説明

放電装置

【課題】簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させる。
【解決手段】放電装置10Aは、直流電源部18の両端に直列接続されたトランス24、第1半導体スイッチ26及び第2半導体スイッチ28と、トランス24の出力側に接続されたリアクタ14とを有し、第1半導体スイッチ26のターンオンに伴うトランス24への誘導エネルギーの蓄積と、第1半導体スイッチ26のターンオフに伴うトランス24での高電圧の発生と、該高電圧によるリアクタ14での放電の発生が行われる。リアクタ14は、一対の電極と、該一対の電極間に介在された誘電体と空間とを有する。そして、トランス24の二次側にリアクタ14と直列にインダクタンス54を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な回路構成にて、低い電圧の直流電源部からインダクタに蓄積させた電磁エネルギーを開放することにより、誘電体を有するリアクタにおいて放電の発生を行わせる放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、高電圧パルスの放電によるプラズマにより、脱臭、殺菌、有害ガスの分解等を行う技術が適応されるようになってきたが、このプラズマを発生させるために高電圧の極めて幅の狭いパルスを供給できる高電圧パルス発生回路が必要となる。
【0003】
そこで、従来においては、例えば特許文献1に示すような高電圧パルス発生回路が提案されている。この高電圧パルス発生回路200は、図6に示すように、直流電源部202の両端にトランス204、第1半導体スイッチ206及び第2半導体スイッチ208を直列に接続し、第1半導体スイッチ206のアノード端子に一端が接続されたトランス204の一次巻線の他端にカソード、第1半導体スイッチ206のゲート端子にアノードとなるようにダイオード210を接続した極めて簡単な回路である。
【0004】
そして、第2半導体スイッチ208をオンすることにより、第1半導体スイッチ206も導通し、トランス204の一次巻線に直流電源部202の電圧が印加され、該トランス204に誘導エネルギーが蓄積される。その後、第2半導体スイッチ208をオフさせると、第1半導体スイッチ206も急速にターンオフするため、トランス204の二次巻線に非常に急峻に立ち上がる極めて幅の狭い高電圧パルスが発生し、出力端子212及び214より高電圧Voを取り出すことができる。
【0005】
この高電圧パルス発生回路200によれば、高電圧が印加される半導体スイッチを複数個使用することなく、簡単な回路構成で、急峻な立ち上がり時間と極めて狭いパルス幅を有する高電圧Voを供給することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−72994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した高電圧パルス発生回路200の出力端子212及び214間にリアクタを接続し、該リアクタにて放電を発生させることが考えられる。特に、無声放電は、アーク放電にならず安定した非平衡プラズマ状態を作り出せることや印加電圧波形に対する制約が少ない等の利点がある。無声放電のリアクタとしては、一対の電極を有し、該一対の電極間に誘電体と空間とを介在させたリアクタを用いることが考えられる。誘電体としては、例えばアルミナが用いられる。
【0008】
ここで、図7〜図10を参照しながら一対の電極間に誘電体305と空間が介在されたリアクタ300での放電作用について説明する。
【0009】
まず、リアクタ300は、図7及び図8に示すように、誘電体305を構成する上下に配された2つのアルミナ板(上アルミナ板302及び下アルミナ板304)と、上アルミナ板302と下アルミナ板304との間に形成される空間306の間隔を一定に保つための支持板308と、上アルミナ板302の上面に配された上部電極310と、下アルミナ板304の下面に設けられた下部電極312(図8参照)とを有する。
【0010】
このリアクタ300を等価回路で示すと、図9に示すように、上アルミナ板302及び下アルミナ板304による誘電体305のキャパシタンスCcと、空間306によるキャパシタンスCgとが直列に接続された構成となる。
【0011】
空間306に加わる電圧(空間放電電圧Vg)は未知であるが、リアクタ300全体に印加される電圧(出力電圧Vo)とキャパシタンスCcに加わる電圧(誘電体305の充電電圧Vc)がわかれば、以下の関係式から求めることができる。
