説明

新規な、含フッ素化合物および含フッ素重合体

【課題】新規な、含フッ素化合物および含フッ素重合体を提供する。
【解決手段】下記化合物(1)、下記化合物(2)またはその塩、および、化合物(1)を重合させて得られた重合体(ただし、Xは水素原子またはフッ素原子であり2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。mおよびnはそれぞれ独立に0〜3の整数でありmとnの和は1〜4の整数である。Yは水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり3個のYは同一であってもよく異なっていてもよい。Zは水素原子または−C(O)O−Q−NHSO−Rである。Zは水素原子または−C(O)O−Q−NHである。Qは炭素数2〜6の2価飽和炭化水素基である。Rは炭素数1〜12の1価含フッ素飽和炭化水素基または炭素数2〜12のエーテル性酸素原子を含む1価含フッ素飽和炭化水素基である。)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な、含フッ素化合物および含フッ素重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する繰り返し単位を含む含フッ素重合体は、光学特性(透明性、耐久耐光性等。)、撥水撥油性等の物性に優れている。
前記繰り返し単位を形成する環化重合性の化合物として、CF=CFOCFCFCF=CF等のポリフルオロアルケニルビニルエーテルが知られている(特許文献1など参照。)。
【0003】
また、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ官能基を有する繰り返し単位を含む含フッ素重合体は、前記物性に優れているだけでなく、前記官能基に由来する物性の発現も可能であり、種々の用途(リソグラフィー用レジスト材料等。)への展開がはかられている(特許文献2など参照。)。
前記繰り返し単位を形成する環化重合性の化合物として、特許文献2には、側鎖に官能基を有するフルオロアルカジエン類(CF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CH等。)が記載されている。
また、側鎖にカルボキシ誘導基を有するフルオロアルカジエンとして、特許文献3には、側鎖にtert−ブトキシカルボニル基を有するフルオロアルカジエン(CF=CFCHCH(C(O)OC(CH)CHCH=CH。)が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平01−131215号公報
【特許文献2】国際公開第02/064648号パンフレット
【特許文献3】特開2005−298707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
側鎖に官能基を有するフルオロアルカジエン類は、その重合体の用途に応じて種々の構造が検討されるのが好ましい。しかし、実際にかかる検討を実施しようとしても、原料化合物の入手が困難であり、実施するのが難しかった。
側鎖にカルボキシ誘導基を有するフルオロアルカジエンに関しても、特許文献3の化合物が知られるに過ぎず、他の化合物は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、側鎖に含フッ素カルボキシ誘導基を有するフルオロアルカジエンは、より撥水撥油性に優れた重合体を形成すると考え、鋭意検討を行った。その結果、かかる重合体を形成する新規な含フッ素化合物を見い出した。
【0007】
すなわち、本発明は下記の要旨を有する。
<1> 下式(1)で表される化合物。
【0008】
【化1】

【0009】
式中の記号は、下記の意味を示す。
X:水素原子またはフッ素原子であり、2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
mおよびn:それぞれ独立に0〜3の整数であり、mとnの和は1〜4の整数である。
Y:水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり、3個のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。
Z:水素原子または式−C(O)O−Q−NHSO−Rで表される基。
Q:炭素数2〜6の2価飽和炭化水素基。
:炭素数1〜12の1価含フッ素飽和炭化水素基または炭素数2〜12のエーテル性酸素原子を含む1価含フッ素飽和炭化水素基。
【0010】
<2> 下式(11)で表される化合物。
【0011】
【化2】

【0012】
式中の記号は、下記の意味を示す。
:炭素数2〜6のアルキレン基。
F1:炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
【0013】
<3>下式(2)で表される化合物またはその塩。
【0014】
【化3】

【0015】
式中の記号は、下記の意味を示す。
X:水素原子またはフッ素原子であり、2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
mおよびn:それぞれ独立に0〜3の整数であり、mとnの和は1〜4の整数である。
Y:水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり、3個のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。
:水素原子または式−C(O)O−Q−NHで表される基。
Q:炭素数2〜6の2価飽和炭化水素基。
【0016】
<4>下式(21)で表される化合物またはその塩。
【0017】
【化4】

