説明

放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物およびその製造方法

【課題】耐熱安定性に寄与するノルボルナン骨格が加水分解性シリル基と放射線重合性官能基との連結部位に組み込まれている有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ノルボルナン骨格、(B)(A)に直結した加水分解性シリル基、および(C)(A)に直接または炭素原子および/もしくはヘテロ原子を介して結合した放射線重合性官能基、を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物;ならびに(D)ノルボルナン骨格、(E)(D)に直結した加水分解性シリル基、および(F)(D)に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基、を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の放射線重合性官能基を有する塩とを50〜150℃において反応させることを含む、前記有機ケイ素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線重合性官能基、ノルボルナン骨格及び加水分解性シリル基を有する新規な有機ケイ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、加水分解性シリル基を有する有機ケイ素化合物は、水の存在によりシラノール基を生成し、このシラノール基が無機材質表面の水酸基と反応するので、無機材質の表面処理に使用することができる。また、これらの有機ケイ素化合物は、有機樹脂と反応する有機官能基を更に有する場合、シランカップリング剤、有機・無機樹脂の改質剤及び接着助剤、各種添加剤などとして幅広く用いられており、その応用に関する特許出願は多数なされており、公知の技術となっている。
【0003】
通常のシランカップリング剤では無機材質と反応する加水分解性シリル基部位と有機樹脂と反応する有機官能基部位とが直鎖の炭化水素鎖で連結されている場合がほとんどである。シランカップリング剤処理によって得られた被処理物は高温で使用されることが多く、その際に直鎖の炭化水素鎖の耐熱性が低いことが度々問題となっている。
【0004】
こういった背景において、複環式炭化水素骨格であるノルボルナン骨格は3次元的に剛直な構造であるため、該骨格を有機ポリマーの構造に組み込むことでその耐熱性を向上できることが公知の技術となっている。
【0005】
従来のシランカップリング剤では、有機樹脂と反応する有機官能基として、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基といった官能基が公知であり、種々の用途に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、耐熱安定性に寄与するノルボルナン骨格が加水分解性シリル基と有機官能基である放射線重合性官能基との連結部位に組み込まれている新規な有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、加水分解性シリル基と放射線重合性官能基とがノルボルナン骨格で連結された有機ケイ素化合物及びその製造方法を開発し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は第一に、
(A)ノルボルナン骨格、
(B)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(C)該ノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基
を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物を提供する。
【0009】
本発明は第二に、
(D)ノルボルナン骨格、
(E)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(F)該ノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基
を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ金属塩および放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の放射線重合性官能基を有する塩とを50〜150℃において反応させることを含む、
(A)ノルボルナン骨格、
(B)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(C)該ノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基
を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物は、加水分解性シリル基と放射線重合性官能基を連結するユニットとして剛直な複環式炭化水素骨格であるノルボルナン骨格を有するため、該ユニットとして直鎖の炭化水素鎖を有する従来のものよりも、耐熱安定性に優れる。また、本発明の放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物は、有機樹脂との反応性に優れた有機官能基である放射線重合性官能基を有する。よって、本発明の放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物は、耐熱安定性改良型シランカップリング剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0012】
[放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物]
本発明の有機ケイ素化合物は、
(A)ノルボルナン骨格、
(B)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(C)該ノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基
を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物である。
【0013】
<(A)ノルボルナン骨格>
構造(A)はノルボルナン骨格である。本明細書において、ノルボルナン骨格とは、ノルボルナンから2〜12個の水素原子を除いた残りの原子団をいい、このような原子団である限り、除かれる水素原子の数および位置に制限はない。
【0014】
構造(A)のノルボルナン骨格としては、例えば、下記構造式:
【0015】
【化1】


