説明

新規の微生物酵素およびその使用

本発明は、トリコデルマ属から得られる細胞外チロシナーゼ、および組み換え技術によりそれらを産生する方法に関する。前記酵素は特に、食物タンパク質を架橋結合させることにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は酵素技術に関し、より正確には、新規の菌類酵素タンパク質およびその使用に関する。さらに、前記酵素をコードするポリヌクレオチド、それを産生する方法、および前記酵素の産生において有用な発現ベクターおよび宿主細胞に関する。
【発明の背景】
【0002】
酵素は、パルプおよび紙工業、織物工業、ならびに食物、餌、および飲料産業において、種々のタイプの工業的方法で使用されている。酵素は、化粧品および医薬品産業、ならびに洗剤中にも使用されている。工業用の酵素は、動物、植物、または微生物由来であってよく、細胞外酵素が好ましい。それらは通常、より安定であり、組み換え技術により容易に産生することができる。宿主細胞からの細胞内酵素の単離および精製にはコストがかかり、且つ困難であるため、酵素が細胞外、すなわち細胞から分泌されるタンパク質である場合、有益である。さらに、酵素が大量に、産業的な規模で産生されること、および生物体が安全であり、培養が簡単かつ経済的であることが望ましい。
【0003】
タンパク質は、再生可能な原料中の重要な成分であるため、食物、繊維等には大量のタンパク質が含まれる。酵素は、その物質中におけるタンパク質およびその技術的性質の修飾のために用いることができる。タンパク質マトリックスは、タンパク質の分子量を減少させることができる加水分解酵素(プロテアーゼ)により修飾され得る。タンパク質は、タンパク質中のアミノ酸残基間に共有結合性の架橋結合を作ることができる酵素(例えば、リジンおよびグルタミン残基の間にイソペプチド結合を作るトランスグルタミナーゼ)、またはある一定のアミノ酸残基を酸化することができる酵素により修飾され得る。ある一定のアミノ酸残基の酸化により、結果として同様に架橋結合を形成することもできる。架橋結合によるタンパク質材料の修飾は、例えば食物加工において頻繁に使用される。食物の品質に関して、歯ごたえは非常に重要な因子である。知覚に関係するのみならず、水分保持能、ゲル化および乳化の性質、ならびに安定性にも関係する。
【0004】
タンパク質の架橋結合を介して設計された酵素支持構造は、例えば、肉、魚、乳製品、および穀類の加工のようないくつかの食物処理において利用することができる。トランスグルタミナーゼは、例えば、再構築された肉製品を製造するために肉片を一緒に冷結(cold-binding)すること、歯ごたえの改善および挽き肉製品の水分保持能、魚の素材の構造の改善、望ましくない離液効果を生じることなくよりよい水分保持を有するヨーグルト製品中でミルクゲルを形成すること、調理後におけるパスタ製品の歯ごたえの悪化を防ぐこと、低い等級の小麦粉で焼かれたパンのローフ体積を改善することのために周知の酵素である。例えばトランスグルタミナーゼを含む菜食の食材の酵素的な架橋結合は、WO 03/007728に開示されている。
【0005】
トランスグルタミナーゼは、ミオシン、ゼラチンおよびコラーゲン、カゼイン、カゼイネート、乳漿タンパク質、大豆タンパク質、グルテン、卵タンパク質のような異なるタンパク質内/間において、ε(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合の形成を介して、タンパク質内またはタンパク質間における架橋結合を触媒することが既知である(Kuraishi et al., 2001; Nielsen, 1995)。しかしながらその反応性は、標的アミノ酸、すなわちタンパク質基質中のリジンおよびグルタミンの利用能および接触性に依存する。それ故、タンパク質中のグルタミンまたはリジン残基の不十分な接触性または限られた量のため、全てのタンパク質がトランスグルタミナーゼに対する適切な基質であるとは限らない。
【0006】
電子受容体として酸素を使用するフェノールオキシダーゼは、別途高額な再生を必要とする補因子、すなわちNAD(P)H/NAD(P)が反応において必要でないため、酵素的な過程に特に適している。これらのフェノールオキシダーゼには、例えばラッカーゼおよびチロシナーゼが含まれる。それらは銅タンパク質であり、種々のフェノール性化合物を酸化することができる。ラッカーゼおよびチロシナーゼの基質特異性は部分的に重複している。
【0007】
チロシナーゼは、モノフェノールおよび芳香族アミンのo-水酸化と、o-ジフェノールのo-キノンへの酸化またはo-アミノフェノールのo-キノンイミンへの酸化の両方を触媒する(Lerch, 1981)。従来より、チロシナーゼは、基質特異性および阻害剤に対する感受性に基づいて、ラッカーゼとは区別することができる。しかしながら、今日では、違いは構造的な特徴に基づく。実際に、チロシナーゼとラッカーゼの主要な違いは、チロシナーゼは活性部位にタイプIIIの銅を2つ有する二核性の銅部位を有する一方で、ラッカーゼは活性部位に全部で4つの銅原子(タイプIおよびIIの銅、ならびに2つのタイプIIIの銅)を有することである。
【0008】
チロシナーゼは、タンパク質中のチロシン残基を対応するキノンに酸化することができ、さらに、例えば遊離スルフヒドリル基および/またはアミノ基と反応して、チロシン-システインおよびチロシン-リジン架橋結合を形成することができる(Ito et al., 1984)。キノンは、互いに共役することによりチロシン-チロシン結合を形成することも提唱されている。
【0009】
ラッカーゼによる架橋結合タンパク質に対する方法は、例えばUS2002/9770に開示されている。豆および穀物に由来する植物タンパク質およびミルク、卵、肉、血、および腱を含む動物タンパク質は、適切な基質として挙げられる。しかしながら、ラッカーゼはタンパク質および他の可能な基質(例えばフェノール成分)に対してラジカルを形成する。それ故、チロシナーゼにより触媒されるキノン由来の非ラジカル反応よりも、工程を制御することがより難しい。ラッカーゼ触媒反応においても、いくつかの安定なラジカルがマトリックス中に保持され、時間の関数として脱重合およびそれに続いてマトリックスの崩壊を引き起こす。菌類ラッカーゼはUS2002/19038に開示されている。
【0010】
食物タンパク質を架橋結合するチロシナーゼの能力は、(Matheis and Whitaker, 1984; Matheis and Whitaker, 1987)に概説されている。これらの研究において、細胞内アガリクス(Agaricus)チロシナーゼが使用された。チロシナーゼを用いたタンパク質の架橋結合は、タンパク質結合チロシンからのo-キノンの形成を介して進行する。これらのo-キノンは、相互に縮合するか、またはタンパク質中に存在する遊離アミノ基およびスルフヒドリル基と反応する。
【0011】
チロシナーゼは、乳漿タンパク質の架橋結合(Thalmann and Loetzbeyr, 2002)および生地の物理的性質の修飾(Takasaki and Kawakishi, 1997)においての使用が提唱されている。食物タンパク質への適用に加えて、チロシナーゼは、例えば化粧品および医薬品の分野において使用されてよい(DE 102 44 124)。WO99/57993は、反芻動物の餌における架橋結合酵素の使用について開示しており、US2003/0177589は、タンパク質繊維をチロシナーゼ酵素で処理することにより、例えばウールの織地の縮みを防ぐ方法について開示している。ゼラチンのようなポリペプチドおよびキトサンのような多糖類とチロシナーゼを接触させることにより得られる接合体は、WO2004/029096に開示されている。ゼラチン-キトサン接合体は、医療的な適用において使用することができる。チロシナーゼは、コラーゲン繊維の構築物であるトロポコラーゲン高分子を重合するために用いることもできる(Dabbous, 1966)。分子間および分子内でのチロシン残基間の架橋結合の形成は、結果として重合を生じた。
【0012】
チロシナーゼは、天然において広範に分布している。それらは、植物、哺乳類、および昆虫において、メラニンおよび黒色メラニンの合成に関与している。果物および野菜において、チロシナーゼは酵素的褐変反応の原因であり、哺乳類における色素沈着の原因である。菌類において、チロシナーゼの役割は、細胞分化、胞子形成、毒性、および病原性に関連する(Sanchez-Ferrer et al., 1995)。
【0013】