【0018】
式中の記号は、下記の意味を示す。
:炭素数2〜6のアルキレン基。
【0019】
<5> 式(1)で表される化合物を重合させて得られた重合体。
<6> 重量平均分子量が1000〜1000000である<5>に記載の重合体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ側鎖に含フッ素カルボキシ誘導基を有する繰り返し単位を含む含フッ素重合体が提供される。本発明の重合体は、フッ素含有量が高いため、撥水撥油性と光学特性(透明性、耐久耐光性等。)に優れるだけでなく、エステル構造(−C(O)O−)とスルホンアミド構造(−NHSO−)とを有するため、溶媒溶解性も高い重合体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも、式−C(O)O−Q−NHSO−Rで表される基を−C(O)O−Q−NHSO−Rとも、記す。他の化合物と他の基も同様に記す。
また、基中の記号は、特に記載しない限り前記と同義である。
【0022】
本発明は、下記化合物(1)を提供する。
【0023】
【化5】

【0024】
2個のXは、同一であるのが好ましく、水素原子またはフッ素原子であるのが好ましく、フッ素原子であるのが特に好ましい。
mおよびnは、mが1でありnが0または1であるのが好ましく、mおよびnの両方が1であるのが好ましい。
3個のYは、いずれも水素原子であるのが好ましい。なお、炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であるYは、メチル基または1−アダマンチル基であるのが好ましい。
Zは、水素原子であるのが特に好ましい。
Qは、炭素数2〜6のアルキレン基であるのが好ましい。Qは、直鎖状の基であってもよく、分岐状の基であってもよい。
【0025】
は、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基または炭素数2〜12のエーテル性酸素原子を含むポリフルオロアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜12のペルフルオロアルキル基であるのがより好ましく、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であるのが特に好ましい。Rは、直鎖状の基であってもよく、分岐状の基であってもよい。Rは、環構造を含む基であってもよい。
【0026】
化合物(1)は、下記化合物(11)であるのが好ましい。
【0027】
【化6】

【0028】
は、−CHCH−であるのが好ましい。
F1は、−CF、−CFCF、−CF(CF、−CFCFCFCF、−CFCFCFCFCFまたは−CFCFCFCFCFCFであるのが好ましい。
【0029】
化合物(1)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0030】
【化7】

【0031】
化合物(1)は、下記化合物(2)またはその塩と、RSO−W(ただし、Wはフッ素原子、塩素原子または臭素原子を示す。)または(RSOOとを反応させて製造するのが好ましい。
【0032】
【化8】

【0033】
化合物(2)におけるX、m、n、YおよびQの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれらと同様である。
は、水素原子であるのが特に好ましい。
【0034】
化合物(2)は、下記化合物(21)であるのが好ましい。
【0035】
【化9】

【0036】
化合物(21)におけるQの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれと同様である。
【0037】
化合物(21)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0038】
【化10】

【0039】
化合物(2)の塩は、化合物(2)のカルボン酸塩またはスルホン酸塩であるのが好ましい。
【0040】
SO−Wまたは(RSOOにおけるRの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれと同様である。
SO−Wまたは(RSOOの具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0041】
【化11】

【0042】
前記反応においては、化合物(2)またはその塩に対して、RSO−WまたはRSO−O−SOを0.2〜3.0倍モル用いるのが好ましく、0.9〜1.2倍モル用いるのが特に好ましい。
【0043】
前記反応における反応温度は、−50℃〜+30℃が好ましい。また、前記反応における反応圧力は、特に限定されない。
前記反応は、塩基性化合物の存在下に行うのが好ましい。塩基性化合物の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジエチルメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。塩基性化合物は、化合物(2)に対して、0.5〜30.0倍モル用いるのが好ましく、1.5〜5.0倍モル用いるのが特に好ましい。
【0044】
前記反応は、溶媒の存在下に行うのが好ましい。溶媒の具体例としては、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、ピリジンが挙げられる。
【0045】
前記反応は、重合禁止剤の存在下に行うのが好ましい。重合禁止剤の具体例としてはヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、フェノチアジン、テトラエチルチウラムジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジンが挙げられる。
【0046】
化合物(2)またはその塩は、文献未知の、側鎖にアミノ基を含むカルボキシ誘導基を有するフルオロアルカジエンである。
化合物(2)またはその塩は、下記化合物(3)(ただし、Zは水素原子またはカルボキシ基を示す。)と、Q(OH)(NH)またはその塩とを反応させて製造するのが好ましい。
【0047】
【化12】

