説明

新規な樹脂硬化剤

硬化剤が、安定な環状配置に調節できる安定な鎖状配置を有する調節可能な構造単位を含み、環状配置は化学的吸引相互作用を示す2個の末端構成要素を有する鎖状配置の構成要素を含み、2個の末端構成要素を分離することによって環状配置から鎖状配置に戻し調節できる、硬化剤を含む硬化性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な靭性(toughness)と高いガラス転移温度の両方を有する硬化樹脂を提供することができる、新規な樹脂及び硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性樹脂系は広く知られており、様々な技術分野において広範囲の使用がある。これらの系は、樹脂分子と硬化剤との間の反応によって機能する。混和又は加熱などによって活性化されると、硬化剤上の官能基は、樹脂分子上の官能基と反応して、伸長した高分子網目構造を形成する。これは硬化として知られているプロセスである。
【0003】
得られる硬化樹脂は、樹脂の選択、硬化剤の選択、及び使用される硬化の型によって大部分又は完全に決められる物理的性質を有する。これらの1つ又は複数の変数を変えることによって、広範囲の物理的性質を得ることができる。
【0004】
特に有用な物理的性質は、硬化樹脂が機械的に靭性であり、脆性破壊なく衝撃に耐えられることである。このような樹脂は、構造体の製造に関与する場合とりわけ有用である。
【0005】
しかし、靭性のある硬化樹脂は一般にガラス転移温度が低い傾向にあり、そのため構造体に用いるのに不適切になり得ることが知られている。ガラス転移温度を上げるための知られている方法は、材料がより脆性になることを一般に伴い、これは構造体に用いるのにはやはり好適ではない。さらに、脆性樹脂を強化するための知られている方法は、通常ガラス転移温度をやはり低下させる。
【0006】
したがって、構造用途において用いることができるように、機械的に靭性であるがガラス転移温度が高い硬化樹脂系は、公知の系では容易に達成できないと思われる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様において、本発明は、硬化剤が、安定な環状配置に調節できる安定な鎖状配置を有する調節可能な構造単位を含み、環状配置は、化学的吸引相互作用を示す少なくとも2個の末端構成要素を有する鎖状配置の構成要素を含み、2個の末端構成要素を分離することによって環状配置から鎖状配置に調節して戻すことできる、硬化剤を含む硬化性樹脂に関する。
【0008】
良好な靭性及び高いガラス転移温度を有する、このような調節可能な構造単位を含む硬化樹脂を作成することができる。
【0009】
これは、鎖状及び環状である各々の形態が安定であり、そのため高いガラス転移温度をもたらすという理由から、堅くて固体状の硬化環境を提供する調節可能な単位によって達成されると考えられている。しかし、硬化樹脂に、張力、せん断、衝撃、又は屈曲の様式などによって十分に応力が加えられる場合、調節可能な単位はそれ自体、ある形態又は別の形態から調節することが可能であり(例えば、局所環境が加圧の下にあるか、若しくは張力の下にあるかに応じて)、硬化樹脂は破壊されずに応答することができるようになり、そのため硬化樹脂はより優れた靭性を示し、おそらく硬化樹脂の挙動がもたらされる。
【0010】
典型的に、調節可能な構造単位は、硬化剤のバックボーンの不可欠な構成要素を形成する。バックボーンは局所的な加圧又は張力の応力に耐える可能性がより高いので、バックボーンは、上記の利点をもたらすために、調節可能な単位が局所的な応力条件下でそれ自体を調節できるようにする。
【0011】
化学的吸引相互作用は共有結合よりも弱く、そのため硬化性樹脂又は硬化剤に応力が加えられた場合に化学的相互作用が最初に破壊することは重要である。化学的吸引相互作用は様々な形態を取ることができ、水素結合に限定されないが、内部塩、ベタイン、電荷移動相互作用、静電相互作用、又は環状配置に安定性を付与することができる他の非共有結合性の相互作用であってよい。
【0012】
