説明

新規な有機シリル化合物、およびその製造方法

【課題】 末端にトリアルコキシシリル基が結合した非対称構造の新規な有機シリル化合物およびその簡便かつ高収率な製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式(2)
【化2】


(式中、Xは芳香環または複数の芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表し、Xは置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から独立して選択される置換基で置換されていてもよい)で表わされる芳香族アルデヒド類を、
一般式(3)
【化3】


(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なってもよい)で表わされるウィティッヒ反応試剤と塩基の存在下で反応させることを特徴とする非対称構造の有機シリル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する有機シリル化合物、その製造方法、およびその用途に関する。本発明の有機シリル化合物は、半導体やガラス等の無機系または有機系材料の基板上に良質で安定な導電性有機単分子薄膜を構成することができるので、半導体デバイス、分子デバイス、有機トランジスタ等の広範な用途に用いられることができる。また、本発明によれば、かかる有機シリル化合物の簡便かつ高収率な製造方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパターンは微細化しており、回路の集積度も増々高くなっていく傾向にある。従って、数ナノメートル(nm)〜数十nmの薄い導電性薄膜を形成する技術の確立が望まれている。このような薄い導電性薄膜は、規則性の高い分子膜によって実現できる。これまで半導体上に導電性薄膜を形成する技術としては、薄膜の構成物質またはその前駆体を基板の表面に塗布して基板を回転させるスピンコート法、LB(Langmuir Blogett)法、真空中で処理ガスを熱、電界等で分解して気相反応を起こさせるCVD(Chemical Vapor Deposit(化学蒸着))法などが知られている。
【0003】
しかしながらスピンコート法では、形成される膜厚は最小でも数百nmであり、また、形成される薄膜の分子構造を制御することが難しい。LB法では薄膜の構成物質の分子内に親水性基と疎水性基の両方が存在する必要があり、これらを有さない分子にはLB法は適用できない。またCVD法は、比較的高分子量の化合物や熱安定性の低い化合物には適用できない。特に、分子が導電性を発現するには比較的長い共役系を必要とするため分子量が数百以上になることが一般的であるが、かかる場合にCVD法を適用することは極めて難しい。
【0004】
以上の理由からスピンコート法及びCVD法では、規則性の高い導電性単分子膜を形成することは実質的に不可能である。一方LB法では一様な規則性のある膜を作成することは可能であるが、パターニング等の微細加工を分子レベルで行うことは不可能である。そこで近年、有機分子を用いて自己組織化(Self Assembling)薄膜(以下、SA薄膜と称する)を形成させる方法が提唱されている。この方法によって形成されるSA薄膜は有機シリル化合物などの有機分子の一部を基板の一部の表面の官能基と結合させたものであり、極めて欠陥が少なく、かつ高い秩序性をもった薄膜である。SA薄膜の場合、薄膜の構成分子と基板との相互作用により膜と基板との間の結合を形成するため、分子レベルでの微細加工が可能である。また、LB膜が物理吸着で基板に付着しているのに対し、SA膜は化学吸着又は化学結合により基板に結合しているため、膜は作成後も安定である。しかしながらSA薄膜を形成することができる好適な有機シリル化合物およびその製造方法については研究が立ち遅れているのが実情である。
【0005】
例えば、下記の非特許文献1には低分子量のオリゴチオフェン類を強塩基の存在下にトリアルコキシシリルハロゲン化合物と反応させてシリル化合物を合成する方法が記載されているが、この合成方法によって製造される化合物はいずれもオリゴチオフェン類の両末端にシリル基が導入された対称構造の有機シリル化合物である。有機シリル化合物と基板との結合は末端のトリアルコキシシリル基を介して行われるため、導電性薄膜を構成する有機シリル化合物は一方の末端のみにトリアルコキシシリル基が導入された非対称の構造を有することが好ましい。しかし、非特許文献1に記載の合成方法では非対称構造の化合物は得られない。
【0006】
また、下記の非特許文献2にはアリレンビニレン系のシリル化合物を、ハロゲン化芳香族化合物とスチレン型化合物のヘック型クロスカップリング反応により合成する方法が記載されているが、この合成方法によって得られる化合物の構造は下記一般式(4)
【化4】

