説明

放射電力測定方法および放射電力測定装置

【課題】楕円球状の結合器を用いて被測定物の放射電力測定を行う場合に、測定系に無視できない損失がある場合でも、放射電力を正確に求めることができるようにする。
【解決手段】受信アンテナ15と電力測定器150の間に、可変移相器131、一方の分岐出力に反射素子133が接続された二分岐回路132からなる位相回転部130を挿入し、可変移相器131による位相変化に対して電力測定器150で測定される電力の最大値と最小値を求め、その求めた最大値と最小値の比から、結合器21の出力反射係数を算出し、その出力反射係数に近似される被測定物1の入力反射係数を推定する。また、被測定物1に代わりに用いた基準アンテナ160の入力反射係数についても同様に推定し、これら推定された入力反射係数と、受信アンテナ15の出力を電力測定器150で直接測定したときの受信電力とに基づいて、被測定物1の全放射電力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型無線端末の放射電力を測定するための技術に関し、特に、楕円球型で金属壁面に囲まれた空間を有する結合器を用い、その結合器内の焦点位置の一方に配置した無線端末から放射された電波を他方の焦点位置に配置した受信アンテナに集合させて無線端末の全放射電力を測定する方法および装置において、結合器の内部機構を簡易化してその大型化を防ぐとともに、より確実な結合状態を実現しシステムに損失がある場合を含んで正確な測定を行えるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来を向かえ、RFID(無線タグ)、UWB(Ultra Wide Band)、BAN(Body Area Network)関連の無線機器などの超小型無線端末の爆発的増大が予測されている。
【0003】
これらの機器は、その寸法の制約や経済的理由から、従来の無線機のように試験用端子を持たないものが多く、機器が放射した電波を受信してその試験をしなければならない。
【0004】
特に、上記のような小型無線端末は、他の通信への影響、人体への影響などを考慮してその放射電力が厳しく規定されており、放射電力の測定が重要な試験項目となる。
【0005】
放射電力には、任意方向のeirp(等価等方放射電力)と、全空間に放射される全放射電力(TRP)とがあるが、eirpは測定装置が複雑でかつ測定に長時間を要することから、TRPを扱うことが多くなってきている。
【0006】
これまで用いられているTRPの測定法としては、以下のものが知られている。
(1)供試機器を包む球面上をプローブでスキャンしメッシュ点での放射電力を測定し、これらを積算する球面スキャニング法。
(2)金属で覆った部屋の中で供試機器から放射された電波を金属羽根の回転で撹拌してランダムフィールドを発生させ、統計的手法に基づき供試機器からの全放射電力を推定する方法。
(3)金属膜で覆った角錐状の空間と電波吸収体で内部にTEM波を発生させるG−TEMセルと呼ばれる装置を用いる方法。
(4)複数のアンテナとそれらに接続するアイソレータと位相調整器およびそれらアレーアンテナの信号を合成する合成器等を有し、アレーの中心線上に置かれた被測定物から放射電力を測定する電磁波結合装置。
【0007】
上記球面スキャニング法は、精度の高い測定が可能であるが、その反面、大掛かりな設備(電波無反射室、球面スキャナなど)が必要で、かつ測定に長時間を要する。
【0008】
さらに、全空間のごく一部に放射された電波を受信して電力を求め、その総和をとるので、各測定点における受信感度が非常に小さくなり、スプリアスの測定が困難となるという問題がある。
【0009】
一方、金属で覆った部屋の中で電波を攪拌する方法では、大型電波無反射室を必要としないという利点はあるが、人為的に発生させたランダムフィールドと理論的確率モデルとの一致性に曖昧さが残り、統計的処理に基づくので結果の不確かさが大きく、測定に長時間を要するなどの問題がある。また、スプリアス測定も球面スキャンと同様難しい。
【0010】
また、G−TEMセルは内部電界分布の一様性の確保が難しい上、全放射電力を測定するためには、被測定物の向きを全方向に変えられるように2軸の回転台をG−TEMセル中に装備しなければならないという困難な問題がある。
【0011】
これらの問題を解決する技術として本願発明者らは、楕円球状の閉空間を有する結合器を用いてアンテナの全放射電力を測定する方法を提案した(特許文献1)。
【0012】
この測定方法は、楕円をその焦点を結ぶ軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面で囲まれた閉空間の焦点位置に被測定物と受信アンテナを配置して、被測定物から放射された電波を壁面で反射させて受信アンテナに集中させることで、被測定物の全放射電力を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開 WO 2009/041513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の楕円球空間の結合器を用いた場合、被測定物と受信アンテナとの間の結合度が1となることが理想であるが、実際には、被測定物の大きさやサイドローブ等の影響を受けて、被測定物から放射された電波が異なる位相で焦点近傍に集合して互いに電波を弱め合うキャンセル現象が生じて、全放射電力の正確な測定に困難が生じる場合がある。
【0015】
このような困難から逃れるために、被測定物に代わる送信基準アンテナと受信アンテナの位置を、焦点を結ぶ線に沿ってその焦点近傍の範囲で距離が変化するように連続的に移動させ、送信基準アンテナの反射係数が最小で、且つ基準アンテナから受信アンテナへの透過係数が最大となる位置を見つけ、その位置を完全結合位置として送信基準アンテナの代わりに被測定物を配置し、被測定物からの電波を受信アンテナで受信し、その時の受信レベルと、送信基準アンテナを用いたときの受信信号レベルとの比および送信基準アンテナへの供給電力から、被測定物の放射電力を求めることも考えられる。
