説明

放電ランプ装置、放電ランプおよび点灯回路

【課題】 始動ばらつきの少ない放電ランプ装置、放電ランプおよび点灯回路を提供する。
【解決手段】
本発明の放電ランプ装置は、内部に放電空間111を有する発光部11およびシール部12を有する内管1と、放電空間111に封入された放電媒体と、シール部12に封着された電極マウント3と、発光部11を覆うように設けられた外管とを備えた放電ランプ101と、放電ランプ101を点灯するための点灯回路105と、を具備し、放電ランプ101の内管1と外管5との間に形成された空間51にガスを封入するとともに、高圧側に設定されたシール部12の表面に導電性被膜9を形成し、始動時に点灯回路105で負極性の高圧パルスを生成し、放電ランプ101に印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前照灯などに使用される放電ランプ装置、放電ランプおよび点灯回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯などに使用される放電ランプは、特許第3596812号公報(以下、特許文献1)で知られているように、内管と外管とを具備する二重管構造となっている。この内管は、発光部とその両端に形成されたシール部とで構成されており、発光部内には希ガスや金属ハロゲン化物が封入され、シール部には電極マウントが封着されてなる。
【0003】
この種の放電ランプでは、ランプを始動させるためには、数kV〜数十kVの電圧が必要であり、始動が困難であることが知られている。そこで、特許文献1に記載のように、内管と外管とで構成された空間に誘電体バリア放電可能なガスを封入することで、ランプの始動性を改善する発明が提案されている。
【0004】
また、特開2003−529194号公報(以下、特許文献2)、特開2006−80078号(以下、特許文献3)、公報特開2007−42369号公報(以下、特許文献4)、特開2008−527623号公報(以下、特許文献5)では、発光部やシール部の外表面に導電性の被膜を形成することで、ランプの始動性を改善する発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3596812号公報
【特許文献2】特開2003−529194号公報
【特許文献3】特開2006−80078号公報
【特許文献4】特開2007−42369号公報
【特許文献5】特開2008−527623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献5の発明を採用することにより、ランプの始動性を改善することができる。しかしながら、これらの発明を採用しても、始動電圧のばらつきが大きいことがわかった。始動電圧のばらつきが大きいと、始動しないランプが発生してしまう。
【0007】
本発明の目的は、始動ばらつきの少ない放電ランプ装置、放電ランプおよび点灯回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の放電ランプ装置は、内部に放電空間を有する発光部およびシール部を有する内管と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記シール部に封着された電極マウントと、前記発光部を覆うように設けられた外管とを備えた放電ランプと、前記放電ランプを点灯するための点灯回路と、を具備する放電ランプ装置において、前記放電ランプの前記内管と前記外管との間に形成された空間にはガスが封入されているとともに、前記内管の表面には導電性被膜が形成されており、前記点灯回路では、始動時に負極性の高圧パルスが生成され、前記放電ランプに印加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、始動ばらつきの少ない放電ランプ装置、放電ランプおよび点灯回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態の放電ランプ装置について説明するための図。
【図2】放電ランプについて説明するための図。
【図3】図2の放電ランプを90°回転させた状態について説明するための図。
【図4】負極性の高圧パルスについて説明するための図。
【図5】パルス波形の測定方法について説明するための図。
