説明

断線保護継電器

【課題】地絡を伴わない1線断線を的確に検出して遮断器を開放することによって断線部の活線状態を解消することのできる断線保護継電器を提供すること。
【解決手段】自端子の電流と電圧を入力する入力変換部11と、電流データを送受信する送受信部12と、自端子と相手端子の電流データから、予め定めた整定条件に基づいて、動作の有無を判定する電流演算部13と、送配電線に装備された遮断器の開閉状態を入力して、1回線運用状態か、2回線運用状態かを判定する運用回線判定部18と、自端子と相手端子の各相の差電流から、予め定めた整定条件に基づいて、動作の有無を判定する差電流演算部14と、自端子の電圧データより不足電圧および地絡過電圧を検出する事故検出部16と、事故検出部16で事故を検出していない条件と、差電流演算部14での差電流がない条件と、他の相に断線がない条件で断線検出信号を出力する動作判定部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の送配電系統の地絡を伴わない断線事故を検出して遮断器を動作させることによって、断線系統への電力の供給を停止させる断線保護継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の送電線や配電線(以下、送配電線という。)は、地下はもちろん架空に張られるものも近年絶縁シールドした絶縁電線が使われている。このため、断線してもこの絶縁シールドにより導体が大地に接触せず、地絡事故にならないことがほとんどであり、大地に流れる零相電流(Io)が発生しないため、地絡保護継電器では地絡を検出することができず、事故の送配電線を遮断することができないという問題がある。
【0003】
図7を用いてこの問題を説明する。一般的な送配電系統は、電源系の変電所の電源31から繋がる3相の送配電線32により、負荷となる変電所の変圧器37を介して下位の負荷系統38に接続される。各変電所の送配電線の引き出し口には、遮断器33、34が挿入されている。電源系の変電所には、送配電線の地絡事故時に、地絡保護継電器を確実に動作させるため、中性点接地抵抗器50が設けられている。また、地絡事故を検出して該当する遮断器33を開放する地絡保護継電器40が変流器35を介して接続されている。この系統において、たとえば、絶縁電線であるc相の送配電線32cが断線した場合、導体が大地に接触せず、零相電流(Io)は流れないため、地絡保護継電器40が動作せず、該当の遮断器33は開放されない。
【0004】
従来、この断線を検出する技術が提案されている。たとえば、特許文献1には、3相の電流の少なくとも1相の電流が所定値以上であり、ある相間の電流が、最大の相間電流に対する相間電流の比が、所定値以下であることより1線断線を検出する技術が提案されている。しかし、これも不平衡な負荷電流が流れる送配電線では、常に相間電流に差が生じるため、1線断線を検出する相間電流の比の所定値を大きくして、感度を上げることに限界があり、断線の検出精度が上がらないという問題がある。
【特許文献1】特開平6―253446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の係る事情に鑑みてなされたものであり、地絡を伴わない1線断線、および並行2回線での1線および2線断線を的確に検出して遮断器を開放することによって断線部の活線状態を解消することのできる断線保護継電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、断線時において、断線した相の電流が零になることと、相電流が不平衡になり変流器の残留回路の残留電流が流れることと、自端子と相手端子の各相の電流が同じ値になって相互に電流を受け渡し、その差電流が零になることに着目して、線断線を検出するようにしたところにある。
【0007】
具体的には、本発明にかかわる断線保護継電器は、電力系統の送配電線の各端子に設けられ、測定したディジタル信号の電流値により、各端子間で相互に伝送し合い保護を行う電流差動式の断線保護継電器であって、送配電線に装備された遮断器の開閉状態を入力して、1回線運用状態か、2回線運用状態かを判定する運用回線判定部と、測定した自端子の各相の電流値と、伝送路を介して受信した相手端子の各相の電流値とに基づき、断線相の条件の判定を行う電流演算部と、前記運用回線判定部によって判定された回線の運用状態と、前記自端子の電流値と相手端子の電流値から演算した各相の差電流の値と、測定した自端子の残留電流の値と、伝送路を介して受信した相手端子の残留電流の値とに基づいて断線の条件を判定する差電流演算部と、前記電流演算部における断線相の条件の判定と、前記差電流演算部における断線の条件の判定とに基づいて断線検出信号を出力する動作判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、送配電線の電流値のみに着目して断線を検出することができるので、断線保護継電器を比較的簡易な構成とすることができる。また、回線運用状態に基づいて断線の判定を行うので、正確な断線判定を行うことが出来る。