最も知られており、特徴付けられているチロシナーゼは、哺乳動物に由来するものである。構造および機能の両方の点から最も広く研究されている菌類チロシナーゼは、アガリクスビスポラス(Agaricus bisporus)(Wichers et al., 1996)およびニューロスポーラクラッサ(Neurospora crassa)(Lerch, 1983)に由来するものである。また、いくつかの細菌チロシナーゼが報告されており、ストレプトマイセスチロシナーゼが最も十分に特徴付けられている(米国特許第5,801,047号および米国特許第5,814,495号)。加えて、チロシナーゼは、例えば、バチルスおよびミロセシウム(Myrothecium)(EP 919 628)、ムコール(Mucor)(JP 61115488)、ミリオコッカム(Miriococcum)(JP 60062980) アスペルギルス、カエトトマスチア(Chaetotomastia)、アスコバギノスポラ(Ascovaginospora)(Abdel-Raheem and Shearer, 2002)、トラメテス(Trametes)(Tomsovsky and Homolka, 2004)に由来するものについて開示されている。
【0014】
細胞内の菌類チロシナーゼについて述べられ、それらは細胞質内酵素であると考えられている(Van Gelder et al., 1997)。実際に、チロシナーゼ活性がいくつかの淡水の子嚢菌網(Abdel-Raheem and Shearer, 2002)、カエトミウム(Chaetomium) (JP 62205783)、およびトラメテス(Trametes)属の培養液上清中に検出されているが、今までに分析された菌類チロシナーゼ遺伝子は、単一の配列を有さない(Tomsovsky and Homolka, 2004)。報告された培養液上清中でのチロシナーゼ活性は、細胞の自己融解が原因であり得る。
【0015】
2つの担子菌類(ナミダタケ(Serpula lacrymans)およびイドタケ(Conidiophora puteana))といくつかの不完全菌類(トリコデルマ属およびスシタリウム(Scytalium) FY)の間の種間相互作用の間のフェノールオキシダーゼおよびペルオキシダーゼの産生について、予備的な単純プレート分析を用いて、Score et al., 1997で研究された。著者は、ラッカーゼおよびチロシナーゼに対する特異的な基質として、それぞれナフトールおよびp-クレゾールを使用した。ラッカーゼは、担子菌類と3つのトリコデルマ属単離物全てに関する相互作用において検出された。実際、Holker et al. 2002は、最近、トリコデルマ属に由来するラッカーゼを単離し、特徴付けた。予備的なプレート試験の結果に基づいて、チロシナーゼ活性はトリコデルマ種の試験において提唱された(Score, 1997)。しかしながら、チロシナーゼは単離または精製されなかった。Mackie et al., 1999は、土壌細菌および真菌の単離物間の揮発性有機化合物の相互作用を研究したときに、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)中のラッカーゼおよびチロシナーゼ活性について報告した。しかしながら、今までに、チロシナーゼはトリコデルマ属から単離されておらず、特徴付けられてもいない。
【0016】
ストレプトマイセスは、細胞外チロシナーゼを有し、細胞培養液の上清に酵素を分泌すると報告されているが、チロシナーゼ酵素自体は、分泌に対するシグナル配列を有していない。ストレプトマイセスチロシナーゼの分泌は、シグナル配列を有する第2のタンパク質(S. antibioticus におけるMelC1と呼ばれる)を必要とし(Leu et al., 1992; Tsai and Lee, 1998)、これが、ストレプトマイセスチロシナーゼの産業的な製造を、自然に分泌されるチロシナーゼの産生よりも時間がかかり、複雑にする。
【0017】
微生物チロシナーゼは、異種性に産生される。例えばアガリクス・ビスポラス(Agaricus bisporus)に由来する2つのチロシナーゼ遺伝子は、大腸菌(E. coli)中に少量発現した(Wichers et al., 2003)。アスペルギル・スオリゼ(Aspergillus oryzae)に由来するチロシナーゼ遺伝子melOは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)中で異種性に産生された(Fujita et al., 1995)。加えて、ストレプトマイセス・アンチビオティクス(Streptomyces antibioticus)に由来するチロシナーゼ遺伝子は、おそらくタンパク質分泌に関与するORF438と共に、大腸菌中に同時発現した(Della-Cioppa et al., 1990, US 5801047)。しかしながら、文献中で報告された微生物チロシナーゼの発現レベルは相対的に低く、高い力価の酵素の産生は不可能であろう。実際、チロシナーゼの利用能は、異なる適用において酵素を試験することを制限した。実際に、シグマ社から入手可能なアガリクスチロシナーゼは、唯一商業的に入手可能なチロシナーゼであった。しかしながら、この商業的な酵素は相対的に活性が低い粗製の酵素であり、非常に高価である。
【0018】
上述した観点から、活性および利用能の両方の点において望ましい性質を有する新規のチロシナーゼに対する必要性が今でもある。容易な回収のために、酵素は細胞の外へ多量に分泌されるべきであり、それにより単離プロセスにおいて細胞破壊の必要性を回避し、細胞細片から生じる複合体を回避することができる。さらに酵素は、商業的に許容可能な量であり、経済的であり、環境および健康へのリスクが最小限である組み換え技術による産生に適しているべきである。安全な有機体の使用は、食物への適用において特に重要である。本発明は、このような需要に応答するものである。
【0019】
原理的に、細胞内タンパク質も、それらをシグナル配列と共役させることにより分泌生成物として組み換え系において産生され得るが、自然に分泌されるタンパク質の方が、細胞外での産生に対してずっと好ましいと予想される。これは、それらがタンパク質の折り畳みおよび分泌経路の輸送機構によく順応するからである。
【発明の概要】
【0020】
本発明者は、我々の知識に対する第1の細胞外菌類チロシナーゼを確認した。
【0021】
本発明の1つの目的は、前記新規酵素を提供することである。前記酵素は、タンパク質修飾における使用に適している。
【0022】
もう1つの目的は、タンパク質修飾の方法ならびに前記新規酵素の使用について提供することである。
【0023】
本発明のさらにもう1つの目的は、前記新規酵素を産生する方法およびそれらの産生において有用な手段を提供することである。
【0024】
本発明は、トリコデルマ属の菌類において見出された新規のチロシナーゼを提供する。前記酵素は、細胞外にあり、組み換えによる産生および食物タンパク質の架橋結合への適用に対して非常に適している。トリコデルマ属は、相同的にも非相同的にも優れたタンパク質産生株として一般的に既知である。もう1つの利点は、トリコデルマ属が一般的に安全であるとみなされた周知の有機体ということである。
【0025】
本発明は、チロシナーゼ活性を有するセグメントを含んでなるタンパク質に向けられており、前記タンパク質は、配列番号3もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列、またはそれらのチロシナーゼ活性フラグメントに対して少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなる。前記タンパク質は、トリコデルマ属より得られてよい。本発明はさらに、タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクター、および前記発現ベクターを含んでなる宿主細胞にも向けられている。
【0026】
本発明はさらに、a)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するステップと、b)前記タンパク質の発現に対して適した条件下で、前記宿主細胞を培養するステップと、c)産生された前記タンパク質を任意に回収および精製するステップとを含んでなる、新規のタンパク質を産生する方法にも向けられている。
【0027】