で示されるノルボルニレン基、即ち、ノルボルナンの2位又は3位と5位又は6位の水素原子を除いた残りの2価炭化水素基が挙げられる。
【0016】
<(B)加水分解性シリル基>
構造(B)は、構造(A)のノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基である。本明細書において、加水分解性シリル基は、ケイ素原子に直結した1価の加水分解性原子(水と反応することでシラノール基を生成する原子)およびケイ素原子に直結した1価の加水分解性基(水と反応することでシラノール基を生成する基)の少なくとも一方を有するシリル基である限り特に限定されない。このような加水分解性シリル基は加水分解してシラノール基を生成し、このシラノール基は無機材質と脱水縮合して式:Si−O−M(M:無機材質)なる化学結合を形成する。構造(B)の加水分解性シリル基は、本発明の有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。
構造(B)の加水分解性シリル基としては、例えば、後述する一般式(1’)で表されるシリル基;クロロシリル基、ブロモシリル基、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基、フェノキシシリル基等が挙げられる。
【0017】
<(C)放射線重合性官能基>
構造(C)は、構造(A)のノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基である。構造(C)の放射線重合性官能基は、放射線照射により有機樹脂と反応または共重合して結合を形成する。構造(C)の放射線重合性官能基は、本発明の有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。本明細書において、連結基とは、構造(C)の放射線重合性官能基が構造(A)のノルボルナン骨格に炭素原子、ヘテロ原子またはこれらの組み合わせを介して結合する場合に、構造(A)と(C)を連結する構造をいう。
【0018】
本明細書において、放射線とはマイクロ波、赤外線、紫外線(UV線)、X線、γ線等の電磁波;及びα線、陽子線、電子線、中性子線等の粒子線を指す。
【0019】
前記放射線重合性官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニル基等が挙げられ、その中でもアクリロイル基、メタクリロイル基等が好ましい。
【0020】
ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。連結基がヘテロ原子を含む場合、連結基中には、ヘテロ原子が1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。ヘテロ原子は、例えば、カルボニル基(-C(=O)-)、オキシ基(-O-)、チオ基(-S-)、イミノ基(-NH-)、ニトリロ基(-N<)などの形で存在する。
【0021】
連結基としては、例えば、ヘテロ原子を含み又は含まないアルキレン基、カルボニル基、オキシ基、チオ基、イミノ基またはこれらの組み合わせ等の2価の基が挙げられる。
【0022】
構造(C)の放射線重合性官能基と連結基との組み合わせとしては、例えば、後述する一般式(1'')で表される1価の基等が挙げられる。
【0023】
<その他の構造>
本発明の有機ケイ素化合物は、本発明の目的を損なわない範囲で、構造(A)〜(C)以外のその他の構造を有してもよい。その他の構造は、本発明の有機ケイ素化合物中に存在する場合、1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。その他の構造としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0024】
<放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物の例>
本発明の有機ケイ素化合物は、構造(A)〜(C)を全て含有する化合物である限り、特に限定されないが、本発明の有機ケイ素化合物の耐熱安定性の点から、構造(B)が直結する構造(A)上の炭素原子と構造(C)が直接または連結基を介して結合する構造(A)上の炭素原子とは異なっていることが好ましく、構造(B)が構造(A)の2位又は3位の炭素原子および5位又は6位の炭素原子の一方に直結し、構造(C)が他方に直接または連結基を介して結合していることがより好ましい。
【0025】
本発明の有機ケイ素化合物の好ましい例としては、下記一般式(1):
【0026】
【化2】


(式中、Xは独立にハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、フェニルオキシ基、またはアセトキシ基であり、
Yはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、
R1は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、
R2は酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはこれらの組み合わせを含み又は含まない炭素原子数1〜10のアルキレン基であり、
mは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)のうち、下記一般式(1’):
【0028】
【化3】


(式中、X、R1およびmは前記のとおりである。)
で表されるシリル基が構造(B)の加水分解性シリル基に該当し、下記一般式(1''):
【0029】
【化4】


(式中、YおよびR2は前記のとおりである。)
で表される部分が構造(C)の放射線重合性官能基と連結基との組み合わせに該当する。
【0030】
上記Xがハロゲン原子である場合、その例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0031】
上記Xがアルコキシ基である場合、その炭素原子数は1〜10であり、典型的には1〜8であり、より典型的には1〜6であり、更により典型的には1〜4である。該アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
上記Xは、メトキシ基、エトキシ基であることが好ましい。
【0033】
上記R1の炭素原子数は1〜10であり、典型的には1〜8であり、より典型的には1〜6であり、更により典型的には1〜4である。上記R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0034】
上記R2の炭素原子数は1〜10であり、典型的には1〜8であり、より典型的には1〜6であり、更により典型的には1〜3である。
【0035】
上記R2が酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはこれらの組み合わせを含まない場合、その例としては、メチレン基、エチレン基、メチルメチレン基、プロピレン基(トリメチレン基およびメチルエチレン基)、ブチレン基(例えば、テトラメチレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基)、ペンテン基(例えば、ペンタメチレン基)、ヘキセン基(例えば、ヘキサメチレン基)、ヘプテン基(例えば、ヘプタメチレン基)、オクテン基(例えば、オクタメチレン基)、ノネン基(例えば、ノナメチレン基)、デセン基(例えば、デカメチレン基)等のアルキレン基が挙げられ、中でもメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0036】
上記R2が酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはこれらの組み合わせを含む場合、その例としては、下記一般式:
-(CH2)a-C(=O)-(CH2)b-、
-(CH2)c-O-(CH2)d-、
-(CH2)c-S-(CH2)d-、および
-(CH2)e-N((CH2)fH)-(CH2)g-
(式中、aおよびbは1〜8の整数であり、ただし、a+bは2〜9の整数であり、
cおよびdは1〜9の整数であり、ただし、c+dは2〜10の整数であり、
eおよびgは1〜9の整数であり、fは0〜8の整数であり、ただし、e+f+gは2〜10の整数である。)
で表される2価の基が挙げられる。
【0037】
上記mは0〜2の整数であり、より典型的には0である。
【0038】
本発明の有機ケイ素化合物のより好ましい例としては、下記一般式(2):
【0039】
【化5】