【0016】
しかしながら、上記技術を用いるには、基準アンテナや受信アンテナを連続的に移動させる機構を、結合器内に二組設ける必要がある。
【0017】
そしてその移動量は最低でも測定する電波の±1波長分は必要となり、周波数が低い場合、その移動範囲も大きくなり、結合器の大きさもその分を見込んで大きくしなければならず、装置の大型化が避けられず、コストも高くなる。また、たとえ移動機構の駆動部のみを結合器の外に配置する構造を採用しても装置全体として大型化することにかわりない。
【0018】
また、空間内でより完全な結合位置を見つけるために、二つの焦点を結ぶ軸に沿った一次元変位だけでなく、その軸方向を含む3次元の変位機構を設ける必要が生じるが、そのような複雑な3次元の変位機構を二組設けた場合、装置がさらに大型化してコストもさらに高くなってしまう。
【0019】
上記課題を解決するための手法として本願出願人は、結合器と電力測定器との間に整合器を挿入して、その整合器によって受信電力最大となるようにすることで極めて高い結合度を得ることができることを見出した。
【0020】
ところが、完全結合は系が無損失の場合でしか保証されず、系に無視できない損失がある場合に、完全結合とならず測定精度が低下する。
【0021】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、結合器内に連続移動機構を設けなくても、送受信間に理想的な結合状態を実現させ、コンパクトで低コストにシステム構成でき、且つ系に無視できない損失がある場合であっても、正確な測定が行える放射電力測定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の放射電力測定方法は、
楕円をその2つの焦点(F1、F2)を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面(11)で囲まれた閉空間(12)の一方の焦点(F1)の近傍に配置した被測定物(1)から放射された電波を前記壁面で反射させて他方の焦点(F2)の近傍に配置した受信アンテナ(15)に集中させて、該受信アンテナの出力信号の電力を電力測定器(150)によって測定することで被測定物の全放射電力を測定する放射電力測定方法において、
前記受信アンテナと前記電力測定器の間を、受信アンテナの出力信号の位相を変化させる可変移相器(131)と、入力信号を二分岐し、その一方の分岐出力に反射素子(133)が接続された二分岐回路(132)を介して接続し、前記可変移相器による位相変化に対して前記電力測定器で測定される電力の最大値と最小値を求める段階と、
該求めた最大値と最小値の比から、前記楕円球状の閉空間の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される被測定物の入力反射係数を推定する段階と、
前記被測定物に代わりに用いた基準アンテナの入力反射係数を推定する段階と、
前記被測定物および基準アンテナについてそれぞれ推定された入力反射係数と、前記受信アンテナの出力を前記電力測定器で直接測定したときの受信電力とに基づいて、前記被測定物の全放射電力を算出する段階とを含んでいる。
【0023】
また、本発明の請求項2の放射電力測定装置は、
楕円をその2つの焦点(F1、F2)を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で、金属の壁面で囲まれた閉空間を有し、被測定物(1)を一方の焦点の近傍位置に支持し、受信アンテナ(15)を前記他方の焦点の近傍位置に支持する支持手段(50、55)を含み、前記放射体から放射された電波を前記受信アンテナに集中させてその受信信号を前記閉空間から外部へ出力させる結合器(21)と、
前記受信アンテナの出力信号の電力を測定するための電力測定器(150)と、
入力する信号の位相を変化させる可変移相器(131)、入力する信号を二分岐する二分岐器(132)および該二分岐回路の一方の分岐出力を反射させる反射素子(133)を含み、前記受信アンテナと前記電力測定器の間に挿入されて、前記可変移相器の位相可変により前記受信アンテナの出力信号の位相を変化させ、前記電力測定器の測定値を変動させる位相回転部(130)と、
前記位相回転部によって変動する前記電力測定器の測定値の最大値と最小値の比を求め、該比から前記被測定物に対する前記結合器の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される被測定物の入力反射係数を推定する被測定物入力反射係数推定手段(191)と、
前記被測定物に代わりに基準アンテナを用いた時の前記結合器の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される基準アンテナの入力反射係数を推定する基準アンテナ入力反射係数推定手段(192)と、
前記被測定物および基準アンテナについてそれぞれ推定された入力反射係数と、前記受信アンテナの出力を前記電力測定器で直接測定したときの受信電力とに基づいて、前記被測定物の全放射電力を算出する前記放射電力算出手段(193)とを有している。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明の放射電力測定方法および装置では、受信アンテナと電力測定器の間に、可変移相器および反射素子付きの二分岐回路を挿入し、可変移相器による位相回転で得られた受信電力の最大値と最小値の比から被測定物の入力反射係数を推定し、また被測定物に代えた基準アンテナについての入力反射係数を推定し、両方の入力反射係数と受信アンテナの出力を直接測定したときの受信電力とに基づいて被測定物の全放射電力を算出している。