好ましくは、化学的吸引相互作用は水素結合である。このような結合は、窒素、酸素、又はフッ素などの電気陰性の原子に結合している水素原子を伴い、水素は、次いで、近くの窒素、酸素、又はフッ素原子と水素結合を形成する。
【0013】
調節可能な単位がその環状配置において水素結合を形成するためには、調節可能な構造単位が、窒素、酸素、又はフッ素に結合している利用可能な水素、利用可能な窒素、酸素、又はフッ素構成要素を含み、利用可能な水素及び利用可能な窒素、酸素、又はフッ素は3個から10個までの原子構成要素によって分離されているのが好ましい。このように、5個から12個の原子構成要素を有する環状配置は、利用可能な水素と利用可能な窒素、酸素、又はフッ素との間に水素結合を形成することによって形成され得る。
【0014】
好ましい一実施形態において、利用可能な窒素、酸素、又はフッ素は酸素である。利用可能な酸素が1個又は2個の炭素原子単位に結合しているのが典型的であるが、1個の炭素原子単位に二重結合しているのが好ましい。炭素に二重結合している場合、酸素はバックボーンの構成要素ではない。
【0015】
好ましい一実施形態において、利用可能な水素は窒素原子単位に結合している。水素がバックボーンの構成要素でないのは明らかである。
【0016】
調節可能な構造単位の構成要素であることができる構造基の適切な例には、−CO−NH−、−CO−O−、−CHOH−、−CHNH−、−CHSH−が含まれる。とりわけ有用な基は−CO−であり、より詳しくは−CO−NH−及び−CO−O−である。
【0017】
特に好ましい一実施形態は、−CO−単位及び−NH−単位を含む調節可能な構造単位に関し、C及びNは1個から8個の原子構成要素の鎖によって分離されている。
【0018】
上記に鑑みて、化学的吸引相互作用の強度は環状配置に対して安定性をもたらすのに十分であるが、応力が加えられた場合に破壊しない程度に強力ではないものでなければならない。したがって、化学的吸引相互作用は、1kJmol−1から200kJmol−1まで、より好ましくは2kJmol−1から50kJmol−1まで、最も好ましくは5kJmol−1から30kJmol−1までの強度を有する。
【0019】
環状配置は十分に規定され得、2個の明確に特定できる相互作用性の種の間に化学的吸引相互作用を有し得る。しかし、環状構造は、1つを超える特定できる相互作用によって安定化されていてよく、この場合、このような相互作用の各々が上記の強度を有することができる。
【0020】
硬化樹脂の環境において、硬化性樹脂及び硬化剤の分子は互いに非常に接近しており、したがって、調節可能な単位のある配置から別の配置への動きを妨害することがある。したがって、硬化剤が、各々が対応する鎖状配置から1個を超える環状配置を形成することができる場合に有利であることが見出されている。例えば、2個の異なる鎖状配置から2個の環状配置を形成することができる実施形態が好ましい。
【0021】
硬化剤のいくつかの構成要素が1個を超える鎖状構造に属していてよく、したがって、1個を超える環状構造に属することができる。この状況において、硬化剤は、典型的に、どの時点においてもこのような環状配置を形成することしかできない。換言すると、2個の調節可能な単位が存在することができるが、どの時点においても1個しか環状配置であることができない。しかし、これは依然として有利である、というのは、2個のうち1個の利用可能な環状配置を形成する能力があるということは、分子が、近接する分子によって妨害されない1個の環状配置の統計的により高い確率を有することを意味するからである。
【0022】
硬化剤は、その鎖状構造からその環状構造まで調節するので、分子は長さにおける大幅な短縮を受ける。例えば、官能性反応基が窒素を含む場合、硬化剤又は硬化性樹脂がその環状配置からその鎖状配置まで動くので、2個の窒素間の距離は5%から150%まで、好ましくは20%から120%まで増大することができる。
【0023】
本発明は、広範囲の樹脂及び硬化剤に等しく適用される。適切な硬化性樹脂には、エポキシ、ベンゾオキサジン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ビスマレイミド、シアネートエステル、ポリイミド、アゾメチン、ビニルエステル、及びポリカーボネートが含まれる。
【0024】
