説明

新規な抗菌性ポリペプチド及び使用方法

【課題】新規な抗菌性ポリペプチド及び使用方法を提供する。
【解決手段】実質的に細菌ホストを含まない精製したランチバイオティックミュータシン 1140を含む物質の組成物。細菌感染症の治療と予防を含む抗菌性化合物並びにその組成物及び使用。該化合物及び組成物は、ランチバイオティックポリペプチド及び該ポリペプチドをコードしている核酸配列を含む。該化合物及び組成物は、抗生物質の医薬製剤中の抗菌剤として及び抗菌性又は防腐性歯磨き剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立歯科衛生研究所補助金第DE0429号によって援助された研究プロジェクトのもとに政府助成により行なわれた。政府は本発明の権利を所有する。
本発明は、新規なポリペプチド及びそのポリペプチドをコードしている核酸配列に関する。該ポリペプチドは、微生物の選択有利性を与える微生物の産生したバクテリオシン、例えば、ミュータシンに関する。本発明は、該ポリペプチド又は核酸配列の有利な活性又は性質を利用する使用方法が含まれる。
【背景技術】
【0002】
ミュータンスレンサ球菌として集団的に知られる表現型が同じ細菌は、虫歯の原因である主要な病因物質と考えられている。ヒト疾患と最も一般に関連がある種はストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)である。S.ミュータンスの病原性としては、バクテリオシン様阻害物質(BLIS)又はバクテリオシンと一般に言われる抗菌物質を生産する能力が含まれる。ストレプトコッカス・ミュータンスの産生したバクテリオシンは、ミュータシンとして既知である。この物質は、歯垢に見られる密に詰まった競合する生物の環境において定着維持に必要な選択力を与える微生物によって生産される。
【0003】
これまで、大部分のバクテリオシンは、少量で特殊な培養条件下でのみつくられることから依然として部分的にしか確認されていない。更に、ミュータシンは液体培養液から単離することが困難であることが知られる。ミュータシンの活性スペクトル及び化学的性質及び物理的性質は大きく変動することがある。
【0004】
ある種のバクテリオシンペプチド又はS.ミュータンスII型の産生したミュータシンが、最近、ランチバイオティック(lantibiotic)と呼ばれるペプチドのグループに属するものとして確認された。Novakら(1996)Anal.Biochem.236:358-360.ランチバイオティックは、典型的にはいくつかのチオエーテル橋をもち、アミノ酸のランチオニン又はβ-メチルランチオニンが含まれる多環式ペプチドである。更に、ランチバイオティックは、α,β-不飽和アミノ酸、例えば、2,3-ジデヒドロアラニン及び2,3-ジデヒドロ-2-アミノ酪酸が含まれ、これらは各々セリン残基及びトレオニン残基の転写後修飾産物である。
【0005】
ある種のランチバイオティックは、主にグラム陽性菌に対して抗生物質活性を示した(Bierbaum & Sahl(1993)Int.J.Med.Microbiol.Virol.Prasitol.Infect.Dis.278-1-22)。ナイシン及びエピデルミンは、これまでに同定された20種ほどのランチバイオティックの最もよく知られた例である。特定のヒドロキシルアミノ酸の脱水及び隣接システインをジデヒドロアミノ酸に付加することによるチオエーテルアミノ酸の形成を含むいくつかの翻訳後修飾事象を受けるプレプロペプチドとしてリボソーム合成される。翻訳後プロセシングはリーダー配列の切断を含み、成熟分子の細胞外スペースへの輸送と一致する。成熟ランチバイオティック分子は、通常は約20〜35残基であり、チオエーテル結合により桿状構造にかなりの剛性度を与える周期性セグメントが生じる。
【0006】
現在、ある種のランチバイオティック、例えば、“A型”ランチバイオティックの生物活性は、多くの分子と標的細菌の膜との結合に基づいてイオンチャネルを形成し、よって脱相乗作用を示すことが証明されている。全ての生合成過程の迅速な消失が起こり、標的細胞死に至る。“B型”ランチバイオティックとして知られる他のランチバイオティックは、ある種の酵素を特異的に阻害することによりその効果を示すものである。
【0007】
ランチバイオティック生産の遺伝子が数種の細菌において研究された。一般的には、プレプロランチバイオティックの構造遺伝子がランチバイオティックの翻訳後修飾に関与する産物をコードしている遺伝子とクラスー形成することがわかった。ある場合には、これらの遺伝子はオペロン又はオペロン様構造を形成することが既知である(例えば、Schnellら(1992)Eur.J.Biochem.204:57-68)。
