説明

新規なフルオロアダマンタン誘導体、その製造方法、および組成物

【課題】新規なフルオロアダマンタン誘導体、その製造方法、および組成物を提供する。
【解決手段】下記化合物(1’)、その製造方法、および化合物(1’)と有機溶媒を含む組成物(ただし、Qはモノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基(6個のQは同一であっても異なっていてもよい。)であり、Z’は−F、−H、または−W’−CHCHSiR(3個のZ’は同一であっても異なっていてもよい。)であり、W’は単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数1〜8のオキシアルキレン基、炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルオロアダマンタン誘導体、その製造方法、その組成物に関する。
【0002】
アダマンタンの水素原子のうち3級炭素原子に結合する水素原子がヒドロキシ基、フルオロカルボニル基、またはフルオロアルキルカルボニルオキシ基に置換され、かつ残余の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロアダマンタン化合物が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、非特許文献1および非特許文献2には、下式(Ad−H)で表される化合物とメチルリチウムを反応させた反応中間体から、下記化合物(Ad−I)、下記化合物(Ad−Br)または下記化合物(Ad−Si)を得たと記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
また、アダマンタンの3級炭素原子にヒドロキシ基が直接結合したフルオロアダマンタンから得られる重合性の誘導体として、下式で表される化合物が知られている(特許文献2〜4参照。)。
【0006】
【化2】

【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/052832号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/055841号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/010784号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/020901号パンフレット
【非特許文献1】J.Org.Chem.1992,57,4749
【非特許文献2】J.Org.Chem.1993,58,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、反応性シリル基を有するフルオロアダマンタンと、炭素原子−炭素原子2重結合を末端に有するアルケニル基を有するフルオロアダマンタンとは、知られていない。
【0009】
また、アダマンタンの3級炭素原子にヒドロキシ基を含む基が結合したフルオロアダマンタンのヒドロキシ基の反応性は、充分に検討されていない。
例えば、特許文献2には、アダマンタンの3級炭素原子にヒドロキシ基が直接結合したフルオロアダマンタンと、酸クロリドとの反応が記載されるに過ぎない。また、特許文献2または3には、塩基性条件下における、前記フルオロアダマンタンと、エピクロロヒドリンまたは2−エタノールとの反応が記載されるにすぎない。
【0010】
特に、アダマンタンの3級炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合したフルオロアダマンタンに関しては、原料化合物の入手が知られておらず、その製造方法を含めて、検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、3級炭素原子にヒドロキシ基を含む基が結合したフルオロアダマンタンの反応性を検討した結果、反応性シリル基を有するフルオロアダマンタンと、炭素原子−炭素原子2重結合を末端に有するアルケニル基を有するフルオロアダマンタンを見いだした。そして、高い撥水撥油性を付与しうる表面処理剤として有用な組成物を見いだした。
【0012】
すなわち、本発明は以下を特徴とする要旨を有する。
<1> 下式(1’)で表される化合物。
【0013】
【化3】

【0014】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Z’:フッ素原子、水素原子、または式−W’−SiRで表される基であって、3個のZ’は同一であっても異なっていてもよい。
W’:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数1〜8のオキシアルキレン基、炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0015】
<2> 下式(1)で表される化合物。
【0016】
【化4】

【0017】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Z:フッ素原子、水素原子、または式−W−CHCHSiRで表される基であって、3個のZは同一であっても異なっていてもよい。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0018】
<3> 下式(2)で表される化合物と式HSiRで表される化合物とを反応させる下式(p1)で表される化合物の製造方法。
【0019】
【化5】

【0020】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Y:フッ素原子、水素原子または式−W−CH=CHで表される基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。
:Yにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるYに対応するZは水素原子、フッ素原子であるYに対応するZはフッ素原子、式−W−CH=CHで表される基であるYに対応するZは式−W−CHCHSiRで表される基。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0021】
<4> 下式(2)で表される化合物。
【0022】
【化6】

【0023】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Y:フッ素原子、水素原子または式−W−CH=CHで表される基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
【0024】
<5> 下式(m3)で表される化合物と式CH=CH−W−Gで表される化合物とを塩基性化合物の存在下に反応させる下式(p2)で表される化合物の製造方法。
【0025】
【化7】