【0048】
化合物(3)におけるX、m、n、YおよびQの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれらと同様である。
は、水素原子であるのが特に好ましい。
【0049】
Q(OH)(NH)におけるQの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれと同様である。
また、反応収率の観点から、Q(OH)(NH)中のアミノ基は、保護基(−C(O)OCH、−C(O)OC(CH等。)で保護されていてもよい。
【0050】
前記反応においては、化合物(3)に対して、Q(OH)(NH)またはその塩を0.8〜3.0倍モル用いるのが好ましく、1.0〜1.5倍モル用いるのが特に好ましい。
【0051】
前記反応における反応温度は、20℃〜200℃が好ましい。また、前記反応における反応圧力は、特に限定されない。
【0052】
前記反応は、反応溶媒の存在下に行うのが好ましい。反応溶媒の具体例としては、芳香族系炭化水素溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等。)、ハロゲン化溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等。)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等。)、炭化水素系溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等。)が挙げられる。
【0053】
なお、Zがカルボキシ基である化合物(3)(下記化合物(32)。)は、下記化合物(8)と下記化合物(7)を反応させて下記化合物(6)を得て、つぎに化合物(6)と下記化合物(5)を反応させて下記化合物(4)を得て、つぎに酸性条件下にて化合物(4)を加水分解せしめて製造するのが好ましい。
CH(C(O)OC(CH (8)、
CY=CY(CH−Br (7)、
CH(C(O)OC(CH((CHCY=CY) (6)、
CF=CF(CX−OSOF (5)、
CF=CF(CXC(C(O)OC(CH(CHCY=CY (4)、
CF=CF(CXC(C(O)OH)(CHCY=CY (32)。
【0054】
また、Zが水素原子である化合物(3)(下記化合物(31)。)は、化合物(32)を加熱処理により脱炭酸せしめて製造するのが好ましい。
CF=CF(CXCH(C(O)OH)(CHCY=CY (31)。
なお、それぞれの化合物におけるX、m、nおよびYの好ましい範囲は、化合物(1)におけるそれと同様である。
【0055】
本発明の化合物(1)は、文献未知の、側鎖に含フッ素カルボキシ誘導基を有するフルオロアルカジエンであり、重合性の化合物として有用である。
本発明は、化合物(1)を重合させて得られた重合体(以下、本発明の重合体ともいう。)を提供する。化合物(1)は環化重合性の化合物であり、本発明の重合体は、通常は、下式(U1)、下式(U2)および下式(U3)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位(U)を含む含フッ素重合体である。
【0056】
【化13】

