説明

放熱型環境センサ

【課題】補償素子と検知素子との環境温度の差による誤差が小さく、補償素子及び検知素子間の特性バラツキが小さく、特別な封止構造が不要で、全体に小型の放熱型環境センサを構成する。
【解決手段】熱検知部のサーミスタセラミック部分である環境値検知用感温抵抗素子及び温度補償部のサーミスタセラミック部分である温度補償用感温抵抗素子には定電流が通電され、環境値検知用感温抵抗素子及び温度補償用感温抵抗素子はジュール熱により発熱する。環境値検知用感温抵抗素子及び温度補償用感温抵抗素子の温度は発熱量と周囲への放熱量とが平衡する温度で安定化する。環境値検知用感温抵抗素子の放熱は空気中への放熱が支配的であり、温度補償用感温抵抗素子の放熱は実装基板PWBへの放熱が支配的である。検知すべき環境値に応じて環境値検知用感温抵抗素子の放熱量が変化して熱的に平衡になる温度が変化するので、それを利用して環境値を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、湿度、風速、気圧等の環境値を検知するセンサに関し、特に、センサから環境への放熱特性の変化を利用して所定の環境値を検知する放熱型環境センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサから環境への放熱特性が、検知しようとする環境値に依存する特性を利用したセンサとして、例えば特許文献1〜3が開示されている。特許文献1は湿度センサ、特許文献2は風速センサ、特許文献3は湿度センサである。
【0003】
特許文献1の湿度センサの構成例を図1を参照して説明する。図1は特許文献1の湿度センサの分解斜視図である。この湿度センサは、ホルダ1に、感湿器2と、温度補償器3とが設置され、感湿器2及び温度補償器3がフード4で覆われ、また、ホルダ1の裏面にはカバー5が取付けられ、カバー5内で外部配線6を感湿器2及び温度補償器3に電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−160268号公報
【特許文献2】特開平6−27127号公報
【特許文献3】実開平6−65855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、補償素子(温度補償器)と検知素子(感湿器)とを個別に設ける必要があるため、全体に大型である。また、一つのセンサとして用いる場合にホルダとフード等による封止構造が必要であり部品点数が多く製造コストが嵩む。さらに、補償素子と検知素子が離れている場合に、それらの環境温度の差が誤差の要因になる、という問題があった。
【0006】
また、補償素子と検知素子とが別々に設けられている場合、補償素子及び検知素子の特性ばらつき(例えば材料のロット、製造工程でのロット間の素子間の特性ばらつき)が生じるおそれがあり、環境センサの感度及び応答性等が小さくなったり、ばらつきが生じたりする。
【0007】
特許文献2,特許文献3の構成についても、補償素子と検知素子とを個別に設けることによる問題がある。
【0008】
そこで、この発明の目的は、補償素子と検知素子との環境温度の差による誤差が小さく、補償素子及び検知素子間の特性ばらつきが小さく、特別な封止構造が不要で、全体に小型の放熱型環境センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明の放熱型環境センサは次のように構成する。
(1)放熱性が依存する(所定の)環境値を検知するための環境値検知用感温抵抗素子及び温度補償用感温抵抗素子を備えた環境センサにおいて、
少なくとも、第1の主面側に形成される熱検知部及び第2の主面側に形成される温度補償部がサーミスタ材料からなるセラミック素体と、
前記熱検知部に設けられ、前記熱検知部のサーミスタ材料を前記環境値検知用感温抵抗素子として用いるための熱検知部電極と、
前記温度補償部に設けられ、前記温度補償部のサーミスタ材料を前記温度補償用感温抵抗素子として用いるための温度補償部電極と、
を備え、
