説明

新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれからなるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物

【課題】 ガスバリアー性の湿度依存性が小さく、かつ水蒸気バリアー性に優れる新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体及びエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 特定のエチレン含量、けん化度を有し、かつ末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体、及び従来のエチレン−ビニルアルコール共重合体と上記末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体とからなるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体に関し、詳しくは末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体に関する。また本発明は、新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物に関し、詳しくは従来よりガスバリアー性の湿度依存性及び水蒸気バリアー性が改善されたエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略すことがある)はガスバリアー性に優れた熱可塑性樹脂であり、そのガスバリアー性を活かしてフィルム、シート、容器など各種包装材料として広く用いられている。しかしながら、ガスバリアー性の湿度依存性が大きく、特に高湿度下ではガスバリアー性が大きく低下するため、包装される内容物によってはガスバリアー性が不足するといった問題があった。また、EVOHは水蒸気に対するバリアー性が低く、このような性能を要求される用途においては用いることができないといった問題がある。
【0003】
これに対し、EVOHの高湿度下でのガスバリアー性や水蒸気バリアー性を向上させるため、種々の方法が提案されている。例えば、EVOHに疎水性のモノマーを共重合させること、EVOHに無機層状化合物や無機酸化物などを混合すること、EVOHに疎水性の官能基を導入することなどである。
【0004】
しかしながら、一般にEVOHに疎水性モノマーを共重合させると、耐水性は向上するが、バリアー性は低下する傾向がある。また、無機層状化合物や無機酸化物を混合した場合は、成形工程が複雑になり、成形性が低下する傾向があるため成形条件が制限される、あるいは回収や廃棄する際に混入した無機化合物に留意が必要であるなどの問題がある。
【0005】
EVOHの末端に疎水性官能基を導入する場合、無機化合物を混合する場合のような問題はなく、疎水性のモノマーを共重合するのに比べバリアー性の低下を抑制することも可能である。このような方法として、特許文献3には末端にRS基(但しRは炭素数4〜30の炭化水素基、Sは硫黄原子を示す)を有し、エチレン含有率20〜60モル%、酢酸ビニル単位のけん化度80%以上であり、数平均重合度10〜1000であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物が、また特許文献4には末端にRS基(ただしRは炭素数1〜18の炭化水素基、または水酸基含有炭化水素基。Sは硫黄原子。)を有するEVOH及びそれと従来のEVOHからなるEVOH樹脂組成物が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3、4の変性EVOHでは、EVOH本来のバリアー性を損なわない程度の変性度では、本発明の目的であるガスバリアー性の湿度依存性や水蒸気バリアー性については、十分とはいえないレベルであった。
【0007】
一方、ポリビニルアルコール系樹脂の末端変性の例としては、これ以外に含フッ素基による変性ポリビニルアルコールが知られている。例えば、特許文献1、特許文献2には末端に含フッ素基を有するポリビニルエステル系重合体及びポリビニルアルコール系重合体の製造方法が記載されている。しかしながら、このポリビニルアルコール系重合体は水溶液として使用されることが前提であり、ガスバリアー性に関する記載はない。
【0008】
【特許文献1】特開昭60−1208号公報
【特許文献2】特開平10−34844号公報
【特許文献3】特開昭63−301206号公報
【特許文献4】特開平10−251345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れたガスバリアー性を有し、ガスバリアー性の湿度依存性が小さく、かつ水蒸気バリアー性に優れる新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体、及びエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題の達成に向けて鋭意検討した結果、EVOHの末端に含フッ素基を導入することによって、高湿度下でのガスバリアー性、水蒸気バリアー性が著しく改善することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、エチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上で、末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)である。また、本発明のもう一つの発明は、エチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、上述の末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなり、(A)/(B)が99/1〜50/50(重量比)であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、本発明の変性EVOHと記すことがある)及びこれを含むEVOH樹脂組成物は、ガスバリアー性の湿度依存性が小さいため、シート、フィルム、容器などの各種包装材料として使用する際に、内容物の種類によらず良好なバリアー性を得ることができる。また、従来のEVOHと比べて水蒸気バリアー性に優れるため、従来EVOHを用いることができなかった水蒸気バリアー性の要求される用途への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の第1の発明である、新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体について説明する。
【0013】
本発明の変性EVOHのエチレン含量は20〜60mol%であり、好ましくは22〜55mol%であり、より好ましくは24〜50mol%である。エチレン含量が20mol%未満ではEVOHの熱安定性が低下するため好ましくない。エチレン含量が60mol%を超える場合は、ガスバリアー性が低下するため好ましくない。
【0014】
本発明の変性EVOHのけん化度は90mol%以上であり、好ましくは95mol%以上であり、より好ましくは98mol%以上であり、更に好ましくは99mol%以上である。けん化度が90mol%未満では、ガスバリアー性が低下するだけでなく変性EVOHの熱安定性も低下するため好ましくない。
【0015】