あるいは、タンパク質を産生する方法は、細胞外チロシナーゼ遺伝子の発現を増強する効果のあるプロモーターを宿主細胞に導入するステップと、プロモーターを前記遺伝子に動作可能に結合するステップと、前記タンパク質の発現に適した条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、産生された前記タンパク質を任意に回収および精製するステップとを含んでなる。
【0028】
本発明には、上述したいずれの方法により得られるタンパク質も含まれる。
【0029】
本発明にはさらに、タンパク質含有物質もしくはチロシン含有ペプチドを修飾するため、またはチロシンをL-ドパに酸化するためのチロシナーゼ活性を有するタンパク質の使用も含まれる。チロシナーゼ活性を有するタンパク質と接触させることにより、タンパク質含有物質またはチロシン含有ペプチドを修飾する方法が提供され、チロシナーゼ活性を有するタンパク質とチロシンを接触させることにより、チロシンをL-ドパに酸化する方法も提供される。
【0030】
新規のタンパク質を含んでなる酵素製剤、およびチロシナーゼ活性を有するタンパク質により修飾されたタンパク質含有物質も、本発明の目的である。
【0031】
本発明の特別な実施形態は、独立クレームで示す。
本発明の他の目的、詳細、および利点は、以下の図、詳細な説明、および実施例から明確になるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0032】
チロシナーゼは、一般的に既知の銅酵素である。それは、活性部位に2つのTIII型の銅を含み、種々のフェノール化合物を対応するキノンへと酸化する。キノンは反応性が高く、さらに非酵素的に反応し得る。チロシナーゼの典型的な基質はチロシンであり、初めにヒドロキシル化されてドーパとなり、その後、酵素によりさらに酸化されてドーパキノンとなる。それ故、チロシナーゼは、1つおよび同じタンパク質において2つの酵素活性、すなわちモノフェノールモノオキシゲナーゼ活性(EC 1.14.18.1)およびカテコールオキシダーゼ活性(EC 1.10.3.1)を有する。
【化1】

【0033】
チロシナーゼの基質特異性は相対的に広く、前記酵素は、多くのポリフェノールおよび芳香族アミンを酸化することができる。しかしながら、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)とは反対に、チロシナーゼはシリングアルダジン(syringaldazin)を酸化しない。
【0034】
新規のタンパク質は、そのN末端に分泌の間に切断されるシグナル配列を有する細胞外チロシナーゼである。分泌時にタンパク質のさらなるプロセシングも可能である。言い換えると、タンパク質は未成熟のタンパク質として細胞内で産生され、必ずしも酵素的に活性があるわけではない。分泌の間に、前記タンパク質は酵素的に活性のあるより小さなタンパク質へ加工される。タンパク質の加工された形態は、「成熟した」タンパク質と呼ばれる。本発明のタンパク質は、「チロシナーゼ活性を有するセグメントを含んでなる」。これは、タンパク質は加工されていない形態であってよいが、チロシナーゼ活性に必要なタンパク質の部分を少なくとも含むことを意味する。言い換えると、それは、成熟したタンパク質か、または少なくとも酵素的に活性のあるその断片を含む。
【0035】
チロシナーゼ活性は、当該分野において一般に既知の技術により測定することができる。L-ドパまたはチロシンは基質として使用することができ、その後、ドパクロム(dopachrome)の形態が分光測定でモニターされてよく、あるいは、基質消費が酸素消費量によりモニターされてよい。チロシナーゼ活性は、チロシンのような適切な基質を加えることにより、アガープレート上に可視化することもでき、チロシナーゼ活性は、コロニーの周りに暗い領域を生じさせる。
【0036】
「シグナル配列」は、タンパク質のN末端部分に結合するアミノ酸配列を意味し、タンパク質の成熟した形態の細胞の外への分泌を促進する。タンパク質の成熟形態は、シグナル配列を欠いている。
【0037】
新規のチロシナーゼは、トリコデルマ属から得られ、前記有機体から得られるポリヌクレオチドによりコードされている。「得られる」とは、ここで用いられる場合、タンパク質またはポリヌクレオチドがトリコデルマ種から得られるということを意味するが、それから生じたものと同じであるか、またはその特定の菌類により自然に産生されるタンパク質およびポリヌクレオチドも含まれる。均等物は、特に他の糸状菌中に見いだされてよい。本発明の1つの特別な実施形態によると、前記新規のタンパク質はトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)から得られるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0038】
トリコデルマ・リーゼイに由来する2つのチロシナーゼ遺伝子、すなわちtyr1(骨格19)(配列番号1)およびtyr2(骨格11)(配列番号2)は、623 (TYR1) (配列番号3)および571 (TYR2) (配列番号4)アミノ酸のタンパク質をコードする。tyr1遺伝子は、以下のヌクレオチドの位置に3つのイントロンを含んでなる:I 290-355, II 487-571, III 839-890。tyr2遺伝子は7のイントロンを含んでなる: I 159-397, II 475-540, III 624-725, IV 774-832, V 1199-1243, VI 1429-1506, VII 2123-2221。TYR1およびTYR2は共に、N末端に推定上のシグナル配列を有し、酵素が細胞外にあることを示す。TYR1およびTYR2に対するデータベースにおける最も近い相同体は、赤カビ病(Gibberella zeae)に由来する2つの異なる推定上のチロシナーゼである(それぞれ47%および46%の同一性)。これらのタンパク質は、赤カビ病のゲノム塩基配列決定の試みにおいて同定されてきたが、それらがチロシナーゼ活性を有することは示されていない。前記2つのトリコデルマ・リーゼイチロシナーゼは、相互に30%の同一性を有する。TYR2のC末端切断部位までのTYR1およびTYR2のアミノ酸配列のアラインメントを図1に示す。前記タンパク質はN末端にシグナル配列を有し、それらが細胞外にあること、すなわちそれらが細胞外に分泌されることを意味する。シグナル配列予測プログラムは、TYR1のシグナル配列が20アミノ酸長であり、TYR2のシグナル配列が18アミノ酸長であると示唆する。
【0039】
少なくともTYR2は、そのC末端においてさらにタンパク分解性に加工され、それによりタンパク質の約1/3が切断される。TYR1もそのC末端において同様に加工されることが予想される。トリプシンペプチドおよび臭化シアン処理した酵素の加水分解産物の質量分析によると、TYR2のC末端切断部位は、配列-GPNSGの後の位置410(配列番号4)のアミノ酸である。多くの菌類チロシナーゼは、C末端プロセシングを有することが報告されている。文献によると、菌類チロシナーゼは、触媒部位に到達する基質を開発するために提唱された限られたタンパク分解性の切断により、インビトロにおいて活性化される (Decker and Tuczek, 2000)。
【0040】
加えて、TYR1はそのN末端において、シグナル配列の後にプロペプチドを含んでもよく、プロペプチドは、分泌時に特異的なkex2型ペプチダーゼにより切断される。可能な切断部位は、配列SITRRRの後のアミノ酸36と37との間であってよい。
【0041】
TYR1およびTYR2は、それらの活性部位に2つの銅原子を有する。各銅原子は、3つのヒスチジン残基により配位される。他の菌類チロシナーゼ中に見出されたチオエーテル結合も、システインおよびCuが付随した第2のヒスチジン残基の間で検出され得る。
【0042】
新規のタンパク質は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、および配列番号8に示すような配列からなる群より選択されるプライマーを用いて増幅することによりトリコデルマ属のDNAから得られるポリヌクレオチドによりコードされる。核酸の増幅は、当該分野において一般に既知である。通常、核酸配列は、増幅されるべき配列の各側にハイブリダイズする順方向および逆方向プライマーのプライマー対を用いたPCRにより増幅される。増幅されたポリヌクレオチドは、配列番号1または配列番号2に含まれる配列を有してよい。新規のタンパク質は、配列番号3または配列番号4に含まれるアミノ酸配列を有してよい。「含まれる」とは、少なくとも上述した配列の部分を有する配列を意味する。それ故、前記タンパク質は、配列番号3または配列番号4のチロシナーゼ活性フラグメントのみを含んでよい。
