説明

断熱性塗膜の形成方法

【課題】水性断熱性塗料、及び水性上塗り塗料を順に塗装する塗膜形成方法において、その耐汚染性、膨れ防止性等を改善する。
【解決手段】水性断熱性塗料を塗付した後、水性上塗り塗料を塗付する断熱性塗膜の形成方法において、該水性断熱性塗料として、合成樹脂エマルション(I)、中空粒子(II)、及び平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体(III)を必須成分とし、(I)成分の固形分100重量部に対し(II)成分を0.5〜200重量部、(III)成分を3〜400重量部含むものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外装面に塗装を施すことによって、建築物の躯体を保護したり、美観性を向上させたりすることが行われている。このうち、建築物の温度上昇を防止し、冷房使用量の低減やヒートアイランド現象の抑制等を図ることを目的とした塗装方法が注目されている。
【0003】
一例として、特開平1−126376号公報(特許文献1)、特開平1−263163号公報(特許文献2)では、構造物基体に対し、ガラスバルーン、シラスバルーン、樹脂バルーン等の球状中空体を含む断熱性塗料を塗装した後、上塗り塗料を塗装する方法が開示されている。ただし、これらの公報に記載されている断熱性塗料は、いずれも溶剤系樹脂をバインダーとする塗料であり、塗装時に有機溶剤が大気中へ放出されてしまうおそれがある。特に、厚膜の塗膜を形成しようとすれば、その膜厚に比例して有機溶剤の放出量も増加してしまう。一般に、塗料中の有機溶剤は、光化学スモッグや地球温暖化の原因物質のひとつとして挙げられている物質であることから、このような物質を使用することは近年の環境保護意識の高まりからすれば好ましいものとは言えない。
【0004】
これに対し、合成樹脂エマルションをバインダーとする水性断熱性塗料が提案されている。このような水性断熱性塗料を使用すれば、有機溶剤の放出量を抑制することができる。例えば、特開昭60-94470号公報(特許文献3)には、合成樹脂エマルション、水硬性セメント、及び樹脂発泡体粒子からなる水性断熱性塗料が開示されている。
【0005】
しかし、上述の公報に記載の水性断熱性塗料では、塗膜の割れ発生等を防止するために、比較的低いガラス転移温度の合成樹脂エマルションが採用されている。そのため、水性断熱性塗料の塗膜に上塗り塗料を塗り重ねる場合には、上塗り塗膜に割れが生じないように、上塗り塗料に使用する樹脂のガラス転移温度も低めに設定しなければならず、上塗り塗膜における汚染物質の付着を防止することは難しい。
このような汚染物質の付着は、上塗り塗膜の温度上昇を招き、塗膜の膨れ発生を誘発するおそれがある。特に、下層の断熱塗膜の膜厚を厚くして断熱性能を高めた場合には、上塗り塗膜で発生した熱が下層の方向に伝導・拡散しづらくなるため、上塗り塗膜の温度上昇に伴う膨れ発生等の問題がより生じやすくなる。
【0006】
【特許文献1】特開平1−126376号公報
【特許文献2】特開平1−263163号公報
【特許文献3】特開昭60-94470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、水性断熱性塗料、及び水性上塗り塗料を順に塗装する塗膜形成方法において、その耐汚染性、膨れ防止性等を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、構成成分として特定の有機質粉体を含む水性断熱性塗料を塗付した後、水性上塗り塗料を塗付する方法に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0010】
1.水性断熱性塗料を塗付した後、水性上塗り塗料を塗付する断熱性塗膜の形成方法において、該水性断熱性塗料として、
合成樹脂エマルション(I)、中空粒子(II)、及び
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体(III)
を必須成分とし、(I)成分の固形分100重量部に対し(II)成分を0.5〜200重量部、(III)成分を3〜400重量部含むものを使用することを特徴とする断熱性塗膜の形成方法。
2.前記水性上塗り塗料が、顔料として、
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体を含むものであることを特徴とする1.記載の断熱性塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗膜形成方法では、断熱性塗料及び上塗り塗料として、いずれも水性タイプの塗料を使用するため、環境に配慮した塗装を行うことができる。しかも本発明では、形成塗膜における耐汚染性、膨れ防止性等を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0013】
本発明における水性断熱性塗料は、
合成樹脂エマルション(I)(以下(I)成分という)、
中空粒子(II)(以下(II)成分という)、及び
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体(III)(以下(III)成分という)
を必須成分として含有するものである。
【0014】
水性断熱性塗料における(I)成分は、バインダーとして作用する成分である。具体的に(I)成分としては、例えば、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0015】