本発明の変性EVOHは末端に含フッ素基を有することが必須である。EVOHが末端に含フッ素基を有することで、本発明の目的であるガスバリアー性の湿度依存性が小さい、水蒸気バリアー性に優れるといった優れた性能が発揮されるのである。以下に、本発明の変性EVOHが末端に有する含フッ素基について説明する。
【0016】
含フッ素基に特に制限はなく、含フッ素基を有するEVOHの分子量、エチレン含量、けん化度、必要とされるガスバリアー性や水蒸気バリアー性、変性EVOHの製造の容易さ等の観点から種々のものを選択することができる。
【0017】
このような含フッ素基の中でも、高湿度下でのガスバリア−性と水蒸気バリアー性を保持する観点から、主鎖鎖長が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。一方、EVOHが本来有するガスバリア−性を維持する観点からは、主鎖鎖長が30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。ここでいう主鎖鎖長とは、含フッ素基に含まれる水素、フッ素以外の原子をEVOH主鎖のエチレン単位またはビニルアルコール単位に接続している原子から順に結合鎖に沿って数え、その数の最も大きいものを指す。
【0018】
さらに、本発明においては含フッ素基がフッ素を含むことによって高湿度下でのガスバリア−性や水蒸気バリアー性が著しく向上する。このような観点から、含フッ素基中に含まれるフッ素原子の割合が30重量%以上であるのが好ましく、50重量%以上であるのがより好ましい。
【0019】
このような含フッ素基としては、例えば一般式(I)
−X− ・・・(I)
(ただし、mは0又は1)で表される基を挙げることができる。
【0020】
上記一般式(I)において、Rはフッ素化されたアルキル基あるいはアルキルエーテル基であり、その例としては、一般式
A−(CF
(式中、Aは水素原子、フッ素原子、(CFCH−又は(CFCF−を示し、qは2〜20の整数を示す)で表されるフッ化アルキル基、あるいは一般式
(CFCF−O−(CF
(式中、qは2〜20の整数を示す)
又は一般式
(CFCF−O−〔CF(CF)−CF−O〕−CF(CF)−
(式中、tは1〜10の整数を示す)で表されるフッ化アルキルエーテル基を挙げることができる。
【0021】
このRの例としては、H−(CF−、H−(CF−、H−(CF−、H−(CF−、F(CF−、F(CF−、F−(CF−、F−(CF−、F−(CF−、F−(CF−、F−(CF−、F−(CF−、F−(CF10−、(CFCF−(CF−、(CFCF−(CF−、(CFCF−(CF−、(CFCF−(CF−、(CFCF−O−(CF−、(CFCF−O−(CF12−、(CFCFO−(CF13−、(CFCH−(CF−、(CFCF−O−〔CF(CF)−CF−O〕−CF(CF)−などが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0022】
上記一般式(I)においてXとしては、一般式
−(CH
(nは1〜5の整数)
で表されるアルキレン基、
−(CH−O−(CH
(p及びnはそれぞれ1〜5の整数)で表されるアルキレンエーテル基、
−CONH−(CH
(nは1〜5の整数)で表されるアルキレンアミド基、
−(S)−(CH−Q−(CH
(p及びnは、それぞれ1〜5の整数、Qは硫黄原子又は酸素原子、rはQが硫黄原子の場合0又は1、Qが酸素原子の場合1である)で表されるアルキレンチオエーテル基、
−(CH−NR−(CH
(R は炭素数1〜5のアルキル基、p及びnは、それぞれ1〜5の整数)で表されるアルキレンイミノ基、
−(CH−COO−(CH
若しくは
−COO−(CH
(p及びnは、それぞれ1〜5の整数)で表されるアルキレンエステル基、又は
−CH−CR(OH)−CHR
若しくは
−CH−CR(CHROH)−
(R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基)で表されるヒドロキシル基含有アルキレン基を挙げることができる。
【0023】
このXの例としては、−CH−O−(CH−、−(CH−、−(CH−、−S−(CH−、−(CH−S−(CH−、−S−(CH−O−(CH−、−S−(CH−S−(CH−、−CONH−(CH−、−(CH−COO−(CH−、−COO−(CH−、−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH(CHOH)−などが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0024】
これらの中で、先に述べたような観点、及び以下に述べる合成の容易さの観点からH−(CF−CHO(CH−、H−(CF−CHO(CH−、H−(CF−CHO(CH−、F−(CF−CHO(CH−、F−(CF−CHO(CH−、F−(CF10−CHO(CH−、(CFCF(CF−(CHO(CH−、F−(CF−CONH−(CH−等が好ましく使用される。
【0025】
このような含フッ素基、さらにはある条件を満たす含フッ素基が特に、高湿度下でのガスバリア−性及び水蒸気バリアー性の向上に効果があるかは現時点では明確ではないが、以下のような理由が考えられる。
【0026】
EVOHのような結晶性高分子をガスが透過する場合、ガスの分子はEVOHの結晶部分を通ることはできず、非晶部分を通ると考えられる。一方、理論的にはガスの透過速度(P)は、バリアー材中のガス分子の拡散速度(D)とガス分子のバリアー材への溶解度(S)によってP=S×Dで表される。ガスがEVOH中を透過する現象に関しては、EVOHの分子構造に由来する分子運動の結果として生じる自由体積が拡散速度に影響し、EVOHとガス分子との親和性が溶解性に影響すると考えられる。ここから、従来EVOHで問題となっていたガスバリアー性の湿度依存性が大きい、或いは水蒸気バリアー性が低いといった現象は以下のように考えることができる。
【0027】
すなわち、EVOHは分子中に親水性の水酸基を多数有しており、水(蒸気)分子の溶解性が高いため、上記の溶解度項の影響により水蒸気の透過速度が大きく(水蒸気バリアー性が低く)なる。また、高湿度下においてEVOH中に浸透した水分子はEVOHに含まれる水酸基と相互作用するため、非晶部分の分子運動が増大して自由体積が増加する結果、拡散速度の項の影響により他ガスについても透過速度が増大(バリアー性が低下)するのである。よって、いずれの場合においても、結局はEVOHの非晶部分の親水性が高いことがこれら問題の原因となっており、非晶部分の親水性を下げることでこれらの問題は改善できると考えられる。
【0028】
EVOHの非晶部の親水性を下げる方法として、単純な方法としては疎水性の官能基を有するコモノマーを第3成分としてEVOHに共重合することが挙げられる。しかし、この方法では非晶部の親水性を下げることは可能であるが、通常これらコモノマーはランダムにEVOH中に存在するためEVOH自身の結晶性を低下させ、結果としてガスバリアー性の湿度依存性を小さくすることはできても、全体のバリアー性のレベルが低下することとなるため実用上は問題がある。
【0029】
EVOHの結晶構造においては、EVOHの末端部分は結晶内には取り込まれず非晶部に存在するということが知られている。そこで本発明者はこの点に着目し、EVOHの末端に疎水性の官能基を導入することを検討するに至った。すなわち、EVOHの末端に疎水性の官能基を導入した場合、これらは非晶部のみに存在するため、EVOHの結晶部分の構造には影響を与えず、非晶部分の親水性を低下させることが可能となる。末端に導入する疎水性の官能基としては、単純なアルキル基、アリール基、アラルキル基といったものも考えられるが、後に実施例、比較例において示す通りこれらの官能基では疎水性が不十分であり、より疎水性の強い含フッ素基を導入する必要がある。