【0057】
本発明の重合体の重量平均分子量は、特に限定されず、1000〜1000000が好ましい。
【0058】
化合物(1)の重合は、重合開始剤の存在下に行うのが好ましい。
重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が好ましく、過酸化物、アゾ化合物または過硫酸塩がより好ましく、過酸化物が特に好ましい。
【0059】
過酸化物の具体例としては、CC(O)OOC(O)C、CC(O)OOC(O)C、CFCFCFC(O)OOC(O)CFCFCF、(CHCC(O)OOC(O)C(CH、(CHCHC(O)OOC(O)CH(CH、(CHCC10C(O)OOC(O)C10C(CH、(CHCOC(O)OOC(O)OC(CH、(CHCHOC(O)OOC(O)OCH(CH、(CHCC10OC(O)OOC(O)OC10C(CHが挙げられる(ただし、Cはフェニル基を、Cはペンタフルオロフェニル基を、C10は1,4−シクロキシレン基を、示す。)。
【0060】
化合物(1)の重合方法は、特に限定されず、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの重合法にしたがって実施するのが好ましい。
【0061】
化合物(1)の重合において、重合溶媒を用いる場合、重合溶媒の種類は、特に限定されない。
重合溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、ジアセトンアルコール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エチルブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等の炭化水素系アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の炭化水素系ケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の炭化水素系エーテル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状脂肪族炭化水素系エーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の炭化水素系エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の塩化炭化水素類;R−113、R−141b、R−225ca、R−225cb等のフッ化塩化炭化水素類、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンなどのフッ化炭化水素類;メチル2,2,3,3−テトラフルオロエチルエーテル等のフッ化炭化水素系エーテル類;2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール等のフッ化炭化水素系アルコール類が挙げられる。
【0062】
化合物(1)の重合における温度と圧力は、特に限定されない。重合温度は、0℃〜200℃が好ましく、25℃〜100℃が特に好ましい。重合圧力は、大気圧〜100気圧が好ましく、大気圧〜10気圧が特に好ましい。
【0063】
本発明の重合体は、繰り返し単位(U)のみからなる単独重合体であってもよく、繰り返し単位(U)と繰り返し単位(U)以外の繰り返し単位とを含む共重合体であってもよい。共重合体は、化合物(1)と、化合物(1)以外の重合性化合物(以下、他の化合物という。)とを共重合させて製造するのが好ましい。本発明の重合体が繰り返し単位(U)以外の繰り返し単位を含む場合、本発明の重合体は、全繰り返し単位に対して、繰り返し単位(U)を1〜99モル%含み、繰り返し単位(U)以外の繰り返し単位を1〜99モル%含むのが好ましい。
【0064】
他の化合物は、化合物(1)と共重合しうる重合性化合物であれば特に限定されない。
他の化合物としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン類;テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の含フッ素オレフィン類;CF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CH、CF=CFCHCH(C(CFOH)CHCH=CH等の化合物(1)または(2)以外の官能基を有するハイドロフルオロジエン類、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アダマンチル酸ビニル等のビニルエステル類;エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;シクロヘキセン、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状オレフィン類;無水マレイン酸、塩化ビニルが挙げられる。ただし、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートを意味する。
【0065】
本発明の重合体は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ側鎖にエステル構造(−C(O)O−)とスルホンアミド構造(−NHSO−)で連結された1価含フッ素飽和炭化水素基を有する繰り返し単位を含む含フッ素重合体である。本発明の重合体は、フッ素含有量が高いため、撥水撥油性と光学特性(透明性、耐久耐光性等。)に優れるだけでなく、溶媒溶解性も高い重合体である。
【0066】
したがって、本発明の重合体を有機溶媒に溶解または分散させることにより、基材表面に撥水撥油性を付与するために用いられるコーティング剤を容易に調製できる。
本発明は、本発明の重合体と有機溶媒とを含む組成物を提供する。
本発明の組成物は、有機溶媒の総質量に対して本発明の重合体を、0.1〜20質量%含むのが好ましく、1〜10質量%含むのが特に好ましい。
【0067】
有機溶媒は、本発明の重合体に対する相溶性の高い有機溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく非フッ素系有機溶媒であってもよい。
【0068】
非フッ素系有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、ジアセトンアルコール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エチルブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノまたはジアルキルエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0069】
本発明の組成物を、コーティング剤として使用する具体例としては、任意の基材表面に本発明の組成物を塗布して、つぎに乾燥して有機溶媒を留去する方法が挙げられる。
本発明の組成物の塗布方法は、特に限定されず、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、およびラングミュア・ブロジェット法が挙げられる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例において、テトラヒドロフランをTHFと、ジクロロペンタフルオロプロパンをR225と、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートをIPPと、テトラメチルシランをTMSと、記す。
【0071】
[例1]化合物(3)の製造例
[例1−1]CF=CFCFC(C(O)OH)CHCH=CH(以下、化合物(3)という。)の製造例
反応器に、純度60%のNaH(1.8g)とTHF(80mL)とを入れた後に混合撹拌した。つぎに、反応器に、CH=CHCHCH(C(O)OC(CH(9.4g)を15分かけて滴下した。滴下に際しては、反応器内温を20℃以下に保持した。そのまま25℃にて、反応器内を75分間撹拌した。
つぎに反応器内温0℃にて、反応器に、CF=CFCFOSOF(8.5g)を25分かけて加えると、反応器内容液は黄変し固体(FSONa)が析出した。そのまま反応器内を20時間撹拌した後に、反応器に水(150mL)を加えてクエンチした。
反応器内溶液をt−ブチルメチルエーテル(50mL)で3回抽出した。抽出液を、塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に濃縮して粗生成物を得た。粗生成物をカラム精製して、CF=CFCFC(C(O)OC(CHCHCH=CH(5.3g)を得た。
【0072】
氷冷撹拌しながら、トリフルオロ酢酸(60mL)にCF=CFCFC(C(O)OC(CHCHCH=CH(6.4g)を5分かけて滴下し、滴下終了後、そのまま2時間撹拌した。つぎに25℃にて、トリフルオロ酢酸を減圧溜去して、化合物(3)を得た。
【0073】
化合物(3)のNMRデータを、以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):2.97(2H),5.20(1H),5.26(1H),5.89(1H),11.29(2H)。
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−92.4(1F),−102.6(2F),−105.1(1F),−183.0(1F)。
【0074】
[例1−2]CF=CFCFCH(C(O)OH)CHCH=CH(以下、化合物(3)という。)の製造例
化合物(3)(2.6g)をトルエン(15mL)と混合し、そのままトルエンを留去した後に、引き続き112〜139℃にて1時間加熱した。さらに、減圧乾燥して、化合物(3)(1.8g)を得た。
【0075】
化合物(3)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):2.55(m,1H),2.67(m,1H),3.28(m,1H),5.15(m,1H),5.20(m,1H)5.79(m,1H),11.72(br,1H)。
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−93.6(1F),−105.4(2F),−108.0(1F),−186.7(1F)。
【0076】
[例2]化合物(2)の製造例
反応器(内容積100mL、ガラス製)に、化合物(3)(8.0g)、CH(OH)CH(NHC(O)OC(CH)(6.16g)およびジクロロメタン(30g)を入れた。反応器内温0℃にて、反応器に、ジシクロヘキシルカルボジイミドを1mol/L含むジクロロメタン溶液(50.5g)をゆっくり滴下した。滴下終了後、25℃にて反応器内を1時間撹拌した。反応器内溶液をろ過して得られたろ液を、濃縮した後にシリカゲルカラムクロマトグラフィー法(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=6:1)にて精製して下記化合物(p2)(13.8g)を得た。
【0077】
反応器(内容積200mL、ガラス製)に、化合物(p2)(13.8g)およびジクロロメタン(46g)を入れた。反応器内温0℃にて、反応器に、トリフルオロ酢酸(25.3g)をゆっくり滴下した。滴下終了後、そのまま反応器内を2時間撹拌した。反応器内溶液を濃縮して、下記化合物(2)のトリフルオロ酢酸塩(16.9g)を得た。
【0078】
【化14】