【0008】
ランチバイオティックの生産には、プロセシングプロテアーゼ、ATP結合カセット輸送体ファミリーの輸送体、調節タンパク質、及び専用プロデューサー自己保護メカニズムが必要である。少なくとも7種の遺伝子がエピデルミン生合成に関与することがわかった。
【0009】
ランチバイオティックの性質は、市販の製品に活用された。ランチバイオティック、ナイシンは、食品医薬品局(FDA)の“一般に安全性が確認された(GRAS)”合格証が与えられた食品保存剤として開発された。40カ国を超える国では亜硝酸塩や硝酸塩よりはこの種類が用いられている。この化合物、おそらくは他のランチバイオティックの経口毒性はラットにおいて極めて低い(LD50=7g/kg;Hurst,(1981)Adv.Appl.Microbiol.27:85-123)。口洗浄剤(Howellら,(1993)J.Clin.Periodontal 20:335-339)としての使用を含むナイシンの他の用途が多くの研究室で活発に試験されている。
【0010】
抗生物質活性を有する新規なランチバイオティック化合物の発見は、ある種の病原性微生物において発育してきたことが最近わかった現在用いうる抗生物質に対して耐性が高いという観点で特に重要である。特にビルレント病原性細菌に対してユニークな又は優れた活性を有する新規なランチバイオティック化合物は、細菌感染症に対する集積において新規な対抗手段を与えるのに有利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ミュータシン1140として同定されたランチバイオティックがストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)から同定されたことである。ランチバイオティックミュータシン1140は、数属の細菌に対して広い活性スペクトルを有する。
本発明は、また、未変性ホストにおいてランチバイオティックミュータシン1140の合成と関連がある遺伝要素を同定及び配列決定することである。これらの遺伝要素は、他の微生物ホストにおけるランチバイオティックミュータシン1140の合成を促進する。
本発明の他の目的は、細菌感染症又は寄生虫感染症をもつヒト又は他の動物の治療方法を提供することである。本発明の具体的な目的は、虫歯又は他の口腔病態を引き起こす病原生物体による感染又は定着に対して動物を治療することである。治療方法は、標的微生物と該化合物の有効量、又はその化合物を含む組成物とを接触させて標的微生物の発育又は増殖を殺滅、阻止、又は制御することを特徴とする。
更に、本発明の核酸配列は、本発明のポリペプチドを生産する適切なホスト細胞を形質転換する標準遺伝子工学操作に用いられる。本ポリペプチド又はポリヌクレオチドの他の使用は、現在用いる知識及び本明細書に示された説明の観点で当業者により認識される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
JH1140と称するストレプトコッカス・ミュータンス株から最初に同定された新規な抗生物質が記載される。ミュータシン1140と呼ばれる抗生物質は、他のランチバイオティックと同様に、ホスト生物体における単一遺伝子転写物から翻訳された前駆体タンパク質の翻訳後修飾産物である多環状ペプチドである。ミュータシン1140の同定した分子構造を図1に示す。
【0013】
ストレプトコッカス・ミュータンスの乳酸デヒドロゲナーゼ欠損変異体は、虫歯の置換治療の潜在的使用が研究されてきた。LDHの特性を含まないこの微生物による炭水化物の発酵は、中性終末産物の十分な量を得るピルビン酸代謝の別の経路を用いるのでLDH欠損株は少ない総酸を環境に滲出する。結果として、この細菌のLDH欠損変異体は、う蝕が少ない。従って、これらの細菌は、虫歯の置換治療にエフェクター株として研究されている。しかしながら、効果的な置換株であるためには、株は優れた競合定着特性を示してその種の他の株に対して競合しかつ野生型株による続きの再定着を防止しなければならない。従って、優れた定着特性及びLDH欠損表現型双方をもつ株を見出す努力が行われてきた。
【0014】
