説明

新規なカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体

新規のポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記発現ベクターでトランスフェクションされた細胞、前記ポリペプチドの製造方法、及び虚血後の再灌流による細胞傷害治療又は炎症性疾患治療に有用な物質を得るための簡便なスクリーニング系を開示する。
前記ポリペプチドは、末梢白血球において発現している、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、虚血後の再灌流による細胞傷害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤のスクリーニングに有用な、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体に関する。
【背景技術】
虚血に陥った臓器は、可逆的傷害期を経て非可逆的傷害期へと進展する。この途中にて再灌流されれば、傷害を阻止することができると考えられるが、再灌流自体が新たな傷害を加えることが実験的及び臨床的検討から指摘されており、再灌流傷害と呼ばれている。再灌流障害の発生機序には、再灌流時に産生されるフリーラジカルと、再灌流がもたらす細胞内カルシウムの過剰状態(カルシウム過負荷)の両者が大きな役割を演じていることが知られている(非特許文献1及び2)。カルシウム過負荷が発生する機序については種々の説があり、(1)エネルギー依存性カルシウム交換機構の破綻でカルシウムが濃度勾配に従って細胞内に流入する、(2)虚血時の細胞内ナトリウムイオン濃度の上昇に伴い、ナトリウム−カルシウム交換系を介してカルシウムが細胞内に流入する、(3)虚血中のα受容体密度の上昇が再灌流後のカルシウム過負荷を促進する、(4)細胞膜の高度な障害に伴い、濃度勾配に従って細胞外からカルシウムが流入するなどの要因が考えられてきた(非特許文献3)。また、脳における虚血再灌流時の遅発性神経細胞壊死では、グルタミン酸受容体の一つであるNMDA(N−methyl−D−aspartate)受容体が賦活化し、NMDA作動性カルシウムチャンネルが開口し、細胞内にカルシウムが流入すると考えられている(非特許文献4)。
実験動物で一過性の虚血後には、血流を再開しても局所的に血流が再開されない領域が生ずるノーリフロー(no reflow)現象が、脳、心臓、及び腎臓で観察されている。ノーリフロー現象発生の主な機序として、微小血管構築の破壊及び出血(例えば、白血球による毛細血管塞栓、あるいは、血管内皮細胞の膨化など)、又は血小板血栓などが挙げられている(非特許文献5)。中大脳動脈閉塞の病巣内の微小血管内につまっている細胞の種類は、赤血球以外に多核白血球、単球、又は血小板が認められ、特に白血球に分類される好中球による毛細血管塞栓がノーリフロー現象の原因として注目されている(非特許文献5)。多核白血球は、微小血管を通過する際、赤血球の流れも遅延させ、脳における虚血時では血管内皮細胞や血小板と関与し、多核白血球の細胞表面には接着因子に対する受容体の発現が上昇する。また、L−セレクチンやCD11、CD18、又はICAM−1などの接着因子に対するモノクローナル抗体は、白血球の集積を抑制し、梗塞範囲を減少させたことから、虚血再灌流における白血球の集積に、接着因子の発現が重要であることが示唆された(非特許文献6及び7)。更に、白血球における接着因子の発現が細胞内カルシウム濃度の上昇によって増加することが報告されている(非特許文献8)。
細胞内のイオン環境を調整するイオンチャンネルは多数知られているが、虚血再灌流障害において特に重要な役割を果たすものには、例えば、ナトリウム−水素交換体又はナトリウム−カルシウム交換体などがある。虚血再灌流障害の過程では、虚血から再灌流という流れの中で2つの局面が存在する。まず1つは虚血であり、この間は血液の供給がなく無酸素状態のため、エネルギーの枯渇、嫌気性代謝の亢進、及び有害な代謝産物の蓄積などが起こり、徐々にアシドーシスが進行する。もう一つは再灌流であり、これにより酸素が供給され、エネルギーの供給、好気性代謝の再開、及び蓄積した代謝産物の除去とともにアシドーシスは是正される。すなわち、生体にとって生理的な状態に戻る。ところが、障害は再灌流時に急激に進行することから、虚血によるアシドーシスの状態よりも、再灌流により中性化する状態の方がかえって悪いように見える。この現象にはナトリウム−水素交換体とナトリウム−カルシウム交換体が関与していることが知られている(非特許文献9)。
ナトリウム−水素交換体は細胞膜上に存在し、細胞内のpHの調整に関与し、アシドーシスの時に濃度勾配に従って細胞外に水素イオンを排出すると同時にナトリウムイオンを細胞内に取り込む働きを持つことが知られている。虚血性前期段階(ischemic preconditioning)の過程でナトリウム−水素交換体の発現と活性を抑制する機序が保護的な作用に関わっているという報告がある(非特許文献10)。またナトリウム−水素交換体の活性化が好中球を活性化したり、CD11、CD18、又はICAM−1などの発現を介して好中球の粘着を促進させたりすると報告されている(非特許文献11)。
ナトリウム−カルシウム交換反応には、古典的なナトリウム−カルシウム交換反応と、カリウム依存的なナトリウム−カルシウム交換反応とがある(非特許文献12及び13)。ナトリウム−カルシウム交換体は全ての組織に存在すると考えられており、その生理的意義は、細胞外ナトリウムの流入を伴う細胞内カルシウムの細胞外への排出である。また、細胞内ナトリウムを排出し、細胞内にカルシウムを流入させる逆反応も、生理的に起こりうることが報告されている。
虚血灌流時におけるイオンの動態についての報告によれば、虚血時には、酸素供給がなくなり嫌気性代謝が亢進することから、エネルギーの基質(ATP)が枯渇に向かうと同時にアシドーシスが進行する。すなわち、ナトリウムポンプが不活性化して細胞外にナトリウムイオンが排出されないほか、アシドーシス補正のためナトリウム−水素交換体により徐々に細胞外に水素イオンが排出され、細胞内にナトリウムイオンが流入する。この細胞内ナトリウムイオンの蓄積は、引き続いてナトリウム−カルシウム交換体を介して細胞内カルシウムイオンの上昇を招く。更に、再灌流時には組織周囲のpHが急激に中性に戻ることから、嫌気性代謝で細胞内に蓄積した水素イオンと、その周囲で低値となった水素イオンとの濃度勾配が大きくなる。それに伴いナトリウム−水素交換体が活性化し、急速に水素イオンが細胞外に、ナトリウムイオンが細胞内に流入する。この急速なナトリウムイオンの流入に引き続いてナトリウム−カルシウム交換体も活性化して、ナトリウムイオンが細胞外へ、そしてカルシウムイオンが細胞内に輸送される。すなわち、細胞内カルシウム濃度が急速に上昇し、カルシウム過負荷状態となる。この急激なpHの上昇とカルシウムの細胞内流入が、虚血再灌流における障害的な反応の引き金のひとつと考えられている(非特許文献9)。このように第一段階としてナトリウム−水素交換体の活性化、第二段階としてナトリウム−カルシウム交換体の活性化が虚血再灌流障害の比較的初期の過程において重要な役割を果たす。
白血球における細胞内カルシウム濃度の上昇は虚血再灌流時だけではなく、ホルミルメチオニルロイシニルフェニルアラニン(fMLP)、アラキドン酸、又はロイコトリエンB4などの白血球遊走因子によって引き起こされる好中球活性化の過程で細胞内にカルシウムが流入することが重要であること、そしてその流入を抑制すると好中球の活性化が抑制されることが知られている(非特許文献14)。また、fMLP処理により細胞内pHの上昇が起こり、ナトリウム−水素交換体阻害剤は細胞内pHの上昇と白血球の遊走を抑制することが報告されている(非特許文献15)。
しかしながら、現在のところ、白血球におけるナトリウム−カルシウム交換体の阻害が白血球の活性化を抑制するかどうかは明らかではなく、虚血再灌流障害及び/又は炎症の原因となる白血球活性化を引き起こすナトリウム−カルシウム交換体は同定されていない。
また、特許文献1には、ヒトナトリウム/カルシウム交換体の配列として、603アミノ酸からなる配列が記載されている。非特許文献16には、脳で最も多く、視床核、海馬CA1神経、及び大脳皮質第IV層で多く発現している、644アミノ酸をコードするカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体遺伝子NCKX3の配列が記載されている。特許文献2には、480アミノ酸からなるヒト診断タンパク質の配列が、特許文献3には、235アミノ酸又は169アミノ酸からなるヒト分泌タンパク質の配列が記載されている。
【非特許文献1】「サーキュレーション(Circulation)」,(米国),1990年,第82巻,p.723−738
【非特許文献2】「アニュアル・レビュー・オブ・フィジオロジー(Annual Review of Physiology)」,(米国),1992年,第54巻,p.243−256
【非特許文献3】「呼吸と循環」,2001年,第49巻,第1号,p.5−11
【非特許文献4】「クリニカル・ニューロサイエンス(CLINICAL NEUROSCIENCE)」,(米国),1999年,第17巻,第5号,p.567−569
【非特許文献5】「呼吸と循環」,2001年,第49巻,第1号,p.13−20
【非特許文献6】「サーキュレーション(Circulation)」,(米国),1993年,第88巻,p.649−658
【非特許文献7】「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)」,(米国),1993年,第143巻,p.410−418
【非特許文献8】「セル・アドヒージョン・アンド・コミュニケーション(Cell Adhesion & Communication)」,(スイス),1993年,第1巻,p.21−32