Vg=Vo−Vc
【0012】
誘電体305の充電電圧Vcは、電荷をQ、リアクタ300に流れる電流をIoとすると、
Vc=Q/Cc=(1/Cc)×∫Iodt
となる。
【0013】
そして、図9に示すように、高電圧パルス発生回路200の出力端子212及び214間にリアクタ300を接続して、上述した通常の回路動作を行い、第1半導体スイッチ206をオフにした後にリアクタ300に印加される電圧(出力電圧Vo)の波形は、図10に示すように、まず、リアクタ300間に順方向のピーク電圧Vp1が現れ、続いて逆方向のピーク電圧Vp2が現れる波形となる。誘電体305に印加される電圧(誘電体305の充電電圧Vc)の波形は、出力電圧Voの順方向のピーク電圧Vp1が現れる時点において順方向のピーク電圧Vpとなる波形を示す。
【0014】
一方、空間放電電圧Vgは、上述した計算式に基づいてプロットしてもわかるように、順方向の出力電圧Voの期間において、ある一定の正電圧Vg1にクランプされ、逆方向の出力電圧Voの期間において、ある一定の負電圧Vg2にクランプされる。
【0015】
従って、リアクタ300の空間306は、等価回路的にみると、図9に示すように、2つのツェナーダイオード314a及び314bをアノード端子同士を接続した直列回路316と、キャパシタンスCgとを並列接続した構成となる。
【0016】
次に、リアクタ300に印加される電圧(出力電圧Vo)等の動きについて図10も参照しながら説明する。
【0017】
まず、第2の半導体スイッチ208をオンにすることによって、第1半導体スイッチ206が導通し、トランス204の励磁インダクタンスに電流が流れ、該トランス204に誘導エネルギーが蓄積される。その後、時点t10において、第2半導体スイッチ208をオフさせると、トランス204の励磁インダクタンスに流れていた電流は、リアクタ300に転流する。
【0018】
この初期段階では、リアクタ300の空間306のキャパシタンスCgに電流Igが流れて該キャパシタンスCgを充電し(図9の破線P参照)、放電電圧になった時点で空間306の電圧がクランプされ(順方向の放電電圧Vg1にてクランプ)、電流Ioは直列回路316を流れる(図9の破線Q参照)。このとき、誘電体305も同時に急速に充電が始まり、誘電体305にエネルギーが蓄積される。
【0019】
リアクタ300に流れる電流Ioが零になった時点t11で誘電体305の充電が終了すると同時に、誘電体305に蓄積されたエネルギーの一部が放電によって消費される。
【0020】
その後、電流Ioが逆方向に流れ、これにより、リアクタ300の空間306の静電容量Cgに電流Igが流れて該静電容量が充電され(図9の破線R参照)、放電電圧になった時点で空間306の電圧がクランプされ(逆方向の放電電圧Vg2にてクランプ)、電流Ioは直列回路316を流れる(図9の破線S参照)。このとき、誘電体305に残っていたエネルギーの一部が放電によって消費される。リアクタ300にて消費されなかったエネルギーは、直流電源部202(図6参照)に戻ることになる。その結果、誘電体305の充電電圧Vcはほぼ0Vに近い値となる。
【0021】
従って、図6に示す高電圧パルス発生回路200において、第1半導体スイッチ206と並列で、且つ、第1半導体スイッチ206のカソード側をアノードとするようにダイオード318を接続することによって、誘電体305を有するリアクタ300で放電(誘電体バリア放電)を行わせた場合、放電に使用されなかった余分なエネルギーを直流電源部202に回生することができる。
【0022】
しかしながら、このエネルギーの回生に耐え得る順方向電圧特性のよいダイオードがあまり市場に出回っていないことから、コスト的に不利になる。市場に供給されている順方向電圧特性のよいダイオードを使用しても、特性上限界があることから、回路損失を伴い、エネルギーの回生効率の低下、ひいては電源効率の低下につながるという問題がある。
【0023】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる放電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る放電装置は、直流電源部の両端に直列接続されたトランス及び少なくとも1つの半導体スイッチと、前記トランスの二次側に接続されたリアクタとを有し、前記半導体スイッチのターンオンに伴う前記トランスへの誘導エネルギーの蓄積と、前記半導体スイッチのターンオフに伴う前記トランスでの高電圧の発生と、前記高電圧による前記リアクタでの放電の発生が行われる放電装置において、前記トランスの二次側に前記リアクタと直列にインダクタンスが接続されていることを特徴とする。
