説明

新規な芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群及びその用途

サイクロクラスティカス属細菌の芳香族炭化水素に対する広範な分解能の原因となっている酵素を明らかにし、その酵素を芳香族炭化水素の生化学的変換、分解、浄化に利用する。サイクロクラスティカス属A5株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群、並びにこの遺伝子群を導入・発現した微生物を利用した水酸化された芳香族化合物の製造法及び芳香族化合物で汚染された環境の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、種々の芳香族(芳香環)化合物の分解のキーとなる酵素である芳香環ジオキシゲナーゼ(酸素添加酵素)をコードする遺伝子群、並びにこの遺伝子群を導入・発現した微生物を利用した水酸化された芳香族化合物の製造法及び芳香族化合物で汚染された環境の浄化方法に関するものである。
芳香族化合物の多くは毒性または発癌性を持ち環境中においては汚染物質となる。その一方で環境中には芳香族化合物を栄養源として利用し、資化する微生物が存在する。本発明は、このような微生物が有する酵素遺伝子を利用した環境浄化の分野、及び産業上有用な有機低分子化合物の合成に関するものである。
【背景技術】
環境汚染物質となりうる芳香族化合物の細菌による分解、浄化の研究は、環境問題への関心の高まりとあいまって精力的に行われてきた。これらの研究内容としては、特定の芳香族化合物を特異的に分解する細菌の探索、分解経路の解明、また、分解に関与する遺伝子の単離等が挙げられる。現在までに、多岐にわたる細菌種が芳香族化合物を資化する能力を持つものとして単離されてきた。また、芳香族化合物は複雑な過程を経て水と二酸化炭素にまで分解されることや、この分解に必要な遺伝子は多数存在し、これらは大きなプラスミド上又は染色体DNA上にクラスターを形成する場合が多いことが明らかになってきた。芳香族化合物分解の初発酵素である芳香族化合物オキシゲナーゼ(酸素添加酵素)には、モノオキシゲナーゼとジオキシゲナーゼの2種類があるが、いづれも芳香族化合物分解におけるキー酵素であると考えられている(Harayama,S.,Polycyclic aromatic hydrocarbon bioremediation design. Curr.Opin.Biotechnol.,8,268−273,1997)。
現在までに多くの芳香族(芳香環)化合物ジオキシゲナーゼ[以後、芳香環ジオキシゲナーゼ(aromaticring dioxygenase)と呼ぶ]に関する研究が行われてきた。芳香環ジオキシゲナーゼは、通常、フェレドキシン(ferredoxin)及びフェレドキシンレダクターゼ(還元酵素)(ferredoxin reductase,別名:NAD(P)H−ferredoxin reductase)を構成要素とし、さらにジオキシゲナーゼ本体酵素[大サブユニット(α−サブユニット)と小サブユニット(β−サブユニット)の2つからなる]からなる多成分酵素(multi−component enzyme)である(以後本酵素を「フェレドキシン性の芳香環ジオキシゲナーゼ」と呼ぶ場合がある)。現在では、種々のフェレドキシン性の芳香環ジオキシゲナーゼの例が知られており、それらをコードする遺伝子の構造や機能の解析も実施されている。現在までに単離され解析された代表的な芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子の例を挙げると、トルエン、ベンゼン等の有機溶媒資化細菌シュードモナス・プチダ(Pseudomonasputida)F1株由来のトルエンジオキシゲナーゼ(toluene dioxygenase)遺伝子(zylstra,G.J.and Gibson,D.T.,Toluene degradation byPseudomonasputida F1:nucleotide sequence of thetod C1C2BADE genes and their expression inEscherichiacoli. J.Biol.Chem.,264,14940−14946,1989)、及び、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)NCIB9816−4株由来のナフタレンジオキシゲナーゼ(naphthalene dioxygenase)遺伝子(Resnick,S.M.,Lee,K.,and Gibson,D.T.,Diverse reactions catalyzed by naphthalene dioxygenase fromPseudomonas sp.Strain NCBI 9816. J.Ind.Microbiol.,17,438−457,1996)、及び、ポリ塩化ビフェニル(PCB)分解細菌シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonaspseudoalcaligenes)KF707株由来のビフェニルジオキシゲナーゼ(biphenyl dioxygenase)遺伝子(Furukawa,K.,and Miyazaki,T.,Cloning of gene cluster encoding biphenyl and chlorobiphenyl degradation in Pseudomonas pseudoalcaligenes. J.Bacteriol.,166,392−398,1986)、及び、ノカルディオイデス属(Nocardioides sp.)KP7株由来のフェナントレン(フェナンスレン)ジオキシゲナーゼ(Saito,A,Iwabuchi,T.,and Harayama,S.,A novel phenanthrene dioxygenase fromNocardioides sp.strain KP7:Expression inEscherichiacoli. J.Bacteriol.,182,2134−2141,2000)等が知られている。最近、ノカルディオイデス属KP7株由来のフェナントレンジオキシゲナーゼ遺伝子を始めとするいくつかの芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子を発現した組換え大腸菌を用いて、種々の三環式(多環式)芳香族化合物の水酸化反応が報告された(非特許文献1参照)。(通常、二環式炭化水素であるナフタレン以上が多環式炭化水素と呼ばれており、単環式炭化水素に比べて、分解されにくい傾向がある。)
サイクロクラスティカス(Cycloclasticus)属細菌は、γ−プロテオバクテリアに属する海洋細菌であり、トルエン、エチルベンゼン、−、−、−キシレン、ビフェニル、ナフタレン、フェナントレン、アルキルナフタレン等、多環式を含む多種の芳香族炭化水素を分解できることが知られている(Wang,Y.,Lau,P.C.K.,and Button,D.K.,A marine oligobacterium harboring genes known to be part of aromatic hydrocarbon degradation pathways of soil pseudomonads. Appl.Environ.Microbiol.,62,2169−2173,1996)。また、サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)A5株は、海洋環境に流出した石油に含まれる芳香族化合物(石油系芳香族化合物)、特に多環式芳香族炭化水素の分解に最も主体的な役割を果たす海洋細菌として、本発明者の1人らによって釜石湾より単離されたものである(Kasai,Y.,Kishira,H.,Harayama,S.,Cycloclasticus plays a primary role in the degradation of polyaromatic hydrocarbons released in a marine environment. Appl.Environ.Microbiol.,68,5625−5633,2002)。石油系芳香族化合物の分解におけるサイクロクラスティカス属細菌の有用性にもかかわらず、サイクロクラスティカス属細菌に含まれる芳香環ジオキシゲナーゼやこれをコードする遺伝子の知見は、ほとんど無いのが現状であった。わずかに、Wangらによって単離されたxylC1、xylC2と名付けられた遺伝子(Wang,Y.,Lau,P.C.K.,and Button,D.K.,A marine oligobacterium harboring genes known to be part of aromatic hydrocarbon degradation pathways of soil pseudomonads. Appl.Environ.Microbiol.,62,2169−2173,1996)やGeiselbrechtらによって単離されたビフェニルジオキシゲナーゼ大サブユニット、ナフタレンジオキシゲナーゼ大サブユニットの一部と思われる2種類のDNA断片(非特許文献2参照)などに関する報告があったに過ぎない。