【非特許文献9】森下靖雄ら著,「臓器の虚血再灌流障害−基礎と臨床」,診断と治療社,2002年,p.1−225
【非特許文献10】「サーキュレーション・リサーチ(Circulation Research)」,(米国),1999年,第85巻,p.723−730
【非特許文献11】「ジャーナル・オブ・カルディオバスキュラー・ファーマコロジー(Journal of Cardiovascular Pharmacology)」,(米国),2001年,第37巻,p.668−677
【非特許文献12】「蛋白質核酸酵素」,1998年,第43巻,第12号,p.1555−1560
【非特許文献13】「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」,(米国),1993年,第268巻,p.6874−6877
【非特許文献14】「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical & Biophysical Research Communications)」,(米国),1981年,第103巻,p.227−232
【非特許文献15】「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)」,(英国),1998年,第124巻,p.627−638
【非特許文献16】「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」,(米国),2001年,第276巻,p.23161
【特許文献1】国際公開第WO02/26980号公報
【特許文献2】国際公開第WO01/75067号公報
【特許文献3】国際公開第WO00/43495号公報
【発明の開示】
従来技術に記載したように、白血球の活性化において虚血再灌流時と炎症時との間には、白血球細胞内のpHの上昇とそれに伴うナトリウム−水素交換体の活性化、そしてそれによって引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇など、非常に共通した局面を持つ。白血球のナトリウム−カルシウム交換体は、虚血再灌流障害及び炎症時の白血球の活性化に関与していると考えられる。すなわち、虚血再灌流時や炎症時において、白血球のナトリウム−カルシウム交換体活性化を阻害することは、白血球の細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制し、その活性化を抑えると考えられる。
本発明の課題は、新規の白血球のカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体、及びそれをコードする新規のポリヌクレオチドを提供し、白血球細胞の活性化を抑制させることを作用機序とする虚血再灌流による細胞傷害治療剤又は炎症性疾患治療剤として有用な物質を得るための簡便なスクリーニング系を提供することにある。
本発明者は、鋭意研究を行なった結果、白血球に豊富に発現し、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体をコードするポリヌクレオチドを取得し、それを発現する細胞を製造し、前記ナトリウム−カルシウム交換体の抑制化(阻害)剤、すなわち、虚血再灌流障害治療剤又は炎症性疾患治療剤として有用な物質のスクリーニングツールを提供した。また、前記ナトリウム−カルシウム交換体を発現する細胞を用いた活性の検出系を構築し、それの抑制化(阻害)を指標とした虚血再灌流障害治療剤及び炎症性疾患治療剤として有用な物質のスクリーニング法を提供した。次いで、前記スクリーニング法を用い、前記ナトリウム−カルシウム交換体の阻害剤を得、前記阻害剤がヒト末梢多形核白血球の遊走を抑制すること、すなわち、白血球の活性化が抑制されることを確認し、白血球活性化抑制剤からなる新規な虚血再灌流障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤を提供し、本発明を完成した。
本発明は、
[1](1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体で1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すポリペプチド;
[2](1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体で1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すポリペプチドである、[1]のポリペプチド;
[3]ナトリウム−カルシウム交換活性が逆向きナトリウム−カルシウム交換活性である、[1]又は[2]のポリペプチド;
[4][1]〜[3]のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[5][4]のポリヌクレオチドを含む発現ベクター;
[6][5]の発現ベクターでトランスフェクションされた細胞;
[7][6]の細胞を用いることを特徴とする、[1]〜[3]のポリペプチドを製造する方法;
[8](1)[1]〜[3]のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、前記ポリペプチドの抑制化剤をスクリーニングする方法;
[9](1)[1]〜[3]のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、白血球活性化抑制剤をスクリーニングする方法;
[10](1)[1]〜[3]のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、虚血再灌流障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤をスクリーニングする方法;
[11](1)[1]〜[3]のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)製剤化する工程
を含む、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物の製造方法;
[12][8]の方法で得ることができる物質を有効成分とする、白血球活性化抑制用医薬組成物;
[13][8]の方法で得ることができる物質を有効成分とする、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物;
[14][8]の方法で得ることができる物質を投与する、白血球活性化抑制方法;
[15][8]の方法で得ることができる物質を投与する、虚血再灌流障害及び/又は炎症性疾患治療方法;
[16][8]の方法で得ることができる物質の、白血球活性化抑制用医薬組成物製造のための使用;並びに
[17][8]の方法で得ることができる物質の、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物製造のための使用
に関する。
[1]〜[3]のポリペプチドを発現している細胞の、白血球活性化抑制剤、あるいは、虚血再灌流障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤スクリーニングのための使用も、本発明に含まれる。
本明細書における「虚血再灌流障害治療剤」又は「虚血再灌流障害治療用医薬組成物」には、虚血再灌流障害である患者の治療のために使用する薬剤又は医薬組成物と、虚血再灌流障害の恐れのある対象に予防的に使用する薬剤又は医薬組成物との両方が含まれる。また、「炎症性疾患治療剤」又は「炎症性疾患治療用医薬組成物」には、炎症性疾患である患者の治療のために使用する薬剤又は医薬組成物と、炎症性疾患傾向にある対象に予防的に使用する薬剤又は医薬組成物との両方が含まれる。
なお、国際公開第WO02/26980号公報には、本願の配列番号4で表される603アミノ酸からなるアミノ酸配列と同一配列が記載されている。しかし、国際公開第WO02/26980号公報には、前記配列からなるポリペプチドやそれをコードするポリヌクレオチドを実際に取得したとの記載や、具体的な取得方法の記載はなく、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドやこれをコードするポリヌクレオチドは、本発明者らが始めて提供した。また、国際公開第WO01/75067号公報には、35番目〜480番目のアミノ酸配列が、本願の配列番号2で表されるアミノ酸配列における257番目〜622番目のアミノ酸配列と82%、配列番号4で表されるアミノ酸配列における257番目〜603番目のアミノ酸配列と77%一致する、ヒト診断タンパク質(480アミノ酸)が記載されている。国際公開第WO00/43495号公報には、33番目〜235番目のアミノ酸配列及び1番目〜169番目のアミノ酸配列が、それぞれ、本願の配列番号4で表されるアミノ酸配列における400番目〜603番目のアミノ酸配列と86%、435番目〜603番目のアミノ酸配列と97%一致するヒト分泌タンパク質(235アミノ酸)及びヒト分泌タンパク質(169アミノ酸)が記載されている。J.Biol.Chem.,276,23161,2001には、17番目〜641番目のアミノ酸配列が、本願の配列番号2で表されるアミノ酸配列における13番目〜618番目のアミノ酸配列と58%、配列番号4で表されるアミノ酸配列における13番目〜599番目のアミノ酸配列と58%一致するNCKX3(644アミノ酸)が記載されている。しかし、いずれも、虚血後の再灌流による細胞傷害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤のスクリーニングに有用なポリペプチドを取得するために、本発明のポリペプチドの取得を示唆するものではなく、本発明のポリペプチドは、前記公知のポリペプチドから予想することができない白血球活性化抑制剤(特に、虚血後の再灌流による細胞傷害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤)のスクリーニングツールになるという有利な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、及び細胞
