説明

断熱材

【課題】本発明の目的は、優れた断熱性を有し、結露を防ぐことによりカビや躯体の腐食を抑制し、かつ、長期使用後も断熱材が沈下しない長期形態保持性に優れた断熱材を低コストで提供する。
【解決手段】マトリックス繊維とバインダー繊維からなる繊維集積体であって、該マトリックス繊維がバインダー繊維により繊維間の一部で接着されており、該マトリックス繊維として平均繊維径30.0〜150μmの天然繊維を該繊維積層体全体対比で10重量%以上含む繊維集積体を有する断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の住宅の充填断熱材は低コストであるグラスウールを使用するものが大半を占めている。この断熱材はグラスウール(ガラス繊維)にバインダーとしてフェノール樹脂等をスプレー法、含浸法等により塗布し、次いでプラスチックフィルム等を貼り合わせたものである。しかしながら、グラスウールは、フェノール樹脂を塗布する工程においては環境汚染を生じやすく、またこの断熱材は施工する際に作業者の肌に触れると皮膚がチクチクと刺激されたり、アレルギー症状等の皮膚障害が生じたりする。さらには施工後長期間経過すると、湿気と熱によりフェノール樹脂が加水分解を起こしてグラスウールを繋ぎ止めている部分の強力が低下し、そのために嵩が小さくなって下方にずれ落ち(いわゆる沈下現象)、断熱材の隙間が生じて、断熱効果が著しく低下するという問題がある。
【0003】
この様な問題点を解消すべく、グラスウールに代えてポリエステル捲縮繊維をマトリックス繊維とし、バンインダー繊維として熱接着性繊維で該繊維を固定したポリエステル繊維断熱材が開示されている(例えば特許文献1参照)。この技術によりバインダーの劣化による嵩高性低下は解消されたが、断熱材が自重により沈下し、断熱材の隙間が生じるという長期形態保持性の問題は解決されていなかった。
【0004】
また、日本の住宅は夏期の高温多湿、冬期の温度差によって結露が生じやすく、躯体にカビが発生し腐食する問題がある。グラスウールやポリエステル繊維は吸湿性がないため、断熱材自体に結露が発生し、断熱材にカビが発生したり、結露水の付着による重量増で沈下現象が発生する問題が残っていた。これを解決するため、高吸湿繊維を含有したポリエステル繊維断熱材が開示されている(例えば特許文献2参照)。しかし、高吸湿性繊維は繊度が細く、剛性がない上に、吸湿により大きく膨潤するため、断熱材が自重により沈下する問題は解決できなかった。
【特許文献1】特開2002−115159号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2002−228086号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた断熱性を有し、調湿性をも有していることから結露を防止し、またカビの発生や躯体の腐食を抑制し、かつ、長期使用中も断熱材がズレ落ちることのない長期形態保持性に優れた断熱材を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、マトリックス繊維とバインダー繊維からなる繊維集積体であって、該マトリックス繊維が該バインダー繊維により繊維間の一部で接着されており、該マトリックス繊維として平均繊維径30〜150μmの天然繊維を該繊維集積体全体対比で10重量%以上含む繊維集積体を有する断熱材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた断熱性を有し、使用時の作業性にも優れ、結露を防止しカビの発生や躯体の腐食を抑制する調湿機能、さらに長期形態保持性をもっているため断熱性能が長期間に渡って変化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
本発明の断熱材はマトリックス繊維とバインダー繊維からなる繊維集積体を主たる構成要素として有し、この繊維集積体においてはマトリックス繊維とバインダー繊維の構成が重要となる。以下にマトリックス繊維とバインダー繊維の特徴と繊維集積体の製造方法と形態を示す。
【0010】
(マトリックス繊維)
本発明に使用するマトリックス繊維は平均繊維径30〜150μmの天然繊維が繊維集積体全体対比で10重量%以上含まれることが重要である。
【0011】