(式中、X、Y、R1およびmは前記のとおりであり、nは1〜10の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0040】
上記nは1〜10の整数であり、好ましくは1〜8の整数、より好ましくは1〜6の整数、更により好ましくは1〜3である。
【0041】
本発明の有機ケイ素化合物の更により好ましい例としては、下記一般式(3):
【0042】
【化6】


(式中、X、Y、R1およびmは前記のとおりである。)
で表される有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0043】
本発明の有機ケイ素化合物の具体例としては、
【0044】
【化7】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
などが挙げられる。
【0045】
本発明の有機ケイ素化合物は、純物質であっても、異性体の混合物であってもよい。異性体の混合物としては、例えば、endo異性体とexo異性体との混合物、位置異性体の混合物などが挙げられる。位置異性体の混合物としては、例えば、上記一般式(1)で構造(B)の加水分解性シリル基が直結するノルボルナン骨格上の位置が2位である異性体と3位である異性体との混合物、上記一般式(1)で構造(C)の放射線重合性官能基が直接的にまたは間接的に結合するノルボルナン骨格上の位置が5位である異性体と6位である異性体との混合物などが挙げられる。
【0046】
[製造方法]
構造(A)〜(C)を有する本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、
(D)ノルボルナン骨格、
(E)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(F)該ノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基
を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ金属塩および放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の放射線重合性官能基を有する塩とを50〜150℃において脱塩反応させる
ことにより製造することができる。
【0047】
<ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物>
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物は、構造(D)〜(F)を全て含有する化合物である限り、特に限定されないが、構造(E)の加水分解性シリル基と構造(F)のハロアルキル基は、本発明の有機ケイ素化合物の耐熱安定性の点から、構造(D)のノルボルナン骨格上の互いに異なる炭素原子に直結していることが好ましく、構造(E)および(F)の一方が2位又は3位の炭素原子に直結し、他方が5位又は6位の炭素原子に直結していることがより好ましい。
【0048】
・(D)ノルボルナン骨格
構造(D)のノルボルナン骨格の定義、形態、具体例等は、上記「<(A)ノルボルナン骨格>」の項で説明したとおりである。
【0049】
・(E)加水分解性シリル基
構造(E)は、構造(D)のノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基である。構造(E)の加水分解性シリル基は、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。構造(E)の加水分解性シリル基の具体例は、上記「<(B)加水分解性シリル基>」の項で説明したとおりである。
【0050】
・(F)ハロアルキル基
構造(F)は、構造(D)のノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基である。構造(F)のハロアルキル基は、前記放射線重合性官能基を有する塩との脱塩反応により構造(C)の放射線重合性官能基を生成するものであれば、特に限定されない。構造(F)のハロアルキル基は、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。
【0051】
ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。ヘテロ原子は、構造(F)のハロアルキル基中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。ヘテロ原子は、構造(F)のハロアルキル基を構成する炭素原子2個の間で、例えば、カルボニル基(-C(=O)-)、オキシ基(-O-)、チオ基(-S-)、イミノ基(-NH-)などの形で存在するか、または、該炭素原子3個の間で、例えば、ニトリロ基(-N<)などの形で存在する。
構造(F)のハロアルキル基としては、例えば、後述する一般式(4'')で表されるハロアルキル基等が挙げられる。
【0052】
・その他の構造
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物は、本発明の目的を損なわない範囲で、構造(D)〜(F)以外のその他の構造を有してもよい。その他の構造は、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物中に存在する場合、1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。その他の構造の具体例は、上記「<その他の構造>」の項で説明したとおりである。
【0053】
・ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物の例
本発明の製造方法で得ようとする有機ケイ素化合物が上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物である場合、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(4):
【0054】
【化8】


(式中、X、R1、R2およびmは前記のとおりであり、Zはハロゲン原子である。)
で表されるものを使用することができる。
【0055】
上記一般式(4)のうち、下記一般式(4’):
【0056】
【化9】


(式中、X、R1およびmは前記のとおりである。)
で表されるシリル基が構造(E)の加水分解性シリル基に該当し、下記一般式(4''):
【0057】
【化10】


(式中、ZおよびR2は前記のとおりである。)
で表される部分が構造(F)のハロアルキル基に該当する。
【0058】
本発明の製造方法で得ようとする有機ケイ素化合物が上記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物である場合、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(5):
【0059】
【化11】