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;並びに(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体で1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性(好ましくは、逆向きナトリウム−カルシウム交換活性)を示すポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する)
が含まれ、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
本明細書において、「ナトリウム−カルシウム交換活性を示す」とは、細胞内のナトリウムを細胞外に排出し、代わりに細胞外のカルシウムを細胞内に流入させる交換反応(逆向き)を示すか、あるいは、細胞内のカルシウムを細胞外に排出し、代わりに細胞外のナトリウムを細胞内に流入させる交換反応(順向き)を示すことを意味する。また、「逆向きナトリウム−カルシウム交換活性を示す」とは、細胞内ナトリウムを細胞外に排出し、代わりに細胞外のカルシウムを細胞内に流入させる交換反応(Na−Ca2+交換;逆向き)を示すことを意味する。「順向きナトリウム−カルシウム交換活性を示す」とは、細胞内のカルシウムを細胞外に排出し、代わりに細胞外のナトリウムを細胞内に流入させる交換反応(Na−Ca2+交換;順向き)を示すことを意味する。
或るポリペプチド(以下、試験ポリペプチドと称する)が「ナトリウム−カルシウム交換活性を示す」か否かは、当業者に公知の方法(Iwamoto T.ら,J.Biol.Chem.,271,22391−22397,1996)で確認することができ、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
まず、前記試験ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで細胞をトランスフェクションする。次に、逆向きナトリウム−カルシウム交換活性を確認する場合は、好ましくは、後述の実施例4に記載の方法を用いることができ、得られた細胞を1価陽イオンに対するイオノフォア(例えば、モネンシン)で処理して細胞内にナトリウムを取り込ませた後、細胞外液を45Caを含む溶液に交換し、細胞内ナトリウムと細胞外カルシウムとの交換反応を行なう。細胞内の45Caの放射活性を検出する。一方、順向きナトリウム−カルシウム交換活性を確認する場合は、得られた細胞を塩化カルシウム(45Ca chloride)を含む培養液にて培養し、カルシウムイオンを細胞に取り込ませる。前記細胞を洗浄用溶液にて洗浄し、取り込まれなかったカルシウムイオンを取り除く。続いて、ナトリウムイオンを含む測定用細胞外液に置換した後、この溶液に含まれる45Caの放射活性を測定する。放射活性が検出された場合、試験ポリペプチドが「ナトリウム−カルシウム交換活性を示す」と判定することができる。
本発明のポリペプチドとしては、実施例4に記載の方法で行った場合、150mmol/L−NaClの細胞外液の場合に比べて、2倍以上の放射活性が検出されるものが好ましい。
更に、試験ポリペプチドのナトリウム−カルシウム交換活性が「カリウム依存的」であるか否かは、当業者に公知の方法(Kimura,M.,J.Biol.Chem.,268,p.6874−6877,1993;Kraev A.ら,J.Biol.Chem.,276,23161−23172,2001)で確認することができ、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法(好ましくは、後述の実施例4に記載の方法)により確認することができる。すなわち、前記試験ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで細胞をトランスフェクションし、得られた細胞のナトリウム−カルシウム交換活性測定時に細胞外液のK濃度を変え、各K濃度における細胞内45Caの放射活性を測定する。Kの存在下において、より高いナトリウム−カルシウム交換活性が検出されれば、前記試験ポリペプチドのナトリウム−カルシウム交換活性が「カリウム依存的」であると判定することができる。
本発明のポリペプチドとしては、実施例4に記載の細胞外液C又は細胞外液Dを用いた場合、細胞外液Aの5倍以上の放射活性が検出されるものがより好ましい。
本発明のポリペプチドに含まれる、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる各ポリペプチドは、それぞれ、622個又は603個のアミノ酸残基からなるヒト由来の新規のカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体である。配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、後述の実施例2に示すように、末梢白血球に発現している。
本発明の機能的等価改変体は、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列の1又は複数箇所(例えば、1〜3箇所)において、全体で1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もヒトに限定されない。
例えば、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのヒトにおける変異体が含まれるだけでなく、ヒト以外の生物(例えば、マウス、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト由来の変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを元にして、遺伝子工学的に、コードするアミノ酸配列を人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチド(天然ポリペプチドとアミノ酸配列が異なるものを含む)などが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
前記ヒト又はヒト以外の生物由来の機能的等価改変体は、当業者であれば、配列番号1又は3で表されるポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における第14番〜第1882番の塩基からなる配列、あるいは、配列番号3で表される塩基配列における第14番〜第1825番の塩基からなる配列)の情報を基にして、適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki,R.K.ら,Science,239,487−491,1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例4に記載の方法により、ナトリウム−カルシウム交換活性を示すことを確認し、更に、実施例4に記載の方法により、カリウムイオン依存的であることを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Maniatis,T.ら,″Molecular Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1982)に従って実施することが可能である。
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis;Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662−5666,1984)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例4に記載の方法により、ナトリウム−カルシウム交換活性を示すことを確認し、更に、実施例4に記載の方法により、カリウムイオン依存的であることを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列における第14番〜第1882番の塩基からなる配列、あるいは、配列番号3で表される塩基配列における第14番〜第1825番の塩基からなる配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
本発明のポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開第WO02/052000号公報等に記載されている(1)PCRを用いる方法、(2)常法の遣伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。以下、各製造方法について、順次、説明する。
PCRを用いる方法では、例えば、以下の手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。
すなわち、本発明のポリペプチドを産生する能力を有するヒト細胞又は組織からmRNAを抽出する。次いで、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて、本発明のポリペプチドに相当するmRNAの全長を挟むことのできる2個1組のプライマーセット、あるいは、その一部のmRNA領域を挟むことのできる2個1組のプライマーセットを作成する。抽出した前記mRNAを鋳型とする逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行なうことにより、本発明のポリペプチドの全長cDNA又はその一部を得ることができ、所望により、前記DNAを制限酵素等で切断し、接続することによって目的とするDNA断片を得ることができる。