前記セラミック素体の前記熱検知部と前記温度補償部との間に断熱部が設けられた構造とする。
【0010】
この構造により、言わば補償素子と検知素子とが一体になっている。熱検知部と温度補償部とを一体にすることにより、補償素子と検知素子のばらつき(例えば材料のロット、製造工程でのロット間の素子間の特性ばらつき)を低減することができ、均一な温度特性を有するため、環境温度の差による誤差を最小化できる。
【0011】
また、補償素子と検知素子とが一体となっているため小型化が可能であり、補償素子と検知素子とを封止する必要がないため低コスト化できる。
また、一般的な積層セラミック部品と同様の方法により容易に製造でき低コスト化が図れる。
また、セラミック素体に外部電極を形成することによって表面実装可能な放熱型環境センサが構成できる。
【0012】
(2)前記断熱部は前記セラミック素体に設けられた空洞で構成する。
空気は全ての物質の中で最も熱伝導率が低いため、空洞を形成することにより断熱作用が最も大きくなる。
【0013】
(3)前記セラミック素体のうち前記空洞部の周縁を構成している周縁部が多孔質の部材で構成されていてもよい。
この構成により、前記空洞部の周囲に配置される多孔質の層によって断熱作用が高まり、熱検知部の実質的な熱容量がより小さくなる。
【0014】
(4)前記断熱部の全体が多孔質の部材で構成されていてもよい。
この構成により、空洞を形成する場合に比べて、サーミスタ素体の抗折強度が高くなる。
【0015】
(5)前記セラミック素体は複数のセラミック層を備え、前記熱検知部電極は、前記セラミック層を介して部分的に重なり合っているものとする。
このように異なる電位に接続される熱検知部電極が、間にセラミック層を挟んで厚み方向に重なるように対向配置すると、熱検知部電極間の抵抗値を低く設定できるため、高いSN比特性を得られる。
【0016】
(6)前記熱検知部電極に導通する外部電極と、前記温度補償部電極に導通する外部電極とは、熱的に分離された状態で前記セラミック素体の外面に配置されたものとする。
この構造により、熱検知部の熱容量が小さくなり、さらに熱検知部と温度補償部との間の断熱がより向上する。
【0017】
(7)前記熱検知部電極に導通するビア電極及び前記温度補償部電極に導通するビア電極は、前記セラミック素体の上下方向(前記熱検知部と前記温度補償部間の方向)に非接続状態に配置されたものとする。
【0018】
この構造により、熱検知部の熱容量が小さくなり、さらに熱検知部と温度補償部との間の断熱がより向上する。
【0019】
(8)前記セラミック素体を発熱させる、または加熱する手段を備える。すなわち、前記セラミック素体の温度を上昇させた状態で、前記熱検知部から環境への放熱特性の変化を利用して所定の環境値を検知する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、補償素子と検知素子との環境温度の差による誤差が小さく、補償素子及び検知素子間の特性バラツキが小さく、特別な封止構造が不要で、全体に小型化でき、種々の電子機器に適応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】特許文献1の湿度センサの分解斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る放熱型環境センサ101の断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る放熱型環境センサ101をセラミックの積層構造で構成する際の各セラミックグリーンシートの構成図(積み図)である。
【図4】図3に示したセラミックグリーンシートを積層し、焼成することによって構成されたセラミック素体の断面図である。
【図5】図4に示したセラミック素体に対する外部電極の形成前後の状態の斜視図である。
【図6】図2に示した放熱型環境センサ101を実装基板(組み込み先の電子機器の回路基板)に実装した状態での断面図である。
【図7】第1の実施形態に係る放熱型環境センサ101を用いた放熱型環境センサ回路の一例である。