【0025】
これにより、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる。
【0026】
そして、本発明において、前記リアクタは、一対の電極と、該一対の電極間に介在された誘電体と空間とを有するようにしてもよい。
【0027】
また、本発明において、前記インダクタンスに並列にダイオードが接続されていてもよい。
【0028】
この場合、前記トランスでの高電圧の発生に伴って、前記トランスの二次側において一方向に電流が流れることで前記リアクタで順放電が発生し、その後、前記トランスの二次側において逆方向に電流が流れることで前記リアクタで逆放電が発生する場合においては、前記ダイオードを、前記トランスの二次側に流れる前記一方向の電流の方向に対して順方向に接続することが好ましい。
【0029】
すなわち、前記トランス、前記リアクタ及び前記インダクタンスの順番で接続されている場合、前記ダイオードは、前記トランスと前記インダクタンスとの間にカソードを接続し、前記インダクタンスと前記リアクタとの間にアノードを接続する。
【0030】
あるいは、前記トランス、前記インダクタンス及び前記リアクタの順番で接続されている場合、前記ダイオードは、前記トランスと前記インダクタンスとの間にアノードを接続し、前記インダクタンスと前記リアクタとの間にカソードを接続する。
【0031】
前記インダクタンスは、前記トランスの二次側におけるインダクタンスの10倍以上の値を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明に係る放電装置によれば、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る放電装置の実施の形態例を図1〜図5を参照しながら説明する。
【0034】
まず、第1の実施の形態に係る放電装置10Aは、図1に示すように、高電圧パルス発生回路12とリアクタ14とを有する。
【0035】
高電圧パルス発生回路12は、直流電源15(電源電圧Vdc)と高周波インピーダンスを低くするコンデンサ16とを有する直流電源部18の両端20及び22に直列接続されたトランス24、第1半導体スイッチ26及び第2半導体スイッチ28を有する。
【0036】
トランス24は、一次巻線30と二次巻線32を有し、該トランス24の二次巻線32の両端36及び38(出力端子)から高電圧が取り出されるようになっている。すなわち、二次巻線32の出力端子36及び38には、リアクタ14が接続される。このトランス24における一次巻線の一端40には、第1半導体スイッチ26のアノード端子が接続されている。
【0037】
また、第1半導体スイッチ26のゲート端子Gとトランス24における一次巻線30の他端42との間にダイオード部44が接続されている。該ダイオード部44は、並列とされた2つのダイオード44a及び44bを有し、各ダイオード44a及び44bのアノード端子が第1の半導体スイッチ26のゲート端子Gに接続されている。
【0038】
なお、第1半導体スイッチ26に対して並列にダイオード46が接続されている。つまり、ダイオード46は、そのアノード端子及びカソード端子が、第1半導体スイッチ26のカソード端子及びアノード端子に接続され、第1半導体スイッチ26に対して逆並列接続されている。
【0039】
図1の例では、第2半導体スイッチ28が直流電源部18の負極端子22側に設けられているが、正極端子20側に設けても同じ効果をもたらすことはいうまでもない。また、出力もトランス24からではなく、第1半導体スイッチ26の両端から取り出すようにしてもよい。
【0040】
第2半導体スイッチ28は、自己消弧形あるいは転流消弧形のデバイスを用いることができるが、この例では、アバランシェ形ダイオードが逆並列で内蔵された電力用金属酸化半導体電界効果トランジスタを使用している。第2半導体スイッチ28のゲート端子とソース端子間には、ゲート駆動回路48からの制御信号Scが供給されるようになっている。
【0041】
第1半導体スイッチ26は、電流制御形のデバイス又は自己消弧形あるいは転流消弧形のデバイスを用いることができるが、この第1の実施の形態では、ターンオフ時の電圧上昇率(dv/dt)に対する耐量が極めて大きく、且つ、電圧定格の高いSIサイリスタを用いている。