(式中、X、Z、R1、mおよびnは前記のとおりである。)
で表されるものを使用することができる。
【0060】
本発明の製造方法で得ようとする有機ケイ素化合物が上記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物である場合、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(6):
【0061】
【化12】


(式中、X、R1およびmは前記のとおりであり、Z'は臭素原子又は塩素原子である。)
で表されるものを使用することができる。
【0062】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物の具体例としては、
【0063】
【化13】


などが挙げられる。
【0064】
・製造方法1
構造(D)〜(F)を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物は、例えば、
ケイ素原子に直結した水素原子(以下、「SiH基」という場合がある。)を有する加水分解性シランと、ノルボルネン骨格および該ノルボルネン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基を有するノルボルネン誘導体とを触媒の存在下でヒドロシリル化反応に供する
ことにより製造することができる。
【0065】
・・SiH基を有する加水分解性シラン
SiH基を有する加水分解性シランは、前記ノルボルネン誘導体とのヒドロシリル化反応により構造(E)の加水分解性シリル基を生成するものであれば、特に限定されない。
【0066】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(4)〜(6)のいずれかで表される有機ケイ素化合物である場合、SiH基を有する加水分解性シランとしては、下記一般式:
【0067】
【化14】


(式中、X、R1およびmは前記のとおりである。)
で表されるものを使用することができる。
【0068】
・・ノルボルネン誘導体
上記ノルボルネン誘導体は、ノルボルネン骨格と、該ノルボルネン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基とを有する。本明細書において、ノルボルネン骨格とは、ノルボルナンにおいて、少なくとも1組の隣接する2個の炭素原子の間に炭素−炭素二重結合が形成され、少なくとも1個の水素原子が除かれた残りの原子団である。ノルボルネン骨格の価数が1価以上である限り、前記炭素−炭素二重結合の数および位置に制限はない。
【0069】
上記ノルボルネン誘導体中の上記ハロアルキル基は、上記ノルボルネン誘導体中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。
【0070】
ヘテロ原子の例、上記ハロアルキル基中での形態等は、上記「<(F)ハロアルキル基>」の項で説明したものと同様である。
【0071】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(4)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記ノルボルネン誘導体としては、下記一般式(7):
【0072】
【化15】


(式中、R2およびZは前記のとおりである。)
で表されるものを使用することができる。なお、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(5)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記ノルボルネン誘導体としては、R2が-(CH2)n-である上記一般式(7)で表されるものを使用することができる。また、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記ノルボルネン誘導体としては、R2が-CH2-であり、ZがZ'である上記一般式(7)で表されるものを使用することができる。
【0073】
上記ノルボルネン誘導体は、各種試薬メーカーより販売されている化合物を使用してもよいし、公知の方法に従い、上記ハロアルキル基を生成しうるオレフィン化合物とシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により得られる反応生成物を使用してもよい。例えば、上記一般式(7)で表されるノルボルネン誘導体は、公知の方法に従い、下記一般式:
CH2=CH-R2-Z
で表されるオレフィン化合物とシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により得ることができる。
【0074】
・製造方法2
前記(D)〜(F)を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物のうち、
(D)ノルボルナン骨格、
(E')該ノルボルナン骨格に直結したオルガノオキシシリル基、および
(F)該ノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基
を有する有機ケイ素化合物は、上記製造方法1において、
SiH基を有する加水分解性シランとして、SiH基を有するハロシランを用い、
前記ヒドロシリル化反応による生成物として
(D)ノルボルナン骨格、
(E'')該ノルボルナン骨格に直結したハロシリル基、および
(F)該ノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基
を有する有機ケイ素化合物を得、
前記ヒドロシリル化反応の後に、前記(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物をヒドロキシル基含有有機化合物と反応させる
ことによっても製造することができる。
【0075】
・・構造(D)、(E')および(F)を有する有機ケイ素化合物
構造(D)、(E')および(F)を有する有機ケイ素化合物は、構造(E)が構造(E')に限定された以外は、構造(D)〜(F)を有する有機ケイ素化合物と同様である。
【0076】
構造(E')は、構造(D)のノルボルナン骨格に直結したオルガノオキシシリル基である。構造(E')のオルガノオキシシリル基は、前記(D)、(E')および(F)を有する有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。
【0077】
前記(D)、(E')および(F)を有する有機ケイ素化合物としては、下記一般式(8):
【0078】
【化16】