硬化剤は、適切な硬化性樹脂の官能基と反応するための広範囲の官能性反応基を有していてよい。適切な硬化剤の官能基の例には、アミン、イソシアネート、シアネート、エポキシド、ハロゲン化アシル、カルボン酸、ヒドロキシル、チオール、アルデヒド、ニトリル、クロロスルホニル、ケトンが含まれる。
【0025】
エポキシ樹脂硬化系が好ましく、したがって、硬化剤がアミン官能基を有するのが好ましい。
【0026】
硬化剤は、典型的に、
X1−B−X2
によって表すことができ、式中、X1及びX2の各々は、上記で論じた通り少なくとも1つの官能性反応基を含み、官能性反応基は、例えば芳香族脂環式基又は複素環式基など、堅くて非官能性の環状単位に付着していてよい。例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、シクロヘキサン、ピリジン、フラン、チオフェン、好ましくはベンゼンがある。環状単位は、今度は、アルキル、ハロゲン、エステル、及びエーテルなど、さらなる非反応性官能性を有することができる。B配置(sequence)は、X1及びX2の各々において環状単位に結合している。
【0027】
X1及びX2基上の官能性反応基は、B配置に対して、オルト、メタ、又はパラであってよい。メタ及びパラの位置がより好ましく、メタが最も好ましい。
【0028】
好ましい一実施形態において、硬化剤はX1−B−X2の形態であり、式中、X1及びX2の各々はベンゼン環であり、−NH官能性反応基は、B配置に対してメタ又はパラである。
【0029】
B配置は調節可能な構造単位を含み、広範囲の形態を取ることができる。B配置はバックボーンを含み、バックボーンは、X1をX2に連結する原子構成要素の鎖である。調節可能な単位のいくつか又は全てがバックボーン中に存在する。バックボーンの長さはある程度変化してよく、バックボーンが4個から12個までの原子構成要素の鎖、好ましくは5個から10個の原子構成要素の鎖を含むのが適切である。
【0030】
典型的に、B配置の原子構成要素は、炭素、酸素、イオウ、窒素、リン、及びフッ素からなる原子構成要素から選択される。好ましい一実施形態において、B配置は少なくとも2個の−CO−基を含む。
【0031】
1個から8個までの原子構成要素によって分離されている2個の−CO−NH−基を含むB配置が好ましく、2個から5個までの原子構成要素によって分離されている2個の−CO−NH−基を含むB配置が最も好ましい。
【0032】
1個から8個までの原子構成要素によって分離されている2個の−CO−O−基を含むB配置も好ましく、2個から5個までの原子構成要素によって分離されている2個の−CO−O−基を含むB配置も最も好ましい。
【0033】
B配置が脂環式基、特にシクロヘキサンを含むのが高度に有利であることも見出されている。このような基は、脂環式基の立体配置状態の制限された性質のため、環状配置を安定化することができる。そのようなものとして、これは化学的吸引相互作用を示す2個の末端構成要素の間に位置するのが典型的である。
【0034】
バックボーンが脂環式基において2個の隣接する炭素を含む場合が特に有利である。換言すると、バックボーンの残り及びB配置が、脂環式基上の2個の隣接する炭素に結合している。この配置において、バックボーンの残り及びB配置がエクアトリアル位における両方の炭素、又はアキシアル位における両方の炭素で脂環式基に結合しているのが好ましい。
【0035】
硬化剤は構造上の用途にとりわけ有用である。このような用途において、材料が中程度に高い融点を有するのが有利である。したがって、好ましい一実施形態において、硬化剤は130℃から260℃まで、より好ましくは150℃から240℃の融点を有する。
【0036】
材料は構造上の用途において有用であるので、プリプレグ材の構成要素として特に適する。プリプレグ材は、他の材料の中でも硬化性樹脂及び硬化剤で予め含浸されている繊維構造を含む。典型的に、このようなプリプレグ材の数々のパイルは、所望により「重ね合わせ」(“laid−up”)されており、結果として生じる積層板は硬化されて硬化の複合積層板を作り出している。
【0037】
このように、本発明は、構造化繊維及び本明細書に記載する硬化剤を含む硬化性樹脂を含むプリプレグ材にも関する。