(式中、R,R’はC1〜C6の低級アルキル基を表わし、ArはC6〜14の芳香族部分構造を表わす)に示すようにシリル基が結合している末端とは逆の末端にリン酸エステル基が結合したものである。リン酸エステル基の加水分解され易い性質は、このアリレンビニレン系シリル化合物を活性な水酸基を有する基板上に製膜処理した場合に親水性のリン酸基が局所的に発生する原因となり、均一な膜を形成する妨げとなる。さらにこの膜上に疎水性の導電性化合物を積層すると親水性と疎水性の相違から接合面に局所的な欠陥が生じることになり、膜構造の乱れが導電性を妨げる原因となる。
【非特許文献1】Polymer Reprints,2000,41(1),600
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,40,5855−5858(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は末端にトリアルコキシシリル基が結合した非対称構造の新規な有機シリル化合物およびその簡便かつ高収率な製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、かかる有機シリル化合物を合成すべく鋭意研究を重ねた結果、前記の公知文献に記載された従来のシリル基導入法とは異なるシリル基導入法を用いる新規な合成方法によって簡便かつ高収率で目的とする非対称構造の有機シリル化合物が得られることを見いだし、遂に本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明によれば、一般式(1)
【化1】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なっていてもよく、Xは芳香環または複数の芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、Xは置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から独立して選択される置換基で置換されていてもよい)で表わされることを特徴とする有機シリル化合物が提供される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(1)中のXは、C10〜C50の炭化水素系芳香環類、C4〜C20の含ヘテロ芳香環類、またはC10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類からなる群から独立して選択される二種以上の成分が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、前記C10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類は各々独立して、置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から選択される置換基で置換されてもよい。
【0011】
また、本発明によれば、一般式(2)
【化2】

(式中、Xは一般式(1)で定義したものと同じ意味を有する)で表わされる芳香族アルデヒド類を、
一般式(3)
【化3】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なってもよい)で表わされるウィティッヒ反応試剤と塩基の存在下で反応させることを特徴とする一般式(1)の有機シリル化合物の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、上記反応は、四級アンモニウム塩類、クラウンエーテル類、およびホスファゼン類からなる群から選択されることが好ましい相間移動触媒の存在下に行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、規則性の高い導電性薄膜を大量に作成するための基本原料となる非対称構造の有機シリル化合物を簡便かつ高収率に製造することができる。
【0014】
また、本発明の有機シリル化合物は、一方の末端のみにトリアルコキシシリル基が結合した非対称の直鎖状π−共役系を基本構造としているため、末端のトリアルコキシシリル基を介してガラス等の基板表面と容易に結合すると同時に規則的に配列して稠密なSA薄膜を形成することができる。また、このπ−共役系は芳香環、含ヘテロ芳香環または複数の芳香環、含ヘテロ芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造で構成されているため、形成された薄膜は導電性に優れる。さらに、本発明の有機シリル化合物はシリル基が結合している末端とは逆の末端に芳香環または疎水性置換基を有する芳香環が結合しているため、容易に加水分解され難く、薄膜表面は極めて疎水性の構造となるため、疎水性化合物同士の親和性を利用してオリゴチオフェン、ポリチオフェン、オリゴピロール、ポリピロール、ペンタセン、オリゴフェニレン、ポリフェニレン、フェニレンビニレンポリマー等の疎水性導電性化合物を薄膜上に積層することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有機シリル化合物は、上記一般式(1)を有する化合物であり、一方の末端のみにトリアルコキシシリル基が結合した非対称の直鎖状π−共役系を基本構造とする。本発明の有機シリル化合物において、π−共役系を構成する一般式(1)中のXで表わされる部分構造は芳香環、含ヘテロ芳香環または複数の芳香環、含ヘテロ芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、例えば以下の式(5)