(式中、X'は独立に炭素原子数1〜10のアルコキシ基、フェニルオキシ基、またはアセトキシ基であり、Z、R1、R2およびmは前記のとおりである。)
で表されるものが挙げられる。上記X'がアルコキシ基である場合、その炭素原子数のより典型的な、および、更により典型的な範囲、ならびに、該アルコキシ基の例は、上記Xについて説明したものと同様である。
【0079】
・・SiH基を有するハロシラン
SiH基を有するハロシランは、前記ノルボルネン誘導体とのヒドロシリル化反応により構造(E'')のハロシリル基を生成するものであれば、特に限定されない。
【0080】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(8)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記ハロシランとしては、下記一般式:
【0081】
【化17】


(式中、X''はハロゲン原子であり、R1およびmは前記のとおりである。)
で表されるものを使用することができる。
【0082】
・・構造(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物
構造(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物は、構造(E)が構造(E'')に限定された以外は、構造(D)〜(F)を有する有機ケイ素化合物と同様である。
【0083】
構造(E'')は、構造(D)のノルボルナン骨格に直結したハロシリル基である。構造(E'')のハロシリル基は、前記(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物中に1個のみ存在しても2個以上存在してもよく、2個以上存在する場合は同種であっても異種であってもよい。
【0084】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(8)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物としては、下記一般式(9):
【0085】
【化18】


