説明

新規な微生物BS−HA1株、ゴムの微生物分解方法

【課題】ポリイソプレン系ゴム、特にカーボンブラックを含有するゴムを分解できる新規な微生物を得ることが本発明の課題である。
【解決手段】本発明により、新規な微生物であるノカルディア属の放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)が与えられた。放線菌BS−HA1株はポリイソプレン系ゴムを分解する活性を有するので、本発明により、ゴム組成物を微生物分解する新たな方法も与えられた。更には本発明により、カーボンブラックを含有するゴム製品の微生物分解が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソプレン系ゴムを分解する作用を有する、ノカルディア属に属する放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)に関する。更に本発明は、ポリイソプレン系ゴムを含有するゴム組成物を、ノカルディア属に属する放線菌であるBS−HA1株(FERM P−19378)で微生物分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃タイヤは一般のプラスチック製品と比較しても回収率は高く、特にセメント工場を中心として燃料として再利用されている。しかしながら近年環境問題の高まりとともに、廃タイヤを燃料として燃やすのではなく、コンポストのように低温で分解する省エネルギー型の方法や分解した材料を再利用するマテリアルリサイクルの方法の開発が求められている。
【0003】
ゴム製品を分解する方法として、微生物による分解処理が考えられる。微生物分解は低温での処理なので、エネルギー消費は最も少ない処理法といえる。また、ゴム製品を微生物分解した後、分解物を再利用することも考えられる。例えば、分解されたモノマーやオリゴマーを再利用することや、粉ゴムの表面を微生物分解し、再度未加硫ゴムに混練り加硫することにより、新たな製品に利用することも考えられる。
【0004】
ゴムの微生物分解については、従来様々な微生物がスクリーニングされ、検討されている。そのような微生物分解については、特開平9−194624号公報、特開平11−60793号公報等で報告されている。なおノカルディア属の放線菌は天然ゴムなどのポリイソプレン系ゴムを分解することが知られているが、通常のノカルディア属の菌ではカーボンブラックなどを配合した硬質ゴムを分解することは困難である。これまでに、カーボンブラックを含有したゴム製品を分解できる菌の例は非常に少なく、未だに実用化された例はない。
【0005】
【特許文献1】特開平9−194624号公報
【特許文献2】特開平11−60793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、ゴムの微生物分解に利用できる新規な微生物を得ること、特にカーボンブラックを含有したゴム製品を分解することができる微生物を得ることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは多くの土壌から天然ゴム分解菌の探索を行った結果、ゴム製品を分解できる微生物であるノカルディア属の放線菌BS−HA1株を見いだした。放線菌BS−HA1株によれば、従来困難であったカーボンブラックを含有するゴム製品を分解することが可能である。よって本発明により上記課題を解決することが可能となった。本発明の方法は、タイヤなどのゴム製品の廃棄及び再利用に有用である。
【0008】
本発明は次の(1)〜(7)からなる。
(1)ポリイソプレン系ゴムを分解する作用を有する、ノカルディア属に属する放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)。
(2)ポリイソプレン系ゴムを含有するゴム組成物を、ノカルディア属に属する放線菌であるBS−HA1株(FERM P−19378)により微生物分解する方法。
(3)前記ゴム組成物のポリイソプレン系ゴム含有量が10重量%以上であることを特徴とする(2)の方法。
(4)前記ポリイソプレン系ゴムがシスポリイソプレンゴムである(2)の方法。
(5)前記ゴム組成物がカーボンブラックを含有とすることを特徴とする(2)の方法。
(6)前記ゴム組成物がゴム粉である(2)の方法。
(7)前記ゴム組成物がゴム製品を破砕したゴム片である(2)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、新規な微生物であるノカルディア属の放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)が与えられた。放線菌BS−HA1株はポリイソプレン系ゴムを分解する活性を有する。よって本発明により、ポリイソプレン系ゴムを分解する新たな方法が与えられた。更に本発明により、カーボンブラックを含有するゴム製品の微生物分解が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を具体的に説明する。
本発明は新規微生物であるノカルディア属の放線菌であるBS−HA1株である。また本発明はポリイソプレン系ゴムを含有するゴム製品を上記微生物で分解する方法である。ノカルディア属の放線菌は天然ゴムなどのポリイソプレン系ゴムを分解することが知られているが、通常のノカルディア属の菌ではカーボンブラックなどを配合した硬質ゴムを分解することは困難である。発明者は多くの土壌から天然ゴム分解菌を鋭意スクリーニングした結果、タイヤなどのゴム製品に使用されるカーボン配合ゴムからなるゴム粉を分解できるBS−HA1株を見出した。
【0011】
BS−HA1株は独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P19378株として2003年6月5日に寄託されている。本発明においてBS−HA1株は無機塩の液体培地中で粉ゴムを資化しながら増殖する。上記の無機塩としては窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0012】
菌株の固定は近年主流となっている16SrRNA遺伝子の比較に基づいて行った。以下方法の詳細について述べる。菌株をYM寒天培地(Becton Dickinson NJ,USA)に植菌し、30℃で5日間培養した。その後、この菌体からPrepMan Method(Applied Bjosystems、CA,USA)により、ゲノムDNAの抽出を行った。抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRにより、16S Ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)のうち、5末端側約500bpの領域を増幅した。その後、増幅した塩基配列をシーケンスし、検体の16S rDNA部分塩基配列を得た。得られた16S rDNAの塩基配列から検体を近縁と考えられる種の相同性倹索を行い、下記の上位10株を決定した。
