説明

断熱筒、断熱筒の製造方法及び単結晶製造装置

【課題】チョクラスキー法による単結晶製造装置において、断熱材サイズが、一般にチャンバー内側の炉内最外周部に厚さ50〜150mmと十分厚くとれない場合において、輻射減衰と気体移動抑制により加熱ヒーターからチャンバーへの熱ロスを効果的に抑制する断熱筒を提供する。
【解決手段】チャンバー9a内に加熱ヒーター2が配置され、該加熱ヒーター2を囲うように配置されることで、前記加熱ヒーター2の輻射熱から前記チャンバー9aを保護するための断熱筒8であって、該断熱筒8の断熱部20には、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層が間隔を持って、厚さ方向に2以上設置されるものであることを特徴とする断熱筒8。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の成長過程において、加熱ヒーターからチャンバーへの大量の熱ロスを効果的に抑制する断熱筒及びその製造方法、また該断熱筒を有する単結晶製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在製造されている演算素子やメモリー等デバイスの多くおよび太陽電池の一部は、チョクラスキー法(以下、「CZ法」ということもある)により引上げられた単結晶からウェーハを製造し、その上に作成されている。このCZ法はヒーターの中に置かれた坩堝中で溶解された原料融液から単結晶を引き上げて製造する方法である。
【0003】
このようなCZ法において、高温領域は1700℃以上、これを包囲するチャンバーは水冷の場合には35℃程度となり、温度の四乗の差に比例する輻射伝熱により大量のエネルギー損失が生じる。このエネルギー損失を抑制するため、高純度が要求されるCZ炉では、一般に高純度黒鉛繊維からなる断熱材を使用し、熱ロス抑制を試みている。このとき、カットされる熱ロスの割合を輻射伝熱減衰率(以下、輻射熱流束カット率ということもある)と呼ぶ。
【0004】
しかしながら、生産能力が炉内構造物サイズにより制限されるため、面積当たり(工場規模当たり)の生産性を高めるためにはCZ炉一機当たりのチャンバーサイズを炉内構造物サイズに対してさほど大きくすることができない。そのため、上記断熱材の設置可能サイズにも制限があり、通常はチャンバー内側の炉内最外周部に厚さ50〜150mmの円筒型の断熱材を用いるが、大量の輻射伝熱を抑制するには不十分な場合がほとんどであるし、もし十分なサイズの断熱材を用いる場合には著しく面積当たりの生産性が低下してしまう。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1及び特許文献2では、温度域毎に最適な嵩密度を配置することで断熱特性の向上を図っているが、厚さ50mm以下の比較的薄い断熱材を用いているため、一般にチャンバー内側の炉内最外周部に厚さ50〜150mmとする単結晶製造装置においては、低嵩密度にすることで断熱特性を向上できる部分が限定されてしまうので、断熱性能向上は微少なものとなってしまうという問題がある。
【0006】
また特許文献3では、透光性を有する異種材料を数百nm単位の規則的な周期的積層構造を形成することで、フォトニクスバンドギャップを形成し、特定の波長に対する反射率をほぼ100%とする方法が開示されているが、大型炉で異種材料の数百nm単位の規則的な周期的積層構造を作成するのは非常に困難である。また、実現できたとしても使用材料の内、Siは融点である1420℃以上の高温では使用できず、他の材料もCZシリコン単結晶成長炉においては不純物として使用できない。
または使用箇所を制限せざるを得ないN、Ti、Al、Sb、S、P、Ge、As、Ga、Zn、Se、Te、Cd等を含む材料や、還元雰囲気となるCZシリコン単結晶成長炉で劣化してしまう酸化物材料であるため使用することができないという問題がある。
【0007】
特許文献4では、断熱材の熱伝導率の異方性から、熱伝導率の小さい方向と温度勾配の大きい方向とを一致させ、かつ、断熱材として厚さ方向に熱伝導率の小さな赤外線反射シートを層状に重ねて形成された断熱材が開示されているが、層状に重ねて形成した場合、接触部分があるため、熱伝導による熱ロスが生じ、CZ炉のように断熱材設置サイズに制限がある場合には十分な断熱ができないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−227244号公報
【特許文献2】特開平2−258245号公報
【特許文献3】WO2002/103092