非特許文献1 Shindo,K.,Ohnishi,Y.,Chun,H.−K.,Takahashi,H.,Hayashi,M.,Saito,A.,Iguchi,K.,Furukawa,K.,Harayama,S.,Horinouchi,S.,and Misawa,N.,Oxygenation reactions of various tricyclic fused aromatic compounds usingEscherichiacoli andStreptomyceslividans transformants carrying several arene dioxygenase genes. Biosci.Biotechol.Biochem.,65,2472−2481,2001)。
非特許文献2 Geiselbrecht,A.D.,Hedlund,B.P.,Tichi,M.A.,and Staley, J.T.,Isolation of marine polycyclic aromatic hydrocarbon(PAH)−degradingCycloclasticus strains from the Gulf of Mexico and comparison of their PAH degradation ability with that of Puget SoundCycloclasticus strain. Appl.Environ.Microbiol.,64,4703−4710,1998)。
Geiselbrechtらは、サイクロクラスティカス属細菌がビフェニルジオキシゲナーゼとナフタレンジオキシゲナーゼの2種類のオキシゲナーゼを有しており、これが芳香族炭化水素に対する広範な分解能の原因であると推測した(非特許文献2参照)。しかし、このことは実験的に確認されておらず、サイクロクラスティカス属細菌がどういった理由で多種の芳香族炭化水素を分解できるかについては依然として不明であった。
本発明の目的は、サイクロクラスティカス属細菌の芳香族炭化水素に対する広範な分解能の原因となっている酵素(遺伝子)を明らかにし、その酵素(遺伝子)を用いて、産業上有用な物質への生化学的変換、または、環境毒物の分解、浄化に利用することにある。
【発明の開示】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、サイクロクラスティカス属のA5株という菌株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼが、フェナントレン(phenanthrene)、ナフタレン(naphthalene)、1−メチルナフタレン(1−methylnaphthalene)、2−メチルナフタレン(2−methylnaphthalene)、ジベンゾフラン(dibenzofuran)、ジベンゾチオフェン(dibenzothiophene)、ジフェニルメタン(diphenylmethane)、ビフェニル(biphenyl)などの広範な芳香族化合物の芳香環に水酸基を導入し、これらの化合物の分解における初発酵素になっていることを見出した。サイクロクラスティカス属細菌が広範な基質特異性を示す理由として、Geiselbrechtが複数のジオキシゲナーゼの存在を想定したことからもわかるように、一つの芳香環ジオキシゲナーゼがフェナントレンやナフタレン等の多環式芳香族炭化水素だけでなく、ジフェニルメタンやビフェニル等をも基質とすることは、全く予想外のことであった。さらに本芳香環ジオキシゲナーゼは、1,4−ジメチルナフタレン(1,4−dimethylnaphthalene)、または、1,5−ジメチルナフタレン(1,5−dimethylnaphthalene)を基質とした場合、芳香環ではなくメチル基に水酸基が導入された水酸化産物を高収率で生産することがわかった。この結果は、全く予想外のことであった。特に、1,4−ジメチルナフタレンから得られた(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノールは、樹脂原料、染・顔料原料である1,4−ナフタレンジカルボン酸を、石油成分の1,4−ジメチルナフタレンからバイオプロセスにより製造する場合の重要な合成中間体となる。
本発明は以上のような知見を基に完成されたものである。
即ち、本発明は、(a)乃至(1)に示すペプチドをコードする遺伝子である:
(a)配列番号5記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号5記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド、
(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド、
(d)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号6記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド、
(f)配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド、
(g)配列番号7記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(h)配列番号7記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンとして機能するペプチド、
(i)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンとして機能するペプチド、
(j)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(k)配列番号8記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド、
(l)配列番号4記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド。
また、本発明は、上記の遺伝子のすべて又は一部を導入して得られる微生物であって、芳香族化合物に水酸基を導入できる微生物である。
更に、本発明は、上記微生物を、芳香族化合物を含む培地で培養して培養物又は菌体から水酸化された芳香族化合物を得ることを特徴とする、水酸化された芳香族化合物の製造法である。
更に、本発明は、上記微生物で、芳香族化合物で汚染された環境を浄化することを特徴とする環境の浄化方法である。
更に、本発明は、芳香族化合物を含む培地が、1,4−ジメチルナフタレン又は1,5−ジメチルナフタレンを含む培地であり、水酸化された芳香族化合物が、メチル基が水酸化された芳香族化合物であることを特徴とする、上記の水酸化された芳香族化合物の製造法である。