天然繊維の平均繊維径が30μm以上である太く剛性のある繊維を用いることで、断熱材を長期に渡り使用した場合に生じる、劣化や自重による沈下を抑制することができるため長期形態保持性に優れる断熱材が得られる。具体的には長期使用中に経年劣化や自重により断熱材の沈下を10mm未満に防ぐことができる。平均繊維径が30μm未満であると剛性が低いため、長期使用中に経年劣化や自重により断熱材が沈下し、住宅の断熱性能が著しく低下する恐れがある。断熱材の沈下は少なければ少ないほど断熱性能を保つことができるが、沈下が10mm以上になると断熱隙間により著しく断熱性能が低下すると考えられている。
【0012】
また、天然繊維として平均繊維径が150μm以下の繊維を用いることで、マトリックス繊維中の他の繊維やバインダー繊維と繊維集積体成形工程時に均一に分散して緻密に絡み合い、微細な空隙を持つことができ、断熱性に優れた断熱材を得ることができる。なお、断熱性としては、具体的には熱伝導率0.050W/m・K以下であることが好ましい。これは近年、住宅に関しても省エネ基準が厳しくされており、次世代省エネ基準を達成するためには0.050W/m・K以下が必要であるからである。繊維径が150μm以上の場合、繊維径が太すぎるため繊維集積体成形工程時にマトリックス繊維中の他の繊維やバインダー繊維と均一に分散することができず、断熱性を保持するための微細な空隙を作ることができず、断熱性が低下する。
【0013】
なお、天然繊維の平均繊維径のより好ましい範囲は50〜130μmである。
【0014】
さらに、天然繊維は吸放湿性を有していることも住宅内部の湿気を調整する上で重要である。この調湿性を有した天然繊維が繊維集積体全体対比10重量%以上含ませることにより日本の夏期の高温多湿、冬期の室内外の温度差によって生じる結露を防止し、カビや躯体の腐食を抑制することが可能となる。具体的には、日本の住宅内部で発生する水蒸気を断熱材自身が吸湿することができるため水蒸気分圧が飽和水蒸気分圧を超えることを防ぐことができ、結露を防止できる。
本発明に用いられる天然繊維は繊維長5〜100mm、引張強さ1.0〜8.0N/dtexであることが好ましい。平均繊維径が30〜150μmであり引張強さ1.0〜8.0N/dtexである高い剛性を持った繊維を用いることで、形態保持性が良好となる。さらに、繊維長を5〜100mmとすることで、剛性が高い繊維をマトリックス繊維中の他の繊維やバインダー繊維と繊維集積体成形工程時に均一に分散して緻密に絡み合い、微細な空隙を持つことができ、さらに断熱性に優れた断熱材が得られる。
天然繊維のより好ましい範囲は平均繊維長10〜90mm、引張強さ2.0〜7.0cN/dtexである。
天然繊維の引張強さの測定方法は天然繊維が600dtexになるように繊維長と重量を合わせ天然繊維束を作成し、その束を試料とする。試料を緩く張った状態で、引張試験機のつかみにつかみ間隔10mmで取り付け、引張速度100mm/minの定速伸長にて試験を行う。初荷重をかけたときの伸びを緩み(mm)として読み、更に試料を引張り、試料が切断したときの荷重を測定した。試験回数は10回とし、その平均値を算出する。
【0015】
本発明に用いられる天然繊維としては、木材パルプ、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ、パルプ、木綿、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ、サイザルアサ、マニラアサ、ヤシ、バナナ、羊毛等があり、これらを単独で用いても良いがこれらの中のから選ばれる1種以上の繊維が含まれていることが好ましい。例えば、天然繊維の中でも比較的繊維長が長く、一年草であって熱帯地方及び温帯地方での成長が極めて早く容易に栽培できる草本類に属するケナフあるいはジュートから採取される繊維を採用することにより、優れた形態保持性を得ることができる。特に、ケナフの靭皮にはセルロースが60質量%以上と高い含有率で存在しており、かつ高い強度と吸放湿性を有しており、安価であることから、ケナフ靭皮から採取されるケナフ繊維を用いることが好ましい。
【0016】
本発明で使用するマトリックス繊維は天然繊維以外の繊維を含んでいてもよい。例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等)繊維、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン510等)繊維、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリアセタール繊維、アクリル繊維、モグクリル繊維、アラミド繊維、フッ素繊維、炭素繊維等の合成繊維、レーヨンなどの再生繊維等があり、これら1種以上の繊維を天然繊維と混ぜ合わせることも可能である。
