説明

放熱用ゲル状組成物およびその製造方法

【課題】 本発明は、放熱用途として応用可能な高熱伝導性ゲル状組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。熱伝導性が高いゲル状組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 イオン性液体と、ゲル化剤とを含んだことを特徴とするゲル状組成物を用いる事で高い熱伝導性と耐熱安定性を有した放熱グリース、放熱シートを得ることが出来る。少なくともイオン性液体とゲル化剤とを含みイオン性液体をゲル化することにより得られた事を特徴とする放熱用ゲル状組成物、によって解決する。また、イオン性液体とゲル化剤とを含み、前記イオン性液体に対する前記ゲル化剤の質量濃度が2wt%以上、50wt%以下であることを特徴とする、放熱用ゲル状組成物、で解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱用途に用いられるイオン性液体とゲル化剤とを含むゲル状組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器の性能向上は著しく、それはCPUの著しい性能向上によっている。この様なCPUの性能向上に伴い、CPUの発熱量も著しく増加し、電子機器における放熱をどの様に行うが重要な課題になっている。この様な発熱量増大はCPUに限らずメモリーやいろいろな電子部品、あるいは電池など多くの分野でも大きな問題となっている。
【0003】
熱対策としてはファンによる空冷やヒートパイプ、水を用いた水冷などの方法があるが、これらはいずれも新たな放熱のための装置を必要とし、機器の重量増加を招くだけでなく、騒音や使用電気量の増加などを招くと言う欠点がある。CPUの放熱で最も一般的な方法がヒートシンクを用いる方法である。これは発生する熱を出来るだけ迅速に広い面積に拡散させ、冷却効率を上げることを目的としたものである。この様な放熱方式において最も大切なことはCPUなどの発熱源とヒートシンクをいかに熱抵抗を小さくして接続するかと言う点である。熱抵抗は接触界面に空気層が存在すると著しく大きくなってしまうために、完全な密着を実現する目的でグリース状、ゴム状、あるいはゲル状の組成物が用いられる。この目的に使用されているのが接続界面に塗布したり、接続界面間に挟んで使用される放熱パッド、放熱オイルコンパウンド、あるいは放熱用グリースなどと呼ばれる商品群である。
【0004】
これらの例として例えば、スリーボンド社:放熱シリコンゲルシート、ジェルテック社:ラムダGELペースト、アール・イー・ティー社:放熱用シリコーン、富士高分子工業:など多くの例を挙げる事が出来る。これらの商品は熱伝導を大きくするためにグリース、ゴム、ゲルなどの柔軟性を有する有機材料に熱伝導性に優れる無機・セラミックフィラーや金属フィラー、が添加されており、柔軟性を有する有機材料としてはもっぱらシリコーン系有機材料、アクリル系有機材料がもちいられている。例えば、これらの放熱用シートに関する技術として特許文献1〜特許文献4を例示することが出来る。しかしこれらの商品の熱伝導率は3.0〜0.5W/m・K程度であり、例えば銅の403W/m・Kやアルミ二ウムの236W/m・Kに比べてはるかに小さく、その熱伝導度の向上が望まれていた。
【0005】
熱伝導の向上には添加されるフィラーの改良・選択も重要であるが、母材となる有機材料自体の熱伝導度向上は重要な課題である。さらに熱伝導度の向上には出来る限り多くの熱伝導性フィラーを添加出来る事が望ましいが、添加量が多くなるとシートの柔軟性や機械的な強度が失われてしまう。従って、多くのフィラーを添加してもシートの柔軟性が失われないように工夫する事も重要である。
【0006】
一方、本発明の主要構成要素であるイオン性液体とは、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃で)において液体であるものをいい、常温溶融塩とも呼ばれている。このようなイオン性液体は、イオン伝導性が高く、電池などの電解質としての応用が期待されている。さらに、液体状態の電解質では、電池などからの電解質の漏洩の問題が存在することから、イオン性液体を含む固体電解質を形成するため、イオン性液体をゲル化することが提案されている(たとえば、特許文献5〜特許文献8を参照)。また、導電性のあるゲル状材料は、固体電解質としての用途の他、生体電極、センサとしての用途などにも期待されている。しかしながらこの様なゲル化イオン性液体を放熱用途にもちいた例は知られていない。
