説明

放電可能容量算出方法および放電可能容量算出装置

【課題】二次電池の放電可能容量を正確に算出することができる放電可能容量算出方法および該方法に用いられる放電可能容量算出装置を提供する。
【解決手段】本発明により提供される放電可能容量算出装置100は、二次電池10に出入りする電流を検出する電流センサ20と、電流センサ20で検出された電流の積算値から充電容量を算出する充電容量算出部31と、充電容量の算出値に基づいて充放電効率を推定する充放電効率推定部32と、充放電効率の推定値と充電容量の算出値とを乗算して、二次電池10の放電可能容量を算出する放電可能容量算出部33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の放電可能容量を算出する放電可能容量算出方法および該方法に用いられる放電可能容量算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている(例えば特許文献5)。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。この種のリチウムイオン電池においては、Liイオンを可逆的に吸蔵・放出し得る正極活物質が正極集電体上に保持された構成の正極を備えている。かかる正極に用いられる正極活物質の例としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。
【0003】
ところで、このようなリチウムイオン電池を有効に活用するためには、リチウムイオン電池に残存している残存容量を正確に把握することが望まれる。そこで、従来から、リチウムイオン電池に出入りする充放電電流を積算して残存容量を求める方法や、リチウムイオン電池の開放電圧に基づいて残存容量を求める方法が提案されている(特許文献1〜3等)。例えば、充放電電流の積算から残存容量を求める場合には、充電時にリチウムイオン電池に流れ込む電気量と、放電時にリチウムイオン電池から流れ出す電気量とを積算することによって、リチウムイオン電池に残存している電気量を求めている。
【0004】
また、この種のリチウムイオン電池では、通常、リチウムイオン電池に残存している電気量(以下、充電容量という。)と、実際に電力として取り出すことができる電気量(以下、放電可能容量という。)とは相違する。そこで、電流積算から算出した充電容量に一定の係数を乗算した値を、放電可能容量として算出する。図1は充電容量と放電可能容量との関係を示すグラフである。図1のL2に示すように、充電容量と放電可能容量との間には、通常、比例関係が成立する。そのため、充電容量に対する放電可能容量の比率を示す充放電効率(「放電可能容量/充電容量」×100)は、充電容量の増減にかかわらず一定になる。したがって、充電容量に充放電効率を乗算することによって放電可能容量を算出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−185719号公報
【特許文献2】特開平10−319100号公報
【特許文献3】特開平7−191106号公報
【特許文献4】特開2001−325988号公報
【特許文献5】特許第3304835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、正極に用いられる正極活物質の他の例として、LiFePOやLiMnPO等のオリビン型構造を有するリン酸リチウム化合物が挙げられる。かかるオリビン型リン酸リチウム化合物は、理論容量が高く、低コストで充電時の熱安定性に優れることから、有望な正極活物質として注目されている(例えば特許文献4)。しかしながら、オリビン型リン酸リチウム化合物を正極に用いたリチウムイオン電池では、従来の算出方法(充電容量に一定の係数を乗算する方法)では、正確な放電可能容量を算出することができない場合があった。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、二次電池の放電可能容量を正確に算出することができる放電可能容量算出方法を提供することである。また、他の目的は、そのような方法を好ましく実現し得る放電可能容量算出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、オリビン型リン酸リチウム化合物を正極に用いたリチウムイオン電池では、図1のL1に示すように、充電容量と放電可能容量とが比例関係にならず、充電容量に対して充放電効率が一定ではないことを見出した。具体的には、図2に示すように、充放電効率の値は、充電容量の増加とともに徐々に減少していくことを見出した。この場合には、充電容量の増減とともに充放電効率の値が変動するため、従来のように単に充電容量に一定の係数を乗算しただけでは、そのときの充電容量に応じて変動する実際の充放電効率との間に誤差が生じ、正確な放電可能容量を算出することができなくなる。本発明は、かかる知見に基づいて、充電容量に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定するというアプローチによって、放電可能容量を精度よく算出するものである。