【0017】
本発明に用いる合成繊維の断面形状としては丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)等の多葉断面、扁平断面、W断面、X断面等を採用することが可能である。なかでも、異形断面は嵩高性を高め、中空断面は断熱性を向上させる上で好ましい。異形断面の異形度としては、1.1〜8.0が好ましく、より好ましくは1.3〜7.0である。ここで、異形度は、断面における内接円の径に対する外接円の径の比で表される。異形度を1.1以上とすることで、異形断面による嵩高性向上の実効を得ることができる。また8.0以下とすることで、繊維のフィブリル化を防ぐことができ、長期形態保持性に好ましい。
【0018】
本発明のマトリックス繊維中の天然繊維以外の繊維は、捲縮を有することが好ましい。そうすることで、断熱材において嵩高性が向上することで断熱性や長期形態保持性に優れる。また、カーディング法において針にしっかり引っかかり、他の繊維と均一に分散し緻密に絡み合うことができ、安定した高収率な繊維集積体を得ることができる。
【0019】
天然繊維以外の繊維の好ましい範囲は、平均繊維径1.0〜50μm、平均繊維長5〜100mmである。
【0020】
マトリックス繊維中の天然繊維とそれ以外の繊維の混率は質量比で天然繊維:それ以外の繊維=100:0〜15:85であることが好ましい。
【0021】
(バインダー繊維)
本発明で使用するバインダー繊維はマトリックス繊維より低融点成分を含む繊維である。繊維集積体の成形時に熱を加えることにより、バインダー繊維が繊維集積体中においてマトリックス繊維と繊維間の一部で強固に接着されることが重要であり、これにより長期形態保持性に優れた断熱材を得ることできる。バインダー繊維としては例えば芯鞘複合繊維、サイドバイサイド繊維、混紡繊維などがある。その中でも鞘が低融点繊維、芯が鞘よりも融点の高い繊維である芯鞘複合繊維を用いることが好ましい。そうすることで、成形時の熱により鞘の形が崩れ、細い芯部分の繊維が残存することにより、マトリックス繊維中でさらに緻密な構造ができ、微細な空隙を作ることができるため、断熱性が向上し、長期形態保持性に優れた断熱材を得ることができる。また、平均繊維径1.0〜30.0μmのバインダー繊維を用いることで、繊維集積体が緻密な構造になり微細な空隙ができることより断熱性に優れる断熱材が得られる。
【0022】
本発明で使用するバインダー繊維の構成としては、例えば低融点ポリエステルとホモポリエステル、ポリオレフィンとポリエステル、ポリエチレンとポリプロピレンなどが挙げられる。
【0023】
本発明で使用するバインダー繊維は、繊維積層体全体比で5重量%以上90重量%未満であることが形態保持性や断熱性の観点からが好ましい。
【0024】
本発明で使用するバインダー繊維は、マトリックス繊維と同様、捲縮を有することが好ましい。
【0025】
(繊維集積体の製造方法)
本発明の繊維集積体はマトリックス繊維とバインダー繊維を混ぜ合わせ、開繊後、カーディング法又はエアレイド法にてウェブを積層し、熱処理を行うことが好ましい。このカーディング法又はエアレイド法によりマトリックス繊維とバインダー繊維が均一に分散した集積体を作ることができる。また、熱処理の前にニードルパンチ法により繊維を交絡させる手法を取り入れることも、長期形態保持性の観点より効果的である。熱処理温度はバインダー繊維中の低融点成分が軟化又は溶融する温度より高く、他の成分が溶融する温度より低い温度で行う。これにより、低融点成分が軟化又は溶融し、マトリックス繊維を強固に繋ぎ止めることができ、長期形態保持性に優れる断熱材となる。熱処理の手法は赤外線ヒーター、熱ロール、熱風乾燥機、熱風循環式熱処理機などが用いられる。
【0026】
(繊維集積体の形態)
本発明の繊維集積体の密度は5〜100kg/mであることが好ましい。そうすうることで、緻密で微細な空隙の構造にすることができ、施工後、使用中に形態を保持する強度を得ることができるため長期形態保持性に優れる。より好ましい密度は10〜80kg/mである。
【0027】
密度の調整方法はウェブ積層工程における送り速度により、積層量を決定することができ、さらに、熱処理工程の前にロールにてウェブの厚さを調整することで、均一な繊維集積体を得ることができる。
【0028】
本発明の断熱材は吸湿率が1.5重量%以上であることが好ましい。これにより住宅内部の結露を防ぐことができる。吸湿率1.5重量%未満では、日本の夏期の高温多湿、冬期の温度差によって生じる結露が発生し、カビや躯体の腐食の原因となる。