常法の遺伝子工学的手法を用いる方法では、例えば、以下の手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。
まず、前記のPCRを用いた方法で調製したmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて1本鎖cDNAを合成した後、この1本鎖cDNAから2本鎖cDNAを合成する。
次に、前記2本鎖cDNAを含む組換えプラスミドを作製した後、大腸菌(例えば、DH5α株)に導入して形質転換させ、例えば、テトラサイクリン又はアンピシリンに対する薬剤耐性を指標として、組換体を選択する。このようにして得られる形質転換株から、目的のcDNAを有する形質転換株を選択する方法としては、公知の形質転換株スクリーニング方法、例えば、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いる形質転換株スクリーニング法、あるいは、PCRにより作製したプローブを用いる形質転換株スクリーニング法を採用することができる。
得られた目的の形質転換株より本発明のポリヌクレオチドを採取する方法は、公知の方法(例えば、Maniatis,T.ら,″Molecuiar Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1982)に従って実施することができる。例えば、細胞よりプラスミドDNAに相当する画分を分離し、得られたプラスミドDNAからcDNA領域を切り出すことにより行なうことができる。
化学合成法では、例えば、化学合成法によって製造したDNA断片を結合することによって、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。各DNA断片は、DNA合成機[例えば、Oligo 1000M DNA Synthesizer(Beckman社製)又は394 DNA/RNA Synthesizer(Applied Biosystems社製)等]を用いて合成することができる。
なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体公知であり、その選択も任意でよく、例えば、利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、常法に従って決定することができる(Crantham,R.ら,Nucleic Acids Res.,9,r43−r74,1981)。更に、これら塩基配列のコドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的突然変異誘発法(site specific mutagenesis;Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662−5666,1984)等により実施することができる。
これまで述べた種々の方法により得られるDNAの配列決定は、例えば、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing,J.及びVieira,J.,Gene,19,269−276,1982)等により行なうことができる。例えば、反応液に蛍光でラベルしたジデオキシヌクレオチドを含むPCR法を用いて、DNA断片に蛍光ジデオキシヌクレオチドを取り込ませる。増幅させたDNA断片をシークエンサー[例えば、3700DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)など]で泳動し、蛍光を読みとることで塩基配列を決定することができる。
単離された本発明のポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、真核生物又は原核生物の宿主細胞をトランスフェクションすることができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。
また、本発明の細胞も、本発明の前記発現ベクターでトランスフェクションされ、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明のポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、本発明によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。また、本発明のポリペプチドを発現している細胞であることもできるし、あるいは、本発明のポリペプチドを発現していない細胞であることもできる。本発明の細胞は、例えば、本発明の発現ベクターにより、所望の宿主細胞をトランスフェクションすることにより得ることができる。
例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、及び酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.,Cell,23,175−182,1981)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(CHO−dhfr細胞)(Urlaub,G.及びChasin,L.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216−4220,1980)、後述の実施例4で使用したチャイニーズ・ハムスター肺線維芽細胞(Dede細胞、ATCC:CCL−39)若しくはヒト胎児腎臓由来HEK293細胞(ATCC:CRL−1573)、前記HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(Invitrogen社)、又はL929細胞(ATCC:CRL−2148)等を挙げることができる。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常、発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用することができ、更に必要により、複製起点を有していることができる。前記発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S.ら,Mol.Cell.Biol.,1,854−864,1981)、ヒトの延長因子プロモーターを有するpEF−BOS(Mizushima,S.及びNagata,S.,Nucleic Acids Res.,18,5322,1990)、サイトメガロウイルスプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社)、又はpIRESneo2(CLONTECH社)、pcDNA3.1(Invitrogen社)等を挙げることができる。
宿主細胞としてCOS細胞を用いる場合には、発現ベクターとして、SV40複製起点を有し、COS細胞において自律増殖が可能であり、更に、転写プロモーター、転写終結シグナル、及びRNAスプライス部位を備えたものを用いることができ、例えば、pME18S(Maruyama,K.及びTakebe,Y.,Med.Immunol.,20,27−32,1990)、pEF−BOS(Mizushima,S.及びNagata,S.,Nucleic Acids Res.,18,5322,1990)、又はpCDM8(Seed,B.,Nature,329,840−842,1987)等を挙げることができる。
前記発現ベクターは、例えば、DEAE−デキストラン法(Luthman,H.及びMagnusson,G.,Nucleic Acids Res.,11,1295−1308,1983)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.及びvan der Ed,A.J.,Virology,52,456−457,1973)、市販のトランスフェクション試薬(例えば、FuGENETM 6 Transfection Reagent;Roche Diagnostics社製)を用いた方法、あるいは、電気パスル穿孔法(Neumann,E.ら,EMBO J.,1,841−845,1982)等により、COS細胞に取り込ませることができる。
また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に、G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現することのできるベクター、例えば、pRSVneo(Sambrook,J.ら,″Molecular Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989)又はpSV2−neo(Southern,P.J.及びBerg,P.,J.Mol.Appl.Genet.,1,327−341,1982)等をコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、本発明のポリペプチドを安定に産生するトランスフェクションされた細胞を得ることができる。
更に、宿主細胞として293−EBNA細胞を用いる場合には、発現ベクターとして、エプスタイン・バーウイルスの複製起点を有し、293−EBNA細胞で自己増殖が可能なpCEP4(Invitrogen社)などを用いることができる。
本発明の細胞は、常法に従って培養することができ、前記培養により細胞表面に本発明のポリペプチドが生産される。前記培養に用いることのできる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択することができる。例えば、COS細胞、Dede細胞の場合には、例えば、RPMI−1640培地又はダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地に、必要に応じて牛胎仔血清(FBS)等の血清成分を添加した培地を使用することができる。また、293−EBNA細胞の場合には、牛胎仔血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えた培地を使用することができる。