(式中、X''、Z、R1、R2およびmは前記のとおりである。)
で表されるものが挙げられる。
【0086】
・・ヒドロキシル基含有有機化合物
ヒドロキシル基含有有機化合物は、構造(E'')のハロシリル基と反応して、構造(E')のオルガノオキシシリル基を生成するものである限り特に限定されない。ヒドロキシル基含有有機化合物としては、例えば、アルコール、フェノール類、カルボン酸が挙げられる。
【0087】
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が上記一般式(8)で表される有機ケイ素化合物である場合、前記ヒドロキシル基含有有機化合物としては、下記一般式:
X'-H
(式中、X'は前記のとおりである。)
で表されるものが挙げられ、中でもメタノール、エタノールが好ましい。
【0088】
・反応条件
・・ヒドロシリル化反応
ヒドロシリル化反応では、一般的に重金属錯体等の触媒を用いることが公知の技術となっており、本製造方法のヒドロシリル化反応においても触媒としてパラジウム錯体、白金錯体、ロジウム錯体等の重金属錯体を使用する。その中でも反応性、使用量等の観点からパラジウム錯体、白金錯体が好ましく、その中でも反応性の点よりパラジウム錯体が更に好ましい。
【0089】
触媒の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から前記ノルボルネン誘導体1モルに対して、0.000001〜0.01モル、特に0.00001〜0.001モルの範囲が好ましい。該使用量がこの範囲内であると、触媒の量に見合うだけの十分な反応促進効果を得るのがより容易である。
【0090】
SiH基を有する加水分解性シランとノルボルネン誘導体との配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、ノルボルネン誘導体1モルに対し、SiH基を有する加水分解性シランを0.5〜2モル、特に0.8〜1.2モルの範囲で反応させることが好ましい。
【0091】
本ヒドロシリル化反応を行うにあたって上記に示した触媒の他に、触媒反応を制御するために助剤を添加してもよい。助剤としては公知のものを使用してよく、その例としては有機リン化合物、亜リン酸エステル化合物、有機窒素化合物等が挙げられる。
【0092】
本ヒドロシリル化反応は一般に無溶媒反応であるが、反応制御の点から溶媒希釈して反応させてもよい。その際の溶媒としては、使用する原料との反応性がなく、更に、触媒毒等の影響がないものであれば特に限定されない。具体的な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素溶媒等が挙げられる。これら溶媒は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0093】
反応温度はヒドロシリル化反応が進行する温度であれば、特に限定されないが、0〜200℃、特に10〜150℃が好ましい。
【0094】
・・オルガノオキシ化反応
本明細書において、オルガノオキシ化反応とは、製造方法2におけるヒドロシリル化反応の後に、構造(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物をヒドロキシル基含有有機化合物と反応させて、構造(E'')のハロシリル基を構造(E')のオルガノオキシシリル基に転換することをいう。具体的には、例えば、ヒドロキシル基含有有機化合物がアルコールである場合は、アルコキシ化反応という。より具体的には、例えば、ヒドロキシル基含有有機化合物がメタノールである場合は、メトキシ化反応という。
【0095】
オルガノオキシ化反応は無触媒でも自発的に進行するが、反応性、生産性の観点から、生成するハロゲン化水素の捕捉剤として尿素、3級アミン、金属アルコキシド等の存在下で行うことが好ましい。
【0096】
前記捕捉剤の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、構造(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物の構造(E'')中のハロゲン原子1モルに対して、0.5〜1.5モル、特に0.8〜1.2モルの範囲が好ましい。該使用量がこの範囲内であると、捕捉剤の量に見合うだけの十分な反応促進効果を得るのがより容易である。
【0097】
構造(D)、(E'')および(F)を有する有機ケイ素化合物とヒドロキシル基含有有機化合物との配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、該有機ケイ素化合物の構造(E'')中のハロゲン原子1モルに対し、ヒドロキシル基含有有機化合物中のヒドロキシル基の量が1〜3モル、特に1〜2モルの範囲となるように配合比を調整することが好ましい。
【0098】
反応温度はオルガノオキシ化反応が進行する温度であれば、特に限定されないが、50〜80℃、特に60〜70℃が好ましい。
【0099】
<放射線重合性官能基を有する塩>
放射線重合性官能基を有する塩は、放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ金属塩および放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である。放射線重合性官能基を有する有機酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、ナトリウム、カリウム等が好ましい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられ、カルシウム等が好ましい。
【0100】
放射線重合性官能基を有する塩としては、例えば、下記一般式(10)
Y-M (10)
(式中、Yは前記のとおりであり、Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子である。)
で表されるアクリル酸塩およびメタクリル酸塩、即ち、アクリル酸およびメタクリル酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が挙げられる。上記一般式(10)で表されるアクリル酸塩およびメタクリル酸塩の具体例としては、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸リチウムなどが挙げられ、中でも、反応性の点から、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムが好ましく、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムがより好ましい。
【0101】
<脱塩反応の条件>
ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物と放射線重合性官能基を有する塩との配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物1モルに対し、放射線重合性官能基を有する塩を0.8〜2モル、特に0.8〜1.2モルの範囲で反応させることが好ましい。
【0102】
本発明の放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物を合成するに当たり、脱塩反応は、その反応速度を促進させる目的から、加熱下、有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0103】
有機溶媒としては活性水素を持たない有機溶媒が好ましく、その中でも極性有機溶媒が特に好ましい。具体的にはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、デカンといった飽和炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;トリエチレングリコールジメチルエーテル等のポリエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒などが挙げられる。上記有機溶媒の中で、極性の大きさ及び沸点の観点からジメチルホルムアミド、トルエンが特に好ましい。有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0104】
反応温度は50〜150℃の範囲とすることが必要であり、より好ましくは80〜130℃である。50℃より低い場合は脱塩反応が進行しにくく、150℃より高い場合は生成した放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物が重合してしまう可能性がある。
【0105】
本反応を行うにあたって、生成する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物を安定化する目的から、重合禁止剤を用いることが好ましい。使用する重合禁止剤は一般に市販されているものでよく、その中でもヒンダードフェノール系の化合物が特に好ましい。添加量は一般的な重合禁止剤を用いる際の添加量で問題なく、例えば、放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物に対して0.001〜1.0質量%が好ましい。
【0106】
<精製方法>
上記の脱塩反応で発生したアルカリ金属ハライド及びアルカリ土類金属ハライドは、濾過等の当業者に公知の方法により、目的とする放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物から分離することができる。放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物は、減圧蒸留、液体カラムクロマトグラフィー等の当業者に公知の方法により更に精製することができる。
【0107】
以下、合成例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。例中、GCはガスクロマトグラフィーの略であり、NMRは核磁気共鳴分光法、IRは赤外分光法の略であり、bpは沸点の略である。
【0108】
[合成例1]