【0025】
この測定原理は、結合器に位相回転部を接続して位相回転させることで受信電力にリップル変動を生じさせ、その最大値と最小値の比から結合器の出力反射係数を算出することができ、しかも損失の少ない結合器により、その出力反射係数が入力反射係数に近似されるという知見に基づいてなされたものであり、その得られた入力反射係数と、位相回転部を省いた直接測定で得られた受信電力を用いることで、測定系に無視できない損失がある場合でも、その影響を受けないで被測定物の放射電力を正確に求めることができる。
【0026】
また、結合調整のために被測定物や受信アンテナの位置を連続的に動かす必要がないので、コンパクトで低コストにシステム構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の測定方法を説明するためのシステム図
【図2】位相回転部130の模式図
【図3】位相回転部130におけるベクトル図
【図4】位相回転によって生じる振幅変化を示す図
【図5】受信電力を直接測定するための系を示す
【図6】反射素子の反射量を変化させるための系を示す図
【図7】反射素子の反射量の変化に対する結合器出力反射係数の変化を表す図
【図8】擬似端末を用いた場合の入出力反射係数を測定するための系を示す図
【図9】擬似端末を用いた場合の入出力反射係数の測定結果を示す図
【図10】擬似端末の受信電力をアンテナ間距離を変えて測定したときの測定結果を示す図
【図11】擬似端末の受信信号に対して位相回転を与えたときの受信電力の変化を示す図
【図12】送受信のアンテナが対向配置の場合の構成例を示す図
【図13】放射電力測定装置の実施形態の全体構成図
【図14】要部の内部構造を示す図
【図15】要部の内部構造を示す図
【図16】要部の内部構造を示す図
【図17】実施形態の動作を説明するためのフローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0028】
(測定方法)
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の測定方法の原理を説明するための図である。
【0029】
図1の(a)は、被測定物1をセットして測定する場合の測定系の構成であり、楕円をその長軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面11で囲まれた閉空間12を有する結合器21の中で、長軸上の一方の焦点F1の位置に被測定物1の電波の放射中心をほぼ一致させ、被測定物1からその周囲に放射された電波を壁面11で反射させて他方の焦点F2の位置に配置した受信アンテナ15に集中させる。
【0030】
この受信アンテナ15の出力信号は、結合器21の外部に出力され、位相回転部13に入力される。位相回転部130は、可変移相器131、二分岐回路132および反射素子133を有している。
【0031】
可変移相器131は、例えばトローンボーン式の可変長伝送路(この例では4本の可変長線路を同時に駆動する構成が示されている)を含んでおり、手動あるいは測定制御部190の制御によりその伝送路長を変化させ、入力信号に対する出力信号の位相を連続的に変化させる。
【0032】
可変移相器131の出力は、二分岐回路132によって二分岐され、その一方は電力測定器150に接続され、他方は反射素子133に接続されている。反射素子133は、分岐された信号を固定の反射量Γrで反射させる。また、電力測定器150としては受信機あるいはスペクトラムアナライザ等が利用できる。
【0033】
ここで、上記位相回転部13について説明する。
上記位相回転部13を、図2のような3ポートの回路とみなすと、各ポートの信号の位相平面上の電界は、図3のように、基点をOとするベクトルBの先端を中心にベクトルAが回転する。ベクトルCは既知の固定ベクトルBと未知のベクトルAの合成波であり、基点OからベクトルAの先端に至るものであり、その振幅|C|は、図4のように、ベクトルAの位相回転に伴って周期的に変動(リップル)し、その最大値は|B|+|A|、最小値は|B|−|A|となる。
【0034】
そして、その比をρとすれば、
ρ=(|B|−|A|)/(|B|+|A|) ……(1)
となる。
【0035】
よって、未知の振幅|A|は、
|A|=|B|・(1−ρ)/(1+ρ) ……(2)
と求まる。
【0036】
つまり、未知の振幅|A|は、位相回転させたときの最大値と最小値の比ρと既知の振幅|B|によって求めることができる。なお、可変移相器131と似分岐回路132の順番を逆にしてもよい。
【0037】
上記前提技術を用いることで、結合器21に無視できない損失がある場合でも被測定物の放射電力の測定が行える。
以下それについて説明する。
【0038】
図1の(a)に示した測定系において、被測定物1の送信出力をPo、アンテナ放射効率をηr、入力反射係数をΓ(EUT)、接続ケーブルと可変移相器131の透過係数をK、移相量をexp(-jφ)、入力端Bから見た反射素子133の反射量をΓrと表す。
【0039】
また、測定系全体の散乱行列[S]は、結合器21の散乱行列[Sc
]、接続ケーブルと可変移相器131の散乱行列[Sp ]、反射素子133部分の散乱行列[Sr ]が、従属接続された回路として解析することにより求められる。
【0040】
ここで、各散乱行列[Sc ]、[Sp ]、[Sr ]は、以下の式(3)〜(5)のように記述できる。
【数1】

【0041】
上記散乱行列から、被測定物1のアンテナ入力端子から出力端(電力測定器150の入力端)までの系全体[S]の透過係数S21は、次の式(6)のようになる。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、可変移相器の線路長を変化させ、反射波位相を回転させて、電力測定結果の最大値と最小値の比(電力比)ρを求める。電力が最大となる線路長をLa、最小となる線路長をLbとし、透過係数Kがこれらの関数でそれぞれK(La)、K(Lb)であることを考慮すると、比ρは、次式(7)のように表される。