本発明の細胞を培養することにより、前記細胞の細胞表面に生産される本発明のポリペプチドは、前記ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離精製することができる。具体的には、例えば、本発明のポリペプチドを表面に発現した細胞を培養し、これらをバッファーに懸濁した後、ホモジナイズし、遠心分離することにより、本発明のポリペプチドを含む細胞膜画分を得ることができる。得られた細胞膜画分を可溶化した後、通常のタンパク質沈殿剤による処理、限外濾過、各種液体クロマトグラフィー[例えば、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等]、若しくは透析法、又はこれらの組合せ等により、本発明のポリペプチドを精製することができる。
2.虚血再灌流による細胞障害治療剤及び炎症性疾患治療剤スクリーニング
本発明のポリペプチドをカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すように発現している細胞を用いると、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングすることができる。
従来技術欄に記載したとおり、再灌流障害の発生機序において、再灌流がもたらす細胞内カルシウムの過剰状態が大きな役割を演じていること、そして、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体は、細胞内ナトリウムの排出に伴う細胞内へのカルシウム流入(逆向き)に関与していることが知られている。また、虚血後の再灌流では、再灌流により引き起こされた細胞内ナトリウム過剰を元の状態に戻すため、ナトリウム−カルシウム交換体が細胞内のナトリウムを細胞外にくみ出し、細胞内にカルシウムを流入させることが知られている。更に、白血球における接着因子の発現が細胞内カルシウム濃度の上昇によって増加したこと、そして、接着因子に対するモノクローナル抗体が白血球の集積を抑制し、梗塞範囲を減少したことが知られている。従って、白血球細胞の細胞内カルシウムの過負荷を抑制することが、それによって引き起こされるであろう接着因子による白血球の集積及び白血球の活性化を抑制し、ノーリフロー現象に伴う細胞障害からの回避作用を有すると考えられる。
本発明のポリペプチドである配列番号2又は4記載の配列からなるポリペプチドは、末梢白血球に豊富に発現しているカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体である。従って、本発明のポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換(逆向き)に対する抑制化剤が、細胞内へのカルシウムの流入を抑え、白血球の活性化や接着を抑制することを作用機序とし、虚血再灌流による細胞障害治療に有用であると考えられる。
また、白血球の活性化において虚血再灌流時と炎症時との間には、白血球細胞内のpHの上昇とそれに伴うナトリウム−水素交換体の活性化、そしてそれによって引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇など、非常に共通した局面が存在し、白血球のナトリウム−カルシウム交換体は、虚血再灌流障害及び炎症時の白血球の活性化に関与していると考えられる。すなわち、虚血再灌流時や炎症時において、白血球のナトリウム−カルシウム交換体活性化を阻害することは、白血球の細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制し、その活性化を抑えると考えられる。
従って、本発明の細胞それ自体を、本発明のポリペプチドの抑制化剤及び白血球活性化抑制剤(特には、虚血再灌流による細胞障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤)のスクリーニングツールとして使用することができる。
なお、本明細書において、本発明のポリペプチドを「抑制化」するとは、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制することを意味し、ポリペプチドの発現を抑制することにより、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性機能を抑制化することも含む。
本発明のポリペプチドの抑制化剤及び白血球活性化抑制剤(特には、虚血再灌流による細胞障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤)スクリーニング方法は、本発明の細胞と試験物質とを接触させる工程、前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程を含む。
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K.ら,Tetrahedron,51,8135−8137,1995)によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici,F.ら,J.Mol.Biol.,222,301−310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
本発明のスクリーニング方法は、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体として機能するように本発明のポリペプチドを発現している細胞(すなわち、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターでトランスフェクションされ、前記ポリペプチドがカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体として機能するように発現された細胞、及び、本発明のポリペプチドをカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体として機能するように発現している天然に存在する細胞を含む)と試験物質とを接触させる工程、前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程を含む限り、特に限定されるものではないが、本発明のポリペプチドの抑制化を分析するのに用いる方法の違いに基づいて、例えば、
[1]放射性同位元素45Ca2+イオンの取り込みを利用するスクリーニング方法、あるいは、
[2]カルシウム感受性色素を利用するスクリーニング方法
を挙げることができ、これらの方法の中でも、放射性同位元素45Ca2+イオンの取り込みを利用するスクリーニング方法が好ましく、そして、用いる細胞は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターでトランスフェクションして製造した本発明の細胞が好ましい。
[1]に記載の方法で、虚血再灌流による細胞障害治療及び/又は炎症性疾患治療に有用な、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングする場合には、例えば、以下の方法で行うことができる。まず、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現している細胞に、1価陽イオンに対するイオノフォア(例えば、モネンシン)を用いてナトリウムを取り込ませた後、試験物質を添加又は非添加の放射性同位元素45Ca2+イオンを含む細胞外液に交換し、細胞内の45Ca2+放射活性を検出する。次に、試験物質添加又は非添加時の細胞内へ取り込まれた放射活性の量の差に基づき、本発明のポリペプチドが抑制化されるか否かを分析する。すなわち、[1]に記載の本発明のスクリーニング方法では、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現している細胞に、放射性同位元素45Ca2+イオンを取り込ませると同時に前記細胞と試験物質とを接触させる工程、及び前記細胞の細胞内へ流入する放射活性の量を検出する工程を含む。
例えば、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現させた本発明の細胞を、試験物質とモネンシンとを含んだ細胞外液で処理し、細胞内にナトリウムを取り込ませた後、前記細胞外液を、試験物質と45Ca2+とを含む細胞外液に交換する。ナトリウム−カルシウム交換活性により細胞内に45Ca2+を取り込ませた後、ナトリウム−カルシウム交換活性の阻害剤であるランタンを含む溶液で洗浄し、取り込まれなかった45Ca2+を取り除く。逆向きナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化すると、前記細胞への45Ca2+流入量が減少するので、細胞の放射活性を逆向きナトリウム−カルシウム交換活性の指標とし、本発明のポリペプチドが抑制化されるか否かを分析することができる。より具体的には、後述の実施例4に記載の方法により逆向きナトリウム−カルシウム交換活性を検出することが好ましい。試験物質添加による細胞内へ流入した放射活性量の変化を分析することにより、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングすることができる。