【0009】
また、本発明にかかる断線保護継電器において、前記電流演算部における断線相の条件の判定は、前記自端子と相手端子の各相の電流値が整定値以下である場合に、断線相の必要条件を満たすものと判定し、前記差電流演算部における断線の条件の判定は、前記自端子と相手端子の各相における差電流の値が整定値以下であって、前記自端子と相手端子のいずれかの相における残留電流の値が整定値以上である場合に、断線の必要条件を満たすものと判定することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明にかかわる断線保護継電器は、測定した自端子の電圧値に基づいて、不足電圧および地絡過電圧による送配電線の事故を検出する事故検出部を備え、前記動作判定部は、前記電流演算部による断線相の条件と、前記差電流演算部による断線の条件と、前記事故検出部により事故を検出していない条件とに基づいて、断線検出信号を出力することを特徴とする。
【0011】
これにより、断線によらない事故を排除して断線を判定することができるので、判定の精度を向上させるという効果を奏する。
【0012】
本発明の電流差動式保護継電器を用いた断線検出方法は、電力系統の送配電線の各端子に配した電流差動式保護継電器を用い、各端子における電流値を測定して相互に電流値データの伝送を行うことで、送配電線の断線を検出する断線検出方法であって、送配電線に装備された遮断器の開閉状態を入力して、1回線運用状態か、2回線運用状態かの運用状態を判定するステップと、測定した自端子の各相の電流値と、伝送路を介して受信した相手端子の各相の電流値とに基づき、断線相の条件の判定を行うステップと、前記運用状態と、前記自端子の電流値と相手端子の電流値から演算した各相の差電流の値と、測定した自端子の残留電流の値と、伝送路を介して受信した相手端子の残留電流の値とに基づいて断線の条件を判定するステップと、前記断線相の条件の判定結果と、前記断線の条件の判定結果とに基づいて断線検出信号を出力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、既存の電流差動式保護継電器を用いて容易に断線を検出することができるので、断線検出用に新たに保護継電器を増設する必要がなく、コストを削減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の如く本発明によれば、地絡の有無に係わらず、全ての線断線事故を的確に検出して遮断器を動作させることができる。また、従来の電流差動式の保護継電器の機能に本発明の機能を加えることにより、絶縁電線の送配電線の地絡および断線事故時の保護ができるため設備コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施の形態による断線保護継電器1の機能ブロック図である。断線保護継電器1は、送電線(回線)の遮断器の開閉状態を入力して1回線の設備か、または、並行2回線の設備で片方の回線の遮断器だけが閉状態の1回線運用か、両回線の遮断器が閉状態の2回線運用かを判定する運用回線判定部18、3相の送電線の電流信号や電圧信号を入力して、この後の演算処理に必要な電流データや電圧データに変換する入力変換部11、この自端子電流データを相手端子の断線保護継電器へ伝送路41を介して送信し、また相手端子の電流データを受信する送受信部12、入力した各相の自端子電流データと相手端子電流データから、断線などに起因して各相の両端電流が整定値以下(零)となった相(断線相)を演算して検出する電流演算部13、運用回線判定部18からの回線運用状態や、各相の両端電流の差を演算し、整定値以下(零)の値であって、両端の変流器の残留電流が両方とも予め整定した値以上である場合に断線条件を検出する差電流演算部14、入力変換部11からの各相の自端子電圧が整定値以下の不足電圧事故や、零相電圧が整定値以上の地絡事故などの、断線事故以外の事故の発生を検出する事故検出部16、電流演算部13が検出した断線相に基づく第1の断線条件と、差電流演算部14が検出した第2の断線条件と、前記事故検出部16の他の事故無しの条件で最終的に断線事故と判定して、該当する遮断器を開放させる動作判定部15とで構成さている。