競合株を用いて高められた競合性の微生物によって用いられた進化的戦略の1つは、競合株が感受性のある抗生物質の合成である。以前には定着特性が良好であることが報告された、以前はJH1000と呼ばれたS.ミュータンス株、JH1005と呼ばれるエチルメタンスルホン酸誘導変異体、及びJH1140として知られるその株の自然変異体がBLISと呼ばれる強力な広範囲スペクトルバクテリオシン様阻害物質を生産したことがわかった。下記のように、BLISは種々の細菌種の代表的な株の発育を阻止することがわかった。更に、試験したほとんど全ての既知のストレプトコッカス・ミュータンス株がBLIS物質に感受性があった。
【0015】
これらの株の同遺伝子型変異体の分析から、げっ歯類モデルとヒト患者双方にBLIS生産と定着能間に良好な相関が示された。遺伝子法を用いて、BLIS活性に関与する転写物を同定及び配列決定した。遺伝子がlanAと名付けられるBLIS活性に関与するペプチドをコードしている単一転写物のゲノムコピーを下記に配列番号1として示す。配列番号1に有するオープンリーディングフレームの産生した転写物の推定アミノ酸配列を下記に配列番号2として同定する。配列番号2は、プレタンパク質型であり、タンパク質分解切断及びホスト生物体内に有する他の因子による他のプロセシング後に図1に示されるミュータシン1140の合成がもたらされる。
【0016】
ホスト微生物におけるミュータンス1140の適切な合成には、タンパク質の前駆体型をペプチド系抗生物質の有効型と活性型に適切に処理する他の酵素の存在が必要である。lanBと称する酵素の1つをコードしている遺伝子もクローン化及び配列決定し、下記に配列番号3として示す。下記の配列番号4は、配列番号3に含まれるオープンリーディングフレームの推定アミノ酸配列である。
【0017】
本明細書に用いられる“ミュータシン1140”という用語は、ストレプトコッカス・ミュータンス株1140の産生したペプチド系抗生物質、及びランチバイオティックの生物効力を損ねない少量の挿入、欠失又は他の変異株の産生した関連ペプチドに適用するものである。図1に示した化学構造は正しいと思われるが、分子の構造を解明するためにこれまで用いられた分析法の限界のために図1の構造と細菌の、特にペプチドのカルボキシル端で産生した分子の実際の構造間にわずかな差がある可能性があることは理解されなければならない。ミュータシン1140という用語は、そのわずかな差がある場合の実際の分子を記載するものである。また、ストレプトコッカス・ミュータンスの他の進化的に関連のある株、又は他の種の極めて関連のある株がこの同じランチバイオティックの対立遺伝子分子を生産することは予想され、ミュータンス1140という用語も同様にそれらを包含するものである。
【0018】
ミュータシン1140がスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)の産生したエピデルミンとして知られる他の抗生物質に進化的に関係のある抗生物質であることがわかった。JH1000由来の変異体株JH1005由来の下記に示される遺伝子配列は、スタフィロコッカス・エピエルミディスから以前に配列決定された遺伝子であるepiA、epiB及びepiDに高度の相同性を有する配列が含まれ、抗生物質エピデルミンの生合成に関係していることがわかった。本明細書に示されるlanAとlanBの遺伝子は、抗生物質エピデルミンと関連があるepiAoとepiBの遺伝子とほぼ同じであると思われる。
【0019】
本発明の抗生物質ポリペプチドミュータシン1140は、未変性ホスト生物体、即ち、レンサ球菌生物体が培養内で増殖された培養液から単離され、続いてポリペプチド系抗生物質が培養液から単離される。更に、下記のlanAとlanBのコード配列の提示は、他のレンサ球菌種又は他の細菌種の株に形質転換される配列をコードしている人工遺伝子の構築を可能にする。ミュータシン1140抗生物質を生産する2種のレンサ球菌株は、受託番号55676(JH1140)及び55677(JH1000)としてアメリカン・タイプ・カルチュア・コレクション、メリーランド州ロックビルに寄託されている。ミュータシン1140抗生物質はこれらの菌株、又はレンサ球菌種の他の関連株から回収され、ミュータシン1140を合成する遺伝的能力が下記の配列番号1〜4からの情報を用いて導入される。
【0020】
ミュータシン1140の生産表現型を新しい株に導入することの潜在的複雑さは、ペプチドがホスト株内の他の遺伝要素により翻訳後修飾を受けるという事実である。上記のように、下記に示されるlanB遺伝子は翻訳後修飾に必要であるが十分な遺伝成分ではない。他の翻訳後修飾遺伝子は、上記の寄託したJH1140株のゲノム内に含まれている。ミュータシン1140コンピテントホストからのDNAを他のレンサ球菌株にランダム型遺伝子伝達実験を行うことにより、他の遺伝子成分が下記に示されるlanA及びlanBのほかに未変性産生レンサ球菌ホスト株の産生したミュータシン1140の完全成熟型及び生物活性型を得るために必要であるものが容易に同定される。その操作は当該技術において通常の技術レベルの範囲である。同定されると、これらの他の遺伝子成分はlanA及びlanBと共にミュータシン1140を生産する新しいホストに導入される。