[2]に記載の方法で、虚血再灌流による細胞障害治療及び/又は炎症性疾患治療に有用な、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングする場合には、例えば、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現している細胞にカルシウム感受性色素を取り込ませることで、試験物質を添加又は非添加の細胞内の前記色素の蛍光強度変化に基づき、本発明のポリペプチドが抑制化されるか否かを分析する。すなわち、[2]に記載の本発明のスクリーニング方法では、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現している細胞に、1価陽イオンに対するイオノフォア(例えば、モネンシン)とを含んだ細胞外液で処理し、細胞内にナトリウムを取り込ませた後、前記細胞外液を、試験物質とカルシウム感受性色素とを含む細胞外液に交換する。ナトリウム−カルシウム交換活性により細胞内にカルシウム感受性色素を取り込ませた後、ナトリウム−カルシウム交換活性の阻害剤、例えばランタンを含む溶液で洗浄し、取り込まれなかったカルシウム感受性色素を取り除く。逆向きナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化すると、前記細胞のカルシウム感受性色素の蛍光強度が減少するので、蛍光強度を逆向きナトリウム−カルシウム交換活性の指標とし、本発明のポリペプチドが抑制化されるか否かを分析することができる。試験物質を添加した際のカルシウム感受性色素の蛍光強度を検出することにより、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングすることができる。本スクリーニング法は、カルシウム感受性色素を取り込ませた後、前記細胞と試験物質とを接触させる工程、及び前記細胞内の前記色素の蛍光強度を検出する工程を含む。このスクリーニングは、カルシウム感受性色素が、逆向きナトリウム−カルシウム交換体の活性化に伴うカルシウムの流入を光学的に検出することができるという性質を利用するものである。
より具体的には、前記カルシウム感受性色素として、Fura−2又はその誘導体などを用い、本発明のポリペプチドの活性を検出することができ、試験物質存在下と非存在下とで前記色素の蛍光強度変化を比較することにより、本発明のポリペプチドを抑制化する物質をスクリーニングすることができる。具体的には、逆向きナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化すると、蛍光強度が低下する。
これまで説明したように、本発明のスクリーニング方法によれば、本発明のポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質(特には化合物)、すなわち、阻害活性を有する物質(特には化合物)をスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニング方法において選択すべき阻害活性を有する化合物とは、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を抑制する化合物と定義することができ、IC50が100μmol/L以下の化合物が望ましい。例えば、実施例6記載の条件で、試験化合物を一定時間作用させ、そのIC50が100μmol/L以下の物質を、阻害活性を有する物質として選択することができる。これらのスクリーニングにより単離される阻害化合物を主成分として、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体を標的とする医薬を得ることができる。例えば、実施例6において選択された2−[2−[4−(4−ニトロベンジロキシ)フェニル]エチル]イソチオウレア メタンスルホネート(2−[2−[4−(4−nitrobenzyloxy)phenyl]ethyl]isothiourea methanesulfonate;以下、化合物Aと称する)は、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体に対し、それぞれIC50が15.8μmol/L及び35.0μmol/Lであった。また、3’,4’−ジクロロベンザミル(3’,4’−dichlorobenzamil;以下、化合物Bと称する)は、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体に対し、それぞれIC50が20.2μmol/L及び58.9μmol/Lであった。これらの事実から、本発明のスクリーニング方法によって、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の阻害剤を選択することができることは明らかである。
3.本発明の医薬
本発明の配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を修飾する化合物(好ましくは、化合物A又は化合物B)を有効成分とする医薬製剤は、有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる担体、賦形剤、又はその他の添加剤を用いて調製することができる。投与は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注若しくは筋注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与が挙げられる。特に胃で消化されるペプチドにあっては静注等の非経口投与が望ましい。
本発明による経口投与のための固体組成物は、一つ又はそれ以上の活性物質が少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合される。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有していてもよい。錠剤や丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆していてもよい。
経口のための液体組成物は、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含む。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有していてもよい。
非経口のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含む。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などが含まれる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、アルコール類(例えば、エタノール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール)、又はポリソルベート80(商品名)等を含む。前記組成物は、更に、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含んでいてもよい。組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化される。また、無菌の固体組成物を製造し、使用に際し無菌水その他の無菌用注射用媒体に溶解し使用することもできる。
本発明による医薬の投与量は、前記スクリーニング法により選択された有効成分の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して適宜決定される。例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。また、非経口投与の場合、注射剤の形では1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に断らない限り、公知の方法(例えば、Maniatis,T.ら,″Molecular Cloning−A Laboratory Manual″,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1982;及びHille,B.,Ionic Channels of Excitable Membranes,2nd Ed,,Sinauer Associates Inc.,MA,1992)に従って実施した。
実施例1:新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体をコードする遺伝子の単離及び発現ベクターの構築
配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を有する本発明の新規ナトリウム−カルシウム交換体をコードする全長cDNAは、ヒト脳由来のcDNA(Marathon−Ready cDNA;Clontech社)を鋳型とし、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法により、以下の手順で取得した。
まず、ヒト脳由来のcDNA(Marathon−Ready cDNA;Clontech社)を鋳型として、配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端にEcoRI認識配列が付加してある)をフォワードプライマーとして、配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端にKpnI認識配列が付加してある)をリバースプライマーとして、DNAポリメラーゼ(PLATINUM Taq DNA Polymerase High−Fidelity;GiBCO−BRL社)を用いて、PCRを行なった。前記PCRは、最初に95℃(1分間)で熱変性を行なった後、98℃(10秒間)と60℃(20秒間)と68℃(3分間)とからなるサイクルを40回繰り返した。その結果、約1.9kbpのDNA断片が2本増幅された。長いDNA断片を「622」と命名し、短いDNA断片を「603」と命名した。
