説明

新規な金属ストリップ

本発明は、片面または両面に緻密で硬質の耐摩耗性被膜を備えた被膜付き鋼ストリップ製品に関する。被膜の厚さは全厚で25μm以下、被膜の硬さは600HV以上、下地の鋼ストリップの引張強さは1200MPa以上である。被膜は電子ビーム蒸着法で形成することが望ましく、被膜は例えばAlであってよい。この被膜付き金属ストリップは、製紙業や印刷業に用いるドクターブレードやコーターブレードの製造用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に硬質で緻密な被膜を備えた新規な鋼ストリップ材料に関する。本発明は更に、連続多段ロールプロセス(continuous roll-to-roll process)により下地の金属ストリップ表面に硬質で緻密な被膜を高い密着性で付与することにより上記の被膜付き鋼ストリップを製造する方法にも関する。本発明は特に、コーターブレードおよびドクターブレードに用いるのに適した高密着性の硬質被膜を備えた被膜付き鋼ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ドクターブレードおよびコーターブレードはそれぞれ製紙業および印刷業において回転ロールから紙を掻き取ったり、インクを転写したりするのに用いられている。その際に、ロールやコーターブレードあるいはドクターブレードの表面に摩耗が生ずるという問題がある。通常、コーターブレードおよびドクターブレードは硬化処理した鋼ストリップから製造されている。摩耗を低減するための一般的な1つの方法は、コーターブレードあるいはドクターブレードの最終形状に作製した後に、これら鋼ブレードの表面に耐摩耗性被膜を施すことである。その際、下地の鋼と耐摩耗性被膜との間に接合被膜として機能するNi層を施すのが普通である。
【0003】
ここで一般に知られているように、耐摩耗性被膜を用いることはできるが、コスト効率が高く環境適合性を確保しつつ所要品質を満たす方法を見出すには種々の困難がある。現時点では、耐摩耗性被膜を施したコーターブレードおよびドクターブレードは非常にコストが高い。その上、印刷業や製紙業で使用中に発生する品質問題によるコストも高い。コスト対策のために、連続多段ロールによる被覆プロセスを、望ましくは鋼ストリップの製造に組み込んだ形で行なうことが必要になっている。更に、品質面では、下地との密着性の高い緻密な被膜が有利である。コスト面からはもう一点、接合被膜を必要としないほどに高い密着性を持つ耐摩耗性被膜があれば更に有利である。
【0004】
緻密被膜が高密着性を有することは、最終製品のコーターブレードおよびドクターブレードの機能品質の上で必要である。密着性が低かったり、多孔質または粗い被膜であったりすると、コーターブレードやドクターブレードとして用いたときに、被膜が剥離し始めたり、粒子状あるいは小片状になって脱落したり、割れ発生といった問題が生じたりする。いずれにせよ、品質面でもコスト面でも許容できないことであり、ドクターブレードの場合には印刷品質が悪化するし、製紙業の場合には不良のコーターブレードを交換するために頻繁に工場を休止する必要がある。製紙業のようなプロセス工業では1回ごとの休止でコストが非常に高くなるので、回避しなくてはならない。
【0005】
現在、被膜形成方法は何種類かあり、被膜のタイプも何種類かある。下記に例示する。
【0006】
◆ セラミクス被膜は、多くの場合Alから成り、これにTiOおよび/ZrOを添加することもある。通常このタイプの被膜は溶射で形成されており、その一例としてUS-A-6,423,066に開示された方法では、ドクターブレードの一エッジに沿ってセラミクス被膜を施している。もう1つの例としてEP-B-758026に記載された方法では、溶射を含む多少複雑な連続プロセスで被覆工程を何回か行なって一エッジに沿って耐摩耗性被膜を施している。溶射には通常、主な欠点が幾つかある。形成された被膜が粗いため、被覆後の表面に研磨などの後処理を施す必要がる。溶射被膜は普通は気孔率が高いので、薄くて緻密な被膜は通常は得られない。更に、溶射被膜は通常は厚さが大きい。コーターブレードおよびドクターブレードの場合、セラミクス被膜の厚さは多くが20〜100μmの範囲である。厚くて粗い被膜は、使用中に割れ発生や表面からの粒子脱落の危険性が高い。多くの場合、セラミクス被膜の密着性を向上させるために、接合被膜としてニッケルやニッケル合金も用いることが必要になる。
【0007】
◆ 金属被膜は、多くの場合、純ニッケルや純Crから成るか、ニッケル・燐のような化合物の形である。これらのタイプの金属被膜は通常はめっき法、特に電解めっき法によって施される。電解めっき法には幾つかの欠点があり、主な欠点は、均一な膜厚を得ることが困難なこと、被膜の密着性が乏しいことである。更に、めっき法は環境適合性に欠けており、しばしば環境問題を起こしている。