【0021】
ミュータシン1140が生体外で合成されることも特に予想される。多くの手法は、相対する従来の有機化学的手法によるペプチド分子の合成に見られる。例えば、固相ポリペプチド合成はペプチドの生成を可能にし、その技術はミュータシン1140のサイズのペプチドが微生物ホストの外部で容易に合成される点まで発展した。
【0022】
ミュータシン1140抗生物質は抗生物質として一般に有効であることが予想される。抗生物質がヒト口腔に存在する一般のレンサ球菌株によって生産されるので、ヒト種に比較的非毒性であると予想される。この結論は、哺乳動物に全く非毒性であることが既知であるエピデルミンのような既存の抗生物質と同じ特性によって更に支持される。使用方法においては、ミュータシン1140は、微生物の発育を阻止することが所望される領域に適用される。担体は、抗生物質の送達を援助するために用いられる。その送達においては、ランチバイオティックの有効量を送達することが所望され、その有効量はランチバイオティック量が所望の微生物阻止レベルを得る量を求める経験的試験により容易に求められる。
【0023】
実施例1−ランチバイオティックの精製
次の手順を用いてストレプトコッカス・ミュータンスJH1140からランチバイオティックを精製した。
0.5%LEアガロース(SeaKem)を含むトッド・ヒューイトブイヨン(THB;Difco)の4リットルのバッチを滅菌し、90mmのペトリ平板に注入した。その平板を37℃で一晩乾燥した。ブレーンハートインフュージョンスタータープレート上のJH1140の純粋培養物を用いて3mlのTHBに接種し、細胞浮遊液を10秒間撹拌した。約0.3mlの細胞浮遊液をBHI寒天平板の表面上に塗り広げ、ろうそくびん中37℃で一晩インキュベートした。
10叉の接種器をエタノール火炎滅菌し、これを用いて上記のように調製した塗沫平板からのJH1140を上記のように調製した平板の均一な間隔をとった穿刺に接種した。平板をろうそくびん中37℃で72時間インキュベートした。寒天を平板全体から擦り取り、遠心びんに入れた。そのびんを-20℃で一晩貯蔵した。
【0024】
次に、そのびんをソルバールRC2B遠心機で4,000rpm、室温において60分間、次に8,000rpmで30分間遠心分離した。上清を回収し、ブッフネル漏斗でワットマン#1ろ紙を通過させた。
【0025】
4リットルのビーカー中のろ過した抽出液(約3,000ml)に100mlのクロロホルムを加えた。その溶液をマグネチックスターラー上に置き、高速で120分間撹拌した。撹拌棒を取出し、溶液を一晩静置した。
【0026】
水(上)層を吸引し、捨てた。乳白色の綿状物を含むクロロホルム層を50mlの三角遠心管に分割し、約4,000rpmで8分間遠心分離した。水性残留物を吸引して除去した。透明なクロロホルム層をパスツールピペットを用いて取出し、綿状物を得、これを5mlのクロロホルムで2回洗浄した。クロロホルムを窒素ガス流を用いて綿状物から蒸発させ、その管をこのプロセス中45〜50℃の水浴中に入れて蒸発を促進させた。
【0027】
乾燥した残留物を0.5mlの50%エタノールに溶解し、溶解しない物質を13,000×g、室温で2分間遠心分離により除去した。次に、ランチバイオティックを含む透明画分を使用するまで-20℃で貯蔵した。
【0028】
実施例2−ランチバイオティック活性のバイオアッセイ
ランチバイオティックの抗菌活性を次の手順により求めた。
【0029】
5mlのTHBにS.ラッタス(rattus)株BHT-2(1mg/mlストレプトマイシンに対して耐性がある)を接種し、37℃で放置しながら一晩発育させた。ランチバイオティック活性を試験すべき0.02mlの画分をマイクロタイターウェル内で蒸留水で2倍に連続希釈した。BHIブイヨン、0.75%寒天、1mg/mlストレプトマイシン、及び上からの1:10,000希釈S.ラッタスBHI-2一夜培養物を含む上層寒天を42℃で調製し、0.2mlを各マイクロタイターウェルにピペットで分注した。寒天を固化させるために室温で5分後、平板を37℃で一晩インキュベートした。
【0030】
最少阻止濃度(MIC)を目視検査によりS.ラッタスBHT-2の発育を阻止する試験画分の最大希釈の逆数として求めた。