【0026】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、水酸基またはヒドロキシメチル基。
:フッ素原子、または式−Xで表される基であって、3個のXは同一であっても異なっていてもよい。
:Xにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるXに対応するYは式−W−CH=CHで表される基、フッ素原子であるXに対応するYはフッ素原子、水酸基またはヒドロキシメチル基であるXに対応するYは式−W−CH=CHで表される基。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
G:塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子。
【0027】
<6> 式(1’)で表される化合物と有機溶媒を含む組成物。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高い撥水撥油性を付与しうる表面処理剤の原材料等として有用な、反応性のフルオロアダマンタンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも、式−W’−SiRで表される基を−W’−SiRとも、記す。他の化合物と他の基も同様に記す。
【0030】
本発明は、下記化合物(1’)を提供する。
【0031】
【化8】

【0032】
本発明における化合物(1’)中の6個のQは、モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、同一であっても異なっていてもよい。Qとしては4個以上がジフルオロメチレン基であることが好ましく、すべて(6個)がジフルオロメチレン基であることが特に好ましい。
【0033】
化合物(1’)中の3個のZ’は、フッ素原子、水素原子、または式−W’−SiRで表される基であって、3個のZ’は同一であっても異なっていてもよい。Z’としてはそれぞれ独立に、フッ素原子または−W’−SiRが好ましい。
【0034】
化合物(1’)中のW’は、単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数1〜8のオキシアルキレン基、炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基である。W’としては単結合、炭素数1〜8のアルキレン基または炭素数1〜8のオキシアルキレン基が好ましく、単結合、炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のオキシアルキレン基が特に好ましい。
【0035】
本発明における化合物中の−SiR中の3個のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。具体的には、Rは2個が炭素数1〜6のアルキル基であり1個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせか、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり2個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせか、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせである。反応性の観点から、Rとしては1個が炭素数1〜6のアルキル基であり2個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせか、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせが好ましく、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基である組み合わせが特に好ましい。
炭素数1〜6のアルキル基であるRは、メチル基またはエチル基が好ましい。
炭素数1〜6のアルコキシ基であるRは、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。
【0036】
化合物(1’)は、下記化合物(1)が好ましく下記化合物(11)が特に好ましい。
【0037】
【化9】

【0038】
化合物(1)中の3個のZは、フッ素原子、水素原子、または式−W−CHCHSiRで表される基であって、3個のZは同一であっても異なっていてもよい。Zとしてはそれぞれ独立に、フッ素原子または−W−CHCHSiRが好ましい。
【0039】
化合物(1)中のWは、単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基である。Wとしては単結合、炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数1〜6のオキシアルキレン基が好ましく、単結合、炭素数1〜2のアルキレン基または炭素数1〜2のオキシアルキレン基が特に好ましい。
【0040】
3個のZ’がフッ素原子または水素原子である化合物(1’)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0041】
【化10】

【0042】
2個のZ’がフッ素原子または水素原子であり1個のZ’が−W’−SiRである化合物(1’)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0043】
【化11】

【0044】
1個のZ’がフッ素原子または水素原子であり2個のZ’が−W’−SiRである化合物(1’)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0045】
【化12】

【0046】
3個のZ’が−W’−SiRである化合物(1’)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0047】
【化13】

【0048】
本発明の化合物(1’)は、アダマンタンの3級炭素原子に反応性シリル基が結合した新規なフルオロアダマンタン誘導体である。
本発明は、下記化合物(2)とHSiRで表される化合物とを反応させる下記化合物(p1)の製造方法を提供する。
【0049】
【化14】

【0050】
前記反応は、公知のシリル化反応の方法を適用して行うことが好ましい。
たとえば、前記反応は触媒の存在下に行うことが好ましい。触媒は、白金触媒が好ましく、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金錯体が特に好ましい。
また、前記反応においては、k個の−W−CH=CHを有する化合物(2)(kは、1〜4の整数を示す。以下同様。)の1モルに対して、HSiRの2k〜3k倍モルを反応させることが好ましい。
【0051】
HSiRの具体例としては、HSi(OCH、HSi(OCHCH、HSi(OCH(CH、HSi(CH)(OCH、HSi(CHCH)(OCHCHが挙げられる。
【0052】
化合物(2)中の3個のYは、フッ素原子、水素原子または式−W−CH=CHで表される基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。Yとしてはそれぞれ独立に、フッ素原子または−W−CH=CHが好ましい。
【0053】
化合物(2)は、下記化合物(21)が特に好ましい。
【0054】
【化15】