【0016】
入力変換部11は、信号をフィルタリングするフィルタ回路111、信号を一定時間保持するサンプルホールド回路112、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路113を備え、サンプリング信号を生成してサンプルホールド回路112に供給するサンプリング信号発生回路115、A/D変換処理された電流信号を時間のデータなどを付加した電流データファイル116へ保存する電流信号入力処理手段114とで構成される。
【0017】
上記の構成を有する断線保護継電器1について、図3の1回線運用時の系統図と図8の位相特性図により断線事故時の動作を説明する。
【0018】
図3において、電源31から繋がる3相の送電線の32a,32b,32cは、負荷側の変圧器37を介して負荷の系統38に接続されている。3相の各送電線には、その両端に遮断器33と34が挿入されている。また、各回線の送電線の引き出し口には、変流器35,36と接地変圧器39,40を介して断線保護継電器1a,1bが設置される。両端の断線保護継電器1a,1b間は、伝送路41で相互のデータを送受できるよう接続される。各電流の記号は、変流器35,36に流れる各相の電流Ia,Ib,Icと電流Ia′、Ib′、Ic′、その帰還回路である残留回路の残留電流Ix,Ix′である。
【0019】
この系統での各相の位相特性の変化について図8を用いて説明する。平常時(1)は、各相の電流Ia,Ib,Icは、120度の位相関係で流れる。平衡負荷の場合(1a)、残留電流Ixは流れず、不平衡負荷の場合は(1b)、その不平衡分だけ残留電流Ixが流れる。1線断線が発生すると(2)、当然、残った2相で閉回路を形成するため、その相間は、逆相の180度の関係になる。このような系統で断線保護継電器1a,1bが1線断線を検出したら、その回線の遮断器33,34を開放して、給電を停止する。
【0020】
次に、図3に基づいて断線保護継電器1aの動作を説明する。
平常時において、断線保護継電器1aは、送電線に取り付けられた変流器35を介して電流信号Ia,Ib,Ic,Ixを取り込む。その電流信号Ia,Ib,Icは、図1に示す入力変換部11のフィルタ回路111、サンプルホールド回路112、A/D変換回路113を通して、ディジタル信号に変換され、電流信号入力処理手段114によって、後述するサンプリングの識別番号または、時刻などを付加して電流データファイル116に保存される。なお、A/D変換回路113の前段にマルチプレクサを設けて、複数の電流データを時分割でスキャンして入力するようにしても良い。
【0021】
サンプルホールド回路112と電流信号入力処理手段114は、サンプリング信号発生回路115から出力されるサンプリング信号に同期して動作する。また、電流データファイル116は、サンプリング周期ごとに入力された電流値が系統上の電流にスケール変換されて電流データファイル116に保存される。なお、サンプリング周期とは、サンプリングの間隔であるが、例えば、系統周波数に対して30°ごとにサンプリングを実行する。電流データファイルには、このサンプリングの識別番号あるいは時刻を付して電流データを保存するようにする。
【0022】
送受信部12では、入力変換部11でA/D変換した電流データファイル116から自端子の電流値を定周期で入力して伝送路41に送信し、また、相手端子から定周期で送信された電流値を受信して電流演算部13に出力する。
【0023】
電流演算部13では、入力変換部11からの自端子の電流値や、送受信部12からの相手端子からの電流値を、実効値データなどに演算するとともに、各相の両端の電流が整定値以下に変化した場合に断線相条件を満たすとして、「断線相信号」を生成して動作判定部15に出力する。「断線相信号」は、動作判定部15において後述の条件判定のもと「第1の断線条件信号」として出力される。
【0024】
差電流演算部14では、電流演算部13で演算された自端子および相手端子の電流値を使用して、各相の差電流が整定値以下である場合に生成される「差電流無信号」と、運用回線判定部18からの回線運用状態や、両端の残留電流が整定値以上である場合に生成される「残留電流信号」とに基づいて、「第2の断線条件信号」を生成して動作判定部15に出力する。
【0025】
事故検出部16では、入力変換部11からの各相の電圧が整定値以下である場合に生成される「不足電圧信号」と、零相電圧の整定値以上の過電圧である場合に生成される「地絡事故信号」とに基づいて、断線事故以外の事故の発生を示す「他事故信号」を生成して動作判定部15に出力する。