(式中、Rはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルを表わし、A,B,CはC6以上の炭化水素系芳香環類、またはC4以上の含ヘテロ芳香環類を表わし、P,Qは炭素系2重結合または炭素系3重結合を表わし、r,sは0または1を表わす)で示されるπ−共役系構造のものである。
【0016】
かかる有機シリル化合物の代表例は下記の表1に示されるようなものである。ただし、本発明の有機シリル化合物はこれらに限られるものではなく、例えばC10〜C50の炭化水素系芳香環類としてフェニル、ビフェニル、トリフェニル、テトラフェニル、ペンタフェニル等のフェニレンオリゴマーや、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、オクタセン等のアセン系化合物を有し、C4〜C20の含ヘテロ芳香環類としてピリジン、キノリン、アザアントラセン、キナクリジン等の含窒素芳香環類や、チオフェン、ベンズチオフェン、ジベンゾチオフェン、ビチオフェン、テトラチオフェン、ヘキサチオフェン等の含硫黄芳香環類を有する化合物を広く対象とすることができる。
【0017】
【表1】



【0018】
本発明の有機シリル化合物は、一般式(2)
【化2】

(式中、Xは一般式(1)で定義したものと同じ意味を有する)で表わされる芳香族アルデヒド類を、
一般式(3)
【化3】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なってもよい)で表わされる新規なウィティッヒ反応試剤と塩基の存在で反応させることにより製造されることができる。その反応式を以下の式−Iに示す。

【0019】
上記反応に使用される新規なウィティッヒ反応試剤(3)の使用割合は、一般式(2)で表されるアルデヒド類1重量部に対し、0.9〜2.0重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜1.2重量部である。
【0020】
上記反応においては、反応活性種の炭素アニオンを発生させるために、塩基の存在下で反応を行う。上記反応に使用することができる塩基としては、n−BuLi、t−BuLi、MeLi、LiH、NaH、KH、MeOLi、MeONa、EtONa、t−BuONa、MeOK、EtOK、t−BuOK、金属Li、金属Na、金属K、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。これらの塩基は1種を単独で使用してもよく、2種以上を同時に使用してもよい。塩基の使用割合は、一般式(3)で表わされるウィティッヒ反応試剤1重量部に対し、0.8〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.9〜3重量部である。
【0021】
本発明の製造方法では、必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレンクリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は十分に乾燥および脱酸素して用いることが好ましい。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を同時に使用してもよい。
【0022】
溶媒の使用割合は、一般式(2)で表されるアルデヒド類1重量部に対し、1〜100重量部であることが好ましく、さらに好ましくは3〜50重量部である。
【0023】
本発明の有機シリル化合物の製造方法の反応は、一般的には−60〜200℃の温度、および常圧〜加圧の圧力の反応条件で行うことができるが、操作の容易性の観点からは反応条件は常圧下、−30〜120℃であることが好ましい。また、反応時間は通常0.1〜50時間程度であり、好ましくは0.5〜10時間程度である。
【0024】
反応生成物の単離方法としては抽出、晶析、もしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってから抽出や晶析操作を用いることが適当である。また、高純度の目的物を得るため、必要によっては単離物にさらに再結晶化、カラムクロマトグラフィー、昇華精製などの精製操作を加えることができる。
【0025】
本発明の製造方法では、ウィティッヒ反応試剤(3)と芳香族アルデヒド類(2)との反応は触媒の不存在下でも進行するが、目的とする有機シリル化合物(1)を容易かつ高収率で得るためには、反応を相間移動触媒の存在下で行うことが好ましい。本発明においては、相間移動触媒は前記塩基の炭素アニオン発生作用を制御する役割を有する。
【0026】
上記反応に使用できる相間移動触媒としては従来公知の相間移動触媒であればいかなるものも用いることができるが、例えばテトラN−ブチルアンモニウムブロミド、N−ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、N−ベンジルトリメエチルモニウムブロミドなどの四級アンモニウム塩類、18−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、5,6−ベンゾ−4,7,13,16,21,24−ヘキサオクサ−1,10−ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサンなどのクラウンエーテル類、[(MeN)P=N]]OH、[(MeN)P=N]]Cl、[(MeN)P=N]]Brなどのホスファゼン塩を用いることができる。
【0027】
相間移動触媒の使用割合は、一般式(2)で表される芳香族アルデヒド類1モルに対し、0.00001〜0.1モルであることが好ましく、さらに好ましくは0.0001〜0.05モルである。相間移動触媒の使用割合が0.00001モル未満であると反応が十分に進行しなくなるおそれがあり、一方0.1モルを超えると経済的ではなくなるおそれがある。
【0028】
上記一般式(2)で表される芳香族アルデヒド類は、市販試薬として容易に入手することができ、あるいは公知文献(例えば実験化学講座15,有機化合物の合成III,第1頁〜第152頁(日本化学会 2003年第5版)、特開昭61−215387号公報、特開平7−2665号公報)を参考に容易に合成することができる。
【0029】
上記一般式(3)で表わされる新規なウィティッヒ試剤は、一般式(6)
【化6】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同じであっても異なっていてもよく、Yはハロゲン原子を表わす)で表わされるハロゲン化ベンジル類を、
一般式(7)
【化7】

