1では、ピークchとその近傍におけるchの計数比を求めてピークchが演算係数の算出に使用できるものであるか否かを判定した上で、演算係数を確定するようにしたので、不適当な演算係数算出処理およびchデータ適正化処理を未然に防止することができる。
【0048】
したがって、このような放射線測定装置1によれば、検出した放射線について常に信頼性の高い情報を取得することができるようになる。
また、この放射線測定装置1では、放射線の検出を行いながら演算係数を算出するので、エネルギー校正のために時間を削る必要がなく、効率的な放射線測定が可能になる。さらに、演算係数算出のためにピークchを求める際、ピークサーチを行うエネルギー範囲を指定すれば、ピークサーチに要する時間を短縮することができ、演算係数を素早く算出して適正な情報を効率的に取得することが可能になる。
【0049】
また、A/D変換後工学値演算前に演算係数を用いてchデータの適正化を行い工学値演算に用いるデータの正しさを保つようにしたので、従来のようなエネルギー校正は不要になり、PMT印加電圧やアンプ利得等を制御して測定系について調整を行う必要がなくなる。さらに、演算係数を求めるための基準chとして、環境中に存在する天然の40K等、特定放射性核種の光電ピークのchを設定することで、校正用線源の使用、所持、管理が不要になり、オペレータ等の負担も軽減されるようになる。
【0050】
なお、基準chの放射性核種としては、上記の40Kのほか、同じく天然放射性核種である208Tl等も利用することができる。また、ここでは放射線検出器としてシンチレータ2aを用いたが、そのほか半導体検出器等も用いることも可能である。
【0051】
次に、第2の実施の形態について説明する。
上記構成を有する放射線測定装置1は、特定の放射線核種を選択して測定するモニタに適用することもできる。例えば、原子力発電所等に設置されて、環境中の放射性よう素を測定するためのよう素モニタとして用いることができる。
【0052】
その場合、工学値演算回路部14には、検出部2の入射放射線のエネルギーに相当するchを適当に選択して演算を行う処理機能が含まれる。工学値演算回路部14におけるそのような処理機能は、例えばシングルch波高分析器等を利用して実現できる。このような処理機能を有している点を除き、よう素モニタの構成は、上記図1の放射線測定装置1と同じにすることができる。
【0053】
よう素モニタにおける工学値演算処理に必要な演算係数は、例えば後述の57Co等を用いて適当な基準chを設定し、上記図2の演算係数算出処理フロー(ステップS1〜S7)と同様の処理フローに従って算出される。
【0054】
よう素モニタにおける工学値演算処理においては、そのようにして算出される演算係数を用い、ADC7から出力される電気的パルス信号のchデータについて工学値演算処理を行う。その工学値演算の際には、特定のエネルギー範囲内のchデータを選択し、そのchデータについて演算処理を実行する。なお、このエネルギー範囲は、オペレータ等によってあらかじめ設定される。
【0055】
図5はよう素モニタのエネルギースペクトルの一例である。ここではよう素と近似の133Baのエネルギースペクトルで表している。図5において、横軸はエネルギーをchで表し、縦軸は積算による計数率(s-1)を表している。
【0056】
放射性よう素を検出して工学値を測定するためには、放射性よう素(131I)の光電ピークのエネルギーである364keV(364ch)の、例えば±10%のエネルギー範囲にあるものを選択して工学値演算を実行する。このようなエネルギー範囲を設定するのは、自然界に存在する放射性核種や核分裂に伴って生成される放射性核種があり、それらの核種と識別するためである。
【0057】
また、図5に示したように、演算係数の算出に必要な基準chの放射性核種には、放射性よう素の光電ピークのエネルギーに比べてやや低いエネルギーの光電ピークを有する核種を用いる。このような放射性核種としては、例えば57Coを用いることができる。57Coの場合、その光電ピークのエネルギーは122keV(122ch)である。これに相当するchを基準chとして記憶しておくとともに、57Coを微量に装置内に組み込んでおくことにより、検出した放射線のエネルギースペクトルに含まれている57Coのピークchを基準chと比較し、演算係数、すなわち比率Kを算出する。
【0058】
なお、このように57Co等を装置内に組み込むほか、上記第1の実施の形態と同様、よう素モニタにおいても、天然放射性核種である40Kや208Tlの光電ピークのエネルギーを基準chとして演算係数を算出するようにしてもよい。
【0059】
図6はよう素モニタにおける工学値演算処理フローの説明図である。
よう素モニタは、ADC7から出力されたchデータに対して工学値演算処理を行う際、まず、chデータ適正化回路部13によって、その際ch比較回路部12に記憶されている演算係数を抽出する(ステップS20)。そして、その演算係数を用い、ADC7からchデータ適正化回路部13に出力されてくるchデータを、その都度、比率Kで除していき、適正化を行う(ステップS21)。
