説明

断層画像処理装置及び方法、並びに光干渉断層画像診断装置

【課題】断層画像から血管など特定構造体を明確に識別可能とする。
【解決手段】取得した断層画像の深さ方向について信号強度の微分値を求め(S141)、該微分値の情報から測定対象内部に存在する血管の上端部を判定する(S142)。判定した上端部から血管の太さの深さ方向に相当する領域を残し、それよりも深部下層の領域は血管に起因する映り込み成分を含んだ非血管部であるとして、映り込み成分を除去する処理をおこない、血管領域を抽出する(S144)。映り込み成分が除去された画像信号に基づき、血管を描出するための表示画像を生成する(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は断層画像処理装置及び方法、並びに光干渉断層画像診断装置に係り、特に、光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)に代表される断層計測法によって取得される断層画像から血管など特定構造体の3次元画像を抽出描画するのに好適な画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば医療分野などで、非侵襲で生体内部の断層像を得る方法の一つとして、OCT計測が利用されている。OCT計測は超音波計測に比べ、分解能が10μm程度と一桁高く、生体内部の詳細な断層像が得られるという利点がある。また、断層像に垂直な方向に位置をずらしながら複数画像を取得して3次元断層像を得ることができる。
【0003】
現在、癌の診断等の目的で生体の詳細な断層像を取得することが求められている。その方法として、低干渉性光源から出力される光を走査して被検体に対する断層像を得るタイムドメインOCT(Time domain OCT)が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、近年はタイムドメインOCTの欠点である最適な信号/ノイズ比(S/N比)が得られない、撮像フレームレートが低い、浸透深度(観察深度)が乏しいという問題を解決した改良型のOCTである周波数ドメインOCT(Frequency domain OCT)が利用されている(特許文献2、非特許文献1)。癌以外の他の診断領域でも周波数ドメインOCT(Frequency domain OCT)が利用されており、広く臨床に供されている。
【0005】
周波数ドメインOCT計測を行う装置構成で代表的な物としては、SD−OCT(Spectral Domain OCT)装置とSS−OCT(Swept SourceOCT)の2種類が挙げられる。SD−OCT装置は、SLD(Super Luminescence Diode)やASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、白色光といった広帯域の低コヒーレント光を光源に用い、マイケルソン型干渉計等を用いて、広帯域の低コヒーレント光を測定光と参照光とに分割した後、測定光を測定対象に照射させ、そのとき戻って来た反射光と参照光とを干渉させ、この干渉光をスペクトロメータを用いて各周波数成分に分解し、フォトダイオード等の素子がアレイ状に配列されたディテクタアレイを用いて各周波数成分毎の干渉光強度を測定し、これにより得られたスペクトル干渉強度信号を計算機でフーリエ変換することにより、光断層画像を構成するようにしたものである。
【0006】
一方、SS−OCT装置は、光周波数を時間的に掃引させるレーザを光源に用い、反射光と参照光とを各波長において干渉させ、光周波数の時間変化に対応した信号の時間波形を測定し、これにより得られたスペクトル干渉強度信号を計算機でフーリエ変換することにより光断層画像を構成するようにしたものである。
【0007】
また、OCT装置は、測定光の光軸を2次元的に走査することで、OCT計測による深さ情報と合わせて被検体(測定対象)の3次元的な情報を取得することができる。特許文献3では、OCTにより1断面の診断画像を生成するだけでなく、3次元的な走査を行うことにより、立体画像を描出し、3次元的に病変部の診断を行う画像診断装置が開示されている。OCT計測と3次元コンピュータグラフィック技術の融合により、マイクロメートルオーダの分解能を持つ測定対象の構造情報からなる3次元構造モデルを表示することが可能となる。以下では、このOCT計測による3次元構造モデルを3次元ボリュームデータと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−131222号公報
【特許文献2】特表2007−510143号公報
【特許文献3】特開2010−68865号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Optics Express, Vol.11, Issue22, pp.2953-2963 “High-speed optical frequency-domain imaging”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に癌細胞が増殖するためには、増殖のための栄養分が必要となるので、癌細胞には多くの新生血管が密集しているという特徴がある。そのため、断層像から血管画像を抽出し3次元的に表示することができれば、癌の診断に非常に有効である。
【0011】
しかし、血管のように、OCT測定光の減衰の大きい組織に対しては、その組織よりも深部に届く光の量が小さくなる(図14参照)。このため取得される断層像は、当該組織(例えば、血管)から深部に向かって尾を引いた画像となり(図15符号860、861参照)、血管等の組織構造を正確に把握し難い。
【0012】
図14は光干渉断層画像信号の一例を示すグラフである。図14は血管が存在する測定位置(画素位置)の信号強度を深さ方向の位置に対してプロットしたグラフである。横軸は深さ方向の位置、縦軸は信号強度を表す。図14に示すとおり、背景Aは暗い信号であり、生体表面の位置Bから立ち上がり、深さ方向に位置が進むにつれて、信号強度は徐々に減少していく。血管の位置C(血管の上端)で信号強度は急激に減少し、それより深層の信号強度は更に小さくなっていく。
【0013】
図15は血管を含む画像のOCT画像の例を示した模式図である。ここでは、被検体(測定対象)800の深さ方向をZ軸、第1次走査方向をX軸、第2次走査方向をY軸と定義する(図7参照)。図15の上方から被検体800に向けて照射される測定光をX軸方向に走査することによってXZ平面に沿った断面の断層画像880が得られる。また、測定光をY軸方向に移動させて、そのY座標位置で同様のX軸方向走査を行うことにより、Y位置の異なるXZ平面断層画像を得ることができる。このようにX方向及びY方向に走査を行うことで、XZ平面の画像列による3次元の断層画像データが得られる。
【0014】
図15においてOCTの測定対象とする粘膜内の血管810、811は、粘膜表面820に沿って概ね平行な面方向に分布している。血管810、811が存在すると、図14に示した血液の光学特性により、多くの光が減衰し、血管810、181の下層(深部)に届く光がその周辺部よりも小さくなる。このため、図15に示したように、各断層画像880において、血管810、811から下方に尾を引いた画像となってしまう問題がある。図15中、符号860、861で示した部分(尾を引いたような部分)が血管810、811に起因する映り込みの部分である。