【0038】
硬化は、当技術分野において知られているあらゆる適切な方法において、典型的に、高温、場合により高圧に曝露することによって、行うことができる。
【0039】
しかし、硬化剤は室温又は室温付近で液体であることがあり、これは樹脂トランスファー成形の用途に特に有用である。
【0040】
結果として生じる硬化樹脂は、100℃を超え、好ましくは120℃を超え、より好ましくは140℃を超えるガラス転移温度を有するのが好ましい。
【0041】
本発明を、次に、以下の実施例を参照し、以下の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、環状配置における本発明による硬化剤を示す画像である。
【図2】図2は、鎖状配置における図1に示す硬化剤を示す画像である。
【図3】図3は、その鎖形態においてシクロヘキサン基を有する第1の環状形態における、本発明による別の硬化剤を示す画像である。
【図4】図4は、シクロヘキサン基が舟型である、図3の硬化剤を示す画像である。
【図5】図5は、鎖状配置における図3及び図4の硬化剤を示す画像である。
【実施例】
【0043】
本発明による様々なエポキシ硬化剤を調製した。これらを以下に示す。
【化1−1】


【化1−2】


【化1−3】

【0044】
図1は、MM94力場(force field)を用いてオープンソースシミュレーションソフトウエア「Avogadro」によって生成した硬化剤Aの画像を示す。硬化剤はその環状配置におけるものであり、シミュレーションソフトウエアにおいて安定な配置であることが示された。窒素間の距離は12.85オングストロームである。
【0045】
図2は、同じシミュレーションソフトウエアによって生成した硬化剤Aの別の画像を示す。硬化剤はその鎖状配置におけるものであり、安定な配置であることがやはり示された。窒素間の距離は13.73オングストロームである。
【0046】
図3は、同じシミュレーションソフトウエアによって生成した硬化剤Gの画像を示す。硬化剤は第1の環状配置におけるものであり、シクロヘキサン基はそのいす型におけるものであり、安定な配置であることがやはり示された。この構造は31.05kJ/molのポテンシャルエネルギー(MMFF94力場)を有する。窒素間の距離は7.8オングストロームである。
【0047】
図4は、同じシミュレーションソフトウエアによって生成した硬化剤Gの画像を示す。硬化剤は第2の環状配置におけるものであり、シクロヘキサン基はその舟形におけるものであり、安定な配置であることがやはり示されている。この構造は55.19kJ/molのポテンシャルエネルギー(MMFF94力場)を有する。窒素間の距離は11オングストロームである。
【0048】
図5は、同じシミュレーションソフトウエアによって生成した硬化剤Gの画像を示す。硬化剤はその鎖状配置におけるものであり、安定な配置であることがやはり示されている。この構造は61.4kJ/molのポテンシャルエネルギー(MMFF94力場)を有する。窒素間の距離は16オングストロームである。
【0049】
硬化剤Aの調製
粉砕した3−ニトロベンゾイルクロリド100グラムを、500mlクロロベンゼン中ジアミノエタン15.43g及びトリエチルアミン27.2gを含む撹拌している容器に、室温で30分かけて加えた。38℃の発熱が記録された。温度を1時間、50℃に上げた。生成物を冷却し、ろ過し、アセトン及び水で洗浄し、真空中で乾燥させて非常に淡い黄色粉末66g(72.5%)を得た。このジニトロ化合物65gを取り、1リットルフラスコ中、窒素ブリードさせながら工業用メタノール変性アルコール250ml中に分散させ、活性炭上10%パラジウム3gを加え、2時間かけてヒドラジン水和物50mlを滴下添加することによって還元した。ニトロ化合物を溶解すると混合物は40℃に発熱し、褐色化した。次いで、温度を70℃に上げ、90分間これを維持し、次いで冷却した。
【0050】
現在所望のアミノ化合物Aを含んでいる混合物をろ過し、ろ紙によって保持されている生成物を水中にスラリーにし、希塩酸で完全に溶解するまで固体酸性化した。この溶液をろ過してPd/Cを除去し、ろ液をアンモニア溶液で中和した。分離した白色固体をろ去し、蒸留水で洗浄した。生成物を真空中で乾燥させて、理論値の81%であり融点210℃の粉末44gを得た。