(式中、RはC1〜C6の低級アルキル基を表わす)で表わされるホスファイト類と反応させることにより容易に合成することができる。
【0030】
なお、上記一般式(6)のハロゲン化ベンジル類は、
一般式(8)
【化8】

(式中、YおよびZ〜Zはハロゲン原子を表わし、Z〜Zは同一であっても異なっていてもよい)で表わされるハロゲン化ベンジル類と、
一般式(9)
【化9】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同じであっても異なっていてもよい)で表わされるオルトギ酸エステル類の反応を、酸触媒の存在下で行うことによって容易に合成することができる。
【0031】
前記酸触媒は系外から添加するか、または原料のハロゲン化ベンジル類(8)とアルコール類を反応させることにより系内で発生させることができる。酸触媒を系外から添加する場合、使用される酸触媒はHF,HCl,HBr,HI,AcOH,トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のプロトン酸であり、その使用割合はオルトギ酸エステル類(9)1重量部に対し、0.0001〜0.05重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.0001〜0.1重量部である。酸触媒を系内で発生させる場合、使用されるアルコール類はメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール等であることができ、その使用割合はオルトギ酸エステル類(9)1重量部に対し、0.0005〜1.0重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.0005〜0.1重量部である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の内容を実施例により具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
参考例1:4−トリエトキシシリルベンジルクロリド(一般式(6)のハロゲン化ベンジル類)の合成
窒素で置換した四つ口フラスコにオルトギ酸エチル22.2g(150mmol)、p−トリクロロシリルベンジルクロリド19.5g(75mmol)を入れ、次いで塩化水素ガス(3mmol)を氷浴下にバブリングした。5〜40℃で2時間攪拌し続いて40〜55℃で1時間攪拌し、H−NMRで原料消失を確認した。反応終了後、過剰のギ酸エチルを減圧除去し、液体の目的物21.0g(収率97%)を得た。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl:δ)1.32(t,6H),3.94(q,6H),4.67(s,2H),7.47(d,2H),7.77(d,2H)
【0034】
参考例2:4−トリエトキシシリルベンジルクロリド(一般式(6)のハロゲン化ベンジル類)の合成
窒素で置換した四つ口フラスコにオルトギ酸エチル22.2g(150mmol)、p−トリクロロシリルベンジルクロリド19.5g(75mmol)を入れ、次いでエタノール0.69g(15mmol)を氷浴下に滴下した。続いて45〜55℃で1時間攪拌し、H−NMRで原料消失を確認した。反応終了後、過剰のギ酸エチルを減圧除去し、液体の目的物21.2g(収率98%)を得た。
【0035】
参考例3:4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル(一般式(3)のウィティッヒ反応試剤)の合成
窒素で置換した四つ口フラスコに参考例1で合成した4−トリエトキシシリルベンジルクロリドの濃縮物21.2g(74mmol)を入れ、これにトリエチルホスフェート24.4g(147mmol)を加えた。次いで155〜165℃で9時間攪拌し、H−NMRで原料消失を確認した。反応終了後、過剰のトリエチルホスフェートを減圧除去し、液体の目的物28.5g(収率99%)を得た。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl:δ)1.30(t,6H),1.31(t,9H),3.22(d,2H),3.93(q,6H),4.01−4.15(m,4H),7.38−7.43(m,2H),7.70(d,2H)
【0036】
実施例1
表1の化合物No.5:2−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]テトラセンの合成
窒素で置換した四つ口フラスコにナトリウムエトキシド1.36g(20mmol)、18−クラウン−6 0.26g(0.1mmol)、テトラヒドロフラン(30ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル5.85g(15mmol)および2−ホルミルテトラセン2.56g(10mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(200ml)を−15〜−10℃の冷却下に滴下した。次いで−10〜−5℃で3時間、さらに10〜20℃で2時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、樹脂状の目的物2.21g(収率45%)を得た。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl3:δ)1.22(t,9H),3.84(q, 6H),6.87 (d,H),6.96 (d,H), 7.30−7.50(m,7H),7.80−8.00(m,6H),8.15−8.35(m,2H)
【0037】
実施例2
表1の化合物No.11:3−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]キノリンの合成
窒素で置換した四つ口フラスコにナトリウムエトキシド1.36g(20mmol)、18−クラウン−6 0.26g(0.1mmol)、テトラヒドロフラン(30ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル5.85g(15mmol)および3−ホルミルキノリン1.57g(10mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(50ml)を−15〜−10℃の冷却下に滴下した。次いで−10〜−5℃で1時間、さらに10〜20℃で1時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、樹脂状の目的物2.79g(収率71%)を得た。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl3:δ)1.22(t,9H),3.84(q,6H),6.86(d,H),6.96(d,H),7.20−7.35(m,4H),7.40(m,H),7.60−7.75(m,2H),8.05−8.30(m,2H),8.92(s,H)
【0038】
実施例3
表1の化合物No.17:5−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]−2、2’−ビチオフェンの合成