【0008】
すなわち、本発明によると、二次電池の放電可能容量を算出する方法が提供される。この方法は、上記二次電池に出入りする電流を検出する電流検出ステップと、上記検出された電流の積算値から充電容量を算出する充電容量算出ステップと、上記充電容量の算出値に基づいて充放電効率の値を推定する充放電効率推定ステップと、上記充放電効率の推定値と上記充電容量の算出値とを乗算して、上記二次電池の放電可能容量を算出する放電可能容量算出ステップとを包含する。上記充放電効率の推定は、例えば、各充電容量の値ごとに、実際に測定された充放電効率の値を記憶したマップ(例えばテーブル)を作成し、該マップを参照して上記充電容量の算出値に対応する充放電効率を求めることにより行うとよい。あるいは、充電容量をパラメータとして充放電効率の値を計算する演算式を作成し、該演算式を用いて上記充電容量の算出値に対応する充放電効率を求めることにより行うとよい。
【0009】
本発明の方法によれば、二次電池に出入りする電流の積算値から充電容量を算出し、充電容量の算出値に基づいて充放電効率の値を推定し、充放電効率の推定値と充電容量の算出値とを乗算して放電可能容量を算出するので、充放電効率の値が充電容量の増減によって変動する場合でも、マップや演算式を用いることで、充電容量に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができ、放電可能容量を精度よく算出することができる。
【0010】
また、本発明によると、上記放電可能容量算出方法を好ましく実現することができる放電可能容量算出装置が提供される。かかる装置は、上記二次電池に出入りする電流を検出する電流センサ(上記二次電池に入る電流および上記二次電池から出る電流の少なくとも一方を検出し得るものであればよい。)と、上記電流センサで検出された電流の積算値から充電容量を算出する充電容量算出部と、上記充電容量の算出値に基づいて充放電効率を推定する充放電効率推定部と、上記充放電効率の推定値と上記充電容量の算出値とを乗算して、上記二次電池の放電可能容量を算出する放電可能容量算出部とを備える。かかる装置によれば、上記放電可能容量算出方法を好ましく実現することができる。
【0011】
ここで開示される装置のある好適な一態様において、上記充放電効率と充電容量との関係を示すマップを記憶した記憶部を備える。そして、上記充放電効率推定部は、上記マップを参照して上記充電容量の算出値に対応する上記充放電効率の値を推定し得るように構成されている。このようなマップを用いることにより、充電容量に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができるので、放電可能容量の算出精度が向上する。
【0012】
ここで開示される装置のある好適な一態様において、上記充放電効率と充電容量との関係を示す演算式を記憶した記憶部を備える。そして、上記充放電効率推定部は、上記演算式を用いて上記充電容量の算出値に対応する上記充放電効率の値を推定し得るように構成されている。このような演算式を用いることにより、充電容量に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができるので、放電可能容量の算出精度が向上する。
【0013】
ここで開示される装置のある好適な一態様において、上記マップまたは演算式は、放電レート(放電電流量)ごとに設定されている。この構成を用いれば、マップまたは演算式が放電レートごとに設定されているので、充放電効率の値が放電レートの大きさによって変動する場合でも、放電レートの大きさに応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができ、放電可能容量を精度よく算出することができる。
【0014】
ここで開示される方法のある好適な一態様において、上記二次電池は、オリビン型リン酸リチウム化合物を含む正極を備えたリチウム二次電池である。オリビン型リン酸リチウム化合物を含む正極を備えたリチウム二次電池では、充電容量の増減や放電レートの大きさによって充放電効率の値が大きく変動するため、本発明を適用することによる効果が特に大きい。
【0015】
このような放電可能容量算出装置は、例えば自動車等の車両に搭載される二次電池用の放電可能容量算出装置として好適である。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかの放電可能容量算出装置を備える車両が提供される。特に、軽量で高出力が得られることから、リチウム二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】充電容量と放電可能容量との関係を説明するための図。
【図2】充放電効率と充電容量との関係を説明するための図。
【図3】本発明の一実施形態に係る放電可能容量算出装置のブロック図。
【図4】本発明の一実施形態に係る演算部の処理手順を説明するためのフローチャート。