【0030】
本発明の変性EVOHは、極限粘度(η)が0.014〜0.072L/gであることが好ましい。ここでηは、エチレン−ビニルアルコール共重合体をフェノール/水=85/15(重量比)の含水フェノール溶液に溶解した溶液について、オストワルド粘度管により測定温度30℃で測定した落下秒数から以下の式1に従って算出した値である。
【0031】

η=(2×(ηSP−lnη))0.5/C(L/g) (式1)

{ただし、式1中の記号は以下を表す:
ηSP=(t−t)/t
η=t/t
C:EVOH濃度(g/L)
:ブランク(含水フェノール)の落下秒数(s)
t:EVOH溶液の落下秒数(s)}
【0032】
ηの範囲としてはより好ましくは0.018〜0.067L/gであり、更に好ましくは0.021〜0.062L/gである。ηが0.014L/g未満では、変性EVOHの分子量が小さく、変性EVOHの製造工程において析出や洗浄といった処理を行う場合には、変性EVOHのこれらの処理液中への溶出が大きくなって歩留まりが低下することがある。ηが0.072L/gより大きい場合には、稀に本発明の改善効果が低下することがある。ηを上記の好ましい範囲に調節する方法としては、後述する変性EVOHの製造方法において、重合工程の反応条件(溶媒比、反応温度、反応率等)を変更することで調節する方法が挙げられるが、これに限るものではない。
【0033】
本発明の変性EVOHはまた、含フッ素基の含量がフッ素原子換算で0.1〜40重量%であることが好ましく、0.3〜30重量%であることがより好ましく、0.5〜25重量%であることが更に好ましい。含フッ素基の含量がフッ素原子換算で0.1重量%未満では、本発明の改善効果が低下することがある。また、40重量%を超える場合、後述する本発明の第2の発明であるEVOH樹脂組成物において、末端に含フッ素基を有するEVOHと従来のEVOHの相溶性が低下することがある。含フッ素基の含量を上記の好ましい範囲に調節する方法として、単純には含フッ素基の種類を変更することが挙げられる。その他としては、後述する変性EVOHの製造方法において連鎖移動反応法により重合を行う場合に、溶媒比や反応温度、重合率、含フッ素基を有するメルカプタンの投入量などの条件を変更するといった手法が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0034】
本発明の末端に含フッ素基をもつEVOHの製造方法としては特に制限はなく、様々な方法を挙げることができるが、例えば、上記一般式(I)で表される含フッ素基を有するメルカプタン(以下、フッ素含有メルカプタンと記すことがある)の存在下に、エチレンとビニルエステル系化合物を主体とする単量体のラジカル共重合を行い、連鎖移動反応により末端に含フッ素基を導入したエチレン−ビニルエステル共重合体(以下、EVAcと記すことがある)を得たのち、これをけん化することにより製造する方法(連鎖移動反応法)、及び末端にチオエステル基又はチオール基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体と、一般式(II)で表される含フッ素基を有するエポキシ化合物(以下、フッ素含有エポキシ化合物と記すことがある)との付加反応により、末端に含フッ素基を導入したエチレン−ビニルエステル共重合体を得たのち、これをけん化することにより製造する方法(末端反応法)が好適である。
【0035】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは上記と同じである)
【0036】
まず、連鎖移動反応法による末端に含フッ素基を有するEVOHの製造方法について説明する。一般式(I)で表されるフッ素含有メルカプタン類としては、mが1の場合、すなわちR−X−SH(R及びXは前記と同じである。)で表される化合物の例として、H(CFCHO(CHSH、H(CFCHO(CHSH、H(CFCHO(CHSH、H(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CF10(CHO(CHSH、(CFCF−(CF(CHO(CHSH、F(CFCHCHSH、F(CFCHCHSH、F(CFCHCHSH、F(CFCHCHSH、F(CF10CHCHSH、F(CF(CHSH、(CFCF−(CFCHCHSH、(CFCF−O−(CFCHCHSH、(CFCF−O−(CF12CHCHSH、(CFCF−O−(CF13−CHCHSH、F(CFCHCHN(CH)−(CHSH、F(CFSCHCHSH、F(CF10SCHCHSH、F(CFCHCHS(CHSH、F(CFSCHCHOCHCHSH、F(CFSCHCHSCHCHSH、F(CFCONHCHCHSH、F(CFCONHCHCHSH、F(CFCONHCHCHSH、(CFCF−O−(CF(CF)−CF−O)−CF(CF)−CONHCHCHSHなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0037】
また、mが0の場合、すなわちR−SH(Rは前記と同じである。)で表される化合物の例として、CSH、CSH、(CFCHCFSHなどが挙げられる。さらに、これらのフッ素含有メルカプタン類の酢酸エステルや安息香酸エステルなどのエステルも使用することができる。上記フッ素含有メルカプタン類の中では、特にH(CFCHO(CHSH、H(CFCHO(CHSH、H(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CFCHO(CHSH、F(CF10(CHO(CHSH、(CFCF−(CF(CHO(CHSH、F(CFCONHCHCHSHなどが好ましい。
【0038】
ここで、エチレンと共重合できるビニルエステル系化合物としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、これらの中で、経済性の点で特に酢酸ビニルが好適である。
【0039】
フッ素含有メルカプタンの存在下における、エチレンと酢酸ビニル等のビニルエステル類を主体とするビニル系単量体の共重合は、ラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等いずれの方法でも行うことができるが、酢酸ビニルの場合にはメタノールを溶媒とする溶液重合法が工業的には最も有利である。重合中に存在させるフッ素含有メルカプタンの重合系への添加量、添加方法には特に制限はなく、目的とするEVOHの物性値に応じて適宜選定すればよい。重合方式としては、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式も用いることができる。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メチル−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤及び、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。
【0041】
重合温度については特に制限はないが、室温〜150℃の範囲が適当である。所定時間重合した後、未反応のエチレン及びビニルエステル類を通常の方法で除去することにより、末端に含フッ素基が導入されたエチレン−ビニルエステル共重合体が得られる。このようにして、連鎖移動反応法により得られた末端に含フッ素基が導入されたエチレン−ビニルエステル系重合体を、後述する公知の方法に従ってけん化することにより、所望の末端に含フッ素基を有するEVOHが得られる。
