説明

新規アセチレン化合物およびその製造方法

【解決手段】 下記一般式で示されるアセチレン化合物。
【化1】


(但し、Rは、ケイ素原子と結合する炭素原子が3級炭素である炭素数4〜10の1価炭化水素基、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはRf−Q−で示されるフロロアルキル基を含む1価の基であり、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数2〜10の2価の基であって途中に窒素、酸素、イオウを含んでもよい。nは0または1である。)
【効果】 本発明の新規のアセチレン化合物は、非イオン系界面活性剤、化合物の中間体、ヒドロシリル化の反応制御剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のアセチレン化合物およびその製造方法に関する。とくに蒸留による単離の困難な程に分子量の高いアセチレンアルコール類を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アセチレンアルコール類は、例えば「オルフィン」(日信化学工業株式会社の商品名)で3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール 2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール等が、また「サーフィノール」(エアープロダクツ株式会社の商品名)で各種アセチレングリコール類が市販されている。
【0003】
これらアセチレンアルコール類は化合物の中間体原料として用いられる他に、金属表面処理剤、低発泡性の濡れ剤、消泡剤、顔料分散剤などの非イオン系界面活性剤としての用途で、また遷移金属への高い配位能を利用したヒドロシリル化反応の制御剤として、工業的にも広く用いられているきわめて有用な化合物である(特許文献1〜3参照)。
【0004】
アセチレンアルコール類の製造は一般には、下記に示すようにケトン類にアセチリドを反応させることにより行われる。
【0005】
【化1】

【0006】
すなわち、ある構造のアセチレンアルコールを製造するためには、前駆体であるケトン類を得なければならない。分子量の大きい複雑な構造のアセチレンアルコールを製造しようとした場合には上記方法は困難になると思われる。
【0007】
また、アセチレンアルコールとフロロアルキル基含有のクロロシラン類を反応させた物質は公知である(特許文献4参照)。しかし、該フッ素オルガノシリコーン化合物は、アルコール性水酸基を有しないので、制御剤として満足の行くものではない。
【0008】
【特許文献1】特公昭44−31476号公報
【特許文献2】特開平6−329917号公報
【特許文献3】特開平9−143371号公報
【特許文献4】特開2000−53685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、比較的分子量の大きい複雑な構造のアセチレンアルコールを容易に製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を行った結果、下記一般式にて示されるシリル化されたアセチレン化合物を提供することにより、本発明を完成させた。
【0011】
【化2】


但し、Rは、ケイ素原子と結合する炭素原子が3級炭素である炭素数4〜10の1価炭化水素基、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはRf−Q−で示されるフロロアルキル基を含む1価の基であり、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数2〜10の2価の基であって途中に窒素、酸素、イオウを含んでもよい。nは0または1である。
【0012】
下記一般式(A)にて示される有機ケイ素化合物と、
【0013】
【化3】


(但し、R、R及びRは前記と同じ基、Xはハロゲン原子、nは0または1である。)下記のアセチレンアルコール(B)を反応させて、
【0014】
【化4】


(A)のSi−Xと、(B)のいずれか一方または両方の水酸基とからSi−O結合を形成させることを特徴とするシリル化されたアセチレン化合物の製造方法。このとき1級炭素に結合した水酸基が優先的にハロゲン化ケイ素化合物と反応してSi−O結合を生じ、目的とするアセチレンアルコールを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規の含フッ素アセチルアルコール化合物は、非イオン系界面活性剤、化合物の中間体、ポリマーのヒドロシリル化による硬化反応の制御剤としてきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。上記一般式で示されるアセチレン化合物において、Rはケイ素原子と結合する炭素原子が3級炭素である炭素数4〜10の1価の炭化水素基である。このようなRとしては以下のような構造が挙げられる。
【0017】
【化5】