【0015】
従来一般的に行われている血管抽出方法では、上記の映り込みによる影響により、血管を正しく抽出することができない。すなわち、上層の血管の影響が深部の下層にまで影響することになり、従来技術のように、各断層で血管を抽出して、その断層像を連続的につなぎ合わせるだけでは、血管の立体構造を捉えることができないという問題がある。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、血管などの特定構造体を明確に識別することが可能な画像を得ることができる断層画像処理装置及び断層画像処理方法、並びにその画像処理技術を適用した光干渉断層画像診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0018】
(発明1):発明1に係る断層画像処理装置は、測定対象に向けて測定波が照射され、前記測定対象からの反射波に基づいて生成された前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得手段と、前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理手段と、前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する境界判定手段と、前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去手段と、前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、断層画像取得手段から取得した断層画像について、深さ方向の信号強度の微分値から特定構造体の境界部(深さ方向の上端位置)が判定される。測定波は特定構造体の境界部よりも深部で急激に減衰するため、微分値がピークとなる(極値をとる)深さ方向の位置を境界部と判定することが可能である。
【0020】
断層画像取得手段を介して取得される断層画像には、特定構造体によって測定波が急激に減衰することの影響により、当該特定構造体よりも深部に、特定構造体から尾を引いた影のような映り込み成分が含まれ得る。この発明によれば、判定された境界部から特定構造体の大きさの深さ方向に相当する領域を特定構造体の領域として残し、それよりも深層部は特定構造体以外の領域(非特定構造体領域)として映り込み成分が除去される。このため、断層画像のデータから特定構造体の構造情報を正確に抽出して表示画像として描出することが可能である。
【0021】
「測定波」として、例えば、光その他の電磁波、超音波を用いることができる。
【0022】
「断層画像取得手段」の態様として、既に生成されている断層画像のデータを受入するデータ入力インターフェースや信号入力端子がある。また、「断層画像取得手段」の他の態様として、測定対象に対して測定波を射出し、その反射波を受波する手段、並びに、その受波した情報を基に断層画像のデータを生成する信号処理手段を含んだ構成も可能である。
【0023】
なお「映り込み成分除去手段」は、映り込み成分を除去することによって特定構造体領域を抽出していると解釈することができる。したがって、「特定構造体領域抽出手段」或いは、「特定構造体領域の抽出手段」という表現(用語)を用いた記載によって発明を記述することも可能である。
【0024】
(発明2):発明2に係る断層画像処理装置は、発明1において、前記断層画像は、前記測定波として光を用いた光干渉断層画像であることを特徴とする。
【0025】
本発明は、光干渉断層画像から特定構造体の情報を抽出し、これを表示装置等に出力するための画像処理技術として好適である。
【0026】
(発明3):発明3に係る断層画像処理装置は、発明2において、前記光干渉断層画像は、波長掃引光源から射出される光を測定光と参照光に分割し、前記測定光にて前記測定対象に照射し、該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波し、前記反射光と前記参照光が合波したときの干渉光を干渉信号として検出し、該干渉信号から生成された断層画像であることを特徴とする。
【0027】
(発明4):発明4に係る断層画像処理装置は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記境界判定処理手段は、前記微分値が負の値でピークとなる位置を検知することを特徴とする。
【0028】
例えば、前記境界判定処理手段は、負の値の微分値と、所定の閾値(負の閾値)とを比較する閾値処理手段を含んで構成される。
【0029】
(発明5):発明5に係る断層画像処理装置は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記断層画像取得手段は、前記測定波により前記測定対象を走査して得られる3次元断層画像を取得し、前記表示画像生成手段は、前記表示画像として、前記特定構造体の立体的構造を描出するための3次元表示用画像を生成することを特徴とする。
【0030】
本発明は、3次元断層画像データから特定構造体の立体構造の情報を抽出し、これを表示装置等に出力するための画像処理技術として好適である。
【0031】
(発明6):発明6に係る断層画像処理装置は、発明5において、前記3次元断層画像のデータから、前記測定対象に対する前記測定波の入射方向に対して垂直な断面で前記特定構造体の候補領域を抽出する特定構造体候補領域抽出手段を有し、前記入射方向に垂直な各断面から抽出された前記候補領域の各画素に対し前記微分値が計算され、該微分値の情報から前記境界部が判定され、前記候補領域のうち、前記境界部よりも深層の前記映り込み成分が除去されることを特徴とする。
【0032】
例えば、測定波の入射方向をZ軸とし、Z軸に垂直な平面にX軸、Y軸を設定すると(X軸、Y軸、Z軸は互いに直交する座標軸)、各Z方向位置のXY平面上で特定構造体候補領域が抽出される。これら各断面の候補領域から映り込み成分が除去されることにより、特定構造体の領域を抽出することができ、特定構造体の立体的な画像を描出することが可能である。なお、座標軸の設定については、必ずしも上記の直交XYZ系に限定されない。3次元空間を記述できるように基底ベクトルを選んだ座標系であればよく、円筒座標系その他の各種座標系を採用することができる。座標変換については公知の数学的な処理で対応できる。
【0033】
(発明7):発明7に係る断層画像処理装置は、発明6において、前記入射方向に対して垂直な前記断面の前記候補領域から前記特定構造体の大きさを推定する特定構造体領域推定手段を備えることを特徴とする。
【0034】
入射方向に対して垂直な断面で抽出した候補領域に基づいて、特定構造体の大きさを推定することが可能である。この推定した大きさ情報を基に、特定構造体領域と非特定構造体領域とを区別することができる。
【0035】
(発明8):発明8に係る断層画像処理装置は、発明1乃至6のいずれか1項において、前記特定構造体の大きさを示す情報が予め設定されており、当該予め設定された情報に基づいて前記特定構造体の大きさの深さ方向に相当する領域が決定されることを特徴とする。
【0036】
例えば、特定構造体が血管である場合、生体学的な知見から血管の太さ情報を予め設定しておくことにより、その情報を基に血管領域と非血管領域とを区別することができる。