【特許文献4】特開平2−004193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、炉のサイズの拡大を抑えて面積あたりの生産性を重視するCZ炉のように、断熱材サイズが、一般にチャンバー内側の炉内最外周部に厚さ50〜150mmと十分厚くとれない場合において、輻射減衰と気体移動抑制により加熱ヒーターからチャンバーへの熱ロスを効果的に抑制する断熱筒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、チャンバー内に加熱ヒーターが配置され、該加熱ヒーターを囲うように配置されることで、前記加熱ヒーターの輻射熱から前記チャンバーを保護するための断熱筒であって、該断熱筒の断熱部には、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層が間隔を持って、厚さ方向に2以上設置されるものであることを特徴とする断熱筒を提供する。
【0011】
このような断熱筒であれば、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能であり、さらに反射層がその緻密性により気体移動抑制壁として作用し、チャンバー内の気体の移動による伝熱をも抑制することができる。
【0012】
またこのとき、前記黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜が、輻射率が0.5以下であることが好ましい。
【0013】
このように、前記反射層の輻射率が0.5以下であれば、より効果的に加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能である。
【0014】
またこのとき、前記反射層一層当たりの厚さが10μm以上であることが好ましい。
【0015】
このような厚さであれば、反射層の赤外線に対する透光性が極めて小さくなるので、効率良く加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能である。
【0016】
またこのとき、前記反射層一層当たりの厚さが5mm以下であることが好ましい。
【0017】
このような厚さであれば、反射層の面内方向および厚さ方向の熱伝導をより効果的に抑制することができる。
【0018】
またこのとき、前記反射層間に空隙が設けられているものであることが好ましい。
【0019】
このように、前記反射層間に空隙があれば、反射層の厚さ方向の熱伝導をより効果的に抑制することができる。
【0020】
またこのとき、前記反射層間に、5〜20mmの断熱材が配置されるものであることが好ましい。
【0021】
このように、反射層間に断熱材があれば、反射層の厚さ方向の熱伝導をより効果的に抑制することができる。
【0022】
またこのとき、前記反射層が、前記断熱材の両面に貼付けられているものであることが好ましい。
【0023】
このようなものであれば、反射層が薄すぎて自立できない場合でも断熱部に設置することができ、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射熱を所望の通りに抑制することができる。
【0024】
またこのとき、前記断熱部が、少なくとも上部、下部、内周部及び外周部のいずれか1以上のカバー部材によって覆われているものであることが好ましい。
【0025】
このようにカバー部材によって覆われているものであれば、断熱筒のハンドリング性を向上することができると共に、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射熱をより効果的に減衰させることができる。
【0026】
またこのとき、前記断熱筒の内周部が、高純度黒鉛製内筒で覆われているものであることが好ましい。
【0027】
このようなものであれば、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射熱をより効果的に減衰させることができるとともに、ハンドリング性の向上及び断熱部の表面を保護することができる。
【0028】
また、前記本発明の断熱筒の製造方法であって、前記反射層の設置数を、前記反射層の輻射率及び目的とする輻射伝熱減衰率から計算によって求めることを特徴とする断熱筒の製造方法を提供する。
【0029】
またこのとき、前記反射層の設置数を、前記反射層の輻射率をε、前記反射層の設置数をn、輻射伝熱減衰率をRとして、以下の計算式を用いて計算することができる。
(1)R/100=0.3642×ln(ε^z)−0.1479×lnε+1.495×z−0.8076
(2)z=n^(−1/5)
【0030】