【数3】

【0044】
上式を結合器21の出力反射係数Γについて解くと、次式(8)のように表される。
【数4】

【0045】
この式(8)から明らかなように、反射素子133の反射量Γr 、透過係数Kおよび比ρが既知となれば、結合器21の出力反射係数Γを決定できる。
【0046】
一方、結合器21は、その構造上Qが大きく、その損失は十分小さいので、結合器21の入力反射係数は出力反射係数にほぼ一致する。即ち、Γ(EUT)=Γが成立する。したがって、結合器21の出力反射係数を求めることにより、被測定物1の入力反射係数を精度よく推定することができる。
【0047】
楕円球型の結合器21を用いた放射電力測定の場合、被測定物1と受信アンテナ15の位置を変位させて結合の高い位置を見つけ、その位置で電力測定を行うが、その場合、完全に整合がとれる保証は無いので、その不整合を補償することができれば、精度の高い全放射電力測定が行える。
【0048】
ただし、実際には結合器21の反射面損失や受信アンテナ損失が存在し、これらの影響を無視できない。その影響を取り除くために、被測定物1に代わる基準アンテナ系による校正が必要となる。
【0049】
即ち、上記被測定物について行った測定を、図1の(b)の系で、基準アンテナ160について行い、その入力反射係数Γ(REF)を推定する。
【0050】
また、一方で、図5の(a)、(b)のように、結合器21と電力測定器130の間を直結した状態で、受信電力測定を行う。
【0051】
ここで、図1の(b)、図5の(b)の基準アンテナ系において、信号発生器161からケーブル162を介して基準アンテナ160に供給される電力をPsg、基準アンテナ160の放射効率をηr′結合器損失、受信アンテナ損失、ケーブル損失等両方の系に共通な損失をDとすると、被測定物1を用いた系の受信電力Pr(EUT)および基準アンテナを用いた系の受信電力Pr(REF)は、次式(9)、(10)のようになる。
【数5】

【0052】
上記二つの式(9)、(10)の除算により、共通損失Dを除去し、被測定物1の全放射電力Po・ηrを解けば、以下の式(11)となる。
【数6】

【0053】
上式(11)の右辺の各値は上記測定で既知であるから、損失のある系についての被測定物の全放射電力を正確に求めることができる。
【0054】
なお、基準アンテナ160を用いた校正系による測定は毎回行う必要はなく、一度の測定で得られた結果をメモリに記憶しておき、そのメモリに記憶された結果と測定系の測定で得られた結果とで上記演算を行えばよい。
【0055】
上記説明は、周波数を固定した場合で説明しているが、その測定周波数と、結合器の形状(楕円の離心率、焦点間の距離)との関係によって、結合器21の透過率が極端に低下(ディップする)ことがある。
【0056】
したがって、固定周波数での測定の場合、位相回転部130を通さずに、受信アンテナの出力を電力測定器150に直接入力して、受信電力が最大になるように、被測定物1あるいは基準アンテナ160と、受信アンテナ15との距離(以下、アンテナ間距離と言う)を調整してから上記測定を行う。
【0057】
上記方法によれば、反射素子133の反射係数Γrが既知(ただし反射無しではリップルが発生しないので測定できない)であればよく、結合器21の出力反射係数Γはその値に無関係に求めることができる。これを検証するために反射素子133に異なる反射係数Γrを与えたときに得られる結合器21の出力反射係数Γが変化しないことを調べる実験を行った。
【0058】
その実験システムは、図6に示すように、固定の反射素子133の代わりに、先端短絡の可変遅延線路133′を用い、その長さLxを変化させて、反射係数Γrを変化させた。
【0059】
送信アンテナ(擬似端末のアンテナ)および受信アンテナはスリーブアンテナであり、結合器21の楕円回転軸(長軸)上でほぼ焦点位置にその長さ方向を合わせてアンテナ同士の直接結合が起こりにくいように配置(コリニア配置)し、その回転軸中心に対して対称に移動させている。このアンテナ間の距離変化によりΓも変化する。また、結合器21の長軸方向の長さ(2a)は1200mm、短軸方向の長さ(2b)は1094mm、楕円の離心率e=0.41である。
【0060】
図7の(a)は、周波数840MHzの場合、図7の(b)は周波数1.47GHzの場合の測定結果であり、横軸zは、対称に移動される送受信アンテナの基準位置からの距離を表し、互いの距離が離れる方向を+としている。
【0061】
これらのグラフで、可変遅延線路133′の長さを変化させたときに得られる結合器21の出力反射係数Γの間にはほとんど差が生じていない。また、図8のように、位相回転部130を省いて、ネットワークアナライザ200を用いて直接測定した出力反射係数ともよく一致していることがわかる。
【0062】
また、結合器21おける入力反射係数と出力反射係数が一致するかついても実験を行った。この実験では、送信側には、金属筐体にモノポールアンテナを取り付けたものを擬似端末として配置し、受信アンテナとしてスリーブアンテナを用い、前記同様に楕円長軸上に長さ方向を合わせたコリニア配置とした。送信側のモノポールアンテナとしては、信号源やケーブルとの整合がとれたものと、VSWRが約3のものとを用いている。そして、アンテナ間距離を前記同様に対称変化させながら、図8に示しているように、ネットワークアナライザ200によって入力、出力の反射係数を測定した。
【0063】
図9の(a)は、整合しているモノポールアンテナを用いた場合の測定結果であり、同図の(b)は、不整合(VSWR=3)のモノポールアンテナを用いた場合の測定結果である。
【0064】