得られた各DNA断片を制限酵素EcoRI及びKpnIで消化した後、プラスミドpcDNA3.1(Invitrogen社)を用いてクローニングした。得られたクローンを、それぞれ、pcDNA−622及びpcDNA−603と命名した。なお、前記プラスミドpcDNA3.1は、サイトメガロウイルス由来のプロモーター配列を持っており、動物細胞に新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体を発現させるために使用することができる。
得られたクローンpcDNA−622及びpcDNA−603の塩基配列を、ジデオキシターミネーター法によりDNAシークエンサー(ABI377 DNA Sequencer;Applied Biosystems社)を用いて解析し、それぞれ、配列番号1又は3で表される塩基配列が得られた。
配列番号1で表される塩基配列(総塩基対数=1902塩基対)は、第14番〜第1882番の塩基からなる配列で表されるオープンリーディングフレームを有する。前記オープンリーディングフレームから予測される622アミノ酸残基からなるアミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列であった。
配列番号3で表される塩基配列(総塩基対数=1845塩基対)は、第14番〜第1825番の塩基からなる配列で表されるオープンリーディングフレームを有する。前記オープンリーディングフレームから予測される603アミノ酸残基からなるアミノ酸配列は、配列番号4で表されるアミノ酸配列であった。
実施例2:カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体のヒト組織における発現分布の解析
ヒト組織における、配列番号1で表される、新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体をコードする遺伝子の発現分布を、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法により以下の手順で解析した。
ヒトの各組織由来のポリARNA(各5ng;Clontech社)をDNアーゼ処理した後、RT−PCRキット(SUPERSCRIPT First−Strand Synthesis System for RT−PCR;GIBCO−BRL社)を用いて逆転写させ、第1鎖cDNAを合成した。
得られた第1鎖cDNAを鋳型として、配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとして、DNAポリメラーゼ(PLATINUM Taq DNA Polymerase;GIBCO−BRL社)を用いて、PCRを行なった。前記PCRは、最初に94℃(1分間)で熱変性を行なった後、98℃(10秒間)と64℃(20秒間)と68℃(1分30秒間)とからなるサイクルを35回繰り返した。なお、前記各プライマーの塩基配列は、本発明の配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする両遺伝子に共通に存在する特異的な配列である。
ヒトの末梢白血球についてRT−PCR解析を行なったところ、約750bp及び約700bpのDNA断片が、増幅された。約750bp及び約700bpのDNA断片は、それぞれ「配列番号1で表される塩基配列における第348番〜第1101番の塩基からなる配列」及び「配列番号3で表される塩基配列における第348番〜第1044番の塩基からなる配列」を有していた。この結果から、本発明のカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体のmRNAが、ヒトの末梢白血球において発現していることが明らかになった。
実施例3:カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の動物細胞HEK293細胞、Dede細胞、及びCHO細胞における発現
配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を検出するために、動物細胞に前記ポリペプチドを発現させた。前記動物細胞としては、HEK293細胞(ATCC:CRL−1573)、Dede細胞(ATCC:CCL−39)若しくはCHO−dhfr細胞(ATCC:CRL−9096)を用いた。実施例1で得られた発現ベクターpcDNA−622又はpcDNA−603と、市販のトランスフェクション試薬(LipofectAMINE2000;GIBCO−BRL社)とを用いて、HEK293細胞、Dede細胞、又はCHO−dhfr細胞のトランスフェクションを行ない、各細胞にてカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体を発現させた。なお、具体的な手順は、前記トランスフェクション試薬に添付のマニュアルに従って実施した。また、コントロール細胞として、プラスミドpcDNA3.1でトランスフェクションした細胞も同様にして作成した。得られたこれらのトランスフェクションされた細胞を、以下の実施例4及び実施例5で使用した。
実施例4:カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性の検出
実施例3で得られた各細胞を用いてナトリウム−カルシウム交換活性を測定した。
培地を、モネンシンを含む細胞外液[0.01mmol/Lモネンシン、1mmol/Lウアバイン、146mmol/L−NaCl、4mmol/L−KCl、0.1mmol/L−CaCl、2mmol/L−MgCl、10mmol/Lグルコース、0.1%牛血清アルブミン、及び10mmol/L−HEPES−Tris(pH=7.4)を含む溶液]に交換し、37℃で30分間放置することで細胞内にナトリウムを流入させた。その後、塩化カルシウム(45CaCl;55.5kBq/mL)を含む細胞外液(細胞外液A)[0.01mmol/Lベラパミル、1mmol/Lウアバイン、150mmol/L−NaCl、0.1mmol/L−CaCl、2mmol/L−MgCl、10mmol/Lグルコース、0.1%牛血清アルブミン、及び10mmol/L−HEPES−Tris(pH=7.4)を含む溶液]に置換し、室温で15分間放置し、カルシウムイオンを細胞内のナトリウムイオンと交換反応させた。
また、細胞外液のNaClを塩化コリン(Choline Chloride)に置換した細胞外液(細胞外液B)も使用した。また、カリウムイオンに対する依存性を検討するために、塩化カルシウム(45CaCl;55.5kBq/mL)及び塩化カリウムを含む細胞外液(細胞外液C)[0.01mmol/Lベラパミル、1mmol/Lウアバイン、4mmol/L−KCl、146mmol/L塩化コリン、0.1mmol/L−CaCl、2mmol/L−MgCl、10mmol/Lグルコース、0.1%牛血清アルブミン、及び10mmol/L−HEPES−Tris(pH=7.4)を含む溶液]と、細胞外液D(KClが150mmol/Lであり、塩化コリンが含まれない点のみ、細胞外液Cと異なる)も使用した。
前記細胞を、120mmol/L塩化コリン、10mmol/L−LaCl、及び10mmol/L−HEPES−Tris(pH=7.4)を含む洗浄用溶液にて洗浄し、取り込まれなかったカルシウムイオンを取り除いた。続いて、細胞内に含まれるカルシウムイオンの放射活性を液体シンチレーションカウンターにて測定することで分析したところ、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現させたHEK293細胞、Dede細胞、又はCHO−dhfr細胞では、細胞外液B(細胞外液のナトリウムをコリンに置換した細胞外液)を用いた場合、細胞外液Aの約2倍と、より高い放射活性が測定された。更に、細胞外液C又は細胞外液D(つまり、カリウムを含む細胞外液)を用いたときの方が、それぞれ、細胞外液Aの約5倍又は約10倍と、より高い放射活性が測定された。
この結果、本発明の配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現している細胞は、カリウムイオンの存在下で、より効率的に細胞内ナトリウムイオンと細胞外カルシウムイオンとを交換させることを確認することができ、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドがカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すことを確認することができた。
実施例5:新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の安定発現細胞株の構築
安定発現細胞株を構築するため、実施例3で製造したDede細胞を最終濃度400mg/LのG−418(GIBCO−BRL社)を含むDMEM培養液で培養し、継代を繰り返した後、細胞を5000個/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、実施例4で行った方法に基づきカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を測定し、細胞外液C又は細胞外液Dを用いたときの放射活性が5000cpm/ウェル以上で、S/N比が10以上のカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性をもつ細胞を選択した。得られたこれらのDede細胞由来の安定発現細胞株を、以下の実施例6で使用した。
実施例6:放射性同位元素カルシウム(45Ca)イオンの放出を利用した新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を阻害する物質のスクリーニング
実施例4で行った方法に基づき、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を阻害する物質を、カルシウムイオンの放射活性を測定することにより、スクリーニングした。