【図8】検知すべき所定の環境値の変化による、放熱型環境センサ回路の出力電圧の変化の様子を示す図である。
【図9】第2の実施形態に係る放熱型環境センサをセラミックの積層構造で構成する際の各セラミックグリーンシートの構成図(積み図)である。
【図10】図9に示したセラミックグリーンシートを積層し、焼成することによって構成されたセラミック素体の断面図である。
【図11】図10に示したセラミック素体に対する外部電極の形成前後の状態の斜視図である。
【図12】第3の実施形態に係る放射型環境センサ103の断面図である。
【図13】第4の実施形態に係る放射型環境センサ104,105の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《第1の実施形態》
図2は第1の実施形態に係る放熱型環境センサ101の断面図である。放熱型環境センサ101は、放熱型環境センサ本体となる負特性(NTC)サーミスタセラミックスで構成されるセラミック素体30、熱検知部電極21,22、温度補償部電極26,27、外部電極23,24,28、及び空洞部25を備えている。
【0023】
セラミック素体30の第1の主面側の表層部付近が熱検知部であり、この熱検知部に前記熱検知部電極21,22が形成されている。セラミック素体30の第2の主面側の表層部付近が熱検知部に対する温度補償部であり、この温度補償部に温度補償部電極26,27が形成されている。
【0024】
前記熱検知部電極21,22によって前記熱検知部のサーミスタセラミック部分が環境値検知用感温抵抗素子として用いられる。同様に、前記温度補償部電極26,27によって前記温度補償部のサーミスタセラミック部分が温度補償用感温抵抗素子として用いられる。
【0025】
前記空洞部25は、前記熱検知部と前記温度補償部との間を断熱する断熱部として形成されている。
【0026】
ここで、放熱型環境センサ101の製造方法について説明する。
図3は前記放熱型環境センサ101をセラミックの積層構造で構成する際の各セラミックグリーンシートの構成図(積み図)である。図3において、層S1には後の焼成によって熱検知部電極21になる内部電極用ペースト21P、層S2には後の焼成によって熱検知部電極22になる内部電極用ペースト22Pがそれぞれ形成されている。層S7には後の焼成によって温度補償部電極26になる内部電極用ペースト26P、層S8には後の焼成によって温度補償部電極27になる内部電極用ペースト27Pがそれぞれ形成されている。さらに層S9にはビア電極用の電極ペースト29Pが形成されている。また、層S4,S5には穴が形成され、その穴内に焼成することによって揮発する材料、例えば、バインダ等の有機物やカーボンペースト等の充填物25Pが形成されている。
【0027】
図4は、図3に示したセラミックグリーンシートを積層し、焼成することによって構成されたセラミック素体の断面図である。セラミック素体の内部に熱検知部電極21,22、温度補償部電極26,27、ビア電極29が形成されている。また、焼成することにより層S4、S5に充填された充填物25Pが揮発されることによって空洞部25が形成されている。
【0028】
図5は、図4に示したセラミック素体に対する外部電極の形成前後の状態の斜視図である。すなわち、図5(A)は外部電極形成前のセラミック素体の斜視図、図5(B)は外部電極形成後の斜視図、図5(C)は図5(B)に示した状態の反対面側を見た斜視図である。
【0029】
外部電極23は熱検知部電極21に導通し、外部電極24は熱検知部電極22及び温度補償部電極26に導通する。また、外部電極28はビア電極29に導通する。温度補償部電極27は、その中央部が熱的にも外部電極28に対して低い熱抵抗で結合している。
【0030】
このように、温度補償部電極27に導通するビア電極29を直方体形状のセラミック素体の底面の中央部に露出するように形成し、そのビア電極29に導通する外部電極28を底面から対向する2側面にかけて形成したことにより、温度補償部と基板との接触面積が増えるので、温度補償部の熱を効果的に基板側へ放熱することができる。これにより温度補償部から空気中へ放熱される量を小さくすることができる。