【0043】
配列番号3および配列番号4に示すアミノ酸配列中の1以上の部位における、1以上のアミノ酸の付加、置換、欠失、または挿入は、タンパク質の分泌、プロセシング、または酵素的性質に必ずしも影響を与えない。それ故、本発明のタンパク質は、配列番号3もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列、または前記配列のチロシナーゼ活性フラグメントに対して、少なくとも70%、または少なくとも80%、特に少なくとも90%もしくは少なくとも95%の同一性を有する。
【0044】
本発明の1つの実施形態によると、タンパク質は、配列番号1または配列番号2に示したような配列を有する核酸とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドによりコードされる。これには、同定された配列の部分のみとハイブリダイズする配列が含まれる。もちろん、いずれの相補鎖とハイブリダイズする配列も含まれる。「ハイブリダイズする」とは、分離された核酸鎖を塩基対形成により相補鎖と連結することによる加工を意味する。ハイブリダイズの条件は、通常、中間または高いストリンジェンシーである。例えば、中間のストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、6x SSC (0.09 M クエン酸ナトリウム中の0.9 M NaCl, pH 7)、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、5x Denhardt’s 溶液、および100 μg/mlのHerring Sperm DNAを含むハイブリダイゼーション混合物中で、50℃で行うことができる。高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、例えば同じハイブリダイゼーション混合物中で、68℃で行うことができる。
【0045】
新規のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1もしくは配列番号2に含まれる配列を有するか、または配列番号1もしくは配列番号2に含まれる配列とハイブリダイズすることができる。
【0046】
新規の酵素は細胞外にあるため、それらは特に、大規模な製造に対して有用である。都合のいいことに、チロシナーゼは組み換え技術により産生される。これは、PCR反応(Coen, 2001)または他の組み換えDNA手法(Sambrook et al., 1989)における増幅により、チロシナーゼ遺伝子を含んでなるフラグメントを単離すること、強力なプロモーター存在下において発現ベクター中へ遺伝子を導入すること、ベクターを適切な宿主細胞へ移すこと、およびチロシナーゼ酵素の産生を引き起こす条件において宿主細胞を培養することを意味する。異なる宿主系において組み換え技術によりタンパク質を産生する方法は、当該分野において周知である(Gellissen, 2005)。あるいは、強力なプロモーターのみが宿主の染色体上のチロシナーゼ遺伝子に動作可能に結合することにより、前記遺伝子の発現は過剰発現となる。
【0047】
ここで用いられる場合、「発現ベクター」とは、新規のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでなるDNA構築物を意味する。タンパク質を発現させることを可能にするために、ベクターは以下の動作可能に結合した要素を含んでなる:転写性のプロモーター、前記タンパク質をコードするセグメント、および転写性のターミネーター。ベクターは、染色体に組み込まれるものであるか、または自己複製するものであってよい。
【0048】
「宿主細胞」とは、発現ベクターを含んでなり、ベクターによりコードされるタンパク質を発現することができる宿主を意味する。宿主細胞は、原核生物または真核生物であってよい。可能な宿主は、細菌、酵母、および真菌、特に糸状菌であってよい。1つの好ましい実施形態によると、チロシナーゼは、相同的に、すなわちトリコデルマ属において、特にトリコデルマ・リーゼイにおいて発現する。他の可能な宿主は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、ピクノポラス・シナバリナス(Pycnoporus cinnabarinus)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、大腸菌(Escherichia coli)、および枯草菌(Bacillus subtilis)である。
【0049】
適切なプロモーターは、強い転写活性を有し、チロシナーゼを高く発現することができるものである。トリコデルマ属における発現に対して適した強力なプロモーターはcbh1であり、代わりのプロモーターは、例えば、cbh2、egl1、xyn1、xyn2、およびtki1、ならびにアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans) gpdAのプロモーターである。
【0050】
本発明の1つの特別な実施形態によると、タンパク質は、細胞外チロシナーゼをコードするDNA配列を宿主細胞に導入することにより産生され、そのDNA配列は、配列番号5および配列番号6、または配列番号7および配列番号8に示す配列を有するプライマー対を用いて増幅することにより、トリコデルマDNAから得られてよく、前記宿主細胞を発現に適した条件下で培養し、分泌されたタンパク質を培地から回収し、任意にそれを精製する。前記タンパク質は、培地から分離され、クロマトグラフィー、沈殿、遠心分離、ろ過、ゲル電気泳動等のような当該分野において既知の分離および精製技術により、その天然の環境からさらに精製されてよい。
【0051】
本発明の酵素製剤は、粗製または精製された形態の新規のチロシナーゼを含んでなる組成物である。加えて、それは、他のタンパク質および酵素を含む他の成分を含有してもよい。それは、例えばタンパク質が分泌された宿主細胞の培地であってよい。
【0052】
トリコデルマチロシナーゼは、例えばタンパク質基質におけるように、続いて架橋結合を形成する反応性を有するフェノール基を含んでなるいずれの種類のマトリックスに対して、キノンを形成することにおいて有用である。
【0053】
トリコデルマチロシナーゼは、タンパク質含有物質、特に、相対的に高い全体量または相対的に高い量の近づきやすいチロシン残基を有するタンパク質を処理するために使用されてよい。チロシン含有ペプチドは修飾されてもよい。酵素は、医薬、化粧品、パルプおよび紙、洗剤、織物産業、ならびに餌および食物産業のように、異なる種類の産業に適用されてよい。
【0054】
トリコデルマチロシナーゼは、タンパク質含有食物、特に、肉、乳製品、野菜、および穀類の処理に特に適している。チロシナーゼを用いて食物タンパク質を架橋結合することにより、食品の歯ごたえおよびレオロジーの性質が改善され得る。
【0055】
例えば、チロシナーゼを有する魚、鶏肉、または他の肉製品の処理は、よい歯ごたえ、他の構造形成剤の量の減少を伴った製品を得ることを促進する。チロシナーゼは、ゲル化のために使用されてもよく、それによりゼラチンを使用しないことが可能になる。チロシナーゼはさらに、離液、すなわち水相の分離を防ぐために使用することもでき、これは、多くの乳製品、特に脂肪量が低い場合に問題となる。例えば、ヨーグルト、特に低カロリーのヨーグルトを作る場合、保存の間に固体と液体の相が分離する傾向がある。これは、消費者にとって不満であり、ヨーグルト中の原料をチロシナーゼで処理することにより防ぐことができる。チロシナーゼは、パン作りの工程、例えば生地を固める工程においても適用可能であり、これは、冷凍のパン生地製品を作る場合に特に望まれる。
【0056】
チロシナーゼは、さらにL-ドパを作るために使用されてもよく、パーキンソン病の治療において有用であり、化粧品産業に対する成分であるメラニンの産生において有用である。加えて、チロシナーゼはシルク、ウール、カシミア、アルパカ、またはヒトの髪のような、タンパク質繊維または繊維由来のポリマーを架橋結合するために使用されてよい。
【0057】
本発明は、以下の非限定的な実施例により説明される。しかしながら、上述した説明および実施例における実施形態は、説明することのみを目的としていると解されるべきであり、種々の変化および修飾は本発明の範囲内とすることが可能である。
【0058】
実施例1
チロシナーゼ陽性の微生物に対するプレートスクリーニング