【0055】
化合物(2)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0056】
【化16】

【0057】
ただし、式中の記号Aとしては以下の式で表される基であることが好ましい。
すなわちAとしては、−CH=CH、−CHCH=CH、−CHCHCH=CH、−CHCHCHCH=CH、−CHOCH=CH、−CHOCHCH=CH、−CHCHOCH=CH、−CHOCHCHCH=CH、−CHCHOCHCH=CH、−CHCHCHOCH=CH、−OCH=CH、−OCHOCH=CH、−OCHOCHCH=CH、−OCHCHOCH=CH、−OCHOCHCHCH=CH、−OCHCHOCHCH=CH、−OCHCHCHOCH=CH等が例示できる。
【0058】
化合物(2)は、アダマンタンの3級炭素原子に炭素原子−炭素原子2重結合を末端に有するアルケニル基が結合した新規なフルオロアダマンタン誘導体である。
本発明は、下記化合物(m3)とCH=CH−W−Gで表される化合物とを塩基性化合物の存在下に反応させる下記化合物(p2)の製造方法を提供する。
【0059】
【化17】

【0060】
前記反応においては、k個のX基を有する化合物(m3)の1モルに対して、CH=CH−W−Gの2k〜3k倍モルを反応させることが好ましい。
【0061】
前記反応における塩基性化合物は、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等。)、有機金属塩基性化合物(ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、メチルマグネシウムヨージド、エチルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド等。)が好ましく、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物である場合の反応温度は、0〜100℃が好ましい。反応圧力は特に限定されない。また、塩基性化合物が有機金属塩基性化合物である場合の反応温度は、−80〜0℃が好ましく、−80〜−40℃が特に好ましい。反応圧力は特に限定されない。
【0062】
前記反応は、極性溶媒の存在下に行うことが好ましい。極性溶媒は、公知の有機極性溶媒から選択することが好ましい。塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物である場合には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルスルホキシド、またはN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。また、これらの有機溶媒と水の混合溶媒を用いてもよい。塩基性化合物が有機金属塩基性化合物である場合には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、またはジオキサンが好ましい。
【0063】
前記反応において化合物(m3)のXが水素原子である場合に、化合物(p2)が生成する理由は必ずしも明確ではないが、塩基性化合物の存在下で化合物(m3)中のX(水素原子)が脱離して、化合物(m3)中の3級炭素原子上にアニオンを有するアニオン種が生成し、該アニオン種とCH=CH−W−Gとが反応するためと考えられる。
【0064】
また、前記反応において化合物(m3)のXがヒドロキシメチル基である場合には、化合物(m3)のヒドロキシメチル基がCH=CH−W−Gと反応して、下記化合物(pp2)が生成すると考えられた(ただし、Xmpは、Xにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるXに対応するXmpは−W−CH=CHであり、フッ素原子であるXに対応するXmpはフッ素原子であり、水酸基またはヒドロキシメチル基であるXに対応するYは−CHO−W−CH=CHである。)。
【0065】
【化18】