更に、本発明は、メチル基が水酸化された芳香族化合物が、(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノール、又は(5−メチルナフタレン−1−イル)−メタノールであることを特徴とする、上記の水酸化された芳香族化合物の製造法である。
【図面の簡単な説明】
図1は、サイクロクラスティカス属A5株に由来する芳香環ジオキシゲナーゼが変換する芳香族化合物の例とその変換産物を示す図(化合物1〜化合物7)である。
図2は、サイクロクラスティカス属A5株に由来する芳香環ジオキシゲナーゼが変換する芳香族化合物の例とその変換産物を示す図(化合物8〜化合物9)である。
図3は、サイクロクラスティカス属A5株に由来する芳香環ジオキシゲナーゼが変換する芳香族化合物の例とその変換産物を示す図(化合物10〜化合物13)である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.遺伝子源の海洋細菌サイクロクラスティカス属A5株
目的とする遺伝子群の供給源となった海洋細菌サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)A5株は、岩手県釜石湾から、2−メチルナフタレン、フェナントレン等の多環式芳香族炭化水素の資化菌として単離された(Kasai,Y.,Kishira,H.,Harayama,S.,Appl.Environ.Microbiol.,68,5625−5633,2002)。本A5株は、16SrDNAやgyrB遺伝子の配列の分析により、サイクロクラスティカス属細菌に分類されたものである。本菌はまた、原油中に含まれる多環式芳香族炭化水素であるナフタレン、アルキルナフタレン、フェナントレン、アルキルフェナントレン、ジベンゾチオフェン等を分解することができた。サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)A5株は、平成14年11月15日に寄託されている(受託番号:FERM P−19107)。平成15年10月6日に原寄託よりブタペスト条約に基づく寄託へ移管(国際寄託番号FERM BP−08505)。寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary,National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)、日本国茨城県つくば市東1丁目1番1 中央第6(郵便番号305−8566)。
2.芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群(本発明の遺伝子群)
本発明の遺伝子群は、芳香環ジオキシゲナーゼを構成する4つのサブユニットをコードする4つの遺伝子からなる。4つのサブユニットとは、大(α)サブユニット、小(β)サブユニット、フェレドキシン、フェレドキシンレダクターゼ(フェレドキシン還元酵素)である。
1番目の遺伝子である芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットをコードする遺伝子は、以下の(a)、(b)、又は(c)に示すペプチドをコードするものである。
(a)配列番号5記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(b)配列番号5記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド、(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド。
(a)のペプチドは、サイクロクラスティカス属A5株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能する460アミノ酸配列よりなるペプチド(PhnA1とも呼ぶ)である。ここで、「芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能する」とは、芳香環ジオキシゲナーゼを構成する他の3つのサブユニットと複合体を形成し、芳香環ジオキシゲナーゼ活性を発揮できることをいう。
(b)のペプチドは、(a)のペプチドに、芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能できる程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res.10,6487−6500,1982)などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は、芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能できる限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
(c)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来の芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチドである。(c)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度であり、好ましくは「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度であり、更に好ましくは「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、配列番号1記載の塩基配列により表されるDNAと通常高い相同性を有する。高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
2番目の遺伝子である芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットをコードする遺伝子は、以下の(d)、(e)、又は(f)に示すペプチドをコードするものである。(d)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(e)配列番号6記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド、(f)配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド。
(d)のペプチドは、サイクロクラスティカス属A5株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能する177アミノ酸配列よりなるペプチド(PhnA2とも呼ぶ)である。ここで、「芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能する」とは、芳香環ジオキシゲナーゼを構成する他の3つのサブユニットと複合体を形成し、芳香環ジオキシゲナーゼ活性を発揮できることをいう。
(e)のペプチドは、(d)のペプチドに、芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能できる程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。変異したアミノ酸の数は、芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能できる限り、その個数は制限されないが、通常は、10アミノ酸以内であり、更に好ましくは5アミノ酸以内である。
(f)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来の芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチドである。(f)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、上記で説明したとおりである。