チロシナーゼ活性のスクリーニングのための指示薬は、文献から選択した。L-チロシン、p-クレゾール、p-クマル酸、チラミン、3-ヒドロキシアントラニル酸、およびカテキンは、表1に示す濃度で用いた。トリコデルマ・リーゼイは、選択した指示薬(表1)(Difco)を含む麦芽エキス寒天培地において、37℃で48日間培養した。プレート上の可能な色の変化を視覚的に観察した。
【0059】
トリコデルマ・リーゼイは、L-チロシン、チラミン、3-ヒドロキシアントラニル酸、およびカテキンとの明確な陽性反応を示した。結果は、T.リーゼイがチロシナーゼ陽性の微生物であることを明確に示した。
【表1】

【0060】
実施例2
トリコデルマ・リーゼイからのtyr1およびtyr2遺伝子の単離
新規のチロシナーゼ遺伝子は共に、ゲノムT.リーゼイDNAからPCRにより増幅した。tyr1に対して使用したプライマーは以下である:
GCT ACC GCG GAT GGG CTT CCT CGC TCG CCT CAC (配列番号5)および逆方向:
CTG AGG ATC CTC AGT GGT GGT GGT GGT GGT GCT CCC ACA ACA CCA ATC TCA GCA T (配列番号6)。
【0061】
tyr2は以下のプライマーを用いて増幅した:
GGG GAC AAG TTT GTA CAA AAA AGC AGG CTA TCA TGC TGT TGT CAG GTC CCT CTC G (配列番号7)および逆方向プライマー:
GGG GAC CAC TTT GTA CAA GAA AGC TGG GTC AGT GGT GGT GGT GGT GGT GCA GAG GAG GGA TAT GGG GAA CGG CAA A (配列番号8)。
【0062】
PCR反応は、製造業者により推薦された反応混合物中において、Dynazyme EXT熱安定性ポリメラーゼを用いて行った。PCRプログラムは、94℃で3分間の最初の変性ステップを行い、続いて、94℃で30秒間、52℃で45秒間、および72℃で2.5分間を25サイクル行った。続いて、72℃で5分間の最終的な伸長ステップを行った。望ましい大きさのPCR産物が得られ、当該分野で既知の方法を用いてアガロースゲル中に流し、Qiaquick Mineluteゲル精製キットを用いてゲルから精製した。tyr1遺伝子フラグメントは、TOPO-TAクローニングキット(インビトロゲン社製)を用いて、pCR2.1TOPOベクター中へクローン化した。tyr2遺伝子フラグメントは、Gateway組み換えキット(インビトロゲン社製)を用いて行われるBP組み換え反応により、pDONR221ベクター(インビトロゲン社製)へ移した。前記遺伝子は、PCR変異を排除するために配列決定した。
【0063】
実施例3
強力なプロモーター存在下における、トリコデルマ・リーゼイ中のtyr2遺伝子の過剰発現
tyr2遺伝子フラグメントを、LR組み換え反応により、pDONR221ベクターからT.リーゼイ発現ベクターpMS186に移した。このベクターは、cbh1(セロビオヒドロラーゼ1)プロモーターとターミネーターとの間に挿入されたGateway リーディングフレームカセットC (RfC)を含有する。このベクターは、T.リーゼイ形質転換体の選択に対するハイグロマイシン耐性カセットも有する。LR組み換え反応は、製造業者により指示されたGateway組み換えキット(インビトロゲン社製)を用いて行った。この組み換えにおいて、tyr2遺伝子フラグメントはcbh1プロモーターとターミネーターの間に挿入され、プラスミドpMS190を生じる(図2)。
【0064】
プラスミドpMS190は、述べられたように(Penttila et al., 1987)、本質的に、T.リーゼイ株VTT-D-00775に形質転換され、形質転換体は、ハイグロマイシンBを125μg/ml含有するプレートにおいて、ハイグロマイシン抵抗性のために選択された。形質転換体は、3つの逐次的なラウンド(three successive rounds) に対して選択的な培地を含むプレート上に筋をつけ、プレート試験によりチロシナーゼ活性を試験した。試験プレートは、炭素源として2%ラクトース、緩衝剤(pH 5.5)として1%K-フタレート、標識物質として1%チロシン、および0.1 mM CuSO4を含むトリコデルマ最小培地(Penttila et al., 1987)を有する。形質転換体はプレート上に筋をつけ、7日間培養した。チロシナーゼ活性は、筋の周りに生じたダークブラウンの色としてプレート上に観察された。明確な染色を示すいくつかの陽性形質転換体が見られた。親菌株はこの試験において染色を示さなかった。
【0065】
実施例4
液体培養液におけるTYR2の産生
陽性形質転換体は、4%ラクトース、2% 蒸留器の廃粒子(distiller's spent grain)、100 mM PIPPS、および2 mM CuSO4を補充したトリコデルマ最小培地(Penttila et al., 1987)中で、8日間フラスコ振とう培養した。チロシナーゼ活性は、基質として15mM L-ドパ(L-3, 4 ジヒドロキシフェニルアラニン), (シグマ社製)を用いた培養の上清サンプルから測定した。前記活性は、2mMの濃度のL-チロシン(シグマ社製)の場合についても測定した。両方の活性測定は、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)中、25℃で行われ、475nmにおけるドパクロムの形成をモニタリングした。モル吸光係数ε 3400 M-1 cm-1 (Robb, 1984)を用いた。測定は、二光波分光光度計(Lambda 20, Perkin-Elmer, Uberlingen, Germany)を用いて行った。活性は、ナノカタールとして表した。3つの最も良い形質転換体は、40、35、および11nkat/mlのチロシナーゼ活性を生じた。
【0066】
振とうフラスコ中で最も高いレベルのチロシナーゼを産生する形質転換体pMS190/VTTD-00775/98は、ラクトース20g/L、蒸留器の廃粒子(distiller’s spent grain) 10g/L、KH2PO4 15g/L、および2 mM CuSO4 x 5H2Oを含有する20Lの培地中で、Braun Biostat C-DCU 3 発酵槽 (B. Braun Biotech, Germany)において培養し、pHはNH4OHおよびH3PO4を用いて5.5〜6に調節し、培養温度は28℃とした。溶解した酸素レベルは、450rpmで撹拌し、8L/分および0〜30%のO2濃縮した入射する空気を用いて曝気することにより30%以上に保持した。発泡は、Struktol J633 ポリオレエート消泡剤(Schill & Seilacher, Germany)の自動添加により制御した。ラクトースおよび全タンパク質の濃度、ならびにチロシナーゼ活性を測定するために、サンプルを毎日摂取した。発酵細胞を遠心分離により除去した後、培養液上清を限外ろ過により2.5倍濃縮した。
【0067】
約300nkat/mlレベルには、培養6日後に到達した。精製したTYR2の比活性を用いてなされた計算によると、発酵における最も高い活性は約1g/Lの酵素に対応する。
【0068】
実施例5
TYR2の精製
遠心分離して濃縮した培養液上清(実施例4で得られた)を、初めにアビセル(Avicel)微結晶セルロース(0.2 g/ml 培養液上清)で処理して結合させ、セルラーゼを除去した。サンプルを4℃で10分間、一定の撹拌条件下でインキュベートした。上清を遠心分離により回収した(10000rpm)。緩衝液を10 mM トリス-HCl 緩衝液, pH 7.3に変え、Sephadex G-25 Coarse カラム (2.6 x 27 cm; Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を用いた。続く精製ステップは、AKTA(登録商標)精製器(アマシャムバイオサイエンス, Uppsala, Sweden)を用いて行った。サンプルを、10 mM トリス-HCl緩衝液, pH 7.3で最初に予め平衡化したHiPrep(登録商標) 16/10 CM セファロースファストフローカラムに適用した。トリス-HCl緩衝液中における0〜180mM NaClの直線勾配(120ml)を用いてタンパク質を溶出した。チロシナーゼ陽性画分を集め、Vivaspin 20 (10000 MWCO, PES, Vivascience)を用いて8.2mlの濃度まで濃縮し、ゲルろ過カラム、150mM NaClを含有する20 mM トリス-HCl、pH 7.5を用いて平衡化したHiPrep 26/60 Sephacryl S-100 HR カラム(AKTA, ファルマシア)に適用した。活性画分を集め、濃縮した。