このような(I)成分は架橋反応性を有するものであってもよい。(I)成分が架橋反応型合成樹脂エマルションである場合は、塗膜の耐水性、耐候性、密着性等を高めることができる。架橋反応型合成樹脂エマルションは、それ自体で架橋反応を生じるもの、あるいは別途混合する架橋剤によって架橋反応を生じるもののいずれであってもよい。このような架橋反応性は、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、アルド基とセミカルバジド基、ケト基とセミカルバジド基、アルコキシル基どうし等の反応性官能基を組み合わせることによって付与することができる。
また、(I)成分としてコアシェルタイプの合成樹脂エマルションを使用することもできる。
【0016】
(I)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、フィード乳化重合、フィード分散重合、シード乳化重合、シード分散重合等を採用することができる。
【0017】
(I)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は通常−50〜50℃の範囲内で適宜設定すればよいが、本発明では後述の(III)成分の作用により、(I)成分のTgを比較的高く(好ましくは−5〜50℃、より好ましくは5〜50℃、さらに好ましくは15〜50℃)設定することが可能となる。Tgがこの範囲より高い場合は、下地への追従性が不十分となり、塗膜に割れが発生しやすくなる。Tgが低すぎる場合は、上塗り塗料においても低いTgの樹脂を使用しなければならず、塗膜表面に汚染物質が付着しやすくなる。また、塗膜に膨れが発生しやすくなる。
なお、本発明におけるTgは、(I)成分を構成するモノマーの種類とその構成比率から、Foxの計算式によって求められる値である。
(I)成分の平均粒子径は、通常0.05〜0.4μm程度である。
【0018】
水性断熱性塗料における中空粒子(II)は、塗膜に断熱性を付与する成分である。(II)成分としては、例えば、中空セラミックビーズ、中空樹脂ビーズ等が挙げられる。中空セラミックビーズを構成するセラミック成分としては、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、カーボン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、シラス、黒曜石等が挙げられる。中空樹脂ビーズを構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。(II)成分の構成成分が樹脂成分であるものは、熱伝導率が低い点で有利である。
(II)成分の形状としては、球形、楕円球形、偏平球形等が挙げられる。
【0019】
(II)成分は中空構造を有するものであり、その構造に着目すると開気泡型中空粒子と閉気泡型中空粒子に分類される。このうち本発明では、閉気泡型中空粒子が好適である。閉気泡型中空粒子を用いた場合は、気泡中への樹脂成分等の侵入を防止することができるため、高い断熱性能を発揮することができる。閉気泡型中空粒子の内部構造は、粒子1個当たり1個の中空を有する単一中空型であってもよいし、粒子1個当たり2個以上の中空を有する多中空型であってもよい。
【0020】
(II)成分の中空部分には通常、気体が充填されているが、中空部分が真空であるものを使用することも可能である。中空部分に充填可能な気体としては、例えば、空気、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素、揮発性モノマー等が挙げられる。このうち脂肪族炭化水素が好適である。
【0021】
(II)成分の平均粒子径は通常0.1〜200μm、好ましくは1〜150μmである。平均粒子径がこのような範囲であることにより、平滑性が高い塗膜を形成することができる。また、隠ぺい性、赤外反射性等を高めることもできる。
(II)成分の密度は通常0.01〜1g/cm3、好ましくは0.01〜0.5g/cm3である。密度がこのような範囲であることにより、断熱性、軽量性等を高めることができる。
【0022】
水性断熱性塗料では(III)成分として、特定の有機質粉体を混合することにより、下地への追従性が高まり、塗膜の割れ発生を抑制することができる。また、このような(III)成分は、無機質粉体に比べ熱伝導率が低いため、断熱性の点でも有利である。
【0023】
第1の(III)成分は、平均粒子径が0.1〜100μmであり、Tg−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(以下「(a)成分」という)である。(a)成分の平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。
【0024】
(a)成分の重合体は、各種重合性モノマーを共重合することによって形成されるものである。使用可能な重合性モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。分子内に2個以上のビニル基を有する多官能モノマー等も使用可能である。
【0025】
(a)成分のTgは、通常−60〜60℃、好ましくは−50〜50℃、より好ましくは−40〜40℃である。(a)成分のTgは、重合体を構成するモノマーの種類や比率を適宜設定することによって調整できる。Tgが高すぎる場合は、下地への追従性において十分な性能を得ることができず、Tgが低すぎる場合は、耐汚染性等の点で不利となる。