【0031】
実施例3−ランチバイオティックの活性スペクトル
ミュータシン1140を産生する株の単コロニーをブレーンハートインフュージョン培地に穿刺接種し、ろうそくびん中37℃で一晩インキュベートした。指示株の3滴のトッド・ヒューイトブイヨン一夜培養物を3mlの溶融した上層寒天と混合し、平板の表面上に均一に注いだ。更に24時間インキュベートした後、試験株の周囲の透明ゾーンを測定した。
【0032】
種々の細菌の代表的な株について重層法を用いることによりJH1140の産生したミュータシン1140の阻害活性に対する感受性を試験した。S.ミュータンスのほかに、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、及びアクチノマイセス(Actinomyces)種を含むたいていのグラム陽性菌が感受性のあることがわかった。阻害因子は、試験した125のうち124のS.ミュータンスを阻害した。グラム陽性菌は、ミュータシン1140による阻害に対していつも耐性があった。次の表は、ランチバイオティックについて見られた活性スペクトルを纏めたものである。部分的に精製したミュータシン1140は、上記のように調製した標的株の菌叢に5μlの試料をスポットすることにより証明したJH1140の示した活性スペクトルと同じであった。これも表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
初期定常期中にのみ検出できる量で阻害因子が生産され、JH1140のトッド・ヒューイトブイヨン培養物から回収された。透明ゾーンから採取した白金耳量の寒天が無菌であることがわかったので他のS.ミュータンス株に対する阻害因子の作用は殺菌作用であった。無細胞培養液の阻害活性を試験した条件下でトリプシンで処理することにより完全に不活性化した。トリプシンインヒビターを反応混合液に100μg/mlの濃度で混合するとこの不活性化が妨げられた。100mg/mlのプロナーゼで処理することにより阻害活性が約50%不活性化された。高い濃度のプロナーゼ(250μg/ml)又は長時間処理(1時間)がバクテリオシン活性の完全な不活性化をもたらした。DNase I、RNase A、リパーゼ、サーモリシン、及びリゾチームによる不活性化に対して完全に耐性があることがわかった。本実験により示されたインヒビターのタンパク様の種類は、バクテリオシンの広範囲ファミリーに包含するために形式的に認定される。本バクテリオシンポリペプチドのアミノ酸配列を求めた。
【0035】
実施例4−ランチバイオティックペプチドの確認
化学誘導体化と電気噴霧イオン化質量分光法の組合わせによりランチバイオティック中の修飾アミノ酸の総数に対する情報が求められる。エタンチオール誘導体化ミュータシン1140をエドマン分解すると次の表に示される結果が得られた。
【0036】
この手順をMezerら,(1994)Analyt.Biochem.223:185-190に記載されるように行った。
【0037】
【表2】

これらの分析から図1に示される化学構造が示された。
【0038】
実施例5−遺伝分析
ランチバイオティックを生産する株の遺伝分析を行った。分析は、ストレプトコッカス・ミュータンスとエシェリキア・コリ(Excherichia coli)双方の温度依存性複製のラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)潜在プラスミドpWV01のrepA(ts)誘導体であるプラスミドpTV1-OKを用いた。プラスミドは、レンサ球菌のエリスロマイシン耐性を与えるトランスポゾンを有する。トランスポゾン突然変異誘発をpTV1-OKを保有するランチバイオティック産生株JH1005について行った。エリスロマイシン耐性クローンを15μg/ml抗生物質を用いてBHI寒天上に選択し、次に抗生物質を含まない同じ培地に穿剌接種した。ろうそくびん中37℃で一晩インキュベートした後、平板にBHT-2 1mlあたり約106コロニー形成単位を含む3mlの上層寒天を重層した。BHT-2菌叢の発育阻止を生じなかった穿刺したクローンを回収し、エリスロマイシンとの培地上に画線することにより精製した。
【0039】