【0042】
次に、末端反応法による末端に含フッ素基を有するEVOHの製造方法について説明する。この末端反応法において用いられる末端にチオエステル基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体は、例えばチオ酢酸、チオ安息香酸等のチオカルボン酸や2−アセチルチオエタンチオール、2−ベンゾイルチオエタンチオール、10−アセチルチオデカンチオール、10−ベンゾイルチオデカンチオール等のジチオールのモノアセテート、モノベンゾエート等を連鎖移動剤として、エチレンとビニルエステル類を主体とする単量体のラジカル共重合を行い、片末端にチオエステル基を導入することにより得られる。また、末端にチオール基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体は、この片末端にチオエステル基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体から誘導することができる。
【0043】
一方、上記一般式(II)で表されるフッ素含有エポキシ化合物としては、例えば、下記一般式(III)において、R−が、F(CF−、F(CF−、F(CF−、F(CF−、F(CF10−、(CFCF(CF−、(CFCF(CF−、(CFCF(CF−、(CFCF(CF−、H(CFCHO−、H(CFCHO−、H(CFCHO−、H(CFCHO−、であるものなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0044】
【化2】

【0045】
このフッ素含有エポキシ化合物と末端にチオエステル基又はチオール基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体との反応は、無溶媒、又はフッ素含有エポキシ化合物を溶解しかつ末端にチオエステル基又はチオール基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解あるいは膨潤させる溶剤中で実施される。このような溶剤としては、メタノール,エタノール,n−プロピルアルコール,n−ブチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族類、テトラヒドロフラン,ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類やn−ヘキサン等の炭化水素類および水等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、反応条件は、使用するフッ素含有エポキシ化合物やエチレン−ビニルエステル共重合体の構造により異なるが、通常、溶剤を使用する場合、該エチレン−ビニルエステル共重合体濃度は5〜90重量%の範囲が好ましい。また、フッ素含有エポキシ化合物とエチレン−ビニルエステル共重合体との使用割合は、エポキシ基/チオエステル基又はチオール基のモル比が1.0〜5.0の範囲になるように選ぶのが有利である。反応温度は0〜250℃程度、反応時間は0.1〜20時間程度が適当である。
【0047】
ここで、エチレン−ビニルエステル共重合体に含まれるチオエステル基又はチオール基を全量反応させることが重要であり、チオールとの反応では3級アミン(例えばトリエチルアミン、ピリジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アンモニア等)、ホスフィン(例えばトリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等)、水酸化ナトリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロオキサイド、ナトリウムメチラート等の塩基性化合物が、チオエステルとの反応ではトリブチルアンモニウムクロリド、トリブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩がそれぞれ反応触媒として有効である。また、チオールの酸化を防止するために、反応系を脱気あるいは窒素置換したり、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0048】
このようにして、末端反応法により得られた末端に含フッ素基が導入されたエチレン−ビニルエステル共重合体を、後述する公知の方法に従ってけん化することにより、所望の末端に含フッ素基を有するEVOHが得られる。
【0049】
次に、末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルエステル共重合体のけん化について説明する。前記の連鎖移動反応法或いは末端反応法によって得られたエチレン−ビニルエステル共重合体は、常法によりけん化されるが、通常、エチレン−ビニルエステル共重合体をアルコール(1重量%以下の水を含んでいても良い)に溶解した状態でけん化される。けん化反応に使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコールなどの低級アルコールが好ましく挙げられ、メチルアルコールが特に好適に使用される。けん化反応に使用されるアルコールは、エチレン−ビニルエステル共重合体やけん化生成物であるEVOHの溶解性を低下させない範囲において、ヘキサンやベンゼン、テトラヒドロフラン等その他の溶剤を含有していてもよい。
【0050】
通常、けん化反応は触媒として例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、あるいは鉱酸などの酸触媒が用いられる。該触媒の使用量は目標とするけん化度により適宜調整すれば良いが、ビニルエステル単位に対しモル比で0.005以上、好ましくは0.008以上用いるのが望ましい。一方該触媒量が多くなりすぎると残存触媒をEVOHから除去するのに多大な労力が必要となり、残存触媒の除去が不十分な場合にはEVOHが着色したり熱安定性が低下したりする等好ましくないため、モル比で0.5以下にするのが望ましい。
【0051】
その他のけん化条件については、目標とする末端に含フッ素基を有するEVOHのけん化度やエチレン−ビニルエステル共重合体の物性により適宜調整すれば良いが、反応温度については30〜150℃の範囲が適当であり、反応時間については10分〜6時間の範囲が適当である。
【0052】
けん化方式については連続式、回分式のいずれも用いることができる。連続式でけん化を行う場合、特開昭60−141702号や特開2002−69123号などに記載されている塔式のけん化装置が好適に用いられる。
【0053】
このようにして得られたけん化後の末端に含フッ素基を有するEVOHは、通常けん化時に使用した触媒の残渣を多量に含んでいるため、更なる洗浄を行った後乾燥される。従来よりEVOHを溶融成型して成型物を製造する場合、EVOHの熱安定性を改善する目的で各種金属イオンや酸、酸化防止剤、滑剤といった添加剤が用いられる。また、EVOHの工程中でのハンドリング性を改良する目的で、EVOHを各種ペレット形状に加工することがよく行われている。これら加工、洗浄、乾燥及び添加剤の添加に関する技術については、特開昭53−120767号、特開昭53−9898号、特開2001−96529号、特開2001−98077号、特開2001−96606号、特開2001−96530号、特開昭64−66262号、特開平10−67898号、特開2001−164059号、国際公開第03/68847号、特開昭53−119958号など多数が開示されているが、これらの技術は本発明の末端に含フッ素基を有するEVOHにそのまま適用できる。