撹拌機、温度計、ヒーターを備えた2Lオートクレーブにジシクロペンタジエン488.5g(3.7モル)、臭化アリル1074.7g(8.9モル)、ヒドロキノン3.1gを仕込み、密閉・常圧下、150℃にて加熱撹拌した。20時間後、GCにより、原料のピークが消失し、新たに生成物由来のピークが出現したことを確認して反応終了とした。この反応生成物を減圧下で蒸留することで淡黄色透明の液体(bp54〜56℃, 3 mmHg)を収率70%で得た。GCによりこの反応生成物の純度が98%であることを確認した。また、1H NMR, 13C NMRによりこの反応生成物が5−ブロモメチル−2−ノルボルネンであり、endo異性体とexo異性体との混合物であることを確認した。
1H NMR(300MHz, CDCl3, δ(ppm)): 主異性体(endo異性体)0.56(m, 1H), 1.27(d, J=8.2Hz, 1H), 1.45(m, 1H), 1.91(m, 1H), 2.48(m, 1H), 2.84(s, 1H), 2.96(s, 1H), 3.00(dd, J=6.9Hz, 9.6Hz, 1H), 3.17(dd, J=6.9Hz, 9.6Hz, 1H), 5.96(m, 1H), 6.17(m, 1H).
13C NMR(75MHz, CDCl3, δ(ppm)): 主異性体(endo異性体)32.6, 38.0, 42.0, 43.0, 45.3, 49.5, 131.4, 138.0.
【0109】
[合成例2]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、5−ブロモメチル−2−ノルボルネン150g(0.802モル)、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム45.6mg、トリシクロヘキシルホスフィン89.6mgを仕込み、135℃に加熱した。内温が安定した後、トリクロロシラン130.4g(0.963モル)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を135℃で撹拌した。2時間後、GCにより、原料のピークが消失し、新たに生成物由来のピークが出現したことを確認してヒドロシリル化反応の終了とした。反応液の温度を80℃に下げ、メタノール61.6g(1.92モル)を滴下した。滴下終了後、反応液を75℃で1時間撹拌した。続いて反応液の中に尿素69.3g(1.16モル)を投入し、更にメタノール46.2g(1.44モル)を滴下した。この反応液を75℃で2時間撹拌した後、加熱撹拌を停止した。反応液を静置すると、尿素塩酸塩のメタノール溶液の層と反応生成物の層に分かれたため、反応生成物の層を集め、GCにかけた。これにより、原料のピークが消失し、新たに生成物由来のピークが出現したことを確認してメトキシ化反応の終了とした。この反応生成物を減圧下で蒸留することで無色透明の液体(bp110〜116℃, 3〜5 mmHg)を収率93%で得た。GCによりこの反応生成物の純度が95%であることを確認した。また、1H NMR, 13C NMR, 29Si NMRによりこの反応生成物が5−ブロモメチル−ノルボルニルトリメトキシシランであり、endo異性体とexo異性体との混合物、かつ、トリメトキシシリル基がノルボルナン骨格の2位に直結した異性体と3位に直結した異性体との混合物であることを確認した。
1H NMR(300MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 0.45〜3.27 (m, 12H), 3.35(s, 6H, Si-OCH3), 3.37(s, 3H, Si-OCH3).
13C NMR(75MHz, CDCl3, δ(ppm)): 異性体混合物(主生成物のみ記述) 14.2, 23.4, 24.4, 36.1, 38.2, 39.0, 39.8, 42.2, 50.2(Si-OCH3).
29Si NMR(60MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 -45.1, -45.5, -45.8, -46.4.
【0110】
[合成例3]
合成例2において、ヒドロシリル化反応の触媒としてジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム45.6mgの代わりに塩化白金酸にビニルジメチルジシロキサンを配位させた白金錯体40mgを用い、トリシクロヘキシルホスフィンを用いず、トリクロロシランを滴下する前の温度を135℃から120℃に変更した以外は合成例2と同様にしてヒドロシリル化反応、メトキシ化反応および減圧下での蒸留を行って、無色透明の液体(bp110〜116℃, 3〜5 mmHg)を収率67%で得た。GCによりこの反応生成物の純度が95%であることを確認した。また、1H NMR, 13C NMR, 29Si NMRによりこの反応生成物が5−ブロモメチル−ノルボルニルトリメトキシシランであり、endo異性体とexo異性体との混合物、かつ、トリメトキシシリル基がノルボルナン骨格の2位に直結した異性体と3位に直結した異性体との混合物であることを確認した。この反応生成物のNMRスペクトルデータは合成例2で得られたものと同様であった。
【0111】
[実施例1]
アクリル酸カリウム110g(1.0モル)、ジメチルホルムアミド200g、トルエン200g、ビス-t-ブチルヒドロキシトルエン2.7gを、温度計、水冷コンデンサー、滴下ロートを備えたガラス製の1Lセパラブルフラスコに収め、140℃で加熱し、トルエンとアクリル酸カリウムとに含まれる水を留出させ反応系から除去した。その後、温度を110℃に下げ、反応系に5−ブロモメチル−ノルボルニルトリメトキシシラン309g(1.0モル)を滴下投入した。GCで反応追跡を行いながら、撹拌下、110℃で加熱還流した。5時間後、原料のメトキシシラン由来のピークが完全に消失し、新たに生成物由来のピークが出現したことをGCにより確認して反応終了とした。その後、生成した臭化カリウムを濾別し、減圧下で反応溶剤を留去させ、最後に減圧蒸留にて精製することで無色透明の液体を得た(精製収率43%)。GCによりこの反応生成物の純度が94%以上であることを確認した。また、1H NMR, 13C NMR, 29Si NMR及びIRスペクトルによりこの反応生成物が5−アクリロイルオキシメチル−ノルボルニルトリメトキシシランであり、endo異性体とexo異性体との混合物、かつ、トリメトキシシリル基がノルボルナン骨格の2位に直結した異性体と3位に直結した異性体との混合物であることを確認した。この反応生成物のNMRスペクトルを図1〜3に、IRスペクトルを図4に掲載する。
1H NMR(300MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 0.43〜3.22 (m, 12H), 3.32(s, 9H, Si-OCH3), 5.57〜6.15(m, 3H, アクリル基).
13C NMR(75MHz, CDCl3, δ(ppm)): 異性体混合物(主生成物のみ記述) 14.6, 24.0, 24.2, 36.7, 37.4, 38.8, 40.6, 50.1(Si-OCH3), 67.2, 128.2, 129.7, 165.4.
29Si NMR(60MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 -44.9, -45.6, -45.9, -46.3.
【0112】
[実施例2]
実施例1において、アクリル酸カリウム110g(1.0モル)の代わりにメタクリル酸カリウム124g(1.0モル)を用いた以外は実施例1と同様にして無色透明液体を得た(精製収率35%)。GCによりこの反応生成物の純度が93%以上であることを確認した。また、1H NMR, 13C NMR, 29Si NMR及びIRスペクトルによりこの反応生成物が5−メタクリロイルオキシメチル−ノルボルニルトリメトキシシランであり、endo異性体とexo異性体との混合物、かつ、トリメトキシシリル基がノルボルナン骨格の2位に直結した異性体と3位に直結した異性体との混合物であることを確認した。
1H NMR(300MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 0.41〜3.25 (m, 12H), 1.96(s, 3H), 3.30(s, 9H, Si-OCH3), 5.55〜6.10(m, 2H, メタクリル基).
13C NMR(75MHz, CDCl3, δ(ppm)): 異性体混合物(主生成物のみ記述) 14.3, 18.1, 23.8, 24.7, 36.3, 37.4, 38.2, 40.8, 50.9(Si-OCH3), 66.2, 125.2, 136.7, 167.4.
29Si NMR(60MHz, CDCl3, δ(ppm)):異性体混合物 -44.8, -45.1, -45.7, -46.8.
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施例1の反応生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1の反応生成物の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1の反応生成物の29Si NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例1の反応生成物のIRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ノルボルナン骨格、
(B)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(C)該ノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基
を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物。
【請求項2】
前記放射線重合性官能基がアクリロイル基、メタクリロイル基またはこれらの組み合わせである請求項1に係る有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(1):
【化1】