窒素で置換した四つ口フラスコにナトリウムエトキシド1.36g(20mmol)、18−クラウン−6 0.26g(0.1mmol)、テトラヒドロフラン(30ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル5.85g(15mmol)および5−ホルミル−2、2’−ビチオフェン1.94g(10mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(20ml)を−15〜−10℃の冷却下に滴下した。次いで−10〜−5℃で1時間、さらに10〜20℃で0.5時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲル(300g)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、黄色油状の目的物2.57g(収率60%)を得た。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl3:δ)1.22(t,9H),3.85(q,6H),6.86(d,H),6.96(d,H),7.01(dd,H),7.06(d,H),7.16−7.22(m,3H),7.45(d,2H),7.64(d,2H)
【0039】
実施例4
表1の化合物No.18:5−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]−5’−オクチル−2,2’−ビチオフェンの合成
窒素で置換した四つ口フラスコにナトリウムエトキシド1.09g(16mmol)、18−クラウン−6 20mg(0.08mmol)、テトラヒドロフラン(40ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル4.68g(12mmol)および5−ホルミル−5’−オクチル−2,2’−ビチオフェン2.45g(8mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(20ml)を−15〜−10℃の冷却下に滴下した。次いで−10〜−5℃で1時間、さらに10〜20℃で0.5時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲル(300g)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、黄色樹脂状の目的物2.91g(収率67%)を得た。その融点およびNMRデータを以下に示す。
融点:60〜61℃[H−NMR](CDCl3:δ)0.86(t,3H),1.20−1.41(m,19H),1.66(t,2H),2.77(t,2H),3.86(q,2H),6.67(d,H),6.83(d,H),6.93(d,H),6.98(dd,2H),7.20(d,H),7.44(d,2H),7.63(d,2H)
【0040】
実施例5
表1の化合物No.19:5−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]−5’−(2−フェニルビニル)−2,2’−ビチオフェンの合成:
窒素で置換した4つ口フラスコにナトリウムエトキシド1.36g(20mmol)、18−クラウン−6 0.026g(0.1mmol)、テトラヒドロフラン(30ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル5.85g(15mmol)、5−ホルミル−5’−(2−フェニルビニル)−2,2’−ビチオフェン2.96g(10mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(20ml)を−5〜0℃の冷却下に滴下した。次いで−5〜0℃で1時間、さらに10〜20℃で0.5時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲル(200g)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、黄色樹脂状の目的物2.74g(収率51%)を得た。その融点およびNMRデータを以下に示す。
融点:142〜148℃[H−NMR](CDCl3:δ1.25(t,9H),3.88(q,6H),6.87(d,H),6.88(d,H),6.95(d,H),6.97(d,H),7.07(d,2H),7.17(d,2H),7.24(t,3H),7.46(d,4H),7.66(d,2H)
【0041】
実施例6
表1の化合物No.20:5−[2−(4−トリエトキシシリルフェニル)ビニル]−5’−[2−(4−オクチルフェニル)ビニル]−2,2’−ビチオフェンの合成):
窒素で置換した4つ口フラスコにナトリウムエトキシド0.68g(10mmol)、18−クラウン−6 0.013g(0.05mmol)、テトラヒドロフラン(30ml)を入れ、これに参考例3で合成した4−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジエチルエステル2.93g(7.5mmol)、5−ホルミル−5’−[2−(4−オクチルフェニル)ビニル]−2,2’−ビチオフェン2.05g(5mmol)を含有するテトラヒドロフラン溶液(20ml)を−5〜0℃の冷却下に滴下した。次いで−5〜0℃で1時間、さらに10〜20℃で0.5時間攪拌し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて原料の消失を確認した。反応終了後、シリカゲル(150g)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、黄褐色樹脂状の目的物1.69g(収率52%)を得た。その融点およびNMRデータを以下に示す。
融点:116〜121℃[H−NMR](CDCl3:δ)0.86(t,3H),1.20−1.29(m,21H),1.58−1.62(m,2H),2.58(t,2H),3.86(q,6H),6.86(d,H),6.93(d,H),6.97(d,H),7.06(d,2H),7.09−7.19 (m,4H),7.36(d,H),7.45(d,H),7.66(d,2H)
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、非対称構造の有機シリル化合物を簡便かつ高収率に製造することができる。かかる非対称構造の有機シリル化合物は、規則性の高い導電性薄膜を大量に作成するための基本原料として、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なっていてもよく、Xは芳香環または複数の芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、Xは置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から独立して選択される置換基で置換されていてもよい)で表わされることを特徴とする有機シリル化合物。
【請求項2】
一般式(1)中のXは、C10〜C50の炭化水素系芳香環類、C4〜C20の含ヘテロ芳香環類、またはC10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類からなる群から独立して選択される二種以上の成分が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、前記C10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類は各々独立して、置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から選択される置換基で置換されてもよいことを特徴とする請求項1に記載の有機シリル化合物。
【請求項3】
一般式(2)
【化2】