【特許文献1】特許公報3712943号
【特許文献2】特許公報2882972号
【特許文献3】特開2002−84083号公報
【特許文献4】特開2001−110961号公報
【特許文献5】特開2002−003478号公報
【特許文献6】特開2003−257240号公報
【特許文献7】特開2003−303630号公報
【特許文献8】特開2004−098199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放熱用途として応用可能な高熱伝導性ゲル状組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イオン性液体をもちいて作成されたゲル状組成物が優れた熱伝導を発現できることを発見し、さらに従来のゲル組成物やゴム組成物に比べ、その柔軟性を失う事なく多くの熱伝導性フィラーを添加する事が出来、その結果すぐれた熱伝導特性を有する放熱シートが実現できる事を発見してなされたものである。
【0009】
したがって、本発明の第一は、少なくともイオン性液体とゲル化剤とを含みイオン性液体をゲル化することにより得られた事を特徴とする放熱用ゲル状組成物、である。得られたゲルは他の手法で得られた既知のゲルよりも優れた熱伝導性を有しており放熱用ゲルとして好ましい。そればかりでなく、イオン性液体はその蒸気圧がきわめて低く事実上ほとんど蒸発しないので得られたゲル状組成物がきわめて安定であると言う観点からも、放熱用のゲルとしては極めて好ましい。
【0010】
また本発明は、イオン性液体とゲル化剤とを含み、前記イオン性液体に対する前記ゲル化剤の質量濃度が2wt%以上、50wt%以下とすることができる。
さらに本発明は、熱伝導性無機フィラーが前記ゲル状組成物に対して20〜1000wt%混合された放熱用ゲル状組成物とする事ができる。
【0011】
本発明にかかるゲル状組成物において、前記イオン性液体のカチオン成分が、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジン誘導体カチオン、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体、からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことができる。
【0012】
また、イオン性液体のアニオン成分は、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基アニオン(−OSO3-)、カルボキシル基アニオン(−COO-)、BF4-、PF6-、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)カルボアニオン((CF3SO23-)、NO3-、およびニトロ基アニオン(−NO2-)からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことができる。
【0013】
さらに、本発明のゲルにおいてはゲル化剤を、少なくとも2以上の極性基または2以上の反応性官能基を含む化合物とすることができる。
【0014】
本発明にかかるゲル状組成物の製造方法において、前記ゲルの形成工程として、
前記ゲル化剤として2以上の第1の反応性官能基を含む第1のゲル化剤と2以上の第2の反応性官能基を含む第2のゲル化剤とを準備する工程と、
前記イオン性液体に前記第1のゲル化剤と前記第2のゲル化剤とを溶解または分散させる工程と、
前記第1のゲル化剤と前記第2のゲル化剤とを重合させる工程とを含むことができる。
【0015】
また、本発明の一態様では、イオン性液体が、導電性高分子の少なくとも一部が溶解しているイオン性液体であることも好ましい
また、本発明においては発熱性の電子部品より、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル状組成物を介して、熱を逃がす事を特徴とする放熱方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放熱用途に応用が可能な熱伝導性が高いゲル状組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の構成要素について詳しく説明する。
【0018】
(イオン性液体)