これらの測定結果から、送信側のアンテナの整合状態によらず、送受信アンテナが結合器21の内壁に接近する領域やアンテナ同士が接近する領域を除く|z|<50mmの範囲で、入力と出力の反射係数はよく一致していることがわかり、前記した測定原理による推定は十分な精度が保証されていることがわかる。
【0065】
次に、実際に全放射電力の測定結果を示す。
前記同様の結合器寸法で、送信側には1.47GHz帯で送信出力を10.08dBmの擬似端末を配置し、受信側には前記同様のスリーブアンテナを用い、送受信アンテナの距離を前記同様に対称変化させた時に直接測定で得られる受信電力を測定した結果が、図10のグラフであり、この場合、受信電力Prがアンテナ位置z=50mmで最大となっているので、この位置を最適位置とする。
【0066】
この最適位置で、位相回転部130を挿入して位相回転させることで図11のようなリップル特性が得られた。このとき、反射素子133の反射係数は−1.71dBに設定している。
【0067】
この受信電力の最大値と最小値の比等を用いて前記測定方法にしたがって結合器21の出力反射係数Γを求めると、Γ=−14.97dBが得られた。この値は非常に小さく、前記した最適位置で十分整合がとれていたことがわかる。ただし、前記した最適位置で放射電力を求める方法だけでは、整合がどの程度とれているか明確でなく、測定結果の精度の点で疑問が残るが、上記したように位相回転を行って出力反射係数を推定すれば、その疑問が解消し、より厳密な全放射電力を求めることができる。
【0068】
なお、上記出力反射係数Γや、以下の表に示すパラメータを用いて算出した全放射電力(TRP)は9.90dBmとなり、実際の送信出力(空中線電力)10.08dBmとの差(0.2dB)は、送信アンテナの損失(放射効率)を考慮すると十分妥当性のある値で、この測定方法の精度の高さを示した結果が現れている(なお、この表には算出結果も含まれている)。
【0069】
【表1】

【0070】
このように、本発明の測定方法を用いれば、簡単に且つ確実に被測定物の全放射電力を求めることができ、しかも一度最適位置を見つけておけば、被測定物1、基準アンテナ160、受信アンテナ15を連続移動させる必要はなく、3次元方向の移動機構も不要である。
【0071】
したがって、装置が大型化することがなく、コンパクトで低コストにシステム構成できる、系に無視できない損失がある場合でも正確な測定が行える。
【0072】
前記説明は、送信側と受信側のアンテナをダイポール系としその長さ方向が、楕円軸の長さ方向に一致するコリニア配置のものであり、理論上アンテナ間で直接結合しない条件を前提としていたが、アンテナ同士が直接結合するような配列、例えば図12のように、送受信のダイポール系アンテナのエレメントが平行に対向する配置等であっても、前記位相回転部130の位相回転により得られた結果から、結合器21の出力反射係数を求めることができ、その測定結果から被測定物の全放射電力を正確に求めることができる。
【0073】
(放射電力測定装置の説明)
図13は、上記測定方法に基づいた放射電力測定装置20の全体構成を示している。
この放射電力測定装置20は、前記した結合器21、位相回転部130、電力測定器150、被測定物の代わりに用いる基準アンテナ160、信号発生器161、基準アンテナ160と信号発生器161の間を接続する同軸ケーブル162、測定制御部190を有している。また、結合器21と電力測定器150の間を直結した状態と、位相回転部130が挿入された状態の切り替えを行うスイッチ211、212を有している。なおこの切替は手動によるケーブルの繋ぎ変えで行うこともできる。
【0074】
結合器21には、前記した楕円球状の閉空間12を囲む壁面11と、その閉空間12内の一方の焦点F1の位置に被測定物1および基準アンテナ160のほぼ放射中心位置がくるように支持する手段と、他方の焦点F2の位置に受信アンテナ15の中心がくるように支持する手段とが設けられている。また、被測定物1、基準アンテナ160、受信アンテナ15の出し入れができるように、閉空間12を開閉できる構造が必要である。
【0075】
図14〜図16は、その具体例を示すものであり、結合器21は、下ケース22と上ケース23とに別れた開閉式で、下ケース22の上板22aには、楕円状の穴(図示せず)が形成され、その穴に前記した楕円球状の閉空間12の下半部の外周形状に沿った形状の内壁25aを有する第1の内壁形成体25が取り付けられている。
【0076】
第1の内壁形成体25は、電波を反射する金属板、金属メッシュ板のプレス加工、あるいは合成樹脂の成形品の内壁に金属膜を設ける等して形成され、その上縁には、僅かに外側へ延びて前記穴の外縁と重なるフランジ26が延設されており、この第1の内壁形成体25は、フランジ26部分が下ケース22の上板22aに固定されている。
【0077】
一方、上ケース23の下板23aにも、楕円形の穴(図示せず)が設けられ、この穴に、第2の内壁形成体30が装着されている。
【0078】
第2の内壁形成体30は、第1の内壁形成体25と対称な形状を有している。即ち、前記した楕円球状の閉空間12の上半部の外周形状に沿った形状の内壁30aを有し、その開口側の縁部には、僅かに外側へ延びて上ケース23の前記穴の外縁と重なるフランジ31が延設され、このフランジ31部分が下板23aに固定されている。
【0079】
上ケース23は、下ケース22に対して図示しないヒンジ機構とロック機構などにより開閉自在に連結されており、上ケース23を下ケース22に重なるように閉じてロックしたとき、図14のように、第1の内壁形成体25のフランジ26と第2の内壁形成体30のフランジ31が全体的に隙間なく面接触して、それぞれの内壁25a、30aが連続して、前記した壁面11で囲まれた楕円球状の閉空間12が形成される。
【0080】