3番目の遺伝子であるフェレドキシンをコードする遺伝子は、以下の(g)、(h)、又は(i)に示すペプチドをコードするものである。(g)配列番号7記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(h)配列番号7記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンとして機能するペプチド、(i)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンとして機能するペプチド。
(g)のペプチドは、サイクロクラスティカス属A5株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼのフェレドキシンとして機能する104アミノ酸配列よりなるペプチド(PhnA3とも呼ぶ)である。
(h)のペプチドは、(g)のペプチドに、フェレドキシンとして機能できる程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。変異したアミノ酸の数は、フェレドキシンとして機能できる限り、その個数は制限されないが、通常は、6アミノ酸以内であり、更に好ましくは3アミノ酸以内である。
(i)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来のフェレドキシンとして機能するペプチドである。(i)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、上記で説明したとおりである。
4番目の遺伝子であるフェレドキシンレダクターゼをコードする遺伝子は、以下の(j)、(k)、又は(l)に示すペプチドをコードするものである。(j)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(k)配列番号8記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド、(l)配列番号4記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド。
(j)のペプチドは、サイクロクラスティカス属A5株から得られた芳香環ジオキシゲナーゼのフェレドキシンレダクターゼ活性を有する340アミノ酸配列よりなるペプチドで(PhnA4とも呼ぶ)ある。
(k)のペプチドは、(j)のペプチドに、フェレドキシンレダクターゼ活性を有する程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。変異したアミノ酸の数は、フェレドキシンレダクターゼ活性を有する限り、その個数は制限されないが、通常は、20アミノ酸以内であり、好ましくは14アミノ酸以内であり、更に好ましくは7アミノ酸以内であり、最も好ましくは4アミノ酸以内である。
(l)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来のフェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチドである。(l)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、上記で説明したとおりである。
本発明の遺伝子は以下の手順で得ることができる。先ず、サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)A5株のゲノムDNAを調製し、適当な制限酵素で切断後、適当なベクターに連結し、ゲノムDNAライブラリーを作製する。ベクターにはλファージ由来の各種ベクター、例えば、λgt10やλZap11等、コスミドベクターpRAFR3等、又はpUC18やpBluescript II等のプラスミドベクターを用いることができる。目的の遺伝子を保持するクローンの選択には、適当な量のインドールをプレートに添加し、青色のインディゴを合成するクローンを選択すればよい。サイクロクラスティカス属A5株の芳香環ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子群はクラスターを形成している。それゆえ、選択されたクローン及びそのクローンの持つDNAと重複するDNA断片を持つクローンの塩基配列を、サンガー法やマキサム−ギルバート法等の一般的な方法により決定することによって、芳香環ジオキシゲナーゼの大サブユニット、小サブユニット、フェレドキシン、及びフェレドキシンレダクターゼをコードするDNAの全長を単離することができる。
3.水酸化された芳香族化合物の製造法
上記の芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群を大腸菌等の微生物に導入し、発現させた組換え微生物を用いて、種々の芳香族化合物と混合培養することで、これらの芳香族化合物に特異的に水酸基を導入することができる。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群は4つの遺伝子から構成されており、これらすべてを宿主とする微生物に導入し発現させることが望ましい。なお、本体酵素以外のフェレドキシンとフェレドキシンレダクターゼについては、宿主が元々有しているもので代用可能な場合があり、このような場合は必ずしも導入する必要はない。
大腸菌や放線菌等の種々の微生物のベクターの情報や外来遺伝子の導入・発現法は、多くの実験書に記載されているので(たとえば、Sambrook,J.,Russel,D.W.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,3rd Edition,CSHL Press,2001;Hopwood,D.A.,Bibb,M.J.,Chater,K.F.,Bruton,C.J.,Kieser,H.M.,Lydiate,D.J.,Smith,C.P.,Ward,J.M.,Schrempf,H. Genetic manipulation ofStreptomyces:A laboratory manual,The John Innes Institute,Norwich,UK,1985)、それらに従ってベクターの選択、遺伝子の導入、発現を行うことができる。
本発明の方法により、多環式芳香族化合物(アルキル基を有する多環式芳香族炭化水素を含む)やフェニル基を有する芳香族化合物など種々の芳香族化合物に水酸基を導入することができる。下表に、本発明の方法によって製造される水酸化された芳香族化合物(変換産物)と基質として用いる芳香族化合物(基質)を例示する。但し、本発明の方法によって製造される芳香族化合物は、これらの化合物に限定されるわけではない。

上記の変換産物の中で、最も産業利用上、重要な変換産物は(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノールである。本化合物は、樹脂原料、染・顔料原料である1,4−ナフタレンジカルボン酸を、石油成分の1,4−ジメチルナフタレンからバイオプロセスにより製造する場合の重要な合成中間体となる。現在、1,4−ナフタレンジカルボン酸(化審法化学物質)は1,4−ジメチルナフタレンから石油化学工業により作られているが、環境に優しいバイオプロセス技術への代替技術の開発が求められている。
4.芳香族化合物で汚染された環境の浄化方法
本発明の微生物は、芳香族化合物で汚染された環境の浄化に利用することができる。ここでいう「環境」には、土壌、海洋、大気のほか、排水なども含まれる。環境の浄化は、上記条件で培養した微生物の培養液、あるいは、微生物を凍結乾燥処理した乾燥粉末を汚染環境に散布することにより行われる。この際、乾燥粉末と増殖を補助する無機塩類を混合・造粒し、粉末状及び顆粒状等に製剤化したものを汚染環境に散布しても良い。処理に用いる微生物の量は、土壌及び海水の汚染状況等に応じ、任意に定めることができるが、通常、汚染土壌1mあるいは汚染海域100mに培養液であれば0.02L、乾燥菌体であれば0.1g程度である。また、汚染された大気の浄化は、上記培養液あるいは乾燥菌体を固定化担体を設置した気体の浄化装置に添加し、これに汚染大気を通気することで行う。さらに、汚染された排水の浄化は、同じく上記培養液あるいは乾燥菌体を汚染排水と混合し、好気条件で7〜60日程度培養することで行う。