【0008】
◆ 異種被膜の組み合わせとして、ニッケル被膜にSiCのような耐摩耗性粒子を含有させる方法がある。その一例として、WO 02/46526に記載された方法では、何工程かで電解ニッケルめっきを行なう連続プロセスで、少なくとも1つの工程で耐摩耗性粒子を添加することにより異種層を形成する。この方法にも幾つかの欠点があって、原理的に前述の電解めっき法による欠点があり、接合被膜としてニッケルはやはりかなりの程度必要であるため被膜コストが高い。
【0009】
このように、上記例示した各方法は本発明には用いることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第一の目的は、緻密な被膜と下地金属との密着性を高めた硬質耐摩耗性被膜付き金属ストリップを提供することである。
【0011】
本発明の第二の目的は、鋼ストリップの製造に組み込んだ連続多段ロールプロセスによりコスト効率の高い被膜を得ることである。
【0012】
本発明の第三の目的は、コーターブレードおよびドクターブレードを製造できるように、緻密で耐摩耗性を持つ被膜を備えた被膜付き鋼ストリップ製品を提供することである。
【0013】
本発明の第四の目的は、別個のブレード製造工程を必要とせずに、ストリップ製造ラインに入れ込んだ多段ロールプロセスによる連続被覆と直接関連付けてドクターブレードおよびコーターブレードを製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の第五の目的は、膜厚を極力均一化した被膜を得ることである。
【0015】
これらおよびその他の目的は請求項1による被膜付き鋼製品を提供することにより驚くべきことに達成される。更に望ましい実施形態は従属項に規定してある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
最終製品は、緻密で硬質の耐摩耗性被膜を備えた硬化性鋼ストリップの形態であり、ドクターブレードやコーターブレードの用途に適しており、例えば輪転グラビア印刷またはフレキソグラビア印刷用のドクターブレード、製紙の際の紙掻き取り用のコーターブレード、製紙の際に紙のクレープ加工用のクレープブレードなどに適している。これらの用途ではいずれもブレードの摩耗が発生するが、この摩耗にはロールとの接触に起因するものと研磨性物質を含有する紙に起因するものとがある。適切な被膜は、緻密で耐摩耗性があり密着性の高い被膜であり、硬質でありながら靭性が高くて、使用中の作業荷重および圧力に対抗でき、割れや剥ぎ取りが起きることがない。
【0017】
最終製品の摩耗を防止するためには、耐摩耗被膜を少なくとも1層被覆することが適当である。片面被覆でも両面被覆でも良い。片面被覆はコスト面から望ましく、適用できる場合には用いるべきであり、特にフレキソグラビア印刷に用いるドクターブレードは通常、片面被覆で所要寿命は十分耐え得る。これより使用条件が厳しいか使用期間が長いブレードの場合は、両面被覆が望ましい。そうしないと発生する問題としては、例えば被覆なし側のエッジに沿って塑性変形が起きたり、被覆なし側のエッジに沿って材料の堆積が起き、これが場合によっては剥ぎ取られて、コーターブレードのエッジから材料が局部的に剥ぎ取られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の方法は、薄くて硬質で緻密な耐摩耗性層に適しており、コスト面から、厚さは両側それぞれについて全厚で25μm以下、通常は全厚で20μm以下、望ましくは全厚で15μm以下、より望ましくは全厚で12μm以下、更に望ましくは10μm以下である。厚い被膜を形成する際には、コスト対特性を最適化するには、10層までの多層構造にして、個々の層の厚さを0.1〜15μm、望ましくは0.1〜10μm、より望ましくは0.1〜7μm、更に望ましくは0.1〜5μm、より以上に望ましくは0.1〜3μmとする。
【0019】
被膜の形成速度は、2.5m/分以上、望ましくは5m/分以上、より望ましくは10m/分以上である。
【0020】
被膜は、処理対象物から作用する摩耗および剪断に耐えるために十分な耐摩耗性を有する必要があり、同時に、経済性と脆化の観点からは厚すぎてもいけない。コーターブレードおよびドクターブレードの用途においては、被膜と下地の厚さの比率は0.1%〜12%、通常は0.1%〜10%、普通は0.1%〜7.5%、最も望ましくは0.1〜5%である。
【0021】
