説明

断熱容器、断熱容器の製造方法、高融点樹脂製成形品の接合方法および高融点樹脂製成形品

【課題】ポリフタルアミド樹脂等の高融点樹脂の非接触式熱板溶着において、接合部に老化防止剤を塗布することにより、融点を超えた温度における樹脂の熱分解を制御することで、強度バラツキの小さい高信頼性のある内部容器を実現し、断熱容器を安定して提供する。
【解決手段】液体を保温貯留する断熱容器1であって、液体を貯留するため断熱容器1内部に設けられる内部容器10は、ガラス繊維を含有したポリフタルアミド製の接合部材を接合することによって液体貯留空間を形成するように構成されており、その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液体を保温貯留する断熱容器に関するものであり、特に車両用エンジンの冷却水を保温貯留する断熱容器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として車両用エンジンの低燃費化が強く求められている。特に、エンジン始動直後の暖機運転時の燃費を向上させることは大きな課題となっている。この、車両用エンジン始動直後の燃費を向上させることを目的として、車両用エンジンの冷却水(ロング・ライフ・クーラント:以下LLCと記す)を保温貯留し、エンジン始動時に保温されたLLCをエンジンに循環させてエンジンの暖機を促進するために必要な断熱容器として、液体を貯留する内部容器と、周囲をシート状の外装材で包み、その内部容器と外装材の間に真空状態の断熱空間を形成する断熱容器が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、LLC貯留用内部容器の材質としては、軽量、高耐熱、高強度であり、更にLLC等の耐薬品性に優れたガラス繊維を含有したポリフタルアミド樹脂が用いられている。樹脂製の内部に空間を有する容器は、安価な射出成形法で得られた2パーツ以上の成形体を接合して作製されるが、LLC貯留用容器には、内部の圧力が大気圧以上に上昇するため、接合部には高い強度が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−105748号公報
【特許文献2】特開平8−294970号公報
【特許文献3】特開2008−213430号公報
【特許文献4】特開2006−123378号公報
【特許文献5】特開2006−346944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂の高強度接合方法として、接合部を加熱溶融して接合する溶着が広く用いられており、使用する樹脂の種類、接合部品の形状等によって、「振動溶着」、「超音波溶着」、「電磁誘導加熱式溶着」、「非接触式熱板溶着」等さまざまな手法から選択される。次にガラス繊維を含有したポリフタルアミド樹脂を溶着した場合の問題点を列挙する。
【0006】
まず、「振動溶着」(特許文献2)を選定した場合、ポリフタルアミドが融点に達して完全に溶融する前に、樹脂が軟化した時点で含有されたガラス繊維が押出され脆弱なバリが発生する。容器外周部に発生したバリは容易に除去することができるが、容器内部に発生したバリは、完全に除去することは困難で、製品内部に残存しLLCに混入する可能性がある。
【0007】
また、「超音波溶着」(特許文献3)では、溶着機は超音波振動を発生させる超音波発振器と発生した振動を増幅させるホーンからなる。このホーンは、ワーク形状、ワーク質量等により個別の形状設計が必要であり、短期間での形状変更、多品種の製造には適していない。また、エンジンルーム内に設置される断熱容器には、スペースの形状に合わせた複雑な容器形状に加え、容器内部に設けられた外壁とは厚さの異なる仕切り板も同時に接合する必要があるが、超音波振動を全接合面に均一に伝達することは難しい。
【0008】
さらに、「電磁誘導加熱式溶着」(特許文献4)は、電磁誘導を用いてコイル中に配した非加熱物を加熱するため、被加熱物は導電体である必要がある。樹脂同士の溶着の場合、接合部に非加熱物となる金属線等を配する必要がある。これも、超音波溶着と同様に単純形状であれば問題なく均一に発熱することが可能であるが、複雑形状であり、かつ容器内部に設けられた外壁とは厚さの異なる仕切り板も同時に接合する必要がある、本願発明品への適用は難しい。
【0009】
上述の問題点を鑑みると、本願発明品に最も適しているのは、「非接触式熱板溶着法」(特許文献5)である。
ここで、「非接触式熱板溶着法」とは、樹脂の接合部を対面させた状態で離間して配置し、その間に熱板を挿入し非接触で接合部を加熱溶融させた後、熱板を抜いて接合部同士を圧着する溶着方法である。この方法を用いると容易にポリフタルアミド樹脂の溶着を行うことができ、複雑形状への対応や、容器内部に設けられた外壁とは厚さの異なる仕切り板を同時に溶着することも問題なく行える。
【0010】