【図6】実施例と従来例のランプについて、正極性、負極性の高圧パルスを印加したときの始動電圧Vsの分布について説明するための図。
【図7】導電性被膜を形成していないランプについて、正極性、負極性の高圧パルスを印加したときの始動電圧Vsの分布について説明するための図。
【図8】フォールタイムが300nsである負極性の高圧パルスについて説明するための図。
【図9】導電性被膜の変形例について説明するための図。
【図10】両高圧構成の一例(1st側に波高値は+17kV、ライズタイムは86nsの正極性のパルス、2nd側に波高値は−16kV、フォールタイムは77nsの負極性のパルスを印加)について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の放電ランプについて、図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の放電ランプ装置について説明するための図である。
【0012】
放電ランプ装置は、放電ランプ101、リフレクタ102、遮光制御板103、レンズ104、点灯回路105で構成されており、管軸が略水平の状態に配置されて使用される。
【0013】
放電ランプ101は図2や図3に示したような自動車の前照灯に用いられる、いわゆるD4タイプの放電ランプであり、主要部として内管1を有している。内管1は管軸方向に細長い形状であり、その中央付近には略楕円形の発光部11が形成されている。発光部11の両端には、ピンチシールにより形成された板状のシール部12、その両端には境界部13を介して円筒部14が連続形成されている。なお、内管1としては、例えば石英ガラスなどの耐熱性と透光性を具備した材料で構成されるのが望ましい。また、シール部12はシュリンクシールにより形成されたものであってもよい。
【0014】
この発光部11の内部には、中央が略円柱状、両端がテーパ状の放電空間111が形成されている。この放電空間111の容積は、自動車前照灯用の場合には、10mm〜40mm、さらには20mm〜30mmであるのが適当である。放電空間111には、放電媒体が封入されている。放電媒体は、金属ハロゲン化物2と希ガスとで構成されている。
【0015】
金属ハロゲン化物2は、ナトリウム、スカンジウム、亜鉛、インジウムなどのハロゲン化物で構成されている。それらの金属ハロゲン化物に結合されるハロゲンとしてはヨウ素が最適であるが、臭素や塩素などを組み合わせてもよい。また、金属ハロゲン化物の組み合わせもこれに限らず、スズやセシウムのハロゲン化物などを追加してもよい。
【0016】
希ガスは、キセノンで構成されている。希ガスは、目的によってその封入圧力を調整することができる。例えば、全光束等の特性を高めるためには、封入圧力を常温(25℃)において12atm以上にするのが望ましい。ただし、上限は製造上、現状は20atm程度である。なお、希ガスの圧力は、水中で発光部11とシール部12の境界を破壊して放電空間111内部のガスを収集、測量し、その後に放電空間111の容積を測定することにより、算出することができる。また、希ガスとしては、キセノンの他に、ネオン、アルゴン、クリプトンなどを使用したり、それらを組み合わせて使用したりすることもできる。
【0017】
ここで、放電媒体は、水銀を実質的に含んでいない。この「水銀を実質的に含んでいない」とは、水銀の封入量が0mgであるのが最適であるが、従来の水銀入りの放電ランプと比較してもほとんど封入されていないに等しい程度の量、例えば1mlあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量を封入していても許容するという意味である。
【0018】
シール部12には、電極マウント3が封着されている。電極マウント3は、金属箔31、電極32、コイル33およびリード線34により構成されている。
【0019】
金属箔31は、例えば、モリブデンからなる薄い金属板である。
【0020】
電極32は、例えば、タングステンに酸化トリウムをドープした、いわゆるトリエーテッドタングステンからなる電極である。その一端は金属箔31の発光部11側端部に重ね合わせ接続されており、他端は放電空間111内で所定の電極間距離を保って、互いの先端同士が対向するように配置されている。その電極間距離としては、自動車前照灯用の場合には、外観上における距離で4.0mm〜4.4mmであるのが望ましい。なお、電極形状は、直棒状に限らず、先端の直径が大きい非直棒状の形状や直流点灯タイプのように一対の電極の大きさが異なる形状であってもよい。また、電極材料は、純タングステンやドープタングステン、レニウムタングステンなどであってもよい。