【0042】
一方、リアクタ14は、高電圧パルス発生回路12におけるトランス24の出力端子36及び38間に接続され、図7及び図8と同様の構成を有する。すなわち、誘電体305を構成する上下に配された2つのアルミナ板(上アルミナ板302及び下アルミナ板304)と、上アルミナ板302と下アルミナ板304との間に形成される空間306の間隔を一定に保つための支持板308と、上アルミナ板302の上面に配された上部電極310と、下アルミナ板304の下面に設けられた下部電極312とを有する。
【0043】
このリアクタ14を等価回路で示すと、誘電体305(上アルミナ板302及び下アルミナ板304)によるキャパシタンスCcと、空間306によるキャパシタンスCgとが直列に接続され、さらに、2つのツェナーダイオード50a及び50bをアノード端子同士を接続した直列回路52を、キャパシタンスCgに並列に接続した構成となる。
【0044】
そして、この第1の実施の形態に係る放電装置10Aは、トランス24の二次側にリアクタ14と直列にインダクタンス54が接続されている。このインダクタンス54としては、回路素子としてのインダクタンス、すなわち、リアクトルを接続するようにしてもよいし、トランス24の二次巻線32とリアクタ14との間に接続されている配線によるインダクタンスでもよい。配線によるインダクタンスの場合、部品点数を増加させる必要がないため、配線作業並びにコスト的にも有利である。また、インダクタンス54として、トランス24の漏れインダクタンスを含むようにしてもよい。
【0045】
次に、第1の実施の形態に係る放電装置10Aの回路動作について図1の回路図と図2の波形図とを参照しながら説明する。なお、図2は、トランス24の二次側、特に、リアクタ14に印加される出力電圧Vo、リアクタ14の空間306に印加される電圧Vg、リアクタ14の誘電体305に印加される電圧Vc、リアクタ14に流れる出力電流Io、リアクタ14の空間306に流れる電流Igの波形を示す図であり、トランス24の一次側の電圧及び電流の波形は省略する。
【0046】
まず、第2半導体スイッチ28のゲート−ソース間に供給される制御信号Scが例えば高レベルになることによって、第2半導体スイッチ28がオンになる。このとき、ダイオード部44における各ダイオード44a及び44bの逆極性の極めて大きなインピーダンスにより、第1半導体スイッチ26は、ゲート及びカソード間に正に印加される電界効果によりターンオンする。第1半導体スイッチ26のアノード電流の立ち上がりは、トランス24により抑制されるため、電界効果だけでも、正常なターンオンが行われる。
【0047】
このようにして、第2半導体スイッチ28及び第1半導体スイッチ26が導通すると、トランス24に直流電源15の電圧Vdcとほぼ同じ電圧が印加され、トランス24の一次インダクタンスをL1としたとき、トランス24の一次巻線30に流れる電流I1(図1の一点鎖線m参照)は勾配(V/L1)で時間の経過に伴って直線状に増加する。
【0048】
その後、時点t1において、第2半導体スイッチ28のゲート−ソース間に供給されている前記制御信号Scが低レベルになることにより、第2半導体スイッチ28がターンオフし、第1半導体スイッチ26のカソードからの電流も零、つまり、開放状態となるため、一次巻線30に流れていた電流I1は遮断され、一次巻線30は残留電磁エネルギーによって逆誘起電圧を発生させようとするが、各ダイオード44a及び44bが作用し、一次巻線30の電流は、第1半導体スイッチ26のアノード端子→第1半導体スイッチ26のゲート端子G→各ダイオード44a及び44bのアノード→各ダイオード44a及び44cのカソードで構成される経路を還流する(図1の一点鎖線n参照)。また、トランス24の励磁インダクタンスに流れていた電流はリアクタ14側に転流し、これによって、図2に示すように、リアクタ14の両端36及び38に出力電圧Voの発生が開始されると共に、トランス24に発生する誘導起電力によって出力電圧Voが急峻に上昇する。
【0049】
この場合、その初期段階では、リアクタ14の空間306のキャパシタンスCgに電流Ig(図1の破線p参照)が流れて該キャパシタンスCgを充電し、放電電圧になった時点で空間306の電圧がクランプされ(順方向の放電電圧にてクランプ)、電流Igは直列回路52を流れる(図1の破線q参照)。このとき、誘電体305(上アルミナ板302及び下アルミナ板304)も同時に急速に充電が始まり、誘電体305にエネルギーが蓄積される。
【0050】