なお、下ケース22と上ケース23には、閉じたときに、上下の内壁形成体25、30がずれない状態で重なり合うようにするための位置決め機構(例えば図のようにガイドピン40とそれを受け入れるガイド穴41)が形成されている。
【0081】
また、例えば、図15の(a)のように、一方の内壁形成体30の開口側の内縁のほぼ全周に渡って弾性リブ45を突設させることで、図15の(b)のように他方の内壁形成体25と合わせられたときに、その弾性リブ45を内壁形成体25の開口側の内縁全周に接触させて、内壁形成体25、30のフランジ26、31の接触部を覆い、その接触部に隙間が生じた場合の電波の漏洩等などを低減することができる。
【0082】
また、ここでは、下ケース22の上板22aと第1の内壁形成体25、上ケース23の下板23aと第2の内壁形成板30とがそれぞれ別体になっている例を示しているが、下ケース22の上板22aと第1の内壁形成体25、および上ケース23の下板23aと第2の内壁形成板30と上板22とを同一材料で一体に形成してもよい。また、ここでは第1の内壁形成体25および第2の内壁形成体30の外周形状を半楕円外周形状にしているが、内壁25a、30aが前記した楕円球に沿っていればよく、外側の形状は任意である。
【0083】
図13、図14、図16に示しているように、第1の内壁形成体25の開口面上の前記焦点F1の近傍位置には、前記した閉空間12内で被測定物1および基準アンテナ160を支持するための放射体支持部50が設けられ、焦点F2の近傍位置には、受信アンテナ15を支持するための受信アンテナ支持部55が設けられている。
【0084】
放射体支持部50は、被測定物1および基準アンテナ160の放射中心が焦点F1の位置にほぼ一致する状態を基準位置とし、それらを焦点F1、F2を結ぶ軸に沿って一定距離(例えば中心波長λに対して±λ/4)移動できる状態で支持するものであり、焦点F1、F2を結ぶ軸に沿って移動可能な支持板51と、その支持板51の上に放射体を固定する固定具52と、支持板51の下降を防ぐ基台53および後述する位置決め機構180により構成されている。なお、これらの各構成部材のうち、結合器21内部に配置されたものは、電波に対する透過率が高い(比誘電率が1に近い)合成樹脂材により形成されている。
【0085】
固定具52は、例えば電波伝搬に影響を与えない伸縮自在なバンドで、被測定物1や基準アンテナ160を支持板51の上の所定位置に固定させる。この支持板51の外側端部には内壁形成体25を貫通摺動する軸部51aが突設され、その軸部51aは、内壁形成体25の外側に固定された第1の位置決め機構180に係合している。軸部51aの両側部には、ネジ止め固定用の穴を有するフランジ51b、51cが突設されている。
【0086】
第1の位置決め機構180は、断面凹状に形成され、その中央の溝部で支持板51の軸部51aを摺動自在に保持できるようになっており、その溝部の両側には、フランジ51b、51cをネジ止めするための5組のネジ穴180a〜180e、180a′〜180e′が例えば前記した中心波長λの1/8の間隔で設けられている。
【0087】
そして、図16のように、フランジ51b、51cを中央のネジ穴180c、180c′にネジ止めしたときに、被測定物1(または基準アンテナ160)を基準となる焦点位置に固定することができる。
【0088】
また、フランジ51b、51cを内側のネジ穴180b、180b′にネジ止めすれば、被測定物1(又は基準アンテナ160)を焦点位置よりλ/8内側の位置に固定でき、ネジ穴180a、180a′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/4内側の位置に固定できる。また、逆にフランジ51b、51cを外側のネジ穴180d、180d′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/8外側の位置に固定でき、ネジ穴180e、180e′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/4外側の位置に固定できる。
【0089】
なお、基準アンテナ160を支持する場合には、信号給電用の同軸ケーブル162を外部に引き出すことができるように例えば支持板51の軸部51aの内部に貫通する穴が形成されている。
【0090】
また、受信アンテナ支持部55も放射体支持部51と同様に、電波に対する透過率が高い合成樹脂材により形成された支持板56と、支持板56の下降を防ぐ基台57、支持板56の上に受信アンテナ15を固定する固定具58および第2の位置決め機構181により構成されている。
【0091】
ここで、受信アンテナ15は、基板15aに対するエッチング処理でアンテナ素子15bを印刷形成されたものが一般的であり、それを固定するための固定具58は、例えば受信アンテナ15の特性を変化させない合成樹脂性のネジやクリップであり、受信アンテナ15のアンテナ素子の放射中心が支持板56の上の焦点F1、F2を結ぶ楕円軸上の位置に固定させる。
【0092】
この受信アンテナ15を支持する支持板56にも、その外側端部に内壁形成体25を貫通摺動する軸部56aが突設され、その軸部56aは、内壁形成体25の外側に固定された第2の位置決め機構181に係合している。軸部56aの両側部には、ネジ止め固定用の穴を有するフランジ56b、56cが突設されている。
【0093】
第2の位置決め機構181は第1の位置決め機構180と同様に断面凹状に形成され、その中央の溝部で支持板56の軸部56aを摺動自在に保持できるようになっており、その溝部の両側には、フランジ56b、56cをネジ止めするための5組のネジ穴181a〜181e、181a′〜181e′が、例えば前記したλ/8の間隔で設けられている。
【0094】
そして、図16に示しているように、フランジ56b、56cを中央のネジ穴181c、181c′にネジ止めしたときに、受信アンテナ15を基準となる焦点位置に固定することができる。
【0095】