【0037】
(発明9):発明9に係る断層画像処理装置は、発明1乃至8のいずれか1項において、前記特定構造体は、血管であることを特徴とする。
【0038】
本発明は、例えば、粘膜表面の近くにある血管の立体的な画像(血管画像)を生成する技術として好適である。
【0039】
(発明10):発明10は前記目的を達成する方法発明を提供する。すなわち、発明10に係る断層画像処理方法は、測定対象に向けて測定波が照射され、前記測定対象からの反射波に基づいて生成された前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得ステップと、前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理ステップと、前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する処理を行う境界判定処理ステップと、前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去処理ステップと、前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0040】
なお、発明2乃至9で言及した特徴は発明10の方法発明に対して同様に組み込むことができる。
【0041】
(発明11):発明11は前記目的を達成する光干渉断層画像診断装置を提供する。すなわち、発明11に係る光干渉断層画像診断装置は、光の波長を一定の周期で掃引させながら光を射出する波長掃引光源と、前記波長掃引光源から射出された光を測定光と参照光に分割する光分割手段と、前記光分割手段により分割された前記測定光が測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波する合波手段と、前記合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光を検出する光干渉検出手段と、前記光干渉検出手段により検出された干渉信号から前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得手段と、前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理手段と、前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する境界判定手段と、前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去手段と、前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成手段と、前記表示画像生成手段により生成された表示画像を表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0042】
発明11は、発明1に記載の断層画像処理装置を適用した光干渉断層画像診断装置に相当している。発明11において、更に、発明2乃至9のいずれか1項に記載の断層画像処理装置を適用することが可能である。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、映り込みの影響を改善し、血管などの特定構造体を明確に識別することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る断層画像処理装置を適用した画像診断装置の外観図
【図2】図1のOCTプロセッサの内部構成を示すブロック図
【図3】図2のOCTプローブの断面図
【図4】測定対象に対して光走査がラジアル走査の場合の断層画像のスキャン面を示す図
【図5】図4の断層画像により構築される3次元ボリュームデータを示す図
【図6】図1の内視鏡の鉗子口から導出されたOCTプローブを用いて断層画像を得る様子を示す図
【図7】ガルバノミラーを用いて測定対象Sに対してセクタ走査を行って断層画像を取得する構成を示す図
【図8】図7の断層画像により構築される3次元ボリュームデータを示す図
【図9】図2の信号処理部の構成を示すブロック図
【図10】3次元血管構造抽出処理のフローチャート
【図11】血管候補領域抽出処理のフローチャート
【図12】(a)は映り込みを含んだ血管候補領域の3次元画像例を示す図、(b)は映り込み除去処理後の血管領域の3次元画像例を示す図
【図13】血管上端部判定処理の説明図
【図14】光干渉断層画像信号の模式図
【図15】血管を含む被検体をOCT計測して得られる断層画像の例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0046】
<光干渉断層画像診断装置の外観>
図1は本発明の実施形態に係る断層画像処理装置を適用した画像診断装置の外観図である。図1に示すように、画像診断装置10は、主として内視鏡100、内視鏡プロセッサ200、光源装置300、断層画像処理装置としてのOCTプロセッサ400、及びモニタ装置500とから構成されている。なお、内視鏡プロセッサ200は、光源装置300を内蔵するように構成されていてもよい。
【0047】
内視鏡100は、手元操作部112と、この手元操作部112に連設される挿入部114とを備える。術者は手元操作部112を把持して操作し、挿入部114を被検者の体内に挿入することによって観察を行う。
【0048】
手元操作部112には、鉗子挿入部138が設けられており、この鉗子挿入部138が先端部144の鉗子口156に連通されている。本実施形態では、OCTプローブ600を鉗子挿入部138から挿入することによって、OCTプローブ600を鉗子口156から導出する。OCTプローブ600は、鉗子挿入部138から挿入され、鉗子口156から導出される挿入部602と、術者がOCTプローブ600を操作するための操作部604、及びコネクタ610を介してOCTプロセッサ400と接続されるケーブル606から構成されている。
【0049】
<内視鏡、内視鏡プロセッサ、光源装置の構成>
[内視鏡]
内視鏡100の先端部144には、観察光学系150、照明光学系152、及びCCD(不図示)が配設されている。
【0050】
観察光学系150は、被検体を図示しないCCDの受光面に結像させ、CCDは受光面上に結像された被検体像を各受光素子によって電気信号に変換する。本実施形態のCCDは、3原色の赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタが所定の配列(ベイヤー配列、ハニカム配列)で各画素ごとに配設されたカラーCCDである。なお、符号154は、観察光学系150に向けて洗浄液や加圧エアを供給するための洗浄ノズルである。
【0051】
[光源装置]
光源装置300は、可視光を図示しないライトガイドに入射させる。ライトガイドの一端はLGコネクタ120を介して光源装置300に接続され、ライトガイドの他端は照明光学系152に対面している。光源装置300から発せられた光は、ライトガイドを経由して照明光学系152から出射され、観察光学系150の視野範囲を照明する。
【0052】
[内視鏡プロセッサ]
内視鏡プロセッサ200には、CCDから出力される画像信号が電気コネクタ110を介して入力される。このアナログの画像信号は、内視鏡プロセッサ200内においてデジタルの画像信号に変換され、モニタ装置500の画面に表示するための必要な処理が施される。