本発明において用いられるイオン性液体は、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃で)において液体であるものをいい、常温溶融塩とも呼ばれている。しかし、本発明のイオン性液体はこの範囲にとどまらず例えば100℃以下の温度で液状になる物も本発明の範囲に含まれる。
【0019】
このイオン性液体を形成するカチオン成分としては、特に制限はないが、イオン性液体の化学的安定性および導電性を高める観点から、各種4級窒素を含むカチオンを用いることが好ましい。たとえば、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジン誘導体カチオン、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体ならびにピペラジンおよびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いることが好ましい。ここで、誘導体とは、その基本形となる化合物において置換可能な水素原子のうち少なくとも1つを、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アシル基またはアミノ基などの置換基に置換した化合物をいう。
【0020】
このイオン性液体を形成するアニオン成分としては、特に制限はないが、イオン性液体の導電性を高める観点から、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基含有アニオン(−OSO3-)、カルボキシル基アニオン(−COO-)、BF4-、PF6-、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、(トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)カルボアニオン((CF3SO23-)、NO3-、ニトロ基アニオン(−NO2-)からなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に好ましく用いられるアニオン成分として、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基アニオン(−OSO3-)を含む原子団が挙げられる。これらは、それぞれRASO3-、RBOSO3-と記載される(ここで、RA、RBは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0022】
ASO3-としては、たとえば、p−CH364SO3-(p−トルエンスルホン酸アニオン)、C65SO3-(ベンゼンスルホン酸アニオン)などが挙げられる。また、RASO3-においては、RAにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CF3SO3-、CHF2CF2CH2SO3-、CHF2−(CF23−CH2SO3-などが挙げられる。
【0023】
BOSO3-としては、たとえば、CH3CH2OCH2CH2OSO3-、C65OCH2CH2OSO3-などが挙げられる。またRBOSO3-においては、RBにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CHF2CF2CH2OSO3-、CHF2−(CF23−CH2OSO3-、CF3−(CF22−CH2OSO3-、CF3−(CF26−CH2OSO3-などが挙げられる。
【0024】
また、本発明に好ましく用いられるアニオン成分として、カルボキシル基アニオン(−COO-)を含む原子団が挙げられる。たとえば、RCCOO-、HOOCRCCOO--OOCRCCOO-、NH2CHRCCOO-などが挙げられる(ここで、RCは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0025】
また、本発明に好ましく用いられるアニオン成分として、ニトロ基アニオン(−NO2-)を含む原子団が挙げられる。たとえば、RDNO2-などが挙げられる(ここで、RDは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0026】
本発明において用いられるイオン性液体は、公知の方法、たとえば、アニオン交換法、酸エステル法、中和法などの方法により合成することができる。
【0027】
(ゲル化剤)