【0054】
本発明の末端に含フッ素基を有するEVOHは、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体を共重合したものでもよい。エチレン性不飽和単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などの不飽和酸類、その塩及び炭素数1〜18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン、その酸塩及びその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン、その酸塩及びその4級塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基含有のα−オレフィン類などが挙げられる。
【0055】
次に、本発明のもう一つの発明であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物に関して説明する。
【0056】
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と本発明の第1の発明である末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなり、(A)/(B)が99/1〜50/50(重量比)であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物である。即ち、従来のEVOHに本発明の末端に含フッ素基を有するEVOHをブレンドすることで、従来のEVOHでは問題とされているガスバリアー性の湿度依存性や水蒸気バリアー性を改善するものである。
【0057】
本発明のEVOH樹脂組成物に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)はエチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上である。これを満たしてさえいれば、従来公知のいかなるEVOHも用いることができる。
【0058】
EVOH(A)のエチレン含量は好ましくは22〜55mol%であり、より好ましくは24〜50mol%である。エチレン含量が20mol%未満ではEVOHの熱安定性が低下し、60mol%以上ではガスバリアー性が低下するため好ましくない。
【0059】
EVOH(A)のけん化度は好ましくは95mol%以上であり、より好ましくは98mol%以上であり、更に好ましくは99mol%以上である。けん化度が90mol%未満の場合、ガスバリアー性が低下するだけでなくEVOHの熱安定性も低下するため好ましくない。
【0060】
本発明のEVOH樹脂組成物に用いられる末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)(以後、変性EVOH(B)と記すことがある)は本発明の第1の発明である末端に含フッ素基を有するEVOHと同一である。変性EVOH(B)のηやエチレン含量、けん化度、含フッ素基の種類及び含量(フッ素原子換算)についての好ましい範囲等については、本発明の第1の発明において述べた通りである。
【0061】
EVOH(A)と変性EVOH(B)の組成は99/1〜50/50(重量比)であり、好ましくは98/2〜60/40であり、より好ましくは97/3〜70/30であり、より更に好ましくは96/4〜75/25であり、特に好ましくは95/5〜80/20である。EVOH(A)と変性EVOH(B)の比率が99/1以上では、本発明の改善効果が小さくなる。EVOH(A)と変性EVOH(B)の比率を50/50より小さくしても、本発明の改善効果は殆ど変わらないため意味がない。
【0062】
EVOH(A)と変性EVOH(B)をブレンドする方法については特に制限はなく、押出機などで溶融ブレンドする方法や適当な溶媒に溶解した溶液としてブレンドする方法、固体状のままドライブレンドする方法など、いかなる方法によってもよい。
【0063】
本発明のEVOH樹脂組成物において、EVOH(A)の極限粘度(η)が0.059〜0.177L/gであることが、成型物の機械物性という点においてはより好ましい。EVOH(A)のηの範囲としてはより好ましくは0.066〜0.147L/gであり、更に好ましくは0.073〜0.127L/gである。ηが0.059L/g未満では、成型物の種類や用途によっては機械物性が不足する場合がある。EVOH(A)としてηが0.177L/gより大きいものを用いても問題はないが、これ以上ηの大きいEVOH(A)を用いても、機械物性はそれほど向上しないため意味がない。
【0064】
以下、本発明の変性EVOH及びEVOH樹脂組成物(以下、単に「本発明のEVOH樹脂組成物等」と示すことがある)の用途について説明する。
【0065】
得られた本発明のEVOH樹脂組成物等は溶融成形によりフィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物に成形される。これらの成形物は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、フィルム、シート、繊維等を一軸又は二軸延伸することも可能である。溶融成形法としては押出成形、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形等が可能である。溶融温度は該共重合体の融点等により異なるが150〜270℃程度が好ましい。
【0066】
本発明のEVOH樹脂組成物等は、本発明の樹脂組成物等のみの単層からなる成形物としても使用可能であるが、各種熱可塑性樹脂の特長を併せ持った成型物を得るといった目的においては、本発明のEVOH樹脂組成物等からなる少なくとも1層を含む多層構造体とすることが好適である。多層構造体の層構成としては、本発明のEVOH樹脂組成物等をE、接着性樹脂をAd、熱可塑性樹脂をTで表わすと、E/T、T/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等が挙げられるが、これに限定されない。ここで示されたそれぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。
【0067】
上記に示す多層構造体を製造する方法は特に限定されない。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物等からなる成形物(フィルム、シート等)上に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、逆に熱可塑性樹脂等の基材上に本発明のEVOH樹脂組成物等と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、熱可塑性樹脂と本発明のEVOH樹脂組成物等を共押出又は共射出する方法、更には本発明のEVOH樹脂組成物等より得られた成形物と他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。なかでも、共押出又は共射出する方法が好適である。
【0068】