【0051】
他の硬化剤を同様に調製した:硬化剤B、mp240℃;硬化剤C、mp246℃;硬化剤D、mp140℃;硬化剤E、mp120℃。
【0052】
硬化剤BからEを、硬化剤Aと同じやり方で調製した。硬化剤Fは、4−アミノ安息香酸エチルと1,4−ブタンジオールとのエステル交換反応によって調製し、mp208℃の白色粉末として得られるが、硬化剤AからEと同様の方法によって、対応するニトロ化合物の触媒的水素化によって等しく調製してもよい。
【0053】
硬化剤Gの調製
ジニトロ前駆物質を最初に調製した。trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン28.44gを、トリエチルアミン26.4g及びクロロベンゼン300gと一緒に1000mlフラスコ中に秤量した。機械で撹拌しながら、粉末化した3−ニトロベンゾイルクロリド97gを室温で1時間かけて加え、流動性を維持するために必要に応じてさらなるクロロベンゼンを加えた。混合物は30℃に発熱した。混合物を冷却し、ろ過し、IMS及び水で洗浄した。80℃で乾燥させた後、融点266℃の白色粉末71g、収率69%が得られた。
【0054】
上記のジニトロ化合物から、以下の通り、アミンを調製した。1リットルフラスコ中に、ジニトロ化合物68g、IMS250ml、及びカーボン上10%パラジウム(IMS50mlで予め湿らせた)2.7gを配置した。窒素下で効率的に撹拌しながら、ヒドラジン水和物45mlを1時間かけて滴下添加し、次いで、温度を2時間60℃に上げた。生成物を冷却し、ろ過し、IMS及び水で洗浄した。粗製の固体を、温かい希塩酸中に溶解することによって後処理し、次いでろ過してカーボンを除去した。淡黄色のろ液を水酸化アンモニウム溶液で中和し、結果として生じる白色固体をろ過し、水で洗浄し、真空中で乾燥させた。融点274〜276℃の白色粉末が収率90%(52.3g)で得られた。
【化2】

【0055】
硬化剤Hの調製
クロロベンゼン(500ml)中trans−1,2−シクロヘキサンジオール(20g)及びトリエチルアミン(36.5g)から、1時間かけて3−ニトロベンゾイルクロリド(67.09g)をゆっくりと加えることによって、ジニトロ前駆物質を調製した。温度を2時間50℃に上げた。生成物をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去した。ろ液をロータリーエバポレートにかけ、黄色油が得られ、これが結晶化したらろ過し、IMSで洗浄し、融点102〜104℃の白色粉末41g(58%)が得られた。
【0056】
上記の通りジニトロ前駆物質40g、IMS150ml、カーボン上Pd1.53g、及びヒドラジン水和物26mlから、1.5時間かけて加えて、アミンを作成した。さかんに泡が立った。最大発熱を25℃に維持した。次いで混合物を2時間60℃に加熱した。1時間後に白色生成物が堆積し始め、冷却後ろ去した。この固体を希HCl中に抽出し、ろ過してPd/Cを除去した。酸性溶液をアンモニアで中和した。乾燥後、融点137〜139℃の白色固体27g(79%)が得られた。
【化3】

【0057】
硬化剤Iの調製
先のエステル−アミンに関して、ジオールのp−アミノエチルベンゾエートとのエステル交換反応によって、この化合物の調製を試みた。生成物は単離されなかった。ジオールが立体障害を非常に受けているか、又は非常に揮発性のため周囲圧力で反応できないことが想定される。したがって、通常の酸塩化物/アルコールエステル化反応を使用するのが必要であった。
【0058】
1リットルフラスコ中に、クロロベンゼン(500ml)中trans−1,2−シクロヘキサンジオール(50g)、及びトリエチルアミン(91.25g)から、効率的に撹拌しながら、4−ニトロベンゾイル塩化物(167.7g)をゆっくりと1時間かけて加えることによって、ジニトロ前駆物質を調製した。温度は50℃に発熱した。90分間50℃にさらに加熱した後、混合物を冷却し、ろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去した。ろ液をロータリーエバポレーターにかけ、黄色固体を得、これをIMS及び水で洗浄し白色粉末を得、これを真空中で乾燥後、170g(96%)と秤量し、融点124〜126℃であった。