【図5】本発明の一実施形態に係る充放電効率−充電容量マップ。
【図6】本発明の一実施形態に係る充放電効率特性図。
【図7】本発明の一実施形態に係る放電可能容量算出装置を搭載した車両の側面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定する意図ではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0018】
特に限定することを意図したものではないが、以下では主として本発明を車両に搭載されるリチウムイオン電池に適用する場合を例として本発明を詳細に説明する。図7に示すように、車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)には、電力を蓄える蓄電デバイスとしてのリチウムイオン電池10と、リチウムイオン電池10の放電可能容量を算出する装置100が搭載されている。
【0019】
リチウムイオン電池10は、典型的な車両に搭載される二次電池と同様、所定の電池構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ等)から構成されている。この実施形態では、正極活物質(オリビン型LiFePO)を用いて形成された正極と、負極活物質(炭素系材料)を用いて形成された負極とを有しており、電解液には、適当な非水溶媒にリチウム塩を含有させた非水電解液が用いられている。
【0020】
リチウムイオン電池10には、図3に示すように、充電器60が接続されている。充電器60は、図示しない充電スイッチのオンによりリチウムイオン電池10への充電を開始するようになっている。また、リチウムイオン電池10には、放電可能容量算出装置100が接続されている。放電可能容量算出装置100は、リチウムイオン電池10の放電可能容量を算出するための装置であり、電流センサ20と、演算ユニット30とから構成されている。電流センサ20は、リチウムイオン電池10に接続され、該リチウムイオン電池10に出入りする電流(充電電流及び放電電流)を検出する。また、電流センサ20は、演算ユニット30に接続され、検出した電流情報を演算ユニット30に出力するようになっている。
【0021】
演算ユニット30は、電子的な処理装置であり、電流センサ20からの電流情報に基づいて、図4に示す処理に従って、リチウムイオン電池10の放電可能容量を算出する。演算ユニット30は、CPUやMPUなどで構成された演算機能を有する演算部34と、不揮発性メモリーなどで構成された記憶部38とを備えている。
【0022】
記憶部38には、演算部34における処理に必要なプログラム等の各種データが格納されている。また、記憶部38には、リチウムイオン電池10の充放電効率と充電容量との関係を示すマップ36が記憶されている。このマップ36は、各充電容量の値ごとに、実際に測定された充放電効率のデータを記憶して構成されたものである。図5にマップの一例を示す。なお、図5では、充電容量を充電率(SOC)に変換して示している。充電率は、正極理論容量より予測した電池容量に対する充電容量の比率であり、具体的には、充電率(%)=「充電容量(mAh)/電池容量(mAh)」×100で表わされる。図5に示すように、マップ36は、各充電容量の値ごとに、実際に測定された充放電効率のデータを記憶して構成されている。具体的には、充電率の値を適当な範囲(ここでは20%)ごとに分類し、各範囲の充電率に対する充放電効率の値を実際に測定して記憶部38に記憶している。
また、この実施形態では、マップ36は、放電レートごとに設定されている。具体的には、所定の放電レート(ここでは1C,3C,5C)ごとに、各放電レートに対する充放電効率の値を実際に測定して記憶部38に記憶している。また、記憶部38には放電レートの設定値37が記憶されている。この設定値37は、例えば運転者からの入力に応じて適宜設定することができる。この実施形態では、1C,3C,5Cの何れかに設定され得る。なお、記憶部38は、放電可能容量算出装置100に内蔵された記憶媒体以外にもコンピュータで読み出し可能な記録媒体(例えば、光記録媒体、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、フラッシュメモリなど)であってもよい。
【0023】
演算部34は、記憶部38に記憶されたプログラムを実行可能である。本実施形態においては、この演算プログラムの一つとして、放電可能容量算出プログラムを実行する。この算出プログラムは、リチウムイオン電池10の放電可能容量の算出を行う。このため、放電可能容量算出プログラムは、充電容量算出部31と、充放電効率推定部32と、放電可能容量算出部33とを備えている。
【0024】