【0079】
化合物(p2)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(399.8MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.44(s,9H)、2.49〜2.71(m,2H)、3.20〜3.29(m,1H)、3.38〜3.39(m,2H)、4.20〜4.24(m,2H)、4.71(s,1H)、5.11〜5.20(m,2H)、5.69〜5.82(m,1H)。
19F−NMR(376.2MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−93.5〜−93.8(m,1F)、−104.2〜−106.5(m,2F),−107.7〜−108.6(m,1F)、−186.2〜−186.9(m,1F)。
【0080】
[例3]化合物(1)の製造例
反応器(内容積200mL、ガラス製)に、例2で得た化合物(2)のトリフルオロ酢酸塩(16.9g)およびジクロロメタン(10g)を入れた。反応器内温0℃にて、反応器に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(2.19g)をジクロロメタン(10g)に希釈させてなる溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに、反応器に、ジイソプロピルエチルアミン(3.01g)をジクロロメタン(10g)に希釈させてなる溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後、そのまま反応器内を1時間撹拌した後に、反応器に2mol/Lの塩酸(20g)を添加した。つぎに反応器内溶液を分液して回収した有機層を飽和食塩水で2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮し、得られた濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー法(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製して下記化合物(1)(2.1g)を得た。
【0081】
【化15】