【0053】
このように、内視鏡100で得られた観察画像のデータが内視鏡プロセッサ200に出力され、内視鏡プロセッサ200に接続されたモニタ装置500に画像が表示される。
【0054】
<OCTプロセッサ、OCTプローブの内部構成>
[OCTプロセッサ]
図2は図1のOCTプロセッサの内部構成を示すブロック図である。図2に示すOCTプロセッサ400及びOCTプローブ600は、光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)計測法による測定対象の光断層画像を取得するためのものである。
【0055】
OCTプロセッサ400は、測定のための光Laを射出する第1の光源部(第1の光源ユニット)12と、第1の光源部12から射出された光Laを測定光(第1の光束)L1と参照光L2に分岐するとともに、被検体である測定対象Sからの戻り光L3と参照光L2を合波して干渉光L4を生成する光ファイバカプラ(分岐合波部)14と、光ファイバカプラ14で分岐された測定光L1をOCTプローブ600の光コネクタ18に導くとともに、OCTプローブ600内の回転側光ファイバFB1によって導波された戻り光L3を導波する固定側光ファイバFB2と、光ファイバカプラ14で生成された干渉光L4を干渉信号として検出する干渉光検出部20と、この干渉光検出部20によって検出された干渉信号を処理して光断層画像(以下、単に「断層画像」とも言う。)を取得する信号処理部22を有する。信号処理部22で取得された光断層画像はモニタ装置500に表示される。
【0056】
また、OCTプロセッサ400は、測定の目印を示すためのエイミング光(第2の光束)Leを射出する第2の光源部(第2の光源ユニット)13と、参照光L2の光路長を調整する光路長調整部26と、第1の光源部12から射出された光Laを分光する光ファイバカプラ28と、光ファイバカプラ14で合波された戻り光(干渉光)L4およびL5を検出する検出部30aおよび30bと、信号処理部22への各種条件の入力、設定の変更等を行う操作制御部32とを有する。
【0057】
OCTプロセッサ400に接続されるOCTプローブ600は、固定側光ファイバFB2を介して導波された測定光L1を測定対象Sまで導波するとともに測定対象Sからの戻り光L3を導波する回転側光ファイバFB1と、この回転側光ファイバFB1を固定側光ファイバFB2に対して回転可能に接続し、測定光L1および戻り光L3を伝送する光コネクタ18と、を備える。
【0058】
なお、図2に示したOCTプロセッサ400及びOCTプローブ600においては、上述した射出光La、エイミング光Le、測定光L1、参照光L2および戻り光L3などを含む種々の光を各光デバイスなどの構成要素間で導波し、伝送するための光の経路として、回転側光ファイバFB1および固定側光ファイバFB2を含め種々の光ファイバFB(FB3、FB4、FB5、FB6、FB7、FB8など)が用いられている。
【0059】
第1の光源部12は、OCTの測定のための光(例えば、赤外領域の波長可変レーザ光、あるいは低コヒーレンス光)を射出するものである。本例の第1の光源部12は、赤外の波長域で光周波数(波長)を一定の周期で掃引させながらレーザ光La(例えば、波長1.3μmを中心とするレーザ光)を射出する波長可変光源である。
【0060】
この第1の光源部12は、レーザ光あるいは低コヒーレンス光Laを射出する光源12aと、光源12aから射出された光Laを集光するレンズ12bとを備えている。また、詳しくは後述するが、第1の光源部12から射出された光Laは、光ファイバFB4、FB3を介して光ファイバカプラ14で測定光L1と参照光L2に分割され、測定光L1は光コネクタ18に入力される。
【0061】
また、第2の光源部13は、エイミング光Leとして測定部位を確認しやすくするために可視光を射出するものである。例えば、波長660nmの赤半導体レーザ光、波長630nmのHe−Neレーザ光、波長405nmの青半導体レーザ光などを用いることができる。本実施形態における第2の光源部13としては、例えば赤色あるいは青色あるいは緑色のレーザ光を射出する半導体レーザ13aと、半導体レーザ13aから射出されたエイミング光Leを集光するレンズ13bを備えている。第2の光源部13から射出されたエイミング光Leは、光ファイバFB8を介して光コネクタ18に入力される。
【0062】
光コネクタ18では、測定光(第1の光束)L1とエイミング光(第2の光束)Leとが合波され、OCTプローブ600内の回転側光ファイバFB1に導波される。
【0063】
光ファイバカプラ(分岐合波部)14は、例えば2×2の光ファイバカプラで構成されており、固定側光ファイバFB2、光ファイバFB3、光ファイバFB5、光ファイバFB7とそれぞれ光学的に接続されている。
【0064】
光ファイバカプラ14は、第1の光源部12から光ファイバFB4およびFB3を介して入射した光Laを測定光(第1の光束)L1と参照光L2とに分割し、測定光L1を固定側光ファイバFB2に入射させ、参照光L2を光ファイバFB5に入射させる。
【0065】
さらに、光ファイバカプラ14は、光ファイバFB5に入射され後述する光路長調整部26によって周波数シフトおよび光路長の変更が施されて光ファイバFB5を戻った参照光L2と、後述するOCTプローブ600で取得され固定側光ファイバFB2から導波された光L3とを合波し、光ファイバFB3(FB6)および光ファイバFB7に射出する。
【0066】
OCTプローブ600は、光コネクタ18を介して、固定側光ファイバFB2と接続されており、固定側光ファイバFB2から、光コネクタ18を介して、エイミング光Leと合波された測定光L1が回転側光ファイバFB1に入射される。入射されたこのエイミング光Leと合波された測定光L1を回転側光ファイバFB1によって伝送して測定対象Sに照射する。そして測定対象Sからの戻り光L3を取得し、取得した戻り光L3を回転側光ファイバFB1によって伝送して、光コネクタ18を介して、固定側光ファイバFB2に射出するようになっている。
【0067】
干渉光検出部20は、光ファイバFB6および光ファイバFB7と接続されており、光ファイバカプラ14で参照光L2と戻り光L3とを合波して生成された干渉光L4およびL5を干渉信号として検出するものである。
【0068】
光ファイバカプラ28から分岐させた光ファイバFB6の光路上には、干渉光L4の光強度を検出する検出器30aが設けられ、光ファイバFB7の光路上には干渉光L5の光強度を検出する検出器30bが設けられている。干渉光検出部20は、検出器30aおよび検出器30bの検出結果に基づいて、干渉信号を生成する。
【0069】
信号処理部22は、干渉光検出部20で検出した干渉信号から断層画像を取得し、取得した断層画像をモニタ装置500へ出力する。なお、本実施形態では、干渉光検出部20で検出した干渉信号に基づいて、断層画像から血管部分を抽出して立体的な血管画像を生成し、血管の立体構造を示す画像がモニタ装置500に出力されるようになっている。これを実現するための信号処理部22の詳細な構成は後述する。
【0070】
参照光L2の光路長を可変するための光路長調整部26は、光ファイバFB5の参照光L2の射出側(すなわち、光ファイバFB5の光ファイバカプラ14とは反対側の端部)に配置されている。
【0071】