【0026】
水性断熱性塗料では、第2の(III)成分として、平均粒子径が0.1〜100μmであり、Tg30℃未満の重合体からなるコア部とTg30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(以下「(b)成分」という)を使用することができる。このような(b)成分を使用することにより、下地への追従性、割れ防止性をより高めることができる。この場合、(a)成分と(b)成分を混合して使用することもできる。
(b)成分の平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。
【0027】
(b)成分のコア部のTgは、通常30℃未満、好ましくは−60〜20℃、より好ましくは−60〜10℃である。シェル部のTgは、通常30℃以上、好ましくは50〜140℃、より好ましくは60〜130℃である。
(b)成分においては、コア部及びシェル部のTgが所定の範囲内となる限り、重合体を構成するモノマーは特に制限されず、上述の(a)成分と同様のモノマーからなるものも使用できる。
なお、(a)成分、(b)成分は、いずれも非造膜性の粉体であり、造膜性を有する(I)成分とは別異の材料である。
【0028】
水性断熱性塗料では、赤外線反射性粉体(IV)(以下「(IV)成分」という)を含むことが望ましい。この(IV)成分は、太陽光による塗膜の蓄熱を抑制する機能を有する点で好適である。(IV)成分としては、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化カルシウム、鉛白、硫化亜鉛、アルミナ等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。このうち、本発明では酸化チタン、酸化亜鉛から選ばれる1種以上が好適である。
【0029】
(IV)成分の平均粒子径は通常0.1〜10μm、好ましくは0.1〜1μmである。平均粒子径がこのような範囲であることにより、赤外線反射性を高めることができる。
【0030】
水性断熱性塗料における各成分の重量比率は、(I)成分の固形分100重量部に対し、(II)成分を0.5〜200重量部(好ましくは1〜100重量部)、(III)成分を3〜400重量部(好ましくは5〜300重量部)とする。(VI)成分を使用する場合は、(I)成分の固形分100重量部に対し、(IV)成分を1〜400重量部(好ましくは2〜200重量部)とする。水性断熱性塗料において各成分をこのような比率で混合することにより、断熱性、赤外線反射性等に優れるとともに、上塗り塗料との密着性が高く、十分な塗膜強度を有する塗膜を形成することが可能となる。
(II)成分が0.5重量部より少ない場合は、十分な断熱性能を得ることができない。200重量部より多い場合は、膨れ、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。
(III)成分が3重量部より少ない場合は、塗膜の割れ防止性を確保するために、(I)成分のTgを低く設定しなければならず、耐汚染性等の点で不利となる。400重量部より多い場合は、密着性が低下するおそれがある。
(IV)成分が1重量部より少ない場合は、太陽光によって塗膜が蓄熱しやすくなる。また、十分な塗膜強度が得られず、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。400重量部より多い場合は、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。
【0031】
本発明の水性断熱性塗料では、上述の成分以外に、通常塗料に配合可能な添加剤を本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、架橋剤、触媒、顔料、染料、骨材、艶消し剤、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
本発明の水性断熱性塗料は、上記成分を常法により均一に混合することで得ることができる。
【0032】
本発明の水性断熱性塗料は、主に屋根、屋上、外壁等の建築物外装面の表面に塗付するものである。この中でも特に外壁面に対して好適に適用することができるものである。
外装面の基材としては、特に限定されず、例えば、コンクリート、モルタル、金属、プラスチック、あるいはスレート板、押出し成形板、サイディングボード、ALC板等の各種ボード類等が挙げられる。これら基材は既に塗膜が形成されたものであってもよい。水性断熱性塗料の塗装は、主に既存の建築物に対して行うものであるが、各種ボード類については、予め工場等でプレコートすることもできる。塗装対象となる建築物は、新築物件でもよいし、改装物件でもよい。
【0033】
本発明の水性断熱性塗料は、塗装対象となる下地に対し直接塗装することができる。水性断熱性塗料を塗装する前には、必要に応じ、例えばシーラー、フィラー等により処理しておいてもよい。
【0034】
水性断熱性塗料の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛、コテ等を使用することができる。プレコートを行う場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いることもできる。塗装時には水を用いて塗料を希釈することができる。水の混合量は、使用する塗装器具、所望の表面形状等に応じて適宜設定すればよい。水性断熱性塗料において形成可能な表面形状としては、例えば、平滑状、ゆず肌状、吹付タイル状、さざ波状等が挙げられる。