充電容量算出部31は、電流センサ20で検出された電流の積算値からリチウムイオン電池10に蓄えられた充電容量を算出する。この実施形態では、充電時にリチウムイオン電池10に流れ込む充電電流と、放電時にリチウムイオン電池10から放出される放電電流を積算(時間積分)することによって、リチウムイオン電池の充電容量を算出する。充放電効率推定部32は、図5のマップを参照して、充電容量算出部31により得られた充電容量の算出値に対応する充放電効率の値を推定する。すなわち、充放電効率と充電容量との関係が図5のように変化するため、この関係から充電容量に応じた充放電効率の値を推定する。放電可能容量算出部33は、充放電効率推定部32により得られた充放電効率の推定値と充電容量の算出値とから、以下の演算式(1)を用いて、リチウムイオン電池の放電可能容量を算出する。すなわち、充放電効率の推定値と充電容量の算出値とを乗算して、放電可能容量を算出する。
【0025】
放電可能容量(mAh)=[充電容量(mAh)×充放電効率]/100・・(1)
【0026】
続いて、演算部34によって実行される処理について図4のフローチャートに沿ってさらに説明する。図4は、電池充電時における演算部34の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0027】
図4に示すように、まず、充電器60の充電スイッチがオンにされると、演算部34は、電流センサ20から送られてくる充電電流の情報を読み込み(ステップS10)、充電電流の積算(時間積分)を開始する。そして、充電が終わると、充電開始から充電終了までの充電電流を時間積分し、その積算値からリチウムイオン電池10に蓄えられている充電容量を算出する(ステップS20)。
【0028】
続いて、演算部34は、ステップS20で得られた充電容量の算出値に基づいて充放電効率を推定する(ステップS30)。この実施形態では、図5のマップを参照し、充電容量の算出値と放電レートの設定値に対応する充放電効率の値を読み出す。例えば、充電容量の算出値が60%で放電レートの設定値が3Cの場合、充放電効率の推定値は91.2%となる。
【0029】
ここで、図6は、図5のマップを特性図により示すものである。図6に示すように、充放電効率の値は、充電容量の増加とともに徐々に減少していく。したがって、ステップS30の処理では、充電容量の算出値が大きいほど小さい値の充放電効率の値が推定されるようになっている。また、充放電効率の値は、放電レート(放電電流量)の増加とともに減少する傾向がある。したがって、ステップS30の処理では、放電レートが大きいほど小さい値の充放電効率の値が推定されるようになっている。このようにして、リチウムイオン電池10の実際の特性に適合した充放電効率の値が推定され得る。
【0030】
このようにして充放電効率の値を推定した後、演算部34は、充放電効率の推定値と充電容量の算出値とから、前記(1)式を用いて、リチウムイオン電池10の放電可能容量を算出する(ステップS40)。
【0031】
本実施形態の放電可能容量算出方法によれば、リチウムイオン電池10に出入りする電流の積算値から充電容量を算出し(ステップS20)、充電容量の算出値に基づいて充放電効率の値を推定し(ステップS30)、充放電効率の推定値と充電容量の算出値とを乗算して放電可能容量を算出するので(ステップS40)、図1及び図2のように充電容量と放電可能容量とが比例関係にならず、充電容量に対して充放電効率が一定ではない場合でも、図5のマップを用いることで、充電容量に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができ、放電可能容量を精度よく算出することができる。加えて、図5のマップは、放電レートごとに設定されているので、充放電効率の値が放電レートの大きさによって変動する場合でも、放電レートの大きさに応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができ、放電可能容量の算出精度がさらに向上する。
【0032】
このようにして得られた放電可能容量の情報は、車両電子制御ユニット(図示せず)に出力することができる。車両電子制御ユニットは、演算ユニット30で算出された正確な放電可能容量に基づいて車両駆動等の各種制御を実行する。また、得られた放電可能容量の情報は、表示部(モニタ)50に出力することができる。表示部50は、演算ユニット30で算出された正確な放電可能容量を運転者等に表示する。なお、放電可能容量を別の物理量に変換することも可能である。例えば、放電可能容量(mAh)に端子間電圧(V)を乗算して使用可能エネルギー(Wh)を算出し、これを表示部50に表示するようにしてもよい。あるいは、放電可能容量(mAh)から予測される車両の走行可能距離を算出し、これを表示部50に表示することも可能である。
【0033】
なお、充放電効率の推定に用いられるマップは、図5に示したテーブルに限らない。例えば、充電容量と充放電効率との関係を示す演算式であってもよい。すなわち、充放電効率と充電容量との関係は、図6に示すように、右下がりの直線L3,L4で表わされ、充放電効率の値は、充電容量(充電率)が大きくなるほど徐々に減少していく。この場合、充放電効率を充電率の一次式(直線L3,L4)で近似し、以下の式(2)を計算することにより充放電効率の値を求めることができる。ここで、式中のAは直線L3,L4の傾きから得られる負の定数(A<0)であり、Bは充電率が0%のときの充放電効率に相当し、直線L3,L4の切片から得られる。ステップS30の処理では、充電容量の算出値に基づいて以下の式(2)の計算を行うことにより、充電容量(ここでは充電率)に応じて変動する充放電効率の値を正確に推定することができる。