本発明において用いられるゲル化剤は特に制限はなく、ゲル化に用いられる一般的な手法を用いることができる。中でも2以上の極性基または2以上の反応性官能基を含む化合物を用いることは本発明の目的にとって好ましい。ここで極性基の具体的な例として水酸基、ハロゲン化物基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アミド基、アミノ基、酸アミド基、糖アミド基、ビニル基などの官能基が挙げられる。2以上の極性基は、互いに同じものであっても異なるものであってもよい。また、反応性官能基とは、化学反応によりゲル化剤の分子鎖を架橋する官能基をいう。反応性官能基としては、イソシアネート基、不飽和二重結合を有する基、活性水素を有する求核基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基などを挙げられる。ここで、イソシアネート基と活性水素を有する求核基とが反応し、不飽和二重結合を有する基と活性水素を有する求核基とが反応し、エポキシ基とアミン基またはカルボキシル基とが反応して架橋する。2以上の極性基または2以上の反応性官能基を含むゲル化剤は、2以上の極性基間に生じる水素結合などの分子間結合または2以上の反応性官能基によって生じる共有結合によって3次元網目構造を形成し、この3次元網目構造により導電性高分子の少なくとも一部が溶解しているイオン性液体が容易にゲル化する。ゲル化剤が3次元網目構造を形成することにより、ゲル状組成物を形成していることは、暗視野光学顕微鏡などにより観察することができる。
【0028】
2以上の極性基を含む化合物としては、ペンタエリトリオール、β−D−グルコース、α−シクロデキストリン、ポリビニルアルコール、ポリビニル系高分子(ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロポロピレン共重合体など)、ポリエーテル系高分子(ポリエチレンオキシド誘導体など)、ポリエステル系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリカーボネート系高分子、蛋白質(グルコースオキシターゼなど)、多糖類、糖誘導体、分子集合体(C8AzoC10+Br-またはジアゾアルキルアンモニウム塩などからなる二分子膜など)などが挙げられる。また、2以上の反応性官能基を含む化合物としては、イソシアネート基を2以上有するイソシアネート化合物、不飽和二重結合を有する基を2以上有する化合物、活性水素を有する求核基を2以上有する化合物、エポキシ基を2以上有するエポキシ化合物、アミン基を2以上有するアミン化合物、カルボキシル基を2以上有するカルボキシ化合物などが挙げられる。
【0029】
本発明にかかるゲル状組成物において、イオン性液体に対するゲル化剤の質量濃度は、3重量%以上、50重量%以下であることが好ましい。 2重量%未満であるとゲル化が不十分となり、50重量%を超えるとゲル状物としての弾力性や柔軟性が失われて硬くなり、接続に用いる場合に界面での熱抵抗が増加する。かかる観点から、3重量%以上、40重量%以下がより好ましい。
【0030】
(ゲル状組成物の製造方法)
本発明にかかるゲル状組成物の製造方法については特に制限はなく。一般的なゲル化の手法を用いることができる。中でも、ゲル化剤を用いてイオン性液体をゲル化するゲル化工程を含むことが好ましい。かかる工程を含むことにより、イオン性液体をそのままゲル化することができ、熱伝導性の高いゲル状組成物を得ることができる。
【0031】
ゲル化剤を用いてイオン性液体をゲル化するゲル化工程は、特に制限はないが、ゲル化剤の種類によっては、このイオン性液体にゲル化剤を溶解または分散させる工程を含むことが好ましい。このようなゲル化剤としては、イオン性液体と相溶性または親和性の高いゲル化剤、たとえば、2以上の極性基をもつ化合物であって、その極性基とイオン性液体のカチオンおよびアニオンの少なくともいずれとの親和性が高い化合物が好ましく用いられる。たとえば、ペンタエリトリオール、β−D−グルコース、α−シクロデキストリン、ポリビニルアルコール、ポリビニル系高分子(ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロポロピレン共重合体など)、ポリエーテル系高分子(ポリエチレンオキシド誘導体など)、ポリエステル系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリカーボネート系高分子、蛋白質(グルコースオキシターゼなど)、多糖類、糖誘導体、分子集合体(C8AzoC10+Br-またはジアゾアルキルアンモニウム塩などからなる二分子膜など)などが好ましく用いられる。
【0032】