【0026】
動作判定部15では、先述の「断線相信号」に基づき1線と2線の断線条件を検出し、その信号から「第1の断線条件信号」を生成し、前記「第2の断線条件信号」と、前記「他事故信号」の否定論理とのANDにより、最終的に断線と判定して、「遮断器開放信号」を生成して時限継電器17に出力する。
【0027】
図3に示す系統において、たとえばb相の1線断線が発生したとき、図8(2)の位相特性図に示すように、a相とc相で電気を供給するため両端の電流は、Ib=Ib′=0、Ia=Ia′>0、Ic=Ic′>0および、差電流はIb−Ib′=0、Ia−Ia′=0、Ic−Ic′=0となり、また運用回線判定は一回線運用となる。断線保護継電器1aは、この条件成立に加え、さらに「他の事故なし」の条件成立によって該当する遮断器33を開放する。相手端の断線保護継電器1bも、上記と同じ判定動作によって、該当する遮断器34を開放する。なお、実際の比較判定は計測誤差等を考慮し、それぞれ所定値を定めその値を基準に行う。
【0028】
図2は、上記の断線保護継電器1の動作論理を示すシーケンス図である。
電流演算部13は第1のAND回路13a,13b,13cを備え、各相の自端子電流(Ia,Ib,Ic)と相手端子電流(Ia′,Ib′,Ic′)の両方が整定値以下の不足電流である場合を検出して、断線相の条件を満たすとする「断線相信号」を生成して、動作判定部15に出力する。
【0029】
動作判定部15は、電流演算部13から出力された各相の「断線相信号」すなわちAND回路13a,13b,13cの各出力と、残りの他の2相の「断線相信号」との否定論理と、をそれぞれ第2のAND回路151a,151b,151cへ入力することによって、1相の断線条件を検出して「1線断線信号」を生成する(第2のAND回路151a,151b,151cの出力)。また、ある2相の「断線相信号」と残りの1相の「断線相信号」の否定論理とを第3のAND回路152a,152b,152cに入力することによって、2相の断線条件を検出して「2線断線信号」を生成する(第2のAND回路152a,152b,152cの出力)。さらに、その全てをORする第1のOR回路15dにより、「第1の断線条件信号」を生成する。
【0030】
また、運用回線判定部18は、各回線の遮断器の入切状態を入力して、この両状態信号をNAND回路18aに入力して、1回線運用状態のときは、「1」、2回線運用状態のときは「0」が出力されるようにする。
【0031】
次に、差電流演算部14は、各相の差電流Ida(=Ia−Ia′)、Idb(=Ib−Ib′)、Idc(=Ic−Ic′)の否定論理をANDして両端の入出力電流に差がないことを検出する第4のAND回路14aの出力信号と、両端の残留電流Ix、Ix′が整定値以上である場合を検出する第5のAND回路14bの出力と運用回線判定部18のNAND回路18aの出力とのOR演算を実行する第2のOR回路14dの出力信号と、その両信号をANDして断線条件を検出する第6のAND回路14cにより「第2の断線条件信号」を生成する。
【0032】
一方、事故検出部16では、断線以外の事故を検出する。具体的には、相電圧が整定値以下になる「不足電圧信号」と、零相電圧が整定値以上の過電圧である場合の「地絡事故信号」を検出して、第3のOR回路16aにより、両信号をORすることで断線事故以外の事故を示す「他事故信号」を生成する。
【0033】
そして、動作判定部15は、「第1の断線条件信号」、「第2の断線条件信号」、および、「他事故信号」の否定論理、の各信号のANDを行う第7のAND回路15eにより、最終的に断線であると判定して、他の保護システムなどとの時間協調をとるための時限継電器17を介して、該当する遮断器へ「遮断器開放信号」を出力する。
以上、1回線運用状態での1線断線事故での断線保護継電器1の動作について説明した。
【0034】
次に2回線運用状態での1線断線事故での断線保護継電器1の動作を図4の2回線系統図と、図5の位相特性図および図6の断線判定用位相特性図を用いて説明する。
【0035】
図4において、図3と同一部分には同一符号または補助符号を追加した符号にして説明を省く。電源31から繋がる3相の2回線送電線すなわち第1回線送電線32a1,32b1,32c1と第2回線送電線32a2,32b2,32c2が負荷側の変圧器37を介して負荷の系統38に接続されている。3相の各送電線には、その両端に遮断器331,341と、遮断器332,342が挿入されている。また、各回線の送電線の引き出し口には、変流器351,352と接地変圧器39を介して断線保護継電器1a,1cが、変流器361,362と接地変圧器40を介して断線保護継電器1b,1dが、それぞれ設置される。両端の断線保護継電器1a,1b間と断線保護継電器1c,1d間は、それぞれ伝送路41,42で接続されている。