リアクタ14に流れる電流Ioが零になった時点で誘電体305の充電が終了すると同時に、誘電体305に蓄積されたエネルギーの一部が放電(順放電)によって消費される。
【0051】
その後、出力電流Io(及び電流Ig)が逆方向に流れ、これにより、リアクタ14の空間306のキャパシタンスCgが充電され、放電電圧になった時点で空間306の電圧がクランプされる(逆方向の放電電圧にてクランプ)。この逆方向の電流−Igによる放電(逆放電)によって、誘電体305に残存するエネルギーによる電圧Vcが空間306に印加され、出力電圧Voは急峻に低下することとなる。この逆放電によって、誘電体305に残っていたエネルギーは消費されることになるが、逆電流が流れるため、かなりのエネルギーがインダクタンス54に蓄積されることになる。このとき、インダクタンス54の値Lは、トランス24の二次巻線32によるインダクタンスの値Ltoよりも大きい値を有するため、逆電流によるエネルギーは二次巻線32ではなく、ほとんどがインダクタンス54に蓄積される。
【0052】
ここで、インダクタンス54に蓄積されるエネルギーは、インダクタンス54の値をL、逆放電時にトランス24の二次側に流れる電流をIoとしたとき、(1/2)×L×Io2となる。特に、この第1の実施の形態では、インダクタンス54の値Lを、トランス24の二次巻線32におけるインダクタンスの値の10倍以上としているため(L≧10×Lto)、逆放電時に二次巻線32に蓄積されるエネルギーは、インダクタンス54を接続しない場合の1/10以下となり、図6に示す従来の放電装置の場合と比して僅かな量となる。
【0053】
その後、トランス24の二次巻線32に蓄積されていた僅かな量のエネルギーが直流電源部18に回生されることになる(回生期間)。そのため、第1半導体スイッチ26に並列に接続されるダイオード46として、一般に市場に出回っているダイオードを接続しても、該ダイオード46に起因する回路損失はわずかなものとなり、エネルギーの回生効率の低下を抑えることができる。
【0054】
一方、逆放電の際にインダクタンス54に蓄積されていたエネルギーは、この回生期間において、リアクタ14の誘電体305に蓄積される。すなわち、誘電体305が充電され、誘電体305の両端には充電電圧Vjが発生することになる。
【0055】
そして、次のサイクルで再びトランス24の励磁インダクタンスに流れていた電流がリアクタ14に転流することになるが、このとき、リアクタ14の空間306に、誘電体305の充電電圧Vjとトランス24の出力電圧Voを加えた電圧が印加されるかたちとなり、上述と同様に、順放電→逆放電→エネルギーの回生が順次行われ、逆放電の期間にインダクタンス54に蓄積されたエネルギーが回生期間において再び誘電体305に蓄積され、誘電体305の両端に充電電圧Vjが発生することになる。
【0056】
従って、第2回目以降の放電では、インダクタンス54を介して誘電体305に蓄積されたエネルギーによる充電電圧Vjを放電に利用することができるため、トランス24の出力電圧Voを低く設定することができる。これは、電源効率の向上につながると共に、第2半導体スイッチ28をオンさせている期間の短縮化につながり、連続して出力される高電圧パルスのパルス周期を短くすることも可能となる。
【0057】
このように、第1の実施の形態に係る放電装置10Aにおいては、トランス24の二次側にリアクタ14と直列にインダクタンス54を接続するようにしたので、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる。
【0058】
なお、直流電源部18へのエネルギーの回生の量を低減する方法として、順放電時において、出力電圧Voがピークとなった時点で、第1半導体スイッチ26をオン(再点弧)にすることにより、リアクタ14の空間306に、誘電体305に残存するエネルギーによる電圧と、第1半導体スイッチ26のオンに伴ってトランスに現れる高電圧とを加算した電圧を加えることで、リアクタ14への投入エネルギーを向上させることが考えられる。
【0059】
しかし、この方法の場合、出力電圧Voのピーク時点で第1半導体スイッチ26を再点弧させる必要から、第1半導体スイッチ26及び第2半導体スイッチ28に対して時間的制御を行うための演算回路等が必要になり、回路構成が複雑になるおそれがある。
【0060】
しかし、この第1の実施の形態に係る放電装置10Aにおいては、単に、インダクタンス54という受動的な部品を用いるだけでエネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができるため、放電装置10Aの回路構成の簡略化、全体的な構造及びサイズの小型化並びにコスト的にも有利になる。