本発明のEVOH樹脂組成物等と熱可塑性樹脂との共押出成形の方法は特に限定されず、マルチマニホールド合流方式Tダイ法、フィードブロック合流方式Tダイ法、インフレーション法などが好適なものとして例示される。また、共射出成形の方法も特に限定されず、一般的な手法を用いることができる。
【0069】
本発明のEVOH樹脂組成物等と積層するのに用いられる熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(炭素数4〜20のα−オレフィン)、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又はその共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエステルエラストマー、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。上記の中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルが好ましく用いられる。
【0070】
本発明のEVOH樹脂組成物等と熱可塑性樹脂とを積層するに際し、接着性樹脂を使用する場合があり、この場合の接着性樹脂としてはカルボン酸変性ポリオレフィンからなる接着性樹脂が好ましい。ここでカルボン酸変性ポリオレフィンとは、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体のことをいう。また、ここでオレフィン系重合体とはポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン、オレフィンと該オレフィンとを共重合し得るコモノマー(ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体などを意味する。このうち直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55重量%)、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8〜35重量%)が好適であり、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好適である。エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物とはエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、そのモノ又はジエステル、その無水物があげられ、このうちエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好適である。具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、なかんずく、無水マレイン酸が好適である。
【0071】
エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)はオレフィン系重合体に対し0.01〜15重量%、好ましくは0.02〜10重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加反応、グラフト反応は、たとえば溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル重合法などにより得られる。このようにして得られたカルボン酸変性ポリオレフィンの190℃、2160g荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)は0.2〜30g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10g/10 分である。これらの接着性樹脂は単独で用いてもよいし、また二種以上を混合して用いることもできる。
【0072】
このようにして得られた共押出多層構造体又は共射出多層構造体を二次加工することにより、各種成形品(フィルム、シート、チューブ、ボトルなど)を得ることができる。たとえば以下のようなものが挙げられる。
(1)多層構造体(シート又はフィルムなど)を一軸又は二軸方向に延伸し、必要に応じて熱処理することによる多層共延伸シート又はフィルム
(2)多層構造体(シート又はフィルムなど)を圧延することによる多層圧延シート又はフィルム
(3)多層構造体(シート又はフィルムなど)真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することによる多層トレーカップ状容器
(4)多層構造体(パイプなど)からのストレッチブロー成形等によるボトル、カップ状容器
(5)多層構造体(パリソンなど)からの二軸延伸ブロー成形等によるボトル状容器
【0073】
このような二次加工法には特に制限はなく、上記以外の公知の二次加工法も採用できる。このようにして得られた共押出多層構造体あるいは共射出多層構造体は層間接着性に優れ、外観が良好で臭気の発生が抑制されているから、各種食品容器の材料、例えば、包装用フィルム、深絞り容器、カップ状容器、ボトル等の材料として好適に用いられる。
【0074】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。以下「%」、「部」とあるのは特に断わりのない限り重量基準である。
【0075】
[EVOHのエチレン含量、けん化度の測定方法]
HFIP−dを溶媒としてEVOHを5wt%濃度で溶解した溶液について、1H−NMR測定(日本電子製 超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500)を行い、得られたスペクトルのピークの面積比から以下に従ってEVOHのエチレン含量及びけん化度を測定した。
エチレン含量(mol%)=(3A+4B−6C)/(3A+4B+6C)×100
けん化度(mol%)=3C/(3C+D)×100
A:1.2〜2.0ppmのピークの積算値(ポリマー骨格中のCHに由来)
B:0.8〜1.1ppmのピークの積算値(ポリマー末端のCHに由来)
C:3.5〜4.5ppmのピークの積算値(ポリマー側鎖の水酸基に由来)
D:2.0〜2.2ppmのピークの積算値(残存酢酸基のCHに由来)
【0076】
[EVOHの極限粘度(η)の測定方法]
EVOH 0.20gを精秤し、これをフェノール/水=85/15(重量比)の含水フェノール40mLに60℃で投入後4時間加熱撹拌して溶解した。得られたEVOH溶液をガラスフィルターでろ過したものについて、オストワルド粘度管(ブランクの含水フェノールの落下秒数が約90秒のものを使用)により測定温度30℃で落下秒数を測定した。別途、ブランクとしてEVOHを溶解したものと同一の含水フェノールについて、同一条件にて落下秒数を測定し、これらの測定値から上述の式1に従ってEVOHの極限粘度(η)を求めた。
【0077】
[EVOHに導入した含フッ素基の含量]
EVOH 0.05gを精秤したものを酸素フラスコ燃焼法で燃焼し、発生したガスを下記の溶離液50mLに吸収してサンプル溶液を作成した。作成したサンプル溶液について、イオンクロマトグラフィー(横河アナリティカル・システムズ製IC 7000)によりフッ化物イオンの定量を行い、EVOH中の含フッ素基含有量をフッ素原子換算として求めた。イオンクロマトグラフィーの測定条件について以下に示す。
カラム:横河アナリティカル・システムズ製 ICS−A23
カラム温度:40℃
溶離液:NaCO 2.5mMとNaHCO 1.0mMの混合水溶液
溶離液流速:1mL/min.