また、ゲル化剤を用いて導電性高分子の少なくとも一部が溶解しているイオン性液体をゲル化するゲル化工程は、ゲル化剤の種類によっては、ゲル化剤として2以上の第1の反応性官能基を含む第1のゲル化剤と2以上の反応性官能基を含む第2のゲル化剤とを準備する工程と、導電性高分子の少なくとも一部が溶解しているイオン性液体に、第1のゲル化剤と第2のゲル化剤とを溶解または分散させる工程と、第1のゲル化剤と第2のゲル化剤とを重合させる工程とを含むことが好ましい。第1のゲル化剤と第2のゲル化剤とを重合させることにより、導電性高分子の少なくとも一部が溶解したイオン性液体を容易にゲル化することができる。イオン性液体に第1のゲル化剤と第2のゲル化剤とを溶解または分散させる工程において、第1のゲル化剤と、第2のゲル化剤とをイオン性液体に溶解または分散させる順序には特に制限はないが、第1のゲル化剤原料と第2のゲル化剤原料とを直接混合するのは急激な反応が起こりそのまま固化してしまうおそれがあり好ましくない。
【0033】
このような第1のゲル化剤と第2のゲル化剤との組み合わせとしては、(a)イソシアネート基を2以上有する化合物と活性水素を有する求核基を2以上有する化合物の組み合わせ、(b)不飽和二重結合と2以上有する化合物と活性水素を有する求核基を2以上有する化合物の組み合わせ、(c)エポキシ基を2以上有するエポキシ化合物とポリアミンおよび/または酸無水物との組み合わせが好ましく挙げられる。
【0034】
例えば、(a)の組み合わせにおいては、イソシアネート基を2以上有する化合物とを有する求核基を2以上有する化合物とが重付加反応により重合して、導電性高分子の少なくとも一部を溶解しているイオン性液体をゲル化する。イソシアネート基を2以上有する化合物としては、たとえば、2,4−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、ヘキメチレンジイソシアネート、水添4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、ヘキメチレンジイソシアネート、ヘキメチレンジイソシアネートの三量体、イソシアネートエチルメタクリレートの重合体などが挙げられる。また、活性水素を有する求核基を2以上有する化合物としては、ジオール、トリオール、テトラオールなどのポリオール化合物、ジアミン、トリアミン、テトラアミンなどのポリアミン化合物、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などのポリカルボン酸などが挙げられる。第1のゲル化剤であるイソシアネート基を2以上有する化合物と第2のゲル化剤である活性水素を有する求核基を2以上有する化合物との配合比は、特に制限はないが、化学当量比で2:1〜1:2が好ましい。また、第1のゲル化剤および第2のゲル化剤合計のイオン性液体に対する質量濃度は5重量%以上、40重量%以下が好ましい。
【0035】
また、上記重付加反応を効率よく進行させるために触媒を用いることができる。かかる触媒としては、ポリウレタン合成用の触媒である錫系触媒(ジブチル錫ジラウリレート)および/またはアミン系触媒が好ましく用いられる。かかる触媒は、第1のゲル化剤であるイソシアネート基を2以上有する化合物と第2のゲル化剤である活性水素を有する求核基を2以上有する化合物との合計に対して0.1質量%〜5質量%が好ましく、0.2重量%〜2重量%である事はより好ましい。
【0036】
(無機フィラー)
以上述べた手法によって放熱ゲル状組成物が得られるが、無論この組成物に熱伝導性に優れる各種のフィラーが添加されていても良く、この様なフィラーを添加する事によりより高い熱伝導性を得る事ができる。フィラーとしては銅、銀、アルミなどの金属粉末、カーボン粉末、さらにシリカ、窒化アルミ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、アルミナ、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、などの無機・セラミック粉末、等を例示する事ができる。これらのフィラーは添加量が多いほど優れた熱伝導度を示すが、発熱体と放熱体の小さな熱抵抗接合が実現できるように柔軟でなくてはならず、この二つの要請から最適な添加量が決定される。また、最適な添加量はフィラーの粒径や粒子の形状によっても影響される。この様な例として複数の粒径の異なるフィラーを添加する、等の手法が例示できる。フィラーの種類は放熱材を用いる目的・場所などによって変り、例えば熱伝導と電気的絶縁性を必要とするか、あるいは熱伝導と電気伝導の両方が必要か、などの条件によって選択される。本発明では添加されるフィラーについては特に制限はなく、一般的に放熱用ゲル、放熱用ゴム、放熱シート、放熱ペーストなどに用いられるフィラーが本発明のゲル状組成物にとっても有効である。これらのフィラーは本発明のゲル状組成物と混錬、分散させる事で添加される。添加の手法に関しては特に制限がなく一般的にフィラー分散に用いられる方法を好ましく用いる事が出来る。