【0066】
しかし、本発明者らは、前記反応において、化合物(p2)が生成することを予想外にも見出した。その理由は必ずしも明確でないが、塩基性化合物の存在下で化合物(m3)中のヒドロキシメチル基が脱離して、化合物(m3)中の3級炭素原子上にアニオンを有するアニオン種が生成し、該アニオン種とCH=CH−W−Gとが反応するためと考えられる。
【0067】
CH=CH−W−Gで表される化合物において、Wは単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基であり、Gは塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である。CH=CH−W−G中のGとしては、塩素原子または臭素原子が好ましい。
CH=CH−W−G具体例としては、CH=CHBr、CH=CHCHBr、CH=CHCHCHBr、CH=CHCHCHCHBr、CH=CHCHOCHBr、CH=CHOCHCHBr、CH=CHCHCHOCHBr、CH=CHCHOCHCHBr、CH=CHOCHCHCHBr、CH=CHCl、CH=CHCHCl、CH=CHCHCHCl、CH=CHCHCHCHCl、CH=CHCHOCHCl、CH=CHOCHCHCl、CH=CHCHCHOCHCl、CH=CHCHOCHCHCl、CH=CHOCHCHCHClが挙げられる。
【0068】
化合物(m3)中の3個のXは、それぞれ独立に、フッ素原子またはヒドロキシメチル基が好ましい。
【0069】
また、Xがヒドロキシメチル基である化合物(m3)は、アダマンタンの3級炭素原子にヒドロキシメチル基が結合した文献未知のフルオロアダマンタン誘導体である。
前記化合物(m3)は、下記化合物(m5)とHOを反応させて下記化合物(m4)を得て、つぎに化合物(m4)とHCHOを極性溶媒中で反応させることにより製造することが好ましい。
【0070】
【化19】

【0071】
ただし、XmDは、Xにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるXに対応するXmDは水素原子であり、フッ素原子であるXに対応するXmDはフッ素原子であり、水酸基またはヒドロキシメチル基であるXに対応するXmDは水素原子である。また、XmFは、XmDにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるXmDに対応するXmFは水素原子またはフルオロカルボニル基であり、フッ素原子であるXmDに対応するXmFはフッ素原子である。
【0072】
また、下記化合物(h3)(ただし、XmHは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはヒドロキシ基を示す。)とCH=CH−W−Gで表される化合物とを塩基性化合物の存在下に反応させることにより、Wがエーテル性酸素原子、炭素数1〜6のオキシアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を含むオキシアルキレン基である化合物(p2)を製造することもできる。
【0073】
上記製造方法においては、化合物(m3)のXが水素原子またはヒドロキシメチル基である化合物から化合物(p2)を製造する場合と同様に、化合物(h3)とCH=CH−W−Gで表される化合物とを塩基性化合物の存在下に反応させて化合物(p2)を製造する。該反応における好適なCH=CH−W−Gの使用量、塩基性化合物および溶媒は化合物(m3)から化合物(p2)を製造する場合と同様であるが、好適な一態様を示すと以下のような製造方法が挙げられる。
化合物(h3)とジメチルスルホキシドの混合物に水酸化カリウム水溶液を滴下する。一定時間撹拌した後にCH=CHCHCHBrを滴下し、反応が充分に進行するまで攪拌する。反応溶液をCFClCFCHFCl(ジクロロペンタフルオロプロパン、以下R225と表す。)で抽出し、精製することにより(p2)の化合物において、Wが−OCHCH−である化合物が得られる。
【0074】
【化20】

【0075】
本発明の化合物(1’)は、反応性シリル基を有する高度にフッ素化されたアダマンタンである。化合物(1’)は、基板表面を疎水化する等の目的で使用される表面処理剤の原材料として有用である。化合物(1’)を表面処理剤として用いる場合には、取扱性の観点から、液状に調製するのが好ましい。
【0076】
本発明は、化合物(1’)と有機溶媒を含む組成物を提供する。
有機溶媒は、化合物(1’)を溶解する有機溶媒であれば、特に限定されない。
有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノール、4−メチル−1−プロパノール等のアルコール類;ジイソアミルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等のグリコールエステル類;ペルフルオロカーボン類;ハイドロフルオロカーボン類;ハイドロクロロフルオロカーボン類;ペルフルオロエーテル類;フルオロアルコール類;フルオロケトン類;ハイドロフルオロエーテル類;フルオロベンゼン類;フルオロアルキルベンゼン類等が挙げられる。
【0077】
本発明の組成物は、有機溶媒の総質量に対して、化合物(1’)を1〜20質量%含むことが好ましく、1〜5質量%が含むことが特に好ましい。
【0078】
また、本発明の組成物は、その用途に応じて、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、反応触媒、化合物(1’)以外の反応性シリル基を有する化合物が挙げられる。
【0079】
たとえば、本発明の組成物の表面処理力を調製するために、本発明の組成物は、反応性シリル基とアルキル基またはアルケニル基とを有する化合物からなるシリル化剤を含んでいてもよい。この場合、本発明の組成物は、有機溶媒の総質量に対して、前記シリル化剤を1〜5質量%含むことが好ましい。また、反応触媒は、反応性シリル基の反応を触媒する触媒であれば、特に限定されない。本発明の組成物が反応触媒を含む場合、本発明の組成物は、化合物(1’)に対して反応触媒を1〜20質量%含むことが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。
実施例においては、テトラメチルシランをTMSと、CFClCFCHFCl(ジクロロペンタフルオロプロパン)をR225と、記す。
【0081】
[例1(参考合成例)]化合物(3)の製造例
0℃に保持したフラスコに、下記化合物(5)(27.46g)、NaF(3.78)およびアセトン(100mL)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに水(1.14g)を滴下し、フラスコ内を充分に撹拌した。フラスコ内容液を昇華精製して下記化合物(4)(22.01g)を得た。
【0082】
化合物(4)(2.03g)およびジメチルスルホキシド(50mL)の混合物に、水酸化カリウム(1.00g)とホルマリン水溶液(20mL)を加え、そのまま75℃にて6.5時間反応させた。反応終了後、反応液をR225(40mL)に抽出し、さらにR225を留去して下記化合物(3)(1.58g)を得た。
【0083】
【化21】