また、フランジ56b、56cを内側のネジ穴181b、181b′にネジ止めすれば、受信アンテナ15を焦点位置よりλ/8内側の位置に固定でき、ネジ穴181a、181a′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/4内側の位置に固定できる。また逆にフランジ56b、56cを外側のネジ穴181d、181d′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/8外側の位置に固定でき、ネジ穴181e、181e′にネジ止めすれば、焦点位置よりλ/4外側の位置に固定できる。
【0096】
なお、受信アンテナ15の同軸ケーブル16を外部に引き出すことができるように例えば支持板56の軸部56aの内部に貫通する穴が形成されている。
【0097】
また、図16で示したように受信アンテナ15がダイポール系の場合や、ループ系のような平衡型の場合には、給電点に挿入したバラン15cを介して不平衡型の同軸ケーブル16に接続する。また、ダイポール型としてスリーブアンテナ等を用いることも可能である。
【0098】
この受信アンテナ15で受信された信号は、同軸ケーブル16を介して結合器21の外部に出力され、位相回転部130に接続される。
【0099】
なお、受信アンテナ15を支持する支持板56の位置変更に伴い同軸ケーブル16も移動するが、同軸ケーブル16のうち、少なくとも結合器21の外側の部分に可撓性のあるケーブルを用いることで、支持板56の移動を妨げることなく位相回転部130に接続することができる。これは基準アンテナ160に接続する同軸ケーブル162についても同様である。
【0100】
位相回転部130の構成は前記した通りであり、可変移相器131、二分岐回路132および反射素子133からなり、可変移相器131は、前記したロンボーン式の可変長伝送路を含んだものが使用できる。
【0101】
位相回転部130の出力は電力測定器150に入力される。電力測定器150は、広帯域な電力計や、周波数選択性のある受信機、スペクトラムアナライザ等が使用でき、前記したようにLNAを併用してもよい。
【0102】
そして、測定制御部190は、前記した測定方法にしたがって、信号発生器161、電力測定器150の周波数設定、可変移相器131の制御および前記演算処理を行い、結合器21の出力反射係数を算出し、これを送信部側の入力反射係数と等価推定し、その推定された入力反射係数に基づいて被測定物1のTRP(全放射電力)を算出する。
【0103】
ここで、より具体的にいえば、測定制御部190は、図13に示しているように、被測定物入力反射係数推定手段191、基準アンテナ入力反射係数推定手段192、全放射電力算出手段193を有している。
【0104】
被測定物入力反射係数推定手段191は、位相回転部130によって変動する電力測定器150の測定値の最大値と最小値の比を求め、その比から被測定物1を用いたときの結合器21の出力反射係数を算出し、その出力反射係数に近似される被測定物1のアンテナの入力反射係数Γ(EUT)を推定する。
【0105】
また、基準アンテナ入力反射係数推定手段192は、被測定物1に代わりに基準アンテナ160を用いた時の結合器21の出力反射係数を、位相回転によって得られる受信電力の最大値と最小値の比に基づいて算出し、その出力反射係数に近似される基準アンテナ160の入力反射係数を推定する。
【0106】
全放射電力算出手段193は、被測定物1および基準アンテナ160についてそれぞれ推定された入力反射係数Γ(EUT)、Γ(REF)と、受信アンテナ15の出力を電力測定器150で直接測定したときの最大受信電力とに基づいて、被測定物1の全放射電力TRPを算出する。
【0107】
図17は、測定制御部19の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに基づいて装置の動作説明をする。
【0108】
始めに測定の準備として、結合器21を開いて、被測定物1と受信アンテナ15を例えば基準となる焦点位置に支持させ、結合器21を閉じる(S1)。
【0109】
そして、結合器21と電力測定器150の間を直結状態とし、電力測定器150の周波数を測定周波数にセットし、電力測定器150の測定値が最大となるように、前記したようにアンテナの位置を最適位置に設定(大まかには前記したλ/8間隔の位置で調整し、必要であれば微調整する)するとともに、その測定された最大受信電力Pr(EUT)を記憶する。
【0110】
次に、位相回転部130を挿入して、その可変移相器131を制御して位相を連続的に変化させ、電力測定器150で検出される受信電力に周期的な変化を与え、その最大値と最小値を検出する(S3)。
【0111】
そして、この最大値と最小値の比を求め、その比に基づき、被測定物1が送信部にある状態における結合器21の出力反射係数を前述した演算により算出し、被測定物1のアンテナの入力反射係数Γ(EUT)を推定する(S4、S5)。
【0112】
次に、校正系について上記同様の測定を行う(この測定は、予め行っておいてその結果のみを用いてもよい)。
【0113】
即ち、結合器21を開いて、被測定物1の代わりに基準アンテナ160をセットし、結合器21を閉じる(S6)。
【0114】
そして、基準アンテナ160に対して信号発生器161から出力した電力Psgの信号をケーブル162を介して供給し、前記同様に結合器21と電力測定器15の間を直結時よとし、電力測定器150の周波数を特定周波数にセットし、電力測定器150の測定値が最大となるように、アンテナを最適位置に微調整するとともに、その測定された最大受信電力Pr(REF)を記憶する。
【0115】
次に、位相回転部130を挿入して、可変移相器131を制御し位相を連続的に変化させ、電力測定器150で検出される受信電力に周期的な変化を与え、その最大値と最小値を検出する(S8)。
【0116】