但し、接合部の面積が増えると、部分的な強度バラツキが大きく発生し、安定した製造が困難であるという問題がある。これはポリフタルアミドの融点は約320℃であり、高融点樹脂は融点と熱分解温度の差が小さいことに起因する。確実な溶着を行うためには接合部の温度は融点に達していなければならず、融点以下であれば強度低下し、また、融点以上であれば熱分解するため強度低下を惹き起こす。接合部の面積が増えると、全て均一な温度に加熱することが難しいため、接合面の温度バラツキを生じ、部分的な強度低下を起こすものと考えられる。
【0011】
そこで、本願発明は上記の問題を鑑み、ポリフタルアミド樹脂等の高融点樹脂の非接触式熱板溶着において、接合部に老化防止剤を塗布することにより、融点を超えた温度における樹脂の熱分解を制御することで、強度バラツキの小さい高信頼性のある内部容器を実現し、断熱容器を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の発明は、液体を保温貯留する断熱容器であって、液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器は、補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を複数接合することによって液体貯留空間を形成するように構成されており、その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものであることを特徴とした断熱容器である。
第2の発明は、前記接合部材の接合部には、内部容器の液体貯留空間を形成する外壁部分の他に、内部容器の内部を仕切るために設けられた仕切板部分も含まれることを特徴とした同断熱容器である。
第3の発明は、前記高融点樹脂が、ポリフタルアミド樹脂であることを特徴とした同断熱容器である。
第4の発明は、前記老化防止剤が、アミン−ケトン系、芳香族第二級アミン系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、亜リン酸系から選択され、熱分解温度が320℃以上であることを特徴とする同断熱容器である。
第5の発明は、液体を保温貯留する断熱容器の製造方法であって、液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器が、複数の接合部材を接合することによって内部容器を構成する補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を成形し、その接合部材の接合部に老化防止剤を塗布した後、非接触熱板溶着法で接合することによって、液体貯留空間を備えた内部容器として作製されることを特徴とした断熱容器の製造方法である。
第6の発明は、前記老化防止剤の塗布が、有機溶剤を溶媒とした0.1〜5wt%の老化防止剤溶液に前記接合部を含浸させることを特徴とした同断熱容器の製造方法である。
【0013】
第7の発明は、補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品の接合方法であって、補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材の接合部に老化防止剤を塗布した後、非接触熱板溶着法で前記接合部材どうしを接合し、補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品を得ることを特徴とした高融点樹脂製成形品の接合方法である。
第8の発明は、前記老化防止剤の塗布が、有機溶剤を溶媒とした0.1〜5wt%の老化防止剤溶液に前記接合部を含浸させたことを特徴とした同高融点樹脂製成形品の接合方法である。
第9の発明は、複数の接合部材を接合することによって構成される補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品であって、その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものであることを特徴とした高融点樹脂製成形品である。
第10の発明は、前記接合部材の接合部には、高融点樹脂製成形品の外部構造を形成する外側部分の他に、同内部構造を形成する内側部分も含まれることを特徴とした同高融点樹脂製成形品である。
第11の発明は、前記高融点樹脂が、ポリフタルアミド樹脂であることを特徴とした同高融点樹脂製成形品である。
第12の発明は、前記老化防止剤が、アミン−ケトン系、芳香族第二級アミン系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、亜リン酸系から選択され、熱分解温度が320℃以上であることを特徴とする同高融点樹脂製成形品である。
【0014】
なお、本願発明を「内部容器」に関する発明と捉えた場合、次のような発明も成り立つ。