光路長調整部26は、光ファイバFB5から射出された光を平行光にする第1光学レンズ80と、第1光学レンズ80で平行光にされた光を集光する第2光学レンズ82と、第2光学レンズ82で集光された光を反射する反射ミラー84と、第2光学レンズ82および反射ミラー84を支持する基台86と、基台86を光軸方向に平行な方向に移動させるミラー移動機構88とを有する。第1光学レンズ80と第2光学レンズ82との距離を変化させることにより参照光L2の光路長が調整される。
【0072】
第1光学レンズ80は、光ファイバFB5のコアから射出された参照光L2を平行光にするとともに、反射ミラー84で反射された参照光L2を光ファイバFB5のコアに集光する。
【0073】
また、第2光学レンズ82は、第1光学レンズ80により平行光にされた参照光L2を反射ミラー84上に集光するとともに、反射ミラー84により反射された参照光L2を平行光にする。このように、第1光学レンズ80と第2光学レンズ82とにより共焦点光学系が形成されている。
【0074】
さらに、反射ミラー84は、第2光学レンズ82で集光される光の焦点に配置されており、第2光学レンズ82で集光された参照光L2を反射する。
【0075】
これにより、光ファイバFB5から射出した参照光L2は、第1光学レンズ80により平行光になり、第2光学レンズ82により反射ミラー84上に集光される。その後、反射ミラー84により反射された参照光L2は、第2光学レンズ82により平行光になり、第1光学レンズ80により光ファイバFB5のコアに集光される。
【0076】
また、基台86は、第2光学レンズ82と反射ミラー84とを固定し、ミラー移動機構88は、基台86を第1光学レンズ80の光軸方向(図2矢印A方向)に移動させる。
【0077】
ミラー移動機構88で、基台86を矢印A方向に移動させることで、第1光学レンズ80と第2光学レンズ82との距離を変更することができ、参照光L2の光路長を調整することができる。
【0078】
操作制御部32は、キーボード、マウス等の入力手段と、入力された情報に基づいて各種条件を管理する制御手段とを有し、信号処理部22に接続されている。操作制御部32は、入力手段から入力されたオペレータの指示に基づいて、信号処理部22における各種処理条件等の入力、設定、変更等を行う。
【0079】
なお、操作制御部32は、操作画面をモニタ装置500に表示させてもよいし、別途表示部を設けて操作画面を表示させてもよい。また、操作制御部32で、第1の光源部12、第2の光源部13、光コネクタ18、干渉光検出部20、光路長ならびに検出部30aおよび30bの動作制御や各種条件の設定を行うようにしてもよい。
【0080】
[OCTプローブ]
図3はOCTプローブ600の断面図である。図3に示すように、挿入部602の先端部は、プローブ外筒(シース)620と、キャップ622と、回転側光ファイバFB1と、バネ624と、固定部材626と、光学レンズ628とを有している。
【0081】
プローブ外筒620は、可撓性を有する筒状の部材であり、光コネクタ18においてエイミング光Leが合波された測定光L1および戻り光L3が透過する材料からなっている。なお、プローブ外筒620は、測定光L1(エイミング光Le)および戻り光L3が通過する先端(光コネクタ18と反対側の回転側光ファイバFB1の先端、以下プローブ外筒620の先端と言う)側の一部が全周に渡って光を透過する材料(透明な材料)で形成されていればよく、先端以外の部分については光を透過しない材料で形成されていてもよい。
【0082】
キャップ622は、プローブ外筒620の先端に設けられ、プローブ外筒620の先端を閉塞している。
【0083】
回転側光ファイバFB1は、線状部材であり、プローブ外筒620内にプローブ外筒620に沿って収容されている。回転側光ファイバFB1は、光コネクタ18で合波された測定光L1とエイミング光Leとを光学レンズ628まで導波するとともに、測定光L1(エイミング光Le)を測定対象Sに照射して光学レンズ628で取得した測定対象Sからの戻り光L3を光コネクタ18まで導波する。この戻り光L3は、光コネクタ18を介して固定側光ファイバFB2に入射する。回転側光ファイバFB1は、プローブ外筒620に対して回転自在、及びプローブ外筒620の軸方向に移動自在な状態で配置されている。
【0084】
バネ624は、回転側光ファイバFB1の外周に固定されている。回転側光ファイバFB1およびバネ624は、回転筒656とともに光コネクタ18に接続されている。
【0085】
光学レンズ628は、回転側光ファイバFB1の測定側先端(光コネクタ18と反対側の回転側光ファイバFB1の先端)に配置されている。光学レンズ628の先端部(光出射面)は、回転側光ファイバFB1から射出された測定光L1(エイミング光Le)を測定対象Sに対し集光するために略球状の形状で形成されている。
【0086】
光学レンズ628は、回転側光ファイバFB1から射出した測定光L1(エイミング光Le)を測定対象Sに対し照射し、測定対象Sからの戻り光L3を集光し回転側光ファイバFB1に入射する。
【0087】
固定部材626は、回転側光ファイバFB1と光学レンズ628との接続部の外周に配置されており、光学レンズ628を回転側光ファイバFB1の端部に固定する。固定部材626による回転側光ファイバFB1と光学レンズ628の固定方法は、特に限定されず、接着剤により、固定部材626と回転側光ファイバFB1および光学レンズ628を接着させて固定してもよいし、ボルト等を用い機械的構造で固定してもよい。なお、固定部材626は、ジルコニアフェルールやメタルフェルールなど光ファイバの固定や保持あるいは保護のために用いられるものであれば、如何なるものを用いてもよい。
【0088】
回転側光ファイバFB1およびバネ624は、回転筒656に接続されており、回転筒656によって回転側光ファイバFB1およびバネ624を回転させることで、光学レンズ628をプローブ外筒620に対し、矢印R2方向(回転側光ファイバFB1の光軸を回転中心とする回転方向)に回転させる。また、光コネクタ18は、回転エンコーダを備える。回転エンコーダからの信号に基づいて光学レンズ628の位置情報(角度情報)から測定光L1の照射位置が検出される。つまり、回転している光学レンズ628の回転方向における基準位置に対する角度を検出して、測定位置を検出する。
【0089】
さらに、回転側光ファイバFB1、バネ624、固定部材626、及び光学レンズ628は、モータ660を含む駆動機構により、プローブ外筒620内部を矢印S1方向(鉗子口方向)、及びS2方向(プローブ外筒620の先端方向)に移動可能に構成されている。
【0090】
図3の左側には、OCTプローブ600の操作部604における回転側光ファイバFB1等の駆動機構の概略構成が示されている。
【0091】
プローブ外筒620は、固定部材670に固定されているのに対し、回転側光ファイバFB1およびバネ624の基端部は、回転筒656に接続されている。回転筒656は、モータ652の回転に応じてギア654を介して回転するように構成されている。回転筒656は、光コネクタ18に接続されており、測定光L1及び戻り光L3は、光コネクタ18を介して回転側光ファイバFB1と固定側光ファイバFB2間を伝送される。
【0092】