以下、実施例により本発明について具体的に説明する。もっとも、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1] サイクロクラスティカス属A5株のDNAライブラリーの作製
サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)A5株を、0.1%(w/v)のフェナントレンを含む1リットルの人工海水に植菌し、25℃で7日間培養した。集菌した後、A5株の長鎖(ゲノム)DNAを調製した(Ausubel et al.(eds),Current Protocols in Molecular Biology,Chap.2,1994)。50mgのA5株DNAに0.5ユニットの制限酵素Sau3AIを添加して37℃で30分間反応させ、部分切断を行った。このDNAをアガロースゲル電気泳動により分画し、15kbから30kbの範囲のDNA断片を回収した。一方、コスミドベクターLorist6(Staskawicz et al.,J.Bacteriol.,169,5789−5794,1987)を制限酵素BamHIで切断したものを用意した。A5株DNAのSau3AI部分切断断片と上記のコスミドベクターDNAを混合し、Takara ligation kit Ver.2により連結し、GigapackTMIII Gold Packaging Extract(Stratagene Cloning Systems社)を用いてパッケージングした後、大腸菌(Escherichiacoli)XL−1株に感染させた。形質転換したポピュレーションのうち490クローンを維持管理し、これをサイクロクラスティカス属A5株のDNAライブラリーとした。
[実施例2] 芳香環ジオキシゲナーゼをコードするコスミドクローンの同定
実施例1で得られたサイクロクラスティカス属A5株のDNAライブラリーのすべてのコロニーについて、培地にインドールを添加し、インディゴブルーの発色を指標として、芳香環(ジ)オキシゲナーゼ遺伝子群を含むDNA断片を有するクローンのスクリーニングを行った。その結果、プラスミドpH1aまたはpH1bを含む2クローンに関して明らかにポジティブなシグナルが認められた。これらのプラスミドに含まれる挿入断片の制限酵素マッピングの結果、これら2つの挿入断片は互いにオーバーラップしていることが分かった。以後、各種領域のサブクローニング及び塩基配列の決定には、このpH1aを用いた。
[実施例3] 芳香環ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子群の塩基配列の決定
実施例2で得られたコスミドクローンpH1aを制限酵素処理により切り出し、クローニングベクターpBluescript II SK(Stratagene社)にサブクローニングした。このベクターのマルチクローニング部位の両サイドにはT7プロモーター及びT3プロモーターが配備されている。クローニングされたDNA断片の塩基配列を決定するため、それぞれのプロモーターの塩基配列に基づいた以下のDNAプライマーを設計し合成した。

なお、シークエンス反応はDye terminator cycle sequencing kit(パーキンエルマー社)で行い、377DNA sequencer(パーキンエルマー社)で解析した。13kb領域の塩基配列を明らかにした。この領域に、公知の芳香環ジオキシゲナーゼの各種サブユニットと、それぞれ有意な相同性を示す産物をコードし得る遺伝子が見出された。そこで、大(α)サブユニットと相同の産物をコードし得る遺伝子をphnA1(配列番号1)、小(β)サブユニットと相同の産物をコードし得る遺伝子をphnA2(配列番号2)、フェレドキシンと相同の産物をコードし得る遺伝子をphnA3(配列番号3)、そしてフェレドキシンレダクターゼ(フェレドキシン還元酵素)(フェレドキシン・NAD(P)Hレダクターゼ)と相同の産物をコードし得る遺伝子をphnA4(配列番号4)と名付けた。
サイクロクラスティカス属A5株のPhnA1(配列番号5)は460アミノ酸配列よりなっており、他の微生物の芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとの相同性は、高い順に、スフィンゴモナス・アロマティシボランス(Sphingomonasaromaticivorans)F199株、及びアルカリゲネス・ファセアリス(Alcaligenesfacealis)AFK2株の芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニット[BphA1f(accession no.NP_049062)およびPhnAc(accession no.BAA76323)]とそれぞれ、64%及び52%の同一性(identity)を有していた。
サイクロクラスティカス属A5株のPhnA2(配列番号6)は177アミノ酸配列よりなっており、他の微生物の芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとの相同性は、高い順に、スフィンゴモナス・アロマティシボランスF199株、及びスフィンゴピクシス・マクロゴルタビダ(Sphingopyxismacrogoltabida)TFA株の芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニット[BphA2f(accession no.NP_049061)およびThnA2(accession no.AAN26444)]とそれぞれ、52%及び39%の同一性(identity)を有していた。
サイクロクラスティカス属A5株のPhnA3(配列番号7)は104アミノ酸配列よりなっており、他の微生物のフェレドキシンとの相同性は、高い順に、スフィンゴモナス・アロマティシボランスF199株、及びスフィンゴモナス・チャングブケンシス(Sphingomonaschungbukensis)のフェレドキシン[BphA3(accession no.NP_049211)およびPhnR(accession no.AAC95320)]とそれぞれ、63%及び63%の同一性(identity)を有していた。
サイクロクラスティカス属A5株のPhnA4(配列番号8)は340アミノ酸配列よりなっており、他の微生物のフェレドキシンレダクターゼとの相同性は、高い順に、シュードモナス・スタッツエリ(Pseudomonasstutzeri)OX1株、及びアルカリゲネス・ファセアリスAFK2株のフェレドキシンレダクターゼ[TouF(accession no.CAA06659)およびPhnAa(accession no.BAA76321)]とそれぞれ、50%及び47%の同一性(identity)を有していた。
[実施例4] 芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子を発現するプラスミドの作製
プラスミドpH1a(実施例2)をPstIとSalIで切断して得た2.7kbのPstI−SalIDNA断片[phnA1遺伝子(配列番号1)及びphnA2遺伝子(配列番号2)領域を含む]を、PstIとSalIで開裂したpBluescript II SKに連結して、プラスミドpISP3を作製した。次に、これに、フェレドキシン遺伝子[phnA3(配列番号3)]及びフェレドキシンレダクターゼ遺伝子[phnA4(配列番号4)]を以下のようにして連結した。フェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシン遺伝子を含む1.45kbのDNA断片の両端に制限酵素KpnIとXhoI認識配列を作るようにデザインした下記のプライマーF−KpとFr−Xhを用いて、pH1aを鋳型にPCR反応を行った。増幅した1.5kb断片をKpnIとXhoIで切断し、1.45kbの断片を得、KpnI及びXhoIで切断して開裂したpISP3と連結させ、プラスミドpPhnを作製した。このプラスミドにおいて各遺伝子は何れもlacプロモータの支配下にあり、phnA1phnA2phnA4phnA3の順に並んでいる。このpPhnを大腸菌JM109株(Takara社)に導入することにより得られた形質転換体[今後、大腸菌(pPhn)と記述する場合がある]を以後の実験に用いた。