(1)液体を保温貯留する断熱容器において、液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器であって、その内部容器は、補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を複数接合することによって液体貯留空間を形成するように構成されており、その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものであることを特徴とした内部容器である。
(2)前記接合部材の接合部には、内部容器の液体貯留空間を形成する外壁部分の他に、内部容器の内部を仕切るために設けられた仕切板部分も含まれることを特徴とした(1)記載の内部容器である。
(3)前記高融点樹脂が、ポリフタルアミド樹脂であることを特徴とした(1)又は(2)記載の内部容器である。
(4)前記老化防止剤が、アミン−ケトン系、芳香族第二級アミン系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、亜リン酸系から選択され、熱分解温度が320℃以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の内部容器である。
(5)液体を保温貯留する断熱容器において、液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器の製造方法であって、前記内部容器は、複数の部材を接合することによって内部容器を構成する補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を成形し、その接合部材の接合部に老化防止剤を塗布した後、非接触熱板溶着法で当該接合部を接合し、液体貯留空間を備えた内部容器を作製することを特徴としたものである。
(6)前記老化防止剤の塗布が、有機溶剤を溶媒とした0.1〜5wt%の老化防止剤溶液に前記接合部を含浸させたことを特徴とした(5)記載の断熱容器用内部容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)ポリフタルアミド樹脂等の高融点樹脂の非接触熱板式溶着に老化防止剤を使用することにより、接合部の強度バラツキを抑えて、信頼性の高い内部容器を内包した断熱容器を安定供給することができる。
(2)強度バラツキを低減により、内部容器外壁の肉厚を薄くすることができ、樹脂の使用量を低減し、製造コストを低減することができる。
(3)また、非接触熱板式溶着によるポリフタルアミド樹脂等の高融点樹脂の確実な溶着が行えることで、複雑形状な内部容器の作製が可能になる。例えば、容器内部に仕切板等の複雑な構造を備えた内部容器の作製が可能になる。また、外形形状(外壁形状)が複雑な内部容器の作製も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明に係る断熱容器例を示す断面図
【図2】ポリフタルアミドの熱分析結果(大気中)
【図3】ポリフタルアミドの熱分析結果(窒素雰囲気中)
【図4】4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンの構造図
【図5−1】内部容器作製の説明図(1)
【図5−2】内部容器作製の説明図(2)
【図5−3】内部容器作製の説明図(3)
【図5−4】内部容器作製の説明図(4)
【図6】外装材であるラミネートフィルムの断面図
【図7】非接触熱板式溶着の説明図
【図8】引張強度測定結果(実施例)
【図9】引張強度測定結果(比較例)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の断熱容器例を図1に示す。本願発明では、液体の流入出口部13を備えた内部容器10の周囲に断熱材20、気体吸着材(ゲッター材)21を配し、シート状の外装材30で包み真空封止することにより、内部容器10の周囲を隙間なく真空断熱材で被い、高性能な断熱容器1としている。また、内部容器10は樹脂製で、射出成形法で作製することに加え、シート状の外装材には柔軟性があるため、多種多様の形状に対応できる利点も備えている。
【0018】
ここで、内部容器10の材質としては、高耐熱、高強度、かつLLC等の耐薬品性に優れたポリフタルアミド樹脂(PPA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド66(PA66)、ポリエチレンテレフタレート(PET)といった融点が250〜340℃である高融点樹脂が好適に使用できる。
また、これらの高融点樹脂に「補強繊維」を含有したものを使用するとよい。内部容器の強度が高まるからである。ここで、「補強繊維」としては、例えば、以下のようなものを使用するとよい。
(1)種類:ガラス繊維,炭素繊維
(2)繊維長:好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは3〜10mm
(3)繊維径:好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは5〜10μm
(4)配合割合:好ましくは10〜60%、さらに好ましくは30〜50%
【0019】