【0037】
添加量は添加物の種類、粒径などにより異なるが、本発明のゲル状組成物の場合、一般的にはゲル状組成物の20wt%〜1000wt%の範囲である事が好ましい。30wt%〜800wt%の範囲である事はより好ましく、50wt%〜500wt%の範囲である事は最も好ましい。本発明になるゲル状組成物は、通常熱伝導シートに用いられるシリコンラバーやアクリルラバーより柔軟なため、発熱源との密着性が高く、同量の無機フィラーを混合した際でも熱抵抗は小さくなると言う特徴がある。また、同じ柔らかさの放熱組成物を得ようとする時、より多くのフィラーの添加が可能となり、結果的により高い熱伝導特性を実現する事が出来る。
【0038】
(ゲル状組成物の使用方法、ゲル状組成物を使用した電子機器)
次に一例として、本発明のゲル状組成物を実際に放熱目的に用いる方法についてCPUの冷却を例に説明する。例えば、CPUなどの発熱体上にヒートシンクを接触させて冷却を行う場合の接続の様子を図1に示す。
【0039】
図1において(1)はヒートシンク、(2)は放熱ゲル組成物、(3)はCPUなどの発熱体である。(2)の様な放熱ゲル組成物を挟む事で熱抵抗の小さな接続が可能となるが、放熱の効果、すなわち熱抵抗の大きさは例えば以下の様に見積る事ができる。すなわち、前記のCPUコア部分の温度を(Th)とし、放熱フィンにおける特定の場所の温度(Tf)をCA熱電対によって測定する。この時発熱体の温度が低く、放熱フィンの温度が高いほど熱抵抗は小さな値となり、次式−1に従って熱抵抗(単位:℃/W)を見積ることが出来る。
熱抵抗 Hr=(Th−Tf)/W (式−1)
熱抵抗の値は放熱フィンの性能、発熱体の発熱特性等の違いによって異なるので、絶対値と見なす事は出来ないが、これらの条件を一定とする事によって熱抵抗特性の相対的な比較をする事が可能である。
【0040】
このような構造は高性能のCPUの冷却においては大変有用である。またCPUにかぎらず発熱をともなうチップセット、DSP、メモリー等にも有用である。また当構造を利用することにより、パソコン特にはノートパソコンのヒートシンクを小型化できたり、ファンの能力を下げることによる静音化、等に有用である。パソコン以外でも発熱電子部品がある、サーバー、ルーター、携帯電話、ビデオカメラ、ビデオカムコーダー、PDP、液晶テレビ等あらゆる電子機器に利用できる。
【0041】
(熱伝導の測定)
熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定された。測定された熱拡散率から密度および比熱の値をもちいて熱伝導率を算出した。ゲル組成物フィルムの密度は、フィルムの重量(g)をフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出された。なお、フィルムの厚みは、任意の10点で測定した平均値を使用した。
【実施例】
【0042】
以下に、ゲル化剤をもちいてイオン性液体をゲル化させた放熱用ゲル状組成物について、実施例に基づき具体的に説明する。無論、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
EMImTsO、10mlを、ゲル化剤としてポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を溶解させたテトラヒドロフラン溶液を用いてゲル化させ、ゲル状組成物を得た。ゲル化条件は、EMImTsO、10mlに対するゲル化剤の質量濃度を1.2gとなるようにし、還流冷却器を取り付けた反応器中、60℃で3時間加熱し均一溶液を得た。ドクターブレードをもちいてこの溶液をPET基板上に塗布し、テトラヒドロフランを蒸発させてゲル状組成物を得た。このゲルシート(シート−A)はPETフィルムからはがしても自立性のあるシートであった。前記熱伝導の測定法によって、得られたゲル状組成物の熱伝導度を測定した結果、その値は0.6W/mKであった。
【0044】
(実施例2)