相同性 菌株
97.8% Nocardia transvalensis
96.8% Nocardia nova
96.6% Nucardia brasiliensis
96.6% Nocardia asteroides
96.4% Nocardia farcinia
95.8% Nocardia pseudobrasiliensis
95.6% Nocardia otitidiscaviaum
95.6% Rhodococcus Globerulus
95.4% Nocardia brevicatena
95.4% Tsukamurella wratislaviensis
この結果から、BS−HAI株はNocardia sp.に属する菌株と同定した。
【0013】
本発明を適用する対象となるポリイソプレン系ゴムとしては、主鎖がシスポリイソプレン及びトランスポリイソプレンであるゴムまたはエラストマーを挙げることができる。本発明においてシスポリイソプレンであるゴムが最も好ましいが、イソプレンと他のモノマーとの共重合体を主鎖とするゴムまたはエラストマーにも本発明を適応することが可能である。具体的なシスポリイソプレンとしては、それに限定されるものではないが、天然ゴムやNatsynなどの合成シスポリイソプレンが例示され、トランスポリイソプレンとしてはガッタパーチャなどの天然系ゴムが例示される。
【0014】
ゴム組成物を構成するゴムエラストマー中のポリイソプレン系ゴムの含有量が10重量%以上であれば本方法の適応が可能である。ゴムエラストマー中のポリイソプレンは50重量%以上が好ましく、さらに好ましくは80重量%以上であるが、その範囲に限定されるものではない。
【0015】
また本発明で対象となるゴム製品はカーボンブラックを含有することができる。カーボンブラックの含有量は通常の廃タイヤから採取された粉ゴムであれば30〜70phrであるが、その範囲内に限定されるものではなく、カーボンブラックの含有量が30phr以下及び70phr以上でも本発明の方法は適応可能である。
【0016】
本発明で分解の対象となるゴムは、イソプレン系ゴムであれば、ゴム工業で通常使用されているシランカップリング剤、硫黄、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、プロセス油、亜鉛華(ZnO)、ステアリン酸、過酸化物等の通常の配合剤が配合されたものでよい。ただし、ゴム配合剤の中にBS−HA1株の増殖を阻害する配合剤が配合されている場合は、粉ゴムを溶剤抽出し、これを除去する必要がある。
【0017】
本発明ではゴム組成物をさらに微粉砕したゴム粉であれば微生物の分解効率がさらに向上する。ここにおけるゴム粉が、ゴム製品をロール粉砕法などの常温で機械的に破砕する方法や液体窒素などにより冷凍してから破砕する冷凍破砕法や、超高圧水を用いる水撃粉砕法で微粉砕したゴム粉であれば、微生物の分解効率がさらに向上する。
【0018】
また、粉ゴムを完全に分解するのではなく、粉ゴムの表面を微生物分解し、再度未加硫ゴムに混練り加硫することにより、新たな製品に利用することも可能である。ここ用いる粉ゴムは、廃タイヤ・チューブを破砕して得られる粉末ゴムに限らず、タイヤ製造時に発生する未加硫スクラップ物、タイヤ加硫時に発生するスピュー片などを粉砕したものでもよい。また、ゴム粉でなく、ゴム製品を破砕したゴム片でも本発明による微生物分解は可能である。以下実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
シリコーン栓付きのガラス容器に準備した表1の組成の培地に、アセトン抽出済みの0.5mm角のゴム片10個を入れ、90℃でオートクレーブ中で滅菌処理した。そのゴム片は表2の組成で天然ゴムを配合したものである。これに天然手袋ゴムを唯一の炭素源として前培養したBS−HA1株の菌液を加え、温度30℃においてマグネティックスターラーで60日間回転培養を行った後、121℃でオートクレーブ滅菌し、ゴム片をろ紙でろ過した。ろ過したゴム片を純水で数回洗浄し、十分に乾燥したことを確認後、ゴム片の重量減少を測定した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
(比較例)
実施例と同様の実験を、BS−HA1株の代わりに土壌から分離した放線菌を用いて行った。実施例のBS−HA1株では重量減少は35%であったが、比較例では重量減少は0%であった。よってBS−HA1株がカーボンブラックを配合したゴムでも分解できることが確認された。
【0023】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の新規の微生物であるノカルディア属の放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)はポリイソプレン系ゴムを分解する作用を有する。また該微生物により、これまでは困難であったカーボンブラックを含有するゴム製品の微生物分解が可能である。よって本発明の微生物を用いた微生物分解方法は、タイヤなどのゴム製品の廃棄及び再利用に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソプレン系ゴムを分解する作用を有する、ノカルディア属に属する放線菌BS−HA1株(FERM P−19378)。
【請求項2】
ポリイソプレン系ゴムを含有するゴム組成物を、ノカルディア属に属する放線菌であるBS−HA1株(FERM P−19378)により微生物分解する方法。
【請求項3】
前記ゴム組成物のポリイソプレン系ゴム含有量が10重量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリイソプレン系ゴムがシスポリイソプレンゴムである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ゴム組成物がカーボンブラックを含有とすることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ゴム組成物がゴム粉である請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ゴム組成物がゴム製品を破砕したゴム片である請求項2に記載の方法。


【公開番号】特開2006−180822(P2006−180822A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379885(P2004−379885)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】