なお、内部容器10として使用する樹脂材料は材料自体を透過する気体透過量が大きいため、長期間にわたって真空断熱層の真空度を維持するためには、気体透過を制御する必要がある。メッキ処理等によって樹脂表面に金属層の形成する、または後述するシート状のガスバリア層を含んだラミネートフィルムで、内部容器10を包む等の措置をとれば長期間に渡る真空度維持に効果が得られる。
【0020】
ポリフタルアミド樹脂の熱分析結果(示差走査熱量測定:DSC)を図2及び図3に示す。図2は大気中で測定した結果であり、図3は窒素雰囲気中で測定した結果である。
約320℃でポリフタルアミド樹脂の融点を示す吸熱反応が見られる。その後大気中で測定したものは、約400℃、490℃に発熱ピークが確認でき、連続して熱分解が進行していることが分る。それに対して窒素雰囲気中で測定したものは、約400℃の発熱ピークは見受けられず、約490℃における発熱ピークの発熱エネルギーも減少していることから、これは酸化を伴った熱分解反応であることが容易に推定できる。そこで、この反応を制御または遅延させることで溶着範囲を拡げることが可能であると考えられる。
【0021】
まず、上記の測定と同様にポリフタルアミド樹脂の溶着を窒素雰囲気中で行えば、改善できると思われるが、製造時の製造設備投資、ランニングコストが増大するため現実味はない。そこで、本願発明者らによる鋭意検討の結果、低コストでかつ強度低下の防止効果の大きい老化防止剤の使用に至った。
樹脂は酸素が存在すると,熱,光,触媒の作用によって,まず分子中で最も結合力の弱い炭素−水素結合が切れ水素が離れる。これは遊離基(フリーラジカル)と呼ばれており、遊離基の発生が連鎖的に広がることにより劣化が進行する。老化防止剤は、その分子内に−NH−や−OHなどの遊離基と反応し易い水素を持ち、樹脂中に生じた遊離基等と反応して安定な物質にすることにより、劣化の進行を制御する作用を持つものである。
【0022】
老化防止剤の種類としては酸化防止効果が高ければ特に限定するものではないが、例えば、アミン−ケトン系の2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、芳香族第二級アミン系の4,4-ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンやN,N'-ジ-2-ナフチル-p−フェニレンジアミン、ベンツイミダゾール系の2-メルカプトベンツイミダゾールの亜鉛塩や2-メルカプトメチルベンツイミダゾールの亜鉛塩、ジチオカルバミン酸塩系のジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、亜リン酸系のトリス(ノニルフェニル)ホスフェイト等から選択されればよく、熱分解温度が使用する高融点樹脂の融点以上であればよい。例えば、融点が320℃であるポリフタルアミド樹脂を使用するのであれば、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好適に使用できる(図4)。ここで老化防止剤は複数種類を混合して使用してもよい。
【0023】
ここで、接合部(接合面)での老化防止剤は均一分散していることが望ましい。老化防止剤をアセトン、トルエン、メチルエチルケトン、キシレン、ベンゼンといった有機溶剤中に溶解させた溶液中に、接合面を含浸させる手法が均一な塗布を行う面でも、コスト面でも最適である。使用する有機溶剤は老化防止剤が溶解すれば特に限定するものではないが、一例として、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを使用する場合はアセトンが好適に使用できる。また、溶液の濃度は低濃度では酸化防止効果は小さく、また、高濃度では加熱時の老化防止剤溶融による吸熱反応でポリフタルアミド樹脂(高融点樹脂)が低温化し、加熱溶融に時間を要するため、0.1〜20wt%であればよく、このましくは0.5〜10wt%、さらに好ましくは1〜5wt%であればなおよい。
【0024】
次に、内部容器10の作製法について図5−1〜図5−4を用いて説明する。なお、図5ではワークを固定するための冶具を省略して記す。
まず、射出成形法で内部容器10を構成するポリフタルアミド樹脂(高融点樹脂)製の接合部材(半割り品)11,12を作製する(図5−1)。
次に、この接合部材11,12の接合部(接合面)を上述の老化防止剤溶液50に含浸させた後、同溶剤を乾燥、除去する(図5−2)。
【0025】
その後、2つの接合部材(成形品)11,12の接合部(接合面)を離間させ対面する様に冶具にセットし、加熱された熱板60を接合部(接合面)間に挿入する(図5−3)。この時、接合部材11,12の接合面(表面)の温度は、樹脂の融点の−10〜+100℃、より好ましくは+10〜+50℃であればよい。具体的には、ポリフタルアミド樹脂製成形品を接合する場合には630〜700℃であればよく、660〜690℃であればなおよい。
そして、熱板60を接合部(接合面)間から抜いて加圧し(図5−4)、接合部(接合面)の温度が十分に下がった時点で冶具から取り外し、内部容器10とした。