実施例5で得られたDede細胞由来の安定発現細胞を5000個/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、実施例4で行った方法に基づきカルシウムイオンの放射活性を測定することにより阻害活性を測定し、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を阻害する物質をスクリーニングした。試験化合物溶液[すなわち、試験化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した溶液]は、細胞をモネンシン処理後、塩化カルシウム(45CaCl;55.5kBq/mL)を含む細胞外液C又は細胞外液Dに加え測定を行い、阻害活性が30%以上のものを選択した。
その結果、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を抑制する2種類の化合物、すなわち、2−[2−[4−(4−ニトロベンジロキシ)フェニル]エチル]イソチオウレア メタンスルホネート[化合物A;特開平9−67336号公報又はJ Biol Chem.1996.271(37):22391−7.]及び3’,4’−ジクロロベンザミル[化合物B;カタログ化合物番号B−710,NIMH Chemical Inventory,U.S.A又はProc Natl Acad Sci USA.1984 May;81(10):3238−42.]が得られた。
実施例7:ヒト末梢多形核白血球における阻害剤の効果
ヒト末梢多形核白血球(PMN)を用いて、実施例6で得られた化合物の評価を行った。血液サンプルは健康成人からの採血により得た。遠心管にフィコール分離液(モノ・ポリ分離液;大日本製薬)を分注し、その上に新鮮な血液成分をそのまま重層し、400xgで30分間、室温下で遠心した。上層(単核球)、中間層(多核球)、及び沈殿(赤血球)に別れているので、各層が混合しないように回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で懸濁して再び遠心して回収した後、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)含有RPMI1640培地で懸濁し、細胞数を計測して実験に用いた。また、得られた多核白血球成分の一部をヘマトキシリン・エオジン染色し、好中球(およそ95%)と好酸球(およそ5%)が含まれていることを確認した。
遊走試験は24ウェルのディスポーザブルケモタキシスチャンバー(Transwell 3μm;コーニング社)を用い、100nmol/Lのホルミルメチオニルロイシニルフェニルアラニン(fMLP)を含む培地(0.2%BSA,RPMI1640培地)に化合物A又は化合物Bの最終濃度が10μmol/L、30μmol/L、及び100μmol/Lとなるような試験液を調製し、下側のウェルに1mL注入した。上側のウェルに、回収したPMNを2.0×10個/ウェル(0.2mL)注入し、37℃で1時間培養後、下側のウェルに移動してきた細胞数を血球計測板で算定した。試験は独立した実験を3回行った。
結果を表1に示す。表1に示す値は、被検化合物の代わりにDMSOを用いた場合の値を100としたときの相対値であり、3回の独立した実験に基づく平均値及び標準偏差(SD)で示す。また、PMNをfMLPで刺激しなかった場合(BG)のデータも併記した。
表1に示すように、化合物A及び化合物Bは用量依存的にPMNの遊走を阻害した。これらの結果から、配列番号2又は4で表されるアミノ酸配例からなる新規カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体の活性を抑制する化合物は、PMNの遊走を抑制する効果を有することが明らかになった。すなわち、これらの化合物は虚血再灌流における細胞障害保護剤及び/又は抗炎症性疾患剤として有効な効果を有することがわかった。

【産業上の利用可能性】
本発明のポリペプチドは、末梢白血球に発現しているカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換体であるので、本発明のポリペプチドは、白血球の活性化並びに虚血後の再灌流による細胞障害及び炎症に関与する。従って、本発明のポリペプチドを抑制化する物質は、白血球活性化抑制並びに虚血後の再灌流による細胞障害治療及び/又は炎症性疾患の治療に有用である。
また、本発明のポリペプチド及び前記ポリペプチドを細胞表面に発現する本発明の細胞は、白血球活性化抑制剤並びに虚血後の再灌流による細胞障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤のスクリーニングに有用であり、本細胞を用いることにより、白血球活性化抑制剤並びに虚血後の再灌流による細胞障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤の簡便なスクリーニング系を提供することができる。更に、本発明のポリヌクレオチド及び発現ベクターは、白血球活性化抑制剤並びに細胞障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤のスクリーニングツールを製造するのに有用である。
本発明のスクリーニングツール又はスクリーニング方法によれば、白血球活性化抑制剤並びに虚血再灌流による細胞障害保護剤及び抗炎症性疾患剤として有効な物質をスクリーニングすることができる。本発明の白血球活性化抑制用医薬組成物は、虚血再灌流による細胞障害の予防に有用であり、炎症性疾患の治療及び/又は予防に有用である。
【配列表フリーテキスト】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号5〜8の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、(2)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体で1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すポリペプチド。
【請求項2】
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体で1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、カリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を示すポリペプチドである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
ナトリウム−カルシウム交換活性が逆向きナトリウム−カルシウム交換活性である、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターでトランスフェクションされた細胞。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項8】
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、前記ポリペプチドの抑制化剤をスクリーニングする方法。
【請求項9】
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、白血球活性化抑制剤をスクリーニングする方法。
【請求項10】
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチド〔のカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性を抑制化する物質を選択する工程
を含む、虚血再灌流障害治療剤及び/又は炎症性疾患治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項11】
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現している細胞と試験物質とを接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドのカリウム依存的ナトリウム−カルシウム交換活性が抑制化されるか否かを分析する工程、及び
(3)製剤化する工程
を含む、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質を有効成分とする、白血球活性化抑制用医薬組成物。
【請求項13】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質を有効成分とする、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項14】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質を投与する、白血球活性化抑制方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質を投与する、虚血再灌流障害及び/又は炎症性疾患治療方法。
【請求項16】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質の、白血球活性化抑制用医薬組成物製造のための使用。
【請求項17】
請求項8に記載の方法で得ることができる物質の、虚血再灌流障害治療及び/又は炎症性疾患治療用医薬組成物製造のための使用。

【国際公開番号】WO2004/013173
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525805(P2004−525805)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009732
【国際出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】