【0061】
次に、第2の実施の形態に係る放電装置10Bについて図3及び図4を参照しながら説明する。なお、図1と対応するものについては同符号を付してその重複説明を省略する。
【0062】
この第2の実施の形態に係る放電装置10Bは、図3に示すように、上述した第1の実施の形態に係る放電装置10Aとほぼ同様の構成を有するが、インダクタンス54に並列にダイオード56が接続されている点で異なる。
【0063】
具体的には、この第2の実施の形態に係る放電装置10Bは、トランス24の二次側が、該トランス24の二次巻線32、リアクタ14及びインダクタンス54の順番で接続されている。そして、ダイオード56は、トランス24とインダクタンス54との間にカソードが接続され、インダクタンス54とリアクタ14との間にアノードが接続されている。
【0064】
この第2の実施の形態では、順放電時において、順方向の電流(破線p参照)がインダクタンス54ではなくダイオード56を通じて流れることから、順放電が急速に進み、急峻なパルス波形を得ることができる。しかも、インダクタンス54に順放電時のエネルギーが蓄積されることがないため、逆放電時のエネルギーを十分に蓄積させることができ、直流電源部18へのエネルギーの回生の量を大幅に低減することができる。
【0065】
また、この第2の実施の形態では、上述したように、順方向の電流がダイオード56を通じて流れることから、インダクタンス54の値Lをトランス24における二次巻線32のインダクタンスの値Ltoの10倍以上の値にすることができる。一例として、トランス24の一次巻線30のインダクタンスの値を20μH、二次巻線32のインダクタンスの値Ltoを245μHとしたとき、インダクタンス54の値Lは2450μH以上にすることができる。
【0066】
これにより、図4に示すように、逆放電の開始時点t2から終了時点t3までの時間T2を第1の実施の形態よりも大幅に長くすることができる。すなわち、リアクタ14の空間306に印加される電圧Vgの波形として、正方向の電圧の出力時間(正電圧パルスのパルス幅T1)を短く、負方向の電圧の出力時間(負電圧パルスのパルス幅T2)を長くすることができる。例えば第1の実施の形態では、リアクタ14の空間306に印加される電圧Vgの負電圧パルスのパルス幅T2は、正電圧パルスのパルス幅T1の約1.5倍程度であるが、第2の実施の形態では、負電圧パルスのパルス幅T2は、正電圧パルスのパルス幅T1の約10倍以上の長さとなっている。
【0067】
従って、高電圧パルスの放電によるプラズマにより、脱臭、殺菌、有害ガスの分解、浄化等を行う技術に適用する場合に、一方向の極性(例えば正極性)の短いパルスによる放電と、逆極性(例えば負極性)の長いパルスによる逆放電を順番に出力させることが可能となり、脱臭、殺菌、有害ガスの分解、浄化等を効率よく行わせることができる。
【0068】
この第2の実施の形態に係る放電装置10Bにおいても、第1の実施の形態と同様に、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる。また、放電装置10Bの回路構成の簡略化、全体的な構造及びサイズの小型化並びにコスト的にも有利になる。
【0069】
上述の第2の実施の形態では、トランス24の二次側が、該トランス24の二次巻線32、リアクタ14及びインダクタンス54の順番で接続された例を示したが、その他、図5に示す変形例に係る放電装置10Baのように、トランス24の二次側が、該トランス24の二次巻線32、インダクタンス54及びリアクタ14の順番で接続されていてもよい。この場合、ダイオード56は、トランス24とインダクタンス54との間にアノードが接続され、インダクタンス54とリアクタ14との間にカソードが接続される。
【0070】
この変形例に係る放電装置10Baにおいても、簡単な回路構成で、エネルギーの回生を少なくし、しかも、電源効率を向上させることができる。また、放電装置10Baの回路構成の簡略化、全体的な構造及びサイズの小型化並びにコスト的にも有利になる。
【0071】
なお、本発明に係る放電装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施の形態に係る放電装置の構成を示す回路図である。