【0026】
上記図5では、内部容器10が液体貯留空間を形成する外壁部分の他に、内部容器10の内部を仕切るために設けられた仕切り板14も含まれており、外壁15部分の接合だけでなく、内部の仕切り板14の接合も必要とされる。そして、このような内部構造の接合も必要とされる内部容器(成形品)の作製法として本願発明は極めて有効である。すなわち、前記背景技術で説明した「振動溶着法」では、溶着(接合)部分にバリが発生し(特に補強繊維を含有する樹脂を使用した場合は顕著である)、容器内部に発生したバリは除去困難であり、場合によっては、異物として保温貯留する液体に混入してしまう可能性もある。また、「超音波溶着法」や「電磁誘導加熱式溶着法」では、外壁部分と厚さの異なる仕切ち板部分を同時に接合することは困難である。これに対して、本願発明による「非接触式熱板溶着法」を用いれば、図5に示す仕切り板14のような複雑な内部構造を持つ内部容器10も確実に作製することができるのである。
【0027】
次に、外装材30の一例を模式図(図6)に示す。シート状の外装材30は複数のフィルムを積層したラミネートフィルムである。表面の保護層は、ガスバリア層への孔、亀裂等の欠陥発生防止が主な目的である。接着層を熱溶着する際は、接着層同士を相対させて表面の保護層側から熱をかけるため、保護層の融点は少なくとも接着層の融点より50℃以上高いことが望ましい。ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが好適に使用できる。次にガスバリア層は気体透過制御を目的としているため、金属箔が望ましい。安価なアルミニウム箔が好適に使用でき、厚みは5〜30μmであればよく、7〜12μmがより望ましい。また、接着層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアルコール等が好適に使用でき、厚みは30〜50μmが望ましい。
【0028】
また、内包する断熱材20はグラスウール、ロックウール、セラミックファイバーのいずれかの無機繊維からなり、特に平均繊維径が5μm以下で、高温雰囲気で吸着水分を乾燥したグラスウールを使用することが望ましい。
なお、断熱層は長期使用すると、断熱材20から発生するガス、接合部樹脂を透過するガス等により真空度が低下するおそれがあり、それを防ぐために断熱層内部のガスを吸着するための気体吸着材21が不可欠である。気体吸着材21は主に水分を吸着する酸化カルシウム、主に酸素、窒素を吸着するバリウム/リチウム合金、主に水素を吸着する酸化コバルトが望ましい。但し、それぞれの気体吸着材21を単独で封入した場合、バリウム/リチウム合金は断熱材から発生する水分を吸着し、目的である酸素、窒素の吸着能力が低下する問題があるため、バリウム/リチウム合金層を中間層とする、酸化カルシウム層、酸化コバルト層からなる3層構造とすることが好適である(図示省略)。
【実施例】
【0029】
本来であれば、内部容器10の溶着に関して記すべきであるが、容器形状が複雑であり外壁を切断して引張強度を測定した結果も切断点でそれぞれ接合面積も異なる。そこで、老化防止剤のポリフタルアミド樹脂の非接触熱板式溶着に対する効果を明確にするため、ここでは試験片を用いた実施例を示す。
【0030】
ポリフタルアミド樹脂を用いて射出成形で強度試験片(JIS K 7162)を作製した。この強度試験片の中央部で切断し、この切断箇所を溶着接合部とした。接合面積は4×10mmで40mm2である。
【0031】
老化防止剤として、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンをもちいて、アセトン中に3wt%の濃度で溶解させた。この老化防止剤溶液中に試験片の接合部を含浸させ、室温で約30分間放置して溶剤であるアセトンを気化させた後、溶着冶具にセットした。この時、熱板を挿入した際、熱版上側と上側試験片の距離が1.5mm、熱板下側と下側試験片の距離が0.8mmとなる様に高さを調整した(図7)。690℃に加熱した熱板を試験片間に挿入し、接合部を加熱溶融させた。この加熱時間を13秒〜19秒間の範囲で行っている。加熱後熱板を抜いて加圧し、30秒間放置した後冶具から取り外し引張強度を測定した。引張強度の測定結果を図8に示す。
【0032】
[比較例]
比較例として、実施例と同様に老化防止剤を使用しないポリフタルアミド樹脂の溶着試験片を作製した。加熱時間を12〜21秒間の範囲で行っている以外は全て実施例と同条件で行った。引張強度の測定結果を図9に示す。
【0033】
図8(実施例)と図9(比較例)を見比べると、図8(実施例)が図9(比較例)よりも長時間にわたって2000N以上の高強度を維持できていることが分かる。この結果から、老化防止剤を塗布することにより、高強度範囲を増大させ、強度バラツキを低減する効果を確認することができた。本願発明により、信頼性の高い内部容器の安定供給が可能となることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明によれば、液体を保温貯留する断熱容器として利用でき、特に車両用エンジンのLLCを保温貯留する断熱容器に適用するものである。その他に、電気ポットなどの保温容器あるいは液化ガスなどの保冷容器にも利用することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 断熱容器