このように、反射層の設置数を、前記計算式を用いて反射層の輻射率及び目的とする輻射伝熱減衰率から求めることができるので、容易にかつ確実に目的の輻射伝熱減衰率を得ることができる。
【0031】
また、チャンバー内において、ルツボが設けられ、前記ルツボ周囲に加熱ヒーターが配置され、該加熱ヒーターの周囲には、前記加熱ヒーターのチャンバー方向への輻射熱を抑制する断熱筒が設けられており、前記ルツボ内の原料融液を前記加熱ヒーターで加熱しつつ、前記原料融液からチョクラルスキー法によって単結晶を引き上げて製造する単結晶製造装置であって、前記断熱筒として、前記本発明の断熱筒が用いられているものであることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
【0032】
このように、本発明の断熱筒が用いられた単結晶製造装置であれば、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を確実に減衰させることが可能であり、さらにチャンバー内の気体の移動による伝熱をも抑制することができるため、熱エネルギーのロスを抑制しながら単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、断熱筒の断熱部に黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を、間隔を持って2以上設置することによって、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能であり、さらに反射層がその緻密性により気体移動抑制壁として作用し、チャンバー内の気体の移動による伝熱をも抑制することができる。
また、反射層の設置数を、前記計算式を用いて反射層の輻射率及び目的とする輻射伝熱減衰率から求めることにより、目的とする輻射伝熱減衰率をより確実に得るために必要な反射層の設置数を容易にかつ確実に判断することができる。
さらに、このような本発明の断熱筒の製造方法によって製造された断熱筒を用いて単結晶を製造することにより、熱エネルギーのロスをカットしながら単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】CZ法により単結晶を製造する際に、本発明の単結晶製造装置を用いた場合の断面構成例を模式的に示した図である。
【図2】本発明の断熱筒の形態例を示した模式図である。
【図3】反射層の厚さ方向の熱流束カット率測定用の小型炉を示した図である。
【図4】比較例、実施例1、実施例2及び実施例3における、単結晶成長中のヒーター電力消費率の差異を、比較例を100%として示した図である。
【図5】比較例、実施例1、実施例2及び実施例3における、単結晶成長中の断熱筒外周のチャンバーへの熱ロス量削減率の差異を示した図である。
【図6】実験例における層厚方向の熱流束率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、従来、単結晶の成長過程において、加熱ヒーターからチャンバーへの大量の熱ロスが存在する。シリコン単結晶の成長過程において高温領域は1700℃を超え、低温領域は35℃程度であるため、熱ロスのほとんどは輻射伝熱を介する。
この時、炉サイズを抑えて面積あたりの生産性を重視するため、断熱材サイズは一般にチャンバー内側の炉内最外周部に厚さ50〜150mmと十分厚くとれないといった問題があった。
【0036】
本発明者らが鋭意検討した結果、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層が間隔を持って、厚さ方向に2以上設置されるものであれば、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能であり、さらに反射層がその緻密性により気体移動抑制壁として作用し、チャンバー内の気体の移動による伝熱をも抑制することができる。
またこの時、反射層の設置数を、反射層の輻射率及び目的とする輻射伝熱減衰率から計算して求めることによって、容易にかつ確実に目的の輻射伝熱減衰率を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0037】
即ち、本発明は、チャンバー内に加熱ヒーターが配置され、該加熱ヒーターを囲うように配置されることで、前記加熱ヒーターの輻射熱から前記チャンバーを保護するための断熱筒であって、該断熱筒の断熱部には、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層が間隔を持って、厚さ方向に2以上設置されるものであることを特徴とする断熱筒である。