【0069】
SDS-PAGE (12% トリス-HCl Ready Gel, Bio-Rad)は、Laemmli (1970)に従って行った。タンパク質のバンドは、クーマシーブリリアントブルー (R350; ファルマシア)を用いて染色することにより視覚化され、分子量マーカーと比較した(予め染色したSDS-PAGE スタンダードブロードレンジ(Standards Broad Range) カタログ番号161-0318, Bio-Rad)。
【0070】
TYR2は、二重のバンドとしてPAGE上に現れる。ゲルろ過および逆相クロマトグラフィーを用いてさらに分析した場合、唯一のタンパク質種が精製したプレップ(prep)中に存在することが観察されるため、ゲル上の二重バンドはゲルの人工産物である。興味深いことに、ゲルから精製したTYR2のおよその分子量は、45kDaしかなく、これは推測されるアミノ酸配列から計算される値(60.4kDa)よりずっと下である。この結果は、TYR2がそのC末端において加工されるということを示す。
【0071】
精製の表を以下の表2に示す。表中のゲルろ過1および2は、異なる貯留のチロシナーゼ陽性サンプルを示す。
【表2】

【0072】
実施例6
TYR2の生化学的な特徴づけ
タンパク質濃度は、標準物質としてウシ血清アルブミンを用いて、Bio-Rad DC タンパク質分析キット(Bio-Rad, Richmond, USA)により測定した。いくつかのタンパク質濃度は、Hitachi U-2000分光光度計(Hitachi, Tokyo, Japan)を用いて、280nmでの吸収をモニタリングすることにより決定した。チロシナーゼ活性は、実施例4に記載したように測定した。
【0073】
TYR2は、L-チロシンおよびL-ドパの両方を酸化することが可能であった。活性の示数は、L-ドパがL-チロシンの約6倍の高さの活性値を与えることを示した。結果は、以下の酵素反応における酸素消費により、L-ドパおよびL-チロシンにおける酵素活性を決定することによっても確認された。文献によると、多くの微生物チロシナーゼは、それらの活性にSDSを必要とする。チロシナーゼ活性におけるSDS(シグマ社製)の効果は、活性分析において異なる濃度のSDSを用いて測定した。驚くべきことに、SDSは酵素活性を阻害することが見出された:0.5mMのSDS濃度において、酵素には50%の活性しか残らなかった。
【0074】
細胞培養液上清からの酵素および精製した酵素の等電点(pI)は、製造業者の指示に従って、LKB 2117 Multiphor II 電気泳動システム(LKB ファルマシア, Bromma, Sweden)において、pH3.5〜9.5の範囲内で(IEFのためのアンフォライン PAGプレート 3.5〜9.5、アマシャムバイオサイエンス社製)、等電点電気泳動を行うことにより決定された。チロシナーゼ活性を有するバンドは、0.1Mリン酸ナトリウム(pH 7.0)中の15mM L-ドパおよびタンパク質を含有するゲルをクーマシーブルー染色により視覚化した。クーマシーブルーを用いて染色した場合、精製したTYR2は、pH〜9に2つのバンドを示した。天然の条件下において、等電点電気泳動では、培養ろ液および精製したチロシナーゼは共に、L-ドパで染色した場合に明確なバンドを示さず、代わりに、活性は約pH9において茶色の領域として観察された。チロシナーゼに対する至適pHは、酸素消費量測定により試験した。測定は、光ファイバー酸素ミニセンサーを含む単一チャンネル酸素メーター(精度感知(Precision sensing) GmbH, Germany)を用いて、0〜100%酸素の測定範囲で行った。0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解した濃度15mMのL-ドパを基質として使用した。反応は、1.8mlの基質溶液および4.3μgの精製したT.リーゼイチロシナーゼを用いて行った。3つの異なる緩衝液を、それらの緩衝能力によって使用した。McIlvaine緩衝液はpH2〜7の範囲、トリス-HCl緩衝液(50mM)はpH7〜9の範囲、ホウ酸緩衝液(12.5mM)はpH8〜9.5の範囲で使用した。TYR2の至適pHは、8〜8.5である。前記酵素は、かなり広いpH範囲、すなわちpH5〜9において相対的に高い活性を有する。トリス-HCl緩衝液を用いた場合、L-ドパの自動酸化は、pH8〜9において観察されたが、ホウ酸塩を用いた場合は同様の現象が見られなかった。pH8、8.5、および9.0におけるトリス-HCl緩衝液を用いた測定において、酵素添加なしのブランク試験が、結果における自動酸化の影響を補正するために行われた。チロシナーゼの至適pHは、緩衝液に依存しているように思われた。
【0075】
異なるpH値における酵素の安定性は、異なるpH値の酵素溶液を室温でインキュベートすることにより、McIlvaine, 50 mM Na2HPO4-25 mM クエン酸緩衝液中で測定した。残留しているチロシナーゼ活性は、基質としてL-ドパを用いて酵素溶液の活性を測定することにより決定した。
【0076】
温度安定性は、30、40、および50℃で測定した。20 mM トリス-HCl 緩衝液 (pH 7.5)中の酵素溶液(320 nkat / ml)を、異なる温度でインキュベートし、15mM L-ドパを用いた標準的な活性試験によりチロシナーゼ活性を測定するのに適した時間が経過した後、残留酵素活性を測定した。酵素は、中性およびアルカリ性のpHにおいてよい安定性を示した。pHが7より下に下がった場合、酵素は安定性を失い始めた。
【0077】
チロシナーゼの分子量およびN末端の配列は、上述したように、ウルトラフレックス(Ultraflex:登録商標)飛行時間機器 (BrukerDaltonics, Germany)を用いたMALDI-TOF質量分析により測定した(Palonen et al. 2003)。MALDI-TOFにより分析した場合、チロシナーゼの分子量は、約42.9 kDaであった。N末端アミノ酸分析は、N末端が遮断されていることを示した。これは、成熟したタンパク質における最初のアミノ酸としてのグルタミンの存在を示す。この結果は、配列データと一致する。
【0078】
精製したTYR2の光学的な吸収スペクトルは、Varian Cary 100 Bio UV-可視分光光度計を用いて測定した。精製したチロシナーゼの紫外可視吸収スペクトルは、280nmに主要なタンパク質のピークを有し、330nmにくびれを伴う。前記くびれは、架橋ヒドロキシルを有する酸化型におけるT3型の銅対を示す。
【0079】
実施例7
チロシナーゼの基質特異性
種々の選択された基質におけるチロシナーゼの基質特異性は、酸素消費量測定により調べた。基質の濃度は2.5mMとし、化合物は0.1 M リン酸ナトリウム緩衝液, pH 7.0に溶解した。反応は、1.8 mlの2.5 mM 基質溶液および24μgの精製したTYR2を用いて行った。参考文献のように、基質特異性分析は、商業的なアガリクス・ビスポラス(Agaricus bisporus)粗製チロシナーゼ(シグマ社製)についても行った。それぞれ、50μgの前記マッシュルームチロシナーゼが試験に用いられた。試験に使用されたモノ-、ジ-、およびトリ-フェノール化合物の構造を表3および4に示す。TYR2およびアガリクスチロシナーゼは、ペプチド鎖の異なる位置にチロシンを含有する選択されたモデルペプチドを用いて分析した(表5)。TYR2およびアガリクスチロシナーゼによるL-/DL-D-ドパおよび-チロシンの酸化も測定した(表6)。
【表3】

【表4】

【表5】

【0080】
**Y = チロシン、G = グリシン
【表6】

【0081】
TYR2は、パラ位にOH基を有する多くの置換モノフェノールを酸化することができた。フェノール性ヒドロキシル基に対してオルト位の側鎖は立体障害を起こし、結果として基質の酸化はより少ないか起こらなかった。基質構造におけるアミン基の存在および位置は、TYR2による酸素消費の速度を考える上で重要であると思われた。フェノールのヒドロキシル基がアミノ基により近いほど、基質の酸化はより遅くなった。アミノ基の位置についての同様の効果は、ペプチド測定においても見られた。興味深いことに、TYR2の基質特異性は、アガリクスチロシナーゼの基質特異性と実質的に異なる。TYR2は、アガリクスチロシナーゼと比較して立体特異的である。