【0018】
ここで、Rがケイ素原子と結合する炭素原子が3級炭素に限定するのは、上記に例示した3級炭素を含むアルキル基は嵩高い置換基であるので、このような置換基はSi−O結合を安定にする効果のあることが知られているためである。3級炭素を含むアルキル基が無い場合は、シリル化されたアセチレン化合物が不安定で、容易に加水分解するなど不都合の生じることがある。
【0019】
、Rはそれぞれ同一であっても異なっても良い炭素数1〜4のアルキル基またはRf−Q−で示されるフロロアルキル基を含む1価の基であり、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。
【0020】
炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。特に、メチル基が好ましい。
【0021】
Rfの好ましい例としては、下記のものがあげられる。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
また、Qは炭素数1〜20の2価の有機基である。Qは炭素数1〜20の2価の有機基であれば特に制限されるものではないが、途中に酸素、窒素、カルボニル基などを介してもよく、例えば以下の構造が挙げられる。
【0025】
−(CH
(但し、p=1〜10特に好ましくは2〜4)
−CH−O−(CH
(但し、q=1〜9特に好ましくは2〜4)
【0026】
【化8】

(RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基もしくは水素原子である。RおよびRとして具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、シクロヘキシルなどが挙げられる)
【0027】
【化9】

【0028】
本発明の上記した一般式で示されるセチレン化合物は、下記一般式にて示される有機ケイ素化合物(A)と、
【0029】
【化10】


(但し、R、R及びRは前述の通り、Xはハロゲン原子)
【0030】
下記のアセチレンアルコール(B)
【0031】
【化11】


とを反応させると、(A)のSi−Xと(B)の1級炭素に結合した水酸基とからSi−O結合を形成させることにより製造される。
【0032】
(B)のアセチレンアルコール3−methyl−4−pentyne−1,3−diolは、4−hydroxy−2−butanoneにアセチレンのグリニャール試薬を反応させることにより製造することができる。また、J.Am.Chem.Soc.1980,102,6255−6259に記載された方法によっても製造することができる。これはふたつの水酸基を持ち、1つは一級炭素にもう1つは3級炭素に結合している。
【0033】
(A)のハロゲン化ケイ素化合物は、1つ置換基と3つのハロゲンを有するケイ素化合物に嵩高いアルキル基のグリニャール試薬、(例えばt-ブチルグリニャール試薬)を反応させることにより製造することができる。この方法により1つ置換基と2つのハロゲンおよび嵩高い置換基を有するケイ素化合物を得ることができる。さらに置換基を導入して一つのハロゲンと3つの置換基を有するケイ素化合物を得る場合は、引き続きn-ブチルグリニャール試薬などの比較的立体障害の少ない試薬を選択的条件にて反応させることもできる。
【0034】
(A)の有機ケイ素化合物はより具体的には次のものがあげられる。
【0035】
【化12】


(但し、Rfは前述の通り、t−Buはターシャリブチル基である。)
【0036】
【化13】

【0037】
[製造方法]
本発明のアセチレン化合物の製造は、(B)のアセチレンアルコールおよび受酸剤を混合しておき、そこに(A)の有機ケイ素化合物を投入することにより行われる。受酸剤としては、トリエチルアミン、ピリジン、尿素、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.7〕−7−ウンデセン(DBU)、イミダゾールなどがよい。
【0038】
反応時に溶媒を使用することもできる。溶媒としてはトルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、1,3−ビストリフロロメチルベンゼン、DMF、N−メチルピロリドンなどが好適である。
【0039】
使用量は、(A)におけるn=1の場合(1官能の場合)には、有機ケイ素化合物(A)1モルあたりアセチレンアルコール(B)1〜2モル、受酸剤1〜3モルを使用する。反応温度は20〜50℃、反応時間は1〜40時間でよい。反応終了後、水洗を繰り返して有機相を取り出し、適当な方法を用いて精製することにより、目的とするアセチレンアルコールを得ることができる。
【0040】
また、(A)におけるn=0の場合(2官能の場合)には、有機ケイ素化合物(A)1モルあたりアセチレンアルコール(B)2〜4モル、受酸剤2〜4モルを使用する。反応温度は20〜50℃、反応時間は1〜20時間でよい。反応終了後、水洗を繰り返して有機相を取り出し、適当な方法を用いて精製することにより、目的とするアセチレンアルコールを得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
[実施例1]
3−メチル−3,5−ジヒドロキシ−ペンチン5.00g (0.0439mol)、t−ブチルジメチルクロロシラン 6.58g (0.0439mol)、 イミダゾール7.50g (0.110 mol)、 ジメチルホルムアミド 10.0g を反応器に仕込み、室温にて20時間攪拌を行った。反応終了後、ジエチルエ−テル30gを添加、水50gで3回水洗、その後70℃/5mmHgにてストリップをして7.2gの生成物を得た。この生成物をNMRにて分析したところ下記の構造であることが確認された。
【0043】
【化14】