【0082】
化合物(1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(399.8MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):δ(ppm):2.49〜2.70(m,2H)、3.23〜3.36(m,1H)、3.62〜3.68(m,2H)、4.31〜4.35(m,2H)、5.11〜5.20(m,2H)、5.68〜5.81(m,1H)、6.76(s,1H)。
19F−NMR(376.2MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−76.7(s,3F)、−93.1〜−93.4(m,1F)、−103.0〜−107.5(m,2F)、−107.5〜−108.3(m,1F)、−186.5〜−187.2(m,1F)。
【0083】
[例4]化合物(1)の重合例
耐圧反応器(内容積30mL、ガラス製)に、化合物(1)(1.0g)および酢酸エチル(7.0g)を仕込み、50質量%のR225溶液としてIPP(0.667g)を仕込んだ。反応器内を減圧脱気した後に、40℃にて18時間重合反応を行った。反応器内溶液をヘキサン中に滴下して得られた固形物を回収し、60℃にて24時間真空乾燥して重合体(1)(0.93g)を得た。
【0084】
THFを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法にて測定した重合体(1)の数平均分子量は4700であり、重量平均分子量は8500であった。
重合体(1)は下式(U1)、下式(U2)および下式(U3)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる1種以上の繰り返し単位(1)を含む重合体であり、アセトン、THF、酢酸エチル、メタノールのそれぞれに可溶であった。
【0085】
【化16】

【0086】
[例5]重合体の評価例
サンプル瓶中にて、重合体(1)をPGMEAに溶解させて、重合体(1)を4質量%含む樹脂溶液を得た。樹脂溶液をシリコンウエハー上に回転数1500rpmにてスピンコートした後に、シリコンウエハーを100℃にて60秒間でベークして、重合体(1)の被膜が形成されたシリコンウエハを得た。
つづいて、該被膜の水に対する、静的接触角、転落角、前進角および後退接触角を、滑落法により測定した結果、静的接触角は73°、転落角は29°、後退接触角は51°、前進接触角は82°であった。
【0087】
以上の結果から明らかであるように、本発明の重合体は、溶媒可溶性であり、高撥水性の被膜を形成することから、コーティング剤として有用な材料である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、基材表面に撥水撥油性を付与するために用いられる含フッ素重合体が提供される。基材の種類は、特に限定されず、半導体部材、電子部材、燃料電池部材が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物。
【化1】

式中の記号は、下記の意味を示す。
X:水素原子またはフッ素原子であり、2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
mおよびn:それぞれ独立に0〜3の整数であり、mとnの和は1〜4の整数である。
Y:水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり、3個のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。
Z:水素原子または式−C(O)O−Q−NHSO−Rで表される基。
Q:炭素数2〜6の2価飽和炭化水素基。
:炭素数1〜12の1価含フッ素飽和炭化水素基または炭素数2〜12のエーテル性酸素原子を含む1価含フッ素飽和炭化水素基。
【請求項2】
下式(11)で表される化合物。
【化2】

式中の記号は、下記の意味を示す。
:炭素数2〜6のアルキレン基。
F1:炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
【請求項3】
下式(2)で表される化合物またはその塩。
【化3】

式中の記号は、下記の意味を示す。
X:水素原子またはフッ素原子であり、2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
mおよびn:それぞれ独立に0〜3の整数であり、mとnの和は1〜4の整数である。
Y:水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり、3個のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。
:水素原子または式−C(O)O−Q−NHで表される基。
Q:炭素数2〜6の2価飽和炭化水素基。
【請求項4】
下式(21)で表される化合物またはその塩。
【化4】

式中の記号は、下記の意味を示す。
:炭素数2〜6のアルキレン基。
【請求項5】
下式(1)で表される化合物を重合させて得られた重合体。
【化5】

式中の記号は、下記の意味を示す。
X:水素原子またはフッ素原子であり、2個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
mおよびn:それぞれ独立に0〜3の整数であり、mとnの和は1〜4の整数である。
Y:水素原子または炭素数1〜12の1価飽和炭化水素基であり、3個のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。
Z:水素原子または式−C(O)−Q−NHSO−Rで表される基。
Q:単結合または炭素数2〜4のオキシアルキレン基。
:炭素数1〜12の1価含フッ素飽和炭化水素基または炭素数2〜12のエーテル性酸素原子を含む1価含フッ素飽和炭化水素基。
【請求項6】
重量平均分子量が1000〜1000000である請求項5に記載の重合体。

【公開番号】特開2009−96756(P2009−96756A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270045(P2007−270045)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】