【0084】
化合物(3)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,TMS)δ(ppm):1.91(s,1H),4.64(s,2H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.9(6F),−121.2(6F),−219.3(3F)。
【0085】
[例2]化合物(2)の製造例
フラスコ(内容積100mL)に、化合物(3)(5g)、ジメチルスルホキシド(30g)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに23質量%水酸化カリウム水溶液(8.2g)を5分かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内を25℃にて2時間撹拌した。次に、フラスコにCH=CHCHBr(2.8g)を10分かけて滴下し、そのまま25℃にて2時間撹拌した。
【0086】
続いて、フラスコに飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)とR225(50mL)を添加し分液した。回収した有機層を、飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)で水洗分液し、硫酸マグネシウムで乾燥した後に溶媒留去して、化合物(2)(4.1g)を得た。
【0087】
【化22】

【0088】
[例3]化合物(1)の製造例
フラスコ(内容積50mL)に、化合物(2)(3g)とテトラヒドロフラン(25g)からなる混合物、および、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金錯体を3質量%含む%キシレン溶液(0.43g)を添加した。つぎに、フラスコにHSi(OCH(2.1g)を5分かけて滴下し、そのまま60℃にて80時間加熱した。フラスコ内の溶媒を留去した後に、フラスコ内容物をカラムクロマトグラフィー法(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10:1)にて精製し、下記化合物(1)(1.5g)を得た。
【0089】
【化23】

【0090】
化合物(1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,TMS)δ(ppm):0.69(m,2H),1.87(m,2H),2.29(m,2H),3.58(s,9H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.5(6F),−121.2(6F),−219.1(3F)。
【0091】
[例2]化合物(2)の製造例
フラスコ(内容積1L)に、化合物(3)(110g)、ジメチルスルホキシド(550g)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに28質量%水酸化カリウム水溶液(153g)を30分かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内を25℃にて2時間撹拌した。つぎに、フラスコにCH=CHCHCHBr(74.5g)を30分かけて滴下し、そのまま25℃にて19時間撹拌した。
【0092】
つづいて、フラスコに飽和塩化ナトリウム水溶液(500mL)とR225(500mL)を添加し分液した。回収した有機層を、飽和塩化ナトリウム水溶液(500mL)で水洗分液し、硫酸マグネシウムで乾燥した後に溶媒留去して、化合物(2)(111.1g)を得た。
【0093】
【化24】

【0094】
化合物(2)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,TMS)δ(ppm):2.46(m,4H),5.14(m,2H),5.85(m,1H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.4(6F),−121.3(6F),−219.2(3F)。
【0095】
[例3]化合物(1)の製造例
フラスコ(内容積500mL)に、化合物(2)(50g)とテトラヒドロフラン(240g)からなる混合物、および、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金錯体を0.3質量%含む%キシレン溶液(13.8g)を添加した。つぎに、フラスコにHSi(OCH(27g)を10分かけて滴下し、そのまま60℃にて2時間加熱した。フラスコ内の溶媒を留去した後に、フラスコ内容物をカラムクロマトグラフィー法(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10:1)にて精製し、下記化合物(1)(55g)を得た。
【0096】
【化25】