【0021】
コイル33は、例えば、ドープタングステンからなる金属線であって、シール部12に封着される電極32の軸部の軸周りに螺旋状に巻装されている。このコイル設計としては、コイル線径は30μm〜100μm、コイルピッチは600%以下であるのが好適である。
【0022】
リード線34は、例えば、モリブデンからなる金属線である。その一端は、発光部11に対して反対側の金属箔31に重ね合わせ接続されており、他端は管軸に沿って内管1の外部に延出されている。そのうち、ランプの前端側に延出したリード線34には、例えば、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ35の一端がレーザー溶接により接続されている。このサポートワイヤ35には、内管1と平行する部分に、例えば、セラミックからなるスリーブ4が装着されている。
【0023】
上記で構成された内管1の外側には、筒状の外管5が内管1と同心状に設けられている。これら内外管の接続は、内管1の円筒部14付近に外管5の両端を溶着することにより行なわれている。内管1と外管5との間に形成された空間51には窒素が封入されている。なお、外管5としては、内管1に熱膨張係数が近く、かつ紫外線遮断性を有する材料で構成するのが望ましく、例えば、チタン、セリウム、アルミニウム等の酸化物を添加した石英ガラスを使用することができる。
【0024】
外管5が接続された内管1の一端には、ソケット6が接続されている。これらの接続は、外管5の外周面に金属バンド71を装着し、その金属バンド71をソケット6から突出形成させた金属製の舌片72で挟持することで行なっている。また、ソケット6の底部には底部端子81、側部には側部端子82が形成されており、底部端子81と側部端子82には、リード線34とサポートワイヤ35とがそれぞれ接続されている。
【0025】
そして、ソケット6側のシール部12の表面には、金属箔31と面するように、導電性被膜9が形成されている。この導電性被膜9としては、導電性(例えば、膜の抵抗が100MΩ以下、望ましくは50〜100kΩ。抵抗値は、厚みが150nmである膜の表面を、端子間を1.5mmに設定したテスターで測定したときの値とする。)と透光性、さらには耐熱性を持つ材料を使用するのが望ましい。例えばインジウムの酸化物、スズの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムとスズの酸化物であるITO、酸化亜鉛に酸化アルミニウムをドープしたAZO、酸化亜鉛に酸化ガリウムをドープしたGZO等やこれらにフッ素、ガリウム、アンチモン等をドープしたものを使用することができる。本発明では、安価な酸化スズを用いるのが特に望ましい。
【0026】
なお、導電性被膜9は、真円状に限らず、楕円状や多角形状であってもよいし、それらの形状を組み合わせたり、互いに繋げたような形状であってもよい。その結果の導電性被膜9の総面積は、5mm以上、50mm以下であるのが望ましい。また、導電性被膜9は、金属箔31と面するシール部12の表面上に限らず、例えば、電極32上やリード線34上のシール部12の表面、シール部12の側面などであってもよい。さらに、導電性被膜9は、シール部12の表面のみならず、外管5の内表面にも形成してよい。
【0027】
リフレクタ102は、放電ランプ101で生じた光を前方側に反射させるために設けられた放物線形状の金属部材である。その中央付近には、開口が形成されており、その開口端には、発光部11がリフレクタ102の内部に位置するように、放電ランプ101のソケット6の前端部分が固定されている。
【0028】
遮光制御板103は、カットラインと呼ばれる配光を形成するために設けられた金属部材である。この遮光制御板103は可動式であり、底部側前方に倒すことでロービームからハイビームへの切り替えが可能となっている。
【0029】
レンズ104は、リフレクタ102によって反射された光を集光させて所望の配光を形成するために設けられた凸レンズであり、リフレクタ102の先端側の開口に配置されている。
【0030】
点灯回路105は、放電ランプ101を始動および点灯させるための回路であり、イグナイタ回路1051とバラスト回路1052とで構成されており、放電ランプ101の底部端子81が高圧側、側部端子82が低圧側になるように接続されている。