回転筒656、モータ652、ギア654、及び光コネクタ18を内蔵するフレーム650は、支持部材662を備えている。支持部材662は、図示しないネジ孔を有しており、該ネジ孔には進退移動用ボールネジ664が咬合している。進退移動用ボールネジ664には、モータ660が接続されている。モータ660を回転駆動することによりフレーム650を進退移動させ、これにより回転側光ファイバFB1、バネ624、固定部材626、及び光学レンズ628を図3のS1及びS2方向(プローブ外筒620の長手方向に沿った軸方向、すなわち、回転側光ファイバFB1の光軸に沿った方向)に移動させることが可能となっている。
【0093】
OCTプローブ600は、以上のような構成であり、モータ660の駆動によって回転側光ファイバFB1およびバネ624が、図3中矢印R2方向に回転されることで、光学レンズ628から射出される測定光L1(エイミング光Le)を測定対象Sに対し、矢印R2方向(プローブ外筒620の円周方向)に対し走査しながら照射し、戻り光L3を取得する。エイミング光Leは、測定対象Sに対し、例えば青色、赤色あるいは緑色のスポット光として照射される。このエイミング光Leの反射光(測定対象Sからの反射光)は、モニタ装置500に表示された観察画像に輝点としても表示される。
【0094】
このような回転方向に沿った光走査により、プローブ外筒620の円周方向の全周において、測定対象Sの所望の部位を正確にとらえることができ、測定対象Sを反射した戻り光L3を取得することができる。
【0095】
さらに、3次元ボリュームデータを生成するための複数の断層画像を取得する場合は、モータ66を含む駆動機構により回転側光ファイバFB1及び光学レンズ628が矢印S1方向の移動可能範囲の終端まで移動され、断層画像を取得しながら所定量ずつS2方向に移動し、又は断層画像取得とS2方向への所定量移動を交互に繰り返しながら、移動可能範囲の終端まで移動する。
【0096】
このように測定対象Sに対して所望の範囲で複数の断層画像を得て、取得した複数の断層画像に基づいて3次元ボリュームデータを得ることができる。
【0097】
図4は、測定対象Sに対して光走査がラジアル走査の場合の断層画像のスキャン面を示す図であり、図5は図4の断層画像により構築される3次元ボリュームデータを示す図である。干渉信号により測定対象Sの深さ方向(第1の方向)の断層画像を取得し、測定対象Sに対し図3矢印R2方向(プローブ外筒620の円周方向)に走査(ラジアル走査)することで、図4に示すように、第1の方向と該第1の方向と直交する第2の方向とからなるスキャン面での断層画像を取得することができる。またさらに、このスキャン面に直交する第3の方向に沿ってスキャン面を移動させることで、図5に示すように、3次元ボリュームデータを生成するための複数の断層画像が取得できる。
【0098】
図6は内視鏡100の鉗子口156から導出されたOCTプローブ600を用いて断層画像を得る様子を示す図である。図6に示すように、OCTプローブ600の挿入部602の先端部を、測定対象Sの所望の部位に近づけて、断層画像を得る。所望の範囲の複数の断層画像を取得する場合は、必ずしもOCTプローブ600本体を移動させる必要はなく、前述の駆動機構によりプローブ外筒620内で光学レンズ628を移動させればよい。
【0099】
上記の説明では、測定光L1(エイミング光Le)を測定対象Sにラジアル走査するとしたが、これに限らない。
【0100】
図7は測定対象Sに対してセクタ走査を行って断層画像を取得する構成を示す図であり、図8は図7の断層画像により構築される3次元ボリュームデータを示す図である。図7に示すように、ガルバノミラー900を使用し、測定対象Sの上方からセクタ走査を行って断層画像を取得する構成にも適用でき、この場合もスキャン面を移動させることで(X方向及びY方向に走査することで)、図8に示すように、3次元ボリュームデータを生成するための複数の断層画像(フレーム1,2,3・・・・)が取得できる。
【0101】
[信号処理部]
図9は図3の信号処理部22の構成を示すブロック図である。
【0102】
図9に示すように、本実施形態の信号処理部22は、干渉光検出部20から入力される干渉信号からモニタ装置500に出力される画像を生成するための信号処理を行う処理部であり、主として、フーリエ変換部410、対数変換部420、断層画像構築部450、3次元血管構造抽出処理部460、及び制御部490を備えて構成される。なお、制御部490は、操作制御部32からの操作信号に基づき信号処理部22の各部を制御する。
【0103】
干渉光検出部20には、波長掃引光源としての第1の光源部12から射出された光が測定光と参照光に分割され、OCTプローブ600から測定対象Sに測定光を照射したときに得られる反射光と参照光とが合波したときの干渉光が入力される。この干渉光検出部20は、入力された干渉光(光信号)を干渉信号(電気信号)に変換する干渉信号生成部20aと、干渉信号生成部20aで生成された干渉信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するAD変換部20bとから構成される。
【0104】
AD変換部20bでは、例えば、80MHz程度のサンプリングレートで14bit程度の分解能でアナログ信号からデジタル信号への変換が実施されるが、これらの値に特に限定されるものではない。AD変換部20bにおいてデジタル信号に変換された干渉信号は、信号処理部22のフーリエ変換部410に入力される。
【0105】
フーリエ変換部410は、干渉光検出部20のAD変換部20bにおいてデジタル信号に変換された干渉信号をFFT(高速フーリエ変換)により周波数解析を行い、測定対象Sの各深さ位置における反射光(戻り光)L3の強度、すなわち深度方向の反射強度データ(断層情報)を生成する。フーリエ変換部410でフーリエ変換されたデータ(断層情報)は、対数変換部420で対数変換される。対数変換されたデータは、断層画像構築部450に入力される。
【0106】
断層画像構築部450は、対数変換部420で対数変換されたデータに対して輝度、コントラスト調整、表示サイズにあわせたリサンプル、ラジアル走査、セクタ走査等の走査方法に合わせての座標変換などを行い、断層画像を構築する。断層画像構築部450によって3次元断層画像データが生成され、この3次元断層画像データは3次元血管構造抽出処理部460に入力される。
【0107】
3次元血管構造抽出処理部460は、断層画像構築部450で構築された3次元断層画像データを基に、血管構造の情報を抽出し、3次元血管画像の表示用画像を生成する。3次元血管構造抽出処理部460の処理内容について詳細は後述する。
【0108】
このようにして生成された3次元血管画像は、LCDモニタ等のモニタ装置500に出力される。なお、3次元血管画像の表示出力に代えて、又は3次元血管画像の表示とともに、断層画像構築部450で構築された断層画像をモニタ装置500に表示させることも可能である。
【0109】
<断層画像信号処理の手順:フローチャート>
図10は本実施形態における3次元血管構造抽出処理のフローチャートである。この処理は図9の3次元血管構造抽出処理部460により行われる。
【0110】
ステップS110では、3次元光干渉断層画像を取得する。図9の断層画像構築部450で生成された断層画像のデータが3次元血管構造抽出処理部460に入力される。
【0111】
ステップS120では、XZ平面のフレームとして取得された断層画像のデータ群をXY平面の画像系列に再構成する。ここでいうXY平面の画像系列は、測定光L1の入射方向(Z方向)に対して垂直な断面の画像群である。