耐摩耗性を得るには、Al、TiO、ZrOまたはこれらの混合物から成り、望ましくはAlを主体とする、緻密な酸化物被膜を少なくとも1層形成する。所要特性に応じて、酸化物を混合した被膜とすることにより最適な硬さと靭性を得ることができる。それには、アルミニウム酸化物と選定した他の酸化物とを同時蒸着する。望ましくは、アルミニウム酸化物と他の酸化物として望ましくはTiOおよび/またはZrOとの同時蒸着である。多層構造を用いると、異種酸化物の層を混ぜて10層まで種々の酸化物層を組み合わせ、硬さと靭性を最適化することもできる。
【0022】
本発明の他の形態として、上述したように実質的に酸化物から成る耐摩耗性被膜に代えて、金属被膜等の緻密で硬質の被膜を用いることもできる。コストを極力低減するために単純で安価な被膜を選択するのであれば、実質的に純粋なCrなどの硬質金属被膜を用いることもできる。
【0023】
本発明のもう1つの形態として、遷移金属の炭化物および/または窒化物、例えばTiN、TiC、CrNの層を用いることもできるし、これらをAl、TiO、ZrOまたはこれら酸化物の混合物、望ましくはAlを主体とする酸化物、と組み合わせて用いることもできる。10層までの多層構造とし、種々の酸化物および窒化物の層を組み合わせると更に良好な最適の硬さおよび靭性を実現することができる。
【0024】
コーターブレードやドクターブレードに作用する摩耗力および剪断力に耐えるようにするためには、本発明の薄い被膜の硬さは600HV以上、望ましくは700HV以上、より望ましくは800HV以上、最も望ましくは900HV以上である。
【0025】
ストリップ幅400mmまでの場合は、個々の層の厚さ許容範囲は最大値±10%であえる。これは非常に厳しい許容範囲であり、使用時の精度と最終製品の品質にとって利点がある。めっきや溶射に比較してこれは非常に高い許容差である。例えば、めっきの場合は、ドッグボーン効果といわれる現象のためにめっき層の厚さが変動する。そのため層厚さは普通は±50%の変動をする。
【0026】
別途の接合被膜は必要ないが、靭性向上などの技術的な観点から必要がある場合には、ニッケル層を被膜中の一層として用いることもできる。ニッケルは高価なため、普通は非常に薄い層としてのみ用い、適当な厚さは0〜2μmであり、望ましくは0〜1μm、最も望ましくは0〜0.5μmである。しかし、いずれにせよニッケル層を下地層の隣接層とすることは無い。
【0027】
〔被覆対象とする下地材料の説明〕
被覆の下地材料は、コーターブレード用あるいはドクターブレード用に適した良好な基本的な機械強度を備えていなくてはならない。望ましくは、焼入れ性を有する鋼を焼入れ・焼き戻しした状態か、析出硬化鋼であって、WO93/07303に開示されているような鋼であって、最終処理状態での引張強さが1200MPa以上、望ましくは1300MPa以上、より望ましくは1400MPa以上、更に望ましくは1500MPa以上の鋼である。腐食環境で用いるコーターブレードあるいはドクターブレードには、基本的な耐食性を付与するのに十分な量のCrを添加した鋼を用いる。この場合、Cr含有量は10質量%以上、望ましくは11質量%以上、より望ましくは12質量%以上である。
【0028】
上述の鋼種で作られた製品であって、熱間加工性が良好で薄く冷間圧延できるストリップの形であれば、本発明の被覆方法を適用できる。用いる鋼の性質として、成形工程、研削工程(グライディング)、シェービング工程、切削工程、研磨工程(ポリッシング)、スタンピング工程などを含む製造プロセスで容易にコーターブレードやドクターブレードに作製できる必要がある。ストリップ下地材料の厚さは、普通は0.015mm〜5.0mm、望ましくは0.03mm〜3mm、より望ましくは0.03mm〜2mm、更に望ましくは0.03mm〜1.5mmである。ストリップ下地材料の幅は、被膜形成をスリット加工の前に行なうか後に行なうかによる。更に、下地材料の幅は、最終的なコーターブレードやドクターブレードの幅に作製するのに適した幅を選定することが望ましい。概ね、下地材料の幅は、1〜1500mm、望ましくは1〜1000mm、より望ましくは1〜500mm、更に望ましくは5〜500mmである。下地材料の長さは、10〜20000m、望ましくは100〜20000mである。
【0029】
〔被覆方法の説明〕
被覆媒体を被覆する方法としては、密着性の高い均一な連続被膜を形成できる方法であれば、種々の物理的あるいは化学的な蒸発堆積法を用いることができる。製膜法の例としては、化学蒸着法(CVD)や有機金属化学蒸着法(MOCVD)があるし、スパッタリングや蒸発を用いた物理蒸着法(PVD)であれば蒸発手段として抵抗加熱、電子ビーム加熱、誘導加熱、アーク抵抗加熱、レーザ加熱を用いた堆積方法があるが、本発明の製膜法としては特に電子ビーム蒸着法(EB)が望ましい。硬質で緻密な層から成る良質の被膜をより確実に製膜するために、EB蒸着法においてプラズマ励起を用いることもできる。
【0030】