【0059】
上記の通り、カーボン上Pd3gとともに、1リットルフラスコ中、IMS300ml中ジニトロ前駆物質80gからアミンを作成し、ヒドラジン水和物52mlを1.5時間かけて滴下添加した。さかんに泡が立った。反応は43℃に発熱した。次いで混合物を1.5時間60℃に加熱した。30分後に白色生成物が堆積し始め、冷却後ろ去した。この固体を温かい希HCl中に抽出し、ろ過してPd/Cを除去した。酸性溶液を粉砕しながらアンモニアで中和した。水で洗浄し、乾燥させた後、融点175〜178℃の白色粉末59.2g(87%)が得られた。
【化4】

【0060】
硬化樹脂の性質
上記の硬化剤を、エポキシ樹脂との反応について試験した。以下の混合物を調製し、180℃で2時間硬化させた。試験は、TA Instruments DMA上、25℃から250℃まで5℃/分で加熱し、1Hzの周波数を用いて行った。
【0061】
製剤は全て、異なる系の間で行われる比較を可能にする単一の一定のエポキシ換算重量(EW):アミンEWでのものであり、比率は理論上のエポキシ換算重量及びアミンの換算重量値に基づく。
【表1】

【0062】
表は、用いた様々な樹脂の比率及び硬化試料のTgを示す。Tgは記憶モジュール(storage modulus)において低下を開始したときに記録される。
この場合、MY721をジグリシジル−1,2−シクロヘキサンカルボキシレート2.84gとブレンドした。
【0063】
結果として生じる硬化樹脂は柔軟な性質を有しながら、有用なTgが得られた。
【0064】
Araldite MY0600は3−アミノフェノールに由来するトリグリシジルエポキシ樹脂であり、MY721は4,4’−ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体である。両方ともHuntsmanから供給される。DER332はDowによって供給されるビスフェノールAのジグリシジルエーテルである。Rutapox0158はHexionによって供給されるビスフェノールFのジグリシジルエーテルである。
【0065】
用いた硬化性樹脂は以下の構造を有する:
【化5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤が、安定な環状配置に調節できる安定な鎖状配置を有する調節可能な構造単位を含み、環状配置は、化学的吸引相互作用を示す少なくとも2個の末端構成要素を有する鎖状配置の構成要素を含み、2個の末端構成要素を分離することによって環状配置から鎖状配置に調節して戻すことができる、硬化剤を含む硬化性樹脂。
【請求項2】
化学的吸引相互作用が、共有結合よりも弱い、請求項1又は請求項2に記載の硬化性樹脂。
【請求項3】
化学的吸引相互作用が水素結合である、請求項1又は請求項2に記載の硬化性樹脂。
【請求項4】
調節可能な構造単位が、窒素、酸素、又はフッ素に結合している利用可能な水素、及び利用可能な窒素、酸素、又はフッ素の構成要素を含み、利用可能な水素及び利用可能な窒素、酸素、又はフッ素は、3個から10個までの原子構成要素によって分離されている、請求項3に記載の硬化性樹脂。
【請求項5】
利用可能な窒素、酸素、又はフッ素が酸素である、請求項4に記載の硬化性樹脂。
【請求項6】
利用可能な水素が窒素に結合している、請求項4又は請求項5に記載の硬化性樹脂。
【請求項7】
調節可能な構造単位が−CO−構造を含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項8】
調節可能な単位が少なくとも1個の−CO−単位及び少なくとも1個の−NH−単位を含み、C及びNが1個から8個までの原子構成要素の鎖によって分離されている、請求項7に記載の硬化性樹脂。
【請求項9】
調節可能な構造単位が−CO−NH−構造を含む、請求項7又は請求項8に記載の硬化性樹脂。
【請求項10】
調節可能な構造単位が−CO−O−構造を含む、請求項7から9までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項11】