(式中、Xは芳香環または複数の芳香環が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、Xは置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から独立して選択される置換基で置換されていてもよい)で表わされる芳香族アルデヒド類を、
一般式(3)
【化3】

(式中、R〜RはC1〜C6の低級アルキル基を表わし、R〜Rは同一であっても異なってもよい)で表わされるウィティッヒ反応試剤と塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項1に記載の有機シリル化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)中のXは、C10〜C50の炭化水素系芳香環類、C4〜C20の含ヘテロ芳香環類、またはC10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類からなる群から独立して選択される二種以上の成分が直接または炭素系2重結合もしくは炭素系3重結合を介して結合した構造を表わし、前記C10〜C50の炭化水素系芳香環類およびC4〜C20の含ヘテロ芳香環類は各々独立して、置換されていなくてもよく、またはアルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、フェニルエチニル、アルコキシアルキル、およびフェノキシアルキルからなる群から選択される置換基で置換されてもよいことを特徴とする請求項3に記載の有機シリル化合物の製造方法。
【請求項5】
反応が相間移動触媒の存在下に行われることを特徴とする請求項3または4に記載の有機シリル化合物の製造方法。
【請求項6】
相間移動触媒が、四級アンモニウム塩類、クラウンエーテル類、およびホスファゼン類からなる群から選択されることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の有機シリル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−191441(P2007−191441A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12343(P2006−12343)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(394004860)ダイトーケミックス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】