【0031】
セラミック素体に用いられるサーミスタセラミックスは温度変化により抵抗値が変化する半導体セラミックスであって、例えばマンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、アルミ、チタン、亜鉛など複数の遷移金属酸化物を焼結したNTCサーミスタ材料を用いてもよいし、例えば希土類元素をドナーとして添加したBaTiO3系のPTCサーミスタ材料を用いてもよい。
【0032】
また、熱検知部電極21,22は、サーミスタセラミックスとオーミック接合する電極材料であれば、いずれの材料を選択することができる。例えば、セラミック素体に用いられるサーミスタセラミックスがNTCサーミスタ材料であれば、Ag,Pd,Ptまたはそれらの合金等で構成され、PTCサーミスタ材料であれば、Ni,Cu,Alまたはそれらの合金等で構成される。
【0033】
熱検知部電極21,22は、その対向距離とセラミック素体30の平面視での重なり面積とによって抵抗調整することができるため、所望の抵抗値を得るために、サーミスタセラミックスの抵抗率(比抵抗)に合わせて上記熱検知部電極21,22のパターンと層位置を定める。
【0034】
この放熱型環境センサは積層セラミック部品であるので製造が容易であり、低コスト化が図れる。さらに、外部電極23,24を用いて表面実装が可能であるので、金属ケースを用いてパッケージ化された従来のセンサや、基板に素子を組込んだセンサと比較して、小型化および低コスト化を図ることができる。
【0035】
また、図2,図3に示したように、2つの熱検知部電極21,22、及び温度補償部電極26,27を、間にセラミック層を挟んで厚み方向に重なるように対向配置すると、熱検知部電極21,22間の抵抗値、及び温度補償部電極26,27を低く設定でき、後に示す放熱型環境センサ回路の回路構成上、高いSN比特性を得やすい。
【0036】
具体的な製造方法は次のとおりである。ここではNTCサーミスタ材料を用いたサーミスタセラミックスからなるセラミック素体の事例を説明する。
先ず、遷移金属酸化物であるMn3O4、NiO、Co3O4、Fe2O3等を所定量秤量し、次いで該秤量物をジルコニア等の粉砕媒体が内有されたボールミルに投入して十分に湿式粉砕し、その後、所定の温度で仮焼してセラミック粉末を作製する。
【0037】
次に、上記セラミック粉末に有機バインダを加え、湿式で混合処理を行ってスラリー状とし、その後、ドクターブレード法等を使用して成形加工を施し、セラミックグリーンシートを作製する。
【0038】
次いで、セラミックグリーンシートのうち熱検知部または温度補償部に位置するセラミックグリーンシートにAg−Pdを主成分とした内部電極用ペーストを使用し、セラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施して内部電極パターンを形成する。また、空洞部に位置するセラミックグリーンシートには、レーザー加工等によって上記セラミックグリーンシートに穴を開け、その穴へ焼成することによって揮発する材料、例えば、バインダ等の有機物やカーボンペースト等の充填を行い、空洞パターンを形成する。
【0039】
次に、内部電極パターンがスクリーン印刷されたセラミックグリーンシートと、空洞パターンを加工したグリーンシートを図3に示すように積層した後、電極パターンがスクリーン印刷されていないセラミックグリーンシートで上下挟持し、圧着して積層体を作製する。次いで、この積層体を所定寸法に切断してジルコニア製の匣に収容し、脱バインダ処理を行った後、所定温度(例えば1000℃〜1300℃)で焼成処理を施す。これにより、バインダ等の有機物やカーボンペースト等が揮発し、セラミック素体の中央部付近に空洞部が形成される。これにより、熱検知部電極21,22、温度補償部電極26,27、ビア電極29、及び空洞部25を備えるセラミック素体30を構成する。