【0029】
吸湿率1.5重量%は少なくとも天然繊維を10重量%以上含むことにより達成することができる。さらに、天然繊維の中でも吸放湿性に優れる繊維、例えばケナフ繊維などを用いることや、その含有量を増やすことで高くすることが可能である。
【0030】
吸湿率の測定方法はJIS A 9523:2001 6.2に準じて測定した。吸湿性は質量100gの断熱材を、JIS Z 8801−1に規定する公称目開き180(内径200mm、深さ100mm)の網ふるいに入れて温度50℃±2℃で6時間乾燥し、次に、温度50℃±2℃、相対湿度50±5℃で24時間調湿し、そのときの質量を0.01gの精度で測定する(W0)。なお、断熱材下面からも吸湿できるように静置する。次に、温度を50±2℃のままで相対湿度90±5%まで上げ、24時間後の質量を測定する(W1)。吸湿率は次の式によって求める。試験サンプル数は3個とし、その平均値を求めた。H=(W1−W0)/W0×100
本発明の断熱材は少なくとも一面にフィルムや不織布や織物等の膜状物を積層することが好ましい。そうすることで、長期形態保持性に優れ、結露を防止することができる。具体的には断熱材の表面に膜状物を積層することで、断熱材を表面より保持することができ、自重による沈下を低下させることができる。また、防湿性のあるフィルムを積層することで壁内に侵入する湿気を遮断することができ、結露を発生する基を絶つことが可能となる。また、不織布や織物のような膜状物を積層することにより湿気を壁内に貯めることなく、外に排出することで結露を防ぐとことができる。フィルムはポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ弗化ビニリデンなどが挙げられ、フィルム表面に金属蒸着をしてあるものは輻射熱を抑制する観点よりさらに好ましい。不織布はニードルパンチ不織布やスパンボンド不織布などが挙げられる。積層方法としては、熱処理工程前にウェブの表面に積層する。そうすることで、膜状物は熱処理工程において繊維集積体中のバインダー繊維により接着することができる。また、フィルムや不織布の積層する面を低融点素材にすることで、繊維集積体とより強固に接着され、長期形態保持性に優れる繊維集積体を得ることができる。また、新たに不織布を積層することもよいが、前記繊維集積体の製造工程の熱処理時に繊維集積体自身の表面を溶融し、膜を作ることにより容易に製造する方法でもよい。さらに膜状物を断熱材より大きいサイズのものを積層することで、そのはみ出した部分を用いて、ステープルや釘などにより柱に強固に繋ぐことができ、長期形態保持性に優れる断熱材が得られる。
【実施例】
【0031】
[測定方法]
(1)平均繊維径
JIS A 9504:2001 6.7に準じて測定した。
繊維径は断熱材の3ヶ所から、それぞれ約20gの試料を取り、更に、それぞれから20本の繊維を採り、走査電子顕微鏡による拡大鏡によってその外径(外接円の直径)を測定し、平均値をとる(n=60)。繊維径は0.1μmの精度で測定する。
【0032】
(2)平均繊維長
JIS A 1015:1999 8.4.1に準じて測定した。
【0033】
試料を800mg量り取り、ステープルダイヤグラムを作成し、図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出し、2回の平均値をとった。
【0034】
(3)密度
JIS A 9504:2001 6.4.2.3に準じて測定した。
【0035】
密度は試料について質量及び体積を求め、次の式によって求める。密度は試験回数3回の平均値を求め、体積及び質量も同様に試験回数3回ずつ測定し算出した。
p=m/V
ここに、p:密度(kg/m
m:質量(kg)
V:体積(m
体積は次の式より求めることができる。
V=t×w×L
ここに、t:厚さ(mm)
w:幅(mm)
L:長さ(mm)。
【0036】
厚さは次の方法で測定する。まず、450×450mmの試験片を硬質平板の上に置き、試験片の端から100mm以上内側で、質量100gで150×150mmの剛性のある荷重板を用い、荷重板の中央に空けた穴を通して針状のものを差し込み、1分以上経過して荷重板の沈下が止まってから測定する。針状のものは荷重板を載せてから差し込む。なお、圧縮梱包されたものは、試料の幅方向の両端を手で持ち、水平方向に波打つようによく振って硬質板の上に置き、上述の方法によって4時間経過した後測定する。
【0037】
質量は厚さ測定に用いた試験サンプルを温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置後、電子天秤により0.1gの精度まで測定した。