本発明における必須の構成として、連続多段ロール加工(roll-to-roll)によるストリップ製造ラインに被覆工程を組み込んでいる。この構成を前提として、連続多段ロールプロセス内で電子ビーム蒸着(EB)を用いて硬質被膜を製膜する。多層構造が必要な場合には、数段のEB蒸着チャンバをインラインに組み込むことで実現できる。金属被膜の製膜は、1×10−2mbar以下の減圧雰囲気下で反応性ガスを添加せずに行なって、実質的に純粋な金属膜を得るようにする。金属酸化物の製膜は、減圧雰囲気下で反応ガスとして酸素源をチャンバ内に添加して行なう。酸素の分圧は1〜100×10−4mbarとする。他のタイプの被膜を製膜するには、例えばTiN、TiC、CrNといった遷移金属の炭化物および/または窒化物またはこれらと金属酸化物との混合物を製膜するには、所望の化合物が生成できるように反応性ガスの分圧について製膜中の条件を調節する。酸素源としては、反応性ガスとしてHO、O、O、望ましくはOを用いることができる。窒素源としては、反応性ガスとしてN、NH、N、望ましくはN、を用いることができる。炭素源としては、反応性ガスとして炭素含有ガスであればよく、例えばCH、C、Cなどを用いることができる。いずれの場合には、反応性EB蒸着プロセスをプラズマ励起することができる。
【0031】
良好な密着性を確保するために、種々のタイプの清浄化工程を用いる。まず、下地材料の表面の残留油分は被覆工程の効率や被膜の密着性および品質を劣化させるので、適切な方法で全ての油分を除去する清浄化を行なう。その上で、通常の鋼表面には必ず存在する自然酸化膜も除去しなくてはならない。そのために、被膜形成前に予備処理を行う。したがって、連続多段ロール加工ラインの最初の製造工程として、最初の被膜層の密着性を確保するために、金属ストリップ表面をイオンエッチングで処理することが望ましい(図3を参照)。
【実施例】
【0032】
本発明の2つの実施例を以下に詳細に説明する。実施例1(図1)は被膜1、2を下地3のストリップ幅全体に施した例である。下地材料は種々の鋼であって良く、例えば焼入れ性のある炭素鋼または焼入れ性のあるCrステンレス鋼であってよい。実施例2(図2)は被膜4を鋼ストリップ5に施したものであり、鋼ストリップ5は被覆工程の前にスリット加工とエッジ加工を施して最終的なコーターブレードの幅のほぼ2倍の幅にしてある。被覆工程において、主面7、8と狭い側面9、10の全てを被覆し、引き掻き用または切削用のエッジ11、12を完全に被膜で覆ってある。側面9、10は比較的狭い方の主面7と同時に被覆した方がよい。ここで説明する実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0033】
下地材料は、硬化性を発現する下記組成を用いる。
【0034】
○ 焼入れ性のある炭素鋼の組成は、0.1〜1.5質量%、0.001〜4質量%Cr、0.01〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、1質量%以下Ni、0.001〜0.5質量%N,残部Feであり、
○ 焼入れ性のあるクロム鋼としては、0.1〜1.5質量%C、10〜16質量%Cr、0.001〜1質量%Ni、0.001〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、3質量%以下Mo、0.001〜0.5質量%N、残部Feであり、
○ 析出硬化性のある鋼の組成は、0.001〜0.3質量%C、10〜16質量%Cr、4〜14質量%Ni、0.1〜1.5質量%Ti、0.01〜1.0質量%Al、0.01〜6質量%Mo、0.001〜4質量%Cu、0.001〜0.3質量%N、0.01〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、残部Feである。
【0035】
〔実施例1〕
本実施例で用いる下地材料の化学組成はサンドビック内部規格20C2および13C26であり、実質的には下記の公称組成である。
【0036】
サンドビック20C2: 1.0質量%C、1.4質量%Cr、0.3質量%Si、0.3質量%Mn
サンドビック13C26: 0.7質量%C、13質量%Cr、0.4質量%Si、0.7質量%Mn