【0038】
以下に、本発明の実施の形態を、図1を参照しながら説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。尚、図1はCZ法により単結晶を製造する際に、本発明の単結晶製造装置を用いた場合の断面構成例を模式的に示した図である。
【0039】
図1に示される半導体単結晶の製造装置は、半導体単結晶の原料である原料融液3を収容するメインチャンバー9aと、メインチャンバー9aにガス整流筒10を通じて連接して原料融液3から引き上げられた半導体単結晶を保持し取り出すためのプルチャンバー9bを具備する。
【0040】
メインチャンバー9aの内部中心付近には、原料融液3を収容した石英坩堝1aが配置され、黒鉛坩堝1bの周りに備えられた加熱ヒーター2を発熱させることで原料を融解し、高温の融液として保持している。引上げ軸5によって引き上げられて成長する半導体単結晶4の種結晶7がシリコン単結晶である場合は、原料融液3を直接保持するルツボは石英ルツボ1aであり、この石英ルツボ1aは高温で軟化し、また脆く壊れやすいため石英ルツボ1aの外側は黒鉛ルツボ1bで支持されている。
【0041】
そして、CZ法による単結晶の育成では、ルツボと種結晶7を互いに反対方向に回転させながら結晶を成長させることから、この黒鉛ルツボ1bの下部にはルツボ支持軸6が取り付けられている。
また、ガス整流筒10外部と石英坩堝1aの内壁との間に、原料融液3表面からの放熱を防ぐために遮熱部材11が設けられている。
【0042】
一方、加熱ヒーター2とメインチャンバー9aの炉壁の間には、加熱ヒーター2による高温の輻射熱から炉壁を保護し、メインチャンバー9aの内部を効率良く保温するために、断熱筒8が側部に設けられている。断熱筒8の断熱部20は、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層は、間隔を持って厚さ方向に2以上設置されている。
ここで、1800℃以上の融点を有する金属薄膜としては、例えばW、Re、Os、Tl、Mo、Nb、Ir、Ru、Hf、V等が挙げられる。
また、前記反射層は、層間に空隙を設ける、層間に断熱材を配置する等をして間隔を持たせても良い。
【0043】
またメインチャンバー9aの底部にも、高温の輻射熱からの炉壁保護と、メインチャンバー9a内部の保温さらに、原料融液3が石英ルツボ1aから流出した際に、メインチャンバー9aの外に流出しないよう原料融液3を保持する目的として断熱板13が備えられている。
さらに、断熱部20の支持、断熱部表面の保護及び加熱ヒーター2の、メインチャンバー9aへの輻射熱の抑制を目的として、カバー部材12が設けられている。
【0044】
このとき、黒鉛シートからなる反射層を用いれば、不純物を避けるため、使用可能な炉内材料が厳しく制限される場合においても用いることができるため好ましい。
また、前記黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜を、輻射率が0.5以下であるものとすれば、より効果的に加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることができるため好ましい。
【0045】
ここで、前記反射層一層当たりの厚さを10μm以上とすれば、反射層の可視光に対する透光性が極めて小さくなるので、効率良く加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射伝熱を減衰させることが可能であるため好ましい。
また、前記反射層一層当たりの厚さを5mm以下とすれば、反射層の面内方向および厚さ方向の熱伝導をより効果的に抑制することができるため好ましい。
【0046】
ここで、図2(a)に示すように、前記反射層間に空隙を設けることによって、反射層の厚さ方向の熱伝導をより効果的に抑制することができる。尚、図2は本発明の製造方法によって製造された断熱筒の形態例を示した模式図である。
さらには、図2(b)に示すように、前記反射層間に5〜20mmの断熱材を配置することによっても、熱伝導をより効果的に抑制することができる。
【0047】
また、前記反射層が薄すぎて自立できない場合であっても、図2(c)に示すように、反射層を断熱材の両面に貼付けることによって支持し、断熱部に設置することができる。この場合であっても、より効果的に反射層の厚さ方向の熱伝導を抑制することができるとともに、反射層も容易に形成することができる。
【0048】