【0040】
この後、セラミック素体30の両端部にAg等を含む外部電極用ペーストを塗布して焼付けし、外部電極23,24を形成する。なお、外部電極23,24は密着性が良好であればよく、例えばスパッタリング法や真空蒸着法等の薄膜形成法で形成してもよい。
【0041】
上述の例では、セラミック素原料としてMn3O4等の酸化物を使用したが、Mnの炭酸塩、水酸化物等を使用することもできる。
【0042】
図6は、図2に示した放熱型環境センサ101を実装基板(組み込み先の電子機器の回路基板)に実装した状態での断面図である。
実装基板PWB上のランドLに対して放熱型環境センサ101が表面実装されている。実装基板PWB上のランドLから外部電極23,24にかけて半田Sのフィレットが形成されている。
【0043】
後述するように、前記環境値検知用感温抵抗素子及び前記温度補償用感温抵抗素子には定電流が通電される。そのため、前記環境値検知用感温抵抗素子及び前記温度補償用感温抵抗素子はジュール熱により自己発熱する。前記環境値検知用感温抵抗素子及び前記温度補償用感温抵抗素子の温度は発熱量と周囲への放熱量とが平衡する温度で安定化する。
【0044】
熱検知部電極21,22が形成されている熱検知部である前記環境値検知用感温抵抗素子は上面及び四方周囲が外部環境に対して開放されている。そのため、熱検知部の熱容量は後述する温度補償部に比較して小さく、環境値検知用感温抵抗素子の発熱は主に空気中へ放熱される。すなわち環境値検知用感温抵抗素子の放熱は空気中への放熱が支配的である。
【0045】
これに対して、温度補償部電極26,27が形成されている温度補償部である前記温度補償用感温抵抗素子は実装基板PWBに接していて、半田Sによって接続されている。また、温度補償部電極27は、その中央部がビア電極29を介して外部電極28に導通していて、熱的にも外部電極28に対して低い熱抵抗で結合している。そのため、温度補償部の熱容量は熱検知部の熱容量より大きく、温度補償用感温抵抗素子は主に実装基板PWB側へ放熱される。すなわち温度補償用感温抵抗素子の放熱は実装基板PWBへの放熱が支配的である。
【0046】
前記環境値検知用感温抵抗素子の発熱が空気中へ放熱される際の放熱量は、主に風速、湿度、及び気圧の環境値によって変動する。例えば風速について着目すれば、湿度、及び気圧が一定であるとすると、風速の変化に応じて前記放熱量が変化する。また、例えば風速、及び気圧が一定であるとすると、湿度の変化に応じて前記放熱量が変化する。したがって、検知すべき所定環境値以外で放熱量に影響を与えるファクターは他の方法で測定すれば、所定の環境値を検知できる。
【0047】
図7(A),図7(B)は前記放熱型環境センサ101を用いた放熱型環境センサ回路の二つの例である。図7(A),図7(B)において、抵抗Rsは熱検知部のサーミスタによる抵抗、抵抗Rnは温度補償部のサーミスタの抵抗である。この抵抗Rs,Rnと抵抗Ro,Roとによって抵抗ブリッジ回路を構成している。定電流回路(定電流源)CCSは前記抵抗ブリッジ回路へ定電流を通電する。増幅回路AMPは抵抗ブリッジ回路の出力電圧を差動増幅する。
【0048】
図7(A)に示す放熱型環境センサ回路のように、定電流が流れる二つの電流経路の一方を、熱検知部のサーミスタによる抵抗(環境値検知用感温抵抗素子)Rsと、温度補償部のサーミスタの抵抗(温度補償用感温抵抗素子)Rnとの直列回路で構成し、他方を二つの抵抗Roの直列回路で構成すると、高いSN比が得られる。
【0049】
すなわち、図7(B)に示した回路構成では、抵抗Roの抵抗値を、熱検知部のサーミスタによる抵抗Rs及び温度補償部のサーミスタの抵抗Rnの抵抗値にほぼ等しくしないと大きな差動電圧が得られないが、図7(A)に示した回路構成では、抵抗Roの抵抗値が前記Rs及びRnの抵抗値に近似する値である必要がないので、回路構成上の自由度が高く、SN比の高い回路が構成できる。例えば抵抗Roの抵抗値を充分に小さくして、増幅回路AMPへの入力インピーダンスを低くすることができる。
【0050】