先ず、上記化学組成の下地材料を通常の冶金製鋼法により製造する。得られた鋼を熱間圧延により中間サイズにまで圧下した後、パス間の再結晶工程を多数回行なう冷間圧延により、最終厚さ0.2mm、最大幅400mmにする。得られたストリップ鋼を焼入れおよび焼き戻しして所要の機械強度レベルすなわち本発明による1200MPa以上の強度レベルにする。次に、圧延および焼入れ時の残留油分を適切な方法で除去して下地材料の表面を清浄化する。その後、デコイリング設備で始まる連続プロセスラインで被覆処理を行う。連続多段ロールプロセスラインの最初の工程は、真空チャンバまたは入口真空ロックに続いてエッチチャンバがあり、その中でイオンエッチングを行なって下地材料表面の薄い酸化層を除去する。次に、ストリップはEB蒸着チャンバ(1個または複数個)に入り、その中で酸化物の堆積を行う。本実施例の場合はAlを堆積する。通常、酸化物層は通常は厚さ0.1〜25μmに堆積させるが、用途によって望ましい厚さが決まる。本実施例では1個のEB蒸着チャンバを用いて厚さ2μmに堆積させる。EB蒸着後に、被膜付きストリップ材料は出口真空チャンバまたは出口真空ロックを通って、コイラに巻き取られる。もし必要ならば、この被膜付きストリップ材料に、例えばスリット加工およびエッジ処理を行って、コーターブレードの製造に適した最終寸法とエッジ状態に仕上げる。EB蒸着を用いて連続被覆プロセスで、このコーターブレードのエッジに沿って付加的な被膜を施せれば有利であるが、他のプロセスを用いても良い。仕上げブレードのエッジに沿って施す付加的な被膜は、ストリップ材料に施した被膜と同じタイプであることが望ましい。
【0037】
本実施例で説明した最終製品すなわち被膜付き20C2ストリップ材料および被膜付き13C26ストリップ材料は、ストリップ厚さが0.2mm、Alの薄い被膜の厚さが2μmであり、被膜層の密着性が非常に良好であるため、フレキソグラビア印刷用または輪転グラビア印刷用のドクターブレードの製造に特に適している。
【0038】
図3に、上記の連続多段ロール電子ビーム蒸着プロセスを示す。この製造ラインの最初の部分はアンコイラ13が真空チャンバ14内に配置されており、その次はインライン・イオンエッチングチャンバ15であり、次いで一連のEB蒸着チャンバ16があり、必要なEB蒸着チャンバの個数は1個から10個であり、これは多層構造の被膜の必要に応じて変わる。EB蒸着チャンバ16はいずれもEBガン17と蒸発用の水冷銅坩堝18とを備えている。次いで、出口真空チャンバ19の中にストリップ材料のリコイラ20が配置されている。真空チャンバ14および19はそれぞれ入口真空ロックシステムおよび出口真空ロックシステムに置き換えることができる。その場合、アンコイラ13およびコイラ20は外部に配置される。
【0039】
〔実施例2〕
本実施例で用いる下地材料の化学組成はサンドビック内部規格20Cであり、実質的には下記の公称組成である。
【0040】
サンドビック20C: 1.0質量%C、0.2質量%Cr、0.3質量%Si、0.4質量%Mn
先ず、上記化学組成の下地材料を通常の冶金製鋼法により製造する。得られた鋼を熱間圧延により中間サイズにまで圧下した後、パス間の再結晶工程を多数回行なう冷間圧延により、最終厚さ0.45mm、最大幅400mmにする。得られたストリップ鋼を焼入れおよび焼き戻しして所要の機械強度レベルすなわち本発明による1200MPa以上の強度レベルにする。その後、ストリップをスリット加工して最終的なブレード用の幅のほぼ2倍の幅にする。本実施例では、最終的なコーターブレードの幅は100mmであるので、ストリップを幅200〜250mmにスリット加工する。スリット加工後のストリップのエッジを、例えばシェービング加工、研削、研磨によりエッジ処理し、所望のコーターブレード用に適した状態および形状に仕上げる。その後、実施例1と全く同様に被覆処理を行う(図3参照)。最終製品は図2に示した被膜付きストリップであり、被膜の材質および厚さは実施例1と同じである。この被膜付きストリップを中央部の切断線6に沿ってスリット加工して、2枚の被膜付きストリップにすると、個々のストリップは仕上げコーターブレードに適した寸法および形状になっている。後は必要な最終長さに切断すれば完成である。
【0041】
本実施例で説明した最終製品は、スリット加工とエッジ処理を済ませた被膜付きストリップ材料であり、ストリップ厚さが0.45mm、スリット加工した最終幅が100mmで、非常に密着性の良い厚さ2μmの薄いアルミニウム酸化物被膜を備えている。この製品を通常3〜10mの必要長さに切断すれば、更に処理を施す必要なく製紙工場でコーターブレードとして用いることができる。個々の顧客の要望に応じて、更にエッジ処理やエッジへの被膜付加あるいは研磨などを行うこともできる。被膜付加は、EB蒸着を用いて連続被覆プロセスで、このコーターブレードのエッジに沿って行なうことが望ましいが、他のプロセスを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態による金属ストリップの横断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の第二の実施形態による金属ストリップの横断面模式図である。