【0034】
充放電効率(%)=A×充電率(%)+B・・・(2)
【0035】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムを含むいわゆるオリビン型のリン酸リチウム化合物(例えばLiFePO,LiMnPO等)を主成分とする正極活物質を用いたリチウムイオン電池が挙げられる。中でも、LiFePOを主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にLiFePOからなる正極活物質)への適用が好ましい。オリビン型リン酸リチウム化合物を含む正極を備えたリチウム二次電池では、図6に示すように、充放電効率の値が充電容量の増減とともに大きく変化していくため、本発明を適用することが特に有用である。上記オリビン型リン酸リチウム化合物は、典型的には一般式LiMPOで表される。式中のMは、少なくとも一種の遷移金属元素であり、例えば、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、Cr、Ti、及びVから選択される一種または二種以上の元素であり得る。
【0036】
なお、上述した例では、充電器60による電池充電後の放電可能容量を算出する場合について説明してきたが、これに限らず、電池放電後の放電可能容量を算出することもできる。この場合、充放電効率の推定に用いられるマップは、充電時と放電時とで共通のマップを用いてもよいし、充電時と放電時とで異なるマップを用いてもよい。充電時と放電時とで充放電効率と充電容量との関係が異なる場合は、充電時と放電時とで異なるマップを用いて充放電効率の推定を行うことが望ましい。あるいは、電池放電後の放電可能容量は、電池充電後の放電可能容量から放電時に放出された電気量(放電電流の積算値)を差し引くことによって算出することも可能である。
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0038】
<リチウム二次電池の組み立て>
正極活物質としてのLiFePO粉末と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が85:5:10となるようにN−メチルピロリドン(NMP)中で混合して、ペースト状の正極活物質層用組成物を調製した。このペースト状正極活物質層用組成物をアルミニウム箔(正極集電体)に塗布して乾燥することにより、該正極集電体に正極活物質層が設けられた正極シートを得た。
【0039】
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、結着剤としてのスチレン‐ブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が95:2.5:2.5となるように水中で混合して、ペースト状の負極活物質層用組成物を調製した。このペースト状負極活物質層用組成物を銅箔(正極集電体)に塗布して乾燥することにより、該負極集電体に負極活物質層が設けられた負極シートを得た。このとき、正極の理論容量と負極の理論容量の比率が1:1.5となるように塗布量を調整した。
【0040】
そして、正極シート及び負極シートを2枚のセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を介して捲回し、該捲回した捲回体を側面方向から押し潰すことによって扁平状の捲回電極体を作製した。このようにして得られた捲回電極体を非水電解液とともに内容積100ccの電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを5:5の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を使用した。このようにしてリチウムイオン電池10を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って試験用のリチウムイオン電池を得た。
【0041】
<マップ及び演算式の作成>
以上のように得られた試験用リチウムイオン電池に対し、適当なコンディショニング(初期充放電)処理を行い、その後、図5に示した所定の充電率毎に、及び、所定の放電レート毎に、充放電効率を測定した。具体的には、充電率20%、放電レート3Cの場合には、試験用リチウムイオン電池に対し、充電率0%の状態から正極理論容量より予測した電池容量の1/5(0.2C)の定電流にて充電率が電流積算(電流値の時間積分)で20%となるまで充電を行い、その際に流れた電流量を充電容量として算出した。次いで、正極理論容量より予測した電池容量の3Cの定電流にて下限電圧が2.0Vになるまで放電を行い、その際に流れた電流量を放電容量として算出した。そして、充放電効率は、[放電容量/充電容量]×100より算出した。