サプレッサー除去液:HSO 15mM水溶液
サンプル溶液注入量:50μL
【0078】
[ガスバリアー性の湿度依存性の評価方法]
EVOHを、m−クレゾールに15〜25重量%の濃度(EVOHのηにより適当に調整)で溶解したEVOH溶液を用いて、厚さ100μmのPETフィルム上にバーコート法により手塗り塗工し、乾燥した後PETフィルムから剥離して、厚み約20μのEVOHフィルムを作成した。作成したフィルムについて、MODERN CONTROLS INC.製酸素透過度測定装置MOCONOX −TRAN10/50A型を用い、JIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて、30℃、65%RHおよび30℃、95%RHの条件下での酸素透過度(それぞれOTR65及びOTR95とする)を測定した(ここで、酸素透過度は、任意の膜厚で測定した酸素透過度を膜厚20μmでの酸素透過度に換算した値とした)。
【0079】
[透湿度の評価方法]
上記と同様の手法により作成したEVOHフィルムについて、40℃、90%RHの条件でJIS Z0208の記載に従って透湿度の測定を行い、膜厚を30μmに換算した値を算出した。
【0080】
[機械物性の評価方法]
上記と同様の手法により作成したEVOHフィルムを23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、15mm巾の短冊状の試験片を切出したサンプルについて、島津製作所製オートグラフAGS−H型にて、チャック間隔50mm、引張速度500mm/minの条件で引張破断点強度の測定を行った。測定は各10サンプルについて行い、その平均値を求めた。
【0081】
[フッ素基含有メルカプタンの合成]
合成例1
F−(CF10−(CH)OH 122gをジメチルスルホキシド100mlに溶解し、水酸化ナトリウム22.4gを加えた後、室温で撹拌しながら塩化アリル33gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて更に5時間撹拌した後、沈殿物を濾別した濾液について、温水浴で加熱して未反応の塩化アリルを除去した。次いで、濾液を大量の水中に投入し、分液ロートによりF−(CF10−(CH)OCH−CH=CHを分離した。得られたF−(CF10−(CH)OCH−CH=CHに過酸化ベンゾイル5mgを加え、室温で撹拌しながらチオ酢酸25gを2時間かけて滴下して反応を行った。反応液より未反応のチオ酢酸を減圧除去した後、メタノール100mL及び水酸化ナトリウム10gを加えて、60℃で3時間反応を行った。反応後の反応液を室温に冷却、大量の水中に投入した後分液ロートにより分液して粗生成物を得た。これを減圧蒸留により精製することで、フッ素基含有メルカプタンとしてF−(CF10−(CHO(CH−SH(F−1)を得た。
【0082】
合成例2
合成例1において、原料として用いたF−(CF10−(CHOH 122gに代えて、(CFCF(CF−(CHOH 89gを用いた以外は、合成例1と同様にしてフッ素基含有メルカプタン(CFCF(CF−(CHO(CH−SH(F−2)を合成した。
【0083】
合成例3
合成例1において、原料として用いたF−(CF10−(CHOH 122gに代えて、H−(CF−CHOH 50gを用いた以外は、合成例1と同様にしてフッ素基含有メルカプタンH−(CF−CHO(CH−SH(F−3)を合成した。
【0084】
[実施例1]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口およびディレー(逐次添加)溶液添加口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル1.47kg、メタノール1.04kgおよび合成例1で合成したフッ素基含有メルカプタン(F−1)1.93gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が3.1MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度3.5g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。またディレー溶液としてF−1をメタノールに溶解した濃度20%溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液16mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を3.1MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて50ml/hrでAMVを、また上記ディレー溶液を用いてF−1を重合系中の酢酸ビニルとF−1の比率が一定となるようにしながら連続添加して重合を実施した。4.0時間後に重合率が50%となったところで冷却して重合を停止した。この時点でディレーにより添加したF−1ディレー溶液の総量は189mlであった。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去して末端にF−1に由来する含フッ素基を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液とした。得られたEVAc溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したEVAcのメタノール溶液100g(溶液中のEVAc 50g)に、20.2g(EVAc中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.2)のアルカリ溶液(NaOHの20%メタノール溶液)を添加して60℃で8時間撹拌することにより、EVAcのけん化を行った。反応終了後、メタノール及び副生物である酢酸メチルを減圧除去し、更に水道水で洗浄したものについて、熱風乾燥機で80℃、16時間乾燥して末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(E−1)を得た。
【0085】
得られたE−1について、上述に従って分析を実施した結果、エチレン含量32mol%、けん化度99.9mol%、極限粘度0.0370L/gであり、含フッ素基の含量はフッ素原子換算で3.1%であった。
【0086】
E−1をm−クレゾールに溶解した濃度20%の溶液を用いて、上記に従いEVOHのフィルムを作成し、これを用いて上記に従いガスバリアー性の湿度依存性及び水蒸気バリアー性の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0087】
[実施例2〜9]
EVAcの重合時において用いるフッ素基含有メルカプタンの種類及び量、仕込みの組成、反応時間、重合率等の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてEVAcの重合を行い、その後実施例1と同様にしてけん化、精製、乾燥して各種末端に含フッ素基を有するEVOH(E−2〜9)を得た。これらの分析結果を表2に示す。次にこれらEVOHについて、フィルム作成時に調整するEVOH溶液の濃度を適宜調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアー性の湿度依存性及び水蒸気バリアー性の評価を行った。これらの評価結果を表2に併せて示す。
【0088】
[実施例10]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口およびディレー溶液添加口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル1.47kg、メタノール1.04kgおよびチオ酢酸0.64gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が3.1MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤としてAMVをメタノールに溶解した濃度3.5g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。またディレー溶液としてチオ酢酸をメタノールに溶解した濃度4%溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液18mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を3.1MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて55ml/hrでAMVを、また上記ディレー溶液を用いてチオ酢酸を重合系中の酢酸ビニルとチオ酢酸の比率が一定となるようにしながら連続添加して重合を実施した。4.0時間後に重合率が50%となったところで冷却して重合を停止した。この時点でディレーにより添加したチオ酢酸ディレー溶液の総量は123mlであった。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去して、末端にアセチルチオ基を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液とした。