図7(A),図7(B)に示した放熱型環境センサ回路によれば、温度補償部及び熱検知部が自己発熱により温度が上昇していくと、実装状況に応じて出力電圧が所定の値に平衡状態になる。ここで、温度補償部のサーミスタ(温度補償用サーミスタ)Rnで周囲の温度変化による影響分を補償しているため、増幅回路AMPの出力電圧Voutは熱検知部のサーミスタRsの環境に依存した放熱量に応じた値となる。このため、環境に変化が生じた場合、熱検知部の温度の変動により、出力電圧が変動する。したがって、平衡状態の出力電圧Voutから環境変化に応じて変化した出力電圧Voutの変化を環境値検知信号として利用できる。
このように放熱量の違いによる抵抗変化を熱検知部電極21,22および外部電極23,24を通じて測定することで、環境値を検知することができる。
【0051】
図8は、検知すべき所定の環境値の変化による、前記放熱型環境センサ回路の出力電圧の変化の様子を示す図である。
図8(A)は前記抵抗ブリッジ回路への通電電流の波形図、図8(B)は熱検知部及び温度補償部の温度変化の波形図、図8(C)は熱検知部及び温度補償部のサーミスタの抵抗値変化の波形図、図8(D)は前記放熱型環境センサ回路の出力電圧の波形図である。
【0052】
図8(A)に表れているように、時刻t0で通電を開始すると、速やかに一定電流が流れる。図8(B)に表れているように、前記通電によって熱検知部の温度Ts及び温度補償部の温度Tnが上昇し、所定の温度で熱的に平衡状態となる。
【0053】
検知すべき環境値(例えば湿度)が時刻t1で変化すると(この例ではt1で環境値が急激に変化している。)、それ以降、熱検知部の温度Tsと温度補償部の温度Tnは新たな温度で熱的に平衡することになる。その後、検知すべき環境値が時刻t2で再び変化すると、それ以降、熱検知部の温度Tsと温度補償部の温度Tnは再び新たな温度で熱的に平衡することになる。
【0054】
時刻t3で通電を停止すると、熱検知部の放熱によって熱検知部の温度Ts及び温度補償部の温度Tnが低下する。
【0055】
図8(C)に表れているように、熱検知部のサーミスタの抵抗値Rsと温度補償部のサーミスタの抵抗値Rnは前記温度Ts,Tnに応じて定まる。
前記放熱型環境センサ回路の出力電圧は、図8(D)に表れているように、通電開始時to以降は、熱検知部と温度補償部のサーミスタの抵抗値の変化に応じて変位するが、熱検知部と温度補償部の熱的平衡に伴い、出力電圧も安定化する。時刻t1で環境値が変化すると、前記熱検知部のサーミスタの抵抗値Rsと温度補償部のサーミスタの抵抗値Rnに応じた出力電圧となる。時刻t2で環境値が再び変化すると、前記熱検知部のサーミスタの抵抗値Rsと温度補償部のサーミスタの抵抗値Rnに応じて出力電圧は再び変化する。
【0056】
時刻t3で前記通電が停止されると、前記熱検知部のサーミスタの抵抗値Rsと温度補償部のサーミスタの抵抗値Rnの変化に応じて出力電圧も比較的大きく変動する。
【0057】
前記放熱型環境センサ回路の出力電圧は、前記時刻t1の手前、時刻t2の手前、時刻t3の手前など、熱的に平衡状態になったとき安定する。この安定した平衡状態のうち、環境に変化が生じていない初期の出力電圧値と、環境に変化が生じた後の平衡状態での出力電圧との差が、検知すべき環境値とは一意の関係にあるので、放熱型環境センサ回路の出力電圧の変動を読み取ることで環境値を求めることができる。
【0058】
また、前記放熱型環境センサ回路の抵抗ブリッジ回路への通電開始後や、通電停止後は、放熱型環境センサ回路の出力電圧は過渡的な電圧変化を示すが、熱検知部の空気中への放熱量が一定であるなら、前記出力電圧変化(推移)は一定である。換言すると、前記出力電圧変化(推移)のパターンが変化すれば、それは環境値の変化に起因している。したがって、前記時刻t0以降や時刻t3以降の出力電圧の変化のパターンや傾斜によっても環境値を検知することができる。
【0059】