水性断熱性塗料による形成塗膜の乾燥膜厚は、通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmである。
【0035】
本発明では、建築物外装面の表面に対し上述の水性断熱性塗料を塗付した後、水性上塗り塗料を塗付する。本発明における水性上塗り塗料としては、比較的硬質な塗膜が形成可能な塗料が使用できる。そのため、従来に比べ塗膜の耐汚染性を改善することができる。
【0036】
水性上塗り塗料におけるバインダーとしては、通常、合成樹脂エマルションを使用する。このような合成樹脂エマルションとしては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これらは、樹脂中に架橋構造を有するもの、あるいは塗膜形成後に架橋構造を生じるもの等であってもよい。このような架橋構造によって、密着性、耐候性、耐水性、耐薬品性、透湿性等を高めることができる。また、このような合成樹脂エマルションは、コアシェルタイプのものであってもよい。
水性上塗り塗料における合成樹脂エマルションのTgは、通常−5〜80℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃である。
【0037】
水性上塗り塗料としては、上述の水性断熱性塗料における(III)成分を含有するものが好適である。このような特定の有機質粉体を水性上塗り塗料に使用することで、塗膜の耐汚染性、割れ防止性をいっそう高めることができる。
水性上塗り塗料における(III)成分の含有量は、合成樹脂エマルションの固形分100重量部に対し1〜400重量部(好ましくは2〜200重量部)とすればよい。
【0038】
水性上塗り塗料は、着色タイプ、クリヤータイプのいずれであってもよい。水性上塗り塗料がクリヤータイプである場合は、上述の水性断熱性塗料が(IV)成分を必須成分として含むことが望ましい。
【0039】
着色タイプの水性上塗り塗料においては、水性上塗り塗料自体に赤外線反射性粉体及び/または赤外線透過性粉体を含有させることが望ましい。水性上塗り塗料がこのような粉体成分を含有することにより、太陽光による上塗り塗膜の蓄熱を抑制しつつ、上塗り塗膜を所望の色に着色することが可能となる。
【0040】
このうち赤外線反射性粉体としては、水性断熱性塗料の(IV)成分と同様のものを使用することができ、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化カルシウム、鉛白、硫化亜鉛、アルミナ等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0041】
赤外線透過性粉体としては、例えば、ペリレン顔料、アゾ顔料、黄鉛、弁柄、朱、チタニウムレッド、カドミウムレッド、キナクリドンレッド、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、コバルトブルー、インダスレンブルー、群青、紺青等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。前述の赤外線反射性粉体を使用するのみでは、表出可能な色相に限界があるが、これら赤外線透過性粉体を適宜組み合わせることにより、様々な色相の塗膜を形成することが可能となる。
【0042】
赤外線反射性粉体及び/または赤外線透過性粉体の含有量は、合成樹脂エマルションの固形分100重量部に対し1〜40重量部であることが望ましい。
【0043】
水性上塗り塗料においては、上述の成分以外に、通常塗料に配合可能な添加剤を本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、架橋剤、触媒、艶消し剤、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。本発明の水性上塗り塗料は、上記成分を常法により均一に混合することで得ることができる。
【0044】
水性上塗り塗料は、水性断熱性塗料の塗膜表面が乾燥した後に塗装することができる。
水性上塗り塗料の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。プレコートを行う場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いることもできる。塗装時には水を用いて塗料を希釈することができる。水の混合量は、使用する塗装器具等に応じて適宜設定すればよい。
水性上塗り塗料による形成塗膜の乾燥膜厚は、通常5〜200μmである。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0046】
(断熱性塗料1〜5)
下記の各原料を表1に示す比率(表中の数字は重量部)で混合して均一に攪拌することにより、断熱性塗料1〜5を製造した。また、各原料を表2に示す比率(表中の数字は重量部)で混合して均一に攪拌することにより、上塗り塗料1〜3を製造した。
【0047】
・樹脂1:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg20℃)