【0044】
この化合物のH NMRスペクトルを図1に示す。結果は以下の通りであった。
H NMRスペクトル(CDCl
δ0.05(Si−C, 6H, d)
δ0.84((CC−Si, 9H, s)
δ1.43(C−C−OH,3H, s)
δ1.63(−OCH−, 1H, m)
δ1.90(−OCH−, 1H, m) δ2.38(−C≡C, 1H, s)
δ3.83(−OCCH−, 1H, m)
δ4.18(−OCCH−, 1H, m)
δ4.66(−O, 1H, s)
【0045】
また、この化合物のIRスペクトルを図2に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3478cm−1 (−OH)
3315cm−1 (−C≡CH)
【0046】
[実施例2]
3−メチル−3,5−ジヒドロキシ−ペンチン5.0g、トリエチルアミン3.2g、1,3−ビストリフロロメチルベンゼン20g、および下記構造の有機ケイ素化合物10g、
【0047】
【化15】


を反応器に仕込み、室温にて15時間攪拌を行った。反応終了後、反応混合物を水に投入して有機相を取り出し、さらに水洗を3回繰り返した。回収した有機相に少量の無水硫酸ナトリウムを加え、ろ過したのち、100℃/5mmHgにてストリップして溶媒を取り除いた。このようにして11.3gの生成物を得た。この物質をNMRにて分析したところ、主な生成物は下記(C)の構造であり、少量の副生成物として(D)が含まれているものであった。
【0048】
この化合物のH NMRスペクトルを図3に示す。結果は以下の通りであった。
H NMRスペクトル(CDCl
δ0.82(Si−C, 2H, s)
δ0.99((CC−Si, 9H, s)
δ1.53(C−C−OH,6H, s)
δ1.80(−OCH− C− CH, 2H, m)
δ1.80(−OCH−, 2H, m)
δ2.06(−OCH−, 2H, m) δ2.47(−C≡C, 2H, m)
δ3.56(−OC− CH− CH, 2H, m)
δ3.98(CF−CH−O, 2H, d)
δ4.15(−OCCH−, 2H, m)
δ4.25(−O, 2H, m)
δ4.43(−OCCH−, 2H, m)
【0049】
また、この化合物のIRスペクトルを図4に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3478cm−1 (−OH)
3315cm−1 (−C≡CH)
1300〜1000cm−1 (C−F)
【0050】
以上の結果から、得られた化合物の生成物(C)の構造を持つことを確認した。
【0051】
【化16】

【0052】
副生成物(D)の構造
【0053】
【化17】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例1)
【図2】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例1)
【図3】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例2)
【図4】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式にて示されるアセチレン化合物。
【化1】


(但し、Rは、ケイ素原子と結合する炭素原子が3級炭素である炭素数4〜10の1価炭化水素基、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはRf−Q−で示されるフロロアルキル基を含む1価の基であり、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数2〜10の2価の基であって途中に窒素、酸素、イオウを含んでもよい。nは0または1である。)
【請求項2】
下記一般式(A)にて示される有機ケイ素化合物と、
【化2】


(但し、R、R及びRは前記と同じ基、Xはハロゲン原子、nは0または1である。)
下記のアセチレンアルコール(B)を反応させて、
【化3】


(A)のSi−Xと、(B)のいずれか一方または両方の水酸基とからSi−O結合を形成させることを特徴とするシリル化されたアセチレン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−160729(P2006−160729A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321373(P2005−321373)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】