【図2】第1の実施の形態に係る放電装置において、リアクタに印加される電圧Vo、リアクタの空間に印加される電圧Vg、リアクタの誘電体に印加される電圧Vc、リアクタに流れる電流Io、リアクタの空間に流れる電流Igの波形を示す図である。
【図3】第2の実施の形態に係る放電装置の構成を示す回路図である。
【図4】第2の実施の形態に係る放電装置において、リアクタに印加される電圧Vo、リアクタの空間に印加される電圧Vg、リアクタの誘電体に印加される電圧Vc、リアクタに流れる電流Io、リアクタの空間に流れる電流Igの波形を示す図である。
【図5】第2の実施の形態に係る放電装置の変形例の構成を示す回路図である。
【図6】従来例に係る高電圧パルス発生回路の構成を示す回路図である。
【図7】無声放電で使用される一般的なリアクタの構成を示す斜視図である。
【図8】無声放電で使用される一般的なリアクタの構成を示す縦断面図である。
【図9】高電圧パルス発生回路の出力端子間に接続されるリアクタの等価回路を示す図である。
【図10】従来例に係る高電圧パルス発生回路において、リアクタに印加される電圧Vo、リアクタの空間に印加される電圧Vg、リアクタの誘電体に印加される電圧Vc、リアクタに流れる電流Io、リアクタの空間に流れる電流Igの波形を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
10A、10B、10Ba…放電装置 12…高電圧パルス発生回路
14…リアクタ 18…直流電源部
24…トランス 26…第1半導体スイッチ
28…第2半導体スイッチ 44a〜44c、46、56…ダイオード
54…インダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源部の両端に直列接続されたトランス及び少なくとも1つの半導体スイッチと、
前記トランスの二次側に接続されたリアクタとを有し、
前記半導体スイッチのターンオンに伴う前記トランスへの誘導エネルギーの蓄積と、
前記半導体スイッチのターンオフに伴う前記トランスでの高電圧の発生と、
前記高電圧による前記リアクタでの放電の発生が行われる放電装置において、
前記トランスの二次側に前記リアクタと直列にインダクタンスが接続されていることを特徴とする放電装置。
【請求項2】
請求項1記載の放電装置において、
前記リアクタは、一対の電極と、該一対の電極間に介在された誘電体と空間とを有することを特徴とする放電装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の放電装置において、
前記インダクタンスに並列にダイオードが接続されていることを特徴とする放電装置。
【請求項4】
請求項3記載の放電装置において、
前記トランスでの高電圧の発生に伴って、前記トランスの二次側において一方向に電流が流れることで前記リアクタで順放電が発生し、その後、前記トランスの二次側において逆方向に電流が流れることで前記リアクタで逆放電が発生するものであって、
前記ダイオードは、前記トランスの二次側に流れる前記一方向の電流の方向に対して順方向に接続されていることを特徴とする放電装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の放電装置において、
前記トランス、前記リアクタ及び前記インダクタンスの順番で接続され、
前記ダイオードは、前記トランスと前記インダクタンスとの間にカソードが接続され、前記インダクタンスと前記リアクタとの間にアノードが接続されていることを特徴とする放電装置。
【請求項6】
請求項3又は4記載の放電装置において、
前記トランス、前記インダクタンス及び前記リアクタの順番で接続され、
前記ダイオードは、前記トランスと前記インダクタンスとの間にアノードが接続され、前記インダクタンスと前記リアクタとの間にカソードが接続されていることを特徴とする放電装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の放電装置において、
前記インダクタンスは、前記トランスの二次側におけるインダクタンスの10倍以上の値を有することを特徴とする放電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−181295(P2007−181295A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375855(P2005−375855)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】