【0112】
このようにXY平面画像の画像系列に再構成する主な理由は、本例のOCT計測対象となる粘膜内血管は粘膜表面に対して水平に分布しているため(粘膜内血管は、概ね、粘膜表面と並行な面に沿って走行しているため)、XY平面で血管抽出処理を行った方が有利であるからである。
【0113】
ステップS130では、ステップS120で得たXY平面画像から、血管候補領域を抽出する処理を行う。XY平面画像から血管候補領域を抽出する方法は、例えば、2次元画像から周辺より信号強度が低い線状構造を抽出することで実施される。具体的な手段としては、例えば、エッジ検出、テンプレートマッチングなど公知技術の様々な組み合わせが可能である。ここでは、その一例として、エッジ検出を用いる具体的なフローチャートを図11に示す。
【0114】
図11のステップS301では入力XY平面画像に対して前処理を施す。具体的には、平均化や低周波フィルタリングなどによるノイズ抑制処理や、抽出対象信号を強調するためのヒストグラム強調などを行う。
【0115】
ステップSS302では、血管候補領域を抽出するためのエッジ検出を行う。エッジ検出処理の具体的な手段として、例えば、DOG(Difference OfGaussian)フィルタやTop−Hat変換など、抽出対象血管の信号周波数に対応する周波数フィルタリング処理を行う。
【0116】
ステップS303では、ステップS302のフィルタリング処理結果に2値化を行い、血管部と非血管部を分離する。しかしながら、OCT特有のノイズや計測対象の不均一構造の影響などにより、この過程の分離性能には限界がある。その結果、ステップS303の処理後に得られるデータには、非血管部が含まれていたり、或いは、血管部であるのに血管部として検出されていない部分(血管部の非検出部)が発生したりする。
【0117】
ステップS304では、ステップS303の結果を元に、各画素に対して血管候補領域の判定を行う。具体的には、血管の直線性、連結性などを評価する評価関数により、ステップS303の過程で残った非血管部を除去し、検出されなかった血管部を補完する処理を行う。すなわち、血管候補領域の判定処理(ステップS304)には、残った非血管部の除去処理、及び、血管の非検出部を補う補完処理が含まれる。
【0118】
各XY平面画像から抽出した血管候補領域をZ方向に連続的につなぎ合わせることによって、血管候補領域の立体的な情報が得られる。
【0119】
上記の血管候補領域抽出処理(ステップS301〜S304)の処理によって得られる血管候補領域の例を図12(a)に示す。図12(a)では、血管候補領域がXYZ空間の3次元領域として抽出された様子が示されている。図示のとおり、血管候補領域830はZ方向に太く(厚く)なっており、血管の上端から深さ方向(Z方向)に尾を引いたような画像となっている。これは、既に説明した血管の映り込み信号(図15の符号860、861参照)によるものである。血管候補領域830から映り込みの成分を除去して真の血管領域を描出するために、次の処理を行う。
【0120】
すなわち、図10のステップS120〜S130の処理とは別に、ステップS141において、3次元断層画像のデータから深さ方向について信号強度の微分値を計算する処理を行う。図13は微分値演算処理の説明図である。図13(a)は映り込み成分を含んだ血管候補領域830を示している。図13(b)は、XY平面上のある一点(注目位置の座標(xi,yi))に関して深さ方向に位置を変えて信号強度をプロットしたものである。この図13(b)は図14で説明したものと等価である。図13(c)は、Z方向の信号強度の微分値を示すものである。図13(b)に示す信号強度のプロファイルについてZで微分した値を計算すると図13(c)が得られる。
【0121】
図13(c)に示した微分値の負の値に注目すると、血管の上端があるところで負の微分値がピーク(極値)を示す。このピーク位置(負の値の範囲で極値をとる位置)が血管の上端点であると判定することができる。
【0122】
深さが異なる血管が交差している場合は、原理的には血管の本数分だけピーク信号が現れる。計測系のS/N比が良好であれば、この性質を用いて血管の重なりに影響されず、映り込みを除去できる。
【0123】
図10のステップS142では、ステップS141で得た微分値の情報(図13(c)に対し、血管の上端部(「境界部」に相当)を判定するための閾値処理を行う。例えば、図13(c)で示した負の値のピーク位置を検出するために、所定の閾値(負の閾値)を設定しておき、この閾値よりも絶対値の大きい微分値を示すZ位置を検出する。この閾値処理(ステップS412)が「境界判定処理ステップ」に相当し、当該処理を行う演算手段が「境界判定手段」に相当する。
【0124】
図10のステップS143では、ステップS130で抽出した血管候補領域に対し、ステップS142で特定した血管の上端部の位置情報と血管の太さを考慮して、最終的な血管領域の判定を行う。すなわち、血管候補領域のうち、血管の上端から深さ方向に血管太さ分の連結領域を残し、それより深い領域は非血管部として除去する。
【0125】
血管の太さは、生物学の知見から所定の値を設定することができる。例えば、操作制御部32(図2参照)からデータを入力したり、予め記憶されているテーブルの中から条件に該当するデータを選択したりする。或いはまた、血管の太さの情報は、XY平面の血管候補領域から推定した結果でもよい。例えば、XY平面内で抽出された血管候補領域から血管の幅を計測し、その幅の情報から血管の太さを推定することができる。このように、XY平面画像から血管の太さ(大きさ)を推定する演算処理を行う血管領域推定手段を備える態様も好ましい。
【0126】
こうして、ステップS141〜S143により、映り込み信号を除去する処理が行われ、血管領域が抽出される(図12(b)参照)。図12(b)は、ステップS143による映り込み除去処理後に抽出される血管領域の例である。上述のとおり、光の浸入方向に対して、上層側から血管を抽出し、血管が検出された場合は、その太さを考慮した領域(太さの深さ方向に相当する領域)を残して、それより下層は非血管部として処理することにより、測定光の減衰による尾引きの影響を受けずに、正しく血管領域を抽出することができる。
【0127】
図10のステップS150では、ステップS143で得られた血管領域の情報を基に、3次元表示画像を作成する。ステップS160では、ステップS150で作成した表示画像をモニタ装置(図9の符号500)に表示する処理を行う。
【0128】
図10及び図11で説明した各処理ステップの演算機能は、ソフトウエア(プログラム)又はハードウエア回路、若しくはこれらの組み合わせにより実現される。
【0129】
本実施形態によれば、血管を明確に識別することが可能になり、新生血管が密集している癌細胞部を明瞭に識別可能になる。
【0130】
<変形例1>
図10では、ステップS110で得た3次元断層画像データについてZ方向の微分値を計算する例を説明したが、ステップS130で得られた血管候補領域の3次元データについてステップS141〜142の処理を行うことも可能である。
【0131】
<変形例2>
上述した実施形態では、OCTプロセッサ400としてSS−OCT(Swept Source OCT)装置を用いて説明したが、これに限らず、OCTプロセッサ400をSD−OCT(Spectral Domain OCT)装置など、他の方式のOCT装置としても適用可能である。