このようにして得られた充電容量(充電率)−充放電効率マップが図5に示したものである。また、得られた充放電効率の特性図(図6)から充電容量と充放電効率との関係を直線で近似し、直線の傾きAおよび切片Bから下記の演算式を導出した。
【0042】
放電レート1C:充放電効率=−0.05×充電率+101・・・(3)
【0043】
放電レート3C:充放電効率=−0.225×充電率+104.5・・・(4)
【0044】
表1に、図5のマップを用いて算出した放電可能容量と、上記演算式(4)を用いて算出した放電可能容量と、実際に測定された放電容量(実測値)とのズレを示す。なお、表1では、放電可能容量は、正極理論容量より予測した電池容量に対する放電可能容量の比率(「放電可能容量/電池容量」×100)で表してある。表1から明らかなように、マップ・演算式を用いずに算出した放電可能容量(ここでは充放電効率=100%と規定し、放電可能容量=充電容量とした。)は、実測値からのズレが大きいのに対し、演算式(4)を用いて算出した放電可能容量は、実測値からのズレが殆ど無く、図5のマップを用いて算出した放電可能容量は、実測値からのズレが全くなかった。このことから、図5のマップ及び演算式(4)を用いることにより、放電可能容量の算出精度が向上することが確かめられた。
【0045】
【表1】

【0046】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
10 二次電池
20 電流センサ
30 演算ユニット
31 充電容量算出部
32 充放電効率推定部
33 放電可能容量算出部
34 演算部
36 マップ
37 放電レートの設定値
38 記憶部
50 表示部
60 充電器
100 放電可能容量算出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の放電可能容量を算出する装置であって、
前記二次電池に接続され、該二次電池に出入りする電流を検出する電流センサと、
前記電流センサで検出された電流の積算値から充電容量を算出する充電容量算出部と、
前記充電容量の算出値に基づいて充放電効率の値を推定する充放電効率推定部と、
前記充放電効率の推定値と前記充電容量の算出値とを乗算して、前記二次電池の放電可能容量を算出する放電可能容量算出部と、
を備えた、放電可能容量算出装置。
【請求項2】
前記二次電池の充放電効率と充電容量との関係を示すマップを記憶した記憶部を備え、
前記充放電効率推定部は、前記マップを参照して前記充電容量の算出値に対応する前記充放電効率の値を推定し得るように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記二次電池の充放電効率と充電容量との関係を示す演算式を記憶した記憶部を備え、
前記充放電効率推定部は、前記演算式を用いて前記充電容量の算出値に対応する前記充放電効率の値を推定し得るように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記マップまたは演算式は、放電レートごとに設定されている、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記二次電池は、オリビン型リン酸リチウム化合物を含む正極を備えたリチウム二次電池である、請求項1から4の何れか一つに記載の装置。
【請求項6】
前記充放電効率推定部は、前記充電容量の算出値が大きいほど小さい値の充放電効率の値を推定し得るように構成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記充放電効率推定部は、放電レートが大きいほど小さい値の充放電効率の値を推定し得るように構成されている、請求項1から6の何れか一つに記載の装置。
【請求項8】
二次電池の放電可能容量を算出する方法であって、
前記二次電池に出入りする電流を検出する電流検出ステップと、
前記検出された電流の積算値から充電容量を算出する充電容量算出ステップと、
前記充電容量の算出値に基づいて充放電効率の値を推定する充放電効率推定ステップと、
前記充放電効率の推定値と前記充電容量の算出値とを乗算して、前記二次電池の放電可能容量を算出する放電可能容量算出ステップと、
を包含する、放電可能容量算出方法。
【請求項9】
前記二次電池は、オリビン型リン酸リチウム化合物を含む正極を備えたリチウム二次電池である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から7の何れか一つに記載の放電可能容量算出装置を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−76976(P2011−76976A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229646(P2009−229646)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】