【0082】
表5から見られるように、TYR2およびアガリクスチロシナーゼは、試験されたモデルペプチドを酸化することができた。TYR2の酸化速度は、ペプチドの長さおよびチロシン残基の位置に非常に依存した。ジペプチドは、単一のチロシンよりも容易に酸化され、C末端にチロシン残基を有するペプチドは、N末端にチロシンを有するペプチドよりもTYR2に対するよい基質であった。アガリクスチロシナーゼは、チロシン残基の位置に対して感受性がなかった。
【0083】
驚くべきことに、トリコデルマチロシナーゼは、L-チロシンおよびL-ドパに対して高い立体特異性を示した(表6)。L-エナンチオマーは、D-エナンチオマーよりもずっと早い速度で酸化された。アガリクスチロシナーゼに関しては、異なるエナンチオマーの間に酸化速度の違いは見られなかった。実際に、Espin et al (1998)は、アガリクスチロシナーゼは異なるエナンチオマーに対する親和性において立体特異性を示したが、反応速度においては特異性を示さなかったことを述べている。反応速度における明確な違いは、合成化学における利点である。
【0084】
TYR2のモデルタンパク質における架橋結合能は、SDS-PAGEにおけるMWの変化により分析されてもよい。結果は、TYR2はα-カゼインおよびニワトリ筋原繊維と架橋結合することができるが、ウシ血清アルブミンとはできないことを示した。詳細は、実施例8および9に示す。
【0085】
実施例8.肉タンパク質のチロシナーゼ触媒架橋結合
TYR2により引き起こされる、単離されたニワトリ胸筋筋原繊維の塩溶解性タンパク質(SSP)の分子量における変化は、SDS-PAGEにより分析した。SPPは、Xiong and Brekke, 1989により単離した。酵素処理のために、SSPは、0.6M NaClを含有する50 mM Na-リン酸緩衝液, pH 7中に懸濁し、タンパク質濃度を3 mg/mlとした。タンパク質グラム当り120nkatまたは240nkatのTYR2を懸濁液に加えた。対照懸濁液は、酵素を添加せずに同様の方法で処理した。反応混合物を30℃でインキュベートした。サンプルを、2分、1時間、3時間、および24時間のタイムポイントで取った。SDS-PAGEサンプル緩衝液を加え、サンプルを沸騰水浴中で加熱した。各サンプルからの20μgのタンパク質を12%トリス-HClポリアクリルアミドゲル上に負荷した。SDS-PAGEは、Laemmli, 1970により行った。
【0086】
TYR2により触媒されたタンパク質バンドにおける主要な変化は、それらの相対的な泳動度および染色度を、酵素なしで同様に処理したものと比較することにより試験的に同定した。TYR2を使用した条件および用量において、以下の検出可能な電気泳動的な変化を生じ、それは24時間酵素処理した後において最も顕著であった:(1)3時間の処理の後、両方の酵素用量における〜200kDaのミオシンバンドの進行的な消失、(2)3時間の処理の後、両方の酵素用量における〜36kDaのバンドの進行的な消失、(3)24時間の処理の後、ゲルに入っていなかった大きな分子量のタンパク質産物(>200kDa)の出現。
【0087】
ニワトリ筋原繊維マトリックスにおいて架橋結合を形成するためのTYR2の能力は、低い変形においてゲル形成能を測定する貯蔵弾性率(G’)の展開として検討されてもよい。測定は、ボーリン(Bohlin)レオメーターを使用して、一定温度に加熱しながら行った。ニワトリ胸筋原繊維は、Xiong and Brekke (1989)に従って、単離緩衝液からEDTAおよびNaN3を取り除いて単離した。単離した筋原繊維を、0.30M NaClを補充した50 mM Na-リン酸緩衝液, pH 6中に懸濁し、タンパク質濃度を40mg/mlにした。タンパク質g当り240nkatのTYR2を用いて、25℃、30℃、および40℃で3時間、懸濁液を処理した。対照サンプルは、酵素なしで同様の方法により処理した。
【0088】
結果は、筋原繊維サンプルのTYR2処理が、Na-リン酸緩衝液のみで処理されたものよりもずっとG’を増大させることを示す(図5を参照されたい;系統は下から上に、対照25℃、対照30℃、対照40℃、TYR2 25℃、TYR2 30℃、およびTYR2 40℃である)。処理温度の上昇はゲル形成を増強する。それ故、架橋結合は、ニワトリ筋原繊維タンパク質マトリックスに対してTYR2により形成される。
【0089】
実施例9.Tyr2による乳タンパク質のゲル化
3%の商業的なカゼイン塩を水中で混合し、0.4% GDL(グルコノ-δ-ラクトン)および20 nkat/g のTYR2のタンパク質を混合物に加えた。室温で22時間置き、その後、ゲルの硬さをテクスチャーアナライザーで測定した(図6)。チロシナーゼ処理はカゼイン塩ゲルの硬さを2倍にした。
【0090】
実施例10.小麦生地の特徴付けにおけるTYR2の効果
小麦生地の大きな変形レオロジーにおけるTYR2の効果は、Kieffer 伸展性器具(Stable Micro Systems, Ltd. United Kingdom)を用いて検討した。生地の伸展性および伸展に対する耐性は、酵素用量および生地を休ませる時間の関数として測定した。
【0091】
小麦粉は、12gの小麦粉および7.2mlの液相(60%)を用いて、ファリノグラフ(Farinograph (Brabender, Germany))で混合した。チロシナーゼ(1および10nkat/g小麦粉)を、小麦粉と混合する直前に水に加えた。混合時間は4分とした。続いて、生地を型に入れ、約10〜12の試験用のひもを作った。圧縮された型を室温で15〜45分間置き、応力緩和させた。Kieffer試験において、生地のひもは、ひもの弾性限界を超えて切れるまで中心を伸展した。最大抵抗Rmax、最小伸展性Emax、およびRmaxにおける伸展性Exを、最大および伸展限界においてピーク力および距離を記録することにより決定した。全ての生地調製、酵素処理、および測定は、室温である約22度で行った。
【0092】
Kieffer実験による結果は、図7および8に示す。それらは、TYR2が生地の最大抵抗Rmaxを増大させ、生地の硬さを示すRmaxにおける生地の伸展性Exを減少させることを示す。酵素の用量を増大させることにより、生地の硬さを増強する。
【参考文献】
【0093】
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【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、T.リーゼイTYR1およびTYR2アミノ酸配列のアラインメントを示す。前記配列は、TYR2のC末端切断部位まで示されている。シグナル配列は第1の列上である。TYR1の推定上のプロペプチド切断部位は矢印で示されている。活性部位構造の形成に関与するアミノ酸残基に影をつけた。影をつけたヒスチジンは、活性部位における2つのCu原子に対するリガンドである。チロシナーゼの活性部位に関与するシステインおよびヒスチジンの間のチオエーテル結合は、配列の上の水平線により示される。
【図2】図2は、T. リーゼイ株を形質転換するために使用されるプラスミドpMS190の遺伝マップを示す。cbh1 prom, cbh1 プロモーター; Tcbh1, cbh1 ターミネーター; hph, ハイグロマイシン耐性遺伝子; trpC, trpC ターミネーター, ColE1 ori, E. coliに対する複製開始点; bla, β-ラクタマーゼ遺伝子。
【図3】図3は、pHが2〜8の範囲内の精製されたTYR2の、1時間後および1〜3日後の安定性を示す。
【図4】図4は、30℃、40℃、および50℃で測定した、精製したTYR2の熱安定性を示す。
【図5】図5は、25℃、30℃、および40℃においての、TYR2による筋原繊維タンパク質のゲル形成効率を示す。
【図6】図6は、TYR2処理をした場合およびしない場合のカゼインゲルの硬さを示す。
【図7】図7は、小麦の生地の最大距離Emax (mm)およびRmaxにおける距離Ex (mm)パラメータにおけるTYR2の効果を静止時間の関数として示す。