【0132】
<変形例3>
上述の実施形態では、光干渉断層画像診断装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、測定波として超音波を用いる超音波画像診断装置など、他の断層計測法を利用する画像診断装置にも広く適用できる。
【0133】
<変形例4>
また、上述の実施形態では、血管の立体画像を描出することを例に説明したが、血管に限らず、リンパ管、石灰化組織など、他の構造体を対象としてもよい。
【符号の説明】
【0134】
10…画像診断装置、12…第1の光源部、20…干渉光検出部、20a…干渉信号生成部、20b…AD変換部、22…信号処理部、100…内視鏡、200…内視鏡プロセッサ、300…光源装置、400…OCTプロセッサ、410…フーリエ変換部、420…対数変換部、450…断層画像構築部、460…3次元血管構造抽出処理部、490…制御部、500…モニタ装置、600…OCTプローブ、800…被検体、810,811…血管、860,861…映り込み部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に向けて測定波が照射され、前記測定対象からの反射波に基づいて生成された前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得手段と、
前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理手段と、
前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する境界判定手段と、
前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去手段と、
前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成手段と、
を備えることを特徴とする断層画像処理装置。
【請求項2】
前記断層画像は、前記測定波として光を用いた光干渉断層画像であることを特徴とする請求項1に記載の断層画像処理装置。
【請求項3】
前記光干渉断層画像は、波長掃引光源から射出される光を測定光と参照光に分割し、前記測定光にて前記測定対象に照射し、該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波し、前記反射光と前記参照光が合波したときの干渉光を干渉信号として検出し、該干渉信号から生成された断層画像であることを特徴とする請求項2に記載の断層画像処理装置。
【請求項4】
前記境界判定処理手段は、前記微分値が負の値でピークとなる位置を検知することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の断層画像処理装置。
【請求項5】
前記断層画像データ取得手段は、前記測定波により前記測定対象を走査して得られる3次元断層画像を取得し、
前記表示画像生成手段は、前記表示用画像として、前記特定構造体の立体的構造を描出するための3次元表示用画像を生成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の断層画像処理装置。
【請求項6】
前記3次元断層画像のデータから、前記測定対象に対する前記測定波の入射方向に対して垂直な断面で前記特定構造体の候補領域を抽出する特定構造体候補領域抽出手段を有し、
前記入射方向に垂直な各断面から抽出された前記候補領域の各画素に対し前記微分値が計算され、該微分値の情報から前記境界部が判定され、
前記候補領域のうち、前記境界部よりも深層の前記映り込み成分が除去されることを特徴とする請求項5に記載の断層画像処理装置。
【請求項7】
前記入射方向に対して垂直な前記断面の前記候補領域から前記特定構造体の大きさを推定する特定構造体領域推定手段を備えることを特徴とする請求項6記載の断層画像処理装置。
【請求項8】
前記特定構造体の大きさを示す情報が予め設定されており、当該予め設定された情報に基づいて前記特定構造体の大きさに相当する領域が決定されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の断層画像処理装置。
【請求項9】
前記特定構造体は、血管であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の断層画像処理装置。
【請求項10】
測定対象に向けて測定波が照射され、前記測定対象からの反射波に基づいて生成された前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得ステップと、
前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理ステップと、
前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する処理を行う境界判定処理ステップと、
前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去処理ステプと、
前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成ステップと、
を含むことを特徴とする断層画像処理方法。
【請求項11】
光の波長を一定の周期で掃引させながら光を射出する波長掃引光源と、
前記波長掃引光源から射出された光を測定光と参照光に分割する光分割手段と、
前記光分割手段により分割された前記測定光が測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波する合波手段と、
前記合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光を検出する光干渉検出手段と、
前記光干渉検出手段により検出された干渉信号から前記測定対象の深さ方向の情報を含む断層画像のデータを取得する断層画像取得手段と、
前記断層画像の前記深さ方向について信号強度の微分値を求める微分処理手段と、
前記微分値の情報から前記測定対象内部に存在する特定構造体の境界部を判定する境界判定手段と、
前記断層画像のうち、前記判定した境界部から前記特定構造体の大きさの前記深さ方向に相当する領域を残し、当該領域から更に深部の領域は前記特定構造体に起因する映り込み成分を含んだ非特定構造体領域であるとして前記映り込み成分を除去する処理を行う映り込み成分除去手段と、
前記映り込み成分が除去された画像信号に基づき、前記特定構造体を描出するための表示画像を生成する表示画像生成手段と、
前記表示画像生成手段により生成された表示画像を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする光干渉断層画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−13432(P2012−13432A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147506(P2010−147506)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】