[実施例5] 組換え大腸菌と基質の共存培養
実施例4で作製した大腸菌(pPhn)を、150μg/mlのアンピシリン(Ap)を含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)で対数期前半まで液体培養し、最終濃度が約30%になるようにグリセロールで懸濁し、−70〜−80℃のディープフリーザーに入れることにより、グリセロール保存株とした。また、コントロールとして、大腸菌ベクターpBluescript II SKを有するJM109も同様に培養してグリセロール保存株を作製した。
変換反応を開始するにあたって、まず、上記のグリセロール保存株から、大腸菌形質転換体を白金耳で掻き取り、150μg/mlのApを含むLB培地4mlに懸濁し、120rpm、30℃で7〜8時間培養した(前培養)。次に、この前培養を、150μg/mlのAp、0.4%(w/v)のグルコース、及び10μg/mlのチアミン(thiamine)を含むM9培地(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,Maniatis,T.,“Molecular cloning−A laboratory manual.”Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,Appendex A.3参照)70mlに入れ、120rpm、30℃で16〜17時間(一晩)培養した(本培養)。これで、OD 600nmが約1になる。これを8,000rpm、5分間、遠心分離して菌体のみを集めた後、最終濃度1mMのイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)と7mgの基質を含む70mlのM9培地(150μg/mlのAp、0.4%(w/v)のグルコース、及び10μg/mlのチアミンを含む)に懸濁し、120rpm、30℃で2〜3日間さらに培養を行った。なお、基質として、多環式芳香族化合物である、ナフタレン(naphthalene)、1−メチルナフタレン(1−methylnaphthalene)、2−メチルナフタレン(2−methylnaphthalene)、1,4−ジメチルナフタレン(1,4−dimethylnaphthalene)、1,5−ジメチルナフタレン(1,5−dimethylnaphthalene)、2,6−ジメチルナフタレン(2,6−dimethylnaphthalene)、フェナントレン(phenanthrene)、アントラセン(anthracene)、ピレン(pyrene)、ベンゾ[a]ピレン(benzo[a]pyrene)、ジベンゾフラン(dibenzofurane)、ジベンゾチオフェン(dibenzothiophene)、及び、フェニル環を含む芳香族化合物であるジフェニルメタン(diphenylmethane)、ビフェニル(biphenyl)、2−フェニルベンゾキサゾール(2−phenylbenzoxazole)を用いた。これらは、Aldrich Chemical、和光純薬、または関東化学から購入した。これらの基質は、通常10mg/mlの濃度になるようにエタノールに溶かしたものを0.7ml加えた。培養2〜3日目に70mlのメタノールを加え30分間撹拌することにより脂質を抽出し、8,000rpm、5分間、遠心分離して上清を集め、脂質粗抽出液とした。たいていの場合、この状態で、4℃で数週間保存可能であったが、脂質抽出液はすぐにHPLC分析に供した。
[実施例6] 変換産物のHPLC分析
実施例5で調製された脂質粗抽出液60μlを1回のinjectionに供した。XTerra MS C18カラム(4.6mm×250mm、Waters)を用い、1ml/minの速度でHPLCを行った。HPLCの本体装置としてWaters社のアライアンスシステムを用い、フォトダイオードアレイ検出器としてWaters 996型を用いた。展開溶媒の条件は、以下の通りである。
A液:水/メタノール(50/50)
B液:メタノール/2−プロパノール(60/40)
0〜5分(A液)、5〜20分[A液→B液:凸型グラジエント(No.3、Waters)]、20分〜(B液)
この条件では通常、31分以内に全化合物が分離された。210〜350nmの範囲で吸収極大値を示した波長(max plot)でモニターしたピークの面積比をもって変換率とした。
この分析で変換が確認されたものについて次の精製・同定のステップに進めた。なお、精製・同定のステップに進める場合は、培養のスケールを実施例6のスケールの10倍〜20倍で行った。
このHPLC分析の結果を下の表に示した。+で示されたものが変換産物が確認されたものである。

〔実施例7〕 変換産物の精製・同定
大腸菌(pPhn)と、実施例6で変換が確認された基質の混合培養液700ml〜1,400mlに等量のメタノールを添加し、室温で2時間撹拌した。これを7,000rpm,10min遠心分離し、上清を回収した。上清は減圧下300ml〜500mlまで濃縮し、等量の酢酸エチル(EtOAc)で2度抽出した。酢酸エチル層を減圧下濃縮し生成物含有エキスを得た。エキスをシリカゲル[0.25nm Silica Gel 60,(Merck)]を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)にかけ、変換産物の確認を行った後、シリカゲルカラム[20x250mm,Silica Gel 60(Merck)]を用いたカラムクロマトグラフィーに供し、純品を得た。
なお、各基質におけるTLCの展開溶媒は以下の通りである。
phenanthrene,hexane−EtOAc(1:1);naphthalene,hexane−EtOAc(1:1);dibenzofuran,hexane−EtOAc(5:1);dibenzothiophene,hexane−EtOAc(3:1);diphenylmethane,hexane−EtOAc(2:1);biphenyl,hexane−EtOAc(10:1).
1−methylnaphthalene,hexane−EtOAc(4:1);2−methylnaphthalene,hexane−EtOAc(4:1);1,4−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(3:1);1,5−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(3:1);2,6−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(2:1).
また、各基質におけるカラムクロマトグラフィフィーの展開溶媒は以下の通りである。
phenanthrene,hexane−EtOAc(1:1);naphthalene,hexane−EtOAc(1:1);dibenzofuran,hexane−EtOAc(5:1),dibenzothiophene,hexane−EtOAc(3:1);diphenylmethane,hexane−EtOAc(4:1);biphenyl,hexane−EtOAc(15:1).
1−methylnaphthalene,hexane−EtOAc(4:1);2−methylnaphthalene,hexane−EtOAc(4:1);1,4−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(3:1);1,5−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(3:1);2,6−dimethylnaphthalene,hexane−EtOAc(2:1).