そして、この最大値と最小値の比を求め、その比に基づき、基準アンテナ160が送信部にある状態における結合器21の出力反射係数を前述したように算出し、基準アンテナ160の入力反射係数Γ(REF)を推定する(S9、S10)。
【0117】
このようにして得られた被測定物についての入力反射係数Γ(EUT)、基準アンテナについての入力反射係数Γ(EUT)、前記測定された受信最大電力Pr(EUT)、Pr(REF)と、既知の信号発生器の出力Psg、基準アンテナの放射効率ηr′から、前記式(11)によって、被測定物1の全放射電力TRPを算出する(S11)。
【0118】
なお、ここでは周波数を固定していたが、各周波数毎に上記測定および演算を行えば、周波数毎の被測定物1の全放射電力を得ることができる。
【0119】
また、前記したように校正系に対する測定および推定処理は、測定系に対する測定の前に予め行って記憶しておき、その記憶したデータと測定系について得られたデータとの演算で全放射電力を算出してもよい。
【符号の説明】
【0120】
1……被測定物、11……壁面、12……閉空間、15……受信アンテナ、15a……基板、15b……素子、15c……バラン、16……同軸ケーブル、20……放射電力測定装置、21……結合器、22……下ケース、23……上ケース、25……第1の内壁形成体、26……フランジ、30……第2の内壁形成体、31……フランジ、40……ガイドピン、41……ガイド穴、45……弾性リブ、50……放射体支持部、51……支持板、55……受信アンテナ支持部、56……支持板、130……位相回転部、131……可変移相器、132……二分岐回路、133……反射素子、150……電力測定器、160……基準アンテナ、161……信号発生器、162……同軸ケーブル、180、181……位置決め機構、190……測定制御部、191……被測定物入力反射係数推定手段、192……基準アンテナ入力反射係数推定手段、193……全放射電力算出手段、200……ネットワークアナライザ、211、212……スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楕円をその2つの焦点(F1、F2)を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面(11)で囲まれた閉空間(12)の一方の焦点(F1)の近傍に配置した被測定物(1)から放射された電波を前記壁面で反射させて他方の焦点(F2)の近傍に配置した受信アンテナ(15)に集中させて、該受信アンテナの出力信号の電力を電力測定器(150)によって測定することで被測定物の全放射電力を測定する放射電力測定方法において、
前記受信アンテナと前記電力測定器の間を、受信アンテナの出力信号の位相を変化させる可変移相器(131)と、入力信号を二分岐し、その一方の分岐出力に反射素子(133)が接続された二分岐回路(132)を介して接続し、前記可変移相器による位相変化に対して前記電力測定器で測定される電力の最大値と最小値を求める段階と、
該求めた最大値と最小値の比から、前記楕円球状の閉空間の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される被測定物の入力反射係数を推定する段階と、
前記被測定物に代わりに用いた基準アンテナの入力反射係数を推定する段階と、
前記被測定物および基準アンテナについてそれぞれ推定された入力反射係数と、前記受信アンテナの出力を前記電力測定器で直接測定したときの受信電力とに基づいて、前記被測定物の全放射電力を算出する段階とを含むことを特徴とする放射電力測定方法。
【請求項2】
楕円をその2つの焦点(F1、F2)を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で、金属の壁面で囲まれた閉空間を有し、被測定物(1)を一方の焦点の近傍位置に支持し、受信アンテナ(15)を前記他方の焦点の近傍位置に支持する支持手段(50、55)を含み、前記放射体から放射された電波を前記受信アンテナに集中させてその受信信号を前記閉空間から外部へ出力させる結合器(21)と、
前記受信アンテナの出力信号の電力を測定するための電力測定器(150)と、
入力する信号の位相を変化させる可変移相器(131)、入力する信号を二分岐する二分岐器(132)および該二分岐回路の一方の分岐出力を反射させる反射素子(133)を含み、前記受信アンテナと前記電力測定器の間に挿入されて、前記可変移相器の位相可変により前記受信アンテナの出力信号の位相を変化させ、前記電力測定器の測定値を変動させる位相回転部(130)と、
前記位相回転部によって変動する前記電力測定器の測定値の最大値と最小値の比を求め、該比から前記被測定物に対する前記結合器の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される被測定物の入力反射係数を推定する被測定物入力反射係数推定手段(191)と、
前記被測定物に代わりに基準アンテナを用いた時の前記結合器の出力反射係数を算出し、該出力反射係数に近似される基準アンテナの入力反射係数を推定する基準アンテナ入力反射係数推定手段(192)と、
前記被測定物および基準アンテナについてそれぞれ推定された入力反射係数と、前記受信アンテナの出力を前記電力測定器で直接測定したときの受信電力とに基づいて、前記被測定物の全放射電力を算出する全放射電力算出手段(193)とを有する放射電力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−52849(P2012−52849A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193990(P2010−193990)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】