【0038】
(4)異形度
糸の断面を切り出し、顕微鏡により写真撮影を行い、単繊維横断面の外接円の直径Dと、単繊維横断面の内接円の直径dとから次の式によって求めた。試験サンプル数は10個(n=10)とし、その平均値を算出した。
異形度=D/d。
【0039】
(5)融点
島津製作所社製示差走査熱量計DSC−60型を用い、試料2.0mgを昇温速度20℃/minにて測定し、得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。試験回数は5回とし、その平均値を算出した。
【0040】
(6)引張強さ(天然繊維)
天然繊維が600dtexになるように繊維長75mm、重量0.0045g(繊維長50mmの場合は質量0.0030g)の天然繊維束を作成し、その束を試料とした。試料を緩く張った状態で、引張試験機((株)島津製作所製オートグラフAG−50kNG(登録商標))のつかみにつかみ間隔10mmで取り付け、引張速度100mm/minの定速伸長にて試験を行った。初荷重をかけたときの伸びを緩み(mm)として読み、更に試料を引張り、試料が切断したときの荷重を測定した。試験回数は10回とし、その平均値を算出した。
【0041】
(7)吸湿率
JIS A 9523:2001 6.2に準じて測定した。
【0042】
吸湿性は質量100gの断熱材を、JIS Z 8801−1に規定する公称目開き180(内径200mm、深さ100mm)の網ふるいに入れて温度50℃±2℃で6時間乾燥し、次に、温度50℃±2℃、相対湿度50±5℃で24時間調湿し、そのときの質量を0.01gの精度で測定する(W0)。なお、断熱材下面からも吸湿できるように静置する。次に、温度を50±2℃のままで相対湿度90±5%まで上げ、24時間後の質量を測定する(W1)。吸湿率は次の式によって求める。試験サンプル数は3個とし、その平均値を求めた。また、下記の通り判定を行った。
H=(W1−W0)/W0×100
ここに、H:吸湿率(重量%)
W0:最初の質量(g)
W1:24時間後の質量(g)
判定
○:1.5重量%以上
×:1.5重量%未満。
【0043】
(8)熱伝導率
JIS A 1412−2:1999 6.2に準じて測定した。
【0044】
熱伝導率は英弘精機(株)製の熱伝導率測定装置HC−074を用いて測定した。試料寸法は幅200mm、長さ200mm、厚さ50mmの断熱材を用意する。標準試料は発泡ポリスチレンを用いた。試料は温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置後、試料を測定機に入れ、プレートの温度差24℃、平均温度25℃(高温のプレート温度は37℃、低温のプレート温度は13℃)の条件にて測定を行い、試験回数3回の平均値より熱伝導率(W/m・K)を算出した。また、次のように判定をおこなった。
判定
○:熱伝導率0.050W/m・K以下
×:熱伝導率0.050W/m・K超。
【0045】
(9)形態保持性
形態保持性は幅430mm、長さ1400mm、厚さ50mmの断熱材を430mm間隔の柱(120mm角)と柱(120mm角)の間に設置し、断熱材の上部の端から100mm下部のところを通る柱と断熱材に標線を引く。暴露試験のため温度60℃、相対湿度95%の雰囲気の部屋で30日間処理し、柱の標線と断熱材の標線に生じた差の長さを測定した。試料3個を評価し、その平均値を算出した。判定は次のように行った。
判定
○:柱の線より断熱材の線が10mm未満の変化した
×:柱の線より断熱材の線が10mm以上の変化した。
【0046】
(実施例1〜4)
マトリックス繊維として平均繊維長75mm、引張り強度3.4cN/dtexのケナフの靭皮繊維及び平均繊維長51mm、平均繊維径26.0μmのポリエチレンテレフタレート短繊維を用意した。また、バインダー繊維として平均繊維長51mm、平均繊維径16.1μmのポリエチレンテレフタレート短繊維の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ホモポリエチレンテレフタレート(融点255℃))を用意した。
【0047】
まず、表1に示す不織布構成の比率になるようにマトリックス繊維とバインダー繊維を混繊、開繊し、カードマシンにより均一なウェブを成形した。次にウェブを熱風乾燥機(設定温度150℃)によりバインダー繊維を溶融させ、密度約13.0kg/m、厚み約50mmの繊維集積体を成形した。
【0048】
(実施例5)