【0036】
このような系統での平衡負荷において、平常時と1線断線時の各相の位相特性を図5に示す。図5(1)に示す平常時は、両回線とも同じ電流値と位相を示し、平衡負荷の場合、変流器351の残留電流Ix1と変流器361の残留電流Ix1′は零であり、変流器352の残留電流Ix2と変流器362の残留電流Ix2′も零である。
【0037】
平衡負荷における1線断線時で、たとえば第1回線のb相32b1が断線した場合、第1回線の位相特性は、図5(2)に示すようにb相の電流Ib1および電流Ib1′が零になり、その不平衡分残留電流Ix1=−Ib1、Ix1′=−Ib1′がb相に対して180度の位相角を持って現れる。第2回線側は、平常時における第1回線のb相の電流Ib1,Ib1′が平常時における第2回線のb相の電流Ib2,Ib2′に加算された電流値で現れる。この不平衡電流により、残留電流Ix2,Ix2′には、b相の位相と同じ位相の第1回線のb相の電流Ib1,Ib1′と同じ値の電流が現れる。
【0038】
図6にこの位相特性の変化により断線条件を判定する位相特性を示す。この図は、電流または電圧の位相特性が、実線の円の内側に影を付けたものではその円の内側にある時、円の外側に影を付けたものではその外側にある時は、断線の条件となる事故であることを示す。そして、電流または電圧の位相特性により断線と判定する条件として、(イ)各相の電流がI以下の不足電流であること(図6a)、(ロ)各相の両端の差電流がI以下であること(図6b)、(ハ)両端の残留電流がI以上で不平衡な状態であること(図6c)、(ニ)他の事故として各相の電圧がV以下の不足電圧(27)、または零相電圧がVo以上の地絡事故(64V)(図6d,図6e)ではないことを示す。
【0039】
このような位相特性の変化を検出して、図6に示す判定条件を全て満足した場合、図2の判定シーケンスに従って断線と判定し、断線保護継電器1a,1bまたは断線保護継電器1c,1dは「遮断器開放信号」を出力して、その回線の遮断器331,341または遮断器332,342を開放して電力の供給を停止する。
【0040】
以下、第1回線側のb相の1線断線事故時の断線保護継電器1aと断線保護継電器1cの動作を説明する。断線のある第1回線側の断線保護継電器1aは、上記した図5(2)の位相特性図の状態になり、上記した1回線運用時の断線保護継電器1aと同じ動作をして、図6に示す判定条件の(イ)Ib1が不足電流、(ロ)差電流Ida,Idb,Idcがない、(ハ)残留電流Ix,Ix′がある不平衡状態、(ニ)不足電圧でなく、地絡でもない、ことにより、b相の1線断線を図2のシーケンスにより検出して該当の遮断器331を開放する。
【0041】
第2回線側の断線保護継電器1cは、図6の判定条件で、(イ)の不足電流が検出されないため断線を検出しない。このため該当の遮断器332は、開放されない。
【0042】
同様に、相手端子の断線保護継電器1b,1dも、断線保護継電器1a,1cと同じ動作を行い、第1回線の断線保護継電器1bは、断線を検出して該当の遮断器341を開放し、第2回線の断線保護継電器1dは、断線を検出せず該当の遮断器342を開放しない。
【0043】
以上、本実施の形態によれば、各相の電流値と残留電流の変化と、断線以外の他の事故である各相の電圧や零相電圧の変化を監視して、予め決められた整定値の条件を満たすことによって断線と判定することにより、該当する遮断器を開放することができる。
【0044】
特に、電流差動式保護継電器により各相の差電流を判定条件に組み込むことによって、既存の構成を利用して精度の高い断線検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による断線保護継電器の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態による断線保護継電器のシーケンス図である。
【図3】本発明の実施の形態による断線保護継電器の1回線系統への接続状態を示す系統図である。
【図4】本発明の実施の形態による断線保護継電器の2回線系統への接続状態を示す系統図である。
【図5】本発明の実施の形態による断線保護継電器の2回線系統での位相特性図である。