ここで、前記カバー部材12は、少なくとも前記断熱部の上部、下部、内周部及び外周部のいずれか1以上を覆うことによって設置することができる。例えば図2(a)〜(c)に示したように、上下で断熱部20を支持するようにしてカバーしても良い。また、図2(d)のように、断熱部の上部、下部及び内周部を、また図2(e)のように、断熱部の上部、下部及び外周部をカバー部材によって覆うこともできる。
さらに、図2(f)のように、前記断熱筒の内周部を、高純度黒鉛製内筒19で覆えば、加熱ヒーターによるチャンバーへの輻射熱をより効果的に減衰させることができるとともに、断熱部の表面を保護することができるため好ましい。
【0049】
また、図3は反射層の厚さ方向の熱流束カット率測定用の小型炉を示した図である。
この小型炉は、熱電対18によって囲われている熱流束カット率測定用サンプル15の、加熱ヒーター22の熱に対する熱流束カット率を放射温度計17及び熱電対18で測定する装置である。
さらに、この加熱ヒーター22及び熱電対18の外側が黒鉛繊維断熱材14によって覆われており、さらにその外側は水冷チャンバー16で覆われている。
【0050】
ここで本発明においては、反射層の輻射率をε、反射層設置数をn、輻射伝熱減衰率をR[%]とし、以下の計算式を用いることによって、前記反射層の設置数を容易にかつ確実に求めることができる。
(1)R/100=0.3642×ln(ε^z)−0.1479×lnε+1.495×z−0.8076
(2)z=n^(−1/5)
以下に、この計算式の導出方法を説明する。
【0051】
(a)一般的にCZ炉では、抵抗加熱式ヒーターの外周部を取り囲むように断熱材を配置するが、炉サイズ当たりの生産性を高めるため、断熱材設置可能なスペースは半径サイズに対して軸方向サイズが大きく、半径方向の輻射伝熱は無限平板間の輻射伝熱に近似できる。尚、熱ロスの強い方向が熱ロスの弱い方向に対して小さいサイズであれば同様に近似できる。
【0052】
(b)無限平板間の輻射伝熱は、高温熱源(温度Th、輻射率εhとする)、水冷チャンバー(温度Tl、輻射率εlとする)においては下式で与えられる。
Q0(h→l)=1/(1/εh+1/εl−1)×(Th^4−Tl^4)
【0053】
(c)高温熱源と水冷チャンバー間に輻射率ε、透過率≒0の反射層を設置した場合、下記に示すように各層間に対して輻射伝熱式が得られ、これを反復計算することで反射層温度Tを求めることができる。
Q1(h→1)=1/(1/εh+1/ε−1)×(Th^4−T^4)
Qf(1→l)=1/(1/ε+1/εl−1)×(T^4−Tl^4)
【0054】
(d)最終的に水冷チャンバーに到達する輻射熱流束はQfとなるため、輻射カット率R[%]は下記で表される。
R/100=1−Qf/Q0
(e)反射層をn層設置した場合、n+1本の輻射伝熱式の反復計算から各反射層の温度Tを求め、最終層から水冷チャンバーへの輻射熱流束Qfを求める。
【0055】
(a)〜(e)を異なる輻射率εについても実施し、輻射カット率Rと反射層数n、反射輻射率εの関係式を得る。
得られた関係式は、Q0に対しての輻射カット率に対するものなので、Th、εh、Tl及びεlに影響されない、すなわちQ0に対して不変の関係式となる。
【実施例】
【0056】
以下、比較例及び実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
(比較例)
従来の単結晶製造装置において、断熱筒は、空隙及び反射層の無い厚さ100mmの通常CZ炉で使用する高純度の黒鉛繊維断熱材を用いて、内径600mmの石英坩堝にシリコン原料150kgを充填し、溶融液を形成した後に、直径200mmのシリコン単結晶を引き上げ成長させ、シリコン単結晶成長中のヒーター電力および断熱筒外周部のチャンバーへの熱ロス量を求めた。
【0058】
(実施例1)
図1に示すCZ法による単結晶製造装置において、断熱筒は輻射率0.5、厚み0.4mmの黒鉛シートを6層等間隔で厚さ方向に設置し、層間に空隙を設けた構造体を用いて、内径600mmの石英坩堝にシリコン原料150kgを充填し、溶融液を形成した後に、直径200mmのシリコン単結晶を引き上げ成長させ、シリコン単結晶成長中の、従来の単結晶製造装置に対するヒーター電力消費率及び断熱筒外周部のチャンバーへの熱ロス量を求めた。このときの結果を図4及び図5に示す。