イオン性液体としてEMImTsOの代わりに、EMIm・((CF3SO22N)(EMImTFSIと略す、以下同じ)を用いた他は実施例1とおなじ方法でゲル状組成物を得た。このときEMImTFSI、10mlに対するゲル化剤の質量濃度を1.0gとなるようにして、ほぼ同じ柔軟性を持つ自立性のあるフィルムとした。得られたゲル状シート(シート−B)の熱伝導度を前記の測定法により測定した。得られたゲル状組成物の熱伝導度を測定した結果、その値は0.4W/mKであった。
【0045】
(実施例3)
まず、EMImTsO、10mlに触媒のジブチル錫ジラウリン酸を100ppm添加した後、ポリオキシエチレングリセリン(分子量1200)を混合し、次いでモル比で1:1でとなるようにトリレンジイソシアネートを加え混合容液を調製した。ポリオキシエチレングリセリンとトリレンジイソシアネートとの合計量がEMImTsO溶液に対して6wt%になるように混合した。そして、上記混合溶液を80℃の温度で30分間静置することにより、ゲル状組成物を得た。得られたゲル状組成物シート(シート−C)の熱伝導度を前記の測定法により測定した。その値は0.5W/mKであった。
【0046】
放熱用シートとして最も一般的に使用されるシリコーンゴム(信越シリコーン社製KE951)の熱伝導度を実施例と同様の方法で測定した。その結果熱伝導度は0.18W/mKであった。上記実施例1〜3に示した、本発明のイオン性液体ゲルシートの熱伝導度は0.4〜0.6W/mKであり上記シリコーンゴムシートよりも優れた熱伝導度を有している。この事から本発明のゲルシートの高い熱伝導性が確認できた。
【0047】
(実施例4〜6)
実施例1〜3で得られたゲル状組成物(シート−A、シート−B、シート−C(それぞれ100重量%))に窒化ホウ素粉末(AC株式会社製:商品名BN(平均粒径50μm))200重量%を加え混練して放熱シートを作製した。得られた放熱シートは十分な柔軟性を備えており、それぞれのシートの熱伝導度はそれぞれ、シート−A:4.8W/mK、シート−A:4.2W/mKシート−A:4.5W/mK、であり、優れた熱伝導特性製が確認できた。
【0048】
(実施例7〜9)
実施例1〜3で得られたゲル状組成物(シート−A、シート−B、シート−C(それぞれ100重量%))に酸化アルミ二ウム(昭和電工株式会社製:商品名AL30)300重量%を加え混練して放熱シートを作製した。得られた放熱シートは十分な柔軟性を備えており、それぞれのシートの熱伝導度はそれぞれ、シート−A:3.6W/mK、シート−A:3.1W/mKシート−A:3.5W/mK、であり、優れた熱伝導特性製が確認できた。
【0049】
(実施例10)
さらに本発明のゲルシートの効果を実証するために、実施例4で得られたシート−Aと窒化ホウ素の混合物からなる放熱シートを用いた場合の発熱体とヒートシンクの接合部分における熱抵抗の測定を、図1に示した様な模擬セルを作製して行った。
【0050】
すなわち本発明の放熱用ゲル状組成物をCPUコアとヒートシンクとの間に挟み、一定の加圧力を加え、次にトランジスタに一定電力を加えて動作させ発熱(発熱量W)させた。今回の実験環境は以下の通りである。CPU:P3(800MHz)、ヒートシンク:FC−PAL35T,メモリー:SDRAM128MB、OS:Windows(登録商標) me、測定条件:SuperPI209万行のLoop完了後の温度測定。温度測定ポイントはCPUコアの部分である。加えられた圧力が2N/cm2の場合、CPUの温度は64℃、熱抵抗は0.81℃/Wであった。また、圧力が5N/cm2の場合、CPUの温度は62℃、熱抵抗は0.72℃/W、圧力が15N/cm2の場合、CPUの温度は60℃、熱抵抗は0.70℃/W、圧力が20N/cm2の場合、CPUの温度は56℃、熱抵抗は0.68℃/W、であった。その結果から、CPUの温度は64℃以下に押さえられており、発明の放熱シートの有効性が実証された。
【0051】
(比較例1)
マトリックス樹脂として2液性付加反応型シリコーンゲル(東レ・ダウコーニング株式会社製:CY52−285A/B)50重量%に、2液性付加反応型液状シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング株式会社製:商品名CY52−287A/B)50重量%をブレンドし、続いて窒化ホウ素粉末(AC株式会社製:商品名BN(平均粒径50μm))200重量%を加え混練して放熱シートを得た。熱伝導度は2.8W/mKであった。この結果から、同量のフィラーを添加した場合でも本発明のゲル状放熱シートの有用性が確認できた。
【0052】
(比較例2)