【図6】本発明の実施の形態による断線保護継電器の断線判定用位相特性図である。
【図7】従来の電力系統における保護継電装置の接続状態の説明図である。
【図8】本発明の実施の形態による断線保護継電器の1回線系統への接続状態を示す位相特性図である。
【符号の説明】
【0046】
1,1a,1b,1c,1d 断線保護継電器
11 入力変換部
12 送受信部
13 電流演算部
14 差電流演算部
15 動作判定部
16 事故検出部
17 時限継電器
18 運用回線判定部
31 電源
32,32a,32b,32c,321a,・・・,322c 送電線
33,34,331,332,341,342 遮断器
35,36,351,352,361,362 変流器
37 変圧器
38 負荷側系統
39,40 接地変圧器
41,42 伝送路
111 フィルタ回路
112 サンプルホールド回路
113 A/D変換回路
114 電流信号入力処理手段
115 サンプリング信号発生回路
116 電流データファイル
Ia,Ib,Ic,Ix,Ia′,Ib′,Ic′,Ix′ 電流
Ida,Idb,Idc 差電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の送配電線の各端子に設けられ、測定したディジタル信号の電流値により、各端子間で相互に伝送し合い保護を行う電流差動式の断線保護継電器であって、
送配電線に装備された遮断器の開閉状態を入力して、1回線運用状態か、2回線運用状態かを判定する運用回線判定部と、
測定した自端子の各相の電流値と、伝送路を介して受信した相手端子の各相の電流値とに基づき、断線相の条件の判定を行う電流演算部と、
前記運用回線判定部によって判定された回線の運用状態と、前記自端子の電流値と相手端子の電流値から演算した各相の差電流の値と、測定した自端子の残留電流の値と、伝送路を介して受信した相手端子の残留電流の値とに基づいて断線の条件を判定する差電流演算部と、
前記電流演算部における断線相の条件の判定と、前記差電流演算部における断線の条件の判定とに基づいて断線検出信号を出力する動作判定部と、
を備えたことを特徴とする断線保護継電器。
【請求項2】
前記電流演算部における断線相の条件の判定は、前記自端子と相手端子の各相の電流値が共に整定値以下である場合に、断線相の条件を備えるものと判定し、
前記差電流演算部における断線の条件の判定は、1回線運用状態の場合は、前記自端子と相手端子の各相における差電流の値が整定値以下である場合に断線の条件を備えるものと判定し、2回線運用状態の場合は、前記自端子と相手端子の各相における差電流の値が整定値以下であって、前記自端子と相手端子の残留電流の値が共に整定値以上である場合に断線の条件を備えるものと判定することを特徴とする請求項1記載の断線保護継電器。
【請求項3】
測定した自端子の電圧値に基づいて、不足電圧および地絡過電圧による送配電線の事故を検出する事故検出部を備え、
前記動作判定部は、前記電流演算部による断線相の条件と、前記差電流演算部による断線の条件と、前記事故検出部により事故を検出していない条件とに基づいて、断線検出信号を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の断線保護継電器。
【請求項4】
電力系統の送配電線の各端子に配した電流差動式保護継電器を用い、各端子における電流値を測定して相互に電流値データの伝送を行うことで、送配電線の断線を検出する断線検出方法であって、
送配電線に装備された遮断器の開閉状態を入力して、1回線運用状態か、2回線運用状態かの運用状態を判定するステップと、
測定した自端子の各相の電流値と、伝送路を介して受信した相手端子の各相の電流値とに基づき、断線相の条件の判定を行うステップと、
前記運用状態と、前記自端子の電流値と相手端子の電流値から演算した各相の差電流の値と、測定した自端子の残留電流の値と、伝送路を介して受信した相手端子の残留電流の値とに基づいて断線の条件を判定するステップと、
前記断線相の条件の判定結果と、前記断線の条件の判定結果とに基づいて断線検出信号を出力するステップと、
を含むことを特徴とする電流差動式保護継電器を用いた断線検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−131016(P2009−131016A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302298(P2007−302298)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】