化学的吸引相互作用が、1kJmol−1から200kJmol−1まで、好ましくは2kJmol−1から50kJmol−1まで、より好ましくは5kJmol−1から30kJmol−1までの強度を有する、請求項1から10までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項12】
各々が対応する鎖状配置からの1個を超える環状配置を形成することができる、請求項1から11までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項13】
2個の異なる鎖状配置から2個の環状配置を形成することができる、請求項12に記載の硬化性樹脂。
【請求項14】
硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、硬化剤である場合、アミン官能基を有する、請求項1から13までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項15】
X1−B−X2によって表すことができ、X1及びX2の各々が少なくとも1個の官能性反応基を含み、官能性反応基が強固な非官能性の環状単位に付着しており、B配置がX1及びX2の各々において環状単位に結合しているバックボーンを含む、請求項1から14までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項16】
X1基及びX2基上の官能性反応基がB配置に対してメタ又はパラである、請求項15に記載の硬化性樹脂。
【請求項17】
X1及びX2の各々がベンゼン環であり、−NH官能性反応基がB配置に対してメタ又はパラである硬化剤である、請求項16に記載の硬化性樹脂。
【請求項18】
B配置が少なくとも2個の−CO−基を含む、請求項15から17までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項19】
B配置が、1個から8個の原子構成要素によって分離されている2個の−CO−NH−構造を含む、請求項18に記載の硬化性樹脂。
【請求項20】
B配置が、1個から8個の原子構成要素によって分離されている2個の−CO−O−構造を含む、請求項18に記載の硬化性樹脂。
【請求項21】
B配置が、脂環式基、特にシクロヘキサンを含む、請求項15から22までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項22】
B配置の残りが脂環式基の2個の隣接する炭素に結合している、請求項21に記載の硬化性樹脂。
【請求項23】
バックボーンが4個から12個までの原子構成要素の鎖を含む、請求項15から22までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項24】
130℃から260℃までの融点を有する、請求項1から23までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂。
【請求項25】
繊維構造、及び請求項1から24までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂を含むプリプレグ材。
【請求項26】
請求項1から24までのいずれか一項に記載の硬化性樹脂を硬化するプロセスによって得ることができる硬化樹脂。
【請求項27】
100℃を超えるガラス転移温度を有する、請求項26に記載の硬化樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−516533(P2013−516533A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547547(P2012−547547)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050011
【国際公開番号】WO2011/083329
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(504132032)ヘクセル コンポジット、リミテッド (20)
【Fターム(参考)】