【図8】図8は、小麦の生地の力(g)パラメータにおけるTYR2の効果を静止時間の関数として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシナーゼ活性を有する配列を含んでなるタンパク質であって、配列番号3もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列またはそれらのチロシナーゼ活性フラグメントに対して、少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質であって、トリコデルマ属から得られるタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質であって、そのN末端にシグナル配列を含んでなるタンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質であって、チロシナーゼ活性を示す成熟タンパク質であるタンパク質。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質であって、配列番号5と配列番号6に示す配列または配列番号7と配列番号8に示す配列を有するプライマー対を用いて増幅することによりトリコデルマ属のDNAから得られるポリヌクレオチドにより、コードされるタンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質であって、トリコデルマ・リーゼイから得られるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質であって、配列番号1または配列番号2に含まれる配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質。
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質であって、配列番号3または配列番号4に含まれるアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質であって、配列番号3または配列番号4に示すアミノ酸配列のチロシナーゼ活性フラグメントを含んでなるタンパク質。
【請求項10】
請求項1に記載のタンパク質であって、配列番号1または配列番号2に示す配列を有する核酸とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質。
【請求項11】
請求項1に記載のタンパク質であって、約42.9kDaの分子量、約9のpI、約8〜8.5の至適pH、アルカリ性または中性pHにおける活性を有する天然タンパク質であるタンパク質。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドであって、配列番号1または配列番号2に含まれる配列を有するか、または配列番号1または配列番号2に含まれる配列とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項12または13に記載のポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の発現ベクターであって、前記ポリヌクレオチドがcbh1のような強力なプロモーターの存在下で導入される発現ベクター。
【請求項16】
請求項14または15に記載の発現ベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の宿主細胞であって、糸状菌または酵母種である宿主細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の宿主細胞であって、トリコデルマ種、好ましくはトリコデルマ・リーゼイである宿主細胞。
【請求項19】
請求項1に記載のタンパク質を産生する方法であって、
a)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するステップと、
b)前記タンパク質の発現に適した条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、
c)産生したタンパク質を任意に回収および精製するステップとを含んでなる方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
a)細胞外チロシナーゼをコードするDNA配列であって、配列番号5と配列番号6、または配列番号7と配列番号8に示す配列を有するプライマー対を用いた増幅によりトリコデルマ属DNAから得られるDNA配列を、宿主細胞に導入するステップと、
b)発現に適した条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、
c)分泌されたタンパク質を培地から回収し、それを任意に精製するステップとを含んでなる方法。
【請求項21】
請求項19または20に記載の方法であって、導入されたDNAがトリコデルマ・リーゼイから得られる方法。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法であって、前記宿主細胞がトリコデルマ属、好ましくはトリコデルマ・リーゼイである方法。
【請求項23】
請求項1に記載のタンパク質を産生する方法であって、細胞外チロシナーゼ遺伝子の発現を増強する効果のあるプロモーターを宿主細胞に導入するステップと、前記プロモーターを前記遺伝子に動作可能に結合するステップと、前記タンパク質の発現に適した条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、産生されたタンパク質を任意に回収および精製するステップとを含んでなる方法。
【請求項24】
請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法により得られるタンパク質。
【請求項25】
タンパク質含有物質を修飾するための、チロシナーゼ活性を有する請求項1に記載のタンパク質の使用。
【請求項26】
請求項25に記載の使用であって、前記タンパク質が、チロシン含有タンパク質の架橋結合のために使われる使用。
【請求項27】
請求項26に記載の使用であって、前記タンパク質が、肉、乳製品、野菜、および穀物のような食物タンパク質を架橋結合させるために使われる使用。
【請求項28】
請求項25に記載の使用であって、前記タンパク質が、シルク、ウール、カシミア、アルパカ、またはヒトの髪のようなタンパク質繊維または繊維誘導ポリマーを架橋結合させるために使われる使用。
【請求項29】
請求項1に記載のタンパク質の使用であって、チロシン含有ペプチドを修飾するための使用。
【請求項30】
請求項1に記載のタンパク質の使用であって、チロシンからL-ドパに酸化するための使用。
【請求項31】
タンパク質含有物質を修飾するための方法であって、前記物質を、チロシナーゼ活性を有する請求項1に記載のタンパク質と接触させる方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、チロシン含有タンパク質を架橋結合させることを含んでなる方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法であって、肉、乳製品、野菜、および穀物のような食物タンパク質を架橋結合させることを含んでなる方法。
【請求項34】
請求項31に記載の方法であって、シルク、ウール、カシミア、アルパカ、またはヒトの髪のようなタンパク質繊維または繊維誘導性ポリマーを架橋結合させることを含んでなる方法。
【請求項35】
チロシン含有ペプチドを修飾する方法であって、前記ペプチドを、チロシナーゼ活性を有する請求項1に記載のタンパク質と接触させる方法。
【請求項36】
チロシンをL-ドパに酸化する方法であって、前記チロシンを、チロシナーゼ活性を有する請求項1に記載のタンパク質と接触させる方法。
【請求項37】
請求項1に記載のタンパク質を含んでなる酵素製剤。
【請求項38】
チロシナーゼ活性を有する請求項1に記載のタンパク質により修飾された、タンパク質含有物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−530989(P2008−530989A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554586(P2007−554586)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/FI2006/050055
【国際公開番号】WO2006/084953
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(501374390)バルティオン テクニリーネン トゥトキムスケスクス (16)
【Fターム(参考)】