【図3】図3は、本発明による被膜付き金属ストリップ材料を製造するための製造ラインの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面または両面に緻密で硬質の耐摩耗性被膜を備えた被膜付き鋼ストリップにおいて、
上記被膜は上記鋼ストリップ下地の表面に直接形成されており、該被膜の厚さは全厚で25μm以下、該被膜の硬さは600HV以上、該鋼ストリップ下地の引張強さは1200MPa以上であることを特徴とする被膜付き鋼ストリップ。
【請求項2】
請求項1において、上記鋼ストリップ下地の厚さが0.015mm〜5.0mmであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項3】
請求項1または2において、上記鋼ストリップ下地が、焼入れ性を有する炭素鋼、焼入れ性を有するクロムステンレス鋼、析出硬化性ストリップ鋼のいずれかであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜が実質的にAlから成ることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜がAlとTiOおよび/またはZrOとの混合物から成り、主成分がAlであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項6】
上記被膜が、上記被膜が実質的にクロムから成る金属被膜であることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜が遷移金属炭化物または遷移金属窒化物、望ましくはTiN、TiC、またはCrN、またはこれらの混合物から成ることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項において、上記被膜が10層までの多層構造を持つことを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項9】
請求項8において、個々の単独層が厚さ0.1〜15μmであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項10】
請求項9において、上記被膜が、個々の単独層がAl、TiO、またはZrOまたはこれらの混合物のいずれかから成る多層構造を持ち、必要があればTiNおよびTiCのような窒化物または炭化物の層も組み合わせ、更に必要があればCrのような金属被膜とも組み合わせることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項11】
請求項10において、上記被膜が厚さ2μm以下のニッケル層を少なくとも更に含み、該ニッケル層は上記鋼ストリップ下地には隣接していないことを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップの製造方法であって、ストリップ製造ラインに組み込んだ連続多段ロールプロセスにおいて、エッチチャンバをインラインで備えた電子ビーム蒸発法を用いて、2.5m/分以上の速度で上記鋼ストリップを製造することを特徴とする鋼ストリップの製造方法。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップを含んで成り、製紙業および印刷業などに適したドクターブレードまたはコーターブレード。
【請求項14】
請求項13において、掻き取り用および/または切り取り用の側部エッジも、主エッジと同じ被膜組成物で被覆されていることを特徴とするドクターブレードまたはコーターブレード。
【請求項15】
請求項13から15までのいずれか1項記載のドクターブレードまたはコーターブレードの製造方法であって、上記ブレードを、ストリップ製造ラインに組み込んだ連続多段ロールプロセスにおいてエッチチャンバをインラインで備えた電子ビーム蒸発法を用いて2.5m/分以上の速度で製造し、かつ、上記ブレードは最終的なドクターブレードまたはコーターブレードの幅のほぼ2倍に対応するストリップ幅を用いて製造することを特徴とするドクターブレードまたはコーターブレードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−502363(P2007−502363A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523158(P2006−523158)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001171
【国際公開番号】WO2005/014876
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】