実施例1と同様のマトリックス繊維とバインダー繊維を用意した。
【0049】
また、実施例1と同様に密度約30.0kg/m、厚み約50mmの繊維集積体を成型した。
【0050】
(実施例6)
マトリックス繊維として平均繊維長50mm、引張り強度3.2cN/dtexのケナフの靭皮繊維を用意した。また、バインダー繊維として平均繊維長51mm、平均繊維径16.1μmのポリエチレンテレフタレート短繊維の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ホモポリエチレンテレフタレート(融点255℃))を用意した。
【0051】
そして実施例1と同様に繊維集積体を成型した。
【0052】
(実施例7)
実施例1と同様のマトリックス繊維とバインダー繊維を用意した。また、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(融点260℃)のフィルムを用意した。
【0053】
まず、表1に示す不織布構成の比率になるようにマトリックス繊維とバインダー繊維を混繊、開繊し、カードマシンにより均一なウェブを成形した。次にウェブをフィルムの上に載せ、熱風乾燥機(設定温度150℃)によりバインダー繊維を溶融させ、密度約13.0kg/m、厚み約50mmの繊維集積体を成形した。
【0054】
(比較例1〜3)
実施例1と同様に繊維集積体を成形した。
【0055】
【表1】

【0056】
上記実施例1〜7、比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0057】
実施例1〜7は熱伝導率0.039〜0.048W/m・Kと断熱性に優れていることが分かる。一方、比較例1〜3は熱伝導率0.039〜0.051W/m・Kであり、断熱性が不足しているものもある。
【0058】
実施例1〜7は柱の標線と断熱材の標線の差が1.82〜9.42mmと形態保持性に優れていることが分かる。一方、比較例1〜3は柱の標線と断熱材の標線の差が5.09〜11.30mmであり、形態保持性が低い。
【0059】
実施例1〜7は吸湿率1.6〜6.0重量%と調湿性に優れ、結露防止性に優れていることが分かる。一方、比較例1〜3は吸湿率1.2〜2.2重量%であり、調湿性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、優れた断熱性を有し、使用時の作業性にも優れ、結露を防ぐことによりカビや躯体の腐食を抑制する調湿機能、さらに長期形態保持性を有しているため断熱性能が長期に渡り変化することがない住宅用断熱材(壁、床、天井、屋根)、工業用断熱材などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス繊維とバインダー繊維からなる繊維集積体であって、該マトリックス繊維が該バインダー繊維により繊維間の一部で接着されており、該マトリックス繊維として平均繊維径30〜150μmの天然繊維を該繊維集積体全体対比で10重量%以上含む繊維集積体を有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記天然繊維が引張強さ1.0〜8.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記天然繊維が平均繊維長5〜100mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記バインダー繊維が芯鞘複合繊維であり、平均繊維径1.0〜30.0μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の断熱材。
【請求項5】
前記断熱材が吸湿率1.5重量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項6】
前記断熱材が密度5〜100kg/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
前記繊維集積体の少なくとも一面に膜状物が積層されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の断熱材。

【公開番号】特開2010−77571(P2010−77571A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249831(P2008−249831)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】