ランチオバイオティック生産に関与する遺伝要素にトランスポゾンをもったこれらの変異体から染色体DNAを単離し、Tn917挿入断片に隣接するDNAをエシェリキア・コリ株MC1061の中へクローン化した。隣接するDNAをアプライドバイオシステムズモデル373A DNAシークエンサーを用いてアプライドバイオシステムズの発表したTaqダイデオキシターミネーターとダイプライマーサイクルシークエンシングのプロトコールを用いてフロリダ大学ICBRで配列決定した。相同性サーチは、BLASTプログラムを用いて回収した配列により行った。lanA及びlanBと称する回収した配列を下記に配列番号1及び配列番号2として示す。これらの配列は、epiA及びepiBに対して相同性を有することがわかった。これらのDNA配列のオープンリーディング配列により、下記に配列番号2及び配列番号4に示されたタンパク質が生産される。
【0040】
実施例6−製剤及び投与
本発明の化合物、ポリペプチド、及びポリヌクレオチドは、種々の非治療及び治療用途に有効である。試験から、本発明の化合物、ポリペプチド、及びポリヌクレオチドが生化学プローブ又は細菌発育を制御することに有効であることは明らかである。
新規な化合物及びそれを含む組成物の治療用途は、適切な治療法及び当業者に現在又は予想して既知の手法によって達成されるように企図される。更に、本発明の化合物は他の有効な化合物及び組成物の調製のための出発物質又は中間体としての使用がある。
【0041】
上記の指示においてホストへの用量投与は、感染症の同定、必要とするホストの種類、年齢、体重、全身状態、あるとすれば同時治療の種類、治療の回数、及び治癒比に左右される。
【0042】
本発明の化合物は、医薬的に有効な組成物を調製する既知の方法に従って処方される。周知でありかつ当業者に容易に入手できる多くの原料における処方が詳述される。例えば、E.W.Martinによるレミントンの薬局方には、本発明に関連して用いられる製剤が記載されている。一般に、本発明の組成物は、生物活性化合物の有効量を適切な担体と合わせて組成物の効果的な投与を促進するように処方される。
【0043】
本明細書に記載された実施例及び実施態様が単に例示のためであること及びその観点で様々な修正又は変化が当業者に示唆されかつ本出願の真意及び範囲内並びに後記請求の範囲の範囲内に含まれることは理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のポリペプチドの提唱した二次構造を示す図である。アミノ酸の略号は、ala-S-ala=ランチオニン;abu-S-ala=3-メチルアンチオニン;dha:α,β-ジデヒドロアラニン;dhb=α,β-ジデヒドロブチリンが含まれる。C末端システインを19位のdhaに付加し、酸化してS-アミノビニル-D-システインを得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に細菌ホストを含まない精製したランチバイオティックミュータシン 1140を含む物質の組成物。
【請求項2】
ランチバイオティックミュータシン1140及び薬学的に許容しうる担体を含む 医薬製剤。
【請求項3】
その中でつくられた該ホストを含まないランチバイオティックミュータシン 1140の精製した製剤。
【請求項4】
請求項3記載の製剤及び担体から構成される歯磨き剤。
【請求項5】
配列番号2のタンパク質の発現をコードしているタンパク質コード配列を含 む精製したDNA配列。
【請求項6】
請求項5記載のDNA配列で形質転換した細菌ホスト。
【請求項7】
該細菌ホストがストレプトコッカス種である、請求項6記載の細菌ホスト。
【請求項8】
配列番号4のタンパク質の発現をコードしているタンパク質コード配列を含 む精製したDNA配列。
【請求項9】
請求項8記載のDNA配列で形質転換した細菌ホスト。
【請求項10】
該細菌ホストがストレプトコッカス種である、請求項9記載の細菌ホスト。
【請求項11】
配列番号1と配列番号2のDNA配列で形質転換した細菌ホスト。
【請求項12】
微生物の発育を制御する方法であって、微生物の発育を制御することが所望 される領域にランチバイオティックミュータシン1140の有効量を適用すること を特徴とする、前記方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−28050(P2009−28050A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256698(P2008−256698)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【分割の表示】特願平11−503143の分割
【原出願日】平成10年6月9日(1998.6.9)
【出願人】(508295410)ユニバーシティ オブ フロリダ (1)
【Fターム(参考)】