次に、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、上記で得た末端にチオエステル基を有するEVAcのメタノール溶液(濃度60 %)100g、3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン3.1g、メタノール50gを投入、15分窒素ガスをバブリングした後、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度20%)0.6mLを加えた。40℃にて撹拌しながら2時間反応させた後、同温度にて更に20%濃度の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を24mL添加してけん化を行った。60℃で8時間撹拌することにより、EVAcのけん化を行った。反応終了後、メタノール及び副生物である酢酸メチルを減圧除去し、更に水道水で洗浄したものについて、熱風乾燥機で80℃、16時間乾燥して末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(E−10)を得た。E−10の分析結果を表2に示す。次に、実施例1と同様にしてE−10のガスバリアー性の湿度依存性等の評価を行った。結果を表2に併せて示す。
【0089】
[比較例1〜5]
EVAcの重合時に用いるメルカプタンの種類、仕込みの組成、反応時間、重合率等の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして各種EVOH(E−11〜15)を合成し、上記に従って分析及び物性評価を実施した。分析結果および物性評価結果を表2に併せて示す。
【0090】
[比較例6]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口およびディレー溶液添加口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル1.06kg、メタノール1.41kgおよびアリルグリシジルエーテル7.7gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が2.5MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤としてAMVをメタノールに溶解した濃度3.5g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液30mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を2.5MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて94ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。5.9時間後に重合率が75%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去して、側鎖にエポキシ基を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液とした。次に、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、上記で得た側鎖にエポキシ基を有するEVAcのメタノール溶液(濃度60%)100g、フッ素含有メルカプタン(F−1)3.0g、メタノール50gを投入、15分窒素ガスをバブリングした後、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度20%)0.6mLを加えた。40℃にて撹拌しながら2時間反応させた後60℃に昇温し、更に20%濃度の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を24mL添加してけん化を行った。60℃で8時間撹拌することにより、EVAcのけん化を行った。反応終了後、メタノール及び副生物である酢酸メチルを減圧除去し、更に水道水で洗浄したものについて、熱風乾燥機で80℃、16時間乾燥して側鎖に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(E−16)を得た。E−16の分析結果を表2に示す。次に、実施例1と同様にしてE−10のガスバリアー性の湿度依存性等の評価を行った。結果を表2に併せて示す。
【0091】
[比較例7−9]
EVAcの重合時にフッ素基含有メルカプタンを使用しないこと、及び仕込み組成、反応時間、重合率等の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてエチレン−ビニルアルコール共重合体(E−17〜19)を得た。これらEVOHの分析結果及びガスバリアー性の湿度依存性等の評価結果を表2に併せて示す。
【0092】
[実施例11]
実施例1で合成した変性EVOH(E−1)と比較例7で合成したEVOH(E−17)をE−1/E−17=10/90の比率でドライブレンドしてEVOH樹脂組成物を作成し、この樹脂組成物について上記のガスバリアー性の湿度依存性、水蒸気バリアー性及び機械物性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
[実施例12〜16]
ブレンドに用いるEVOHの種類及びブレンド比を表3に示すように変更した以外は、実施例11と同様にしてEVOH樹脂組成物を作成し、ガスバリアー性の湿度依存性等の評価を行った。結果を表3に併せて示す。
【0094】
[比較例10〜13]
ブレンドに用いるEVOHの種類及びブレンド比を表3に示すように変更した以外は、実施例11と同様にしてEVOH樹脂組成物を作成し、ガスバリアー性の湿度依存性等の評価を行った。結果を表3に併せて示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
以上の実施例及び比較例から明らかなように、ガスバリアー性の湿度依存性や水蒸気バリアー性に優れた物性を示すのは、本発明の要件を満足するEVOH叉はEVOH樹脂組成物である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上で、末端に含フッ素基を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項2】
前記含フッ素基の主鎖鎖長が3〜30であり、かつ含フッ素基中のフッ素原子の割合が30重量%以上である請求項1に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項3】
極限粘度(η)が0.014〜0.072L/gである請求項1または2に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体。ここでηは、エチレン−ビニルアルコール共重合体をフェノール/水=85/15(重量比)の含水フェノール溶液に溶解した溶液について、オストワルド粘度管により測定温度30℃で測定した落下秒数から以下の式1に従って算出した値である。

η=(2×(ηSP−lnη))0.5/C(L/g) (式1)
{ただし、式1中の記号は以下を表す:
ηSP=(t−t)/t
η=t/t
C:EVOH濃度(g/L)
:ブランク(含水フェノール)の落下秒数(s)
t:EVOH溶液の落下秒数(s) }

【請求項4】
含フッ素基の含有量が、フッ素原子換算で0.1〜40重量%である請求項1〜3に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項5】
けん化度が99mol%以上である請求項1〜4に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項6】
エチレン含量が20〜60mol%、けん化度が90mol%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と請求項1〜5に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなり、(A)/(B)が99/1〜50/50(重量比)であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項7】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の極限粘度が0.059〜0.177L/gである請求項6に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。


【公開番号】特開2006−282835(P2006−282835A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104141(P2005−104141)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】