比較例1と同じマトリックス樹脂に酸化アルミ二ウム(昭和電工株式会社製:商品名AL30)300重量%を加え、同じ手法で混練して放熱シートを得た。熱伝導度は1.9W/mKであった。この結果から、同量のフィラーを添加した場合でも本発明のゲル状放熱シートの有用性が確認できた。
【0053】
以上の実施例で述べた様に、イオン性液体をゲル化したゲル状組成物は高い熱伝導性を有しており、本発明によれば、従来の放熱用ゲル状組成物に比べてより熱伝導性の高いゲル状組成物が得られる。本発明にかかる熱伝導性の高いゲル状組成物は、放熱グリース、放熱シートとしての幅広い用途に応用が可能となる。
【0054】
また、上記の結果から、すくなくとも同じ組成、おなじ粒径、おなじ形状のフィラーを同じ量だけ添加した場合には、本発明のゲル組成物が従来のシリコーンゲルより優れた放熱特性となる事は明らかであり、放熱目的として本発明のイオン性液体ゲルの有用性が実証された。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ヒートシンクと共に本発明の熱拡散フィルムをCPUの冷却に用いた例
【符号の説明】
【0057】
1 CPU
2 本発明の放熱フィルム
3 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともイオン性液体とゲル化剤とを含みイオン性液体をゲル化することにより得られた事を特徴とする放熱用ゲル状組成物。
【請求項2】
イオン性液体とゲル化剤とを含み、前記イオン性液体に対する前記ゲル化剤の質量濃度が2wt%以上、50wt%以下であることを特徴とする、放熱用ゲル状組成物。
【請求項3】
熱伝導性無機フィラーが前記ゲル状組成物に対して20〜1000wt%混合された請求項1または2に記載の放熱用ゲル状組成物。
【請求項4】
前記イオン性液体のカチオン成分が、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジン誘導体カチオン、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体、からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1〜3のいずれかに記載の放熱用ゲル状組成物。
【請求項5】
前記イオン性液体のアニオン成分が、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基アニオン(−OSO3-)、カルボキシル基アニオン(−COO-)、BF4-、PF6-、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)カルボアニオン((CF3SO23-)、NO3-、およびニトロ基アニオン(−NO2-)からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1〜4のいずれかに記載の放熱用ゲル状組成物。
【請求項6】
前記ゲル化剤は、少なくとも2以上の極性基または2以上の反応性官能基を含む化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の放熱用ゲル状組成物。
【請求項7】
前記ゲルの形成工程として、
前記ゲル化剤として2以上の第1の反応性官能基を含む第1のゲル化剤と2以上の第2の反応性官能基を含む第2のゲル化剤とを準備する工程と、
前記イオン性液体に前記第1のゲル化剤と前記第2のゲル化剤とを溶解または分散させる工程と、
前記第1のゲル化剤と前記第2のゲル化剤とを重合させる工程と
を含む、
請求項1〜6のいずれかに記載の放熱用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7におけるイオン性液体が、導電性高分子の少なくとも一部が溶解しているイオン性液体であることを特徴とする、請求項7に記載の放熱用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項9】
発熱性の電子部品より、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル状組成物を介して、熱を逃がす事を特徴とする放熱方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−281048(P2007−281048A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102714(P2006−102714)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】