【0097】
化合物(1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,TMS)δ(ppm):0.69(m,2H),1.50(m,2H),1.70(m,2H),2.24(m,2H),3.58(s,9H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.5(6F),−121.2(6F),−219.1(3F)。
【0098】
[例3]化合物(1)を含む組成物の製造例
[例3−1]組成物(1)の製造例
化合物(1)を3.0質量%含み、かつ酢酸を0.4質量%含むジイソアミルエーテル溶液を調製した。該溶液を孔径0.2μmのフィルター(PTFE製)に通して濾過をして、組成物(1)を得た。
【0099】
[例3−2]組成物(2)の製造例
化合物(3)を3.0質量%含み、かつ酢酸を0.4質量%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を調製した。該溶液を孔径0.2μmのフィルター(PTFE製)に通して濾過をして、組成物(2)を得た。
【0100】
[例4]組成物の撥水性評価例
シリコン基板上に、組成物(1)を回転塗布した。つぎに、シリコン基板を110℃にて60秒間加熱処理して、シリコン基板の表面処理を行った。つぎに、組成物(1)で表面処理した側の水に対する、静的接触角、転落角、後退角をそれぞれ測定した。
【0101】
さらに、組成物(1)のかわりに組成物(2)を用いる以外は同様にして、シリコン基板の表面処理を行い、その水に対する接触角、転落角および後退角を測定した。結果をまとめて表1に示す(静的接触角、転落角および後退角の単位は、それぞれ角度(度)である。なお、転落角と後退角は滑落法を用いて測定した。)。なお、比較例として示す数値は、未処理のシリコン基板の静的接触角、転落角および後退角である。
【0102】
【表1】

【0103】
以上の結果から明らかであるように、化合物(1)を含む組成物を用いることにより、基板の表面に高い撥水性を付与できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、新規なフルオロアダマン誘導体が提供される。本発明のフルオロアダマンタン誘導体は、撥水撥油性と反応密着性に優れるため、基板を疎水化処理するために用いられる表面処理剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1’)で表される化合物。
【化1】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Z’:フッ素原子、水素原子、または式−W’−SiRで表される基であって、3個のZ’は同一であっても異なっていてもよい。
W’:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数1〜8のオキシアルキレン基、炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【請求項2】
下式(1)で表される化合物。
【化2】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Z:フッ素原子、水素原子、または式−W−CHCHSiRで表される基であって、3個のZは同一であっても異なっていてもよい。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【請求項3】
下式(2)で表される化合物と式HSiRで表される化合物とを反応させる下式(p1)で表される化合物の製造方法。
【化3】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Y:フッ素原子、水素原子または式−W−CH=CHで表される基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。
:Yにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるYに対応するZは水素原子、フッ素原子であるYに対応するZはフッ素原子、式−W−CH=CHで表される基であるYに対応するZは式−W−CHCHSiRで表される基。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【請求項4】
下式(2)で表される化合物。
【化4】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Y:フッ素原子、水素原子または式−W−CH=CHで表される基であって、3個のYは同一であっても異なっていてもよい。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
【請求項5】
下式(m3)で表される化合物と式CH=CH−W−Gで表される化合物とを塩基性化合物の存在下に反応させる下式(p2)で表される化合物の製造方法。
【化5】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、水酸基またはヒドロキシメチル基。
:フッ素原子、または式−Xで表される基であって、3個のXは同一であっても異なっていてもよい。
:Xにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるXに対応するYは式−W−CH=CHで表される基、フッ素原子であるXに対応するYはフッ素原子、水酸基またはヒドロキシメチル基であるXに対応するYは式−W−CH=CHで表される基。
W:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
G:塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子。
【請求項6】
下式(1’)で表される化合物と有機溶媒を含む組成物。
【化6】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
Z’:フッ素原子、水素原子、または式−W’−SiRで表される基であって、3個のZ’は同一であっても異なっていてもよい。
W’:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数1〜8のオキシアルキレン基、炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜8のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。

【公開番号】特開2008−266313(P2008−266313A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73692(P2008−73692)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】