尚、図4は比較例、実施例1、実施例2及び実施例3における、単結晶成長中のヒーター電力消費率の差異を、比較例を100%として示した図、図5は比較例、実施例1、実施例2及び実施例3における、単結晶成長中の断熱筒外周のチャンバーへの熱ロス量削減率の差異を示した図である。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様に、図1に示すCZ法による単結晶製造装置において、反射率0.5、厚み0.4mm黒鉛シートを用いて、前記方法によって導出された下記計算式を用いて、反射層の輻射率をε、反射層設置数をn、輻射伝熱減衰率をR[%]とし、ε=0.5、R>90%の条件を設定して得られたn=9層の黒鉛シートを等間隔で厚さ方向に設置し、層間に空隙を設けた構造体を用いて、シリコン単結晶成長中の、従来の単結晶製造装置に対するヒーター電力消費率および断熱筒外周部のチャンバーへの熱ロス量を求めた。このときの結果を図4及び図5に示す。
R/100=0.3642×ln(ε^z)−0.1479×lnε+1.495×z−0.8076
z=n^(−1/5)
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様に、図1に示すCZ法による単結晶製造装置において、断熱筒に9層の厚み0.4mmの黒鉛シートを厚さ方向に設置し、かつ層間に5mmの黒鉛繊維断熱材を配置した構造体を用いて、シリコン単結晶成長中の、従来の単結晶製造装置に対するヒーター電力消費率および断熱筒外周部のチャンバーへの熱ロス量を求めた。このときの結果を図4及び図5に示す。
【0061】
(実験例)
図3に示す小型炉を用い、150mmの黒鉛繊維断熱材、厚さ0.4mm、2mm、5mm、輻射率0.5の黒鉛シート反射層をそれぞれ3層、6層、9層、12層、15層を、層間に間隔を持たせて設置した構造、厚さ0.4mm、輻射率0.5の黒鉛シート反射層を9層設置し、層間に5mm厚の黒鉛繊維断熱材を挟んだ構造および貼付成型する前の厚さ16mmの断熱材の両面に厚さ10μmの黒鉛反射層を9層貼り付けて形成した構造の層厚方向の熱流束率を求めた。このときの結果を図6に示す。
尚、図6は、実験例におけるそれぞれの構造の層厚方向の熱流束率を示した図である。
【0062】
図4及び図5からわかるように、ヒーター電力消費率については、比較例に対して、実施例1では96%、実施例2では89%、実施例3では86%までヒーター電力消費率を下げることができた。また熱ロス量削減率については、比較例では60%、実施例1では68%、実施例2では89%、実施例3では95%まで削減することに成功した。
これら比較例及び実施例の結果から、前記本発明のように反射層を、層間に空隙を設ける、断熱材を配置する等して間隔を持たせて2以上設置することにより、効果的にチャンバーへの熱ロス量を削減することができ、さらにヒーター電力の消費も抑えることができることがわかる。また前記方法によって導出された本発明の計算式は、所望の輻射伝熱減衰率を得るのに必要な反射層数を正確に算出でき、確実にかつ容易に所望の輻射熱伝熱減衰率が得られることがわかる。
また図6からわかるように、実験例における厚さ0.4mm、2mm、5mmの黒鉛シート反射層においても、本発明である前記関係式が成立していることがわかる。
ここで、反射層を2層として、現行断熱材である150mmの黒鉛繊維断熱材を用いた場合以上の輻射熱流束カット率(81.2%以上)を得るための反射層の輻射率を本発明の計算式を用いて求めると、その輻射率は0.16未満となる。
また、実施例3のように反射層間に黒鉛繊維断熱材を配置することにより、所望以上の熱ロスを確実にカットでき、さらに実験例のように断熱材の両面に反射層を貼り付けることによっても、所望以上の熱ロスを確実にカットすることができる。
【0063】
以上のことから、単結晶製造装置の断熱筒において、本発明の断熱筒のように反射層を、層間に空隙を設ける、断熱材を配置する等して間隔を持たせて2以上設置することにより、効果的にチャンバーへの熱ロス量を削減し、さらにはヒーター電力の消費も抑えることができる。また、本発明の計算式を用いて反射層設置数を決定し、断熱筒を製造することによって、確実にかつ容易に所望の輻射伝熱減衰率を得ることができることが示された。
さらに、単結晶の引き上げ過程において、本発明の断熱筒を有する単結晶製造装置を用いることによって、ヒーターからチャンバーへの熱ロスを効果的に抑制しながら単結晶を製造することができる。またこれにより、炉サイズを抑えて面積あたりの生産性を高めつつ、最終製品の高純度を維持したまま省エネルギーで単結晶を得ることが可能となるため、半導体デバイス用のシリコン単結晶および太陽電池用のシリコン単結晶等の製造分野において広く利用することができる。
【0064】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、本発明の単結晶の製造装置を、磁場を印加することなく原料融液からシリコン単結晶を引き上げるCZ法による単結晶の製造装置を例に挙げて説明したが、単結晶の製造装置のチャンバー外側に磁石を配置して、原料融液に磁場を印加しながらシリコン単結晶を育成するMCZ法を用いたシリコン単結晶の製造装置にも当然利用できる。また、本発明の単結晶の製造装置を、GaAs等に代表される化合物半導体単結晶の製造装置として利用することも可能である。さらには、単結晶は半導体であることに限定されない。