MSスペクトル、及びNMRスペクトルはそれぞれ、JEOL JMS−AX505W、及びBRUKERAMX400を用いて測定した。
1.フェナントレンの変換産物の同定
組換え大腸菌によりフェナントレン(phenanthrene)の変換実験を行った粗抽出物(84.0mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物1)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物1(18.2mg)の純品を得た。化合物1は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Jerina,D.M.,Selander,H.,Yagi,H.,Wells,M.C.,Davey,J.F.,Mahadevan,V.,and Gibson,D.T.,J.Am.Chem.Soc.,98,5988−5996,1976)により、シス−3,4−ジヒドロキシ−3,4−ジヒドロフェナントレン(cis−3,4−dihydroxy−3,4−dihydro−phenanthrene)(IUPAC名:cis−3,4−dihydrophenanthrene−3,4−diol)(図1)であると同定した。
2.ナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌によりナフタレン(naphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(46.2mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物2)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物2(7.6mg)の純品を得た。化合物2は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Nojiri,H.,Nam,J,−W.,Kosaka,M.,Mori,K.,Takemura,T.,Furihata,K.,Yamane,H.,and Omori,T.,J.Bacteriol.,181,3105−3113,1999)により、シス−1,2−ジヒドロキシ−1,2−ジヒドロナフタレン(cis−1,2−dihydroxy−1,2−dihydro−naphthalene)(IUPAC名:cis−1,2−dihydronaphthalene−1,2−diol)(図1)であると同定した。
3.ジベンゾフランの変換産物の同定
組換え大腸菌によりジベンゾフラン(dibenzofuran)の変換実験を行った粗抽出物(86.5mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物3)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物3(21.0mg)の純品を得た。化合物3は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Jia,C.,Piano,D.,Kitamura,T.,and Fujiwara,Y.,J.Org.Chem.,65,7516−7522,2000)により、2−ヒドロキシジベンゾフラン(2−hydroxydibenzofuran)(IUPAC名:dibenzo[b,d]furan−2−ol)(図1)であると同定した。
4.ジベンゾチオフェンの変換産物の同定
組換え大腸菌によりジベンゾチオフェン(dibenzothiophene)の変換実験を行った粗抽出物(46.8mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物4)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物4(7.2mg)の純品を得た。化合物4は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Nishioka,M.,Castle,R.N.and Lee,M.L.,Synthesis of monoamino and monohydroxydibenzothiophenes.J.Heterocycl.Chem.,22,215−218,1985)により、2−ヒドロキシジベンゾチオフェン(2−hydroxydibenzothiophene)(IUPAC名:enzo[b]benzo[b]thiophen−2−ol)(図1)であると同定した。
5.ジフェニルメタンの変換産物の同定
組換え大腸菌によりジフェニルメタン(diphenylmethane)の変換実験を行った粗抽出物(33.1mg)をTLCに供したところ、Rf値0.5(化合物5)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物5(6.2mg)の純品を得た。化合物5は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Nakai,Y.and Yamada,F.,Org.Magn.Reson.,11,607−611,1978)により、2−ヒドロキシジフェニルメタン(2−hydroxydiphenylmethane)(IUPAC名:2−benzylphenol)(図1)であると同定した。
6.ビフェニルの変換産物の同定
組換え大腸菌によりビフェニル(biphenyl)の変換実験を行った粗抽出物(54.5mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物6)とRf値0.3(化合物7)の2つの産物が生成していることが判明した。両産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物6(6.6mg)及び化合物7(2.3mg)の純品を得た。化合物6及び7は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Sakurai,H.,Tsukuda,T.,and Hirao,T.,J.Org.Chem.,67,2721−2722,2002)により、それぞれ−ビフェニルオール(−biphenylol)(IUPAC名:2−phenylphenol)及び−ビフェニルオール(−biphenylol)(IUPAC名:3−phenylphenol)(図1)であると同定した。
7.1−メチルナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌により1−メチルナフタレン(1−methylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(28mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物8)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物8(7.3mg)の純品を得た。化合物8は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Bestetti,G.,Bianchi,D.,Bosetti,A.,Gennaro,P.D.,Galli,E.,Leoni,B.,Pelizzoni,F.,and Sello,G.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,44,303−313,1995)により、シス−8−メチル−1,2−ジヒドロナフタレン−1,2−ジオール(cis−8−methyl−1,2−dihydronaphthalene−1,2−diol:IUPAC名)(図2)であると同定した。
8.2−メチルナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌により1−メチルナフタレン(1−methylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(28mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物9)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物9(1.8mg)の純品を得た。化合物9は、以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較(Bestetti,G.,Bianchi,D.,Bosetti,A.,Gennaro,P.D.,Galli,E.,Leoni,B.,Pelizzoni,F.,and Sello,G.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,44,303−313,1995)により、シス−7−メチル−1,2−ジヒドロナフタレン−1,2−ジオール(cis−7−methyl−1,2−dihydronaphthalene−1,2−diol:IUPAC名)(図2)であると同定した。
9.1,4−ジメチルナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌により1,4−ジメチルナフタレン(1,4−dimethylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(176mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物10),0.1(化合物11)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物10(4mg)、化合物11(65mg)の純品を得た。
化合物10の分子式は、HR−EIMS[found 190.0993,calcd 190.0994]よりC1214と決定された。化合物10のHMQC及びDQF COSYスペクトル分析により、化合物10は1,4−dimethylnaphthaleneの5,6位が1,2−dihydrodiolとなったものであると決定された。これはHMBCスペクトルにおいて、H−4(δ2.37)及びH−8(δ6.56)からC−4a(δ132.2)へ観測された遠隔スピン結合によっても確認された。以上の結果より、化合物10は5,8−ジメチル−1,2−ジヒドロナフタレン−1,2−ジオール(5,8−dimethyl−1,2−dihydro−naphthalene−1,2−diol)(図3)と同定した。本物質は新規化合物であった。