・樹脂2:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg−20℃)
・樹脂3:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg23℃)
・樹脂4:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg28℃)
・樹脂5:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg6℃)
・中空粒子:閉気泡型中空樹脂ビーズ(アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、平均粒子径45μm、密度0.025g/cm3)
・有機質粉体1:アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、Tg20℃、比重1.0)
・有機質粉体2:コアシェル型アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、コア部Tg−54℃、シェル部Tg105℃、比重1.0)
・有機質粉体3:アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、Tg105℃、比重1.0)
・赤外線反射性粉体:酸化チタン(平均粒子径0.3μm)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤:ポリカルボン酸系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
(実施例1)
300×225mmのスレート板に、断熱性塗料1をスプレー塗装し、温度20℃・相対湿度65%RH雰囲気下(以下「標準状態」という)で8時間乾燥後、上塗塗料1をスプレー塗装し、標準状態で14日間養生することにより試験板を作製した。このとき、断熱性塗料は乾燥膜厚が1mm、上塗り塗料は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。
得られた試験板について、水浸漬(20℃)18時間→−20℃3時間→50℃3時間を1サイクルとする温冷繰返し試験を合計10サイクル行い、塗膜の表面状態の変化(膨れ、剥れ、割れ等の有無)を目視にて観察した。評価は、異常が認められなかったものを「◎」、ほとんど異常が認められなかったものを「○」、異常が認められたものを「△」、著しく異常が認められたものを「×」とした。
また、上記方法で得られた試験板を、大阪府茨木市で南面向きに設置して、屋外暴露を実施し、1ヶ月後の汚れの程度を4段階(良好◎>○>△>×劣)で評価した。
【0051】
一方、断熱性試験を行うため、12mm厚のスレート板を用いて450×450×450mmのボックスを用意した。その表面に断熱性塗料1をスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥後、上塗り塗料1をスプレー塗装し、さらに14日間養生したものを断熱性試験用の試験体とした。このとき、断熱性塗料は乾燥膜厚が1mm、上塗塗料は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。
次いで、得られた試験体に対し、60cmの距離から赤外線ランプ(250W)を90分間照射し、その間のボックス内部の温度変化を測定した。評価は、温度変化が5℃未満であったものを「○」、温度変化が5℃以上10℃未満であったものを「△」、温度変化が10℃以上であったものを「×」とした。
【0052】
(実施例2〜3、比較例1〜3)
断熱性塗料及び上塗り塗料として表3に示すものを使用した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。試験結果を表3に示す。
【0053】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性断熱性塗料を塗付した後、水性上塗り塗料を塗付する断熱性塗膜の形成方法において、該水性断熱性塗料として、
合成樹脂エマルション(I)、中空粒子(II)、及び
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体(III)
を必須成分とし、(I)成分の固形分100重量部に対し(II)成分を0.5〜200重量部、(III)成分を3〜400重量部含むものを使用することを特徴とする断熱性塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記水性上塗り塗料が、顔料として、
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質粉体(a)、及び/または
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質粉体(b)からなる有機質粉体を含むものであることを特徴とする請求項1記載の断熱性塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2006−102670(P2006−102670A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294229(P2004−294229)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】