(式中、Xは独立にハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、フェニルオキシ基、またはアセトキシ基であり、
Yはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、
R1は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、
R2は酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはこれらの組み合わせを含み又は含まない炭素原子数1〜10のアルキレン基であり、
mは0〜2の整数である。)
で表される請求項1または2に係る有機ケイ素化合物。
【請求項4】
下記一般式(2):
【化2】


(式中、X、Y、R1およびmは前記のとおりであり、nは1〜10の整数である。)
で表される請求項1〜3のいずれか1項に係る有機ケイ素化合物。
【請求項5】
下記化学式(3):
【化3】


(式中、X、Y、R1およびmは前記のとおりである。)
で表される請求項1〜4のいずれか1項に係る有機ケイ素化合物。
【請求項6】
(D)ノルボルナン骨格、
(E)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(F)該ノルボルナン骨格に直結した、ヘテロ原子を含み又は含まないハロアルキル基
を有するハロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ金属塩および放射線重合性官能基を有する有機酸のアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の放射線重合性官能基を有する塩とを50〜150℃において反応させることを含む、
(A)ノルボルナン骨格、
(B)該ノルボルナン骨格に直結した加水分解性シリル基、および
(C)該ノルボルナン骨格に直接または炭素原子、ヘテロ原子もしくはこれらの組み合わせを介して結合した放射線重合性官能基
を有する放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(4):
【化4】


(式中、Xは独立にハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、フェニルオキシ基、またはアセトキシ基であり、
R1は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、
R2は酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはこれらの組み合わせを含み又は含まない炭素原子数1〜10のアルキレン基であり、
mは0〜2の整数であり、
Zはハロゲン原子である。)
で表され、
前記放射線重合性官能基を有する塩が下記一般式(10):
Y-M (10)
(式中、Yはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、
Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子である。)
で表され、
前記放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(1):
【化5】


(式中、X、Y、R1、R2およびmは前記のとおりである。)
で表される
請求項6に係る製造方法。
【請求項8】
上記一般式(4)で表されるハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(5):
【化6】


(式中、X、Z、R1およびmは前記のとおりであり、nは1〜10の整数である。)
で表され、
上記一般式(1)で表される放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(2):
【化7】


(式中、X、Y、R1、mおよびnは前記のとおりである。)
で表される
請求項7に係る製造方法。
【請求項9】
上記一般式(5)で表されるハロアルキル基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(6):
【化8】


(式中、X、R1およびmは前記のとおりであり、Z'は臭素原子又は塩素原子である。)
で表され、
上記一般式(2)で表される放射線重合性官能基含有有機ケイ素化合物が下記一般式(3):
【化9】


(式中、X、Y、R1およびmは前記のとおりである。)
で表される
請求項8に係る製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−120573(P2009−120573A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298494(P2007−298494)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】