また、本願発明はセラミック素体にサーミスタ材料を用いているため、電流を印加することにより自己発熱し、容易にセラミック素体を発熱状態にすることができるが、例えば放熱型環境センサを実装した基板を加熱する手段を設け、その基板の加熱によってセラミック素体を発熱状態にするように構成してもよい。
【0060】
《第2の実施形態》
図9は第2の実施形態に係る放熱型環境センサをセラミックの積層構造で構成する際の各セラミックグリーンシートの構成図(積み図)である。図9において、層S1には後の焼成によって熱検知部電極21になる内部電極用ペースト21P、層S2には後の焼成によって熱検知部電極22になる内部電極用ペースト22Pがそれぞれ形成されている。層S7には後の焼成によって温度補償部電極26になる内部電極用ペースト26P、層S8には後の焼成によって温度補償部電極27になる内部電極用ペースト27Pがそれぞれ形成されている。また、層S4,S5には穴が形成され、その穴内に焼成することによって揮発する材料、例えば、バインダ等の有機物やカーボンペースト等の充填物25Pが形成されている。
【0061】
図10は、図9に示したセラミックグリーンシートを積層し、焼成することによって構成されたセラミック素体の断面図である。セラミック素体の内部に熱検知部電極21,22、温度補償部電極26,27が形成されている。また、焼成することにより層S4、S5に充填された充填物25Pが揮発されることによって空洞部25が形成されている。
【0062】
図11は、図10に示したセラミック素体に対する外部電極の形成前後の状態の斜視図である。すなわち、図11(A)は外部電極形成前のセラミック素体の斜視図、図11(B)は外部電極形成後の放熱型環境センサ102の斜視図である。
【0063】
外部電極23は熱検知部電極21に導通し、外部電極24は熱検知部電極21及び温度補償部電極26に導通する。また、外部電極28は温度補償部電極27に導通する。
【0064】
このように、内部電極用ペースト27Pの焼成による温度補償部電極27が直方体形状のセラミック素体の二つの側面に露出するように形成することによって、外部電極28を形成する際にセラミック素体の向きが揃う確率が高くなり、製造効率が高まる。
【0065】
なお、内部電極用ペースト27Pは、必ずしも層S8にセラミック素体の両側面に引き出す必要はなく、一側面へ引き出した構造でもよい。また、図11(B)においては、一側面に外部電極28が形成されているが、内部電極用ペースト27Pが層S8の両側面に引き出されていることから、外部電極28を両側面に形成してもよい。
【0066】
《第3の実施形態》
図12は第3の実施形態に係る放射型環境センサ103の断面図である。放射型環境センサ103は、NTCサーミスタセラミックスのセラミック素体30、熱検知部電極21,22、外部電極23,24、空洞部25、及び多孔質部31を備えている。
【0067】
上記多孔質部31は、空洞部25の周縁を構成するサーミスタセラミック素体の周縁部であり、焼成によって多孔質になったものである。すなわち、空洞部25を形成する開口を設けたセラミックグリーンシートは、焼成時に消失する有機物を予め分散させたものである。
【0068】
例えば第1の実施形態で図2に示した構造では、空洞部25の幅を大きくする程、断熱効果は高まるが、空洞部25を確保するために空洞部25の周囲を支える周縁部を残しておく必要がある。そこで、図12に示したように、空洞部25の周囲を支える周縁部を多孔質にすることにより、熱検知部電極22より下部は空洞部25だけでなく多孔質部31によってより効果的に断熱される。そのため、熱検知部の熱容量をさらに小さくできる。
【0069】
《第4の実施形態》
図13(A),図13(B)は第4の実施形態に係る放射型環境センサ104,105の断面図である。放射型環境センサ104は、NTCサーミスタセラミックスのセラミック素体30、熱検知部電極21,22、外部電極33,34,35,28及び空洞部25を備えている。図13(B)においては、空洞部25の周囲に多孔質部31を設けている。
【0070】