【0031】
イグナイタ回路1051は、30kV程度の高圧パルスを生成、ランプに印加して、一対の電極32間を絶縁破壊させて放電ランプ101を始動させる回路であり、トランス、コンデンサ、ギャップ、抵抗などで構成されている。本発明においては、放電ランプ101の高圧側、すなわち導電性被膜9が形成されているシール部12側に、負極性の高圧パルスを印加するように構成している。なお、「負極性の高圧パルス」とは、図4に示すように印加直後のパルスが負側に発生するパルスのことをいい、このようなパルスはトランスの巻き方向を逆に巻くなどによって生成することができる。
【0032】
バラスト回路1052は、イグナイタ回路1051により、始動した放電ランプ101の点灯を維持するための回路であり、DC/DC変換回路、DC/AC変換回路、電流・電圧検出回路および制御回路などで構成されている。このバラスト回路1052は、例えば始動直後は安定時電力に対して2倍以上である約30〜75W、安定時は約15〜35Wを放電ランプ101に入力するように設定される。
【0033】
本発明の放電ランプの実施例の一仕様を下記に示す。
(実施例)
発光部11;石英ガラス製、放電空間111の内容積=26mm、最大内径=2.5mm、最大外径=6.2mm、長手方向の球体長=7.8mm、
シール部12;肉厚=2.4mm、幅=4.1mm、
金属ハロゲン化物2;ScI、NaI、ZnI、InBr(=1:1.5:0.4:0.01)、合計=0.4mg、
希ガス;キセノン、ガス圧=13atm、
水銀;0mg、
金属箔31;モリブデン製、長さ×幅=6.5mm×1.5mm、厚さ=0.02mm、
電極32;トリエーテッドタングステン製、直径=0.38mm、外観上の電極間距離=4.32mm、
コイル33;ドープタングステン製、線径=60μm、ピッチ=250%、
リード線34;モリブデン製、直径=0.4mm、
外管5;内径=7.0mm、肉厚=1.0mm、
空間51中のガス;窒素、ガス圧=0.1atm、
導電性被膜9;酸化スズを高圧側のシール部12上の表裏面にそれぞれ7mmづつ(総面積14mm)形成、
点灯回路105;始動時、波高値=24kV、フォールタイム(パルス波形が波高値に対して10%〜90%に変化するまでの高圧パルスの時間。)=110nsである図4の負極性の高圧パルスを印加し、始動直後は75W、その後は徐々に電力を下げ、安定時は35Wになるように設定。なお、高圧パルスの波高値とフォールタイムは、図5のように、ランプの高圧側につながる回路部分にオシロスコープOSを接続することで得られる波形から測定。
【0034】
この実施例の放電ランプ装置と、正極性の高圧パルスを印加する放電ランプ装置(以下、従来例)各複数個について、始動電圧Vsとそのばらつきを測定する試験を行った。その結果をそれぞれ図6(a)と(b)に示す。
【0035】
結果からわかるように、始動電圧Vsの平均値は、実施例も従来例も同等か従来例の方が多少低い。が、標準偏差の値から明らかなように始動電圧Vsのばらつきは、実施例の方が低い。これは、本発明のように空間51にガスを封入するとともに、高圧側のシール部12の表面に導電性被膜9を形成したランプでは、高圧パルスの投入により誘電体バリア放電を発生させることで始動を補助しているが、高圧パルスを負極性とすることで、導電性被膜9の表面から二次電子が放出されるγ効果を得られたためと考えられる。つまり、実施例では、誘電体バリア放電の発生が補助されるため、始動の確率が上がり、ばらつきが低下したと考えられる。このように始動ばらつきが小さくなると、パルス出力に余裕をもたせたトランス設計をする必要がなくなるので、トランスの小型化やコストダウンが可能となる。
【0036】
ちなみに、図7(a)は導電性被膜9を形成していないランプに正極性の高圧パルスを、(b)は負極性の高圧パルスを投入したときの始動電圧分布を示したものであるが、この結果では負極性の高圧パルスをランプに投入しても、始動電圧Vsの平均値もばらつきも正極性の場合よりも悪いことがわかる。このことからすると、空間51にガスを封入するとともに、高圧側のシール部12の表面に導電性被膜9を形成したランプにおいては、負極性の高圧パルスを投入すると優れた効果が得られるという図6(a)の結果は意外なものといえる。なお、図2のように、導電性被膜9をシール部12の両面に形成した方がさらに高い効果を期待することができる。