化合物11の分子式は、HR−EIMS[found 188.0838,calcd 188.0838]よりC1212と決定された。化合物11のH NMRではナフタレン環部分のシグナルには大きな変化がなく、メチル基の信号が消失し、新たに酸素と結合したメチレン基(δ4.94)及びこれとカップリングした水酸基(δ5.28)の信号が観測された。以上の結果より、化合物11は(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノール(4−hydroxymethyl−naphthalene−1−yl)−methanol)(図3)と同定した。化合物11はCASに記載されている既知化合物であったが、化合物11を芳香環ジオキシゲナーゼ等の酵素(遺伝子)を用いた生変換反応により製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物11の製造法としても本発明による方法は有効である。なお、この(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノールは、樹脂原料、染・顔料原料である1,4−ナフタレンジカルボン酸を、石油成分の1,4−ジメチルナフタレンからバイオプロセスにより製造する場合の重要な合成中間体となる。

10.1,5−ジメチルナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌により1,5−ジメチルナフタレン(1,5−dimethylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(205mg)をTLCに供したところ、Rf値0.3(化合物12)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物12(40mg)の純品を得た。化合物12の分子式は、HR−EIMS[found 172.0888,cald.172.0889]よりC1212Oと決定された。化合物12のH NMRではナフタレン環部分のシグナルには大きな変化はなく、メチル基の1本分の信号が消失し、新たに酸素と結合したメチレン基(δ5.04)が観測された。以上の結果より、化合物12は(5−メチル−ナフタレン−1−イル)−メタノール(5−methyl−naphthalene−1−yl)−methanol)(図3)と同定した。化合物12はCASに記載されている既知化合物であったが、化合物12を芳香環ジオキシゲナーゼ等の酵素(遺伝子)を用いた生変換反応により製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物12の製造法としても本発明による方法は有効である。

11.2,6−ジメチルナフタレンの変換産物の同定
組換え大腸菌により2,6−ジメチルナフタレン(2,6−dimethylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物(110mg)をTLCに供したところ、Rf値0.2(化合物13)の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物13(30.6mg)の純品を得た。
化合物13は以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較[Bestetti,G.,Bianchi,D.,Bosetti,A.,Di Gennaro,P.,Galli,E.,Leoni,B.,Pelizzoni,F.,Sello,G.,Bioconversion of substituted naphthalenes to the corresponding 1,2−dihydro−1,2−dihydroxy derivatives.Determination of the region−and stereochemistry of the oxidation reactions,Applied Microbiology and Biotechnology,44,306−13,1995]により、3,7−ジメチル−1,2−ジヒドロナフタレン−1,2−ジオール(3,7−dimethyl−1,2−dihydro−naphthalene−1,2−diol)(図3)であると同定した。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2002年11月29日出願の日本特許出願(特願2002−347240)、および、2003年9月17出願の日本特許出願(特願2003−324117)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、サイクロクラスティカス属(Cycloclasticus sp.)細菌に由来する芳香環ジオキシゲナーゼの大(α)サブユニット遺伝子、小(β)サブユニット遺伝子、フェレドキシン遺伝子、及び、フェレドキシンレダクターゼ遺伝子を提供する。本発明による遺伝子群から造られるタンパク質は、石油やコールタール由来の環境汚染物質である芳香族化合物に水酸基を導入することができる。すなわち、本発明による遺伝子群を発現した微生物により、これらの石油系芳香族化合物を特異的に水酸化する方法を提供する。水酸化された芳香族化合物は、微生物等により容易に分解されるようになるので、本発明は、汚染土壌等の環境浄化等に有用である。また、この方法により、産業上有用な水酸化された芳香族化合物を作ることができる。
【配列表】





















【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、又は(c)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(a)配列番号5記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号5記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド、
(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットとして機能するペプチド。
【請求項2】
以下の(d)、(e)、又は(f)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(d)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(e)配列番号6記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド、
(f)配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、芳香環ジオキシゲナーゼ小サブユニットとして機能するペプチド。
【請求項3】
以下の(g)、(h)、又は(i)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(g)配列番号7記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(h)配列番号7記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンとして機能するペプチド、
(i)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンとして機能するペプチド。
【請求項4】
以下の(j)、(k)、又は(l)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(j)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(k)配列番号8記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつフェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド、
(l)配列番号4記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、フェレドキシンレダクターゼ活性を有するペプチド。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の遺伝子のすべて又は一部を導入して得られる微生物であって、芳香族化合物に水酸基を導入できる微生物。
【請求項6】
微生物が大腸菌であることを特徴とする請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の微生物を、芳香族化合物を含む培地で培養して培養物又は菌体から水酸化された芳香族化合物を得ることを特徴とする、水酸化された芳香族化合物の製造法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の微生物で、芳香族化合物で汚染された環境を浄化することを特徴とする環境の浄化方法。
【請求項9】
芳香族化合物を含む培地が、1,4−ジメチルナフタレン又は1,5−ジメチルナフタレンを含む培地であり、水酸化された芳香族化合物が、メチル基が水酸化された芳香族化合物であることを特徴とする、請求項7記載の水酸化された芳香族化合物の製造法。
【請求項10】
メチル基が水酸化された芳香族化合物が、(4−ヒドロキシメチル−ナフタレン−1−イル)−メタノール、又は(5−メチルナフタレン−1−イル)−メタノールであることを特徴とする、請求項9記載の水酸化された芳香族化合物の製造法。

【国際公開番号】WO2004/050875
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570723(P2004−570723)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015102
【国際出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】