10 内部容器
11 接合部材(半割り品)
12 接合部材(半割り品)
13 流入出口部
14 仕切り板
15 外壁
20 断熱材
21 気体吸着材(ゲッター材)
30 外装材
50 老化防止剤溶液
60 熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保温貯留する断熱容器であって、
液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器は、補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を複数接合することによって液体貯留空間を形成するように構成されており、
その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものであることを特徴とした断熱容器。
【請求項2】
前記接合部材の接合部には、内部容器の液体貯留空間を形成する外壁部分の他に、内部容器の内部を仕切るために設けられた仕切板部分も含まれることを特徴とした請求項1記載の断熱容器。
【請求項3】
前記高融点樹脂は、ポリフタルアミド樹脂であることを特徴とした請求項1又は2記載の断熱容器。
【請求項4】
前記老化防止剤は、アミン−ケトン系、芳香族第二級アミン系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、亜リン酸系から選択され、熱分解温度が320℃以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の断熱容器。
【請求項5】
液体を保温貯留する断熱容器の製造方法であって、
液体を貯留するため断熱容器内部に設けられる内部容器が、複数の接合部材を接合することによって内部容器を構成する補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材を成形し、その接合部材の接合部に老化防止剤を塗布した後、非接触熱板溶着法で接合することによって、液体貯留空間を備えた内部容器として作製されることを特徴とした断熱容器の製造方法。
【請求項6】
前記老化防止剤の塗布は、有機溶剤を溶媒とした0.1〜5wt%の老化防止剤溶液に前記接合部を含浸させることを特徴とした請求項5記載の断熱容器の製造方法。
【請求項7】
補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品の接合方法であって、
補強繊維を含有した高融点樹脂製の接合部材の接合部に老化防止剤を塗布した後、非接触熱板溶着法で前記接合部材どうしを接合し、補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品を得ることを特徴とした高融点樹脂製成形品の接合方法。
【請求項8】
前記老化防止剤の塗布は、有機溶剤を溶媒とした0.1〜5wt%の老化防止剤溶液に前記接合部を含浸させたことを特徴とした請求項7記載の高融点樹脂製成形品の接合方法。
【請求項9】
複数の接合部材を接合することによって構成される補強繊維を含有した高融点樹脂製成形品であって、
その接合部材の接合は、老化防止剤の塗布された接合部を非接触熱板溶着法で接合したものであることを特徴とした高融点樹脂製成形品。
【請求項10】
前記接合部材の接合部には、高融点樹脂製成形品の外部構造を形成する外側部分の他に、同内部構造を形成する内側部分も含まれることを特徴とした請求項9記載の高融点樹脂製成形品。
【請求項11】
前記高融点樹脂は、ポリフタルアミド樹脂であることを特徴とした請求項9又は10記載の高融点樹脂製成形品。
【請求項12】
前記老化防止剤は、アミン−ケトン系、芳香族第二級アミン系、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、亜リン酸系から選択され、熱分解温度が320℃以上であることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の高融点樹脂製成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図5−4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−228798(P2010−228798A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80675(P2009−80675)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】