【0037】
次に、ランプに印加する負極性の高圧パルスのフォールタイムを変えたときの始動電圧の変化について試験した。その結果、フォールタイムにより平均始動電圧Vsとばらつきは変化することがわかった。例えば、図8のようなフォールタイムが約300nsの高圧パルスを印加した場合には、約110nsの場合と比較して、始動電圧Vsの平均値は多少低くなるが、標準偏差は1.5倍になってしまう。つまり、始動ばらつきを小さくしたい場合には、フォールタイムは短い方が好適であり、種々の試験の結果から負極性の高圧パルスのフォールタイムは180ns以下、さらには110ns以下であるのが望ましい。
【0038】
したがって、本実施の形態では、放電ランプ101の内管1と外管5との間に形成された空間51にガスとして窒素を封入するとともに、高圧側に設定されたシール部12の表面に導電性被膜9を形成し、始動時に点灯回路105で負極性の高圧パルスを生成し、放電ランプ101に印加するようにしたことで、ランプの始動を補助する誘電体バリア放電の発生を補助することができるため、ランプの始動ばらつきを小さくすることができる。その際、負極性の高圧パルスのフォールタイムを180ns以下に設定することで、さらに始動ばらつきを小さくすることができる。
【0039】
なお、本発明は、次のような構成と組み合わせるとさらに有効である。
【0040】
(1)空間51にアルゴンを封入する。
アルゴンは実施例で封入した窒素と比較すると、イオン化しやすく、すなわちイオン化エネルギーの低いガスであるので、始動時に負極性の高圧パルスを印加した場合、二次電子の放出量が増し、誘電体バリア放電が発生しやすくなる。なお、ネオンやキセノンなどの希ガスも、イオン化エネルギーが低いガスに該当するが、ネオンは発光部11の温度が低下しすぎるとともに、寿命中に空間51から抜けやすく、キセノンやクリプトンは発光部11の温度が上昇しすぎるので実用には適さない。一方、アルゴンであれば発光部11の温度を程度に維持しつつ、γ効果により、始動性をさらに改善できるので最適である。なお、アルゴンは単体に限らず、その大部分、例えば全体の90%以上がアルゴンであるような場合にはこの範囲に含まれるものとする。また、ガスの圧力は0.3atm以下、さらには0.1atm以下であるのが望ましい。
【0041】
(2)隆起部91または/および鋸歯状部92を備えた導電性被膜9を形成する。
図9のように、導電性被膜9の表面にシール部11に対して垂直方向に被膜の平坦な部分よりも延出する隆起部91や、縁部にノコギリの歯のようにギザギザ状の鋸歯状部92を形成することにより、その先端部分に電界が集中して、γ効果により電子の濃度が上昇している空間においてさらに誘電体バリア放電を誘発させやすくなる。隆起部91や鋸歯状部92はどちらか一方でも効果があるが、両方形成するのが望ましい。なお、このような導電性被膜9は、酸化スズや酢酸ブチルなどを混合してなる表面張力が低い導電性溶液9’をディスペンサー101などによりシール部12表面に対してある程度の高さから滴下・焼成することで形成することができる。
【0042】
(3)一方の電極マウント3に正極性の高圧パルス、他方の電極マウント3に負極性の高圧パルスを始動時に印加する両高圧構成とする。
図10のように、一方の電極マウント3に正極性の高圧パルス、他方の電極マウント3に負極性の高圧パルスを始動時に印加するようにすることで、良好な始動性を維持しながら、回路の小型化や絶縁性の容易確保などが可能となる。例えば、片側のみに印加する場合、始動に20kVの高圧パルスが必要であるランプでは、片側にその半分程度の10kVづつの高圧パルスを印加するだけで始動するので、出力の小さい2個のトランスなどで代用できる。このようなトランスは小型であるので、回路部材の配置設計の自由度が増すとともに、絶縁性の確保を容易に行うことができる。このメリットは、放電ランプ101とイグナイタ回路1051とが一体化されて使用されるタイプの前照灯や、さらにバラスト回路1052も一体化されて使用されるタイプの前照灯など、サイズに限りがあるランプ装置のときに特に大きい。なお、両高圧構成とする場合、正・負極性の高圧パルスは位相は同じで、極性だけ反転している波形であるのが望ましい。また、導電性被膜9は両方のシール部11の表面に形成するのが望ましい。
【0043】