この例では、熱検知部電極21,22に導通する外部電極33,34と、温度補償部電極26,27に導通する外部電極35,28とは電気的にも熱的にも分離して配置されている。すなわち、セラミック素体の側面には上下方向に連なる外部電極が形成されていない。また、ビア電極はセラミック素体の上下方向に非接続状態(非貫通状態)に配置されている。
そのため、熱検知部と温度補償部とをさらに断熱することができ、熱検知部の熱容量をさらに小さくできる。
【0071】
なお、以上に示した各実施形態では、サーミスタ材料であるサーミスタセラミックの層を積層し、焼結させることによってセラミック素体を構成したが、少なくとも熱検知部電極を設ける第1主面側と、温度補償部電極を設ける第2主面側をサーミスタセラミックの層で構成し、その他の層を別の材料の層で構成して、一体焼結して形成してもよい。
【0072】
また、以上に示した各実施形態では、空洞部25に相当する領域を、または空洞部25を形成した層全体を多孔質部材で構成してもよい。
【0073】
また、以上に示した各実施形態では、単一の空洞部25を備えたが、上下方向または横方向に複数個配置してもよい。空洞部の形状はセラミック素体内に閉じられた空間を構成していてもよいし、一部で又は複数箇所で開口していてもよい。さらにはハニカム構造や細胞構造であってもよい。これらの構成によって熱抵抗の調整が可能である。
【符号の説明】
【0074】
AMP…増幅回路
L…ランド
PWB…実装基板
S…半田
S1〜S9…層
21,22…熱検知部電極
23,24…外部電極
25…空洞部
26,27…温度補償部電極
28…外部電極
29…ビア電極
30…セラミック素体
31…多孔質部
33,34,35…外部電極
101〜105…放射型環境センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱性が依存する環境値を検知するための環境値検知用感温抵抗素子及び温度補償用感温抵抗素子を備えた環境センサにおいて、
少なくとも、第1の主面側に形成される熱検知部及び第2の主面側に形成される温度補償部がサーミスタ材料からなるセラミック素体と、
前記熱検知部に設けられ、前記熱検知部のサーミスタ材料を前記環境値検知用感温抵抗素子として用いるための熱検知部電極と、
前記温度補償部に設けられ、前記温度補償部のサーミスタ材料を前記温度補償用感温抵抗素子として用いるための温度補償部電極と、
を備え、
前記セラミック素体の前記熱検知部と前記温度補償部との間に断熱部が設けられた放熱型環境センサ。
【請求項2】
前記断熱部は前記セラミック素体に設けられた空洞である、請求項1に記載の放熱型環境センサ。
【請求項3】
前記セラミック素体のうち前記断熱部の周縁を構成している周縁部は多孔質の部材である、請求項2に記載の放熱型環境センサ。
【請求項4】
前記断熱部は多孔質の部材で構成された、請求項1に記載の放熱型環境センサ。
【請求項5】
前記セラミック素体は複数のセラミック層を備え、前記熱検知部電極は、前記セラミック層を介して部分的に重なり合っている、請求項1〜4のうちいずれかに記載の放熱型環境センサ。
【請求項6】
前記熱検知部電極に導通する外部電極と、前記温度補償部電極に導通する外部電極とは、熱的に分離された状態で前記セラミック素体の外面に配置された、請求項1〜5のうちいずれかに記載の放熱型環境センサ。
【請求項7】
前記熱検知部電極に導通するビア電極及び前記温度補償部電極に導通するビア電極は、前記セラミック素体の上下方向に非接続状態に配置された、請求項1〜5のうちいずれかに記載の放熱型環境センサ。
【請求項8】
前記セラミック素体を発熱させる、または加熱する手段を備えた、請求項1〜7のいずれかに記載の放熱型環境センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−33444(P2011−33444A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179021(P2009−179021)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】