【符号の説明】
【0065】
1a…石英坩堝、 1b…黒鉛坩堝、 2、22…加熱ヒーター、 3…原料融液、
4…単結晶、 5…引上げ軸、 6…支持軸、 7…種結晶、 8…断熱筒、
9a…メインチャンバー、 9b…プルチャンバー、 10…ガス整流筒、
11…遮熱部材、 12…カバー部材、 13…断熱板、 14…黒鉛繊維断熱材、
15…熱流束カット率測定サンプル、 16…水冷チャンバー、
17…放射温度計、 18…熱電対、 19…黒鉛製内筒、 20…断熱部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に加熱ヒーターが配置され、該加熱ヒーターを囲うように配置されることで、前記加熱ヒーターの輻射熱から前記チャンバーを保護するための断熱筒であって、該断熱筒の断熱部には、黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜からなる反射層を有し、該反射層が間隔を持って、厚さ方向に2以上設置されるものであることを特徴とする断熱筒。
【請求項2】
前記黒鉛シートまたは1800℃以上の融点を有する金属薄膜は、輻射率が0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の断熱筒。
【請求項3】
前記反射層一層当たりの厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項4】
前記反射層一層当たりの厚さが5mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項5】
前記反射層間に、空隙が設けられているものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項6】
前記反射層間に、5〜20mm厚の断熱材が配置されるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項7】
前記反射層が、前記断熱材の両面に貼付けられているものであることを特徴とする請求項6に記載の断熱筒。
【請求項8】
前記断熱部は、少なくとも上部、下部、内周部及び外周部のいずれか1以上がカバー部材によって覆われているものであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項9】
前記断熱筒の内周部が、高純度黒鉛製内筒で覆われているものであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の断熱筒。
【請求項10】
前記請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の断熱筒の製造方法であって、前記反射層の設置数を、前記反射層の輻射率及び目的とする輻射伝熱減衰率から計算によって求めることを特徴とする断熱筒の製造方法。
【請求項11】
前記反射層の設置数を、前記反射層の輻射率をε、前記反射層の設置数をn、輻射伝熱減衰率をRとして、以下の計算式を用いて計算することを特徴とする請求項10に記載の断熱筒の製造方法。
(1)R/100=0.3642×ln(ε^z)−0.1479×lnε+1.495×z−0.8076
(2)z=n^(−1/5)
【請求項12】
チャンバー内において、ルツボが設けられ、前記ルツボ周囲に加熱ヒーターが配置され、該加熱ヒーターの周囲には、前記加熱ヒーターのチャンバー方向への輻射熱を抑制する断熱筒が設けられており、前記ルツボ内の原料融液を前記加熱ヒーターで加熱しつつ、前記原料融液からチョクラルスキー法によって単結晶を引き上げて製造する単結晶製造装置であって、前記断熱筒として、前記請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の断熱筒が用いられているものであることを特徴とする単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121736(P2012−121736A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271126(P2010−271126)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】