ここで、正・負極性の高圧パルスの波高値は同じである必要はなく、所望により変えてもよい。例えば、1st側(ソケット側)の高圧パルスの波高値>2nd側(サポートワイヤ側)の高圧パルスの波高値としてもよい。自動車前照灯用の場合、ランプの先端部付近に配光制御のためのシェードと呼ばれる金属製の部材が配置されるため、サポートワイヤ34側に高圧パルスを印加するとそのシェードに電圧が漏れてしまうおそれがあるが、2nd側(サポートワイヤ側)の高圧パルスの波高値の比率を下げるとその漏れ発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
101 放電ランプ
1 内管
11 発光部
111 放電空間
12 シール部
3 電極マウント
5 外管
51 空間
9 導電性被膜
105 点灯回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間を有する発光部およびシール部を有する内管と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記シール部に封着された電極マウントと、前記発光部を覆うように設けられた外管とを備えた放電ランプと、
前記放電ランプを点灯するための点灯回路と、を具備する放電ランプ装置において、
前記放電ランプの前記内管と前記外管との間に形成された空間にはガスが封入されているとともに、前記内管の表面には導電性被膜が形成されており、
前記点灯回路では、始動時に負極性の高圧パルスが生成され、前記放電ランプに印加されることを特徴とする放電ランプ装置。
【請求項2】
前記放電ランプは前記発光部の両端に一対のシール部を備え、一方の前記シール部は高圧側、他方の前記シール部は低圧側になるように前記点灯回路が接続されており、前記導電性被膜は高圧側の前記シール部の表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ装置。
【請求項3】
前記負極性の高圧パルスのフォールタイムは、180ns以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電ランプ装置。
【請求項4】
前記ガスは、アルゴンであることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の放電ランプ装置。
【請求項5】
前記放電ランプは前記発光部の両端に一対のシール部を備え、前記一対のシール部の内部にはそれぞれ電極マウントが封着されており、前記点灯回路では、始動時に正極性と負極性の高圧パルスが生成され、正極性の高圧パルスは一方の前記電極マウント、負極性の高圧パルスは他方の前記電極マウントに印加されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の放電ランプ装置。
【請求項6】
内部に放電空間を有する発光部およびシール部を有する内管と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記シール部に封着された電極マウントと、前記発光部を覆うように設けられた外管とを具備する放電ランプにおいて、
前記内管と前記外管との間に形成された空間にはガスが封入されているとともに、前記内管には導電性被膜が形成されており、始動時には負極性の高圧パルスが印加されることを特徴とする放電ランプ。
【請求項7】
内部に放電空間を有する発光部およびシール部を有する内管と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記シール部に封着された電極マウントと、前記発光部を覆うように設けられた外管とを具備し、
前記内管と前記外管との間に形成された空間にはガスが封入されているとともに、前記内管の表面には導電性被膜が形成されている放電ランプを点灯するための点灯回路において、
始動時に負極性の高圧パルスを生成し、前記放電ランプに印加することを特徴とする点灯回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−29134(P2011−29134A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246663(P2009−246663)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】