【0060】
続いて、よう素モニタは、工学値演算回路部14によって、適正化後のchデータのうち、あらかじめ設定された特定エネルギー範囲、すなわち上記364keV±10%のエネルギー範囲内にあるchデータを選択し、工学値変換係数を用いて所定の工学値に変換する(ステップS22)。そして、データ表示/出力回路部9によって、求められた工学値を表示装置等に出力する(ステップS23)。
【0061】
このように、上記よう素モニタによれば、第1の実施の形態の放射線測定装置1と同様、放射線を検出しながら、そのエネルギースペクトルに含まれる特定放射性核種のピークchと基準chとを比較して演算係数を求め、それを用いてA/D変換後工学値演算前のchデータを適正化する。このように適正化されたchデータを用いることにより、従来のようなエネルギー校正を行うことなく、検出した放射線についての信頼性の高い情報を効率的に取得することができるようになる。
【0062】
なお、この第2の実施の形態ではよう素モニタを例にして述べているが、放射線測定装置1をその他の放射性核種を測定対象とするモニタ等として用いる場合には、その測定対象核種に応じ、工学値演算に用いるchデータのエネルギー範囲や、基準chとするために各装置に組み込む放射性核種を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】放射線測定装置の機能ブロック図である。
【図2】演算係数算出処理フローの説明図である。
【図3】エネルギースペクトルの一例である。
【図4】chデータ適正化処理フローの説明図である。
【図5】よう素モニタのエネルギースペクトルの一例である。
【図6】よう素モニタにおける工学値演算処理フローの説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 放射線測定装置
2 検出部
2a シンチレータ
2b PMT
3 高圧電源
4 温度計
5 高圧制御回路
6 アンプ
7 ADC
8 マルチch記憶回路部
9 データ表示/出力回路部
10 基準ch記憶回路部
11 ピークサーチ回路部
12 ch比較回路部
13 chデータ適正化回路部
14 工学値演算回路部
15 制御回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の検出を行う放射線測定装置において、
特定放射性核種の放射線エネルギーを基準値として記憶する基準値記憶手段と、
検出された放射線のエネルギースペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
前記エネルギースペクトルの前記特定放射性核種に対応するピークのエネルギーを検出するピーク検出手段と、
前記ピークのエネルギーと前記基準値とを用いて演算係数を生成する演算係数生成手段と、
検出された放射線のエネルギーを前記演算係数を用いて適正化するエネルギー適正化手段と、
を有することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記エネルギー適正化手段によって適正化された放射線のエネルギーを用いて工学値を生成する工学値生成手段を有することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記演算係数は、前記基準値に対する前記ピークのエネルギーの比率であり、
前記エネルギー適正化手段は、検出された放射線のエネルギーを前記演算係数で除して適正化することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記演算係数生成手段は、生成される前記演算係数が、前記エネルギー適正化手段による適正化に使用可能であるかを判定し、使用可能と判定した場合にのみ、前記演算係数を生成することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項5】
前記スペクトル生成手段は、所定時間内に検出された放射線のエネルギーまたは所定数の放射線のエネルギーを用いて、前記エネルギースペクトルを生成することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項6】
前記ピーク検出手段は、あらかじめ設定されたエネルギー範囲において前記ピークを検出することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項7】
前記特定放射性核種は、天然放射性核種または装置固有の放射性核種であることを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−29986(P2006−29986A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209347(P2004−209347)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】